説明

波長可変光フィルタおよび波長可変レーザ

【課題】波長特性が広帯域で可変である波長可変光フィルタ、および広帯域でレーザ光の波長が可変である波長可変レーザを提供すること。
【解決手段】コア部を有するマルチモード干渉型導波路部と、前記マルチモード干渉型導波路部の長さ方向の一端に設けられた第1光入出力部と、前記マルチモード干渉型導波路部の他の一端に設けられた第2光入出力部とを有し、前記マルチモード干渉型導波路部は前記第1光入出力部から入力し第2光入出力部から出力する光に対して損失波長特性を有する光フィルタ部と、前記マルチモード干渉型導波路部のコア部の側部に設けられた、該コア部よりも屈折率または等価屈折率が低い側部クラッド部と、前記側部クラッド部の屈折率または等価屈折率を変化させる屈折率調整機構と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変光フィルタおよびこれを用いた波長可変レーザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
波長可変レーザにおいて広帯域で波長可変を行なう方法として、反射率の波長依存性が周期的にピークを示すグレーティング素子と、損失あるいは反射率の波長依存性が比較的半値全幅の広いピークを有し、このピーク波長を変化させることができる波長可変光フィルタとを組み合わせる方法がある。たとえば、非特許文献1では、サンプルドグレーティング(Sampled Grating:SG)と、波長可変光フィルタとしてのグレーティングアシスト方向性結合器光フィルタとを組み合わせて波長可変レーザを構成している。
【0003】
一方、半値全幅が広い損失のピークを有する波長可変フィルタであるマルチモード干渉型(Multi Mode Interference、MMI)導波路(非特許文献2参照)とサンプルドグレーティングとを組み合わせた波長可変レーザが開示されている(特許文献1、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6687267号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Oberg, et al., IEEE Photonics Technology Letters, vol.5, No.7, pp.735-738, 1993
【非特許文献2】Pierre A. Besse, et al., Journal of Lightwave Technology, vol.12, No.6, pp.1004-1009, 1994
【非特許文献3】H. G. Bukkems, et al., IEEE Journal of Quantum Electronics, vol.43, No.7, pp.614-621, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
たとえば大容量のWDM(Wavelength Division-Multiplexing)通信においては広い波長範囲を使用するので、波長可変範囲がより広帯域な波長可変レーザを実現する等のために、反射率や損失などの波長特性の可変範囲がより広帯域である波長可変光フィルタが求められている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、波長特性が広帯域で可変である波長可変光フィルタ、および広帯域でレーザ光の波長が可変である波長可変レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る波長可変光フィルタは、コア部を有するマルチモード干渉型導波路部と、前記マルチモード干渉型導波路部の長さ方向の一端に設けられた第1光入出力部と、前記マルチモード干渉型導波路部の他の一端に設けられた第2光入出力部とを有し、前記マルチモード干渉型導波路部は前記第1光入出力部から入力し第2光入出力部から出力する光に対して損失波長特性を有する光フィルタ部と、前記マルチモード干渉型導波路部のコア部の側部に設けられた、該コア部よりも屈折率または等価屈折率が低い側部クラッド部と、前記側部クラッド部の屈折率または等価屈折率を変化させる屈折率調整機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る波長可変光フィルタは、コア部を有するマルチモード干渉型導波路部と、前記マルチモード干渉型導波路部の長さ方向の一端に設けられた第1光入出力部と、前記マルチモード干渉型導波路部の他の一端に設けられた反射手段とを有し、前記マルチモード干渉型導波路部は前記第1光入出力部から入力し前記反射手段で反射され該第1光入出力部から出力する光に対して反射波長特性を有する光フィルタ部と、前記マルチモード干渉型導波路部のコア部の側部に設けられた、該コア部よりも屈折率または等価屈折率が小さい側部クラッド部と、前記側部クラッド部の屈折率または等価屈折率を変化させる屈折率調整機構と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る波長可変光フィルタは、上記の発明において、前記光フィルタ部は、前記マルチモード干渉型導波路部の前記一端に設けられ、前記第1光入出力部から入力し前記反射手段により反射した光の一部が出力する第2光入出力部をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る波長可変光フィルタは、上記の発明において、前記マルチモード干渉型導波路部はリッジ構造を有していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る波長可変光フィルタは、上記の発明において、前記マルチモード干渉型導波路部は埋め込み構造を有していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る波長可変光フィルタは、上記の発明において、前記マルチモード干渉型導波路部はハイメサ構造を有していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る波長可変光フィルタは、上記の発明において、前記第1光入出力部はハイメサ構造を有していることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る波長可変光フィルタは、上記の発明において、前記側部クラッド部の積層方向の上下に形成された、前記側部クラッド部よりも低い屈折率を有する上部クラッド層および下部クラッド層を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る波長可変レーザは、上記の発明のいずれか一つに記載の波長可変光フィルタを備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る波長可変レーザは、上記の発明において、反射率の波長依存性が周期的にピークを示す周期性反射手段により構成した光共振器を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る波長可変レーザは、上記の発明において、前記周期性反射手段はDBRミラーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、マルチモード干渉型導波路のコア部の側部に設けられた側部クラッド部の屈折率または等価屈折率を変化させてコア部における光の閉じ込め状態を変化させることによって、波長特性が広帯域で可変である波長可変光フィルタ、および広帯域でレーザ光の波長が可変である波長可変レーザを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施の形態1に係る波長可変光フィルタの模式的な平面図である。
