説明

パワーステアリング装置

【課題】省電力化が図れるとともに、操舵補助力が必要な場合に電動モータの駆動が停止されたり、電動モータの回転速度が低速に制御されたりするのを回避できるパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動モータ24が通常モードで駆動制御されている場合において、車速Vsが閾値A1以下でかつ操舵角速度Vhが閾値B1以下でかつモータ電流Imが閾値C1以下の状態が閾値D1で規定される第1の所定時間以上継続したときには、制御モードが省電力モードに切り換えられる。これにより、電動モータ24の目標回転速度Vpが第1の目標回転速度Vp1から第2の目標回転速度Vp2に切り換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータによって駆動される油圧ポンプによって操舵補助力を発生させるパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン等の操舵機構に連結されたパワーシリンダに、油圧ポンプからの作動油を供給することによって、ステアリングホイール等の操舵部材の操作を補助するパワーステアリング装置が従来から知られている。このようなパワーステアリング装置において、油圧ポンプの駆動源として、例えば三相ブラシレスモータからなる電動モータが用いられる場合がある。この場合、電動モータがステアリングホイールの操舵速度に応じた目標回転速度で回転されるように、電動モータに供給される駆動電力が制御される。
【0003】
この種のパワーステアリング装置として、車速が零でかつ操舵角速度が零でかつターンシグナルスイッチがオフであるときに、ステアリング操作が直ちに行なわれないと判断として、電動モータの駆動を停止させるものが開発されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−206572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来のパワーステアリング装置では、車速が零でかつ操舵角速度が零でかつターンシグナルスイッチがオフであるという条件を満たしていれば、例えば、操舵部材を舵角が最大舵角に達するまで操作した時(端当て時)のように運転者によって操舵部材に操舵トルクが加えられている場合にも、電動モータの駆動が停止されてしまう。つまり、操舵補助力が必要な場合にも、電動モータの駆動が停止されてしまう可能性がある。
【0006】
この発明の目的は、省電力化が図れるとともに、操舵補助力が必要な場合に電動モータの駆動が停止されたり、電動モータの回転速度が低速に制御されたりするのを回避できるパワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、電動モータ(24)によって駆動される油圧ポンプ(22)によって操舵補助力を発生させるパワーステアリング装置(1)であって、車速を検出するための車速検出手段(71)と、操舵角速度を検出するための操舵角速度検出手段(51)と、前記電動モータに流れるモータ電流を検出するための電流検出手段(34)と、前記車速検出手段によって検出された車速(Vs)が第1閾値(A1)以下で、かつ前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度(Vh)が第2閾値(B1)以下で、かつ前記電流検出手段によって検出されたモータ電流(Im)が第3閾値(C1)以下である状態が第1の所定時間にわたって継続したときに、前記電動モータの駆動を停止させるかまたは前記電動モータの回転速度を通常時の回転速度よりも低速に制御するための省電力化処理を行なう省電力化手段(53,54,60)とを含む、パワーステアリング装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0008】
この発明では、車速が第1閾値以下でかつ操舵角速度が第2閾値以下でかつモータ電流が第3閾値以下である状態が第1の所定時間にわたって継続したときに、電動モータの駆動を停止させるかまたは電動モータの回転速度を通常時の回転速度よりも低速に制御するための省電力化処理が行われる。これにより、ステアリング操作が行なわれる可能性が低い状態となったときに、電動モータの駆動を停止させるかまたは電動モータの回転速度を通常時の回転速度よりも低速に制御することができる。この結果、省電力化が図れる。
【0009】
