説明

SiCバイポーラ型半導体素子

【課題】キャリア捕獲中心の少ないSiC半導体素子を提供する。
【解決手段】n型またはp型のSiC基板11と、n型またはp型の少なくとも1つのSiCエピタキシャル層12、あるいはn型またはp型の少なくとも1つのイオン注入層14と、を有し、pn接合界面付近および伝導度変調層(ベース層)内を除いた、SiC基板表面付近、SiC基板とSiCエピタキシャル層との界面付近、およびSiCエピタキシャル層の表面付近のうち少なくとも1つの領域100に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより伝導度変調層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を伝導度変調層内に有するSiCバイポーラ型半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成長後のSiC結晶層の質を改善する方法に関する。本発明はまた、そのような方法を実行することにより製造された半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図19は、完全な4H−SiC結晶におけるSi原子およびC原子の配列を概略的に示した図である。しかし半導体の結晶格子は、いかなる不純物も含まないとしても完全ではなく、ある量の原子空孔と格子間原子が常に存在し、熱力学平衡を維持している。図20にも示すように、化合物半導体中における点欠陥は、次のように分類できる。
a)原子空孔(vacansy):原子が格子点から除かれたもの
b)格子間原子(interstitial):原子が、格子点からずれたサイトを占有したもの。格子間原子が、ホスト格子と同種である場合、自己格子間原子(self-interstitial)と呼ばれ、そうでない場合には、格子間不純物原子(interstitial impurity)と呼ばれる。
c)フレンケル対(Frenkel pair):原子空孔が自己格子間原子の近くに位置しているもの
d)アンチサイト(antisite):1つの副格子における原子が他の副格子に配置されたもの
e)不純物:外部原子によるもの
加えて、上記の欠陥が関連したものもしばしば起こり得る。すなわち、複原子空孔(di-vacancy)や、原子空孔-不純物複合体(vacancy-impurity complexes)である。
【0003】
単結晶の周期性が不純物原子または結晶欠陥により乱されたとき、バンドギャップには不連続なエネルギーレベルが導入される。これらのレベルは、浅いレベルと深いレベルに分けられる。
【0004】
浅いレベル中心は、通常はドナーまたはアクセプタ不純物である。一方、浅い準位とは対照的に、深い準位の欠陥は、伝導帯とおよび価電子帯の両方と相互作用し、捕獲および再結合の中心として非常に効率的であり得る。この場合、これらの欠陥は、電気的に活性であると呼ばれ、しばしば"トラップ"と言及される。これらは、非常に低い濃度でさえ、キャリアライフタイムに大きく影響する。
【0005】
現在では、良質のSiC層が利用できるようになったが、それらは、キャリアトラップとして作用し材料特性を低下させる固有(真性)欠陥をなお含んでいる。特に、固有欠陥濃度は、成長速度および成長温度の増加と共に増加する。SiCの高い熱安定性は、通常、これらの欠陥を熱処理によって除去(アニールアウト)することを困難または不可能にする。成長速度の増加は、費用対効果の高い厚い層を成長させるために必要であるので、これらの層において低い欠陥密度を達成する方法を見出すことが重要である。
【0006】
高温熱処理(アニーリング)によって、欠陥濃度を減少させて、結晶成長終了状態の材料(以下、アズグロウン材料と述べる。アズグロウンはas-grownの意)の質をある程度向上することができる。しかしながら、SiC単結晶の場合では、前述の高い熱安定性に起因して、その向上は十分ではない。さらに、電子、プロトン、またはイオンの照射により生成された一部の真性欠陥はアニーリングにより除去できるが、その一部は減少するのみであり、最も低い欠陥濃度は、通常は元のアズグロウン材料により決定される。
【0007】
アズグロウンSiC層における電気的に活性な欠陥は、Zhangらにより研究されている(非特許文献1)。当該文献において、アズグロウンSiC層における主な電子トラップおよび正孔トラップは、深い準位過渡分光法(Deep Level Transient Spectroscopy:DLTS)および少数キャリア過渡分光法(Minority Carrier Transient Spectroscopy:MCTS)を用いることにより決定された。すなわち、TiおよびB不純物に関連したトラップ、および電子トラップに関連したZ1/Z2およびEH6/7真性欠陥がこれらの方法により測定された。また、Z1/Z2およびEH6/7トラップは、少数キャリアライフタイムに対して逆の相関を示した。
【0008】
Kleinらは、Z1/Z2欠陥が正孔のための大きい捕獲断面積をもち、n型SiC層における少数キャリアライフタイムの制限に支配的であると結論した(非特許文献2)。
Kimotoらは、CVD成長の間におけるシリコンに対する炭素の比率の関数として、Z1/Z2中心の濃度依存性を研究した。彼らは、C-リッチな条件における成長が、低いZ1/Z2中心の濃度を得るために鍵となる要因であることを示した(非特許文献3)。
【0009】
炭素原子の選択的な置換に関連した深い準位は、Storastaらにより研究された(非特許文献4)。シリコン原子置換のための閾値を下回るエネルギーでの電子照射が、Z1/Z2およびEH6/7真性欠陥を生成するのに十分であった。従って、それらは炭素原子空孔または格子間原子のいずれかに関連した欠陥(複合体)に関連していると結論される。
【0010】
アズグロウン材料におけるZ1/Z2およびEH6/7トラップのアニーリングによる低減効果は、Negoroらにより調べられた(非特許文献5)。1700℃以上の温度でアニーリングすることにより、Z1/Z2およびEH6/7中心の濃度は、アズグロウンエピタキシャル層におけるそれに比べて一桁のオーダーで低くなったが、完全には消滅しなかった。
【0011】
なお、SiC素子の形成過程において、アルミニウム、ボロン、窒素等を表面層へイオン注入し、それらの注入原子を当該表面層内において電気的に活性化させ、当該表面層を素子構造として利用する目的で高温熱処理を行うことは知られている。また、ボロン等の不純物を表面層へイオン注入し、当該表面層内において不純物をアニーリングにより電気的に活性化させて素子構造を形成する際に、炭素を同時にイオン注入することが提案されている。特許文献1は、素子構造として利用するボロンのp型層を形成するための技術に関するものである。ここで開示された技術では、活性化されたボロンを浅いエネルギーレベルをもつシリコンサイトへ選択的に導入するために、ボロンと共に炭素を表面層へイオン注入し、アニーリング時に、当該表面層内においてボロンが格子間シリコンおよび格子間炭素と競合して拡散する際に、当該表面層内における余剰の格子間炭素の存在により、電気的に活性化されたボロンが炭素空孔ではなくシリコン空孔へ選択的に導入されるようにしている。
【0012】
しかしながら、既に知られているこのような技術は、素子構造形成のために表面層へ注入した不純物をアニーリングによって当該表面層内において電気的に活性化させることを目的としたものであり、以下に説明する本発明のように、アズグロウンSiC結晶の浅い表面層に格子間炭素原子を導入し、その後のアニーリングによって格子間炭素原子を当該表面層よりも深い領域に拡散させ、そのウェハ深部における点欠陥を消滅させることを何ら示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,703,294号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Journal of Applied Physics, Vol. 93, No. 8, pp. 4708-4714, 15 April 2003
【非特許文献2】Applied Physics Letters, 88, 052110, 30 January 2006
【非特許文献3】Applied Physics Letters, Vol. 79, No. 17, pp. 2761-2763, 22 October 2001
【非特許文献4】Applied Physics Letters, Vol. 85, Issue 10, pp. 1716-1718, September 2004
【非特許文献5】Journal of Applied Physics, Vol. 96, No. 9, pp. 4909-4915, 1 November 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高温アニーリングにより、キャリア捕獲中心を効果的に減少または除去する方法を提供することを目的とする。
また本発明は、キャリア捕獲中心の少ないSiC半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
我々は、余剰の格子間炭素原子の導入により、アズグロウン材料中の欠陥のアニーリングによる低減効果が向上できることを提案する。SiCにおける主な欠陥は極めて安定であるが、移動可能な格子間炭素原子を捕獲することによりアニールアウトまたは不活性化できる。格子間炭素原子はその後、炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。我々はまた、これらの余剰の格子間炭素原子自体は、電気的に活性な欠陥を形成せず、バンドギャップ中に状態を生成しないことを示唆する。
【0017】
