説明

電動機の制御装置

【課題】非干渉制御を行っても、振動をより低減させることができる電動機の制御装置を提供する。
【解決手段】本制御装置では、回転子角速度ω[rad/s]の振動周波数におけるゲインが小さくなるように、回転子角速度ω[rad/s]をゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に変換するゲイン調整部105を備える。非干渉制御を行うために、非干渉d軸電圧指令値Vd[V]および非干渉q軸電圧指令値Vq[V]を求める非干渉制御部104を備える。非干渉制御部104は、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]、d軸PI出力電圧指令値Vd’[V]およびq軸PI出力電圧指令値Vq’[V]に基づいて求める。更に、非干渉d軸電圧指令値Vd[V]と非干渉q軸電圧指令値Vq[V]から変換された三相電圧指令値Vu、Vv、Vw[V]に基づいて、インバータ2を制御するPWM信号PWMを生成するPWM変換部109とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非干渉制御を行う電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータのd軸の制御系とq軸の制御系に生じる干渉を打ち消すような伝達関数を持つ非干渉制御部を備えた電動パワーステアリングシステムがある(特許文献1参照)。これにより、モータの電流応答を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−82034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非干渉制御を行うと電流応答が良好になるものの、非干渉制御を行わない場合に比べて振動が起こりやすくなる。そこで、従来の電動パワーステアリングシステムでは、トルク指令値を操作することで振動を抑制している。しかし、制御対象のアンモデルや状態変化等により振動を抑制することができない場合があるという問題があった。
【0005】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、非干渉制御を行っても、振動をより低減させることができる電動機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的達成のため、本発明に係る電動機の制御装置では、電動機の回転子角速度の振動周波数におけるゲインが小さくなるように、上記回転子角速度をゲイン調整後角速度に変換するゲイン調整手段を備える。また、非干渉制御を行うために、ゲイン調整後角速度にq軸磁束を乗じたものを前記d軸電圧指令値から減算することにより求める非干渉d軸電圧指令値と、前記ゲイン調整後角速度にd軸磁束を乗じたものを前記q軸電圧指令値に加算することにより求める非干渉q軸電圧指令値と、を求める非干渉制御手段を備える。非干渉d軸電圧指令値と非干渉q軸電圧指令値から変換された三相電圧指令値に基づいて、インバータを制御するPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ゲイン調整手段で変換したゲイン調整後角速度に基づいて非干渉制御を行っているので非干渉制御を行っても制御対象のアンモデルや状態変化等に関わらず振動をより低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1に係るインバータシステムの全体構成図
【図2】図1に示すコントローラの内部構成図
【図3】図2に示すゲイン調整部による回転数の振動の低減効果を示す図
【図4】図2に示すゲイン調整部による、回転数一定状態におけるトルク応答を示す図
【図5】本発明の実施例2に係るゲイン調整部による、回転数振動状態におけるトルク応答を示す図
【図6】本発明の実施例3に係るゲイン調整部の内部ブロック図
【図7】図6に示すゲイン調整部で実行される制御処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る電動機の制御装置を含む装置の一例として、直流電源の直流電力をPWM変調することにより三相電力をモータに供給するインバータを備えるインバータシステムについて説明する。以下に、本発明の実施例1乃至3に係るインバータシステムについて、図1乃至図7を参照して説明する。
【0010】
(実施例1)
(インバータシステムの構成)