また、車速が第1閾値以下でかつ操舵角速度が第2閾値以下であっても、端当て時のように運転者によって操舵部材に操舵トルクが加えられている場合には、モータ電流が第3閾値より大きくなるため、電動モータの駆動が停止されたり、電動モータの回転速度が通常時の回転速度よりも低速に制御されたりすることはない。つまり、操舵補助力が必要な場合に、電動モータの駆動が停止されたり、電動モータの回転速度が通常時の回転速度よりも低速に制御されたりするといったことが回避される。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記省電力化手段は、前記省電力化処理を行なうときには、前記電動モータの駆動を停止させるまでまたは前記電動モータの回転速度が所定の回転速度になるまで、前記電動モータの回転速度を漸減させるように構成されている、請求項1に記載のパワーステアリング装置である。
この構成によれば、省電力化手段によって省電力化処理が行なわれるときに、電動モータの回転速度が急変するのを抑制できるので、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記省電力化手段によって前記省電力化処理が行なわれているときに、前記車速検出手段によって検出された車速が第4閾値(A2)より大きいという条件、前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度が第5閾値(B2)より大きいという条件および前記電流検出手段によって検出されたモータ電流が第6閾値(C2)より大きいという条件のうちの少なくとも1つの条件を満たした状態が第2の所定時間にわたって継続したときには、前記電動モータの回転速度を通常時の回転速度に復帰させる復帰手段をさらに含む、請求項1または2に記載のパワーステアリング装置である。
【0012】
この構成によれば、省電力化手段によって省電力化処理が行なわれているときに、ステアリング操作が行なわれる可能性が高い状態となったときに、電動モータの回転速度を通常時の回転速度に復帰させることができる。この結果、ステアリング操作に応じた適切な操舵補助力を発生させることが可能となる。
請求項4記載の発明は、前記省電力化手段によって前記省電力化処理が行なわれているときに、前記車速検出手段によって検出された車速が第7閾値(A2)より大きい状態が第3の所定時間にわたって継続したとき、前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度が第8閾値(B2)より大きい状態が第4の所定時間にわたって継続したときまたは前記電流検出手段によって検出されたモータ電流が第9閾値(C2)より大きい状態が第5の所定時間にわたって継続したときには、前記電動モータの回転速度を通常時の回転速度に復帰させる復帰手段をさらに含む、請求項1または2に記載のパワーステアリング装置である。この構成によれば、請求項3記載の発明と同様な効果が得られる。
【0013】
請求項5記載の発明は、前記復帰手段は、前記電動モータの回転速度を通常時の回転速度に復帰させるときには、前記電動モータの回転速度が通常時の回転速度となるまで、前記電動モータの回転速度を漸増させるように構成されている請求項3または4に記載のパワーステアリング装置である。
この構成によれば、復帰手段によって電動モータの回転速度が通常時の回転速度に復帰されるときに、電動モータの回転速度が急変するのを抑制できるので、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0014】
請求項6記載の発明は、前記電動モータの通常時の回転速度は、前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度に応じて制御される請求項1〜5のいずれか一項に記載のパワーステアリング装置である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係るパワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、ECUの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、切換制御部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係るパワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
パワーステアリング装置1は、車両のステアリング機構2に関連して設けられ、このステアリング機構2に操舵補助力を与えるためのものである。
【0017】
ステアリング機構2は、車両の操向のために運転者によって操作される操舵部材としてのステアリングホイール3と、このステアリングホイール3に連結されたステアリングシャフト4と、ステアリングシャフト4の先端部に油圧制御弁14を介して連結され、ピニオンギア6を持つピニオンシャフト5と、ピニオンギア6に噛合するラックギヤ部7aを有し、車両の左右方向に延びた転舵軸としてのラック軸7とを備えている。
