説明

作業車の前輪増速駆動装置

【課題】前輪増速装置を装備した作業車において、旋回時に作業機上昇と前輪増速が同時に作動してしまい、圃場端の耕耘の終了部が斜めになることがあった。
【解決手段】ステアリングハンドル57の回動角を検知する手段と、作業機昇降制御手段と、前輪増速切換手段と、これらの制御手段を備え、ステアリングハンドル57を直進位置から設定角度以上切ると、作業機を上昇させ、前輪を増速駆動するようにした作業車において、前記作業機の上昇動作と前輪を増速駆動する動作との間に所定の時間差を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の作業車のステアリングハンドルを直進位置から設定角度以上切ると、作業機を上昇させ、前輪を増速駆動するようにした前輪増速駆動装置の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタ等による耕耘作業中において、圃場端に至り次の条に移るときに、作業機の昇降操作を容易にし、圃場を荒らさないようにするために、直進状態から圃場端でステアリングハンドルを回動して旋回動作とすると、作業機を上昇させ(旋回UP)、前輪の駆動速度を増加させる(前輪増速)技術は公知となっている。また、ステアリングハンドルの回動は、ステアリングロッドに連結したコントロールバルブを切り換えて、パワステシリンダを伸縮させて、前輪を回動するようにしている。また、パワステシリンダのシリンダロッドにセンサーシャフトを取り付けて、該センサーシャフトの移動をセンサ等で検知して、前輪の切れ角を検出するようにしていた。また、前輪増速の際に旋回上昇を先に行うため作業機の上昇作動開始角度を前輪増速作動開始角度よりも小さく設定し検出タイミングに差をつけた技術が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−205661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来技術においては、旋回UPと前輪増速を同時に行うようにしており、検出手段をスイッチとして一つのスイッチをセンサーシャフトに当接させることにより設定切れ角を検知し、コスト低減化を図るようにしていたが、圃場端において、ステアリングハンドルを設定角度以上回動すると、作業機の上昇と前輪増速が同時に行われ、作業機が地表から離れる前に、前輪増速に切り換わり急旋回することとなり、耕耘の終点が斜めに耕耘されて終了するようになる。しかも、作業機は駆動されながら上昇することになるため、作業機の後方が開放された状態で耕耘しながら上昇して、土が斜め後方へ跳ね飛ばされるという問題があった。
【0004】
それに対して特許文献1に開示されているように、前輪増速の際に旋回上昇を先に行うため作業機の上昇作動開始角度を前輪増速作動開始角度よりも小さく設定し検出タイミングに差をつけ、作業機の上昇の後に前輪増速を行うことにより、耕耘の終点が斜めに耕耘されて終了することを防止する方法がある。しかしながら、このような方法では、ステアリングハンドル操作の速度によっては作業機の上昇と前輪増速の開始に充分な時間的間隔が保障されるものではなく、耕耘の終点が斜めに終了することを防止することができないことがあった。また、検出手段を2重に設けることで経済的ではなく、さらに近傍に類似の機構を配置することで組み付け上の間違いも起こりやすく、また検出手段の多重配置によって組み付け空間を狭めることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、ステアリングハンドルの回動角を検知する手段と、作業機昇降制御手段と、前輪増速切換手段と、これらの制御手段を備え、ステアリングハンドルを直進位置から設定角度以上切ると、作業機を上昇させ、前輪を増速駆動するようにした作業車において、前記作業機の上昇動作と前輪を増速駆動する動作との間に所定の時間差を設けたものである。
【0007】
請求項2においては、前記作業車が、作業機の対地高さを検出する手段を具備し、前記作業機の対地高さが一定値以上になると、前記時間差を解除するようにしたものである。
