説明

走行車両

【課題】操向ハンドルを操作したときに、その回動操作量に応じて、旋回用油圧駆動装置を増速方向に駆動させると共に、直進用油圧駆動装置を減速方向に駆動させるように構成した走行車両において、そのときの状況等に見合った適切な旋回特性を選択できるようにする。
【解決手段】主変速レバー73からの操作力のみが伝達される主変速軸99と、主変速レバー73及び操向ハンドル19からの操作力が伝達される変速出力軸119と、直進用リンク機構151を介して直進用HST式無段変速機構25の直進制御軸135に連動連結された直進伝動軸126とを備える。主変速軸99及び変速出力軸119と直進伝動軸126との間に、直進伝動軸126に各変速軸99,119を選択的に連動連結するための連結切換手段を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンバイン等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような走行車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行車両としてのコンバインにおいては、機体に搭載されたエンジンからの動力を、直進用油圧駆動装置、旋回用油圧駆動装置及び差動機構を介して左右の走行クローラに伝達するように構成されている。
【0003】
かかる構成のコンバインの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1のコンバインでは、直進用油圧駆動装置の駆動出力量、すなわち機体の直進速度は、機体の操縦部に設けられた主変速レバーの操作量に応じて調節される。主変速レバーが中立位置にあれば、走行機体は直進しない。
【0004】
一方、旋回用油圧駆動装置の駆動出力量、すなわち機体の進行(旋回)方向及び旋回速度は、操縦部のうち運転座席の前方に立設された操向ハンドルの回動方向及び回動操作量に応じて調節するのが一般的である。
【0005】
ところで、オペレータの主変速レバー操作にて初期設定された直進速度を略一定に保持した状態で、操向ハンドルの回動操作量を大きくすると、その操作量に比例して、旋回外側の走行クローラの速度が初期設定された直進速度よりも大きくなる。このため、操向ハンドルの回動操作量が大きくなるに連れて、旋回外側の走行クローラの速度と旋回内側の走行クローラの速度との差が大きくなるように設定した場合は、例えばスピンターンのように旋回半径を小さくして機体を旋回させると、運転座席に座乗したオペレータ等に作用する遠心力が大きくなり過ぎるという問題がある。
【0006】
この点、前記特許文献1のコンバインでは、操向ハンドルを操作したときに、その回動操作量に応じて、旋回用油圧駆動装置を増速方向に駆動させると共に、直進用油圧駆動装置を減速方向に駆動させるように構成することによって、例えばスピンターンのように旋回半径を小さくして機体を旋回させるときでも、操向ハンドルの回動操作だけで機体の旋回速度を減速させ、オペレータ等に作用する遠心力の増大を抑制するようにしていた。
【特許文献1】特開平9−39828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記特許文献1の構成では、操向ハンドルを回動操作するだけで機体の旋回速度が減速するという旋回特性のために、路上又は乾田等での旋回を機敏にしたり、湿田又は泥土面等での旋回性能を向上させたりしたい場合は、旋回速度の減速によって機敏な旋回フィーリングが得られず、かえって作業効率の低下を招来してしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本願発明は上記の問題を解消した走行車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この技術的課題を解決するため、請求項1の発明は、機体に搭載されたエンジンからの動力を、直進用油圧駆動装置、旋回用油圧駆動装置及び差動機構を介して左右の走行部に伝達するように構成する一方、前記直進用油圧駆動装置の出力を調節して前記機体の直進速度を変更操作するための直進操作体と、前記機体の進行方向を変更操作するための旋回操作体と備えており、前記旋回操作体を操作したときは、その操作量に応じて、前記旋回用油圧駆動装置を増速方向に駆動させると共に、前記直進用油圧駆動装置を減速方向に駆動させるように構成されている走行車両であって、前記直進操作体からの操作力のみが伝達される第1変速軸と、前記両操作体からの操作力が伝達される第2変速軸と、直進用リンク機構を介して前記直進用油圧駆動装置の調節部に連動連結された直進伝動軸とを備えており、前記両変速軸と前記直進伝動軸との間には、前記直進伝動軸に前記各変速軸を選択的に連動連結するための連結切換手段が配置されているというものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載した走行車両において、前記連結切換手段は、前記各変速軸に取り付けられたリンク部材と、前記直進伝動軸に固着されたアーム部材と、いずれか一方の前記リンク部材と前記アーム部材とを互いに着脱可能に連結するための連結ピン体とを備えており、前記連結ピン体にて前記各リンク部材と前記アーム部材とを連結した状態では、前記各変速軸の自軸回りの回動に連動して前記直進伝動軸が自軸回りに回動することにより、前記直進用リンク機構を介して前記直進用駆動手段の前記調節部を作動させるように構成されているというものである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明では、直進操作体からの操作力のみが伝達される第1変速軸と、前記直進操作体及び旋回操作体からの操作力が伝達される第2変速軸と、直進用リンク機構を介して直進用油圧駆動装置の調節部に連動連結された直進伝動軸とを備えており、前記両変速軸と前記直進伝動軸との間に、前記直進伝動軸に前記各変速軸を選択的に連動連結するための連結切換手段が配置されている。
【0012】
かかる構成を採用すると、例えば機体旋回時に左右の走行部の速度差が大きくなり過ぎないようにするには、前記連結切換手段にて、前記両操作体からの操作力が伝達される前記第2変速軸と前記直進伝動軸とを連動連結すればよい。
【0013】
