説明

光変調器

【課題】再成長が不要である分離溝を形成する光変調器において、分離溝部で損失の増大を抑制することができる光変調器を提供することにある。
【解決手段】導波路構造の活性領域16aに接続して形成され、キャリアバリア層14より上層にある層15の少なくとも一部の幅が、導波路内光伝搬方向にて徐々に狭くなる第1のテーパ部18と、第1のテーパ部に対向し、前記導波路構造の非活性領域に接続して形成され、キャリアバリア層14より上層にある層15の少なくとも一部の幅が、徐々に広くなる第2のテーパ部19とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信分野で用いられる光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の通信容量増大の要求に応える形で、通信速度の向上が著しく達成されてきている。近年では、Gbit/s以上の高速変調された光信号長距離伝送が実用化されるにいたっている。これらの伝送では、半導体レーザの直接変調ではなく、直流動作の半導体レーザと外部変調器とを組み合わせた構成で光信号の変調が実施されている。これは、通信光が伝搬する光ファイバの分散効果の影響を無視できず、波長チャーピングが少ない信号を利用する必要があるためである。波長チャーピングとは、高速に大量の情報を光パルスで伝送する場合、送った信号波形と受け取った信号波形とが同じ形状であることが望ましいが、光パルスが光ファイバ内部を伝搬している間に光パルスのスペクトル幅が広がる現象である。直接変調の場合はスペクトルの広がり(波長チャーピング)が著しく、外部変調の場合は波長チャーピングが少ない。
【0003】
現在の通信システムで主に利用されている外部変調器は、LiNbO3(LN)導波路で構成されたLN変調器である。このタイプの光変調器の動作原理は、光導波路と電気導波路を結合させる(光電子導波路)ことにより、電気光学効果に基づく屈折率変化を応用して、屈折率変化を介して入力電気信号により光に位相変化を与えることによるものであり、光位相変調器、マッハツェンダ干渉計を組んだ光強度変調器(MZM)、また多数の導波路を結合させてより機能の高い光スイッチとして機能させることができる。
【0004】
しかしながら、LN変調器は、導波路長が比較的長く、デバイスサイズが大きいため、その分パッケージのサイズも大きくなり、コストがかかるという問題がある。今後益々、変調器を搭載した光送信器の数量が、ユーザ数、通信量の増加とともに増えると、設置場所や駆動消費電力も増大するといった課題がある。
【0005】
これらのLNを用いた変調器とならんで、半導体光変調器が注目されている。量子閉じ込めシュタルク効果を利用した電界吸収型光変調素子(EA光変調器)、または、電界を素子に与えることで、屈折率を変化させ、入力電気信号を光の位相変化に変換するマッハツェンダ型光変調器(MZM光変調器)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−183612号公報
【特許文献2】特開2008−107468号公報
【特許文献3】特開平5−249331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような半導体光変調器は、多種多様な材料、層構造で提案されているが、共通する構造として、電界が印加され、光の変調を行う活性部と、活性部以外の部分とを電気的に分離した構造となっているものがある。これにより、印加した電圧が、活性部以外にもかかり、効率の低下を防止している。また、MZM光変調器においては、MZMを構成する二本のアームが電気的に分離されていないと一方のアームの電極に電圧を印加しても、他方のアームにも電圧が印加されることになり動作さえしなくなる。
【0008】
これらの電気的な分離を実施する方法として、活性部および該活性部上に設けられた電極層の両端に高抵抗の半導体を再成長させることによって、電気的分離を実施する方法が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。また、活性部とそれ以外の部分が同じ構成であっても活性部以外の前記上部電極層とが溝を隔てて互いに分離する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。前者の方法は、再成長工程が必要であり、工程数の増加を招きコストが高くなるといったデメリットがある。後者は、再成長の必要がなく、簡便な工程で済むというメリットがあるが、前者の方法に比べて分離溝通過時に損失が増加してしまうといった問題があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、再成長が不要である分離溝を形成する光変調器において、分離溝で損失が増大してしまうという問題である。
【0010】
ここで、分離溝の構造を説明する図である図14を参照して説明する。図14(a)は、EA変調器の概略を示す図であり、図14(b)はMZM変調器の概略を示す図である。
【0011】
EA変調器200は、図14(a)に示すように、第1の光導波路201と第2の光導波路202との間に設けられ、光の変調を行う活性部である光変調領域203を有する。光変調領域203には電極203aが設けられる。光変調領域203と第1の光導波路201との間に分離溝204が設けられ、光変調領域203と第2の光導波路202との間に分離溝205が設けられる。これにより、電気的な分離が行われる。
【0012】
MZM変調器300は、図14(b)に示すように、第1の合分波器310と第2の合分波器320との間に設けられ、光の変調を行う活性部である第1,第2の光変調領域301,302を有する。第1の光合分波器310は、第1の光入力導波路311と、第1,第2の光出力導波路312,313とを有する。第2の光合分波器320は、第1,第2の光入力導波路321,322と、第1の光出力導波路323とを有する。第1,第2の光変調領域301,302には電極301a,302aがそれぞれ設けられる。第1の光変調領域301の両端には分離溝303,304がそれぞれ設けられる。第2の光変調領域302の両端には分離溝305,306がそれぞれ設けられる。これにより、電気的な分離が行われる。
