車両姿勢制御装置
【課題】タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることのできる車両姿勢制御装置を提供する
【解決手段】ヨーレートセンサの出力を「実ヨーレートγ」とし、車両1の左右中心軸C上に存在する任意の基準点において、進行方向DFが車両1の左右中心軸Cのうち基準点よりも前方の部分に対してなす角を「車体すべり角β」とし、目標方向BFが車両1の左右中心軸Cのうち基準点よりも前方の部分に対してなす角を「目標すべり角β*」とし、目標すべり角β*と車体すべり角βとの差(β*−β)を「角度差Δβ」とする。所定の目標方向BFに対する車両1の進行方向DFの角度を制御するために、車両姿勢制御装置は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係に応じて車両1の前輪31,32および後輪33,34の少なくとも一方を制御する。
【解決手段】ヨーレートセンサの出力を「実ヨーレートγ」とし、車両1の左右中心軸C上に存在する任意の基準点において、進行方向DFが車両1の左右中心軸Cのうち基準点よりも前方の部分に対してなす角を「車体すべり角β」とし、目標方向BFが車両1の左右中心軸Cのうち基準点よりも前方の部分に対してなす角を「目標すべり角β*」とし、目標すべり角β*と車体すべり角βとの差(β*−β)を「角度差Δβ」とする。所定の目標方向BFに対する車両1の進行方向DFの角度を制御するために、車両姿勢制御装置は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係に応じて車両1の前輪31,32および後輪33,34の少なくとも一方を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の目標方向に対する車両の進行方向の角度を制御するために、前記車両の姿勢を制御する車両姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両姿勢制御装置として、操縦安定性の向上のために規範ヨーレートに基づいて前輪および後輪を制御する装置が知られている。一般的な車両姿勢制御装置においては、車速および操舵角等の情報に基づいて規範ヨーレートを算出し、この規範ヨーレートとヨーレートセンサの出力との差に基づいて前輪および後輪を制御する。
【0003】
特許文献1には、操舵ハンドルの操舵角および車速をそれぞれセンサにより検出し、車体スリップ角が「0」となるようにセンサの出力に基づいて車両のヨーレートの目標値、いわゆる規範ヨーレートを算出する車両姿勢制御装置が記載されている。この制御装置は、ヨーレートの目標値に基づいて目標転舵角を算出し、目標転舵角に基づいて転蛇アクチュエータを制御することにより、前輪および後輪の舵角を目標転舵角に近づける制御を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−7001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、規範ヨーレートに基づく車両姿勢制御を実行しても、所定の目標方向に対する車両の進行方向のずれが小さくならないケースがある。これは次の理由によるものと考えられる。
【0006】
一般に、規範ヨーレートは、タイヤ特性が線形領域の車両モデル、すなわち線形車両モデルに基づいて算出され、かつタイヤが路面をグリップして走行するグリップ状態におけるヨーレートセンサの出力に応じたものとなるように設定されている。したがって、規範ヨーレートとヨーレートセンサの出力とに偏差が生じる場合、すなわちタイヤがスリップしているスリップ状態において、大きく乱れた車両姿勢を制御する車両姿勢制御が実行される。しかし、規範ヨーレートとヨーレートセンサの出力とに偏差が生じない場合、すなわちグリップ状態においては、車両姿勢制御が実行されない。よって、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることができないという問題がある。
【0007】
また、ユーザによる車両部品交換、または乗車人数もしくは積荷の変化等の車両仕様に応じて車両モデルを変更しなければ、適切な規範ヨーレートを算出することはできない。すなわち、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることができないという問題がある。車両仕様を検出するセンサを設け、このセンサの出力に基づいて車両仕様の変更に応じた規範ヨーレートの算出を行うことも考えられるが、車両仕様を検出するために多数のセンサを設ける必要があり現実的ではない。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることのできる車両姿勢制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための手段を以下に記載する。
(1)第1の手段は請求項1に記載の事項、すなわち所定の目標方向に対する車両の進行方向の角度を制御するために、前記車両の姿勢を制御する車両姿勢制御装置において、前記車両に設けられたヨーレートセンサによって検出されるヨーレートを「実ヨーレートγ」とし、前記車両の左右中心軸上に存在する任意の基準点において、前記進行方向が前記車両の左右中心軸のうち前記基準点よりも前方の部分に対してなす角を「車体すべり角β」とし、前記目標方向が前記車両の左右中心軸のうち前記基準点よりも前方の部分に対してなす角を「目標すべり角β*」とし、前記目標すべり角β*と前記車体すべり角βとの差(β*−β)を「角度差Δβ」として、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係に応じて前記車両の前輪および後輪の少なくとも一方を制御することを要旨とする。
【0010】
車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のとき、角度差Δβの符号および実ヨーレートγの符号が互いに異なる符号となると、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のとき、角度差Δβの符号および実ヨーレートγの符号が互いに同じ符号となる。すなわち、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係には目標方向に対する車両姿勢状態が反映される。
【0011】
上記発明によれば、角度差Δβの符号と車両の実ヨーレートγの符号との関係に応じて車両の前輪および後輪の少なくとも一方を制御するため、目標方向に対する車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態または車両姿勢角過剰状態のとき、車両の進行方向を目標方向に近づけることができる。また、角度差Δβの符号と車両の実ヨーレートγの符号との関係、すなわち規範ヨーレートを算出することなく車両姿勢状態に応じて車両の姿勢を制御するため、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることができる。
【0012】
(2)第2の手段は請求項2に記載の事項、すなわち請求項1に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記後輪を制御することを要旨とする。
【0013】
車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のとき、すなわち例えば「γ>0」かつ「Δβ<0」のとき、任意の基準点から延びる目標方向と車両の進行方向とを比較した場合に、目標方向が、車両の進行方向に対して車両の旋回方向とは反対側に位置している。このときの車両の回転中心は、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときの回転中心よりも車両の後方側に位置している。つまり、前輪の車軸上の横すべり角が、目標方向と進行方向とが一致する横すべり角の大きさを超え、かつ後輪の車軸上の横すべり角が、目標方向と進行方向とが一致する横すべり角の大きさに達していない。この場合、目標方向と進行方向とを一致させるためには、後輪の車軸上の横すべり角を増やさなければならない。
【0014】
このため上記発明によれば、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときに前輪のみを制御する構成ではできない車両の回転中心を前方へ移動させることを可能とする。これにより、後輪の車軸上の横すべり角を増やして、目標方向に対する車両の進行方向のずれを速やかに小さくすることができる。
【0015】
(3)第3の手段は請求項3に記載の事項、すなわち請求項2に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪を制御することを要旨とする。
【0016】
上記発明によれば、前輪および後輪の制御により車両の姿勢を制御する、すなわち車両の回転中心を前方および後方に移動させる2自由度の制御を有するため、前輪および後輪のうちの一方の制御のみにより車両の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向に対する車両の進行方向のずれを速やかに小さくすることができる。
【0017】
(4)第4の手段は請求項4に記載の事項、すなわち請求項2に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪のうちの前記後輪のみを制御することを要旨とする。
【0018】
上記発明によれば、車両姿勢角不足状態のときに前輪および後輪の双方の制御により車両の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくするための演算の負荷が小さくなる。
【0019】
(5)第5の手段は請求項5に記載の事項、すなわち請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪を制御することを要旨とする。
【0020】
上記発明によれば、車両姿勢角過剰状態のときに目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることができる。このため、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときに前輪および後輪の制御を行わない構成と比較して、多様な車両姿勢状態に対応して車両の進行方向を目標方向に近づけることができる。
【0021】
また、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のとき、すなわち例えば「γ>0」かつ「Δβ>0」のとき、任意の基準点から延びる目標方向と車両の進行方向とを比較した場合に、目標方向が、車両の進行方向に対して車両の旋回方向側に位置している。このときの車両の回転中心は、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときの回転中心よりも車両の前方側に位置している。つまり、後輪の車軸上の横すべり角が、目標方向と進行方向とが一致する横すべり角の大きさを超え、かつ前輪の車軸上の横すべり角が、目標方向と進行方向とが一致する横すべり角の大きさに達していない。この場合、目標方向と進行方向とを一致させるためには、前輪の車軸上の横すべり角を増やさなければならない。
