超音波センサー、触覚センサー、および把持装置
【課題】簡単な構成で、接触物の接触検出が可能な触覚センサー、および把持装置を提供する。
【解決手段】触覚センサーは、基板11と、基板11上に設けられ、接触物の接触により弾性変形可能な弾性膜15と、弾性膜15の内部に設けられ、弾性膜15が弾性変形すると、その変形に応じて位置が移動する超音波反射体16と、基板11上に設けられ、弾性膜15内に超音波を発信するとともに、超音波反射体16により反射された超音波を受信する複数の超音波素子20と、各超音波素子20の超音波の発信および受信を制御する制御部と、を備え、超音波反射体16は、超音波素子20に対向する素子対向面161を、複数の超音波素子20のそれぞれに対応して複数有する。
【解決手段】触覚センサーは、基板11と、基板11上に設けられ、接触物の接触により弾性変形可能な弾性膜15と、弾性膜15の内部に設けられ、弾性膜15が弾性変形すると、その変形に応じて位置が移動する超音波反射体16と、基板11上に設けられ、弾性膜15内に超音波を発信するとともに、超音波反射体16により反射された超音波を受信する複数の超音波素子20と、各超音波素子20の超音波の発信および受信を制御する制御部と、を備え、超音波反射体16は、超音波素子20に対向する素子対向面161を、複数の超音波素子20のそれぞれに対応して複数有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を発信する超音波センサー、および超音波センサーから発信された超音波により接触物の接触を検出する触覚センサー、および触覚センサーを備えた把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットのアームなどにより、重量や摩擦係数が未知である対象物を把持する際に、対象物の接触により作用する応力を検出するセンサーが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の触覚センサーは、センサー基板に開設される開口の縁部から延伸するカンチレバー構造の構造体を有し、この構造体は、平板状の感応部と、感応部とセンサー基板とを連結するヒンジ部とから構成される。そして、この構造体の感応部には導電性磁性体膜が形成され、ヒンジ部には、ピエゾ抵抗膜が形成され、導電性磁性体膜とピエゾ抵抗膜とが導通されている。また、ヒンジ部には電極が設けられ、圧力によりヒンジ部が曲がることで、ヒンジ部のピエゾ抵抗で発生する電流が電極から流れる構成となっている。そして、この触覚センサーは、センサー基板上に上記のような構造体が複数形成され、これらの構造体のうち一部がセンサー基板に対して起立し、他の一部がセンサー基板に対して平行に保持されている。また、このセンサー基板上には、弾性体が設けられ、起立した構造体は、弾性体に埋め込まれている。そして、起立した構造体により剪断力が測定可能となり、基板面に平行な構造体により正圧力が測定可能となる。ここで、この触覚センサーでは、センサー基板に対して起立した構造体により剪断力が検出され、センサー基板に対して平行に保持される構造体により正圧力が検出される。また、起立した構造体は、平板状の構造体を磁力により折り曲げることで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−208248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載のような触覚センサーでは、センサー基板に対して起立させる構造体と、センサー基板に対して平行に保持する構造体とが分離され、起立した構造体により剪断力が検出され、基板に対して平行な構造体により正圧力が検出される。このような剪断力検出用の構造体は、正圧力検出用の構造体を磁力により曲げる必要があり、複雑な立体構造を有しているため、生産性が悪く、生産コストも増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、簡単な構成で、接触物の接触検出が可能な超音波センサー、触覚センサー、および把持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の超音波センサーは、基板と、前記基板上に設けられた複数の超音波素子と、前記複数の超音波素子と接して配置される弾性変形可能な弾性膜と、前記弾性膜の内部に設けられ、超音波を反射可能な超音波反射体と、を備え、前記超音波反射体は、前記超音波素子に対向する素子対向面を、前記複数の超音波素子の各々に対応して複数有することを特徴とする。
ここで、本発明で述べる、「超音波素子に対向する素子対向面」とは、素子対向面の法線方向への射影空間内に超音波素子が存在していることを意味する。
【0008】
この発明では、超音波反射体は複数の素子対向面を有し、基板には、これらの素子対向面に対向して複数の超音波素子が設けられている。このような構造では、超音波素子から超音波を発信し、超音波素子に対向する素子対向面で反射された超音波を当該超音波素子で受信し、超音波発信タイミングから超音波受信タイミングまでの時間(TOFデータ)を計測することで、超音波素子から素子対向面までの距離を検出することが可能となる。
そして、弾性膜に接触物が接触して弾性膜が弾性変形すると、超音波反射体は、弾性膜の変形に応じた位置に移動される。この時、弾性膜の変形前のTOFデータと、弾性膜の変形後のTOFデータとの差分を算出することで、各素子対向面の移動方向および移動量をもとめることができる。また、各素子対向面の移動方向および移動量が分かれば、超音波反射体全体としての移動方向および移動距離をも分析することが可能となり、弾性膜に作用する応力をも算出することが可能となる。
このような構成では、超音波素子が配設された基板上に弾性膜を形成し、弾性膜中に超音波反射体を埋設させる構成であるため、例えば立体的な検出部材を基板上に形成するような構成に比べて、構成を簡略化でき、生産性も良好となり、生産コストも低減させることができる。
【0009】
本発明の超音波センサーでは、前記基板の表面に沿う一軸をX軸とし、前記基板の表面に沿い、X軸に直交する方向をY軸およびZ軸とした際に、前記超音波反射体は、前記基板に最も近い位置に位置する頂部と、前記頂部からX軸における+X方向に連続して設けられる第一素子対向面と、前記頂部からX軸における−X方向に連続して設けられる第二素子対向面と、を有し、前記第一素子対向面は、Y軸に対して平行な直線と、XZ平面で+X方向に向かうに従って前記基板から離れる第一傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、前記第二素子対向面は、Y軸に対して平行な直線と、XZ平面で−X方向に向かうに従って前記基板から離れる第二傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、前記基板上には、前記第一素子対向面に対向する第一超音波素子、および前記第二素子対向面に対向する第二超音波素子がX軸に沿って配設されていることが好ましい。
【0010】
この発明では、超音波反射体の第一素子対向面および第一超音波素子により、超音波反射体が移動した際の第一素子対向面の法線方向への移動量(第一法線ベクトル)が算出可能となり、第二素子対向面および第二超音波素子により、超音波反射体が移動した際の第二素子対向面の法線方向の移動量(第二法線ベクトル)が算出可能となる。また、第一法線ベクトルの第二傾斜角度方向へのベクトル成分(第一成分ベクトル)、第二法線ベクトルの第一傾斜角度方向へのベクトル成分(第二成分ベクトル)をそれぞれ算出することが可能となる。ここで、これらの第一成分ベクトルおよび第二成分ベクトルは、Y軸に沿う方向(以降、Y軸方向と称す)の移動量成分が含まれてないため、これらをベクトル合成することで、超音波反射体のXZ平面内で移動ベクトル(XZ移動ベクトル)を算出することが可能となる。したがって、このXZ移動ベクトルを、それぞれ、X軸に平行なベクトル成分と、Zに沿う方向(以降Z軸方向と称す)に平行なベクトル成分に分解することで、超音波反射体のZ軸方向への移動量、X軸に沿う方向(以降、X軸方向と称す)への移動量をそれぞれ算出することが可能となり、弾性膜のZ軸方向に作用する力(正圧力)と、弾性膜のX軸方向に作用する力(X方向剪断力)と、を算出することが可能となる。すなわち、上記のような構成の超音波反射体および超音波素子を用いることで、ベクトル演算のみにより容易に超音波反射体のZ軸方向への移動量、X軸方向への移動量、正圧力、およびX方向剪断力を算出することができる。
【0011】
本発明の超音波センサーでは、前記第一傾斜角度および前記第二傾斜角度は、X軸に対して45度であることが好ましい。
【0012】
この発明では、第一傾斜角度および第二傾斜角度は、それぞれX軸に対して45度に設定されている。このため、第一成分ベクトルと第一法線ベクトルとが同一となり、第二成分ベクトルと第二法線ベクトルが同一となる。したがって、上述したようなベクトル演算をより簡略化することができ、より容易に超音波反射体のZ軸方向への移動量、X軸方向への移動量、正圧力、およびX方向剪断力を算出することができる。
【0013】
本発明の超音波センサーでは、前記超音波反射体は、前記頂部からY軸における+Y方向に連続して設けられる第三素子対向面と、前記頂部からY軸における−Y方向に連続して設けられる第四素子対向面と、を有し、前記第三素子対向面は、X軸に対して平行な直線と、YZ平面で+Y方向に向かうに従って前記基板から離れる第三傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、前記第四素子対向面は、X軸に対して平行な直線と、YZ平面で−Y方向に向かうに従って前記基板から離れる第四傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、前記基板上には、前記第三素子対向面に対向する第三超音波素子、および前記第四素子対向面に対向する第四超音波素子がY軸方向に沿って配設されていることが好ましい。
【0014】
この発明では、上記に加えてさらに、X軸方向の移動成分が含まれない、第三素子対向面の法線方向への移動量(第三法線ベクトル)、および第四素子対向面の法線方向への移動量(第四法線ベクトル)が算出可能となり、これらの第三法線ベクトルの第四傾斜角度方向へのベクトル成分(第三成分ベクトル)、第四法線ベクトルの第三傾斜角度方向へのベクトル成分(第四成分ベクトル)が算出することが可能となる。したがって、これらの第三成分ベクトルおよび第四成分ベクトルの合成ベクトルから超音波反射体のYZ平面内での移動ベクトル(YZ移動ベクトル)を算出することが可能となり、このYZ移動ベクトルから、超音波反射体のY軸方向への移動量や、弾性膜のY軸方向に作用する力(Y方向剪断力)をも容易に算出することが可能となる。また、上記発明により算出されるX方向剪断力と、Y方向剪断力に基づいて、XY平面内での剪断力の大きさ、および剪断力の方向をも容易に算出することができる
【0015】
本発明の超音波センサーでは、前記第三傾斜角度および前記第四傾斜角度は、Y軸に対して45度であることが好ましい。
【0016】
この発明では、上記発明と同様に、第三傾斜角度および第四傾斜角度が、それぞれ、Y軸に対して45度に設定されているため、第三成分ベクトルと第三法線ベクトルとが同一となり、第四成分ベクトルと第四法線ベクトルが同一となる。したがって、上述したようなベクトル演算をさらに簡略化することができ、より容易に超音波反射体のY軸方向への移動量、およびY方向剪断力を算出することができる。
【0017】
本発明の超音波センサーでは、前記頂部は、前記基板の表面に対して平行な第五素子対向面であり、前記基板上には、前記第五素子対向面に対向する第五超音波素子が配設されていることが好ましい。
【0018】
この発明では、第五素子対向面と、第五超音波素子とにより、超音波反射体のZ軸方向の移動量を算出することが可能となる。
ここで、上記したように、XZ移動ベクトルやYZ移動ベクトルから、超音波反射体のZ軸方向の移動量を算出することができるが、基板に最も近い位置の頂部(第五素子対向面)の移動量を第五超音波素子により算出することで、超音波反射体のZ軸方向への移動量をより高精度に検出することができる。このような第五素子対向面および第五超音波素子により検出された超音波反射体のZ軸方向への移動量を用いて、超音波反射体のX軸方向移動量やY軸方向移動量を算出することで、より精度の高い移動量を算出することができ、正圧力および剪断力を算出する際にもより精度の高い値を算出することが可能となる。
【0019】
本発明の超音波センサーでは、前記超音波反射体は、四角錐台形状であることが好ましい。
【0020】
この発明では、超音波反射体が第一〜第五素子対向面を有する四角錐台形状であるため、上記のように、超音波反射体のZ軸方向移動量、X軸方向移動量、およびY軸方向移動量を高精度に検出することができる。
また、これらの素子対向面がそれぞれ平面で構成される場合、超音波の反射面を大きくすることができる。例えば、所定面積を有する超音波素子から全方位拡散性の超音波(指向性を有さない超音波)を発信させ、球状の超音波反射体により超音波を反射させる場合、超音波反射体の表面のうち、超音波を当該超音波素子の方向に反射させることができる部分は1点のみとなる。これに対して、四角錐台形状の超音波反射体では、各超音波対向面のうち、法線方向に当該超音波素子が存在する領域内で反射された超音波が当該超音波素子に反射されて受信されることとなる。これにより、超音波の受信感度が良好となり、検出精度を向上させることができる。
【0021】
本発明の超音波センサーでは、前記基板上には、前記弾性膜、前記超音波反射体、および前記超音波反射体の複数の前記素子対向面に対向する複数の前記超音波素子により構成されたセンサー本体が複数アレイ状に配置されたことが好ましい。
【0022】
この発明では、1つのセンサー本体により、そのセンサー本体内の弾性膜に接触物が接触した際の弾性膜の歪み量や応力を測定することができ、このようなセンサー本体をアレイ状に配置することで、例えば一定面積を有する接触面のどの位置に接触物が接触しても、いずれかのセンサー本体により応力を検出することができる。
【0023】
本発明の超音波センサーでは、前記基板上の隣り合う前記センサー本体の間には、空気中に超音波を発信するとともに、接触物にて反射された超音波を受信する近接検出用超音波素子が設けられたことが好ましい。
【0024】
この発明では、超音波センサーには、近接検出用超音波素子が設けられ、超音波センサーに近接する接触物までの距離を検出することができる。このような構成では、例えば、近接検出用超音波素子にて検出された超音波センサーと接触物との距離が、予め設定された規定値となった状態で、各超音波素子から超音波を出力させるなどの制御も可能となり、省エネルギー化を図ることも可能となる。
【0025】
本発明の触覚センサーは、上述のような超音波センサーと、前記超音波センサーの各超音波素子の超音波の発信および受信を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0026】
この発明では、触覚センサーは、上述のような超音波センサーを備えている。したがって、制御部により、超音波センサーの超音波の送受信を制御することで、上述のように、簡単な構成で、弾性膜に接触物が接触した際の剪断力や押圧力といった応力を検出することができる。
【0027】
本発明の触覚センサーでは、前記制御部は、前記超音波素子から超音波を発信させる超音波発信制御部と、前記超音波素子の超音波の発信タイミングから、前記超音波反射体により反射された超音波が前記超音波素子により受信される受信タイミングまでの時間を計測する時間計測部と、前記時間計測部により計測された時間に基づいて、前記超音波反射体の移動量および移動方向を算出する移動量算出部と、を備えたことが好ましい。
【0028】
この発明では、超音波発信制御部により各超音波素子の超音波発信タイミングが制御され、時間計測部により、超音波発信タイミングから超音波受信タイミングまでの時間を計測し、移動量算出部により、計測された時間に基づいて、超音波反射体の移動量を算出する。
このため、各超音波素子に対して超音波発信タイミングから超音波受信タイミングまでの時間を計測することで、各超音波素子に対応する超音波反射体の素子対向面の移動ベクトルを算出することができる。したがって、上述したように、これらの移動ベクトルを合成することで、超音波反射体全体としての移動量および移動ベクトルを容易に算出することができる。
【0029】
本発明の触覚センサーでは、前記制御部は、前記移動量算出部により算出された前記超音波反射体の移動量および移動方向と、前記弾性膜のヤング率とに基づいて、前記弾性膜に作用する応力を算出する応力算出部を備えることが好ましい。
【0030】
この発明では、応力算出部は、弾性膜のヤング率と、移動量算出部により算出された超音波反射体の移動量とを乗算することで、弾性膜に作用する応力を算出する。つまり、移動量算出部により算出される超音波反射体のZ軸方向への移動量と弾性膜のヤング率とに基づいて、正圧力を算出することができ、超音波反射体のXY平面方向での移動量と弾性膜のヤング率とに基づいて、剪断力を算出することができる。
【0031】
本発明の触覚センサーでは、前記超音波センサーは、前記基板上に、前記弾性膜、前記超音波反射体、および前記超音波反射体の複数の前記素子対向面に対向する複数の前記超音波素子が配置されて構成されたセンサー本体を複数備えるとともに、これらの複数のセンサー本体がアレイ状に配置されて構成され、当該触覚センサーは、前記弾性膜に作用する応力に対する、前記弾性膜に接触した接触物の状態が記録された相関データを記憶する記憶部と、前記応力算出部により算出された前記応力と、前記相関データに基づいて、前記接触物の状態を判別する接触物判別部と、を備えることが好ましい。
【0032】
ここで、記憶部に記憶される、前記弾性膜に作用する応力に対する、前記弾性膜に接触した接触物の状態が記録された相関データとは、例えば、弾性膜に作用する応力に対する接触物の接触面の粗さが記録されたデータであってもよく、弾性膜に作用する応力に対する接触物の材質の種別が記録されたデータであってもよい。また、例えば接触物が弾性体である場合、弾性膜に作用する応力に対する弾性体の柔らかさが記録されるものであってもよい。
【0033】
この発明では、接触物判別部は、記憶部から上記のような相関データを読み出し、この相関データから、応力算出部で算出された応力に対する接触物の状態を判別する。
このような構成では、例えば、相関データとして、応力に対する接触物の接触面の粗さデータが記録されている場合、弾性膜に接触した接触物の粗さを求めることができ、粗さからさらに接触物の接触面の素材を求めることもできる。また、相関データとして、応力に対する接触物の接触面の素材が記録されている場合では、算出された応力から、直接接触物の接触面における素材を検出することもできる。さらには、相関データとして、例えば、応力に対する接触物の柔らかさデータが記録されている場合、例えばパン生地の捏ね状態などを、触覚センサーで判別して最適な捏ね状態であるか否かを判断することもできる。
【0034】
本発明の把持装置は、上述のような触覚センサーを備え、対象物を把持する把持装置であって、前記対象物を把持するとともに、前記対象物に接触する接触面に前記触覚センサーが設けられる少なくとも一対の把持アームと、前記触覚センサーから出力される信号に基づいて、前記対象物のすべり状態を検出する把持検出手段と、前記すべり状態に基づいて、前記把持アームの駆動を制御する駆動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0035】
この発明では、上記したように、触覚センサーにより、把持の対象物を把持した際の剪断力を計測することで、対象物が把持アームから滑り落ちている状態であるか、把持されている状態であるかを計測することが可能となる。すなわち、対象物を把持する動作において、対象物を十分に把持できていない状態では、動摩擦力に応じた剪断力が働き、把持力を強めるほど、この剪断力も大きくなる。一方、把持力を強め、静摩擦力に応じた剪断力が検出される状態では、対象物の把持が完了した状態であり、把持力を強めた場合でも静摩擦力は一定であるため、剪断力も変化しない。したがって、例えば、対象物の把持力を徐々に増加させ、剪断力が変化しなくなった時点を検出することで、対象物を破損させることなく、最低限の把持力のみで対象物を把持することができる。
また、上述したように、把持装置を構成する触覚センサーは、基板上に、超音波素子、超音波反射体が埋設された弾性膜を積層させただけの簡単な構成を有するものであり、容易に製造可能であり、このような触覚センサーを用いた把持装置においても、同様に簡単な構成とすることができ、製造も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る第一実施形態の触覚センサーのセンサー本体の概略構成を示す平面図である。
【図2】第一実施形態のセンサー本体をXZ平面で断面した断面図である。
【図3】第一実施形態のセンサー本体をYZ平面で断面した断面図である。
【図4】第一実施形態の触覚センサーの概略構成を示すブロック図である。
【図5】図2において、接触物が弾性膜に接触して超音波反射体が移動した状態を示す断面図である。
【図6】超音波反射体が初期状態から所定位置に移動した際の、超音波反射体の移動量を算出するための説明図である。
【図7】第一実施形態の触覚センサーの応力算出処理のフローチャートである。
【図8】第二実施形態における超音波反射体が初期状態から所定位置に移動した際の、超音波反射体の移動量を算出するための説明図である。
【図9】第三実施形態の触覚センサーにおけるセンサーアレイの構成を示す平面図である。
【図10】図9におけるセンサーアレイのうち、互いに隣接する2つのセンサー本体の断面構造を示した断面図である。
【図11】第三実施形態の触覚センサーにおける制御部の概略構成を示すブロック図である。
【図12】第四実施形態の把持装置の概略構成を示す装置ブロック図である。
【図13】第四実施形態の把持装置の把持動作における触覚センサーに作用する正圧力および剪断力の関係を示す図を示す。
【図14】第四実施形態の制御装置の制御による把持装置の把持動作を示すフローチャートである。
【図15】第四実施形態の把持装置の把持動作時において、アーム駆動部への駆動制御信号、触覚センサーから出力される検出信号の発信タイミングを示すタイミング図である。
【図16】第五実施形態に係るアイロンの概略構成を示すブロック図である。
【図17】第五実施形態のアイロンの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[第一実施形態]
以下、本発明に係る第一実施形態の触覚センサーについて、図面に基づいて説明する。
〔1.触覚センサーの構成〕
図1は、第一実施形態の触覚センサー1におけるセンサー本体10(超音波センサー)の概略構成を示す平面図であり、図2は、センサー本体10をXZ平面で断面した断面図であり、図3は、センサー本体10でYZ平面に断面した断面図である。
【0038】
触覚センサー1は、少なくとも1つ以上のセンサー本体10を備えた超音波センサーと、後述する制御部30(図4参照)と、を備えて構成されている。センサー本体10は、図1に示すように、基板11上、支持膜14、超音波素子20、および弾性膜15を積層することで構成されており、弾性膜15の内部には、超音波反射体16が埋設されている。この触覚センサー1は、弾性膜15に接触物が接触した際に加わる正圧力および剪断力を検出するセンサーである。
なお、第一実施形態では、超音波センサーとして、センサー本体10が1つ設けられた例を示すが、これに限定されず、超音波センサーとして、これらのセンサー本体10が複数設けられる構成としてもよい。また、複数のセンサー本体10がアレイ状に配設された構成を有する超音波センサーについては、後述の第三実施形態において説明する。
【0039】
(1−1.基板の構成)
基板11は、例えばSiにより形成され、厚み寸法が例えば200μmに形成されている。この基板11には、図1〜図3に示すように、1つの超音波反射体16に対して、5つの開口部111が形成されている。具体的には、図1に示すように、基板11を厚み方向から見た平面視(センサー平面視)において、超音波反射体の設置位置を原点とし、図1の左右方向にX軸、上下方向にY軸を設定した場合、開口部111は、座標位置(a,0)、(−a,0)、(0,a)、(0,−a)、(0,0)にそれぞれ設けられている。
なお、この開口部111は、基板11の厚み方向から当該基板11を見る平面視(センサー平面視)において、円形状に形成されているが、例えば矩形上などに形成されていてもよい。また、基板11厚み方向を貫通する開口部111を例示したが、例えば、基板11の弾性膜15側の面(図2、図3における上側)にエッチング等により凹状溝を形成して開口部111とする構成としてもよい。さらには、基板11上に支持膜14を形成する構成を例示したが、基板11の弾性膜15とは反対側の面(図2、図3の下側)からエッチング等により凹状溝を形成し、溝底部を支持膜14とし溝内部を開口部111とする構成としてもよい。