【0013】
上述したEA変調器200およびMZM変調器300では、電極203a,301a,302aに電圧が印加されることで、バンドギャップの変調または屈折率変調が行われる。
【0014】
ここで一般的な、光変調器の構造を説明する。図14(c)は光変調器の分離溝を拡大した図であり、図14(d)はその平面図であり、図14(e)はその側面図である。
【0015】
通常、図示しない基板上にまずグランドコンタクトを得るための、下部電極層(図示せず)が設けられる。そして、その上にアンダークラッドとなる層401が設けられ、図14(e)に示すように、該層401上に、光が伝搬するコア層402が設けられる。このコア層402は、活性層単体からなる場合もあれば、SCH層(Separate Confinement Hetero Structure;中間層)に挟まれた構造であるときもある。さらに、コア層402上には、電界を印加するために電流が流れないようにするためのキャリアバリア層404が設けられる。このキャリアバリア層404は、コア層402直上に設けられることもあるし、図14(e)に示すように、活性層内を伝搬する光のキャリア吸収を抑制するためにバッファ層403を介して隔てられている場合もある。キャリアバリア層404上には、シグナルの電気的コンタクトを得るための上部電極層405が設けられる。そして活性部では、電極となる金属が、上部電極層405の上に形成される。
【0016】
分離溝406は、活性部で印加された電圧が、不必要な部分に印加されることを防止するために、活性部と非活性部の境界で、キャリアバリア層404上層の少なくとも一部を除去した構造である。このように分離溝406を設けることで、印加された電圧が活性部のみに印加され、横方向非活性部には印加されない構造の光変調器が得られる。
【0017】
上述した分離溝による損失発生要因について図15を参照して説明する。ここでは一例として、分離溝についての記載はないが特許文献2の図8に図示されるnpin構造のMZM光変調器の層構造について説明する。この他に、層構造としては、pin構造、nin構造のMZM変調器が知られているが、基本的には電界を活性層に印加する構造であり、同様の説明が可能である。本実施例で取り上げたnpin構造の場合は、p層がキャリアバリア層に該当するが、他の構造の場合も、基板横方向への電気的分離が必要なため同様の分離溝の形成が考えられる。
【0018】
図15は、従来の光変調器のアーム部分の断面を示し、分離溝付近を拡大した図である。光変調器500は、図15に示すように、半絶縁性基板501上に形成されたn型電極層502と、n型電極層502上に形成された下部クラッド層503と、下部クラッド層503上に形成されたコア層506と、コア層506上に形成された上部クラッド層507と、上部クラッド層507上に形成されたn型電極層511と、n型電極層511上に形成されたn型電極512とを具備する。下部クラッド層503は、アンダークラッドであり、n型クラッド層504と、n型クラッド層504上の低濃度クラッド層505とで構成される。上部クラッド層507は、低濃度クラッド層508と、低濃度クラッド層508上のp型クラッド層509と、p型クラッド層509上のn型クラッド層510とで構成される。コア層506と下部クラッド層503との間には、下部中間層513が形成される。コア層506と上部クラッド層507との間には、上部中間層514が形成される。
【0019】
この光変調器500では、p型クラッド層509が、キャリアバリア層として働く。また、活性層であるコア層506を囲むように中間層(SCH層)513,514が配置されて光伝搬層を形成している。これらの上部には、p型クラッド層509と光伝搬層を隔てる低濃度クラッド層508が形成されている。
【0020】
このような層構造を有する光変調器500の活性部521と非活性部522の境界上で、上部にあるn型電極層511、n型クラッド層510、p型クラッド層509を除去して分離溝520が形成される。分離溝520内部は、外気に当たる空気または、パシベーションを行う樹脂などの絶縁物で通常は充填されている。いずれの場合もそれらの屈折率は、半導体よりも小さく、1から少なくとも2の間である。このような構造にて、活性部521上のn型電極512に電圧を印加した場合、p型クラッド層509でキャリアがブロックされ活性領域に電界がかかる。一方、非活性領域では、分離溝520により電界がかからず、電気的分離が実現できる。
【0021】
ここで、同図にて、点線で示す符号M1は、活性部521を伝搬する光のフィールドを模式的に示したものであり、点線で示す符号M2は、非活性部522を伝搬する光のフィールドを模式的に示したものである。分離溝520では、分離溝520内部の屈折率が低いため、フィールドが基板方向に偏る結果、分離溝520外でのフィールド形状とは異なる。つまりこれら2つのフィールドの重なりを積分で示される、2つのフィールドの結合損失の2倍の損失が分離溝520を通過する度に生じ、デバイス全体の損失を増加させてしまう。なお、分離溝520一箇所を通過するとフィールドの不整合を2度経験するため2倍となる。
【0022】
従って、本発明は上記の事情に鑑み提案されたものであって、再成長が不要である分離溝を形成する光変調器において、分離溝での損失の増大を抑制することができる光変調器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した課題を解決する第1の発明に係る光変調器は、
下部電極層と、前記下部電極層上に形成された光変調層と、前記光変調層上に形成されたキャリアバリア層と、前記キャリアバリア層上に形成された上部電極層とを含む導波路構造が設けられ、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されて分離溝が形成されて、前記下部電極層への電圧の印加により光変調を行う導波路構造の活性領域と、導波路構造の非活性領域が形成された光変調器であって、
前記導波路構造の活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある層の少なくとも一部の幅が、導波路内光伝搬方向にて徐々に狭くなる第1のテーパ部と、
