説明

光半導体装置、及びその製造方法

【課題】活性層を半絶縁半導体で埋め込む、埋め込みヘテロ型半導体光素子において、高速変調動作に対応するべく、活性層以外の寄生容量を低減する。
【解決手段】活性層を含むメサストライプ部18の両側に成長させる半絶縁半導体の埋め込み層10を、メサストライプ部18と同じ高さまでの第1の層と、第1の層の表面にメサストライプ部18上に沿って形成した、メサストライプより幅広のマスクの両側に成長させる第2の層とで構成する。第2の層を成長させない溝28の底面26は平坦で幅広に形成される。コンタクト用電極30は底面26内に配置可能となり、その狭幅化により面積が縮小され、当該電極30の寄生容量が低減される。また、第2の埋め込み層の膜厚を厚くすることにより、パッド電極34とn型基板2との間の寄生容量が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋め込みメサ構造を有した光半導体装置(半導体光素子)及びその製造方法に関し、特に、半導体光変調装置及びこれを集積した集積型半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
活性層を半絶縁半導体で埋め込む埋め込みヘテロ構造(Buried Heterostructure:BH)型半導体光素子は、活性領域へのキャリアの注入及び当該キャリアの引き出しを効率良く行うことができるので高速変調動作に適しており、例えば、電界吸収(Electro Absorption:EA)型変調器集積レーザに広く採用されている。図7は、半絶縁半導体BH構造の変調器集積型レーザの従来の素子の斜視図であり、図7における線a−a、線b−bに沿った垂直断面図を図8、図9に示す。ビットレート10Gビット/秒以上の高速変調動作に対応するためには寄生容量を極力低減する必要がある。BH構造の半導体光素子の活性層以外での寄生容量において一般に、p型電極(アノード電極)とn型基板との間の容量(電極間容量)が占める割合が最も大きくなる。この電極間容量を低減するために、従来は、p型電極12とn型基板2との間に挟まれた半絶縁半導体埋め込み層10の膜厚HSI0を厚くする方法、半絶縁半導体埋め込み層10とp型電極12にて大きな面積を占めるワイヤボンディングのためのパッド電極部分との間に誘電体層14を挿入する方法、p型電極のパッド電極部分の面積を縮小する方法、及びメサストライプ部18の電極幅LEL0を狭くする方法で対応してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−226531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今後の展望である25〜100Gビット/秒というより高速の動作を実現するためには、さらなる寄生容量の低減が必須であり、上述した低容量化対策をさらに推し進める必要がある。
【0005】
しかし、誘電体層14の膜厚増加は、ウエハ面内での均一性の確保やp型電極の段切れの発生などの点でプロセス条件的に厳しくなる。そのため、誘電体層14の膜厚は5μm程度にとどまる。また、p型電極面積に関しては、パッド電極の縮小はワイヤボンディング精度により制限され、メサストライプ部18の幅の縮小は、メサストライプ部18の上の絶縁膜16に開けられるコンタクトスルーホール形成のプロセス精度により制限され、いずれも現状以下に小さくすることは難しい。このような事情から、さらなる寄生容量低減のためには半絶縁半導体埋め込み層10の膜厚HSI0を厚くする方法で臨むことが好適と考えられる。
【0006】
埋め込み層10の形成には例えば、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法が用いられ、メサストライプ部18の上面をマスクし、マスクされていないメサストライプ部18両側部分に選択的にインジウム・リン(InP)等を結晶成長させる。その際、埋め込み層10の高さをメサストライプ部18よりも高くすると、メサストライプ部18の上面と埋め込み層10の上面との段差には、埋め込み層10を構成するInP等の(111)B面による斜面が形成される。埋め込み層10の膜厚HSI0の増加は、当該斜面が形成される領域がメサストライプ部18の両側に拡大するという現象を伴う。