点火システム
【課題】電流投入部を有し、点火プラグへの電流の投入経路が1つとされた点火システムにおいて、生産コストの低減等を図りつつ、優れた着火性を実現する。
【解決手段】点火システム101は、軸孔4を有する絶縁碍子2、中心電極5、接地電極27、及び、キャビティ部28を備え、両電極5,27間に間隙29が形成された点火プラグ1と、点火プラグ1に接続される1つの点火コイル45を備え、間隙29に電流を投入する電流投入部41とを有する。接地電極27は貫通孔27Hを有し、貫通孔27Hの内周面は、軸孔4の開口よりも外周側に位置している。点火プラグ1に電流が投入される経路は1つとされ、点火プラグ1には、点火コイル45からの出力電流に基づく電流のみが投入される。電流投入部41は、点火プラグ1の取付けられた内燃機関ENにおける1回の燃焼行程において、間隙29に複数回の電流を投入する。
【解決手段】点火システム101は、軸孔4を有する絶縁碍子2、中心電極5、接地電極27、及び、キャビティ部28を備え、両電極5,27間に間隙29が形成された点火プラグ1と、点火プラグ1に接続される1つの点火コイル45を備え、間隙29に電流を投入する電流投入部41とを有する。接地電極27は貫通孔27Hを有し、貫通孔27Hの内周面は、軸孔4の開口よりも外周側に位置している。点火プラグ1に電流が投入される経路は1つとされ、点火プラグ1には、点火コイル45からの出力電流に基づく電流のみが投入される。電流投入部41は、点火プラグ1の取付けられた内燃機関ENにおける1回の燃焼行程において、間隙29に複数回の電流を投入する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマジェット点火プラグを有してなる点火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関等の燃焼装置においては、火花放電により混合気へと着火する点火プラグが使用されている。また近年では、燃焼装置の高出力化や低燃費化の要求に応えるべく、燃焼の広がりが速く、着火限界空燃比のより高い希薄混合気に対してもより確実に着火可能な点火プラグとして、プラズマジェット点火プラグが提案されている。
【0003】
一般にプラズマジェット点火プラグは、軸孔を有する筒状の絶縁体と、先端面が絶縁体の先端面よりも没入した状態で軸孔内に挿設される中心電極と、絶縁体の外周に配置される主体金具と、主体金具の先端部に接合される円環状の接地電極とを備える。また、プラズマジェット点火プラグは、自身の先端部に、中心電極の先端面及び軸孔の内周面によって形成された空間(キャビティ部)を有しており、当該キャビティ部は接地電極に形成された貫通孔を介して外部に連通されるようになっている。
【0004】
このようなプラズマジェット点火プラグにおいては、一般に次のようにして混合気への着火が行われる。まず、中心電極と接地電極との間に形成された間隙に電圧を印加して、当該間隙に火花放電を生じさせる。その上で、前記間隙に電力を投入することによってキャビティ部内の気体をプラズマ化させて、キャビティ部の内部にプラズマを発生させる。そして、発生したプラズマがキャビティ部の開口から噴出することで、混合気への着火が行われる。
【0005】
また、一般的なプラズマジェット点火プラグの点火システムは、間隙に電圧を印加し火花放電を生じさせるための火花放電回路部と、間隙に大電力を投入するためのコンデンサ及びこれに充電するための電源を有してなるプラズマ放電回路部とを備えている(例えば、特許文献1等参照)。加えて、プラズマジェット点火プラグと火花放電回路部との間、及び、プラズマジェット点火プラグとプラズマ放電回路部との間にはそれぞれダイオードが設けられ、火花放電回路部及びプラズマ放電回路部の一方から他方に対する電流の流入が防止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−287655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術では、火花放電回路部及びプラズマ放電回路部を設ける(すなわち、2つの回路部を設ける)とともに、電流の流入防止のためのダイオードとして、高耐圧のものを用いる必要がある。そのため、製品の大型化を招いてしまうとともに、生産コストが非常に増大してしまうおそれがある。
【0008】
そこで、生産コストの低減等を図るべく、火花放電回路部のみを設け、当該火花放電回路部からプラズマジェット点火プラグに対して電流を投入することが考えられる。ところが、上記従来技術では、プラズマ放電回路部からプラズマジェット点火プラグに対してピーク値が数十Aの電流が数十μs流れ、これと同程度の時間に亘ってプラズマが噴出するところ、火花放電回路部のみから電流を投入する場合には、数十A以上の電流(容量電流)が流れ込むのは数nsで完了してしまうため、電流を複数回投入した場合であっても、火花と燃料ガスとの接触時間を十分に確保することができないおそれがある。その結果、燃料ガスへの着火に支障が生じてしまい、着火性が不十分となってしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、プラズマジェット点火プラグに対して電流を投入する電流投入部を有するとともに、プラズマジェット点火プラグへの電流の投入経路が1つとされた(つまり、プラズマ放電回路部を有しない)点火システムにおいて、生産コストの低減等を図りつつ、優れた着火性を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0011】