すなわち本発明の目的は、SiC結晶層中に存在する欠陥に対して余剰の格子間炭素原子の源を形成するために、当該SiC結晶層の端面における表面層に、炭素原子や珪素原子、水素原子、ヘリウム原子を初めとする原子をイオン注入して、該表面層に格子間炭素原子を導入する追加の工程(a)と、表面層に導入した格子間炭素原子を注入層の下方の材料中(バルク層中)に拡散させ、かつバルク層中の原子空孔と格子間炭素原子を結合させる追加の工程(b)を有する方法により達成される。
【0018】
この技術によれば、アニーリング工程(b)の間において、注入層の下方の材料中に拡散する追加の格子間炭素原子の利用を可能にする。これらの余剰の格子間炭素原子は、アニーリング工程(b)の期間中に原子空孔を充たし、これによりそれらを除去するか、あるいは、良好な再結合中心として作用しない別の欠陥を形成する。このようにして、バイポーラ素子に重要なSiC層中のキャリアライフタイムを向上させることができる。
【0019】
本発明の好ましい態様を適用した後の我々の測定によれば、Z1/Z2およびEH6/7からのシグナルは完全に消滅し、従って、トラップは電気的に不活性化した。これは、少数キャリアライフタイムの測定にも反映される。
【0020】
余剰の格子間炭素原子を導入してSiC結晶層中の原子空孔を充たすために表面層へ注入する原子としては、格子間炭素原子を直接導入することが可能で、かつSiC結晶に対して中性的に作用する炭素が最も好ましい。しかし、炭素以外の任意のイオンを注入した場合においても、その注入エネルギーや注入量が十分であれば、注入原子によってSiC結晶を構成する炭素原子を格子点からはじき飛ばすことができ、結果として(間接的に)SiC結晶の表面層に格子間炭素原子を生成することができる。
【0021】
中でも、珪素原子、水素原子、ヘリウム原子は、炭素原子と同様に、SiC結晶中で中性的であるので、格子間炭素原子を導入した後の高温アニール処理によって、表面層にp型あるいはn型のドーピングが行われることを防ぐことができるので、他種の原子よりも適している。
【0022】
炭素原子、珪素原子、水素原子、ヘリウム原子以外の原子を注入した場合には、これらの注入原子がp型、n型いずれかの不純物(ドーパント)として働き、アニール後に表面層が高濃度のp型、n型、または高抵抗を示すことになるが、表面層より深い領域においては、高温アニール処理によって表面層より格子間炭素原子が拡散されることで原子空孔が低減できる。
【0023】
さらに、90keV以上のエネルギーを有する電子線を照射する場合においても、表面層に格子間炭素を導入することが可能である。これは、電子線をSiC結晶に照射する際に、その電子線のエネルギーが約90keV以上である場合に、SiC結晶を構成する炭素原子が、元の格子点からはじき飛ばされて、格子間炭素が生成されることによるものである。
【0024】
さらに,800℃以上の酸素雰囲気中で,SiC結晶の表面層を酸化させることでも表面層に格子間炭素を導入することが可能である。これは,SiC結晶の表面層が酸化される際に、主に酸化層とSiC結晶の界面付近に過剰な格子間炭素原子が生成されることによる。この場合,800℃以下においてはSiC結晶の表面層を十分な速度で酸化することができない。最も適当な酸化温度は1050℃〜1250℃程度である。
【0025】
すなわち本発明によれば、アズグロウンSiC結晶層におけるキャリア捕獲中心を除去または大幅減少することによりSiC結晶の質を向上させる方法であって、
(a)SiC結晶層における浅い表面層に、ある原子をイオン注入することで格子間炭素原子を追加導入する工程と、
(b)SiC結晶を加熱することにより、表面層に追加導入された格子間炭素原子を該表面層から深部(バルク層)へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、バルク層における電気的に活性な点欠陥を不活性化する工程と、
を含む、SiC結晶の質を向上させる方法が提供される。
【0026】
本発明における1つの態様では、(c)原子が注入された表面層を、エッチングするかまたは機械的に除去する工程をさらに含む。
本発明における別の態様では、工程(a)は、特に炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子を選択してイオン注入することで、表面層にn型またはp型のドーピングが行われない状態で行われる。
【0027】
本発明における別の態様では、工程(a)と、工程(b)とが同時に行われる。
本発明における別の態様では、工程(a)は、90keV以上のエネルギーを有する電子線を照射することで行われる。
【0028】
本発明における別の態様では、工程(a)は、800℃以上の酸素雰囲気中で,表面層を酸化することで行われる。
本発明における別の態様では、工程(a)はさらに、生成された格子間炭素原子の濃度がバルク層における電気的に活性な点欠陥の濃度を超えるように注入原子のドーズ量を選択することを含む。
【0029】
工程(a)において、原子のイオン注入のエネルギーは、10keV〜10MeVの範囲内にあることが好ましい。
工程(a)において、イオン注入時におけるSiC基材の温度は、10〜1700℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20℃〜1000℃の範囲内にある。
【0030】
工程(b)において、アニーリング温度は、1200〜2200℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1400〜1900℃の範囲内にある。
本発明における1つの態様では、工程(a)および工程(b)において、エピタキシャル層を有するSiCウェハが用いられる。
【0031】
本発明における別の態様では、工程(a)および工程(b)において、SiCバルク結晶が用いられる。
本発明における別の態様では、工程(a)および工程(b)において、SiCバルク結晶をスライスしたウェハが用いられる。
【0032】
本発明における別の態様では、工程(a)および工程(b)において、SiCバルク結晶をスライスしたウェハを基板としてSiCエピタキシャル層を得た後に、基板部分を取り去って、エピタキシャル層単体としたSiC単結晶ウェハが用いられる。
【0033】
本発明における別の態様では、工程(a)および工程(b)において、n型およびp型のエピタキシャル層の任意の組み合わせを有するSiCウェハが用いられる。
また本発明によれば、アズグロウンSiC結晶層におけるキャリア捕獲中心を除去または減少することによりSiC結晶の質を向上させる方法であって、
(a)SiC結晶層における浅い表面層に、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することによって、該表面層に格子間炭素原子を追加導入する工程と、
(b)格子間炭素原子が導入された表面層の端面から上にSiC層を成長させ、表面層に導入された格子間炭素原子を該表面層からこの成長層へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、該成長層における電気的に活性な点欠陥を不活性化する工程と、
を含む、SiC結晶の質を向上させる方法が提供される。
【0034】
本発明における1つの態様では、工程(a)はさらに、追加導入される格子間炭素原子の濃度が成長層における電気的に活性な点欠陥の濃度を超えるように注入原子のドーズ量を選択することを含む。
【0035】
工程(a)において、原子のイオン注入のエネルギーは、10keV〜10MeVの範囲内にあることが好ましい。
工程(a)において、イオン注入時におけるSiC基材の温度は、10〜1700℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20℃〜1000℃の範囲内にある。
【0036】
本発明における1つの態様では、工程(a)および工程(b)において、エピタキシャル層を有するSiCウェハが用いられる。
本発明における別の態様では、工程(a)および工程(b)において、SiCバルク結晶が用いられる。
【0037】
本発明における別の態様では、工程(a)および工程(b)において、SiCバルク結晶をスライスしたウェハが用いられる。
本発明における別の態様では、工程(a)および工程(b)において、SiCバルク結晶をスライスしたウェハを基板としてSiCエピタキシャル層を得た後に、基板部分を取り去って、エピタキシャル層単体としたSiC単結晶ウェハが用いられる。
【0038】
本発明における別の態様では、工程(a)および工程(b)において、n型およびp型のエピタキシャル層の任意の組み合わせを有するSiCウェハが用いられる。
本発明において、工程(a)でイオン注入等により格子間炭素原子が導入される浅い表面層の幅は、例えば、表面から100nm〜2000nmまでの範囲内である。工程(b)のアニーリングにより拡散し、電気的に活性な点欠陥を不活性化した炭素原子が存在する領域の幅は、例えば、表面(ウェハ端面)から10000〜300000nm(表面から10μm〜300μm)までの範囲内である。
【0039】
本発明の工程(a)においては、表面層にイオン注入を行うことにより、該表面層中には格子間炭素の他に、炭素空孔、珪素空孔、および格子間珪素も同時に生成される。これらの炭素空孔、珪素空孔、および格子間珪素の一部は、格子間炭素と同様に、工程(b)において、該表面層からバルク層中に拡散する。
【0040】
バルク層中には、炭素空孔およびその複合欠陥の他に、格子間炭素およびその複合欠陥、格子間珪素およびその複合欠陥、珪素空孔およびその複合欠陥で構成される点欠陥が存在しているが、表面層から拡散した炭素空孔はバルク層内の格子間炭素およびその複合欠陥と、表面層から拡散した珪素空孔はバルク層内の格子間珪素およびその複合欠陥と、表面層から拡散した格子間珪素はバルク層内の珪素空孔およびその複合欠陥と結合することで、バルク層中の点欠陥が低減される。
【0041】