【0040】
(1−2.超音波素子の構成)
超音波素子20(20A,20B,20C,20D,20E)は、センサー平面視において、開口部111の内側領域に配置されている。ここで、座標(a,0)には、第一超音波素子20Aが配置され、座標(−a,0)には、第二超音波素子20Bが配置され、座標(0,a)には、第三超音波素子20Cが配置され、座標(0,−a)には、第四超音波素子20Dが配置され、座標(0,0)には、第五超音波素子20Eが配置されている。
これらの超音波素子20は、開口部111と、開口部111を閉塞する支持膜14(メンブレン141)と、膜状の圧電膜21と、圧電膜21を挟んで配置される下部電極22および上部電極23と、により構成されている。
【0041】
支持膜14は、図示は省略するが、基板11上に例えば厚み寸法が3μmに成膜されるSiO2層と、このSiO2層上に積層される厚み寸法が例えば400nmのZrO2層との2層構造により形成されている。ここで、ZrO2層は、後述する超音波素子20の焼成形成時に、圧電膜21の剥離を防止するために形成される層である。すなわち、圧電膜21が例えばPZTにより形成される場合、焼成時にZrO2層が形成されていないと、圧電膜21に含まれるPbがSiO2層に拡散して、SiO2層の融点が下がり、SiO2層の表面に気泡が生じ、この気泡によりPZTが剥離してしまう。また、ZrO2層がない場合、圧電膜21の歪みに対する撓み効率が低下するなどの問題もある。これに対して、ZrO2層がSiO2層上に形成される場合、圧電膜21の剥離、撓み効率の低下などの不都合を回避することが可能となる。
また、以降の説明において、図1に示すようなセンサー平面視において、支持膜14のうち、開口部111を閉塞する領域をメンブレン141と称す。
【0042】
圧電膜21は、例えばPZT(ジルコン酸チタン酸鉛:lead zirconate titanate)を厚み寸法が例えば500nmとなる膜状に成膜することで形成される。なお、本実施形態では、圧電膜21としてPZTを用いるが、膜の応力変化により電荷を発生することが可能な素材であれば、いかなる素材を用いてもよく、例えばチタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb、La)TiO3)、窒化アルミ(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを用いてもよい。
【0043】
下部電極22および上部電極23は、圧電膜21の膜厚み方向を挟んで形成される電極であり、下部電極22は、圧電膜21のメンブレン141に対向する面に形成され、上部電極23は、下部電極22が形成される面とは反対側の面に形成されている。
【0044】
下部電極22は、厚み寸法が例えば200nmに形成される膜状の電極であり、メンブレン141内に形成される。この下部電極22としては、導電性を有する導電薄膜であれば、いかなるものであってもよいが、本実施形態では、例えば、Ti/Ir/Pt/Tiの積層構造膜を用いる。
また、上部電極23は、厚み寸法が例えば50nmに形成される膜状の電極である。この上部電極23は、圧電膜21の上面を覆って形成される。
【0045】
また、図1に示すように、支持膜14上には、下部電極22の外周部から延出する下部電極線22A、および上部電極23の外周部から延出する上部電極線23Aが、それぞれ形成されている。これらの電極線22A,23Aは、例えば基板11の外周部に設けられる図示しない端子パッドまで引き出され、端子パッドから後述する制御部30に接続される。
【0046】
そして、このような超音波素子20は、制御部30から入力される信号(交流電圧)により振動し、弾性膜15に超音波を発信する。具体的には、制御部30から下部電極22および上部電極23間に交流電圧が印可されると、圧電膜21が印可電圧に応じて伸縮する。これにより、支持膜14が振動して超音波が弾性膜15側に発信される。なお、本実施形態では、超音波素子20から全方向に放射状に拡散する拡散型超音波が出力される。
また、超音波素子20は、弾性膜15から入力された超音波を受信して、受信信号を制御部30に出力する。具体的には、電極21,22間に電圧が印可されていない状態で、弾性膜15から超音波を入力されて支持膜14が振動すると、圧電膜21が支持膜14の振動により伸縮する。この伸縮量に応じて圧電膜21の下部電極22側および上部電極23側で電位差が発生し、下部電極22および上部電極23に圧電膜21からの電流が流れて電気信号(受信信号)が出力される。
【0047】
(1−3.弾性膜および超音波反射体の構成)
弾性膜15は、上述のような支持膜14、超音波素子20を覆って形成される膜であり、超音波素子20の保護膜としても機能する。この弾性膜15としては、本実施形態では、例えばPDMS(PolyDiMethylSiloxane)を用いるが、これに限定されず、弾性を有する合成樹脂など、その他の弾性素材により形成されるものであってもよい。また、弾性膜15の厚み寸法としては、特に限定されないが、例えば300μmに形成されている。
【0048】
また、弾性膜15の表面には、図2および図3に示すように、接触層151が形成されている。この接触層151は、接触物が接触して剪断方向に変位した際、その剪断力を弾性膜15に伝達させて歪ませるために、常に一定の摩擦係数を保つ必要があり、交換可能なフィルム材などにより形成されることが好ましい。また、超音波素子20から発信された超音波が接触層151により反射されると、弾性膜15の内部で超音波が乱反射してしまい、各超音波素子20での測定精度が低下してしまうおそれがある。このため、接触層151は、超音波を吸収または表面で散乱させる形状に形成されることが好ましい。このような接触層151としては、例えば、フェルトや不織布、内部にシリカなどを混合させて多孔質にしたポリマーを接着したPETフィルムなどを例示することができる。
【0049】
そして、座標(0,0)の位置には、弾性膜15の内部に超音波反射体16が埋設されている。この超音波反射体16は、弾性膜15と異なる音響インピーダンスを有している。したがって、弾性膜15を進む超音波は超音波反射体16の表面で反射される。
この超音波反射体16は、図1〜図3に示すように、正四角錐台形状に形成される。なお、本実施形態では、外周表面の形状が正四角錐台形状となる器状の超音波反射体16を例示するが、例えばブロック状の四角錐台形状の超音波反射体を用いてもよい。
【0050】
具体的には、超音波反射体16は、基板11に対向する頂部である第五素子対向面161Eを中心として4つの台形状の素子対向面161A〜161Dを備えている。
図1、図2に示すように、第一素子対向面161Aは、第五素子対向面161Eの+X方向側に連続し、XZ平面において+X方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度の角度で傾斜する直線と、Y軸に平行な直線とで規定される平面である。第二素子対向面161Bは、第五素子対向面161Eの−X方向側に連続し、XZ平面において−X方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度の角度で傾斜する直線と、Y軸に平行な直線とで規定される平面である。
また、図1、図3に示すように、第三素子対向面161Cは、第五素子対向面161Eの+Y方向側に連続し、YZ平面において+Y方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度の角度で傾斜する直線と、X軸に平行な直線とで規定される平面である。第四素子対向面161Dは、第五素子対向面161Eの−Y方向側に連続し、YZ平面において−Y方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度の角度で傾斜する直線と、X軸に平行な直線とにより規定される平面である。
ここで、図2、図3に示すように、超音波素子20A〜20Eは、各素子対向面161A〜161Eの法線方向上に位置するものであり、すなわち各素子対向面161A〜161Eの法線方向への射影空間内に位置している。
【0051】
(1−4.制御部の構成)
図4は、触覚センサー1の概略構成を示すブロック図である。
制御部30は、図4に示すように、素子切替回路31と、送受信切替回路32と、送受信切替制御部33と、超音波信号発信回路34と、時間計測部35と、記憶部36と、演算処理部37と、を備えている。なお、素子切替回路31、送受信切替回路32、送受信切替制御部33、および超音波信号発信回路34により本発明の超音波発信制御部が構成される。
【0052】
素子切替回路31は、センサー本体10の5つの超音波素子20のうち、駆動させる超音波素子20を切り替えるスイッチング回路である。
本実施形態の触覚センサー1では、1つの超音波素子20から超音波の送受信が実施されている間、他の超音波素子20への駆動信号の出力、および他の超音波素子20からの受信信号の受信は実施しない。これにより、駆動対象となった超音波素子20では、他の超音波素子20から発信された超音波を受信してしまい、ノイズが検出される不都合や、駆動対象以外の超音波素子20から受信信号が検出されてしまう不都合を回避できる。
この素子切替回路31は、例えば、各超音波素子20の下部電極線22Aおよび上部電極線23Aに接続される端子群を備え、送受信切替制御部33から入力される指令信号に基づいて、指令信号に対応する超音波素子20に対応した端子群と、送受信切替回路32とを接続する。また、駆動させない超音波素子20に対応した端子群は、例えば、下部電極線22Aおよび上部電極線23Aの双方をGNDに接続するなどすることで、駆動させない構成としてもよい。
【0053】
送受信切替回路32は、送受信切替制御部33から入力されるモード切替信号に基づいて、接続状態を切り替えるスイッチング回路である。
具体的には、送受信切替制御部33から超音波発信モードに切り替える旨の制御信号が入力された場合、送受信切替回路32は、超音波信号発信回路34から入力された駆動信号を、センサー本体10の超音波素子20A〜20Eに出力可能なスイッチング状態に切り替わる。
一方、送受信切替回路32は、送受信切替制御部33から超音波受信モードに切り替える旨の制御信号が入力された場合、センサー本体10の超音波素子20A〜20Eから入力される受信信号を時間計測部35に出力可能なスイッチング状態に切り替わる。
【0054】
送受信切替制御部33は、各超音波素子20から超音波を発信させる超音波発信モードと、超音波素子20にて超音波を受信させる超音波受信モードと、を切り替える。
具体的には、送受信切替制御部33は、例えば触覚センサー1の電源がON状態に切り替わると、まず、超音波発信モードに切り替える処理を実施する。この処理では、送受信切替制御部33は、送受信切替回路32に超音波発信モードに切り替える旨の制御信号を出力し、超音波信号発信回路34から駆動信号を出力させる旨の制御信号を出力する。また、送受信切替制御部33は、図示しない計時部(タイマー)により計測される時間を監視し、超音波発信モードから所定の発信時間経過後に、超音波受信モードに切り替える処理を実施する。ここで発信時間は、超音波素子20から例えば1〜2周波数のバースト波が発信される時間程度に設定されていればよい。超音波受信モードでは、送受信切替制御部33は、送受信切替回路32に超音波受信モードに切り替える旨の制御信号を出力して、送受信切替回路32を、超音波素子20から入力される受信信号を時間計測部35に入力可能な接続状態にスイッチングさせる。
【0055】
超音波信号発信回路34は、発信モードにおいて、送受信切替制御部33から駆動信号を出力させる旨の制御信号が入力されると、超音波素子20を駆動させるための駆動信号(駆動パルス)を送受信切替回路32に出力する。
【0056】
時間計測部35は、計時部にて計測される時間を監視し、超音波が受信されまでの時間を計測する。
具体的には、時間計測部35は、送受信切替制御部33が超音波発信モードに切り替える処理を実施した超音波発信タイミング、すなわち超音波素子20から超音波が発信されてからの時間をカウントする。なお、送受信切替制御部33は、超音波発信タイミングで、計時部でカウントされる時間をリセットする。そして、送受信切替制御部33が超音波受信モードに切り替える処理を実施し、超音波素子20で受信された反射超音波に応じた受信信号が送受信切替回路32から時間計測部35に入力されると、時間計測部35は、その入力されたタイミングでの時間(TOFデータ:Time Of Flightデータ)を取得する。また、取得したTOFデータは、演算処理部37に入力される。
【0057】
記憶部36は、演算処理部37の各種処理を実施するための各種プログラムや各種データなどを記憶する。
具体的には、記憶部36には、弾性膜15のヤング率、弾性膜15における超音波の音速、演算処理部37により実施される各種プログラムなどが予め記憶される。また、演算処理部37で算出された各種データが記憶される構成などとしてもよい。さらに、記憶部36には、超音波反射体16の各素子対向面161の傾斜角度が記録されてもよい。
【0058】
演算処理部37は、移動量算出部371と、応力算出部372とを備えている。具体的には、演算処理部37は、中央演算回路やメモリーなどの演算回路、記憶回路などにより構成されるものであり、例えば記憶部36に記憶される移動量算出プログラムが中央演算回路に読み出されて処理が実行されることで、移動量算出部371として機能し、記憶部36に記憶される応力算出プログラムが中央演算回路に読み出されて処理が実行されることで、応力算出部372として機能する。
【0059】
移動量算出部371は、時間計測部35から入力されたTOFデータと、記憶部36に予め記憶されている弾性膜15中での音速とに基づいて、超音波反射体の移動量、すなわち弾性膜15の歪み量を算出する。
応力算出部372は、移動量算出部371により算出された弾性膜15の歪み量と、記憶部36に予め記憶されている弾性膜15のヤング率とに基づいて、弾性膜15に作用する応力を算出する。
移動量算出部371の歪み量の算出方法(超音波反射体16の移動量算出方法)、および応力算出部372の応力算出方法の詳細については、後述する。
【0060】
〔2.触覚センサーの動作〕
次に、上記のような触覚センサー1による、正圧力および剪断力の測定動作について、図5、図6、図7に基づいて、詳細に説明する。なお、本実施形態では、弾性膜15の歪みによる超音波反射体16の回転は十分に小さく、無視出来るものとして以下説明する。また、超音波反射体16のY軸方向への移動量の検出、弾性膜15に作用するY軸方向への剪断力の検出は、X軸方向への移動量の検出、弾性膜15に作用するY軸方向への剪断力の検出と同様の処理により算出することができるため、ここでの説明は省略する。
図5は、図2において、接触物Lが弾性膜15に接触して超音波反射体16が移動した状態を示す断面図である。図6は、超音波反射体16が初期状態から所定位置に移動した際の、超音波反射体16の移動量を算出するための説明図である。図5および図6において、二点鎖線で示される超音波反射体16は、接触物Lが接触していない初期位置P0を示すものであり、実線で示される超音波反射体16は接触物Lの接触による移動位置P1を示すものである。図7は、第一実施形態の触覚センサー1における応力算出処理のフローチャートである。
【0061】
触覚センサー1による正圧力および剪断力を検出動作では、図7に示すように、まず、制御部30は、素子設定変数nを初期化(n=0)する処理を行う(ステップS1)。
この後、制御部30は、素子設定変数nに対応する超音波素子を駆動させてTOFデータを取得する処理を実施する。
【0062】
具体的には、制御部30の送受信切替制御部33は、超音波発信モードに切り替える。すなわち、送受信切替制御部33は、素子切替回路31を、第n超音波素子20への信号の送受信が可能な状態にスイッチングさせ、他の超音波素子20への駆動信号の送信、他の超音波素子20からの受信信号の受信を遮断する。また、送受信切替制御部33は、送受信切替回路32を、駆動信号を超音波素子20に出力可能な状態にスイッチングさせるとともに、超音波信号発信回路34にて駆動信号を生成させ、送受信切替回路32に出力させる。これにより、第n超音波素子20から1〜2バースト波の超音波が発信される(ステップS2)。また、この超音波発信タイミングで、送受信切替制御部33は、タイマーをリセットする。
【0063】
この後、送受信切替回路32は、超音波受信モードに切り替え、送受信切替回路32を超音波素子20から入力された受信信号を時間計測部35に出力可能な状態にスイッチングする(ステップS3)。
これにより、時間計測部35は、受信信号が入力されると、タイマーの時間を取得、すなわち、超音波が、超音波素子20から発信されて超音波反射体16により反射されて超音波素子20に戻ってくるまでの時間(TOFデータ)を取得する(ステップS4)。また、時間計測部35は、取得したTOFデータを記憶部36に記憶させる。
ここで、記憶部36には、先に記憶されたTOFデータと、新たに記憶されたTOFデータとの比較処理を実施するために、取得したTOFデータを蓄積して記憶する。例えば、記憶部36には、ループm−1回目に取得したTOFデータと、ループm回目に取得したTOFデータとが記憶される。
【0064】
次に、制御部30は、素子設定変数nの値が5(センサー本体10に設けられる超音波素子20の数)以上であるか否かを判断する(ステップS5)。
ここで、制御部30は、素子設定変数nが4以下であると判断した場合、素子設定変数nに1を加算し(ステップS6)、ステップS2〜ステップS4の処理を繰り返し実施する。
【0065】
一方、制御部30は、素子設定変数nが5であると判断すると、取得したTOFデータが、前回取得したTOFデータと比べて変動しているか否かを判断する(ステップS7)。なお、例えば電源投入時など、触覚センサー1を初めて駆動させた状態では、ループ1回目に取得したTOFデータしか記憶されていないので、ステップS1の処理に戻り、再度ステップS1〜ステップS5の処理を実施してループ2回目のTOFデータを取得する。
また、記憶部36に記憶されたTOFデータに変動がない場合、すなわち、ループm−1回目のTOFデータと、ループm回目のTOFデータとの差が予め設定された閾値の範囲内である場合、制御部30は、再びステップS1〜ステップS5の処理(ループm+1回目の処理)を実施させる。
【0066】
このステップS7において、ループm−1回目のTOFデータと、ループm回目のTOFデータとの差が閾値以上である場合、制御部30は、これらのTOFデータの変動量を算出する処理を実施する(ステップS8)。
このように、取得したTOFデータに変動がある場合、触覚センサー1は、弾性膜15に接触物Lが接触して、図5に示すように、弾性膜15が弾性変形していることを意味する。
【0067】
この後、移動量算出部371は、算出されたTOFデータの変動量に基づいて、超音波反射体16の移動量を算出する(ステップS9)
このステップS9では、以下のようにして超音波反射体16の移動量が算出される。
すなわち、超音波反射体16が初期位置P0に位置する状態でのTOFデータがT0であり、超音波反射体16が位置P1に移動した際のTOFデータがT1である場合、移動量算出部371は、次式によりTOFデータの変動量に対する移動量Mを算出する。
【0068】
[数1]
【0069】
上記式(1)において、cは、弾性膜15中の音速であり、記憶部36に予め記憶されている。
ここで、各超音波素子20(20A〜20E)から発信された超音波のうち、素子対向面161(161A〜161E)で反射されて、元の超音波素子20(20A〜20E)に戻る超音波成分は、素子対向面161(161A〜161E)に対して垂直に入射した超音波である。例えば、第一超音波素子20Aから発信された超音波のうち、第一素子対向面161Aに垂直に入射する超音波成分が、第一超音波素子20Aに向かって反射され、第一超音波素子20Aで受信される。
したがって、上記により求められる移動量Mは、各素子対向面161の法線方向への移動量であり、図6において、第一素子対向面161Aの法線方向への移動に対応する第一法線ベクトル(A)、第二素子対向面161Bの法線方向の移動に対応する第二法線ベクトル(B)で示される。
【0070】
また、本実施形態の触覚センサー1において、超音波反射体16の素子対向面161A,161Bは、X軸に対して45度の角度で傾斜している。このため、これらの図6に示すように、第一法線ベクトル(A)および第二法線ベクトル(B)の合成ベクトルが超音波反射体16のXZ平面における移動ベクトル(XZ移動ベクトル(C))となり、以下のベクトル式が成立する。
【0071】
[数2]
【0072】
したがって、移動量算出部371は、上記(2)式に示すベクトル式に基づいて、XZ移動ベクトル(C)を算出する。さらに、移動量算出部371は、このXZ移動ベクトル(C)を、X軸方向の成分であるX剪断方向ベクトル(x)と、Z軸方向の成分である正圧方向ベクトル(z)とに分解する。
ここで、X剪断方向ベクトル(x)の絶対値が超音波反射体16のX軸方向への移動量となり、弾性膜15のX軸方向への歪み量となる。また、正圧方向ベクトル(z)の絶対値が超音波反射体16のZ軸方向への移動量となり、弾性膜15のZ軸方向への歪み量となる。
【0073】
さらに、移動量算出部371は、第五超音波素子20Eから発信された超音波が第五素子対向面161Eで反射されて第五超音波素子20Eにまで戻るまでのTOFデータの変動量を算出し、式(1)に基づいて、第五素子対向面161Eの移動量を算出する。
この第五素子対向面161Eの移動量は、超音波反射体16のZ軸方向への移動量であるが、第一素子対向面161A〜第四素子対向面161Dの移動に基づいて算出された値よりも高精度な値となる。これは、第五素子対向面161Eと第五超音波素子20Eとの距離が、他の素子対向面161A〜161Dと、これらの素子対向面161A〜161Dに対応する超音波素子20A〜20Dとの距離に比べて小さく、超音波の減衰等が抑えられるためである。
したがって、移動量算出部371は、第五素子対向面161Eおよび第五超音波素子20Eにより算出した超音波反射体16のZ軸方向の測定移動量と、式(2)に基づいて算出されたZ軸方向の算出移動量とを比較し、これらの差が予め設定された規定値以上となる場合、測定移動量をZ軸方向の移動量として設定する。また、この場合、移動量算出部371は、測定移動量に基づいた正圧方向ベクトル(z)を設定し、式(2)に基づいてX剪断方向ベクトル(x)を補正する処理をしてもよい。
【0074】
なお、上記において、超音波反射体16がZX方向にのみ移動する場合を例示して、移動量算出部371により、超音波反射体16のZ軸方向への移動量(弾性膜15のZ軸方向への歪み量)および超音波反射体16のX軸方向への移動量(弾性膜15のX軸方向への歪み量)を算出したが、超音波反射体16のY軸方向への移動量も同様の手法により、算出することができる。
【0075】
つまり、移動量算出部371は、第三素子対向面161Cおよび第三超音波素子20Cにより取得されるTOFデータの変動量から第三素子対向面161Cの法線方向への移動量である第三法線ベクトルを算出し、第四素子対向面161Dおよび第四超音波素子20Dにより取得されるTOFデータの変動量から第四素子対向面161Dの法線方向への移動量である第四法線ベクトルを算出する。
また、第三素子対向面161Cおよび第四素子対向面161Dは、Y軸に対してそれぞれ45度で傾斜しているため、第三法線ベクトルおよび第四法線ベクトルの合成ベクトルが超音波反射体16のYZ移動ベクトルとなる。
したがって、移動量算出部371は、YZ移動ベクトルを算出し、このYZ移動ベクトルをさらにZ軸方向成分の正圧方向ベクトルと、Y軸方向成分のY剪断方向ベクトルに分解する。この正圧方向ベクトルが弾性膜15のZ軸方向の歪み量となり、Y剪断方向ベクトルが弾性膜15のZ軸方向の歪み量となる。
【0076】
また、移動量算出部371は、上記のように算出されたX剪断方向ベクトルおよびY剪断方向ベクトルを合成することで、XY平面内での超音波反射体16の移動方向および移動量を算出してもよい。
そして、移動量算出部371は、算出された超音波反射体16の移動量を記憶部36に記憶する。
【0077】
このステップS9の後、制御部30の応力算出部372は、弾性膜15に作用する応力を算出する(ステップS10)。
具体的には、応力算出部372は、記憶部36に記憶された弾性膜15のヤング率を読み出し、移動量算出部371により算出された弾性膜15のX軸方向への歪み量にヤング率を乗算することで、X軸方向への剪断力を算出する。
また、応力算出部372は、移動量算出部371により算出された弾性膜15のZ軸方向への歪み量にヤング率を乗算することで、正圧力を算出する。
同様にして、応力算出部372は、移動量算出部371により算出された弾性膜15のY軸方向への歪み量にヤング率を乗算することで、Y軸方向への剪断力を算出する。なお、XY平面での超音波反射体の移動量を算出した場合では、その移動量のヤング率を乗算することで、X軸方向の剪断力およびY軸方向の剪断力の合力を算出することもできる。
