説明

鉛直部材と水平部材の接合部構造

【課題】 鉛直部材とそれに接続する水平部材との接合部において、せん断力による鉛直部材の、水平部材との境界面におけるひび割れと圧壊を抑制し、鉛直部材の変形能力とエネルギ吸収能力を高める。
【解決手段】 鉄筋コンクリート造の鉛直部材Aと鉄筋コンクリート造の水平部材Bに跨って鉄筋1が連続的に配筋される鉛直部材Aと水平部材Bとの接合部において、鉛直部材A中に、水平部材Bとの境界面、もしくはその付近まで鉛直部材側埋設材2を配置し、水平部材B中に、鉛直部材Aとの境界面、もしくはその付近まで水平部材側埋設材3を配置し、鉛直部材側埋設材2と水平部材側埋設材3の双方の端面を互いに接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は柱部材と基礎(フーチング)、杭と基礎、柱部材と梁部材等、高軸力を受ける鉛直部材とそれに接続する水平部材との接合部において、せん断力による鉛直部材の、水平部材との境界面におけるひび割れと圧壊を抑制する鉛直部材と水平部材の接合部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
柱部材と基礎(フーチング)、杭と基礎、柱部材と梁部材、耐力壁と梁や基礎等、高軸力を受ける鉛直部材とそれに接続する水平部材の接合部のように、鉛直部材に作用する水平せん断力によって圧縮力と引張力を交互に受ける接合部では鉛直部材のせん断力による変形の進行に伴い、引張側の鉄筋の降伏により鉄筋に付着しているコンクリートにひび割れが発生し易い。
【0003】
一旦、ひび割れが発生したコンクリートは損傷が生じているために、もはや軸方向圧縮力を負担することができず、せん断力による圧縮力を受けたときに早期に圧壊し易いため、鉛直部材の変形能力は極端に低下する。
【0004】
このような柱部材等のコンクリートの圧壊に対しては例えば図5に示すように主筋の回りに中子筋を含むせん断補強筋を材軸方向に密に入れることによりコンクリートの拘束効果を上げ、コンクリートの靱性を高める方法や、図6に示すように柱部材の断面上の中央部に芯鉄筋を付加的に配筋し、芯鉄筋に圧縮力の一部を負担させることによりコンクリートの負担を軽減する方法があるが、コンクリートの圧壊は上記のように引張力によるひび割れの発生に伴う損傷に起因して発生する可能性もあるため、いずれの方法もひび割れの発生による圧壊を防止する上では有効とは言えない。
【0005】
この他、鉛直部材と水平部材との間に圧縮力を負担する中間部材を介在させ、中間部材にコンクリートに作用する圧縮力を分担させることによりコンクリートの負担を軽減し、圧壊を抑制する方法がある(特許文献1、2参照)。
【0006】
また水平部材のコンクリート中に定着されたアンカーボルトによって表面に固定されたベースプレートの下に圧縮力支持部材を埋設し、ベースプレートの下面を圧縮力支持部材の上端に接触させることによりベースプレートから水平部材に作用する圧縮力を水平部材のコンクリートと圧縮力支持部材に分担させ、圧壊を抑制する方法がある(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2002-61282号公報
【特許文献2】特開2002-138469号公報
【特許文献3】特開平7-305356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2の方法では引張力を負担する鉄筋が互いに接合される二つの部材に跨って配筋され、双方のコンクリートとの縁が切れていないことから、鉄筋が引張力を負担することによるコンクリートのひび割れ発生の防止手段がないため、ひび割れに起因するコンクリートの圧壊を防止することは難しい。
【0008】
特許文献3の方法は鉄骨の柱脚と基礎コンクリートとの接合であり、柱脚側にはコンクリート中で引張力を負担する鉄筋が存在せず、鉄筋の付着によるコンクリートのひび割れの問題が発生しないため、ひび割れの防止により圧壊を防止しようとするコンクリート部材同士の接合に適用することはできない。
【0009】
この発明は上記背景より、せん断力による鉛直部材の、水平部材との境界面におけるひび割れと圧壊を抑制し、鉛直部材の変形能力を高める鉛直部材と水平部材の接合部構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では鉄筋コンクリート造の鉛直部材と鉄筋コンクリート造の水平部材に跨って鉄筋が連続的に配筋される鉛直部材と水平部材との接合部において、鉛直部材中に、水平部材との境界面、もしくはその付近まで鉛直部材側埋設材を配置し、水平部材中に、鉛直部材との境界面、もしくはその付近まで水平部材側埋設材を配置し、双方の埋設材の端面を互いに接触させることにより、鉛直部材に作用するせん断力による引張力を鉛直部材側埋設材に負担させずに鉛直部材におけるコンクリートのひび割れを防止し、そのひび割れに起因するコンクリートの圧壊を防止、もしくは抑制し、鉛直部材の変形能力を高める。