【0018】
ラック軸7の両端にはタイロッド8がそれぞれ連結されており、このタイロッド8は、それぞれ、左右の転舵輪9,10を支持するナックルアーム11に連結されている。ナックルアーム11は、キングピン12まわりに回動可能に設けられている。
ステアリングホイール3が操作されてステアリングシャフト4が回転されると、この回転が、ピニオンギア6およびラックギア部7aによって、ラック軸7の軸方向に沿う直線運動に変換される。この直線運動は、ナックルアーム11のキングピン12まわりの回転運動に変換され、これにより、左右の転舵輪9,10の転舵が達成される。
【0019】
油圧制御弁14は、ロータリバルブであり、ステアリングシャフト4に接続されたスリーブ弁体(図示略)と、ピニオンシャフト5に接続されたシャフト弁体(図示略)と、両弁体を連結するトーションバー(図示略)とからなる。トーションバーは、ステアリングホイール3に加えられた操舵トルクの方向および大きさに応じてねじれを生じ、このトーションバーのねじれの方向および大きさに応じて油圧制御弁14の開度が変化する。
【0020】
この油圧制御弁14は、ステアリング機構2に操舵補助力を与えるパワーシリンダ15に接続されている。パワーシリンダ15は、ラック軸7に一体に設けられたピストン16と、このピストン16によって区画された一対のシリンダ室17,18とを有しており、シリンダ室17,18は、それぞれ、対応する油路19,20を介して、油圧制御弁14に接続されている。
【0021】
油圧制御弁14は、さらに、リザーバタンク21および操舵補助力発生用の油圧ポンプ22を通る油循環路23の途中部に介装されている。油圧ポンプ22は、例えば、ギヤポンプからなり、電動モータ24によって駆動され、リザーバタンク21に貯留されている作動油をくみ出して油圧制御弁14に供給する。余剰分の作動油は、油圧制御弁14から油循環路23を介してリザーバタンク21に帰還される。
【0022】
電動モータ24は、一方向に回転駆動されて、油圧ポンプ22を駆動するものである。具体的には、電動モータ24は、その出力軸が油圧ポンプ22の入力軸に連結されており、電動モータ24の出力軸が回転することで、油圧ポンプ22の入力軸が回転して油圧ポンプ22の駆動が達成される。
油圧制御弁14は、トーションバーに一方方向のねじれが加わった場合には、油路19,20のうちの一方を介してパワーシリンダ15のシリンダ室17,18のうちの一方に作動油を供給するとともに、他方の作動油をリザーバタンク21に戻す。また、トーションバーに他方方向のねじれが加えられた場合には、油路19,20のうちの他方を介してシリンダ室17,18のうちの他方に作動油を供給するとともに、一方の作動油をリザーバタンク21に戻す。
【0023】
トーションバーにねじれがほとんど加わっていない場合には、油圧制御弁14は、いわば平衡状態となり、操舵中立でパワーシリンダ15の両シリンダ室17,18は等圧に維持され、作動油は油循環路23を循環する。操舵により油圧制御弁14の両弁体が相対回転すると、パワーシリンダ15のシリンダ17,18のいずれかに作動油が供給され、ピストン16が車幅方向(車両の左右方向)に沿って移動する。これにより、ラック軸7に操舵補助力が作用することになる。
【0024】
電動モータ24は三相ブラシレスモータからなり、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)30によって制御される。
車両内には、車内LAN(CAN:Control Area Network)26が構築されている。この車内LAN26に、前述のECU30が接続されている。
さらに、車内LAN26には、車速センサ71、操舵角センサ72、回転位置センサ73、その他のセンサ類が接続されている。車速センサ71は、車両の速度Vsを検出するものである。操舵角センサ72は、運転者によって操作されるステアリングホイール3の操舵角θhを検出するものである。回転位置センサ73は、電動モータ24のロータの回転位置を検出するものである。このような構成により、ECU30は、センサ類からの検出信号を取得することができる。
【0025】
ECU30は、車速センサ71、操舵角センサ72および回転位置センサ73の検出信号等に基づいて、適切な操舵補助力がステアリング機構2に与えられるように電動モータ24の駆動を制御する。
図2は、ECU30の電気的構成を示すブロック図である。
ECU30は、マイクロコンピュータ31と、マイクロコンピュータ31によって制御され、電動モータ24に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)32と、シャント抵抗33と、モータ24に流れるモータ電流(消費電流)を検出するための電流検出部34とを備えている。