そして、応力算出部372は、算出された正圧力および剪断力を記憶部36に記憶する。
【0078】
〔3.第一実施形態の作用効果〕
上述したように、上記第一実施形態の触覚センサー1では、センサー本体10と、センサー本体10を制御する制御部30とを備えている。また、センサー本体10は、基板11と、基板11上に設けられる5つの超音波素子20(20A〜20E)と、これらの超音波素子20を覆う弾性膜15と、弾性膜15内に埋設される超音波反射体16とを備え、超音波反射体16は、各超音波素子20(20A〜20E)に対向する素子対向面161を備えている。
このような構成の触覚センサーでは、各超音波素子20から得られるTOFデータの変動量に基づいて、超音波反射体16の各素子対向面161の移動量および移動方向を検出することができ、これらの移動量と弾性膜15のヤング率を乗算することで、弾性膜15に作用する応力を算出することができる。
また、基板11上に超音波素子20および弾性膜15を積層するだけの構成であるため、例えば立体的な剪断力検出構造体を設ける場合などに比べて、構成を簡単にでき、生産性を向上させることができ、生産コストをも低減させることができる。
【0079】
そして、本実施形態の触覚センサー1では、超音波反射体16は、正四角錐台形状に形成されており、正四角錐台形状を構成する第一素子対向面161Aが、基板11に対向する頂部である第五素子対向面161Eの+X側に設けられ、+X方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度で傾斜し、かつY軸に平行な傾斜面により形成されている。また、正四角錐台形状を構成する第二素子対向面161Bが、第五素子対向面161Eの−X側に設けられ、−X方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度で傾斜し、かつY軸に平行な傾斜面により形成されている。
このような構成では、第一超音波素子20Aおよび第一素子対向面161Aにより取得されるTOFデータの変動量および第二超音波素子20Bおよび第二素子対向面161Bにより取得されるTOFデータの変動量から、第一素子対向面161Aの法線方向への移動量である第一法線ベクトル(A)および第二素子対向面161Bの法線方向への移動量である第二法線ベクトル(B)を算出することができる。また、第一素子対向面161A、第二素子対向面161BがそれぞれX軸に対して45度で傾斜しているため、移動量算出部371は、これらの第一法線ベクトル(A)および第二法線ベクトル(B)の合成ベクトルを算出するだけで、容易に超音波反射体16のXZ移動ベクトル(C)を算出することができる。また、移動量算出部371は、このXZ移動ベクトルを式(2)に示すように、正圧方向ベクトル(z)と、X剪断力方向ベクトル(x)に分解することで、弾性膜15のZ軸方向の歪み量およびX軸方向の歪み量を容易に算出することができる。
【0080】
また、同様に、第三超音波素子20Cおよび第三素子対向面161Cにより取得されるTOFデータの変動量および第四超音波素子20Dおよび第四素子対向面161Dにより取得されるTOFデータの変動量から、第三素子対向面161Cの法線方向への移動量である第三法線ベクトルおよび第四素子対向面161Dの法線方向への移動量である第四法線ベクトルを算出することができる。このため、移動量算出部371は、これらの第三法線ベクトルおよび第四法線ベクトルの合成ベクトルを算出するだけで、容易に超音波反射体16のYZ移動ベクトルを算出することができ、弾性膜15のY軸方向の歪み量を容易に算出することができる。
【0081】
さらに、同様にして、第五超音波素子20Eおよび第五素子対向面161Eにより取得されるTOFデータの変動量から、第五素子対向面161Eの法線方向への移動量、すなわち超音波反射体16のZ軸方向への移動量を直接測定することができる。
ここで、第五素子対向面161Eは、超音波反射体16のうち頂部を構成し、基板11に最も近接する位置に配置されるものであり、その直下に第五超音波素子20Eが設けられている。このため、他の素子対向面161A〜161Dと、これに対応する超音波素子20A〜20Dとの距離比べて、第五素子対向面161Eと第五超音波素子20Eとの距離は近く、弾性膜15中における超音波の減衰等がなく、精度の高いTOFデータを取得することができる。したがって、このようなTOFデータを用いて、超音波反射体16のZ軸方向の移動量を測定することで、高精度に移動量を測定することができる。
また、このような高精度に測定されたZ軸方向の移動量に基づいて、超音波反射体16のXY剪断方向の移動量を補正することもでき、より精度の高い測定を実施することができる。
【0082】
また、上述したように、正四角錐台形状の超音波反射体16を用いる構成では、各素子対向面161が平面により形成されるため、超音波の反射領域を拡大させることができる。例えば、超音波反射体として、例えば球形状を有する構造とした場合、超音波素子20から発信された超音波のうち、当該超音波素子20に反射される超音波は、球面のうちの一点により反射される超音波のみとなるため、受信信号が小さく検出精度が悪化する。円錐台形状を有する構造である場合でも、超音波素子20から発信された超音波のうち、当該超音波素子20に反射される超音波は、曲面のうちの一直線上により反射される超音波のみとなる。これに対して、四角錐台形状の超音波反射体16では、素子対向面161のうち、超音波素子20に対向する面積領域内で反射される超音波が超音波素子20に入力されるので、球面形状や円錐台形状の超音波反射体を用いる場合に比べて受信信号が大きくなり、検出精度を向上させることができる。
【0083】
そして、本実施形態の触覚センサー1では、制御部30は、超音波発信制御部を構成する送受信切替回路32、送受信切替制御部33および超音波信号発信回路34と、各超音波素子20から取得される受信信号に基づいて、TOFデータを取得する時間計測部35と、時間計測部35で取得されたTOFデータの変動量に基づいて、超音波反射体の移動量および移動方向を算出する移動量算出部371とを備えている。
このような触覚センサー1では、上述したように、時間計測部35により取得されたTOFデータに基づいて、超音波反射体16の各素子対向面161の法線方向の移動量である法線ベクトルを算出でき、これらの法線ベクトルに基づいて超音波反射体16のZ軸方向への移動量、X軸方向への移動量、Y軸方向への移動量、すなわち弾性膜15のXYZ各軸方向の歪み量をそれぞれ容易に算出することができる。
【0084】
また、制御部30は、応力算出部372を備え、移動量算出部371により算出された弾性膜15の歪み量と弾性膜15のヤング率から弾性膜15に作用する応力、すなわち弾性膜15に作用する剪断力、正圧力を容易に算出することができる。
【0085】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態の触覚センサー1について、図面に基づいて説明する。
上記第一実施形態では、超音波反射体16の第一素子対向面161Aおよび第二素子対向面161BがX軸に対して45度に傾斜し、第三素子対向面161Cおよび第四素子対向面161DがY軸に対して45度に傾斜する構成を例示した。
これに対して、第二実施形態では、超音波反射体16の第一素子対向面161Aおよび第二素子対向面161Bが、X軸に対して0度<θ<90度(θ≠45度)に形成される例を示す。なお、第三素子対向面161Cおよび第四素子対向面161DがY軸に対して0度<θ<90度(θ≠45度)に形成される場合も同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0086】
上記第一実施形態のように、θ=45度に形成される場合では、第一法線ベクトル(A)および第二法線ベクトル(B)の合成ベクトルが超音波反射体16のXZ移動ベクトルとなったが、第二実施形態のように、θ≠45度である場合、移動量算出部371は、上記ステップS9において、異なる処理によりXZ移動ベクトルを算出する。
図8は、第二実施形態における超音波反射体16が初期状態から所定位置に移動した際の、超音波反射体16の移動量を算出するための説明図である。なお、第二実施形態の触覚センサー1は、超音波反射体16の第一素子対向面161Aおよび第二素子対向面161Bの傾斜角度が異なる点を除いて、上記第一実施形態と同様の構成であるため、各構成に同符号を付し、その説明を省略する。
【0087】
第二実施形態の触覚センサー1では、弾性膜15に接触物Lが接触すると、接触物Lから弾性膜15にZ軸方向への正圧力や、XY方向に沿う剪断力を受けると、図8に示すように、弾性膜15が弾性変形して歪み、弾性膜15の内部に埋設された超音波反射体も弾性膜15の弾性変形に応じて位置が移動する。
【0088】
ここで、第一超音波素子20Aから発信された超音波のうち、第一素子対向面161Aで反射されて第一超音波素子20Aに戻る超音波成分は、第一素子対向面161Aに対して垂直に入射した超音波である。したがって、上記第一実施形態と同様に、移動量算出部371は、式(1)に基づいて、第一法線ベクトル(A)及び第二法線ベクトル(B)を算出する。
一方、超音波反射体16のXZ移動ベクトル(C)は、第一素子対向面161Aの第二素子対向面161Bの傾斜角度(第一傾斜角度θ1)に沿うベクトル成分(第一成分ベクトル(A´))と、第二素子対向面161Bの第一素子対向面161Aの傾斜角度(第二傾斜角度θ2)に沿うベクトル成分(第二成分ベクトル(B´))との合成ベクトルにより表される。
【0089】
したがって、移動量算出部371は、図8に示すように、第一法線ベクトル(A)を分解して第一成分ベクトル(A´)を算出し、第二法線ベクトル(B)を分解して第二成分ベクトル(B´)を算出する。これには、制御部30の記憶部36に、第一傾斜角度θ1、および第二傾斜角度θ2を予め記憶しておき、移動量算出部371は、これらの傾斜角度θ1,θ2を読み出し、下記式(3)により第一成分ベクトル(A´)および第二成分ベクトル(B´)を算出する。
【0090】
[数3]
【0091】
この後、移動量算出部371は、第一成分ベクトル(A´)および第二成分ベクトル(B´)を合成してXZ移動ベクトル(C)を算出し、このXZ移動ベクトル(C)を分解して、正圧方向ベクトル(z)およびX剪断方向ベクトル(x)を算出する。
【0092】
[第二実施形態の作用効果]
上記第二実施形態のような触覚センサー1でも、第一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。これに加え、第二実施形態では、超音波反射体16の各素子対向面161の傾斜角度が0度<θ<90度であるいかなる場合であっても、精度よく正圧方向ベクトル(z)およびX剪断方向ベクトル(x)を算出することができる。
したがって、例えば、超音波反射体16の傾斜角度を0度<θ<45度に設定することもでき、この場合、第一実施形態に比べて超音波反射体16のZ軸方向の厚み寸法を小さくでき、触覚センサー1のさらなる小型化を促進することができる。
【0093】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態の触覚センサーについて、図面に基づいて説明する。
図9は、第三実施形態の触覚センサーにおけるセンサーアレイの構成を示す図である。図10は、図9におけるセンサーアレイ10A(超音波センサー)のうち、互いに隣接する2つのセンサー本体10の断面構造を示した断面図である。なお、第一および第二実施形態と同様の構成については、同符号を付し、その説明を省略する。
第三実施形態の触覚センサー1Aは、第一及び第二実施形態のセンサー本体10を、X軸方向およびY軸方向に沿って均等に配置したアレイ構造を有するセンサーアレイ10Aを備えている。
【0094】
ここで、超音波センサーを構成するセンサーアレイ10Aにおいて、各センサー本体10の基板11および支持膜14は共通部材であり、1つの基板11上に支持膜14が形成され、この支持膜14上に図9に示すように、矩形上の区画に区分された各センサー本体10が形成されている。
そして、センサーアレイ10Aの互いに隣り合うセンサー本体10の間には、図10に示すように、近接検出用超音波素子40が設けられている。
【0095】
この近接検出用超音波素子40は、基板11に形成される開口部111と、開口部111を閉塞する支持膜14(メンブレン141)と、メンブレン141の内部領域に配置される膜上の圧電膜41と、圧電膜41を挟んで配置される下部電極42および上部電極43と、により構成されている。また、この近接検出用超音波素子40上には、弾性膜15は形成されない。したがって、近接検出用超音波素子40に交流電圧を印可すると、超音波は、センサーアレイ10A直上に空気を伝搬して発信される。
【0096】
ここで、圧電膜41、下部電極42、および上部電極43は、超音波素子20を構成する圧電膜21、下部電極22、および上部電極23と同様の構成素材により構成されている。また、センサー平面視において、近接検出用超音波素子40の開口部111およびメンブレン141は、超音波素子20の開口部111およびメンブレン141よりも大きい面積に形成されており、圧電膜41、下部電極42、および上部電極43も、圧電膜21、下部電極22、および上部電極23より大きい面積を有している。これにより、近接検出用超音波素子40は、超音波素子20よりも大音圧の超音波を出力可能であり、より遠方にまで超音波を送出することができる。
このような触覚センサー1Aでは、センサーアレイ10Aの直上に接触物Lが近接すると、近接検出用超音波素子40から発信された超音波は、接触物Lで反射され、近接検出用超音波素子40で受信される。
【0097】
なお、図9において、センサー本体10毎に弾性膜15が分離される構成を例示したが、これに限定されず、例えば支持膜14全体を覆う弾性膜15が設けられる構成としてもよい。この場合、近接検出用超音波素子40の直上領域のみ、弾性膜15に開口を設け、この開口から距離検出用の超音波を発信させる構成とすればよい。
【0098】
図11は、触覚センサー1Aにおける制御部30Aの概略構成を示すブロック図である。
制御部30Aは、図11に示すように、第一および第二実施形態の各構成に加え、演算処理部37は、距離算出部373を備えている。
この距離算出部373は、近接検出用超音波素子40から出力される受信信号に基づいて、時間計測部35でTOFデータが取得されると、このTOFデータに基づいて、センサーアレイ10Aと接触物Lとの距離を算出する。具体的には、制御部30Aの記憶部36には、空気中の音速が予め記憶されており、時間計測部35は、取得したTOFデータと記憶部36から読み出した空気中の音速とに基づいて、センサーアレイ10Aと接触物Lとの距離を算出する。
【0099】
また、制御部30Aの送受信切替制御部33は、触覚センサー1Aの電源がON状態にされると、触覚センサー1Aを待機モードに設定する。この待機状態では、送受信切替制御部33は、超音波素子20を停止させ、近接検出用超音波素子40のみを駆動させる。すなわち、送受信切替制御部33は、周期的に、近接検出用超音波素子40から超音波を発信させる超音波発信モードと、近接検出用超音波素子40にて反射超音波を受信させる超音波受信モードとに切り替える。なお、近接検出用超音波素子40の超音波発信モードでは、超音波信号発信回路34は、超音波素子20を駆動させるための駆動電圧より大きい駆動電圧を設定して、駆動信号として出力する。
【0100】
そして、送受信切替制御部33は、時間計測部35において近接検出用超音波素子40から出力された受信信号に基づくTOFデータが取得されると、距離算出部373により算出されるセンサーアレイ10Aと接触物Lとの距離を監視する。そして、送受信切替制御部33は、このセンサーアレイ10Aと接触物Lとの距離が予め設定された閾値以下になったことを判断すると、駆動モードに設定する。この駆動モードでは、上記第一および第二実施形態と同様に、周期的に、超音波素子20から超音波を発信させる超音波発信モードと、超音波素子20にて反射超音波を受信させる超音波受信モードとに切り替える。これにより、制御部30Aは、上記第一および第二実施形態と同様に、接触物Lが弾性膜15に接触した際の弾性膜15に作用する応力を算出する処理を実施する。この時、送受信切替制御部33は、近接検出用超音波素子40の駆動を停止させる。
そして、送受信切替制御部33は、応力算出部372により算出される応力(正圧力および剪断力)が「0」になったと判断すると、再び待機モードに移行させ、超音波素子20を停止させて、近接検出用超音波素子40を駆動させる。
【0101】
[第三実施形態の作用効果]
上記第三実施形態の触覚センサー1Aでは、上記第一実施形態の作用効果に加え、次の効果を奏することができる。すなわち、触覚センサー1Aは、複数のセンサー本体10をアレイ状に配設したセンサーアレイ10Aを備える。このため、複数のセンサー本体10により広範囲に亘って正圧力および剪断力の検出を実施することができる。
【0102】
また、隣り合うセンサー本体10間には、近接検出用超音波素子40が設けられている。このため、近接検出用超音波素子40から発信された超音波が、接触物Lにより反射されて戻ってきたか否かを判断することで、触覚センサー1A近傍に接触物Lがあるか否かを判別することができる。
さらに、制御部30Aには距離算出部373が設けられているので、近接検出用超音波素子40から出力される受信データに基づいて計測されるTOFデータを用いて、センサーアレイ10Aから接触物Lまでの距離を算出することができる。
【0103】
さらには、送受信切替制御部33は、距離算出部373により算出される接触物Lまでの距離が予め設定された閾値以上である場合に、超音波素子20の駆動を停止させ、接触物Lまでの距離が予め設定された閾値より小さくなった際に、超音波素子20を駆動させる。このように、超音波素子20の駆動を切り替えることで、省電力化を図ることができる。
【0104】
[第四実施形態]
次に、上述した触覚センサー1,1Aを用いた装置の応用例として、触覚センサー1Aを備えた把持装置について、図面に基づいて説明する。
【0105】
図12は、本発明に係る第四実施形態の把持装置の概略構成を示す装置ブロック図である。
図12において、把持装置50は、少なくとも一対の把持アーム51を備え、この把持アーム51により、接触物L(把持対象物)を把持する装置である。この把持装置50としては、例えば製品を製造する製造工場などにおいて、ベルトコンベアーなどにより搬送された対象物を把持して持ち上げる装置である。そして、この把持装置50は、前記把持アーム51と、把持アーム51を駆動するアーム駆動部52と、アーム駆動部52の駆動を制御する制御装置54と、を備えて構成されている。
【0106】
一対の把持アーム51は、それぞれ先端部に接触面である把持面53を備え、この把持面53を接触物Lに当接させて把持することで接触物Lを把持し、持ち上げる。ここで、本実施形態において、把持アーム51が一対設けられる構成を例示するが、これに限定されず、例えば3本の把持アーム51により、接触物Lを3点支持により把持する構成などとしてもよい。
【0107】
把持アーム51に設けられる把持面53は、表面には、第三実施形態において説明した触覚センサー1Aが設けられており、触覚センサー1Aの表面部の弾性膜15が露出されている。そして、把持アーム51は、この弾性膜15を接触物Lに接触させ、接触物Lに所定の圧力(正圧力)を印加することで、接触物Lを把持する。このような把持アーム51では、把持面53に設けられる触覚センサー1Aにより、接触物Lに印加する正圧力、および把持した際に接触物Lが把持面53から滑り落ちようとする剪断力を検出し、正圧力や剪断力に応じた電気信号を制御装置54に出力する。
【0108】
アーム駆動部52は、一対の把持アーム51を互いに近接離隔する方向に移動させる装置である。このアーム駆動部52としては、把持アーム51を移動可能に保持する保持部材55と、把持アーム51を移動させる駆動力を発生する駆動源56と、駆動源の駆動力を把持アーム51に伝達させる駆動伝達部57を備えている。
保持部材55は、例えば把持アーム51の移動方向に沿う案内溝を備え、この案内溝内で把持アーム51を保持することで、把持アーム51を移動可能に保持する。また、保持部材55は、鉛直方向に移動可能に設けられている。
駆動源56は、例えば駆動モーターであり、制御装置54から入力される駆動制御信号に応じて駆動力を発生させる。
駆動伝達部57は、例えば複数のギアにより構成され、駆動源56で発生した駆動力を把持アーム51および保持部材55に伝達させ、把持アーム51および保持部材55を移動させる。
なお、本実施形態では、一例として上記構成を示したが、これに限定されるものではない。すなわち、把持アーム51を保持部材55の案内溝に沿って移動させる構成に限らず、把持アームを回動可能に保持する構成などとしてもよい。駆動源56としても駆動モーターに限られず、例えば油圧ポンプなどにより駆動される構成としてもよく、駆動伝達部57としても、例えば駆動力を歯車により伝達する構成に限らず、ベルトやチェーンにより伝達する構成、油圧などにより駆動されるピストンを備えた構成などとしてもよい。
【0109】
制御装置54は、把持アーム51の把持面53に設けられる触覚センサー1A、およびアーム駆動部52に接続され、把持装置50における接触物Lの把持動作の全体を制御する。
具体的には、制御装置54は、図12に示すように、アーム駆動部52および触覚センサー1Aに接続され、把持装置50の全体動作を制御する。この制御装置54は、触覚センサー1Aから入力される剪断力検出信号、および正圧力検出信号を読み取る信号検出手段541、接触物Lの滑り状態を検出する把持検出手段542、およびアーム駆動部52に把持アーム51の駆動を制御するための駆動制御信号を出力する駆動制御手段543を備えている。また、この制御装置54としては、例えばパーソナルコンピューターなどの汎用コンピューターを用いることもでき、例えばキーボードなどの入力装置や、接触物Lの把持状態を表示させる表示部などを備える構成としてもよい。
また、信号検出手段541、把持検出手段542、および駆動制御手段543は、プログラムとして例えばメモリーなどの記憶部に記憶され、CPUなどの演算回路により適宜読み出されて実行されるものであってもよく、例えばICなどの集積回路により構成され、入力された電気信号に対して所定の処理を実施するものであってもよい。
【0110】
信号検出手段541は、触覚センサー1Aに接続され、触覚センサー1Aから入力される正圧力検出信号や剪断力検出信号などを取得する。この信号検出手段541にて認識された検出信号は、例えば図示しないメモリーなどの記憶部に出力されて記憶されるとともに、把持検出手段542に出力される。
【0111】
把持検出手段542は、剪断力検出信号に基づいて、把持アーム51により接触物Lを把持したか否かを判断する。
ここで、図13に、把持装置50の把持動作における触覚センサーに作用する正圧力および剪断力の関係を示す図を示す。
図13において、正圧力が所定値に達するまでは、正圧力の増加に応じて剪断力が増加する。この状態は、接触物Lと把持面53との間に動摩擦力が作用している状態であり、把持検出手段542は、接触物Lが把持面53から滑り落ちている滑り状態で、把持が未完了であると判断する。一方、正圧力が所定値以上となると、正圧力を増大させても剪断力が増加しない状態となる。この状態は、接触物Lと把持面53との間に静摩擦力が作用している状態であり、把持検出手段542は、接触物Lが把持面53により把持された把持状態であると判断する。
具体的には、剪断力検出信号の値が、静摩擦力に対応した所定の閾値を越える場合に、把持が完了したと判断する。
【0112】
駆動制御手段543は、把持検出手段542にて検出された電気信号に基づいてアーム駆動部52の動作を制御する。
【0113】
次に、制御装置54の動作について図面に基づいて説明する。
図14は、制御装置54の制御による把持装置50の把持動作を示すフローチャートである。図15は、把持装置50の把持動作時において、アーム駆動部52への駆動制御信号、触覚センサー1Aから出力される検出信号の発信タイミング示すタイミング図である。
【0114】
把持装置50で接触物Lを把持するためには、まず制御装置54の駆動制御手段543は、各把持アーム51を互いに近接させる方向に移動させる旨の駆動制御信号をアーム駆動部52に出力する(把持動作)。これにより、把持アーム51の把持面53が接触物Lに近接する(図14:ステップS11)。
【0115】
次に、制御装置54の把持検出手段542は、接触物Lが把持面53に接触したか否かを判断する(図14:ステップS12)。具体的には、制御装置54は、信号検出手段541で正圧力検出信号の入力が検知されたか否かを判断する。ここで、正圧力検出信号が検出されない場合は、把持面53が接触物Lに接触していないと判断し、駆動制御手段543は、ステップS11を継続して、駆動制御信号を出力し、把持アーム51をさらに駆動させる。
【0116】