以下、図1を参照して、インバータシステムの構成と動作について説明する。図1は、本発明の実施例1に係るインバータシステムの全体構成図である。インバータシステムは、図1に示すように、直流電源1、インバータ2、電動機であるモータ3、電流センサ4、共振特性を有する機械系要素5、位相検出器6、電圧センサ7および制御装置であるコントローラ10を主に備える。ここで、インバータ2は、コントローラ10のPWM信号PWMに基づいて、直流電源1から供給された直流電力を三相電力に変換してモータ3に出力する。モータ3は、インバータ2から供給された三相電力に応じたトルクを発生し、当該トルクを機械系要素5に伝達する。電流センサ4は、モータ3に流れる三相電流値iu[A]、iv[A]、iw[A]を検出する。なお、三相電流値には、iu+iv+iw=0の関係があり、三相のうち二相を検出すれば他の一相は演算によって求められる。これから、電流センサ4は、u相電流値iu[A]およびv相電流値iv[A]を検出する。また、電圧センサ7は、直流電源1の直流電圧値Vdc[V]を検出する。位相検出器6は、レゾルバやエンコーダなどから構成され、モータ3の回転子位相(電気角)θ[rad]を検出する。コントローラ10は、演算装置(CPU)を内蔵し、直流電圧値Vdc[V]、u相電流値iu[A]、v相電流値iv[A]、回転子位相(電気角)θ[rad]、トルク指令値T[N・m]に基づいて、PWM信号PWMを生成する。
【0011】
(コントローラ10の内部構成)
次に、図2を参照して、図1に示したコントローラ10の内部構成について説明する。図2は、図1に示すコントローラ10の内部構成図である。図2に示すように、コントローラ10は、微分部101、table部102、電圧指令値演算手段であるPI制御部103、非干渉制御手段である非干渉制御部104およびゲイン調整手段であるゲイン調整部105を備える。更に、コントローラ10は、第1の座標変換部106、進み補償部107、第2の座標変換部108およびPWM信号生成手段であるPWM変換部109を備える。ここで、微分部101は、下記(数1)式に示すように、モータ3の回転子位相(電気角)θ[rad]を微分して、モータ3の回転子角速度(電気角)ω[rad/s]を演算する。
【0012】
【数1】

table部102は、トルク指令値T[N・m]、モータ3の回転子角速度(電気角)ω[rad/s]および直流電圧値Vdc[V]に基づいて、予め格納されたtableを参照する。そして、d軸電流目標値id[A]、q軸電流目標値iq[A]を求める。
【0013】
第1の座標変換部106は、下記(数2)式に示すように、モータ3の回転子位相(電気角)θ[rad]により、u相電流値iu[A]およびv相電流値iv[A]をd軸電流値id[A]およびq軸電流値iq[A]に二相変換する。
【0014】
【数2】

PI制御部103は、下記(数3)式および(数4)式に示す演算を行う。すなわち、d軸電流目標値id[A]と実際のd軸電流値id[A]との偏差(id−id)からd軸電圧指令値であるd軸PI出力電圧指令値Vd’[V]を演算する。また、q軸電流目標値iq[A]と実際のq軸電流値iq[A]との偏差(iq−iq)からq軸電圧指令値であるq軸PI出力電圧指令値Vq’[V]を演算する。
【0015】
【数3】

【0016】
【数4】

但し、(数3)式および(数4)式において、Kpd:d軸比例ゲイン、Kpq:q軸比例ゲイン、Kid:d軸積分ゲイン、Kiq:q軸積分ゲイン、s:ラプラス演算子、ωc:電流応答のカットオフ角周波数[rad/s]である。
また、Ld:d軸インダクタンス[H]、Lq:q軸インダクタンス[H]、Ra:電機子抵抗[Ω]である。
【0017】
ゲイン調整部105は、下記(数5)式に示す演算を行う。すなわち、モータ3の回転子角速度(電気角)ω[rad/s]の振動周波数におけるゲインが小さくなるように、回転子角速度(電気角)ω[rad/s]をゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に変換する。実施例1では、ローパスフィルタを用いて、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]を演算している。これから、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]はローパスフィルタを通した後の角速度である。
【0018】
【数5】

但し、ωp’[rad/s]は、機械系要素5の共振角周波数ωp[rad/s]より十分に小さい値(数分の1以下)とする。なお、ローパスフィルタを次数の高いフィルタで構成する場合でも、機械系要素5の共振角周波数ωp[rad/s]を十分に減衰させる定数を用いる。
【0019】