【図2】図2は、図1に示す波長可変光フィルタのA−A線断面および等価屈折率の分布形状を示す図である。
【図3】図3は、図1に示す波長可変光フィルタにおいて、側部クラッド部の等価屈折率を変化させた場合の損失の波長特性の変化についての計算結果を示す図である。
【図4】図4は、実施の形態2に係る波長可変光フィルタの模式的な断面および等価屈折率の分布形状を示す図である。
【図5】図5は、実施の形態3に係る波長可変光フィルタの模式的な断面および等価屈折率の分布形状を示す図である。
【図6】図6は、実施の形態4に係る波長可変光フィルタの模式的な平面図である。
【図7】図7は、図6に示す波長可変光フィルタのB−B線要部断面図である。
【図8】図8は、図6に示す波長可変光フィルタにおいて、側部クラッド部の等価屈折率を変化させた場合の損失特性の変化について示す図である。
【図9】図9は、実施の形態5に係る波長可変光フィルタの模式的な平面図である。
【図10】図10は、図9に示す波長可変光フィルタのC−C線断面および等価屈折率または屈折率の分布形状を示す図である。
【図11】図11は、実施の形態6に係る波長可変光フィルタの模式的な平面図である。
【図12】図12は、実施の形態7に係る波長可変レーザの模式的な平面図である。
【図13】図13は、図12に示す波長可変レーザのD−D線要部断面図である。
【図14】図14は、図12に示す波長可変レーザのE−E線要部断面図である。
【図15】図15は、図12に示す波長可変レーザのF−F線要部断面図である。
【図16】図16は、サンプルドグレーティング導波路部の反射率の波長特性の一例を模式的に示す図である。
【図17】図17は、図12に示す波長可変レーザの発振波長について説明する図である。
【図18】図18は、図12に示す波長可変レーザの発振波長と縦モードとの関係について説明する図である。
【図19】図19は、図12に示す波長可変レーザの製造方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明に係る波長可変光フィルタおよび波長可変レーザの実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0022】
(実施の形態1)
はじめに、本発明の実施の形態1に係る波長可変光フィルタについて説明する。図1は、実施の形態1に係る波長可変光フィルタの模式的な平面図である。また、図2は、図1に示す波長可変光フィルタのA−A線断面および等価屈折率の分布形状を示す図である。以下、図1、2を用いてこの波長可変光フィルタ10について説明する。
【0023】
この波長可変光フィルタ10は、半導体積層構造11に形成された、MMI導波路部12aとMMI導波路部12aの長さ方向の一端または他端に設けられた光入出力部12b、12c、12d、12eとを有する光フィルタ部12と、半導体積層構造11上のMMI導波路部12aの側部15に設けられた電極13と、半導体積層構造11の裏面に設けられた電極14と、を備えている。MMI導波路部12aは、幅W1、長さL1を有している。
【0024】
半導体積層構造11は、下部クラッド層11aと、コア層11bと、上部クラッド層11cとが順次積層した構造を有している。波長1.55μm帯の光を入力させる場合、下部クラッド層11a、上部クラッド層11cは、それぞれたとえばn−InP、p−InPからなる。コア層11bは、MMI導波路部12aにおけるコア部11baと、側部15における側部クラッド部11bbとからなる。また、コア層11bは、屈折率がInPよりも高くなるように、たとえば組成が1.4Qになるように調整されたInGaAsPからなる。なお、1.4Qとは、バンドギャップ波長が1.4μmという意味である。
【0025】
また、上部クラッド層11cの一部が突出してリッジ部11caが形成されている。このリッジ部11caが形成された領域がリッジ構造を有するMMI導波路部12aとなっている。また、リッジ部11caの存在によって、半導体積層構造11の積層方向に対するコア層11bの等価屈折率は、幅方向において形状P11のような分布形状を有している。その結果、コア層11bに入力された所定波長(たとえば1.55μm帯)の光は、コア部11baと側部クラッド部11bbとの等価屈折率の差によって、コア部11baに閉じ込められて導波する。
【0026】
また、光入出力部12b、12c、12d、12eもリッジ導波路構造を有しているが、所定波長の光をシングルモードで導波するように構成されている。
【0027】
つぎに、この波長可変光フィルタ10の特性について説明する。まず、光フィルタ部12の特性について説明する。MMI導波路部12aは、第1光入出力部としての光入出力部12bから所定波長のシングルモードの光IL1を入力すると、この光は側部クラッド部11bbによってコア部11baに閉じ込められてMMI導波路部12aをマルチモードで導波し、第2入出力部としての光入出力部12dからシングルモードの光OL1として出力する。
【0028】
このMMI導波路部12aは、そのマルチモード干渉効果によって、光入出力部12bから入力し、光入出力部12dから出力する光に対して、極小値を有するような損失波長特性を有している。なお、この損失波長特性を実現するには、たとえば非特許文献1に記載される方法で、導波路の等価屈折率等の設計パラメータを用いて、MMI導波路部12aが、光入出力部12b、12c、12d、12eを入出力ポートとする2×2カプラとして機能するように、MMI導波路部12aの長さL1および幅W1、ならびに光入出力部12b、12c、12d、12eの位置を設定すればよい。このとき、たとえば、損失が極小値となる波長(極小損失波長)におけるMMI導波路12aの0次モード、1次モードの伝搬定数をそれぞれβ、βとすると、長さL1の値は、3π/{2(β−β)}となる。
【0029】
ここで、屈折率調整機構としての電極13と電極14との間に電圧を印加し、側部15に電流を注入すると、プラズマ効果によって側部クラッド部11bbの等価屈折率が、図2に示す形状P12のように変化する。側部クラッド部11bbの等価屈折率が変化すると、MMI導波路部12aのコア部11baにおける光の閉じ込め状態が変化するため、極小損失波長も変化する。したがって、上記の電流注入によって、損失の波長特性を変化させることができるので、波長可変光フィルタ10は波長可変光フィルタとして機能する。
【0030】
図3は、図1に示す波長可変光フィルタ10において、側部クラッド部11bbの等価屈折率を変化させた場合の損失の波長特性の変化についての計算結果を示す図である。なお、図3において、「基準」とは、側部15に電流を流していない状態の損失の波長特性を示している。図3においては、波長可変光フィルタ10は、「基準」の状態において極小損失波長が約1.56μmになるように設計されている。また、コア部11baと側部クラッド部11bbとの等価屈折率の差は、0.06となるように設計されている。また、長さL1の値は505μm、幅W1の値は10μmに設定されている。
【0031】
