説明

半導体基板、半導体基板の製造方法、および電子デバイス

【課題】同一基板に形成されるHBTとFETとの相互影響を低減する。
【解決手段】第1半導体と、第1半導体の上方に形成された第2半導体とを備え、第2半導体は、P型の伝導型を示す不純物またはN型の伝導型を示す第1不純物原子と、第2半導体が第1不純物原子を有する場合のフェルミ準位を、第2半導体が第1不純物原子を有しない場合のフェルミ準位に近づける第2不純物原子とを有する半導体基板を提供する。一例として、当該第2半導体の多数キャリアは電子であり、第2不純物原子は、第1不純物原子を有する第2半導体のフェルミ準位を下降させる。第2半導体は3−5族化合物半導体であり、第2不純物原子が、ベリリウム、ボロン、炭素、マグネシウム、および亜鉛からなる群から選択された少なくとも1つであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、半導体基板の製造方法、および電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの高集積化が進む中、同一基板上にヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)と電界効果トランジスタ(FET)とを形成する手法が提案されている。非特許文献1は、HBTのエミッタ層をFETのチャネル層として使用する構造を開示する。非特許文献2は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)を形成する半導体の上に、AlGaAs/GaAs系HBTを形成する半導体を積層する構造を開示する。
(非特許文献1)IEDM Tech.Dig.,1992,p.91
(非特許文献2)IEDM Tech.Dig.,1989,p.389
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電子デバイスの集積度を高めると、同一基板に形成される複数の半導体デバイス間の相互の影響により、各電子素子の特性が低下する場合がある。例えば、HBTの性能を高めるには、より多くの不純物を導入するサブコレクタ層を形成することにより、コレクタの導電率を高めることが望ましい。しかし、半導体層に導入する不純物原子の濃度が高くなると当該半導体層の結晶構造が不安定化し、当該半導体層に結晶欠陥が誘起される。そして、当該欠陥が他の半導体層に伝播して成長する場合がある。
【0004】
例えば、HBTのサブコレクタ層の不純物原子濃度が高くなると、HBTの下部に形成されているFETに結晶欠陥が伝播し、FETの性能が劣化する。そこで、本発明は、当該半導体層における不純物原子濃度を高くした場合においても、同一基板に形成される他の半導体層に伝播される結晶欠陥を低減し、優れた特性を有するトランジスタを形成できる半導体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らは検討の結果、上記の半導体層の不純物原子濃度を高くした場合においても、当該半導体層のフェルミ準位を、当該半導体層が上記の不純物原子を有しない場合のフェルミ準位に近づける、上記の不純物原子と異なる不純物原子を当該半導体層にドープすると、当該半導体層の結晶構造を安定化させ、結晶欠陥の誘起を抑制することを見出した。種々の半導体について、禁制帯の中央付近に、電子の捕獲のされやすさと電子の放出のされやすさとが同じとなる準位(電荷中性準位と称する)を定義できる。半導体層の不純物原子の濃度が高くなると、当該半導体層のフェルミ準位が電荷中性準位から離れ、伝導帯または価電子帯に近づき、結晶構造が不安定化する。しかし、当該半導体層が上記の不純物原子と異なる不純物原子を有する場合には、当該半導体層のフェルミ準位が伝導帯または価電子帯に近づいていた状態から離れて電荷中性準位に近づき、結晶構造を安定化させると考えられる。
【0006】
そこで、本発明の第1の態様においては、第1半導体と、第1半導体の上方に形成された第2半導体とを備え、第2半導体は、P型またはN型の伝導型を示す第1不純物原子と、第2半導体のフェルミ準位を、第2半導体が第1不純物原子を有しない場合のフェルミ準位に近づける第2不純物原子とを有する半導体基板を提供する。一例として、当該第2半導体の多数キャリアは電子であり、第2不純物原子は、第1不純物原子を有する第2半導体のフェルミ準位を下降させる。第2半導体は3−5族化合物半導体であり、第2不純物原子が、ベリリウム、ボロン、炭素、マグネシウム、および亜鉛からなる群から選択された少なくとも1つであってもよい。
【0007】
第2半導体の電子濃度は、例えば1×1018cm−3以上6×1018cm−3以下である。第2半導体の電子濃度は、2×1018cm−3以上6×1018cm−3以下であってもよい。第2不純物原子の濃度は、例えば5×1017cm−3以上1×1019cm−3以下である。
【0008】
上記の半導体基板は、第1半導体が3−5族化合物半導体であり、第1半導体と第2半導体との間に形成され、AlGa1−xAs(0≦x≦1)またはAlInGa1−y−zP(0≦y≦1,0≦z≦1)からなる中間層をさらに備えてもよい。当該中間層が、AlGa1−pAs層およびAlGa1−qAs層(0≦p≦1、0≦q≦1、p<q)が積層された積層体を含んでもよい。当該第1半導体が真性半導体を有してもよい。第2半導体は、N型半導体およびP型半導体が積層した積層体を含んでもよい。
【0009】
本発明の第2の態様においては、上記の半導体基板の第1半導体に流れる電流を制御する制御端子を有するトランジスタを備える電子デバイスを提供する。第1半導体と第2半導体との間に形成され、第1半導体より電子親和力が小さい第3半導体を、当該電子デバイスはさらに備えてもよい。当該トランジスタは、第3半導体と第1半導体とのヘテロ界面の第1半導体側に形成された2次元キャリアガスをチャネルとする電界効果トランジスタであってもよい。例えば、電界効果トランジスタの2次元キャリアガスの濃度は1×1011cm−2以上、5×1012cm−2以下である。
【0010】
上記の電子デバイスは、第2半導体の上方でエピタキシャル成長され、第2半導体が含む不純物と同じ伝導型の第1伝導型を示す不純物を、第2半導体が含む不純物より低濃度に含む第4半導体と、第4半導体の上方でエピタキシャル成長され、第1伝導型と反対の第2伝導型を示す不純物を含む第5半導体と、第5半導体の上方でエピタキシャル成長され、第1伝導型を示す不純物を含む第6半導体と、第2半導体にサブコレクタが形成され、第4半導体にコレクタが形成され、第5半導体にベースが形成され、第6半導体にエミッタが形成された、ヘテロ接合バイポーラトランジスタとをさらに備えてもよい。
【0011】
本発明の第3の態様においては、第1半導体を形成する段階と、第1半導体の上方に第2半導体を形成する段階とを備え、第2半導体が、P型またはN型の伝導型を示す第1不純物原子と、第2半導体のフェルミ準位を、第2半導体が第1不純物原子を有しない場合のフェルミ準位に近づける第2不純物原子とを有する半導体基板の製造方法を提供する。
【0012】