【0008】
請求項3においては、前記作業車が、作業機の耕深を検出する手段を具備し、上昇動作時に、前記作業機の耕深が一定値以下になると、前記時間差を解除するようにしたものである。
【0009】
請求項4においては、前記作業車が、ステアリングハンドルを直進位置から設定角度以上切ると、作業機を上昇させる制御を、有効または無効に切り換える手段を具備し、ステアリングハンドル操作に対して前記作業機を上昇させる機能が無効に設定されている場合には、前記時間差を設けずに前輪を増速駆動するようにしたものである。
【0010】
請求項5においては、前記作業車が、作業機の対地高さを変更する手段を具備し、ステアリングハンドル操作以外の操作で対地高さが上昇側に操作された場合は、前記時間差を解除して、作業機の上昇動作に関わり無く、前輪増速駆動を行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
即ち、請求項1に示す如く、ステアリングハンドルの回動角を検知する手段と、作業機昇降制御手段と、前輪増速切換手段と、これらの制御手段を備え、ステアリングハンドルを直進位置から設定角度以上切ると、作業機を上昇させ、前輪を増速駆動するようにした作業車において、ステアリングハンドル操作角度を検出すると作業機の上昇が行われた後に前輪増速を行うことから、圃場端で開口するときにステアリングハンドルを切ると、まず、機体が旋回動作に入る前に作業機が上昇し、更にステアリングハンドルを切って、前輪が旋回角に回動され、機体も旋回方向に向いた後に前輪増速が作動するようになり、耕耘の終点が斜めにならず枕地を荒らすことなくきれいに処理でき、ロータリが回転しながら上昇しても斜め方向に耕耘土を跳ね飛ばすことがない。
さらに、作業機の上昇動作が行われた一定時間後に前輪を増速駆動動作するべく、両者の動作出力の開始に時間差を設ける、つまり作業機の上昇と前輪増速を行う時間を予め定めるため、作業機が耕耘土壌面から離脱するのに充分なタイミングが保障される。また、オペレータに違和感のない(遅すぎない)タイミングで前輪増速を行うこともできる。また、その効果を1つの検出手段で行えるため経済的である。
【0013】
請求項2に示す如く、作業機が土壌面から離脱したことを速やかに検知し、前輪増速が開始されるまでの時間差を最小にして作業車の旋回半径を最小のものとすることができる。
【0014】
請求項3に示す如く、作業機が土壌面から離脱したことを速やかに検知し、前輪増速が開始されるまでの時間差を最小にして作業車の旋回半径を最小のものとすることができる。
【0015】
請求項4に示す如く、旋回時に作業機を上昇する必要が無い場合には速やかに前輪増速を行うことにより、作業車の旋回半径を最小のものとすることができる。
【0016】
請求項5に示す如く、オペレータの人為的操作によって作業機を上昇させる場合には、作業機上昇と前輪増速が行われる時間差を無くすことにより、自動操作に頼らないオペレータ任意の操作に対しては速やかに前輪増速を行うため、操作者に違和感の無い前輪増速装置を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
図1は本発明の実施の形態に係るトラクタ1の概略構成外観図、図2はトラクタ1の制御系に関するブロック図、図3はトラクタ1における油圧回路図、図4は同じく油圧回路図、図5は制御系が行う一連の処理の一例を示したフローチャート、図6は図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャート、図7は図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャート、図8は図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャートである。
【0018】
まず、図1、図2、及び図3を用いて本発明の農用作業車の一例であるトラクタの概略構成について説明する。
