説明

防除作業機

【課題】圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制すること。
【解決手段】圃場に薬剤を散布する防除作業機は、GPS衛星から送信される電波を受信するGPS受信部10と、GPS受信部10から得られる防除作業機の進行方向における位置情報と、前記薬剤の散布幅とに基づいて、防除作業機が旋回した後に圃場の薬剤を散布する領域へ進入する進入位置を求める制御用プロセッサ40を含む制御装置9と、進入位置を表示する表示部11Dと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に薬剤を散布する防除作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
防除作業機は、圃場に農薬や肥料を散布する機械である。近年は、GPS(Global Positioning System)を用いて防除作業機の散布経路を案内したり、防除作業機を自動運転させたりすることが提案されている。例えば、特許文献1には、作業者がタッチパネルにより入力した情報、内界センサにより検出される信号、GPSユニットにより得られる測位データ(位置情報)等から、ナビゲーション走行経路を生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−176741号公報[0041]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術は、ナビゲーション走行経路をどのように生成するかは不明であり、ナビゲーション走行経路を生成する方法によっては、薬剤が二重に散布される領域又は薬剤が散布されない領域が発生する場合がある。その結果、特許文献1に記載された技術は、圃場に薬剤のばらつきが発生することがある。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、圃場に薬剤を散布する防除作業機(1)であり、GPS衛星から送信される電波を受信するGPS受信部(10)を備え、前記GPS受信部(10)から得られる前記防除作業機(1)の進行方向における位置情報と、前記薬剤の散布幅とに基づいて、前記防除作業機(1)が前記圃場の前記薬剤を散布する領域へ進入する際の進入位置を求める進入位置演算部(40)と、前記進入位置を表示する表示部(11D)と、を含むことを特徴とする防除作業機である。
【0006】
本発明の望ましい態様としては、前記進入位置演算部(40)は、前記進入位置を変更する情報に基づいて前記進入位置を変更することが好ましい。
【0007】
本発明の望ましい態様としては、前記表示部(11D)は、前記進入位置と、前記進入位置の前後における所定の範囲とを表示することが好ましい。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、さらに、前記防除作業機(1)の速度を求める車速センサ(90)を有し、前記進入位置演算部(40)は、前記GPS受信部(10)から前記位置情報が得られない場合には、前記薬剤の散布幅を用いて前記進入位置を求めるとともに、前記車速センサ(90)から得られる情報を用いて前記防除作業機(1)の現在位置を求め、前記表示部(11D)は、前記進入位置及び前記現在位置を表示することが好ましい。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記進入位置演算部(40)は、前記GPS受信部(10)から得られる防除作業機(1)の進行方向の位置情報に基づく前記防除作業機(1)の速度が予め定められた所定の閾値以下である場合には、前記防除作業機(1)の速度を0とすることが好ましい。
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、圃場に薬剤を散布する防除作業機(1)であり、GPS衛星から送信される電波を受信するGPS受信部(10)を備え、前記GPS受信部(10)から得られる前記防除作業機(1)の進行方向における位置情報に基づいて、前記防除作業機(1)が前記圃場の前記薬剤を散布する領域へ進入する際の進入位置を求める進入位置演算部(40)と、前記進入位置を表示する表示部(11D)と、を含み、前記進入位置演算部(40)は、前記進入位置を変更する情報に基づいて前記進入位置を変更することを特徴とする防除作業機である。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、圃場に薬剤を散布する防除作業機(1)であり、GPS衛星から送信される電波を受信するGPS受信部(10)を備え、前記GPS受信部(10)から得られる前記防除作業機(1)の進行方向における位置情報に基づいて、前記防除作業機(1)が前記圃場の前記薬剤を散布する領域へ進入する際の進入位置を求める進入位置演算部(40)と、前記進入位置と、前記進入位置の前後における所定の範囲とを表示する表示部(11D)と、を含むことを特徴とする防除作業機である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施形態に係る防除作業機の側面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る防除作業機の平面図である。
【図3】図3は、防除作業機が薬剤を散布する際の姿勢を示す正面図である。
【図4】図4は、防除作業機が薬剤を散布する際の姿勢を示す正面図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る防除作業機が有する薬剤供給系統の一例を示す構成図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る防除作業機が有する制御装置の構成例を示す模式図である。
【図7】図7は、本実施形態に係る防除作業機が有するGPS受信部の構成例を示す模式図である。
【図8】図8は、本実施形態に係る防除作業機が有する操作パネルの一例を示す模式図である。
【図9】図9は、薬剤を散布する圃場において、薬剤を散布する領域を示す模式図である。
【図10】図10は、本実施形態に係る防除作業機の散布幅を説明するための平面図である。
【図11】図11は、本実施形態に係る防除作業機が旋回するときの状態を説明する模式図である。
【図12】図12は、本実施形態に係る防除作業機が旋回するときにおける表示部の様子を示す模式図である。
【図13】図13は、本実施形態の第1制御例の手順を示すフローチャートである。
【図14】図14は、本実施形態の第2制御例を実行する制御装置の構成例を示す模式図である。
【図15】図15は、本実施形態の第2制御例の手順を示すフローチャートである。
【図16】図16は、本実施形態の第2制御例において防除作業機が旋回するときの状態を説明する模式図である。
【図17】図17は、本実施形態の第2制御例において防除作業機が旋回するときの状態を説明する模式図である。
【図18】図18は、第3制御例を実行する制御装置の構成例を示す模式図である。
【図19】図19は、第3制御例における表示部の表示状態を示す模式図である。
【図20】図20は、本実施形態の第4制御例の手順を示すフローチャートである。
【図21】図21は、本実施形態に係る第5制御例を実行する制御装置の構成例を示す模式図である。
【図22】図22は、本実施形態の第5制御例の手順を示すフローチャートである。
【図23】図23は、本実施形態の第6制御例の手順を示すフローチャートである。
【図24】図24は、本実施形態の第7制御例の手順を示すフローチャートである。
【図25】図25は、本実施形態の第8制御例の手順を示すフローチャートである。
【図26】図26は、本実施形態の第9制御例の手順を示すフローチャートである。
【図27】図27は、第9制御例における表示部の表示状態を示す模式図である。
【図28】図28は、本実施形態に係る第10制御例を実行する制御装置の構成例を示す模式図である。
【図29】図29は、本実施形態の第10制御例の手順を示すフローチャートである。
【図30】図30は、本実施形態の第11制御例の手順を示すフローチャートである。
【図31】図31は、本実施形態の第12制御例の手順を示すフローチャートである。
【図32】図32は、本実施形態の第13制御例の手順を示すフローチャートである。
【図33】図33は、本実施形態の第14制御例の手順を示すフローチャートである。
【図34】図34は、本実施形態の第14制御例の手順を示すフローチャートである。
【図35】図35は、本実施形態の第15制御例の手順を示すフローチャートである。
【図36】図36は、本実施形態の第16制御例の手順を示すフローチャートである。
【図37】図37は、第16制御例において圃場を特定するための情報を取得する場所を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。以下において、薬剤とは、肥料、農薬等を溶媒(例えば、水)に溶解させた液体及び肥料、農薬等の固形分を含む液体(例えば、水)等の液状物をいう。
【0015】
図1は、本実施形態に係る防除作業機の側面図である。図2は、本実施形態に係る防除作業機の平面図である。本実施形態は、GPS衛星から送信される電波を受信するGPS受信部から得られる防除作業機の進行方向における位置情報と、薬剤の散布幅とに基づいて、防除作業機が圃場へ進入する際の進入位置(特に、薬剤を散布し終わった圃場の領域から次に薬剤を散布する圃場の領域へ進入する際の進入位置)を求める点に特徴がある。
【0016】
防除作業機1は、動力発生源が発生する動力によって走行して、薬剤を圃場に散布する作業用車両である。防除作業機1は、車体1Bと、車体1Bに搭載された動力発生源としての内燃機関(例えば、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン)2と、動力発生源が発生した動力を地面Gに伝えて防除作業機1を走行させる前輪3FL、3FR及び後輪3RL、3RRと、を含む。内燃機関2の出力は、油圧ポンプ2Pに入力される。油圧ポンプ2Pは、内燃機関2によって駆動されて、油圧機器を駆動するための作動油を吐出する。
【0017】
前輪3FL、3FR及び後輪3RL、3RRには、それぞれ油圧モータ3Mが取り付けられている。油圧モータ3Mは、油圧ポンプ2Pから吐出された作動油によって回転し、前輪3FL、3FR及び後輪3RL、3RRを回転させる。このような構造によって、内燃機関2の動力が地面Gに伝えられて、防除作業機1を走行させる。なお、図1は、前輪3FL及び後輪3RLに油圧モータ3Mが取り付けられている状態を示しているが、前輪3FR及び後輪3RRについても同様に油圧モータ3Mが取り付けられている。本実施形態において、防除作業機1は、内燃機関2の動力を油圧ポンプ2P及び油圧モータ3Mを介して前輪3FL、3FR及び後輪3RL、3RRに伝達するが、内燃機関2の動力を、トランスミッションを介して前輪3FL、3FR及び後輪3RL、3RRに伝達してもよい。この場合、内燃機関2とトランスミッションとの間に油圧式無段変速装置(HST:Hydro Static Transmission)を設け、内燃機関2からの動力を油圧式無段変速装置(HST)の可変油圧ポンプに入力し、油圧式無段変速装置(HST)の定量油圧モータから出力した動力をトランスミッションに入力し、トランスミッション内の副変速装置を介して前輪3FL、3FR及び後輪3RL、3RRに動力伝達するように構成してもよい。
【0018】
防除作業機1は、薬剤を散布するための複数のノズル4と、複数のノズル4を支持する第1散布ブーム5L及び第2散布ブーム5R及び第3散布ブーム5Cとを有する。第1散布ブーム5Lは、防除作業機1の進行方向の左側に配置され、第2散布ブーム5Rは、防除作業機1の進行方向の右側に配置される。防除作業機1の進行方向とは、防除作業機1の直進時において、防除作業機1の運転席6からハンドル7に向かう方向である。第3散布ブーム5Cは、防除作業機1の進行方向側かつ第1散布ブーム5Lと第2散布ブーム5Rとの間に配置される。第1散布ブーム5Lと、第2散布ブーム5Rと、第3散布ブーム5Cとは、それぞれ複数のノズル4を有している。本実施形態において、複数のノズル4は、薬剤を散布するための噴射口が地面Gを向いているが、前記噴射口の向きはこれに限定されるものではなく、薬剤の散布対象に応じて適宜変更できる。
【0019】
第1散布ブーム5Lは、防除作業機1に旋回可能に取り付けられる旋回散布ブーム5BLと、旋回散布ブーム5BLに伸縮自在に支持される延長散布ブーム5SLとを有する。第2散布ブーム5Rも、第1散布ブーム5Lと同様に、防除作業機1に旋回可能に取り付けられる旋回散布ブーム5BRと、旋回散布ブーム5BRに伸縮自在に支持される延長散布ブーム5SRとを有する。図2に示すように、第1散布ブーム5L及び第2散布ブーム5Rは、圃場で薬剤を散布しないときには防除作業機1の車体1Bの進行方向両側に折り畳まれている。
【0020】
薬剤の散布時において、第1散布ブーム5L及び第2散布ブーム5Rは、いずれも防除作業機1の進行方向側に向かって、第3散布ブーム5Cと略平行になる位置まで旋回する(図2の矢印Rで示す方向)。図2においては、第1散布ブーム5L及び第2散布ブーム5Rは、図2の矢印Rで示す方向に旋回する。この位置で、第1散布ブーム5L及び第2散布ブーム5Rは防除作業機1に固定される。すると、第1散布ブーム5Lと第2散布ブーム5Rと第3散布ブーム5Cとは、略一直線上に配置されるので、これらに取り付けられた複数のノズル4も、略一直線上に配列される。
【0021】
防除作業機1は、薬剤供給系統8を有している。薬剤供給系統8は、複数のノズル4に薬剤を供給するシステムである。薬剤供給系統8については後述する。防除作業機1は、制御装置9と、GPS受信部10と、表示・操作パネル11と、防除作業機1の速度を検出する速度検出手段としての車速センサ90と、操舵角検出手段としての操舵角センサ91とを有する。制御装置9は、防除作業機1の制御、例えば、GPS受信部10から得られる情報に基づいて防除作業機1が圃場の薬剤を散布する領域へ進入際の進入位置を求めたり、ノズル4から散布される薬剤の供給量を制御したり、内燃機関2を制御したりする。GPS受信部10は、GPS衛星から送信される電波を受信する。表示・操作パネル11は、作業者からの入力を受け付けたり、防除作業機1の運転条件を表示したり、防除作業機1の状態を表示したりする。制御装置9と、GPS受信部10と、表示・操作パネル11と、については後述する。車速センサ90は、例えば、前輪3FL、3FR、後輪3RL、3RRの回転速度から又はトランスミッション内の歯車の回転から、防除作業機1の速度(車速)を検出する。操舵角センサ91は、ハンドル7の回転角度から、前輪3FL、3FRの操舵角を検出する。