バルク層のキャリアライフタイムは、炭素空孔およびその複合欠陥の点欠陥密度によって制限されている場合もあるが、格子間炭素およびその複合欠陥、格子間珪素およびその複合欠陥、珪素空孔およびその複合欠陥の点欠陥密度によって制限されている場合もある。
【0042】
前者の場合には、工程(a)において余剰な格子間炭素を導入し、引き続いて行われる工程(b)において表面層から拡散した格子間炭素とバルク層内の炭素空孔とを結合させることで、バルク層の品質向上が図れるが、後者の場合には、工程(a)において余剰な炭素空孔、珪素空孔、および格子間珪素を導入し、引き続いて行われる工程(b)において表面層から拡散した炭素空孔とバルク層内の格子間炭素およびその複合欠陥、表面層から拡散した珪素空孔とバルク層内の格子間珪素およびその複合欠陥、表面層から拡散した格子間珪素とバルク層内の珪素空孔およびその複合欠陥を結合することによる効果の方が優先的になる。この効果の程度は、元のバルク層の結晶品質によると考えられる。
【0043】
さらに、工程(a)において表面層にイオン注入を行うことにより、SiC単結晶中に強いストレスが生じる。この場合、工程(b)の熱処理によって、バルク層中に存在していた格子間炭素、炭素空孔、格子間珪素、珪素空孔などの点欠陥が、該ストレスを緩和するために表面層内に向かって移動し、これによってバルク層内に存在していた格子間炭素およびその複合欠陥、炭素空孔およびその複合欠陥、格子間珪素およびその複合欠陥、珪素空孔およびその複合欠陥の密度が低減される。
【0044】
すなわち本発明によれば、結晶成長終了状態(アズグロウン)のSiC結晶層におけるキャリア捕獲中心を除去または減少することによりSiC結晶の質を向上させる方法であって、
(a)SiC結晶層における浅い表面層にイオン注入を行い、表面層に格子間原子および原子空孔、またはストレスを導入する工程と、
(b)SiC結晶を加熱することにより、表面層に導入された格子間原子または原子空孔を該表面層からバルク層へ拡散させるとともに格子間原子または原子空孔と点欠陥とを結合させ、あるいは、表面層に導入されたストレスを利用してバルク層中の点欠陥を表面層側に移動させることで、バルク層における電気的に活性な点欠陥を不活性化または消滅させる工程と、
を含む、SiC結晶の質を向上させる方法が提供される。
【0045】
本発明における1つの態様では、(c)原子が注入された表面層を、エッチングするかまたは機械的に除去する工程をさらに含む。
本発明における別の態様では、工程(a)において、イオン注入する原子がSiC結晶に対して中性的に作用する炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子である。
【0046】
本発明における別の態様では、工程(a)と、工程(b)とが同時に行われる。
工程(a)において、原子のイオン注入のエネルギーが、10keV〜10MeVの範囲内にあることが好ましい。
【0047】
工程(a)において、イオン注入時におけるSiC基材の温度は、10〜1700℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20℃〜1000℃の範囲内にある。
工程(b)において、アニーリング温度が、1200〜2200℃の範囲内にあることが好ましい。
【0048】
また、本発明によれば、結晶成長終了状態(アズグロウン)のSiC結晶層におけるキャリア捕獲中心を除去または減少することによりSiC結晶の質を向上させる方法であって、
(a)SiC結晶層における浅い表面層に、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することによって、該表面層に格子間原子、原子空孔、および/またはストレスを導入する工程と、
(b)格子間原子および原子空孔、またはストレスが導入された表面層の端面から上にSiC層を成長させ、表面層に導入された格子間原子または原子空孔を該表面層からこの成長層へ拡散させるとともに格子間原子または原子空孔と点欠陥とを結合させ、あるいは、表面層に導入されたストレスを利用して該成長層中の点欠陥を表面層側に移動させることで、該成長層における電気的に活性な点欠陥を不活性化または消滅させる工程と、
を含む、SiC結晶の質を向上させる方法が提供される。
【0049】
工程(a)において、原子のイオン注入のエネルギーが、10keV〜10MeVの範囲内にあることが好ましい。
工程(a)において、イオン注入時におけるSiC結晶の温度が、10〜1700℃の範囲内にあることが好ましい。
【0050】
以上の発明においても、上述したSiCウェハ等、すなわち、エピタキシャル層を有するSiCウェハ、SiCバルク結晶、SiCバルク結晶をスライスしたウェハ、SiCバルク結晶をスライスしたウェハを基板としてSiCエピタキシャル層を得た後に、基板部分を取り去って、エピタキシャル層単体としたSiC単結晶ウェハ、あるいは、n型およびp型のエピタキシャル層の任意の組み合わせを有するSiCウェハが、工程(a)および工程(b)において好適に用いられる。
【0051】
また本発明によれば、上記の方法を用いて製造された、ダイオード、トランジスタ、IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET (Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、サイリスタ(ゲートターンオフサイリスタを含む)等を含む全ての型の半導体素子が提供される。特に本発明によれば、以下のバイポーラ型SiC半導体素子が提供される。これらのバイポーラ型SiC半導体素子は、素子内における電気的に活性な点欠陥の低減が特に有効な領域へ選択的に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を形成したものである。
【0052】
この炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層は、素子の製造プロセスにおいて、上記の方法を適用することにより形成されたものであり、イオン注入することで導入された炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子が存在することにより規定される。また、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層またはヘリウム注入層は、小数キャリアの注入を行うpn界面近傍(pn界面より500nm以内)や、伝導度変調層内を避けて形成される。
【0053】
さらに、このバイポーラ型SiC半導体素子は、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素、格子間珪素、炭素空孔、または珪素空孔をアニーリングにより伝導度変調層内へ拡散させるとともに、格子間炭素、格子間珪素、炭素空孔、または珪素空孔と点欠陥とを結合させ、あるいは、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入したストレスを利用して伝導度変調層内の点欠陥をアニーリングにより炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層側に移動させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を伝導度変調層内に有している。
【0054】
好ましい態様では、このバイポーラ型SiC半導体素子は、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素と点欠陥を結合させることで、点欠陥が低減された領域(以下、「炭素拡散領域」ともいう。)を伝導度変調層内に有している。
【0055】
特に高耐電圧のバイポーラ型半導体素子では、伝導度変調層(ベース層)への小数キャリアの注入量を制限するために、ベース層へ小数キャリアを注入するpn接合界面付近や伝導度変調層内に電子線や水素原子(プロトンイオン)を照射して、pn接合界面付近や伝導度変調層内の点欠陥濃度を故意的に増加させる場合がある。ここで、pn接合において、小数キャリアの注入量の大小に影響するのは、pn接合界面より約500nm以内である。
【0056】
しかしながら、本発明においては、pn接合界面付近や伝導度変調層内の点欠陥を低減あるいは除去することを目的としているため、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層またはヘリウム注入層は、pn接合界面付近や伝導度変調層内を避けて形成される。このため、本発明のバイポーラ型半導体素子における炭素注入層、珪素注入層、水素注入層またはヘリウム注入層の形成位置は、従来のバイポーラ型半導体素子における電子線や水素原子の照射、注入位置とは明確に異なる。
【0057】
なお、本発明の応用例として、本発明に基づいてpn接合界面付近や伝導度変調層内を避けて炭素注入層、珪素注入層、水素注入層またはヘリウム注入層を形成し、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥を結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を伝導度変調層内に形成した後に、少数キャリアの注入量を精度良く制御するためにpn接合界面付近や伝導度変調層内に電子線や水素原子を照射する形態も考えられる。
【0058】
一例として、この炭素拡散領域に存在する、格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させた炭素は、当該領域において、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入した表面層から、アニーリングにより拡散する方向に向かって指数関数的に減少するようなプロファイルを有している。SiC基板にイオン注入して、その後エピタキシャル層をその上に成長させて素子を作製した場合には、上記炭素拡散領域に存在する、格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させた炭素は、基板とエピタキシャル層との界面からエピタキシャル層の表面に向かって指数関数的に減少するようなプロファイルを有している。