当該半導体基板の製造方法は、第2半導体の上方で、第2半導体が含む不純物と同じ伝導型の第1伝導型を示す不純物を含む第4半導体をエピタキシャル成長させる段階と、第4半導体の上方で、第4半導体が含む不純物と反対の伝導型の第2伝導型を示す不純物を含む第5半導体をエピタキシャル成長させる段階と、第5半導体の上方で、第1伝導型を示す第6半導体をエピタキシャル成長させる段階とをさらに備えてもよい。当該第4半導体に含まれる第1伝導型を示す不純物の濃度が、当該第2半導体に含まれる第1伝導型を示す不純物の濃度より低くてもよい。
【0013】
上記の半導体基板の製造方法において、第2半導体がN型の3−5族化合物半導体であり、第2半導体を形成する段階においては、3族原料に対する5族原料のモル供給比を、1以上、6以下の範囲内に調整して、3−5族化合物半導体を第1半導体上にエピタキシャル成長させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】半導体基板100の断面の一例を示す。
【図2】半導体基板200の断面の一例を示す。
【図3】半導体基板200の製造方法の一例を表すフローチャートを示す。
【図4】電子デバイス400の断面の一例を示す。
【図5】電子デバイス400の製造過程における断面例を示す。
【図6】電子デバイス400の製造過程における断面例を示す。
【図7】電子デバイス400の製造過程における断面例を示す。
【図8】電子デバイス400の製造過程における断面例を示す。
【図9】半導体基板900の断面の一例を示す。
【図10】実験例1のしきい値電圧特性を評価するために実施したC−V測定結果を示す。
【図11】実験例2のしきい値電圧特性を評価するために実施したC−V測定結果を示す。
【図12】実験例3のしきい値電圧特性を評価するために実施したC−V測定結果を示す。
【図13】実験例4のしきい値電圧特性を評価するために実施したC−V測定結果を示す。
【図14】実験例5のしきい値電圧特性を評価するために実施したC−V測定結果を示す。
【図15】実験例6のしきい値電圧特性を評価するために実施したC−V測定結果を示す。
【図16】実験例7のしきい値電圧特性を評価するために実施したC−V測定結果を示す。
【図17】実験例8のしきい値電圧特性を評価するために実施したC−V測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、半導体基板100の断面の一例を示す。半導体基板100は、ベース基板102、第1半導体112、および第2半導体132を含む。ベース基板102は、例えば、半導体基板100における他の構成要素を支持することができる十分な機械的強度を有する基板である。第1半導体112が、第2半導体132を支持することができる機械的強度を有する場合には、半導体基板100はベース基板102を有しないでもよい。
【0016】
ベース基板102は、例えば、Si基板、SOI(silicon−on−insulator)基板、Ge基板、またはGOI(germanium−on−insulator)基板である。ベース基板102は、GaAs基板等の3−5族化合物半導体基板であってもよい。ベース基板102は、サファイア基板、ガラス基板、PETフィルム等の樹脂基板であってもよい。
【0017】
第1半導体112は、例えば真性半導体である。第1半導体112は、半導体基板100にトランジスタが形成された場合に、当該トランジスタの制御端子により制御される電流を流す領域として機能することができる。例えば、当該トランジスタが電界効果トランジスタである場合には、第1半導体112は、ソースとドレインとの間で電流を流すチャネル層として機能する。
【0018】
第1半導体112は、2次元キャリアガスを有してもよい。半導体基板100にトランジスタが形成された場合には、当該2次元キャリアガスを通じて電流が流れる。2次元キャリアガスの濃度は1×1011cm−2以上、5×1012cm−2以下であることが好ましい。
【0019】
第1半導体112は、例えば3−5族化合物半導体である。一例として、第1半導体112はInGaAsである。第1半導体112は、例えばエピタキシャル成長法によりベース基板102の上方に形成される。
【0020】
第2半導体132は、第1半導体112の上方に形成される。第2半導体132は、例えば第1半導体112上でエピタキシャル成長することにより形成される。第2半導体132は、第1半導体112上に設けられた他の層においてエピタキシャル成長することにより形成されてもよい。第2半導体132は、例えば3−5族化合物半導体である。第2半導体132は、例えばGaAs、AlGaAs、InP、InGaAsまたはGaNである。
【0021】
第2半導体132は、P型またはN型の伝導型を示す第1不純物原子を有する。また、第2半導体132は、第2半導体132のフェルミ準位を、第2半導体132が当該第1不純物原子を有しない場合の第2半導体132のフェルミ準位に近づける第2不純物原子を有する。つまり、第2不純物原子は、第2半導体132における電荷中性準位とフェルミ準位との差を減少させる。
【0022】
一例として、第2半導体132にN型の伝導型を示す第1不純物原子をドープすると、電子が第2半導体132の多数キャリアになる。第2半導体132の多数キャリアが電子である場合には、第2不純物原子は、第1不純物原子がドープされた第2半導体132のフェルミ準位を下降させる。第2半導体132のフェルミ準位が下降することにより、第2半導体132と第1半導体112との間のフェルミ準位の差に起因して生じる結晶欠陥を低減することができる。
【0023】
具体的には、第2半導体132が3−5族化合物半導体である場合に、第2半導体132をHBTのサブコレクタとして用いるには、第2半導体132にN型の伝導型を示す第1不純物原子として、例えばSi原子をドープすることにより、電子濃度を高めることが必要である。例えば、第2半導体132の電子濃度は、2×1018cm−3以上、6×1018cm−3以下であることが好ましい。第2半導体132の電子濃度は、1×1018cm−3以上、6×1018cm−3以下であってもよい。
【0024】
ところが、電子濃度が高まった結果としてフェルミ準位が上昇すると、第2半導体132のフェルミ準位と電荷中性準位との差が大きくなり、結晶が不安定化して第2半導体132に結晶欠陥が発生する。
【0025】
そこで、第2半導体132のフェルミ準位を下降させる第2不純物原子をドープすることにより、第2半導体132のフェルミ準位と電荷中性準位との差を小さくすることができる。一例として、第1不純物原子がN型の伝導型を示す場合には、第2不純物原子は第1不純物原子と反対の伝導型のP型の伝導型である。例えば、第2半導体132が3−5族化合物半導体である場合には、第2不純物原子は、ベリリウム、ボロン、炭素、マグネシウムおよび亜鉛からなる群から選択された少なくとも1つである。第2不純物原子の濃度は5×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下であることが好ましい。
【0026】
図1において、破線は、当該破線部分に必要に応じて他の半導体等を含んでよいことを示す。例えば、半導体基板100は、ベース基板102と第1半導体112との間に、キャリア供給半導体、スペーサー用半導体、またはバッファ用半導体等を含む。また、半導体基板100は、第1半導体112と第2半導体132との間に、キャリア供給半導体、スペーサー用半導体、またはバッファ用半導体等を含んでもよい。
