説明

パワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化方法、これを実施するパワーコンディショナ、及びパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化用プログラム

【課題】電力系統が瞬低から正常復帰した場合に出力有効電力を瞬低発生直前の状態に迅速に復帰させる。
【解決手段】内部直流電圧Vdcを監視し、電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統11の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換えると共に、電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に瞬時電圧低下現象が収束したと判断して運転モードを通常モードに戻す瞬低検出部4と、瞬低モードにおいて、出力電流iacが瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路13を操作するインバータ制御部9と、瞬低モードにおいて、電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように直流入力電流iinを変化させる昇圧チョッパ制御部14と、運転モードが瞬低モードから通常モードに戻された際に直流入力電流iinの電流変化指令を瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻す最大電力追従制御部6を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば太陽電池等の分散形電源を電力系統に連系するパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化方法、これを実施するパワーコンディショナ、及びパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
図16に、従来のパワーコンディショナを示す。パワーコンディショナの主回路101は、太陽電池アレイ102の出力電圧を最大出力電力となる電圧に調整する昇圧チョッパ部103と、昇圧チョッパ部103により昇圧された直流電力を交流電力に変換するインバータ部104と、フィルタ部105より構成されている。また、主回路101の制御回路106は、太陽電池アレイ102の出力電力が最大になる電流値を検出して直流入力電流iinの電流変化指令を供給する最大電力追従制御部107と、供給された直流入力電流iinの電流変化指令に基づいて昇圧チョッパ部103のスイッチングを操作する直流入力電流制御部108と、内部直流電圧Vdcが予め設定されたDC電圧基準値に一致するように出力電力iacの電流変化指令を決定しインバータ・スイッチング制御部110に供給する内部直流電圧一定制御部109と、出力電力iacの電流変化指令に基づいてインバータ部104のスイッチを操作するインバータ・スイッチング制御部110と、連系点電圧Vgに周波数,位相が一致する基準波形を発生させるPLL回路111を備えている。
【0003】
パワーコンディショナの制御には電圧形電流制御方式が採用されており、出力電流iacの波形が連系点電圧Vgの周波数、および位相に一致するように出力電流iacを制御する。図16は電流瞬時値制御の例で、連系点電圧Vgをモニタリングし、それを参照しながらPLL回路111で連系点電圧Vgに周波数,位相が一致する基準波形を作り出す。
【0004】
一方、直流側は、図17に示すようなI−V特性およびP−V特性をもつ太陽電池アレイ102より常に最大電力を取り出すように、最大電力追従制御(MPPT)が採用されている。最大電力追従制御部107は入力電力を監視しながら、周期的に入力電流iinを変化させ、動作点がP−V特性曲線の極大点に常に一致するように直流入力電流制御部108により昇圧チョッパ部103のスイッチングをコントロールし、入力電流iinを制御する。
【0005】
次いで、入力電力iinはインバータ回路1次側の平滑用コンデンサ112にチャージされる。同1次側回路電圧(内部直流電圧Vdc)は、内部直流電圧一定制御部109により例えば350V等の定められた基準電圧(DC電圧基準値)に一定制御される。すなわち、内部直流電圧一定制御部109は、内部直流電圧Vdcを監視しながら、同電圧が基準電圧に常に一致するように、PLL回路111で生成した基準波形の絶対値をコントロールし指令波形とする。最終的に、同指令波形と、のこぎり波状のキャリア波の各瞬時値を比較し、スイッチング制御(ゲート制御)を行う。また、PLL回路111で生成した基準波形に内部直流電圧一定制御部109による電流指令値を乗じて電流指令波形とし、これに許容幅(ヒステリシス)を設け、出力電流iacが許容幅の上限または下限に達したらスイッチングを反転させて、出力電流iacの増減の方向を逆転させ、出力電流iacが常に許容幅に入るように出力電流iacを制御するケースも採用されている。
【0006】
瞬低や位相急変などの電力系統の過渡的変動に対しては、極力、運転を継続することを原則としているが、技術的に止むを得ない場合は、パワーコンディショナ(PCS)においてゲートブロックし、電力系統が正常復帰したならば連系運転を再開することとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】小林,伊藤,「系統連系統形太陽光発電用パワーコンディショナの過渡特性解析モデルの開発」,電中研研究報告(R07027),平成20年7月
【非特許文献2】岡田他,「インバータシミュレーションプログラムの開発(その2)-実測比較による解析精度の検証-」,電中研研究報告(R07016),2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電力系統に瞬時電圧低下現象(瞬低)が発生した場合のパワーコンディショナの運転挙動について検討する。
【0009】
(1) 電圧低下時
瞬低発生時には図18に示すように、連系点電圧Vgがステップ状に急激に低下する。一般的には、瞬低は落雷などによる電力系統側の短絡的な故障に起因するため、パワーコンディショナからみた系統インピーダンスが低下する。このため、瞬低に対する出力電流制御対策が適切でない場合は、瞬時に過電流が発生し運転停止する可能性がある。さらに、系統側短絡事故の場合では、他の電源より、送配電線に過大な電流が流れるため、線路インピーダンスにより、電圧位相が急変するケースが考えられる。これにより、位相跳躍検出方式など単独運転検出方式によっては不要検出を招く可能性がある。
【0010】
瞬低発生時に運転を継続した場合、連系点電圧値Vgが低下しているため、一般的には出力電力が低下する。この時、制御系の設計によるが、昇圧チョッパ部103により内部直流部への電流の流入が継続しているものとすると、平滑用コンデンサ112の電圧(内部直流電圧Vdc)が上昇し、場合によっては機器保護レベルの上限値に達してパワーコンディショナ停止に至るケースが考えられる。
【0011】
(2) 電圧回復時
図18に示すように、ステップ状に連系点電圧Vgが上昇するため、出力電流が前後で一定であるとすると、出力電力がステップ的に急増する。
【0012】