つぎに、側部15に電流を流して、側部クラッド部11bbの等価屈折率を、「基準」の等価屈折率に対して0.08%、0.38%、および0.58%の割合だけ低下させる。なお、図3において「−0.08%」、「−0.38%」、および「−0.58%」が、等価屈折率をその数値の割合で低下させた状態を示している。図3に示すように、等価屈折率を低下させるにつれて、極小損失波長は短波長側にシフトする。図3において矢印Ar1は、「基準」の状態と「−0.58%」の状態との間での極小損失波長の可変範囲を示しているが、矢印Ar1が示す可変範囲は約50nmときわめて広帯域である。すなわち、本実施の形態1に係る波長可変光フィルタ10はその損失の波長特性がきわめて広帯域で可変なものとなる。
【0032】
なお、この極小損失波長の可変範囲は、MMI導波路部12aのコア部11baと側部クラッド部11bbとの等価屈折率の差に依存する。すなわち、等価屈折率の差が小さいほどコア部11baから側部クラッド部11bbへの光のしみ出しが大きいため、側部クラッド部11bbの等価屈折率を所定量だけ変化させた場合の極小損失波長の可変範囲はいっそう広帯域となる。特に、本実施の形態1に係る波長可変光フィルタ10はMMI導波路部12aがリッジ構造を有しているため、コア部11baと側部クラッド部11bbとの等価屈折率の差を0.06程度とすることが容易に実現され、極小損失波長の可変範囲を約50nmときわめて広帯域にできる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態1に係る波長可変光フィルタ10は、その損失の波長特性がきわめて広帯域で可変なものとなる。
【0034】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る波長可変光フィルタについて説明する。本実施の形態2に係る波長可変光フィルタの上方からみた構造は、図1に示す波長可変光フィルタ10の構造と同一であるので、説明を省略し、以下ではその断面構造について説明する。図4は、本実施の形態2に係る波長可変光フィルタの模式的な断面および等価屈折率の分布形状を示す図である。
【0035】
この波長可変光フィルタ20は、半導体積層構造21に形成された、MMI導波路部22aとMMI導波路部22aの長さ方向の一端または他端に設けられた4つの光入出力部とを有する光フィルタ部と、半導体積層構造21上のMMI導波路部22aの側部25に設けられた電極23と、半導体積層構造21の裏面に設けられた電極24と、を備えている。
【0036】
半導体積層構造21は、下部クラッド層21aと、コア層21bと、上部クラッド層21cとが順次積層した構造を有している。下部クラッド層21a、上部クラッド層21cは、それぞれたとえばn−InP、p−InPからなる。
【0037】
コア層21bは、MMI導波路部22aにおけるコア部21baと、側部25における側部クラッド部21bbとからなり、コア部21baが側部クラッド部21bbによって埋め込まれた構造を有している。コア部21baは、屈折率がInPよりも高くなるように、たとえば組成が1.4Qになるように調整されたInGaAsPからなる。また、側部クラッド部21bbは、屈折率がInPよりも高く、かつコア部21baよりも低くなるように、たとえば組成が1.23Qになるように調整されたInGaAsPからなる。
【0038】
上記のようにコア部21baと側部クラッド部21bbとの組成が調整されているため、半導体積層構造21の積層方向に対するコア層21bの等価屈折率は、幅方向において形状P2のような分布形状を有している。コア層21bに入力された所定波長の光は、コア部21baと側部クラッド部21bbとの等価屈折率の差によって、コア部21baに閉じ込められて導波する。
【0039】
なお、4つの光入出力部は波長可変光フィルタ10の光入出力部12a〜12eと同様にリッジ導波路構造を有しており、所定波長の光をシングルモードで導波するように構成されている。
【0040】
この波長可変光フィルタ20の損失波長特性は、波長可変光フィルタ10と同様に極小値を有するような損失波長特性を有している。そして、屈折率調整機構としての2つの電極23と電極24との間に電圧を印加し、側部25に電流を注入すると、プラズマ効果によって側部クラッド部21bbの等価屈折率が低下する。その結果、この波長可変光フィルタ20の極小損失波長も変化するので、波長可変光フィルタとして機能する。
【0041】
なお、この波長可変光フィルタ20において、コア部21baを1.4QのInGaAsPとし、側部クラッド部21bbを1.23QのInGaAsPとすると、その等価屈折率の差は、たとえば波長1.56μmにおいて0.06程度となる。この場合、側部クラッド部21bbの等価屈折率を−0.58%の割合だけ変化させると、波長可変光フィルタ20の極小損失波長の可変範囲は約50nmときわめて広帯域にできる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態2に係る波長可変光フィルタ20は、その損失の波長特性がきわめて広帯域で可変なものとなる。
【0043】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る波長可変光フィルタについて説明する。本実施の形態3に係る波長可変光フィルタの上方からみた構造は、図1に示す波長可変光フィルタ10の構造と同一であるので、説明を省略し、以下ではその断面構造について説明する。図5は、本実施の形態3に係る波長可変光フィルタの模式的な断面および等価屈折率の分布形状を示す図である。
【0044】
この波長可変光フィルタ30は、半導体積層構造31に形成された、MMI導波路部32aとMMI導波路部32aの長さ方向の一端または他端に設けられた4つの光入出力部とを有する光フィルタ部と、半導体積層構造31上のMMI導波路部32aの側部35に設けられた電極33と、半導体積層構造31の裏面に設けられた電極34と、を備えている。
【0045】
半導体積層構造31は、下部クラッド層31aと、コア層31bと、上部クラッド層31cとが順次積層した構造を有している。下部クラッド層31a、上部クラッド層31cは、それぞれたとえばn−InP、p−InPからなる。
【0046】
コア層31bは、MMI導波路部32aにおけるコア部31baと、側部35における側部クラッド部31bbとからなる。コア部31baは側部クラッド部31bbよりも層厚が厚く形成されている。また、コア層31bは、たとえば組成が1.4Qになるように調整されたInGaAsPからなる。
【0047】
このコア層31bは、上記のようにコア部31baが側部クラッド部31bbよりも層厚が厚く形成されているため、半導体積層構造31の積層方向に対するコア層31bの等価屈折率は、幅方向において形状P3のような分布形状を有している。その結果、コア層31bに入力された所定波長の光は、コア部31baと側部クラッド部31bbとの等価屈折率の差によって、コア部31baに閉じ込められて導波する。
【0048】
なお、4つの光入出力部は波長可変光フィルタ10の光入出力部12a〜12eと同様にリッジ導波路構造を有しており、所定波長の光をシングルモードで導波するように構成されている。
【0049】
そして、この波長可変光フィルタ30の損失波長特性も、波長可変光フィルタ10、20と同様に極小値を有するような損失波長特性を有している。そして、屈折率調整機構としての2つの電極33と電極34との間に電圧を印加し、側部35に電流を注入すると、プラズマ効果によって側部クラッド部31bbの等価屈折率が低下する。その結果、この波長可変光フィルタ30の極小損失波長も変化するので、波長可変光フィルタとして機能する。
【0050】
