説明

車両制御装置

【課題】 車輪のジャイロモーメントに起因する車両振動を抑制する技術を提案することを目的とする。
【解決手段】 サスペンションのストローク速度、車輪の上方に位置するバネ上部材の速度、およびバネ上部材のロール方向の角速度がセンサによって検出され(S1〜S3)、それらの検出値に基づいて車輪のキャンバ角の角速度が推定される(S4)。そして、センサによって検出された車輪の走行回転角速度(S5)と、車輪のキャンバ角の角速度とに基づいて、キングピン軸回りのジャイロモーメントが推定される(S6)。推定されたジャイロモーメントに基づいて振動を抑制するための車輪制駆動力が算出され(S7)、対応するインホイールモータが制御される(S8、S9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関し、特に車両の振動を抑制する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
路面からの入力、車輪装着のアンバランス、あるいは車輪重量のアンバランスなどの影響により車両走行時の車輪には振動が生じ、そのような車輪の振動は、車輪に連結されるキングピン、車軸、あるいはステアリングホイールなどにも影響してシミーなどと呼ばれる振動として現れる場合がある。そのような車輪等に生じる振動を除去することは安定、快適な走行を確保する観点から好ましい。そのため、車輪の振動を抑制するための技術が従来からいくつか提案されている。例えば特許文献1では、ステアリング機構に加振力を付加する加振手段を備え、ステアリングホイールの回転振動が低減されるように加振手段を制御する車両用ステアリング振動制御装置が提案されている。
【特許文献1】特開2000−313343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
車輪等に現れるシミーなどの振動を抑制する技術は従来から提案されているが、そのような振動を完全に取り除くことができる技術は未だに提案されておらず、車輪の振動を抑制する新たな技術の提案が望まれている。
【0004】
特に最近では、インホイールモータを搭載した車両のように比較的重い機器類を車輪に搭載する技術開発が進んでいる。そのような車両ではバネ下重量が増加して、車輪に作用する慣性モーメントが大きくなる傾向がある。そのため、車輪や車輪に連結される各種機器類にはシミーなどの振動が生じやすく、その振動の大きさも増幅する傾向がある。
【0005】
本発明は上述の事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の振動を抑制する技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は車両制御装置に関する。この車両制御装置は、車輪構造体の振動関連量を取得する振動関連量取得手段と、前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量に基づいて、駆動力を調整して対応する車輪を独立して駆動する駆動手段を制御する駆動制御手段と、を備え、前記駆動制御手段は、前記駆動手段における前記車輪に対する駆動力を調整することで前記車輪構造体の振動を抑制するように、前記駆動手段を制御することを特徴とする。
【0007】
当該車両制御装置によれば、振動関連量に基づいて駆動手段が制御され、車輪構造体の振動が抑制される。なお、「車輪構造体」は、車輪および車輪と一定の関連を有する部材を含みうる概念であり、例えば車輪に取り付けられるハブ、キングピン、サスペンション、ショックアブソーバ、車軸、ステアリングホイール等の部材が車輪構造体に含まれうる。また「振動関連量」は、振動自体および振動と関連を有する状態量を含みうる概念であり、例えば振動の大きさや周波数を左右する各要素を含む。また振動関連量取得手段は、振動関連量を取得する際に、振動関連量を直接計測するものであってもよいし、振動関連量を所定の演算式に基づいて間接的に導き出すものであってもよい。また「駆動力を調整して対応する車輪を独立して駆動する駆動手段」は、他の車輪の駆動状態にかかわらず対応する車輪を独立して駆動することができる手段をいい、例えば各車輪に搭載されるインホイールモータなどが利用されて実現される。
【0008】
本発明の別の態様も車両制御装置に関する。この車両制御装置は、車輪構造体の振動関連量を取得する振動関連量取得手段と、前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量に基づいて、制動力を調整して対応する車輪を独立して制動する制動手段を制御する制動制御手段と、を備え、前記制動制御手段は、前記制動手段における前記車輪に対する制動力を調整することで前記車輪構造体の振動を抑制するように、前記制動手段を制御することを特徴とする。