前記第1のテーパ部に対向し、前記導波路構造の非活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある層の少なくとも一部の幅が、徐々に広くなる第2のテーパ部とを具備する
ことを特徴とする。
【0024】
上述した課題を解決する第2の発明に係る光変調器は、
下部電極層と、前記下部電極層上に形成された光変調層と、前記光変調層上に形成されたキャリアバリア層と、前記キャリアバリア層上に形成された上部電極層とを含む導波路構造が設けられ、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されて分離溝が形成されて、前記下部電極層への電圧の印加により光変調を行う導波路構造の活性領域と、導波路構造の非活性領域が形成された光変調器であって、
前記導波路構造の活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある層の少なくとも一部の厚さが導波路内光伝搬方向にて、徐々に薄くなる第1の傾斜部と、
前記第1の傾斜部に対向し、前記導波路構造の非活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある層の少なくとも一部の厚さが徐々に厚くなる第2の傾斜部とを具備する
ことを特徴とする。
【0025】
上述した課題を解決する第3の発明に係る光変調器は、
下部電極層と、前記下部電極層上に形成された光変調層と、前記光変調層上に形成されたキャリアバリア層と、前記キャリアバリア層上に形成された上部電極層とを含む導波路構造が設けられ、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されて分離溝が形成されて、前記下部電極層への電圧の印加により光変調を行う導波路構造の活性領域と、導波路構造の非活性領域が形成された光変調器であって、
前記導波路構造の活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されることで波長よりも短いスリットが設けられ、導波路内光伝搬方向に、スリット間隔が徐々に狭くなる第1のスリット幅変更領域と、
前記第1のスリット幅変更領域に対向し、前記導波路構造の非活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されることで波長よりも短いスリットが設けられ、スリット間隔が徐々に広くなる第2のスリット幅変更領域とを具備する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る光変調器によれば、再成長が不要である分離溝を形成する光変調器において、分離溝内の伝搬光モードフィールドと分離溝外の伝搬光モードフィールドの不整合が解消されるため、分離溝での損失の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施例に係る光変調器を説明するための図であり、図1(a)にその斜視、図1(b)にその平面、図1(c)にその側面を示す。
【図2】従来の光変調器を説明するための図であり、図2(a)にその斜視を示し、図2(b)にそれが具備する分離溝内におけるモードフィールドの計算結果を示し、図2(c)にそれが具備する分離溝外におけるモードフィールドの計算結果を示す。
【図3】伝搬シュミレーションの結果を説明するための図であり、図3(a)に従来の光変調器の斜視を示し、図3(b)にその伝搬シュミレーションの結果を示し、図3(c)に第1の実施例に係る光変調器の斜視を示し、図3(d)にその伝搬シュミレーションの結果を示す。
【図4】第1の実施例に係る光変調器が具備する分離溝のテーパ部の幅と伝搬損失との関係を示したグラフである。
【図5】隔離層の厚さと伝搬損失との関係を示したグラフである。
【図6】光変調器が具備するテーパ部の他例を説明するための図である。
【図7】本発明の第2の実施例に係る光変調器が具備する分離溝を説明するための図である。
【図8】光変調器が具備するテーパ部を説明するための図である。
【図9】本発明の第3の実施例に係る光変調器を説明するための図であり、図9(a)にその斜視、図9(b)にその平面、図9(c)にその側面を示す。
【図10】光変調器が具備するテーパ部の他例を説明するための図である。
【図11】本発明の第4の実施例に係る光変調器を説明するための図であり、図11(a)にその斜視、図11(b)にその平面、図11(c)にその側面を示す。
【図12】光変調器の他例の側面図である。
【図13】光変調器の他例の斜視図である。
【図14】従来の分離溝構造を説明するための図であって、図14(a)にEA変調器の概略を示し、図14(b)にMZM変調器の概略を示し、図14(c)に分離溝の拡大を示し、図14(d)にその平面を示し、図14(e)にその断面を示す。
【図15】従来の光変調器のアーム部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る光変調器について、各実施例にて詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
本発明の第1の実施例に係る光変調器について、図1〜図6を参照して説明する。
本実施例に係る光変調器10は、図1に示すように、化合物半導体基板としてInP基板(図示せず)上に、下部電極層11と、この下部電極層11の上部に形成される光変調層12と、この光変調層12の上部に形成されるバッファ層13と、このバッファ層13の上部に形成されるキャリアバリア層14と、このキャリアバリア層14の上部に形成される上部電極層15とを含む半導体多層膜により構成される導波路構造16を有する。
【0030】
導波路構造16には、キャリアバリア層14より上層にある層の少なくとも一部、ここでは、キャリアバリア層14および上部電極層15が除去されて分離溝17が形成される。これにより、上部電極層15に電圧が印加されて光変調を行う活性領域16aと、分離溝17により活性領域16aと電気的に分離され活性領域以外の非活性領域16bとが形成される。
【0031】