【0026】
駆動回路32は、三相ブリッジインバータ回路である。この駆動回路32では、電動モータ24のU相に対応した一対のFET(電界効果トランジスタ)41UH,41ULの直列回路と、V相に対応した一対のFET41VH,41VLの直列回路と、W相に対応した一対のFET41WH,41WLの直列回路とが、直流電源42と接地43との間に並列に接続されている。
【0027】
電動モータ24のU相の界磁コイル(図示略)は、U相に対応した一対のFET41UH,41ULの間の接続点に接続されている。電動モータ24のV相の界磁コイル(図示略)は、V相に対応した一対のFET41VH,41VLの間の接続点に接続されている。電動モータ24のW相の界磁コイル(図示略)は、W相に対応した一対のFET41WH,41WLの間の接続点に接続されている。
【0028】
駆動回路32の接地側と接地43との間にシャント抵抗33が接続されている。電流検出部34は、シャント抵抗33の端子間電圧に基づいて、モータ電流(消費電流)Imを検出するものである。
マイクロコンピュータ31は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、操舵角速度演算部51と、第1の目標回転速度設定部52と、第2の目標回転数設定部53と、目標回転速度切換部54と、回転位置演算部55と、回転速度演算部56と、速度偏差演算部57と、PI制御部58と、PWM制御部59と、切換制御部60とが含まれている。
【0029】
この実施形態では、電動モータ24の制御モードには、通常モードと省電力モードとがある。省電力モード時には、マイクロコンピュータ31は、電動モータ24の駆動を停止させるかまたは電動モータ24の回転速度を通常モード時の回転速度よりも低速に制御するための省電力化処理を行なう。以下では、省電力モード時において、電動モータ24の回転速度が通常モード時の回転速度よりも低速に制御される場合について説明する。
【0030】
操舵角速度演算部51は、操舵角センサ72の出力値を時間微分することによって、操舵角速度Vhを演算する。
第1の目標回転速度設定部52は、通常モード時における電動モータ24の目標回転速度を設定するものである。第1の目標回転速度設定部52は、操舵角速度演算部51によって演算された操舵角速度Vhに基づいて、電動モータ24の目標回転速度(以下、「第1の目標回転速度Vp1」という)を設定する。第1の目標回転速度設定部52は、例えば、操舵角速度と第1の目標回転速度Vp1との関係を記憶したマップに基づいて第1の目標回転速度Vp1を設定する。例えば、第1の目標回転速度Vp1は、操舵角速度が比較的小さい第1範囲内にあるときには下限値(例えば2500[rpm])をとり、操舵角速度が比較的大きな第2範囲内にあるときには上限値(例えば3500[rpm])をとり、操舵角速度が第1範囲と第2範囲の間にある場合には下限値と上限値との間において操舵角速度が大きくなるほど増加するように設定される。
【0031】
第2の目標回転速度設定部53は、省電力モード時における電動モータ24の目標回転速度(以下、「第2の目標回転速度Vp2」という)を設定するものである。この実施形態では、第2の目標回転速度Vp2は、通常モード時の目標回転速度より低い値、例えば1000[rpm]に設定される。
省電力モード時に電動モータ24の駆動を停止させずに、目標回転速度を通常モード時の目標回転速度より低い値に設定する場合、第2の目標回転速度Vp2は、1000[rpm]以上に設定することが好ましい。この理由は、電動モータ24(油圧ポンプ22)の目標回転速度を1000[rpm]未満に設定した場合には、油膜形成が不十分となり、油圧ポンプ22に支障をきたすおそれがあるからである。
【0032】
目標回転速度切換部54は、第1の目標回転速度設定部52によって設定される第1の目標回転速度Vp1と、第2の目標回転速度設定部53によって設定される第2の目標回転速度Vp2とのうちのいずれか一方を選択して、速度偏差演算部57に供給するものである。
切換制御部60は、車速センサ71によって検出される車速Vsと、操舵角速度演算部51によって演算された操舵角速度Vhと、電流検出部34によって検出されるモータ電流Imとに基づいて、通常モードと省電力モードとの間で制御モードを切り換え、モード切換指令を生成する。このモード切換指令に応じて、目標回転速度切換部54における切換えが実行される。通常モードにおいては、目標回転速度切換部54は、第1の目標回転速度設定部52によって設定される第1の目標回転速度Vp1を選択して出力する。一方、省電力モードにおいては、目標回転速度切換部54は、第2の目標回転速度設定部53によって設定される第2の目標回転速度Vp2を選択して出力する。切換制御部60の動作の詳細については、後述する。
