説明

車両用ディスクブレーキ装置

【課題】車両用ディスクブレーキ装置にて、制動操作時のフィーリングを損なうことなく燃費向上を図ること。
【解決手段】車両用ディスクブレーキ装置では、押圧部材(ピストン13)が各ブレーキパッド(14)を押圧することにより、各ブレーキパッド(14)がディスクロータ(11)の被制動面(11a)に摺動可能に圧接して、ディスクロータ(11)が制動されるように構成されている。各ブレーキパッド(14)内には、ディスクロータ(11)の被制動面(11a)に向けて加圧空気を噴射可能な空気噴射孔(AH)と、この空気噴射孔(AH)に連通している空気通路(AL)が設けられている。一方、各ブレーキパッド(14)外には、空気通路(AL)に加圧空気を導入可能な空気導入路(PAo)が設けられている。加圧空気が空気噴射孔(AH)からディスクロータ(11)の被制動面(11a)に向けて噴射されるときの反力でリトラクト機能が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両において車輪を制動するために採用される車両用ディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ディスクブレーキ装置は、例えば、下記特許文献1に示されていて、ディスクロータを挟持可能な少なくとも一対のブレーキパッドと、これらのブレーキパッドをロータ軸方向に移動可能に支持する支持部材(キャリパまたはトルクメンバ)と、前記各ブレーキパッドを前記ディスクロータに向けて押圧する押圧部材(ピストンまたは可動キャリパ)を備えていて、前記押圧部材が前記各ブレーキパッドを押圧することにより、前記各ブレーキパッドが前記ディスクロータの被制動面に摺動可能に圧接して、前記ディスクロータが制動されるように構成されている。
【特許文献1】実公平6−11364号公報
【0003】
上記した特許文献1に記載されている車両用ディスクブレーキ装置においては、両ブレーキパッド間に、各ブレーキパッドを互に離隔する方向へ付勢するリターンスプリングが設けられている。このため、非制動時には、各ブレーキパッドがリターンスプリングによりディスクロータの被制動面から引き離される。この結果、所期の機能(パッドの引き摺り防止機能)が得られて、燃費向上を図ることが可能である。
【発明の開示】
【0004】
ところで、上記した特許文献1に記載されている車両用ディスクブレーキ装置では、リターンスプリングが、常に、各ブレーキパッドを互に離隔する方向へ付勢している。このため、制動時には、リターンスプリングの付勢力に抗して各ブレーキパッドをディスクロータの被制動面に圧接させる必要があって、制動操作時のフィーリング(操作性)を損なうおそれがある。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、ディスクロータを挟持可能な少なくとも一対のブレーキパッドと、これらのブレーキパッドをロータ軸方向に移動可能に支持する支持部材と、前記各ブレーキパッドを前記ディスクロータに向けて押圧する押圧部材を備えていて、前記押圧部材が前記各ブレーキパッドを押圧することにより、前記各ブレーキパッドが前記ディスクロータの被制動面に摺動可能に圧接して、前記ディスクロータが制動されるように構成されている車両用ディスクブレーキ装置において、前記各ブレーキパッド内に、前記ディスクロータの被制動面に向けて加圧空気を噴射可能な空気噴射孔と、この空気噴射孔に連通している空気通路が設けられ、前記各ブレーキパッド外に、前記空気通路に加圧空気を導入可能な空気導入路が設けられていることに特徴がある。
【0006】
本発明による車両用ディスクブレーキ装置においては、空気導入路に加圧空気が流入すると、この加圧空気は、空気導入路から各ブレーキパッド内に設けた空気通路を通して空気噴射孔に至り、空気噴射孔からディスクロータの被制動面に向けて噴射される。これにより、各ブレーキパッドには噴射による反力が作用して、各ブレーキパッドはディスクロータの被制動面から引き離される(リトラクト機能が得られる)。この結果、各ブレーキパッドとディスクロータの被制動面間には所要のパッドクリアランスが確保され、各ブレーキパッドとディスクロータの被制動面の接触を防いで、ディスクロータと一体的に回転する車輪への駆動力伝達阻害要因を排除し、燃費向上を図ることが可能である。
【0007】