【0022】
このため上記発明によれば、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときに後輪のみを制御する構成ではできない車両の回転中心を後方へ移動させることを可能とする。これにより、前輪の車軸上の横すべり角を増やして、目標方向に対する車両の進行方向のずれを速やかに小さくすることができる。
【0023】
(6)第6の手段は請求項6に記載の事項、すなわち請求項5に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪を制御することを要旨とする。
【0024】
上記発明によれば、前輪および後輪の制御により車両の姿勢を制御する、すなわち車両の回転中心を前方および後方に移動させる2自由度の制御を有するため、前輪および後輪のうちの一方の制御のみにより車両の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向に対する車両の進行方向のずれを速やかに小さくすることができる。
【0025】
(7)第7の手段は請求項7に記載の事項、すなわち請求項5に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪のうちの前記前輪のみを制御することを要旨とする。
【0026】
上記発明によれば、車両姿勢角過剰状態のときに前輪および後輪の双方の制御により車両の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくするための演算の負荷が小さくなる。
【0027】
(8)第8の手段は請求項8に記載の事項、すなわち請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号とが互いに異なる符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態にある旨判定することを要旨とする。
【0028】
(9)第9の手段は請求項9に記載の事項、すなわち請求項1〜8のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号とが互いに同じ符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態にある旨判定することを要旨とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることのできる車両姿勢制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態の車両姿勢制御装置について、その全体構造を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の車両姿勢制御装置について、車両を模式的に示す模式図。
【図3】同実施形態の車両姿勢制御装置により実行される「車両姿勢制御」について、その手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態の車両姿勢制御装置について、車両姿勢角不足状態におけるヨーレート増加制御を示す模式図。
【図5】同実施形態の車両姿勢制御装置について、車両姿勢角過剰状態におけるヨーレート減少制御を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態の車両姿勢制御装置について、車両姿勢角過剰状態におけるヨーレート減少制御を示す模式図。
【図7】本発明の車両姿勢制御装置の変形例について、車両姿勢角不足状態におけるヨーレート増加制御を示す模式図。
【図8】本発明の車両姿勢制御装置が備える後輪制御装置の変形例について、車両姿勢角不足状態におけるヨーレート増加制御を示す模式図。
【図9】本発明の車両姿勢制御装置が備える後輪制御装置の変形例について、車両姿勢角過剰状態におけるヨーレート減少制御を示す模式図。
【図10】本発明の車両姿勢制御装置が備える前輪制御装置の変形例について、車両姿勢角過剰状態におけるヨーレート減少制御を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
図1〜図5を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、図中の矢印Xは、前方および後方を含む前後方向を示す。また、図中の矢印Yは、左方および右方を含む左右方向を示す。前後方向と左右方向は互いに直交する直線方向である。前後方向および左右方向に直交する直線方向を、上方および下方を含む上下方向とする。前後方向および左右方向および上下方向は、車両1に固定された座標系の方向を示している。
【0032】
図1に、車体2と車輪3と車両姿勢制御装置4とを備えた車両1の全体構成を示す。
車体2の左前側部位には左前輪31が設けられ、車体2の右前側部位には右前輪32が設けられている。前側の車輪3である前輪31,32は、前側の車軸Aである前軸AFを回転中心軸として回転する。
【0033】
車体2の左後側部位には左後輪33が設けられ、車体2の右後側部位には右後輪34が設けられている。後側の車輪3である後輪33,34は、後側の車軸Aである後軸ARを回転中心軸として回転する。
【0034】
ステアリング装置12には、前輪31,32の舵角を制御する操舵ハンドル11が接続されている。すなわち、前輪31,32の舵角は、操舵ハンドル11が操舵されることによって変化する。一方、後輪33,34の舵角は変化しない。
【0035】
車両姿勢制御装置4は、車体すべり角推定装置5と、車輪速センサ41〜44と、加速度センサ45と、ヨーレートセンサ46と、舵角センサ47と、メモリ48と、演算装置49と、前輪制御装置6と、後輪制御装置7とを備えている。
【0036】
車体すべり角推定装置5は、車体2の横すべり角を推定する。車体2の横すべり角は、例えば、車両1のヨーレートおよび加速度と、路面の摩擦係数とに基づいて算出される。なお、路面の摩擦係数の推定精度が低いとき、横すべり角の推定精度が低くなる。このため、路面の摩擦係数に代えて車輪3に作用する横力に基づいて横すべり角を算出することが好ましい。車輪3に作用する横力は、タイヤ横力センサ(図示略)により検出される。
【0037】
車輪速センサ41は、左前輪31の回転速度を検出する。車輪速センサ42は、右前輪32の回転速度を検出する。車輪速センサ43は、左後輪33の回転速度を検出する。車輪速センサ44は、右後輪34の回転速度を検出する。車輪速センサ41〜44により検出された車輪3の回転速度である車輪速に基づいて、車両1の進行方向に進む速度である車速が算出される。
【0038】
加速度センサ45としては、前後方向および左右方向および上下方向の加速度を検出する3軸加速度センサが設けられている。
ヨーレートセンサ46は、上下方向を回転中心軸とする車両1の回転速度であるヨーレートを検出する。ヨーレートセンサ46によって検出されるヨーレートは、左右方向における車両1の回転速度である。
【0039】
舵角センサ47は、前輪31,32の舵角を検出する。舵角センサ47により検出される舵角は、前輪31,32の実舵角を示し、操舵ハンドル11の操舵角とは異なる。
メモリ48は、情報を記憶する不揮発性の情報記憶装置である。メモリ48には、演算装置49が実行するプログラムおよび車両1の情報として目標すべり角等が記憶されている。目標すべり角はメモリ48に記憶されることにより設定される。したがって、メモリ48に記憶された目標すべり角を書き換えることにより、目標すべり角の再設定が可能である。
【0040】
演算装置49は、ECU(Electronic Control Unit)により構成される集積回路である。演算装置49は、メモリ48に記憶されているプログラムに基づいて車両姿勢制御処理を実行する。また、車両姿勢制御処理において、演算装置49は、前輪制御装置6または後輪制御装置7に信号を出力することにより、ヨーレート増加制御またはヨーレート減少制御を行う。
【0041】
前輪制御装置6は、操舵ハンドル11の舵角と連動せずに前輪31,32の舵角を制御することが可能なアクティブステアリング装置である。前輪制御装置6には、舵角センサ47が内蔵されている。
【0042】
後輪制御装置7は、後輪33,34の駆動力の配分比率を制御する左右駆動力配分装置である。後輪制御装置7により、左後輪33の駆動力と右後輪34の駆動力の比率が制御される。
【0043】
図2を参照して、車両1の姿勢制御に用いられる物理量等について説明する。
図中の一点鎖線Cは、車両1の左右中心軸(以下、「左右中心軸C」)を示している。左右中心軸Cは前後方向に平行である。また、図中の二点鎖線R2は、後輪33,34の回転面に平行な方向を示している。
【0044】
図中の点Rは、車両1および車体2の回転中心(旋回中心)を示している。この回転中心は、前軸AF上および後軸AR上の横すべり角の度合いに応じて変化する。前軸AF上および後軸AR上の横すべり角は、図中の角δが示す前輪31,32の舵角(以下、「舵角δ」)、および後輪33,34の転蛇角もしくは左右駆動力差が生じることにより発生する。前輪31,32の舵角δは、図中の一点鎖線R1で示す前輪31,32の回転面に平行な方向と前後方向とのなす角である。
【0045】
図中の矢印DFは、車両1の進行方向(以下、「進行方向DF」)を示している。一点鎖線Dで示す進行方向軸Dは、左右中心軸C上の任意の点Gを通り進行方向DFに平行な軸である。また、図中の矢印BFは、目標方向(以下、「目標方向BF」)を示している。一点鎖線Bで示す目標方向軸Bは、左右中心軸C上の任意の点Gを通り車両1の目標方向BFに平行な軸である。
【0046】
図2中の矢印γは、図中の点Rを中心とした車両1の回転方向(旋回方向)を示している。ヨーレートセンサ46を用いて検出される車両1のヨーレート(以下、「実ヨーレートγ」)は、図中の矢印γに沿った方向の車両1の加速度を示す。実ヨーレートγについては、図2中の矢印γが示す方向である反時計回り方向を正の方向とする。すなわち、図2においては実ヨーレートγの負の方向は時計回り方向である。
【0047】
図中の角βは、車体すべり角推定装置5により推定される車体2の横すべり角(以下、「車体すべり角β」)である。車体すべり角βは、任意の点Gにおいて進行方向DFが左右中心軸Cに対してなす角である。すなわち、車体すべり角βは、車両1の進行方向DFと車両1の左右中心軸Cに平行な方向とのなす角であって、車両1の左右中心軸C上のある任意の点Gにおける横すべり角である。車体すべり角βについては、左右中心軸Cに平行な方向から反時計回り方向を正の方向とする。図2における車体すべり角βの符号は「正」である。
【0048】
車両姿勢制御処理に用いられる目標すべり角β*は、任意の点Gにおいて目標方向BFが左右中心軸Cに対してなす角である。目標すべり角β*についても、車体すべり角βと同様に左右中心軸Cに平行な方向から反時計回り方向を正の方向とする。
【0049】
