説明

組電池システム

【課題】組電池に対する押圧力を制御(調整)できる組電池システムであって、小型で且つ低コストな組電池システムを提供する。
【解決手段】組電池システム6は、複数の単電池50を列置方向Xに列置してなる組電池30と、組電池30を列置方向Xに挟んで固定し、組電池30を列置方向Xに押圧する第1押圧部材11及び第2押圧部材12と、組電池30に対する押圧力を検知する押圧力検知手段80と、自身の電圧変化により列置方向Xにかかる寸法が増減する電気化学セル100と、電気化学セル100の電圧を制御することにより電気化学セル100の列置方向Xにかかる寸法を制御して、組電池30に対する押圧力を制御する押圧力制御手段70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、次のような組電池システムが開示されている。複数の単電池を列置方向に列置してなる組電池(積層体)と、組電池を列置方向に挟んで固定し、組電池を押圧する第1押圧部材及び第2押圧部材(拘束板)と、第1押圧部材と第2押圧部材との間に位置し、組電池に対する押圧力を検知する押圧力検知手段(圧力センサ)と、第1押圧部材と第2押圧部材との間に位置し、列置方向について自身の寸法を増減可能とする寸法増減体(締結荷重可変手段)と、押圧力検知手段により検知された押圧力に基づいて押圧力を制御する手段であって、寸法増減体の寸法を変動させることにより押圧力を制御する押圧力制御手段とを備える組電池システムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−288168号公報
【0004】
特許文献1の図7には、寸法増減体としてピエゾ素子を用いた組電池システムが開示されている。この組電池システムでは、コントローラの制御によりドライバから発生される駆動信号に応じて、ピエゾ素子が組電池の列置方向に伸縮することで、組電池(積層体)の締結荷重を変えることができると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ピエゾ素子を用いた組電池システムでは、ピエゾ素子を作動させるために、高圧電源や高圧ハーネスなどが必要となる。このため、システムが大型となり、コスト高にもなっていた。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、組電池に対する押圧力を制御(調整)できる組電池システムであって、小型で且つ低コストな組電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数の単電池を列置方向に列置してなる組電池と、上記組電池を上記列置方向に挟んで押圧する第1押圧部材及び第2押圧部材と、上記第1押圧部材と上記第2押圧部材との間に位置し、上記組電池に対する押圧力を検知する押圧力検知手段と、上記第1押圧部材と上記第2押圧部材との間に位置し、上記列置方向について自身の寸法を増減可能とする寸法増減体と、上記押圧力検知手段により検知された上記押圧力に基づいて上記押圧力を制御する手段であって、上記寸法増減体の寸法を変動させることにより上記押圧力を制御する押圧力制御手段と、を備える組電池システムであって、上記寸法増減体は、自身の電圧変化により上記列置方向にかかる寸法が増減する電気化学セルであり、上記押圧力制御手段は、上記電気化学セルの電圧を制御することにより上記電気化学セルの上記列置方向にかかる寸法を制御して、上記押圧力を制御する組電池システムである。
【0008】
上述の組電池システムは、寸法増減体として、自身の電圧変化により組電池の列置方向にかかる寸法が増減する電気化学セルを有している。さらに、上述の組電池システムは、押圧力検知手段により検知された押圧力に基づいて電気化学セルの電圧を制御し、これによって電気化学セルの列置方向にかかる寸法を制御して(増減させて)、組電池に対する押圧力を制御(調整)する。
【0009】
具体的には、例えば、押圧力検知手段により検知された押圧力が基準値(基準範囲)から外れている場合には、押圧力制御手段が、電気化学セルの電圧を制御する(変動させる)ことにより電気化学セルの列置方向にかかる寸法を制御して(変動させて)、組電池に対する押圧力が基準値(基準範囲)となるように調整する。なお、電気化学セルの電圧は、電気化学セルの充放電により制御する(増減させる)ことができる。これにより、例えば、時間の経過に伴って組電池に対する押圧力が基準値(基準範囲)から外れた場合には、適切に、組電池に対する押圧力を基準値(基準範囲)調整することができる。
【0010】