ところで、上記したリトラクト機能は、空気導入路に加圧空気が流入するときにのみ得られ、空気導入路に加圧空気が流入しないときには得られない。したがって、非制動時にのみ空気導入路に加圧空気が流入するように設定することで、制動操作時のフィーリング(操作性)を損なうことなく燃費向上を図ることが可能である。また、空気噴射孔からディスクロータの被制動面に向けて噴射される加圧空気によって、ブレーキパッドとディスクロータを空冷することができて、制動によって生じた熱を排出することができ、かかる熱による不具合を抑制することが可能である。
【0008】
上記した本発明の実施に際して、前記空気導入路には、ブレーキ操作またはアクセル操作に応じて作動を制御されて加圧空気の流通を制御する制御弁が設けられていることも可能である。この場合には、例えば、制動を解除するブレーキ操作(ブレーキOFF(解除)操作)により制御弁が空気導入路に加圧空気を流通可能に作動するように設定することで、或いは、駆動力を増大するアクセル操作(アクセルON操作)により制御弁が空気導入路に加圧空気を流通可能に作動するように設定することで、上記した作用効果(リトラクト機能、燃費向上)を制動時における操作力増加を伴うことなく得ることが可能である。
【0009】
また、上記した本発明の実施に際して、前記各ブレーキパッド外に、前記各ブレーキパッドの背面に向けて加圧空気を噴射供給可能な空気供給路(上記した空気導入路とは別個に構成されていてもよい)が設けられていることも可能である。この場合には、空気供給路に加圧空気が流入すると、この加圧空気は、空気供給路から各ブレーキパッドの背面に向けて噴射供給される。これにより、各ブレーキパッドはディスクロータの被制動面に向けて押動される(プレフィル機能が得られる)。この結果、各ブレーキパッドとディスクロータの被制動面間のパッドクリアランスが小さくされ、制動操作時のフィーリング向上を図ることが可能である。したがって、この場合には、上記した作用効果(リトラクト機能、燃費向上)に加えて、プレフィル機能が得られて、ブレーキ操作フィーリングの向上を図ることが可能である。なお、この場合には、空気供給路から各ブレーキパッドの背面に向けて噴射供給される加圧空気によって各ブレーキパッドが空冷される。
【0010】
この場合において、前記空気導入路と前記空気供給路には、ブレーキ操作またはアクセル操作に応じて作動を制御されて加圧空気の流通を制御する制御弁が設けられていることも可能である。この場合には、例えば、制動を解除するブレーキ操作(ブレーキOFF(解除)操作)により制御弁が空気導入路に加圧空気を流通可能に作動するように設定することで、或いは、駆動力を増大するアクセル操作(アクセルON操作)により制御弁が空気導入路に加圧空気を流通可能に作動するように設定することで、上記した作用効果(リトラクト機能、燃費向上)を制動時における操作力増加を伴うことなく、しかも、タイミングよく得ることが可能である。
【0011】
また、例えば、制動を開始するブレーキ操作(ブレーキON操作)により制御弁が空気供給路に加圧空気を流通可能に作動するように設定することで、或いは、駆動力を最小とするアクセル操作(アクセルOFF操作)により制御弁が空気供給路に加圧空気を流通可能に作動するように設定することで、上記した作用効果(プレフィル機能、ブレーキ操作フィーリング向上)をタイミングよく得ることが可能である。
【0012】
この場合において、前記空気供給路は前記空気導入路の途中から分岐して形成されていて、この分岐部位に前記制御弁が設けられていることも可能である。この場合には、加圧空気の供給源を共用することが可能である。また、空気導入路における加圧空気の流通と、空気供給路における加圧空気の流通を、分岐部位に設けた単一の制御弁にて制御することが可能である。
【0013】
また、上記した各発明の実施に際して、前記空気導入路の一部が、前記ブレーキパッドのロータ軸方向移動に追従可能に構成されていることも可能である。この場合には、ブレーキパッドにおけるライニングの摩耗に伴うブレーキパッドのロータ軸方向移動に応じて、空気導入路の一部を追従させることが可能であり、ブレーキパッドのライニング摩耗に拘わらず、同等の作用効果(リトラクト機能、燃費向上)を得ることが可能である。
【0014】