【0011】
鉛直部材中に水平部材との境界面やその付近まで鉛直部材側埋設材が配置され、水平部材中に鉛直部材との境界面やその付近まで水平部材側埋設材が配置され、互いに分離していることで、鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材がせん断力による引張力を負担することはない。
【0012】
鉛直部材中の鉛直部材側埋設材がせん断力による引張力を負担しないことで、引張力を負担する場合における鉛直部材のコンクリートとの付着によるコンクリートのひび割れが防止、もしくは抑制され、そのひび割れの発生によるコンクリートの損傷に伴うコンクリートの圧壊が防止、もしくは抑制される。
【0013】
また鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材の端面が互いに接触することで、鉛直部材が受けるせん断力による圧縮力が鉛直部材側埋設材から水平部材側埋設材に伝達され、鉛直部材のコンクリートが負担すべき圧縮力が低減されるため、コンクリートが圧縮力を負担することによる圧壊も防止、もしくは抑制される。両埋設材同士の接触によるせん断力を効率的に伝達する上では、鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材の軸を同一線上に位置させることが適当である。
【0014】
鉛直部材中の鉛直部材側埋設材の付着によるひび割れに起因する圧壊と鉛直部材のコンクリートの圧縮力負担に起因する圧壊が防止、もしくは抑制されることで、鉛直部材のコンクリートが圧壊に至る可能性が低下し、せん断力による鉛直部材の変形が進行してもコンクリートの軸方向圧縮力の負担能力が持続するため、鉛直部材の変形能力が向上し、それに伴ってエネルギ吸収能力も向上する。
【0015】
鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材の、鉛直部材の水平断面上の配置位置は両埋設材の軸が実質的に同一線上に位置する等、鉛直部材側埋設材の端面と水平部材側埋設材の端面が互いに接触する位置にあれば両埋設材間でせん断力の伝達が行われるため、特に問われない。
【0016】
しかしながら、コンクリートの圧壊は鉛直部材の水平断面上の周辺部で始まることから、請求項2に記載のように鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材を鉛直部材の水平断面上の周辺部に配置すれば、鉛直部材がせん断力によって変形を開始しようとすると同時に、鉛直部材のコンクリートが負担すべき圧縮力が周辺部に位置する水平部材側埋設材によって効果的に負担されるため、コンクリートが圧縮力を負担することによる圧壊の防止、もしくは抑制効果が高まり、鉛直部材の変形能力とエネルギ吸収能力が一層向上する。
【0017】
鉛直部材側埋設材は圧縮力を水平部材側埋設材に伝達するときの反力をその周辺のコンクリートに伝達でき、水平部材側埋設材は鉛直部材側埋設材から伝達される圧縮力を水平部材中で負担しながらその周辺のコンクリートに伝達できるよう、それぞれコンクリート中に定着材等によって定着される。あるいは定着長を取ることによってコンクリートとの付着が確保される。
【0018】
例えば鉛直部材が柱部材の場合、鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材は共に鉛直部材の材軸方向を向いて配置されることになるが、各埋設材がコンクリートとの付着によってコンクリートとの間で圧縮力の伝達を図る場合において、鉛直部材中で鉛直部材側埋設材の十分な定着長を確保しながらも、水平部材中で水平部材側埋設材の定着長を十分に確保することが難しい場合には、請求項3に記載のように水平部材側埋設材の断面積を鉛直部材側埋設材の断面積より大きくし、水平部材側埋設材のコンクリートとの付着面積を増大させることにより水平部材側埋設材とコンクリート間での圧縮力の伝達が図られる。
【発明の効果】
【0019】