ところで、電気化学セルは、ピエゾ素子に比べて、低電圧で作動する特性を有している。このため、上述の組電池システムは、高圧電源や高圧ハーネスなどが不要となるので、小型で且つ低コストとなる。
【0011】
なお、電気化学セルは、1個に限らず、複数個配置するようにしても良い。また、電気化学セルを配置する位置は、第1押圧部材と第2押圧部材との間であればいずれの場所でも良く、第1押圧部材と単電池との間、単電池と単電池との間、第2押圧部材と単電池との間のいずれの位置でも良い。
【0012】
さらに、上述の組電池システムであって、前記組電池は、主電源であり、前記電気化学セルは、予備電源である組電池システムとすると良い。
【0013】
上述の組電池システムでは、組電池が主電源であり、電気化学セルが予備電源(非常用電源)である。すなわち、駆動対象物(電子機器やハイブリッド自動車など)の主電源として組電池が用いられ、予備電源として電気化学セルが用いられるように構成されている。このため、上述の組電池システムでは、主電源である組電池が使用できなくなった非常時に(組電池から電力を供給できなくなった場合)、予備電源である電気化学セルを放電させることにより、駆動対象物に電力を供給することが可能となる。
【0014】
また、上述の組電池システムでは、寸法増減体である電気化学セルを、予備電源(非常用電源)としても用いるようにしている。このため、ピエゾ素子のような寸法増減体とは別に予備電源(非常用電源)を設ける場合に比べて、小型で且つ低コストとなる。
【0015】
さらに、上記いずれかの組電池システムであって、前記電気化学セルは、正極活物質及び負極活物質を有し、上記正極活物質及び上記負極活物質の少なくとも一方は、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内の炭素材料である組電池システムとすると良い。
【0016】
ピエゾ素子のような圧電素子は、ヒステリシスが大きく、素子に対する駆動電圧値を同等にした場合であっても、昇圧方向で(駆動電圧を上昇させて)当該電圧値にした場合と、降圧方向で(駆動電圧を低下させて)当該電圧値に調整した場合とで、素子の変位が大きく異なってしまう。このため、寸法増減体としてピエゾ素子等の圧電素子を用いた組電池システムでは、組電池に対する押圧力を精度良く制御することができなかった。
【0017】
これに対し、上述の組電池システムでは、電気化学セルの活物質(正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方)として、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料を用いている。このような炭素材料を活物質として有する電気化学セルは、ヒステリシスがほとんどなく、電気化学セルの電圧が上昇する場合であっても低下する場合であっても、電気化学セルは同様に変位(列置方向寸法が変化)する。すなわち、電気化学セルの電圧の上昇方向及び低下方向の如何に関わらず、セル電圧とセルの変位(列置方向寸法)とが一対一に対応する。詳細には、電気化学セルの電圧に比例して、電気化学セルの列置方向寸法が変動する。このため、電気化学セルの電圧制御により、組電池に対する押圧力を精度良く制御することができる。
【0018】
なお、比表面積が0.1m2/gより小さい炭素材料を電気化学セルの活物質に用いた場合は、ヒステリシスが大きくなるので、押圧力を精度良く制御することができなくなる虞がある。一方、比表面積が1000m2/gより大きい炭素材料を用いた場合は、電圧変化に伴う列置方向寸法の変化量が小さくなるので、組電池に対する押圧力を調整する能力が低くなる(調整幅が小さくなる)。炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲外である炭素材料を用いた場合も同様に、電圧変化に伴う列置方向寸法の変化量が小さくなるので、組電池に対する押圧力を調整する能力が低くなる。従って、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料を用いることで、組電池に対する押圧力の調整幅を大きくすることができ、しかも押圧力を精度良く制御することができる。
【0019】
なお、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料は、電気化学セルの正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方として用いれば良い。すなわち、正極活物質としてのみ、負極活物質としてのみ、または、正極活物質及び負極活物質の両活物質して、上記炭素材料を用いることで、組電池に対する押圧力の調整幅を大きくすることができ、しかも押圧力を精度良く制御することができる。