また、当該装置が空気供給路を備える場合において、前記空気供給路のパッド側端部が、前記ブレーキパッドのロータ軸方向移動に追従可能に構成されていることも可能である。この場合には、ブレーキパッドにおけるライニングの摩耗に伴うブレーキパッドのロータ軸方向移動に応じて、空気供給路のパッド側端部を追従させることが可能であり、ブレーキパッドのライニング摩耗に拘わらず、同等の作用効果(プレフィル機能、ブレーキ操作フィーリング向上)を得ることが可能である。
【0015】
また、当該装置が空気供給路を備える場合において、前記各ブレーキパッドは前記押圧部材と一体的にロータ軸方向に移動可能であることも可能である。この場合には、特に、プレフィル機能を効果的に得ることが可能であって、ブレーキ操作フィーリングの向上を図ることが可能であるとともに、制動距離の短縮を図ることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明による車両用ディスクブレーキ装置の第1実施形態を概略的に示していて、この第1実施形態の車両用ディスクブレーキ装置は、車輪(図示省略)と一体的に回転するディスクロータ11と、このディスクロータ11の外周部の一部分を跨ぐようにして配置されるキャリパ12と、このキャリパ12に組付けた一対のピストン13・13および一対のブレーキパッド14・14を備えている。
【0017】
キャリパ12は、ディスクロータ11の外周部を挟むようにして対向するインナーハウジング部12aとアウターハウジング部12bを備えるとともに、これらを連結する一対の連結部12c、12dを備えている。インナーハウジング部12aは、ディスクロータ11のインナー側に配置されていて、ロータ軸方向に形成されたシリンダ12a1を有している。また、インナーハウジング部12aには、一対のトルク受け面12a2,12a3(ブレーキパッド14の支持部)が設けられるとともに、ロータ径内方に向けて延びてボルト(図示省略)を用いて車体側に組付けられる取付部(図示省略)が設けられている。
【0018】
なお、キャリパ12のアウターハウジング部12bは、ディスクロータ11のアウター側に配置されていて、インナーハウジング部12aのシリンダ12a1と同様に、ロータ軸方向に形成されたシリンダ12b1を有しており、このシリンダ12b1と上記したシリンダ12a1が同軸的に配置されている。また、アウターハウジング部12bには、インナーハウジング部12aの一対のトルク受け面12a2,12a3と同様に、一対のトルク受け面12b2,12b3が設けられている。
【0019】
各ピストン13は、各シリンダ12a1・12b1に周知のようにシール部材15を介して液密的かつロータ軸方向に摺動可能に組付けられていて、ディスクロータ11を挟んで対向配置されており、制動時に、各ピストン13の背部に形成される油室Raにブレーキマスタシリンダ(図示省略)から供給される油圧によって押動されて、各ブレーキパッド14をディスクロータ11に向けてロータ軸方向に押圧可能である。なお、各油室Raはキャリパ12に設けた油路(図示省略)を通して互に連通している。
【0020】
各ブレーキパッド14は、裏板14aと、この裏板14aに固着したライニング14bによって構成されていて、キャリパ12における一対のトルク受け面12a2,12a3または12b2,12b3間に裏板14aにてロータ軸方向にて摺動可能に組付けられている。各裏板14aは、同裏板14aを貫通し両端部にてキャリパ12のインナーハウジング部12aとアウターハウジング部12bに固定されている支持ピン(図示省略)によってロータ軸方向にて移動可能に支持されている。
【0021】
ところで、この第1実施形態においては、各ブレーキパッド14内に、ディスクロータ11の各被制動面11aに向けて加圧空気を噴射可能な複数個(個数は適宜変更して実施可能である)の空気噴射孔AHと、これらの空気噴射孔AHに連通している空気通路ALが設けられている。また、各ブレーキパッド14外に、空気通路ALに加圧空気を導入可能な空気導入路PAoが設けられている。
【0022】
空気導入路PAoは、基部PA1にてエアーポンプ、エアータンク等の空気圧源(図示省略)に接続され、一対の分岐先端部PA2,PA3にて各空気通路ALにそれぞれ接続されていて、空気圧源(図示省略)から供給される加圧空気を各空気通路ALに導入可能であり、基部PA1には制御弁CVが介装されている。
【0023】