【0059】
素子内における電気的に活性な点欠陥を除去または有効な程度まで低減するための、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層の形成のために適用されるドーズ量は、当業者であれば適宜に選択できるであろう。
【0060】
すなわち、本発明のバイポーラ型SiC半導体素子は、n型またはp型のSiC基板と、n型またはp型の少なくとも1つのSiCエピタキシャル層、あるいはn型またはp型の少なくとも1つのイオン注入層と、を有し、
pn接合界面付近および伝導度変調層(ベース層)内を除いた、SiC基板表面付近、SiC基板とSiCエピタキシャル層との界面付近、およびSiCエピタキシャル層の表面付近のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を伝導度変調層内に有する。このようなバイポーラ型SiC半導体素子における好ましい態様としては、以下のものが挙げられる。
(i)高濃度p型層、低濃度n型ベース層、および高濃度n型層を有するSiC pnダイオードであって、
pn接合界面付近および低濃度n型ベース層内を除いた、高濃度p型層の表面付近、および高濃度n型層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を低濃度n型ベース層内に有するSiC pnダイオード。
(ii)高濃度n型層、低濃度p型ベース層、および高濃度p型層を有するSiC pnダイオードであって、
pn接合界面付近および低濃度p型ベース層内を除いた、高濃度n型層の表面付近、および高濃度p型層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を低濃度p型ベース層内に有するSiC pnダイオード。
(iii)n型エミッタ層、p型ベース層、およびn型コレクタ層を有するSiC npnトランジスタ型素子であって、
pn接合界面付近およびp型ベース層内を除いた、n型エミッタ層の表面付近、およびn型コレクタ層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をp型ベース層に有するSiC npnトランジスタ型素子。
(iv)p型エミッタ層、n型ベース層、およびp型コレクタ層を有するSiC pnpト
ランジスタ型素子であって、
pn接合界面付近およびn型ベース層内を除いた、p型エミッタ層の表面付近、およびp型コレクタ層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をn型ベース層に有するSiC pnpトランジスタ型素子。
(v)p型層、n型ベース層、p型ベース層、およびn型層を有するSiCサイリスタ型
素子(ゲートターンオフ型サイリスタ素子を含む)であって、
pn接合界面付近、n型ベース層内、およびp型ベース層内を除いた、p型層の表面付近、およびn型層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をn型ベース層内、およびp型ベース層内に有するSiCサイリスタ型素子。
(vi)n型層、p型ベース層、n型ベース層、およびp型層を有するSiCサイリスタ型素子(ゲートターンオフ型サイリスタ素子を含む)であって、
pn接合界面付近、p型ベース層内、およびn型ベース層内を除いた、n型層の表面付近、およびp型層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をp型ベース層内、およびn型ベース層内に有するSiCサイリスタ型素子。
(vii)p型層、n型ベース層、p型ベース層、およびn型コレクタ層を有するSiC IGBT型素子であって、
p型ベース層とn型コレクタ層の界面付近を除くn型コレクタ層内、およびp型ベース層のn型ベース層側の表面付近のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をp型ベース層に有するSiC IGBT型素子。
(viii)n型層、p型ベース層、n型ベース層、およびp型コレクタ層を有するSiC IGBT型素子であって、
n型ベース層とp型コレクタ層との界面付近を除くp型コレクタ層内、およびn型ベース層のp型ベース層側の表面付近のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をn型ベース層に有するSiC IGBT型素子。
【0061】
また、本発明の別の態様におけるバイポーラ型SiC半導体素子は、n型またはp型のSiC基板と、n型またはp型の少なくとも1つのSiCエピタキシャル層、あるいはn型またはp型の少なくとも1つのイオン注入層と、を有し、
pn接合界面付近および伝導度変調層(ベース層)内を除いた、SiC基板表面付近、SiC基板とSiCエピタキシャル層との界面付近、およびSiCエピタキシャル層の表面付近のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、
かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間原子および原子空孔をアニーリングにより伝導度変調層内へ拡散させるとともに格子間原子または原子空孔と点欠陥とを結合させ、あるいは、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入したストレスを利用して伝導度変調層内の点欠陥をアニーリングにより炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層側に移動させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を伝導度変調層内に有する。
【0062】
本発明におけるさらなる利点および好ましい特徴は、以下の記述によって明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0063】
本発明の方法によれば、高温アニーリングにより、キャリア捕獲中心が効果的に減少または除去される。
また本発明のSiC半導体素子は、格子間炭素原子の導入領域ならびに拡散領域においてキャリア捕獲中心の濃度が除去または減少しているので、良好な素子特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の好ましい実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。
【図3】本発明の好ましい別の実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。
【図4】本発明の好ましい別の実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。
【図5】本発明の好ましい別の実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。
【図6】本発明の好ましい別の実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。
【図7】本発明の好ましい別の実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。
【図8】本発明の好ましい実施形態におけるSiC pnダイオードの素子構造の断面を概略的に示した図である。
【図9】本発明の好ましい実施形態におけるSiC pnダイオードの素子構造の断面を概略的に示した図である。
【図10】本発明の好ましい実施形態におけるSiC npnトランジスタの素子構造の断面を概略的に示した図である。
【図11】本発明の好ましい実施形態におけるSiC pnpトランジスタの素子構造の断面を概略的に示した図である。
【図12】本発明の好ましい実施形態におけるSiCサイリスタの素子構造の断面を概略的に示した図である。
【図13】本発明の好ましい実施形態におけるSiCサイリスタの素子構造の断面を概略的に示した図である。
【図14】本発明の好ましい実施形態におけるSiC IGBTの素子構造の断面を概略的に示した図である。
【図15】本発明の好ましい実施形態におけるSiC IGBTの素子構造の断面を概略的に示した図である。
【図16】2つのSiC結晶試料のDLTSスペクトルを示す。ここで、試料(1)は、本発明の好ましい態様により作製されたものであり、試料(2)は、工程(a)を省略した以外は試料(1)と同一条件で作製されたものである。
【図17】フォトルミネッセンス減衰による少数キャリアライフタイム測定の結果を示す。ここで、試料(1)は、本発明の好ましい態様により作製されたものであり、試料(2)は、工程(a)を省略した以外は試料(1)と同一条件で作製されたものである。
【図18】アニーリング温度を変化させた場合におけるフォトルミネッセンス減衰による少数キャリアライフタイム測定の結果を示す。ここで、試料(1)は、本発明の好ましい態様により作製されたものであり、試料(2)は、工程(a)を省略した以外は試料(1)と同一条件で作製されたものである。
【図19】完全な4H−SiC結晶におけるSi原子およびC原子の配列を概略的に示した図である。
【図20】4H−SiC結晶におけるSi原子およびC原子の配列と、それに含まれる各種の点欠陥を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明の好ましい実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。