また、車両姿勢制御処理において算出される角度差Δβは、目標すべり角β*と車体すべり角βとの差(β*−β)である。目標方向軸Bと進行方向軸Dとが一致していないとき、すなわち進行方向DFが目標方向BFと一致していないときは、角度差Δβの符号は「正」または「負」である。目標すべり角β*と車体すべり角βは、左右中心軸Cに平行な方向から反時計回りを正の方向として、図2における車体すべり角βの大きさは目標すべり角β*よりも大きいため、図2における角度差Δβの符号は「負」である。
【0050】
図3を参照して、車両姿勢制御装置4が実行する「車両姿勢制御処理」について説明する。図3に示す一連の処理は、ステップS1を除いて、演算装置49により実行される。
ステップS1では、車体すべり角推定装置5が車体すべり角βを推定する。車体すべり角βの推定結果は車体すべり角推定装置5から演算装置49に入力される。
【0051】
ステップS2では、予め設定されている目標すべり角β*とステップS1で推定した車体すべり角βとの差(β*−β)である角度差Δβを算出する。
ステップS3ではヨーレートセンサ46を用いて車両1の実ヨーレートγを検出する。
【0052】
ステップS4では、ステップS2で算出された角度差Δβの符号と、ステップS3で検出された車両1の実ヨーレートγの符号とに基づいて、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態であるか否かを判定する。具体的には、「Δβ・γ<0」の数式を満たすとき、すなわち、角度差Δβの符号と車両1の実ヨーレートγの符号とが互いに異なる符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態である旨判定される。
【0053】
ステップS4で車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態である旨判定したとき、ステップS5で、車両姿勢角不足状態を解消するために、角度差Δβに応じて実ヨーレートγを増加させるヨーレート増加制御を行う。
【0054】
ステップS4で車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態でない旨判定したとき、ステップS6で、ステップS2で算出された角度差Δβの符号と、ステップS3で検出された車両1の実ヨーレートγの符号とに基づいて、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態であるか否かを判定する。具体的には、「Δβ・γ>0」の数式を満たすとき、すなわち、角度差Δβの符号と車両1の実ヨーレートγの符号とが互いに同じ符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態である旨判定する。
【0055】
ステップS6で車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態である旨判定したとき、ステップS7で、車両姿勢角過剰状態を解消するために、角度差Δβに応じて実ヨーレートγを減少させるヨーレート減少制御を行う。
【0056】
図4を参照して、ヨーレート増加制御について説明する。
車両姿勢角不足状態においては、進行方向軸Dのうちの任意の点Gにおける左右中心軸Cとの交点よりも前方の部分が、回転中(旋回中)の車両1の目標方向BFに対して旋回方向側に位置している。すなわち、目標方向BFは、進行方向DFに対して旋回方向とは反対側に位置している。よって、車両1の進行方向DFを目標方向BFに一致させるためには、車両1を矢印γの方向にさらに回転させればよい。
【0057】
ここで、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときは、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときに比べて、車両1の回転中心は車両1の後側に位置する。つまり、前輪31,32の車軸A、すなわち前軸AF上の横すべり角(図示略)が、目標方向BFと進行方向DFとが一致する横すべり角の大きさを超え、かつ後輪33,34の車軸A、すなわち後軸AR上の横すべり角(図示略)が、目標方向BFと進行方向DFとが一致する横すべり角の大きさに達していない。この場合、目標方向BFと進行方向DFとを一致させるためには、後輪33,34の車軸A、すなわち、後軸AR上の横すべり角を増やさなければならない。
【0058】
従って、車両姿勢角不足状態においては、後輪33,34を制御して車両の姿勢を制御することが有効であるため、後輪制御装置7を用いて、車体すべり角βの角度を目標すべり角β*の角度に近づける、すなわち角度差Δβを「0」に近づける車両1の姿勢制御が行われる。後輪制御装置7は、図4中の二点鎖線の矢印で示すように、左後輪33の駆動力に比べて、右後輪34の駆動力を大きくすることにより、角度差Δβを「0」に近づける。
【0059】
図5を参照して、ヨーレート減少制御について説明する。
車両姿勢角過剰状態においては、進行方向軸Dのうちの任意の点Gにおける左右中心軸Cとの交点よりも前方の部分が、回転中の車両1の目標方向BFに対して旋回方向とは反対側に位置している。すなわち、目標方向BFは、進行方向DFに対して旋回方向側に位置している。よって、車両1の進行方向DFを目標方向BFに一致させるためには、車両1を矢印γの逆方向に回転させればよい。
【0060】
ここで、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときは、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときに比べて、車両1の回転中心は車両1の前側に位置する。つまり、後輪33,34の車軸A、すなわち後軸AR上の横すべり角が、目標方向BFと進行方向DFとが一致する横すべり角の大きさを超え、かつ前輪31,32の車軸Aである前軸AF上の横すべり角が、目標方向BFと進行方向DFとが一致する横すべり角の大きさに達していない。この場合、目標方向BFと進行方向DFとを一致させるためには、前軸AF上の横すべり角を増やさなければならない。
【0061】
従って、車両姿勢角過剰状態においては、前輪31,32を制御して車両の姿勢を制御することが有効であるため、前輪制御装置6を用いて、車体すべり角βの角度を目標すべり角β*の角度に近づける、すなわち角度差Δβを「0」に近づける車両1の姿勢制御が行われる。前輪制御装置6は、図5中の二点鎖線で示すように、前輪31,32の回転面を、車両1の旋回方向の反対方向に回転させることにより、角度差Δβを「0」に近づける。
【0062】
車両姿勢制御装置4は車両1の姿勢に次のように作用する。
車両姿勢角不足状態において、後輪33,34によってヨーレート増加制御が行われることにより、進行方向DFが目標方向BFと一致するように車両1の車両姿勢状態が制御される。また、車両姿勢角過剰状態において、ヨーレート減少制御が行われることにより、進行方向DFが目標方向BFと一致するように車両1の車両姿勢状態が制御される。
【0063】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と車両1の実ヨーレートγの符号との関係に応じて車両1の前輪31,32および後輪33,34の少なくとも一方を制御するため、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態または車両姿勢角過剰状態のとき、進行方向DFを目標方向BFに近づけることができる。また、角度差Δβの符号と車両の実ヨーレートγの符号との関係、すなわち規範ヨーレートを算出することなく車両姿勢状態に応じて車両1の姿勢を制御する。このため、一般の車両姿勢制御装置に比べて、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを小さくすることができる。
【0064】
(2)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、後輪33,34を制御する。このため、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときに前輪31,32のみを制御する構成ではできない車両1の回転中心を前方へ移動させることを可能にする。これにより、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを速やかに小さくすることができる。
【0065】
(3)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前輪31,32および後輪33,34のうちの後輪33,34のみを制御する。このため、車両姿勢角不足状態のときに前輪31,32および後輪33,34の双方の制御により車両の姿勢が制御される構成と比較して、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを小さくするための演算の負荷が小さくなる。
【0066】
(4)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前輪31,32を制御する。このため、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときに後輪33,34のみを制御する構成と比較して、車両1の進行方向DFが速やかに変化する。これにより、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを速やかに小さくすることができる。
【0067】
(5)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前輪31,32および後輪33,34のうちの前輪31,32のみを制御する。このため、車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32および後輪33,34の双方の制御により車両の姿勢が制御される構成と比較して、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを小さくするための演算の負荷が小さくなる。
【0068】
(6)車両姿勢角不足状態および車両姿勢角過剰状態のときに目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれが小さくなる。このため、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態または車両姿勢角過剰状態のいずれかのときに前輪31,32および後輪33,34の制御が行なわれない構成と比較して、多様な車両姿勢状態に対応して車両1の進行方向DFを目標方向BFに近づけることができる。
【0069】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態のヨーレート減少制御で使用する車輪3を変更したものである。その他の点については第1実施形態と同様の構成が採用されている。このため、以下では第1実施形態の車両姿勢制御装置4と異なる部分について詳細に説明するとともに、同実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を省略する。