構成1.本構成の点火システムは、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、自身の先端面が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向後端側に位置するようにして前記軸孔の先端側に挿設される中心電極と、前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、前記主体金具の先端部に固定され前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に配置される接地電極と、前記軸孔の内周面及び前記中心電極の先端面により形成されるキャビティ部とを備え、前記中心電極及び前記接地電極間に間隙が形成されたプラズマジェット点火プラグと、
前記プラズマジェット点火プラグに接続される1つの点火コイルを備え、前記間隙に対して電流を投入する電流投入部と
を有する点火システムであって、
前記接地電極は、前記キャビティ部と外部とを連通する貫通孔を有するとともに、前記貫通孔の内周面は、前記軸孔の開口よりも外周側に位置しており、
前記プラズマジェット点火プラグに電流が投入される経路は1つであり、前記プラズマジェット点火プラグには、前記点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが投入され、
前記電流投入部は、前記プラズマジェット点火プラグの取付けられた内燃機関における1回の燃焼行程において、前記間隙に対し、複数回の電流を投入することを特徴とする。
【0012】
尚、「前記プラズマジェット点火プラグには、前記点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが投入され、」とあるのは、プラズマジェット点火プラグに対して、点火コイルからの出力電流のみが直接的に投入される場合のみならず、点火コイルからの出力電流がいわば間接的に投入される場合も含む。従って、例えば、点火コイルからの出力電流により充電されたコンデンサから、プラズマジェット点火プラグに対して電流が投入される場合などを含む。
【0013】
上記構成1によれば、点火システムは、電流投入部を有し、プラズマジェット点火プラグに対する電流の投入経路が1つとされるとともに、プラズマジェット点火プラグには、点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが投入されるように構成されている。従って、大電力を投入するためのプラズマ放電回路部や、電流の流入を防止するためのダイオードが不要となる。これにより、製品の小型化を図ることができるとともに、生産コストを大幅に低減させることができる。
【0014】
一方で、電流投入部からの電流投入のみでは、着火性が不十分となってしまうおそれがあるが、上記構成1によれば、貫通孔の内周面が軸孔の開口よりも外周側に位置しており、また、電流投入部は、1回の燃焼行程において間隙に対して複数回の電流を投入するように構成されている。
【0015】
ここで、貫通孔の内周面が軸孔の開口よりも外周側に位置するように構成することで、中心電極及び接地電極間に形成される間隙(電流が投入された際に放電が生じる部分)の一部が、軸線方向先端側に露出することとなる。従って、間隙において生じた放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなり、火炎核をより確実に生成することができる。また、生成された火炎核は、噴出力がさほど大きくなく、軸孔の開口及びその周辺に留まる可能性があるが、火炎核を生成するための電流投入とは別に、間隙に対してさらに電流が投入されることで、生成された火炎核に対して噴出力を与えることができる。その結果、火炎核を燃焼室の中心側へと勢いよく噴出させることができ、優れた着火性を実現することができる。
【0016】
構成2.本構成の点火システムは、上記構成1において、前記軸線と直交する方向に沿った、前記軸孔の開口と前記貫通孔の内周面との間の距離が0.25mm以上0.75mm以下とされ、
前記軸孔の開口における内径が0.5mm以上1.5mm以下とされることを特徴とする。
【0017】
上記構成2によれば、軸線と直交する方向に沿った、軸孔の開口と貫通孔の内周面との間の距離が0.25mm以上とされている。従って、間隙のより広範囲が軸線方向先端側に露出することとなり、放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなる。その結果、火炎核を一層確実に生成することができ、着火性を一層高めることができる。
【0018】
一方で、生成された火炎核は、貫通孔の内周面に規制される形で、外周側への移動が抑制されているが、前記距離を過度に大きなものとしてしまうと、火炎核が軸孔の開口よりも遥かに外周側に位置してしまうことがある。ここで、電流の投入により、軸孔の開口から気体が噴出することで、火炎核に対して噴出力が与えられるところ、火炎核が軸孔の開口よりも遥かに外周側に位置していると、火炎核に対して十分な噴出力を与えることができないおそれがある。
【0019】
