説明

走行車両

【課題】走行機体を支持する左右の走行部に動力伝達する直進走行用変速装置の変速用操作具と,前記左右の走行部に動力を逆回転伝達する旋回走行用変速装置と旋回用操作具を備えて成る走行車両において,直進及び旋回走行の操作性を向上する。
【解決手段】旋回用操作具10にて回転する旋回入力軸72に,当該旋回入力軸を中心とする円形カム84を備えた制御体81を,前記旋回入力軸の軸線と直角に延びる直交軸線Sの回りに自在に傾き回転するように設け,この制御体を前記変速用操作具13に連動して前記直交軸線Sの回りに傾き回転するように構成し,前記円形カムのうち前記直交軸線Sと直角に延びる直線W上の部分に摺動自在に係合する変速用滑り子部材97にて前記直進走行用変速装置25を変速作動する一方,前記円形カムのうち前記直交軸線S上の部分に摺動自在に係合する旋回用滑り子部材106にて前記旋回走行用変速装置を変速作動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コンバイン等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような走行車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,走行車両としてのコンバインにおいては,左右のクローラ等の走行部にて支持される走行機体に,これに搭載したエンジンの動力を前記左右の走行部に無段変速して伝達する直進走行用変速装置と,前記エンジンの動力を前記左右の走行部に当該両走行部を互いに逆転するとともに無段変速して伝達する旋回走行用変速装置を備えて成る構成にされている。
【0003】
かかる構成のコンバインの一例が特許文献1及び2に開示されている。特許文献1及び2のコンバインでは,直進走行用変速装置の駆動出力量,すなわち走行機体の直進速度が主変速レバー等の変速用操作具における操作量に応じて調節される。主変速レバーが中立位置にあれば,走行機体は直進しない。
【0004】
また,旋回走行用変速装置の駆動出力量,すなわち走行機体の旋回方向及び旋回速度は,操縦部のうち運転座席の前方に配置された操向ハンドル等の旋回用操作具における回動方向及び回動操作量に応じて調節される。
【0005】
この場合,主変速レバー(変速用操作具)及び操向ハンドル(旋回用操作具)は,その両方を,ロッドやアーム,枢支ピン等を多用した機械的連動機構を介して,直進走行用変速装置と旋回走行用変速装置との両方に連動連結するという構成にすることにより,この機械的連動機構の作用により,常に,前記主変速レバー(変速用操作具)にて変速操作される前記直進走行用変速装置にて所定の直進走行速度を維持しているが,前記操向ハンドル(旋回用操作具)を操作すると,左右の両走行部の相互間に前記旋回走行用変速装置にて速度差が付与されて前記操向ハンドル(旋回用操作具)を操作する方向に旋回し,そして,この旋回に際しての前記旋回走行用変速装置による速度差は,前記操向ハンドル(旋回用操作具)の操作量に比例して増大し旋回半径が小さくなるという作動を行うように構成している。
【特許文献1】特開2000−177619号公報
【特許文献2】特開2001−26282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,特許文献1及び2において,前記した作動を行うようにした機械的連動機構は,その各々の公報に記載されているように,前記操向ハンドル(旋回用操作具)にて回転する旋回入力軸の先端に,自在継ぎ手を屈曲自在に連結し,この自在継ぎ手に,前記旋回入力軸の軸線に対して直角の方向に延びる第1アームと,第2アームとを,これら両アームが前記旋回入力軸の軸線方向から見て互いに直角になるように設け,一方の第1アームには,他端を前記直進走行用変速装置に連結した変速用ロッド体の一端を,前記他方の第2アームには,他端を前記旋回走行用変速装置に連結した旋回用ロッド体の一端を,これら両ロッド体が前記旋回入力軸の軸線方向に延びるように連結し,更に,前記自在継ぎ手を,前記旋回入力軸の軸線と直角の方向に延びる変速入力軸を介して連動する前記主変速レバー(変速用操作具)により,前記両アームのうち第2アームにおける長手方向の軸線回りに回転して,前記主変速レバー(変速用操作具)及び前記操向ハンドル(旋回用操作具)の操作により,前記両ロッド体を,その他端を中心として一端を前記旋回入力軸の線の回りに回転しながら長手方向に往復動することにより,前記直進走行用変速装置及び前記旋回走行用変速装置の両方を作動するように構成している。
【0007】
この従来における機械的連動機構は,ロッドやアーム,枢支ピン等を多用していて,かなり複雑な構造であることに加えて,前記直進走行用変速装置及び前記旋回走行用変速装置の両方に対するロッド体における一端を,前記旋回入力軸の軸線の回りに,当該ロッド体における他端が前記旋回入力軸の軸線に沿って略直線的に移動するように,回転するという構成であり,そのためには,前記両ロッド体を,前記旋回入力軸の軸線方向に相当に長くしなければならず,従って,前記旋回入力軸の軸線方向の長さが大幅に増大するから,非常に大型化であり,これをコンバイン等の走行車両に搭載した場合に,大きな占有スペースを必要とするばかりか,走行機体の重量が大幅に増大するのであり,しかも,当該機械的連動機構に要する部品コストが嵩む上に,製造ライン中での組み付け工数も多くなるという問題があった。
【0008】
本発明は,これらの問題を解消した走行車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この技術的課題を解決するため,本発明の請求項1は,
「左右の走行部にて支持される走行機体に,これに搭載したエンジンの動力を前記左右の走行部に無段変速して伝達する直進走行用変速装置と,前記エンジンの動力を前記左右の走行部に無段変速して伝達する旋回走行用変速装置を備えるとともに,前記直進走行用変速装置に対する変速用操作具と,前記旋回走行用変速装置に対する旋回用操作具を備えて成る走行車両において,