【0027】
図2は、半導体基板200の断面の一例を示す。半導体基板200は、ベース基板202、バッファ用半導体204、チャネル用半導体212、キャリア供給半導体214、バリア形成半導体216、コンタクト用半導体218、中間半導体224、サブコレクタ用半導体232、コレクタ用半導体234、ベース用半導体236、エミッタ用半導体238、サブエミッタ用半導体242、およびエミッタコンタクト用半導体244を備える。
【0028】
チャネル用半導体212、キャリア供給半導体214、バリア形成半導体216、およびコンタクト用半導体218は、半導体基板100に形成されるHEMTを構成する半導体構造層(以下、「HEMT用半導体構造層」と称する)である。サブコレクタ用半導体232、コレクタ用半導体234、ベース用半導体236、エミッタ用半導体238、サブエミッタ用半導体242、およびエミッタコンタクト用半導体244は、半導体基板100に形成されるHBTを構成する半導体構造層(以下、「HBT用半導体構造層」と称する)である。
【0029】
ベース基板202は、半導体基板100におけるベース基板102に対応する。チャネル用半導体212は、第1半導体112に対応する。サブコレクタ用半導体232は、第2半導体132に対応する。以下の説明において、半導体基板200における半導体基板100に対応する構成部については、説明を省略する場合がある。
【0030】
バッファ用半導体204は、チャネル用半導体212の結晶質を確保する目的で設けられた半導体層である。例えば、バッファ用半導体204は、ベース基板202の表面に残留する不純物原子によりベース基板202の上に形成される半導体素子の特性劣化を防ぐ。バッファ用半導体204は、チャネル用半導体212からのリーク電流を抑制してもよい。バッファ用半導体204は、チャネル用半導体212とベース基板202との格子間距離を整合させる緩衝層として機能してもよい。バッファ用半導体204の材料として、3−5族化合物半導体を例示できる。
【0031】
バッファ用半導体204は、一例として、エピタキシャル成長法によりベース基板202に接して形成される。半導体基板200は、バッファ用半導体204とベース基板202との間に他の半導体層をさらに備えてもよい。バッファ用半導体204は、単層の半導体層であってもよく、多層の半導体層によって構成されてもよい。例えば、バッファ用半導体204は、組成の異なる複数の半導体層によって構成される。
【0032】
バッファ用半導体204は、キャリアトラップを含んでもよい。キャリアトラップとして、ホウ素原子または酸素原子を例示できる。バッファ用半導体204は、例えば、キャリアトラップとして酸素原子を添加した化合物半導体AlGa1−xAs(0≦x≦1)またはAlInGa1−x−zP(0≦y≦1,0≦z≦1)である。当該化合物半導体に酸素原子等のキャリアトラップを添加することにより、当該半導体に深いトラップ準位を形成することができる。当該深いトラップ準位によって、バッファ用半導体204を通過するキャリアが捕獲されるので、バッファ用半導体204上に形成される他の半導体層とバッファ用半導体204の下にあるベース基板202との間のリーク電流を防止できる。
【0033】
バッファ用半導体204は、複数のP型3−5族化合物半導体を有してもよい。当該複数の3−5族化合物半導体のうち相互に隣接する2つの3−5族化合物半導体は、AlGa1−xAs(0≦x≦1)とAlGa1−yAs(0≦y≦1,x<y)とのヘテロ接合、AlInGa1−p−qP(0≦p≦1,0≦q≦1)とAlInGa1−r−sP(0≦r≦1,0≦s≦1,p<r)とのヘテロ接合、および、AlGa1−xAs(0≦x≦1)とAlInGa1−p−qP(0≦p≦1,0≦q≦1)とのヘテロ接合、からなる群から選択された少なくとも1つのヘテロ接合を形成してもよい。
【0034】
例えば、バッファ用半導体204が、チャネル用半導体212に接するP型半導体層AlGa1−xAs(0≦x≦1)とベース基板202に接するP型半導体層AlGa1−yAs(0≦y≦1)を含み、x<yである場合に、P型半導体層AlGa1−yAsがP型半導体層AlGa1−xAsより高いAl組成を有し、広いエネルギーバンドギャップを有する。このバンドギャップの差がエネルギーバリアとなり、P型半導体AlGa1−xAsからP型半導体AlGa1−yAsへのキャリアの移動を阻害するので、リーク電流の発生が抑制される。
【0035】
バッファ用半導体204は、更に多くのP型半導体層を有してもよい。バッファ用半導体204における各層が原子単位の厚さを有し、バッファ用半導体204が全体として超格子を構成してもよい。このようにバッファ用半導体204が多数の層を有する場合には、多数のヘテロ接合により多数のエネルギーバリアが形成されるので、より効果的にリーク電流を防止することができる。
【0036】
バッファ用半導体204は、複数のP型半導体層と複数のN型半導体層とを含み、P型半導体層とN型半導体層とが、交互に積層されて複数のPN接合を形成する積層構造を有してもよい。当該複数のPN接合が複数の空乏領域を形成してキャリアの移動を阻害するので、効果的にリーク電流を防止できる。
【0037】
チャネル用半導体212は、第1半導体112に対応する。チャネル用半導体212は、一例として、バッファ用半導体204に接して形成される。半導体基板200は、チャネル用半導体212とバッファ用半導体204との間に更に他の半導体等を有してもよい。例えば、半導体基板200は、チャネル用半導体212とバッファ用半導体204との間に、更にキャリア供給半導体またはスペーサー用半導体等を有する。
【0038】
キャリア供給半導体214は、チャネル用半導体212にキャリアを供給する。キャリア供給半導体214は、例えば、チャネル用半導体212とサブコレクタ用半導体232との間に形成される。半導体基板200は、キャリア供給半導体214とチャネル用半導体212との間に更に他の半導体等を有してもよい。例えば、半導体基板200は、キャリア供給半導体214とチャネル用半導体212との間に、更にスペーサー用半導体等を有する。
【0039】
キャリア供給半導体214は、チャネル用半導体212よりも電子親和力が小さくてよい。キャリア供給半導体214は、3−5族化合物半導体である。例えば、キャリア供給半導体214として、AlGaAsを例示できる。キャリア供給半導体214は、例えばエピタキシャル成長法により、チャネル用半導体212の上に形成される。
【0040】
キャリア供給半導体214は、チャネル用半導体212との間にヘテロ接合を形成する。当該ヘテロ接合界面には、2次元キャリアガスが形成されてもよい。当該2次元キャリアガスの濃度は1×1011cm−2以上、5×1012cm−2以下であってよく、好ましくは1×1012cm−2以上、3×1012cm−2以下である。
【0041】
バリア形成半導体216は、制御電極と2次元キャリアガスとの間のエネルギー障壁を形成する。例えば、制御電極が金属で構成され、バリア形成半導体216と当該金属とのショットキー接合によりエネルギー障壁が形成される。バリア形成半導体216は、例えば3−5族化合物半導体である。バリア形成半導体216の材料として、AlGaAsを例示できる。バリア形成半導体216は、例えばエピタキシャル成長法によりチャネル用半導体212の上に形成される。半導体基板200は、バリア形成半導体216を有しないで、キャリア供給半導体214をバリア形成半導体として兼用してもよい。