【0033】
回転位置演算部55は、回転位置センサ73の検出信号に基づいて、電動モータ24のロータ回転位置を演算する。回転速度演算部56は、回転位置演算部55によって演算されるロータ回転位置に基づいて、電動モータ24の回転速度(実回転速度)Vpを演算する。速度偏差演算部57は、目標回転速度切換部54によって選択された目標回転速度Vpと回転速度演算部56によって演算された電動モータ24の回転速度Vpとの偏差ΔVp(=Vp−Vp)を演算する。
【0034】
PI制御部58は、速度偏差演算部57によって演算された速度偏差ΔVpに対してPI演算を行なう。すなわち、速度偏差演算部57およびPI制御部58によって、電動モータ24の回転速度Vpを目標回転速度Vpに導くための速度フィードバック制御手段が構成されている。PI制御部58は、速度偏差ΔVpに対してPI演算を行なうことで、電動モータ24に印加すべき制御電圧値を演算する。
【0035】
PWM制御部59は、PI制御部58によって演算された制御電圧値と回転位置演算部55によって演算されたロータ回転位置とに基づいて、駆動信号を生成して、駆動回路32に供給する。これにより、駆動回路32から、PI制御部58によって演算された制御電圧値に応じた電圧が電動モータ24に印加される。
つまり、制御モードが通常モードである場合には、電動モータ24は、回転速度演算部56によって演算される回転速度Vpが、第1の目標回転速度設定部52によって設定された第1の目標回転速度Vp1に等しくなるように駆動制御される。一方、制御モードが省電力モードである場合には、電動モータ24は、回転速度演算部56によって演算される回転速度Vpが、第2の目標回転速度設定部53によって設定された第2の目標回転速度Vp2に等しくなるように駆動制御される。
【0036】
図3は、切換制御部60の動作を示すフローチャートである。図3の処理は、所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
切換制御部60は、まず、車速センサ71によって検出された車速Vを車内LAN26を介して受信するとともに、操舵角速度演算部51から操舵角速度Vhを取得する(ステップS1)。また、切換制御部60は、電流検出部34からモータ電流Imを取得する(ステップS2)。
【0037】
次に、切換制御部60は、モードフラグFがセットされているか否かを判別する(ステップS3)。モードフラグFは、制御モードが通常モードである場合にはリセット(F=0)され、制御モードが省電力モードである場合にはセット(F=1)される。モードフラグFは、初期状態ではリセットされている。
モードフラグFがリセット(F=0)されている場合には(ステップS3:NO)、つまり、制御モードが通常モードである場合には、切換制御部60は、車速Vsが所定の閾値A1以下であるか否かを判別する(ステップS4)。閾値A1は、例えば、0[km/h]以上5[km/h]以下の値に設定される。この実施形態では、閾値A1は1[km/h]に設定される。
【0038】
車速Vsが閾値A1以下である場合には(ステップS4:YES)、切換制御部60は、操舵角速度Vhが所定の閾値B1以下であるか否かを判別する(ステップS5)。閾値B1は、例えば、1[degree/sec]以上10[degree/sec]以下の値に設定される。この実施形態では、閾値B1は10[degree/sec]に設定される。
操舵角速度Vhが閾値B1以下である場合には(ステップS5:YES)、切換制御部60は、モータ電流Imが所定の閾値C1以下であるか否かを判別する(ステップS6)。閾値C1は、例えば、5[A]以上10[A]以下の値に設定される。この実施形態では、閾値C1は5[A]に設定される。
【0039】
モータ電流Imが閾値C1以下である場合には(ステップS6:YES)、切換制御部60は、第1カウント値K1を1だけインクリメント(+1)する(ステップS7)。第1カウント値K1の初期値は零である。
そして、切換制御部60は、第1カウント値K1が所定の閾値D1以上であるか否かを判別する(ステップS8)。第1カウント値K1が閾値D1未満である場合には(ステップS8:NO)、切換制御部60は、今回の演算周期での処理を終了する。
【0040】
前記ステップS4で車速Vsが閾値A1より大きいと判別された場合(ステップS4:NO)、前記ステップS5で操舵角速度Vhが閾値B1より大きいと判別された場合(ステップS5:NO)または前記ステップS6でモータ電流Imが閾値C1より大きいと判別された場合(ステップS6:NO)には、切換制御部60は、第1カウント値K1をリセット(K1=0)する(ステップS11)。そして、切換制御部60は、今回の演算周期での処理を終了する。