前記旋回用操作具にて回転する旋回入力軸に,当該旋回入力軸の軸線方向から見てこの旋回入力軸を中心として円周方向に延びる円形カムを備えて成る制御体を,当該制御体が前記旋回入力軸の中心を通ってこの旋回入力軸の軸線と直角に延びる直交軸線の回りに自在に傾き回転するように設けて,この制御体を,前記変速用操作具に連動して前記直交軸線の回りに傾き回転するように構成し,更に,前記円形カムのうち前記旋回入力軸の中心を通って前記直交軸線と直角に延びる直線上の部分に摺動自在に係合する変速用滑り子部材にて,前記直進走行用変速装置を変速作動するように構成する一方,前記円形カムのうち前記直交軸線上の部分に摺動自在に係合する旋回用滑り子部材にて,前記旋回走行用変速装置を変速作動するように構成した。」
ことを特徴としている。
【0010】
本発明の請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記制御体における円形カムが,カム溝を円周方向に延びるように設けた構成であり,前記変速用滑り子部材及び前記旋回用滑り子部材が,前記円形カムにおけるカム溝内に嵌まる構成である。」
ことを特徴としている。
【0011】
本発明の請求項3は,
「前記請求項2の記載において,前記変速用滑り子部材及び前記旋回用滑り子部材が,前記カム溝内に摺動自在に嵌まる球体を,回転自在に支持した構成である。」
ことを特徴としている。
【0012】
本発明の請求項4は,
「前記請求項2の記載において,前記変速用滑り子部材及び前記旋回用滑り子部材が,前記溝型カム内に嵌まるリング体を,その支持軸に,回転自在に且つ当該支持軸の軸線に対して任意の方向に自在に傾くことができるように被嵌した構成である。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の記載において,先ず,操向ハンドル(旋回用操作具)を,直進走行位置に維持したままで,変速用操作具(主変速レバー)を操作すると,これに連動して,旋回入力軸に設けた制御体がその直交軸線回りに傾き回転する。
【0014】
すると,前記制御体における円形カムのうち前記旋回入力軸の中心を通って前記直交軸線と直角に延びる直線上の部分に係合する変速用滑り子部材が,当該制御体におけるその直交軸線回りの傾き回転に基づいて旋回入力軸の軸線方向に移動することにより,前記直進走行用変速装置が変速作動する。
【0015】
一方,前記制御体はその直交軸線回りに傾き回転していても,この制御体における円形カムのうち前記直交軸線上の部分に係合する旋回用滑り子部材は,前記操向ハンドル(旋回用操作具)を操作しない限り,旋回入力軸の軸線方向には移動することはなく,ひいては,この旋回用滑り子部材による前記旋回走行用変速装置の変速作動はなく,左右の両走行部には同じ回転が同時に伝達されるから,走行機体は前進又は後退方向に直進走行する。
【0016】
この直進走行時における車両速度は,前記直進走行用変速装置における変速作動量にて決まり,この変速作動量は,前記変速用滑り子部材における旋回入力軸の軸線方向への移動量,ひいては,制御体がその直交軸線回りに傾き回転するときの角度,更には,前記変速用操作具(主変速レバー)における操作量にて増減できるから,走行機体における直進走行時における車両速度を,前記変速用操作具の操作に基づいた所定値にすることができる。
【0017】
次に,前記した直進走行の状態で,旋回用操作具(操向ハンドル)を操作して旋回入力軸を回転すると,前記制御体が,その直交軸線回りに傾き回転した状態のままで前記旋回入力軸と一緒に回転することにより,この制御体における円形カムのうち前記直交軸線上の部分に係合する旋回用滑り子部材が,旋回入力軸の軸線方向に移動することになり,この旋回用滑り子部材の移動により旋回走行用変速装置が変速作動して,左右の走行部の相互間に前記旋回走行用変速装置による逆回転伝達にて速度差が付与されるから,走行機体が前記旋回用操作具(操向ハンドル)を操作する方向に旋回する。
【0018】
そして,前記旋回走行用変速装置における変速作動量は,前記制御体の円形カムに係合する旋回用滑り子部材における旋回入力軸の軸線方向への移動,ひいては,前記制御体がその直交軸線回りに傾き回転した状態のままで旋回入力軸にて回転することに基づいて,前記旋回用滑り子部材における旋回入力軸の軸線方向への移動量,更には,前記旋回用操作具の操作量に比例するから,前記旋回走行に際しての前記旋回走行用変速装置による両走行部間の速度差は,前記旋回用操作具の操作量に比例して増大し,前記走行機体における旋回半径が小さくなる。
【0019】
つまり,本発明によると,
「常には,前記変速用操作具にて変速操作される前記直進走行用変速装置にて所定の直進走行速度を維持しているが,前記旋回用操作具を操作すると,左右の両走行部の相互間に前記旋回走行用変速装置にて速度差が付与されて前記旋回用操作具を操作する方向に旋回し,そして,この旋回に際しての前記旋回走行用変速装置による速度差は,前記旋回用操作具の操作量に比例して増大し旋回半径が小さくなる。」
という作動を,前記したように,前記一つの制御体における前記旋回入力軸の軸線と直角に交差する直交軸線回りの傾き回転にて行うものであることにより,前記旋回入力軸の軸線に沿った寸法を,前記従来のように長尺の両ロッド体を使用する場合よりも大幅に短縮できるとともに,部品点数を大幅に少なくできる。
【0020】
その上,請求項1に記載した構成によると,変速用操作具(主変速レバー)を操作しての直進走行の状態において,前記旋回用操作具(操向ハンドル)を操作しての旋回するときの安全性を向上できるとともに,旋回半径を更に小さくすることができる。
【0021】
すなわち,前記旋回用操作具(操向ハンドル)を直進走行位置から回転操作すると,前記制御体が旋回入力軸にて回転することで,この制御体における円形カムに係合する変速用滑り子部材は,前記制御体の旋回入力軸による回転に伴って,前記円形カムのうち前記旋回入力軸の中心を通って前記直交軸線と直角に延びる直線上の部分から前記直交軸線上の部分に近づくように移行することにより,この変速用滑り子部材における前記円形カムによる上下移動の距離が,当該変速用滑り子部材が前記旋回用操作具(操向ハンドル)の直進走行位置で円形カムのうち前記旋回入力軸の中心を通って前記直交軸線と直角に延びる直線上の部分に位置している場合よりも小さくなり,ひいては,前記直進走行用変速装置の変速作動量が小さくなって,左右の両走行部への伝達回転数が自動的に減速に制御され,走行機体の旋回に際しての走行速度が遅くなるから,走行機体における旋回半径をより小さくできるとともに,旋回に際して走行機体に対して旋回の外向き方向に作用する遠心力を軽減できる。
【0022】