【0042】
コンタクト用半導体218は、コンタクト用半導体218に接して形成される金属電極との間にオーミック接合を形成する。コンタクト用半導体218は、例えば3−5族化合物半導体である。コンタクト用半導体218の材料として、GaAsまたはInGaAsを例示できる。コンタクト用半導体218は、例えばエピタキシャル成長法によりバリア形成半導体216の上に形成される。
【0043】
中間半導体224は、例えばチャネル用半導体212とサブコレクタ用半導体232との間に形成される。中間半導体224は、コンタクト用半導体218の上に形成されてもよい。中間半導体224は、サブコレクタ用半導体232との間でのエッチング選択性を確保できる半導体であることが好ましい。中間半導体224は、例えば3−5族化合物半導体である。中間半導体224は、一例としてInGaPである。
【0044】
中間半導体224は、AlGa1−xAs(0≦x≦1)またはAlInGa1−y−zP(0≦y≦1,0≦z≦1)を含んでもよい。中間半導体224は、AlGa1−pAs層およびAlGa1−qAs層(0≦p≦1、0≦q≦1、p<q)が積層された積層体を含んでもよい。積層体は、AlGa1−pAs層およびAlGa1−qAs層(0≦p≦1、0≦q≦1、p<q)の繰返し構造を含んでもよい。中間半導体224は、例えばエピタキシャル成長法により形成される。
【0045】
サブコレクタ用半導体232は、第2半導体132に対応する。具体的には、サブコレクタ用半導体232は、HBTのサブコレクタ層として機能する程度の電子濃度を有する。サブコレクタ用半導体232は、例えばN型の伝導型を示すSi原子等の第1不純物原子が高濃度にドープされた3−5族化合物半導体である。サブコレクタ用半導体232の電子濃度は、一例として2×1018cm−3以上、6×1018cm−3以下である。サブコレクタ用半導体232の電子濃度は、1×1018cm−3以上、6×1018cm−3以下であってもよい。
【0046】
サブコレクタ用半導体232は、サブコレクタ用半導体232のフェルミ準位を、Si原子がドープされていない状態におけるフェルミ準位に近づける第2不純物原子を有する。つまり、サブコレクタ用半導体232は、サブコレクタ用半導体232における電荷中性準位とフェルミ準位との差を減少させる第2不純物原子を有する。上記第2不純物原子は、ベリリウム、ボロン、炭素、マグネシウムおよび亜鉛からなる群から選択された少なくとも1つである。上記第2不純物原子の濃度は、一例として5×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下である。
【0047】
HBT用半導体構造層におけるサブコレクタ用半導体232に第2不純物原子を添加することによって、サブコレクタ用半導体232に結晶欠陥が生じて、当該結晶欠陥がサブコレクタ用半導体232の下層にまで伝播することを防ぐことができる。その結果、HBT用半導体構造層の下部に存在するHEMT用半導体構造層の特性の劣化を防ぐことができる。例えば、HEMTのしきい値電圧にばらつきが生ずる等の特性劣化を防ぐことができる。
【0048】
コレクタ用半導体234は、サブコレクタ用半導体232の上に形成されている。コレクタ用半導体234は、サブコレクタ用半導体232が有する不純物原子と同じ伝導型を示す不純物原子を含んでもよい。コレクタ用半導体234は、サブコレクタ用半導体232が有する不純物原子より、低い濃度の当該不純物原子を含んでもよい。
【0049】
コレクタ用半導体234は、例えば3−5族化合物半導体である。コレクタ用半導体234の材料として、GaAsを例示できる。コレクタ用半導体234は、例えばHBTのコレクタ層として機能する。コレクタ用半導体234は、例えばエピタキシャル成長法により形成される。
【0050】
ベース用半導体236は、コレクタ用半導体234の上に形成されている。ベース用半導体236は、コレクタ用半導体234に含有されている不純物原子と反対の伝導型を示す不純物原子を含んでよい。ベース用半導体236は、例えば3−5族化合物半導体である。ベース用半導体236の材料として、GaAsを例示できる。ベース用半導体236は、HBTのベース層として機能する。ベース用半導体236は、例えばエピタキシャル成長法により形成される。
【0051】
エミッタ用半導体238は、ベース用半導体236の上に形成されている。エミッタ用半導体238は、コレクタ用半導体234に含有されている不純物原子と同種の伝導型を示す不純物原子を含んでよい。エミッタ用半導体238は、3−5族化合物半導体である。エミッタ用半導体238の材料として、InGaPを例示できる。エミッタ用半導体238は、HBTのエミッタ層として機能する。エミッタ用半導体238は、例えばエピタキシャル成長法により形成される。
【0052】
サブエミッタ用半導体242は、エミッタ用半導体238の上に形成されている。サブエミッタ用半導体242は、例えばエミッタ用半導体238が有する不純物原子と同種の伝導型を示す不純物原子を含む。サブエミッタ用半導体242は、エミッタ用半導体238より高い濃度の当該不純物原子を含んでもよい。
【0053】
サブエミッタ用半導体242は、例えば3−5族化合物半導体である。サブエミッタ用半導体242の材料として、GaAsを例示できる。サブエミッタ用半導体242は、一例としてHBTのサブエミッタ層として機能する。サブエミッタ用半導体242は、例えばエピタキシャル成長法により形成される。
【0054】
エミッタコンタクト用半導体244は、サブエミッタ用半導体242の上に形成される。エミッタコンタクト用半導体244は、例えばエミッタ用半導体238が有する不純物原子と同じ伝導型を示す不純物原子を含む。エミッタコンタクト用半導体244は、エミッタ用半導体238より高い濃度の当該不純物原子を含んでもよい。エミッタコンタクト用半導体244は、エミッタコンタクト用半導体244に接して形成される金属電極との間にオーミック接合を形成してもよい。
【0055】
エミッタコンタクト用半導体244は、例えば3−5族化合物半導体である。エミッタコンタクト用半導体244の材料として、InGaAsを例示できる。エミッタコンタクト用半導体244は、例えばエピタキシャル成長法により形成される。
【0056】
図3は、半導体基板200の製造方法の一例を表すフローチャートを示す。本実施態様の半導体基板製造方法は、バッファ層を形成する段階S310、第1半導体を形成する段階S320、中間半導体を形成する段階S330、および第2半導体を形成する段階S340を備える。
【0057】
半導体基板200は、ベース基板202に、半導体基板200を構成する他の半導体を順次エピタキシャル成長させることによって製造される。エピタキシャル成長法として、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、以下、MOCVD法と称する場合がある)、分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy、以下、MBE法と称する場合がある)を例示できる。以下、MOCVD法を用いて、半導体基板200を製造する方法を説明する。