【0009】
当該車両制御装置によれば、振動関連量に基づいて制動手段が制御され、車輪構造体の振動が抑制される。なお、「制動力を調整して対応する車輪を独立して制動する制動手段」は、他の車輪の制動状態にかかわらず対応する車輪を独立して制動することができる手段をいい、例えば各車輪に搭載されるインホイールモータなどが利用されて実現される。
【0010】
本発明の別の態様も車両制御装置に関する。この車両制御装置は、車輪構造体の振動関連量を取得する振動関連量取得手段と、前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量に基づいて、制駆動力を調整して対応する車輪を独立して制駆動する制駆動手段を制御する制駆動制御手段と、を備え、前記制駆動制御手段は、前記制駆動手段における前記車輪に対する制駆動力を調整することで前記車輪構造体の振動を抑制するように、前記制駆動手段を制御することを特徴とする。
【0011】
当該車両制御装置によれば、振動関連量に基づいて制駆動手段が制御され、車輪構造体の振動が抑制される。なお、「制駆動力を調整して対応する車輪を独立して制駆動する制駆動手段」は、他の車輪の制駆動状態にかかわらず対応する車輪を独立して制動および駆動することができる手段をいい、例えば各車輪に搭載されるインホイールモータなどが利用されて実現される。
【0012】
前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量は、前記車輪の慣性モーメント関連量であってもよい。車輪構造体に生じる振動の大きさ等は、車輪の慣性モーメントに応じて変動しうる。従って、当該車両制御装置によれば慣性モーメントの関連量に基づいて、駆動手段、制動手段、あるいは制駆動手段が制御され、車輪構造体の振動が効果的に抑制される。
【0013】
前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量は、前記車輪のジャイロモーメントであってもよい。車輪構造体に生じる振動の大きさ等は、慣性モーメントの影響を受けるジャイロモーメントに応じて変動しうる。従って、当該車両制御装置によればジャイロモーメントに基づいて、駆動手段、制動手段、あるいは制駆動手段が制御され、車輪構造体の振動が効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車輪構造体の振動関連量に応じて駆動手段、制動手段、あるいは制駆動手段が制御され、車輪構造体の振動を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
凹凸が激しい路面などを車両が走行する際には、路面からの入力等のために車輪が上下動して、一時的にキャンバ角が変動してしまうことがある。通常走行時の走行回転運動をしながらキャンバ角変動方向に変動する車輪には、キングピン軸回りにジャイロモーメントが発生する。キングピン軸回りに発生するジャイロモーメントは、キングピン軸回りのトルクとして車輪に作用し、ステアリングホイール等のステアリング系部材に影響してシミー等の振動をもたらすことがある。
【0016】
図1は、ジャイロモーメントの発生態様を説明するための図であり、x軸、y軸、およびz軸は相互に直交する軸を示す。例えば、y軸を中心に角速度ωで走行回転運動する車輪は、キャンバ角変動方向の力を受けてx軸を中心に角速度ωで運動をすると、z軸回りのジャイロモーメントTが生じる。この時、ジャイロモーメントTの大きさは、以下の式(1)で求めることができる。なお、以下の式においてIは、y軸に関する慣性モーメントを示す。
【0017】
=I×ω×ω 式(1)
【0018】
以下の実施の形態は、キングピン軸回りのジャイロモーメントを抑制することで、ステアリング系部材のシミー等の振動を防ぐ車両制御装置について説明する。なお、以下の実施の形態では、各車輪に組み込まれたインホイールモータを駆動源とした電気自動車に関して説明する。
【0019】
図2は、車両制御装置の一実施の形態を備える車両10の全体構成を示す図である。車両10は、車体12と、車体12の右前に設けられた右前輪14a、車体12の左前に設けられた左前輪14b、車体12の右後ろに設けられた右後輪14c、および車体12の左後ろに設けられた左後輪14dとを備える。以下、右前輪14a、左前輪14b、右後輪14c、および左後輪14dを総称して「車輪14」と呼ぶ。また、右前輪14aおよび左前輪14bを総称して「前輪14a、14b」と呼び、右後輪14cおよび左後輪14dを総称して「後輪14c、14d」と呼ぶ。また、右前輪14aに対応する機器類には符号の末尾に「a」を付し、左前輪14bに対応する機器類には符号の末尾に「b」を付し、右後輪14cに対応する機器類には符号の末尾に「c」を付し、左後輪14dに対応する機器類には符号の末尾に「d」を付し、それらの機器類を総称する場合には末尾の「a〜d」を省略した符号で表記する。