このような斜面上でのフォトリソグラフィによるパターン形成は、フォトレジスト露光時の光の反射や散乱などの影響により解像度が劣化する。この悪影響は、メサストライプ部18の上部層へのp型電極12のコンタクト用のスルーホールの幅LTH0を広げ、スルーホールのエッジを斜面の存在範囲より外側の、埋め込み層10の平坦な上面に設けることで回避できる。例えば、埋め込み層10の膜厚を5μmとした場合、スルーホール幅LTH0は8μm程度にまで拡大し得る。この結果、p型電極12のうちメサストライプ部18に沿って配置されるコンタクト用電極部分の幅LEL0が広がり、この部分の寄生容量が大きくなる。すなわち、埋め込み層10の膜厚は、p型電極12のパッド電極部分とコンタクト用電極部分とで寄生容量のトレードオフを生じ、寄生容量が好適に減少しないという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、p型電極とn型基板との間の寄生容量が好適に減少する光半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光半導体装置は、基板上に形成された、活性層を有するメサストライプ部と、半絶縁性半導体からなり、前記メサストライプ部の上端に応じた高さまで前記メサストライプ部の両側を埋め、前記メサストライプ部と共に埋め込みメサ構造を形成する埋め込み層と、前記埋め込みメサ構造の上面に前記メサストライプ部に沿って延在され、前記メサストライプ部に電気的に接続されるコンタクト用電極と、半絶縁性半導体からなり、前記コンタクト用電極が配置された領域以外の領域に、前記埋め込み層よりも高く形成された台地部と、前記台地部の上面に配置され、配線を介して前記コンタクト用電極に接続されるボンディング用のパッド電極と、を有する。
【0009】
本発明の好適な態様は、前記埋め込みメサ構造を用いて、電界吸収型変調器、電界吸収型変調器集積レーザの変調器部、マッハツェンダー型変調器、マッハツェンダー型変調器集積レーザの変調器部、及び直接電流変調型レーザのいずれかを構成した光半導体装置である。
【0010】
本発明に係る光半導体装置において、前記埋め込み層を形成する前記半絶縁性半導体及び前記台地部を形成する前記半絶縁性半導体は、鉄又はルテニウムを含有するものとすることができる。
【0011】
また、本発明に係る光半導体装置において、前記活性層はInGaAsP(インジウム・ガリウム・ヒ素・リン)又はInGaAlAs(インジウム・ガリウム・アルミニウム・ヒ素)で構成することができる。
【0012】
本発明に係る光半導体装置の製造方法は、前記基板上に前記メサストライプ部を形成する工程と、前記メサストライプ部の上面をマスクで覆い、当該マスクで覆われていない部分に選択的に前記埋め込み層を成長させて前記メサストライプ部の両側を当該埋め込み層で埋め、前記埋め込みメサ構造を形成する工程と、前記埋め込みメサ構造の上面のうち前記コンタクト用電極を形成する領域を包含する低地領域をマスクで覆い、当該マスクで覆われていない部分に選択的に前記半絶縁性半導体からなる層を成長させて前記台地部を形成する工程と、前記低地領域及び前記台地部の表面に絶縁体からなる保護膜を形成する工程と、前記保護膜に前記メサストライプ部の上面へのスルーホールを形成する工程と、前記スルーホール形成後の前記低地領域及び前記台地部の表面に導電体からなる電極膜を形成する工程と、前記電極膜をフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングして、前記低地領域内にのみ配置され前記スルーホールを介して前記メサストライプ部に接続される前記コンタクト用電極、前記台地部上面に配置される前記パッド電極、及び前記配線を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メサストライプ部に沿って配置されるコンタクト用電極の幅を増加させずに埋め込み層の厚さを増加させることができ、コンタクト用電極及びパッド電極の寄生容量を好適に減少させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係るBH構造の半導体光素子の模式的な斜視図である。
【図2】本発明に係る半導体光素子の第1の埋め込み成長工程後の模式的な垂直断面図である。
【図3】本発明に係る半導体光素子の第2の埋め込み成長工程に対するマスク形成後の模式的な垂直断面図である。