活性領域16aには、キャリアバリア層14および上部電極層15が共に、導波路構造16内の光伝搬方向に沿って、幅が徐々に狭くなる第1のテーパ部18が設けられる。第1のテーパ部18の幅は、基端部側から先端部側(分離溝17)へ向かうに従い徐々に狭くなっている。
【0032】
他方、非活性領域16bには、キャリアバリア層14および上部電極層15が共に、導波路構造16内の光伝搬方向に沿って、幅が徐々に広くなる第2のテーパ部19が設けられる。よって、第1のテーパ部18の幅が最も狭い先端部18aと、第2のテーパ部19の幅が最も狭い先端部19aとが対向して配置される。
【0033】
上述した構成の光変調器10について、損失低減の効果を数値計算によりシミュレーションにて確認した。
【0034】
まず、上述した光変調器10の構造の計算に先立って、従来構造の光変調器に設けられた分離溝406による損失を計算した。計算したモデルは以下の通りである。
層構造として、先に示した図15に示すように、基板501側より、n型電極層502、n型クラッド層504、低濃度クラッド層505、下部中間層513、コア層506、上部中間層514、低濃度クラッド層508、p型クラッド層509、n型クラッド層510、n型電極層511を有する。
【0035】
それぞれの層厚は、n型クラッド層504を0.5μmとし、低濃度クラッド層505を1.5μmとし、下部中間層513を0.1μmとし、コア層506を0.2μmとし、上部中間層514を0.1μmとし、低濃度クラッド層508を0.3μmとし、p型クラッド層509を0.1μmとし、n型クラッド層510を1.0μmとした。
【0036】
これら各層の屈折率は、n型クラッド層504にて3.17とし、低濃度クラッド層505にて3.17とし、下部中間層513にて3.39とし、コア層506にて3.39とし、上部中間層514にて3.39とし、低濃度クラッド層508にて3.20とし、p型クラッド層509にて3.17とし、n型クラッド層510にて3.30とした。
【0037】
活性部521、非活性部522の導波路の幅をそれぞれ2.0μmとし、分離溝520の外部の導波路を50μm伝搬した後、5μmの長さの分離溝520を通過し、再度、分離溝520の外部の導波路を50μm伝搬した場合について計算を実施した。
【0038】
まず、分離溝内外の部分でのモードフィールドを計算した。分離溝外の求められたフィールドは、図2(b)に示すようになり、分離溝内部でのモードフィールドが図2(c)に示すようになる。なお、図2(a)は、図14に示す従来の光変調器500を模式的に示した図である。この図2(a)では、光変調器は、下部電極層401と、この上に形成された光変調層402と、この上に形成されたバッファ層403と、この上に形成されたキャリアバリア層404と、この上に形成された上部電極層405とを具備し、キャリアバリア層404と上部電極層405の一部が除去されて分離溝406が形成されている。
【0039】
ここで、分離溝406の内部は、樹脂によって充填されているとし、その屈折率を1.57とした。
図2(b)に示される分離溝外フィールドは、上下においてフィールドが対称であるが、図2(c)に示すように、分離溝内部では、フィールドが下に偏った形状となる。つまり、これらのフィールド形状が異なるため、モードフィールド不整合により損失が発生することが分かる。
【0040】
図3(a),(b)は、従来構造の光変調器において、分離溝外導波路405aを50μm伝搬した後、5μmの長さの分離溝406を通過し、再度、分離溝外導波路405bを50μm伝搬した場合の伝搬シミュレーションの結果を示している。図3(b)において、符号A1は、導波路を上(図3(a)における矢印A1)から見た場合、符号A2は導波路を横(図3(a)における矢印A2)から見た場合の結果を示している。上下のフィールドの不整合が多いため、A2の分離溝406以降(左より光は入射)で、ビームが大きく蛇行しているのが確認できる。この場合に生じる損失、つまり従来構造の光変調器における分離溝406一箇所当たりの損失を計算した結果は、0.25dBとなった。これは、先に述べたように、分離溝外と内部のモードフィールド不整合による。
【0041】
一方、本実施例の構造である、該活性領域16aに接続されるキャリアバリア層14、該層より上層にある少なくとも一部の幅が導波路内光伝搬方向にて活性部の導波路幅よりも少なくとも徐々に狭くなる領域である第1のテーパ部18と、前記領域以降に対向して徐々に幅が非活性領域導波路幅よりも広くなる領域である第2のテーパ部19を有する光変調器の場合を図3(c)および図3(d)に示している。幅が徐々に狭くなる、または徐々に広くなる部分(テーパ部18,19)の長さを25μmとして、図3(a)に示す光変調器の分離溝406の両端にテーパ部18,19を付加した構造である。ここで、テーパ部18,19の先端幅は0.3μmとした。
【0042】
図3(d)に示すように、B2から見た伝搬の様子で、従来構造の光変調器で見られた蛇行は解消しているのが確認できる。これは十分な断熱変換によって、先に示した分離溝外のフィールド(図2(b))が、分離溝内部(図2(c))に効率良く変換されていることを表している。
【0043】
p型クラッド層より上層の形状が伝搬方向に徐々に狭くなり、一度消滅し、再度、徐々に広くなる構造の場合の損失は、0.024dBと計算され、ほぼ従来構造の光変調器の分離溝における損失を1/10にできることが分かる。
【0044】
これにより本実施例の構造では、電気的分離を確保しつつ、分離溝17を通過する際に発生する損失を抑制する効果を得ることができるといえる。つまり、再成長を実施せずとも、低損失化を実施することができ、工程数を減少させ、低コスト化につながる。
【0045】
本実施例では、テーパ部18,19を対向する形状で設けた光変調器としたが、少なくとも一方でも幅を変化させることで、従来構造の光変調器の分離溝と比べて分離溝17で発生する損失を低減する効果が得られる。なお、分離溝17の一方側にのみテーパ部を設けた光変調器では、損失低減効果を十分に得ることができず、分離溝17の両方側にテーパ部を対向して設けた光変調器配置とする方が好ましい。
【0046】