【0020】
各車輪14には、インホイールモータ20と、車輪側通信機24と、車輪側通信機24に接続された車輪側センサ類22とが搭載されている。一方、車体12には、電子制御装置100(「ECU100」とも表記する)と、ECU100に接続されたジャイロセンサ42および車体側通信機30と、ECU100に接続され各インホイールモータ20に対応するようにして設けられたインバータ34およびモータ制御部32と、が搭載されている。また、ECU100に接続されたサスペンションストロークセンサ36、上下方向加速度センサ38(「上下Gセンサ38」とも表記する)、および車輪速センサ40が、各車輪14に対応するようにして設けられている。
【0021】
車輪側センサ類22は、車輪14に搭載されているセンサ類を指し、例えばインバータ34からインホイールモータ20に供給される電力量、インホイールモータ20のロータ角度位置、タイヤの内部空気圧、タイヤの内部空気温度、および他の状態量を検出するセンサ類を含む。なお、車輪側センサ類22に含まれる各種センサ類は、必要に応じて単数あるいは複数設置され、目的とする状態量を所定間隔で検出し、例えば1秒〜数秒間隔で検出することが可能である。
【0022】
車輪側通信機24は、車体側通信機30と信号の送受信を行う通信機である。この車輪側通信機24は、車輪側センサ類22に含まれる各種センサ類の検出値を所定間隔で無線送信し、例えば15秒〜60秒間隔で無線送信することが可能である。なお、車輪側通信機24は、車輪側センサ類22に含まれる各種センサ類の検出値を相互に対応づけた形で送信し、本実施の形態では車輪側センサ類22に含まれる各種センサ類の検出値のすべてが送信毎に無線信号に含まれるようにすることで、各種センサ類の検出値を相互に対応づける。一方、車体側通信機30は、各車輪側通信機24と信号の送受信を行う通信機であり、例えば各車輪14の車輪側通信機24から無線送信されてくる信号を受信してECU100に送る。
【0023】
インホイールモータ20は、対応するインバータ34およびモータ制御部32によって制御され、組み込まれている車輪14の走行回転を制駆動する。このインホイールモータ20は、バッテリー(図示せず)から対応するインバータ34を経て供給される電力を駆動エネルギーとしており、他の車輪14の制駆動状態にかかわらず、制駆動力を調整して対応する車輪14を独立して回転制駆動することが可能である。
【0024】
インバータ34は、対応するモータ制御部32によって制御され、バッテリからの放電出力をインホイールモータ20に適合する電力形式に変換する。このインバータ34は、例えば三相交流形式に変換した電力をインホイールモータ20に供給する。
【0025】
モータ制御部32は、ECU100によって制御され、対応するインバータ34およびインホイールモータ20を制御する。具体的にモータ制御部32は、ECU100から送信されてくるトルク指令信号に相当するトルクを対応するインホイールモータ20から出力させるように、インバータ34を制御してインホイールモータ20に電力を供給する。なお、モータ制御部32は、上述の電力変換制御機能の他に、対応するインバータ34とECU100との間を絶縁分離する機能や、車両ドライバー等からの指示に基づいて必要とされる制動力の一部をインホイールモータ20による回生ブレーキによって実現させる電子制御ブレーキシステムをコントロールする機能も有する。
【0026】
ジャイロセンサ42は、車両10のロール方向の角速度を検出する。サスペンションストロークセンサ36は、対応する車輪14を支持するサスペンション(図示せず)のストローク量を検出する。上下Gセンサ38は、対応する車輪14の上方に配置され、当該車輪14の位置に対応するバネ上部材の鉛直上下方向への加速度を検出する。車輪速センサ40は、対応する車輪14の走行回転角速度を検出する。このようなジャイロセンサ42、サスペンションストロークセンサ36、上下Gセンサ38、および車輪速センサ40は、目的とする状態量を所定間隔で検出し、検出値をECU100に送信する。
【0027】
図3は、右前輪14aの周辺部材の一部の構成を示す図である。右前輪14aにはホイールに取り付けられるハブ50aが搭載されている。右前輪14aは、ロアアーム52aを介して車体により支持され、ロアアーム52aは、ブッシュを介して車体に取り付けられる。また右前輪14aは、ナックルアーム54a、タイロッド56a、ラックバー58a、およびステアリングギヤボックス60aによってキングピン軸を中心軸とした車輪の角度が調整される。