【0022】
図3、図4は、防除作業機が薬剤を散布する際の姿勢を示す正面図である。図3は、図2に示す旋回散布ブーム5BL、5BRから延長散布ブーム5SL、5SRが伸びていない状態を示している。図4は、旋回散布ブーム5BL、5BRから延長散布ブーム5SL、5SRが伸びている状態を示している。いずれの状態においても、地面G上の防除作業機1は、第1散布ブーム5Lと第2散布ブーム5Rと第3散布ブーム5Cとが略一直線上に配置された状態で、複数のノズル4から薬剤を散布する。
【0023】
図4に示すように、旋回散布ブーム5BL、5BRからそれぞれ延長散布ブーム5SL、5SRが伸びると、第1散布ブーム5Lの先端と第2散布ブーム5Rの先端との距離は、延長散布ブーム5SL、5SRが伸びない場合よりも大きくなる。本実施形態において、旋回散布ブーム5BL、5BRから延長散布ブーム5SL、5SRが伸びる距離は、無段階又は段階的に調整することができるよう構成されるとともに、旋回散布ブーム5BL、5BRと延長散布ブーム5SL、5SRとが重複する個所の旋回散布ブーム5BL、5BR側に存在するノズルへの薬剤の供給を遮断できるよう構成されている。このような構成としては、例えば、旋回散布ブーム5BL、5BRの各ノズルに切替コックを備え、前記切替コックの開閉切替を作動させる切替部材を機外に配置するとともに、延長散布ブーム5SL、5SR側に作動片を設ける。このような構成として、延長散布ブーム5SL、5SRが往・復する際に前記切替コックへ接当させることによって、コック切替をすることができる。このような構造により、防除作業機1は、圃場における薬剤の散布領域に応じて、薬剤を散布する幅(散布幅)を変更することができる。また、防除作業機1は、複数のノズル4から薬剤を散布するノズルを選択して薬剤を散布することができる。このように、防除作業機1は、薬剤の散布幅と薬剤を散布するノズルの数及び位置とを変更することによって、薬剤の様々な散布条件に対応することができる。次に、薬剤供給系統8について説明する。
【0024】
図5は、本実施形態に係る防除作業機が有する薬剤供給系統の一例を示す構成図である。薬剤供給系統8は、タンク20と、給水ホース21と、吐水ホース22と、散布ホース23と、撹拌ホース24と、余水ホース25と、給水コック26と、ポンプ27と、フィルタ28と、流量制御弁29と、分岐装置30と、安全弁31と、圧力センサ92と、流量センサ93と、弁開度センサ94とを含む。以下において、「水」は、薬剤を含むものとする。タンク20は、ノズル4が散布する薬液を蓄える。給水ホース21は、タンク20からフィルタ28を介して、ポンプ27までタンク20内の薬剤を導くための配管である。吐水ホース22は、ポンプ27から分岐装置30まで薬剤を導くための配管である。散布ホース23は、分岐装置30から第1散布ブーム5L及び第2散布ブーム5R及び第3散布ブーム5Cまで薬剤を導くための配管である。第1散布ブーム5Lの延長散布ブーム5SL及び第2散布ブーム5Rの延長散布ブーム5SRに取り付けられた複数のノズル4へ薬剤を導くための散布ホース23は、それぞれフレキシブルホース23EL、23ERを有している。このような構造により、フレキシブルホース23EL、23ERは、延長散布ブーム5SL、5SRが伸縮しても、その動きを許容する。撹拌ホース24は、タンク20内の薬液を撹拌するために、常時所定の流量の薬剤をタンク20内に流すための配管である。撹拌ホース24は、吐水ホース22から分岐してタンク20に接続されている。余水ホース25は、散布及び撹拌に使用しなかった薬剤をタンク20内に戻すための配管である。
【0025】
給水コック26は、タンク20とフィルタ28との間に設けられて、フィルタ28の交換、掃除等を行うときにタンク20からの給水を止めるときに使用する。フィルタ28は、タンク20内の薬剤からごみ等を除去する。ポンプ27は、フィルタ28を通過した薬剤を吸引した後に加圧して、吐水ホース22を介して流量制御弁29に向かって吐出する。流量制御弁29は、分岐装置30へ流す薬剤の流量を調整する装置であって、図1、図2に示す制御装置9によって制御される。分岐装置30は、流量制御弁29から送られてきた薬剤を3本の散布ホース23に分岐させて、第1散布ブーム5Lと第2散布ブーム5Rと第3散布ブーム5Cとがそれぞれ有する複数のノズル4へ薬剤を供給する。安全弁31は、吐水ホース22内の薬剤の圧力が過度に上昇した場合に、薬剤をタンク20に戻して吐水ホース22内の薬剤の圧力上昇を抑制するための装置である。
【0026】
流量センサ93は、流量制御弁29と分岐装置30との間に設けられている。流量センサ93は、分岐装置30へ流入する薬剤の流量、すなわち、ノズル4から散布される薬剤の流量を検出して、図1、図2に示す制御装置9に送信する。圧力センサ92は、分岐装置30に設けられている。圧力センサ92は、散布ホース23へ送られる薬剤の圧力を検出し、図1、図2に示す制御装置9に送信する。弁開度センサ94は、流量制御弁29に設けられている。弁開度センサ94は、流量制御弁29の開度を検出して、図1、図2に示す制御装置9に送信する。制御装置9は、圧力センサ92、流量センサ93及び弁開度センサ94が検出した情報に基づき、ポンプ27及び流量制御弁29を制御して、散布される薬剤の流量を調整する。次に、制御装置9について説明する。
【0027】
図6は、本実施形態に係る防除作業機が有する制御装置の構成例を示す模式図である。制御装置9は、制御用プロセッサ40と、記憶部41と、入力インターフェース42a〜42iと、入出力インターフェース43と、出力インターフェース44a〜44eとを含む。制御用プロセッサ40は、コンピュータにおいてソフトウェアを動作させる演算装置(ハードウェア)であり、コンピュータプログラムの命令を解釈し実行する機能を有する。制御用プロセッサ40は、防除作業機1が有する内燃機関2及び薬剤供給系統8等を制御するためのコンピュータプログラムの命令を解釈し実行することにより、防除作業機1全体の制御を司る。この他にも、制御用プロセッサ40は、防除作業機1が旋回した後に圃場へ進入する位置を求めるための進入位置演算部としても機能する。この場合、制御用プロセッサ40は、進入位置演算部の機能を実現するための命令が記述されたコンピュータプログラムの命令を解釈し実行することにより、進入位置演算部として機能する。
【0028】
記憶部41は、RAM(Random Access Memory)41Aと、ROM(Read Only Memory)41Bと、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)41Cとを含む。RAM41Aは、電源の供給が絶たれると記憶内容が失われる揮発性メモリであり、ROM41B及びEEPROM41Cは、電源を供給しなくとも記憶内容を保持する不揮発性メモリである。EEPROM41Cは、記憶内容を電気的に消去できるとともに、新たな情報を記憶することができる。記憶部41は、防除作業機1の制御を実現するためのコンピュータプログラム及びデータ並びに進入位置演算部の機能を実現するためのコンピュータプログラム及びデータ等を記憶する。本実施形態において、ROM41Bはコンピュータプログラム等を記憶し、EEPROM41Cは制御装置9の動作中に得られたデータ等を記憶する。RAM41Aは、制御装置9の動作中において、ROM41Bに記憶されたコンピュータプログラムを展開する。
【0029】
入力インターフェース42a〜42gは、それぞれ、手動スイッチ80、ポンプスイッチ81、車速センサ90、圧力センサ92、流量センサ93、弁開度センサ94、設定スイッチ82が接続される。また、入力インターフェース42h、42iは、それぞれノズル設定値Ns、散布幅設定値Wsが入力される。入力インターフェース42a〜42iは、自身に入力される情報を、制御用プロセッサ40が利用できる形に変換して制御用プロセッサ40へ入力する。入出力インターフェース43は、GPS受信部10の送受信回路56が接続される。後述するように、GPS受信部10は、GPS車速Vgを生成する。送受信回路56は、GPS車速Vgを入出力インターフェース43に送信し、また、制御用プロセッサ40からの命令を、入出力インターフェース43を介して受信する。入出力インターフェース43は、GPS受信部10と制御用プロセッサ40との間に介在し、両者の間で情報のやりとりができるようにする。
【0030】
出力インターフェース44a、44c〜44eは、それぞれ、流量制御モータ29M、ポンプ27、ブザー83、表示部11Dに接続される。流量制御モータ29Mは、図5に示す流量制御弁29の弁開度を調整するための装置である。出力インターフェース44bは、制御用プロセッサ40が生成した、流量制御モータ29Mの回転方向を切り替えるための情報を、モータ回転方向切替出力RDに変換して出力する。流量制御モータ29Mは、モータ回転方向切替出力RDによって回転方向が切り替えられる。出力インターフェース44a〜44eは、制御用プロセッサ40が生成した流量制御モータ29M、ポンプ27等を制御するための命令を、これらの機器が利用できる形に変換して出力する。
【0031】
防除作業機1は、車速に連動させて薬剤の散布量を制御する。このような制御を、車速連動散布制御という。制御用プロセッサ40は、すべてのノズル4から散布される薬剤の流量(単位時間当たりの散布量)をパラメータとした演算式を用いて、車速連動散布制御を実現する。すなわち、制御用プロセッサ40は、薬剤の散布条件に基づき、防除作業機1の車速に連動して薬剤を散布する。作業者は、表示・操作パネル11から、ノズル定数(散布圧力10kgf/cm時におけるノズル一個あたりの噴霧量L/min)と散布圧力(kgf/cm)と、10アールあたりの目標散布量(L/10a)とを入力する。制御用プロセッサ40は、防除作業機1の車速及び前記目標散布量等を用いて、図5に示す散布ホース23へ送られる薬剤の設定圧力を計算する。そして、制御用プロセッサ40は、計算した設定圧力となるように、散布ホース23へ供給される薬剤の量を調整する。薬剤の量は、制御用プロセッサ40が、流量制御モータ29Mを駆動して流量制御弁29の開度を調整することにより調整される。ここで、防除作業機1の車速は、GPS受信部10が生成した防除作業機1の車速又は車速センサ90により検出された防除作業機1の車速である。次に、GPS受信部10について説明する。
【0032】
図7は、本実施形態に係る防除作業機が有するGPS受信部の構成例を示す模式図である。GPS受信部10は、複数のGPS衛星SG1、SG2等から受信した電波に基づき、防除作業機1の位置に関する情報(位置情報)及びGPS車速Vg等を出力する。GPS受信部10は、受信アンテナ50と、受信回路51と、信号処理回路52と、時計回路53と、メモリ54と、GPS用プロセッサ55と、送受信回路56とを含む。
【0033】
受信アンテナ50は、複数のGPS衛星SG1、SG2等が発信した電波を受信する。受信回路51は、受信アンテナ50と接続されており、受信アンテナ50が受信したGPS衛星SG1、SG2等が発信した電波を電気信号に変換する。信号処理回路52は、受信回路51が出力した電気信号を、GPS用プロセッサ55が利用できる形に変換して出力する。時計回路53は、時刻を計時してGPS用プロセッサ55へ入力する。メモリ54は、GPS用プロセッサ55の処理に必要なデータを記憶したり、GPS用プロセッサ55の処理に必要なコンピュータプログラムを展開したりする。
【0034】
GPS用プロセッサ55は、複数のGPS衛星SG1、SG2等が発信した電波に基づき、GPS受信部10の位置についての情報を計算し、送受信回路56に出力する。また、GPS用プロセッサ55は、GPS受信部10の位置についての情報に基づき、GPS受信部10の速度を計算し、送受信回路56に出力する。GPS受信部10は、防除作業機1に搭載されているので、GPS受信部10の位置についての情報は、防除作業機1の位置に関する情報(位置情報)となる。また、前記速度は、GPS衛星SG1、SG2の電波に基づいて得られた防除作業機1の車速であり、これが上述したGPS車速Vgである。
【0035】
送受信回路56は、制御装置9が有する制御用プロセッサ40と、制御装置9の入出力インターフェース43を介して接続されている。送受信回路56は、GPS用プロセッサ55が求めた位置情報を制御装置9の入出力インターフェース43を介して制御用プロセッサ40へ出力する。制御用プロセッサ40は、前記位置情報を用いて、防除作業機1を制御したり、GPS受信部10に対してデータの変更要求を発信したりする。なお、GPS車速Vgは、制御装置9の制御用プロセッサ40が、GPS受信部10から得た位置情報に基づいて求めるようにしてもよい。
【0036】
図8は、本実施形態に係る防除作業機が有する操作パネルの一例を示す模式図である。表示・操作パネル11は、表示部11Dと、手動スイッチ80と、ポンプスイッチ81と、設定スイッチ82と、累計リセットスイッチ87と、表示切替スイッチ85と、自動スイッチ86とを含む。表示部11Dは、図6に示す制御用プロセッサ40が求めた、防除作業機1が圃場の薬剤を散布する領域へ進入する進入位置を表示する。また、表示部11Dは、防除作業機1が薬剤を散布する圃場に関する情報、散布する薬剤に関する情報、防除作業機1の運転状態に関する情報等を表示する。圃場に関する情報としては、例えば、圃場の位置及び面積がある。後者に関する情報としては、例えば、薬剤の種類、散布量、図5に示すポンプ27の吐出圧力の設定値(設定圧力)、散布した薬剤の累計値等がある。表示部11Dは、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等を用いることができる。
【0037】