従って,本発明によると,その構造を,前記特許文献1及び2に比べて著しく簡単に,且つ,小型にでき,コンバイン等の走行車両に搭載した場合に,占有スペースは小さくなり,ひいては,その走行機体における小型化及び軽量化を図ることができるのであり,しかも,部品コスト及び製造ライン中での組み付け工数の低減を達成でき,その上,走行機体を,安全に小さい半径で旋回できる。
【0023】
次に,請求項2に記載した構成によると,前記変速用滑り子部材及び前記旋回用滑り子部材における剛性を,これらの滑り子部材を溝型にして,これを棒状断面にした円形カムに対して円周方向に摺動自在に被嵌するというように構成した場合よりも向上できるから,その耐久性を確保できる利点がある。
【0024】
また,前記請求項2に記載した構成にする場合には,請求項3又は請求項4に記載した構成にすることにより,カム溝と,その内部に嵌まる球体又はリング体との相互間における摺動摩擦抵抗を大幅に低減できるから,前記した制御の感応性と,これらの耐久性とを確実に向上できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に,本願発明を具体化した実施形態を,走行車両としての多条刈りコンバインに適用した場合の図面(図1〜図14)に基づいて説明する。
【0026】
(1).コンバインの概略構造
まず,図1,図2及び図3を参照しながら,前記多条刈りコンバインの概略構造について説明する。
【0027】
実施形態における多条刈りのコンバインは,左右の走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には,圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取部3が図示しない油圧シリンダ等にて昇降調節可能に装着されている。
【0028】
走行機体1には,その前進方向に対して左側にフィードチェーン5付きの脱穀部4が,右側に脱穀後の穀粒を貯留するための穀粒タンク6が各々搭載されている。また,前記走行機体1における右側には,刈取部3と穀粒タンク6との間には運転操縦部7及びエンジン8が前後方向に並べて設けられている。
【0029】
前記操縦部7におけるステップ床部材9の上面には,走行機体1の進行(旋回)方向及び旋回速度を変更操作する旋回用操作具としての操向ハンドル10,オペレータが着座する操縦座席11等が配置されているほか,前記ステップ床部材9の上面のうち左側の部分には,サイドコラム12が設けられ,このサイドコラム12には,変速用操作具としての主変速レバー13が設けられているほか,前記刈取部3及び脱穀部4等の断続操作するための各種のクラッチレバー14,15が設けられている。
【0030】
前記主変速レバー13は,走行停止の中立位置を挟んで前方への前進走行と,後方への後退走行とに操作できるように構成されている。
【0031】
前記エンジン8は,前記操縦部7の下方に配置され,このエンジン8の前方で,且つ,前記左右の両走行クローラ2間の部位には,当該エンジン8からの動力を適宜変速して左右の両走行クローラ2に伝達するための走行ミッションケース16が配置されている。
【0032】
前記操向ハンドル10は,前記ステップ床部材9の上面にブラケット17にて立設したステアリングパイプ18の上端に軸支して成り,前記ステアリングパイプ18内には,上端に前記操向ハンドル10を固着したハンドル軸19が設けられ,このハンドル軸19の下端は,以下に詳しく説明するように,前記ステップ床部材9の下面側に配設したステアリングボックス20への第1旋回入力軸21に,自在軸継ぎ手22を介して連結されている。
【0033】
前記ステアリングボックス20は,完全な密閉構造であり,詳しくは後述するように,前記主変速レバー13及び操向ハンドル10に対する機械式連動機構を内蔵している。
【0034】
(2).コンバインの走行駆動系統
次に,図3を参照しながら,コンバインの走行駆動系統について説明する。
【0035】
エンジン8の前方に位置する走行ミッションケース16には,第1油圧ポンプ23及び第1油圧モータ24からなる直進走行用HST式無段変速機構25を内蔵していることに加えて,第2油圧ポンプ26及び第2油圧モータ27からなる旋回走行用HST式無段変速機構28をも内蔵している。
【0036】
これら両HST式無段変速機構25,28のうち前者の直進走行用HST式無段変速機構25は,前記走行ミッションケース16の上面等に設けた直進用変速作動レバー25aの回動にて変速作動され,後者の旋回走行用HST式無段変速機構28は,前記走行ミッションケース16の上面等に設けた旋回用変速作動レバー28aの回動にて変速作動される。
【0037】
また,前記両HST式無段変速機構25,28においては,エンジン8の出力軸8aに,伝達ベルト30a,30bにて,第1及び第2油圧ポンプ23,26の入力軸29a,29bを連動連結させ,各油圧ポンプ23,26を駆動するように構成されている。
【0038】
第1油圧モータ24の出力軸31には,副変速機構32及び差動機構33を介して左右の走行クローラ2における各駆動輪34を連動連結させている。
【0039】
差動機構33は左右対称状に配置された一対の遊星ギヤ機構35,35を有している。各遊星ギヤ機構35は,1つのサンギヤ36と,該サンギヤ36の外周で噛合う3つのプラネタリギヤ37と,これらプラネタリギヤ37に噛合うリングギヤ38等にて形成されている。
【0040】
プラネタリギヤ37は,サンギヤ軸39と同軸線上に位置したキャリヤ軸40のキャリヤ41にそれぞれ回転自在に軸支させ,左右のサンギヤ36,36を挟んで左右のキャリヤ41を対向配置させている。リングギヤ38は,各プラネタリギヤ37に噛み合う内歯38aを有していてキャリヤ軸40に回転自在に軸支されている。キャリヤ軸40は左右外向きに延びていて車軸を構成しており,その先端部に前記駆動輪34(図1及び図3参照)が取り付けられている。
【0041】
直進走行用HST式無段変速機構25は,その直進用変速作動レバー25aの回動にて第1油圧ポンプ23の回転斜板の角度変更調節を行うことにより第1油圧モータ24の正逆回転と回転数の制御を行うものである。この場合,第1油圧モータ24の回転出力を,出力軸31の伝達ギヤ42から各ギヤ43,44,45及び副変速機構32を経由してサンギヤ軸39に固定したセンタギヤ46に伝達し,その結果,サンギヤ36を回転させるように構成されている。
【0042】