また、本実施例では、テーパ部18,19の先端幅を0.3μmとして計算を実施しているが、先端の幅は狭ければ狭いほど良い。ここで、図4に、テーパ部の長さ同一としてテーパ部の先端の幅を関数として分離溝の損失を計算した結果を示す。この図に示すように、テーパ部の先端幅が小さいほど、損失を小さくできる。少なくとも、テーパを少しでもつければ効果があることが分かる。通常のMZM変調器の場合、2個ないし、4個程度の分離溝を通過することが想定される。ここで、分離溝の透過損失を0.2dB以下に抑えることを想定すると、テーパ部の先端幅を0.5μm以下にすることが適していることがわかる。
【0047】
分離溝17として、キャリアストップ層となるp層(キャリアバリア層14)までエッチングで除去されている構造を前提としたが、p層(キャリアバリア層14)上部の層の少なくとも一部がエッチングされて、十分な分離抵抗が確保できれば、具体的には、エッチングされ層の厚さが薄くなる、または幅が狭くなることで抵抗値は上昇すれば、p層まで必ずしもエッチングする必要はない。このような形状の分離溝を設けた光変調器であっても、上述した分離溝17を設けた光変調器と同じ効果が得られる。
【0048】
隔離層の厚さと伝搬損失との関係について図5を参照して説明する。キャリアバリア層14の下層には、光が伝搬するコア層および上部中間層からキャリアバリア層14を隔離する層である隔離層(バッファ層)が設けられる。本実施例では、隔離層はi−InP層である。図5において、実線は本実施例の光変調器の場合を示し、点線は従来の光変調器の場合を示している。隔離層が無い場合、すなわち、横軸にて0の場合には、従来の光変調器の分離溝を通過するとi−InPを0.1μmまで薄くしたときでは0.8dBの損失が発生することになる。
【0049】
しかし、本実施例の光変調器の場合は、i−InPを0.1μmとした場合でも、0.08dBしか損失が発生せず、1/10の損失に抑える効果がある。これらの結果は、本実施例の光変調器では、隔離層の厚さが薄いほど損失低減効果が大きいことを表している。
【0050】
また、この結果は、見方を変えれば、p層(キャリアバリア層14)を除去する際に、除去を過剰に行って、分離溝17の隔離層であるi−InP層の厚さが薄くなってしまっても、本実施例の光変調器の構造では十分に、損失を低減することが可能であることが解る。従来構造の光変調器では、この図が示すように、過剰にエッチングしてしまい、i−InP層の厚さが薄くなってしまうと損失が増加してしまうが、本実施例では、過剰なエッチングを実施してしまっても損失が十分に小さく十分に従来技術に比べて低損失化が可能であるメリットがある。
【0051】
これは、製造時のエッチング深さのトレランスが本実施例の光変調器の構造を採用することで低減できることを意味する。
【0052】
ここで、上述したようなテーパ構造を有する光半導体素子、光半導体活性領域にスポットサイズ変換用テーパ導波路を接続した素子は、数多く報告されている(例えば、特許文献3参照)。これらのスポットサイズ変換器と、本発明のテーパつき分離溝の違いについて以下に述べる。
【0053】
(1)本実施例の光変調器では、モードフィールド不整合を解消しつつ、電気的分離を行っている。
従来のスポットサイズ変換器は、光フィールドの変換は行えるが、電気的分離は行えない。つまり、本実施例では、電気的分離が行えるように、キャリアバリア層の上層の少なくとも一部を除去し、十分に電気的に分離できる抵抗を確保できるものであり、従来のスポットサイズ変換器とは異なる。
【0054】
(2)従来のスポットサイズ変換器は、あるフィールドから目的とするフィールドを変換する。そのため目的のフィールドの形状が、所望の形状に近くなるように形成する。つまり片道のフィールド変換を実施するものである。しかし、本実施例では、テーパ部によって変換される先のフィールド形状は問わない。対向する形状を有し、分離溝前後でフィールドを元に戻すことが重要であり、中間状態である分離溝内のフィールド形状は問題ではない。言い換えれば、従来のスポットサイズ変換と異なり、本実施例で用いられるテーパ部の形状が、対向することで、具体的には面対称であることで、分離溝前後でフィールドに再度戻すことを特徴としている。
【0055】
この論理の極端な場合の例として、図6に示すように、対向するテーパ部118,119の先端部118a,119aが繋がっていても良い。この場合でも、このテーパ部118,119の構造により、キャリアバリア層より上部の幅が狭くなることで、分離溝部分での抵抗値が上昇し、電気的分離は達成される。さらに、分離溝内部のフィールドは、従来構造の分離溝、すなわち、テーパがない場合や上層がエッチグされていない場合のフィールドとも異なるが、中間状態のフィールドは問わないため繋がってもよい。活性部と非活性部の導波路幅が同じ場合、テーパ部の先端が繋がり、対向している形状であっても、電気的分離を確保しつつ、モードフィールドは、この分離溝構造を通過している通過前後で同じものとなる。つまり、この場合、スポットサイズが変化していないのでスポットサイズ変換器とは呼べない。
【0056】
これらの理由により、本実施例の光変調器の構造は、従来からあるスポットサイズ変換器とは全く異なるものであり、一線を画するものである。
【0057】
以上から、本実施例に係る光変調器は、電気的分離を確保しつつ、従来構造で問題となっていた分離溝で発生する損失を大幅に改善し、さらに、プロセス上の製造トレランスも向上できる。
【実施例2】
【0058】
本発明の第2の実施例に係る光変調器について、図7および図8を参照して説明する。
本実施例では、実施例1で計算した構造を有する一段のMZI構造を実際に作製し、評価を行った。また同時に比較のために、従来構造の分離溝を有するデバイスの作製、評価も行った。
【0059】
本実施例の光変調器を次に示す手順にて作製した。
まず、半絶縁性のInP基板をクリーニングした後、MOPVE装置を用いて、n型電極層、n型クラッド層、低濃度クラッド層、下部中間層、コア層、上部中間層、低濃度クラッド層、p型クラッド層、n型クラッド層、n型電極層を成長させた。それぞれの層厚は、n型クラッド層を0.5μmとし、低濃度クラッド層を1.5μmとし、下部中間層を0.1μmとし、コア層を0.2μmとし、上部中間層を0.1μmとし、低濃度クラッド層を0.3μmとし、p型クラッド層を0.1μmとし、n型クラッド層を1.0μmとした。