これにより、平滑用コンデンサ112の放電が大となり、内部直流部の電圧が一時的に低下し、出力電流iacの変動や保護機能によりパワーコンディショナが停止するケースが考えられる。また、電圧低下時と同様に系統位相が変化(瞬低直前の位相に戻る等)し、同じく単独運転検出機能の不要停検出を招く可能性もある。
【0013】
本発明は、電力系統が瞬低から正常復帰した場合に瞬低発生直前の状態に迅速に復帰させることができるパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化方法、パワーコンディショナ、パワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するために、請求項1記載のパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化方法は、内部直流電圧Vdcを監視し、内部直流電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換えると共に、内部直流電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に瞬時電圧低下現象が収束したと判断して運転モードを通常モードに戻すものであり、瞬低モードでは、出力電流iacが瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路のスイッチを操作すると共に、内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように直流入力電流iinを変化させ、運転モードを瞬低モードから通常モードに戻す際、直流入力電流iinの電流変化指令を瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻すものである。
【0015】
また、請求項2記載のパワーコンディショナは、内部直流電圧Vdcを監視し、内部直流電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換えると共に、内部直流電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に瞬時電圧低下現象が収束したと判断して運転モードを通常モードに戻す瞬低検出部と、瞬低モードにおいて、出力電流iacが瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路のスイッチを操作するインバータ制御部と、瞬低モードにおいて、内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように直流入力電流iinを変化させる昇圧チョッパ制御部と、運転モードが瞬低モードから通常モードに戻された際に直流入力電流iinの電流変化指令を瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻す最大電力追従制御部を備えるものである。
【0016】
さらに、請求項3記載のパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化用プログラムは、少なくとも、内部直流電圧Vdcを監視し、内部直流電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換えると共に、内部直流電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に瞬時電圧低下現象が収束したと判断して運転モードを通常モードに戻す瞬低検出手段と、瞬低モードにおいて、出力電流iacが瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路のスイッチを操作するインバータ制御手段と、瞬低モードにおいて、内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように直流入力電流iinを変化させる昇圧チョッパ制御手段と、運転モードが瞬低モードから通常モードに戻された際に直流入力電流iinの電流変化指令を瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻す最大電力追従制御手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【0017】
したがって、内部直流電圧Vdcに基づいて電力系統の瞬時電圧低下現象を検出すると、運転モードが通常モードから瞬低モードに切り換えられる。瞬低モードでは、出力電流iacが瞬低発生直前の値になるようにインバータ回路を制御するので、瞬低期間中にも出力電流iacを瞬低直前の値に維持することができる(出力電流一定制御)。また、出力電流iacを瞬低直前の値に維持することで、内部直流電圧Vdcの過大な上昇が予想されるが、内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値になるように昇圧チョッパ部を操作して直流入力電流iinを変化させることで、内部直流電圧Vdcの過大な上昇を抑制することができる(内部直流電圧Vdc一定制御)。
【0018】
そして、内部直流電圧Vdcに基づいて瞬時電圧低下現象の収束を検出すると、運転モードが瞬低モードから通常モードに戻される。これにより、インバータ回路側は出力電流一定制御を解除し、内部直流電圧Vdcに基づく制御に復帰する。また、昇圧チョッパ部側は内部直流電圧Vdc一定制御が解除され、最大電力追従制御に復帰する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載のパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化方法、請求項2記載のパワーコンディショナ、及び請求項3記載のパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化用プログラムによれば、瞬低期間中にも出力電流iacを瞬低直前の値に維持することができるので、瞬低から系統電圧が正常復帰した場合に出力電流iacの過大変動を抑制することができ、出力有効電力を瞬低発生直前の状態に速やかに復帰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のパワーコンディショナの実施形態の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明のパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化方法の実施形態の一例を示し、運転モードの切換を示すフローチャートである。
【図3】通常モードでの運転を示すフローチャートである。
【図4】瞬低モードでの運転を示すフローチャートである。
【図5】本発明のパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化方法のシミュレーション結果を示し、(a)は出力電流iacの時間変化を示す図、(b)は出力有効電力の時間変化を示す図、(c)は直流入力電流iinの時間変化を示す図、(d)は内部直流電圧Vdcの時間変化を示す図である。
【図6】電流制御系及びゲート出力部のブロック線図である。
【図7】有効電流制御部分のブロック線図である。