【図4】本発明に係る半導体光素子の第2の埋め込み成長工程後の模式的な垂直断面図である。
【図5】本発明に係る半導体光素子の図1の線a−aに沿った模式的な垂直断面図である。
【図6】本発明に係る半導体光素子の図1の線b−bに沿った模式的な垂直断面図である。
【図7】従来のBH構造の半導体光素子の斜視図である。
【図8】従来の半導体光素子の図7の線a−aに沿った垂直断面図である。
【図9】従来の半導体光素子の図7の線b−bに沿った垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
本実施形態に係る半導体光素子は、半導体レーザの前方にEA型変調器をモノリシックに集積した変調器集積型半導体レーザ素子である。図1は、本素子の模式的な斜視図である。n型InP基板2上に、BH構造のメサストライプ部18が形成される。当該素子は、分布帰還(Distributed Feed Back:DFB)レーザが形成されるレーザ形成領域20とEA型変調器が形成される変調器形成領域22とを有し、両領域20,22はアイソレーション溝24により電気的に分離される。両領域20,22には、メサストライプ部18に沿い、後述する埋め込み層10の2段階形成によって底面26が幅広に形成された溝28が設けられる。変調器形成領域22には、EA型変調器のメサ構造の上部に位置するコンタクト層に電気的に接続されるp型電極12が形成される。このp型電極12は、コンタクト用電極30、パッド電極34、及び配線36からなる。コンタクト用電極30は、溝28の底面26に沿って延在され、メサストライプ部の上の絶縁膜16に開けられたスルーホールを介してコンタクト層に接触する。パッド電極34は、ワイヤボンディングのための電極であり、溝28の外側の領域(台地部)に配置される。例えば、図1ではパッド電極34は円形としている。当該パッド電極34は、埋め込み層10の台地部に積層された誘電体層14の上に形成される。p型電極12のうち配線36は、コンタクト用電極30とパッド電極34との間を接続する部分であり、例えば、コンタクト用電極30の長さ(メサストライプ部18の延在方向の寸法)や、パッド電極34の寸法に比べて比較的小さい幅とすることができる。
【0017】
以下、本素子の製造方法を説明する。n型InP基板2上にMOCVD法を用いて、n型InPバッファ層、n型InGaAsP光ガイド層、アンドープInGaAsP活性層、p型InGaAsP光ガイド層、p型InPスペーサ層、p型InGaAsP回折格子層、p型InPキャップ層をこの順に成長する(第1の積層成長)。これにより、回折格子層を有したDFBレーザとして機能する第1の積層構造が形成される。
【0018】
次に、第1の積層構造の表面に酸化膜や窒化膜などの絶縁膜を形成し、当該絶縁膜をパターニングして、レーザ形成領域20以外の領域から当該絶縁膜を除去する。そして、レーザ形成領域20に残った絶縁膜をエッチングマスクとして用いて、ドライエッチング及びウェットエッチングにより、変調器形成領域22にて第1の積層構造をn型InPバッファ層表面までエッチングする。次に、エッチングにより現れたn型InPバッファ層表面の上に、MOCVD法を用いて、n型InGaAsP光ガイド層、アンドープInGaAsP活性層、p型InGaAsP光ガイド層、p型InPキャップ層をこの順に成長する(第2の積層成長)。これにより、EA型変調器として機能する第2の積層構造が、レーザ形成領域20に隣接する変調器形成領域22に形成される。
【0019】
なお、本実施の形態では、DFBレーザ部を形成する第1の積層構造をEA型変調器部を形成する第2の積層構造よりも先に形成したがこれらの形成順序を入れ替えることもできる。
【0020】
続いて、第2の積層構造が形成された変調器形成領域22を酸化膜や窒化膜などの絶縁膜で覆い、これをエッチングマスクとして用いて、レーザ形成領域20から、p型InGaAs回折格子層の保護層であるInPキャップ層をエッチング除去する。その後、フォトリソグラフィ技術により回折格子層をパターニングして、光軸に直交する方向に長手方向を向けた短冊形状が光軸方向に複数配列されたパターンを形成する。これにより、光軸方向に周期的に配置された回折格子層からなる回折格子がレーザ形成領域20に形成される。
【0021】