この点、上記構成2によれば、軸線と直交する方向に沿った、軸孔の開口と貫通孔の内周面との間の距離が0.75mm以下とされている。従って、火炎核が過度に外周側に位置してしまうといった事態をより確実に防止でき、火炎核に対して噴出力をより確実に与えることができる。その結果、着火性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【0020】
さらに、上記構成2によれば、軸孔の開口における内径が1.5mm以下とされている。従って、噴出力の外周側への拡散を防止することができ、軸線方向に沿ったより大きな噴出力を生じさせることができる。その結果、着火性の更なる向上を図ることができる。
【0021】
尚、大きな噴出力を得るという点では、前記内径を極力小さくすることが望ましいが、前記内径を過度に小さくしてしまうと、軸孔内に少量のカーボン等が侵入しただけで、カーボン等により軸孔が閉塞されてしまい、放電に支障が生じてしまうおそれがある。特に、上記構成1のように、貫通孔の内周面が軸孔の開口よりも外周側に位置する場合には、軸孔内にカーボン等がより侵入しやすいため、軸孔の閉塞がより懸念される。
【0022】
この点、上記構成2によれば、軸孔の開口における内径が0.5mm以上とされている。そのため、カーボン等の侵入による軸孔の閉塞をより確実に防止することができ、放電をより確実に生じさせることができる。
【0023】
構成3.本構成の点火システムは、上記構成1又は2において、前記軸線に沿った、前記絶縁体の先端面から前記貫通孔の内周面先端までの距離が0.3mm以上1.5mm以下とされることを特徴とする。
【0024】
上記構成3によれば、軸線に沿った、絶縁体の先端面から貫通孔の内周面先端までの距離が0.3mm以上とされている。従って、火炎核が噴出する際に、火炎核を拡散させることなく、燃焼室の中心側に向けて直線的に噴出させることができる。その結果、着火性をさらに向上させることができる。
【0025】
また、上記構成3によれば、前記距離が1.5mm以下とされているため、接地電極による消炎作用を低減させることができる。その結果、消炎作用による着火性の低下をより効果的に抑制することができる。
【0026】
尚、噴出力を与えるための電流を間隙に投入する際には、次述する構成4のように、火炎核を生成するための電流投入により生じた放電を遮断した上で電流を投入してもよいし、後述する構成5のように、放電を維持した上で電流を投入してもよい。どちらの場合であっても、火炎核に対して噴出力を与えることができ、優れた着火性を実現することができる。
【0027】
構成4.本構成の点火システムは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記電流投入部は、電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を遮断した上で前記間隙に次の電流を投入することを特徴とする。
【0028】
上記構成4によれば、上記構成1等と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0029】
尚、上記構成4のように、放電を遮断した上で間隙に電流を投入した場合には、電流が急激に変動する容量電流が流れ、キャビティ部において高密度のプラズマが生成される。そして、生成されたプラズマがキャビティ部から噴出することにより、火炎核に対して噴出力が与えられることとなる。
【0030】
構成5.本構成の点火システムは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記電流投入部は、電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を維持した上で前記間隙に次の電流を投入することを特徴とする。
【0031】
上記構成5によれば、上記構成1等と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0032】
尚、上記構成5のように、放電を維持した上で間隙に電流を投入した場合には、電流の投入により放電経路を誘導電流が流れることとなり、誘導電流により押し出される形で、火炎核に対して噴出力が与えられることとなる。
【0033】
構成6.本構成の点火システムは、上記構成1乃至5のいずれかにおいて、前記電流投入部は、前記間隙への電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を維持した上で前記間隙に次の電流を投入することを、1回の燃焼行程において2回以上行うことを特徴とする。
【0034】
燃焼室内における気流の影響により、1回の燃焼行程において1つの火炎核を生成しただけでは、燃料ガスの燃焼が燃焼室内の一部の領域のみで生じ、燃焼室内のその他の領域で燃焼を生じさせることができない(すなわち、未燃領域が生じてしまう)おそれがある。
【0035】
この点、上記構成6によれば、1回の燃焼行程において、優れた噴出力を与えられた火炎核を複数回生成することができる。従って、燃焼室内の極めて広範囲において燃焼を生じさせることができ、着火性を飛躍的に向上させることができる。
【0036】
構成7.本構成の点火システムは、上記構成1乃至6のいずれかにおいて、前記電流投入部は、火炎核を生成するための前記間隙に対する電流投入から500μs以内に、前記火炎核に噴出力を与えるための前記間隙に対する電流投入を行うことを特徴とする。