【0028】
本実施の形態の右前輪14aでは、図3に示すように、右前輪14aとロアアーム52aとの取り付け箇所を中心としてキングピン軸が存在する。このキングピン軸は、車両10の旋回時に車輪14の旋回動作の中心となる軸をいう。キングピンが存在する車両ではキングピンの軸をキングピン軸として扱うことができるが、仮想のキングピン軸を別途設定したほうが適切な場合もある。また、キングピンが存在しない車両では仮想のキングピン軸を適宜設定することができる。例えば、ダブルウイッシュボーン式のサスペンションが採用されている場合には、アッパーアームのポールジョイントとロアアームのポールジョイントを結ぶ線を仮想のキングピン軸に設定することができる場合がある。またストラット式のサスペンションが採用されている場合には、サスペンションスプリングの上方中心部とロアアームのポールジョイントとを結ぶ線を仮想のキングピン軸に設定することができる場合がある。
【0029】
図2に示すECU100は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、マイクロコンピュータによる演算を行う演算ユニット、各種の処理プログラムを記憶するROM、一時的にデータやプログラムを記憶してデータ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、データを記憶するハードディスク等の記憶装置、および各種信号の送受信を行うための入出力ポート等を有する。また特に本実施の形態のECU100は、図4に示す機能構成を有する。
【0030】
図4は、本実施の形態のECU100が有する各種機能のうち、振動抑制のための車輪制駆動に関連する機能を示す機能ブロック図である。ECU100は、キャンバ角速度算出部102、ジャイロモーメント算出部104、振動抑制制駆動力算出部106、インホイールモータ制駆動量算出部108、および記憶部110を有する。
【0031】
キャンバ角速度算出部102は、車輪14のキャンバ角変動方向の角速度を算出する。本実施の形態では、サスペンションのストローク方向の速度と、車輪14の位置に対応するバネ上部材の鉛直上下方向への速度と、バネ上部材のロール方向の角速度と、に基づいて、車輪14のキャンバ角変動方向の角速度が算出される。「サスペンションのストローク方向の速度」は、サスペンションストロークセンサ36の検出値に基づいて求められ、例えばサスペンションのストローク量が時間微分されることで導き出される。「車輪14の位置に対応するバネ上部材の鉛直上下方向への速度」は、上下Gセンサ38の検出値に基づいて求められる。「バネ上部材のロール方向の角速度」は、ジャイロセンサ42の検出値に基づいて求められる。
【0032】
ジャイロモーメント算出部104は、車輪14のキングピン軸回りのジャイロモーメントを算出する。本実施の形態では、車輪14のキャンバ角変動方向の角速度と、車輪14の走行回転角速度と、車輪14の走行回転軸に関する慣性モーメントと、に基づいて、車輪14のキングピン軸回りのジャイロモーメントが算出される。「車輪14のキャンバ角変動方向の角速度」は、キャンバ角速度算出部102で算出された値が利用される。「車輪14の回転角速度」は、車輪速センサ40の検出値に基づいて求められる。「車輪14の走行回転軸に関する慣性モーメント」は、予め求められている値が記憶部110に記憶されており、記憶部110から適宜読み出されて利用される。
【0033】
振動抑制制駆動力算出部106は、ジャイロモーメントに起因する振動を抑制するための車輪制駆動力を算出する。本実施の形態では、車輪14のキングピン軸回りのジャイロモーメントと、キングピンオフセット量と、に基づいて車輪制駆動力が算出される。「車輪14のキングピン軸回りのジャイロモーメント」は、ジャイロモーメント算出部104で算出された値が利用される。「キングピンオフセット量」は、予め求められた値が記憶部110に記憶されており、記憶部110から適宜読み出されて利用される。
【0034】
インホイールモータ制駆動量算出部108は、振動抑制制駆動力算出部106で算出された車輪制駆動力に基づいて各インホイールモータの制駆動量を算出し、算出した制駆動量に応じたトルク指令信号を対応するモータ制御部32に送信する。
【0035】
記憶部110は、様々なデータや演算式等を記憶し、キャンバ角速度算出部102、ジャイロモーメント算出部104、振動抑制制駆動力算出部106、インホイールモータ制駆動量算出部108、あるいは他によって記憶内容が適宜読み込まれて使用されるようになっている。
【0036】