また、炭素層間距離は、XRDによりd002面のピーク位置から求められる炭素層間距離d002の値である。
【0020】
さらに、上記の組電池システムであって、前記正極活物質及び前記負極活物質のうち少なくとも上記正極活物質が、前記炭素材料である組電池システムとすると良い。
【0021】
上述の組電池システムでは、電気化学セルの正極活物質及び負極活物質のうち少なくとも正極活物質が、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料である。正極活物質に上記炭素材料を用いた電気化学セルは、蓄電能力が高くなるので、予備電源として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ハイブリッド自動車の概略図である。
【図2】実施形態にかかる組電池システムの概略図である。
【図3】実施形態にかかる電気化学セルの正面図である。
【図4】同電気化学セルの内部を示す図である。
【図5】同電気化学セルの正極の断面図である。
【図6】同電気化学セルの負極の断面図である。
【図7】同電気化学セルの電圧と押圧力との関係を示すグラフである。
【図8】実施形態にかかる押圧力制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ハイブリッド自動車1は、図1に示すように、車体2、エンジン3、フロントモータ4、リヤモータ5、組電池システム6、及びケーブル7を有し、エンジン3とフロントモータ4及びリヤモータ5との併用で駆動するハイブリッド自動車である。具体的には、このハイブリッド自動車1は、組電池システム6をフロントモータ4及びリヤモータ5の
駆動用電源(主電源)として、エンジン3とフロントモータ4及びリヤモータ5とを用いて走行できるように構成されている。
【0024】
このうち、組電池システム6は、ハイブリッド自動車1の車体2に取り付けられており、ケーブル7によりフロントモータ4及びリヤモータ5に接続されている。この組電池システム6は、図2に示すように、組電池30と、第1押圧部材11及び第2押圧部材12と、圧力センサ80と、電気化学セル100と、制御装置70とを備えている。
【0025】
組電池30は、複数の単電池50を列置方向X(図2において左右方向)に列置してなる。組電池を構成する複数の単電池50は、電気的に直列に接続されている。なお、単電池50としては、例えば、リチウムイオン二次電池を用いることができる。
【0026】
第1押圧部材11と第2押圧部材12は、両者の間に、組電池30、圧力センサ80、及び電気化学セル100を、列置方向X(図2において左右方向)に挟んで押圧している。具体的には、第1押圧部材11と第2押圧部材12との間に、組電池30、圧力センサ80、及び電気化学セル100を配置した状態で、第1押圧部材11と第2押圧部材12とを、ロッド13とナット14を用いて締結する。これにより、第1押圧部材11と第2押圧部材12との間に、組電池30、圧力センサ80、及び電気化学セル100を列置方向Xに挟んで固定すると共に、所定の押圧力で組電池30を列置方向Xに押圧する。なお、組電池30に対する押圧力は、組電池システム6を作製する際に、基準値に設定される。
【0027】
圧力センサ80は、公知の圧力センサであり、第1押圧部材11と組電池30との間に挟まれた位置に配置されている。このため、圧力センサ80によって、組電池30に対する押圧力を検知することができる。
【0028】
電気化学セル100は、図3に示すように、平面視矩形状のセルケース110と、セルケース110の内部から外部に延出する正極端子120及び負極端子130とを備えている。さらに、図4に示すように、セルケース110の内部には、電極体150及び電解液(図示なし)が収容されている。この電極体150は、シート状の正極155と負極156とセパレータ157を積層してなる積層型の電極体である。
【0029】
セルケース110は、内側樹脂フィルムと金属フィルムと外側樹脂フィルムが積層されたラミネートフィルム101で形成されている。このセルケース110は、収容空間G1内に電極体150を配置させたラミネートフィルム101を、折り返し位置110gで折り返して、フィルム重なり部110b(セルケース110の周縁部)で重ね合わせた状態で、フィルム重なり部110bを熱溶着することで、平面視矩形状に成形されている。
【0030】