【図8】無効電流制御部分のブロック線図である。
【図9】昇圧チョッパの制御ブロック線図である。
【図10】本発明の瞬低回復時の運転安定化方法を実施しない場合のパワーコンディショナの瞬低時の運転特性(シミュレーション結果、瞬低モード非適用、電圧低下率:30%、瞬低継続時間:500ms)を示し、(a)は系統電圧の時間変化を示す図、(b)は出力電流の時間変化を示す図、(c)は出力電力の時間変化を示す図、(d)は直流入力電圧の時間変化を示す図、(e)は直流入力電流の時間変化を示す図、(f)は内部直流電圧の時間変化を示す図である。
【図11】従来のパワーコンディショナの瞬低時の運転特性(試験結果、機種H、電圧低下率:30%、瞬低継続時間:500ms)を示し、(a)は系統電圧の時間変化を示す図、(b)は出力電流の時間変化を示す図、(c)は出力電力の時間変化を示す図、(d)は直流電圧の時間変化を示す図である。
【図12】本発明の瞬低回復時の運転安定化方法を実施した場合のパワーコンディショナの瞬低時の運転特性(シミュレーション結果、瞬低モード適用時、電圧低下率:30%、瞬低継続時間:500ms)を示し、(a)は系統電圧の時間変化を示す図、(b)は出力電流の時間変化を示す図、(c)は出力電力の時間変化を示す図、(d)は直流入力電圧の時間変化を示す図、(e)は直流入力電流の時間変化を示す図、(f)は内部直流電圧の時間変化を示す図である。
【図13】本発明の瞬低回復時の運転安定化方法を実施した場合のパワーコンディショナの瞬低時の運転特性(シミュレーション結果、瞬低モード適用時、電圧低下率:80%、瞬低継続時間:500ms)を示し、(a)は系統電圧の時間変化を示す図、(b)は出力電流の時間変化を示す図、(c)は出力電力の時間変化を示す図、(d)は直流入力電圧の時間変化を示す図、(e)は直流入力電流の時間変化を示す図、(f)は内部直流電圧の時間変化を示す図である。
【図14】本発明の瞬低回復時の運転安定化方法を実施した場合のパワーコンディショナの瞬低時の運転特性(シミュレーション結果、瞬低モード適用時、電圧低下率:30%、瞬低継続時間:40ms)を示し、(a)は系統電圧の時間変化を示す図、(b)は出力電流の時間変化を示す図、(c)は出力電力の時間変化を示す図、(d)は直流入力電圧の時間変化を示す図、(e)は直流入力電流の時間変化を示す図、(f)は内部直流電圧の時間変化を示す図である。
【図15】本発明の瞬低回復時の運転安定化方法を実施した場合のパワーコンディショナの瞬低時の運転特性(シミュレーション結果、瞬低モード適用時、電圧低下率:80%、瞬低継続時間:40ms)を示し、(a)は系統電圧の時間変化を示す図、(b)は出力電流の時間変化を示す図、(c)は出力電力の時間変化を示す図、(d)は直流入力電圧の時間変化を示す図、(e)は直流入力電流の時間変化を示す図、(f)は内部直流電圧の時間変化を示す図である。
【図16】従来のパワーコンディショナを示すブロック図である。
【図17】太陽電池のI−V特性及びP−V特性を説明するための図である。
【図18】瞬低発生時の連系点電圧の特性(電圧低下率:40%、継続時間:300ms)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1に本発明のパワーコンディショナの実施形態の一例を示す。パワーコンディショナ1は、分散形電源2として例えば太陽電池を需要家の負荷及び電力系統に連系するためのものであり、本実施形態のパワーコンディショナ1は、太陽電池をアレイ状に並べた太陽電池アレイ(以下、太陽電池アレイ2という)を需要家の負荷及び電力系統に連系するようにしている。ただし、分散形電源2としては必ずしも太陽電池アレイに限るものではなく、単独の太陽電池でも良い。
【0023】
パワーコンディショナ1は、内部直流電圧Vdcを監視し、内部直流電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統11の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換えると共に、内部直流電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に瞬時電圧低下現象が収束したと判断して運転モードを通常モードに戻す瞬低検出部4と、瞬低モードにおいて、出力電流iacが瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路13のスイッチを操作するインバータ制御部9と、瞬低モードにおいて、内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように直流入力電流iinを変化させる昇圧チョッパ制御部14と、運転モードが瞬低モードから通常モードに戻された際に直流入力電流iinの電流変化指令を瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻す最大電力追従制御部6を備えている。
【0024】
このパワーコンディショナ1の制御回路3は、本発明のパワーコンディショナ1の瞬低回復時の運転安定化用プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、パワーコンディショナ1の瞬低回復時の運転安定化用プログラム(以下、単に運転安定化用プログラムという)をコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0025】
運転安定化用プログラムを実行するための本実施形態のパワーコンディショナ1を図1に示す。パワーコンディショナ1は主回路10、制御回路3、記憶部12を備えており、主回路10は分散形電源2である太陽電池アレイから供給された直流電力の電圧を上げる昇圧チョッパ部15と、直流電力を交流電力に変換するインバータ部13と、高調波電流を吸収するフィルタ部16より構成されている。また、インバータ部13には平滑用コンデンサ17が設けられている。
【0026】
制御回路3は、瞬低検出部(瞬低検出手段)4、インバータ制御部9、昇圧チョッパ制御部14、最大電力追従制御部6、PLL回路(図示省略)を備えている。
【0027】
ここで、直流入力電流iinは、パワーコンディショナ1への直流入力電流である。直流入力電圧値Vinは、パワーコンディショナ1への直流入力電圧である。内部直流電圧Vdcは、平滑用コンデンサ17の端子電圧である。出力電流iacは、パワーコンディショナ1の交流出力電流である。
【0028】
制御回路3は記憶部12に記憶されている運転安定化用プログラムにしたがって主回路10の制御を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。制御回路3には、運転安定化用プログラムを実行することにより、上述の瞬低検出部(瞬低検出手段)4、インバータ制御部(インバータ制御手段)9、昇圧チョッパ制御部(昇圧チョッパ制御手段)14、最大電力追従制御部(最大電力追従制御手段)6、PLL回路が構成される。
【0029】