この後、変調器形成領域22からp型InPキャップ層を除去し、この変調器形成領域22及びレーザ形成領域20にMOCVD法によりp型InPクラッド層、p型InGaAsPノッチ低減層、p型InGaAsコンタクト層、InPキャップ層を順に成長する。
【0022】
次に、フォトリソグラフィ技術によって、絶縁膜からなる幅1〜2.5μm程度のストライプパターンのマスク38を形成する。このマスク38を用いてドライエッチングを行い、マスク下の積層構造をメサ状に残しつつ、その両側の積層構造を除去する。このドライエッチング工程は、n型InP基板2に達してから、さらに1.0μm程度深く掘り込む。引き続いて、ドライエッチダメージ除去のため、ドライエッチングにより露出した表面を臭素系溶液により0.1μm程度エッチングする。これにより、n型InP基板2上にリッジストライプ状のメサ構造が形成される。
【0023】
以上のメサストライプ部18の形成までは、基本的に従来と同様の工程で行うことができる。メサストライプ部18の形成後の本素子の製造方法を、図2〜図6を用いて説明する。図2〜図6は、本素子の製造過程での模式的な垂直断面図であり、メサストライプ部18の延在方向に直交する垂直断面を表している。
【0024】
メサストライプ部18の上面にマスク38を配した状態で、MOCVD法により鉄(Fe)やルテニウム(Ru)をドープした半絶縁InPにより埋め込み成長を行う。これにより、メサストライプ部18の両側の窪みが埋め込まれ、埋め込み層40が形成される。この埋め込み層40の膜厚は、メサストライプ部18の高さと同じ、もしくは0.5μm盛り上がる程度までとする(第1の埋め込み成長工程)。図2は、当該工程後の模式的な素子の垂直断面図である。この工程で形成される埋め込み層40によって、メサストライプ部18の側面は封止されBH構造ができあがる。
【0025】
次にマスク38を除去し、メサストライプ部18の上に沿って、絶縁膜からなるストライプパターンの新たなマスク42を形成する。このマスク42は、マスク38よりも広い幅を有する。例えば、マスク42はメサストライプ部18を中心として配置され、幅10〜20μmの太い幅となるようにする(図3)。
【0026】
このマスク42の形成後、MOCVD法により再びFeやRuをドープした半絶縁InPを埋め込み層40の上に結晶成長させる第2の埋め込み成長工程を行う(図4)。この工程で成長される埋め込み層44は、マスク42で覆われていない領域にて基本的にメサストライプ部18の上面より高い位置まで成長される。このようにして、本素子の図1に示した埋め込み層10は、埋め込み層40と埋め込み層44との2段階で形成される。後述するように埋め込み層44の上にパッド電極34が形成され、当該パッド電極34がn型InP基板2との間に生じる容量は、パッド電極34下の埋め込み層10の厚みが増すほど低下する。埋め込み層44の膜厚の設定については比較的自由度が高く、パッド電極34の寄生容量が許容値まで低減するよう当該膜厚を定めることができる。
【0027】
第2の埋め込み成長工程後、マスク絶縁膜のマスク42が除去される。マスク42で覆われていた部分には埋め込み層44は成長せず、当該部分での埋め込み層10は、第1の埋め込み成長工程で形成した埋め込み層40の厚みとなる。これにより、メサストライプ部18を含む領域には高さが低い低地領域が形成され、その両脇に高さが一段高くなった台地部が形成され、その結果、メサストライプ部18に沿って溝28が形成される。低地領域である溝28の底面26の高さはメサストライプ部18の上面と基本的に同様となり、マスク42の幅に対応して、図1に示したように底面26は幅広の平坦部を形成する。
【0028】
引き続いて、埋め込み成長以降の製造工程について説明する。第2の埋め込み成長後、マスク42を除去し、酸化膜や窒化膜などの絶縁膜16で表面全体を覆う。次にフォトリソグラフィ技術によりメサストライプ部18を中心とする3〜5μm幅のスルーホールを絶縁膜上に開け、さらに当該スルーホール内のp型InPキャップ層をエッチングにより除去し、p型InGaAsコンタクト層を露出させる。続いて、素子表面(埋め込み層44及び溝28)に導電材としてTi/Pt/Auを順に真空蒸着により積層し、電極膜を形成する。
【0029】