【0058】
まず、バッファ層を形成する段階S310においては、ベース基板202を反応炉に載置し、ベース基板202上でバッファ用半導体204をエピタキシャル成長させる。ベース基板202は、例えば高抵抗の半絶縁性GaAs単結晶基板である。ベース基板202は、例えば、LEC(Liquid Encapsulated Czochralski)法、VB(Vertical Bridgman)法、VGF(Vertical Gradient Freezing)法等で製造されたGaAs基板である。ベース基板202は、1つの結晶学的面方位から0.05°〜10°程度の傾きをもった基板であってよい。好ましくは、ベース基板202は、1つの結晶学的面方位から0.3°以上、0.5°以下の傾きをもった基板である。
【0059】
バッファ用半導体204は、例えばI型AlGaAsである。バッファ用半導体204を形成する場合には、まず、GaAs単結晶ベース基板202の表面を、脱脂洗浄、エッチング、水洗、乾燥処理した後、MOCVD炉の加熱台上に載置する。炉内を高純度水素で十分置換した後、ベース基板202の加熱を開始する。ベース基板202が適切な温度に安定したところで炉内に砒素原料を導入し、続いてガリウム原料およびアルミニウム原料を導入することで、AlGaAs層をエピタキシャル成長させる。結晶成長時の基板温度は、例えば400℃以上800℃以下である。
【0060】
3族原子原料として、トリメチルガリウム(TMG)およびトリメチルアルミニウム(TMA)等を使用することができる。5族原子原料ガスとして、アルシン(AsH)等を使用することができる。エピタキシャル成長条件は、例えば、反応炉内圧力0.1atm、成長温度650℃、成長速度1〜3μm/hrである。原料のキャリアガスとして、高純度水素を用いることができる。
【0061】
続いて、第1半導体を形成する段階において、バッファ用半導体204の上に、順次チャネル用半導体212、キャリア供給半導体214、バリア形成半導体216、およびコンタクト用半導体218をエピタキシャル形成する。一例として、チャネル用半導体212はI型InGaAsである。キャリア供給半導体214はN型AlGaAsである。バリア形成半導体216はN型AlGaAsである。コンタクト用半導体218は高濃度にドープされたN型GaAsである。
【0062】
3族原子原料として、上記のTMGおよびTMA以外に、トリメチルインジウム(TMI)を使用してもよい。例えば、InGaAsのチャネル用半導体212を形成するには、ベース基板202が適切な温度に安定したところで、炉内に砒素原料であるアルシンを導入して、続いてガリウム原料であるTMG、およびインジウム原料であるTMIを導入することで、InGaAsをエピタキシャル成長できる。
【0063】
N型の伝導型を示す不純物原子は、Si、Se、Ge、Sn、TeおよびSからなる群から選択された少なくとも一つの原子である。N型の伝導型を示す不純物原子を含む化合物として、上記原子の水素化物または炭素数が1から3のアルキル基を有するアルキル化物を用いることができる。例えば、N型の伝導型を示す不純物原子として、Siを選択し、N型の伝導型を示す不純物原子を含む化合物として、シラン(SiH)またはジシラン(Si)を用いることができる。不純物原子Siのドーピング濃度は、エピタキシャル成長時のシランまたはジシラン流量を調整することによって変化させることができる。
【0064】
次に、中間半導体を形成する段階S330においては、コンタクト用半導体218の上に中間半導体224をエピタキシャル形成する。中間半導体224は、例えばN型InGaPである。5族原子原料ガスとして、上記のアルシン(AsH)のほかに、ホスフィン(PH)等を使用してもよい。例えば、InGaPの中間半導体224を形成するには、ベース基板202が適切な温度に安定したところで、炉内に燐原料であるホスフィンを導入して、続いてガリウム原料であるTMG、およびインジウム原料であるTMIを導入することで、InGaPをエピタキシャル成長させることができる。
【0065】
続いて、第2半導体を形成する段階S340においては、中間半導体224の上に、順次サブコレクタ用半導体232、コレクタ用半導体234、ベース用半導体236、エミッタ用半導体238、サブエミッタ用半導体242、およびエミッタコンタクト用半導体244をエピタキシャル形成する。
【0066】
サブコレクタ用半導体232は、例えば第1不純物原子が高濃度にドープされたN型GaAsである。N型の伝導型を示す第1不純物原子は、Si、Se、Ge、Sn、TeおよびSからなる群から選択された少なくとも一つの原子である。
【0067】
サブコレクタ用半導体232は、サブコレクタ用半導体232のフェルミ準位を、第1不純物原子を有しない場合のフェルミ準位に近づける第2不純物原子を有する。例えば、サブコレクタ用半導体232は、電荷中性準位とフェルミ準位との差を減少させる第2不純物原子として、炭素原子を含む。炭素原子の原料として、CBrあるいはBrCCl等の炭素のハロゲン化物を用いることができるほか、3族原料に含まれる炭素を用いることができる。
【0068】
サブコレクタ用半導体232に導入される炭素原子の量は、結晶成長炉へ導入する3族原料に対する5族原料のモル供給比を調整することにより調整することができる。例えば、アルシンとトリメチルガリウムとのモル供給比を調整することによって、サブコレクタ用半導体232を構成するGaAsに導入される炭素原子の量を調整することができる。一般に3族原料に対する5族原料のモル供給比が低いほど、導入される炭素原子の量は多くなる。3族原料に対する5族原料のモル供給比は、例えば1以上6以下であり、好ましくは1.6以上6以下である。
【0069】
コレクタ用半導体234は、例えばN型GaAsである。ベース用半導体236は、例えばP型GaAsである。ベース用半導体236に導入するP型不純物原子の原料として、CBrあるいはBrCCl等の炭素のハロゲン化物を用いることができる。エミッタ用半導体238は、例えばN型InGaPである。サブエミッタ用半導体242は、例えば不純物原子が高濃度にドープされたN型GaAsである。エミッタコンタクト用半導体244は、不純物原子が高濃度にドープされたN型InGaAsである。
【0070】
図4は、電子デバイス400の断面の一例を示す。電子デバイス400は、ベース基板202、バッファ用半導体204、チャネル用半導体212、キャリア供給半導体214、バリア形成半導体216、コンタクト用半導体218、中間半導体224、サブコレクタ用半導体232、コレクタ用半導体234、ベース用半導体236、エミッタ用半導体238、サブエミッタ用半導体242、エミッタコンタクト用半導体244、HBT450、およびHEMT460を備える。電子デバイス400は、半導体基板200を用いて、同一の基板上にHEMTおよびHBTをモノリシックに形成した電子デバイスである。
【0071】
HBT450は、ベース用半導体236に形成されたベース電極452、エミッタコンタクト用半導体244に形成されたエミッタ電極454、およびサブコレクタ用半導体232に形成されたコレクタ電極456を有する。HEMT460は、コンタクト用半導体218に形成されたドレイン電極462、バリア形成半導体216に形成されたゲート電極464、およびコンタクト用半導体218に形成されたソース電極466を有する。