【0066】
本実施形態におけるSiC結晶層は、SiC基板(S)の表面からエピタキシャル層(E)を成長させたものである。エピタキシャル層(E)の成長には、公知の方法が適用され、好ましくは、化学気相堆積(CVD)が適用される。
【0067】
このエピタキシャル層(E)の浅い表面層(A)に、工程(a)として、炭素原子(C)をイオン注入する。これにより、表面層(A)には余剰の格子間炭素原子が導入される。
【0068】
次に、工程(b)として、SiC結晶層を加熱することにより、表面層(A)に導入された格子間炭素原子(C)を、表面層(A)から、その下のバルク層であるエピタキシャル層(E)へ拡散させる。このとき、工程(b)の期間中に、格子間炭素原子は、エピタキシャル層(E)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。その結果、エピタキシャル層(E)に存在する電気的に活性な点欠陥はアニールアウトまたは不活性化される。
【0069】
炭素原子(C)を注入する工程(a)と、SiC結晶層をアニーリングする工程(b)は、同時に行ってもよい。
また、炭素原子(C)が注入された表面層(A)は、エッチングするかまたは機械的に除去してもよい。
【0070】
このようにして、エピタキシャル層(E)の質が向上する。
以下、図2を参照しながら、上記の工程をn型SiCエピタキシャル層を有する基板に適用した場合の具体的な一例について、工程順に説明する。
【0071】
(1)最初に、公知の方法、好ましくはCVDにより、SiC結晶基板上に厚さ50μmのn型のエピタキシャル層(E)を成長させる。このアズグロウンエピタキシャル層(E)は、同図の白抜き円で示すように原子空孔を含んでいる。ここで,エピタキシャル層の厚みは、通常は、得ようとする素子の耐電圧によって決定されるものである。
【0072】
(2)その後、炭素原子(C)がイオン化され、10keV〜150keVの加速エネルギーを用いて、0.25E12cm-2〜1.45E12cm-2のドーズ量で、600℃に加熱されたエピタキシャル層(E)の表面に向かって加速される。ここで、イオン注入時にエピタキシャル層を加熱することで、表面層部分にイオン注入によって生成される結晶欠陥を低減することができる。
【0073】
炭素原子(C)は、このようにしてエピタキシャル層(E)へ注入され、厚さ250nmの格子間炭素原子リッチ層である表面層(A)を形成する。この領域における注入炭素の濃度は、1.5E17cm-3の付近でほぼ一定である。
【0074】
(3)その後、エピタキシャル層(E)は、アニーリングのために1600℃において30分間加熱され、これにより、そこに注入された炭素は表面層(A)外へ拡散する。炭素原子(格子間原子)は、このアニーリング期間中に、表面層(A)の下方にあるエピタキシャル層(E)内の点欠陥に取り付いて結合することで、それらを電気的に不活性にする。表面層(A)には余剰の炭素が注入してあるために、全ての欠陥が不活性化できる。このようにして、表面層(A)の下のエピタキシャル層(E)は、減少された電気的に活性な点欠陥の濃度をもつようになる。
【0075】
(4)炭素原子(C)を注入した上端の表面層(A)は、注入損傷に関連した欠陥を含んでいる。それゆえ、表面層(A)の下のエピタキシャル層(E)への注入炭素原子(C)の推進の影響を実証するために、表面層(A)は、CH4およびO2ガスによる反応性イオンエッチング(RIE)により除去される。RIEにより除去する厚さは表面から400nmの範囲である。しかし表面層(A)は、応用に応じて、残存させてもよく、また、知られている他の技術により除去してもよい。
【0076】
(5)その後、必要に応じて、表面の平滑化を図るために、高温酸素によりエピタキシャル層(E)の表面を酸化することにより厚さ100nm程度のSiO2酸化膜を形成し、次いでこの酸化膜を除去してもよい。
【0077】
(6)以上の工程を経て、質が向上したSiC試料が得られる。
図3は、本発明の別の好ましい実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。本実施形態では、SiC結晶として、SiCバルク結晶(B)を用いている。このSiCバルク結晶(B)は、アズグロウンSiCバルク結晶をスライスしたウェハであってもよい。
【0078】
このようなSiCバルク結晶(B)は、昇華法、HTCVD法などにより得られたバルク状の結晶であり、このようなバルク結晶を、例えば300〜400μm程度の厚さにスライスすることで、SiCウェハが得られる。これらの内部には、結晶の成長時等に形成された電気的に活性な点欠陥が含まれている。
【0079】
このSiCバルク結晶(B)における上面側の浅い表面層(A)に、工程(a)として、炭素原子(C)をイオン注入する。これにより、表面層(A)には余剰の格子間炭素原子が導入される。
【0080】
次に、工程(b)として、SiCバルク結晶(B)を加熱することにより、表面層(A)に注入された炭素原子(C)を、表面層(A)から、その下のSiCバルク結晶(B)へ拡散させる。このアニーリング期間中に、格子間炭素原子は、SiCバルク結晶(B)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。その結果、SiCバルク結晶(B)に存在する電気的に活性な点欠陥はアニールアウトまたは不活性化される。
【0081】
炭素原子(C)を注入する工程(a)と、SiCバルク結晶(B)をアニーリングする工程(b)は、同時に行ってもよい。
また、炭素原子(C)が注入された表面層(A)は、エッチングするかまたは機械的に除去してもよい。
【0082】
このようにして、SiCバルク結晶(B)の質が向上する。
図4は、本発明の別の好ましい実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。本実施形態では、図3と同様に、SiC結晶として、SiCバルク結晶(B)を用いている。ただし,この場合には,図4におけるSiCバルク結晶の上方に,任意のエピタキシャル層が存在する場合を含むものとする。図3の実施形態では、SiCバルク結晶(B)の上面側の表面層(A)に炭素原子(C)をイオン注入してアニーリングによりその下方のSiCバルク結晶(B)へ格子間炭素原子を拡散させたが、本実施形態では、SiCバルク結晶(B)における下面側の浅い表面層(A)に、工程(a)として、炭素原子(C)をイオン注入する。これにより、下面側の表面層(A)には余剰の格子間炭素原子が導入される。
【0083】
次に、工程(b)として、SiCバルク結晶(B)を加熱することにより、表面層(A)に注入された炭素原子(C)を、表面層(A)から、その上のSiCバルク結晶(B)およびその上のエピタキシャル層へ拡散させる。このアニーリング期間中に、格子間炭素原子は、SiCバルク結晶(B)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。その結果、SiCバルク結晶(B)ならびにエピタキシャル層に存在する電気的に活性な点欠陥はアニールアウトまたは不活性化される。
【0084】
本実施形態では、SiCバルク結晶(B)における下面側の表面層(A)に炭素原子(C)を注入してその上方のSiCバルク結晶(B)ならびにエピタキシャル層へ拡散させるようにしたので、特に、SiCバルク結晶(B)ならびにエピタキシャル層における下面近傍からその内方に至る領域の電気的に活性な点欠陥を十分に除去または減少できる。
【0085】
図5は、本発明の別の好ましい実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。本実施形態では、図3および図4と同様に、SiC結晶として、SiCバルク結晶(B)を用いている。
【0086】
本実施形態では、SiCバルク結晶(B)における上面側および下面側における両面の浅い表面層(A)に、工程(a)として、炭素原子(C)をイオン注入する。これにより、両面側の表面層(A)にはそれぞれ、余剰の格子間炭素原子が導入される。
【0087】
次に、工程(b)として、SiCバルク結晶(B)を加熱することにより、それぞれの表面層(A)に注入された炭素原子(C)を、その内方のSiCバルク結晶(B)へ拡散させる。このアニーリング期間中に、格子間炭素原子は、SiCバルク結晶(B)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。その結果、SiCバルク結晶(B)に存在する電気的に活性な点欠陥はアニールアウトまたは不活性化される。
【0088】
本実施形態では、SiCバルク結晶(B)における両面側の表面層(A)に炭素原子(C)を注入してその内方のSiCバルク結晶(B)へ拡散させるようにしたので、特に、SiCバルク結晶(B)における両面近傍からその内方に至る領域の電気的に活性な点欠陥を十分に除去または減少できる。
【0089】
図6は、本発明の別の好ましい実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。本実施形態では、工程(a)として、SiCバルク結晶(B)の浅い表面層(A)に炭素原子(C)をイオン注入する。これにより、表面層(A)には余剰の格子間炭素原子が導入される。
【0090】
次に、工程(b)として、炭素原子(C)が注入された表面層(A)の端面から上にSiC層を成長させ、エピタキシャル層(E)を形成する。そして、SiC結晶を加熱することにより、表面層(A)に注入された炭素原子(C)を、表面層(A)からエピタキシャル層(E)へ拡散させる。このアニーリング期間中に、格子間炭素原子は、エピタキシャル層(E)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。
【0091】