そうすれば、前記直進操作体による前進(後進)操作をした状態で前記旋回操作体を回動操作したときに、その回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で機体が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど機体の車速(前進及び後退時の旋回速度)が減速する。すなわち、鈍感な旋回フィーリングが得られる。
【0014】
また、例えば路上又は乾田等での旋回を機敏にしたり、湿田又は泥土面等での旋回性能を向上させたりしたいのであれば、前記連結切換手段にて、前記直進操作体からの操作力のみが伝達される前記第1変速軸と前記直進伝動軸とを連動連結すればよい。
【0015】
そうすれば、前記旋回操作体の回動操作と前記直進用油圧駆動装置の出力調節とが関連せず、そのまま前記直進操作体の操作量に比例した車速(旋回速度)が維持され、機敏な旋回フィーリングが得られる。
【0016】
つまり、そのときの状況等に見合った適切な旋回特性を選択でき、走行車両の走行性能向上に寄与できるという効果を奏する。
【0017】
特に、請求項2の構成によると、前記両操作体からの操作力を前記直進用油圧駆動装置に伝達する状態と、前記直進操作体からの操作力のみを前記直進用油圧駆動装置に伝達する状態とを選択的に切り換えるため(機体の旋回フィーリングを切り換えるため)に、前記各変速軸に取り付けられたリンク部材と前記直進伝動軸に固着されたアーム部材とを連結ピン体にて差し込み連結するという機械的で且つ簡単な構成を採用したから、かかる切り換えのための構造として、例えばアクチュエータを用いての電子制御等を採用した場合に比べて、構成が簡単であって部品点数が少なくて済むし、故障もし難い。また、製造コストも安価で済むという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を、車両としてのコンバインに適用した場合の図面(図1〜図13)に基づいて説明する。図1はコンバインの全体側面図、図2はコンバインの全体平面図、図3は動力伝達系統のスケルトン図、図4は主変速レバー及び操向ハンドルと油圧駆動装置との連結関係を示す斜視説明図、図5は前記連結関係を模式的に示す説明図、図6はステアリングコラムの側面断面図、図7はステアリングコラム上部の拡大側面断面図、図8はステアリングコラム下部の拡大側断面図、図9はステアリングコラムの正面断面図、図10はステアリングコラム上部の拡大正面断面図、図11はスライド軸と操作レバーとの作動関係を示す要部拡大断面図、図12はステアリングコラム下部の拡大正面断面図、図13は操向ハンドルと油圧駆動装置との連結関係を示す平面説明図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、符号1は走行部としての左右一対の走行クローラ2を装設するトラックフレーム、符号3は前記トラックフレーム1に架設する機台、符号4はフィードチェン5を左側に張架し扱胴6及び処理胴7を内蔵している脱穀部、符号8は刈刃9及び穀稈搬送機構10などを備える刈取部である。符号11は刈取フレーム12を介して刈取部8を昇降させる油圧シリンダ、符号13は排藁チェン14終端を臨ませる排藁処理部、符号15は脱穀部4からの穀粒を揚穀筒16を介して搬入する穀物タンクである。符号17は前記タンク15の穀粒を機外に搬出する排出オーガ、符号18は旋回操作体としての丸型の操向ハンドル19及び運転席20などを備える操縦部としての運転台、符号21は運転席20下方に設けるエンジンである。実施形態のコンバインは連続的に穀稈を刈取って脱穀するように構成している。
【0020】
図3に示す如く、走行クローラ2を駆動するミッションケース22は、第1油圧ポンプ23及び第1油圧モータ24からなる直進用HST式無段変速機構25(直進用油圧駆動装置)と、第2油圧ポンプ26及び第2油圧モータ27からなる旋回用HST式無段変速機構28(旋回用油圧駆動装置)とを備えている。これら両HST式無段変速機構25,28においては、エンジン21の出力軸21aに第1及び第2油圧ポンプ23,26の入力軸29a,29bを伝達ベルト30a,30bによって連結させ、各油圧ポンプ23,26を駆動するように構成している。
【0021】
第1油圧モータ24の出力軸31には、副変速機構32及び差動機構33を介して左右走行クローラ2の各駆動輪34を連動連結させている。差動機構33は左右対称状に配置された一対の遊星ギヤ機構35,35を有している。各遊星ギヤ機構35は1つのサンギヤ36と、該サンギヤ36の外周で噛合う3つのプラネタリギヤ37と、これらプラネタリギヤ37に噛合うリングギヤ38などで形成している。
【0022】
プラネタリギヤ37は、サンギヤ軸39と同軸線上に位置したキャリヤ軸40のキャリヤ41にそれぞれ回転自在に軸支させ、左右のサンギヤ36,36を挟んで左右のキャリヤ41を対向配置させている。リングギヤ38は、各プラネタリギヤ37に噛み合う内歯38aを有していてキャリヤ軸40に回転自在に軸支されている。キャリヤ軸40は左右外向きに延びていて車軸を形成しており、その先端部に駆動輪34が取り付けられている。
【0023】
直進用HST式無段変速機構25は、第1油圧ポンプ23の回転斜板の角度変更調節により第1油圧モータ24の正逆回転と回転数の制御を行うものである。この場合、第1油圧モータ24の回転出力を、出力軸31の伝達ギヤ42から各ギヤ43,44,45及び副変速機構32を経由してサンギヤ軸39に固定したセンタギヤ46に伝達し、その結果、サンギヤ36を回転させるように構成している。
【0024】
副変速機構32は、ギヤ44を有する副変速軸47と、ギヤ45を介してセンタギヤ46に噛合う(高速用)ギヤ48を有する駐車ブレーキ軸49とを備えている。副変速軸47とブレーキ軸49との間には、各一対の低速用ギヤ50,51、中速用ギヤ52,53、高速用ギヤ54,48を設けており、低中速スライダ55及び高速スライダ56のスライド操作にて副変速の低速・中速・高速の切換を行うように構成している。
【0025】
なお、副変速の低速・中速間及び中速・高速間には中立を有する。駐車ブレーキ軸49には駐車ブレーキ57を設けている。また、刈取部8に回転力を伝達する刈取PTO軸58には、ギヤ59,60及び一方向クラッチ61を介して副変速軸47を連結させ、刈取部8を車速同調速度で駆動している。
【0026】
上記のように、センタギヤ46からサンギヤ軸39に伝達された第1油圧モータ24の駆動力を、左右の遊星ギヤ機構35を介して左右キャリヤ軸40に伝達させると共に、左右キャリヤ軸40に伝達された回転動力を左右の駆動輪34にそれぞれ伝え、左右走行クローラ2を駆動するように構成している。