【0037】
火炎核の生成からある程度の時間が経過した後は、火炎核が成長する(火炎が伝播する)状態となるため、火炎核に対して噴出力を与えても、着火性の面ではほとんど効果がなく、投入電流の分だけエネルギーが無駄に用いられてしまうおそれがある。
【0038】
この点、上記構成7によれば、火炎核を生成するための電流投入から500μs以内に、噴出力を与えるための電流の投入が行われるようになっている。すなわち、電流の投入が、着火性の向上に寄与するときに限って行われるようになっている。従って、エネルギーの無駄をなくすことができるとともに、上述した着火性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】点火システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】点火プラグの構成を示す一部破断正面図である。
【図3】点火プラグに対する電流の投入態様を示すタイミングチャートである。
【図4】点火プラグに対する電流の投入態様を示すタイミングチャートである。
【図5】点火プラグの先端部の構成を示す部分拡大断面図である。
【図6】比較例に相当するサンプル1の構成を示す部分拡大断面図である。
【図7】比較例に相当する電源システム1を用いた場合と、実施例に相当する電源システム2を用いた場合とにおける、サンプル1,2の限界空燃比を示すグラフである。
【図8】距離Bを0.2mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図9】距離Bを0.3mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図10】距離Bを0.5mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図11】距離Bを1.5mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図12】距離Bを2.0mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図13】電流投入回数とL/L向上値との関係を示すグラフである。
【図14】電流投入回数とL/L向上値の増加量との関係を示すグラフである。
【図15】別の実施形態における、点火プラグに対する電流の投入態様を示すタイミングチャートである。
【図16】別の実施形態における電流投入部の概略構成を示すブロック図である。
【図17】別の実施形態における電流投入部の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、プラズマジェット点火プラグ(以下、「点火プラグ」と称す)1と、電流投入部41とを有する点火システム101の概略構成を示すブロック図である。尚、図1では、点火プラグ1を1つのみ示しているが、内燃機関ENには複数の気筒が設けられており、各気筒に対応して点火プラグ1が設けられている。そして、各点火プラグ1ごとに電流投入部41が設けられている。
【0041】
まず、点火システム101の説明に先立って、点火プラグ1の概略構成を説明する。
【0042】
図2は、点火プラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図2では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0043】
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0044】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0045】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる銅や銅合金等からなる内層5A、及び、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金〔例えば、インコネル(商標名)600や601等〕からなる外層5Bを備えている。さらに、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端が絶縁碍子2の先端面よりも軸線CL1方向後端側に配置されている。加えて、中心電極5の先端部には、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、又は、これらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金により形成された電極チップ5Cが設けられている。
【0046】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0047】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0048】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を燃焼装置(例えば、内燃機関や燃料電池改質器等)の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側の外周面には座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を前記燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。