これと同時に、表面層(A)に注入された炭素原子(C)は、表面層(A)からエピタキシャル層(E)とは反対側のSiCバルク結晶(B)にも拡散する。これにより、格子間炭素原子は、SiCバルク結晶(B)内、特に、表面層(A)の近傍およびその内方にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。
【0092】
このようにして、エピタキシャル層(E)およびSiCバルク結晶(B)に存在する電気的に活性な点欠陥はアニールアウトまたは不活性化される。
上記において、工程(b)におけるアニーリングは、CVDチャンバ内において加熱下にSiCバルク結晶(B)の上にエピタキシャル層(E)を成長させる工程と同時に行うことができる。
【0093】
図7は、本発明の別の好ましい実施形態における方法を利用して、再結合中心が減少したSiC層を作製する工程を概略的に示した図である。本実施形態では最初に、図1と同様に、SiC基板(S)の表面からエピタキシャル層(E)を成長させたウェハを用意する。
【0094】
このエピタキシャル層(E)の浅い表面層(A)に、工程(a)として、炭素原子(C)をイオン注入する。これにより、表面層(A)には余剰の格子間炭素原子が導入される。
【0095】
次に、工程(b)として、炭素原子(C)が注入された表面層(A)の端面から上にSiCエピタキシャル層(E1)を成長させる。そして、SiC結晶を加熱することにより、表面層(A)に注入された炭素原子(C)を、表面層(A)からエピタキシャル層(E1)へ拡散させる。このアニーリング期間中に、格子間炭素原子は、エピタキシャル層(E1)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。
【0096】
これと同時に、表面層(A)に注入された炭素原子(C)は、表面層(A)からエピタキシャル層(E1)とは反対側のエピタキシャル層(E)にも拡散する。このアニーリング期間中に,格子間炭素原子は、エピタキシャル層(E)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。
【0097】
次に、工程(c)として、エピタキシャル層(E1)の外側端面における浅い表面層(A)に、炭素原子(C)をイオン注入する。これにより、表面層(A)には余剰の格子間炭素原子が導入される。
【0098】
次に、工程(d)として、炭素原子(C)が注入された表面層(A)の端面から上にSiCエピタキシャル層(E2)を成長させる。そして、SiC結晶を加熱することにより、表面層(A)に注入された炭素原子(C)を、表面層(A)からエピタキシャル層(E2)へ拡散させる。このアニーリング期間中に、格子間炭素原子は、エピタキシャル層(E2)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。
【0099】
これと同時に、表面層(A)に注入された炭素原子(C)は、表面層(A)からエピタキシャル層(E2)とは反対側のエピタキシャル層(E1)にも拡散する。このアニーリング期間中に、格子間炭素原子は、エピタキシャル層(E1)内にある炭素原子空孔と共に消滅し、または、電気的に活性ではない別の欠陥を形成する。
【0100】
このようにして、エピタキシャル層(E)、(E1)および(E2)内における電気的に活性な点欠陥、特に、エピタキシャル層(E)とエピタキシャル層(E1)との界面付近および、エピタキシャル層(E1)とエピタキシャル層(E2)との界面付近における電気的に活性な点欠陥はアニールアウトまたは不活性化される。
【0101】
上記において、工程(b)および工程(d)におけるアニーリングは、CVDチャンバ内において加熱下にエピタキシャル層(E1)またはエピタキシャル層(E2)を成長させる工程と同時に行うことができる。
【0102】
また、エピタキシャル層(E2)の上に、上記と同じ操作を繰り返しながら新たなエピタキシャル層を形成していき、n回の繰り返しを行えば、エピタキシャル層(E)の上には、n層のエピタキシャル層がさらに形成されることになり、電気的に活性な点欠陥の少ない複層のエピタキシャル層が得られる。
【0103】
図16は、2つのSiC結晶試料のDLTSスペクトルを示す。ここで、試料(1)は、本発明の好ましい態様により作製されたものであり、試料(2)は、工程(a)を省略した以外は試料(1)と同一条件で作製されたものである。
【0104】
試料(1)では、Z1/Z2からのシグナルは完全に消滅し、従って、トラップは電気的に不活性化した。図示はしていないが、EH6/7からのシグナルも完全に消滅した。
図17は、フォトルミネッセンス減衰による少数キャリアライフタイム測定の結果を示す。ここで、試料(1)は、本発明の好ましい態様により作製されたものであり、試料(2)は、工程(a)を省略した以外は試料(1)と同一条件で作製されたものである。
【0105】
同図に示されるように、試料(1)では、少数キャリアライフタイムは明らかに向上した。
図18は、異なるアニーリング温度に対するフォトルミネッセンス減衰による少数キャリアライフタイム測定の結果を示す。ここで、試料(1)は、本発明の好ましい態様により作製されたものであり、試料(2)は、工程(a)を省略した以外は試料(1)と同一条件で作製されたものである。アニーリング時間はそれぞれ30分間である。
【0106】
同図に示されるように、アニーリング時間が30分間の場合においては、1400℃以上のアニーリングによって、試料(1)では、少数キャリアライフタイムは明らかに向上した。アニール時間をさらに長くすることによって、1200℃程度までにアニーリング温度を低減できるものと考えられる。アニーリング温度の上限は、SiCの昇華温度に相当する2200℃程度となる。
【0107】
以上の各実施形態において示したSiC結晶の質の向上方法は、各種のSiC半導体素子の製造に適用される。特に、電気的に活性な点欠陥の低減が特に有効であるバイポーラ型SiC半導体素子の製造に好ましく適用される。このようなバイポーラ型SiC半導体素子における好ましい実施形態を以下に示す。
【0108】
図8は、本発明の好ましい実施形態におけるSiC pnダイオードの素子構造の断面を概略的に示した図である。このSiC pnダイオード10は、高濃度p型層、低濃度n型ベース層、および高濃度n型層を有するものであって、その素子構造におけるSiCの結晶型や、各層の具体的な厚さおよび不純物濃度などの好適な数値範囲およびその組み合わせは、当業者によく知られているものである。
【0109】
同図に示すように、SiC pnダイオード10は、高濃度n型SiC層11の上に、エピタキシャル成長法により低濃度n型SiCベース層12が形成され、その上に、エピタキシャル成長法により高濃度p型SiC層13が形成されている。
【0110】
高濃度p型SiC層13の表面にはアノード電極15が形成され、高濃度n型SiC層11の表面にはカソード電極16が形成されている。14は、電界集中を緩和して耐電圧性を向上するための電界緩和p型イオン注入層である。
【0111】
低濃度n型SiCベース層12内には、図1〜図7に示すいずれかの方法を適用することによって、高濃度p型SiC層13の表面付近、もしくは高濃度n型SiC層11内に炭素原子(C)をイオン注入して形成された炭素注入層100内の格子間炭素をアニーリングにより低濃度n型SiCベース層12内へ拡散することにより炭素拡散領域200が形成されている。
【0112】
このようなSiC pnダイオード10によれば、電気的に活性な欠陥が素子特性に影響を与える伝導度変調層内に、炭素拡散領域200を形成し、格子間炭素と点欠陥とを結合させることで電気的に活性な点欠陥を低減したので、素子特性が良好である。
【0113】
図9は、本発明の好ましい別の実施形態におけるSiC pnダイオードの素子構造の断面を概略的に示した図である。このSiC pnダイオード20は、高濃度p型SiC層21の上に、エピタキシャル成長法により低濃度p型SiCベース層22が形成され、その上に、エピタキシャル成長法により高濃度n型SiC層23が形成されている。
【0114】
高濃度n型SiC層23の表面にはカソード電極25が形成され、高濃度p型SiC層21の表面にはアノード電極26が形成されている。24は、電界集中を緩和して耐電圧性を向上するための電界緩和n型イオン注入層である。
【0115】
低濃度p型SiCベース層22内には、図1〜図7に示すいずれかの方法を適用することによって、高濃度n型SiC層23の表面付近、もしくは高濃度p型SiC層21内に炭素原子(C)をイオン注入して形成された炭素注入層100内の格子間炭素をアニーリングにより低濃度p型SiCベース層22内へ拡散することにより炭素拡散領域200が形成されている。
【0116】
このようなSiC pnダイオード20によれば、電気的に活性な欠陥が素子特性に影響を与える伝導度変調層内に、炭素拡散領域200を形成し、格子間炭素と点欠陥とを結合させることで電気的に活性な点欠陥を低減したので、素子特性が良好である。
【0117】
図10は、本発明の好ましい実施形態におけるSiC npnトランジスタの素子構造の断面を概略的に示した図である。このSiC npnトランジスタ30は、n型エミッタ層、p型ベース層、およびn型コレクタ層を有するものであって、その素子構造におけるSiCの結晶型や、各層の具体的な厚さおよび不純物濃度などの好適な数値範囲およびその組み合わせは、当業者によく知られているものである。
【0118】
同図に示すように、SiC npnトランジスタ30は、n型SiCコレクタ層32の上に、エピタキシャル成長法によりp型SiCベース層31が形成され、その上に、エピタキシャル成長法によりn型SiCエミッタ層33が形成されている。
【0119】
p型SiCベース層31におけるn型SiCエミッタ層33の周囲の表面付近には、高濃度p型イオン注入層34が形成され、その上にゲート電極35が形成されている。
n型SiCエミッタ層33の表面にはエミッタ電極36が形成され、n型SiCコレクタ層32の表面にはコレクタ電極37が形成されている。