1はトラクタで、機体の前後部に夫々前輪2・2と後輪3・3とを備え、ミッションケース4の後上部には油圧シリンダケース5を固着して設けている。前記前輪2・2はフロントアクセルケースや後述するパワーステアリング装置80等を備えるフロントユニット59に装着されステアリングハンドル57の操作によって左右に操舵可能である。フロントユニット59の操舵状態を検出する手段としてフロントステアリングユニットと連動した操舵角検出スイッチ(以下SW)58が配置されている。
前記油圧シリンダケース5内には、単動式油圧シリンダ6が設けられており、油圧シリンダケース5の左右両側には該油圧シリンダ6の伸縮により回動するリフトアーム7・7を配置している。
【0019】
また、トップリンク10、ロワーリンク11・11からなる3点リンク機構12の後端部には、対地作業装置の一例であるロータリ耕耘装置14がリフトアーム7・7にて昇降自在に連結されている。
したがって、上記単動式油圧シリンダ6を伸縮させることによって、リフトアーム7・7に連結されるロータリ耕耘装置14が上昇又は下降制御されることになる。
リフトアーム7・7とロワーリンク11・11との間にはリフトロッド15と傾倒シリンダ18が介装されている。
【0020】
また、傾倒シリンダ18は複動式とし、後述する作業機昇降制御手段となる制御弁の切り換えで伸縮され、ロータリ耕耘装置14をローリング方向(左右方向)に傾動させることが可能となり、ロータリ耕耘装置14の水平(姿勢)制御を行うことが可能となる。
また、17は本機と作業機の間の左右相対を検出する手段であり、トラクタ1とロータリ耕耘装置14との間の相対的回動量を検出するストロークセンサで構成して、具体的には直線式のポテンショメータで構成されている。
このストロークセンサ17は、上記傾倒シリンダ18の横側部に配設され、該傾倒シリンダ18の伸縮量を検出することによって、上記相対的回動量を検出するものである。
16は、本機の任意位置、例えば、油圧シリンダケース5の横側部に取り付けられた傾斜センサであって、トラクタ1の左右の傾斜角度(即ち対地角度)を検出する対地検出手段の一例である。
【0021】
<前輪増速に関するもの>
ミッションケース4の下部には前輪動力取り出しケース61が取り付けられ、該前輪動力取り出しケース61より前方に伝動軸62を介してフロントユニット59に動力を伝え、該フロントユニット59に支持した前輪2・2を駆動可能に構成している。該前輪動力取り出しケース61内には、4輪駆動クラッチと前輪増速クラッチが収納され、前輪動力取り出しケース61側面には電磁方向切換弁29(図示せず)が付設されて、両クラッチを切り換えられるようにしている。
【0022】
<ロータリ耕耘装置14の位置決めに関するもの>
20はポジション制御用の油圧操作レバーであって、この油圧操作レバー20の回動基部には、トラクタ1の後部に連結されているロータリ耕耘装置14の対地高さを設定するためのポテンショメータからなる対地高さ設定器21(図2参照)が取り付けられている。
一方、片側リフトアーム7の回動基部にもポテンショメータからなる作業機高さ検知手段として対地高さセンサ23(図2参照)が設けられ、油圧操作レバー20にて設定された位置にリフトアーム7・7が回動して、その設定位置に停止するように構成されている。該対地高さセンサ23は回転型のポテンショメータやロータリエンコーダ等の回転センサにより、リフトアーム7の回動角度を検知することにより、ロータリ耕耘装置(作業機)14の高さを検出するようにしている。但し、ロータリ耕耘装置14に超音波センサ等の高さ検出手段を配置して直接高さを検出する構成とすることも可能である。
【0023】
<ロータリ耕耘装置14に関して>
ロータリ耕耘装置14について簡単に説明すると、ロータリ耕耘装置14は、耕耘爪を回動して耕耘する耕耘部34と、耕耘部34の上方を覆う耕耘カバー35と、耕耘カバー35の後部にリヤカバー36を枢支し、該リヤカバー36の回動基部に、リヤカバー36の角度を検出する耕深センサ37が設けられている。該耕深センサ37はリヤカバー36の角度を検出しても、ハンガーロッドの伸縮長さを検知する構成であっても良い。
【0024】