各分岐先端部PA2,PA3は、制御弁CVの下流にて基部PA1に接続されていて、制御弁CVを通過した加圧空気が略同量に分流されて流れるように構成されている。また、各分岐先端部PA2,PA3は、中間部に可撓性の蛇腹部PA2a,PA3aを有していて、この蛇腹部PA2a,PA3aでの弾性変形にてブレーキパッド14のロータ軸方向移動に追従可能に構成されている。このため、ブレーキパッド14におけるライニング14bの摩耗に伴うブレーキパッド14のロータ軸方向移動に応じて、各分岐先端部PA2,PA3(空気導入路PAoの一部)を追従させることが可能であり、ブレーキパッド14のライニング摩耗に拘わらず、同等の作用効果を得ることが可能である。なお、蛇腹部PA2a,PA3aに代えて、分岐先端部PA2,PA3の先端部分にロータ軸方向にて伸縮可能な二重管構造の通路を採用して実施することも可能である。
【0024】
制御弁CVは、加圧空気の流通を制御する開閉弁であり、電気制御装置ECUによってブレーキ操作に応じて作動を制御されるように構成されている。電気制御装置ECUは、ブレーキペダルBPの踏み込み動作に応じて作動するブレーキスイッチS1にも接続されていて、制動を解除するブレーキ操作(ブレーキスイッチS1がOFFとなるブレーキOFF(解除)操作)時に、制御弁CVが開作動して図1の実線で示した状態となり、また、制動を開始するブレーキ操作(ブレーキスイッチS1がONとなるブレーキON操作)時に、制御弁CVが閉作動して図1の仮想線で示した状態となるように設定されている。
【0025】
このため、ブレーキペダルBPの踏み込みが解除されてから踏み込みが開始されるまでの間(ブレーキスイッチS1がOFFである非制動時)では、制御弁CVが開状態に維持されて、空気圧源(図示省略)から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3に加圧空気が流入する。また、ブレーキペダルBPの踏み込みが開始されてから踏み込みが解除されるまでの間(ブレーキスイッチS1がONである制動時)では、制御弁CVが閉状態に維持されて、空気圧源(図示省略)から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3への加圧空気の流入が遮断される。
【0026】
上記のように構成した第1実施形態の車両用ディスクブレーキ装置においては、空気圧源(図示省略)から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3に加圧空気が流入すると、この加圧空気は、空気導入路PAoの各分岐先端部PA2,PA3から各ブレーキパッド14内に設けた空気通路ALを通して各空気噴射孔AHに至り、各空気噴射孔AHからディスクロータ11の各被制動面11aに向けて噴射される(図1の矢印参照)。
【0027】
これにより、各ブレーキパッド14には噴射による反力が作用して、各ブレーキパッド14はディスクロータ11の各被制動面11aから引き離される(リトラクト機能が得られる)。この結果、各ブレーキパッド14とディスクロータ11の各被制動面11a間には所要のパッドクリアランスが確保され、各ブレーキパッド14とディスクロータ11の各被制動面11aの接触を防いで、ディスクロータ11と一体的に回転する車輪への駆動力伝達阻害要因を排除し、燃費向上を図ることが可能である。
【0028】
ところで、上記したリトラクト機能は、空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3に加圧空気が流入するとき(非制動時)にのみ得られ、空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3に加圧空気が流入しないとき(制動時)には得られないように設定されている。したがって、制動時において上記した加圧空気により操作力増加を伴うことはなくて、制動操作時のフィーリング(操作性)を損なうことなく燃費向上を図ることが可能である。また、各空気噴射孔AHからディスクロータ11の各被制動面11aに向けて噴射される加圧空気によって、各ブレーキパッド14とディスクロータ11を空冷することができて、制動によって生じた熱を排出することができ、かかる熱による不具合を抑制することが可能である。
【0029】