【0072】
図5から図8は、電子デバイス400の製造過程における断面例を示す。以下、図面を用いて、電子デバイス400を製造する方法を説明する。但し、半導体基板200の製造方法と共通の部分については、説明を省略する場合がある。
【0073】
まず、エミッタコンタクト用半導体244に接してエミッタ電極454を形成する。例えば、エミッタ電極454は、エミッタコンタクト用半導体244の表面に、エミッタ電極454を形成する部位に開口が設けられたレジストマスクをフォトリソグラフィ法により形成し、電極用金属を蒸着してからレジストをリフトオフすることによって形成することができる。エッチング等のフォトリソグラフィ法により、エミッタメサを形成してよい。
【0074】
次に、図6に示すように、エッチング等のフォトリソグラフィ法によりコレクタメサを形成する。具体的には、ベース用半導体236に接してベース電極452を形成して、サブコレクタ用半導体232に接してコレクタ電極456を形成する。ベース電極452およびコレクタ電極456は、ベース電極452またはコレクタ電極456を形成する部位に開口が設けられたレジストマスクをフォトリソグラフィ法により形成し、電極用金属を蒸着してからレジストをリフトオフすることによって形成できる。
【0075】
続いて、図7に示すように、エッチング等のフォトリソグラフィ法により、HEMT460を形成する部位におけるHBT用半導体を除去して、コンタクト用半導体218を露出する。さらに、図8に示すように、エッチング等のフォトリソグラフィ法により、ソースおよびドレイン部位を形成して、露出したバリア形成半導体216に接してゲート電極464を形成する。最後に、図4に示すようにドレイン電極462およびソース電極466を形成することによって、電子デバイス400が完成する。上述の記載は、電子デバイス400の製造過程における各段階の順序を限定するものではない。例えば、エミッタメサを形成してから、エミッタ電極454を形成してもよい。
【0076】
図9は、半導体基板900の断面の一例を示す。半導体基板900は、半導体基板200に比して、コンタクト用半導体218と中間半導体224との間に、更に半導体919を含む点において相違する。半導体919は、キャリア供給半導体214とは反対の伝導型の不純物原子を有する半導体である。
【実施例】
【0077】
(実験例1)
実験例1において用いた半導体基板は、コンタクト用半導体218を含まない点を除いて、ほかの構成が半導体基板200と同じである。ベース基板202として、GaAs単結晶基板を使用した。バッファ用半導体204としてI型AlGaAs、チャネル用半導体212としてI型InGaAs、キャリア供給半導体214としてN型AlGaAs、バリア形成半導体216としてI型AlGaAs、中間半導体224としてN型InGaP、サブコレクタ用半導体232として不純物原子が高濃度にドープされたN型GaAs、コレクタ用半導体234としてN型GaAs、ベース用半導体236として不純物原子が高濃度にドープされたP型GaAs、エミッタ用半導体238としてN型InGaP、サブエミッタ用半導体242不純物原子が高濃度にドープされたN型GaAs、エミッタコンタクト用半導体244不純物原子が高濃度にドープされたN型InGaAsを使用した。バッファ用半導体204、チャネル用半導体212、キャリア供給半導体214、中間半導体224、サブコレクタ用半導体232、コレクタ用半導体234、ベース用半導体236、エミッタ用半導体238、サブエミッタ用半導体242、およびエミッタコンタクト用半導体244は、MOCVD法を用いて、エピタキシャル成長法によって順次ベース基板202の上に形成した。
【0078】
3族原子原料として、TMG、TMA、およびTMIを使用した。また、5族原子原料ガスとして、アルシンおよびホスフィンを使用した。N型不純物原子としてジシランを使用して、P型不純物原子原料としてBrCClを使用した。
【0079】
サブコレクタ用半導体232の成長時に、3族原料に対する5族原料のモル供給比を2.6として、炭素濃度を制御した。二次イオン質量分析法(SIMS)により、形成されたサブコレクタ用半導体232の炭素濃度を測定した結果、炭素濃度が1×1018cm−3であった。また、サブコレクタ用半導体232の電子濃度は5×1018cm−3とした。
【0080】
続いて、ウェットエッチングにより、上記の半導体基板における中間半導体224から上層の半導体を除去した。露出したバリア形成半導体216に接してAlショットキー電極を形成して、HEMT用半導体構造層のしきい値電圧を評価するためのC−V(容量−電圧)測定を実施した。HBT用半導体構造層を形成する過程におけるHEMT用半導体構造層への影響は、この評価によって検知することができる。
【0081】
図10は、実験例1の測定結果のC−V曲線である。図11から図17は、それぞれ後述の実験例における測定結果である。これらの図面において、横軸がショットキー電極に印加する電圧を示し、縦軸がショットキー接合に形成される容量を示す。
【0082】
図10のC−V曲線から分かるように、ショットキー電極に負の電圧を印加すると、ある電圧で空乏化が始まり、容量が急激に減少する。図10において、低電圧側で容量がほぼ一定である部分の曲線の切線(破線)と、容量が急激に減少する部分の曲線の切線(破線)との交点aを用いて、近似的に容量が急激に減少する電圧(「降伏点」と称する)を表す。測定するHEMT用半導体構造層の特性が安定であれば、このC−V曲線に再現性があり、繰り返し測定において得られるC−V曲線のばらつきが小さく、降伏点がほぼ一定となる。このばらつきによって、測定対象である半導体基板によって形成されるHEMTのしきい値電圧のばらつきを予測することができる。
【0083】
C−V曲線のばらつきは、図12に示すように、降伏点の電圧が最も低いa点と降伏点の電圧が最も高いb点との間の電圧差によって表す。図10のように、当該降伏点の電圧差が小さいときは、図面において、a点だけを表示する。図10から、実験例1において用いた半導体基板の測定結果にばらつきが少なく、半導体基板の特性が安定であることが分かる。
【0084】
(実験例2)
実験例2において用いた半導体基板は、半導体基板200を構成する半導体のうち、ベース基板202の上に、バッファ用半導体204、HEMT用半導体構造層を構成するチャネル用半導体212、キャリア供給半導体214、およびバリア形成半導体216だけを形成して、エピタキシャル成長を終了した半導体基板である。上記各半導体の形成条件は、実験例1と同じである。当該半導体基板のバリア形成半導体216に接してAlショットキー電極を形成して、C−V測定を実施した。測定結果を図11に示す。本実験例2の半導体基板におけるHEMT用半導体構造層は、上部にHBT用半導体構造層を形成する影響を受けていないので、他の実験例の比較基準として使用する。
【0085】
(実験例3)