副変速機構32は,ギヤ44を有する副変速軸47と,ギヤ45を介してセンタギヤ46に噛合う(高速用)ギヤ48を有する駐車ブレーキ軸49とを備えている。副変速軸47とブレーキ軸49との間には,各一対の低速用ギヤ50,51,中速用ギヤ52,53,高速用ギヤ54,48を設けており,低中速スライダ55及び高速スライダ56のスライド操作にて副変速の低速・中速・高速の切換を行うように構成している。
【0043】
なお,低速・中速間及び中速・高速間には中立(副変速の出力が0(零)になる位置)を有している。駐車ブレーキ軸49には駐車ブレーキ57を設けている。また,刈取部3に回転力を伝達する刈取PTO軸58には,ギヤ59,60及び一方向クラッチ61を介して副変速軸47を連結させており,刈取部3を車速同調速度で駆動させ得るように構成されている。
【0044】
上記構成から分かるように,実施形態のコンバインは,センタギヤ46からサンギヤ軸39に伝達された第1油圧モータ24の駆動力を,左右の遊星ギヤ機構35を介して左右キャリヤ軸40に伝達させると共に,左右キャリヤ軸40に伝達された回転動力を左右の駆動輪34にそれぞれ伝え,左右走行クローラ2を駆動するように構成されている。
【0045】
つまり,これらにより,本発明において,「エンジンの動力を前記左右の走行部に無段変速して伝達する直進走行用変速装置」を構成している。
【0046】
一方,旋回走行用HST式無段変速機構28は,その旋回用変速作動レバー28aの回動にて第2油圧ポンプ26の回転斜板の角度変更調節を行うことにより第2油圧モータ27の正逆回転と回転数の制御を行うものである。この場合,ミッションケース13内には,操向出力ブレーキ62を有するブレーキ軸63と,操向出力クラッチ64を有するクラッチ軸65と,前述した左右リングギヤ38の外歯38bに常時噛合させる左右入力ギヤ66,67とを備えている。
【0047】
第2油圧モータ27の出力軸68には,前記ブレーキ軸63及び操向出力クラッチ64を介して,クラッチ軸65を連結させ,クラッチ軸65に,正転ギヤ69を介して右入力ギヤ67を連結させている。また,クラッチ軸65には正転ギヤ69及び逆転ギヤ70を介して左入力ギヤ66を連結させている。
【0048】
低中速及び高速スライダ55,56を中立にして操向出力ブレーキ62を入にし且つ操向出力クラッチ64を切にすることにより,第2油圧モータ27からの回転動力の伝達が阻止される。
【0049】
また,前記中立以外の副変速出力時に操向出力ブレーキ62を切にし且つ操向出力クラッチ64を入にすることにより,第2油圧モータ27の回転動力は,正転ギヤ69を介して右側のリングギヤ38の外歯38bに伝達されると共に,正転ギヤ69及び逆転ギヤ70を介して左側のリングギヤ38の外歯38bに伝達される。その結果,第2油圧モータ27の正転(逆転)時は,互いに逆方向の同一回転数で,左リングギヤ38が逆転(正転)し,右リングギヤ38が正転(逆転)する。
【0050】
つまり,これらにより,本発明において,「前記エンジンの動力を前記左右の走行部に当該両走行部を互いに逆転するとともに無段変速して伝達する旋回走行用変速装置」を構成している。
【0051】
而して,旋回用の第2油圧モータ27を停止させて左右リングギヤ38を静止固定させた状態で,直進用の第1油圧モータ24を駆動すると,第1油圧モータ24からの回転出力はセンタギヤ46から左右のサンギヤ36に同一回転数で伝達され,左右遊星ギヤ機構35のプラネタリギヤ37及びキャリヤ41を介して,左右の走行クローラ2が左右同一回転方向で同一回転数にて駆動し,走行機体1の前後方向直進走行が行われる。
【0052】
一方,直進用の第1油圧モータ24を駆動させながら,旋回用の第2油圧モータ27を駆動させると,左右の走行クローラ2の相互間には,前記旋回走行用変速装置による逆回転にて速度差が付与されるから,走行機体1が左右に旋回して進路が修正される。走行機体1の旋回半径は第2油圧モータ27の出力回転数によって決定される。
【0053】
(3).ステアリングボックス及び機械式連動機構
図4〜図14に示すように,前記ステアリングボックス20には,前記主変速レバー13及び操向ハンドル10に応じて,前記直進走行用HST式無段変速機構25及び旋回走行用HST式無段変速機構28の両方を前記したように作動するための機械的連動機構71を内蔵している。
【0054】
この機械的連動機構71は,前記ステアリングボックス20内に両端を軸支して設けた縦向きの第2旋回入力軸72を備え,この第2旋回入力軸72の上端は,前記ステアリングボックス20内において前記第1旋回入力軸21に,互いに噛合するギヤ73,74を介して連動し,前記操向ハンドル10にて回転するように構成されている。
【0055】
また,前記第2旋回入力軸72における上部にはスライダー75が摺動自在に被嵌され,下部にはホルダー部材76が回転及び摺動不能に嵌着され,前記スライダー75は,前記第2旋回入力軸72に対して,ボール型キー77等にて自在に摺動できる状態のもとで当該第2旋回入力軸72と一緒に回転するように構成されている。
【0056】
更にまた,前記第2旋回入力軸72のうち前記ホルダー部材76より下側の部分には巻きばね78が被嵌して設けられ,この巻きばね78における始端78a及び終端78bの両方は,前記ステアリングボックス20に固着したピン79と,前記ホルダー部材76に固着したピン80との両方に係合することで,前記操向ハンドル10を,この巻きばね78にて,当該操向ハンドル10を左右に回した位置から常時直進走行の位置に戻し付勢するように構成している。
【0057】
すなわち,前記操向ハンドル10における左右方向への回転操作は,前記巻きばね78における弾性に抗して行われ,元の直進走行位置への回転操作には,前記巻きばね78の弾性力を付勢するように構成している。
【0058】
前記操向ハンドル10は,図示しないが,当該操向ハンドル10における直進走行位置から右方向及び左方向への回転操作角度を,図8及び図10に示すように,左右の両方向への所定の最大切れ角度θ1,θ2(例えば,θ1=67.5度,θ2=67.5度)の範囲内に規制するように構成されている。
【0059】