【0060】
その後、標準的な、フォトリソグラフィー技術、リアクティブイオンエッチング法を用いて分離溝の形状を形成した。
【0061】
図7は、フォトリソグラフィーによって定義された分離溝の具体的な形状を示している。
wg1は活性部導波路幅を示し、wg2は非活性部導波路幅を示し、徐々に狭くなる形状のwts1およびwte1は、第1のテーパ部のテーパ始点およびテーパ終点幅をそれぞれ示す。gapは対向するテーパ先端間の距離、徐々に広くなる形状のwte2及びwts2は第2のテーパ部のテーパ始点およびテーパ終点幅を示す。
【0062】
また、w1、w2は、分離溝部入出力部の全幅を示している。wts1、wts2は、それぞれwg1、wg2より太いことが重要である。
【0063】
分離溝形成後に、wg1またはwg2の幅の導波路をさらに形成するが、形成する際に、設計上wg1=wts1の場合、エッチング時のパターンシフトなどによって、エッチング後のwts1幅がwg1より小さくなることが起こりえる。この場合は、分離溝境界で、伝搬光のモードフィールド不整合が発生し損失を発生させてしまうためである。同じく出口側のwg2とwts2に関しても同じことが言える。また通常wg1とwg2は同じ幅であることがほとんどであるのでwts2とwts1もまた等しくなることが多い。
【0064】
次にテーパ先端幅となる、wte1,wte2は、先に示したように可能な限り小さいことが望ましい。しかし、無限小にすることが困難な場合は、図8に示すように、テーパ部121の先端部121aを導波路に対して垂直にならないように傾けること、図示例では垂線pに対して角度α傾けることが好ましい。これは、先端部121aに到達した光が反射することを抑制するためである。また十分にテーパ部121の長さが長く、先端幅121aが小さく電気的分離が十分に得られる際、gap=0とすることも可能である。このときは、テーパ先端の反射端がなくなるので反射を大きく低減できる。
【0065】
次にw1、w2であるが、これはwts1、wts2よりも十分に大きくとることが好ましい。差分が小さいとエッチングプロセス実施時に、エッチングが困難となる場合があるためである。レイアウト上許される範囲で大きく形成すれば良い。
【0066】
最後にテーパ部の長さは、taper1,taper2とも後に形成する導波路の内側にくる部分の長さであり、この長さが所望の設計となるようにし、taper1s,2sはそれぞれtaper1,2よりも長くなり、テーパ先端幅wte1,wte2が与えられれば、幾何学的にこの単純なテーパ形状の場合も求めることが可能である。本実施例の光変換器が具備する分離溝の形状は、テーパ部分は単純な直線から成る構造を示しているが、その他の曲線であっても同様の効果が得られる。また、外周の形状も直線で形成しているが曲線であっても問題は生じない。
【0067】
本実施例では、wg1=wg2=2.0μmであるので、wts1およびwts2をそれぞれ3.0μmとした。
【0068】
また、テーパ先端幅は0.3μmとした、w1、w2は余裕を見て共に13μmとし、taper1=taper2=25μmとし設計を実施した。
【0069】
フォトリソグラフィーを終了した後、キャリアブロック層となるp層までエッチングにて除去した。p層も除去しているが、完全に除去する必要はない。
【0070】
その後、同様の工程を繰り返すことで、導波路を形成し、グランドのコンタクト層となる基板頂上のn層を露出させるように、ウエットエッチングプロセスを実施した。これらをBCB(Bisbenzocyclobutane)で埋め込んだ後に、BCBの加工を行い、メサ上のコンタクト層、グランドのコンタクト層を開けた。さらに、形成された導波路メサ上、下部のグランドコンタクトとなる箇所にオーミテックコンタクト用の金属を蒸着、熱処理を実施し、続いて、金属配線を実施し、デバイスを作製した。
【0071】
まず、測定結果として、比較に作製した従来構造では、分離溝を一箇所当たり通過する損失は、0.8dBと計算より高い値となってしまった。つまり、一箇所当たりの分離溝の損失は、0.4dBであった。
【0072】
一方、テーパ長25μmで、テーパ先端幅0.3μmの場合で観測された2箇所当たりの分離溝通過の損失は0.1dBであった。つまり一箇所あたりの透過損失は0.05dB以下ということになる。これは、測定限界程度であり正しく測定できているかわからない。なお、通常、0.1dB以下の損失測定は非常に困難である。そのため、上述した第1の実施例にて示した計算値0.025dBと同等かどうかは不明であるが、従来構造と比較して、少なくとも大幅に低減できることが確認できた。
【0073】
以上の結果より、本実施例に係る光変調器の構造では、実デバイスにおいても有効である分離溝の損失を大幅に削減できる効果が得られる。
【実施例3】
【0074】
本発明の第3の実施例に係る光変調器について、図9および図10を参照して説明する。
上述した第1,第2の実施例ではテーパ部の形状が三角形であり、かつp層より上のテーパ部の厚さが一定である場合について述べた。本実施例では厚さが徐々に変わる傾斜部を具備する光変調器を作製し評価を実施した。
【0075】
本実施例の光変調器(デバイス)の作製方法は、上述した第2の実施例に示す方法と類似している。唯一異なる点は、分離溝のパターンニングを実施する際に、フォトマスクにグレーマスク、具体的には、段階的にグレー階調で透過率が変わるフォトマスクを利用し、分離溝に伝搬方向にて徐々に薄くなる部分(第1の傾斜部)と、再度、徐々に厚くなる部分(第2の傾斜部)を形成した。グレーマスクは、マイクロレンズなどを作製する際に斜面を形成するのに用いられる手法である。
【0076】
しかし3次元のスロープ形状を形成する方法であれば、これに限らない。例えばフォトマスクをデバイスから少し離した状態で、露光すれば光の回折によってスロープを得られることは良く知られている。
【0077】
上述した手法で作製された光変調器30は、図9に示すように、化合物半導体基板としてInP基板(図示せず)上に、下部電極層11と、この下部電極層11の上部に形成される光変調層12と、この光変調層12の上部に形成されるバッファ層13と、このバッファ層13の上部に形成されるキャリアバリア層14と、このキャリアバリア層14の上部に形成される上部電極層15とを含む半導体多層膜により構成される導波路構造16を有する。