なお、本実施の形態では、キャンバ角速度算出部102、ジャイロモーメント算出部104、および記憶部110を含んで本発明の振動関連量取得手段が構成されている。また、振動抑制制駆動力算出部106、インホイールモータ制駆動量算出部108、および記憶部110を含んで本発明の駆動制御手段、制動制御手段、あるいは制駆動制御手段が構成されている。
【0037】
次に、本実施の形態の作用について説明する。図5は、ジャイロモーメントに起因する振動を抑制するための各種処理を示すフローチャートである。
【0038】
ECU100のキャンバ角速度算出部102では、サスペンションストロークセンサ36の検出値から各車輪14のサスペンションのキングピン軸方向のストローク速度Vが検知され(図5のS1)、上下Gセンサ38の検出値から各車輪14の位置に対応するバネ上部材のキングピン軸方向の速度Vが検知され(S2)、ジャイロセンサ42の検出値からバネ上部材のロール方向の角速度ωが検知される(S3)。そして、キャンバ角速度算出部102では以下の式(2)に基づいて各車輪14のキャンバ角変動方向の角速度ωが推定される(S4)。なお、このキャンバ角変動方向の角速度ωは、絶対空間に対するキャンバ角変動方向への角速度を示す。また以下の式においてKcmbは、「車輪14のキングピン軸方向の速度」と「車輪14のキャンバ角変動量」との比率を示唆する車輪14のキャンバ角変化率を示し、記憶部110に記憶されている。このKcmbは、「サスペンションの単位ストローク当たりの車輪キャンバ角の変化量」を近似的に利用可能である。例えばサスペンションのストロークが標準位置から10(mm)増加した場合に車輪のキャンバ角が標準位置から1(deg)増加する場合、Kcmbを0.1(deg/mm)とすることができる。なおKcmbは、車輪14とサスペンションなどの車輪14の周辺部材との幾何学的な取り付け態様によって決定されうる。
【0039】
ω=Kcmb×(V−V)−ω 式(2)
【0040】
そして、ECU100のジャイロモーメント算出部104では、車輪速センサ40の検出値から各車輪14の走行回転角速度ωが検知され(S5)、以下の式(3)に基づいて各車輪14のキングピン軸回りのジャイロモーメントTが推定される(S6)。なお以下の式においてIは、車輪14の走行回転軸に関する慣性モーメントを示し、記憶部110に記憶されている。
【0041】
=I×ω×ω 式(3)
【0042】
そして、ECU100の振動抑制制駆動力算出部106では、以下の式(4)に基づいて、ジャイロモーメントに起因する振動を抑制するための車輪制駆動力Fが算出される(S7)。なお以下の式においてLkosはキングピンオフセット量を示し、記憶部110に記憶されている。
【0043】
=T/Lkos 式(4)
【0044】
そして、算出された車輪制駆動力Fに基づいて、各インホイールモータ20に要求される車輪14に対する制駆動力が、ECU100のインホイールモータ制駆動量算出部108で算出され(S8)、トルク指令信号がインホイールモータ制駆動量算出部108から対応するモータ制御部32に送信される。そして、インホイールモータ制駆動量算出部108から送信されてくるトルク指令信号に応じて、モータ制御部32がインバータ34を介してインホイールモータ20を制御する(S9)。このように、振動抑制制駆動力算出部106やインホイールモータ制駆動量算出部108などによりインホイールモータ20が制御され、車輪14に対する駆動力、制動力が調整されて車輪14に生じうる振動が抑制される。これにより、各車輪14だけではなく各車輪14に連結された各種部材では、ジャイロモーメントに起因する振動が、インホイールモータ20によってもたらされる制駆動力により抑制される。
【0045】
以上説明したように本実施の形態によれば、車輪14のジャイロモーメントが抑制されるように車輪14がインホイールモータ20によって制駆動されるので、ジャイロモーメントによって車両10にもたらされうる振動の発生を効果的に防いで、快適な車両走行を実現することができる。特に本実施の形態では、各車輪14の走行回転駆動源がインホイールモータであるため、インホイールモータ20によって各車輪14に対してもたらされる制駆動力を、他の車輪14の制駆動力に影響を及ぼすことなく変動させることが可能である。そのため、振動抑制のための車輪14の制駆動を比較的容易に行うことができる。
【0046】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0047】
例えば、上記の各式に対して、他の走行環境の影響を考慮した補正項や補正係数などを適宜付け加えてもよい。
【0048】
また上述の実施の形態では、車輪の駆動手段、制動手段、あるいは制駆動手段としてインホイールモータを利用した例について説明したが、駆動力、制動力、あるいは制駆動力を調整して対応する車輪を独立して駆動、制動することができる他の手段を利用することも可能である。