【0027】
旋回用HST式無段変速機構28は、第2油圧ポンプ26の回転斜板の角度変更調節により第2油圧モータ27の正逆回転と回転数の制御を行うものである。この場合、ミッションケース22内には、操向出力ブレーキ62を有するブレーキ軸63と、操向出力クラッチ64を有するクラッチ軸65と、前記の左右リングギヤ38の外歯38bに常時噛合させる左右入力ギヤ66,67とを備えている。
【0028】
第2油圧モータ27の出力軸68に前記ブレーキ軸63及び操向出力クラッチ64を介してクラッチ軸65を連結させ、クラッチ軸65に正転ギヤ69を介して右入力ギヤ67を連結させている。また、クラッチ軸65には正転ギヤ69及び逆転ギヤ70を介して左入力ギヤ66を連結させている。
【0029】
低中速及び高速スライダ55,56を中立にして操向出力ブレーキ62を入にし且つ操向出力クラッチ64を切にすることにより、第2油圧モータ27からの回転動力の伝達が阻止される。
【0030】
また、前記中立以外の副変速出力時に操向出力ブレーキ62を切にし且つ操向出力クラッチ64を入にすることにより、第2油圧モータ27の回転動力は、正転ギヤ69を介して右側のリングギヤ38の外歯38bに伝達されると共に、正転ギヤ69及び逆転ギヤ70を介して左側のリングギヤ38の外歯38bに伝達される。その結果、第2油圧モータ27の正転(逆転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ38が逆転(正転)し、右リングギヤ38が正転(逆転)する。
【0031】
而して、旋回用の第2油圧モータ27を停止させて左右リングギヤ38を静止固定させた状態で、直進用の第1油圧モータ24を駆動すると、第1油圧モータ24からの回転出力はセンタギヤ46から左右のサンギヤ36に同一回転数で伝達され、左右遊星ギヤ機構35のプラネタリギヤ37及びキャリヤ41を介して、左右の走行クローラ2が左右同一回転方向で同一回転数にて駆動し、機体の前後方向直進走行が行われる。
【0032】
一方、直進用の第1油圧モータ24を停止させて左右のサンギヤ36を静止固定させた状態で、旋回用の第2油圧モータ27を正逆回転駆動すると、左側の遊星ギヤ機構35が正或いは逆回転し且つ右側の遊星ギヤ機構35が逆或いは正回転し、左右走行クローラ2を逆方向に駆動し、機体を左或いは右に旋回させる。
【0033】
また、直進用の第1油圧モータ24を駆動させながら、旋回用の第2油圧モータ27を駆動することにより、機体が左右に旋回して進路が修正される。機体の旋回半径は第2油圧モータ27の出力回転数によって決定される。
【0034】
次に、図2、図6、図7及び図9〜図11を参照しながら、運転台18周辺の構造について説明する。
【0035】
図2、図6及び図9に示す如く、運転台18の前部上面にはステアリングコラム71を立設固定させている。ステアリングコラム71の上方に操向ハンドル19を水平回転自在に配置している。運転台18左側にはサイドコラム72を設け、サイドコラム72下方にミッションケース22を配設している。サイドコラム72には、直進操作体としての主変速レバー73、副変速レバー74、刈取クラッチレバー75、脱穀クラッチレバー76を配置している。また、ステアリングコラム71は、アルミニウム合金鋳物を成形加工して形成し、左右に分割自在な2つ割れ構造になっている。この2つ割れ構造のステアリングコラム71は複数のボルト77(図6及び図7参照)にて締結して箱形に形成している。
【0036】
図6、図7、図9及び図10に示すように、ステアリングコラム71には、その上部に一体形成された支持部材としてのチルト台78と、当該チルト台78に回転自在に軸支された下ハンドル軸86と、ステアリングコラム71上面を覆う上面カバー83から上向きに突出するようにして、下ハンドル軸86の上端部に自在継手85を介して連結された上ハンドル軸84と、この上ハンドル軸84の上端に取り付けられた前述の操向ハンドル19とを備えている。
【0037】
チルト台78と下ハンドル軸86とは、ステアリングコラム71上面を覆う上面カバー83の内部に位置している。チルト台78は、上向きに突出した左右一対の支持アーム部198を有している。下ハンドル軸86の上端部はチルト台78における左右両支持アーム部198の間において上向き突出している。
【0038】
チルト台78には、ステアリングコラム71内部の略中央で上下方向に延びた操向入力軸87の上端部も回転自在に軸支されている。下ハンドル軸86のギヤ88と操向入力軸87のセクタギヤ89を噛み合わせることにより、下ハンドル軸86と操向入力軸87とが動力伝達可能に連結されている。
【0039】
上ハンドル軸84は、上面カバー83から上向きに突出した軸ケース82の内部に、その軸心回りに回転自在に軸支されている。なお、軸ケース82の周囲は、可撓性及び伸縮性を有する軟質ゴム製等の蛇腹状ブーツ体81にて覆われている。
【0040】
軸ケース82の下部には、左右の側板199を有するブラケット部材としてのチルトブラケット80が取り付けられている。チルトブラケット80は、チルト台78の両支持アーム部198に上方から跨るようにして配置されている(図9及び図10参照)。そして、チルトブラケット80の左右側板199とこれに対応する支持アーム部198とが、チルト軸としての左右外側からの支点ボルト79にて締結されている。
【0041】
左右の支点ボルト79の軸部は同一の横向き軸心X上に位置している。また、上下のハンドル軸84,86とをつなぐ自在継手85の横軸85a(図6及び図7参照)も横向き軸心X上に位置している。このため、チルトブラケット80ひいては上ハンドル軸84及び操向ハンドル19が、左右の支点ボルト79及び自在継手85の横軸85aに共通の横向き軸心X回りに屈曲回動(チルト回動)可能となっている。
【0042】
上ハンドル軸84の下端部はチルトブラケット80における左右両側板199の間に下向き突出している一方、そして、上下のハンドル軸84,86をつなぐ自在継手85は、左右両側板199と左右両支持アーム部198とで囲まれた領域内に位置している。
【0043】
また、チルトブラケット80の左右両側板199とチルト台78の左右両支持アーム部198とは、当該チルトブラケット80ひいては上ハンドル軸84及び操向ハンドル19の屈曲角度(チルト角度)を無段階に調節・保持するための姿勢調節手段200を介して関連付けられている。
【0044】