一方、把持面53が接触物Lに接触する(図15:タイミングT1)と、触覚センサー1Aの弾性膜15が歪み、その歪み量に基づいて算出された正圧力に対応する正圧力検出信号が出力される。
駆動制御手段543は、把持検出手段542において、正圧力検出信号を検出すると、把持アーム51の近接移動(接触物Lへの押圧)を停止させる(図14:ステップS13、図15:タイミングT2)。また、駆動制御手段543は、アーム駆動部52に駆動制御信号を出力し、把持アーム51を上方に持ち上げる動作(持上げ動作)を実施させる(図14:ステップS14、図15:タイミングT2〜T3)。
【0117】
ここで、接触物Lを持ち上げる際に、弾性膜15が剪断力により剪断方向に歪み、触覚センサー1Aでは、その歪み量に応じた剪断力が算出され、その剪断力に対応する剪断力検出信号が出力される。
把持検出手段542は、信号検出手段541に入力される剪断力検出信号に基づいて、滑りがあるか否かを判断する(ステップS15)。
【0118】
この時、把持検出手段542において、滑りがあると判断されると、駆動制御手段543は、アーム駆動部52を制御して、把持アーム51を、把持面53を接触物Lに押し付ける方向に移動させて、把持力(正圧力)を増大させる(図14:ステップS16)。
すなわち、制御装置54は、図15におけるタイミングT3において、駆動制御手段543にて把持動作を実施させ、接触物Lへの正圧力を増大させ、信号検出手段541にて、再び触覚センサー1Aから出力される剪断力検出信号を検出する。以上のような滑り検知動作(タイミングT2〜T6)を繰り返し、剪断力検出信号が、所定の閾値S1以上となった場合(タイミングT6)に、ステップS15において、滑りがない、すなわち把持が完了したと判断し、滑り検知動作を停止させる。
【0119】
[第四実施形態の作用効果]
上述したような第四実施形態の把持装置50では、上記第三実施形態の触覚センサー1Aを備えている。このような触覚センサー1Aは、上述したように、任意位置における剪断力および正圧力を容易に精度よく検出することができるものであるため、把持装置50においても精度の高い剪断力検出信号および正圧力検出信号に基づいて、正確な把持動作を実施することができる。
また、このような触覚センサー1Aでは、X軸方向およびY軸方向の双方に対して剪断力を検出することができる。したがって、第四実施形態では、接触物Lを持ち上げる際の剪断力を測定したが、例えばベルトコンベアー上で搬送される対象物に対して把持を実施する際に、搬送方向への剪断力をも測定することができる。
【0120】
[第五実施形態]
上記第四実施形態では、触覚センサー1Aが設けられた把持装置を、触覚センサーを備えた装置の一例として例示したが、これに限定されない。
第五実施形態では、触覚センサー1,1Aを用いた装置の他の応用例として、触覚センサー1Aを備えたアイロンについて、図面に基づいて説明する。
図16は、第五実施形態のアイロンの概略構成を示すブロック図である。
【0121】
アイロン60は、ヒーター61と、ベース部62と、ベース部62に設けられた温度センサー63と、ベース部62に設けられた触覚センサー1Aと、ヒーター駆動回路64と、を備えている。このアイロン60のヒーター駆動回路64は、温度センサー63および触覚センサー1Aからの信号に基づいてヒーター61に印加する電圧を制御し、ベース部62を対象布地に対して最適な温度に加熱する。
【0122】
ヒーター61は、ヒーター駆動回路64から印可された電圧により発熱し、ベース部62を加熱する。
ベース部62は、対象布地に接触して、対象布地の皺を伸ばす部分であり、ヒーター61により加熱される。そして、このベース部62の一部には、図16に示すように、触覚センサー1Aが設けられ、触覚センサー1Aの弾性膜15が、対象布地に接触可能に露出されている。
また、ベース部62には、温度センサー63が設けられており、この温度センサー63は、ベース部62の温度を検出してヒーター駆動回路64に出力する。
【0123】
ヒーター駆動回路64は、触覚センサー1A、温度センサー63、およびヒーター61に接続され、触覚センサー1Aおよび温度センサー63からの信号に基づいてヒーター61に印加する電圧を制御する。このヒーター駆動回路64は、図16に示すように、本発明の記憶部であるメモリー641と、信号検出部642と、布地判別部643と、温度制御部644と、を備えている。
このヒーター駆動回路64としては、例えばCPU等の演算回路や、記憶回路を備えたコンピューターとして構成され、布地判別部643や温度制御部644が、演算回路による演算処理により実行されるソフトウェアとして機能される構成としてもよく、例えばICなどの集積回路により構成され、入力された電気信号に対して所定の処理を実施するものであってもよい。
【0124】
メモリー641は、本発明の相関データである応力−粗さ値データを記憶している。この応力−粗さ値データには、触覚センサー1Aにより検出された応力に応じた、対象布地の粗さ値が記録されているデータであり、例えば、剪断力に対応する粗さ値が、正圧力毎に記録されている。
また、メモリー641には、粗さ値に対応したベース部62の最適温度が記録された粗さ−温度データが記憶されていてもよい。
【0125】
信号検出部642は、触覚センサー1Aに接続され、触覚センサー1Aから入力される正圧力検出信号や剪断力検出信号などを取得する。この信号検出部642にて検出された検出信号は、メモリー641に出力されて記憶されるとともに、布地判別部643に出力される。
【0126】
布地判別部643は、信号検出部642から入力された剪断力および正圧力、およびメモリー641に記憶された応力−粗さ値データに基づいて、対象布地の種別を判別する。
例えば、本実施形態では、応力−粗さ値データとして、正圧力毎に、剪断力に対応する粗さが記憶されている。この場合では、布地判別部643は、正圧力に対応した応力−粗さ値データをメモリー641から読み出し、この応力−粗さ値データから剪断力に対応した粗さ値を取得する。
そして、布地判別部643は、取得した粗さ値を温度制御部644に出力する。
【0127】
温度制御部644は、布地判別部643から入力された粗さ値、および温度センサー63により検出されるベース部62の温度に基づいて、ヒーター61への印加電圧を制御する。
具体的には、温度制御部644は、メモリー641から粗さ−温度データを読み出し、布地判別部643から入力された粗さ値に応じたベース部62の最適温度を取得する。そして、温度制御部644は、温度センサー63から入力された検出温度と最適温度との差分値から、ベース部62を最適温度に設定するために必要なヒーター61への印加電圧値を算出して、ヒーター61に印加する。
【0128】
[アイロンの動作]
次に、上記のようなアイロン60の動作について説明する。
図17は、第五実施形態のアイロンの動作を示すフローチャートである。
利用者によりアイロン60に電力が供給されると、触覚センサー1Aの近接検出用超音波素子40が駆動される。これにより、上記第三実施形態において説明したように、触覚センサー1Aは、対象布地と触覚センサー1A(ベース部62)との距離を算出する。そして、対象布地とベース部62との距離が予め設定された距離以内になると、触覚センサー1Aは、駆動モードに移行する(ステップS21)。
【0129】
この後、アイロン60のヒーター駆動回路64は、対象布地がベース部62に接触したか否かを判断する(ステップS22)。具体的には、ヒーター駆動回路64は、信号検出部642で正圧力検出信号の入力が検知されたか否かを判断する。ここで、正圧力検出信号が検出されない場合は、ベース部62に対象布地が接触していないと判断する。この場合は、ヒーター駆動回路64は、ステップS22を継続し、対象布地とベース部62との接触判断処理を継続する。
【0130】
また、ステップS22において、信号検出部642が正圧力検出信号の入力が検知した場合、さらに、剪断力検出信号の入力を検出し、剪断力の大きさが0より大きいか否かを判断する(ステップS23)。
つまり、正圧力の大きさは、利用者がアイロン60を対象布地に押し付ける強さにより変化するため、正圧力のみでは対象布地の種別を判別することはできない。したがって、剪断力の大きさが0である場合は、継続してステップS23の処理を実行する。
一方、ステップS23により、剪断力検出信号により検出された剪断力の大きさが0より大きい場合、布地判別部643は、メモリー641から、正圧力に対応した応力−粗さ値データを読み出し、剪断力に対応した粗さ値を取得する(ステップS24)。
【0131】
この後、温度制御部644は、メモリー641から粗さ−温度データを読み出し、ステップS24で取得された粗さ値に対応した温度を取得し、最適温度として設定する(ステップS25)。
さらに、温度制御部644は、温度センサー63により検出された検出温度と、ステップS25により設定された最適温度との差分値から、ベース部62を最適温度に設定するために必要なヒーター61への印可電圧値を算出し、ヒーター61にその電圧値を印可する(ステップS26)。
これにより、アイロン60は、対象布地の種別に応じて、ベース部62の温度を、自動で設定することが可能となる。
【0132】
[第五実施形態の作用効果]
上述したような第五実施形態のアイロン60では、上記第三実施形態の触覚センサー1Aを備えている。このような触覚センサー1Aは、上述したように、任意位置における剪断力および正圧力を容易に精度よく検出することができるものであるため、アイロン60においても、ベース部62に対象布地が接触した際の正圧力および剪断力を高精度で検出することができる。
【0133】
そして、アイロン60のヒーター駆動回路64は、布地判別部643により、検出された正圧力および剪断力に対応した、対象布地の粗さを判別することができる。したがって、判断された対象布地の粗さから、対象布地の種別を判断することができ、温度制御部644は、布地の種別に対応してベース部62の温度を設定することができる。したがって、アイロン60において、布地に対応してベース部62の温度を自動で設定することができ、対象布地の種別に応じて、温度設定を変更する煩雑な作業を省略することができる。
【0134】
なお、上記第五実施形態では、メモリー641に、正圧力および剪断力に応じた粗さ値が記録された応力−粗さ値データを記憶する例を示したが、例えば、正圧力および剪断力に応じた対象布地の種類を記録した応力−布地種別データがメモリー641に記憶される構成などとしてもよい。この場合では、布地判別部643は、正圧力および剪断力に応じて、対象布地の種別を直接判別し、温度制御部644は、判別された布地の種別に対応した温度を取得する。
また、相関データとして、正圧力および剪断力に対応したベース部62の最適温度が記憶された応力−温度データが記憶されていてもよく、この場合では、粗さ−温度データを記憶する必要がなくなり、より少ないデータ量で、ベース部62の温度を自動で設定可能なアイロン60を提供することができる。
【0135】
さらに、上記アイロン60では、ヒーター駆動回路64により自動でベース部62の温度が設定される例を示したが、例えば、ベース部62の温度を自動設定する自動モードと、手動により温度を設定する手動モードと、を適宜切り替え可能な構成としてもよい。
【0136】
〔その他の実施形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0137】
例えば、上記実施形態において、正四角錐形状の超音波反射体16が設けられた触覚センサー1,1Aを例示したが、これに限定されず、例えば球面形状や円錐台形状に形成されるものであってもよい。ただし、この場合、上述したように、超音波の反射位置が狭くなり受信信号が小さくなるので、例えば超音波の出力値を増大させたり、受信信号を増幅させる増幅回路を別途設けたりする必要がある。
【0138】
また、正四角錐台形状の超音波反射体16を用いることで、X軸方向、およびX軸方向に直交するY軸方向に沿った剪断力を検出可能な構成としたが、例えば、超音波反射体16を弾性膜15の厚みに対して直交する方向に断面した断面形状がひし形状となるものであってもよい。この場合、X軸方向と、X軸方向に交差するY´軸方向とに作用する剪断力をそれぞれ算出することができる。
また、検出すべき剪断力の方向が予め決まっており、その方向が一方向のみである場合では、2つの素子対向面を有する超音波反射体と、各素子対向面に対向する2つの超音波素子とが設けられていればよく、より構成を簡単にできる。
さらに、検出対象となる剪断力の方向が予め決まっており、その方向が3方向以上である場合、これらの各方向に対してそれぞれ一対の素子対向面を有する多角錐台形状の超音波反射体を用いてもよい。
【0139】
そして、上記実施形態では、超音波反射体16には、頂部に第五素子対向面161Eが設けられ、基板11には、第五素子対向面161Eに対向する第五超音波素子20Eが設けられる構成としたが、第五素子対向面161Eや第五超音波素子20Eが設けられない構成、例えば四角錐形状の超音波反射体を用いてもよい。このような構成では、上述したように、正圧力に対して第一〜第四素子対向面161A〜161Dおよび第一〜第四超音波素子20A〜20Dにより取得されるTOFデータに基づいて算出することが可能であり、かつ第五超音波素子20Eが設けられない分、構成をより簡略化することができる。また、超音波反射体16に第五素子対向面161Eが設けられない構成とすることで、超音波反射体16の体積をも小型化でき、触覚センサー1,1Aの小型化を図ることができる。
【0140】
また、上記第一から第四実施形態の触覚センサー1,1Aでは、1つの超音波素子20から放射状に拡散する超音波を発信する構成を例示したが、例えば、各超音波素子20の代わりに、複数の超音波素子をアレイ状に配列した超音波アレイを配置する構成としてもよい。このような超音波アレイでは、各超音波素子から超音波を発信させるタイミングを遅延させることで、所望の方向に平面波として伝搬するビーム状の超音波を発信可能となる。したがって、各超音波アレイから、これらの超音波アレイに対応した素子対向面に向かって超音波を発信させてもよい。このような構成では、弾性膜15の歪みが大きく、超音波反射体16が大きく変位した場合、各超音波素子の駆動タイミングを調整して、超音波の発信角度を適宜調整する必要が生じるが、複数の超音波素子から発信される超音波が互いに強め合うことで、大音圧の超音波を発信させることが可能となる。このため、各超音波アレイにおいて、大きい反射超音波を受信することができ、信号検出精度を向上させることができる。また、大音圧の超音波を発信することができるため、超音波反射体16として、球形状や円錐台形状のものを用いた場合でも、比較的大きい音圧の反射超音波を受信することができる。
【0141】
また、第三実施形態において、センサーアレイ10A内に配置される各センサー本体10は、基板11および支持膜14が共通部材とされる構成としたが、例えばセンサー本体10毎に基板11および支持膜14が設けられる構成としてもよい。この場合、例えば、別途センサー載置用基板を用意し、このセンサー載置用基板にセンサー本体10をアレイ状に配置することでセンサーアレイを構成すればよい。
【0142】
さらに、第四実施形態において、把持装置50として、一対の把持アーム51が設けられる構成を例示したが、3本以上の把持アームを互いに近接離間する方向に移動させて接触物Lを把持する構成としてもよい。また、アーム駆動部により駆動される駆動アームと、駆動しない固定アームまたは固定壁とを備え、駆動アームを固定アーム(固定壁)側に移動させて対象物を把持する構成などとしてもよい。
【0143】
さらには、第四実施形態では、触覚センサー1Aを、接触物Lを把持する把持装置50に適用する例を示し、第五実施形態では、触覚センサー1Aを備えたアイロン60を例示したが、これに限定されない。例えば、触覚センサー1Aを、例えば入力装置などとして適用してもよい。入力装置として用いる場合は、例えばノート型パソコンや、パーソナルコンピューターに組み込むことができる。具体的には、板状の入力装置本体に設けられる表面部に触覚センサー1Aを設ける構成などが例示できる。このような入力装置では、表面部上で利用者の指を動かしたり、タッチペンなどを動かしたりすると、これらの動きにより剪断力や正圧力が発生する。この剪断力および正圧力を触覚センサー1Aにより検出することで、利用者の指やタッチペンの接触位置座標、移動方向を検出して電気信号として出力することができる。
また、接触物判別部として、メモリー641に記憶された応力−粗さデータに基づいて、布地の種別(粗さ値)を判別する布地判別部643を例示したが、これに限らない。例えば、触覚センサー1,1Aを、パン製造装置に設け、パン生地の柔らかさ(捏ね状態)を判断する接触物判別部を設ける構成としてもよい。この場合、接触部判別部は、パン生地に対して加えた応力と、その応力に対して最適弾性力との関係データをメモリーに記憶する。そして、接触物判別部は、触覚センサー1,1Aで検出された正圧力や剪断力が、最適弾性力を中心とした所定閾値以内であれば、捏ね状態が最適であると判断する。このような構成のパン製造装置では、パン生地の捏ね状態を一定に維持することができ、安定した品質のパン生地を製造することができる。
【0144】
上記各実施形態において、基板11上に複数の超音波素子20を配置した触覚センサー1,1Aを例示したが、これに限定されない。すなわち、超音波素子20は、基板11の上方に配置されていればよく、例えば基板11上に中間層を積層し、その上に超音波素子20が配置される構成などとしてもよい。
また、超音波素子20上に、弾性膜15と同一音響インピーダンスを有する保護膜を積層して、その保護膜上に弾性膜15が積層される構成などとしてもよい。
【0145】
以上、本発明を実施するための最良の構成について具体的に説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、当業者が様々な変形および改良を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0146】
1,1A…触覚センサー、10…センサー本体、11…基板、15…弾性膜、16…超音波反射体、20…超音波素子、20A…第一超音波素子、20B…第二超音波素子、20C…第三超音波素子、20D…第四超音波素子、20E…第五超音波素子、30,30A…制御部、31…超音波発信制御部を構成する素子切替回路、32…超音波発信制御部を構成する送受信切替回路、33…超音波発信制御部を構成する送受信切替制御部、34…超音波発信制御部を構成する超音波信号発信回路、35…時間計測部、40…近接検出用超音波素子、50…把持装置、51…把持アーム、53…接触面である把持面、161…素子対向面、161A…第一素子対向面、161B…第二素子対向面、161C…第三素子対向面、161D…第四素子対向面、161E…頂部である第五素子対向面、371…移動量算出部、372…応力算出部、542…把持検出手段、543…駆動制御手段、641…記憶部を構成するメモリー、643…接触物判別部を構成する布地判別部、L…接触物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を発信する超音波センサー、および超音波センサーから発信された超音波により接触物の接触を検出する触覚センサー、および触覚センサーを備えた把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットのアームなどにより、重量や摩擦係数が未知である対象物を把持する際に、対象物の接触により作用する応力を検出するセンサーが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の触覚センサーは、センサー基板に開設される開口の縁部から延伸するカンチレバー構造の構造体を有し、この構造体は、平板状の感応部と、感応部とセンサー基板とを連結するヒンジ部とから構成される。そして、この構造体の感応部には導電性磁性体膜が形成され、ヒンジ部には、ピエゾ抵抗膜が形成され、導電性磁性体膜とピエゾ抵抗膜とが導通されている。また、ヒンジ部には電極が設けられ、圧力によりヒンジ部が曲がることで、ヒンジ部のピエゾ抵抗で発生する電流が電極から流れる構成となっている。そして、この触覚センサーは、センサー基板上に上記のような構造体が複数形成され、これらの構造体のうち一部がセンサー基板に対して起立し、他の一部がセンサー基板に対して平行に保持されている。また、このセンサー基板上には、弾性体が設けられ、起立した構造体は、弾性体に埋め込まれている。そして、起立した構造体により剪断力が測定可能となり、基板面に平行な構造体により正圧力が測定可能となる。ここで、この触覚センサーでは、センサー基板に対して起立した構造体により剪断力が検出され、センサー基板に対して平行に保持される構造体により正圧力が検出される。また、起立した構造体は、平板状の構造体を磁力により折り曲げることで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−208248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載のような触覚センサーでは、センサー基板に対して起立させる構造体と、センサー基板に対して平行に保持する構造体とが分離され、起立した構造体により剪断力が検出され、基板に対して平行な構造体により正圧力が検出される。このような剪断力検出用の構造体は、正圧力検出用の構造体を磁力により曲げる必要があり、複雑な立体構造を有しているため、生産性が悪く、生産コストも増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、簡単な構成で、接触物の接触検出が可能な超音波センサー、触覚センサー、および把持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の超音波センサーは、基板と、前記基板上に設けられた複数の超音波素子と、前記複数の超音波素子と接して配置される弾性変形可能な弾性膜と、前記弾性膜の内部に設けられ、超音波を反射可能な超音波反射体と、を備え、前記超音波反射体は、前記超音波素子に対向する素子対向面を、前記複数の超音波素子の各々に対応して複数有することを特徴とする。
ここで、本発明で述べる、「超音波素子に対向する素子対向面」とは、素子対向面の法線方向への射影空間内に超音波素子が存在していることを意味する。
【0008】
この発明では、超音波反射体は複数の素子対向面を有し、基板には、これらの素子対向面に対向して複数の超音波素子が設けられている。このような構造では、超音波素子から超音波を発信し、超音波素子に対向する素子対向面で反射された超音波を当該超音波素子で受信し、超音波発信タイミングから超音波受信タイミングまでの時間(TOFデータ)を計測することで、超音波素子から素子対向面までの距離を検出することが可能となる。
そして、弾性膜に接触物が接触して弾性膜が弾性変形すると、超音波反射体は、弾性膜の変形に応じた位置に移動される。この時、弾性膜の変形前のTOFデータと、弾性膜の変形後のTOFデータとの差分を算出することで、各素子対向面の移動方向および移動量をもとめることができる。また、各素子対向面の移動方向および移動量が分かれば、超音波反射体全体としての移動方向および移動距離をも分析することが可能となり、弾性膜に作用する応力をも算出することが可能となる。
このような構成では、超音波素子が配設された基板上に弾性膜を形成し、弾性膜中に超音波反射体を埋設させる構成であるため、例えば立体的な検出部材を基板上に形成するような構成に比べて、構成を簡略化でき、生産性も良好となり、生産コストも低減させることができる。
【0009】
本発明の超音波センサーでは、前記基板の表面に沿う一軸をX軸とし、前記基板の表面に沿い、X軸に直交する方向をY軸およびZ軸とした際に、前記超音波反射体は、前記基板に最も近い位置に位置する頂部と、前記頂部からX軸における+X方向に連続して設けられる第一素子対向面と、前記頂部からX軸における−X方向に連続して設けられる第二素子対向面と、を有し、前記第一素子対向面は、Y軸に対して平行な直線と、XZ平面で+X方向に向かうに従って前記基板から離れる第一傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、前記第二素子対向面は、Y軸に対して平行な直線と、XZ平面で−X方向に向かうに従って前記基板から離れる第二傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、前記基板上には、前記第一素子対向面に対向する第一超音波素子、および前記第二素子対向面に対向する第二超音波素子がX軸に沿って配設されていることが好ましい。
【0010】