【0049】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部22が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部22に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、絶縁碍子2及び主体金具3双方の段部14,22間には、円環状の板パッキン23が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0050】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材24,25が介在され、リング部材24,25間にはタルク(滑石)26の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン23、リング部材24,25及びタルク26を介して絶縁碍子2を保持している。
【0051】
また、主体金具3の先端部には、絶縁碍子2の先端よりも軸線CL1方向先端側に位置するようにして、円板状をなす接地電極27が接合されている。当該接地電極27は、主体金具3の先端側内周に挿通された上で、自身の外周部分が主体金具3に対して溶接されることで主体金具3に接合されている。尚、本実施形態において、接地電極27は、自身の後端側端面が絶縁碍子2の先端面と接触した状態で、主体金具3に対して接合されている。また、接地電極27は、W、Ir、Pt,Ni、又は、これらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金により構成されている。
【0052】
加えて、接地電極27は、自身の中央に板厚方向に貫通する貫通孔27Hを有しており、貫通孔27Hの内径は、軸線CL1に沿って一定となっている。また、軸孔4の内周面と中心電極5の先端面とにより、軸線CL1方向先端側に向けて開口する円柱状の空間であるキャビティ部28が形成されており、キャビティ部28は、前記貫通孔27Hを介して外部に連通されている。さらに、中心電極5の先端面と接地電極27の内周面との間には、両電極5,27間に電圧が印加された際に放電が生じることとなる間隙29が形成されており、当該間隙29の一部がキャビティ部28内に配置されている。
【0053】
次いで、前記間隙29に電流を投入するための電流投入部41について説明する。
【0054】
図1に示すように、電流投入部41は、ノイズ抑制用の抵抗51を介して点火プラグ1に接続されており、一次コイル42、二次コイル43、及び、コア44を備えてなる1つの点火コイル45と、抵抗46と、点火コイル45及び抵抗46間においてそれぞれ並列に配設された第1充放電部47及び第2充放電部48とを備えている。尚、従前のプラズマジェット点火プラグ用の点火システムは、上述の通り、火花放電回路部から点火プラグに対する電流の投入経路と、プラズマ放電回路部から点火プラグに対して大電力を投入するための電流の投入経路とを有しており、点火プラグ1に対する電流の投入経路が2つ存在しているが、本実施形態では、点火プラグ1に対する電流の投入経路が1つとされている。そして、点火プラグ1には、点火コイル45からの電流のみが投入されるように構成されている。
【0055】
一次コイル42は、前記コア44を中心に巻回されており、その一端が第1、第2充放電部47,48のそれぞれの出力端に接続されるとともに、その他端が二次コイル43の一端に接続された状態で接地されている。また、二次コイル43は、前記コア44を中心に巻回されており、その一端が一次コイル42の他端に接続された状態で接地されるとともに、その他端が抵抗51を介して点火プラグ1の端子電極6に接続されている。
【0056】
加えて、第1、第2充放電部47(48)は、それぞれ第1ダイオード471(481)と、第2ダイオード472(482)と、第3ダイオード473(483)と、イグナイタ474(484)と、コンデンサ475(485)とを備えている。
【0057】
第1ダイオード471(481)及び第2ダイオード472(482)は、両充放電部47,48の一方から他方に対する電流流入を防止するために設けられており、第1ダイオード471(481)は、充放電部47(48)の入力端側に設けられ、第2ダイオード472(482)は、充放電部47(48)の出力端側に設けられている。
【0058】
第3ダイオード473(483)は、その一端がコンデンサ475(485)及び第2ダイオード472(482)間に接続されるとともに、その他端が接地されている。また、イグナイタ474(484)は、所定のトランジスタにより形成されており、その一端が第1ダイオード471(481)及びコンデンサ475(485)間に接続されるとともに、その他端が接地されている。
【0059】
イグナイタ474(484)は、所定のECU(電子制御装置)61から入力される通電信号に応じて動作し、イグナイタ474(484)のオン・オフを切替えることで、コンデンサ475(485)への充電と、コンデンサ475(485)の放電による点火プラグ1に対する電流投入とが切替えられるようになっている。
【0060】