姿勢調節手段200は、前述したチルトブラケット80及びチルト台78、チルトブラケット80の左右両側板199とチルト台78の左右両支持アーム部198とを貫通した横向きのスライド軸201、並びに、操作レバー204(詳細は後述する)の操作にて上ハンドル軸84及び操向ハンドル19をロック状態とフリー状態とに選択的に切り換え可能な挟持手段202を備えている。
【0045】
スライド軸201はチルトブラケット80の回動軸心である横向き軸心Xと平行状に延びた形態になっており、その軸心方向に沿って左右スライド可能に構成されている。チルトブラケット80の左右側板199には、支点ボルト79(横向き軸心X)を曲率中心とする略円弧状のガイド溝穴203が形成されている。当該ガイド溝穴203にスライド軸201の端部が挿通されている。
【0046】
上ハンドル軸84及び操向ハンドル19の支点ボルト79回りの屈曲回動は、スライド軸201の各端部を左右側板199のガイド溝穴203に沿って相対的に移動させることにより、ガイド溝穴203の円弧長さの範囲内で許容されている。すなわち、上ハンドル軸84及び操向ハンドル19のチルト回動ストロークは、ガイド溝穴203の長手方向の両端にスライド軸201の端部が当接することによって規制されている。
【0047】
なお、ガイド溝穴203を、チルトブラケット80の左右側板199か、チルト台78の左右支持アーム部198かのいずれかに設けておけば、チルトブラケット80ひいては上ハンドル軸84及び操向ハンドル19の横向き軸心X回りの屈曲回動(チルト回動)が可能になることは言うまでもない。
【0048】
スライド軸201のうちチルトブラケット80の一側板199から外向きに突出した一端部には、略棒状の操作レバー204の基端部(上端部)がスライド軸201の軸心と交差する方向(実施形態では前後方向)に延びる枢支ピン205を介して取り付けられている。操作レバー204は枢支ピン205の軸心回りに上下回動可能に構成されている。
【0049】
挟持手段202は、スライド軸201の他端部(チルトブラケット80の他側板199から外向きに突出した部位)に形成された押圧頭部206と、操作レバー204の枢支ピン205回りの上下回動操作にてスライド軸201を左右スライドさせるように、操作レバー204の長手中途部に形成された切換カム207とにより構成されている(図9〜図11参照)。
【0050】
スライド軸201の他端部に形成された押圧頭部206は、スライド軸201の直径より大径に形成されている。押圧頭部206のうちチルトブラケット80の他側板199と対峙する面は、当該他側板199と密着し得る当接面になっている。
【0051】
チルトブラケット80の一側板199のうちスライド軸201より下方の箇所には、前後一対のブラケット片208が外向きに突設されている。当該前後のブラケット片208の間に、操作レバー204の切換カム207が挟まれて位置している。前後両ブラケット片208と切換カム207とは前後に長い連係ピン209にて連結されている。
【0052】
各ブラケット片208には遊嵌穴210が形成されている。各遊嵌穴210に連係ピン209の端部がずれ移動可能に挿通されている。従って、操作レバー204の枢支ピン205回りの上下回動、ひいてはスライド軸201の左右スライド移動は、連係ピン209の各端部がずれ移動可能な範囲内、すなわち遊嵌穴210の穴径の範囲内で許容されている。
【0053】
切換カム207のうちチルトブラケット80の一側板199との対峙側には、上下2段の凸部211a,211bが形成されている。操作レバー204の枢支ピン205回りの上下回動操作にて、切換カム207の上凸部211aがチルトブラケット80の一側板199と直交して連係ピン209の軸心を通る作用線BL(図11参照)を越えて移動すると、切換カム207はいわゆる支点越えの状態になる。
【0054】
かかる上凸部211aの支点越え作用により、操作レバー204は、チルトブラケット80の一側板199と略平行状に延びて一側板199に寄り添ったロック操作姿勢(図10及び図11の実線状態参照)と、斜め下向きに延びて一側板199から離れたフリー操作状態(図10及び図11の二点鎖線状態参照)とに選択的に保持される。下凸部211bは、操作レバー204がロック操作姿勢のときに、上凸部211aと共にチルトブラケット80の一側板199に押圧当接するように設定されている。なお、支点越え作用を奏するには、切換カム207の凸部211に限らず、コイルばね等のばね手段を利用することも可能である。
【0055】
操作レバー204を枢支ピン205回りに下向き回動させてロック操作姿勢(図10及び図11の実線状態参照)にすると、操作レバー204の基端部にて、スライド軸201が図10及び図11の矢印L方向に引っ張られて、スライド軸201の押圧頭部206がチルトブラケット80の他側板199に押圧当接する。このとき、切換カム207の上凸部211aは作用線BLを下から上に乗り越え(支点越えし)、操作レバー204をロック操作姿勢に保持する。
【0056】
そうすると、スライド軸201の押圧頭部206と操作レバー204の切換カム207(上下凸部211a,211b)とがチルトブラケット80の左右両側板199及びチルト台78の左右両支持アーム部198を左右両側から挟持して、チルトブラケット80を回動不能に固定する。その結果、上ハンドル軸84及び操向ハンドル19が屈曲回動不能なロック状態に保持される。
【0057】
逆に、操作レバー204を枢支ピン205回りに上向き回動させてフリー操作姿勢(図10及び図11の二点鎖線状態参照)にすると、操作レバー204の基端部にて、スライド軸201が図10及び図11の矢印F方向に押しやられて、スライド軸201の押圧頭部206がチルトブラケット80の他側板199から離れる。このとき、切換カム207の上凸部211aは作用線BLを上から下に乗り越え(支点越えし)、操作レバー204をフリー操作姿勢に保持する。下凸部211bは他側板199から離れる。そうすると、押圧頭部206と切換カム207とによるチルトブラケット80及びチルト台78の挟持が解除され、チルトブラケット80が支点ボルト79回りに回動可能な状態となる。その結果、上ハンドル軸84及び操向ハンドル19が屈曲回動可能なフリー状態となるのである。
【0058】