【0049】
また上述の実施の形態では、「車輪14の位置に対応するバネ上部材の鉛直上下方向への速度」を各車輪14に対応するようにして設けられた上下Gセンサ38の検出値から求める例について説明したが、他の手法で求めてもよい。例えば、対応する左右輪の間のほぼ中央部に上下Gセンサを設けて、この「上下Gセンサの検出値」と「ジャイロセンサ等によって求められた車両のロール角速度」とから「車輪14の位置に対応するバネ上部材の鉛直上下方向への速度」を求めることも可能である。
【0050】
また、上述の実施の形態ではインホイールモータ式の電気自動車を例としてあげて説明したが、他のタイプの電気自動車やガソリンエンジン自動車などに対しても本発明を適宜適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ジャイロモーメントの発生態様を説明するための図である。
【図2】車両制御装置の一実施の形態を備える車両の全体構成を示す図である。
【図3】右前輪の周辺部材の一部の構成を示す図である。
【図4】ECUが有する各種機能のうち、振動抑制のための車輪制駆動に関連する機能を示す機能ブロック図である。
【図5】ジャイロモーメントに起因する振動を抑制するための各種処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
10 車両、 12 車体、 14 車輪、 20 インホイールモータ、 22 車輪側センサ類、 24 車輪側通信機、 30 車体側通信機、 32 モータ制御部、 34 インバータ、 36 サスペンションストロークセンサ、 38 上下Gセンサ、 40 車輪速センサ、 42 ジャイロセンサ、 50 ハブ、 52 ロアアーム、 54 ナックルアーム、 56 タイロッド、 58 ラックバー、 60 ステアリングギヤボックス、 100 ECU、 102 キャンバ角速度算出部、 104 ジャイロモーメント算出部、 106 振動抑制制駆動力算出部、 108 インホイールモータ制駆動量算出部、 110 記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪構造体の振動関連量を取得する振動関連量取得手段と、
前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量に基づいて、駆動力を調整して対応する車輪を独立して駆動する駆動手段を制御する駆動制御手段と、を備え、
前記駆動制御手段は、前記駆動手段における前記車輪に対する駆動力を調整することで前記車輪構造体の振動を抑制するように、前記駆動手段を制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
車輪構造体の振動関連量を取得する振動関連量取得手段と、
前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量に基づいて、制動力を調整して対応する車輪を独立して制動する制動手段を制御する制動制御手段と、を備え、
前記制動制御手段は、前記制動手段における前記車輪に対する制動力を調整することで前記車輪構造体の振動を抑制するように、前記制動手段を制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
車輪構造体の振動関連量を取得する振動関連量取得手段と、
前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量に基づいて、制駆動力を調整して対応する車輪を独立して制駆動する制駆動手段を制御する制駆動制御手段と、を備え、
前記制駆動制御手段は、前記制駆動手段における前記車輪に対する制駆動力を調整することで前記車輪構造体の振動を抑制するように、前記制駆動手段を制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量は、前記車輪の慣性モーメント関連量であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記振動関連量取得手段が取得する前記振動関連量は、前記車輪のジャイロモーメントであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−67646(P2006−67646A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244282(P2004−244282)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】