【0078】
導波路構造16には、キャリアバリア層14より上層にある層の少なくとも一部、ここでは、キャリアバリア層14および上部電極層15が除去されて分離溝37が形成される。これにより、上部電極層15に電圧が印加されて光変調を行う活性領域16aと、分離溝37により活性領域16aと電気的に分離され活性領域以外の非活性領域16bとが形成される。
【0079】
活性領域16aには、キャリアバリア層14および上部電極層15が共に、導波路構造16内の光伝搬方向に沿って、厚さが徐々に薄くなる第1の傾斜部38が設けられる。第1の傾斜部38の厚さは、基端部側から先端部側(分離溝37)へ向かうに従い徐々に薄くなっている。
【0080】
他方、非活性領域16bには、キャリアバリア層14および上部電極層15が共に、導波路構造16内の光伝搬方向に沿って、厚さが徐々に厚くなる第2の傾斜部39が設けられる。
【0081】
このデバイスにおける、分離溝の損失を評価したとこる、同じく0.1dB以下という値になり、使用した測定限界以下の値を得た。
【0082】
以上の結果より、伝搬方向に膜厚が薄くなる構造を対向させた場合においても従来構造の分離溝から大幅に損失を低減できることがわかった。
【0083】
ここで、上述した第1の実施例に示す構造と、本実施例の構造を足し合わせた構造である図10に示すような構造でも、第1,第3の実施例と同様な効果が得られる。図10では、対向する片方のテーパ部の形状のみを示しており、対向する他方のテーパ部を省略している。活性領域16aには、キャリアバリア層14および上部電極層15が共に、導波路構造16内の光伝搬方向に沿って、幅が徐々に狭くなると共に、厚みが徐々に薄くなる第1のテーパ部138が設けられている。なお、非活性領域には、キャリアバリア層14および上部電極層15が共に、導波路構造16内の光伝搬方向に沿って、幅が徐々に広くなると共に、厚みが徐々に厚くなる第2のテーパ部が設けられている。このような構造の場合、横幅だけでなく縦方向にもモードフィールドの断熱変換が可能であるため、同一テーパ長でもより低損失な分離溝が実現できる効果が得られる。また、上述した第1の実施例および本実施例と同じ損失を実現するために必要なテーパ長を、短くできるためデバイスサイズが小さくできるといったメリットがある。
【実施例4】
【0084】
本発明の第4の実施例に係る光変調器について、図11〜図13を参照して説明する。
上述した第1,第2の実施例ではテーパ部分の形状が三角形であり、かつp層より上のテーパ部の厚さが一定である場合について述べ、第3の実施例では、膜厚方向に変化する場合について述べた。本実施例ではテーパ部の代わりに複数のスリットを設けた光変調器を作製し評価を実施した。
【0085】
本実施例の光変調器(デバイス)の作製方法は、上述した第2の実施例で作製した方法と同じである。
【0086】
本実施例では幅dのスリットを伝搬方向に、キャリアバリア層より上の部分に、伝搬方向に進むにつれて、スリットの間隔が短くなるように配置した。同じく対向する部分ではスリットの間隔が徐々に広がるように配置した。この状態にて、エッチングを行って本実施例に係る光変調器を作製した。
【0087】
本実施例に係る光変調器40は、図11に示すように、化合物半導体基板としてInP基板(図示せず)上に、下部電極層11と、この下部電極層11の上部に形成される光変調層12と、この光変調層12の上部に形成されるバッファ層13と、このバッファ層13の上部に形成されるキャリアバリア層14と、このキャリアバリア層14の上部に形成される上部電極層15とを含む半導体多層膜により構成される導波路構造16を有する。
【0088】
導波路構造16には、キャリアバリア層14より上層にある層の少なくとも一部、ここでは、キャリアバリア層14および上部電極層15が除去されて分離溝47が形成される。これにより、上部電極層15に電圧が印加されて光変調を行う活性領域16aと、分離溝47により活性領域16aと電気的に分離され活性領域以外の非活性領域16bとが形成される。
【0089】
活性領域16aには、キャリアバリア層14より上層にある少なくとも一部が除去されることで波長よりも短いスリットが設けられ、導波路内光伝搬方向にスリット間隔d11,d12,d13,d14が徐々に狭くなる第1のスリット幅変更領域48が設けられる。
【0090】
他方、非活性領域16bには、キャリアバリア層14より上層にある少なくとも一部が除去されることで波長よりも短いスリットが設けられ、スリット間隔d24,d23,d22,d21が徐々に狭くなる第2のスリット幅変更領域49が設けられる。
【0091】
この場合、スリットdを光の波長より十分に小さい100nmとした。これらの構造で低損失化ができる理由は以下の通りである。
【0092】
上述したスリットは、伝搬光が主に通過するコア部より上方にあり、かかるスリット幅dは、十分に伝搬光の波長より短いので、このスリットにより散乱される光強度はかなり小さい。この場合、伝搬方向に向かって徐々に、キャリアバリア層14より上の層の実効屈折率がマクロにみると低下していくようにみえ、伝搬光は、断熱的に分離溝47のモードフィールドに移行する。そして再度逆にこれらのスリットを通過することで元のフィールドに戻る。
【0093】
図では簡略化のために、分離溝47の両側に、それぞれ数本、ここでは4本のスリットしか設けていないが、実際には10本のスリットを設けた。それぞれの間隔は、ビーム伝搬法(BPM法)を用いて最適化した配置を行った。
【0094】
実際に、作製したデバイスを測定した結果、分離溝一個所あたりの透過損失は、0.15dBとなった。これは上述した第1,第3の実施例と比べて大きな値であった。スリットによる散乱による損失が幾分かあるためやや大きくなったものと推測される。しかし、本実施例の構造においても、従来構造の分離溝と比べると小さく、低損失化の効果が得られることがわかった。
【0095】