鉛直部材中に水平部材との境界面やその付近まで鉛直部材側埋設材を配置すると共に、水平部材中に鉛直部材との境界面やその付近まで水平部材側埋設材を配置し、両埋設材を互いに分離させることで、鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材にせん断力による引張力を負担させないため、鉛直部材側埋設材が引張力を負担する場合に生ずる鉛直部材のコンクリートとの付着によるコンクリートのひび割れを防止、もしくは抑制でき、ひび割れの発生によるコンクリートの損傷に伴うコンクリートの圧壊を防止、もしくは抑制することができる。
【0020】
また鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材の端面を互いに接触させることで、せん断力による圧縮力を鉛直部材側埋設材から水平部材側埋設材に伝達するため、鉛直部材のコンクリートが負担すべき圧縮力を低減でき、コンクリートが圧縮力を負担することによる圧壊も防止、もしくは抑制することができる。
【0021】
この結果、ひび割れに起因する圧壊の防止と併せ、鉛直部材のコンクリートが圧壊に至る可能性が低下し、鉛直部材の変形の進行に拘わらず、コンクリートの軸方向圧縮力の負担能力が持続するため、鉛直部材の変形能力とエネルギ吸収能力が向上する。
【0022】
請求項2では鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材を鉛直部材の水平断面上の周辺部に配置することで、鉛直部材の変形開始と同時に、鉛直部材のコンクリートが負担すべき圧縮力を周辺部の水平部材側埋設材に負担させることができるため、コンクリートが圧縮力を負担することによる圧壊の防止、もしくは抑制効果が上がり、鉛直部材の変形能力とエネルギ吸収能力が一層向上する。
【0023】
請求項3では水平部材側埋設材の断面積を鉛直部材側埋設材の断面積より大きくし、水平部材側埋設材のコンクリートとの付着面積を増大させるため、水平部材中で水平部材側埋設材の定着長を十分に確保することが難しい場合にも、水平部材側埋設材とコンクリートとの間で圧縮力の伝達を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明は鉄筋コンクリート造の鉛直部材Aと鉄筋コンクリート造の水平部材Bに跨って鉄筋1が連続的に配筋され、互いに接合される鉛直部材Aと水平部材Bとの接合部において、図1、図3に示すように鉛直部材A中に、水平部材Bとの境界面、もしくはその付近まで鉛直部材側埋設材2を配置し、水平部材B中に、鉛直部材Aとの境界面、もしくはその付近まで水平部材側埋設材3を配置し、双方の埋設材2、3の端面を互いに接触させることにより、せん断力による鉛直部材Aの、水平部材Bとの境界面におけるコンクリートのひび割れと圧壊を抑制する接合部構造である。
【0025】
鉛直部材Aと水平部材Bはそれぞれ柱部材と基礎(フーチング)、杭と基礎、柱部材と梁部材、耐力壁と梁や基礎等であり、鉛直部材Aが特に高い圧縮力を受ける部位であれば、それぞれの部位は問われない。また現場打ちコンクリート造であるかプレキャストコンクリート製であるかも問わず、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鋼管コンクリート造(CFT)、またはいずれかの組み合わせの場合の他、鉛直部材Aと水平部材B単位でコンクリートにプレストレスを与える場合もある。
【0026】
鉛直部材側埋設材2と水平部材側埋設材3には主として鉄筋、棒鋼、PC鋼材、形鋼等の鋼材が使用されるが、各埋設材2、3は引張力を負担しないため、想定される圧縮力の負担によって変形しない圧縮剛性を有し、コンクリートとの付着性を有すれば材料は問われない。
【0027】
図1は鉛直部材Aが柱部材で、水平部材Bが基礎や梁部材である部位において、鉛直部材側埋設材2と水平部材側埋設材3を鉛直部材Aの水平断面上の中央部に配置した場合を示す。図2−(a)、(b)はそれぞれ図1のx−x線、y−y線の断面を示す。
【0028】
鉛直部材側埋設材2と水平部材側埋設材3はそれぞれの軸が鉛直部材Aの材軸方向を向き、それぞれの軸が実質的に同一線上に位置するように配置される。鉄筋1は鉛直部材Aと水平部材Bに跨って連続的に配筋され、柱である鉛直部材Aにおいてはせん断補強筋4によって拘束され、水平部材Bにおいては定着される。
【0029】
鉛直部材側埋設材2は鉛直部材Aにおいては鉛直部材Aから水平部材Bに圧縮力を伝達するときの反力を負担できる程度にコンクリートに定着されていればよく、付着による場合は反力負担の面から鉛直部材Aにおける定着長、すなわち鉛直部材側埋設材2の全長が決められるが、アンカー等の定着材によって定着される場合もある。