次に油圧回路について図3を用いて説明する。
<ロータリ耕耘装置14の昇降、左右の傾動に関する油圧系統>
油圧ポンプ25から送り出された作動圧油は、分流弁26により一部は上述した水平制御用の傾倒シリンダ18側に送られ、他はトラクタ1の後部に連結可能な作業機(例えば、上述したロータリ耕耘装置14)を昇降するためのリフトアーム7・7に連結される単動式油圧シリンダ6側に送られる。
ロータリ耕耘装置14の水平制御用の切換弁27は、3位置4ポート式の弁にて構成され、左側のソレノイド27aが励磁されると傾倒シリンダ18は伸長し、逆に右側のソレノイド27bが励磁されると短縮する。
前記切換弁27は、制御手段となる制御装置60(図2参照)からパルス信号を受信した場合に、ソレノイド27a又はソレノイド27bにパルス信号を流すことによって、制御される比例式電磁弁であって、電流値に比例するものである。
また、上記切換弁27は常態においては中立位置を保っており、傾斜センサ16によってトラクタ1の傾斜が検出された場合に、制御装置60は、ロータリ耕耘装置14を水平(または設定角度)に維持すべく、上記何れかのソレノイド(27a・27b)を励磁することによって切換弁27を切り換える。
【0025】
<リフトアーム7の上昇、下降に関する油圧系統>
40はメインの油圧昇降回路の一部を構成する油路、42は上昇用比例制御弁、45は下降用比例制御弁である。
上昇用比例制御弁42は、パイロット圧を制御する第1制御弁47と、流量を制御する第2制御弁48とからなり、第1制御弁47のソレノイドに流す電流値をコントロールすることによって第2制御弁48に掛かるパイロット圧が変わり、上記単動式油圧シリンダ6に至る作動油の量がコントロールされる。
同様に、下降用比例制御弁45も、パイロット圧を制御する第1制御弁49と、流量制御する第2制御弁50とからなり、第1制御弁49のソレノイドに通電する電流値を変えることによって、第2制御弁50に掛かるパイロット圧が変わり、単動式油圧シリンダ6から作動油タンクに排出される作動油の量が制御される。
これらの上昇用、下降用の比例制御弁42・45は水平制御用の切換弁27と同様、1パルス当たりのON時間を変えて電流値をコントロールする(デューティ制御)ものである。
また、上記切換弁27、前記上昇用比例制御弁42、及び前記下降用比例制御弁45は、制御装置60より送出されるPWM(Pulse Width Modulation)信号によって、切り換えられる構成であっても良い。
【0026】
このようにPWM信号によって切り換えられる構成であるので、例えば、対地高さ設定器21による設定値と対地高さセンサ23の検出値との間に偏差が生じた場合に、制御装置60は、該偏差が小さい場合には1パルス当たりのON時間(オンタイム)を短くしてPWM信号を送出し、他方、該偏差が大きい場合には1パルス当たりのON時間を長くしてPWM信号を送出するように構成しても良い。
【0027】
次に前輪増速に関する油圧回路について図4を用いて説明する。
<前輪増速に関する油圧系統>
油圧ポンプ25bはパワーステアリングユニット80に駆動油を供給する。該パワーステアリングユニット80は前記ステアリングハンドル57を回動することにより油圧制御バルブ82が切り替えられて、油圧モータ83を駆動し、更にパワステシリンダ81を伸長または縮小させる。該油圧モータ83の駆動により油圧制御バルブ82のスプールを中立方向に押し、所望の旋回角度で停止する。また、パワステシリンダ81のピストンロッドの摺動により、ナックルアームを回動し、または、タイロッドを移動させて前輪2・2を旋回方向に回動させる。こうして、軽い力でステアリングハンドル操作を可能としている。
そして、前記パワーステアリングユニット80の駆動油はパワーステアリングユニット80を駆動した戻り油を、前輪動力取り出しケース61側面に付設される電磁方向切換弁29に供給する。電磁方向切換弁29はA側に切り換えられた場合に4輪駆動側に油圧クラッチを接続し、B側へ切り換えられた場合に前輪増速側に油圧クラッチを接続する。また、上記電磁方向切換弁29のソレノイド29a・29bは前輪増速SW75が「入」状態で後述する条件の場合や4WD−SW76が「入」状態のとき制御装置60より送出される信号によって切り換えられる。