また、図5に示すように、正極155は、正極集電部材151(アルミニウム箔)と、この正極集電部材151の表面に形成された正極合材層152(正極活物質153を含む)を有している。また、図6に示すように、負極156は、負極集電部材158(アルミニウム箔)と、この負極集電部材158の表面に形成された負極合材層159(負極活物質154を含む)を有している。
【0031】
なお、本実施形態では、正極集電部材151と負極集電部材158とは同等のアルミニウム箔を用いている。また、正極活物質153として、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内(例えば、200m2/g)で、且つ、炭素層間距離d002 が0.36〜0.38nmの範囲内(例えば、0.37nm)である炭素材料を用いている。負極活物質154についても、正極活物質153と同等の炭素材料を用いている。
【0032】
正極合材層152は、正極活物質153と、アセチレンブラックからなる導電材と、PVdF(結着剤)とを、重量比8:1:1の割合で含んでいる。この正極合材層152の塗工量は、5mg/cm2 とされている。また、正極合材層152の密度は、0.8g/cm3とされている。負極合材層159は、負極活物質154と、アセチレンブラックからなる導電材と、PVdF(結着剤)とを、重量比8:1:1の割合で含んでいる。負極合材層152の塗工量及び密度は、正極合材層152と同等である。従って、本実施形態の正極155と負極156は、同等の構成となっている。
【0033】
正極端子120は、正極155の一端部に位置する正極合材未塗工部155b(正極155のうち正極合材層152が塗工されていない部位)に溶接されている。負極端子130は、負極156の一端部に位置する負極合材未塗工部156b(負極156のうち負極合材層159が塗工されていない部位)に溶接されている。
【0034】
本実施形態の電気化学セル100は、自身の電圧変化に伴って、列置方向X(図2において左右方向)にかかる自身の寸法(すなわち、電気化学セル100厚み)が変化する特性を有している。具体的には、電圧が上昇するにしたがって列置方向Xにかかる寸法(厚み)が大きくなり、反対に、電圧が降下するにしたがって列置方向Xにかかる寸法(厚み)が小さくなる。
【0035】
このため、後述するように、組電池システム6では、電気化学セル100の電圧を制御する(変動させる)ことにより、電気化学セル100の列置方向Xにかかる寸法を制御して(変動させて)、組電池30に対する押圧力を調整することができる。具体的には、電気化学セル100の電圧を上昇(降下)させることにより、電気化学セル100の列置方向Xにかかる寸法を大きく(小さく)して、組電池30に対する押圧力を高める(下げる)ことができる。
【0036】
なお、電気化学セル100は、充電に伴って電圧が上昇し、一方、放電に伴って電圧が低下する特性を有している。従って、電気化学セル100の充放電を制御することにより、電気化学セル100の電圧を制御することができる。
【0037】
制御装置70は、図示しないROM、CPU、RAM等を有する制御回路を備えている。この制御装置70には、圧力センサ80からの出力信号が入力される。これにより、制御装置70において、組電池30に対する押圧力を把握することができる。
【0038】
さらに、制御装置70は、圧力センサ80により検知された押圧力に基づいて、電気化学セル100の電圧を制御(調整)する。具体的には、電気化学セル100の充放電を制御することにより、電気化学セル100の電圧を制御する。これにより、電気化学セル100の列置方向Xにかかる寸法を制御して(変動させて)、組電池30に対する押圧力を制御(調整)することができる。なお、制御装置70は、電気化学セル100の電圧を検出することができる。
【0039】
具体的には、制御装置70は、圧力センサ80により検知された押圧力が基準値(基準範囲)から外れているか否かを判定し、外れていると判定した場合には、電気化学セル100の電圧を制御する(変動させる)ことにより電気化学セル100の列置方向Xにかかる寸法を制御して(変動させて)、組電池30に対する押圧力が基準値(基準範囲)となるように調整する。
【0040】
詳細には、制御装置70は、例えば、圧力センサ80により検知された押圧力と基準値との圧力差(基準値からのズレ)を算出する。さらに、制御装置70は、電気化学セル100の電圧を検出する。そして、後述するように、予め把握している電気化学セル100の電圧と押圧力との関係(例えば、後述する押圧力変化率)に基づいて、算出された圧力差から、組電池30に対する押圧力を基準値にするための電気化学セル100の電圧値(目標値)を算出する。そして、電気化学セル100の電圧が、算出された電圧値(目標値)に達するまで、電気化学セル100を充電または放電させる。これにより、組電池30に対する押圧力を、基準値に調整することができる。