この発明では、超音波反射体の第一素子対向面および第一超音波素子により、超音波反射体が移動した際の第一素子対向面の法線方向への移動量(第一法線ベクトル)が算出可能となり、第二素子対向面および第二超音波素子により、超音波反射体が移動した際の第二素子対向面の法線方向の移動量(第二法線ベクトル)が算出可能となる。また、第一法線ベクトルの第二傾斜角度方向へのベクトル成分(第一成分ベクトル)、第二法線ベクトルの第一傾斜角度方向へのベクトル成分(第二成分ベクトル)をそれぞれ算出することが可能となる。ここで、これらの第一成分ベクトルおよび第二成分ベクトルは、Y軸に沿う方向(以降、Y軸方向と称す)の移動量成分が含まれてないため、これらをベクトル合成することで、超音波反射体のXZ平面内で移動ベクトル(XZ移動ベクトル)を算出することが可能となる。したがって、このXZ移動ベクトルを、それぞれ、X軸に平行なベクトル成分と、Zに沿う方向(以降Z軸方向と称す)に平行なベクトル成分に分解することで、超音波反射体のZ軸方向への移動量、X軸に沿う方向(以降、X軸方向と称す)への移動量をそれぞれ算出することが可能となり、弾性膜のZ軸方向に作用する力(正圧力)と、弾性膜のX軸方向に作用する力(X方向剪断力)と、を算出することが可能となる。すなわち、上記のような構成の超音波反射体および超音波素子を用いることで、ベクトル演算のみにより容易に超音波反射体のZ軸方向への移動量、X軸方向への移動量、正圧力、およびX方向剪断力を算出することができる。
【0011】
本発明の超音波センサーでは、前記第一傾斜角度および前記第二傾斜角度は、X軸に対して45度であることが好ましい。
【0012】
この発明では、第一傾斜角度および第二傾斜角度は、それぞれX軸に対して45度に設定されている。このため、第一成分ベクトルと第一法線ベクトルとが同一となり、第二成分ベクトルと第二法線ベクトルが同一となる。したがって、上述したようなベクトル演算をより簡略化することができ、より容易に超音波反射体のZ軸方向への移動量、X軸方向への移動量、正圧力、およびX方向剪断力を算出することができる。
【0013】
本発明の超音波センサーでは、前記超音波反射体は、前記頂部からY軸における+Y方向に連続して設けられる第三素子対向面と、前記頂部からY軸における−Y方向に連続して設けられる第四素子対向面と、を有し、前記第三素子対向面は、X軸に対して平行な直線と、YZ平面で+Y方向に向かうに従って前記基板から離れる第三傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、前記第四素子対向面は、X軸に対して平行な直線と、YZ平面で−Y方向に向かうに従って前記基板から離れる第四傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、前記基板上には、前記第三素子対向面に対向する第三超音波素子、および前記第四素子対向面に対向する第四超音波素子がY軸方向に沿って配設されていることが好ましい。
【0014】
この発明では、上記に加えてさらに、X軸方向の移動成分が含まれない、第三素子対向面の法線方向への移動量(第三法線ベクトル)、および第四素子対向面の法線方向への移動量(第四法線ベクトル)が算出可能となり、これらの第三法線ベクトルの第四傾斜角度方向へのベクトル成分(第三成分ベクトル)、第四法線ベクトルの第三傾斜角度方向へのベクトル成分(第四成分ベクトル)が算出することが可能となる。したがって、これらの第三成分ベクトルおよび第四成分ベクトルの合成ベクトルから超音波反射体のYZ平面内での移動ベクトル(YZ移動ベクトル)を算出することが可能となり、このYZ移動ベクトルから、超音波反射体のY軸方向への移動量や、弾性膜のY軸方向に作用する力(Y方向剪断力)をも容易に算出することが可能となる。また、上記発明により算出されるX方向剪断力と、Y方向剪断力に基づいて、XY平面内での剪断力の大きさ、および剪断力の方向をも容易に算出することができる
【0015】
本発明の超音波センサーでは、前記第三傾斜角度および前記第四傾斜角度は、Y軸に対して45度であることが好ましい。
【0016】
この発明では、上記発明と同様に、第三傾斜角度および第四傾斜角度が、それぞれ、Y軸に対して45度に設定されているため、第三成分ベクトルと第三法線ベクトルとが同一となり、第四成分ベクトルと第四法線ベクトルが同一となる。したがって、上述したようなベクトル演算をさらに簡略化することができ、より容易に超音波反射体のY軸方向への移動量、およびY方向剪断力を算出することができる。
【0017】
本発明の超音波センサーでは、前記頂部は、前記基板の表面に対して平行な第五素子対向面であり、前記基板上には、前記第五素子対向面に対向する第五超音波素子が配設されていることが好ましい。
【0018】
この発明では、第五素子対向面と、第五超音波素子とにより、超音波反射体のZ軸方向の移動量を算出することが可能となる。
ここで、上記したように、XZ移動ベクトルやYZ移動ベクトルから、超音波反射体のZ軸方向の移動量を算出することができるが、基板に最も近い位置の頂部(第五素子対向面)の移動量を第五超音波素子により算出することで、超音波反射体のZ軸方向への移動量をより高精度に検出することができる。このような第五素子対向面および第五超音波素子により検出された超音波反射体のZ軸方向への移動量を用いて、超音波反射体のX軸方向移動量やY軸方向移動量を算出することで、より精度の高い移動量を算出することができ、正圧力および剪断力を算出する際にもより精度の高い値を算出することが可能となる。
【0019】
本発明の超音波センサーでは、前記超音波反射体は、四角錐台形状であることが好ましい。
【0020】
この発明では、超音波反射体が第一〜第五素子対向面を有する四角錐台形状であるため、上記のように、超音波反射体のZ軸方向移動量、X軸方向移動量、およびY軸方向移動量を高精度に検出することができる。
また、これらの素子対向面がそれぞれ平面で構成される場合、超音波の反射面を大きくすることができる。例えば、所定面積を有する超音波素子から全方位拡散性の超音波(指向性を有さない超音波)を発信させ、球状の超音波反射体により超音波を反射させる場合、超音波反射体の表面のうち、超音波を当該超音波素子の方向に反射させることができる部分は1点のみとなる。これに対して、四角錐台形状の超音波反射体では、各超音波対向面のうち、法線方向に当該超音波素子が存在する領域内で反射された超音波が当該超音波素子に反射されて受信されることとなる。これにより、超音波の受信感度が良好となり、検出精度を向上させることができる。
【0021】
本発明の超音波センサーでは、前記基板上には、前記弾性膜、前記超音波反射体、および前記超音波反射体の複数の前記素子対向面に対向する複数の前記超音波素子により構成されたセンサー本体が複数アレイ状に配置されたことが好ましい。
【0022】
この発明では、1つのセンサー本体により、そのセンサー本体内の弾性膜に接触物が接触した際の弾性膜の歪み量や応力を測定することができ、このようなセンサー本体をアレイ状に配置することで、例えば一定面積を有する接触面のどの位置に接触物が接触しても、いずれかのセンサー本体により応力を検出することができる。
【0023】
本発明の超音波センサーでは、前記基板上の隣り合う前記センサー本体の間には、空気中に超音波を発信するとともに、接触物にて反射された超音波を受信する近接検出用超音波素子が設けられたことが好ましい。
【0024】
この発明では、超音波センサーには、近接検出用超音波素子が設けられ、超音波センサーに近接する接触物までの距離を検出することができる。このような構成では、例えば、近接検出用超音波素子にて検出された超音波センサーと接触物との距離が、予め設定された規定値となった状態で、各超音波素子から超音波を出力させるなどの制御も可能となり、省エネルギー化を図ることも可能となる。
【0025】
本発明の触覚センサーは、上述のような超音波センサーと、前記超音波センサーの各超音波素子の超音波の発信および受信を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0026】
この発明では、触覚センサーは、上述のような超音波センサーを備えている。したがって、制御部により、超音波センサーの超音波の送受信を制御することで、上述のように、簡単な構成で、弾性膜に接触物が接触した際の剪断力や押圧力といった応力を検出することができる。
【0027】
本発明の触覚センサーでは、前記制御部は、前記超音波素子から超音波を発信させる超音波発信制御部と、前記超音波素子の超音波の発信タイミングから、前記超音波反射体により反射された超音波が前記超音波素子により受信される受信タイミングまでの時間を計測する時間計測部と、前記時間計測部により計測された時間に基づいて、前記超音波反射体の移動量および移動方向を算出する移動量算出部と、を備えたことが好ましい。
【0028】
この発明では、超音波発信制御部により各超音波素子の超音波発信タイミングが制御され、時間計測部により、超音波発信タイミングから超音波受信タイミングまでの時間を計測し、移動量算出部により、計測された時間に基づいて、超音波反射体の移動量を算出する。
このため、各超音波素子に対して超音波発信タイミングから超音波受信タイミングまでの時間を計測することで、各超音波素子に対応する超音波反射体の素子対向面の移動ベクトルを算出することができる。したがって、上述したように、これらの移動ベクトルを合成することで、超音波反射体全体としての移動量および移動ベクトルを容易に算出することができる。
【0029】
本発明の触覚センサーでは、前記制御部は、前記移動量算出部により算出された前記超音波反射体の移動量および移動方向と、前記弾性膜のヤング率とに基づいて、前記弾性膜に作用する応力を算出する応力算出部を備えることが好ましい。
【0030】
この発明では、応力算出部は、弾性膜のヤング率と、移動量算出部により算出された超音波反射体の移動量とを乗算することで、弾性膜に作用する応力を算出する。つまり、移動量算出部により算出される超音波反射体のZ軸方向への移動量と弾性膜のヤング率とに基づいて、正圧力を算出することができ、超音波反射体のXY平面方向での移動量と弾性膜のヤング率とに基づいて、剪断力を算出することができる。
【0031】
本発明の触覚センサーでは、前記超音波センサーは、前記基板上に、前記弾性膜、前記超音波反射体、および前記超音波反射体の複数の前記素子対向面に対向する複数の前記超音波素子が配置されて構成されたセンサー本体を複数備えるとともに、これらの複数のセンサー本体がアレイ状に配置されて構成され、当該触覚センサーは、前記弾性膜に作用する応力に対する、前記弾性膜に接触した接触物の状態が記録された相関データを記憶する記憶部と、前記応力算出部により算出された前記応力と、前記相関データに基づいて、前記接触物の状態を判別する接触物判別部と、を備えることが好ましい。
【0032】
ここで、記憶部に記憶される、前記弾性膜に作用する応力に対する、前記弾性膜に接触した接触物の状態が記録された相関データとは、例えば、弾性膜に作用する応力に対する接触物の接触面の粗さが記録されたデータであってもよく、弾性膜に作用する応力に対する接触物の材質の種別が記録されたデータであってもよい。また、例えば接触物が弾性体である場合、弾性膜に作用する応力に対する弾性体の柔らかさが記録されるものであってもよい。
【0033】
この発明では、接触物判別部は、記憶部から上記のような相関データを読み出し、この相関データから、応力算出部で算出された応力に対する接触物の状態を判別する。
このような構成では、例えば、相関データとして、応力に対する接触物の接触面の粗さデータが記録されている場合、弾性膜に接触した接触物の粗さを求めることができ、粗さからさらに接触物の接触面の素材を求めることもできる。また、相関データとして、応力に対する接触物の接触面の素材が記録されている場合では、算出された応力から、直接接触物の接触面における素材を検出することもできる。さらには、相関データとして、例えば、応力に対する接触物の柔らかさデータが記録されている場合、例えばパン生地の捏ね状態などを、触覚センサーで判別して最適な捏ね状態であるか否かを判断することもできる。
【0034】
本発明の把持装置は、上述のような触覚センサーを備え、対象物を把持する把持装置であって、前記対象物を把持するとともに、前記対象物に接触する接触面に前記触覚センサーが設けられる少なくとも一対の把持アームと、前記触覚センサーから出力される信号に基づいて、前記対象物のすべり状態を検出する把持検出手段と、前記すべり状態に基づいて、前記把持アームの駆動を制御する駆動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0035】
この発明では、上記したように、触覚センサーにより、把持の対象物を把持した際の剪断力を計測することで、対象物が把持アームから滑り落ちている状態であるか、把持されている状態であるかを計測することが可能となる。すなわち、対象物を把持する動作において、対象物を十分に把持できていない状態では、動摩擦力に応じた剪断力が働き、把持力を強めるほど、この剪断力も大きくなる。一方、把持力を強め、静摩擦力に応じた剪断力が検出される状態では、対象物の把持が完了した状態であり、把持力を強めた場合でも静摩擦力は一定であるため、剪断力も変化しない。したがって、例えば、対象物の把持力を徐々に増加させ、剪断力が変化しなくなった時点を検出することで、対象物を破損させることなく、最低限の把持力のみで対象物を把持することができる。
また、上述したように、把持装置を構成する触覚センサーは、基板上に、超音波素子、超音波反射体が埋設された弾性膜を積層させただけの簡単な構成を有するものであり、容易に製造可能であり、このような触覚センサーを用いた把持装置においても、同様に簡単な構成とすることができ、製造も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る第一実施形態の触覚センサーのセンサー本体の概略構成を示す平面図である。
【図2】第一実施形態のセンサー本体をXZ平面で断面した断面図である。
【図3】第一実施形態のセンサー本体をYZ平面で断面した断面図である。
【図4】第一実施形態の触覚センサーの概略構成を示すブロック図である。
【図5】図2において、接触物が弾性膜に接触して超音波反射体が移動した状態を示す断面図である。
【図6】超音波反射体が初期状態から所定位置に移動した際の、超音波反射体の移動量を算出するための説明図である。
【図7】第一実施形態の触覚センサーの応力算出処理のフローチャートである。
【図8】第二実施形態における超音波反射体が初期状態から所定位置に移動した際の、超音波反射体の移動量を算出するための説明図である。
【図9】第三実施形態の触覚センサーにおけるセンサーアレイの構成を示す平面図である。
【図10】図9におけるセンサーアレイのうち、互いに隣接する2つのセンサー本体の断面構造を示した断面図である。
【図11】第三実施形態の触覚センサーにおける制御部の概略構成を示すブロック図である。
【図12】第四実施形態の把持装置の概略構成を示す装置ブロック図である。
【図13】第四実施形態の把持装置の把持動作における触覚センサーに作用する正圧力および剪断力の関係を示す図を示す。
【図14】第四実施形態の制御装置の制御による把持装置の把持動作を示すフローチャートである。
【図15】第四実施形態の把持装置の把持動作時において、アーム駆動部への駆動制御信号、触覚センサーから出力される検出信号の発信タイミングを示すタイミング図である。
【図16】第五実施形態に係るアイロンの概略構成を示すブロック図である。
【図17】第五実施形態のアイロンの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[第一実施形態]
以下、本発明に係る第一実施形態の触覚センサーについて、図面に基づいて説明する。
〔1.触覚センサーの構成〕
図1は、第一実施形態の触覚センサー1におけるセンサー本体10(超音波センサー)の概略構成を示す平面図であり、図2は、センサー本体10をXZ平面で断面した断面図であり、図3は、センサー本体10でYZ平面に断面した断面図である。
【0038】
触覚センサー1は、少なくとも1つ以上のセンサー本体10を備えた超音波センサーと、後述する制御部30(図4参照)と、を備えて構成されている。センサー本体10は、図1に示すように、基板11上、支持膜14、超音波素子20、および弾性膜15を積層することで構成されており、弾性膜15の内部には、超音波反射体16が埋設されている。この触覚センサー1は、弾性膜15に接触物が接触した際に加わる正圧力および剪断力を検出するセンサーである。
なお、第一実施形態では、超音波センサーとして、センサー本体10が1つ設けられた例を示すが、これに限定されず、超音波センサーとして、これらのセンサー本体10が複数設けられる構成としてもよい。また、複数のセンサー本体10がアレイ状に配設された構成を有する超音波センサーについては、後述の第三実施形態において説明する。
【0039】
(1−1.基板の構成)
基板11は、例えばSiにより形成され、厚み寸法が例えば200μmに形成されている。この基板11には、図1〜図3に示すように、1つの超音波反射体16に対して、5つの開口部111が形成されている。具体的には、図1に示すように、基板11を厚み方向から見た平面視(センサー平面視)において、超音波反射体の設置位置を原点とし、図1の左右方向にX軸、上下方向にY軸を設定した場合、開口部111は、座標位置(a,0)、(−a,0)、(0,a)、(0,−a)、(0,0)にそれぞれ設けられている。
なお、この開口部111は、基板11の厚み方向から当該基板11を見る平面視(センサー平面視)において、円形状に形成されているが、例えば矩形上などに形成されていてもよい。また、基板11厚み方向を貫通する開口部111を例示したが、例えば、基板11の弾性膜15側の面(図2、図3における上側)にエッチング等により凹状溝を形成して開口部111とする構成としてもよい。さらには、基板11上に支持膜14を形成する構成を例示したが、基板11の弾性膜15とは反対側の面(図2、図3の下側)からエッチング等により凹状溝を形成し、溝底部を支持膜14とし溝内部を開口部111とする構成としてもよい。
【0040】
(1−2.超音波素子の構成)
超音波素子20(20A,20B,20C,20D,20E)は、センサー平面視において、開口部111の内側領域に配置されている。ここで、座標(a,0)には、第一超音波素子20Aが配置され、座標(−a,0)には、第二超音波素子20Bが配置され、座標(0,a)には、第三超音波素子20Cが配置され、座標(0,−a)には、第四超音波素子20Dが配置され、座標(0,0)には、第五超音波素子20Eが配置されている。
これらの超音波素子20は、開口部111と、開口部111を閉塞する支持膜14(メンブレン141)と、膜状の圧電膜21と、圧電膜21を挟んで配置される下部電極22および上部電極23と、により構成されている。
【0041】
支持膜14は、図示は省略するが、基板11上に例えば厚み寸法が3μmに成膜されるSiO2層と、このSiO2層上に積層される厚み寸法が例えば400nmのZrO2層との2層構造により形成されている。ここで、ZrO2層は、後述する超音波素子20の焼成形成時に、圧電膜21の剥離を防止するために形成される層である。すなわち、圧電膜21が例えばPZTにより形成される場合、焼成時にZrO2層が形成されていないと、圧電膜21に含まれるPbがSiO2層に拡散して、SiO2層の融点が下がり、SiO2層の表面に気泡が生じ、この気泡によりPZTが剥離してしまう。また、ZrO2層がない場合、圧電膜21の歪みに対する撓み効率が低下するなどの問題もある。これに対して、ZrO2層がSiO2層上に形成される場合、圧電膜21の剥離、撓み効率の低下などの不都合を回避することが可能となる。
また、以降の説明において、図1に示すようなセンサー平面視において、支持膜14のうち、開口部111を閉塞する領域をメンブレン141と称す。
【0042】
圧電膜21は、例えばPZT(ジルコン酸チタン酸鉛:lead zirconate titanate)を厚み寸法が例えば500nmとなる膜状に成膜することで形成される。なお、本実施形態では、圧電膜21としてPZTを用いるが、膜の応力変化により電荷を発生することが可能な素材であれば、いかなる素材を用いてもよく、例えばチタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb、La)TiO3)、窒化アルミ(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを用いてもよい。
【0043】
下部電極22および上部電極23は、圧電膜21の膜厚み方向を挟んで形成される電極であり、下部電極22は、圧電膜21のメンブレン141に対向する面に形成され、上部電極23は、下部電極22が形成される面とは反対側の面に形成されている。
【0044】
下部電極22は、厚み寸法が例えば200nmに形成される膜状の電極であり、メンブレン141内に形成される。この下部電極22としては、導電性を有する導電薄膜であれば、いかなるものであってもよいが、本実施形態では、例えば、Ti/Ir/Pt/Tiの積層構造膜を用いる。
また、上部電極23は、厚み寸法が例えば50nmに形成される膜状の電極である。この上部電極23は、圧電膜21の上面を覆って形成される。
【0045】
また、図1に示すように、支持膜14上には、下部電極22の外周部から延出する下部電極線22A、および上部電極23の外周部から延出する上部電極線23Aが、それぞれ形成されている。これらの電極線22A,23Aは、例えば基板11の外周部に設けられる図示しない端子パッドまで引き出され、端子パッドから後述する制御部30に接続される。
【0046】
そして、このような超音波素子20は、制御部30から入力される信号(交流電圧)により振動し、弾性膜15に超音波を発信する。具体的には、制御部30から下部電極22および上部電極23間に交流電圧が印可されると、圧電膜21が印可電圧に応じて伸縮する。これにより、支持膜14が振動して超音波が弾性膜15側に発信される。なお、本実施形態では、超音波素子20から全方向に放射状に拡散する拡散型超音波が出力される。
また、超音波素子20は、弾性膜15から入力された超音波を受信して、受信信号を制御部30に出力する。具体的には、電極21,22間に電圧が印可されていない状態で、弾性膜15から超音波を入力されて支持膜14が振動すると、圧電膜21が支持膜14の振動により伸縮する。この伸縮量に応じて圧電膜21の下部電極22側および上部電極23側で電位差が発生し、下部電極22および上部電極23に圧電膜21からの電流が流れて電気信号(受信信号)が出力される。
【0047】
(1−3.弾性膜および超音波反射体の構成)
弾性膜15は、上述のような支持膜14、超音波素子20を覆って形成される膜であり、超音波素子20の保護膜としても機能する。この弾性膜15としては、本実施形態では、例えばPDMS(PolyDiMethylSiloxane)を用いるが、これに限定されず、弾性を有する合成樹脂など、その他の弾性素材により形成されるものであってもよい。また、弾性膜15の厚み寸法としては、特に限定されないが、例えば300μmに形成されている。
【0048】
また、弾性膜15の表面には、図2および図3に示すように、接触層151が形成されている。この接触層151は、接触物が接触して剪断方向に変位した際、その剪断力を弾性膜15に伝達させて歪ませるために、常に一定の摩擦係数を保つ必要があり、交換可能なフィルム材などにより形成されることが好ましい。また、超音波素子20から発信された超音波が接触層151により反射されると、弾性膜15の内部で超音波が乱反射してしまい、各超音波素子20での測定精度が低下してしまうおそれがある。このため、接触層151は、超音波を吸収または表面で散乱させる形状に形成されることが好ましい。このような接触層151としては、例えば、フェルトや不織布、内部にシリカなどを混合させて多孔質にしたポリマーを接着したPETフィルムなどを例示することができる。
【0049】
そして、座標(0,0)の位置には、弾性膜15の内部に超音波反射体16が埋設されている。この超音波反射体16は、弾性膜15と異なる音響インピーダンスを有している。したがって、弾性膜15を進む超音波は超音波反射体16の表面で反射される。
この超音波反射体16は、図1〜図3に示すように、正四角錐台形状に形成される。なお、本実施形態では、外周表面の形状が正四角錐台形状となる器状の超音波反射体16を例示するが、例えばブロック状の四角錐台形状の超音波反射体を用いてもよい。
【0050】
具体的には、超音波反射体16は、基板11に対向する頂部である第五素子対向面161Eを中心として4つの台形状の素子対向面161A〜161Dを備えている。
図1、図2に示すように、第一素子対向面161Aは、第五素子対向面161Eの+X方向側に連続し、XZ平面において+X方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度の角度で傾斜する直線と、Y軸に平行な直線とで規定される平面である。第二素子対向面161Bは、第五素子対向面161Eの−X方向側に連続し、XZ平面において−X方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度の角度で傾斜する直線と、Y軸に平行な直線とで規定される平面である。