なお、この波長可変光フィルタ30において、コア部31ba、側部クラッド部31bbを1.4QのInGaAsPとし、コア部31baの層厚を0.6μm、側部クラッド部31bbの層厚を0.31μmとすると、その等価屈折率の差は、たとえば波長1.56μmにおいてたとえば0.06程度となる。この場合、側部クラッド部31bbの等価屈折率を−0.58%の割合だけ変化させると、波長可変光フィルタ30の極小損失波長の可変範囲は約50nmときわめて広帯域にできる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態3に係る波長可変光フィルタ30は、その損失の波長特性がきわめて広帯域で可変なものとなる。
【0052】
(実施の形態4)
つぎに、本発明の実施の形態4に係る波長可変光フィルタについて説明する。図6は、本実施の形態4に係る波長可変光フィルタの模式的な平面図である。
【0053】
この波長可変光フィルタ40は、半導体積層構造41に形成された、MMI導波路部42aとMMI導波路部42aの長さ方向の一端または他端に設けられた光入出力部42b、42c、42d、42eとを有する光フィルタ部42と、半導体積層構造41上のMMI導波路部42aの側部に設けられた電極43と、半導体積層構造41の裏面に設けられた電極と、を備えている。
【0054】
MMI導波路部42aおよびその側部ならびに各電極は、図1、2に示す波長可変光フィルタ10のMMI導波路部12aおよび側部15ならびに電極13、14と同一であるので、その説明を省略する。
【0055】
図7は、図6に示す波長可変光フィルタのB−B線要部断面図である。図7に示すように、B−B線断面において、半導体積層構造41は、下部クラッド層41aが有する突出部41aa上に、コア層41bと上部クラッド層41cとが順次積層した構造を有して光入出力部42bを構成している。すなわち光入出力部42bはいわゆるハイメサ構造を有するシングルモードの光導波路となっている。なお、下部クラッド層41a、上部クラッド層41c、コア層41bは、それぞれたとえばn−InP、組成が1.4QのInGaAsP、p−InPからなる。
【0056】
なお、他の光入出力部42c、42d、42eも光入出力部42bと同一のハイメサ構造を有している。
【0057】
この波長可変光フィルタ40は、MMI導波路部12aと同一のリッジ構造のMMI導波路部42aを備えるため、電極43を用いて側部の等価屈折率を変化させることによって、その損失波長特性を変化させることができる。なお、この波長可変光フィルタ40の損失の波長特性の帯域幅については、波長可変光フィルタ10の場合よりも狭くなっており、波長選択特性が高くなっている。
【0058】
以下、具体的に説明する。MMI導波路の損失特性の帯域は、以下の式(1)で表される(非特許文献2参照)。
2|δλ|=[Z(α)×π×d×n]/L ・・・ (1)
ただし、式(1)において、2|δλ|は損失が極小値からαだけ大きい値の帯域幅、Z(α)はαの関数、nはMMI導波路のコア部の等価屈折率、dはMMI導波路に光が入力する際の光のガウシアンビーム径、LはMMI導波路の長さを示している。
【0059】
この波長可変光フィルタ40では、第1光入出力部である光入出力部42bがハイメサ構造であるため、MMI導波路部42aに入力する光のガウシアンビーム径dを、リッジ構造の場合よりも狭くすることができる。その結果、式(1)により、波長可変光フィルタ40の帯域幅2|δλ|は狭くなる。
【0060】
図8は、図6に示す波長可変光フィルタ40において、側部クラッド部の等価屈折率を変化させた場合の損失特性の変化について示す図である。なお、図8において、「基準」とは、側部に電流を流していない状態の損失の波長特性を示している。図8の「基準」と図3の「基準」とを比較すると、MMI導波路が同一構造にもかかわらず、光入出力部をハイメサ構造として入力光のガウシアンビーム径を狭くしたことによって、図8の「基準」の場合の方が、帯域幅が狭くなっていることが確認される。
【0061】
また、図8において、「−0.5%」は、側部に電流を流して、側部クラッド部の等価屈折率を、「基準」の等価屈折率に対して0.5%の割合だけ低下させた状態を示している。図8において矢印Ar2は、「基準」の状態と「−0.5%」の状態との間での極小損失波長の可変範囲を示しているが、矢印Ar2が示す可変範囲は約40nmときわめて広帯域である。
【0062】
以上説明したように、本実施の形態4に係る波長可変光フィルタ40は、その損失の波長特性がきわめて広帯域で可変であり、かつ波長選択性がさらに高いものとなる。
【0063】
(実施の形態5)
上記実施の形態では、MMI導波路部の側部がいずれも平面導波路構造を有しているが、以下では側部が導波路構造ではない実施の形態5について説明する。
【0064】
図9は、実施の形態5に係る波長可変光フィルタの模式的な平面図である。また、図10は、図9に示す波長可変光フィルタのC−C線断面および等価屈折率または屈折率の分布形状を示す図である。
【0065】
以下、図9、10を用いてこの波長可変光フィルタ50について説明する。この波長可変光フィルタ50は、半導体積層構造51に形成された、MMI導波路部52aとMMI導波路部52aの長さ方向の一端または他端に設けられた光入出力部52b、52c、52d、52eとを有する光フィルタ部52と、半導体積層構造51上のMMI導波路部52aの側部55に設けられた側部クラッド部材56と、側部クラッド部材56上と半導体積層構造51の裏面とに設けられた屈折率調整機構53と、を備えている。なお、図9では、説明のために側部クラッド部材56上の屈折率調整機構53の記載を省略している。
【0066】
半導体積層構造51は、C−C線断面において、下部クラッド層51aと、コア部となるコア層51bと、上部クラッド層51cとが順次積層した構造を有しており、ハイメサ構造のMMI導波路部52aを構成している。なお、下部クラッド層51a、上部クラッド層51cは、それぞれたとえばn−InP、p−InPからなる。コア層51bは、屈折率がInPよりも高くなるように、たとえば組成が1.4Qになるように調整されたInGaAsPからなる。
【0067】
また、側部クラッド部材56は、半導体積層構造51の積層方向に対するコア層51bの等価屈折率よりも低い屈折率を有する材料からなる。これによって、半導体積層構造51の積層方向に対するコア層51bの等価屈折率および側部クラッド部材56の屈折率は、幅方向において形状P4のような分布形状を有している。その結果、コア層51bに入力された所定波長の光は、コア層51bの等価屈折率と側部クラッド部材56の屈折率との差によって、コア層51bに閉じ込められて導波する。
【0068】
また、光入出力部52b、52c、52d、52eもハイメサ構造を有しており、所定波長の光をシングルモードで導波するように構成されている。
【0069】
この波長可変光フィルタ50の損失波長特性は、波長可変光フィルタ10と同様に極小値を有するような損失波長特性を有している。そして、屈折率調整機構53によって側部クラッド部材56の屈折率を変化させることによって、この波長可変光フィルタ50の極小損失波長も変化するので、波長可変光フィルタとして機能する。
【0070】