【0070】
第1実施形態では、車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32を制御しているが、本実施形態の車両姿勢制御装置4は、車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32に代えて後輪33,34を制御することにより車両姿勢状態を制御する。
【0071】
図6に示すように、後輪制御装置7は、車両姿勢角過剰状態である旨判定された後のヨーレート減少制御(ステップS7)で、図6中の二点鎖線の矢印で示すように、右後輪34の駆動力に比べて、左後輪33の駆動力を大きくすることにより、角度差Δβを「0」に近づける。
【0072】
本実施形態によれば、車両姿勢制御装置4は、前輪31,32を用いずに車両1の姿勢を制御することができる。また、上記第1実施形態の(1)〜(3)および(6)に記載の効果を得ることができる。
【0073】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は上記実施態様にて例示した態様に限られるものではなく、例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の変形例は、上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、変形例同士を組み合わせて実施してもよい。
【0074】
・(変形例1)第1および第2実施形態(図5および図6)では車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32または後輪33,34を制御することによりヨーレート減少制御を行っているが、車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御することによりヨーレート減少制御を行うこともできる。このような構成によれば、前輪31,32および後輪33,34の制御により車両1の姿勢が制御されるため、前輪31,32および後輪33,34のうちの一方の制御のみにより車両1の姿勢が制御される構成と比較して、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを速やかに小さくすることができる。
【0075】
・(変形例2)第1および第2実施形態(図5および図6)では車両姿勢角過剰状態のときにヨーレート減少制御を行っているが、車両姿勢角過剰状態のときにヨーレート減少制御を行わない構成に変更することもできる。
【0076】
・(変形例3)第1実施形態(図4)では車両姿勢角不足状態のときに後輪33,34のみを制御することによりヨーレート増加制御を行っているが、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御する構成に変更することもできる。本変形例のヨーレート増加制御においては、前輪制御装置6は、図7中の二点鎖線で示すように、前輪31,32の回転面を、車両1の旋回方向に回転させることにより、角度差Δβを「0」に近づける。このような構成によれば、前輪31,32および後輪33,34の制御により車両1の姿勢が制御されるため、前輪31,32および後輪33,34のうちの一方の制御のみにより車両1の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを速やかに小さくすることができる。
【0077】
・(変形例4)第2実施形態において、変形例3と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御する構成に変更することもできる。
【0078】
・(変形例5)変形例1において、変形例3と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御する構成に変更することもできる。
【0079】
・(変形例6)変形例2において、変形例3と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御する構成に変更することもできる。
【0080】
・(変形例7)第1実施形態では、車両姿勢角不足状態のときに後輪33,34のみを制御しているが、車両姿勢角不足状態のときに後輪33,34に代えて前輪31,32のみを制御することにより車両姿勢状態を制御することもできる。すなわち、変形例3におけるヨーレート増加制御で、後輪33,34の制御を行なわずに前輪31,32のみを制御する構成に変更することもできる。この構成によれば、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときに前輪31,32および後輪33,34の制御が行なわれない構成と比較して、多様な車両姿勢状態に対応して車両1の進行方向DFを目標方向BFに近づけることができる。
【0081】
・(変形例8)第2実施形態において、変形例7と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32のみを制御する構成に変更することもできる。
【0082】
・(変形例9)変形例1において、変形例7と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32のみを制御する構成に変更することもできる。
【0083】
・(変形例10)変形例2において、変形例7と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32のみを制御する構成に変更することもできる。
【0084】
・(変形例11)実施形態(図4)では車両姿勢角不足状態のときにヨーレート増加制御を行っているが、車両姿勢角不足状態のときにヨーレート増加制御を行わない構成に変更することもできる。
【0085】
・(変形例12)第2実施形態において、変形例11と同様に、車両姿勢角不足状態のときにヨーレート増加制御を行わない構成に変更することもできる。
・(変形例13)変形例1において、変形例11と同様に、車両姿勢角不足状態のときにヨーレート増加制御を行わない構成に変更することもできる。
【0086】
第1実施形態、第2実施形態、変形例1〜13について、車両姿勢角不足状態および車両姿勢角過剰状態において車両姿勢制御装置4により制御される車輪3を下記表に示す。
【0087】
【表1】
・第1実施形態(図1)等では、後輪制御装置7は左右駆動力配分装置であるが、後輪制御装置7を独立駆動装置により構成することもできる。また、後輪制御装置7を後輪33,34の舵角を制御することができる後輪ステアリング装置により構成することもできる。
【0088】
図8を参照して、後輪制御装置7が後輪ステアリング装置であって車両姿勢角不足状態のときに行われる後輪33,34の制御について説明する。図8に示す車両姿勢角不足状態においては、後輪制御装置7は、図8中の二点鎖線で示すように、後輪33,34の回転面を、車両1の回転方向の逆方向に回転させることにより、横すべり角βの角度を「0」に近づける。
【0089】
図9を参照して、後輪制御装置7が後輪ステアリング装置であって車両姿勢角過剰状態のときに行われる後輪33,34の制御について説明する。図9に示す車両姿勢角過剰状態においては、後輪制御装置7は、図9中の二点鎖線で示すように、後輪33,34の回転面を、車両1の回転方向に回転させることにより、横すべり角βの角度を「0」に近づける。
【0090】
以上のように、後輪制御装置7を後輪ステアリング装置により構成しても本発明の効果を得ることができる。すなわち、後輪制御装置7は、後輪33,34の駆動力の比率を制御する駆動力配分装置に限られるものではない。
【0091】
・第1実施形態(図1)等では前輪制御装置6はアクティブステアリング装置であるが、前輪制御装置6を、前輪31,32の駆動力の各々を異ならせることができる独立駆動装置または左右駆動力分配装置により構成することもできる。なお、この場合にも、前輪31,32の舵角は変化させることができる。
【0092】
図10を参照して、前輪制御装置6が左右駆動力分配装置であって車両姿勢角過剰状態のときに行われる前輪31,32の制御について説明する。図10に示す車両姿勢角過剰状態においては、前輪制御装置6は、図10中の二点鎖線で示すように、右前輪32の駆動力に比べて、左前輪31の駆動力を大きくすることにより、角度差Δβを「0」に近づける。
【0093】
以上のように、前輪制御装置6を左右駆動力配分装置により構成しても本発明の効果を得ることができる。すなわち、前輪制御装置6は、前輪31,32の舵角を制御する差動機構装置またはステアバイワイヤ装置等のアクティブステアリング装置に限られるものではない。
【0094】
・第1および第2実施形態では目標方向軸Bと左右中心軸Cとは異なる軸であったが、目標方向軸Bが左右中心軸Cであってもよい。すなわち目標方向BFが左右中心軸Cに対してなす角である目標すべり角β*が「0」であってもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…車両、2…車体、3…車輪、4…車両姿勢制御装置、5…車体すべり角推定装置、6…前輪制御装置、7…後輪制御装置、11…操舵ハンドル、12…パワーステアリング装置、31…左前輪、32…右前輪、33…左後輪、34…右後輪、41〜44…車輪速センサ、45…加速度センサ、46…ヨーレートセンサ、47…舵角センサ、48…メモリ、49…演算装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の目標方向に対する車両の進行方向の角度を制御するために、前記車両の姿勢を制御する車両姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両姿勢制御装置として、操縦安定性の向上のために規範ヨーレートに基づいて前輪および後輪を制御する装置が知られている。一般的な車両姿勢制御装置においては、車速および操舵角等の情報に基づいて規範ヨーレートを算出し、この規範ヨーレートとヨーレートセンサの出力との差に基づいて前輪および後輪を制御する。
【0003】
特許文献1には、操舵ハンドルの操舵角および車速をそれぞれセンサにより検出し、車体スリップ角が「0」となるようにセンサの出力に基づいて車両のヨーレートの目標値、いわゆる規範ヨーレートを算出する車両姿勢制御装置が記載されている。この制御装置は、ヨーレートの目標値に基づいて目標転舵角を算出し、目標転舵角に基づいて転蛇アクチュエータを制御することにより、前輪および後輪の舵角を目標転舵角に近づける制御を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−7001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、規範ヨーレートに基づく車両姿勢制御を実行しても、所定の目標方向に対する車両の進行方向のずれが小さくならないケースがある。これは次の理由によるものと考えられる。
【0006】