手動スイッチ80は、薬剤の散布において、作業者が自身の操作で薬剤の散布条件を変更したり、散布幅を変更したりする場合に操作する入力手段である。手動スイッチ80が操作されると、図6に示す制御装置9は、設定スイッチ82が散布条件の変更あるいは散布幅の変更を受け付けるように設定する。ポンプスイッチ81は、図5に示すポンプ27を起動させるための入力手段である。ポンプスイッチ81が操作されると、ポンプ27が起動し、薬剤の散布が開始される。設定スイッチ82は、薬剤の散布条件を入力するための入力手段である。設定スイッチ82は、薬剤の散布量を設定するための散布量設定スイッチ82Aと、ポンプ27の吐出圧力を設定するための圧力設定スイッチ82Bと、設定値を増減させる増減スイッチ82Cと、設定を確定するための設定スイッチ82Dとを含む。累計リセットスイッチ87は、散布した薬剤の累計量をリセットする際に用いられる入力手段である。表示切替スイッチ85は、表示部11Dに表示される情報を切り替える際に用いられる入力手段である。自動スイッチ86は、薬剤の散布において、設定された散布条件で薬剤を自動散布する場合に操作される入力手段である。この自動スイッチ86がONとなるように操作されると、車速センサからの情報に基づき散布量が均一になるように調整されて自動散布される。そして、走行停止状態では自動的に散布停止となる。
【0038】
図9は、薬剤を散布する圃場において、薬剤を散布する領域を示す模式図である。図9に示す例において、X軸は緯線と平行な線を示し、Y軸は経線と平行な線を示す。図1、図2に示す防除作業機1が圃場FWへ薬剤を散布する領域を、薬剤散布領域AWとする。この例において、薬剤散布領域AWは、P1(X1、Y1)、P2(X2、Y2)、P3(X3、Y3)、P4(X4、Y4)で規定される長方形の領域である。薬剤散布領域AWとそれ以外の領域とは、境界B1、B2、B3、B4で区画される。なお、薬剤散布領域AWの形状は長方形に限られず、台形、平行四辺形、五角形、六角形、円形、楕円形等、様々な形状がある。
【0039】
本実施形態では、防除作業機1が圃場FWの薬剤散布領域AWに薬剤を散布するにあたり、図6に示す制御装置9は、図7に示すGPS受信部10から得られる防除作業機1の進行方向における位置情報と、薬剤の散布幅とに基づいて、防除作業機1が圃場FWの薬剤散布領域AWへ進入する際の進入位置を求める。そして、制御装置9は、求めた進入位置を図8に示す表示部11Dに表示させる。進入位置を求めるにあたっては、圃場FWの薬剤散布領域AWの位置情報(散布領域位置情報)が必要になる。薬剤散布領域AWは、上述したP1(X1、Y1)、P2(X2、Y2)、P3(X3、Y3)、P4(X4、Y4)によって規定されるので、これらを散布領域位置情報とする。
【0040】
P1(X1、Y1)、P2(X2、Y2)、P3(X3、Y3)、P4(X4、Y4)は、X座標とY座標とで決定される圃場FW内における位置である。X軸は緯線と平行な線を示し、Y軸は経線と平行な線を示すので、X座標は緯度を、Y座標は経度を示す。P1(X1、Y1)、P2(X2、Y2)、P3(X3、Y3)、P4(X4、Y4)を求めるにあたっては、まず、薬剤散布領域AWの四隅にGPS受信部を設置する。そして、それぞれの位置において前記GPS受信部から得られた緯度及び経度を、それぞれのP1(X1、Y1)、P2(X2、Y2)、P3(X3、Y3)、P4(X4、Y4)の緯度及び経度とすればよい。このようにして求めたP1(X1、Y1)、P2(X2、Y2)、P3(X3、Y3)、P4(X4、Y4)を散布領域位置情報とする。そして、図8に示す表示・操作パネル11から、求めた散布領域位置情報を図6に示す制御装置9の記憶部41、より具体的にはRAM41AとEEPROM41Cとの少なくとも一方に記憶させる。制御用プロセッサ40は、記憶部41に記憶された散布領域位置情報から、薬剤散布領域AWの形状、面積、境界B1、B2、B3、B4の長さ、場所等を求めることができる。
【0041】
図10は、本実施形態に係る防除作業機の散布幅を説明するための平面図である。防除作業機1の進行方向と直交する方向が、防除作業機1の幅方向である。薬剤の全散布幅Wは、防除作業機1の第1散布ブーム5L及び第2散布ブーム5Rが有するノズル4のうち、幅方向最外側に存在する一対のノズル4、4間の距離(最短距離)である。薬剤の散布においては、通常、第1散布ブーム5Lと第2散布ブーム5Rとは同じ長さにする。したがって、防除作業機1の幅方向中心CLから第1散布ブーム5Lの幅方向再外側に存在するノズル4までの距離(以下、第1散布幅という)W1と、防除作業機1の幅方向中心CLから第2散布ブーム5Rの幅方向再外側に存在するノズル4までの距離(以下、第2散布幅という)W2とは、いずれもW/2となる。第1散布幅W1は、防除作業機1の進行方向左側における散布幅であり、第2散布幅W2は、防除作業機1の進行方向右側における散布幅である。なお、薬剤の散布中においては、第1散布幅W1と第2散布幅W2とが異なっていてもよい。本実施形態において、散布幅は、防除作業機1が薬剤を圃場FWに散布する際の幅であり、全散布幅Wと、第1散布幅W1と、第2散布幅W2とを含む概念である。次に、防除作業機1が薬剤を散布した領域から隣接する領域に移動する動作を説明する。
【0042】
図11は、本実施形態に係る防除作業機が旋回するときの状態を説明する模式図である。図12は、本実施形態に係る防除作業機が旋回するときにおける表示部の様子を示す模式図である。図11に示す例において、防除作業機1は、圃場FWの薬剤散布領域AWnに薬剤を散布している。薬剤散布領域AWnは、防除作業機1の進行方向においては境界B2で終了する。このため、防除作業機1は、境界B2の位置で薬剤の散布を停止するとともに、薬剤を散布した領域と隣接する薬剤散布領域AWn+1に向かって旋回する。一点鎖線NTは、防除作業機1が進行する軌跡を示しており、矢印FR方向に防除作業機1が進行する。薬剤散布領域AWn+1は、防除作業機1がこれから薬剤を散布する領域である。防除作業機1は、旋回後、薬剤散布領域AWn+1に進入するとともに、境界B2の位置で薬剤の散布を開始する。薬剤散布領域AWnと薬剤散布領域AWn+1とは、境界TCで区画される。
【0043】
より具体的には、防除作業機1(より具体的にはノズル4)が、境界B2上の散布終了位置Pe(Xe、Ye)に到達したときに、図6に示す制御用プロセッサ40は、ポンプ27の動作を停止させることにより、薬剤の散布を停止する。なお、この例において、防除作業機1は、散布終了位置Pe(Xe、Ye)に到達したときに操舵が開始されて旋回するが、操舵のタイミングは防除作業機1が境界B2を超えてからでもよい。このとき、防除作業機1は、旋回中心Pc1を中心として旋回半径R1で旋回する。そして、旋回終了位置Phe(Xhe、Yhe)で防除作業機1は直進状態に戻って直進する。その後、防除作業機1は、旋回開始位置Phs(Xhs、Yhs)で再び操舵が開始されて旋回する。このとき、防除作業機1は、旋回中心Pc2を中心として旋回半径R2で旋回する。防除作業機1(より具体的にはノズル4)が、境界B2上の散布開始位置Ps(Xs、Ys)に到達したときに、制御用プロセッサ40は、ポンプ27の動作を開始させることにより、薬剤散布領域AWn+1で薬剤の散布を開始する。
【0044】
本実施形態において、制御用プロセッサ40は、散布領域位置情報及び第2散布幅W2(散布幅)に基づいて防除作業機1が次に薬剤を散布する薬剤散布領域AWn+1へ進入する位置(進入位置)を求める。この例の場合、進入位置は、薬剤散布領域AWn+1の散布開始位置Ps(Xs、Ys)である。上記例において、防除作業機1が薬剤散布領域AWnから隣接する薬剤散布領域AWn+1へ移動する際には、防除作業機1の進行方向が180度反対になる。このため、薬剤散布領域AWnの散布終了位置Pe(Xe、Ye)と、薬剤散布領域AWn+1の散布開始位置Ps(Xs、Ys)との距離(旋回時移動距離)LRは、第2散布幅W2を2倍した値(=2×W2)になる。したがって、散布開始位置Ps(Xs、Ys)は、薬剤散布領域AWnの散布終了位置Pe(Xe、Ye)を起点とし、防除作業機1の進行方向と直交する方向に向かって旋回時移動距離LR(=2×W2)だけ離れた位置である。これは、薬剤散布領域AWnの散布終了位置Pe(Xe、Ye)から2×W2離れ、かつ境界B2上に存在する位置である。
【0045】
図11に示す例では、防除作業機1が進行方向に対して右側に旋回するので、第2散布ブーム5Rを内側として防除作業機1が旋回する。このため、旋回時移動距離LRは、第2散布ブーム5R側、すなわち、防除作業機1の進行方向右側における第2散布幅W2の2倍になっている。防除作業機1が進行方向に対して左側に旋回する場合、第1散布ブーム5Lを内側として防除作業機1が旋回する。このため、旋回時移動距離LRは、第1散布ブーム5L側、すなわち、防除作業機1の進行方向左側における第1散布幅W1の2倍になる。
【0046】
第2散布幅W2は、図6に示す散布幅設定値WSから求めることができる。散布幅設定値WSは、通常は全散布幅Wであり、主に圃場FWの形状及び面積等によって適切な値が設定され、制御装置9へ入力される。また、散布終了位置Pe(Xe、Ye)は、防除作業機1の進行方向前方に存在する薬剤散布領域AWの境界B2と、防除作業機1の進行方向とが交差する位置である。薬剤散布領域AWの境界B2は、散布領域位置情報から求めることができる。防除作業機1の進行方向は、防除作業機1の過去の走行経路から予測することができる。このとき、図1に示す操舵角センサ91が検出した操舵角も用いて走行経路を求めてもよい。また、GPS受信部10が求めた防除作業機1の現時点における位置情報と、操舵角センサ91が検出した操舵角から求めた防除作業機1の進む方向とを組み合わせて、防除作業機1の進行方向を求めてもよい。さらに、散布終了位置Pe(Xe、Ye)は、防除作業機1の進行方向前方に存在する薬剤散布領域AWの境界B2に、防除作業機1(より具体的にはノズル4)が実際に到達したときの位置としてもよい。このように、散布終了位置Pe(Xe、Ye)は、防除作業機1の進行方向における位置情報に基づいて求めることができる。制御用プロセッサ40は、散布終了位置Pe(Xe、Ye)及び第2散布幅W2(又は第1散布幅W1)を求め、これらに基づいて、防除作業機1が旋回した後に圃場FWの薬剤散布領域AWn+1へ進入する進入位置、すなわち、薬剤散布領域AWn+1の散布開始位置Ps(Xs、Ys)を求める。
【0047】
具体的には、制御用プロセッサ40は、散布幅設定値WSから第2散布幅W2(又は第1散布幅W1)を求め、この値から旋回時移動距離LR(=2×W2)を求める。通常は、W2=W1=WS/2である。また、制御用プロセッサ40は、例えば、予測した防除作業機1の進行方向と、前記進行方向前方に存在する薬剤散布領域AWの境界B2とが交差する位置として、緯度(Xe)及び経度(Ye)を求めることにより、散布終了位置Pe(Xe、Ye)を求める。そして、制御用プロセッサ40は、散布終了位置Pe(Xe、Ye)を起点として、防除作業機1の進行方向と直交する方向に向かって旋回時移動距離LRに相当する距離だけ離れた位置の緯度及び経度を求める。このようにして求めた経度、緯度が、散布開始位置Ps(Xs、Ys)のXs、Ysとなる。制御用プロセッサ40は、求めた散布開始位置Ps(Xs、Ys)を記憶部41に記憶させる。
【0048】
本実施形態において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の運転を補助するため、図12に示すように、求めた進入位置を表示部11Dに表示させる。この例では、12個の指標I1〜I12が表示部11Dに表示されている。矢印FNは、図11に示す薬剤散布領域AWnにおいて防除作業機1が走行する方向を示し、矢印FAは、薬剤散布領域AWnに隣接する薬剤散布領域AWn+1において防除作業機1が走行する方向を示している。図12に示す例では、指標I1が点灯することにより散布終了位置Pe(Xe、Ye)であることを示し、指標I9が点灯することにより進入位置、すなわち散布開始位置Ps(Xs、Ys)であることを示している。このように、表示部11Dが進入位置を表示することにより、作業者は、薬剤散布領域AWn+1へ進入する際の操舵の目安とすることができるので、進入位置のずれを抑制できる。その結果、防除作業機1は、薬剤散布領域AWn+1へより確実に進入して薬剤散布領域AWn+1に対して薬剤を散布できるので、圃場FWに散布される薬剤のばらつきを抑制することができる。
【0049】
本実施形態において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10から取得した防除作業機1の位置情報を用いて、散布終了位置Pe(Xe、Ye)と散布開始位置Ps(Xs、Ys)との間における防除作業機1の位置を時系列で表示部11Dに表示させることもできる。すなわち、制御用プロセッサ40は、散布終了位置Pe(Xe、Ye)と散布開始位置Ps(Xs、Ys)との間で防除作業機1が走行している場合、その動きに合わせて指標I2、I3等を順次点滅又は点灯させる。このようにすることで、作業者は、防除作業機1の現在位置と散布開始位置Ps(Xs、Ys)との関係を知ることができるので、より確実に防除作業機1を進入位置へ誘導することができる。
【0050】
本実施形態において、制御用プロセッサ40は、図1に示す防除作業機1のハンドル7の操舵位置を求めることもできる。例えば、防除作業機1が旋回する際に、薬剤散布領域AWnの境界B2の外側にはどの程度の余裕があるかという情報と、防除作業機1の前輪3FL、3FR及び後輪3RL、3RRのトレッド幅Tと、防除作業機1の最小旋回半径とを用いて、ハンドル7の操作位置を求めることができる。
【0051】
図11に示す例では、薬剤散布領域AWnの境界B2の外側において、防除作業機1は、境界BLまでの領域で旋回できるものとする。境界B2と境界BLとの距離をLとすると、L>R1+T/2の条件を満たすように、防除作業機1が旋回する旋回半径R1を決定する。なお、旋回半径R1は、防除作業機1の最小旋回半径よりも大きくする必要がある。旋回半径R1が求まれば、散布終了位置Pe(Xe、Ye)と、境界B2とを用いて旋回中心Pc1を求めることができる。そして、旋回中心Pc1が求まれば、旋回終了位置Phe(Xhe、Yhe)を求めることができる。旋回終了位置Phe(Xhe、Yhe)は、操舵されたハンドル7を直進状態に戻し始める位置である。また、図11に示す例では、散布終了位置Pe(Xe、Ye)がハンドル7の操舵を開始する位置である。
【0052】