前記ステアリングボックス20内の下部において,前記ホルダー部材76の部分には,前記第2旋回入力軸72の軸線方向から見た平面視において,図8,図9及び図10に示すように,この第2旋回入力軸72の周囲を囲うようにリング体に構成した制御体81が配設されており,この制御体81における内面のうち前記第2旋回入力軸72における軸線72aの方向から見て前記第2旋回入力軸72の回転中心を通って前記第2旋回入力軸72の軸線72aと直角に延びる直交軸線S上の部位には,左右一対の内向きボス部82を設けて,この両ボス部82を前記ホルダー部材76に対してねじ軸83にて回転自在に枢着することにより,前記制御体81が,前記直交軸線Sの回りに自在に回転するように構成している。
【0060】
前記制御体81の外周部には,前記第2旋回入力軸72の回転中心を中心として円周方向に延びるように構成して成る円形カム84が設けられ,この円形カム84には,その全周にわたって延びるカム溝84aを備えている。
【0061】
前記ステアリングボックス20内における上部において,前記第2旋回入力軸72を挟んで左右両側のうち一方側の部分には,前記第2旋回入力軸72の軸線72aの方向から見て,前記第2旋回入力軸72に対して直交するように延びる主変速レバー入力軸85が,他方側の部分には,同じく前記第2旋回入力軸72の軸線72aの方向から見て,前記第2旋回入力軸72に対して直交するように延びる変速出力軸86が,その各々における一端部が前記ステアリングボックス20における各側面のうち前記走行ミッションケース16の外に突出するように軸支されている。
【0062】
この両軸のうち主変速レバー入力軸85の突出端に固着した主変速アーム87には,前記運転操縦部7における主変速操作レバー13が,当該主変速レバー13の回動操作にて前記主変速レバー入力軸85が回転するようにロッド等の連動連結手段88にて連結されている。
【0063】
一方,前記変速出力軸86の突出端に固着した変速出力アーム89には,図3に示すように,前記走行ミッションケース16の直進走行用HST式無段変速機構25における直進用変速作動レバー25aが,前記変速出力軸86の回転によって変速作動するようにロッド等のような連動連結手段90にて連結されている。
【0064】
前記主変速レバー入力軸85のうち前記ステアリングボックス20内の部分には,主変速フォークアーム91が固着され,この主変速フォークアーム91の先端に設けたボールベアリング92は,前記スライダー75の外周に設けた環状溝75aに嵌まり係合しており,これにより,前記スライダー75が,前記主変速レバー入力軸85の回転,ひいては,前記主変速レバー13の回動操作によって前記第2旋回入力軸72に沿って上下摺動するように構成している。
【0065】
すなわち,前記スライダー75は,前記主変速レバー13を中立位置にしているとき,図7に実線で示す部位に位置しているが,前記主変速レバー13の中立位置から前後への回動操作によって上下動するように構成されている。
【0066】
また,前記スライダー75と前記制御体81との間は,両端にピン94を備えたリンク93にて連結されていて,前記主変速レバー13が中立位置にあるときには,前記スライダー75は上下動することなく,従って,前記制御体81は中立位置の水平姿勢のままで傾き回動しないが,前記主変速レバー13を,前記中立位置から前後に回動操作すると,前記スライダー75が上下動することにより,前記制御体81が,図11に示すように,そのねじ軸83を中心として直交軸線Sの回りに,水平姿勢を挟んで上下方向に適宜角度α1,α2の範囲内を傾き回動する構成にしている。
【0067】
そして,前記ステアリングボックス20には,前記変速出力軸86の略真下の部位に前記変速出力軸86と平行に構成した中間軸95がステアリングボックス20内に突出するように軸支され,この中間軸95の内端には,主変速リンク96が上下方向に自在に回動するように設けられ,この主変速リンク96のうち前記第2旋回入力軸72における軸線72aの方向から見て,前記第2旋回入力軸72の中心を通って前記直交軸線Sと直角に延びる軸線W上の部分には,当該部分において前記制御体81における円形カム84に,円周方向に摺動自在に係合する変速用滑り子部材97が,前記軸線Wの回りに自在に回転するように設けられている。
【0068】
この変速用滑り子部材97は,図13に示すように,前記主変速リンク96に対してボールベアリング97bにて回転自在に軸支した軸部97aと,この軸部97aの先端に一体に設けた球体97cとによって構成され,その球体97cを,前記制御体81の円形カム84におけるカム溝84a内に,摺動及び回転自在に挿入するという構成になっている。
【0069】
前記主変速リンク96は,これに前記変速出力軸86に基端を回転自在に被嵌した変速出力リンク98の先端が,リンク99を介して連結されていることにより,前記変速制御体81におけるその直交軸線Sの回りの傾き回動に連動して,前記変速出力リンク98が回動するように構成されている。
【0070】
また,前記変速出力軸86には,非減速アーム100の基端が回転自在に被嵌され,この非減速アーム100は,その先端に穿設した長孔100aに前記主変速フォークアーム91の先端におけるピン101が嵌まり係合することで,前記主変速フォークアーム91における上下動に連動して回動するように構成されている。
【0071】
更にまた,前記変速出力軸86には,前記変速出力リンク98と,前記非減速アーム100との間の部位に,前記変速出力軸86にスプライン係合又は滑りキー等にて回転不能に構成される切り換え部材102が,軸線方向に摺動自在に設けられ,この切り換え部材102を,切り換え操作機構109にて,前記変速出力軸86に沿って摺動することにより,図9に示すように,当該切り換え部材102に設けたピン103の前記変速出力リンク98への係合にて前記変速出力軸86と前記変速出力リンク98とを結合する減速状態と,前記ピン103の前記非減速アーム100への係合にて前記変速出力軸86と前記非減速アーム100とを結合する非減速状態とに選択的に切り換えることができるように構成している。
【0072】
前記切り換え操作機構109は,以下に述べる構成である。
【0073】
すなわち,前記ステアリングボックス20には,前記変速出力軸86と平行にした切り換え操作軸110を摺動自在及び回転自在に軸支して,この切り換え操作軸110に固着した切り換え板111を,前記切り換え部材102に設けた環状溝112に嵌まり係合する一方,前記切り換え操作軸110の一端を前記ステアリングボックス20の外に突出して,この突出端に把手113を設け,この把手113を握って前記切り換え操作軸110をその軸線方向に摺動することにより,前記の切り換えを,前記ステアリングボックス20の外側から行うという構成であり,前記切り換え操作軸110に対しては,前記変速出力軸86と前記変速出力リンク98とを結合する減速状態と,前記変速出力軸86と前記非減速アーム100とを結合する非減速状態とに保持するためのボールクラッチ114が設けられている。