なお、側部クラッド部材56および屈折率調整機構53は、側部クラッド部材56の屈折率を変化させるために用いる原理によって適宜選択され、特に限定はされない。例示すると、電気光学効果を利用して側部クラッド部材56の屈折率を変化させる場合は、側部クラッド部材56は電気光学効果を有する半導体、強誘電体、ガラス、または樹脂等からなるものとし、屈折率調整機構53は電極とする。また、熱光学効果を利用して側部クラッド部材56の屈折率を変化させる場合は、側部クラッド部材56は熱光学効果を有する樹脂等からなるものとし、屈折率調整機構53はヒータやペルチェ素子等の加熱または冷却を行う素子とする。
【0071】
(実施の形態6)
上記実施の形態では、MMI導波路部は透過型の素子であるが、以下ではMMI導波路部が反射型の素子である実施の形態6について説明する。図11は、実施の形態6に係る波長可変光フィルタの模式的な平面図である。
【0072】
この波長可変光フィルタ60は、半導体積層構造61に形成された、MMI導波路部62aと、MMI導波路部62aの一端に設けられた光入出力部62b、62cと他の一端に設けられた反射手段としての高光反射膜67とを有する光フィルタ部62と、半導体積層構造61上のMMI導波路部62aの側部に設けられた電極63と、半導体積層構造61の裏面に設けられた電極と、を備えている。MMI導波路部62aは、幅W2、長さL2を有している。高光反射膜67の反射率はたとえば90%以上である。
【0073】
光入出力部62b、62c、電極63は、図1、2に示す波長可変光フィルタ10の光入出力部12b、12c、電極13と同一の構造を有している。一方、MMI導波路部62aは、MMI導波路部12aと同一の断面構造を有しており、幅W2も幅W1と同一であるが、長さL2は長さL1の1/2に設定されている。すなわち、この波長可変光フィルタ60は、波長可変光フィルタ10を、その長さ方向の中心線で切断し、この切断面に高光反射膜67を設けたような構造を有している。
【0074】
この波長可変光フィルタ60は、上記構造を有する結果、第1光入出力部としての光入出力部62bから入力された所定波長のシングルモードの光IL2は、MMI導波路部62aをマルチモードで導波し、高光反射膜67で反射され、再びMMI導波路部62aをマルチモードで導波し、光入出力部62bから光OL2として出力する経路において、MMI導波路部12aと同様のマルチモード干渉効果を受けることとなる。その結果、このMMI導波路部62aは、そのマルチモード干渉効果によって、光入出力部62bから入力し、光入出力部62bから出力する光に対して、極大値を有するような反射波長特性を有することとなる。なお、このMMI導波路部62aはMMI導波路部12aと同様に2×2カプラとして機能するので、光入出力部62cからも光OL2と同様の特性の光OL3が出力する。
【0075】
このような反射波長特性を実現するには、たとえば非特許文献1に記載される方法で、導波路の等価屈折率等の設計パラメータを用いて、2×2カプラとして機能するようなMMI導波路部の長さおよび幅、ならびに4つの光入出力部の位置を設定し、このMMI導波路部の長さ方向の中心線の位置に高反射膜を設けるようにすればよい。このとき、たとえば、反射率が極大となる波長(極大反射波長)におけるMMI導波路部62aの0次モード、1次モードの伝搬定数をそれぞれβ、βとすると、長さL2の値は、3π/{4(β−β)}となる。
【0076】
そして、この波長可変光フィルタ60において、電極63を用いてMMI導波路部62aの側部の屈折率を変化させると、MMI導波路部62aの極大反射波長も変化する。したがって、上記の電流注入によって、反射率の波長特性をきわめて広帯域で変化させることができるので、波長可変光フィルタ60は波長可変光フィルタとして機能する。
【0077】
このように、本実施の形態6に係る波長可変光フィルタ60は、その反射率の波長特性がきわめて広帯域で可変であると同時に、波長可変光フィルタ10よりも長さが1/2程度に短い小型の波長可変光フィルタとなる。
【0078】
(実施の形態7)
つぎに、本発明の実施の形態7として、実施の形態6のような反射型の波長可変光フィルタを用いた波長可変レーザについて説明する。以下では、はじめに本実施の形態7に係る波長可変レーザの構造について説明し、つぎに、その動作について説明し、最後に、その製造方法の一例について説明する。
【0079】
(構造)
図12は、本実施の形態7に係る波長可変レーザ100の模式的な平面図である。図12に示すように、この波長可変レーザ100は、光共振器を構成する周期性反射手段としてのDBR(Distributed Bragg Reflector)ミラーであるサンプルドグレーティング導波路部101と、光増幅導波路部102と、位相調整導波路部103と、MMI導波路部104と、曲がり導波路部105と、光増幅導波路部106と、レーザ光LLを出力すべき曲がり導波路部107とを備え、これらの光導波路は、この順番で光学的に接続し、かつMMI導波路部104を基点として折り返すように配置している。また、この波長可変レーザ100の上面は、後述するp側電極とコンタクト層とのコンタクト部分以外が、たとえばSiNxからなる厚さ数十〜数百nm程度の保護膜111によって覆われている。
【0080】
つぎに、図13〜図15を用いて波長可変レーザ100の積層構造について説明する。はじめに、図13は、図12に示す波長可変レーザ100のD−D線要部断面図である。図13に示すように、サンプルドグレーティング導波路部101は、裏面にn側電極121を形成したn−InPからなる基板122上に、バッファ層としての役割も果たしているn−InPからなる下部クラッド層123と、InGaAsPからなるコア層124と、p−InPからなる上部クラッド層125と、InGaAsPからなり、短周期のグレーティングが形成されたグレーティング領域126aが所定の周期で配置されたグレーティング層126と、p−InPからなる上部クラッド層127、128と、InGaAsからなるコンタクト層129とが順次積層した構造を有している。また、コンタクト層129上にはp側電極112が形成されている。ここで、コア層124の組成は1.4Q、グレーティング層126の組成は1.5Qに調整されている。
【0081】
また、光増幅導波路部102は、サンプルドグレーティング導波路部101と共通の基板122および下部クラッド層123と、InGaAsPからなるSCH(Separate confinement heterostructures)層130aと、InGaAsPからなる多重量子井戸(MQW)構造を有する活性層130と、SCH層130bと、p−InPからなる上部クラッド層131、128と、コンタクト層129とが順次積層した構造を有している。また、コンタクト層129上にはp側電極113が形成されている。
【0082】
また、位相調整導波路部103およびMMI導波路部104は、共通の基板122および下部クラッド層123と、コア層124と、p−InPからなる上部クラッド層132、128と、コンタクト層129とが順次積層した構造を有している。また、コンタクト層129上にはp側電極114が形成されている。また、MMI導波路部104の側部にはp側電極115が形成されている。
【0083】
また、サンプルドグレーティング導波路部101、光増幅導波路部102、位相調整導波路部103、およびMMI導波路部104の間には、これらを電気的に分離するための分離溝118〜120が形成されている。なお、分離溝120は、その溝の側壁の一部が切り欠き状に形成されている。また、保護膜111は、各分離溝118〜120内の表面も覆っている。
【0084】
また、光増幅導波路部106は、光増幅導波路部102と同様の積層構造を有しており、そのコンタクト層129上にはp側電極116が形成されている。また、曲がり導波路部105、107は、p側電極を有していない点以外は、位相調整導波路部103と同様の積層構造を有している。