【0041】
したがって、前記ステップS8では、車速Vsが閾値A1以下でかつ操舵角速度Vhが閾値B1以下でかつモータ電流Imが閾値C1以下の状態が閾値D1で規定される第1の所定時間以上継続したか否かが判別されることになる。第1の所定時間は、例えば5[sec]に設定される。
前記ステップS8において、第1カウント値K1が閾値D1以上であると判別された場合には(ステップS8:YES)、切換制御部60は、制御モードを省電力モードに切り換える(ステップS9)。具体的には、切換制御部60は、目標回転速度切換部54が第2の目標回転速度Vp2を選択して出力するように、目標回転速度切換部54を制御する。
【0042】
この後、切換制御部60は、モードフラグFをセット(F=1)するとともに、第1カウンタ値K1をリセット(K1=0)する(ステップS10)。そして、切換制御部60は、今回の演算周期での処理を終了する。
前記ステップS3でモードフラグFがセット(F=1)されていると判別された場合には(ステップS3:YES)、つまり、制御モードが省電力モードである場合には、切換制御部60は、車速Vsが所定の閾値A2より大きいか否かを判別する(ステップS12)。閾値A2は、前記閾値A1以上の値に設定される。この実施形態では、閾値A2は1[km/h]に設定される。
【0043】
車速Vsが閾値A2以下である場合には(ステップS12:NO)、切換制御部60は、操舵角速度Vhが所定の閾値B2より大きいか否かを判別する(ステップS13)。閾値B2は、前記閾値B1以上の値に設定される。この実施形態では、閾値B2は10[degree/sec]に設定される。
操舵角速度Vhが閾値B2以下である場合には(ステップS13:NO)、切換制御部60は、モータ電流Imが所定の閾値C2より大きいか否かを判別する(ステップS14)。閾値C2は、前記閾値C1以上の値に設定される。この実施形態では、閾値C2は5[A]に設定される。
【0044】
モータ電流Imが閾値C2以下である場合には(ステップS14:NO)、切換制御部60は、第2カウント値K2をリセット(K2=0)する。第2カウント値K2の初期値は零である。そして、切換制御部60は、今回の演算周期での処理を終了する。
前記ステップS12において車速Vsが閾値A2より大きいと判別された場合(ステップS12:YES)、前記ステップS13において操舵角速度Vhが閾値B2より大きいと判別された場合(ステップS13:YES)または前記ステップS14においてモータ電流Imが閾値C2より大きいと判別された場合(ステップS14:YES)には、切換制御部60は、第2カウント値K2を1だけインクリメント(+1)する(ステップS16)。
【0045】
そして、切換制御部60は、第2カウント値K2が所定の閾値D2以上であるか否かを判別する(ステップS17)。つまり、車速Vsが閾値A2より大きいという条件、操舵角速度Vhが閾値B2より大きいという条件およびモータ電流Imが閾値C2より大きいという条件のうちの少なくとも1つの条件が満たされている状態が閾値D2で規定される第2の所定時間以上継続したか否かが判別される。第2の所定時間は、例えば、例えば0.1[sec]に設定される。
【0046】
第2カウント値K2が閾値D2未満である場合には(ステップS17:NO)、切換制御部60は、今回の演算周期での処理を終了する。
前記ステップS17において、第2カウント値K2が閾値D2以上であると判別された場合には(ステップS17:YES)、切換制御部60は、制御モードを通常モードに切り換える(ステップS18)。具体的には、切換制御部60は、目標回転速度切換部54が第1の目標回転速度Vp1を選択して出力するように、目標回転速度切換部54を制御する。
【0047】
この後、切換制御部60は、モードフラグFをリセット(F=0)するとともに、第2カウンタ値K2をリセット(K2=0)する(ステップS19)。そして、切換制御部60は、今回の演算周期での処理を終了する。
このような切換制御部60の動作により、電動モータ24が通常モードで駆動制御されている場合において、車速Vsが閾値A1以下でかつ操舵角速度Vhが閾値B1以下でかつモータ電流Imが閾値C1以下の状態が閾値D1で規定される第1の所定時間以上継続したときには、ステアリング操作が行なわれる可能性が低い状態であると判定されて、制御モードが省電力モードに切り換えられる。これにより、電動モータ24の目標回転速度Vpが第1の目標回転速度Vp1から第2の目標回転速度Vp2に切り換えられる。この結果、電動モータ24の回転速度が通常モード時の回転速度より低速に制御されるので、省電力化が図れる。
【0048】