【0074】
更に,前記ステアリングボックス20の側面には,前記変速出力軸86の略真下の部位に前記変速出力軸86と直角に構成した旋回出力軸104が,ステアリングボックス20の内外に突出するように軸支されている。
【0075】
この旋回出力軸104のうちステアリングボックス20内への内端には,旋回リンク105の基端が回転不能に固着され,この旋回リンク105のうち前記第2旋回入力軸72における軸線72aの方向から見て前記直交軸線S上の部分には,当該部分において前記制御体81における円形カム84に円周方向に摺動自在に係合する旋回用滑り子部材106が設けられている。
【0076】
この旋回用滑り子部材106は,図14に示すように,前記旋回リンク105に取付けた軸部106aと,この軸部106aの先端に一体に設けた球体106bと,この球体106bに回転自在に且つ当該支持軸の軸線に対して任意の方向に自在に傾くことができるように被嵌したリング体106cとによって構成され,そのリング体106cを,前記制御体81の円形カム84におけるカム溝84a内に,摺動及び回転自在に挿入するという構成になっている。
【0077】
一方,前記旋回出力軸104のうち外端に固着した旋回出力アーム107には,前記旋回出力軸104の回転によって前記走行ミッションケース16の旋回走行用HST式無段変速機構28における旋回用変速作動レバー28aが変速作動するようにロッド等の連動連結手段108にて連結されている。
【0078】
なお,前記ステアリングボックス20は,前記第2旋回入力軸72における軸線72aと直角の平面Aで,ダイキャスト又は鋳造製の上部ボックス体20aと,同じくダイキャスト又は鋳造製の下部ボックス体20aとの二つ割りで,この両者をその間にシール用のガスケット(図示せず)を挟んだ状態で,周囲に配設した複数本のボルト(図示せず)にて着脱可能に結合し,その内部には,コンバインにおける各種の油圧機器(例えば,前記刈取部3を昇降動する油圧シリンダ)に使用される作動油,又は,前記直進走行用HST式無段変速機構25及び/又は旋回走行用HST式無段変速機構28に使用される作動油が出入りする構成であり,且つ,この出入りする作動油にて前記機械式連動機構71を潤滑するという構成になっており,このステアリングボックス20には,図示していないが,前記の作動油が出入りするための入り口及び出口が設けられている。
【0079】
(4).機械式連動機構の作動
次に,図4〜図12を参照しながら,主変速レバー73や操向ハンドル10を操作したときの前記機械式連動機構71の作動について説明する。
【0080】
前記主変速レバー73が中立位置のときは,これに連動連結手段88,主変速アーム87,主変速レバー入力軸85,及び主変速フォークアーム91を介して連動するスライダー75は上下動することはなく,前記制御体81は中立位置の水平姿勢のままで,その直交軸Sの回りに傾き回動しないので,この状態では,操向ハンドル10を左右のいずれの方向に回動操作しても,前記制御体81の円形カム84に係合する変速用滑り子部材97及び旋回用滑り子部材106の両方は,共に上下方向に移動することはなく,ひいては,前記変速出力軸86及び旋回出力軸104の両方といずれも回転することはないから,両方のHST式無段変速機構25,28は駆動することはない。
【0081】
つまり,主変速レバー13を中立位置にセットして走行機体1の直進を停止させた状態では,オペレータの不用意な接触等にて操向ハンドル10を回動させたとしても,両方のHST式無段変速機構25,28は駆動することはなく,走行機体1を確実に停止状態に維持できる。
【0082】
従って,例えばメンテナンス作業等に際しては,主変速レバー13を中立位置にセットしておけば,オペレータの意図に反して走行機体1が予想外の挙動をするおそれを確実に回避でき,安全性を十分に確保できる。
【0083】
次に,前記操向ハンドル10を直進走行位置に維持した状態のもとで,前記主変速レバー13を前記中立位置から回動操作をしたときは,これに連動して前記スライダー75が上下動することにより,前記制御体81が,図11に二点鎖線で示すように,その直交軸線Sの回りに上下動するように傾き回動するから,この制御体81における円形カム84のうち前記第2旋回入力軸72の中心を通って前記直交軸線Sと直角に延びる直線W上の部分に係合する変速用滑り子部材97は,前記第2旋回入力軸72の軸線72aに沿って中立位置から上下に距離L1,L2だけ移動する。しかし,前記制御体81における円形カム84のうち前記直交軸線S上の部分に係合する旋回用滑り子106は,上下に移動することはない。
【0084】
このとき,前記変速出力軸86における切り換え部材102におけるピン103を,切り換え操作機構109による操作にて変速出力リンク98に係合することにより,前記変速出力リンク98と前記変速出力軸86とが一体に回転するように連結しておく。
【0085】
すると,前記変速用滑り子部材97の上下への移動が,主変速リンク96,リンク99,変速出力リンク98,切り換え部材102,変速主力軸86,変速出力アーム89及び連動連結手段90を介して,前記直進走行用HST式無段変速機構25における直進用変速作動レバー25aに伝達することにより,前記直進走行用HST式無段変速機構25が,前記制御体81におけるその直交軸線S回りの傾き回転にて中立位置から変速作動する。
【0086】
一方,前記制御体81は直交軸線Sの回りに傾き回転していても,この制御体81における円形カム84のうち前記直交軸線S上の部分に係合する旋回用滑り子部材106は,前記操向ハンドル10を操作しない限り,上下には移動することはなく,ひいては,前記旋回走行用HST式無段変速機構28における中立位置からの変速作動はなく,左右の両走行クローラ2には,前記直進走行用HST式無段変速機構25にて同じ回転数が同時に伝達されるから,走行機体1は,前進又は後退方向に直進走行する。
【0087】