瞬低検出部4には内部直流電圧Vdcが供給されている。瞬低検出部4は内部直流電圧Vdcを常時監視し、記憶部12に予め記憶されている上限値及び下限値と比較している。そして、内部直流電圧Vdcが上限値を超えた場合に電力系統11に瞬時電圧低下現象が発生したと判断し、運転モードを瞬低モードに切り換える。一方、内部直流電圧Vdcが下限値を下回った場合に瞬時電圧低下現象が収束したと判断し、運転モードを通常モードに戻す。運転モードの切換指令は、インバータ制御部9の出力電流指令部19、昇圧チョッパ制御部14の内部直流電圧一定制御部7、最大電力追従制御部6に伝えられる。
【0030】
インバータ制御部9は、インバータスイッチング操作部18、出力電流指令部19、内部直流電圧一定制御部7より構成されている。なお、内部直流電圧一定制御部7は昇圧チョッパ制御部14の構成要素でもある。
【0031】
インバータスイッチング操作部18は、瞬低モードにおいて、図示しないPLL(Phase Locked Loop)回路から供給された基準波形を参照して昇圧チョッパ部15によって昇圧された直流の電流・電圧を電力系統と同一周波数、同一位相の交流電流・電圧に変換すると共に、出力電流指令部19からの出力電流iacの電流変化指令に基づいて主回路10の出力電流iacが瞬低発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路13のスイッチを操作する。例えば、出力電流iacの電流変化指令が出力電流iacを増加させるものである場合には、インバータ回路13のスイッチがオンとなる期間を長くし、減少させるものである場合には、インバータ回路13のスイッチがオンとなる期間を短くする。
【0032】
出力電流指令部19は、通常モードにおいて瞬低発生直前の出力電流iac又はその移動平均値を出力電流指令値Itとして記憶しておき、瞬低モード移行後に出力電流iacが移行直前の出力電流指令値Itに一致するようにインバータスイッチング操作部18に出力電流iacの電流変化指令を供給する。例えば、出力電流iacが出力電流指令値Itよりも大きい場合即ち出力電流iacの値を下げる場合には出力電流iacを減少させる電流変化指令を供給し、出力電流iacが出力電流指令値Itよりも小さい場合即ち出力電流iacの値を上げる場合には出力電流iacを増加させる電流変化指令を供給する。出力電流指令部19には、出力電流iacが供給されている。
【0033】
本実施形態では、出力電流iacを出力電流指令値Itとする。即ち、瞬低検出部4によって瞬低が検出される前の通常モードにおいて、所定周期でその時点の出力電流iacを出力電流指令値Itとして記憶する。記憶は上書きで行われる。したがって、記憶されている出力電流指令値Itは常に新しい値(出力電流iac)に更新される。そして、瞬低検出部4から運転モードを瞬低モードに切り換える旨の切換指令を受けると、出力電流指令部19は出力電流指令値Itの周期的な上書きを停止する。そのため、瞬低モードでは、瞬低発生直前の出力電流iacが出力電流指令値Itとして記憶され保存されている。なお、出力電流指令値Itを上書きする周期は、例えば0.5秒程度以下であり、好ましくは0.1秒以下である。
【0034】
なお、上述の説明では出力電流iacを出力電流指令値Itとしていたが、必ずしもこれに限るものではなく、例えば出力電流iacの移動平均値を出力電流指令値Itとしても良い。即ち、所定周期でその時点の出力電流iacを記憶する際、数周期分の出力電流iacをそれぞれ記憶しておき、一番古い値を一番新しい値で上書きして置き換える。そして、記憶している数周期分の出力電流iacの移動平均値を求め、これを出力電流指令値Itとしても良い。ここで、移動平均値を求めるサンプル数としては特に限定されるものではないが、例えば5個(5周期分)程度が好ましい。
【0035】
なお、インバータスイッチング操作部18は、瞬低モードでは出力電流指令部19から出力電流iacの電流変化指令を受けるが、通常モードでは内部直流電圧一定制御部7から出力電流iacの電流変化指令を受けてインバータ回路13のスイッチを操作する。
【0036】
なお、インバータスイッチング操作部18が通常モードでは内部直流電圧一定制御部7から出力電流iacの電流変化指令を受けてインバータ回路13のスイッチを操作すること自体は既に市販されているパワーコンディショナのインバータスイッチング操作部と同じであるが、本発明のインバータスイッチング操作部18は、瞬低モードでは出力電流指令部19から出力電流iacの電流変化指令を受けインバータ回路13のスイッチを操作する点で異なっている。
【0037】
昇圧チョッパ制御部14は、内部直流電圧一定制御部7と直流入力電流制御部8より構成されている。
【0038】
内部直流電圧一定制御部7は、瞬低モードにおいて、内部直流電圧Vdcを常時監視し、内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように直流入力電流iinの電流変化指令を直流入力電流制御部8に供給する(DC−AVR機能:Direct Current - Automatic Voltage Regulator、直流電圧自動調整機能)。例えば、内部直流電圧Vdcが目標値よりも大きい場合即ち内部直流電圧Vdcを下げる場合には直流入力電流iinを減少させる電流変化指令を供給し、内部直流電圧Vdcが目標値よりも小さい場合即ち内部直流電圧Vdcを上げる場合には直流入力電流iinを増加させる電流変化指令を供給する。内部直流電圧一定制御部7には内部直流電圧Vdcが供給されている。
【0039】
なお、内部直流電圧一定制御部7は、通常モードでは、内部直流電圧Vdcを常時監視し、内部直流電圧Vdcが予め設定されたDC電圧基準値に一致するように出力電流iacの電流変化指令をインバータスイッチング操作部18に供給する。例えば、内部直流電圧Vdcが目標値よりも大きい場合即ち内部直流電圧Vdcを下げる場合には出力電流iacを増加させる電流変化指令を供給し、内部直流電圧Vdcが目標値よりも小さい場合即ち内部直流電圧Vdcを上げる場合には出力電流iacを減少させる電流変化指令を供給する。
【0040】
なお、内部直流電圧一定制御部7が内部直流電圧Vdcが予め設定された値に一致するように制御を行うこと(DC−AVR機能)自体は既に市販されているパワーコンディショナの内部直流電圧一定制御部と同じであるが、本発明の内部直流電圧一定制御部7は、瞬低モードにおいて直流入力電流iinの電流変化指令を直流入力電流制御部8に供給する点で異なっている。
【0041】
直流入力電流制御部8は、瞬低モードでは内部直流電圧一定制御部7から供給された直流入力電流iinの電流変化指令に従って、昇圧チョッパ部15のゲート・スイッチを操作し、直流入力電流iinを増減する(DC−ACR機能:Direct Current - Automatic Current Regulator、直流電流調整機能)ものである(PWM制御)。例えば、直流入力電流iinの電流変化指令が直流入力電流iinを下げるものである場合には、ゲートスイッチのオンオフ周波数を減少させ、直流入力電流iinを上げるものである場合には、ゲートスイッチのオンオフ周波数を増加させる。
【0042】
なお、直流入力電流制御部8は、通常モードでは最大電力追従制御部6から供給された直流入力電流iinの電流変化指令に従って昇圧チョッパ部15のゲート・スイッチを操作し、直流入力電流iinを増減する。
【0043】