この場合、上面カバー83の一側部のうち操作レバー204に臨む箇所に、窓穴212が形成されている。この窓穴212は開閉式又は着脱式の蓋カバー体213にて塞がれている。操作レバー204がフリー操作姿勢のときは、その先端は窓穴212から外にはみ出すように設定すると、蓋カバー体213を閉止できず、窓穴212が半開きになる。このため、上ハンドル軸84及び操向ハンドル19のロック忘れ防止に効果を発揮できる。
【0059】
以上の構成によると、姿勢調節手段200には、横向き軸心Xと交差する方向に延びる枢支ピン205の軸心回りに上下回動可能な操作レバー204の操作にて、上ハンドル軸84及び操向ハンドル19をロック状態とフリー状態とに選択的に切り換え可能な挟持手段202を備えているので、オペレータは、操作レバー204を見れば、その姿勢(姿勢調節手段200に近いか遠いか)から、上ハンドル軸84及び操向ハンドル19がロック状態かフリー状態かを直感的且つ確実に把握できる。
【0060】
このため、オペレータが上ハンドル軸84及び操向ハンドル19をロックする操作とフリーにする操作とを間違えるおそれを格段に低減できると共に、ユニバーサルデザインの点から見てもユーザーフレンドリー性に優れたものになる。
【0061】
また、実施形態では、操作レバー204の枢支ピン205回りの上下回動操作に伴うスライド軸201の左右スライド移動により、押圧頭部206と切換カム207とが、チルトブラケット80及びチルト台78を左右両側から挟持したり挟持解除したりするように構成されているから、前記従来(特許文献1等参照)のようなナット締め付けタイプのものに比べて、チルトブラケット80及びチルト台78に対する押圧頭部206と切換カム207との挟持力(ロック保持力)のばらつきを抑制でき、当該ロック保持力を高い状態に維持・安定化できるのである。
【0062】
次に、図4〜図9、図12及び図13を参照しながら、主変速レバー73及び操向ハンドル19と油圧式駆動装置25,28との連結構造について説明する。
【0063】
操向ハンドル19の下ハンドル軸86と動力伝達可能に連結した操向入力軸87及び主変速レバー73は、ステアリングコラム71内に配置された機械的切換手段101に連動連結されている。
【0064】
機械的切換手段101は、
1.主変速レバー73を中立位置以外の位置に傾動操作した状態で、操向ハンドル19を中立位置以外の位置に回動操作すると、その回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で機体が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど機体の車速(前進及び後退時の旋回速度)が減速する、
2.主変速レバー73を前進及び後退のいずれの方向に傾動操作した場合であっても、操向ハンドル19の回動操作方向と機体の旋回方向とが一致する(操向ハンドル19を右に回せば機体は右旋回し、操向ハンドル19を左に回せば機体は左旋回する)、
3.主変速レバー73が中立位置にあると操向ハンドル19を操作しても機能しない、
という各種動作を実行するために、主変速レバー73や操向ハンドル19からの操作力を適宜変換して、ステアリングコラム71の底部に設けられた二重軸125,126(詳細は後述する)に伝達するように構成されている。
【0065】
実施形態の機械的切換手段101は、機体の進行方向を変更するための操向機構118と、機体の車速(走行速度)の変更及び前後進の切換を行うための変速機構124とを備えている。
【0066】
まず、機械的切換手段101の具体的構造について説明する。
【0067】
図9及び図12に示すように、ステアリングコラム71の左側面で上下幅略中間には軸受部材90を着脱自在に固定させている。軸受部材90は、ベアリング92を介して変速入力軸91の一端部を回転自在に片持ち支持しており、変速入力軸91は軸受部材90にて左右方向に略水平な姿勢で軸支されている。
【0068】
図4〜図9及び図12に示すように、操向入力軸87下端は、自在継手93を介して入力支点軸94上端側に連結している。入力支点軸94には操向入力部材95を固定している。操向入力部材95は、ベアリング95aを介して変速入力軸91に回転自在に連結されている。自在継手93は、略垂直な操向入力軸87の軸心と略水平な変速入力軸91の軸心とが直交する交点箇所に位置している。
【0069】
つまり、操向入力部材95は、操向入力軸87の正逆回転にて、当該操向入力軸87と同一且つ略垂直な軸心回りに正逆回転し、また、変速入力軸91の正逆回転にて、変速入力軸91と同一且つ略水平な軸心回りに、入力支点軸94と一緒に前後方向に傾動するように構成されている。
【0070】
操向入力部材95には、入力連結体96が連係ボルト97にて着脱自在に固定されている。このため、操向ハンドル19の回動操作にて操向入力軸87をその軸心回りに正逆回転させると、操向入力部材95及び入力連結体96は、操向入力軸87回りに正逆回転する。
【0071】
図4〜図6、図8、図9及び図12に示すように、ステアリングコラム71の下部前側には、第1変速軸としての横長の主変速軸99を回転自在に軸支させている。主変速軸99の左側端はステアリングコラム71の左側外方に突出させており、この突出端部が主変速リンク100を介してサイドコラム72上の主変速レバー73に連結されている。主変速レバー73は走行機体1の前進、停止、後退及びその車速を無段階に変更操作するためのものであり、主変速レバー73を前後方向に傾動操作すると、その操作力が主変速リンク100を介して主変速軸99に伝達され、当該主変速軸99をその軸心回りに正逆回転させる。
【0072】
また、主変速軸99は、ロッド型主変速部材110及び下リンク112を介して変速入力軸91にも連動連結されている。このため、主変速レバー73の前後傾動操作にて主変速軸99をその軸心回りに正逆回転させると、変速入力軸91がその軸心回りに正逆回転し、その結果、操向入力部材95が入力支点軸94と一緒に前後傾動する。
【0073】
主変速軸99の外周には筒型の操向出力軸113が回転可能に被嵌されている。この操向出力軸113に固定されたリンク型操向出力部材114には、球関継手型操向出力連結部117を介してロッド型操向結合部材115の下端部が連結されている。ロッド型操向結合部材115の上端部は、自在継手型操向入力連結部116を介して入力連結体96に連結されている。
【0074】
実施形態では、操向出力軸113、リンク型操向出力部材114、ロッド型操向結合部材115、自在継手型操向入力連結部116、及び球関継手型操向出力連結部117の組合せは、機体の走行進路を変更させるための操向機構118を構成している。