【0028】
<制御系の構成>
制御系の構成としては、トラクタ1においてロータリ耕耘装置14の対地高さ制御等を行うための制御手段の一例である制御装置60には、リフトアーム7・7を昇降回動させる上昇用比例制御弁42と下降用比例制御弁45、及び水平制御用の傾倒シリンダ18を伸長させるソレノイド27aと短縮させるソレノイド27b、更に4輪駆動クラッチと前輪増速クラッチを切り換える電磁方向切換弁29のソレノイド29a・29bが接続されている。図2に示すように、トラクタ1の左右の傾斜角度に関する計測を行う傾斜センサ16および角速度センサ19を具備している。
その他、制御装置60には、ロータリ耕耘装置14の耕耘深さを設定するための耕深設定器51、対地高さ設定機21、対地高さセンサ23、耕深センサ37、トラクタ1とロータリ耕耘装置14との相対角度やトラクタ1の傾斜角度を予め設定するための傾斜設定器52も接続されている。
また、前輪操舵角の検出手段としての前輪切れ角SW58、旋回時に自動上昇を行うか否かを決定する旋回上昇入/切SW70、旋回時に前輪増速を行うか否かを決定する前輪増速SW75、対地作業機の対地高さを上昇、下降の状態に簡便に変更する上昇SW71、下降SW72等が接続されている。なお、前記前輪切れ角SW58は角度センサを用いて設定角度でONするように構成することも可能である。
【0029】
また、制御装置60の入力側にはA/D変換器55が設けられており、該A/D変換器55を介して、傾斜設定器52、耕深設定器51、対地高さ設定器21、対地高さセンサ23、耕深センサ37、ストロークセンサ17、傾斜センサ16、角速度センサ19等が制御装置60に接続されている。
また、上記A/D変換器55を介さずに該制御装置60に接続されるものとしては、前輪切れ角SW58、旋回上昇入/切SW70、前輪増速SW75、上昇SW71、下降SW72等がある。
また、上記制御装置60は、MPUやCPU等の中央演算装置より成るものであっても良い。
【0030】
以上が本発明の農用作業車の一例であるトラクタの概略構成についての説明である。
【0031】
<トラクタ1が行う一連の処理>
次に、図5、図6、図7及び図8を用いてトラクタ1が行う一連の処理の一例について説明する。
図5は制御系が行う一連の処理の一例を示したフローチャート、図6は図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャート、図7は図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャート、図8は図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャートである。
尚、以下の括弧を付した記載は各フロー図に示すステップ番号を表している。
図5に示す如く、制御装置60は、まず上述のスイッチ類やセンサ類の設定や検出値等を読み込んで、トラクタ1の状況を認識する(ステップS−10)。その後、上昇用比例制御弁42、下降用比例制御弁45の駆動に関わる昇降制御(ステップS−A)、ソレノイド27a・27bの駆動に関わる傾斜角制御(ステップS−B)、4輪駆動クラッチと前輪増速クラッチを切り換える電磁方向切換弁29a・29bの駆動に関わる前輪駆動制御(ステップS−C)を逐次的に行う。
ここでは、本発明に関わる昇降制御(ステップS−A)、前輪駆動制御(ステップS−C)について、各々をステップA及びステップCとして以下にその処理の流れを説明する。
【0032】
<ステップA昇降制御>
ステップAにおいては上昇用比例制御弁42、下降用比例制御弁45の制御出力を決定する昇降偏差を求める。それと同時にステップCにおいて前輪増速出力を規制するか否かの判定を行う。
【0033】
ここで、図6、図7を用いてステップAにおけるリフトアーム7の昇降、すなわちロータリ耕耘装置14の昇降に関する処理について簡単に説明する。この昇降は上昇モードと下降モードの2つのモードで構成されている。