なお、直流入力電流制御部8が直流入力電流iinの電流変化指令に従って昇圧チョッパ部15のゲート・スイッチを操作し、直流入力電流iinを増減すること(DC−ACR機能)自体は既に市販されているパワーコンディショナの直流入力電流制御部と同じであるが、本発明の直流入力電流制御部8は、瞬低モードにおいて内部直流電圧一定制御部7から供給された直流入力電流iinの電流変化指令に従って操作を行う点で異なっている。
【0044】
最大電力追従制御部6は、最大電力追従機能(MPPT:Maximum Power Point Tracking)を有しており、通常モードにおいて、太陽電池アレイの出力電力が最大になる電流値を検出し、この電流値に直流入力電流iinが一致するように直流入力電流制御部8に直流入力電流iinの電流変化指令を供給するものである。最大電力追従制御部6には直流入力電流iinと直流入力電圧値Vinが供給されている。最大電力追従制御部6は直流入力電流iinと直流入力電圧値Vinの積で求められる太陽電池出力電力Pinに基づいて出力電力を最大にする電流値Imaxを検出する。例えば、直流入力電流制御部8に直流入力電流iinの電流変化指令として電流増加信号(又は電流減少信号)を供給しながら太陽電池出力電力Pinを監視し、太陽電池出力電力Pinが増加している間は引き続き直流入力電流制御部8に電流増加信号(又は電流減少信号)を供給する。次いで、太陽電池出力電力Pinが減少に転じた時点で電流増加信号を供給していた場合には電流減少信号を供給する(電流減少信号を供給していた場合には電流増加信号を供給する)。この供給状態でPinが増加している間は引き続き直流入力電流制御部8に電流減少信号(又は電流増加信号)を供給する。再度、Pinが減少に転じたら、電流減少信号を供給していた場合には再び電流増加信号を供給する(電流増加信号を供給していた場合には再び電流減少信号を供給する)。以上を繰り返すことにより、必然的にiinは最大出力Pmaxが得られるImax近傍に存在することになる。そして、天候の変化等によりImaxが変化する度に上記の手順の繰り返しによりiinは新しいImax近傍に自動的に移動する。以上の通り、常に出力電力が最大になるように直流入力電流制御部8に直流入力電流iinの電流変化指令を供給する。
【0045】
また、最大電力追従制御部6は、瞬時電圧低下現象の発生直前の直流入力電流iinの電流変化指令を記憶しておく。即ち、通常モードにおいて、所定周期でその時点の直流入力電流iinの電流変化指令を記憶しておく。記憶は上書きで行われる。したがって、記憶されている電流変化指令は常に新しい指令に更新される。そして、瞬低検出部4から運転モードを瞬低モードに切り換える旨の切換指令を受けると、最大電力追従制御部6は電流変化指令の周期的な上書きを停止する。そのため、瞬低モードでは、瞬低発生直前の電流変化指令が記憶され保存されている。なお、電流変化指令を上書きする周期は、例えば0.5秒程度以下であり、好ましくは0.1秒以下である。
【0046】
また、瞬低モードでは、最大電力追従制御部6は休止状態となり、太陽電池アレイ2の出力電力が最大になる電流値Imaxの検出を休止する。
【0047】
なお、最大電力追従制御部6が太陽電池アレイの出力電力が最大になる電流値を検出し、この電流値に直流入力電流iinが一致するように直流入力電流制御部に直流入力電流iinの電流変化指令を供給すること自体は既に市販されているパワーコンディショナの最大電力追従制御部と同じであるが、本発明の最大電力追従制御部6は、瞬低モードでは休止状態となる点、瞬時電圧低下現象の発生直前の直流入力電流iinの電流変化指令を記憶しておき、瞬低収束後に運転モードが瞬低モードから通常モードに戻った時に記憶しておいた電流変化指令を直流入力電流制御部8に供給する点で異なっている。
【0048】
記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能なものであり、例えばハードディスク等である。
【0049】
記憶部12には、瞬低の発生と収束を判断する内部直流電圧Vdcの閾値である上限値及び下限値と、瞬低モードで使用する内部直流電圧Vdcの目標値と、通常モードで使用する内部直流電圧VdcのDC電圧基準値が予め記憶されている。ここで、DC電圧基準値は、通常モードでの運転時において内部直流電圧Vdcがその値になるように設計されている値である。例えば、通常モードでの運転時に内部直流電圧Vdcが350Vになるように設計されている場合には、350VがDC電圧基準値となる。
【0050】
また、目標値,上限値,下限値の大小関係は上限値>目標値>下限値であり、目標値は瞬低が発生していない場合の内部直流電圧Vdcの値に、上限値は瞬低が発生した場合に内部直流電圧Vdcが上昇して到達する値に、下限値は瞬低発生により上昇していた内部直流電圧Vdcが瞬低の収束により低下して到達する値にそれぞれ設定されている。目標値,上限値,下限値は、例えば実験的に求められる。本実施形態では、以下のようにして目標値,上限値,下限値を決定している。即ち、目標値をDC電圧基準値と同じ値に設定し、さらに上限値及び下限値を目標値(=DC電圧基準値)を挟んで目標値±α%に設定することが考えられる。しかしながら、この場合、瞬低収束後の系統電圧回復時に内部直流電圧Vdcが低下して下限値に達し、瞬低モードから通常モードに切り換わる時に、必然的に内部直流電圧Vdcの値とDC電圧基準値との間に差が生じることとなる。これにより、内部直流電圧Vdcを目標値に一致させるように制御が働き、その結果、出力電流iacが大きく変化する虞がある。このため、本実施形態では、下限値をDC電圧基準値、またはDC電圧基準値より若干高めの値に設定する。そして、下限値を基準に、目標値と上限値を設定する。例えば、上限値及び下限値が目標値±α%になるように設定する。ここで、α%は目標値の数%であり、例えば5%である。ただし5%に限るものではない。上限値の設定は通常モードでの運転時の需要家の負荷のON/OFF等に伴う電圧変動(例えば低圧100V系で最大10V程度)に不要動作しないように定める。
【0051】
ただし、上述のような出力電流iacの大きな変化が問題にならない場合には、目標値をDC電圧基準値と同じ値に設定し、さらに上限値及び下限値を目標値を挟んで目標値±α%に設定しても良い。ここで、α%は目標値の数%であり、例えば5%である。ただし5%に限るものではない。
【0052】
次に、図2〜図4に基づいて、パワーコンディショナ1の瞬低回復時の運転安定化方法(以下、単に瞬低回復運転安定化方法という)について説明する。瞬低回復運転安定化方法は、内部直流電圧Vdcを監視し、内部直流電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統11の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換える(図2のステップS31)と共に、内部直流電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に瞬時電圧低下現象が収束したと判断して運転モードを通常モードに戻すようにしている(図2のステップS32)。そして、瞬低モードでは、出力電流iacが瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路13のスイッチを制御する(図4のステップS52)と共に、内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように直流入力電流iinを変化させ(図4のステップS53,S54)、運転モードを瞬低モードから通常モードに戻す際、直流入力電流iinの電流変化指令を瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻すようにしている(図4のステップS55)。