【0075】
ステアリングコラム71内部のうち操向出力軸113の上方箇所には、主変速軸99や操向出力軸113と平行状に延びる第2変速軸としての変速出力軸119が回転可能に軸支されている。この変速出力軸119に固定されたリンク型変速出力部材120には、球関継手型変速出力連結部123を介して変速結合部材121の下端部が連結されている。ロッド型変速結合部材121の上端部は、自在継手型変速入力連結部122を介して入力連結体96に連結されている。
【0076】
実施形態では、変速出力軸119、リンク型変速出力部材120、ロッド型変速結合部材121、自在継手型変速入力連結部122、及び球関継手型変速出力連結部123の組合せが、機体の車速(走行速度)の変更及び前後進の切換を行うための変速機構124を構成している。
【0077】
次に、二重軸125,126から油圧式駆動装置25,28までの連結構造について説明する。
【0078】
図6、図8、図9及び図12に示すように、ステアリングコラム71の底部で且つ左右幅中央寄りの箇所に設けられた軸受部127には、外側の旋回伝動筒軸125と内側の直進伝動軸126とからなる二重軸が縦長同心状で且つ互いに独立して回転可能に軸支されている。
【0079】
二重軸125,126の上端部はステアリングコラム71内に突出している一方、二重軸125,126の下端部は運転台18の下面側に突出している。
【0080】
旋回伝動筒軸125の上端部は、旋回伝動筒軸125から突出した旋回用上リンク部材133、操向出力軸113から突出した操向出力リンク132、及びこれらをつなぐ球関継手軸131を介して、操向出力軸113に連動連結されている。旋回伝動筒軸125の下端部は、旋回用HST式無段変速機構28から突出した旋回制御軸140に、旋回用リンク機構150を介して連動連結されている。
【0081】
旋回制御軸140は、旋回用HST式変速機構28における第2油圧ポンプ26の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節するためのものであり、旋回用HST式変速機構28の変速出力を調節する調節部として機能する。すなわち、旋回制御軸140の正逆回転にて第2油圧ポンプ26の斜板角調節をすることにより、第2油圧モータ27の回転数制御及び正逆転切換を実行し、機体の操向角度(旋回半径)の無段階変更並びに左右旋回方向の切り換えが行われる。
【0082】
実施形態の旋回用リンク機構150は、旋回伝動筒軸125から突出した旋回用下リンク部材139、旋回制御軸140に固着された操向制御アーム141、及びこれらをつなぐターンバックル137付き旋回ロッド138を備えている。
【0083】
一方、直進伝動軸126の上下端部は旋回伝動筒軸125から更に上下外側に突き出ている。この直進伝動軸126の上端部には、平面視略L字状に形成された上下一対の直結リンク160及び通常リンク130が回動可能に被嵌されている。直進伝動軸126のうち上下のリンク160,130の間には横長のアーム部材159が固着されている。
【0084】
通常リンク130の第1アーム部130aは、球関継手軸128を介して、変速出力軸119から突出した変速出力リンク129に連結されている。また、直結リンク160の第1アーム部160aは、球関継手軸155を介して、主変速軸99と一体的に回動する直結変速リンク156に連結されている。
【0085】
各リンク160,130とアーム部材159とは、連結切換手段を構成する略U字状の連結ピン体161にて選択的に連動連結し得るように構成されている。すなわち、図9、図12及び図13に示すように、上下リンク160,130の第2アーム部160b,130bとアーム部材159との長さは、平面視でそれぞれの先端(後端)側が露出するように、配置位置が上のものから下に行くに従って長くなっている。上下リンク160,130の第2アーム部160b,130b及びアーム部材159の先端部にはそれぞれ、上下に貫通する嵌合穴160c,130c,159cが形成されている。
【0086】
通常リンク130の嵌合穴130cとアーム部材159の嵌合穴159cとに連結ピン体161の各脚部を上方から挿入することにより(図6、図8及び図13の実線状態参照)、通常リンク130はアーム部材159(直進伝動軸126)と一体的に回動可能になっている。また、直結リンク160の嵌合穴160cとアーム部材159の嵌合穴159cとに連結ピン体161の各脚部を上方から挿入することにより(図6、図8及び図13の二点鎖線状態参照)、直結リンク160はアーム部材159(直進伝動軸126)と一体的に回動可能になっている。
【0087】
実施形態では、ステアリングコラム71後面のうち連結ピン体161に臨む箇所に、メンテナンス窓147を開口させている。このメンテナンス窓147は、着脱式又は開閉式の蓋体148にて塞がれている。
【0088】
直結変速リンク156、球関継手軸155及び直結リンク160が特許請求の範囲に記載した第1変速軸(主変速軸99)側のリンク部材に相当し、変速出力リンク129、球関継手軸128及び通常リンク130が特許請求の範囲に記載した第2変速軸(変速出力軸119)側のリンク部材に相当する。両リンク部材とアーム部材159と連結ピン体161とが特許請求の範囲に記載した連結切換手段を構成している。
【0089】
直進伝動軸126の下端部は、直進用HST式無段変速機構25から突出した直進制御軸135に、直進用リンク機構151を介して連動連結されている。直進制御軸151は、直進用HST式無段変速機構25における第1油圧ポンプ23の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節するためのものであり、直進用HST式変速機構25の変速出力を調節する調節部として機能する。すなわち、直進制御軸135の正逆回転にて第1油圧ポンプ23の斜板角調節をすることにより、第1油圧モータ24の回転数制御及び正逆転切換を実行し、走行速度(車速)の無段階変更並びに前後進の切り換えが行われる。
【0090】
実施形態の直進用リンク機構151は、直進伝動軸126から突出した直進用下リンク部材144、直進制御軸135に固着された車速制御アーム136、及びこれらをつなぐターンバックル142付き車速ロッド143を備えている。
【0091】
なお、ステアリングコラム71の右側外面にはアクセルレバー145を前後傾動自在に設けている。アクセルレバー145は、ステアリングコラム71前面内側に沿わせて延びるアクセルワイヤ146を介して、エンジン21への燃料供給部(図示せず)に連結されている。アクセルレバー145の前後傾動操作にて、燃料供給量ひいてはエンジン21の回転数が調節される。
