説明

振動抑制装置

【課題】手動で回転速度を変更するに際し、容易且つ確実に安定回転速度へと変更することができ、作業者の負担を軽減することができる振動抑制装置を提供する。
【解決手段】表示装置12の表示画面12aに複数のインジケータ32、32・・からなる増速指示部31a及び減速指示部31bを設けており、回転速度を安定回転速度へと変更するに際してのダイヤル14の操作方向及び操作量を表示するようにした。そのため、作業者は、それらの表示を視認することでダイヤル14の操作方向及び操作量を容易に把握することができる。したがって、作業者にかかる負担を軽減することができるし、短時間で確実に回転速度を安定回転速度へと変更することができ、加工面精度の向上や工具の破損防止等も期待することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具又はワークを回転させながら加工を行う工作機械において、加工中に発生するびびり振動を抑制するための振動抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば回転軸に工具を支持させ、工具及び/又はワークを送りながら両者を相対移動させ、回転する工具によりワークを加工するといった工作機械がある。該工作機械では、切削加工中において切り込み量を大きくし過ぎる等の理由により、加工中に所謂「びびり振動」が発生し、加工面の仕上げ精度の悪化、工具の急激な摩耗や欠損といった問題が生じる。
【0003】
そこで、本件出願人は、このような「びびり振動」を抑制するための振動抑制装置として、たとえば特許文献1に開示されているようなものを考案した。この特許文献1に開示されている振動抑制装置では、周波数領域の振動が所定の閾値を超えると、びびり振動が発生していると判断し、当該びびり振動を抑制可能な安定回転速度を算出するとともに、回転軸の回転速度を自動的に安定回転速度へと変更する。
一方、回転軸の回転速度を自動的に変更するのではなく、たとえば非特許文献1に開示されているように、発生したびびり振動に対する安定回転速度の候補を画面に表示し、その候補の中から作業者によっていずれかの安定回転速度を選択し、手動にて回転軸の回転速度を安定回転速度へと変更するといった手法も考案されている。そして、作業者が手動で回転速度を変更するための手段として、本件出願人は、たとえば特許文献2に開示されているようなオーバーライドダイヤルを考案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290188号公報
【特許文献2】特開2011−67887号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「加工ナビ」を用いた加工能率の向上:株式会社工業調査会「機械と工具」2010年1月号−73頁〜77頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自動的に回転速度を変更する振動抑制装置の場合、作業者にしてみると、予期していないタイミングで回転軸の回転速度が変更されてしまう上、回転速度がどのように変更されたのかといった点もすぐに判断することができないため、手動による回転速度の変更を望まれることがある。
一方、手動により回転速度を変更する場合、画面に表示されている安定回転速度へと回転速度を変更するに際し、たとえばオーバーライドダイヤルをどちらの方向(回転速度の増減)へどれだけの量だけ操作しなければならないかを判断しなければならない。そして、びびり振動の発生による加工面精度の悪化や工具破損の恐れ等を考えた場合、上記判断は出来る限り短時間で行わなければならない。したがって、作業者にとって負担になるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、手動で回転速度を変更するに際し、容易且つ確実に安定回転速度へと変更することができ、作業者の負担を軽減することができる振動抑制装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸の回転速度の指令値を入力するための指令手段と、作業者が操作可能で、前記指令値を増減させる割合を変更して回転速度を調整するための調整手段と、前記指令値と前記割合とから前記回転軸の回転速度を設定する回転速度設定手段と、設定された回転速度で前記回転軸を回転させる回転軸制御装置と、前記回転軸を回転させた際に生じるびびり振動を検知すると、当該びびり振動を抑制可能な安定回転速度を算出する演算装置とを備えた振動抑制装置であって、前記安定回転速度を表示するための表示装置を設けるとともに、前記表示装置に、回転速度を前記安定回転速度へと変更するに際して、前記調整手段を増速又は減速いずれの方向へ操作すればよいのかを表示する操作方向表示部と、前記割合をどれだけ変更すればよいかを表示する操作量表示部とを設けたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記操作方向表示部及び前記操作量表示部において、所定の二方向へ夫々複数並べられた矢印状のインジケータを点灯又は点滅表示可能であり、点灯又は点滅した前記インジケータの向きにより操作方向を、点灯又は点滅した前記インジケータの数により操作量を夫々表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定回転速度を表示する表示装置に、回転速度を安定回転速度へと変更するに際して、調整手段を増速又は減速いずれの方向へ操作すればよいのかを表示する操作方向表示部と、指令値を増減させる割合をどれだけ変更すればよいかを表示する操作量表示部とを設けている。そのため、作業者は、それらの表示を視認することで調整手段の操作方向及び操作量を容易に把握することができる。特に、調整手段を備えた工作機械においては、びびり振動が発生した際の回転速度が同じであっても指令値の違いにより安定回転速度へと変更するための調整手段の操作量は異なることになる。しかしながら、本発明の振動抑制装置によれば、調整手段の操作量をも表示するため、作業者は、調整手段の操作量を極めて容易に把握することができる。したがって、作業者にかかる負担を軽減することができるし、短時間で確実に回転速度を安定回転速度へと変更することができ、加工面精度の向上や工具の破損防止等も期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】振動抑制装置のブロック構成説明図である。
【図2】回転軸ハウジングを側方から示した説明図である。
【図3】回転軸ハウジングを軸方向から示した説明図である。
【図4】表示装置の表示画面を示した説明図である。
【図5】オーバーライドダイヤルを示した説明図である。
【図6】オーバーライドスイッチを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態となる振動抑制装置について、図面にもとづき詳細に説明する。
【0012】
図1は、振動抑制装置10のブロック構成を示した説明図である。図2は、振動抑制の対象となる回転軸ハウジング1を側方から示した説明図であり、図3は、回転軸ハウジング1を軸方向から示した説明図である。
振動抑制装置10は、回転軸ハウジング1にC軸周りで回転可能に備えられた回転軸3に生じる「びびり振動」を抑制するためのものであって、回転中の回転軸3に生じる振動に伴う特性値である時間領域の振動加速度(時間軸上の振動加速度を意味する)を検出するための振動センサ2a〜2cと、該振動センサ2a〜2cによる検出値を解析して「びびり振動」の発生の有無を判断し、その判断結果に基づいて回転軸3の回転速度を制御する制御装置5とを備えてなる。
【0013】
振動センサ2a〜2cは、図2及び図3に示す如く回転軸ハウジング1に取り付けられており、一の振動センサは、他の振動センサに対して直角方向への時間領域の振動加速度を検出するようになっている(たとえば、振動センサ2a〜2cにて、それぞれ直交するX軸、Y軸、Z軸方向での時間領域の振動加速度を検出するように取り付ける)。
【0014】
一方、制御装置5は、振動センサ2a〜2cから検出される時間領域の振動加速度をもとに「びびり振動」の発生を検出するとともに、「びびり振動」の発生を検出すると当該「びびり振動」を抑制するための安定回転速度を算出する演算装置11と、算出した安定回転速度を表示するための表示装置12と、たとえば加工の開始時等において回転軸3の回転速度を指令するための指令手段13と、指令値を増減させる割合を変更して回転速度を調整するための調整手段であるオーバーライドダイヤル(以下、単にダイヤルと称す)14と、指令手段13からの指令値とダイヤル14から入力された入力値とから回転軸3の回転速度を設定する回転速度設定装置15と、回転軸3の動作を制御しており、回転速度設定装置15により設定された回転速度へと回転軸3の回転速度を変更する回転軸制御装置16とを備えている。
【0015】
上記振動抑制装置10では、特許文献1に開示されているような公知の方法により、「びびり振動」の発生を検知するとともに、発生した「びびり振動」を抑制可能な安定回転速度を演算装置11において算出する。そして、算出した安定回転速度を表示装置12に表示する。その後、作業者によりダイヤル14が操作されると、回転速度設定装置15においてその操作量に応じた新たな回転速度を設定し、回転軸制御装置16により新たに設定された回転速度へと回転軸3の回転速度を変更し、「びびり振動」の抑制を図ることになる。
【0016】
ここで、本発明の要部となるダイヤル14の構成、及び表示装置12における表示制御について、図4及び図5をもとに説明する。図4は、表示装置12の表示画面12aを示した説明図であり、図5は、ダイヤル14を示した説明図である。