上記した第1実施形態においては、制御弁CVが電気制御装置ECUによってブレーキ操作に応じて作動を制御されるように構成して実施したが、制御弁CVが電気制御装置ECUによってアクセル操作に応じて作動を制御されるように構成して実施することも可能である。この場合には、アクセルペダルAPの踏み込み動作に応じて作動するアクセルスイッチS2を電気制御装置ECUに接続し(図1の仮想線参照)、電気制御装置ECUが、駆動力を増大するアクセル操作(アクセルスイッチS2がONとなるアクセルON操作)時に、制御弁CVが開作動して図1の実線で示した状態となり、また、駆動力を最小とするアクセル操作(アクセルスイッチS2がOFFとなるアクセルOFF操作)時に、制御弁CVが閉作動して図1の仮想線で示した状態となるように設定して実施する。
【0030】
また、上記した第1実施形態においては、空気圧回路の構成をディスクロータ11のインナー側とアウター側で非対称の構成(インナー側に配置した制御弁CVを共用する構成)として実施したが、ディスクロータ11のインナー側とアウター側にそれぞれ制御弁CVを配置するように構成して、空気圧回路の構成をディスクロータ11のインナー側とアウター側で対称の構成として実施することも可能である。
【0031】
図2は本発明による車両用ディスクブレーキ装置の第2実施形態を概略的に示していて、この第2実施形態の車両用ディスクブレーキ装置では、上記した第1実施形態の構成に加えて、各ブレーキパッド14外に、各ブレーキパッド14の背面に向けて加圧空気を噴射供給可能な空気供給路PBoが設けられている。空気供給路PBoは、空気導入路PAoの基部PA1から分岐して設けられていて、各ブレーキパッド14に対応してそれぞれ一対の分岐路PB1・PB2とPB3・PB4が形成されている。
【0032】
各分岐路PB1・PB2とPB3・PB4は、先端部(パッド側端部)に可撓性の蛇腹部PB1a・PB2aとPB3a・PB4aを有していて、この蛇腹部PB1a・PB2aとPB3a・PB4aでの弾性変形にてブレーキパッド14のロータ軸方向移動に追従可能に構成されている。このため、ブレーキパッド14におけるライニング14bの摩耗に伴うブレーキパッド14のロータ軸方向移動に応じて、各分岐路PB1・PB2とPB3・PB4(空気供給路PBoの一部)を追従させることが可能であり、ブレーキパッド14のライニング摩耗に拘わらず、同等の作用効果を得ることが可能である。なお、蛇腹部PB1a・PB2aとPB3a・PB4aに代えて、ロータ軸方向にて伸縮可能な二重管構造の通路を採用して実施することも可能である。
【0033】
また、この第2実施形態においては、空気導入路PAoと空気供給路PBoの接続部分(分岐部位)に制御弁CVaが介装されている。制御弁CVaは、加圧空気の流通を切り換える切換弁であり、電気制御装置ECUによってブレーキ操作に応じて作動を制御されるように構成されている。電気制御装置ECUは、ブレーキペダルBPの踏み込み動作に応じて作動するブレーキスイッチS1にも接続されていて、制動を解除するブレーキ操作(ブレーキスイッチS1がOFFとなるブレーキOFF(解除)操作)時に、制御弁CVaを図2の仮想線で示した状態に切り換え、また、制動を開始するブレーキ操作(ブレーキスイッチS1がONとなるブレーキON操作)時に、制御弁CVaを図2の実線で示した状態に切り換えるように設定されている。
【0034】
このため、ブレーキペダルBPの踏み込みが解除されてから踏み込みが開始されるまでの間(ブレーキスイッチS1がOFFである非制動時)では、制御弁CVaが図2の仮想線で示した状態に維持されて、空気圧源(図示省略)から空気供給路PBoへの加圧空気の流入が遮断され、空気圧源(図示省略)から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3に加圧空気が流入する。また、ブレーキペダルBPの踏み込みが開始されてから踏み込みが解除されるまでの間(ブレーキスイッチS1がONである制動時)では、制御弁CVaが図2の実線で示した状態に維持されて、空気圧源(図示省略)から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3への加圧空気の流入が遮断され、空気圧源(図示省略)から空気供給路PBoに加圧空気が流入する。
【0035】
上記のように構成した第2実施形態の車両用ディスクブレーキ装置においては、空気圧源(図示省略)から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3に加圧空気が流入するとき、上記した第1実施形態の車両用ディスクブレーキ装置と同様のリトラクト機能が得られて、制動操作時のフィーリング(操作性)を損なうことなく燃費向上を図ることが可能である。