【0092】
次に、図5等を参照しながら、主変速レバー73や操向ハンドル19を操作したときの上記連結構造の挙動について説明する。まずは、連結ピン体161にて通常リンク130とアーム部材159とを連動連結した場合(以下、通常の場合と称する)について説明する。
【0093】
主変速レバー73が中立位置のときは、操向ハンドル19を左右回動操作しても、操向入力部材95、入力連結体96、ロッド型操向結合部材115及びロッド型変速結合部材121が操向入力軸87の軸心回りの円錐軌跡Cに沿って移動するため、リンク型操向出力部材114、リンク型変速出力部材120、操向出力軸113及び変速出力軸119は停止状態に維持される。
【0094】
主変速レバー73を前方(後方)に倒す前進(後進)操作をしたときは、主変速軸99から下リンク112及びロッド型主変速部材110を経由した操作力により、操向入力部材95及び入力連結体96が変速入力軸91回りに前方(後方)に傾き、自在継手型操向入力連結部116が所定位置に停止した状態を保持しながら、自在継手型変速入力連結部122を上方(下方)に移動させ、リンク型変速出力部材120の上方(下方)揺動にて変速出力軸119を正転(逆転)させる。
【0095】
そうすると、変速出力軸119から、当該変速出力軸119側のリンク部材128〜130及びアーム部材159を経由した操作力にて、直進伝動軸126がその軸心回りに正転(逆転)し、この正転(逆転)にて直進用リンク機構151が押し引きされ、第1油圧ポンプ23の直進制御軸135を正逆回転させる。その結果、機体(左右の走行クローラ2)は主変速レバー73の前後傾動操作量に比例して前進(後進)動作を実行する。
【0096】
主変速レバー73による前進(後進)操作をした状態で、操向ハンドル19を左方向(右方向)に回転させたときは、操向入力部材95が変速入力軸91回りに前方(後方)に傾いた姿勢で操向入力軸87回りに正転(逆転)して、自在継手型操向入力連結部116を上方(下方)に移動させ、リンク型操向出力部材114の上方(下方)揺動にて操向出力軸113を正転(逆転)させる。
【0097】
そうすると、操向出力軸113から、球関継手軸131、操向出力リンク132及び旋回用上リンク部材133を経由した操作力にて、旋回伝動筒軸126がその軸心回りに正転(逆転)し、この正転(逆転)にて旋回用リンク機構150が押し引きされ、第2油圧ポンプ26の旋回制御軸140を正逆回転させる。その結果、操向ハンドル19の回動操作量に比例して、左走行クローラ2が減速(増速)方向に駆動する一方、右走行クローラ2が増速(減速)方向に駆動し、左(右)方向に機体を旋回させてその走行進路を修正する。
【0098】
この場合、前記の走行進路修正動作と同時に、操向ハンドル19の左(右)回動操作にて、入力連結体96が変速入力軸91回りに前方(後方)に傾いた姿勢で操向入力軸87回りに正転(逆転)して、自在継手型変速入力連結部122を下方(上方)に移動させ、リンク型変速出力部材120の下方(上方)揺動にて変速出力軸119を逆転(正転)させる。
【0099】
このため、変速出力軸119からの戻し操作力にて、直進伝動軸125はその軸心回りに逆転(正転)し、直進用リンク機構151が、操向ハンドル19の回動操作量に比例して直進制御軸135を逆転(正転)させ、そのときの旋回半径に対応して機体の前進(後進)速度を減速させる。
【0100】
すなわち、前記通常の場合は、主変速レバー73による前進(後進)操作をした状態で操向ハンドル19を回動操作すると、操向ハンドル19の回転操作量に比例して、進路を修正する旋回半径と走行速度の減速量が変化し、操向ハンドル19の回動操作量が大きいほど、左右の走行クローラ2の速度差を大きくして旋回半径が小さくなると共に、走行速度の減速量が増して車速が遅くなる。
【0101】
また、前進時と後進時とでは、操向ハンドル19の回動操作に対して自在継手型旋回入力連結部116の動きが逆になり、前後進の何れにおいても操向ハンドル19の回動操作方向と機体の旋回方向とが一致する。
【0102】
次に、連結ピン体161にて直結リンク160とアーム部材159とを連動連結した場合(以下、直結の場合と称する)について説明する。この場合は、主変速レバー73を前方(後方)に倒す前進(後進)操作をしても、通常リンク130が直進伝動軸126に対してフリー回動可能な状態になるため、主変速軸99から変速出力軸119を経由した操作力は直進伝動軸126に伝わらない。
【0103】
主変速軸99に伝達された操作力(正(逆)回転力)は、球関継手軸155、直結変速リンク156、直結リンク160及びアーム部材159を介して、直進伝動軸126に直接的に伝達され、当該直進伝動軸126をその軸心回りに正転(逆転)させる。そして、かかる正転(逆転)にて直進用リンク機構151を押し引きして、第1油圧ポンプ23の直進制御軸135を正逆回転させ、その結果、機体(左右の走行クローラ2)が主変速レバー73の前後傾動操作量に比例して前進(後進)動作を実行する。
【0104】
主変速レバー73による前進(後進)操作をした状態で、操向ハンドル(19)を左方向(右方向)に回転させたときは、前記通常の場合と同様に、操向ハンドル19の回動操作量に比例して、左走行クローラ2が減速(増速)方向に駆動する一方、右走行クローラ2が増速(減速)方向に駆動し、左(右)方向に機体を旋回させてその走行進路を修正する。そして、前記の走行進路修正動作と同時に、操向ハンドル19の左(右)回動操作に連動して変速出力軸119を逆転(正転)させる。
【0105】
しかし、前述した通り、前記直結の場合は、主変速軸99から変速出力軸119を経由した操作力が直進伝動軸126に伝わらないから、操向ハンドル19の回動操作と直進用HST式無段変速機構25の出力調節とが関連しない。従って、そのまま主変速レバー73の前後傾動操作量に比例した車速(旋回速度)が維持されるのである。
【0106】
なお、主変速レバー73が中立位置のときの作動態様や、前後進の何れにおいても操向ハンドル19の回動操作方向と機体の旋回方向とが一致する点は、前記通常の場合と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0107】