図4に示す如く、ダイヤル14は、回動操作可能な調整つまみ21を有しているとともに、調整つまみ21の回動角度を検出する検出手段(図示せず)を内蔵しており、1目盛りに対応する角度だけ回動させると、回転速度を10%変更(すなわち、回転速度設定装置15において現在の回転速度に0.9若しくは1.1を掛け合わせた回転速度が新たに設定されることになる)可能となっている。尚、調整つまみ21を右へ回動させると回転速度は増加し、左へ回動させると回転速度は減少する。
【0017】
一方、表示装置12は表示画面12aを備えており、図4に示すような態様で現在の回転速度や演算装置11において算出された安定回転速度、ダイヤル14の操作方向及び操作量を表示画面12aに表示する。このうちダイヤル14の操作方向及び操作量を示す表示部31は、左右各方毎に夫々3つ並べられた矢印状のインジケータ32、32・・により構成されている。インジケータ32、32・・の向きとダイヤル14の操作方向とは対応付けられており、右向きのインジケータ32、32・・群は回転速度の増速を指示する増速指示部31a、左向きのインジケータ32、32・・群は回転速度の減速を指示する減速指示部31bとなっている。そして、安定回転速度へと変更するにあたり、増速させる必要がある場合には増速指示部31aのインジケータ32、32・・を点灯させる一方、減速させる必要がある場合には減速指示部31bのインジケータ32、32・・を点灯させる。また、点灯させるインジケータ32の数は、ダイヤル14の操作量に応じて設定されており、1目盛り毎に点灯させるインジケータ32を1つずつ増加させるようになっている。したがって、たとえば10%増速させる必要がある場合には増速指示部31aのインジケータ32を1つだけ点灯させることになるし、30%減速させる必要がある場合には減速指示部31bにおいて3つのインジケータ32、32・・を点灯させることになる。尚、40%以上増速又は減速させる必要がある場合にも対応する指示部31a、31bにおいて3つのインジケータ32、32・・全てを点灯させる。
【0018】
そして、ダイヤル14の操作量N(目盛りの数)については、下記式(1)により求めることができる。
【数1】

ここで、上記式(1)におけるSは現在の回転速度、Scomは加工プログラムで定められた回転速度の指令値(指令手段13により指令される指令値)、Soptは安定回転速度、kはダイヤル14における変更ピッチ(本実施形態では10%であるため0.1となる)である。
【0019】
上述したような表示装置12、及びダイヤル14を用いて回転速度を安定回転速度へと変更するにあたっての一実施例として、たとえば「びびり振動」が発生した際の回転速度が1500min−1であり、演算装置11において算出された安定回転速度が1850min−1であった場合を考える。
まず、「びびり振動」の発生時、ダイヤル14の調整つまみ21が100%であったとすると、指令手段13による指令値も1500min−1である。このとき、上記安定回転速度へと回転速度を変更するためには、回転速度を20%増速させる必要がある。したがって、この場合には、増速指示部31aにおいて2つのインジケータ32、32が点灯されることになる。そこで、作業者は、当該表示にしたがい、ダイヤル14を2目盛り増速方向へ回動操作すればよい。
一方、「びびり振動」の発生時、ダイヤル14の調整つまみ21が120%であったとすると、指令手段13による指令値は1250min−1である。このとき、上記安定回転速度に最も近い回転速度へと変更するためには、回転速度を30%増速させる必要がある。したがって、この場合には、増速指示部31aにおいて3つのインジケータ32、32・・が点灯されることになる。そこで、作業者は、当該表示にしたがい、ダイヤル14を3目盛り増速方向へ回動操作すればよい。尚、表示装置12は、図示しない制御装置を備えており、当該制御装置において上記制御(どのインジケータ32をどれだけ点灯させればよいかに係る演算等)を実行している。
【0020】
以上のような振動抑制装置10によれば、表示装置12の表示画面12aに複数のインジケータ32、32・・からなる増速指示部31a及び減速指示部31bを設けており、回転速度を安定回転速度へと変更するに際してのダイヤル14の操作方向及び操作量を表示する。そのため、作業者は、それらの表示を視認することでダイヤル14の操作方向及び操作量を容易に把握することができる。特に、ダイヤル14を備えた工作機械においては、上述したように現在の回転速度が同じであっても指令値の違いにより安定回転速度へと変更するためのダイヤル14の操作量は異なることになる。しかしながら、振動抑制装置10では、ダイヤル14の操作量をも表示するため、作業者は、ダイヤル14の操作量を極めて容易に把握することができる。したがって、作業者にかかる負担を軽減することができるし、短時間で確実に回転速度を安定回転速度へと変更することができ、加工面精度の向上や工具の破損防止等も期待することができる。
【0021】