薬剤散布領域AWn+1への進入位置、すなわち、散布開始位置Ps(Xs、Ys)へ防除作業機1が進入する際におけるハンドル7の操舵位置、すなわち旋回開始位置Phs(Xhs、Yhs)は、旋回終了位置Phe(Xhe、Yhe)から境界B2と平行な方向に向かって(2×W2)−(R1+R2)離れた位置である。なお、散布開始位置Ps(Xs、Ys)は、操舵されたハンドル7を直進状態に戻し始める位置である。このような処理により、制御用プロセッサ40は、ハンドル7の操舵位置を求めることができる。そして、制御用プロセッサ40は、求めたハンドル7の操舵位置を、図12に示す表示部11Dに表示させることにより、防除作業機1の作業者の操作を補助して、前記作業者の労力を軽減させることができる。また、このような処理によって、防除作業機1をより確実に進入位置へ誘導することができる。なお、ハンドル7の操舵位置を求める処理は、上述した処理に限定されるものではない。次に、本実施形態において、隣接する薬剤散布領域の間で防除作業機1が移動する際の制御例(第1制御例)を説明する。
【0053】
(第1制御例)
図13は、本実施形態の第1制御例の手順を示すフローチャートである。第1制御例を実行するにあたり、ステップS101において、図6に示す制御装置9の制御用プロセッサ40は、防除作業機1が薬剤を圃場に散布中であることを検出したら(ステップS101、Yes)、第1制御例の処理をステップS102へ進める。例えば、制御用プロセッサ40は、図5に示すポンプ27が動作中であることを検出した場合、防除作業機1が薬剤を圃場に散布中であるとすることができる。ステップS101において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1が薬剤を圃場に散布中であることを検出しない場合(ステップS101、No)、ステップS101を繰り返す。
【0054】
ステップS102において、制御用プロセッサ40は、図6、図7に示すGPS受信部10から防除作業機1の位置情報を取得して、ステップS103で防除作業機1の進行方向を求め、記憶部41に記憶させる。次に、ステップS104に進み、制御用プロセッサ40は、例えば、防除作業機1の進行方向及び記憶部41に記憶された散布領域位置情報及び既に薬剤が散布された領域の情報から、防除作業機1が現在薬剤を散布している薬剤散布領域から次の薬剤散布領域へ移動する際の旋回方向を求め、記憶部41に記憶させる。例えば、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の進行方向と直交し、かつ既に薬剤が散布された領域の反対側に向かう旋回の方向を、防除作業機1の旋回方向であるとする。
【0055】
ステップS105に進み、制御用プロセッサ40は、散布幅設定値WSを記憶部41から取得する。散布幅設定値WSは、薬剤の散布に先立ち、図6の設定スイッチ82から入力されて、記憶部41に記憶されている。また、制御用プロセッサ40は、図1、図2に示す防除作業機1の第1散布ブーム5Lと第2散布ブーム5Rを展開した大きさから、散布幅設定値WSを求めてもよい。
【0056】
次にステップS106に進み、制御用プロセッサ40は、ステップS105で取得した散布幅設定値WSを、防除作業機1の散布幅(この例では全散布幅W)として決定する。ステップS107に進み、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の進行方向における位置情報と、散布幅とに基づいて、現在薬剤が散布されている薬剤散布領域に隣接する、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ防除作業機1が進入する際の進入位置を求める。記憶部41は、求められた進入位置を記憶する。
【0057】
次に、ステップS108に進み、制御用プロセッサ40は、防除作業機1が旋回を開始したことを検出したら(ステップS108、Yes)ステップS109に進み、防除作業機1が旋回を開始したことを検出していない場合(ステップS108、No)、ステップS108を繰り返す。ステップS108において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10から取得した防除作業機1の位置情報から、防除作業機1の進行方向が変化した場合には、防除作業機1が旋回を開始したとすることができる。また、制御用プロセッサ40は、図1に示す操舵角センサ91がハンドル7の操舵を検出したら、防除作業機1が旋回を開始したとすることもできる。また、制御用プロセッサ40は、防除作業機1が、薬剤散布領域の内側から薬剤散布領域の外側との境界に到達したことを検出したら、防除作業機1が旋回を開始したとすることもできる。
【0058】
ステップS109において、防除作業機1は、図6、図12に示す表示部11Dに、防除作業機1の進入位置を表示させる。そして、ステップS110に進み、制御用プロセッサ40は、ポンプ27を停止させ、薬剤の散布を停止させる。防除作業機1が旋回を開始した場合、これまで薬剤を散布していた薬剤散布領域における薬剤の散布が終了し、次の薬剤散布領域へ移動するための動作であると見なすことができる。このため、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の旋回開始をトリガーとして、ポンプ27を停止(OFF)させる。
【0059】
ステップS111に進み、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10から防除作業機1の現時点における位置情報を取得する。そして、ステップS112へ進み、制御用プロセッサ40は、記憶部41から取得した防除作業機1の進入位置と、ステップS111で取得した位置情報とを比較する。制御用プロセッサ40は、前記比較の結果、防除作業機1が進入位置に到達したことを検出した場合(ステップS112、Yes)、ステップS113へ進み、防除作業機1が進入位置に到達したことを検出しない場合(ステップS112、No)、ステップS112を繰り返す。
【0060】
ステップS113において、制御用プロセッサ40は、ブザー83をONして防除作業機1が進入位置に到達したことを報知する。このようにすることで、作業者は、防除作業機1が進入位置に到達したことを把握しやすくなる。そして、ステップS114において、制御用プロセッサ40は、表示部11Dに進入位置の表示態様を変更して表示させる。例えば、進入位置を示す指標I9(図12参照)を点灯させたり、色を変更させたりする。このようにすることで、作業者は、防除作業機1が進入位置に到達したことを理解しやすくなる。なお、ステップS113とステップS114との実行順序は問わない。ステップS115において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の旋回が終了したことを検出した場合、ステップS116に進み(ステップS115、Yes)、防除作業機1の旋回が終了したことを検出していない場合(ステップS115、No)、ステップS115を繰り返す。
【0061】
ステップS115において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10から取得した防除作業機1の位置情報から、防除作業機1が直進状態となった場合には、防除作業機1が旋回を終了したとすることができる。また、制御用プロセッサ40は、図1に示す操舵角センサ91がハンドル7の直進状態を検出したら、防除作業機1が旋回を終了したとすることもできる。また、制御用プロセッサ40は、防除作業機1が薬剤散布領域の外側から薬剤散布領域の内側との境界に到達したことを検出したら、防除作業機1が旋回を終了したとすることもできる。
【0062】
防除作業機1が旋回を終了した場合(ステップS115、Yes)、防除作業機1は、これから薬剤を散布する薬剤散布領域に進入したと見なすことができる。このため、ステップS116において、制御用プロセッサ40は、ポンプ27を動作させ(ON)、薬剤の散布を開始させる。ポンプ27を動作させたら、制御用プロセッサ40は、ステップS101に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0063】
第1制御例は、制御用プロセッサ40が、GPS受信部10から得られる防除作業機1の進行方向における位置情報と、薬剤の散布幅とに基づき、防除作業機1が旋回した後に圃場の薬剤散布領域へ進入する進入位置を求め、表示部11Dが進入位置を表示する。このようにすることで、作業者は、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ進入する際の操舵の基準を得ることができるので、進入位置のずれを抑制できる。その結果、防除作業機1が薬剤散布領域への進入する際の位置精度を向上させることができるので、薬剤散布領域に対して薬剤を散布できるとともに、圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制することができる。次に、本実施形態において、隣接する薬剤散布領域の間で防除作業機1が移動する際の制御例(第2制御例)を説明する。
【0064】
(第2制御例)
図14は、本実施形態の第2制御例を実行する制御装置の構成例を示す模式図である。第2制御例は、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ防除作業機1が進入する際の進入位置を変更する情報に基づいて、進入位置を求める点に特徴がある。図14に示す制御装置9aは、第2制御例の処理を実現する。制御装置9aは、図6に示す制御装置9と略同様であるが、進入位置を変更する情報である進入位置変更設定値CPCの入力を受け付けるための入力インターフェース42jを有する点が異なる。
【0065】
図15は、本実施形態の第2制御例の手順を示すフローチャートである。図16、図17は、本実施形態の第2制御例において防除作業機が旋回するときの状態を説明する模式図である。第2制御例のステップS201〜ステップS206は、第1制御例のステップS101〜ステップS106と同様なので、説明を省略する。ステップS207において、制御用プロセッサ40は、入力インターフェース42jを介して進入位置変更設定値CPCを取得する。進入位置変更設定値CPCは、上述したように、現在薬剤が散布されている薬剤散布領域に隣接する、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ防除作業機1が進入する際の進入位置を変更する情報である。より具体的には、進入位置変更設定値CPCは、現在薬剤が散布されている薬剤散布領域の散布終了位置Pe(Xe、Ye)と、これから薬剤を散布する薬剤散布領域の散布開始位置Ps(Xs、Ys)との間の距離である旋回時移動距離LRを変更する情報である。
【0066】
図16に示す例では、薬剤散布領域AWnから薬剤散布領域AWn+1に向かって風が吹いている。この場合、防除作業機1が散布する薬剤は、風下方向(矢印DWで示す方向)に向かって流されるので、薬剤散布領域AWnに散布した薬剤の一部は、これから薬剤を散布する薬剤散布領域AWn+1の一部へ散布される。この領域を重複領域AWhという。重複領域AWhの幅、すなわち、風下方向における重複領域AWhの幅をΔWとする。
【0067】
第1制御例では、薬剤散布領域AWn+1の散布開始位置Ps(Xs、Ys)は、薬剤散布領域AWnの散布終了位置Pe(Xe、Ye)から2×W2(又は2×W1)離れた位置になる。このため、風の影響に起因して、薬剤散布領域AWnに散布されるべき薬剤の一部が薬剤散布領域AWn+1に散布される場合、第1制御例にしたがって散布開始位置Ps(Xs、Ys)を求めると、薬剤散布領域AWn+1においては、薬剤散布領域AWnと隣接する重複領域AWhに薬剤が重複して散布される。
【0068】
図16に示すように第2制御例では、防除作業機1が風下側に旋回する場合には、薬剤が風によって流される幅ΔWだけ旋回時移動距離LRを変更(大きく)する。すなわち、制御用プロセッサ40は、散布終了位置Pe(Xe、Ye)を起点とし、防除作業機1の進行方向と直交する方向に向かって、変更後の旋回時移動距離LR(=2×W2+ΔW)に相当する距離だけ離れた位置を、散布開始位置Ps(Xs、Ys)とする。左旋回の場合には、散布開始位置Ps(Xs、Ys)は、散布終了位置Pe(Xe、Ye)を起点とし、防除作業機1の進行方向と直交する方向に向かって、変更後の旋回時移動距離LR(=2×W1+ΔW)に相当する距離だけ離れた位置になる。この例の場合、進入位置変更設定値CPCはΔWとなる。すなわち、ΔWによって、旋回時移動距離LRが変更される。このようにすることで、防除作業機1は、薬剤散布領域AWn+1の、薬剤散布領域AWnと隣接する幅ΔWの領域を回避して薬剤を散布するので、前記領域への薬剤の重複散布を抑制できる。このように、ΔWは、散布幅を変更する情報なので、進入位置変更設定値CPCは、散布幅を変更する情報としてもよい。
【0069】
図17に示す例は、防除作業機1が薬剤散布領域AWnから旋回した後に、第2散布ブーム5Rの旋回散布ブーム5BRから延長散布ブーム5SRを伸ばして薬剤散布領域AWn+1に薬剤を散布する例を示している。例えば、薬剤散布領域AWn+1が最後に薬剤を散布する領域である場合、防除作業機1のスリップや操舵タイミングのずれ等に起因して、薬剤散布領域AWnに対して散布幅が変化することがある。図17に示す例では、薬剤散布領域AWn+1の方が散布幅は大きくなっている。このような場合、防除作業機1は、第2散布ブーム5R(又は第1散布ブーム5L)の長さを調整して(図17の例では第2散布ブーム5Rの長さを長くして)、薬剤散布領域AWn+1全体に薬剤を散布できるようにする。
【0070】
図17に示す例では、第2散布ブーム5RをΔW1だけ長くしている。このため、制御用プロセッサ40は、薬剤散布領域AWn+1の散布開始位置Ps(Xs、Ys)を、薬剤散布領域AWnの散布終了位置Pe(Xe、Ye)から2×W2(又は2×W1)+ΔW1だけ離れた位置とする。この例の場合、進入位置変更設定値CPCはΔW1となる。すなわち、ΔW1によって、旋回時移動距離LRが変更される。このようにすることで、第2散布ブーム5R又は第1散布ブーム5Lの長さを変更することにより、散布幅が変更された場合であっても、これから薬剤を散布する薬剤散布領域AWn+1へ防除作業機1を案内することができる。
【0071】