【0041】
このようにして、本実施形態の組電池システム6では、例えば、経時変化によって組電池30に対する押圧力が基準値(基準範囲)から外れた場合には、適切に、組電池30に対する押圧力を基準値(基準範囲)に調整することができる。
【0042】
また、本実施形態の組電池システム6では、組電池30が主電源であり、電気化学セル100が予備電源(非常用電源)となっている。すなわち、駆動対象物であるハイブリッド自動車1(フロントモータ4及びリヤモータ5)の主電源として組電池30が用いられ、予備電源として電気化学セル100が用いられるように構成されている。このため、例えば、主電源である組電池30が使用できなくなった非常時に(組電池30から電力を供給できなくなった場合)、予備電源である電気化学セル100を放電させることにより、駆動対象物に電力を供給することができる。
【0043】
具体的には、制御装置70は、組電池30の充放電を制御する。例えば、ハイブリッド自動車1の運転中は、組電池30とインバータ(フロントモータ4及びリヤモータ5)との間における電気のやりとりを制御する。また、制御装置70は、組電池30の放電期間中に組電池30から放電される電流を積算し、要求量の電力が放電されたか否かを監視する。要求量の電力が組電池30から放電されない場合は、非常事態と判断し、予備電源である電気化学セル100を放電させることにより、駆動対象物に電力を供給する。
【0044】
本実施形態の組電池システム6では、組電池30に対する押圧力を調整するための電気化学セル100(寸法増減体)を、予備電源(非常用電源)としても用いるようにしている。このため、ピエゾ素子のような寸法増減体とは別に予備電源(非常用電源)を設ける場合に比べて、小型で且つ低コストとなる。
【0045】
(実施例1)
次に、実施例1にかかる電気化学セル100の製造方法について説明する。
まず、電極体150を形成する。具体的には、まず、正極活物質153と、アセチレンブラックと、PVdF(結着剤)とを、重量比8:1:1の割合で混合し、これにNMP(溶媒)を混合して、正極スラリを作製した。次いで、この正極スラリを、アルミニウム箔からなる正極集電部材151の表面に塗工し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、正極集電部材151の表面に正極合材層152が塗工された正極155を得た。
【0046】
なお、正極合材層152の塗工量は、5mg/cm2 とされている。また、正極合材層152の密度は、0.8g/cm3とされている。また、正極活物質153として、比表面積が200m2/gで、且つ、炭素層間距離d002 が0.37nmである炭素材料を用いている。
【0047】
また、正極155と同様にして、負極集電部材158の表面に負極合材層159が塗工された負極156を作製した。なお、負極活物質154として、正極活物質153と同様に、比表面積が200m2/gで、且つ、炭素層間距離d002 が0.37nmである炭素材料を用いている。
次いで、正極155と負極156とセパレータ157とを積層して、積層型の電極体150を形成する。次に、電極体150の正極合材未塗工部155bに、正極端子120を溶接する。同様に、負極合材未塗工部156bに、負極端子130を溶接する。
【0048】
次に、正極端子120及び負極端子130を溶接した電極体150を、ラミネートフィルム101の収容空間G1内に配置する。さらに、電解液を、ラミネートフィルム101の収容空間G1内に注入する。次いで、ラミネートフィルム101を、その折り返し位置110gで折り返し、フィルム重なり部110bで重ね合わせて、フィルム重なり部110bを熱溶着する。このようにして、電気化学セル100を組み付けた。
【0049】
次いで、上述のようにして組み付けた電気化学セル100について、初期充電を行った。具体的には、電気化学セル100の電圧が3.5V(充電上限電圧値)に達するまで定電流充電を行い、その後、定電圧充電(電圧を3.5Vに保持した充電)を2時間行った。次いで、電気化学セル100の電圧が1.0Vに達するまで定電流放電を行い、その後、定電圧放電(電圧を1.0Vに保持した放電)を2時間行った。これにより、電気化学セル100が完成する。
【0050】