【0030】
水平部材側埋設材3も同様に水平部材Bにおいては鉛直部材Aから伝達される圧縮力をコンクリートと共に分担できる程度にコンクリートに定着されていればよく、付着による場合は反力負担の面から鉛直部材Aにおける定着長が決められるが、アンカー等の定着材によって定着される場合もある。
【0031】
付着による場合、水平部材Bにおいては水平部材Bの成方向(高さ方向)に十分な定着長を確保することが難しい場合があるため、コンクリートとの付着面積を確保するために水平部材側埋設材3には鉛直部材側埋設材2より大きい断面積が与えられる(請求項3)。この場合、水平部材側埋設材3の断面積が鉛直部材側埋設材2のそれより大きいことで、それぞれのコンクリート中での配置誤差に対応できる利点もある。
【0032】
図3は図1と同じく鉛直部材Aが柱部材で、水平部材Bが梁部材や基礎である部位において、鉛直部材側埋設材2と水平部材側埋設材3を鉛直部材Aの水平断面上の周辺部に配置した場合(請求項2)を示す。図4−(a)、(b)はそれぞれ図3のx−x線、y−y線の断面を示す。
【0033】
図3の場合、鉛直部材Aに作用するせん断力の作用方向に関係なく鉛直部材Aの変形開始と同時に、鉛直部材Aの水平断面上の周辺部においてコンクリートが負担すべき圧縮力を水平部材側埋設材2が負担するため、コンクリートが圧縮力を負担することによる圧壊の防止、もしくは抑制効果が高い利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】鉛直部材が柱部材で、水平部材が基礎や梁部材である場合に、鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材を鉛直部材の水平断面上の中央部に配置した場合を示した縦断面図である。
【図2】(a)は図1のx−x線断面図、(b)はy−y線断面図である。
【図3】鉛直部材が柱部材で、水平部材が基礎や梁部材である場合に、鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材を鉛直部材の水平断面上の周辺部に配置した場合を示した縦断面図である。
【図4】(a)は図3のx−x線断面図、(b)はy−y線断面図である。
【図5】(a)は主筋の回りにせん断補強筋を材軸方向に密に入れることによりコンクリートの拘束効果を上げる場合の従来方法を示した縦断面図、(b)は(a)の水平断面図である。
【図6】(a)は柱部材の断面上の中央部に芯鉄筋を配筋し、芯鉄筋に圧縮力の一部を負担させる場合の従来方法を示した縦断面図、(b)は(a)の水平断面図である。
【符号の説明】
【0035】
A……鉛直部材、B……水平部材、1……鉄筋、2……鉛直部材側埋設材、
3……水平部材側埋設材、4……せん断補強筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の鉛直部材と鉄筋コンクリート造の水平部材に跨って鉄筋が連続的に配筋される鉛直部材と水平部材との接合部において、せん断力による鉛直部材の、水平部材との境界面におけるコンクリートのひび割れと圧壊を抑制する接合部構造であり、前記鉛直部材中に、前記水平部材との境界面、もしくはその付近まで鉛直部材側埋設材が配置され、前記水平部材中に、前記鉛直部材との境界面、もしくはその付近まで水平部材側埋設材が配置され、前記鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材の双方の端面は互いに接触している鉛直部材と水平部材の接合部構造。
【請求項2】
鉛直部材側埋設材と水平部材側埋設材は鉛直部材の水平断面上の周辺部に配置されている請求項1記載の鉛直部材と水平部材の接合部構造。
【請求項3】
水平部材側埋設材の断面積は鉛直部材側埋設材の断面積より大きい請求項1、もしくは請求項2記載の鉛直部材と水平部材の接合部構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−97289(P2006−97289A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283109(P2004−283109)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(501200837)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(591214804)株式会社松村組 (14)
【Fターム(参考)】