また、図1、図3に示すように、第三素子対向面161Cは、第五素子対向面161Eの+Y方向側に連続し、YZ平面において+Y方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度の角度で傾斜する直線と、X軸に平行な直線とで規定される平面である。第四素子対向面161Dは、第五素子対向面161Eの−Y方向側に連続し、YZ平面において−Y方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度の角度で傾斜する直線と、X軸に平行な直線とにより規定される平面である。
ここで、図2、図3に示すように、超音波素子20A〜20Eは、各素子対向面161A〜161Eの法線方向上に位置するものであり、すなわち各素子対向面161A〜161Eの法線方向への射影空間内に位置している。
【0051】
(1−4.制御部の構成)
図4は、触覚センサー1の概略構成を示すブロック図である。
制御部30は、図4に示すように、素子切替回路31と、送受信切替回路32と、送受信切替制御部33と、超音波信号発信回路34と、時間計測部35と、記憶部36と、演算処理部37と、を備えている。なお、素子切替回路31、送受信切替回路32、送受信切替制御部33、および超音波信号発信回路34により本発明の超音波発信制御部が構成される。
【0052】
素子切替回路31は、センサー本体10の5つの超音波素子20のうち、駆動させる超音波素子20を切り替えるスイッチング回路である。
本実施形態の触覚センサー1では、1つの超音波素子20から超音波の送受信が実施されている間、他の超音波素子20への駆動信号の出力、および他の超音波素子20からの受信信号の受信は実施しない。これにより、駆動対象となった超音波素子20では、他の超音波素子20から発信された超音波を受信してしまい、ノイズが検出される不都合や、駆動対象以外の超音波素子20から受信信号が検出されてしまう不都合を回避できる。
この素子切替回路31は、例えば、各超音波素子20の下部電極線22Aおよび上部電極線23Aに接続される端子群を備え、送受信切替制御部33から入力される指令信号に基づいて、指令信号に対応する超音波素子20に対応した端子群と、送受信切替回路32とを接続する。また、駆動させない超音波素子20に対応した端子群は、例えば、下部電極線22Aおよび上部電極線23Aの双方をGNDに接続するなどすることで、駆動させない構成としてもよい。
【0053】
送受信切替回路32は、送受信切替制御部33から入力されるモード切替信号に基づいて、接続状態を切り替えるスイッチング回路である。
具体的には、送受信切替制御部33から超音波発信モードに切り替える旨の制御信号が入力された場合、送受信切替回路32は、超音波信号発信回路34から入力された駆動信号を、センサー本体10の超音波素子20A〜20Eに出力可能なスイッチング状態に切り替わる。
一方、送受信切替回路32は、送受信切替制御部33から超音波受信モードに切り替える旨の制御信号が入力された場合、センサー本体10の超音波素子20A〜20Eから入力される受信信号を時間計測部35に出力可能なスイッチング状態に切り替わる。
【0054】
送受信切替制御部33は、各超音波素子20から超音波を発信させる超音波発信モードと、超音波素子20にて超音波を受信させる超音波受信モードと、を切り替える。
具体的には、送受信切替制御部33は、例えば触覚センサー1の電源がON状態に切り替わると、まず、超音波発信モードに切り替える処理を実施する。この処理では、送受信切替制御部33は、送受信切替回路32に超音波発信モードに切り替える旨の制御信号を出力し、超音波信号発信回路34から駆動信号を出力させる旨の制御信号を出力する。また、送受信切替制御部33は、図示しない計時部(タイマー)により計測される時間を監視し、超音波発信モードから所定の発信時間経過後に、超音波受信モードに切り替える処理を実施する。ここで発信時間は、超音波素子20から例えば1〜2周波数のバースト波が発信される時間程度に設定されていればよい。超音波受信モードでは、送受信切替制御部33は、送受信切替回路32に超音波受信モードに切り替える旨の制御信号を出力して、送受信切替回路32を、超音波素子20から入力される受信信号を時間計測部35に入力可能な接続状態にスイッチングさせる。
【0055】
超音波信号発信回路34は、発信モードにおいて、送受信切替制御部33から駆動信号を出力させる旨の制御信号が入力されると、超音波素子20を駆動させるための駆動信号(駆動パルス)を送受信切替回路32に出力する。
【0056】
時間計測部35は、計時部にて計測される時間を監視し、超音波が受信されまでの時間を計測する。
具体的には、時間計測部35は、送受信切替制御部33が超音波発信モードに切り替える処理を実施した超音波発信タイミング、すなわち超音波素子20から超音波が発信されてからの時間をカウントする。なお、送受信切替制御部33は、超音波発信タイミングで、計時部でカウントされる時間をリセットする。そして、送受信切替制御部33が超音波受信モードに切り替える処理を実施し、超音波素子20で受信された反射超音波に応じた受信信号が送受信切替回路32から時間計測部35に入力されると、時間計測部35は、その入力されたタイミングでの時間(TOFデータ:Time Of Flightデータ)を取得する。また、取得したTOFデータは、演算処理部37に入力される。
【0057】
記憶部36は、演算処理部37の各種処理を実施するための各種プログラムや各種データなどを記憶する。
具体的には、記憶部36には、弾性膜15のヤング率、弾性膜15における超音波の音速、演算処理部37により実施される各種プログラムなどが予め記憶される。また、演算処理部37で算出された各種データが記憶される構成などとしてもよい。さらに、記憶部36には、超音波反射体16の各素子対向面161の傾斜角度が記録されてもよい。
【0058】
演算処理部37は、移動量算出部371と、応力算出部372とを備えている。具体的には、演算処理部37は、中央演算回路やメモリーなどの演算回路、記憶回路などにより構成されるものであり、例えば記憶部36に記憶される移動量算出プログラムが中央演算回路に読み出されて処理が実行されることで、移動量算出部371として機能し、記憶部36に記憶される応力算出プログラムが中央演算回路に読み出されて処理が実行されることで、応力算出部372として機能する。
【0059】
移動量算出部371は、時間計測部35から入力されたTOFデータと、記憶部36に予め記憶されている弾性膜15中での音速とに基づいて、超音波反射体の移動量、すなわち弾性膜15の歪み量を算出する。
応力算出部372は、移動量算出部371により算出された弾性膜15の歪み量と、記憶部36に予め記憶されている弾性膜15のヤング率とに基づいて、弾性膜15に作用する応力を算出する。
移動量算出部371の歪み量の算出方法(超音波反射体16の移動量算出方法)、および応力算出部372の応力算出方法の詳細については、後述する。
【0060】
〔2.触覚センサーの動作〕
次に、上記のような触覚センサー1による、正圧力および剪断力の測定動作について、図5、図6、図7に基づいて、詳細に説明する。なお、本実施形態では、弾性膜15の歪みによる超音波反射体16の回転は十分に小さく、無視出来るものとして以下説明する。また、超音波反射体16のY軸方向への移動量の検出、弾性膜15に作用するY軸方向への剪断力の検出は、X軸方向への移動量の検出、弾性膜15に作用するY軸方向への剪断力の検出と同様の処理により算出することができるため、ここでの説明は省略する。
図5は、図2において、接触物Lが弾性膜15に接触して超音波反射体16が移動した状態を示す断面図である。図6は、超音波反射体16が初期状態から所定位置に移動した際の、超音波反射体16の移動量を算出するための説明図である。図5および図6において、二点鎖線で示される超音波反射体16は、接触物Lが接触していない初期位置P0を示すものであり、実線で示される超音波反射体16は接触物Lの接触による移動位置P1を示すものである。図7は、第一実施形態の触覚センサー1における応力算出処理のフローチャートである。
【0061】
触覚センサー1による正圧力および剪断力を検出動作では、図7に示すように、まず、制御部30は、素子設定変数nを初期化(n=0)する処理を行う(ステップS1)。
この後、制御部30は、素子設定変数nに対応する超音波素子を駆動させてTOFデータを取得する処理を実施する。
【0062】
具体的には、制御部30の送受信切替制御部33は、超音波発信モードに切り替える。すなわち、送受信切替制御部33は、素子切替回路31を、第n超音波素子20への信号の送受信が可能な状態にスイッチングさせ、他の超音波素子20への駆動信号の送信、他の超音波素子20からの受信信号の受信を遮断する。また、送受信切替制御部33は、送受信切替回路32を、駆動信号を超音波素子20に出力可能な状態にスイッチングさせるとともに、超音波信号発信回路34にて駆動信号を生成させ、送受信切替回路32に出力させる。これにより、第n超音波素子20から1〜2バースト波の超音波が発信される(ステップS2)。また、この超音波発信タイミングで、送受信切替制御部33は、タイマーをリセットする。
【0063】
この後、送受信切替回路32は、超音波受信モードに切り替え、送受信切替回路32を超音波素子20から入力された受信信号を時間計測部35に出力可能な状態にスイッチングする(ステップS3)。
これにより、時間計測部35は、受信信号が入力されると、タイマーの時間を取得、すなわち、超音波が、超音波素子20から発信されて超音波反射体16により反射されて超音波素子20に戻ってくるまでの時間(TOFデータ)を取得する(ステップS4)。また、時間計測部35は、取得したTOFデータを記憶部36に記憶させる。
ここで、記憶部36には、先に記憶されたTOFデータと、新たに記憶されたTOFデータとの比較処理を実施するために、取得したTOFデータを蓄積して記憶する。例えば、記憶部36には、ループm−1回目に取得したTOFデータと、ループm回目に取得したTOFデータとが記憶される。
【0064】
次に、制御部30は、素子設定変数nの値が5(センサー本体10に設けられる超音波素子20の数)以上であるか否かを判断する(ステップS5)。
ここで、制御部30は、素子設定変数nが4以下であると判断した場合、素子設定変数nに1を加算し(ステップS6)、ステップS2〜ステップS4の処理を繰り返し実施する。
【0065】
一方、制御部30は、素子設定変数nが5であると判断すると、取得したTOFデータが、前回取得したTOFデータと比べて変動しているか否かを判断する(ステップS7)。なお、例えば電源投入時など、触覚センサー1を初めて駆動させた状態では、ループ1回目に取得したTOFデータしか記憶されていないので、ステップS1の処理に戻り、再度ステップS1〜ステップS5の処理を実施してループ2回目のTOFデータを取得する。
また、記憶部36に記憶されたTOFデータに変動がない場合、すなわち、ループm−1回目のTOFデータと、ループm回目のTOFデータとの差が予め設定された閾値の範囲内である場合、制御部30は、再びステップS1〜ステップS5の処理(ループm+1回目の処理)を実施させる。
【0066】
このステップS7において、ループm−1回目のTOFデータと、ループm回目のTOFデータとの差が閾値以上である場合、制御部30は、これらのTOFデータの変動量を算出する処理を実施する(ステップS8)。
このように、取得したTOFデータに変動がある場合、触覚センサー1は、弾性膜15に接触物Lが接触して、図5に示すように、弾性膜15が弾性変形していることを意味する。
【0067】
この後、移動量算出部371は、算出されたTOFデータの変動量に基づいて、超音波反射体16の移動量を算出する(ステップS9)
このステップS9では、以下のようにして超音波反射体16の移動量が算出される。
すなわち、超音波反射体16が初期位置P0に位置する状態でのTOFデータがT0であり、超音波反射体16が位置P1に移動した際のTOFデータがT1である場合、移動量算出部371は、次式によりTOFデータの変動量に対する移動量Mを算出する。
【0068】
[数1]
【0069】
上記式(1)において、cは、弾性膜15中の音速であり、記憶部36に予め記憶されている。
ここで、各超音波素子20(20A〜20E)から発信された超音波のうち、素子対向面161(161A〜161E)で反射されて、元の超音波素子20(20A〜20E)に戻る超音波成分は、素子対向面161(161A〜161E)に対して垂直に入射した超音波である。例えば、第一超音波素子20Aから発信された超音波のうち、第一素子対向面161Aに垂直に入射する超音波成分が、第一超音波素子20Aに向かって反射され、第一超音波素子20Aで受信される。
したがって、上記により求められる移動量Mは、各素子対向面161の法線方向への移動量であり、図6において、第一素子対向面161Aの法線方向への移動に対応する第一法線ベクトル(A)、第二素子対向面161Bの法線方向の移動に対応する第二法線ベクトル(B)で示される。
【0070】
また、本実施形態の触覚センサー1において、超音波反射体16の素子対向面161A,161Bは、X軸に対して45度の角度で傾斜している。このため、これらの図6に示すように、第一法線ベクトル(A)および第二法線ベクトル(B)の合成ベクトルが超音波反射体16のXZ平面における移動ベクトル(XZ移動ベクトル(C))となり、以下のベクトル式が成立する。
【0071】
[数2]
【0072】
したがって、移動量算出部371は、上記(2)式に示すベクトル式に基づいて、XZ移動ベクトル(C)を算出する。さらに、移動量算出部371は、このXZ移動ベクトル(C)を、X軸方向の成分であるX剪断方向ベクトル(x)と、Z軸方向の成分である正圧方向ベクトル(z)とに分解する。
ここで、X剪断方向ベクトル(x)の絶対値が超音波反射体16のX軸方向への移動量となり、弾性膜15のX軸方向への歪み量となる。また、正圧方向ベクトル(z)の絶対値が超音波反射体16のZ軸方向への移動量となり、弾性膜15のZ軸方向への歪み量となる。
【0073】
さらに、移動量算出部371は、第五超音波素子20Eから発信された超音波が第五素子対向面161Eで反射されて第五超音波素子20Eにまで戻るまでのTOFデータの変動量を算出し、式(1)に基づいて、第五素子対向面161Eの移動量を算出する。
この第五素子対向面161Eの移動量は、超音波反射体16のZ軸方向への移動量であるが、第一素子対向面161A〜第四素子対向面161Dの移動に基づいて算出された値よりも高精度な値となる。これは、第五素子対向面161Eと第五超音波素子20Eとの距離が、他の素子対向面161A〜161Dと、これらの素子対向面161A〜161Dに対応する超音波素子20A〜20Dとの距離に比べて小さく、超音波の減衰等が抑えられるためである。
したがって、移動量算出部371は、第五素子対向面161Eおよび第五超音波素子20Eにより算出した超音波反射体16のZ軸方向の測定移動量と、式(2)に基づいて算出されたZ軸方向の算出移動量とを比較し、これらの差が予め設定された規定値以上となる場合、測定移動量をZ軸方向の移動量として設定する。また、この場合、移動量算出部371は、測定移動量に基づいた正圧方向ベクトル(z)を設定し、式(2)に基づいてX剪断方向ベクトル(x)を補正する処理をしてもよい。
【0074】
なお、上記において、超音波反射体16がZX方向にのみ移動する場合を例示して、移動量算出部371により、超音波反射体16のZ軸方向への移動量(弾性膜15のZ軸方向への歪み量)および超音波反射体16のX軸方向への移動量(弾性膜15のX軸方向への歪み量)を算出したが、超音波反射体16のY軸方向への移動量も同様の手法により、算出することができる。
【0075】
つまり、移動量算出部371は、第三素子対向面161Cおよび第三超音波素子20Cにより取得されるTOFデータの変動量から第三素子対向面161Cの法線方向への移動量である第三法線ベクトルを算出し、第四素子対向面161Dおよび第四超音波素子20Dにより取得されるTOFデータの変動量から第四素子対向面161Dの法線方向への移動量である第四法線ベクトルを算出する。
また、第三素子対向面161Cおよび第四素子対向面161Dは、Y軸に対してそれぞれ45度で傾斜しているため、第三法線ベクトルおよび第四法線ベクトルの合成ベクトルが超音波反射体16のYZ移動ベクトルとなる。
したがって、移動量算出部371は、YZ移動ベクトルを算出し、このYZ移動ベクトルをさらにZ軸方向成分の正圧方向ベクトルと、Y軸方向成分のY剪断方向ベクトルに分解する。この正圧方向ベクトルが弾性膜15のZ軸方向の歪み量となり、Y剪断方向ベクトルが弾性膜15のZ軸方向の歪み量となる。
【0076】
また、移動量算出部371は、上記のように算出されたX剪断方向ベクトルおよびY剪断方向ベクトルを合成することで、XY平面内での超音波反射体16の移動方向および移動量を算出してもよい。
そして、移動量算出部371は、算出された超音波反射体16の移動量を記憶部36に記憶する。
【0077】
このステップS9の後、制御部30の応力算出部372は、弾性膜15に作用する応力を算出する(ステップS10)。
具体的には、応力算出部372は、記憶部36に記憶された弾性膜15のヤング率を読み出し、移動量算出部371により算出された弾性膜15のX軸方向への歪み量にヤング率を乗算することで、X軸方向への剪断力を算出する。
また、応力算出部372は、移動量算出部371により算出された弾性膜15のZ軸方向への歪み量にヤング率を乗算することで、正圧力を算出する。
同様にして、応力算出部372は、移動量算出部371により算出された弾性膜15のY軸方向への歪み量にヤング率を乗算することで、Y軸方向への剪断力を算出する。なお、XY平面での超音波反射体の移動量を算出した場合では、その移動量のヤング率を乗算することで、X軸方向の剪断力およびY軸方向の剪断力の合力を算出することもできる。
そして、応力算出部372は、算出された正圧力および剪断力を記憶部36に記憶する。
【0078】
〔3.第一実施形態の作用効果〕
上述したように、上記第一実施形態の触覚センサー1では、センサー本体10と、センサー本体10を制御する制御部30とを備えている。また、センサー本体10は、基板11と、基板11上に設けられる5つの超音波素子20(20A〜20E)と、これらの超音波素子20を覆う弾性膜15と、弾性膜15内に埋設される超音波反射体16とを備え、超音波反射体16は、各超音波素子20(20A〜20E)に対向する素子対向面161を備えている。
このような構成の触覚センサーでは、各超音波素子20から得られるTOFデータの変動量に基づいて、超音波反射体16の各素子対向面161の移動量および移動方向を検出することができ、これらの移動量と弾性膜15のヤング率を乗算することで、弾性膜15に作用する応力を算出することができる。
また、基板11上に超音波素子20および弾性膜15を積層するだけの構成であるため、例えば立体的な剪断力検出構造体を設ける場合などに比べて、構成を簡単にでき、生産性を向上させることができ、生産コストをも低減させることができる。
【0079】
そして、本実施形態の触覚センサー1では、超音波反射体16は、正四角錐台形状に形成されており、正四角錐台形状を構成する第一素子対向面161Aが、基板11に対向する頂部である第五素子対向面161Eの+X側に設けられ、+X方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度で傾斜し、かつY軸に平行な傾斜面により形成されている。また、正四角錐台形状を構成する第二素子対向面161Bが、第五素子対向面161Eの−X側に設けられ、−X方向に向かうに従って基板11から離れる方向に45度で傾斜し、かつY軸に平行な傾斜面により形成されている。
このような構成では、第一超音波素子20Aおよび第一素子対向面161Aにより取得されるTOFデータの変動量および第二超音波素子20Bおよび第二素子対向面161Bにより取得されるTOFデータの変動量から、第一素子対向面161Aの法線方向への移動量である第一法線ベクトル(A)および第二素子対向面161Bの法線方向への移動量である第二法線ベクトル(B)を算出することができる。また、第一素子対向面161A、第二素子対向面161BがそれぞれX軸に対して45度で傾斜しているため、移動量算出部371は、これらの第一法線ベクトル(A)および第二法線ベクトル(B)の合成ベクトルを算出するだけで、容易に超音波反射体16のXZ移動ベクトル(C)を算出することができる。また、移動量算出部371は、このXZ移動ベクトルを式(2)に示すように、正圧方向ベクトル(z)と、X剪断力方向ベクトル(x)に分解することで、弾性膜15のZ軸方向の歪み量およびX軸方向の歪み量を容易に算出することができる。
【0080】
また、同様に、第三超音波素子20Cおよび第三素子対向面161Cにより取得されるTOFデータの変動量および第四超音波素子20Dおよび第四素子対向面161Dにより取得されるTOFデータの変動量から、第三素子対向面161Cの法線方向への移動量である第三法線ベクトルおよび第四素子対向面161Dの法線方向への移動量である第四法線ベクトルを算出することができる。このため、移動量算出部371は、これらの第三法線ベクトルおよび第四法線ベクトルの合成ベクトルを算出するだけで、容易に超音波反射体16のYZ移動ベクトルを算出することができ、弾性膜15のY軸方向の歪み量を容易に算出することができる。
【0081】
さらに、同様にして、第五超音波素子20Eおよび第五素子対向面161Eにより取得されるTOFデータの変動量から、第五素子対向面161Eの法線方向への移動量、すなわち超音波反射体16のZ軸方向への移動量を直接測定することができる。
ここで、第五素子対向面161Eは、超音波反射体16のうち頂部を構成し、基板11に最も近接する位置に配置されるものであり、その直下に第五超音波素子20Eが設けられている。このため、他の素子対向面161A〜161Dと、これに対応する超音波素子20A〜20Dとの距離比べて、第五素子対向面161Eと第五超音波素子20Eとの距離は近く、弾性膜15中における超音波の減衰等がなく、精度の高いTOFデータを取得することができる。したがって、このようなTOFデータを用いて、超音波反射体16のZ軸方向の移動量を測定することで、高精度に移動量を測定することができる。
また、このような高精度に測定されたZ軸方向の移動量に基づいて、超音波反射体16のXY剪断方向の移動量を補正することもでき、より精度の高い測定を実施することができる。
【0082】
また、上述したように、正四角錐台形状の超音波反射体16を用いる構成では、各素子対向面161が平面により形成されるため、超音波の反射領域を拡大させることができる。例えば、超音波反射体として、例えば球形状を有する構造とした場合、超音波素子20から発信された超音波のうち、当該超音波素子20に反射される超音波は、球面のうちの一点により反射される超音波のみとなるため、受信信号が小さく検出精度が悪化する。円錐台形状を有する構造である場合でも、超音波素子20から発信された超音波のうち、当該超音波素子20に反射される超音波は、曲面のうちの一直線上により反射される超音波のみとなる。これに対して、四角錐台形状の超音波反射体16では、素子対向面161のうち、超音波素子20に対向する面積領域内で反射される超音波が超音波素子20に入力されるので、球面形状や円錐台形状の超音波反射体を用いる場合に比べて受信信号が大きくなり、検出精度を向上させることができる。
【0083】
そして、本実施形態の触覚センサー1では、制御部30は、超音波発信制御部を構成する送受信切替回路32、送受信切替制御部33および超音波信号発信回路34と、各超音波素子20から取得される受信信号に基づいて、TOFデータを取得する時間計測部35と、時間計測部35で取得されたTOFデータの変動量に基づいて、超音波反射体の移動量および移動方向を算出する移動量算出部371とを備えている。
このような触覚センサー1では、上述したように、時間計測部35により取得されたTOFデータに基づいて、超音波反射体16の各素子対向面161の法線方向の移動量である法線ベクトルを算出でき、これらの法線ベクトルに基づいて超音波反射体16のZ軸方向への移動量、X軸方向への移動量、Y軸方向への移動量、すなわち弾性膜15のXYZ各軸方向の歪み量をそれぞれ容易に算出することができる。
【0084】
また、制御部30は、応力算出部372を備え、移動量算出部371により算出された弾性膜15の歪み量と弾性膜15のヤング率から弾性膜15に作用する応力、すなわち弾性膜15に作用する剪断力、正圧力を容易に算出することができる。
【0085】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態の触覚センサー1について、図面に基づいて説明する。
上記第一実施形態では、超音波反射体16の第一素子対向面161Aおよび第二素子対向面161BがX軸に対して45度に傾斜し、第三素子対向面161Cおよび第四素子対向面161DがY軸に対して45度に傾斜する構成を例示した。