この例では、第2散布ブーム5R又は第1散布ブーム5Lの長さを変更することにより、散布幅が変更されているが、薬剤を散布するノズル4の位置によっても散布幅は変更される。この場合も、変更前後における散布幅の差を進入位置変更設定値CPCとして用いることにより、防除作業機1を薬剤散布領域AWn+1へ案内することができる。
【0072】
風によって薬剤の散布される領域が変更される場合、例えば、防除作業機1に風速計を搭載し、この風速計で計測された風速及び風向き及び地面とノズルとの高さ及び薬剤噴霧一滴あたりの質量等に基づき、ノズル4から噴射された薬剤が薬剤散布領域の表面に到達するまでに流れる距離を予測してもよい。そして、この予測された薬剤の流れる距離を進入位置変更設定値CPCとして用いてもよい。また、作業者が第1散布ブーム5L又は第2散布ブーム5Rの長さを変更した場合、進入位置を変更するための入力値が進入位置変更設定値CPCとなる。
【0073】
ステップS207で進入位置変更設定値CPCが取得されたら、ステップS208に進み、制御用プロセッサ40は、取得した進入位置変更設定値CPCを、進入位置を求める際の補正量として決定する。そして、ステップS209で、制御用プロセッサ40は、進入位置変更設定値CPCを用いて変更した散布幅を用いて、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ防除作業機1が進入する際の進入位置を変更する。ステップS210〜ステップS218は、第1制御例のステップS108〜ステップS116と同様なので、説明を省略する。
【0074】
第2制御例は、風等の外乱が発生した場合には、進入位置変更設定値CPCによって散布幅を補正し、補正後の散布幅に基づいて防除作業機1の進入位置が求められる。また、作業者の操作によって散布幅が変更された場合も、変更のための入力値を進入位置変更設定値CPCとして散布幅を補正し、補正後の散布幅に基づいて防除作業機1の進入位置が求められる。このように、第2制御例は、作業者の判断又は風等の外乱又は散布状態に応じて隣接する薬剤散布領域の間隔を調整することができる。その結果、作業効率及び作業の利便性が向上する。
【0075】
(第3制御例)
図18は、第3制御例を実行する制御装置の構成例を示す模式図である。図19は、第3制御例における表示部の表示状態を示す模式図である。第3制御例は、表示部11Dが、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ防除作業機1が進入する際の進入位置と、この進入位置の前後における所定の範囲とを表示する点に特徴がある。第3制御例は、例えば、図6に示す制御装置9で実現できる。
【0076】
第3制御例のステップS301〜ステップS304は、第1制御例のステップS101〜ステップS104と同様なので、説明を省略する。ステップS305において、図6に示す制御装置9の制御用プロセッサ40は、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ防除作業機1が進入する際の進入位置を求める。ステップS305において、制御用プロセッサ40は、上述した第1制御例及び第2制御例のように、防除作業機1の進行方向における位置情報と、散布幅とに基づいて防除作業機1の進入位置を求めてもよい。また、散布領域位置情報と散布幅とに基づいて進入位置を求めてもよい。例えば、図9に示す薬剤散布領域AWにおいて、防除作業機1は、P1(X1、Y1)から散布を開始する場合を考える。この場合、制御用プロセッサ40は、P2(X2、Y2)から境界B2に沿ってW×(3/2+2×N)の位置及びP1(X1、Y1)から境界B1に沿ってW×(5/2+2×N)の位置を、進入位置として設定する(Nは0以上の整数)。記憶部41は、設定された進入位置を記憶する。このように、第3制御例においては、進入位置を求める手法は第1制御例及び第2制御例の手法に限定されるものではない。また、第3制御例において進入位置を求める手法は、散布幅を用いない手法であってもよい。
【0077】
ステップS305で進入位置が設定されたら、ステップS306へ進む。ステップS306は、第1制御例のステップS108と同様なので説明を省略する。ステップS307で、制御用プロセッサ40は、進入位置を図19に示す表示部11Dに表示させる。このとき、制御用プロセッサ40は、進入位置と、進入位置の前後における所定の範囲とを表示部11Dに表示させる。所定の範囲は、防除作業機1を旋回させてもよい範囲である。図19に示す例では、指標I9が進入位置であるが、その前後の指標I8及びI10も、進入位置とは表示態様を変更して表示部11Dに表示されている。このように、進入位置を中心とした、その前後における所定の範囲を表示部11Dに表示させることにより、作業者は、防除作業機1を旋回させてもよい、すなわち、操舵を開始してもよいという目安を把握することができる。また、旋回させてもよい目安を表示部11Dに表示させることにより、風等の外乱又は散布状態に応じて、作業者は、実際に薬剤散布領域へ進入する位置を変更することができる。その結果、作業効率及び作業の利便性が向上する。
【0078】
ステップS308、ステップS309は、第1制御例のステップS110、ステップS111と同様なので説明を省略する。ステップS310において、制御用プロセッサ40は、ステップS309で取得した防除作業機1の現時点における位置情報を、図19に示す表示部11Dの指標I2、I3等に表示させる。このようにすることで、防除作業機1の作業者は、現在の位置と進入位置との位置関係を把握することができるので、作業性が向上する。
【0079】
ステップS311で、制御用プロセッサ40は、記憶部41から取得した防除作業機1の進入位置と、ステップS309で取得した位置情報とを比較する。制御用プロセッサ40は、前記比較の結果、防除作業機1が進入位置に到達したことを検出した場合(ステップS311、Yes)、ステップS312へ進み、防除作業機1が進入位置に到達したことを検出しない場合(ステップS311、No)、ステップS309及びステップS310を繰り返す。ステップS312〜ステップS315は、第1制御例のステップS113〜ステップS116と同様なので、説明を省略する。
【0080】
第3制御例において、表示部11Dは、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ防除作業機1が進入する際の進入位置と、この進入位置の前後における所定範囲とを表示する。このようにすることで、作業者は、進入可能な位置の範囲を把握することができるので、自分の判断あるいは薬剤の散布状況に応じて、進入可能な位置の範囲で実際に薬剤散布領域へ進入する位置を調整できる。その結果、利便性が向上する。
【0081】
(第4制御例)
図20は、本実施形態の第4制御例の手順を示すフローチャートである。第4制御例は、防除作業機1の速度を求める車速センサ90(図6参照)を用いて、GPS受信部10から防除作業機1の位置情報が得られない場合には、防除作業機1がこれから薬剤を散布する薬剤散布領域へ進入する際の進入位置を、散布幅を用いて求めるとともに、車速センサ90から得られる情報を用いて防除作業機1の現在位置を求める点に特徴がある。第4制御例は、例えば、図6に示す制御装置9で実現できる。
【0082】
第4制御例のステップS401、ステップS402は、第3制御例のステップS301、ステップS302と同様なので、説明を省略する。ステップS403において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10からの位置情報が得られている場合(ステップS403、Yes)、ステップS404に進む。ステップS404〜ステップS409は、第3制御例のステップS305〜ステップS310と同様なので説明を省略する。
【0083】
ステップS403において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10からの位置情報が得られない場合(ステップS403、No)、ステップS410に進む。ステップS410において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の現時点における散布幅を取得する。この散布幅は、記憶部41に記憶されている散布幅設定値WS、又は散布条件等によって散布幅設定値WSを変更した後の値である。次に、ステップS411において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1が旋回を開始したことを検出したら(ステップS411、Yes)ステップS412に進み、防除作業機1が旋回を開始したことを検出していない場合(ステップS411、No)、ステップS411を繰り返す。
【0084】
ステップS412において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1がこれから薬剤を散布する薬剤散布領域へ進入する際の進入位置を表示部11Dに表示させる。この場合、例えば、図12に示す例において、表示部11Dは、指標I1で示される散布終了位置Pe(Xe、Ye)から離れた指標(例えば、指標I9)を進入位置として表示する。この場合、進入位置を求める必要はない。なお、制御用プロセッサ40は、ステップS410で取得した散布幅を用いて、防除作業機1がこれから薬剤を散布する薬剤散布領域へ進入する際の進入位置を求め、表示部11Dに表示させてもよい。この場合、進入位置は、例えば、防除作業機1が旋回を開始した位置を起点として、防除作業機1の進行方向と直交する方向に散布幅だけ離れた位置とすることができる。次に、ステップS413へ進み、制御用プロセッサ40は、ポンプ27を停止させ、薬剤の散布を停止させる。
【0085】
ステップS414において、制御用プロセッサ40は、図6の車速センサ90から、車速パルスを取得し、ステップS415において、取得した車速パルスから防除作業機1の車速を計算する。そして、ステップS416で、制御用プロセッサ40は、得られた車速から、旋回開始位置から現時点における位置までに走行した防除作業機1の走行距離を計算する。前記走行距離は、旋回開始時からの車速を旋回開始時からの経過時間で積分した値である。車速が一定であれば、車速と旋回開始時からの経過時間との積が前記走行距離となる。走行距離を求める場合、防除作業機1の駆動輪(本実施形態では、前輪3FL、3FR及び後輪3RL、3RR)のスリップ率を用いてもよい。スリップ率は、例えば、予め求めて記憶部41に記憶させておく。このように、スリップ率を用いれば、より正確に走行距離を求めることができる。ステップS417で、制御用プロセッサ40は、図12に示す表示部11Dに防除作業機1の現在位置を表示させる。ステップS416で求めた走行距離は、旋回開始位置から現時点における位置までに走行した防除作業機1の走行距離なので、制御用プロセッサ40は、前記走行距離を表示部11Dに合わせて表示させる。
【0086】
図12に示す例では、指標I1が散布終了位置Pe(Xe、Ye)であり、指標I9が進入位置である。散布終了位置Pe(Xe、Ye)と進入位置との間隔がステップS410で求められた散布幅(この例では全散布幅W)に相当する。散布幅が、例えば16mである場合、指標I1と指標I9との間は8等分される。したがって、隣接する指標同士の間隔は、2mを表すことになる。制御用プロセッサ40は、ステップS416で求められた防除作業機1の現時点における走行距離を、表示部11Dに表示されている指標の比率に合わせて表示する。このようにすることで、作業者は、防除作業機1の現在位置と進入位置との関係を把握できるので、GPS受信部10からの位置情報が得られない場合であっても、薬剤を散布しようとする薬剤散布領域へ防除作業機1を容易に進入させることができる。このように、第4制御例は、GPS受信部10からの位置情報が得られない場合であっても、防除作業機1が有する車速センサ90から得られる車速を用いることによって、防除作業機1が旋回した後に、これから薬剤を散布する薬剤散布領域へ進入する際の進入位置の目安を提示することができる。
【0087】
(第5制御例)
図21は、本実施形態に係る第5制御例を実行する制御装置の構成例を示す模式図である。図22は、本実施形態の第5制御例の手順を示すフローチャートである。第5制御例は、上述した第3制御例に加え、表示部11Dが表示した進入位置又は進入位置の前後における所定の範囲に防除作業機1が到達する前に、操舵角センサ91が操舵を検出した場合には、制御用プロセッサ40が警報発生手段としてのブザー83に警報を発生させる点に特徴がある。図21に示す制御装置9bは、第5制御例の処理を実行する。制御装置9bは、図6に示す制御装置9と略同様であるが、操舵角センサ91が検出した操舵角についての情報の入力を受け付けるための入力インターフェース42kを有する点が異なる。
【0088】
第5制御例のステップS501〜ステップS510は、第3制御例のステップS301〜ステップS310と同様なので、説明を省略する。ステップS511において、制御用プロセッサ40は、操舵角センサ91の出力を取得する。次に、ステップS512に進み、制御用プロセッサ40は、ステップS512で取得した操舵角センサ91の出力から、図1、図2に示す防除作業機1のハンドル7が操舵されたか否かを求める。制御用プロセッサ40は、操舵がされなかった場合には(ステップS512、No)処理をステップS513に進め、操舵がされた場合には(ステップS512、Yes)処理をステップS518に進める。
【0089】
ステップS513において、制御用プロセッサ40は、ステップS509で取得した防除作業機1の位置情報と、進入位置とを比較する。そして、制御用プロセッサ40は、防除作業機1が進入位置に到達したことを検出した場合(ステップS513、Yes)、処理をステップS514に進める。ステップS514〜ステップS517は、第3制御例のステップS312〜ステップS315と同様なので、説明を省略する。
【0090】
制御用プロセッサ40は、防除作業機1が進入位置に到達したことを検出しない場合(ステップS513、No)、ステップS509〜ステップS513を繰り返す。なお、ステップS513において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1が進入位置に到達したことに加え、防除作業機1が進入位置の前後における所定範囲に到達したことを検出してもよい(以下同様)。
【0091】