非干渉制御部104は、非干渉制御を行うために、下記(数6)式に示す演算を行う。すなわち、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]、d軸PI出力電圧指令値Vd’[V]およびq軸電流目標値iqに基づいて、非干渉d軸電圧指令値Vd[V]を演算する。また、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]、q軸PI出力電圧指令値Vq’[V]およびd軸電流目標値idに基づいて、非干渉q軸電圧指令値Vq[V]を演算する。
【0020】
【数6】

但し、Φa[Wb]:磁石磁束である。
進み補償部107は、下記(数7)式に示すように、モータ3の回転子位相(電気角)θ[rad]から、進み補償後のモータ3の回転子位相(電気角)θ’[rad/s]を演算する。
【0021】
【数7】

但し、Δt:進み補償時間[s]である。
【0022】
第2の座標変換部108は、下記(数8)式に示す演算を行う。すなわち、進み補償後のモータ3の回転子位相(電気角)θ’[rad]により、非干渉d軸電圧指令値Vd[V]および非干渉q軸電圧指令値Vq[V]を三相電圧指令値Vu[V]、Vv[V]、Vw[V]に変換する。
【0023】
【数8】

PWM変換部109は、三相電圧指令値Vu[V]、Vv[V]、Vw[V]に基づいて、インバータ2を制御するPWM信号PWMを生成する。すなわち、下記(数9)式に示すように、直流電圧値Vdcおよび三相電圧指令値Vu[V]、Vv[V]、Vw[V]からPWM信号PWM(on duty)であるtu[%]、tv[%]、tw[%]を演算する。
【0024】
【数9】

上記のように求められたPWM信号PWMによって、インバータ2が制御され、モータ3がトルク指令値T[N・m]で指示された所望のトルクで駆動される。このようにして、モータ3に対して電流フィードバックによるベクトル制御が行われわれる。
【0025】
(ゲイン調整部105による特性の変化)
次に、ゲイン調整部105による回転数の振動の低減効果とトルク応答について、図3および図4を参照して説明する。図3は、図2に示すゲイン調整部105による回転数の振動の低減効果を示す図、図4は、図2に示すゲイン調整部105による、回転数一定状態におけるトルク応答を示す図である。ここで、図3は、機械系要素5にステップ状にトルクを発生させた場合の回転数を表している。図3に示すように、非干渉制御を行わない場合に比べて、従来の非干渉制御を行った場合、回転数の振動が大きくなっている。しかし、実施例1では、ゲイン調整部105で変換したゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に基づいて非干渉制御を行っているので、回転数の振動を低減させることができる。具体的には、図3に示したように、非干渉制御を行わない場合の回転数の振動と同程度にすることができる。よって、非干渉制御を行っても制御対象のアンモデルや状態変化等に関わらず振動をより低減させることができる。
【0026】
また、図4は、回転数が一定の状態でステップ状にトルクを発生させた場合における実際のトルクを表している。図4に示すように、非干渉制御を行わない場合に比べて、従来の非干渉制御を行った場合、トルク応答(電流応答)が良好になっている。実施例1では、ゲイン調整部105で変換したゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に基づいて非干渉制御を行っているので、同様に、トルク応答(電流応答)を良好にすることができる。これから、トルク応答(電流応答)を良好にするために非干渉制御を行った場合でも、回転数の振動をより低減させることができる。
【0027】
以上より、コントローラ10では、トルク指令値T[N・m]、回転子角速度(電気角)ω[rad/s]および直流電圧値Vdc[V]に基づいてdq軸電流目標値id[A]、iq[A]を求めるtable部102を備える。また、モータ3に流れるu相電流値iu[A]およびv相電流値iv[A]を二相変換し、d軸電流値id[A]およびq軸電流値iq[A]を求める第1の座標変換部106を備えている。更に、dq軸電流値id[A]、iq[A]とdq軸電流目標値id[A]、iq[A]との偏差(id−id)、(iq−iq)からdq軸PI出力電圧指令値Vd’[V]、Vq’[V]を求めるPI制御部103を備える。また、回転子角速度(電気角)ω[rad/s]の振動周波数におけるゲインが小さくなるように、回転子角速度(電気角)ω[rad/s]をゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に変換するゲイン調整部105を備える。