一般に、規範ヨーレートは、タイヤ特性が線形領域の車両モデル、すなわち線形車両モデルに基づいて算出され、かつタイヤが路面をグリップして走行するグリップ状態におけるヨーレートセンサの出力に応じたものとなるように設定されている。したがって、規範ヨーレートとヨーレートセンサの出力とに偏差が生じる場合、すなわちタイヤがスリップしているスリップ状態において、大きく乱れた車両姿勢を制御する車両姿勢制御が実行される。しかし、規範ヨーレートとヨーレートセンサの出力とに偏差が生じない場合、すなわちグリップ状態においては、車両姿勢制御が実行されない。よって、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることができないという問題がある。
【0007】
また、ユーザによる車両部品交換、または乗車人数もしくは積荷の変化等の車両仕様に応じて車両モデルを変更しなければ、適切な規範ヨーレートを算出することはできない。すなわち、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることができないという問題がある。車両仕様を検出するセンサを設け、このセンサの出力に基づいて車両仕様の変更に応じた規範ヨーレートの算出を行うことも考えられるが、車両仕様を検出するために多数のセンサを設ける必要があり現実的ではない。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることのできる車両姿勢制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための手段を以下に記載する。
(1)第1の手段は請求項1に記載の事項、すなわち所定の目標方向に対する車両の進行方向の角度を制御するために、前記車両の姿勢を制御する車両姿勢制御装置において、前記車両に設けられたヨーレートセンサによって検出されるヨーレートを「実ヨーレートγ」とし、前記車両の左右中心軸上に存在する任意の基準点において、前記進行方向が前記車両の左右中心軸のうち前記基準点よりも前方の部分に対してなす角を「車体すべり角β」とし、前記目標方向が前記車両の左右中心軸のうち前記基準点よりも前方の部分に対してなす角を「目標すべり角β*」とし、前記目標すべり角β*と前記車体すべり角βとの差(β*−β)を「角度差Δβ」として、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係に応じて前記車両の前輪および後輪の少なくとも一方を制御することを要旨とする。
【0010】
車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のとき、角度差Δβの符号および実ヨーレートγの符号が互いに異なる符号となると、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のとき、角度差Δβの符号および実ヨーレートγの符号が互いに同じ符号となる。すなわち、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係には目標方向に対する車両姿勢状態が反映される。
【0011】
上記発明によれば、角度差Δβの符号と車両の実ヨーレートγの符号との関係に応じて車両の前輪および後輪の少なくとも一方を制御するため、目標方向に対する車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態または車両姿勢角過剰状態のとき、車両の進行方向を目標方向に近づけることができる。また、角度差Δβの符号と車両の実ヨーレートγの符号との関係、すなわち規範ヨーレートを算出することなく車両姿勢状態に応じて車両の姿勢を制御するため、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることができる。
【0012】
(2)第2の手段は請求項2に記載の事項、すなわち請求項1に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記後輪を制御することを要旨とする。
【0013】
車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のとき、すなわち例えば「γ>0」かつ「Δβ<0」のとき、任意の基準点から延びる目標方向と車両の進行方向とを比較した場合に、目標方向が、車両の進行方向に対して車両の旋回方向とは反対側に位置している。このときの車両の回転中心は、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときの回転中心よりも車両の後方側に位置している。つまり、前輪の車軸上の横すべり角が、目標方向と進行方向とが一致する横すべり角の大きさを超え、かつ後輪の車軸上の横すべり角が、目標方向と進行方向とが一致する横すべり角の大きさに達していない。この場合、目標方向と進行方向とを一致させるためには、後輪の車軸上の横すべり角を増やさなければならない。
【0014】
このため上記発明によれば、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときに前輪のみを制御する構成ではできない車両の回転中心を前方へ移動させることを可能とする。これにより、後輪の車軸上の横すべり角を増やして、目標方向に対する車両の進行方向のずれを速やかに小さくすることができる。
【0015】
(3)第3の手段は請求項3に記載の事項、すなわち請求項2に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪を制御することを要旨とする。
【0016】
上記発明によれば、前輪および後輪の制御により車両の姿勢を制御する、すなわち車両の回転中心を前方および後方に移動させる2自由度の制御を有するため、前輪および後輪のうちの一方の制御のみにより車両の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向に対する車両の進行方向のずれを速やかに小さくすることができる。
【0017】
(4)第4の手段は請求項4に記載の事項、すなわち請求項2に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪のうちの前記後輪のみを制御することを要旨とする。
【0018】
上記発明によれば、車両姿勢角不足状態のときに前輪および後輪の双方の制御により車両の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくするための演算の負荷が小さくなる。
【0019】
(5)第5の手段は請求項5に記載の事項、すなわち請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪を制御することを要旨とする。
【0020】
上記発明によれば、車両姿勢角過剰状態のときに目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることができる。このため、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときに前輪および後輪の制御を行わない構成と比較して、多様な車両姿勢状態に対応して車両の進行方向を目標方向に近づけることができる。
【0021】
また、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のとき、すなわち例えば「γ>0」かつ「Δβ>0」のとき、任意の基準点から延びる目標方向と車両の進行方向とを比較した場合に、目標方向が、車両の進行方向に対して車両の旋回方向側に位置している。このときの車両の回転中心は、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときの回転中心よりも車両の前方側に位置している。つまり、後輪の車軸上の横すべり角が、目標方向と進行方向とが一致する横すべり角の大きさを超え、かつ前輪の車軸上の横すべり角が、目標方向と進行方向とが一致する横すべり角の大きさに達していない。この場合、目標方向と進行方向とを一致させるためには、前輪の車軸上の横すべり角を増やさなければならない。
【0022】
このため上記発明によれば、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときに後輪のみを制御する構成ではできない車両の回転中心を後方へ移動させることを可能とする。これにより、前輪の車軸上の横すべり角を増やして、目標方向に対する車両の進行方向のずれを速やかに小さくすることができる。
【0023】
(6)第6の手段は請求項6に記載の事項、すなわち請求項5に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪を制御することを要旨とする。
【0024】
上記発明によれば、前輪および後輪の制御により車両の姿勢を制御する、すなわち車両の回転中心を前方および後方に移動させる2自由度の制御を有するため、前輪および後輪のうちの一方の制御のみにより車両の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向に対する車両の進行方向のずれを速やかに小さくすることができる。
【0025】
(7)第7の手段は請求項7に記載の事項、すなわち請求項5に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪のうちの前記前輪のみを制御することを要旨とする。
【0026】
上記発明によれば、車両姿勢角過剰状態のときに前輪および後輪の双方の制御により車両の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくするための演算の負荷が小さくなる。
【0027】
(8)第8の手段は請求項8に記載の事項、すなわち請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号とが互いに異なる符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態にある旨判定することを要旨とする。
【0028】
(9)第9の手段は請求項9に記載の事項、すなわち請求項1〜8のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号とが互いに同じ符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態にある旨判定することを要旨とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向に対する車両の進行方向のずれを小さくすることのできる車両姿勢制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態の車両姿勢制御装置について、その全体構造を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の車両姿勢制御装置について、車両を模式的に示す模式図。
【図3】同実施形態の車両姿勢制御装置により実行される「車両姿勢制御」について、その手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態の車両姿勢制御装置について、車両姿勢角不足状態におけるヨーレート増加制御を示す模式図。