例えば、上昇SW71が操作された場合は、それ以降を上昇モードとして処理を行い、リフトアーム7を予め定められた上昇時目標位置まで駆動するべく上昇用比例制御弁42を駆動し、前記予め定められた上昇時目標位置に達した場合にはその対地高さを維持する。
或いは、下降SW72が操作された場合には、それ以降は下降モードとして処理を行う。下降モードでは、対地高さ設定器21により設定される対地高さの設定位置を目標として上昇用比例制御弁42、下降用比例制御弁45を駆動する。そして、リフトアーム7の対地高さが前記設定位置と一致した場合にはその対地高さを維持する。
【0034】
次に、前記下降モードの状態において、耕深センサ37が検知した耕耘深さ偏差の処理について説明をする。
耕深センサ37が検知した耕深が耕深設定器51により設定された目標値より深いと判断される場合は、制御装置60は上昇用比例制御弁42を駆動し、リフトアーム7を上昇方向に動作させて耕深を浅くする。また、耕深センサ37が検知した耕深が耕深設定器51により設定された目標値よりも浅いと判断される場合は、制御装置60は下降用比例制御弁45を駆動し、リフトアーム7を下降方向に動作させて耕深を深くする。ただし、この下降駆動は対地高さ設定器21により設定された対地高さを下限とする。
【0035】
次に、図6、図7を用いてロータリ耕耘装置14の昇降制御について詳細説明を行う。
図6に示す如く、まず下降SW72が操作されたか否かを判定し(ステップS−A10)、操作されたなら無条件に下降モードであるとしてステップS−A15、S−A16からステップS−A70に処理を移行する。ここで、下降モードである場合は、旋回上昇のための前輪増速規制は必要ないため規制を解除する。つまり、後述する前輪増速の規制をリセットし(ステップS−A15)、旋回上昇のためのカウントをリセットする(S−A16)。なお、カウントは制御装置60が有するクロックで行うことも別に設けたタイマーにより行うことも可能である。
次に作業機が上昇制御モード(上昇中)であるか否かを判定し(ステップS−A20)、上昇制御モードであるならば上昇制御モードに昇降偏差をセットする処理(ステップS−A130)に移行する。該ステップS−A130では設定高さ(目標高さ)から現在の高さを減じて偏差を求め昇降偏差としてセットする。
次に旋回上昇入/切SW70の状態を判定する(ステップS−A30)。該旋回上昇入/切SW70がONであった場合、切れ角SW58がOFFからONに変化したか否かを判定する(ステップS−A35)。つまり、ステアリングハンドル57を設定角度以上回転操作したかを判断する。ここでステップS−A30、S−A35の双方の条件が有効である場合に「下降モード」→「上昇モード」の条件が旋回上昇機能によって成立したことになる。よって、前輪増速の規制する処理をセットし(ステップS−A36)、その規制時間のカウント(t)を開始した(ステップS−A37)後、「上昇モード」をセットし(ステップS−A65)、上昇制御モードに昇降偏差をセットする処理(ステップS−A130)に移行する。前輪増速規制については後述する。
ステップS−A10〜S−A30までの処理において、すべての条件に当てはまらない場合、つまり、作業機を上昇させたまま、または、下降させたまま直進走行する場合では旋回上昇が行われていないと判断されるため、ステップS−A40において前輪増速規制を解除し規制時間の起算をリセットする。これはステップS−A15、S−A16と同じ処理である。その後、上昇SW71が操作されたか否かを判定し(ステップS−A60)、操作されているならば「上昇モード」をセットし(ステップS−A65)、操作されていないならば下降モードとして処理を移行する。
ここまでの流れで、旋回上昇が行われた場合には前輪増速に対する規制を行い、もし上昇SW71または下降SW72の操作によって「上昇モード」、「下降モード」の変更が行われた場合は前輪増速の規制が解除される。また下降モードが決定された場合も前輪増速の規制は解除される。これにより人為的な対地高さの変更によって前輪の増速駆動に関する規制を解除することができる。