【0053】
パワーコンディショナ1は、運転モードとして、瞬低が発生していない場合の通常モードと、瞬低が発生した場合の瞬低モードとの2つのモードを有している。瞬低検出部4は通常モードと瞬低モードの両方において、常時、内部直流電圧Vdcを監視している。
【0054】
まず最初に、通常モードについて説明する。通常の運転モードである通常モードでは、最大電力追従制御部6から供給される直流入力電流iinの電流変化指令に従って直流入力電流制御部8が昇圧チョッパ部15のスイッチ周波数を変化させる(図3のステップS41)。これにより、直流入力電流iinが出力電力を最大にする電流値Imaxに一致するように運転され、内部コンデンサ(平滑用コンデンサ17)を効率よく充電する。また、内部直流電圧一定制御部7は記憶部12に記憶されたDC電圧基準値を参照し、内部直流電圧VdcをDC電圧基準値に一致させるように出力電流iacの電流変化指令をインバータスイッチング操作部18に供給する(ステップS42)。インバータスイッチング操作部18は受けた電流変化指令に基づいてインバータ回路13のスイッチ(スイッチング素子)をオンオフ制御(PWM制御)する(ステップS43)。これにより、太陽電池アレイ2が最大出力追従運転される。
【0055】
また、瞬低検出部4は内部直流電圧Vdcを常時監視している。そして、電力系統11に瞬低が発生し、パワーコンディショナ1の内部直流電圧Vdcが増加して上限値を超えると、これを検出した瞬低検出部4が運転モードを瞬低モードに切り換え、切換指令をインバータ制御部9の出力電流指令部19、昇圧チョッパ制御部14の内部直流電圧一定制御部7、最大電力追従制御部6に供給する(図2のステップS31)。
【0056】
瞬低モードへの切換指令を受けたインバータ制御部9の出力電流指令部19は、出力電流指令値Itの更新を中止してモード切換指令を受ける直前の値Itを保存する(図4のステップS51)。そして、保存した出力電流指令値Itに出力電流iacが一致するようにインバータスイッチング操作部18に出力電流iacの電流変化指令を供給する。インバータスイッチング制御部18は出力電流iacの電流変化指令に従ってインバータ回路13のスイッチを操作する(ステップS52)。これにより、瞬低に伴う出力電流iacの過大変化を抑制することができる(出力電流iacの一定制御)。
【0057】
また、瞬低モードへの切換指令を受けた最大電力追従制御部6は休止状態となり、直流入力電流iinの電流変化指令の更新を中止してモード切換指令を受ける直前の電流変化指令を保存する(ステップS51)。
【0058】
また、瞬低モードへの切換指令を受けた内部直流電圧一定制御部7は制御に使用する値をDC電圧基準値から目標値に切り換える(目標値の有効化,ステップS51)。そして、内部直流電圧一定制御部7は、内部直流電圧Vdcが目標値に一致するように直流入力電流iinの電流変化指令を直流入力電流制御部8に供給し(ステップS53)、直流入力電流制御部8は昇圧チョッパ部15のスイッチ周波数を制御して直流入力電流iinを目標値に一致させる(ステップS54)。これにより、出力電流iacの一定制御への切り換えに伴う内部直流電圧Vdcの過大な上昇を抑制することができる。
【0059】
そして、瞬低が収束して電力系統11の電圧が回復し、パワーコンディショナ1の内部直流電圧Vdcが減少して下限値を下回ると、これを瞬低検出部4が検出し、運転モードを瞬低モードから通常モードに戻す(図2のステップS32)。瞬低検出部4は通常モードへの切換指令をインバータ制御部9の出力電流指令部19、昇圧チョッパ制御部14の内部直流電圧一定制御部7、最大電力追従制御部6に供給する。これにより、通常モードで運転が行われる(図4のステップS55)。
【0060】
通常モードへの切換指令を受けた休止状態の最大電力追従制御部6は、瞬低発生直前に保存していた直流入力電流iinの電流変化指令を昇圧チョッパ制御部14の直流入力電流制御部8に供給し、稼働を再開する。直流入力電流制御部8は最大電力追従制御部6から供給される直流入力電流iinの電流変化指令に基づいて昇圧チョッパ部15を操作する。
【0061】
また、通常モードへの切換指令を受けた内部直流電圧一定制御部7は制御に使用する値を目標値からDC電圧基準値に切り換え、直流入力電流iinの電流変化指令を直流入力電流制御部8に供給するのを止めて、出力電流iacの電流変化指令をインバータスイッチング操作部18に供給する。
【0062】
さらに、出力電流指令部19は出力電流指令値Itの更新を再開する。
【0063】
図5に、本発明による瞬低回復時の運転安定化方法を実施した場合の出力電流iac(a)、出力有効電力(b)、直流入力電流iin(c)、内部直流電圧Vdc(d)の変化の様子を示す。図5は電圧低下率:80%、瞬低継続時間:0.5秒間(発生:0.2秒、回復:0.7秒)とした場合のシミュレーション結果である。横軸がシミュレーション開始からの経過時間、縦軸がそれぞれの数値である。
【0064】
瞬低の発生により運転モードが通常モードから瞬低モードに切り換えられ、インバータ制御部9は出力電流iacが瞬低の発生直前の出力電流指令値Itに一致するようにインバータ回路13のスイッチを制御するので、同図(a)に示すように、出力電流iacは瞬低の発生後も瞬低発生前と殆ど変わらずほぼ一定に推移する。そのため、瞬低収束による系統電圧回復後においても出力電流iacを大きく変動させることなく、ほぼ一定に推移させることができる。また、瞬低期間中に出力電流iacを瞬低発生直前の出力電流指令値Itに一致させるように制御することで、瞬低期間中は出力有効電力は低下することになるが(同図(b))、瞬低収束による系統電圧回復後に出力電流iacをほぼ一定で推移させることができるので、瞬低収束後の出力有効電力は瞬低前とほぼ同じ値で安定的に推移する。即ち、瞬低回復後も安定して運転される。
【0065】
なお、同図(c)に示すように、瞬低期間中に内部直流電圧Vdcを目標値に一致させるように制御を行うことで、瞬低期間中は直流入力電流iinは大きく低下するが、瞬低の収束によって最大電力追従制御部6が稼働を再開することで、すぐに保存していた瞬低発生直前の直流入力電流iinの電流変化指令が直流入力電流制御部8に供給されると共に最大電力追従制御が再開されるので、瞬低収束後は直流入力電流iinは速やかに出力電力を最大にする値に回復する。
【0066】
また、同図(d)に示すように、内部直流電圧Vdcは、瞬低発生とともに増加するが、直ちに瞬低モードに切り替わり、直流入力電流iinの低下による内部直流電圧Vdcは瞬低時の目標値に一致するように一定に推移する。また、平滑用コンデンサ17が損傷しない範囲の上限電圧(図では400V)以下に保たれている。瞬低収束時には内部直流電圧Vdcは、同図(b)の出力有効電力の急増に伴い減少するが、直ちに通常モードに切り替わり、直流入力電流iinの増加により過度の減少は防止され、基準電圧に戻っている。
【0067】