また、車速Vsが閾値A1以下でかつ操舵角速度Vhが閾値B1以下であっても、端当て時のように運転者によってステアリングホイール3に操舵トルクが加えられている場合には、モータ電流Imが閾値C1より大きくなるため、制御モードが省電力モードに切り換えられることはない。このため、操舵補助力が必要な場合に、制御モードが省電力モードに切り換えられるのを回避することができる。
【0049】
また、油圧ポンプ22の劣化、油の劣化等によって、電動モータ24の負荷が大きくなっている場合には、油圧ポンプ22の駆動を停止させると、再起動ができなくなるおそれがある。そこで、このような場合には、制御モードを省電力モードに切り換えない方が好ましい。油圧ポンプ22の劣化、油の劣化等によって、電動モータ24の負荷が大きくなると、モータ電流も大きくなる。前記実施形態では、モータ電流Imが閾値C1以下にならない限り、制御モードが省電力モードに切り換えられないので、このような場合に制御モードが省電力モードに切り換えられることはない。
【0050】
また、低温時には油の流動性が悪くなり、電動モータ24の負荷が大きくなり、モータ電流が大きくなる。このような場合には、暖機運転が必要となる。前記実施形態では、モータ電流Imが閾値C1以下にならない限り、制御モードが省電力モードに切り換えられないので、暖機運転中に制御モードが省電力モードに切り換えられるのを回避できる。なお、暖機運転によって電動モータ24の負荷が低下してモータ電流Imが閾値C1以下となった後にも、暖機運転が継続されている場合には、制御モードが省電力モードに切り換えられることになる。
【0051】
一方、電動モータ24が省電力モードで駆動制御されている場合において、車速Vsが閾値A2より大きいという条件、操舵角速度Vhが閾値B2より大きいという条件およびモータ電流Imが閾値C2より大きいという条件のうちの少なくとも1つの条件が満たされている状態が閾値D2で規定される第2の所定時間以上継続したときには、ステアリング操作が行なわれる可能性が高いと判定されて、制御モードが通常モードに切り換えられる。これにより、電動モータ24の目標回転速度Vpが第2の目標回転速度Vp2から第1の目標回転速度Vp1に切り換えられる。この結果、ステアリング操作に応じた適切な操舵補助力を発生させることが可能となる。
【0052】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、前記実施形態では、第2の目標回転速度設定部53は、制御モードが通常モードから省電力モードに切り換えられたときには、所定の第2の目標回転速度Vp2を設定して出力しているが、モード切換直前の目標回転速度Vpから前記第2の目標回転速度Vp2まで漸次的に(徐々に)減少するような目標回転速度を生成して出力するようにしてもよい。このようにすると、制御モードが通常モードから省電力モードに切り換えられたときに、電動モータ24の回転速度が急変するのを抑制できるので、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0053】
同様に、前記実施形態では、第1の目標回転速度設定部52は、制御モードが省電力モードから通常モードに切り換えられたときには、操舵角速度に応じた第1の目標回転速度Vp1を設定して出力しているが、モード切換直前の目標回転速度Vpから操舵角速度に応じた第1の目標回転速度Vp1まで漸次的に(徐々に)増加するような目標回転速度を生成して出力するようにしてもよい。このようにすると、制御モードが省電力モードから通常モードに切り換えられたときに、電動モータ24の回転速度が急変するのを抑制できるので、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0054】
また、前記実施形態では、電動モータ24が省電力モードで駆動制御されている場合において、車速Vsが閾値A2より大きいという条件、操舵角速度Vhが閾値B2より大きいという条件およびモータ電流Imが閾値C2より大きいという条件のうちの少なくとも1つの条件が満たされている状態が第2の所定時間以上継続したときには、制御モードが通常モードに切り換えられている。しかし、電動モータ24が省電力モードで駆動制御されている場合において、車速Vsが閾値A2より大きい状態が第3の所定時間以上継続した場合、操舵角速度Vhが閾値B2より大きい状態が第4の所定時間以上継続した場合またはモータ電流Imが閾値C2より大きい状態が第5の所定時間以上継続した場合に、制御モードを通常モードに切り換えるようにしてもよい。前記第3の所定時間、前記第4の所定時間および前記第5の所定時間は、例えば、前記第2の所定時間と同じ時間であってもよい。
【0055】