【0028】
更に、非干渉制御を行うために、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]、dq軸PI出力電圧指令値Vd’[V]、Vq’[V]に基づいて、非干渉dq軸電圧指令値Vd[V]、Vq[V]を求める非干渉制御部104を備える。また、非干渉dq軸電圧指令値Vd[V]、Vq[V]から変換された三相電圧指令値Vu[V]、Vv[V]、Vw[V]に基づいて、インバータ2を制御するPWM信号PWMを生成するPWM変換部109を備えている。これから、ゲイン調整部105で変換したゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に基づいて非干渉制御を行っているので、非干渉制御を行っても制御対象のアンモデルや状態変化等に関わらず振動をより低減させることができる。また、ゲイン調整部105で変換されるゲイン調整後角速度ω’[rad/s]は、ローパスフィルタを通した後の角速度である。これから、振動時、非干渉制御を行わない場合の振動と同程度にすることができる。よって、トルク応答(電流応答)を良好に保持したまま、電流フィードバックによるベクトル制御において振動を低減させることができる。
【0029】
(実施例2)
次に、実施例2に係るインバータシステムについて、実施例1に係るインバータシステムと異なる点を中心に図3乃至図5を参照して説明する。また、実施例2に係るインバータシステムについて、実施例1に係るインバータシステムと同様の構造には同じ番号を付し、説明を省略する。実施例2に係るインバータシステムは、実施例1とほとんど同じである。実施例2に係るインバータシステムが、実施例1に係るインバータシステムと異なる点は、ゲイン調整手段であるゲイン調整部が異なることだけである。実施例2に係るゲイン調整部も、モータ3の回転子角速度(電気角)ω[rad/s]の振動周波数におけるゲインが小さくなるように、回転子角速度(電気角)ω[rad/s]をゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に変換する。
【0030】
実施例2では、下記(数10)式に示すように、実施例1に係るゲイン調整部105と異なり、ノッチフィルタを用いて、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]を演算している。これから、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]はノッチフィルタを通した後の角速度である。
【0031】
【数10】

但し、k≧1、0≦k’<(k+1)/kとし、k’は機械系要素5の共振角周波数ωp[rad/s]を十分に減衰させる値、ωp”[rad/s]は機械系要素5の共振角周波数ωp[rad/s]近傍の値とする。なお、ノッチフィルタを次数の高いフィルタで構成する場合も同様に、機械系要素5の共振角周波数ωp[rad/s]を十分に減衰させる定数を用いる。その後、実施例2に係る非干渉制御部104は、実施例1と同様に、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]、d軸PI出力電圧指令値Vd’[V]およびq軸電流目標値iqに基づいて、非干渉d軸電圧指令値Vd[V]を演算する。更に、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]、q軸PI出力電圧指令値Vq’[V]およびd軸電流目標値idに基づいて、非干渉q軸電圧指令値Vq[V]を演算する。
【0032】
次に、実施例2のゲイン調整部による回転数の振動の低減効果とトルク応答について、図3乃至図5を参照して説明する。図3に示したように、実施例2でも、実施例1と同様に、ゲイン調整部で変換したゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に基づいて非干渉制御を行っているので、回転数の振動を低減させることができる。これから、非干渉制御を行わない場合の回転数の振動と同程度にすることができる。よって、非干渉制御を行っても制御対象のアンモデルや状態変化等に関わらず振動をより低減させることができる。また、図4に示したように、実施例2でも、実施例1と同様に、ゲイン調整部で変換したゲイン調整後角速度ω’[rad/s]に基づいて非干渉制御を行っているので、同様に、トルク応答(電流応答)を良好にすることができる。これから、実施例1と同様に、トルク応答(電流応答)を良好にするために非干渉制御を行った場合でも、回転数の振動をより低減させることができる。
【0033】