本発明では、既存のパワーコンディショナに対してソフトウエアの変更によって運転モードに通常モードの他に瞬低モードを追加することができる。そのため、瞬低回復時の運転の安定化を簡単且つ低コストで実現することができる。
【0068】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0069】
例えば、上述の説明では、内部直流電圧Vdcを常時監視し、内部直流電圧Vdcの変化に基づいて瞬低の発生と収束を検出するようにしていたが、必ずしもこれに限るものではなく、内部直流電圧Vdcの監視による検出に加えて、あるいは、内部直流電圧Vdcの監視による検出に代えて、電力系統11との連系地点における電力の実効値を監視し、実効値が所定の上限値を超えた場合に瞬低の発生を検出し、所定の下限値を下回った場合に瞬低の収束を検出するようにしても良い。
【実施例1】
【0070】
本発明の効果を確認するために、当所開発のXTAP(eXpandable Transient Analysis Program:当所で開発中の電気回路過渡現象解析プログラム,「電力系統瞬時値解析プログラムの開発(その1)― 基本構造 ―」,電中研報告,H06002,(2007-3))による瞬低時のPCS動特性シミュレーションを行った。
【0071】
(1 設定モデルと解析評価法)
実験に使用したPCSはいずれも市販品で、制御定数等のそれぞれの詳細な設計仕様はメーカー機密保持により入手不可能であるため、ここでは当所の過去の調査モデル(岡田他、「インバータシミュレーションプログラムの開発(その2)-実測比較による解析精度の検証-」、電中研研究報告(R07016)、2008年)をベースにおき、今回の実験に使用した市販PCSのうち、比較的瞬低に対する耐性の高いと考えられる2機種の試験結果を参照しながら設定した。
【0072】
設定したパワーコンディショナモデルの基本仕様を以下に示す。
・ インバータ方式:電圧形電流制御
・ 電力制御方式:最大電力追従制御(通常時)
・ 定格容量:4kW
・ 連系点電圧:単相200V
・ 内部直流電圧(平滑コンデンサ部):350V
・ 直流入力電圧:250V(MPPT制御時)
・ インバータスイッチング周波数:18Hz
・ 運転力率:1.0
【0073】
設定した主回路モデルは図1に準じた。図6〜図9、および表1に、瞬低モードを含めた制御系モデルならびに設定した諸パラメータ値を示す。
【0074】
図6は、インバータ制御部9のインバータスイッチング操作部18の内部に含まれる機能の電流制御系及びゲート出力部を詳細に示すブロック線図である。図7の制御ブロックから出力される有効電流指令値(図1では、内部直流電圧一定制御部7又は出力電流指令部19からインバータスイッチング操作部18への出力電流指令)、及び図8の制御ブロックから出力される無効電力指令値、並びにPLL回路から出力される系統電圧の位相値にもとづき、インバータスイッチングの基準搬送波(瞬時指令値)V_INV_UおよびV_INV_Vを作り出す。この各基準搬送波と別途発信器により作り出される三角波状のキャリア波の波高値を逐次比較し、その大小関係にもとづきインバータの各スイッチのゲートドライブ電圧を決定し、各スイッチのオン/オフ制御を行う。
【0075】
図7は、内部直流電圧一定制御部7(図7中、左部分)と出力電流指令部19(図7中、右上部分)の有効電流制御部分を詳細に示すブロック線図である。通常モードでは、平滑用コンデンサ17の内部直流電圧測定値と同指令値(DC電圧基準値)を逐次比較し、差がある場合はPI制御器(比例器と積分器の並列接続回路)を介して有効電流指令値(図1では、内部直流電圧一定制御部7からインバータスイッチング操作部18への出力電流指令)を変化させる。例えば、同測定値の方が大きければ、有効電力指令値を増加させる。瞬低発生時では、各フラグのオン/オフの切り替えにより、記憶してあった瞬低直前の出力電流値がそのまま有効電流指令値(図1では、出力電流指令部19からインバータスイッチング操作部18への出力電流指令)として出力するようにする。
【0076】
図8は、インバータスイッチング操作部18の内部に含まれる機能の無効電流制御部分を詳細に示すブロック線図である。制御機能としては、予め設定した無効電力指令値と無効電力測定値を逐次比較し、その差分をPI制御器を介して無効電流指値として出力する無効電力一定制御機能と、予め設定した交流電圧指令値と交流電圧測定値を逐次比較しその差分をPI制御器を介して無効電流指値として出力する交流電圧一定制御機能の2機能を有しており、それぞれフラグにより機能の有効化・無効化を行うことが出来る。なお、本検証ではいずれも無効においた。
【0077】
図9は、内部直流電圧一定制御部7(図9中、左部分)と最大電力追従制御部6(図9中、右上部分)と直流入力電流制御部8(図9中、右下部分)を詳細に示す制御ブロック線図である。通常モードでは、フラグにより右側のMPPT制御のみを有効とし、直流入力電力と直流入力電流においてそれぞれt秒前の値と逐次比較するとともに、各差分値の積の正負条件に基づき、昇圧チョッパの電流指令値を調整変更する。例えば正の場合は電流指令値を増加させる。次いで、別途生成されるノコギリ波と逐次比較し、その大小関係で昇圧チョッパのスイッチングのゲート信号を出力する。瞬低モードでは、フラグの切替えにより、MPPT機能を無効にし、DC−AVR機能を有効にする。直流電圧指令値と同測定値を逐次比較し、その差分に従い、電流指令値を変化させる。
【0078】
また、表1は制御系の設定定数値である。
【表1】

【0079】
通常状態でのPCS(パワーコンディショナ)の出力電力は、定格の90%(3.6kW)値に設定した。また、出力電流には、瞬低モード以外でも定格(20A)の1.2倍で制限がかかるようにリミッタを設定した。さらに、瞬低発生時の系統電圧位相角は、ここでは、瞬低におけるPCS内部の電気的エネルギーの制御性を確認することを主体におき、他の過渡的な現象が発生し難い0度に設定した。
【0080】
瞬低条件は、電圧低下率30%〜90%、継続時間は0.04秒〜0.5秒の範囲それぞれ変化させた。
【0081】
これら各ケースにおいて、PCSの各部の電圧、電流、および電力特性についてシミュレーションし、内部直流電圧、および出力電流、および出力電力の各特性変化を評価した。
【0082】
(2 シミュレーション結果)
(1) 本発明の非採用時の結果
はじめに、設定モデルの妥当性を確認するため、本発明を採用しない場合の結果を図10に示す。瞬低条件は、継続時間0.5秒、電圧低下率30%で、計算開始より0.2秒後に発生させている。
【0083】
図10より、瞬低発生後、内部直流電圧一定制御部7の動作によるものであるが、出力電流値は瞬低時に増大し、系統電圧回復後に再び瞬低前の値に戻っている。内部直流電圧は、瞬低発生時に370V程度まで増大しているが、内部直流電圧一定制御部7により、約0.2秒後には目標値の350Vに戻っている。系統電圧回復後は、一時的に同電圧は低下するが、0.15秒後には再び目標値に戻っている。出力電力は、瞬低発生時および系統電圧回復時間に過渡的な変化がみられ、系統電圧回復時では、最大で瞬低直前値の130%程度まで増大している。図11には、モデル設定の参照とした機種H等の同条件での瞬低時特性試験結果を示すが、各特性は類似したものとなり、モデルは妥当なものといえる。
【0084】
(2) 本発明の採用時の結果