以上の構成において、例えば、機体旋回時に左右の走行クローラの速度差が大きくなり過ぎないようにするには、通常リンク130とアーム部材159とを連結ピン体161にて差し込み連結すればよい。そうすれば、主変速レバー73による前進(後進)操作をした状態で操向ハンドル19を回動操作したときに、その回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で機体が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど機体の車速(前進及び後退時の旋回速度)が減速する。すなわち、鈍感な旋回フィーリングが得られる。
【0108】
また、路上又は乾田等での旋回を機敏にしたり、湿田又は泥土面等での旋回性能を向上させたりしたいのであれば、直結リンク160とアーム部材159とを連結ピン体161にて差し込み連結すればよい。そうすれば、操向ハンドル19の回動操作と直進用HST式無段変速機構25の出力調節とが関連せず、そのまま主変速レバー73の前後傾動操作量に比例した車速(旋回速度)が維持され、機敏な旋回フィーリングが得られる。
【0109】
従って、そのときの作業状況等に見合った適切な旋回特性を選択でき、機体の走行性能向上や、刈取脱穀作業の効率化に寄与できるのである。
【0110】
また、実施形態では、主変速レバー73及び操向ハンドル19からの操作力を直進用HST式無段変速機構25に伝達する状態と、主変速レバー73からの操作力のみを直進用HST式無段変速機構25に伝達する状態とを選択的に切り換えるため(機体の旋回フィーリングを切り換えるため)に、主変速軸99側の直結リンク160又は変速出力軸119側の通常リンク130と、アーム部材159とを連結ピン体161にて差し込み連結するという機械的で且つ簡単な構成を採用したから、かかる切り換えのための構造として、例えばアクチュエータを用いての電子制御等を採用した場合に比べて、構成が簡単であって部品点数が少なくて済むし、故障もし難い。また、製造コストも安価で済むのである。
【0111】
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば、本願発明は、前述のようなコンバインに限らず、トラクタ、田植機等の農作業機やクレーン車等の特殊作業用車両のような各種車両に対して広く適用できる。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】コンバインの全体側面図である。
【図2】コンバインの全体平面図である。
【図3】動力伝達系統のスケルトン図である。
【図4】主変速レバー及び操向ハンドルと油圧駆動装置との連結関係を示す斜視説明図である。
【図5】前記連結関係を模式的に示す説明図である。
【図6】ステアリングコラムの側面断面図である。
【図7】ステアリングコラム上部の拡大側面断面図である。
【図8】ステアリングコラム下部の拡大側断面図である。
【図9】ステアリングコラムの正面断面図である。
【図10】ステアリングコラム上部の拡大正面断面図である。
【図11】スライド軸と操作レバーとの作動関係を示す要部拡大断面図である。
【図12】ステアリングコラム下部の拡大正面断面図である。
【図13】操向ハンドルと油圧駆動装置との連結関係を示す平面説明図である。
【符号の説明】
【0113】
2 走行クローラ
18 運転台
19 旋回操作体としての操向ハンドル
20 運転席
21 エンジン
22 ミッションケース
25 直進用油圧駆動装置としての直進用HST式無段変速機構
28 旋回用油圧駆動装置としての旋回用HST式無段変速機構
99 第1変速軸としての主変速軸
101 機械的切換手段
113 操向出力軸
118 操向機構
119 第2変速軸としての変速出力軸
124 変速機構
125 旋回伝動筒軸
126 直進伝動軸
128 球関継手軸
129 変速出力リンク
130 通常リンク
130a 第1アーム部
130b 第2アーム部
130c 嵌合穴
131 球関継手軸
132 操向出力リンク
133 旋回用上リンク部材
135 直進制御軸
140 旋回制御軸
150 旋回用リンク機構
151 直進用リンク機構
155 球関継手軸
156 直結変速リンク
159 アーム部材
159c 嵌合穴
160 直結リンク
160a 第1アーム部
160b 第2アーム部
160c 嵌合穴
161 連結ピン体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に搭載されたエンジンからの動力を、直進用油圧駆動装置、旋回用油圧駆動装置及び差動機構を介して左右の走行部に伝達するように構成する一方、
前記直進用油圧駆動装置の出力を調節して前記機体の直進速度を変更操作するための直進操作体と、前記機体の進行方向を変更操作するための旋回操作体と備えており、前記旋回操作体を操作したときは、その操作量に応じて、前記旋回用油圧駆動装置を増速方向に駆動させると共に、前記直進用油圧駆動装置を減速方向に駆動させるように構成されている走行車両であって、
前記直進操作体からの操作力のみが伝達される第1変速軸と、前記両操作体からの操作力が伝達される第2変速軸と、直進用リンク機構を介して前記直進用油圧駆動装置の調節部に連動連結された直進伝動軸とを備えており、
前記両変速軸と前記直進伝動軸との間には、前記直進伝動軸に前記各変速軸を選択的に連動連結するための連結切換手段が配置されていることを特徴とする走行車両。
【請求項2】
前記連結切換手段は、前記各変速軸に取り付けられたリンク部材と、前記直進伝動軸に固着されたアーム部材と、いずれか一方の前記リンク部材と前記アーム部材とを互いに着脱可能に連結するための連結ピン体とを備えており、
前記連結ピン体にて前記各リンク部材と前記アーム部材とを連結した状態では、前記各変速軸の自軸回りの回動に連動して前記直進伝動軸が自軸回りに回動することにより、前記直進用リンク機構を介して前記直進用駆動手段の前記調節部を作動させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載した走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−143323(P2008−143323A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332158(P2006−332158)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】