【図5】同実施形態の車両姿勢制御装置について、車両姿勢角過剰状態におけるヨーレート減少制御を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態の車両姿勢制御装置について、車両姿勢角過剰状態におけるヨーレート減少制御を示す模式図。
【図7】本発明の車両姿勢制御装置の変形例について、車両姿勢角不足状態におけるヨーレート増加制御を示す模式図。
【図8】本発明の車両姿勢制御装置が備える後輪制御装置の変形例について、車両姿勢角不足状態におけるヨーレート増加制御を示す模式図。
【図9】本発明の車両姿勢制御装置が備える後輪制御装置の変形例について、車両姿勢角過剰状態におけるヨーレート減少制御を示す模式図。
【図10】本発明の車両姿勢制御装置が備える前輪制御装置の変形例について、車両姿勢角過剰状態におけるヨーレート減少制御を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
図1〜図5を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、図中の矢印Xは、前方および後方を含む前後方向を示す。また、図中の矢印Yは、左方および右方を含む左右方向を示す。前後方向と左右方向は互いに直交する直線方向である。前後方向および左右方向に直交する直線方向を、上方および下方を含む上下方向とする。前後方向および左右方向および上下方向は、車両1に固定された座標系の方向を示している。
【0032】
図1に、車体2と車輪3と車両姿勢制御装置4とを備えた車両1の全体構成を示す。
車体2の左前側部位には左前輪31が設けられ、車体2の右前側部位には右前輪32が設けられている。前側の車輪3である前輪31,32は、前側の車軸Aである前軸AFを回転中心軸として回転する。
【0033】
車体2の左後側部位には左後輪33が設けられ、車体2の右後側部位には右後輪34が設けられている。後側の車輪3である後輪33,34は、後側の車軸Aである後軸ARを回転中心軸として回転する。
【0034】
ステアリング装置12には、前輪31,32の舵角を制御する操舵ハンドル11が接続されている。すなわち、前輪31,32の舵角は、操舵ハンドル11が操舵されることによって変化する。一方、後輪33,34の舵角は変化しない。
【0035】
車両姿勢制御装置4は、車体すべり角推定装置5と、車輪速センサ41〜44と、加速度センサ45と、ヨーレートセンサ46と、舵角センサ47と、メモリ48と、演算装置49と、前輪制御装置6と、後輪制御装置7とを備えている。
【0036】
車体すべり角推定装置5は、車体2の横すべり角を推定する。車体2の横すべり角は、例えば、車両1のヨーレートおよび加速度と、路面の摩擦係数とに基づいて算出される。なお、路面の摩擦係数の推定精度が低いとき、横すべり角の推定精度が低くなる。このため、路面の摩擦係数に代えて車輪3に作用する横力に基づいて横すべり角を算出することが好ましい。車輪3に作用する横力は、タイヤ横力センサ(図示略)により検出される。
【0037】
車輪速センサ41は、左前輪31の回転速度を検出する。車輪速センサ42は、右前輪32の回転速度を検出する。車輪速センサ43は、左後輪33の回転速度を検出する。車輪速センサ44は、右後輪34の回転速度を検出する。車輪速センサ41〜44により検出された車輪3の回転速度である車輪速に基づいて、車両1の進行方向に進む速度である車速が算出される。
【0038】
加速度センサ45としては、前後方向および左右方向および上下方向の加速度を検出する3軸加速度センサが設けられている。
ヨーレートセンサ46は、上下方向を回転中心軸とする車両1の回転速度であるヨーレートを検出する。ヨーレートセンサ46によって検出されるヨーレートは、左右方向における車両1の回転速度である。
【0039】
舵角センサ47は、前輪31,32の舵角を検出する。舵角センサ47により検出される舵角は、前輪31,32の実舵角を示し、操舵ハンドル11の操舵角とは異なる。
メモリ48は、情報を記憶する不揮発性の情報記憶装置である。メモリ48には、演算装置49が実行するプログラムおよび車両1の情報として目標すべり角等が記憶されている。目標すべり角はメモリ48に記憶されることにより設定される。したがって、メモリ48に記憶された目標すべり角を書き換えることにより、目標すべり角の再設定が可能である。
【0040】
演算装置49は、ECU(Electronic Control Unit)により構成される集積回路である。演算装置49は、メモリ48に記憶されているプログラムに基づいて車両姿勢制御処理を実行する。また、車両姿勢制御処理において、演算装置49は、前輪制御装置6または後輪制御装置7に信号を出力することにより、ヨーレート増加制御またはヨーレート減少制御を行う。
【0041】
前輪制御装置6は、操舵ハンドル11の舵角と連動せずに前輪31,32の舵角を制御することが可能なアクティブステアリング装置である。前輪制御装置6には、舵角センサ47が内蔵されている。
【0042】
後輪制御装置7は、後輪33,34の駆動力の配分比率を制御する左右駆動力配分装置である。後輪制御装置7により、左後輪33の駆動力と右後輪34の駆動力の比率が制御される。
【0043】
図2を参照して、車両1の姿勢制御に用いられる物理量等について説明する。
図中の一点鎖線Cは、車両1の左右中心軸(以下、「左右中心軸C」)を示している。左右中心軸Cは前後方向に平行である。また、図中の二点鎖線R2は、後輪33,34の回転面に平行な方向を示している。
【0044】
図中の点Rは、車両1および車体2の回転中心(旋回中心)を示している。この回転中心は、前軸AF上および後軸AR上の横すべり角の度合いに応じて変化する。前軸AF上および後軸AR上の横すべり角は、図中の角δが示す前輪31,32の舵角(以下、「舵角δ」)、および後輪33,34の転蛇角もしくは左右駆動力差が生じることにより発生する。前輪31,32の舵角δは、図中の一点鎖線R1で示す前輪31,32の回転面に平行な方向と前後方向とのなす角である。
【0045】
図中の矢印DFは、車両1の進行方向(以下、「進行方向DF」)を示している。一点鎖線Dで示す進行方向軸Dは、左右中心軸C上の任意の点Gを通り進行方向DFに平行な軸である。また、図中の矢印BFは、目標方向(以下、「目標方向BF」)を示している。一点鎖線Bで示す目標方向軸Bは、左右中心軸C上の任意の点Gを通り車両1の目標方向BFに平行な軸である。
【0046】
図2中の矢印γは、図中の点Rを中心とした車両1の回転方向(旋回方向)を示している。ヨーレートセンサ46を用いて検出される車両1のヨーレート(以下、「実ヨーレートγ」)は、図中の矢印γに沿った方向の車両1の加速度を示す。実ヨーレートγについては、図2中の矢印γが示す方向である反時計回り方向を正の方向とする。すなわち、図2においては実ヨーレートγの負の方向は時計回り方向である。
【0047】
図中の角βは、車体すべり角推定装置5により推定される車体2の横すべり角(以下、「車体すべり角β」)である。車体すべり角βは、任意の点Gにおいて進行方向DFが左右中心軸Cに対してなす角である。すなわち、車体すべり角βは、車両1の進行方向DFと車両1の左右中心軸Cに平行な方向とのなす角であって、車両1の左右中心軸C上のある任意の点Gにおける横すべり角である。車体すべり角βについては、左右中心軸Cに平行な方向から反時計回り方向を正の方向とする。図2における車体すべり角βの符号は「正」である。
【0048】
車両姿勢制御処理に用いられる目標すべり角β*は、任意の点Gにおいて目標方向BFが左右中心軸Cに対してなす角である。目標すべり角β*についても、車体すべり角βと同様に左右中心軸Cに平行な方向から反時計回り方向を正の方向とする。
【0049】
また、車両姿勢制御処理において算出される角度差Δβは、目標すべり角β*と車体すべり角βとの差(β*−β)である。目標方向軸Bと進行方向軸Dとが一致していないとき、すなわち進行方向DFが目標方向BFと一致していないときは、角度差Δβの符号は「正」または「負」である。目標すべり角β*と車体すべり角βは、左右中心軸Cに平行な方向から反時計回りを正の方向として、図2における車体すべり角βの大きさは目標すべり角β*よりも大きいため、図2における角度差Δβの符号は「負」である。
【0050】
図3を参照して、車両姿勢制御装置4が実行する「車両姿勢制御処理」について説明する。図3に示す一連の処理は、ステップS1を除いて、演算装置49により実行される。
ステップS1では、車体すべり角推定装置5が車体すべり角βを推定する。車体すべり角βの推定結果は車体すべり角推定装置5から演算装置49に入力される。
【0051】
ステップS2では、予め設定されている目標すべり角β*とステップS1で推定した車体すべり角βとの差(β*−β)である角度差Δβを算出する。
ステップS3ではヨーレートセンサ46を用いて車両1の実ヨーレートγを検出する。
【0052】
ステップS4では、ステップS2で算出された角度差Δβの符号と、ステップS3で検出された車両1の実ヨーレートγの符号とに基づいて、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態であるか否かを判定する。具体的には、「Δβ・γ<0」の数式を満たすとき、すなわち、角度差Δβの符号と車両1の実ヨーレートγの符号とが互いに異なる符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態である旨判定される。
【0053】
ステップS4で車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態である旨判定したとき、ステップS5で、車両姿勢角不足状態を解消するために、角度差Δβに応じて実ヨーレートγを増加させるヨーレート増加制御を行う。
【0054】
ステップS4で車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態でない旨判定したとき、ステップS6で、ステップS2で算出された角度差Δβの符号と、ステップS3で検出された車両1の実ヨーレートγの符号とに基づいて、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態であるか否かを判定する。具体的には、「Δβ・γ>0」の数式を満たすとき、すなわち、角度差Δβの符号と車両1の実ヨーレートγの符号とが互いに同じ符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態である旨判定する。
【0055】
ステップS6で車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態である旨判定したとき、ステップS7で、車両姿勢角過剰状態を解消するために、角度差Δβに応じて実ヨーレートγを減少させるヨーレート減少制御を行う。
【0056】
図4を参照して、ヨーレート増加制御について説明する。