この電極膜をフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングしてp型電極12を形成する。図5、図6はそれぞれp型電極12を形成した素子の模式的な垂直断面図であり、図1に示す線a−a、線b−bに沿った断面の主要部を表している。図5及び図6には、スルーホール46を介してメサストライプ部18上部のp型InGaAsコンタクト層に接続されるコンタクト用電極30が表されている。また図5には、埋め込み層44の上面に配置されるパッド電極34及び、パッド電極34とコンタクト用電極30とを接続する配線36も現れている。
【0030】
上述した埋め込み層10の2段階形成により底面26の幅は任意に設計することができる。これにより、コンタクト用スルーホール46、コンタクト用電極30は底面26内に配置できる。すなわち、絶縁膜16にスルーホール46を形成するパターニング及び電極膜からp型電極12を形成するパターニングそれぞれにおけるエッジの解像度の確保の観点から、埋め込み層10の段差斜面にスルーホール46やコンタクト用電極30のエッジが配置されることを回避するためにスルーホール46の幅LTH1やコンタクト用電極30の幅LEL1を段差の上の平坦部まで広げる必要がなくなる。このように、コンタクト用電極30の幅LEL1は、コンタクト用スルーホール46の幅LTH1と共に狭めることができ、その面積縮小によりコンタクト用電極30に起因する寄生容量の低減が図られる。
【0031】
一方、パッド電極34は、埋め込み層10のうち、底面26とは独立して膜厚HSI1を厚くすることができる台地部の上面に配置され、膜厚HSI1の増加によりパッド電極34の寄生容量も低減される。なお、本実施形態では、埋め込み層44の上面に誘電体層14を積層し、パッド電極34はその上に形成されるので、n型InP基板2との距離がさらに拡大し、一層の寄生容量低減が図られている。
【0032】
p型電極12の形成等、素子表面側の構造が形成されると、n型InP基板2の裏面を100μm厚程度まで研磨し、裏面にn型電極(図示せず)を形成する。素子の前方及び後方を露出するように劈開し、それぞれの面に低反射膜、高反射膜をスパッタリングにより形成してチップ化すれば、変調器集積型半導体レーザ素子が完成する。
【0033】
[第1の実施形態の変形例(その1)]
上記実施形態では、EA型変調器の変調器部のp型電極12の寄生容量低減に本発明を適用したが、これを変調器部がマッハツェンダー型変調器である素子において、そのp型電極の寄生容量の低減に適用することもできる。
【0034】
[第1の実施形態の変形例(その2)]
上記実施形態では、DFBレーザ部及び変調器部の活性層材料をInGaAsPとしたが、活性層の材料はこれに限定されるものではない。例えば、活性層がInGaAlAs材料である素子においても本発明を適用できる。ただし、活性層にAlを含む場合は、メサストライプ部18を埋め込む第1の埋め込み成長の際に、表面酸化の影響により埋め込み成長界面に電流リーク成分が生じる可能性があるため、第1の埋め込み成長前にMOCVD炉内において、ハロゲン系ガスにより表面処理を行う。第1の埋め込み成長以降は、上述の実施形態と同様の製造工程となる。
【0035】
[第1の実施形態の変形例(その3)]
スルーホール46の幅LTH1を狭めれば、それに応じてコンタクト用電極30の幅LEL1も狭まり、その面積縮小により寄生容量の減少が図れる。そこで、露光精度が高い電子ビーム(Electron Beam:EB)露光法を用いて、スルーホール幅LTH1の一層の縮小を図ることができる。その場合には、ビームで走査される表面の凹凸がビームの反射や散乱を引き起こし露光精度を低下させることがあるので、スルーホール46を形成する底面26の平坦性確保が求められる。
【0036】
この点、上述の実施形態のように単純にMOCVD法で埋め込み層40を成長させただけの場合、埋め込み層40はメサストライプ部18の近傍ではマスク38による選択成長効果で多少盛り上がり、一方、メサストライプ部18から離れた位置では近傍におけるより低くなる傾向が現れ得る。
【0037】