【0120】
p型SiCベース層31内には、図1〜図7に示すいずれかの方法を適用することによって、n型SiCエミッタ層33の表面付近、もしくはn型SiCコレクタ層32内に炭素原子(C)をイオン注入して形成された炭素注入層100内の格子間炭素をアニーリングによりp型SiCベース層31内へ拡散することにより炭素拡散領域200が形成されている。
【0121】
このようなSiC npnトランジスタ30によれば、電気的に活性な欠陥が素子特性に影響を与える伝導度変調層内に、炭素拡散領域200を形成し、格子間炭素と点欠陥とを結合させることで電気的に活性な点欠陥を低減したので、素子特性が良好である。
【0122】
図11は、本発明の好ましい実施形態におけるSiC pnpトランジスタの素子構造の断面を概略的に示した図である。このSiC pnpトランジスタ40は、p型SiCコレクタ層42の上に、エピタキシャル成長法によりn型SiCベース層41が形成され、その上に、エピタキシャル成長法によりp型SiCエミッタ層43が形成されている。
【0123】
n型SiCベース層41におけるp型SiCエミッタ層43の周囲の表面付近には、高濃度n型イオン注入層44が形成され、その上にゲート電極45が形成されている。
p型SiCエミッタ層43の表面にはエミッタ電極46が形成され、p型SiCコレクタ層42の表面にはコレクタ電極47が形成されている。
【0124】
n型SiCベース層41内には、図1〜図7に示すいずれかの方法を適用することによって、p型SiCエミッタ層43の表面付近、もしくはp型SiCコレクタ層42内に炭素原子(C)をイオン注入して形成された炭素注入層100内の格子間炭素をアニーリングによりn型SiCベース層41内へ拡散することにより炭素拡散領域200が形成されている。
【0125】
このようなSiC pnpトランジスタ40によれば、電気的に活性な欠陥が素子特性
に影響を与える伝導度変調層内に、炭素拡散領域200を形成し、格子間炭素と点欠陥とを結合させることで電気的に活性な点欠陥を低減したので、素子特性が良好である。
【0126】
図12は、本発明の好ましい実施形態におけるSiCサイリスタの素子構造の断面を概略的に示した図である。このSiCサイリスタ50は、p型層、n型ベース層、p型ベース層、およびn型層を有するSiCゲートターンオフサイリスタであって、その素子構造におけるSiCの結晶型や、各層の具体的な厚さおよび不純物濃度などの好適な数値範囲およびその組み合わせは、当業者によく知られているものである。
【0127】
同図に示すように、SiCサイリスタ50は、n型SiC層51の上に、エピタキシャル成長法によりp型SiCベース層52が形成され、その上に、エピタキシャル成長法によりn型SiCベース層53が形成され、その上に、エピタキシャル成長法によりp型SiC層54が形成されている。
【0128】
n型SiCベース層53におけるp型SiC層54の周囲の表面付近には、高濃度n型イオン注入層55が形成され、その上にゲート電極56が形成されている。
p型SiC層54の表面にはアノード電極57が形成され、n型SiC層51の表面にはカソード電極58が形成されている。
【0129】
p型SiCベース層52内、およびn型SiCベース層53内には、図1〜図7に示すいずれかの方法を適用することによって、p型SiC層54の表面付近、もしくはn型SiC層51内に炭素原子(C)をイオン注入して形成された炭素注入層100内の格子間炭素をアニーリングによりp型SiCベース層52内、およびn型SiCベース層53内へ拡散することにより炭素拡散領域200が形成されている。
【0130】
このようなSiCサイリスタ50によれば、電気的に活性な欠陥が素子特性に影響を与える伝導度変調層内に、炭素拡散領域200を形成し、格子間炭素と点欠陥とを結合させることで電気的に活性な点欠陥を低減したので、素子特性が良好である。
【0131】
図13は、本発明の好ましい実施形態におけるSiCサイリスタの素子構造の断面を概略的に示した図である。このSiCサイリスタ60は、p型SiC層61の上に、エピタキシャル成長法によりn型SiCベース層62が形成され、その上に、エピタキシャル成長法によりp型SiCベース層63が形成され、その上に、エピタキシャル成長法によりn型SiC層64が形成されている。
【0132】
p型SiCベース層63におけるn型SiC層64の周囲の表面付近には、高濃度p型イオン注入層65が形成され、その上にゲート電極66が形成されている。
n型SiC層64の表面にはカソード電極67が形成され、p型SiC層61の表面にはアノード電極68が形成されている。
【0133】
n型SiCベース層62内、およびp型SiCベース層63内には、図1〜図7に示すいずれかの方法を適用することによって、n型SiC層64の表面付近、もしくはp型SiC層61内に炭素原子(C)をイオン注入して形成された炭素注入層100内の格子間炭素をアニーリングによりn型SiCベース層62内、およびp型SiCベース層63内へ拡散することにより炭素拡散領域200が形成されている。
【0134】
このようなSiCサイリスタ60によれば、電気的に活性な欠陥が素子特性に影響を与える伝導度変調層内に、炭素拡散領域200を形成し、格子間炭素と点欠陥とを結合させることで電気的に活性な点欠陥を低減したので、素子特性が良好である。
【0135】
図14は、本発明の好ましい実施形態におけるSiC IGBTの素子構造の断面を概略的に示した図である。このSiC IGBT70は、p型層、n型ベース層、p型ベース層、およびn型コレクタ層を有するものであって、その素子構造におけるSiCの結晶型や、各層の具体的な厚さおよび不純物濃度などの好適な数値範囲およびその組み合わせは、当業者によく知られているものである。
【0136】
同図に示すように、SiC IGBT70は、n型SiCコレクタ層72の上に、エピ
タキシャル成長法によりp型SiCベース層71が形成されている。
p型SiCベース層71の上には、ゲート絶縁膜としての酸化膜78を介してゲート電極75が形成されている。一方、p型SiCベース層71の上部には、n型ベース層74が形成され、その上にエミッタ電極76が形成されている。n型ベース層74は、ゲート電極75の下の酸化膜78からエミッタ電極76までの範囲に形成されており、さらにn型ベース層74の内側における酸化膜78からエミッタ電極76までの範囲には、p型層73が形成されている。
【0137】
また、n型SiCコレクタ層72の表面には、コレクタ電極77が形成されている。
p型SiCベース層71内には、図1〜図7に示すいずれかの方法を適用することによって、p型SiCベース層71のn型ベース層74側の表面付近、もしくはn型SiCコレクタ層72内に炭素原子(C)をイオン注入して形成された炭素注入層100内の格子間炭素をアニーリングによりp型SiCベース層71内へ拡散することにより炭素拡散領域200が形成されている。
【0138】
このようなSiC IGBT70によれば、電気的に活性な欠陥が素子特性に影響を与える伝導度変調層内に、炭素拡散領域200を形成し、格子間炭素と点欠陥とを結合させることで電気的に活性な点欠陥を低減したので、素子特性が良好である。
【0139】
図15は、本発明の好ましい実施形態におけるSiC IGBTの素子構造の断面を概略的に示した図である。このSiC IGBT80は、p型SiCコレクタ層82の上に、エピタキシャル成長法によりn型SiCSiCベース層81が形成されている。
【0140】
n型SiCSiCベース層81の上には、ゲート絶縁膜としての酸化膜88を介してゲート電極85が形成されている。一方、n型SiCベース層81の上部には、p型ベース層84が形成され、その上にエミッタ電極86が形成されている。p型ベース層84は、ゲート電極85の下の酸化膜88からエミッタ電極86までの範囲に形成されており、さらにp型ベース層84の内側における酸化膜88からエミッタ電極86までの範囲には、n型層83が形成されている。
【0141】
また、p型SiCコレクタ層82の表面には、コレクタ電極87が形成されている。
n型SiCベース層81内には、図1〜図7に示すいずれかの方法を適用することによって、n型SiCベース層81のp型ベース層84側の表面付近、もしくはp型SiCコレクタ層82内に炭素原子(C)をイオン注入して形成された炭素注入層100内の格子間炭素をアニーリングによりn型SiCベース層81内へ拡散することにより炭素拡散領域200が形成されている。
【0142】
このようなSiC IGBT80によれば、電気的に活性な欠陥が素子特性に影響を与える伝導度変調層内に、炭素拡散領域200を形成し、格子間炭素と点欠陥とを結合させることで電気的に活性な点欠陥を低減したので、素子特性が良好である。
【0143】
以上、本発明の好ましい実施態様について説明したが、本発明は何らこれらに限定されるものではなく、多くの可能な修正、変更が当業者に明らかであろう。
本発明においては、SiC層全体の質を向上させることも、または、その一部のみの質を向上させることも可能である。
【0144】
本明細書における"層"の定義は、広く解釈され、全ての種類の体積延長および形状を包含する。
本明細書における"結晶"の用語は、大きい領域に渡る三次元における良好な格子の周期性を意味する。すなわち、典型的な多結晶構造は除外される。
【符号の説明】
【0145】
10 SiC pnダイオード
11 高濃度n型SiC層
12 低濃度n型SiCベース層
13 高濃度p型SiC層
14 電界緩和p型イオン注入層
15 アノード電極
16 カソード電極
20 SiC pnダイオード
21 高濃度p型SiC層
22 低濃度p型SiCベース層
23 高濃度n型SiC層
24 電界緩和n型イオン注入層
25 カソード電極
26 アノード電極
30 SiC npnトランジスタ
31 p型SiCベース層
32 n型SiCコレクタ層