これに対して、第二実施形態では、超音波反射体16の第一素子対向面161Aおよび第二素子対向面161Bが、X軸に対して0度<θ<90度(θ≠45度)に形成される例を示す。なお、第三素子対向面161Cおよび第四素子対向面161DがY軸に対して0度<θ<90度(θ≠45度)に形成される場合も同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0086】
上記第一実施形態のように、θ=45度に形成される場合では、第一法線ベクトル(A)および第二法線ベクトル(B)の合成ベクトルが超音波反射体16のXZ移動ベクトルとなったが、第二実施形態のように、θ≠45度である場合、移動量算出部371は、上記ステップS9において、異なる処理によりXZ移動ベクトルを算出する。
図8は、第二実施形態における超音波反射体16が初期状態から所定位置に移動した際の、超音波反射体16の移動量を算出するための説明図である。なお、第二実施形態の触覚センサー1は、超音波反射体16の第一素子対向面161Aおよび第二素子対向面161Bの傾斜角度が異なる点を除いて、上記第一実施形態と同様の構成であるため、各構成に同符号を付し、その説明を省略する。
【0087】
第二実施形態の触覚センサー1では、弾性膜15に接触物Lが接触すると、接触物Lから弾性膜15にZ軸方向への正圧力や、XY方向に沿う剪断力を受けると、図8に示すように、弾性膜15が弾性変形して歪み、弾性膜15の内部に埋設された超音波反射体も弾性膜15の弾性変形に応じて位置が移動する。
【0088】
ここで、第一超音波素子20Aから発信された超音波のうち、第一素子対向面161Aで反射されて第一超音波素子20Aに戻る超音波成分は、第一素子対向面161Aに対して垂直に入射した超音波である。したがって、上記第一実施形態と同様に、移動量算出部371は、式(1)に基づいて、第一法線ベクトル(A)及び第二法線ベクトル(B)を算出する。
一方、超音波反射体16のXZ移動ベクトル(C)は、第一素子対向面161Aの第二素子対向面161Bの傾斜角度(第一傾斜角度θ1)に沿うベクトル成分(第一成分ベクトル(A´))と、第二素子対向面161Bの第一素子対向面161Aの傾斜角度(第二傾斜角度θ2)に沿うベクトル成分(第二成分ベクトル(B´))との合成ベクトルにより表される。
【0089】
したがって、移動量算出部371は、図8に示すように、第一法線ベクトル(A)を分解して第一成分ベクトル(A´)を算出し、第二法線ベクトル(B)を分解して第二成分ベクトル(B´)を算出する。これには、制御部30の記憶部36に、第一傾斜角度θ1、および第二傾斜角度θ2を予め記憶しておき、移動量算出部371は、これらの傾斜角度θ1,θ2を読み出し、下記式(3)により第一成分ベクトル(A´)および第二成分ベクトル(B´)を算出する。
【0090】
[数3]
【0091】
この後、移動量算出部371は、第一成分ベクトル(A´)および第二成分ベクトル(B´)を合成してXZ移動ベクトル(C)を算出し、このXZ移動ベクトル(C)を分解して、正圧方向ベクトル(z)およびX剪断方向ベクトル(x)を算出する。
【0092】
[第二実施形態の作用効果]
上記第二実施形態のような触覚センサー1でも、第一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。これに加え、第二実施形態では、超音波反射体16の各素子対向面161の傾斜角度が0度<θ<90度であるいかなる場合であっても、精度よく正圧方向ベクトル(z)およびX剪断方向ベクトル(x)を算出することができる。
したがって、例えば、超音波反射体16の傾斜角度を0度<θ<45度に設定することもでき、この場合、第一実施形態に比べて超音波反射体16のZ軸方向の厚み寸法を小さくでき、触覚センサー1のさらなる小型化を促進することができる。
【0093】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態の触覚センサーについて、図面に基づいて説明する。
図9は、第三実施形態の触覚センサーにおけるセンサーアレイの構成を示す図である。図10は、図9におけるセンサーアレイ10A(超音波センサー)のうち、互いに隣接する2つのセンサー本体10の断面構造を示した断面図である。なお、第一および第二実施形態と同様の構成については、同符号を付し、その説明を省略する。
第三実施形態の触覚センサー1Aは、第一及び第二実施形態のセンサー本体10を、X軸方向およびY軸方向に沿って均等に配置したアレイ構造を有するセンサーアレイ10Aを備えている。
【0094】
ここで、超音波センサーを構成するセンサーアレイ10Aにおいて、各センサー本体10の基板11および支持膜14は共通部材であり、1つの基板11上に支持膜14が形成され、この支持膜14上に図9に示すように、矩形上の区画に区分された各センサー本体10が形成されている。
そして、センサーアレイ10Aの互いに隣り合うセンサー本体10の間には、図10に示すように、近接検出用超音波素子40が設けられている。
【0095】
この近接検出用超音波素子40は、基板11に形成される開口部111と、開口部111を閉塞する支持膜14(メンブレン141)と、メンブレン141の内部領域に配置される膜上の圧電膜41と、圧電膜41を挟んで配置される下部電極42および上部電極43と、により構成されている。また、この近接検出用超音波素子40上には、弾性膜15は形成されない。したがって、近接検出用超音波素子40に交流電圧を印可すると、超音波は、センサーアレイ10A直上に空気を伝搬して発信される。
【0096】
ここで、圧電膜41、下部電極42、および上部電極43は、超音波素子20を構成する圧電膜21、下部電極22、および上部電極23と同様の構成素材により構成されている。また、センサー平面視において、近接検出用超音波素子40の開口部111およびメンブレン141は、超音波素子20の開口部111およびメンブレン141よりも大きい面積に形成されており、圧電膜41、下部電極42、および上部電極43も、圧電膜21、下部電極22、および上部電極23より大きい面積を有している。これにより、近接検出用超音波素子40は、超音波素子20よりも大音圧の超音波を出力可能であり、より遠方にまで超音波を送出することができる。
このような触覚センサー1Aでは、センサーアレイ10Aの直上に接触物Lが近接すると、近接検出用超音波素子40から発信された超音波は、接触物Lで反射され、近接検出用超音波素子40で受信される。
【0097】
なお、図9において、センサー本体10毎に弾性膜15が分離される構成を例示したが、これに限定されず、例えば支持膜14全体を覆う弾性膜15が設けられる構成としてもよい。この場合、近接検出用超音波素子40の直上領域のみ、弾性膜15に開口を設け、この開口から距離検出用の超音波を発信させる構成とすればよい。
【0098】
図11は、触覚センサー1Aにおける制御部30Aの概略構成を示すブロック図である。
制御部30Aは、図11に示すように、第一および第二実施形態の各構成に加え、演算処理部37は、距離算出部373を備えている。
この距離算出部373は、近接検出用超音波素子40から出力される受信信号に基づいて、時間計測部35でTOFデータが取得されると、このTOFデータに基づいて、センサーアレイ10Aと接触物Lとの距離を算出する。具体的には、制御部30Aの記憶部36には、空気中の音速が予め記憶されており、時間計測部35は、取得したTOFデータと記憶部36から読み出した空気中の音速とに基づいて、センサーアレイ10Aと接触物Lとの距離を算出する。
【0099】
また、制御部30Aの送受信切替制御部33は、触覚センサー1Aの電源がON状態にされると、触覚センサー1Aを待機モードに設定する。この待機状態では、送受信切替制御部33は、超音波素子20を停止させ、近接検出用超音波素子40のみを駆動させる。すなわち、送受信切替制御部33は、周期的に、近接検出用超音波素子40から超音波を発信させる超音波発信モードと、近接検出用超音波素子40にて反射超音波を受信させる超音波受信モードとに切り替える。なお、近接検出用超音波素子40の超音波発信モードでは、超音波信号発信回路34は、超音波素子20を駆動させるための駆動電圧より大きい駆動電圧を設定して、駆動信号として出力する。
【0100】
そして、送受信切替制御部33は、時間計測部35において近接検出用超音波素子40から出力された受信信号に基づくTOFデータが取得されると、距離算出部373により算出されるセンサーアレイ10Aと接触物Lとの距離を監視する。そして、送受信切替制御部33は、このセンサーアレイ10Aと接触物Lとの距離が予め設定された閾値以下になったことを判断すると、駆動モードに設定する。この駆動モードでは、上記第一および第二実施形態と同様に、周期的に、超音波素子20から超音波を発信させる超音波発信モードと、超音波素子20にて反射超音波を受信させる超音波受信モードとに切り替える。これにより、制御部30Aは、上記第一および第二実施形態と同様に、接触物Lが弾性膜15に接触した際の弾性膜15に作用する応力を算出する処理を実施する。この時、送受信切替制御部33は、近接検出用超音波素子40の駆動を停止させる。
そして、送受信切替制御部33は、応力算出部372により算出される応力(正圧力および剪断力)が「0」になったと判断すると、再び待機モードに移行させ、超音波素子20を停止させて、近接検出用超音波素子40を駆動させる。
【0101】
[第三実施形態の作用効果]
上記第三実施形態の触覚センサー1Aでは、上記第一実施形態の作用効果に加え、次の効果を奏することができる。すなわち、触覚センサー1Aは、複数のセンサー本体10をアレイ状に配設したセンサーアレイ10Aを備える。このため、複数のセンサー本体10により広範囲に亘って正圧力および剪断力の検出を実施することができる。
【0102】
また、隣り合うセンサー本体10間には、近接検出用超音波素子40が設けられている。このため、近接検出用超音波素子40から発信された超音波が、接触物Lにより反射されて戻ってきたか否かを判断することで、触覚センサー1A近傍に接触物Lがあるか否かを判別することができる。
さらに、制御部30Aには距離算出部373が設けられているので、近接検出用超音波素子40から出力される受信データに基づいて計測されるTOFデータを用いて、センサーアレイ10Aから接触物Lまでの距離を算出することができる。
【0103】
さらには、送受信切替制御部33は、距離算出部373により算出される接触物Lまでの距離が予め設定された閾値以上である場合に、超音波素子20の駆動を停止させ、接触物Lまでの距離が予め設定された閾値より小さくなった際に、超音波素子20を駆動させる。このように、超音波素子20の駆動を切り替えることで、省電力化を図ることができる。
【0104】
[第四実施形態]
次に、上述した触覚センサー1,1Aを用いた装置の応用例として、触覚センサー1Aを備えた把持装置について、図面に基づいて説明する。
【0105】
図12は、本発明に係る第四実施形態の把持装置の概略構成を示す装置ブロック図である。
図12において、把持装置50は、少なくとも一対の把持アーム51を備え、この把持アーム51により、接触物L(把持対象物)を把持する装置である。この把持装置50としては、例えば製品を製造する製造工場などにおいて、ベルトコンベアーなどにより搬送された対象物を把持して持ち上げる装置である。そして、この把持装置50は、前記把持アーム51と、把持アーム51を駆動するアーム駆動部52と、アーム駆動部52の駆動を制御する制御装置54と、を備えて構成されている。
【0106】
一対の把持アーム51は、それぞれ先端部に接触面である把持面53を備え、この把持面53を接触物Lに当接させて把持することで接触物Lを把持し、持ち上げる。ここで、本実施形態において、把持アーム51が一対設けられる構成を例示するが、これに限定されず、例えば3本の把持アーム51により、接触物Lを3点支持により把持する構成などとしてもよい。
【0107】
把持アーム51に設けられる把持面53は、表面には、第三実施形態において説明した触覚センサー1Aが設けられており、触覚センサー1Aの表面部の弾性膜15が露出されている。そして、把持アーム51は、この弾性膜15を接触物Lに接触させ、接触物Lに所定の圧力(正圧力)を印加することで、接触物Lを把持する。このような把持アーム51では、把持面53に設けられる触覚センサー1Aにより、接触物Lに印加する正圧力、および把持した際に接触物Lが把持面53から滑り落ちようとする剪断力を検出し、正圧力や剪断力に応じた電気信号を制御装置54に出力する。
【0108】
アーム駆動部52は、一対の把持アーム51を互いに近接離隔する方向に移動させる装置である。このアーム駆動部52としては、把持アーム51を移動可能に保持する保持部材55と、把持アーム51を移動させる駆動力を発生する駆動源56と、駆動源の駆動力を把持アーム51に伝達させる駆動伝達部57を備えている。
保持部材55は、例えば把持アーム51の移動方向に沿う案内溝を備え、この案内溝内で把持アーム51を保持することで、把持アーム51を移動可能に保持する。また、保持部材55は、鉛直方向に移動可能に設けられている。
駆動源56は、例えば駆動モーターであり、制御装置54から入力される駆動制御信号に応じて駆動力を発生させる。
駆動伝達部57は、例えば複数のギアにより構成され、駆動源56で発生した駆動力を把持アーム51および保持部材55に伝達させ、把持アーム51および保持部材55を移動させる。
なお、本実施形態では、一例として上記構成を示したが、これに限定されるものではない。すなわち、把持アーム51を保持部材55の案内溝に沿って移動させる構成に限らず、把持アームを回動可能に保持する構成などとしてもよい。駆動源56としても駆動モーターに限られず、例えば油圧ポンプなどにより駆動される構成としてもよく、駆動伝達部57としても、例えば駆動力を歯車により伝達する構成に限らず、ベルトやチェーンにより伝達する構成、油圧などにより駆動されるピストンを備えた構成などとしてもよい。
【0109】
制御装置54は、把持アーム51の把持面53に設けられる触覚センサー1A、およびアーム駆動部52に接続され、把持装置50における接触物Lの把持動作の全体を制御する。
具体的には、制御装置54は、図12に示すように、アーム駆動部52および触覚センサー1Aに接続され、把持装置50の全体動作を制御する。この制御装置54は、触覚センサー1Aから入力される剪断力検出信号、および正圧力検出信号を読み取る信号検出手段541、接触物Lの滑り状態を検出する把持検出手段542、およびアーム駆動部52に把持アーム51の駆動を制御するための駆動制御信号を出力する駆動制御手段543を備えている。また、この制御装置54としては、例えばパーソナルコンピューターなどの汎用コンピューターを用いることもでき、例えばキーボードなどの入力装置や、接触物Lの把持状態を表示させる表示部などを備える構成としてもよい。
また、信号検出手段541、把持検出手段542、および駆動制御手段543は、プログラムとして例えばメモリーなどの記憶部に記憶され、CPUなどの演算回路により適宜読み出されて実行されるものであってもよく、例えばICなどの集積回路により構成され、入力された電気信号に対して所定の処理を実施するものであってもよい。
【0110】
信号検出手段541は、触覚センサー1Aに接続され、触覚センサー1Aから入力される正圧力検出信号や剪断力検出信号などを取得する。この信号検出手段541にて認識された検出信号は、例えば図示しないメモリーなどの記憶部に出力されて記憶されるとともに、把持検出手段542に出力される。
【0111】
把持検出手段542は、剪断力検出信号に基づいて、把持アーム51により接触物Lを把持したか否かを判断する。
ここで、図13に、把持装置50の把持動作における触覚センサーに作用する正圧力および剪断力の関係を示す図を示す。
図13において、正圧力が所定値に達するまでは、正圧力の増加に応じて剪断力が増加する。この状態は、接触物Lと把持面53との間に動摩擦力が作用している状態であり、把持検出手段542は、接触物Lが把持面53から滑り落ちている滑り状態で、把持が未完了であると判断する。一方、正圧力が所定値以上となると、正圧力を増大させても剪断力が増加しない状態となる。この状態は、接触物Lと把持面53との間に静摩擦力が作用している状態であり、把持検出手段542は、接触物Lが把持面53により把持された把持状態であると判断する。
具体的には、剪断力検出信号の値が、静摩擦力に対応した所定の閾値を越える場合に、把持が完了したと判断する。
【0112】
駆動制御手段543は、把持検出手段542にて検出された電気信号に基づいてアーム駆動部52の動作を制御する。
【0113】
次に、制御装置54の動作について図面に基づいて説明する。
図14は、制御装置54の制御による把持装置50の把持動作を示すフローチャートである。図15は、把持装置50の把持動作時において、アーム駆動部52への駆動制御信号、触覚センサー1Aから出力される検出信号の発信タイミング示すタイミング図である。
【0114】
把持装置50で接触物Lを把持するためには、まず制御装置54の駆動制御手段543は、各把持アーム51を互いに近接させる方向に移動させる旨の駆動制御信号をアーム駆動部52に出力する(把持動作)。これにより、把持アーム51の把持面53が接触物Lに近接する(図14:ステップS11)。
【0115】
次に、制御装置54の把持検出手段542は、接触物Lが把持面53に接触したか否かを判断する(図14:ステップS12)。具体的には、制御装置54は、信号検出手段541で正圧力検出信号の入力が検知されたか否かを判断する。ここで、正圧力検出信号が検出されない場合は、把持面53が接触物Lに接触していないと判断し、駆動制御手段543は、ステップS11を継続して、駆動制御信号を出力し、把持アーム51をさらに駆動させる。
【0116】
一方、把持面53が接触物Lに接触する(図15:タイミングT1)と、触覚センサー1Aの弾性膜15が歪み、その歪み量に基づいて算出された正圧力に対応する正圧力検出信号が出力される。
駆動制御手段543は、把持検出手段542において、正圧力検出信号を検出すると、把持アーム51の近接移動(接触物Lへの押圧)を停止させる(図14:ステップS13、図15:タイミングT2)。また、駆動制御手段543は、アーム駆動部52に駆動制御信号を出力し、把持アーム51を上方に持ち上げる動作(持上げ動作)を実施させる(図14:ステップS14、図15:タイミングT2〜T3)。
【0117】
ここで、接触物Lを持ち上げる際に、弾性膜15が剪断力により剪断方向に歪み、触覚センサー1Aでは、その歪み量に応じた剪断力が算出され、その剪断力に対応する剪断力検出信号が出力される。
把持検出手段542は、信号検出手段541に入力される剪断力検出信号に基づいて、滑りがあるか否かを判断する(ステップS15)。
【0118】
この時、把持検出手段542において、滑りがあると判断されると、駆動制御手段543は、アーム駆動部52を制御して、把持アーム51を、把持面53を接触物Lに押し付ける方向に移動させて、把持力(正圧力)を増大させる(図14:ステップS16)。
すなわち、制御装置54は、図15におけるタイミングT3において、駆動制御手段543にて把持動作を実施させ、接触物Lへの正圧力を増大させ、信号検出手段541にて、再び触覚センサー1Aから出力される剪断力検出信号を検出する。以上のような滑り検知動作(タイミングT2〜T6)を繰り返し、剪断力検出信号が、所定の閾値S1以上となった場合(タイミングT6)に、ステップS15において、滑りがない、すなわち把持が完了したと判断し、滑り検知動作を停止させる。
【0119】
[第四実施形態の作用効果]
上述したような第四実施形態の把持装置50では、上記第三実施形態の触覚センサー1Aを備えている。このような触覚センサー1Aは、上述したように、任意位置における剪断力および正圧力を容易に精度よく検出することができるものであるため、把持装置50においても精度の高い剪断力検出信号および正圧力検出信号に基づいて、正確な把持動作を実施することができる。
また、このような触覚センサー1Aでは、X軸方向およびY軸方向の双方に対して剪断力を検出することができる。したがって、第四実施形態では、接触物Lを持ち上げる際の剪断力を測定したが、例えばベルトコンベアー上で搬送される対象物に対して把持を実施する際に、搬送方向への剪断力をも測定することができる。
【0120】
[第五実施形態]
上記第四実施形態では、触覚センサー1Aが設けられた把持装置を、触覚センサーを備えた装置の一例として例示したが、これに限定されない。
第五実施形態では、触覚センサー1,1Aを用いた装置の他の応用例として、触覚センサー1Aを備えたアイロンについて、図面に基づいて説明する。
図16は、第五実施形態のアイロンの概略構成を示すブロック図である。
【0121】
アイロン60は、ヒーター61と、ベース部62と、ベース部62に設けられた温度センサー63と、ベース部62に設けられた触覚センサー1Aと、ヒーター駆動回路64と、を備えている。このアイロン60のヒーター駆動回路64は、温度センサー63および触覚センサー1Aからの信号に基づいてヒーター61に印加する電圧を制御し、ベース部62を対象布地に対して最適な温度に加熱する。
【0122】
ヒーター61は、ヒーター駆動回路64から印可された電圧により発熱し、ベース部62を加熱する。
ベース部62は、対象布地に接触して、対象布地の皺を伸ばす部分であり、ヒーター61により加熱される。そして、このベース部62の一部には、図16に示すように、触覚センサー1Aが設けられ、触覚センサー1Aの弾性膜15が、対象布地に接触可能に露出されている。
また、ベース部62には、温度センサー63が設けられており、この温度センサー63は、ベース部62の温度を検出してヒーター駆動回路64に出力する。
【0123】
ヒーター駆動回路64は、触覚センサー1A、温度センサー63、およびヒーター61に接続され、触覚センサー1Aおよび温度センサー63からの信号に基づいてヒーター61に印加する電圧を制御する。このヒーター駆動回路64は、図16に示すように、本発明の記憶部であるメモリー641と、信号検出部642と、布地判別部643と、温度制御部644と、を備えている。
このヒーター駆動回路64としては、例えばCPU等の演算回路や、記憶回路を備えたコンピューターとして構成され、布地判別部643や温度制御部644が、演算回路による演算処理により実行されるソフトウェアとして機能される構成としてもよく、例えばICなどの集積回路により構成され、入力された電気信号に対して所定の処理を実施するものであってもよい。
【0124】
メモリー641は、本発明の相関データである応力−粗さ値データを記憶している。この応力−粗さ値データには、触覚センサー1Aにより検出された応力に応じた、対象布地の粗さ値が記録されているデータであり、例えば、剪断力に対応する粗さ値が、正圧力毎に記録されている。
また、メモリー641には、粗さ値に対応したベース部62の最適温度が記録された粗さ−温度データが記憶されていてもよい。
【0125】
信号検出部642は、触覚センサー1Aに接続され、触覚センサー1Aから入力される正圧力検出信号や剪断力検出信号などを取得する。この信号検出部642にて検出された検出信号は、メモリー641に出力されて記憶されるとともに、布地判別部643に出力される。
【0126】
布地判別部643は、信号検出部642から入力された剪断力および正圧力、およびメモリー641に記憶された応力−粗さ値データに基づいて、対象布地の種別を判別する。
例えば、本実施形態では、応力−粗さ値データとして、正圧力毎に、剪断力に対応する粗さが記憶されている。この場合では、布地判別部643は、正圧力に対応した応力−粗さ値データをメモリー641から読み出し、この応力−粗さ値データから剪断力に対応した粗さ値を取得する。
そして、布地判別部643は、取得した粗さ値を温度制御部644に出力する。
【0127】
温度制御部644は、布地判別部643から入力された粗さ値、および温度センサー63により検出されるベース部62の温度に基づいて、ヒーター61への印加電圧を制御する。
具体的には、温度制御部644は、メモリー641から粗さ−温度データを読み出し、布地判別部643から入力された粗さ値に応じたベース部62の最適温度を取得する。そして、温度制御部644は、温度センサー63から入力された検出温度と最適温度との差分値から、ベース部62を最適温度に設定するために必要なヒーター61への印加電圧値を算出して、ヒーター61に印加する。
【0128】
[アイロンの動作]
次に、上記のようなアイロン60の動作について説明する。
図17は、第五実施形態のアイロンの動作を示すフローチャートである。
利用者によりアイロン60に電力が供給されると、触覚センサー1Aの近接検出用超音波素子40が駆動される。これにより、上記第三実施形態において説明したように、触覚センサー1Aは、対象布地と触覚センサー1A(ベース部62)との距離を算出する。そして、対象布地とベース部62との距離が予め設定された距離以内になると、触覚センサー1Aは、駆動モードに移行する(ステップS21)。
【0129】