本実施例では、各スリットが同じ深さである場合について説明したが、図12に示すように、徐々に深さが変化する場合も考えられる。具体的には、スリット140,141,142,143が徐々に深くなる第1のスリット深さ変更領域148と、第1のスリット深さ変更領域148に対向し、スリット147,146,145,144が徐々に浅くなる第2のスリット深さ変更領域149とを具備する光変調器とすることも可能である。これは、上述した第3の実施例の作製方法を適応すれば作製が可能である。
【0096】
この場合、不要な散乱を避けることができるため、低損失な分離溝が実現可能であるというメリットがある。
【0097】
ここで、上述した第1の実施例に示す構造と、本実施例の構造を足し合わせた構造である図13に示すような構造でも、第1,第4の実施例と同様な効果が得られる。図13では、対向する片方のテーパ部の形状のみを示しており、対向する他方のテーパ部を省略している。活性領域16aには、キャリアバリア層14および上部電極層15が共に、導波路構造内の光伝搬方向に沿って、幅が徐々に狭くなると共に、波長よりも短いスリットが設けられ、導波路内光伝搬方向にスリット間隔が徐々に狭くなる領域152が設けられている。なお、非活性領域には、キャリアバリア層14および上部電極層15が共に、導波路構造内の光伝搬方向に沿って、幅が徐々に広くなると共に、波長よりも短いスリットが設けられ、導波路内光伝搬方向にスリット間隔が徐々に広くなる領域が設けられている。この光変調器は、第1の実施例の横方向のテーパ構造と組み合わせて作製することで、断熱的変換がよりスムーズに行われるため低損失な分離溝の実現が可能である。この場合もマスク設計の変更だけで実施でき、特殊なグレーマスク露光などが不要で簡便に作製できるメリットがある。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る光変調器によれば、再成長が不要である分離溝を形成する光変調器において、分離溝部で損失の増大を抑制することができる。その結果、通信産業などで有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10,30,40 光変調器
11 下部電極層
12 コア部
13 バッファ層
14 キャリアバリア層
15 上部電極層
16 導波路
17,37,47 分離溝
18 第1のテーパ部
19 第2のテーパ部
38 第1の傾斜部
39 第2の傾斜部
48 第1のスリット幅変更領域
49 第2のスリット幅変更領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極層と、前記下部電極層上に形成された光変調層と、前記光変調層上に形成されたキャリアバリア層と、前記キャリアバリア層上に形成された上部電極層とを含む導波路構造が設けられ、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されて分離溝が形成されて、前記下部電極層への電圧の印加により光変調を行う導波路構造の活性領域と、導波路構造の非活性領域が形成された光変調器であって、
前記導波路構造の活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある層の少なくとも一部の幅が、導波路内光伝搬方向にて徐々に狭くなる第1のテーパ部と、
前記第1のテーパ部に対向し、前記導波路構造の非活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある層の少なくとも一部の幅が、徐々に幅が広くなる第2のテーパ部とを具備する
ことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
下部電極層と、前記下部電極層上に形成された光変調層と、前記光変調層上に形成されたキャリアバリア層と、前記キャリアバリア層上に形成された上部電極層とを含む導波路構造が設けられ、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されて分離溝が形成されて、前記下部電極層への電圧の印加により光変調を行う導波路構造の活性領域と、導波路構造の非活性領域が形成された光変調器であって、
前記導波路構造の活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある層の少なくとも一部の厚さが導波路内光伝搬方向にて、徐々に薄くなる第1の傾斜部と、
前記第1の傾斜部に対向し、前記導波路構造の非活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある層の少なくとも一部の厚さが徐々に厚くなる第2の傾斜部とを具備する
ことを特徴とする光変調器。
【請求項3】
下部電極層と、前記下部電極層上に形成された光変調層と、前記光変調層上に形成されたキャリアバリア層と、前記キャリアバリア層上に形成された上部電極層とを含む導波路構造が設けられ、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されて分離溝が形成されて、前記下部電極層への電圧の印加により光変調を行う導波路構造の活性領域と、導波路構造の非活性領域が形成された光変調器であって、
前記導波路構造の活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されることで波長よりも短いスリットが設けられ、導波路内光伝搬方向に、スリット間隔が徐々に狭くなる第1のスリット幅変更領域と、
前記第1のスリット幅変更領域に対向し、前記導波路構造の非活性領域に接続して形成され、前記キャリアバリア層より上層にある少なくとも一部が除去されることで波長よりも短いスリットが設けられ、スリット間隔が徐々に広くなる第2のスリット幅変更領域とを具備する
ことを特徴とする光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−39262(P2011−39262A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186233(P2009−186233)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】