また、ステップS−A30で旋回上昇入/切SW70がOFFである場合に前輪増速に関する規制を解除することで旋回上昇機能の有効/無効の切り換え手段の状態によって旋回上昇と前輪増速との時間差を無くし速やかに前輪増速を行うことができる。この働きが無く、例えばステップCにおける処理の中で旋回上昇入/切SW70の状態に関わり無く、切れ角SW58がONになってから一定のディレイを設けて前輪増速出力がなされたならば、速やかに前輪増速を開始することができず速やかに出力された場合に比べて作業車の旋回半径は大きなものになってしまう。
ステップS−A70からステップS−A110、S−A120までの流れは下降モードで対地高さを基準に昇降偏差を設定するか耕深を基準に昇降偏差を決定するかの判定である。対地高さ設定機21で決定された位置を下限として耕深制御を行うため、昇降偏差の下降方向には対地高さ偏差と耕深偏差の低い方の偏差をとり、上昇方向には高い方の偏差をとる。
ステップS−A140以下は、決定された昇降偏差にしたがって出力を行う。つまり、設定高さ、設定耕深となるように、上昇用比例制御弁42または下降用比例制御弁45を駆動する。
【0036】
<ステップC前輪増速制御>
図8を用いて、ステップCにおいて前輪増速出力を規制するか否かの判定の流れを説明する。
まず、4WD−SW76がONであるか否かを判定する(ステップS−C5)。OFFであるならば4輪駆動出力も前輪駆動出力も行わない2輪駆動モードであるとして、双方に出力を行わないことを決定する(ステップS−C6)。次に、ステップS−Aにおける一連の判定で前輪増速の規制がセットされているか否かを判定する(ステップS−C10)。前輪増速の規制がセットされているならばステップS−C11から規制を行う処理に移行し、前輪増速の規制がセットされていないならばステップS−C20に処理を移行する。
ステップS−C20において前輪増速SW75がONであるかを判定し、OFFであるならば前輪増速を行わず4輪駆動出力を行う(ステップS−C30)。ステップS−C20において前輪増速SW75がONであるならば切れ角SW58がONであるか否かを判定し(ステップS−C25)、ONであるならば、つまり、ステアリングハンドル57または前輪2が直進位置から設定角度以上回転したならば、前輪増速クラッチに出力してONとして前輪増速を行う。OFFであるならば4輪駆動出力を行う。
ステップS−C10の判定で、前輪増速の規制がセットされている場合は、その規制時間が経過したか否かを判定する(ステップS−C11)。時間が経過しているならばステップS−C15にて前輪増速の規制を解除し、ステップS−C16にて規制時間のカウントをリセットし、前述のステップS−C20以下の処理を行い前輪増速を行うか否かを判定する。規制時間が経過していないならば、作業機は地表より離れていないので、作業機の下端が地表より出るまでの上昇時間が経過するまで待ってから前輪増速を行うようにしている。このように、ステップS−Aの判定から、この処理までの間で、旋回上昇と前輪増速の動作出力の開始に時間差を設けている。
【0037】
次に、旋回上昇カウントt(規制時間)が経過していなければ、対地高さが一定値(作業機が地表より高くなる設定高さ)以上であるか否かを判定し(ステップS−C12)、一定値以上であれば、つまり、作業機が地表よりも高くなる高さ以上となっていれば、同じくステップS−C15、S−C16にて前輪増速の規制を解除し、規制時間のカウントをリセットし、前述のステップS−C20以下の処理を行い前輪増速を行うか否かを判定する。この処理により、作業機の対地高さの検出による、前輪増速の規制解除を行っている。
次に、耕深の検出値が一定値以下であるか否かを判定し(ステップS−C13)一定値以下であれば、つまり、耕深が設定深さよりも浅くなっていれば、同じくステップS−C15、S−C16にて前輪増速の規制を解除し、規制時間のカウントをリセットする。この処理により、作業機の耕深の検出による、前輪増速の規制解除を行い、前述のステップS−C20以下の処理を行い前輪増速を行うか否かを判定する。即ち、作業機が地面よりも浮き上がる設定高さよりも低い状態であっても、本機が畝上に乗り上げたり、作業機が溝内に位置したりしている場合などでは、旋回時にロータリにより土を後方へ跳ね上げることはなく、抵抗にもならないことから、前輪増速させて圃場を傷めず速やかに急旋回して、作業性を向上できるようにしている。