33 n型SiCエミッタ層
34 高濃度p型イオン注入層
35 ゲート電極
36 エミッタ電極
37 コレクタ電極
40 SiC pnpトランジスタ
41 n型SiCベース層
42 p型SiCコレクタ層
43 p型SiCエミッタ層
44 高濃度n型イオン注入層
45 ゲート電極
46 エミッタ電極
47 コレクタ電極
50 SiC サイリスタ
51 n型SiC層
52 p型SiCベース層
53 n型SiCベース層
54 p型SiC層
55 高濃度n型イオン注入層
56 ゲート電極
57 アノード電極
58 カソード電極
60 SiC サイリスタ
61 p型SiC層
62 n型SiCベース層
63 p型SiCベース層
64 n型SiC層
65 高濃度p型イオン注入層
66 ゲート電極
67 カソード電極
68 アノード電極
70 SiC IGBT
71 p型SiCベース層
72 n型SiCコレクタ層
73 p型層
74 n型ベース層
75 ゲート電極
76 エミッタ電極
77 コレクタ電極
78 酸化膜
80 SiC IGBT
81 n型SiCベース層
82 p型SiCコレクタ層
83 n型層
84 p型ベース層
85 ゲート電極
86 エミッタ電極
87 コレクタ電極
88 酸化膜
100 炭素注入層
200 炭素拡散領域
A 表面層
B SiCバルク結晶
C 炭素原子
E,E1,E2 エピタキシャル層
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型またはp型のSiC基板と、n型またはp型の少なくとも1つのSiCエピタキシャル層、あるいはn型またはp型の少なくとも1つのイオン注入層と、を有し、
pn接合界面付近および伝導度変調層(ベース層)内を除いた、SiC基板表面付近、SiC基板とSiCエピタキシャル層との界面付近、およびSiCエピタキシャル層の表面付近のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより伝導度変調層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を伝導度変調層内に有するSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項2】
前記SiCバイポーラ型半導体素子は、高濃度p型層、低濃度n型ベース層、および高濃度n型層を有するSiC pnダイオードであり、
pn接合界面付近および低濃度n型ベース層内を除いた、高濃度p型層の表面付近、および高濃度n型層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより低濃度n型ベース層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を低濃度n型ベース層内に有する請求項に記載のSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項3】
前記SiCバイポーラ型半導体素子は、高濃度n型層、低濃度p型ベース層、および高濃度p型層を有するSiC pnダイオードであり、
pn接合界面付近および低濃度p型ベース層内を除いた、高濃度n型層の表面付近、および高濃度p型層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングにより低濃度p型ベース層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を低濃度p型ベース層内に有する請求項に記載のSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項4】
前記SiCバイポーラ型半導体素子は、n型エミッタ層、p型ベース層、およびn型コレクタ層を有するSiC npnトランジスタ型素子であり、
pn接合界面付近およびp型ベース層内を除いた、n型エミッタ層の表面付近、およびn型コレクタ層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングによりp型ベース層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をp型ベース層内に有する請求項に記載のSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項5】
前記SiCバイポーラ型半導体素子は、p型エミッタ層、n型ベース層、およびp型コレクタ層を有するSiC pnpトランジスタ型素子であり、
pn接合界面付近およびn型ベース層内を除いた、p型エミッタ層の表面付近、およびp型コレクタ層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングによりn型ベース層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をn型ベース層内に有する請求項に記載のSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項6】
前記SiCバイポーラ型半導体素子は、p型層、n型ベース層、p型ベース層、およびn型層を有するSiCサイリスタ型素子(ゲートターンオフ型サイリスタ素子を含む)であり、
pn接合界面付近、n型ベース層内、およびp型ベース層内を除いた、p型層の表面付近、およびn型層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングによりn型ベース層内、およびp型ベース層へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をn型ベース層内、およびp型ベース層に有する請求項に記載のSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項7】
前記SiCバイポーラ型半導体素子は、n型層、p型ベース層、n型ベース層、およびp型層を有するSiCサイリスタ型素子(ゲートターンオフ型サイリスタ素子を含む)であり、
pn接合界面付近、p型ベース層内、およびn型ベース層内を除いた、n型層の表面付近、およびp型層内のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングによりp型ベース層内、およびn型ベース層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をp型ベース層内、およびn型ベース層内に有する請求項に記載のSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項8】
前記SiCバイポーラ型半導体素子は、p型層、n型ベース層、p型ベース層、およびn型コレクタ層を有するSiC IGBT型素子であり、
p型ベース層とn型コレクタ層との界面付近を除くn型コレクタ層内、およびp型ベース層のn型ベース層側の表面付近のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングによりp型ベース層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をp型ベース層内に有する請求項に記載のSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項9】
前記SiCバイポーラ型半導体素子は、n型層、p型ベース層、n型ベース層、およびp型コレクタ層を有するSiC IGBT型素子であり、
n型ベース層とp型コレクタ層との界面付近を除くp型コレクタ層内、およびn型ベース層のp型ベース層側の表面付近のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間炭素原子をアニーリングによりn型ベース層内へ拡散させるとともに格子間炭素原子と点欠陥とを結合させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域をn型ベース層に有する請求項に記載のSiCバイポーラ型半導体素子。
【請求項10】
n型またはp型のSiC基板と、n型またはp型の少なくとも1つのSiCエピタキシャル層、あるいはn型またはp型の少なくとも1つのイオン注入層と、を有し、
pn接合界面付近および伝導度変調層(ベース層)内を除いた、SiC基板表面付近、SiC基板とSiCエピタキシャル層との界面付近、およびSiCエピタキシャル層の表面付近のうち少なくとも1つの領域に、炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層を有し、
かつ、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入した格子間原子および原子空孔をアニーリングにより伝導度変調層内へ拡散させるとともに格子間原子または原子空孔と点欠陥とを結合させ、あるいは、炭素原子、珪素原子、水素原子、またはヘリウム原子をイオン注入することで導入したストレスを利用して伝導度変調層内の点欠陥をアニーリングにより炭素注入層、珪素注入層、水素注入層、またはヘリウム注入層側に移動させることで、電気的に活性な点欠陥が低減された領域を伝導度変調層内に有するSiCバイポーラ型半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−48247(P2013−48247A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200245(P2012−200245)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【分割の表示】特願2006−237996(P2006−237996)の分割
【原出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】