ステップS513において、防除作業機1が進入位置に到達していない場合、ステップS509〜ステップS513が繰り返されるので、制御用プロセッサ40がステップS512を処理する際には、防除作業機1は進入位置に到達していない。このため、ステップS512において、操舵がされた場合には(ステップS512、Yes)、防除作業機1が進入位置に到達する前に操舵がされていることになるので、作業者の操舵タイミングは適切でない(早すぎる)と見なすことができる。この場合、ステップS518において、制御用プロセッサ40は、ブザー83を連続してONすることにより、ブザー83から警報音を発生させる。このようにすることで、作業者は、操舵のタイミングが適切でなかったことを把握できるので、適切なタイミングで操舵をするように修正することができる。その結果、防除作業機1は、これから薬剤を散布しようとする薬剤散布領域へ正しく進入することができるので、圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制することができる。ステップS518が終了したら、制御用プロセッサ40は、操舵があり、かつ防除作業機1が進入位置を中心とした所定範囲に到達するまで、ステップS511、ステップS512を繰り返す。
【0092】
ステップS518においては、ブザー83の代わりに、操舵のタイミングが適切でないことを音声で報知するようにしてもよい。また、制御用プロセッサ40は、ブザー83又は音声と同時に、表示部11Dに操舵のタイミングが適切でない旨を表示させてもよい。この場合、表示部11Dに表示された現在位置を赤で点滅させたり、表示部11Dの背景を赤に変更したりすることが考えられる。このように、表示部11Dの表示を変更することにより、作業者は、操舵のタイミングが適切でないことをより確実に把握することができる。なお、制御用プロセッサ40は、一度ステップS518を実行した後にステップS512でYesの判定をした場合、ブザー83をOFFにすることが好ましい。また、一度ステップS518が実行されてブザー83がONになった後は、作業者の操作によってブザー83をOFFにするようにしてもよい。これらは、次に説明する第6制御例でも同様である。このように、作業者は、音声により操舵タイミングが適切でないことを把握できるので、第5制御例は、薬剤散布領域へ進入する位置を修正するきっかけを作業者に提供することができる。その結果、圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制できる。
【0093】
(第6制御例)
図23は、本実施形態の第6制御例の手順を示すフローチャートである。第6制御例は、上述した第3制御例に加え、表示部11Dが表示した進入位置を超えた後においても操舵角センサ91が操舵を検出しない場合には、制御用プロセッサ40が警報発生手段としてのブザー83に警報を発生させる点に特徴がある。第6制御例は、図21に示す制御装置9bが実現できる。
【0094】
第6制御例のステップS601〜ステップS613は、第3制御例のステップS301〜ステップS313と同様なので、説明を省略する。ステップS614において、制御用プロセッサ40は、操舵角センサ91の出力を取得する。次に、ステップS615に進み、制御用プロセッサ40は、ステップS514で取得した操舵角センサ91の出力から、図1、図2に示す防除作業機1のハンドル7が操舵されたか否かを求める。そして、制御用プロセッサ40は、操舵があった場合(ステップS615、Yes)、処理をステップS616に進め、操舵がない場合(ステップS615、No)、処理をステップS618に進める。
【0095】
ステップS615は、ステップS611において、防除作業機1が進入位置に到達したことを制御用プロセッサ40が検出した後(ステップS611、Yes)に実行される。このため、ステップS615が実行された時点で操舵がなされている場合(ステップS615、Yes)、作業者の操舵タイミングは適切であり、防除作業機1は進入位置から薬剤散布領域へ進入するために旋回中であると見なすことができる。この場合、ステップS616において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の旋回が終了したことを検出した場合(ステップS616、Yes)、ステップS617に進み、防除作業機1の旋回が終了したことを検出していない場合(ステップS616、No)、ステップS616を繰り返す。
【0096】
上述したように、ステップS615は、防除作業機1が進入位置に到達した後に実行される。このため、ステップS615が実行された時点で操舵がなされていない場合(ステップS615、No)、作業者の操舵タイミングは適切でなく(遅すぎる)、防除作業機1は進入位置を過ぎてしまったと見なすことができる。この場合、制御用プロセッサ40は、ブザー83を連続してONすることにより、ブザー83から警報音を発生させる。このようにすることで、作業者は、操舵のタイミングが適切でなかったことを把握できるので、防除作業機1を操作して、進入位置で薬剤散布領域へ進入できるように修正することができる。その結果、防除作業機1は、これから薬剤を散布しようとする薬剤散布領域へ正しく進入することができるので、圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制することができる。ステップS618が終了したら、制御用プロセッサ40は、操舵があり、かつ防除作業機1が進入位置を中心とした所定範囲に到達するまで、ステップS614、ステップS615、ステップS618を繰り返す。
【0097】
このように、第6制御例によれば、作業者に対し、進入位置を超えたことを報知できるので、薬剤散布領域へ進入する位置を修正するきっかけを作業者に提供することができる。その結果、圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制できる。操舵角センサ91を用いる場合、制御用プロセッサ40は、散布作業状態において所定値以上操舵されたことが操舵角センサ91によって検出されると、この時点を旋回と判断して散布終了位置Pe(Xe、Ye)とする。そして、制御用プロセッサ40は、以後の制御を前述と同様に行って旋回開始位置Phs(Xhs、Yhs)等を算出し、この旋回開始位置Phs(Xhs、Yhs)等の表示を表示部11Dに表示するように構成してもよい。また、制御用プロセッサ40がこのような制御を行う場合、前述した薬剤散布領域AWの四隅にGPS受信部を設置してP1(X1、Y1)、P2(X2、Y2)、P3(X3、Y3)、P4(X4、Y4)を求めなくても、単に旋回時における次工程の案内を行うように構成してもよい。
【0098】
(第7制御例)
図24は、本実施形態の第7制御例の手順を示すフローチャートである。第7制御例は、GPS受信部10が電波を受信可能なGPS衛星の数に応じて、GPS衛星を利用した車速と、防除作業機1の車速センサ90から得られる車速とを使い分ける点に特徴がある。第7制御例は、薬剤の散布を開始する際に、GPS受信部10が電波を受信可能なGPS衛星の数を判定して、GPS衛星を利用した車速と、防除作業機1の車速センサ90から得られる車速とを選択するものである。第7制御例は、例えば、図6に示す制御装置9によって実現できる。
【0099】
第7制御例を実行するにあたり、ステップS701において、図6に示す制御装置9の制御用プロセッサ40は、GPS受信部10が利用できる、すなわち電波を受信可能なGPS衛星の数(GPS衛星データという)を取得する。そして、ステップS702において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10が電波を受信可能な衛星の数(受信可能衛星数)を決定し、記憶部41に記憶させる。
【0100】
次に、ステップS703に進み、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS703、Yes)、処理をステップS704に進め、受信可能衛星数が一定値未満である場合(ステップS703、No)、処理をステップS709に進める。前記一定値とは、GPS受信部10が防除作業機1の位置情報を生成するために必要なGPS衛星の数であり、図6に示す記憶部41、より具体的にはEEPROM41Cに記憶されている(以下同様)。
【0101】
受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS703、Yes)、GPS受信部10は防除作業機1の位置情報あるいはGPS車速Vgを生成することができる。このため、ステップS704において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10が生成したGPS車速Vgを取得する。そして、ステップS705において、制御用プロセッサ40は、GPS車速Vgを制御データ、すなわち制御に用いる車速に設定する。次に、ステップS706へ進み、制御用プロセッサ40は、例えば、薬剤の散布を開始する指令を表示・操作パネル11から取得した場合、防除作業機1の増速を決定する。
【0102】
ステップS707において、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS707、Yes)、処理をステップS708に進めて散布開始処理を実行する。散布開始処理とは、ポンプ27を起動したり、流量制御モータ29Mを駆動して流量制御弁29を所定の開度に設定したりする処理である(以下同様)。制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値未満である場合(ステップS707、No)、処理をステップS703に戻す。このように、ステップS707で、散布開始処理に移行する前に受信可能衛星数が一定値以上であることを再度確認することで、GPS受信部10が確実にGPS車速Vgを生成できる状態で薬剤の散布に移行できる。なお、ステップS707の一定値は、ステップS703の一定値と同じ値である。
【0103】
次に、ステップS709からの処理を説明する。受信可能衛星数が一定値未満である場合(ステップS703、No)、制御用プロセッサ40は、ステップS709において、車速センサ90が検出した防除作業機1の移動に関する情報から得られた防除作業機1の車速(車両車速)Vsを、制御データに設定する。車速センサ90が検出した前記情報は、防除作業機1の駆動輪から検出される車速パルスである。そして、ステップS710において、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値未満である場合(ステップS710、Yes)、処理をステップS708に進めて散布開始処理を実行する。この場合、GPS受信部10は、GPS車速Vgを生成できない。このため、制御用プロセッサ40は、車両車速Vsに基づいて、防除作業機1が薬剤散布領域へ進入する際の進入位置を求めたり、進入位置を表示部11Dに表示させたりする。制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS710、No)、ステップS709、ステップS710を繰り返す。
【0104】
このように、第7制御例は、GPS衛星を利用した車速と、防除作業機1の車速センサ90から得られる車速とを使い分ける。このようにすることで、第7制御例は、GPS受信部10がGPS車速Vgを生成できない場合又はGPS受信部10が生成したGPS車速Vgがばらつく場合には、車両車速Vsを用いて薬剤の散布を継続することができる。
【0105】
(第8制御例)
図25は、本実施形態の第8制御例の手順を示すフローチャートである。第8制御例は、第7制御例と同様であるが、薬剤の散布を停止する際に、GPS受信部10が電波を受信可能なGPS衛星の数を判定して、GPS車速Vgと、車両車速Vsとを選択する点に特徴がある。第8制御例は、第7制御例と同様に図6に示す制御装置9によって実現できる。
【0106】
第8制御例のステップS801〜ステップS805は、第7制御例のステップS701〜ステップS705と同様なので、説明を省略する。ステップS806において、制御用プロセッサ40は、例えば、薬剤の散布を停止する指令を表示・操作パネル11から取得した場合、防除作業機1の減速を決定する。ステップS807において、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS807、Yes)、処理をステップS808に進めて散布停止処理を実行する。散布停止処理とは、ポンプ27を停止する処理である(以下同様)。制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値未満である場合(ステップS807、No)、処理をステップS803に戻す。ステップS809、ステップS810は、第7制御例のステップS709、ステップS710と同様なので、説明を省略する。このように、第8制御例は、GPS受信部10が利用可能なGPS衛星の数が少ない場合には、車速センサ90から得られる車両車速Vsを用いて散布停止処理を実行させることができる。
【0107】
(第9制御例)
図26は、本実施形態の第9制御例の手順を示すフローチャートである。図27は、第9制御例における表示部の表示状態を示す模式図である。第9制御例は、進入位置を表示部11Dに表示させる場合に、旋回半径を考慮して求めた旋回開始位置を進入位置とともに表示させる点に特徴がある。第9制御例は、例えば、図6に示す制御装置9によって実現できる。
【0108】
第9制御例のステップS901〜ステップS907は、第3制御例のステップS301〜ステップS307と同様なので、説明を省略する。なお、ステップS907において、図6に示す制御用プロセッサ40が表示部11Dに表示させる進入位置は、図27に示す指標I12である。ステップS908において、制御用プロセッサ40は、旋回開始位置を求めて表示部11Dに表示させる。旋回開始位置は、図27に示す指標I10である。なお、指標I6は、防除作業機1の現時点における位置を示している。
【0109】