また、前記実施形態では、省電力モード時には電動モータ24の回転速度を通常モード時の回転速度よりも低速に制御しているが、省電力モード時に電動モータ24の駆動を停止させるようにしてもよい。
また、前記実施形態では、モータ電流(消費電流)はシャント抵抗33の端子間電圧に基づいて検出しているが、U相電流、V相電流およびW相電流のうちの少なくとも1相分の相電流に基づいて、モータ電流(消費電流)を検出するようにしてもよい。例えば、電動モータ24の回転速度が定常(一定)であるとみなし、1相分の相電流のrms(root mean square)値を消費電流として検出するようにしてもよい。
【0056】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…パワーステアリング装置、2…ステアリング機構、3…ステアリングホイール、22…油圧ポンプ、24…電動モータ、30…ECU、34…電流検出部、51…操舵角速度演算部、52…第1の目標回転速度設定部、53…第2の目標回転速度設定部、54…目標回転速度切換部、57…速度偏差演算部、58…PI制御部、60…切換制御部、71…車速センサ、72…操舵角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによって駆動される油圧ポンプによって操舵補助力を発生させるパワーステアリング装置であって、
車速を検出するための車速検出手段と、
操舵角速度を検出するための操舵角速度検出手段と、
前記電動モータに流れるモータ電流を検出するための電流検出手段と、
前記車速検出手段によって検出された車速が第1閾値以下で、かつ前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度が第2閾値以下で、かつ前記電流検出手段によって検出されたモータ電流が第3閾値以下である状態が第1の所定時間にわたって継続したときに、前記電動モータの駆動を停止させるかまたは前記電動モータの回転速度を通常時の回転速度よりも低速に制御するための省電力化処理を行なう省電力化手段とを含む、パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記省電力化手段は、前記省電力化処理を行なうときには、前記電動モータの駆動を停止させるまでまたは前記電動モータの回転速度が所定の回転速度になるまで、前記電動モータの回転速度を漸減させるように構成されている、請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記省電力化手段によって前記省電力化処理が行なわれているときに、前記車速検出手段によって検出された車速が第4閾値より大きいという条件、前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度が第5閾値より大きいという条件および前記電流検出手段によって検出されたモータ電流が第6閾値より大きいという条件のうちの少なくとも1つの条件を満たした状態が第2の所定時間にわたって継続したときには、前記電動モータの回転速度を通常時の回転速度に復帰させる復帰手段をさらに含む、請求項1または2に記載のパワーステアリング装置。
【請求項4】
前記省電力化手段によって前記省電力化処理が行なわれているときに、前記車速検出手段によって検出された車速が第7閾値より大きい状態が第3の所定時間にわたって継続したとき、前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度が第8閾値より大きい状態が第4の所定時間にわたって継続したときまたは前記電流検出手段によって検出されたモータ電流が第9閾値より大きい状態が第5の所定時間にわたって継続したときには、前記電動モータの回転速度を通常時の回転速度に復帰させる復帰手段をさらに含む、請求項1または2に記載のパワーステアリング装置。
【請求項5】
前記復帰手段は、前記電動モータの回転速度を通常時の回転速度に復帰させるときには、前記電動モータの回転速度が通常時の回転速度となるまで、前記電動モータの回転速度を漸増させるように構成されている、請求項3または4に記載のパワーステアリング装置。
【請求項6】
前記電動モータの通常時の回転速度は、前記操舵角速度検出手段によって検出された操舵角速度に応じて制御される請求項1〜5のいずれか一項に記載のパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−71559(P2013−71559A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211290(P2011−211290)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】