車両姿勢角不足状態においては、進行方向軸Dのうちの任意の点Gにおける左右中心軸Cとの交点よりも前方の部分が、回転中(旋回中)の車両1の目標方向BFに対して旋回方向側に位置している。すなわち、目標方向BFは、進行方向DFに対して旋回方向とは反対側に位置している。よって、車両1の進行方向DFを目標方向BFに一致させるためには、車両1を矢印γの方向にさらに回転させればよい。
【0057】
ここで、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときは、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときに比べて、車両1の回転中心は車両1の後側に位置する。つまり、前輪31,32の車軸A、すなわち前軸AF上の横すべり角(図示略)が、目標方向BFと進行方向DFとが一致する横すべり角の大きさを超え、かつ後輪33,34の車軸A、すなわち後軸AR上の横すべり角(図示略)が、目標方向BFと進行方向DFとが一致する横すべり角の大きさに達していない。この場合、目標方向BFと進行方向DFとを一致させるためには、後輪33,34の車軸A、すなわち、後軸AR上の横すべり角を増やさなければならない。
【0058】
従って、車両姿勢角不足状態においては、後輪33,34を制御して車両の姿勢を制御することが有効であるため、後輪制御装置7を用いて、車体すべり角βの角度を目標すべり角β*の角度に近づける、すなわち角度差Δβを「0」に近づける車両1の姿勢制御が行われる。後輪制御装置7は、図4中の二点鎖線の矢印で示すように、左後輪33の駆動力に比べて、右後輪34の駆動力を大きくすることにより、角度差Δβを「0」に近づける。
【0059】
図5を参照して、ヨーレート減少制御について説明する。
車両姿勢角過剰状態においては、進行方向軸Dのうちの任意の点Gにおける左右中心軸Cとの交点よりも前方の部分が、回転中の車両1の目標方向BFに対して旋回方向とは反対側に位置している。すなわち、目標方向BFは、進行方向DFに対して旋回方向側に位置している。よって、車両1の進行方向DFを目標方向BFに一致させるためには、車両1を矢印γの逆方向に回転させればよい。
【0060】
ここで、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときは、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときに比べて、車両1の回転中心は車両1の前側に位置する。つまり、後輪33,34の車軸A、すなわち後軸AR上の横すべり角が、目標方向BFと進行方向DFとが一致する横すべり角の大きさを超え、かつ前輪31,32の車軸Aである前軸AF上の横すべり角が、目標方向BFと進行方向DFとが一致する横すべり角の大きさに達していない。この場合、目標方向BFと進行方向DFとを一致させるためには、前軸AF上の横すべり角を増やさなければならない。
【0061】
従って、車両姿勢角過剰状態においては、前輪31,32を制御して車両の姿勢を制御することが有効であるため、前輪制御装置6を用いて、車体すべり角βの角度を目標すべり角β*の角度に近づける、すなわち角度差Δβを「0」に近づける車両1の姿勢制御が行われる。前輪制御装置6は、図5中の二点鎖線で示すように、前輪31,32の回転面を、車両1の旋回方向の反対方向に回転させることにより、角度差Δβを「0」に近づける。
【0062】
車両姿勢制御装置4は車両1の姿勢に次のように作用する。
車両姿勢角不足状態において、後輪33,34によってヨーレート増加制御が行われることにより、進行方向DFが目標方向BFと一致するように車両1の車両姿勢状態が制御される。また、車両姿勢角過剰状態において、ヨーレート減少制御が行われることにより、進行方向DFが目標方向BFと一致するように車両1の車両姿勢状態が制御される。
【0063】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と車両1の実ヨーレートγの符号との関係に応じて車両1の前輪31,32および後輪33,34の少なくとも一方を制御するため、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態または車両姿勢角過剰状態のとき、進行方向DFを目標方向BFに近づけることができる。また、角度差Δβの符号と車両の実ヨーレートγの符号との関係、すなわち規範ヨーレートを算出することなく車両姿勢状態に応じて車両1の姿勢を制御する。このため、一般の車両姿勢制御装置に比べて、タイヤのグリップ状態およびスリップ状態の双方において、車両仕様の変更による影響を受けることなく、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを小さくすることができる。
【0064】
(2)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、後輪33,34を制御する。このため、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときに前輪31,32のみを制御する構成ではできない車両1の回転中心を前方へ移動させることを可能にする。これにより、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを速やかに小さくすることができる。
【0065】
(3)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前輪31,32および後輪33,34のうちの後輪33,34のみを制御する。このため、車両姿勢角不足状態のときに前輪31,32および後輪33,34の双方の制御により車両の姿勢が制御される構成と比較して、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを小さくするための演算の負荷が小さくなる。
【0066】
(4)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前輪31,32を制御する。このため、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態のときに後輪33,34のみを制御する構成と比較して、車両1の進行方向DFが速やかに変化する。これにより、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを速やかに小さくすることができる。
【0067】
(5)車両姿勢制御装置4は、角度差Δβの符号と実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前輪31,32および後輪33,34のうちの前輪31,32のみを制御する。このため、車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32および後輪33,34の双方の制御により車両の姿勢が制御される構成と比較して、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを小さくするための演算の負荷が小さくなる。
【0068】
(6)車両姿勢角不足状態および車両姿勢角過剰状態のときに目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれが小さくなる。このため、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態または車両姿勢角過剰状態のいずれかのときに前輪31,32および後輪33,34の制御が行なわれない構成と比較して、多様な車両姿勢状態に対応して車両1の進行方向DFを目標方向BFに近づけることができる。
【0069】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態のヨーレート減少制御で使用する車輪3を変更したものである。その他の点については第1実施形態と同様の構成が採用されている。このため、以下では第1実施形態の車両姿勢制御装置4と異なる部分について詳細に説明するとともに、同実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を省略する。
【0070】
第1実施形態では、車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32を制御しているが、本実施形態の車両姿勢制御装置4は、車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32に代えて後輪33,34を制御することにより車両姿勢状態を制御する。
【0071】
図6に示すように、後輪制御装置7は、車両姿勢角過剰状態である旨判定された後のヨーレート減少制御(ステップS7)で、図6中の二点鎖線の矢印で示すように、右後輪34の駆動力に比べて、左後輪33の駆動力を大きくすることにより、角度差Δβを「0」に近づける。
【0072】
本実施形態によれば、車両姿勢制御装置4は、前輪31,32を用いずに車両1の姿勢を制御することができる。また、上記第1実施形態の(1)〜(3)および(6)に記載の効果を得ることができる。
【0073】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は上記実施態様にて例示した態様に限られるものではなく、例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の変形例は、上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、変形例同士を組み合わせて実施してもよい。
【0074】
・(変形例1)第1および第2実施形態(図5および図6)では車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32または後輪33,34を制御することによりヨーレート減少制御を行っているが、車両姿勢角過剰状態のときに前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御することによりヨーレート減少制御を行うこともできる。このような構成によれば、前輪31,32および後輪33,34の制御により車両1の姿勢が制御されるため、前輪31,32および後輪33,34のうちの一方の制御のみにより車両1の姿勢が制御される構成と比較して、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを速やかに小さくすることができる。
【0075】
・(変形例2)第1および第2実施形態(図5および図6)では車両姿勢角過剰状態のときにヨーレート減少制御を行っているが、車両姿勢角過剰状態のときにヨーレート減少制御を行わない構成に変更することもできる。
【0076】