なお、本発明の振動抑制装置に係る構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、「びびり振動」の検出に係る構成は勿論、表示装置における表示態様や調整手段の構成等を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0022】
たとえば、調整手段としては、図6に示すようなオーバーライドスイッチ41a、41bを採用することも可能である。オーバーライドスイッチ41aは、1度押し込み操作する度に回転速度を10%増速させる一方、オーバーライドスイッチ41bは、1度押し込み操作する度に回転速度を10%減速させる。このようなオーバーライドスイッチ41a、41bが採用されていたとしても、表示装置12においてその操作回数(すなわち操作量)を表示することにより、同様の効果を奏することができる。
【0023】
また、増速表示部や減速表示部についても、上記実施形態のものに何ら限定されることはなく、「1」「2」「3」といった操作量と対応する数値や「増速」「減速」といった操作方向を示す言葉を表示するように構成してもよい。
さらに、オーバーライドダイヤル14やオーバーライドスイッチ41a、41bの変更ピッチを可変としてもよい。この場合、変更ピッチに係る情報を表示装置12へと入力し、設定されている変更ピッチに対応した表示を行うように構成してもよい。なお、変更ピッチに係る情報を演算装置12へと入力しなくとも、たとえば基準変更ピッチを10%として表示装置12では演算・表示させ、変更ピッチを可変した場合には作業者の側において表示されている操作量から実際の操作量を算出するように構成してもよい。このような構成であっても、表示装置12において基準変更ピッチでの操作量が演算・表示されるため、作業者は比を用いた計算をするだけですみ、作業者の負担が大きく増すようなことはない。
【0024】
さらにまた、上述したような可変としない場合に、オーバーライドダイヤル14等での変更ピッチをどれだけとするかについても、上記実施形態の10%に限定されることはなく、たとえば1%や5%としても何ら問題はない。またさらに、インジケータを点灯させるのではなく、点滅させてもよいし、上記実施形態において30%まではインジケータを1つずつ順次点灯させていき、40%以上であると点滅させる等、インジケータによる表示態様についても適宜変更可能である。
加えて、工具を回転させて加工するマシニングセンタに限らず、ワークを回転させる旋盤等の工作機械の振動を抑制するために用いることも可能である。
【符号の説明】
【0025】
1・・回転軸ハウジング、2a、2b、2c・・振動センサ、3・・回転軸、5・・制御装置、10・・振動抑制装置、11・・演算装置、12・・表示装置、12a・・表示画面、13・・指令手段、14・・オーバーライドダイヤル(調整手段)、15・・回転速度設定装置(回転速度設定手段)、16・・回転軸制御装置、21・・調整つまみ、31・・表示部、31a・・増速指示部(操作方向表示部、操作量表示部)、32b・・減速指示部(操作方向表示部、操作量表示部)、32・・インジケータ、41a、41b・・オーバーライドスイッチ(調整手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸の回転速度の指令値を入力するための指令手段と、作業者が操作可能で、前記指令値を増減させる割合を変更して回転速度を調整するための調整手段と、前記指令値と前記割合とから前記回転軸の回転速度を設定する回転速度設定手段と、設定された回転速度で前記回転軸を回転させる回転軸制御装置と、前記回転軸を回転させた際に生じるびびり振動を検知すると、当該びびり振動を抑制可能な安定回転速度を算出する演算装置とを備えた振動抑制装置であって、
前記安定回転速度を表示するための表示装置を設けるとともに、
前記表示装置に、回転速度を前記安定回転速度へと変更するに際して、前記調整手段を増速又は減速いずれの方向へ操作すればよいのかを表示する操作方向表示部と、前記割合をどれだけ変更すればよいかを表示する操作量表示部とを設けたことを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
前記操作方向表示部及び前記操作量表示部において、所定の二方向へ夫々複数並べられた矢印状のインジケータを点灯又は点滅表示可能であり、点灯又は点滅した前記インジケータの向きにより操作方向を、点灯又は点滅した前記インジケータの数により操作量を夫々表示することを特徴とする請求項1に記載の振動抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−808(P2013−808A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131370(P2011−131370)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】