図5は、本発明の実施例2に係るゲイン調整部による、回転数振動状態におけるトルク応答を示す図である。図5は、回転数が振動する状態でステップ状にトルクを発生させた場合における実際のトルクを表している。図5に示すように、従来の非干渉制御を行った場合に比べて、実施例1の場合、トルク応答(電流応答)が悪化している。しかし、実施例2では、実施例1と異なり、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]として、ノッチフィルタを通した後の角速度を用いているので、実施例1よりも、回転数振動状態におけるトルク応答(電流応答)を若干改善できる。
【0034】
以上より、実施例2に係るゲイン調整部で変換されるゲイン調整後角速度ω’[rad/s]は、ノッチフィルタを通した後の角速度である。これから、振動時、非干渉制御を行わない場合の振動と同程度にすることができる。よって、トルク応答(電流応答)を良好に保持したまま、電流フィードバックによるベクトル制御において振動を低減させることができる。更に、実施例1よりも、回転数振動状態におけるトルク応答(電流応答)を若干改善することができる。よって、速度が急変した場合のトルクの遅れが少ないため、速度急変時の電流応答をより良好に保持することができる。
【0035】
(実施例3)
次に、実施例3に係るインバータシステムについて、実施例1に係るインバータシステムと異なる点を中心に図3乃至図7を参照して説明する。また、実施例3に係るインバータシステムについて、実施例1に係るインバータシステムと同様の構造には同じ番号を付し、説明を省略する。実施例3に係るインバータシステムは、実施例1とほとんど同じである。実施例3に係るインバータシステムが、実施例1に係るインバータシステムと異なる点は、ゲイン調整手段であるゲイン調整部が異なることだけである。図6は、本発明の実施例3に係るゲイン調整部305の内部ブロック図である。図6に示すように、実施例3に係るゲイン調整部305は、判定手段である判定部3051、計時部3052および出力手段である出力部3053を備えている。
【0036】
ここで、判定部3051は、モータ3の回転子角速度(電気角)ω[rad/s]から振動周波数成分ω”[rad/s]を検知する。判定部3051における振動周波数成分ω”[rad/s]の検知は、例えば、下記(数11)式に示すように、バンドパスフィルタを用いて行う。
【0037】
【数11】

但し、k≧1、k’は任意の値、ωp”[rad/s]は機械系要素5の共振角周波数ωp[rad/s]近傍の値とする。また、判定部3051は、所定の閾値を持ち、振動周波数成分ω”[rad/s]が所定の閾値を超えたか否かを判定する。
【0038】
振動周波数成分ω”[rad/s]が所定の閾値を超えていないと判定部3051が判定した場合、出力部3053は、モータ3の回転子角速度ω[rad/s]を非干渉制御部104に出力する。この場合、非干渉制御部104は、回転子角速度ω[rad/s]、d軸PI出力電圧指令値Vd’[V]およびq軸電流目標値iqに基づいて、非干渉d軸電圧指令値Vd[V]を演算する。更に、回転子角速度ω[rad/s]、q軸PI出力電圧指令値Vq’[V]およびd軸電流目標値idに基づいて、非干渉q軸電圧指令値Vq[V]を演算する。
【0039】
一方、振動周波数成分ω”[rad/s]が所定の閾値を超えたと判定部3051が判定した場合、出力部3053は、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]を演算し、非干渉制御部104に出力する。ここで、上記ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]を、現在の回転子角速度ω[rad/s]で固定した角速度とする。または、現在の回転子角速度ω[rad/s]をレートリミッタで制限した角速度とする。または、現在の回転子角速度ω[rad/s]をローパスフィルタやノッチフィルタを通した後の角速度とする。ローパスフィルタやノッチフィルタの場合、現在の回転子角速度ω[rad/s]を定常状態としてスタートする。この場合、非干渉制御部104は、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]、d軸PI出力電圧指令値Vd’[V]およびq軸電流目標値iqに基づいて、非干渉d軸電圧指令値Vd[V]を演算する。更に、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]、q軸PI出力電圧指令値Vq’[V]およびd軸電流目標値idに基づいて、非干渉q軸電圧指令値Vq[V]を演算する。
【0040】