制御用プロセッサ40は、例えば、防除作業機1の旋回半径から旋回開始位置を求める。図11に示す例において、薬剤散布領域AWnから薬剤散布領域AWn+1へ移動する間の領域において、防除作業機1の幅方向中心CLと境界B2との距離は、防除作業機1の位置情報と散布領域位置情報とに基づいて求めることができる。作業者に旋回開始位置Phs(Xhs、Yhs)で図1、図2に示すハンドル7の操舵を開始させる場合、前記距離を旋回半径R2と見なすことができる。制御用プロセッサ40は、防除作業機1の幅方向中心と境界B2との距離から旋回半径R2を求める。そして、制御用プロセッサ40は、進入位置、すなわち、散布開始位置Ps(Xs、Ys)と、旋回半径R2とから旋回開始位置Phs(Xhs、Yhs)を求める。すなわち、旋回開始位置Phs(Xhs、Yhs)のXhsは、散布開始位置Ps(Xs、Ys)のXsから防除作業機1の進行方向反対側にR2だけ戻った位置であり、Yhsは、Ysから薬剤散布領域AWn+1の外側にR2だけ進んだ位置である。図11のXY座標系(矢印が正方向)において、旋回開始位置Phs(Xhs、Yhs)は、Xhs=Xs−R2、Yhs=Yhs+R2となる。
【0110】
ステップS908において、制御用プロセッサ40は、上述した手法によって旋回開始位置を求め、表示部11Dに表示させる。その後のステップS909〜ステップS916は、第3制御例のステップS308〜ステップS315と同様なので、説明を省略する。第9制御例は、表示部11Dが旋回開始位置を表示するので、作業者は、表示部11Dに表示された旋回開始位置と、現時点における防除作業機1の位置との関係から、ハンドル7を操舵するタイミングを把握することができる。その結果、作業者は、薬剤を散布しようとする薬剤散布領域へ防除作業機1を容易かつ確実に進入させることができるので、圃場に散布される薬剤のばらつきを抑制できる。このように、第9制御例は、作業者に対し、より確実に薬剤散布領域へ防除作業機1を進入させるための情報を提供できる。
【0111】
(第10制御例)
図28は、本実施形態に係る第10制御例を実行する制御装置の構成例を示す模式図である。図29は、本実施形態の第10制御例の手順を示すフローチャートである。第10制御例は、制御用プロセッサ40が、GPS受信部10の情報(例えば、GPS車速Vg)を用いて薬剤の散布量を制御したり、進入位置を求めたりしている場合には、その旨をGPS利用報知手段に報知させる点に特徴がある。図28に示す制御装置9cは、第10制御例の処理を実行する。制御装置9cは、図6に示す制御装置9と略同様であるが、制御用プロセッサ40がGPS受信部10の情報を用いている場合は、そのことを報知するためのGPS利用報知手段としてのGPSモニタ84に制御信号を出力する出力インターフェース44fを有する点が異なる。
【0112】
第10制御例を実行するにあたり、制御装置9cの制御用プロセッサ40は、ステップS1001において、GPS受信部10から、GPS衛星データを取得する。そして、ステップS1002において、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数を決定し、記憶部41に記憶させる。次に、ステップS1003に進み、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS1003、Yes)、処理をステップS1004に進め、受信可能衛星数が一定値未満である場合(ステップS1003、No)、ステップS1001〜ステップS1003を繰り返す。前記一定値は、第7制御例の一定値と同一である。
【0113】
受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS1003、Yes)、GPS受信部10は防除作業機1の位置情報あるいはGPS車速Vgを生成することができる。このため、ステップS1004において、制御用プロセッサ40は、GPS車速Vg等を用いて薬剤の散布量を制御したり、防除作業機1の薬剤散布領域への進入位置を求めたりする。この場合、ステップS1004において、制御用プロセッサ40は、GPSモニタ84をONにして、制御用プロセッサ40がGPS受信部10の情報を用いている旨を報知させる。
【0114】
車両車速Vsは、防除作業機1の駆動輪の回転から得られる車速パルスに基づいて求められる。このため、駆動輪がスリップしている場合には、実際の車速よりも車両車速Vsは低くなる。GPS車速Vgは、複数のGPS衛星から得られた電波に基づいて求められる、防除作業機1の移動速度なので、駆動輪のスリップが発生した場合には、その影響が含まれた移動速度となる。このため、GPS車速Vgを用いて車速連動散布制御を実行した場合、車両車速Vsを用いた場合よりも薬剤の散布精度は高くなる。作業者は、GPSモニタ84がONになっていないときには、車両車速Vsに基づいて車速連動散布制御が実行されていると認識できるので、作業者は、薬剤の散布精度の判断をすることができる。
【0115】
(第11制御例)
図30は、本実施形態の第11制御例の手順を示すフローチャートである。第11制御例は、制御用プロセッサ40が、GPS受信部10の情報(例えば、GPS車速Vg)を用いて薬剤の散布量を制御したり、進入位置を求めたりしている場合には、その旨をGPS利用報知手段に報知させ、GPS受信部10の情報を用いていない場合には、車両車速Vsを用いる点に特徴がある。第11制御例の処理は、例えば、図28に示す制御装置9cによって実現できる。
【0116】
第11制御例を実行するにあたり、制御装置9cの制御用プロセッサ40は、ステップS1101において、GPS受信部10から、GPS衛星データを取得する。そして、ステップS1102において、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数を決定し、記憶部41に記憶させる。次に、ステップS1103に進み、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS1103、Yes)、処理をステップS1104に進め、受信可能衛星数が一定値未満である場合(ステップS1103、No)、ステップS1101〜ステップS1103を繰り返す。前記一定値は、第7制御例の一定値と同一である。
【0117】
受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS1103、Yes)、GPS受信部10は防除作業機1の位置情報あるいはGPS車速Vgを生成することができる。このため、ステップS1104において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10が生成したGPS車速Vgを取得する。次に、ステップS1105に進み、制御用プロセッサ40は、GPS車速Vgが存在する場合には(ステップS1105、Yes)、処理をステップS1106に進め、GPS車速Vgが存在しない場合には(ステップS1105、No)、処理をステップS1109に進める。受信可能衛星数が一定値以上であっても、タイミングによってはGPS受信部10がGPS車速Vgを生成できていなかったり、何らかの事情によりGPS衛星からの電波をGPS受信部10が受信できていなかったりすることがある。このため、ステップS1105において、GPS車速Vgが存在するか否かを確認する。
【0118】
GPS車速Vgが存在する場合(ステップS1105、Yes)、ステップS1106において、制御用プロセッサ40は、GPS車速Vgを制御データ、すなわち制御に用いる車速に設定する。次に、ステップS1107へ進み、制御用プロセッサ40は、GPSモニタ84をONにして、制御用プロセッサ40がGPS受信部10の情報を用いている旨を報知させる。このようにすることで、作業者は、薬剤の散布精度の判断をすることができる。次に、ステップS1108に進み、制御用プロセッサ40は、車速に連動させて薬剤の散布量を制御する車速連動散布制御を実行する。
【0119】
GPS車速Vgが存在しない場合(ステップS1105、No)、ステップS1109において、制御用プロセッサ40は、車速センサ90が検出した車速パルスを取得する。そして、ステップS1110において、制御用プロセッサ40は、取得した車速パルスから車両車速Vsを求める。そして、ステップS1111に進み、制御用プロセッサ40は、車両車速Vsを制御データに設定した後、ステップS1108において車速連動散布制御を実行する。このような処理により、第11制御例においては、作業者は、GPSモニタ84がONになっていないときには、車両車速Vsに基づいて車速連動散布制御が実行されていることを把握できるので、薬剤の散布精度が低下しているおそれを認識して作業をすることができる。
【0120】
(第12制御例)
図31は、本実施形態の第12制御例の手順を示すフローチャートである。第12制御例は、GPS受信部10が電波を受信可能なGPS衛星の数が一定値以上である場合に、制御用プロセッサ40がGPS車速Vgを用いる点に特徴がある。第12制御例は、例えば、図6に示す制御装置9によって実現できる。第12制御例を実行するにあたり、制御装置9の制御用プロセッサ40は、ステップS1201において、GPS受信部10から、GPS衛星データを取得する。そして、ステップS1202において、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数を決定し、記憶部41に記憶させる。
【0121】
次に、ステップS1203に進み、制御用プロセッサ40は、受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS1203、Yes)、処理をステップS1204に進め、受信可能衛星数が一定値未満である場合(ステップS1203、No)、ステップS1201〜ステップS1203を繰り返す。前記一定値は、第7制御例の一定値と同一である。受信可能衛星数が一定値以上である場合(ステップS1203、Yes)、GPS受信部10はGPS車速Vgあるいは防除作業機1の位置情報を生成することができる。このため、ステップS1204において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10が生成したGPS車速Vgを取得する。次に、ステップS1205に進み、制御用プロセッサ40は、GPS車速Vgを制御データ、すなわち制御に用いる車速に設定する。
【0122】
GPS受信部10が利用できるGPS衛星の数が少ない場合、位置情報及びGPS車速Vgにばらつきが発生し、車速連動散布制御等の精度低下を招くおそれがある。しかし、第11制御例のようにすることで、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10が利用できるGPS衛星の数が多い場合にGPS車速Vgを用いるので、安定して車速連動散布制御あるいは防除作業機1が薬剤散布領域へ進入する際の進入位置を求めることができる。
【0123】
(第13制御例)
図32は、本実施形態の第13制御例の手順を示すフローチャートである。第13制御例は、GPS車速Vgが所定の閾値以下である場合に、制御用プロセッサ40は、制御に用いる車速を0に設定する点に特徴がある。第13制御例は、例えば、図6に示す制御装置9によって実現できる。第13制御例を実行するにあたり、ステップS1301において、制御装置9の制御用プロセッサ40は、GPS受信部10が生成したGPS車速Vgを取得する。次に、ステップS1302に進み、制御用プロセッサ40は、GPS車速Vgが所定の閾値以下である場合には(ステップS1302、Yes)処理をステップS1303に進め、GPS車速Vgが所定の閾値よりも大きい場合には(ステップS1302、No)処理をステップS1305に進める。所定の閾値は、薬剤の散布において防除作業機1の最低の車速(例えば、0.3m/s)よりも小さい値であり、記憶部41(より具体的にはROM41B又はEEPROM41C)に記憶されている。所定の閾値は、例えば、0.05m/s程度とする。
【0124】
GPS受信部10がGPS車速Vgを求める際の計算誤差によって、防除作業機1が停止している場合にもGPS車速Vgはある値を有することがある。この場合、車速連動散布制御においては、薬剤の散布が開始されたり、薬剤の散布が停止されなかったりすることがある。このため、第13制御例では、GPS車速Vgが所定の閾値以下である場合(ステップS1302、Yes)、ステップS1303において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の制御に用いる車速を0に設定し、その後、ステップS1304で車速連動散布制御へ移行する。GPS車速Vgが所定の閾値よりも大きい場合(ステップS1302、No)、ステップS1305において、制御用プロセッサ40は、防除作業機1の制御に用いる車速を、GPS車速Vgに設定し、その後、ステップS1304で車速連動散布制御へ移行する。このようにすることで、第13制御例では、GPS車速Vgの計算誤差に基づく防除作業機1の誤動作を回避することができる。
【0125】
(第14制御例)
図33、図34は、本実施形態の第14制御例の手順を示すフローチャートである。第14制御例は、制御用プロセッサ40が、GPS車速Vgと車両車速Vsとからスリップ率SRを求めて記憶部41に記憶させておき、電源投入時においてGPS受信部10から得られた位置情報が異なっている場合には、現在の記憶部41に記憶されているスリップ率SRを初期値に設定する点に特徴がある。第14制御例は、例えば、図6に示す制御装置9によって実現できる。
【0126】
第14制御例を実行するにあたり、ステップS1401において、図6に示す制御装置9の制御用プロセッサ40は、薬剤の散布が開始されている場合には(ステップS1401、Yes)、処理をステップS1402に進め、薬剤の散布が開始されていない場合には(ステップS1401、No)、ステップS1401を繰り返す。ステップS1402において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10からGPS車速Vgを取得する。次に、ステップS1403に進み、制御用プロセッサ40は、車速センサ90が検出した車速パルスを取得し、ステップS1404において、取得した車速パルスから車両車速Vsを求める。次に、ステップS1405に進み、制御用プロセッサ40は、GPS車速Vgと車両車速Vsとに基づいて、スリップ率SRを求め、ステップS1406でスリップ率SRを記憶部41、より具体的にはEEPROM41Cに記憶させる。スリップ率SRは、制御用プロセッサ40が車両車速Vsを用いる場合に、車両車速Vsを補正するために用いられる。その後、ステップS1407に進み、制御用プロセッサ40は、車速連動散布制御を実行することにより、薬剤を圃場に散布する。なお、スリップ率SRは、(Vg−Vs)/Vgである。