この直進走行時における車両速度は,前記直進走行用HST式無段変速機構25における直進用変速作動レバー25aの中立位置からの変速作動量にて決まり,この中立位置からの変速作動量は,前記制御体81の円形カム84に係合する変速用滑り子部材97における上下への移動距離L1,L2,ひいては,前記制御体81における水平姿勢の中立位置からの傾き回転するときの角度α1,α2,更には,前記主変速レバー13における操作量にて増減できるから,走行機体1の直進走行時における車両速度を,前記主変速レバー13の中立位置からの操作に基づいた所定値にすることができる。
【0088】
次に,前記した直進走行の状態で,操向ハンドル10を直進走行位置から右又は左方向に回転操作して第2旋回入力軸72を回転すると,前記制御体81が,前記したようにその直交軸線Sの回りに傾き回転した状態のままで前記第2旋回入力軸72と一緒に回転することにより,前記円形カム84のうち前記直交軸線S上の部分に係合する旋回用滑り子部材106が,前記第2旋回入力軸72による回転にて上下に移動し,この上下への移動が,旋回リンク105,旋回出力軸104,旋回出力アーム107及び連動連結手段108を介して,前記旋回走行用HST式無段変速機構28における旋回用変速作動レバー28aに伝達することにより,前記旋回走行用HST式無段変速機構28が中立位置から変速作動する。
【0089】
これにより,前記左右の走行クローラ2には,この旋回走行用HST式無段変速機構28の中立位置からの変速作動にて互いに逆方向の回転が同時に伝達され,前記左右の走行クローラ2の相互間には,速度差が付与されるから,走行機体1は,前記操向ハンドル10を操作する方向に旋回する。
【0090】
そして,前記旋回走行用HST式無段変速機構28における中立位置からの変速作動量は,前記制御体81における円形カム84に係合する旋回用滑り子部材106における第2旋回入力軸72の軸線方向への移動,ひいては,前記制御体81がその直交軸線S回りに傾き回転した状態のままで第2旋回入力軸72にて回転することに基づいて,前記旋回用滑り子部材106における上下方向への移動量,更には,前記操向ハンドル10における直進走行位置からの回転操作角度,つまり,操作量に比例するから,前記旋回に際しての前記旋回走行用HST式無段変速機構28による速度差は,前記操向ハンドル10における直進走行位置からの回転操作角度,つまり,操作量に比例して増大し,走行機体1における旋回半径が小さくなる。
【0091】
ところで,前記実施の形態において,前記制御体81における円形カム84に係合する変速用滑り子部材97を,前記制御体81におけるその直交軸線S回りの傾き回転にて上下動することによって,前記直進走行用HST式無段変速機構25を変速作動するように構成した場合には,前記操向ハンドル10の回転操作で走行機体1を旋回するときの旋回半径を,前記の場合よりも更に小さくすることができる。
【0092】
すなわち,前記操向ハンドル10を直進走行位置から回転操作すると,前記制御体81が前記直交軸線S回りに傾き回転した状態で第2旋回入力軸72にて回転することで,この制御体81における円形カム84に係合する変速用滑り子部材97は,前記制御体81の第2旋回入力軸72による回転に伴って,前記円形カム84のうち前記第2旋回入力軸72の中心を通って前記直交軸線Sと直角に延びる直線W上の部分から前記直交軸線S上の部分に近づくように移行することにより,この変速用滑り子部材97における前記円形カム84による上下移動の距離L1,L2が,当該変速用滑り子部材97が前記操向ハンドル10の直進走行位置で円形カム84のうち前記第2旋回入力軸72の中心を通って前記直交軸線Sと直角に延びる直線W上の部分に位置している場合よりも小さくなり,ひいては,前記直進走行用HST式無段変速機構25の変速作動量が小さくなって,左右の走行クローラ2への伝達回転数が減速に制御され,走行機体1の旋回に際しての走行速度が遅くなるから,走行機体1における旋回半径をより小さくできるとともに,旋回に際して走行機体1に対して旋回の外向き方向に作用する遠心力を軽減できる。
【0093】
しかし,このように走行機体1の旋回半径を,前記操向ハンドル10の回転操作角度,つまり,操作量に比例して自動的により小さくすることは,湿田等のように,地面が柔らかい地面の場合において,両走行クローラ2の地面へのめり込みの増大を招来する場合がある。
【0094】
この場合には,前記機械的連動機構71の変速出力軸86における切り換え部材102を,切り換え操作機構109による操作にて,当該切り換え部材102にて前記変速用滑り子部材97に連動する変速出力リンク98を前記変速出力軸85に結合する状態から,前記主変速フォークアーム91に連動する非減速アーム100を当該切り換え部材102にて前記変速出力軸86に結合する状態に切り換え操作する。
【0095】
これにより,前記主変速レバー13の操作は,前記操向ハンドル10の回転操作にかかわらず,そのまま,連結手段88,主変速アーム87,主変速レバー入力軸85,主変速フォークアーム91,非減速アーム100,変速出力軸86,変速出力アーム89及び連結手段88を介して前記直進走行用HST式無段変速機構25における直進用変速作動レバー25aに伝達されることになって,前記操向ハンドル10を回転操作したときにおける前記変速制御体81の半円形カム81aによる減速状態から解除され,走行機体1の旋回半径が所定値より小さくなることを規制できるから,柔らかい地面へのめり込みを抑制できるというように,コンバインを湿田仕様にできる。
【0096】
前記変速用滑り子部材97は,図13に示すように,そのうち前記円形カム84におけるカム溝84a内に摺動自在に嵌まる球体97cを,主変速リンク96に,軸部97aにて回転自在に支持するという構成であることにより,これらの相互間における摺動摩擦抵抗を大幅に低減できる。
【0097】
また,前記旋回用滑り子部材106は,図14に示すように,そのうち前記円形カム84におけるカム溝84a内に摺動自在に嵌まるリング体106cを,前記旋回リンク105に取付けた軸部106aと一体の球体106bに回転自在に且つ当該支持軸の軸線に対して任意の方向に自在に傾くことができるように被嵌するという構成であることにより,前記と同様に,これらの相互間における摺動摩擦抵抗を大幅に低減できる。
【0098】
(5).他の実施の形態
前記実施の形態は,コンバインに適用した場合であったが,本発明はこれに限らず,走行機体が左右の走行クローラ等のような走行部にて支持されているものであれば,田植機又はトラクタ等の各種の農作業機とか,各種の建機又は各種のクレーン車等その他の走行車両にて適用できることは言うまでもない。