なお、本実施例1では、セパレータ157として、セルロースセパレータを用いている。また、電解液として、プロピレンカーボネートに、四フッ化ホウ酸テトラエチルアンモニウム(以下、TEABF4ともいう)を添加した電解液を用いている。なお、電解液中のTEABF4の濃度は、1mol/Lとしている。
【0051】
(押圧特性評価試験)
次に、本実施例1にかかる電気化学セル100の押圧特性を評価するために行った試験について説明する。
具体的には、図2に示す組電池システム6を利用して、電気化学セル100の充放電を行い、充放電期間中、圧力センサ80によって検知される押圧力を確認した。その結果を図7に示す。なお、図7では、充電によって電圧を調整したとき、すなわち昇圧方向(電圧上昇方向)で電圧を調整したときのデータを○(白丸)で表している。一方、放電によって電圧を調整したとき、すなわち降圧方向(電圧降下方向)で電圧を調整したときのデータを△(白三角)で表している。
【0052】
図7に示すように、電気化学セル100は、ヒステリシスがほとんどなく、昇圧方向で電圧を調整したときであっても、降圧方向で電圧を調整したときであっても、同等の電圧値に設定したときには、押圧力を同等の値にすることができる。これは、電気化学セル100が、セル電圧が上昇する場合であっても低下する場合であっても、ヒステリシスなく同様に変位(列置方向Xの寸法が変化)するからである。
【0053】
詳細には、電気化学セル100の電圧に比例して、圧力センサ80によって検知される押圧力(すなわち、組電池30に対する押圧力)が変動する。このため、電気化学セル100の電圧制御により、組電池30に対する押圧力を精度良く制御することができる。
図7より、電気化学セル100の電圧1Vあたりの押圧力の変化量(これを押圧力変化率という、図7のグラフの傾きに相当する)は、0.088(MPa/V)であった。
【0054】
従って、組電池システム6では、この押圧力変化率0.088(MPa/V)に基づいて、組電池30に対する押圧力を、基準値に調整することができる。具体的には、例えば、圧力センサ80により検知された押圧力が、基準値よりも0.044MPa小さくなっている場合は、電気化学セル100の電圧を0.5V(=0.044/0.088)上昇させることで、組電池30に対する押圧力を基準値に調整することができる。詳細には、電気化学セル100の電圧を検知しつつ、電気化学セル100を充電し、充電開始からセル電圧値が0.5V上昇した時点で充電を終了する。これにより、低下した押圧力を基準値に戻すことができる。
【0055】
なお、電気化学セル100の電圧制御は、1.0〜3.5Vの範囲内(より好ましくは1.5V〜2.75Vの範囲内)で行うようにすると良い。組電池30に対する押圧力を精度良く制御することができるからである。
【0056】
また、正極活物質または負極活物質のいずれか一方に、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離d002が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料を用いた電気化学セルを作製し、これらについても同様に押圧特性評価試験を行った。その結果、実施例1の電気化学セル100と同様に、ヒステリシスがほどんどなく、押圧力変化率の値も同等の値(0.088MPa/V)となった。
【0057】
一方、正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方に、比表面積が0.1m2/gより小さい炭素材料を用いた電気化学セルを作製し、これらについても同様に押圧特性評価試験を行った。その結果、ヒステリシスが大きくなり、セル電圧に基づいて組電池30に対する押圧力を精度良く制御することができなかった。
【0058】
また、正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方に、比表面積が1000m2/gより大きい炭素材料を用いた電気化学セルを作製し、これらについても同様に押圧特性評価試験を行った。その結果、電圧変化に伴う列置方向Xの寸法の変化量が小さくなり、押圧力変化率の値が0.05MPa/V以下となった。このため、組電池30に対する押圧力を調整する能力が低くなる(調整幅が小さくなる)。
【0059】
また、正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方に、炭素層間距離d002 が0.36〜0.38nmの範囲外である炭素材料を用いた電気化学セルでも、押圧力変化率の値が0.05MPa/V以下となった。