まず、第1充放電部47の動作について説明すると、ECU61からイグナイタ474に対する通電信号をオンからオフに切替え、イグナイタ474をオンからオフとすることで、第3ダイオード473を通してコンデンサ475に電流が流れ、コンデンサ475が充電される。一方で、イグナイタ474に対する通電信号をオフからオンに切替え、イグナイタ474をオフからオンとすることで、コンデンサ475に蓄えられた電荷が放電され、一次コイル42に一次電圧が印加される。一次電圧の印加に伴い、二次コイル43に二次電圧が生じ、二次電圧が点火プラグ1に印加され間隙29が絶縁破壊されることで、間隙29に電流が投入されることとなる。
【0061】
また、第2充放電部48も第1充放電部47と同様に動作をする。詳述すると、ECU61からイグナイタ484に対する通電信号をオンからオフに切替え、イグナイタ484をオンからオフとすることで、第3ダイオード483を通してコンデンサ485に電流が流れ、コンデンサ485が充電される。一方で、イグナイタ484に対する通電信号をオフからオンに切替え、イグナイタ484をオフからオンとすることで、コンデンサ485に蓄えられた電荷が放電され、一次コイル42に一次電圧が印加される。そして、一次電圧の印加に伴い、間隙29に電流が投入されることとなる。
【0062】
尚、間隙29に対する電圧の印加により、間隙29において放電が生じることとなり、放電の際には、間隙29に対して、急激に変動する容量電流に続いて、微小な誘導電流が流れることなる。
【0063】
加えて、本実施形態において、ECU61は、1回の燃焼行程において、電流の投入に伴い間隙29にて発生した放電を維持した上で次の電流を投入すること、及び、間隙29にて発生した放電を遮断した上で次の電流を投入することのいずれか一方を選択し、電流投入部41は、ECU61により制御されることで、ECU61により選択された電流の投入態様で点火プラグ1に対して電流を投入するようになっている。
【0064】
ここで、間隙29にて発生した放電を維持した上で次の電流を投入する際には、図3に示すように、まず、ECU61からイグナイタ474に対する通電信号S1をオフからオンとすることで、コンデンサ475を放電させ、間隙29に対して電流を投入することで、間隙29において放電を生じさせる。そして、その放電が維持されている段階で、通電信号S1をオフとするとともに、ECU61からイグナイタ485に対する通電信号S2をオンとする。これにより、コンデンサ475に対する充電が開始されるとともに、コンデンサ485が放電し、第2充放電部48から間隙29に対して次の電流が投入される。以降においては、第1、第2充放電部47,48のオン・オフを交互に切替えることで、間隙29における放電が維持された上で、間隙29に対して複数回の誘導電流が投入されることとなる。
【0065】
尚、間隙29に対して複数回の誘導電流を投入する場合には、まず、最初の電流投入に伴い火炎核が生成される。そして、その後の誘導電流により、火炎核に対してキャビティ部28から押し出される方向(軸線CL1方向先端側)に向けた力が加えられ、火炎核に対して燃焼室の中心側に向けた噴出力が与えられる。
【0066】
また、間隙29における放電を遮断した上で次の電流を投入する際には、図4に示すように、通電信号S1又は通電信号S2(通電信号S1,S2の双方であってもよい)をオフからオンとすることで、充放電部47,48から間隙29に対して電流を投入し、間隙29において放電を生じさせる。そして、その放電中に、オンとされた通電信号をオフとすることで放電を遮断し、その上で、充放電部47,48から間隙29に対して次の電流を投入する。以降においては、放電の遮断、電流の投入、放電の遮断、電流の投入…が繰り返し行われる。このように放電を遮断した上で次の電流を投入する場合には、間隙29に対して容量電流が繰り返し投入され、間隙29に対して短時間(例えば、数μs)の間に高電流(例えば、数十A)が複数回投入されることとなる。
【0067】
尚、間隙29に対して複数回の容量電流を投入した場合には、まず、最初の電流投入に伴い火炎核が生成される。そして、その後の電流投入によりキャビティ部28において高密度のプラズマが複数回生成され、生成されたプラズマがキャビティ部28から連続的に噴出することにより、生成された火炎核に対して噴出力が与えられることとなる。
【0068】
さらに、本実施形態では、放電を維持した上で次の電流を投入する場合、及び、放電を遮断した上で次の電流を投入する場合の双方において、火炎核を生成するための間隙29に対する電流投入から500μs以内に、火炎核に噴出力を与えるための間隙29に対する電流投入が行われるようになっている。
【0069】
上述のように間隙29に対して複数回の電流投入を行う点火システム101において、上述の作用効果(火炎核を生成し、火炎核に対して噴出力を加えること)をより確実に発揮させるため、本実施形態における点火プラグ1は、次のような構造的特徴を有している。
【0070】
すなわち、図5に示すように、接地電極27に形成された貫通孔27Hの内周面が、軸孔4の開口よりも外周側に配置されている。これにより、軸孔4の開口を軸線CL1に沿って軸線CL1方向先端側に延ばしてなる仮想面VS1と、貫通孔27Hの内周面先端を軸線CL1と直交する方向に沿って軸線CL1側に延ばしてなる仮想面VS2と、貫通孔27Hの内周面と、絶縁碍子2の先端面とにより、リング状の空間である火炎核生成部31が形成されている。火炎核生成部31は、外部に露出する空間であり、当該火炎核生成部31には、燃料ガスが比較的容易に流入するようになっている。また、火炎核生成部31には、中心電極5及び接地電極27間に形成される間隙29(図5中、太線で示した部位)の一部が位置している。そのため、間隙29において生じた放電に対して燃料ガスが接触しやすくなっており、ひいては軸孔4の開口及びその周辺において火炎核をより確実に生成できるようになっている。