【0085】
以上のように、この波長可変レーザ100は、波長1.55μm帯のレーザ光を出力するために、InGaAsP系の半導体材料を使用している。また、サンプルドグレーティング導波路部101、光増幅導波路部102、位相調整導波路部103、MMI導波路部104、曲がり導波路部105、光増幅導波路部106、および曲がり導波路部107が、同一基板122上にモノリシックに集積した構成を有している。
【0086】
また、図12に示すように、波長可変レーザ100の曲がり導波路部107側の積層構造の端面には反射防止膜108が形成されている。一方、図12、13に示すように、MMI導波路部104側の積層構造の端面には、反射手段として、反射率がたとえば90%以上の高光反射膜109が形成されている。
【0087】
つぎに、図14は、図12に示す波長可変レーザ100のE−E線要部断面図である。図14に示すように、サンプルドグレーティング導波路部101および光増幅導波路部106は、埋め込みメサ構造を有している。具体的には、サンプルドグレーティング導波路部101においては、下部クラッド層123の一部から上部クラッド層127までがメサ構造を有している。そして、このメサ構造がp−InPからなる埋め込み層133とn−InPからなる電流阻止層134とによって埋め込まれた構造をしており、さらにその上に上部クラッド層128、コンタクト層129、p側電極112が順次積層している。一方、光増幅導波路部106においては、下部クラッド層123の一部から上部クラッド層131までがメサ構造を有している。そして、このメサ構造が埋め込み層133と電流阻止層134とによって埋め込まれた構造をしており、さらにその上に上部クラッド層128、コンタクト層129、p側電極116が順次積層している。これらの電流阻止層134は電流を効率的に注入させる機能を有する。また、サンプルドグレーティング導波路部101と光増幅導波路部106との間には、これらを電気的に分離するための分離溝117が形成されている。また、保護膜111は、分離溝117内の表面も覆っている。なお、光増幅導波路部102、位相調整導波路部103、および曲がり導波路部105、107も同様の埋め込みメサ構造を有している。これらの埋め込みメサ構造の光導波路のメサ幅は、所定の波長の光をシングルモードで導波するように設定されており、所定の波長が1.55μm帯の場合は、たとえば2μmである。
【0088】
一方、図15は、図12に示す波長可変レーザ100のF−F線要部断面図である。図15に示すように、上部クラッド層132の突出部と上部クラッド層128、コンタクト層129がリッジ部Rを形成しており、リッジ構造のMMI導波路部104を構成している。また、リッジ部Rの側部における上部クラッド層132上にはコンタクト層135が形成されている。また、コンタクト層135上にp側電極115が形成されている。また、リッジ部Rの表面は保護膜111によって覆われている。また、MMI導波路部104には、埋め込みメサ構造を有する2つの光入出力部が設けられている。
【0089】
そして、MMI導波路部104、高光反射膜109、p側電極115、およびn側電極121が、実施の形態6と同様の反射型の波長可変光フィルタ110を構成している。
【0090】
また、図12に示すように、保護膜111は埋め込みメサ構造および各p側電極以外の領域の表面を覆うように形成されている。
【0091】
(動作)
つぎに、本実施の形態7に係る波長可変レーザ100の動作について説明する。以下では、はじめにサンプルドグレーティング導波路部101について説明し、つぎに波長可変レーザ100の動作について説明する。
【0092】
サンプルドグレーティング導波路部101は、反射率の波長依存性が周期的にピークを示す特性を有している。この反射率のピークの波長および周期は、積層した下部クラッド層123から上部クラッド層127までの各層の屈折率、グレーティング領域126aにおける短周期グレーティングの周期、およびグレーティング領域126aの配置の周期を調整することで設定できる。
【0093】
図16は、サンプルドグレーティング導波路部101の反射率の波長特性の一例を模式的に示す図である。なお、図16においては、グレーティング層126の特性については、組成を1.5Q、厚さを50nm、グレーティング領域126aにおける短周期グレーティングの周期を241nm、グレーティング領域126aの配置の周期を37.4μmに設定している。また、グレーティング層126の屈折率は3.49である。また、サンプルドグレーティング導波路部101の長さは600μmである。図16に示すように、このサンプルドグレーティング導波路部101は、その反射率が、波長1.55μm付近にピークを有し、さらに約60nmの帯域にわたって約10nmの周期でピークを示す波長依存性を有するものとなる。また、各ピークの半値全幅は1nm程度となる。
【0094】
このサンプルドグレーティング導波路部101において、n側電極121とp側電極112との間に電圧を印加し、グレーティング層126に電流を注入すると、プラズマ効果によってグレーティング層126の等価屈折率が変化する。これによって、反射率のピーク波長を変化させることができる。たとえば、図16に示す場合において、電流注入によって反射率のピーク波長を10nm変化させるようにすれば、1.515〜1.585μmの全域にわたって反射率のピークをすきまなく配置させることができる。
【0095】
つぎに、図12、図17を用いて波長可変レーザ100の動作について説明する。図17は、図12に示す波長可変レーザ100の発振波長について説明する図である。まず、波長可変光フィルタ110が、図17に示す反射スペクトル70のような反射率の波長依存性を有しているとする。この場合、サンプルドグレーティング導波路部101の反射率のピークのうち、反射スペクトル70との重なりが最も大きい反射ピーク71の波長において、サンプルドグレーティング導波路部101と波長可変光フィルタ110とによって光共振器が形成される。
【0096】
ここで、n側電極121とp側電極113との間に電圧を印加し、光増幅導波路部102の活性層130に電流を注入すると、光増幅導波路部102は発光する。すると、光増幅導波路部102の誘導放出による光増幅機能と、サンプルドグレーティング導波路部101と波長可変光フィルタ110とが形成する光共振器の作用によって、反射ピーク71にほぼ対応するピーク波長の強度スペクトル72を有するレーザ光が発振する。つぎに、曲がり導波路部105は発振したレーザ光を導波する。一方、光増幅導波路部106については、n側電極121とp側電極116との間に電圧を印加し、光増幅導波路部106の活性層130に電流を注入することによって、半導体光増幅器として機能する。そして、光増幅導波路部106は、曲がり導波路部105が導波したレーザ光を受け付けてこれを光増幅し、曲がり導波路部107に出力する。曲がり導波路部107は、光増幅されたレーザ光を導波し、レーザ光LLとして出力する。なお、曲がり導波路部107は、反射防止膜108が形成された端面に対して角度を有する光導波路となっているので、レーザ光LLの一部が端面反射によって戻り光として波長可変レーザ100内に戻ることが抑制されるため、レーザ光LLの強度はさらに安定する。なお、光増幅導波路部106の出力側に窓構造を採用すれば、戻り光はさらに抑制されるので好ましい。
【0097】