そこで、EB露光法を採用する場合には、底面26の平坦性の一層の向上を図るため、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)処理を行ってもよい。この場合、第1の埋め込み成長の厚さは、CMP処理で薄くなる分を考慮して設定する。例えば、埋め込み層40をメサストライプ部18より高く成長させた後、CMP処理によりメサストライプ部18の高さまで研磨加工し、ウエハ面内にて均一にフラットな表面を得ることができる。しかる後、メサストライプ部18のマスク38を除去し、10〜20μm幅のマスク42をメサストライプ部18上に沿って再度形成し、第2の埋め込み成長を行う。以降は、基本的に上記実施形態と同様の製造工程となる。ただし、メサストライプ部18のスルーホール46は上述のようにEB露光装置を用いて形成する。これにより、スルーホール幅LTH1を1.5〜3μmとすることができ、コンタクト用電極30の寄生容量をさらに低減できた。
【0038】
[第2の実施形態]
本実施形態に係る半導体光素子は、直接電流変調型半導体レーザ素子である。上述の第1の実施形態がレーザ形成領域20に、直流動作で波長変動の小さいDFB型のレーザ部を形成し、これに隣接する変調器形成領域22に変調器部をレーザ部の外部変調器として形成するものであった。この構成は、レーザ波長の時間的変動(チャーピング)の低減が比較的容易である利点がある一方、低コスト化には不利である。このコスト面では、レーザの動作電流を直接信号で変調する直接電流変調型半導体レーザ素子が有利である。
【0039】
外部変調器を集積するレーザ素子では第1の実施形態で説明したような製造工程により、変調器部とレーザ部とでメサストライプ部18の積層構造に差異を設ける必要がある。これに対して、本実施形態に係る直接電流変調型半導体レーザ素子は、変調器部のメサストライプ部18の構造は有さず、基本的には第1の実施形態のレーザ部のメサストライプ部18と共通する構成のみを有する。以下の説明では、第1の実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して理解を容易とする。
【0040】
本素子の製造方法は基本的に第1の実施形態のレーザ部の製造方法と同様であり、n型InP基板上にMOCVD法を用いて、n型InPバッファ層、n型InGaAsP光ガイド層、アンドープInGaAsP活性層、p型InGaAsP光ガイド層、p型InPスペーサ層、p型InGaAsP回折格子層、p型InPキャップ層を順に成長する。これは、回折格子層を有したDFBレーザとして機能する活性層である。続いて、フォトリソグラフィ技術により、光軸と垂直方向に短冊状を為した回折格子を形成した後、MOCVD法により、p型InPクラッド層、p型InGaAsPノッチ低減層、p型InGaAsコンタクト層、InPキャップ層を成長する。
【0041】
このように形成された積層構造を、第1の実施形態と同様にエッチングして、メサストライプ部18が形成される。そして、このメサストライプ部18の両側に第1の実施形態と同様の2段階形成でFeやRuをドープした半絶縁InPからなる埋め込み層10(埋め込み層40,44)を成長させる。これにより、埋め込み層10の表面には、レーザ部のメサストライプ部18の上に幅広で平坦な底面26を有する溝28が形成され、その両脇に台地部が形成される。
【0042】
メサストライプ部18のp型InGaAsコンタクト層へのコンタクト用のスルーホール46の幅LTH1やコンタクト用電極30の幅LEL1には、それらの加工手段や目合わせマージンなどの製造プロセスによって定まる最小寸法が存在する。底面26の幅は少なくとも、そのような最小寸法に応じた幅LTH1,LEL1のスルーホール46、コンタクト用電極30を当該底面26内に配置できるように設定される。これにより、コンタクト用電極30を底面26内に狭小な幅LEL1で形成でき、当該コンタクト用電極30に起因する寄生容量の低減が図られる。また、コンタクト用電極30に配線36を介して接続されるパッド電極34は、厚膜の台地部上に配置することにより、その寄生容量の低減が図られる。
【0043】
このように、本素子ではレーザ部のメサストライプ部18へのp型電極12を寄生容量が低減される構造で形成される。このp型電極12の形成等、素子表面側の構造が形成されると、n型InP基板2の裏面を100μm厚程度まで研磨し、裏面にn型電極を形成する。素子の前方及び後方を露出するように劈開し、それぞれの面に低反射膜、高反射膜をスパッタリングにより形成してチップ化すれば、変調器集積型半導体レーザ素子が完成する。
【0044】
[第2の実施形態の変形例]