この後、アイロン60のヒーター駆動回路64は、対象布地がベース部62に接触したか否かを判断する(ステップS22)。具体的には、ヒーター駆動回路64は、信号検出部642で正圧力検出信号の入力が検知されたか否かを判断する。ここで、正圧力検出信号が検出されない場合は、ベース部62に対象布地が接触していないと判断する。この場合は、ヒーター駆動回路64は、ステップS22を継続し、対象布地とベース部62との接触判断処理を継続する。
【0130】
また、ステップS22において、信号検出部642が正圧力検出信号の入力が検知した場合、さらに、剪断力検出信号の入力を検出し、剪断力の大きさが0より大きいか否かを判断する(ステップS23)。
つまり、正圧力の大きさは、利用者がアイロン60を対象布地に押し付ける強さにより変化するため、正圧力のみでは対象布地の種別を判別することはできない。したがって、剪断力の大きさが0である場合は、継続してステップS23の処理を実行する。
一方、ステップS23により、剪断力検出信号により検出された剪断力の大きさが0より大きい場合、布地判別部643は、メモリー641から、正圧力に対応した応力−粗さ値データを読み出し、剪断力に対応した粗さ値を取得する(ステップS24)。
【0131】
この後、温度制御部644は、メモリー641から粗さ−温度データを読み出し、ステップS24で取得された粗さ値に対応した温度を取得し、最適温度として設定する(ステップS25)。
さらに、温度制御部644は、温度センサー63により検出された検出温度と、ステップS25により設定された最適温度との差分値から、ベース部62を最適温度に設定するために必要なヒーター61への印可電圧値を算出し、ヒーター61にその電圧値を印可する(ステップS26)。
これにより、アイロン60は、対象布地の種別に応じて、ベース部62の温度を、自動で設定することが可能となる。
【0132】
[第五実施形態の作用効果]
上述したような第五実施形態のアイロン60では、上記第三実施形態の触覚センサー1Aを備えている。このような触覚センサー1Aは、上述したように、任意位置における剪断力および正圧力を容易に精度よく検出することができるものであるため、アイロン60においても、ベース部62に対象布地が接触した際の正圧力および剪断力を高精度で検出することができる。
【0133】
そして、アイロン60のヒーター駆動回路64は、布地判別部643により、検出された正圧力および剪断力に対応した、対象布地の粗さを判別することができる。したがって、判断された対象布地の粗さから、対象布地の種別を判断することができ、温度制御部644は、布地の種別に対応してベース部62の温度を設定することができる。したがって、アイロン60において、布地に対応してベース部62の温度を自動で設定することができ、対象布地の種別に応じて、温度設定を変更する煩雑な作業を省略することができる。
【0134】
なお、上記第五実施形態では、メモリー641に、正圧力および剪断力に応じた粗さ値が記録された応力−粗さ値データを記憶する例を示したが、例えば、正圧力および剪断力に応じた対象布地の種類を記録した応力−布地種別データがメモリー641に記憶される構成などとしてもよい。この場合では、布地判別部643は、正圧力および剪断力に応じて、対象布地の種別を直接判別し、温度制御部644は、判別された布地の種別に対応した温度を取得する。
また、相関データとして、正圧力および剪断力に対応したベース部62の最適温度が記憶された応力−温度データが記憶されていてもよく、この場合では、粗さ−温度データを記憶する必要がなくなり、より少ないデータ量で、ベース部62の温度を自動で設定可能なアイロン60を提供することができる。
【0135】
さらに、上記アイロン60では、ヒーター駆動回路64により自動でベース部62の温度が設定される例を示したが、例えば、ベース部62の温度を自動設定する自動モードと、手動により温度を設定する手動モードと、を適宜切り替え可能な構成としてもよい。
【0136】
〔その他の実施形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0137】
例えば、上記実施形態において、正四角錐形状の超音波反射体16が設けられた触覚センサー1,1Aを例示したが、これに限定されず、例えば球面形状や円錐台形状に形成されるものであってもよい。ただし、この場合、上述したように、超音波の反射位置が狭くなり受信信号が小さくなるので、例えば超音波の出力値を増大させたり、受信信号を増幅させる増幅回路を別途設けたりする必要がある。
【0138】
また、正四角錐台形状の超音波反射体16を用いることで、X軸方向、およびX軸方向に直交するY軸方向に沿った剪断力を検出可能な構成としたが、例えば、超音波反射体16を弾性膜15の厚みに対して直交する方向に断面した断面形状がひし形状となるものであってもよい。この場合、X軸方向と、X軸方向に交差するY´軸方向とに作用する剪断力をそれぞれ算出することができる。
また、検出すべき剪断力の方向が予め決まっており、その方向が一方向のみである場合では、2つの素子対向面を有する超音波反射体と、各素子対向面に対向する2つの超音波素子とが設けられていればよく、より構成を簡単にできる。
さらに、検出対象となる剪断力の方向が予め決まっており、その方向が3方向以上である場合、これらの各方向に対してそれぞれ一対の素子対向面を有する多角錐台形状の超音波反射体を用いてもよい。
【0139】
そして、上記実施形態では、超音波反射体16には、頂部に第五素子対向面161Eが設けられ、基板11には、第五素子対向面161Eに対向する第五超音波素子20Eが設けられる構成としたが、第五素子対向面161Eや第五超音波素子20Eが設けられない構成、例えば四角錐形状の超音波反射体を用いてもよい。このような構成では、上述したように、正圧力に対して第一〜第四素子対向面161A〜161Dおよび第一〜第四超音波素子20A〜20Dにより取得されるTOFデータに基づいて算出することが可能であり、かつ第五超音波素子20Eが設けられない分、構成をより簡略化することができる。また、超音波反射体16に第五素子対向面161Eが設けられない構成とすることで、超音波反射体16の体積をも小型化でき、触覚センサー1,1Aの小型化を図ることができる。
【0140】
また、上記第一から第四実施形態の触覚センサー1,1Aでは、1つの超音波素子20から放射状に拡散する超音波を発信する構成を例示したが、例えば、各超音波素子20の代わりに、複数の超音波素子をアレイ状に配列した超音波アレイを配置する構成としてもよい。このような超音波アレイでは、各超音波素子から超音波を発信させるタイミングを遅延させることで、所望の方向に平面波として伝搬するビーム状の超音波を発信可能となる。したがって、各超音波アレイから、これらの超音波アレイに対応した素子対向面に向かって超音波を発信させてもよい。このような構成では、弾性膜15の歪みが大きく、超音波反射体16が大きく変位した場合、各超音波素子の駆動タイミングを調整して、超音波の発信角度を適宜調整する必要が生じるが、複数の超音波素子から発信される超音波が互いに強め合うことで、大音圧の超音波を発信させることが可能となる。このため、各超音波アレイにおいて、大きい反射超音波を受信することができ、信号検出精度を向上させることができる。また、大音圧の超音波を発信することができるため、超音波反射体16として、球形状や円錐台形状のものを用いた場合でも、比較的大きい音圧の反射超音波を受信することができる。
【0141】
また、第三実施形態において、センサーアレイ10A内に配置される各センサー本体10は、基板11および支持膜14が共通部材とされる構成としたが、例えばセンサー本体10毎に基板11および支持膜14が設けられる構成としてもよい。この場合、例えば、別途センサー載置用基板を用意し、このセンサー載置用基板にセンサー本体10をアレイ状に配置することでセンサーアレイを構成すればよい。
【0142】
さらに、第四実施形態において、把持装置50として、一対の把持アーム51が設けられる構成を例示したが、3本以上の把持アームを互いに近接離間する方向に移動させて接触物Lを把持する構成としてもよい。また、アーム駆動部により駆動される駆動アームと、駆動しない固定アームまたは固定壁とを備え、駆動アームを固定アーム(固定壁)側に移動させて対象物を把持する構成などとしてもよい。
【0143】
さらには、第四実施形態では、触覚センサー1Aを、接触物Lを把持する把持装置50に適用する例を示し、第五実施形態では、触覚センサー1Aを備えたアイロン60を例示したが、これに限定されない。例えば、触覚センサー1Aを、例えば入力装置などとして適用してもよい。入力装置として用いる場合は、例えばノート型パソコンや、パーソナルコンピューターに組み込むことができる。具体的には、板状の入力装置本体に設けられる表面部に触覚センサー1Aを設ける構成などが例示できる。このような入力装置では、表面部上で利用者の指を動かしたり、タッチペンなどを動かしたりすると、これらの動きにより剪断力や正圧力が発生する。この剪断力および正圧力を触覚センサー1Aにより検出することで、利用者の指やタッチペンの接触位置座標、移動方向を検出して電気信号として出力することができる。
また、接触物判別部として、メモリー641に記憶された応力−粗さデータに基づいて、布地の種別(粗さ値)を判別する布地判別部643を例示したが、これに限らない。例えば、触覚センサー1,1Aを、パン製造装置に設け、パン生地の柔らかさ(捏ね状態)を判断する接触物判別部を設ける構成としてもよい。この場合、接触部判別部は、パン生地に対して加えた応力と、その応力に対して最適弾性力との関係データをメモリーに記憶する。そして、接触物判別部は、触覚センサー1,1Aで検出された正圧力や剪断力が、最適弾性力を中心とした所定閾値以内であれば、捏ね状態が最適であると判断する。このような構成のパン製造装置では、パン生地の捏ね状態を一定に維持することができ、安定した品質のパン生地を製造することができる。
【0144】
上記各実施形態において、基板11上に複数の超音波素子20を配置した触覚センサー1,1Aを例示したが、これに限定されない。すなわち、超音波素子20は、基板11の上方に配置されていればよく、例えば基板11上に中間層を積層し、その上に超音波素子20が配置される構成などとしてもよい。
また、超音波素子20上に、弾性膜15と同一音響インピーダンスを有する保護膜を積層して、その保護膜上に弾性膜15が積層される構成などとしてもよい。
【0145】
以上、本発明を実施するための最良の構成について具体的に説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、当業者が様々な変形および改良を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0146】
1,1A…触覚センサー、10…センサー本体、11…基板、15…弾性膜、16…超音波反射体、20…超音波素子、20A…第一超音波素子、20B…第二超音波素子、20C…第三超音波素子、20D…第四超音波素子、20E…第五超音波素子、30,30A…制御部、31…超音波発信制御部を構成する素子切替回路、32…超音波発信制御部を構成する送受信切替回路、33…超音波発信制御部を構成する送受信切替制御部、34…超音波発信制御部を構成する超音波信号発信回路、35…時間計測部、40…近接検出用超音波素子、50…把持装置、51…把持アーム、53…接触面である把持面、161…素子対向面、161A…第一素子対向面、161B…第二素子対向面、161C…第三素子対向面、161D…第四素子対向面、161E…頂部である第五素子対向面、371…移動量算出部、372…応力算出部、542…把持検出手段、543…駆動制御手段、641…記憶部を構成するメモリー、643…接触物判別部を構成する布地判別部、L…接触物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた複数の超音波素子と、
前記複数の超音波素子と接して配置される弾性変形可能な弾性膜と、
前記弾性膜の内部に設けられ、超音波を反射可能な超音波反射体と、
を備え、
前記超音波反射体は、前記超音波素子に対向する素子対向面を、前記複数の超音波素子の各々に対応して複数有する
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波センサーにおいて、
前記基板の表面に沿う一軸をX軸とし、前記基板の表面に沿い、X軸に直交する方向をY軸およびZ軸とした際に、
前記超音波反射体は、
前記基板に最も近い位置に位置する頂部と、
前記頂部からX軸における+X方向に連続して設けられる第一素子対向面と、
前記頂部からX軸における−X方向に連続して設けられる第二素子対向面と、
を有し、
前記第一素子対向面は、Y軸に対して平行な直線と、XZ平面で+X方向に向かうに従って前記基板から離れる第一傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、
前記第二素子対向面は、Y軸に対して平行な直線と、XZ平面で−X方向に向かうに従って前記基板から離れる第二傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、
前記基板上には、前記第一素子対向面に対向する第一超音波素子、および前記第二素子対向面に対向する第二超音波素子がX軸に沿って配設されている
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波センサーにおいて、
前記第一傾斜角度および前記第二傾斜角度は、X軸に対して45度である
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の超音波センサーにおいて、
前記超音波反射体は、
前記頂部からY軸における+Y方向に連続して設けられる第三素子対向面と、
前記頂部からY軸における−Y方向に連続して設けられる第四素子対向面と、
を有し、
前記第三素子対向面は、X軸に対して平行な直線と、YZ平面で+Y方向に向かうに従って前記基板から離れる第三傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、
前記第四素子対向面は、X軸に対して平行な直線と、YZ平面で−Y方向に向かうに従って前記基板から離れる第四傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、
前記基板上には、前記第三素子対向面に対向する第三超音波素子、および前記第四素子対向面に対向する第四超音波素子がY軸に沿って配設されている
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波センサーにおいて、
前記第三傾斜角度および前記第四傾斜角度は、Y軸に対して45度である
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれかに記載の超音波センサーにおいて、
前記頂部は、前記基板の表面に対して平行な第五素子対向面であり、
前記基板上には、前記第五素子対向面に対向する第五超音波素子が配設されている
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波センサーにおいて、
前記超音波反射体は、四角錐台形状である
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の超音波センサーにおいて、
前記基板上には、
前記弾性膜、前記超音波反射体、および前記超音波反射体の複数の前記素子対向面に対向する複数の前記超音波素子により構成されたセンサー本体が複数アレイ状に配置された
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波センサーにおいて、
前記基板上の隣り合う前記センサー本体の間には、空気中に超音波を発信するとともに、接触物にて反射された超音波を受信する近接検出用超音波素子が設けられた
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の超音波センサーと、
前記超音波センサーの各超音波素子の超音波の発信および受信を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする触覚センサー。
【請求項11】
請求項10に記載の触覚センサーおいて、
前記制御部は、
前記超音波素子から超音波を発信させる超音波発信制御部と、
前記超音波素子の超音波の発信タイミングから、前記超音波反射体により反射された超音波が前記超音波素子により受信される受信タイミングまでの時間を計測する時間計測部と、
前記時間計測部により計測された時間に基づいて、前記超音波反射体の移動量および移動方向を算出する移動量算出部と、
を備えたことを特徴とする触覚センサー。
【請求項12】
請求項11に記載の触覚センサーにおいて、
前記制御部は、
前記移動量算出部により算出された前記超音波反射体の移動量および移動方向と、前記弾性膜のヤング率とに基づいて、前記弾性膜に作用する応力を算出する応力算出部を備える
ことを特徴とする触覚センサー。
【請求項13】
請求項12に記載の触覚センサーにおいて、
前記超音波センサーは、前記基板上に、前記弾性膜、前記超音波反射体、および前記超音波反射体の複数の前記素子対向面に対向する複数の前記超音波素子が配置されて構成されたセンサー本体を複数備えるとともに、これらの複数のセンサー本体がアレイ状に配置されて構成され、
当該触覚センサーは、
前記弾性膜に作用する応力に対する、前記弾性膜に接触した接触物の状態が記録された相関データを記憶する記憶部と、
前記応力算出部により算出された前記応力と、前記相関データに基づいて、前記接触物の状態を判別する接触物判別部と、
を備えたことを特徴とする触覚センサー。
【請求項14】
請求項10から請求項13のいずれかに記載の触覚センサーを備え、対象物を把持する把持装置であって、
前記対象物を把持するとともに、前記対象物に接触する接触面に前記触覚センサーが設けられる少なくとも一対の把持アームと、
前記触覚センサーから出力される信号に基づいて、前記対象物のすべり状態を検出する把持検出手段と、
前記すべり状態に基づいて、前記把持アームの駆動を制御する駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする把持装置。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた複数の超音波素子と、
前記複数の超音波素子と接して配置される弾性変形可能な弾性膜と、
前記弾性膜の内部に設けられ、超音波を反射可能な超音波反射体と、
を備え、
前記超音波反射体は、前記超音波素子に対向する素子対向面を、前記複数の超音波素子の各々に対応して複数有する
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波センサーにおいて、
前記基板の表面に沿う一軸をX軸とし、前記基板の表面に沿い、X軸に直交する方向をY軸およびZ軸とした際に、
前記超音波反射体は、
前記基板に最も近い位置に位置する頂部と、
前記頂部からX軸における+X方向に連続して設けられる第一素子対向面と、
前記頂部からX軸における−X方向に連続して設けられる第二素子対向面と、
を有し、
前記第一素子対向面は、Y軸に対して平行な直線と、XZ平面で+X方向に向かうに従って前記基板から離れる第一傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、
前記第二素子対向面は、Y軸に対して平行な直線と、XZ平面で−X方向に向かうに従って前記基板から離れる第二傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、
前記基板上には、前記第一素子対向面に対向する第一超音波素子、および前記第二素子対向面に対向する第二超音波素子がX軸に沿って配設されている
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波センサーにおいて、
前記第一傾斜角度および前記第二傾斜角度は、X軸に対して45度である
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の超音波センサーにおいて、
前記超音波反射体は、
前記頂部からY軸における+Y方向に連続して設けられる第三素子対向面と、
前記頂部からY軸における−Y方向に連続して設けられる第四素子対向面と、
を有し、
前記第三素子対向面は、X軸に対して平行な直線と、YZ平面で+Y方向に向かうに従って前記基板から離れる第三傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、
前記第四素子対向面は、X軸に対して平行な直線と、YZ平面で−Y方向に向かうに従って前記基板から離れる第四傾斜角度で傾斜した直線と、で規定される平面であり、
前記基板上には、前記第三素子対向面に対向する第三超音波素子、および前記第四素子対向面に対向する第四超音波素子がY軸に沿って配設されている
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波センサーにおいて、
前記第三傾斜角度および前記第四傾斜角度は、Y軸に対して45度である
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれかに記載の超音波センサーにおいて、
前記頂部は、前記基板の表面に対して平行な第五素子対向面であり、
前記基板上には、前記第五素子対向面に対向する第五超音波素子が配設されている
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波センサーにおいて、
前記超音波反射体は、四角錐台形状である
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の超音波センサーにおいて、
前記基板上には、
前記弾性膜、前記超音波反射体、および前記超音波反射体の複数の前記素子対向面に対向する複数の前記超音波素子により構成されたセンサー本体が複数アレイ状に配置された
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波センサーにおいて、
前記基板上の隣り合う前記センサー本体の間には、空気中に超音波を発信するとともに、接触物にて反射された超音波を受信する近接検出用超音波素子が設けられた
ことを特徴とする超音波センサー。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の超音波センサーと、
前記超音波センサーの各超音波素子の超音波の発信および受信を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする触覚センサー。
【請求項11】
請求項10に記載の触覚センサーおいて、
前記制御部は、
前記超音波素子から超音波を発信させる超音波発信制御部と、
前記超音波素子の超音波の発信タイミングから、前記超音波反射体により反射された超音波が前記超音波素子により受信される受信タイミングまでの時間を計測する時間計測部と、
前記時間計測部により計測された時間に基づいて、前記超音波反射体の移動量および移動方向を算出する移動量算出部と、
を備えたことを特徴とする触覚センサー。
【請求項12】
請求項11に記載の触覚センサーにおいて、
前記制御部は、
前記移動量算出部により算出された前記超音波反射体の移動量および移動方向と、前記弾性膜のヤング率とに基づいて、前記弾性膜に作用する応力を算出する応力算出部を備える
ことを特徴とする触覚センサー。
【請求項13】
請求項12に記載の触覚センサーにおいて、
前記超音波センサーは、前記基板上に、前記弾性膜、前記超音波反射体、および前記超音波反射体の複数の前記素子対向面に対向する複数の前記超音波素子が配置されて構成されたセンサー本体を複数備えるとともに、これらの複数のセンサー本体がアレイ状に配置されて構成され、
当該触覚センサーは、
前記弾性膜に作用する応力に対する、前記弾性膜に接触した接触物の状態が記録された相関データを記憶する記憶部と、
前記応力算出部により算出された前記応力と、前記相関データに基づいて、前記接触物の状態を判別する接触物判別部と、
を備えたことを特徴とする触覚センサー。
【請求項14】
請求項10から請求項13のいずれかに記載の触覚センサーを備え、対象物を把持する把持装置であって、
前記対象物を把持するとともに、前記対象物に接触する接触面に前記触覚センサーが設けられる少なくとも一対の把持アームと、
前記触覚センサーから出力される信号に基づいて、前記対象物のすべり状態を検出する把持検出手段と、
前記すべり状態に基づいて、前記把持アームの駆動を制御する駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする把持装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−141255(P2012−141255A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−976(P2011−976)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]