つぎに、電流注入によって、波長可変光フィルタ110の反射率の波長依存性を、図17に示す反射スペクトル73のように変化させたとする。この場合、サンプルドグレーティング導波路部101の反射率のピークのうち、反射スペクトル73との重なりが最も大きい反射ピーク74の波長において、サンプルドグレーティング導波路部101と波長可変光フィルタ110とによって光共振器が形成される。その結果、光増幅導波路部102の活性層130に電流を注入すると、反射ピーク74にほぼ対応するピーク波長の強度スペクトル75を有するレーザ光が発振する。その後、曲がり導波路部105は、発振したレーザ光を導波し、光増幅導波路部106は、曲がり導波路部105が導波したレーザ光を受け付けてこれを光増幅し、曲がり導波路部107は、光増幅されたレーザ光を導波し、レーザ光LLとして出力する。
【0098】
このように、波長可変レーザ100は、波長可変光フィルタ110への電流注入によって、サンプルドグレーティング導波路部101の反射率のピークのうちのいずれかに対応する波長のレーザ光LLを出力することができる。さらに、上述したように、サンプルドグレーティング導波路部101は、電流注入によって、反射率のピーク波長をすきまなく変化させることができる。したがって、この波長可変レーザ100は、広帯域にわたって波長可変なレーザとなる。
【0099】
ところで、上述したように、たとえば発振するレーザ光の強度スペクトル72は、反射ピーク71にほぼ対応するピーク波長を有しているが、厳密には、強度スペクトル72のピーク波長は、反射ピーク71の近傍に存在する光共振器の縦モードに対応する波長となっている。以下具体的に説明する。
【0100】
図18は、波長可変レーザ100の発振波長と縦モードとの関係について説明する図である。図18において、符号76は、波長可変光フィルタ110の反射スペクトル70とサンプルドグレーティング導波路部101の反射ピーク71との重ね合わせスペクトルを示している。一方、符号77は、光共振器の縦モードを示している。これらの縦モード77は、波長軸上において所定の波長間隔78で配列している。厳密には、レーザ発振波長は、重ね合わせスペクトル76のピーク近傍の波長であって、縦モード77のいずれかの波長となる。
【0101】
この波長可変レーザ100では、位相調整導波路部103によって、光共振器の縦モードの波長を調整し、レーザ発振波長を調整できる。すなわち、位相調整導波路部103において、n側電極121とp側電極114との間に電圧を印加し、コア層124に電流を注入すると、プラズマ効果によってコア層124の等価屈折率が変化する。これによって、光共振器の光学長を変化させて、縦モードの波長を調整し、最終的なレーザ発振波長を調整することができる。
【0102】
以上説明したように、本実施の形態7に係る波長可変レーザ100は、広帯域で反射率のピーク波長が可変であり、かつ長さが短い波長可変光フィルタ110を用いることによって、広帯域でレーザ光の波長が可変であり、小型であり、かつレーザ光の強度が安定した波長可変レーザとなる。
【0103】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態1に係る波長可変レーザ100の製造方法について説明する。図19は、図12に示す波長可変レーザの製造方法の一例を説明する図である。
【0104】
まず、MOCVD結晶成長装置を用い、基板122上に、下部クラッド層123の一部123a、SCH層130a、活性層130、SCH層130b、および上部クラッド層131の一部131aを順次結晶成長する。つぎに、光増幅導波路部102および光増幅導波路部106を形成する領域A1を保護するためのSiNx膜からなるマスクを形成し、このマスクを用いて、領域A1以外の領域のSCH層130a、活性層130、SCH層130b、および上部クラッド層131の一部131aをエッチングにより除去する。つぎに、領域A1以外の領域において、エッチングにより除去した部分の下部クラッド層123の一部123a上に、下部クラッド層123を形成する残部123b、コア層124、上部クラッド層125、グレーティング層126を形成するためのInGaAsPからなるグレーティング形成層136をバットジョイント成長により形成する。
【0105】
つぎに、全面にSiNx膜を形成した後、サンプルドグレーティング導波路部101を形成する領域に、グレーティング領域126aのパターンニングを施す。また、位相調整導波路部103、MMI導波路部104、曲がり導波路部105、および曲がり導波路部107を形成すべき領域にもパターンニングを施す。そして、このSiNx膜をマスクとしてエッチングして、サンプルドグレーティング導波路部101を形成する領域のグレーティング形成層135にグレーティング領域126aを形成するとともに、その他の領域のグレーティング形成層136を全て取り除く。つぎに、SiNx膜のマスクを除去した後に、全面にp−InP層を再び結晶成長する。これによって、上部クラッド層127、131、132が形成される。
【0106】
つぎに、SiNx膜のマスクを形成し、ドライエッチングによってMMI導波路部104以外の光導波路のメサ構造を形成する。その後、埋め込み層133と電流阻止層134とによって埋め込んで、埋め込みメサ構造を形成する。つぎに、SiNx膜のマスクを除去した後に、全面に上部クラッド層128、コンタクト層129を形成する。
【0107】
つぎに、SiNx膜のマスクを形成し、ドライエッチングによってMMI導波路部104の光導波路のリッジ構造を形成する。つぎに、埋め込みメサ構造の領域にパターニングしたマスクを形成し、ドライエッチングにより分離溝117〜120を形成する。
【0108】
つぎに、コンタクト層135を形成すべき領域に開口部を有するSiNx膜のマスクを形成し、コンタクト層135を再成長させる。つづいて、SiNx膜のマスクを除去した後に全面に保護膜111を形成し、保護膜111上にパターニングしたマスクを形成し、保護膜111の所定の領域を除去して開口部を設け、リフトオフ法によってたとえばAuZn/Au構造のp側電極112〜116を形成する。つぎに、基板122の裏面を研磨した後に裏面全体にたとえばAuGeNi/Au構造のn側電極121を形成する。その後、反射防止膜108と高光反射膜109とを形成すべき端面をへき開により形成し、たとえば誘電体多層膜からなる反射防止膜108と高光反射膜109を形成し、波長可変レーザ100が完成する。
【0109】
なお、波長可変レーザ100において、高反射膜109を形成せずに、へき開により形成したへき開面を反射手段としてのへき開ミラーとして利用してもよいし、エッチングにより形成したエッチング面をエッチドミラーとして利用してもよい。
【0110】
また、上記実施の形態7では、光共振器を構成するDBRミラーとしてサンプルドグレーティング導波路を用いているが、反射率の波長依存性が周期的にピークを示すものであれば特に限定されず、たとえば超周期構造グレーティング等の他のDBRミラーを用いてもよい。また、たとえばサンプルドグレーティングはコア層や下部クラッド層などに形成してもよい。
【0111】
また、上記実施の形態7では、反射型の波長可変光フィルタを用いて波長可変レーザを構成しているが、本発明に係る波長可変光フィルタを用いたものであれば、波長可変レーザの構成は特に限定されない。たとえば実施の形態1〜5に係る透過型の波長可変光フィルタを用いて、特許文献1に開示されるような、各要素を直線的に配列した構造の波長可変レーザを構成してもよい。
【0112】