【0099】
また,前記変速用滑り子部材97は,図13に示す構成にすることに代えて,図14に示す構成にすることができ,また,前記旋回用滑り子部材106は,図14に示す構成にすることに代えて,図13に示す構成にすることができる。
【0100】
更に,これら変速用滑り子部材97及び旋回用滑り子部材106のうちいずれか一方又は両方を,図15に示すように,変速出力アーム96及び/又は旋回出力アーム107に取付けた支持軸115と,この支持軸115に被嵌した自動調心玉軸受116とで構成し,前記自動調心玉軸受116を,前記円形カム84におけるカム溝84a内に摺動自在に嵌めることにより,当該自動調心玉軸受116の外側におけるリング体116aを,回転自在に且つ当該支持軸の軸線に対して任意の方向に自在に傾くことができるように構成することができる。
【0101】
この構成にすることによっても,これらの相互間における摺動摩擦抵抗を大幅に低減できる。
【0102】
また,前記制御体81における円形カム84は,図示したように,カム溝84aに構成することに代えて,丸形又は角形断面の部材を円形にした形態にするとか,或いは,円盤型の形態にする一方,これに円周方向に摺動自在に係合する変速用滑り子部材及び旋回用滑り子部材を,溝型にするという構成にしても良い。
【0103】
しかし,前記したようにカム溝84aにして,このカム溝84aに,前記変速用滑り子部材97及び旋回用滑り子部材106を,円周方向に摺動自在に挿入するという構成にした場合には,前記変速用滑り子部材及び前記旋回用滑り子部材における剛性を,これらの滑り子部材を溝型にする場合よりも向上できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】走行駆動系統のスケルトン図である。
【図4】主変速レバー及び操向ハンドルに対する機械的連動機構を模式的に示す図である。
【図5】機械的連動機構を内蔵するステアリングボックスの正面図である。
【図6】図5のVI−VI側面図である。
【図7】図5のVII −VII 視断面図である。
【図8】図6及び図7のVIII−VIII視平断面図である。
【図9】図6及び図7のIX−IX視平断面図である。
【図10】図6及び図7のX−X視平断面図である。
【図11】図6及び図7のXI−XI視断面図である。
【図12】図6及び図8のXII −XII 視断面図である。
【図13】図11の要部拡大図である。
【図14】図7の要部拡大図である。
【図15】前記機械的連動機構における滑り子部材の別の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 走行機体
2 走行クローラ
3 刈取部
4 脱穀部
7 運転操縦部
8 エンジン
9 ステップ床部材
10 操向ハンドル(旋回用操作具)
13 主変速レバー(変速用操作具)
16 走行ミッションケース
19 ハンドル軸
20 ステアリングボックス
25 直進走行用HST式無段変速機構
25a 変速作動レバー
28 旋回走行用HST式無段変速機構
28a 変速作動レバー
71 機械的連動機構
72 第2旋回入力軸
72a 第2旋回入力軸の軸線
75 スライダー
76 ホルダー部材
81 制御体
84 制御体の円形カム
84a カム溝
S 直交軸線
W 直交軸線に直角な軸線
83 ねじ軸
85 主変速レバー入力軸
86 変速出力軸
87 主変速アーム
88,90,108 連結手段
89 変速出力アーム
91 主変速フォークアーム
93,94 リンク
96 主変速リンク
97 変速用滑り子部材
97a 軸部
97c 球体
98 変速出力リンク
100 非減速アーム
102 切り換え部材
104 旋回出力軸
105 旋回リンク
106 旋回用滑り子部材
106a 軸部
106b 球体
106c リング体
107 旋回出力アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の走行部にて支持される走行機体に,これに搭載したエンジンの動力を前記左右の走行部に無段変速して伝達する直進走行用変速装置と,前記エンジンの動力を前記左右の走行部に無段変速して伝達する旋回走行用変速装置を備えるとともに,前記直進走行用変速装置に対する変速用操作具と,前記旋回走行用変速装置に対する旋回用操作具を備えて成る走行車両において,
前記旋回用操作具にて回転する旋回入力軸に,当該旋回入力軸の軸線方向から見てこの旋回入力軸を中心として円周方向に延びる円形カムを備えて成る制御体を,当該制御体が前記旋回入力軸の中心を通ってこの旋回入力軸の軸線と直角に延びる直交軸線の回りに自在に傾き回転するように設けて,この制御体を,前記変速用操作具に連動して前記直交軸線の回りに傾き回転するように構成し,更に,前記円形カムのうち前記旋回入力軸の中心を通って前記直交軸線と直角に延びる直線上の部分に摺動自在に係合する変速用滑り子部材にて,前記直進走行用変速装置を変速作動するように構成する一方,前記円形カムのうち前記直交軸線上の部分に摺動自在に係合する旋回用滑り子部材にて,前記旋回走行用変速装置を変速作動するように構成したことを特徴とする走行車両。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記制御体における円形カムが,カム溝を円周方向に延びるように設けた構成であり,前記変速用滑り子部材及び前記旋回用滑り子部材が,前記円形カムにおけるカム溝内に嵌まる構成であることを特徴とする走行車両。
【請求項3】
前記請求項2の記載において,前記変速用滑り子部材及び前記旋回用滑り子部材が,前記カム溝内に摺動自在に嵌まる球体を,回転自在に支持した構成であることを特徴とする走行車両。
【請求項4】
前記請求項2の記載において,前記変速用滑り子部材及び前記旋回用滑り子部材が,前記溝型カム内に嵌まるリング体を,その支持軸に,回転自在に且つ当該支持軸の軸線に対して任意の方向に自在に傾くことができるように被嵌した構成であることを特徴とする走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−149169(P2009−149169A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327691(P2007−327691)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】