代表的ケースにおけるシミュレーション結果を図12〜図15に示す。このうち、図12および図13は、比較的瞬低時間が長いケースとして、継続時間0.5秒の各ケース、また、図14および図15は、瞬低時間が短いケースとして、継続時間0.04秒のケースをそれぞれ示す。電圧低下率については、それぞれ小さいケースとして、電圧低下率30%のケース、大きいケースとして電圧低下率80%の2ケースを示した。さらに、表2(系統電圧回復後の出力電流の変化率(最大値、瞬低直前値に対する割合)には、重要評価項目である瞬低後の系統電圧回復時における出力電力の瞬低直前値からの割合を示す。また、表3(瞬低時の内部直流電圧(最大値))には、内部直流電圧(平滑コンデンサ電圧)の瞬低中の最大値を示す。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
これらの結果をまとめると以下の通りとなる。
【0088】
図12の電圧低下率30%、瞬低継続時間0.5秒の結果を例に取ると、瞬低発生後、直ちに内部直流電圧Vdcが上昇を開始し、上限値の370Vに達した後、直流入力電流Iinが急減している。また、出力電流は、瞬低発生後の1サイクル程度の期間で増加しているが、その後直ちにほぼ瞬低直前の値に戻り、瞬低期間中は一定値を維持していることが分かる。内部直流電圧Vdcの上昇は、直流入力電流Iinの減少により無くなり、約380Vを保持している。これらにより、設定した瞬低モードへの切換えが設計通り行われていることが分かる。
【0089】
系統電圧回復時は、内部直流電圧Vdcは下限値:355V(通常モード切換え電圧)以下に低下し、その後、直流入力電流Iinの増加に伴い瞬低直前値の通常時350Vの値に戻っている。出力電流は僅かな減少がみられるが、ほぼ瞬低直後値の値に保たれている。出力電力は、瞬低回復直後に一時的に増大するが、直ちに瞬低発生直前の値に安定に戻っていることが分かる。この瞬低回復直後の増加率は瞬低直前値の13%程度であり、(1)で示した本発明の非採用時の増加率の半分以下に抑制される結果となった。
【0090】
以上の運転特性は、図13〜図15の他の瞬低ケースでもほぼ同様のものとなり、電圧低下率が80%の大きなケースでも瞬低継続時間に依らず出力電流の変化は瞬低後を含めほぼ一定に保たれている。この結果、瞬低回復後の出力電力値の増加率はいずれも比較的小さく抑えられている。
【0091】
表2および表3は、結果のまとめとして、各ケースにおける瞬低回復後の出力電力の瞬低直前値からの増加率、および内部直流部電圧の瞬低中の最大値をそれぞれ示す。
【0092】
これらの結果より、出力電力の増加率は、最大でも、電圧低下率30%時の13%程度であり、それ以外の電圧低下率では、瞬低継続時間に依らず10%程度以下と小さく抑えられることが明らかになった。また、内部直流電圧は、電圧低下率とともに増大する傾向となるが、最大でも目標とした400V以下を保てることが明らかになった。以上により、本発明によって瞬低収束による電圧回復時の運転を安定化させることができることを確認できた。
【符号の説明】
【0093】
1 パワーコンディショナ
2 分散形電源
4 瞬低検出部(瞬低検出手段)
6 最大電力追従制御部(最大電力追従制御手段)
9 インバータ制御部(インバータ制御手段)
11 電力系統
13 インバータ回路
14 昇圧チョッパ制御部(昇圧チョッパ制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部直流電圧Vdcを監視し、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換えると共に、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に前記瞬時電圧低下現象が収束したと判断して前記運転モードを通常モードに戻すものであり、前記瞬低モードでは、前記出力電流iacが前記瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路のスイッチを操作すると共に、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように前記直流入力電流iinを変化させ、前記運転モードを前記瞬低モードから前記通常モードに戻す際、前記直流入力電流iinの電流変化指令を前記瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻すことを特徴とするパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化方法。
【請求項2】
内部直流電圧Vdcを監視し、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換えると共に、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に前記瞬時電圧低下現象が収束したと判断して前記運転モードを通常モードに戻す瞬低検出部と、前記瞬低モードにおいて、前記出力電流iacが前記瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路のスイッチを操作するインバータ制御部と、前記瞬低モードにおいて、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように前記直流入力電流iinを変化させる昇圧チョッパ制御部と、前記運転モードが前記瞬低モードから前記通常モードに戻された際に前記直流入力電流iinの電流変化指令を前記瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻す最大電力追従制御部を備えることを特徴とするパワーコンディショナ。
【請求項3】
少なくとも、内部直流電圧Vdcを監視し、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された上限値を超えた場合に電力系統の瞬時電圧低下現象が発生したと判断して運転モードを瞬低モードに切り換えると共に、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された下限値を下回った場合に前記瞬時電圧低下現象が収束したと判断して前記運転モードを通常モードに戻す瞬低検出手段と、前記瞬低モードにおいて、前記出力電流iacが前記瞬時電圧低下現象の発生直前の値又はその移動平均値に一致するようにインバータ回路のスイッチを操作するインバータ制御手段と、前記瞬低モードにおいて、前記内部直流電圧Vdcが予め設定された目標値に一致するように前記直流入力電流iinを変化させる昇圧チョッパ制御手段と、前記運転モードが前記瞬低モードから前記通常モードに戻された際に前記直流入力電流iinの電流変化指令を前記瞬時電圧低下現象の発生直前の指令に戻す最大電力追従制御手段としてコンピュータを機能させるためのパワーコンディショナの瞬低回復時の運転安定化用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−55036(P2012−55036A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193590(P2010−193590)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】