実験例3において用いた半導体基板は、サブコレクタ用半導体232の成長時の条件を除き、実験例1と同様の条件で形成した。サブコレクタ用半導体232の成長時に、3族原料に対する5族原料のモル供給比を27にして、サブコレクタ用半導体232における炭素濃度を3×1016cm−3未満に制御した。サブコレクタ用半導体232の電子濃度は、実験例1と同じ5×1018cm−3とした。また、実験例1と同様の条件で、ウェットエッチングにより、半導体基板における中間半導体224から上層の半導体を除去して、バリア形成半導体216に接してAlショットキー電極を形成して、C−V測定を実施した。測定結果を図12に示す。
【0086】
上記三つの実験例を比較してみると、実験例2のHEMT用半導体構造層は、HBT用半導体構造層を形成する影響を受けていないので、図11に示すように、繰り返し測定におけるC−V曲線の再現性がよく、各C−V曲線の降伏点がa点に重なり、安定な特性を示す。それに対して、実験例3のHEMT用半導体構造層は、図12に示すように、測定結果にばらつきが大きく、降伏点aとbの電圧差が0.45Vとなる。これは、サブコレクタ用半導体232から上層のHBT用半導体構造層を形成することにより、下層に存在するHEMT用半導体構造層の特性が劣化したことを示す。しかし、実験例1のHEMT用半導体構造層は、同じく上部にHBT用半導体構造層を形成したにも関わらず、図10に示すように、実験例2のHEMT用半導体構造層とほぼ同等の安定な特性を示す。
【0087】
HEMT用半導体構造層の特性が劣化する原因は、次のように考えられる。HBT用半導体構造層において、サブコレクタ用半導体232のように不純物原子が高濃度にドープされる場合に、不純物原子の影響で半導体の中に結晶欠陥が生成すると考えられる。
【0088】
そして、HBT用半導体構造層を形成する過程において、上記結晶欠陥がHEMT用半導体構造層に伝播して、HEMT用半導体構造層の特性を劣化させることが考えられる。実験例1のように、第2不純物原子として、サブコレクタ用半導体232に炭素原子を多量に添加すると、炭素原子が電荷中性準位とフェルミ準位との差を減少させるので、結晶が安定化し、欠陥の発生が抑制されたと考えられる。
【0089】
(実験例4)
以下、実験例4から実験例6において、サブコレクタ用半導体232の炭素濃度を変化させて、その影響を調べた。実験例4において用いた半導体基板は、サブコレクタ用半導体232の成長時の条件を除き、実験例1と同様の条件で形成した。サブコレクタ用半導体232の成長時に、3族原料に対する5族原料のモル供給比を5.4にして、サブコレクタ用半導体232における炭素濃度を制御した。サブコレクタ用半導体232の炭素濃度は5×1017cm−3であった。サブコレクタ用半導体232の電子濃度は3×1018cm−3とした。また、実験例1と同様の条件で、ウェットエッチングにより、半導体基板における中間半導体224から上層の半導体を除去して、バリア形成半導体216に接してAlショットキー電極を形成して、C−V測定を実施した。測定結果を図13に示す。
【0090】
(実験例5)
実験例5において用いた半導体基板は、サブコレクタ用半導体232の成長時の条件を除き、実験例1と同様の条件で形成した。サブコレクタ用半導体232の成長時に、3族原料に対する5族原料のモル供給比を1.65にして、サブコレクタ用半導体232における炭素濃度を制御した。サブコレクタ用半導体232の炭素濃度は5×1018cm−3であった。サブコレクタ用半導体232の電子濃度は5×1018cm−3とした。また、実験例1と同様の条件で、ウェットエッチングにより、半導体基板における中間半導体224から上層の半導体を除去して、バリア形成半導体216に接してAlショットキー電極を形成して、C−V測定を実施した。測定結果を図14に示す。
【0091】
(実験例6)
実験例6において用いた半導体基板は、サブコレクタ用半導体232の成長時の条件を除き、実験例1と同様の条件で形成した。サブコレクタ用半導体232の成長時に、3族原料に対する5族原料のモル供給比を1.3にして、サブコレクタ用半導体232における炭素濃度を1×1019cm−3に制御した。サブコレクタ用半導体232の電子濃度は6×1018cm−3とした。また、実験例1と同様の条件で、ウェットエッチングにより、半導体基板における中間半導体224から上層の半導体を除去して、バリア形成半導体216に接してAlショットキー電極を形成して、C−V測定を実施した。測定結果を図15に示す。
【0092】
実験例4から6の測定結果(図13から図15)を比較すると、サブコレクタ用半導体232の炭素濃度が1×1019cm−3である実験例6の測定結果に、降伏点aとbの電圧差が約0.13Vのばらつきがあるものの、いずれのHEMT用半導体構造層も実験例3のような大きいばらつきが見られず、安定な特性を示す。
【0093】
(実験例7)
実験例7において用いた半導体基板は、サブコレクタ用半導体232の電子濃度を1×1018cm−3未満としたことを除き、実験例3と同様の条件で形成した。また、実験例1と同様の条件で、ウェットエッチングにより、半導体基板における中間半導体224から上層の半導体を除去して、バリア形成半導体216に接してAlショットキー電極を形成して、C−V測定を実施した。測定結果を図16に示す。
【0094】
HEMT用半導体構造層は、サブコレクタ用半導体232の電子濃度が低い場合には、図16に示すように安定な特性を示す。
【0095】
表1は、実験例1から実験例7までの測定結果を示す。この結果から、安定なHEMT用半導体構造層の特性を得るには、サブコレクタ用半導体232の成長時における3族原料に対する5族原料のモル供給比が、1.3以上、6以下であってよく、好ましくは、1.6以上、6以下である。即ち、サブコレクタ用半導体232における炭素濃度が5×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下であってよく、好ましくは、5×1017cm−3以上、5×1018cm−3以下である。また、サブコレクタ用半導体232における電子濃度が1×1018cm−3以上、6×1018cm−3以下であってよく、好ましくは、2×1018cm−3以上、5×1018cm−3以下である。
【表1】

【0096】
(実験例8)
実験例8において用いた半導体基板は、中間半導体224の成長時の条件を除き、実験例3と同様の条件で形成した。中間半導体224は、GaAsとAl0.25Ga0.75Asとから構成する2層構造を10回繰り返して形成された積層構造の上に、N型InGaPを成長させて形成された。また、実験例1と同様の条件で、ウェットエッチングにより、半導体基板における中間半導体224から上層の半導体を除去して、バリア形成半導体216に接してAlショットキー電極を形成して、C−V測定を実施した。測定結果を図17に示す。
【0097】
また、実験例8に用いた半導体基板が、中間半導体224構成以外に、実験例3と同様な構成を有するにも関わらす、HEMT用半導体構造層は、図17に示すように、安定な特性を示す。それは、中間半導体224に含まれるGaAsとAl0.25Ga0.75Asとの禁制帯幅の違いにより、GaAsとAl0.25Ga0.75Asとのテロ接合に形成されたエネルギーバリアが、サブコレクタ用半導体232に含まれる高濃度不純物原子の悪影響を抑制したものと考えられる。GaAsとAl0.25Ga0.75Asとから構成する積層構造が10回繰り返されることにより、複数のヘテロ接合が形成され、複数のエネルギーバリアが形成されて、その効果を大きく高めたと考えられる。
【0098】