【0036】
ところで、この第2実施形態の車両用ディスクブレーキ装置においては、空気圧源(図示省略)から空気供給路PBoに加圧空気が流入すると、この加圧空気は、空気供給路PBoの各分岐路PB1・PB2とPB3・PB4から各ブレーキパッド14の背面に向けて噴射供給される。これにより、各ブレーキパッド14はディスクロータ11の各被制動面11aに向けて押動される(プレフィル機能が得られる)。この結果、各ブレーキパッド14とディスクロータ11の各被制動面11a間のパッドクリアランスが小さくされ、制動操作時のフィーリング向上を図ることが可能である。したがって、この第2実施形態では、上記した作用効果(リトラクト機能、燃費向上)に加えて、プレフィル機能が得られて、ブレーキ操作フィーリングの向上を図ることが可能である。
【0037】
また、この第2実施形態においては、空気導入路PAoと空気供給路PBoの接続部分(分岐部位)に介装した制御弁(切換弁)CVaによって、空気圧源(図示省略)から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3への加圧空気の流入・遮断を制御するとともに、空気圧源(図示省略)から空気供給路PBoへの加圧空気の流入・遮断を制御するように構成した。このため、加圧空気の供給源を共用することが可能であるとともに、空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3における加圧空気の流通と、空気供給路PBoにおける加圧空気の流通を、単一の制御弁CVaにて制御することが可能である。
【0038】
また、この第2実施形態においては、図2から明らかなように、各ピストン13と各ブレーキパッド14の裏板14aが一体的に形成されていて、各ブレーキパッド14は各ピストン13と一体的にロータ軸方向に移動可能である。このため、この第2実施形態においては、特に、プレフィル機能を効果的に得ることが可能であって、ブレーキ操作フィーリングの向上を図ることが可能であるとともに、制動距離の短縮を図ることも可能である。なお、図2の構成に代えて、各ピストン13と各ブレーキパッド14の裏板14aを別個に形成し、これらをロータ軸方向に一体的に移動可能に連結する構成を採用して実施することも可能である。
【0039】
上記した第2実施形態においては、制御弁CVaが電気制御装置ECUによってブレーキ操作に応じて作動を制御されるように構成して実施したが、制御弁CVaが電気制御装置ECUによってアクセル操作に応じて作動を制御されるように構成して実施することも可能である。この場合には、アクセルペダルAPの踏み込み動作に応じて作動するアクセルスイッチS2を電気制御装置ECUに接続し(図2の仮想線参照)、電気制御装置ECUが、駆動力を増大するアクセル操作(アクセルスイッチS2がONとなるアクセルON操作)時に、制御弁CVaを図2の仮想線で示した状態に切り換え、また、駆動力を最小とするアクセル操作(アクセルスイッチS2がOFFとなるアクセルOFF操作)時に、制御弁CVaを図2の実線で示した状態に切り換えるように設定して実施する。
【0040】
また、上記した第2実施形態においては、空気導入路PAoと空気供給路PBoの接続部分(分岐部位)に介装した制御弁CVaが2ポジション(空気圧源から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3への加圧空気の供給を許容し空気圧源から空気供給路PBoへの加圧空気の供給を規制するポジションと、空気圧源から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3への加圧空気の供給を規制し空気圧源から空気供給路PBoへの加圧空気の供給を許容するポジションの2ポジション)の切換弁である実施形態について説明したが、この2ポジションの切換弁に代えて3ポジションの切換弁を採用して実施することも可能である。
【0041】