その後、振動周波数成分ω”[rad/s]が所定の閾値より小さくなったと判定部3051が判定した場合、出力部3053は、ある一定時間経過後にレートリミッタを用いて回転子角速度ω[rad/s]まで戻す。計時部3052は、振動周波数成分ω”[rad/s]が所定の閾値より小さくなったと判定部3051が判定した時点からの時間を計測する。判定部3051は、計時部3052で計測している時間がある一定時間以上か否か判定する。なお、上記の場合に用いられるレートリミッタは、振動周波数成分ω”[rad/s]が所定の閾値を超えたと判定部3051が判定した場合に用いられるレートリミッタより大きいリミット値とする。出力部3053は、回転子角速度ω[rad/s]まで戻ったら、レートリミッタ自体を使わないようにする。
【0041】
次に、ゲイン調整部305で実行される制御処理について、図7を参照して説明する。図7は、図6に示すゲイン調整部305で実行される制御処理を示すフローチャートである。図7に示すように、判定部3051は、前回の回転子角速度ω1[rad/s]の振動周波数成分(以下、振動とする。)ω1”[rad/s]が所定の閾値を超えていたか否か判定する(ステップS301)。前回の振動ω1”[rad/s]が所定の閾値を超えていないと判定した場合(ステップS301:No)、判定部3051は今回の振動ω2”[rad/s]が所定の閾値を超えたか否か判定する(ステップS302)。今回の振動ω2”[rad/s]が所定の閾値を超えていないと判定した場合(ステップS302:No)、判定部3051は、計時部3052のタイマーの値が一定値以上になったか否か判定する(ステップS304)。なお、計時部3052のタイマーの初期値として、上記一定値以上の値を設定しておく。
【0042】
計時部3052のタイマーの値が一定値以上になったと判定部3051が判定した場合(ステップS304:Yes)、出力部3053は、今回の出力角速度を出力する(ステップS305)。上記の場合、出力部3053は、前回の入力角速度、すなわち、前回の回転子角速度ω1[rad/s]と前回の出力角速度が一致していた場合、今回の入力角速度を今回の出力角速度として出力する。一方、前回の入力角速度と前回の出力角速度が一致していなかった場合、レートリミッタで、今回の入力角速度、すなわち、今回の回転子角速度ω2[rad/s]と今回の出力角速度が一致するまで今回の出力角速度を動かす。その後、今回の出力角速度(今回の入力角速度)を出力する。
【0043】
今回の振動ω2”[rad/s]が所定の閾値を超えたと判定した場合(ステップS302:Yes)、出力部3053はゲイン調整後角速度ω2’[rad/s]を今回の出力角速度として出力する(ステップS303)。上記のとおり、ゲイン調整後角速度ω2’[rad/s]を、今回の回転子角速度ω2[rad/s]で固定した角速度とする。または、今回の回転子角速度ω2[rad/s]をレートリミッタで制限した角速度とする。または、今回の回転子角速度ω2[rad/s]をローパスフィルタやノッチフィルタを通した後の角速度とする。これから、上記ゲイン調整後角速度ω2’[rad/s]により、トルク応答(電流応答)を良好にするために非干渉制御を行った場合でも、回転子角速度ω2[rad/s]の振動ω2”[rad/s]をより低減させることができる。その後、ステップS301に戻り、以下の制御処理を順次実行する。
【0044】
次に、前回の振動ω2”[rad/s]が所定の閾値を超えたと判定した場合(ステップS301:Yes)、判定部3051は今回の振動ω3”[rad/s]が所定の閾値を超えたか否か判定する(ステップS306)。今回の振動ω3”[rad/s]が所定の閾値を超えたと判定した場合(ステップS306:Yes)、出力部3053は、ゲイン調整後角速度ω3’[rad/s]を今回の出力角速度として出力する(ステップS308)。ここで、ゲイン調整後角速度ω3’[rad/s]を、前回の回転子角速度ω2[rad/s]で固定した角速度である出力角速度を維持した角速度とする。または、今回の回転子角速度ω3[rad/s]をレートリミッタで制限した角速度とする。または、今回の回転子角速度ω3[rad/s]をローパスフィルタやノッチフィルタを通した後の角速度とする。その後、ステップS301に戻り、以下の制御処理を順次実行する。
【0045】