以上の実施態様において、同一基板にHEMT用半導体構造層とHBT用半導体構造層を形成するにも関わらず、HBTにおける高濃度不純物原子を含む半導体に、電荷中性準位とフェルミ準位との差を減少させる第2不純物原子を添加することにより、HBT用半導体構造層を形成する過程によるHEMT用半導体構造層の特性の劣化を防ぎ、しきい値電圧が安定するHEMTとHBTをモノリシックに形成できる半導体基板、当該半導体基板の製造方法および当該半導体基板による電子デバイスを提供できる。
【0099】
また、HEMT用半導体構造層とHBT用半導体構造層との間に、エネルギーバリアを形成できるヘテロ接合を有する積層構造の中間半導体を設けることによっても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0100】
100 半導体基板、102 ベース基板、112 第1半導体、132 第2半導体、 200 半導体基板、202 ベース基板、204 バッファ用半導体、212 チャネル用半導体、214 キャリア供給半導体、216 バリア形成半導体、218 コンタクト用半導体、224 中間半導体、232 サブコレクタ用半導体、234 コレクタ用半導体、236 ベース用半導体、238 エミッタ用半導体、242 サブエミッタ用半導体、244 エミッタコンタクト用半導体、400 電子デバイス、450 HBT、452 ベース電極、454 エミッタ電極、456 コレクタ電極、460 HEMT、462 ドレイン電極、464 ゲート電極、466 ソース電極、900 半導体基板、919 半導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半導体と、
前記第1半導体の上方に形成された第2半導体と
を備え、
前記第2半導体は、
P型またはN型の伝導型を示す第1不純物原子と、
前記第2半導体のフェルミ準位を、前記第2半導体が前記第1不純物原子を有しない場合のフェルミ準位に近づける第2不純物原子と
を有する半導体基板。
【請求項2】
前記第2半導体の多数キャリアが電子であり、
前記第2不純物原子は、前記第1不純物原子を有する前記第2半導体のフェルミ準位を下降させる請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記第2半導体は3−5族化合物半導体であり、
前記第2不純物原子が、ベリリウム、ボロン、炭素、マグネシウム、および亜鉛からなる群から選択された少なくとも1つである請求項2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記第2半導体の電子濃度が、1×1018cm−3以上6×1018cm−3以下である請求項3に記載の半導体基板。
【請求項5】
前記第2半導体の電子濃度が、2×1018cm−3以上6×1018cm−3以下である請求項4に記載の半導体基板。
【請求項6】
前記第2不純物原子の濃度が、5×1017cm−3以上1×1019cm−3以下である請求項4または請求項5に記載の半導体基板。
【請求項7】
前記第1半導体が3−5族化合物半導体であり、
前記第1半導体と前記第2半導体との間に形成され、AlGa1−xAs(0≦x≦1)またはAlInGa1−y−zP(0≦y≦1,0≦z≦1)からなる中間層をさらに備える請求項3から請求項6の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項8】
前記中間層が、AlGa1−pAs層およびAlGa1−qAs層(0≦p≦1、0≦q≦1、p<q)が積層された積層体を含む請求項7に記載の半導体基板。
【請求項9】
前記第1半導体が真性半導体を有する請求項3から請求項8の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項10】
前記第2半導体が、N型半導体およびP型半導体が積層した積層体を含む請求項3から請求項9の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項11】
請求項3に記載の半導体基板の前記第1半導体に流れる電流を制御する制御端子を有するトランジスタを備える電子デバイス。
【請求項12】
前記第1半導体と前記第2半導体との間に形成され、前記第1半導体より電子親和力が小さい第3半導体をさらに備え、
前記トランジスタは、前記第3半導体と前記第1半導体とのヘテロ界面の第1半導体側に形成された2次元キャリアガスをチャネルとする電界効果トランジスタである請求項11に記載の電子デバイス。
【請求項13】
前記第2半導体の上方でエピタキシャル成長され、前記第2半導体が含む不純物と同じ伝導型の第1伝導型を示す不純物を、前記第2半導体が含む不純物より低濃度に含む第4半導体と、
前記第4半導体の上方でエピタキシャル成長され、前記第1伝導型と反対の第2伝導型を示す不純物を含む第5半導体と、
前記第5半導体の上方でエピタキシャル成長され、前記第1伝導型を示す不純物を含む第6半導体と、
前記第2半導体にサブコレクタが形成され、前記第4半導体にコレクタが形成され、前記第5半導体にベースが形成され、前記第6半導体にエミッタが形成された、ヘテロ接合バイポーラトランジスタと
をさらに備える請求項12に記載の電子デバイス。
【請求項14】
前記電界効果トランジスタの前記2次元キャリアガスの濃度が1×1011cm−2以上、5×1012cm−2以下である請求項12または請求項13に記載の電子デバイス。
【請求項15】
第1半導体を形成する段階と、
前記第1半導体の上方に第2半導体を形成する段階と
を備え、
前記第2半導体が、P型またはN型の伝導型を示す第1不純物原子と、前記第2半導体のフェルミ準位を、前記第2半導体が前記第1不純物原子を有しない場合のフェルミ準位に近づける第2不純物原子とを有する半導体基板の製造方法。
【請求項16】
前記第2半導体の上方で、前記第2半導体が含む不純物と同じ伝導型の第1伝導型を示す不純物を含む第4半導体をエピタキシャル成長させる段階と、
前記第4半導体の上方で、前記第4半導体が含む不純物と反対の伝導型の第2伝導型を示す不純物を含む第5半導体をエピタキシャル成長させる段階と、
前記第5半導体の上方で、前記第1伝導型を示す第6半導体をエピタキシャル成長させる段階と
をさらに備え、
前記第4半導体に含まれる前記第1伝導型を示す不純物の濃度が、前記第2半導体に含まれる前記第1伝導型を示す不純物の濃度より低い
請求項15に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項17】
前記第2半導体がN型の3−5族化合物半導体であり、
前記第2半導体を形成する段階においては、3族原料に対する5族原料のモル供給比を、1以上、6以下の範囲内に調整して、前記3−5族化合物半導体を前記第1半導体上にエピタキシャル成長させる請求項15または請求項16に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−9722(P2011−9722A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118588(P2010−118588)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】