また、上記実施の形態では、各光導波路の構造として、たとえばサンプルドグレーティング導波路部101については埋め込みメサ構造を採用し、MMI導波路部104についてはリッジ構造を採用している。しかしながら、光入出力部を含めたいずれの光導波路についても、その構造については上記実施の形態において採用したものに限定されず、たとえば要求される特性に応じて埋め込み構造、ハイメサ構造、またはリッジ構造等を任意に採用することができる。
【0113】
また、上記各実施の形態では、波長可変光フィルタを波長1.55μm帯で使用するために、InGaAsP系の半導体材料を使用しているが、使用する半導体材料は使用する波長帯に応じて適宜選択することができる。
【0114】
また、上記実施の形態では、波長可変光フィルタに入出力する光の両方をシングルモードとしているが、入出力する光の少なくとも一方がマルチモードの光になるよう設計した波長可変光フィルタとしてもよい。また、上記実施の形態では、波長可変光フィルタは2×2カプラとして機能するものであるが、光入出力部を適宜設けて、N×Mカプラ(N、Mは1以上の整数)として機能するようにしてもよい。このように、入出力させる光のモード、および分岐数については、MMI導波路の幅、長さ、および等価屈折率等、ならびに光入出力部の位置等を調整することで設定できる。
【0115】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上記各実施形態の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、各実施の形態において、側部クラッド部の屈折率または等価屈折率を変化させるだけでなく、さらにMMI導波路部のコア部の等価屈折率を変化させるようにして、光フィルタ部の波長特性を制御してもよい。MMI導波路部のコア部の等価屈折率を変化させるには、たとえばコア部への電流注入構造を設けたMMI導波路部を用いればよい。
【符号の説明】
【0116】
10〜60、110 波長可変光フィルタ
11〜61 半導体積層構造
11a〜51a 下部クラッド層
11b〜51b コア層
11ba〜31ba コア部
11bb〜31bb 側部クラッド部
11c〜51c 上部クラッド層
11ca リッジ部
12、42〜62 光フィルタ部
12a〜62a、104 MMI導波路部
12b〜12e、42b〜42e、52b〜52e、62b、62c 光入出力部
13〜43、14〜34、63 電極
15〜55 側部
41aa 突出部
53 屈折率調整機構
56 側部クラッド部材
67、109 高光反射膜
70、73 反射スペクトル
71、74 反射ピーク
72、75 強度スペクトル
76 重ね合わせスペクトル
77 縦モード
78 波長間隔
100 波長可変レーザ
101 サンプルドグレーティング導波路部
102 光増幅導波路部
103 位相調整導波路部
105、107 曲がり導波路部
106 光増幅導波路部
108 反射防止膜
111 保護膜
112〜116 p側電極
117〜120 分離溝
121 n側電極
122 基板
123 下部クラッド層
123a 下部クラッド層の一部
123b 下部クラッド層を形成する残部
124 コア層
125 上部クラッド層
126 グレーティング層
126a グレーティング領域
127、128、131、132 上部クラッド層
129、135 コンタクト層
130 活性層
130a、130b SCH層
131a 上部クラッド層の一部
133 埋め込み層
134 電流阻止層
136 グレーティング形成層
A1 領域
Ar1、Ar2 矢印
IL1、IL2、OL1〜OL3 光
L1、L2 長さ
LL レーザ光
P11、P12、P2〜P4 形状
R リッジ部
W1、W2 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部を有するマルチモード干渉型導波路部と、前記マルチモード干渉型導波路部の長さ方向の一端に設けられた第1光入出力部と、前記マルチモード干渉型導波路部の他の一端に設けられた第2光入出力部とを有し、前記マルチモード干渉型導波路部は前記第1光入出力部から入力し第2光入出力部から出力する光に対して損失波長特性を有する光フィルタ部と、
前記マルチモード干渉型導波路部のコア部の側部に設けられた、該コア部よりも屈折率または等価屈折率が低い側部クラッド部と、
前記側部クラッド部の屈折率または等価屈折率を変化させる屈折率調整機構と、
を備えることを特徴とする波長可変光フィルタ。
【請求項2】
コア部を有するマルチモード干渉型導波路部と、前記マルチモード干渉型導波路部の長さ方向の一端に設けられた第1光入出力部と、前記マルチモード干渉型導波路部の他の一端に設けられた反射手段とを有し、前記マルチモード干渉型導波路部は前記第1光入出力部から入力し前記反射手段で反射され該第1光入出力部から出力する光に対して反射波長特性を有する光フィルタ部と、
前記マルチモード干渉型導波路部のコア部の側部に設けられた、該コア部よりも屈折率または等価屈折率が小さい側部クラッド部と、
前記側部クラッド部の屈折率または等価屈折率を変化させる屈折率調整機構と、
を備えることを特徴とする波長可変光フィルタ。
【請求項3】
前記光フィルタ部は、前記マルチモード干渉型導波路部の前記一端に設けられ、前記第1光入出力部から入力し前記反射手段により反射した光の一部が出力する第2光入出力部をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の波長可変光フィルタ。
【請求項4】
前記マルチモード干渉型導波路部はリッジ構造を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の波長可変光フィルタ。
【請求項5】
前記マルチモード干渉型導波路部は埋め込み構造を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の波長可変光フィルタ。
【請求項6】
前記マルチモード干渉型導波路部はハイメサ構造を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の波長可変光フィルタ。
【請求項7】
前記第1光入出力部はハイメサ構造を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の波長可変光フィルタ。
【請求項8】
前記側部クラッド部の積層方向の上下に形成された、前記側部クラッド部よりも低い屈折率を有する上部クラッド層および下部クラッド層を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の波長可変光フィルタ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の波長可変光フィルタを備えることを特徴とする波長可変レーザ。
【請求項10】
反射率の波長依存性が周期的にピークを示す周期性反射手段により構成した光共振器を備えることを特徴とする請求項9に記載の波長可変レーザ。
【請求項11】
前記周期性反射手段はDBRミラーであることを特徴とする請求項10に記載の波長可変レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−175109(P2011−175109A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39301(P2010−39301)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】