【0127】
ステップS1408において、制御用プロセッサ40は、薬剤の散布が終了した場合(ステップS1408、Yes)、処理をステップS1409に進め、薬剤の散布が終了していない場合(ステップS1408、No)、ステップS1402〜ステップS1408を繰り返す。この薬剤の散布終了には、すべての薬剤散布領域に薬剤を散布し終わった場合と、何らかのアクシデントによって防除作業機1を停止させたことに起因して薬剤の散布が終了した場合との両方が含まれる。後者の場合、前記アクシデントがなくなれば、薬剤の散布は再開される。
【0128】
薬剤の散布が終了したら(ステップS1408、Yes)、ステップS1409において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10から薬剤の散布が終了した時点における防除作業機1の位置情報を取得する。そして、ステップS1410に進み、制御用プロセッサ40は、取得した位置情報を記憶部41の不揮発性メモリ、より具体的にはEEPROM41Cに記憶させるとともに、ステップS1411において、薬剤の散布が終了した時点におけるスリップ率SRを記憶部41の不揮発性メモリ、より具体的にはEEPROM41Cに記憶させる。ステップS1410とステップS1411との順序は問わない。次に、図34の処理を説明する。
【0129】
図34の処理は、薬剤の散布が開始されるときの処理である。この薬剤の散布開始には、前回薬剤を散布した薬剤散布領域とは異なる場所に薬剤を散布する場合と、何らかのアクシデントで薬剤の散布が中断されたときにおいて薬剤の散布を再開する場合との両方が含まれる。後者の場合、薬剤の散布が中断される前後において、防除作業機1の位置は変化しない。ステップS1501において、制御用プロセッサ40は、制御装置9を初期化する。次に、ステップS1502に進み、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10から現時点における防除作業機1の位置情報を取得し、ステップS1503で記憶部41に記憶させる。
【0130】
ステップS1504において、制御用プロセッサ40は、前回の薬剤散布が終了したときの位置情報を不揮発性メモリ、より具体的にはEEPROM41Cから読み出し、ステップS1505において、現時点における位置情報と、読み出した位置情報とを比較する。そして、ステップS1506に進み、現時点における位置情報が読み出した位置情報に対して変化していた場合(ステップS1506、Yes)、制御用プロセッサ40は、処理をステップS1507に進める。ステップS1507において、制御用プロセッサ40は、不揮発性メモリ、より具体的にはEEPROM41Cに記憶されているスリップ率SRを、スリップ率初期値に設定する。スリップ率初期値は、例えば、一般的な圃場におけるスリップ率であり、記憶部41、より具体的にはROM41B又はEEPROM41Cに記憶されている。
【0131】
現時点における位置情報が読み出した位置情報に対して変化していない場合(ステップS1506、No)、前回と今回とで、薬剤を散布する場所の変化はないので、スリップ率SRにも変化はないと見なすことができる。この場合、制御用プロセッサ40は、スリップ率SRの値を、現時点においてEEPROM41Cに記憶されている値、すなわち、前回の薬剤散布時におけるスリップ率SRの値に維持する。第14制御例は、薬剤を散布する場所が同じであれば、直近のスリップ率SRを用いることにより、また、薬剤を散布する場所が異なる場合には、スリップ率初期値を用いることにより、車両車速Vsの補正値の誤差を低減できる。第13制御例は、特に、GPS車速Vgが得られない場合に有効である。
【0132】
(第15制御例)
図35は、本実施形態の第15制御例の手順を示すフローチャートである。第15制御例は、制御用プロセッサ40が、GPS車速Vgと車両車速Vsとからスリップ率SR求め、スリップ率SRで車両車速Vsを補正した補正車速Vcを準備しておく点に特徴がある。第15制御例は、例えば、図6に示す制御装置9によって実現できる。第15制御例を実行するにあたり、ステップS1601において、図6に示す制御装置9の制御用プロセッサ40は、GPS受信部10からGPS車速Vgを取得する。次に、ステップS1602に進み、制御用プロセッサ40は、車速センサ90が検出した車速パルスを取得し、ステップS1603において、取得した車速パルスから車両車速Vsを求める。次に、ステップS1604に進み、制御用プロセッサ40は、GPS車速Vgと車両車速Vsとに基づいて、スリップ率SRを求め、ステップS1605でスリップ率SRを記憶部41、より具体的にはEEPROM41Cに記憶させる。そして、ステップS1606において、制御用プロセッサ40は、求めたスリップ率SRを、車両車速Vsを補正するスリップ率SRとして設定する。ステップS1607に進み、制御用プロセッサ40は、車両車速Vsとスリップ率SRとから、補正車速Vcを求め、ステップS1608において、補正車速Vcを記憶部41、より具体的にはEEPROM41Cに記憶させる。なお、補正車速Vc=Vs/(1−SR)である。
【0133】
ステップS1609に進み、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10からGPS車速Vgが取得できている場合又はそのばらつきが許容できる場合には(ステップS1609、Yes)、ステップS1610において、GPS車速Vgを制御データとして設定する。また、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10からGPS車速Vgが取得できていない場合又はそのばらつきが許容できない場合には(ステップS1609、No)、ステップS1611において、補正車速Vcを制御データとして設定する。そして、ステップS1612に進み、制御用プロセッサ40は、設定した制御データを防除作業機1の車速に用いて、車速連動散布制御を実行する。このように、第15制御例によれば、GPS受信部10がGPS車速Vgを生成できない場合又はGPS受信部10が生成したGPS車速Vgがばらつく場合には、車両車速Vsをスリップ率SRで補正した補正車速Vcを用いて、薬剤の散布を継続することができる。
【0134】
(第16制御例)
図36は、本実施形態の第16制御例の手順を示すフローチャートである。図37は、第16制御例において圃場を特定するための情報を取得する場所を示す模式図である。第16制御例は、制御用プロセッサ40が、薬剤の散布中において、少なくとも1箇所の位置情報を圃場の位置に関する情報(圃場位置情報)として記憶部41に記憶させ、圃場を特定するための情報とする点に特徴がある。第16制御例は、例えば、図6に示す制御装置9によって実現できる。
【0135】
第16制御例を実行するにあたり、ステップS1701において、図6に示す制御装置9の制御用プロセッサ40は、薬剤の散布を開始する場合には(ステップS1701、Yes)、処理をステップS1702に進め、薬剤の散布を開始しない場合には(ステップS1701、No)、ステップS1701を繰り返す。ステップS1702において、制御用プロセッサ40は、薬剤の散布を開始するときにおける防除作業機1の位置情報をGPS受信部10から取得し、ステップS1703において、図37に示す第1の圃場位置情報Pd1(Xd1、Yd1)として記憶部41、より具体的には不揮発性メモリであるEEPROM41Cに記憶させる。
【0136】
ステップS1704に進み、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10からGPS車速Vgを取得し、ステップS1705において、取得したGPS車速Vgを制御データとして設定する。そして、制御用プロセッサ40は、ステップS1706に進み、薬剤の設定圧力を計算した後、ステップS1705で設定した制御データを防除作業機1の車速に用いて、ステップS1707で車速連動散布制御を実行する。ステップS1708において、制御用プロセッサ40は、薬剤の散布が終了していない場合(ステップS1708、No)、ステップS1704〜ステップS1708を繰り返す。薬剤の散布が終了したら(ステップS1708、Yes)、ステップS1709に進む。
【0137】
ステップS1709において、制御用プロセッサ40は、GPS受信部10から薬剤の散布が終了した時点における防除作業機1の位置情報を取得し、ステップS1710において、図37に示す第2の圃場位置情報Pd2(Xd2、Yd2)として記憶部41、より具体的には不揮発性メモリであるEEPROM41Cに記憶させる。そして、ステップS1711に進み、第1の圃場位置情報Pd1と第2の圃場位置情報Pd2とから、図37に示す圃場FWの領域を決定する。そして、ステップS1712において、制御用プロセッサ40は、決定された圃場FWの領域を、不揮発性メモリ、より具体的にはEEPROM41Cに記憶する。このとき、制御用プロセッサ40は、圃場FWの領域と、薬剤を散布した日時、薬剤の種類、薬剤の散布条件及び天候等と対応付けて、EEPROM41Cに記憶させてもよい。このようにすれば、同じ圃場に再び薬剤を散布するときの条件を設定する際の参考情報として利用できる。
【0138】
このように、少なくとも1箇所の圃場位置情報に基づいて薬剤を散布した圃場FWを特定して記憶部41に記憶させることにより、同じ圃場FWで薬剤を散布する際の条件確認に利用することができる。第16制御例においては、1箇所の圃場位置情報によって圃場FWを特定してもよいが、より圃場FWを特定する精度を向上させるためには、少なくとも2箇所の圃場位置情報を用いることが好ましい。また、第16制御例において、圃場FWを特定するために、第1の圃場位置情報Pd1と第2の圃場位置情報Pd2との2箇所の情報を用いる場合、それぞれ、薬剤の散布を開始するときの位置と、薬剤の散布を終了したときの位置とを用いることが好ましい。このようにすれば、第1の圃場位置情報Pd1と第2の圃場位置情報Pd2とを圃場FWの広い範囲に配置できるので、より確実に圃場FWを特定できる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
以上のように、本発明に係る防除作業機は、GPSを利用した防除作業機に有用である。
【符号の説明】
【0140】
1 防除作業機
2 内燃機関
3FL、3FR 前輪
3RL、3RR 後輪
4 ノズル
5L 第1散布ブーム
5R 第2散布ブーム
5C 第3散布ブーム
5BL、5BR 旋回散布ブーム
5SL、5SR 延長散布ブーム
6 運転席
7 ハンドル
8 薬剤供給系統
9、9a、9b、9c 制御装置
10 GPS受信部
11 表示・操作パネル
11D 表示部
20 タンク
23 散布ホース
27 ポンプ
29 流量制御弁
30 分岐装置
40 制御用プロセッサ
41 記憶部
50 受信アンテナ
51 受信回路
52 信号処理回路
53 時計回路
54 メモリ
55 GPS用プロセッサ
56 送受信回路
80 手動スイッチ
81 ポンプスイッチ
82 設定スイッチ
83 ブザー
84 GPSモニタ
90 車速センサ
91 操舵角センサ
92 圧力センサ
93 流量センサ
94 弁開度センサ
CPC 進入位置変更設定値
SG1、SG2 GPS衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に薬剤を散布する防除作業機であり、
GPS衛星から送信される電波を受信するGPS受信部を備え、
前記GPS受信部から得られる前記防除作業機の進行方向における位置情報と、前記薬剤の散布幅とに基づいて、前記防除作業機が前記圃場の前記薬剤を散布する領域へ進入する際の進入位置を求める進入位置演算部と、
前記進入位置を表示する表示部と、
を含むことを特徴とする防除作業機。
【請求項2】
前記進入位置演算部は、前記進入位置を変更する情報に基づいて前記進入位置を変更する請求項1に記載の防除作業機。
【請求項3】
前記表示部は、前記進入位置と、前記進入位置の前後における所定の範囲とを表示する請求項1又は2に記載の防除作業機。
【請求項4】
さらに、前記防除作業機の速度を求める車速センサを有し、
前記進入位置演算部は、前記GPS受信部から前記位置情報が得られない場合には、前記薬剤の散布幅を用いて前記進入位置を求めるとともに、前記車速センサから得られる情報を用いて前記防除作業機の現在位置を求め、前記表示部は、前記進入位置及び前記現在位置を表示する請求項1から3のいずれか1項に記載の防除作業機。
【請求項5】
前記進入位置演算部は、前記GPS受信部から得られる防除作業機の進行方向の位置情報に基づく前記防除作業機の速度が予め定められた所定の閾値以下である場合には、前記防除作業機の速度を0とする請求項1から4のいずれか1項に記載の防除作業機。
【請求項6】
圃場に薬剤を散布する防除作業機であり、
GPS衛星から送信される電波を受信するGPS受信部を備え、
前記GPS受信部から得られる前記防除作業機の進行方向における位置情報に基づいて、前記防除作業機が前記圃場の前記薬剤を散布する領域へ進入する際の進入位置を求める進入位置演算部と、
前記進入位置を表示する表示部と、を含み、
前記進入位置演算部は、前記進入位置を変更する情報に基づいて前記進入位置を変更することを特徴とする防除作業機。
【請求項7】
圃場に薬剤を散布する防除作業機であり、
GPS衛星から送信される電波を受信するGPS受信部を備え、
前記GPS受信部から得られる前記防除作業機の進行方向における位置情報に基づいて、前記防除作業機が前記圃場の前記薬剤を散布する領域へ進入する際の進入位置を求める進入位置演算部と、
前記進入位置と、前記進入位置の前後における所定の範囲とを表示する表示部と、
を含むことを特徴とする防除作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2012−120481(P2012−120481A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273681(P2010−273681)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】