この3ポジションの切換弁は、上記した2ポジションに加えて、空気圧源から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3と空気供給路PBoへの加圧空気の供給を共に規制するポジション(追加されたポジション)を有している。このため、アクセルペダルAPのみが踏み込まれているときに、空気圧源から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3への加圧空気の供給を許容し空気圧源から空気供給路PBoへの加圧空気の供給を規制するポジションとされ、ブレーキペダルBPのみが踏み込まれているときに、空気圧源から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3への加圧空気の供給を規制し空気圧源から空気供給路PBoへの加圧空気の供給を許容するポジションとされ、両ペダルAP,BPが共に踏み込まれていないときに、空気圧源から空気導入路PAoの分岐先端部PA2,PA3と空気供給路PBoへの加圧空気の供給を共に規制するポジション(追加されたポジション)とされるように設定して実施することも可能である。この場合には、追加されたポジションによって、加圧空気の消費量を減ずることが可能である。
【0042】
また、上記した第2実施形態においては、空気圧回路の構成をディスクロータ11のインナー側とアウター側で非対称の構成(インナー側に配置した制御弁CVaを共用する構成)として実施したが、図3に示したように、ディスクロータ11のインナー側とアウター側にそれぞれ制御弁CVaを配置するように構成して、空気圧回路の構成をディスクロータ11のインナー側とアウター側で対称の構成として実施することも可能である。
【0043】
また、上記した第2実施形態(図2の実施形態)およびその変形実施形態(図3の実施形態)においては、空気導入路PAo(分岐先端部PA2,PA3)における加圧空気の流通と、空気供給路PBoにおける加圧空気の流通を、単一の制御弁(切換弁)CVaにて制御するように構成して実施したが、空気導入路PAo(分岐先端部PA2,PA3)における加圧空気の流通と、空気供給路PBoにおける加圧空気の流通を、それぞれ別個の制御弁(開閉弁)にて制御するように構成して実施することも可能である。この場合には、別個の制御弁(開閉弁)の開閉タイミングを異ならせることが可能であり、上記したリトラクト機能とプレフィル機能をそれぞれタイミングよく得ることが可能である。
【0044】
上記した各実施形態においては、キャリパ12がインナーハウジング部12aとアウターハウジング部12bを備えていてロータ軸方向に移動不能とされているピストン対向型(固定キャリパ型)ディスクブレーキ装置に本発明を実施したが、本発明は、キャリパがロータ軸方向に移動可能とされている可動キャリパ型ディスクブレーキ装置にも同様に実施することが可能である。なお、可動キャリパ型ディスクブレーキ装置では、ブレーキパッドが、車体に組付けられて可動キャリパをロータ軸方向に移動可能に支持するトルクメンバーに、ロータ軸方向に移動可能に支持される。また、可動キャリパ型ディスクブレーキ装置では、アウター側のブレーキパッドが可動キャリパの押圧爪部によってディスクロータの被制動面に向けて押圧される。
【0045】
また、上記した各実施形態においては、空気導入路PAo(空気供給路PBo)に加圧空気を供給する空気圧源として、エアーポンプ、エアータンク等の空気圧源を採用して実施したが、かかる空気圧源は、車両走行時の走行風を取り入れる走行風導入部であってもよい。また、上記した各実施形態においては、ブレーキ操作に応じて作動を制御されて加圧空気の流通を制御する制御弁CV、CVaとして電磁式の制御弁を採用して実施したが、かかる制御弁としてブレーキ操作に応じて作動するブレーキマスタシリンダ等で発生するブレーキ油圧によって開閉または切換動作する油圧式の制御弁を採用して実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による車両用ディスクブレーキ装置の第1実施形態を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明による車両用ディスクブレーキ装置の第2実施形態を概略的に示す断面図である。
【図3】図2に示した第2実施形態の変形実施形態を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