これらのステップS−C11〜S−C13の判定にて前輪増速の規制を解除する条件にいずれも当てはまらない場合は、耕耘作業時であるため、ステップS−C30の処理に移行し4輪駆動出力を行う。
以上が、本実施例のトラクタ1が行う一連の処理についての説明である。
【0038】
本実施例のように作業機の上昇動作と前輪増速駆動の動作との間に所定の時間差を設けたことで耕耘の終点が斜めにならずに枕地を荒らすことなくきれいに処理できると共に、作業機が土壌面から離脱したことを速やかに検知し、前輪増速が開始されるまでの時間差を最小にして作業車の旋回半径を最小のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係るトラクタ1の概略構成外観図。
【図2】トラクタ1の制御系に関するブロック図。
【図3】トラクタ1における油圧回路図。
【図4】同じく油圧回路図。
【図5】制御系が行う一連の処理の一例を示したフローチャート。
【図6】図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャート。
【図7】図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャート。
【図8】図5に示したフローチャートにおける処理の詳細フローチャート。
【符号の説明】
【0040】
1 トラクタ
14 ロータリ耕耘装置
21 対地高さ設定器
23 対地高さセンサ
29 電磁方向切換弁
37 耕深センサ
51 耕深設定器
57 ステアリングハンドル
60 制御装置
70 旋回上昇入/切スイッチ
75 前輪増速スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングハンドルの回動角を検知する手段と、作業機昇降制御手段と、前輪増速切換手段と、これらの制御手段を備え、ステアリングハンドルを直進位置から設定角度以上切ると、作業機を上昇させ、前輪を増速駆動するようにした作業車において、前記作業機の上昇動作と前輪を増速駆動する動作との間に所定の時間差を設けたことを特徴とする作業車の前輪増速駆動装置。
【請求項2】
前記作業車が、作業機の対地高さを検出する手段を具備し、前記作業機の対地高さが一定値以上になると、前記時間差を解除することを特徴とする請求項1に記載の作業車の前輪増速駆動装置。
【請求項3】
前記作業車が、作業機の耕深を検出する手段を具備し、上昇動作時に、前記作業機の耕深が一定値以下になると、前記時間差を解除することを特徴とする請求項1に記載の作業車の前輪増速駆動装置。
【請求項4】
前記作業車が、ステアリングハンドルを直進位置から設定角度以上切ると、作業機を上昇させる制御を、有効または無効に切り換える手段を具備し、ステアリングハンドル操作に対して前記作業機を上昇させる機能が無効に設定されている場合には、前記時間差を設けずに前輪を増速駆動することを特徴とする請求項1に記載の作業車の前輪増速駆動装置。
【請求項5】
前記作業車が、作業機の対地高さを変更する手段を具備し、ステアリングハンドル操作以外の操作で対地高さが上昇側に操作された場合は、前記時間差を解除して、作業機の上昇動作に関わり無く、前輪増速駆動を行うことを特徴とする請求項1に記載の作業車の前輪増速駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−131219(P2007−131219A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327381(P2005−327381)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000198330)石川島芝浦機械株式会社 (74)
【Fターム(参考)】