以上の結果より、電気化学セルの正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方に、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料を用いることにより、組電池30に対する押圧力の調整幅を大きくすることができ、しかも、押圧力を精度良く制御することができるといえる。
【0060】
(放電試験)
次に、実施例1の電気化学セル100について行った放電試験について説明する。
具体的には、まず、実施例1の電気化学セル100について、その電圧を2.5Vに調整し、この状態からセル電圧が1.5Vに至るまで放電する。そして、この放電期間中の放電エネルギーを、セル電圧値×放電電流値の積算により算出した。この結果より、電気化学セル100には、10Wh/Lのエネルギー(セルの体積1L当たり10Whのエネルギー)が蓄えられていることが判明した。このように、実施例1の電気化学セル100は、蓄電能力が高いので、予備電源として好適であるといえる。
【0061】
また、電気化学セルの正極活物質のみに、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料を用いた電気化学セルを作製し、これらについても同様に放電試験を行った。その結果、実施例1の電気化学セル100と同等の蓄電能力(10Wh/L)があることがわかった。
【0062】
一方、電気化学セルの負極活物質のみに、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料を用いた電気化学セルでは、蓄電能力が低下した。
以上の結果より、電気化学セルの少なくとも正極活物質に、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内である炭素材料を用いることにより、電気化学セルの蓄電能力を高くすることができ、予備電源として好適となるといえる。
【0063】
次に、本実施例1にかかる押圧力制御方法について説明する。
図8は、実施例1にかかる押圧力制御の流れを示すフローチャートである。
まず、ステップS1において、制御装置70は、組電池30にかかる押圧力を測定する。具体的には、制御装置70は、圧力センサ80からの出力信号を入力することで、組電池30に対する押圧力の値を把握する。
【0064】
次に、ステップS2に進み、制御装置70は、測定した押圧力が、基準値(基準範囲)から外れているか否かを判定する。基準値(基準範囲内)である(No)と判定した場合は、一連の処理を終了する。
【0065】
一方、基準値(基準範囲)から外れている(Yes)と判定した場合は、ステップS3に進み、制御装置70は、押圧力の基準値と測定値との圧力差(=基準値−測定値)を算出する。次いで、ステップS4に進み、制御装置70は、電気化学セル100の電圧値を検出する。
【0066】
その後、ステップS5に進み、制御装置70は、電気化学セル100の電圧の目標値を決定する。具体的には、予め把握している電気化学セル100の押圧力変化率(0.088MPa/V)に基づいて、算出された圧力差(=基準値−測定値)から、組電池30に対する押圧力を基準値にするための電気化学セル100の電圧値(目標値)を算出する。
【0067】
例えば、ステップS3で算出された圧力差(=基準値−測定値)が0.044MPaとなった場合、すなわち、押圧力の測定値が基準値よりも0.044MPa小さくなっている場合について説明する。この場合、押圧力を基準値に戻すために、押圧力を0.044MPa上昇させる必要があり、制御装置70は、押圧力変化率(0.088MPa/V)に基づいて、押圧力を0.044MPa上昇させるために必要な電気化学セル100の電圧変動量を算出する。具体的には、必要な電圧変動量=0.044/0.088=0.5Vと算出する。そして、ステップS4で検出された電気化学セル100の電圧値に、必要な電圧変動量(0.5V)を加えて、セル電圧の目標値を算出する。例えば、ステップS4で検出された電気化学セル100の電圧値が2.0Vであった場合は、目標値=2.0+0.5=2.5Vとして算出される。
【0068】
次いで、ステップS6に進み、制御装置70は、電気化学セル100の充電または放電を開始する。電気化学セル100の電圧値を上昇させる場合(押圧力を高める場合)は、電気化学セル100の充電を開始する。反対に、電気化学セル100の電圧値を低下させる場合(押圧力を下げる場合)は、電気化学セル100の放電を開始する。
【0069】