上記実施形態では、レーザ部の活性層材料をInGaAsPとしたが、活性層の材料はこれに限定されるものではない。例えば、活性層がInGaAlAs材料である素子においても本発明を適用できる。ただし、活性層にAlを含む場合は、メサストライプ部18の側面に接する埋め込み層40の成長の際に、表面酸化の影響により埋め込み成長界面に電流リーク成分が生じる可能性があるため、埋め込み成長前にMOCVD炉内において、ハロゲン系ガスにより表面処理を行う。
【符号の説明】
【0045】
2 n型InP基板、10 半絶縁半導体埋め込み層、12 p型電極、14 誘電体層、16 絶縁膜、18 メサストライプ部、20 レーザ形成領域、22 変調器形成領域、24 アイソレーション溝、26 底面、28 溝、30 コンタクト用電極、34 パッド電極、36 配線、38,42 マスク、40,44 埋め込み層、46 スルーホール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、活性層を有するメサストライプ部と、
半絶縁性半導体からなり、前記メサストライプ部の上端に応じた高さまで前記メサストライプ部の両側を埋め、前記メサストライプ部と共に埋め込みメサ構造を形成する埋め込み層と、
前記埋め込みメサ構造の上面に前記メサストライプ部に沿って延在され、前記メサストライプ部に電気的に接続されるコンタクト用電極と、
半絶縁性半導体からなり、前記コンタクト用電極が配置された領域以外の領域に、前記埋め込み層よりも高く形成された台地部と、
前記台地部の上面に配置され、配線を介して前記コンタクト用電極に接続されるボンディング用のパッド電極と、
を有することを特徴とする光半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光半導体装置において、前記埋め込みメサ構造を用いて、電界吸収型変調器、電界吸収型変調器集積レーザの変調器部、マッハツェンダー型変調器、マッハツェンダー型変調器集積レーザの変調器部、及び直接電流変調型レーザのいずれかを構成したことを特徴とする光半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光半導体装置を製造する製造方法であって、
前記基板上に前記メサストライプ部を形成する工程と、
前記メサストライプ部の上面をマスクで覆い、当該マスクで覆われていない部分に選択的に前記埋め込み層を成長させて前記メサストライプ部の両側を当該埋め込み層で埋め、前記埋め込みメサ構造を形成する工程と、
前記埋め込みメサ構造の上面のうち前記コンタクト用電極を形成する領域を包含する低地領域をマスクで覆い、当該マスクで覆われていない部分に選択的に前記半絶縁性半導体からなる層を成長させて前記台地部を形成する工程と、
前記低地領域及び前記台地部の表面に絶縁体からなる保護膜を形成する工程と、
前記保護膜に前記メサストライプ部の上面へのスルーホールを形成する工程と、
前記スルーホール形成後の前記低地領域及び前記台地部の表面に導電体からなる電極膜を形成する工程と、
前記電極膜をフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングして、前記低地領域内にのみ配置され前記スルーホールを介して前記メサストライプ部に接続される前記コンタクト用電極、前記台地部上面に配置される前記パッド電極、及び前記配線を形成する工程と、
を有することを特徴とする光半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の光半導体装置において、前記埋め込み層を形成する前記半絶縁性半導体及び前記台地部を形成する前記半絶縁性半導体は、鉄又はルテニウムを含有することを特徴とする光半導体装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の光半導体装置において、前記活性層はInGaAsP又はInGaAlAsからなることを特徴とする光半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−271667(P2010−271667A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125774(P2009−125774)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】