11…ディスクロータ、11a…被制動面、12…キャリパ(支持部材)、13…ピストン(押圧部材)、14…ブレーキパッド、AH…空気噴射孔、AL…空気通路、PAo…空気導入路、PA1…基部、PA2,PA3…分岐先端部、PA2a,PA3a…蛇腹部(追従可能な構成)、CV…制御弁(開閉弁)、PBo…空気供給路、PB1・PB2,PB3・PB4…分岐路、PB1a・PB2a,PB3a・PB4a…蛇腹部(追従可能な構成)、CVa…制御弁(切換弁)、BP…ブレーキペダル、S1…ブレーキスイッチ、AP…アクセルペダル、S2…アクセルスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータ(11)を挟持可能な少なくとも一対のブレーキパッド(14)と、これらのブレーキパッド(14)をロータ軸方向に移動可能に支持する支持部材(キャリパ12)と、前記各ブレーキパッド(14)を前記ディスクロータ(11)に向けて押圧する押圧部材(ピストン13)を備えていて、前記押圧部材(ピストン13)が前記各ブレーキパッド(14)を押圧することにより、前記各ブレーキパッド(14)が前記ディスクロータ(11)の被制動面(11a)に摺動可能に圧接して、前記ディスクロータ(11)が制動されるように構成されている車両用ディスクブレーキ装置において、
前記各ブレーキパッド(14)内に、前記ディスクロータ(11)の被制動面(11a)に向けて加圧空気を噴射可能な空気噴射孔(AH)と、この空気噴射孔(AH)に連通している空気通路(AL)が設けられ、前記各ブレーキパッド(14)外に、前記空気通路(AL)に加圧空気を導入可能な空気導入路(PAo)が設けられていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ディスクブレーキ装置において、前記空気導入路(PAo)には、ブレーキ操作またはアクセル操作に応じて作動を制御されて加圧空気の流通を制御する制御弁(CV)が設けられていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用ディスクブレーキ装置において、前記各ブレーキパッド(14)外に、前記各ブレーキパッド(14)の背面に向けて加圧空気を噴射供給可能な空気供給路(PBo)が設けられていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用ディスクブレーキ装置において、前記空気導入路(PAo)と前記空気供給路(PBo)には、ブレーキ操作またはアクセル操作に応じて作動を制御されて加圧空気の流通を制御する制御弁(CVa)が設けられていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用ディスクブレーキ装置において、前記空気供給路(PBo)は前記空気導入路(PAo)の途中から分岐して形成されていて、この分岐部位に前記制御弁(CVa)が設けられていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ装置において、前記空気導入路(PAo)の一部(PA2a,PA3a)が、前記ブレーキパッド(14)のロータ軸方向移動に追従可能に構成されていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項7】
請求項3乃至5の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ装置において、前記空気供給路(PBo)のパッド側端部(PB1a,PB2a・PB3a,PB4a)が、前記ブレーキパッド(14)のロータ軸方向移動に追従可能に構成されていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項8】
請求項3乃至5の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ装置において、前記各ブレーキパッド(14)は前記押圧部材(ピストン13)と一体的にロータ軸方向に移動可能であることを特徴とする車両用ディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−236221(P2009−236221A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83241(P2008−83241)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】