その後、ステップS7に進み、制御装置70は、電気化学セル100の電圧値が目標値に達したか否かを判定する。具体的には、ステップS6において電気化学セル100の充電または放電を開始した後、制御装置70は、継続的に電気化学セル100の電圧値を検出し、検出された電圧値が目標値に達したか否かを判定する。目標値に達していない(No)と判定された場合は、電気化学セル100の充電または放電を継続して、ステップS7の処理を繰り返す。
【0070】
一方、目標値に達した(Yes)と判定された場合は、ステップS8に進み、制御装置70は、電気化学セル100の充電または放電を終了させる。これにより、一連の処理が終了する。以上のように、電気化学セル100の電圧を制御する(変動させる)ことにより、電気化学セル100の列置方向Xにかかる寸法を制御して(変動させて)、組電池30に対する押圧力を基準値に調整することができる。
【0071】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0072】
例えば、実施形態では、組電池システム6に電気化学セル100を1個だけ配置した。しかしながら、電気化学セルは、1個に限らず、複数個配置するようにしても良い。
また、実施形態では、電気化学セル100を、第2押圧部材12と組電池30(単電池50)との間に配置した。しかしながら、電気化学セルを配置する位置は、第1押圧部材11と第2押圧部材12との間であればいずれの場所でも良く、第1押圧部材11と組電池30(単電池50)との間、あるいは、単電池50と単電池50との間としても良い。
【0073】
また、実施形態では、圧力センサ80(押圧力検知手段)を、第1押圧部材11と組電池30(単電池50)との間に配置した。しかしながら、圧力センサ80(押圧力検知手段)を配置する位置は、第1押圧部材11と第2押圧部材12との間であればいずれの場所でも良く、第2押圧部材12と組電池30(単電池50)との間、あるいは、単電池50と単電池50との間としても良い。
【符号の説明】
【0074】
1 ハイブリッド自動車
6 組電池システム
11 第1押圧部材
12 第2押圧部材
30 組電池
50 単電池
70 制御装置(押圧力制御手段)
80 圧力センサ(押圧力検知手段)
100 電気化学セル(寸法増減体)
150 電極体
153 正極活物質(炭素材料)
154 負極活物質(炭素材料)
155 正極
156 負極
X 列置方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単電池を列置方向に列置してなる組電池と、
上記組電池を上記列置方向に挟んで押圧する第1押圧部材及び第2押圧部材と、
上記第1押圧部材と上記第2押圧部材との間に位置し、上記組電池に対する押圧力を検知する押圧力検知手段と、
上記第1押圧部材と上記第2押圧部材との間に位置し、上記列置方向について自身の寸法を増減可能とする寸法増減体と、
上記押圧力検知手段により検知された上記押圧力に基づいて上記押圧力を制御する手段であって、上記寸法増減体の寸法を変動させることにより上記押圧力を制御する押圧力制御手段と、を備える
組電池システムであって、
上記寸法増減体は、自身の電圧変化により上記列置方向にかかる寸法が増減する電気化学セルであり、
上記押圧力制御手段は、上記電気化学セルの電圧を制御することにより上記電気化学セルの上記列置方向にかかる寸法を制御して、上記押圧力を制御する
組電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の組電池システムであって、
前記組電池は、主電源であり、
前記電気化学セルは、予備電源である
組電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の組電池システムであって、
前記電気化学セルは、正極活物質及び負極活物質を有し、
上記正極活物質及び上記負極活物質の少なくとも一方は、
比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内の炭素材料である
組電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の組電池システムであって、
前記正極活物質及び前記負極活物質のうち少なくとも上記正極活物質が、前記炭素材料である
組電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−238513(P2012−238513A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107545(P2011−107545)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】