次に、今回の振動ω4”[rad/s]が所定の閾値を超えていないと判定した場合(ステップS306:No)、判定部3051は、計時部3052のタイマーをクリアする。更に、判定部3051は、計時部3052のタイマーをスタートさせる(ステップS307)。出力部3053は、ゲイン調整後角速度ω4’[rad/s]を出力角速度として出力する(ステップS308)。同様に、ゲイン調整後角速度ω4’[rad/s]を、前回の回転子角速度ω3[rad/s]で固定した角速度である出力角速度を維持した角速度とする。または、今回の回転子角速度ω4[rad/s]をレートリミッタで制限した角速度とする。または、今回の回転子角速度ω4[rad/s]をローパスフィルタやノッチフィルタを通した後の角速度とする。その後、ステップS301に戻り、以下の制御処理を順次実行する。
【0046】
次に、計時部3052のタイマーの値が一定値以上になっていないと判定部3051が判定した場合(ステップS304:No)、出力部3053は、ゲイン調整後角速度ω5’[rad/s]を出力角速度として出力する(ステップS308)。同様に、ゲイン調整後角速度ω5’[rad/s]を、前回の回転子角速度ω4[rad/s]で固定した角速度である出力角速度を維持した角速度とする。または、今回の回転子角速度ω5[rad/s]をレートリミッタで制限した角速度とする。または、今回の回転子角速度ω5[rad/s]をローパスフィルタやノッチフィルタを通した後の角速度とする。その後、ステップS301に戻り、以下の制御処理を順次実行する。
【0047】
次に、計時部3052のタイマーの値が一定値以上になったと判定部3051が判定した場合(ステップS304:Yes)、出力部3053は、今回の出力角速度を出力する(ステップS305)。上記の場合、出力部3053は、前回の入力角速度、すなわち、前回の回転子角速度ω5[rad/s]と前回の出力角速度が一致していた場合、今回の入力角速度を今回の出力角速度として出力する。一方、前回の入力角速度と前回の出力角速度が一致していなかった場合、レートリミッタで、今回の入力角速度、すなわち、今回の回転子角速度ω6[rad/s]と今回の出力角速度が一致するまで今回の出力角速度を動かす。その後、今回の出力角速度(今回の入力角速度)を出力する。以降、ステップS301〜S308の制御処理を順次、繰り返し実行する。
【0048】
このようにして、ゲイン調整部305は、回転子角速度ω[rad/s]の振動ω”[rad/s]を検知している間、および、検知しなくなってから一定時間だけ、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]を出力する。よって、実施例3では、上記の時間、実施例1または実施例2と同様の効果(図3乃至図5参照)を取得できる。一方、上記の時間以外、ゲイン調整部305は、回転子角速度ω[rad/s]を出力する。よって、上記の時間以外では、従来の非干渉制御を行った場合と同様の効果(図4および図5参照)を取得できる。
【0049】
以上より、実施例3に係るゲイン調整部305は、回転子角速度ω[rad/s]から振動ω”[rad/s]を検知する判定部3051を備える。また、振動ω”[rad/s]が所定の閾値を超えたと判定部3051が判定した場合に、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]を出力する出力部を備えている。ここで、ゲイン調整後角速度ω’[rad/s]を、現在の回転子角速度ω[rad/s]で固定した角速度とする。または、現在の回転子角速度ω[rad/s]をレートリミッタで制限した角速度とする。または、現在の回転子角速度ω[rad/s]をローパスフィルタやノッチフィルタを通した後の角速度とする。これより、振動ω”[rad/s]を検知している間、非干渉制御を行っても、非干渉制御を行わない場合の振動と同程度にすることができる。よって、トルク応答(電流応答)を良好に保持したまま、電流フィードバックによるベクトル制御において振動を低減させることができる。また、振動ω”[rad/s]を検知しない間、従来の非干渉制御を行った場合と同様の効果を取得できる。よって、速度が急変した場合の遅れがないため、速度急変時の電流応答をより良好に保持することができる。
【0050】
なお、以上に述べた実施例は、本発明の実施の一例であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で、他の様々な実施例に適用可能である。例えば、実施例1乃至3に係るコントローラでは、微分部101、table部102、第1の座標変換部106、第2の座標変換部108を含むが、特にこれに限定されるものでなく、含まなくても良い。微分部101、table部102、第1の座標変換部106、第2の座標変換部108を備える他の装置と伝送できれば良い。
【0051】
また、実施例1乃至3に係るコントローラでは、進み補償部107を備えているが、特にこれに限定されるものでなく、無くても同様の効果を取得できる。
【0052】