・(変形例3)第1実施形態(図4)では車両姿勢角不足状態のときに後輪33,34のみを制御することによりヨーレート増加制御を行っているが、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御する構成に変更することもできる。本変形例のヨーレート増加制御においては、前輪制御装置6は、図7中の二点鎖線で示すように、前輪31,32の回転面を、車両1の旋回方向に回転させることにより、角度差Δβを「0」に近づける。このような構成によれば、前輪31,32および後輪33,34の制御により車両1の姿勢が制御されるため、前輪31,32および後輪33,34のうちの一方の制御のみにより車両1の姿勢を制御する構成と比較して、目標方向BFに対する車両1の進行方向DFのずれを速やかに小さくすることができる。
【0077】
・(変形例4)第2実施形態において、変形例3と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御する構成に変更することもできる。
【0078】
・(変形例5)変形例1において、変形例3と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御する構成に変更することもできる。
【0079】
・(変形例6)変形例2において、変形例3と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32及び後輪33,34の双方を制御する構成に変更することもできる。
【0080】
・(変形例7)第1実施形態では、車両姿勢角不足状態のときに後輪33,34のみを制御しているが、車両姿勢角不足状態のときに後輪33,34に代えて前輪31,32のみを制御することにより車両姿勢状態を制御することもできる。すなわち、変形例3におけるヨーレート増加制御で、後輪33,34の制御を行なわずに前輪31,32のみを制御する構成に変更することもできる。この構成によれば、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態のときに前輪31,32および後輪33,34の制御が行なわれない構成と比較して、多様な車両姿勢状態に対応して車両1の進行方向DFを目標方向BFに近づけることができる。
【0081】
・(変形例8)第2実施形態において、変形例7と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32のみを制御する構成に変更することもできる。
【0082】
・(変形例9)変形例1において、変形例7と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32のみを制御する構成に変更することもできる。
【0083】
・(変形例10)変形例2において、変形例7と同様に、車両姿勢角不足状態のときに行うヨーレート増加制御において前輪31,32のみを制御する構成に変更することもできる。
【0084】
・(変形例11)実施形態(図4)では車両姿勢角不足状態のときにヨーレート増加制御を行っているが、車両姿勢角不足状態のときにヨーレート増加制御を行わない構成に変更することもできる。
【0085】
・(変形例12)第2実施形態において、変形例11と同様に、車両姿勢角不足状態のときにヨーレート増加制御を行わない構成に変更することもできる。
・(変形例13)変形例1において、変形例11と同様に、車両姿勢角不足状態のときにヨーレート増加制御を行わない構成に変更することもできる。
【0086】
第1実施形態、第2実施形態、変形例1〜13について、車両姿勢角不足状態および車両姿勢角過剰状態において車両姿勢制御装置4により制御される車輪3を下記表に示す。
【0087】
【表1】
・第1実施形態(図1)等では、後輪制御装置7は左右駆動力配分装置であるが、後輪制御装置7を独立駆動装置により構成することもできる。また、後輪制御装置7を後輪33,34の舵角を制御することができる後輪ステアリング装置により構成することもできる。
【0088】
図8を参照して、後輪制御装置7が後輪ステアリング装置であって車両姿勢角不足状態のときに行われる後輪33,34の制御について説明する。図8に示す車両姿勢角不足状態においては、後輪制御装置7は、図8中の二点鎖線で示すように、後輪33,34の回転面を、車両1の回転方向の逆方向に回転させることにより、横すべり角βの角度を「0」に近づける。
【0089】
図9を参照して、後輪制御装置7が後輪ステアリング装置であって車両姿勢角過剰状態のときに行われる後輪33,34の制御について説明する。図9に示す車両姿勢角過剰状態においては、後輪制御装置7は、図9中の二点鎖線で示すように、後輪33,34の回転面を、車両1の回転方向に回転させることにより、横すべり角βの角度を「0」に近づける。
【0090】
以上のように、後輪制御装置7を後輪ステアリング装置により構成しても本発明の効果を得ることができる。すなわち、後輪制御装置7は、後輪33,34の駆動力の比率を制御する駆動力配分装置に限られるものではない。
【0091】
・第1実施形態(図1)等では前輪制御装置6はアクティブステアリング装置であるが、前輪制御装置6を、前輪31,32の駆動力の各々を異ならせることができる独立駆動装置または左右駆動力分配装置により構成することもできる。なお、この場合にも、前輪31,32の舵角は変化させることができる。
【0092】
図10を参照して、前輪制御装置6が左右駆動力分配装置であって車両姿勢角過剰状態のときに行われる前輪31,32の制御について説明する。図10に示す車両姿勢角過剰状態においては、前輪制御装置6は、図10中の二点鎖線で示すように、右前輪32の駆動力に比べて、左前輪31の駆動力を大きくすることにより、角度差Δβを「0」に近づける。
【0093】
以上のように、前輪制御装置6を左右駆動力配分装置により構成しても本発明の効果を得ることができる。すなわち、前輪制御装置6は、前輪31,32の舵角を制御する差動機構装置またはステアバイワイヤ装置等のアクティブステアリング装置に限られるものではない。
【0094】
・第1および第2実施形態では目標方向軸Bと左右中心軸Cとは異なる軸であったが、目標方向軸Bが左右中心軸Cであってもよい。すなわち目標方向BFが左右中心軸Cに対してなす角である目標すべり角β*が「0」であってもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…車両、2…車体、3…車輪、4…車両姿勢制御装置、5…車体すべり角推定装置、6…前輪制御装置、7…後輪制御装置、11…操舵ハンドル、12…パワーステアリング装置、31…左前輪、32…右前輪、33…左後輪、34…右後輪、41〜44…車輪速センサ、45…加速度センサ、46…ヨーレートセンサ、47…舵角センサ、48…メモリ、49…演算装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の目標方向に対する車両の進行方向の角度を制御するために、前記車両の姿勢を制御する車両姿勢制御装置において、
前記車両に設けられたヨーレートセンサによって検出されるヨーレートを「実ヨーレートγ」とし、前記車両の左右中心軸上に存在する任意の基準点において、前記進行方向が前記車両の左右中心軸のうち前記基準点よりも前方の部分に対してなす角を「車体すべり角β」とし、前記目標方向が前記車両の左右中心軸のうち前記基準点よりも前方の部分に対してなす角を「目標すべり角β*」とし、前記目標すべり角β*と前記車体すべり角βとの差(β*−β)を「角度差Δβ」として、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係に応じて前記車両の前輪および後輪の少なくとも一方を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記後輪を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪のうちの前記後輪のみを制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪のうちの前記前輪のみを制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号とが互いに異なる符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態にある旨判定する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号とが互いに同じ符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態にある旨判定する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項1】
所定の目標方向に対する車両の進行方向の角度を制御するために、前記車両の姿勢を制御する車両姿勢制御装置において、
前記車両に設けられたヨーレートセンサによって検出されるヨーレートを「実ヨーレートγ」とし、前記車両の左右中心軸上に存在する任意の基準点において、前記進行方向が前記車両の左右中心軸のうち前記基準点よりも前方の部分に対してなす角を「車体すべり角β」とし、前記目標方向が前記車両の左右中心軸のうち前記基準点よりも前方の部分に対してなす角を「目標すべり角β*」とし、前記目標すべり角β*と前記車体すべり角βとの差(β*−β)を「角度差Δβ」として、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係に応じて前記車両の前輪および後輪の少なくとも一方を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記後輪を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角不足状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪のうちの前記後輪のみを制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪を制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号との関係が車両姿勢状態について車両姿勢角過剰状態を示しているとき、前記前輪および前記後輪のうちの前記前輪のみを制御する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号とが互いに異なる符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角不足状態にある旨判定する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の車両姿勢制御装置において、
前記角度差Δβの符号と前記実ヨーレートγの符号とが互いに同じ符号のとき、車両姿勢状態が車両姿勢角過剰状態にある旨判定する
ことを特徴とする車両姿勢制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−56590(P2013−56590A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195293(P2011−195293)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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