また、実施例3では、判定部3051で回転子角速度ω[rad/s]から振動ω”[rad/s]を検知しているが、特にこれに限定されるものでなく、検知しなくても良い。この場合、振動ω”[rad/s]検出時の回転子角速度ω[rad/s]は制限するが、振動ω”[rad/s]不検出時の回転子角速度ω[rad/s]は制限しないレートリミッタを設定できれば良い。
【0053】
また、実施例3では、判定部3051は、計時部3052のタイマーの値が一定値以上となったか否か判定しているが、特にこれに限定されるものでなく、判定部3051の上記判定処理および計時部3052は無くても良い。
【符号の説明】
【0054】
1…直流電源、2…インバータ、3…電動機であるモータ、4…電流センサ、
5…機械系要素、6…位相検出器、7…電圧センサ、10…コントローラ、
101…微分部、102…table部、
103…電圧指令値演算手段であるPI制御部、
104…非干渉制御手段である非干渉制御部、
105…ゲイン調整手段であるゲイン調整部、106…第1の座標変換部、
107…進み補償部、108…第2の座標変換部、
109…PWM信号生成手段であるPWM変換部、
305…ゲイン調整手段であるゲイン調整部、
3051…判定手段である判定部、3052…計時部、
3053…出力手段である出力部、
Vdc…直流電圧値、iu…u相電流値、iv…v相電流値、
id…d軸電流値、iq…q軸電流値、id…d軸電流目標値、
iq…q軸電流目標値、
Vd’ …d軸電圧指令値であるd軸PI出力電圧指令値、
Vq’ …q軸電圧指令値であるq軸PI出力電圧指令値、
Vd…非干渉d軸電圧指令値、Vq…非干渉q軸電圧指令値、
Vu、Vv、Vw…三相電圧指令値、
…トルク指令値、
θ…回転子位相(電気角)、θ’…進み補償後の回転子位相(電気角)、
ω…回転子角速度(電気角)、ω’…ゲイン調整後角速度、
PWM…PWM信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の回転子角速度とトルク指令値に基づいて求められたd軸電流目標値と、前記電動機に流れる三相電流値から二相変換されたd軸電流値との偏差からd軸電圧指令値を、
前記回転子角速度と前記トルク指令値に基づいて求められたq軸電流目標値と、前記三相電流値から二相変換されたq軸電流値との偏差からq軸電圧指令値を、求める電圧指令値演算手段と、
前記回転子角速度の振動周波数におけるゲインが小さくなるように、前記回転子角速度をゲイン調整後角速度に変換するゲイン調整手段と、
非干渉制御を行うために、前記ゲイン調整後角速度にq軸磁束を乗じたものを前記d軸電圧指令値から減算することにより求める非干渉d軸電圧指令値と、前記ゲイン調整後角速度にd軸磁束を乗じたものを前記q軸電圧指令値に加算することにより求める非干渉q軸電圧指令値と、を求める非干渉制御手段と、
前記非干渉d軸電圧指令値と前記非干渉q軸電圧指令値から変換された三相電圧指令値に基づいて、インバータを制御するPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、を備えることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
前記ゲイン調整後角速度は、ローパスフィルタを通した後の角速度であることを特徴とする請求項1に記載の電動機の制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン調整後角速度は、ノッチフィルタを通した後の角速度であることを特徴とする請求項1に記載の電動機の制御装置。
【請求項4】
前記ゲイン調整手段は、前記回転子角速度から振動周波数成分を検知する判定手段と、
前記判定手段が前記振動周波数成分である回転子角速度が所定の閾値を超えたと判定した場合に、現在の前記回転子角速度で固定した角速度、現在の前記回転子角速度をレートリミッタで制限した角速度、または、現在の前記回転子角速度をローパスフィルタやノッチフィルタを通した後の角速度である前記ゲイン調整後角速度を出力する出力手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−85474(P2013−85474A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−14770(P2013−14770)
【出願日】平成25年1月29日(2013.1.29)
【分割の表示】特願2007−273437(P2007−273437)の分割
【原出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】