【0071】
さらに、本実施形態では、火炎核の一層確実な生成を実現するために、軸線CL1と直交する方向に沿った、軸孔4の開口と貫通孔27Hの内周面との間の距離Aが0.25mm以上とされている。一方で、火炎核に対してより確実に噴出力を与えるべく、前記距離Aが0.75mm以下とされている。
【0072】
また、噴出力の径方向外側への拡散を防止し、軸線CL1方向に沿ってより大きな噴出力を得るために、軸孔4の開口における内径Dが1.5mm以下とされている。一方で、軸孔4内にカーボン等が侵入し、軸孔4が完全に閉塞されてしまうと、間隙29の絶縁抵抗値が過度に増大してしまい、火炎核の生成に支障が生じてしまうおそれがある。そこで、カーボン等による軸孔4の閉塞を防止するために、内径Dが0.5mm以上とされている。
【0073】
さらに、火炎核を拡散させることなく、直線的に噴出させるために、軸線CL1に沿った、絶縁碍子2の先端面から貫通孔27Hの内周面先端までの距離Bが0.3mm以上とされている。一方で、接地電極27の消炎作用(接地電極27により火炎核の熱が引かれてしまう現象)による着火性の低下を防止すべく、距離Bは1.5mm以下とされている。
【0074】
以上詳述したように、本実施形態によれば、電流投入部41が設けられるとともに、点火プラグ1に対する電流の投入経路が1つとされ、点火プラグ1には、点火コイル45からの電流のみが投入されるように構成されている。従って、大電力を投入するためのプラズマ放電回路部や、電流の流入を防止するためのダイオードが不要となる。従って、点火システム101の小型化を図ることができるとともに、生産コストを大幅に低減させることができる。
【0075】
また、貫通孔27Hの内周面が軸孔4の開口よりも外周側に位置するように構成されているため、間隙29の一部が、軸線CL1方向先端側に露出することとなる。従って、間隙29において生じた放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなり、火炎核をより確実に生成することができる。また、火炎核を生成するための電流投入とは別に、間隙29に対してさらに電流が投入されることで、生成された火炎核に対して噴出力を与えることができる。その結果、火炎核を燃焼室の中心側へと勢いよく噴出させることができ、優れた着火性を実現することができる。
【0076】
さらに、距離Aが0.25mm以上とされているため、間隙29のより広範囲が軸線CL1方向先端側に露出することとなり、放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなる。その結果、火炎核を一層確実に生成することができ、着火性を一層高めることができる。
【0077】
加えて、本実施形態では、距離Aが0.75mm以下とされているため、火炎核が過度に外周側に位置してしまうといった事態をより確実に防止することができる。そのため、火炎核に対して噴出力をより確実に与えることができ、着火性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【0078】
併せて、軸孔4の開口における内径Dが1.5mm以下とされているため、軸線CL1方向に沿ったより大きな噴出力を生じさせることができ、着火性の更なる向上を図ることができる。一方で、内径Dが0.5mm以上とされているため、カーボン等の侵入による軸孔4の閉塞をより確実に防止することができ、放電をより確実に生じさせることができる。
【0079】
また、本実施形態では、距離Bが0.3mm以上とされているため、火炎核が噴出する際に、火炎核を拡散させることなく、燃焼室の中心側に向けて直線的に噴出させることができる。その結果、着火性をさらに向上させることができる。一方で、距離Bが1.5mm以下とされているため、接地電極27による消炎作用を低減させることができ、着火性の低下をより効果的に抑制することができる。
【0080】
さらに、本実施形態では、火炎核を生成するための電流投入から500μs以内に、噴出力を与えるための電流の投入が行われるようになっている。すなわち、電流の投入が、着火性の向上に寄与するときに限って行われるようになっている。従って、エネルギーの無駄をなくすことができるとともに、上述した着火性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【0081】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、図6に示すように、距離Aを0mmとすることで、火炎核生成部を設けなかった点火プラグのサンプル1(比較例に相当する)と、距離Aを0.5mmとし、火炎核生成部を設けた点火プラグのサンプル2(実施例に相当する)とを作製し、1つの電源により間隙にて放電を生じさせた上で、もう1つの電源により間隙に大電力を投入する電源システム1(比較例に相当する)、又は、間隙に複数回の電流を投入する電流投入部を有してなる電源システム2(実施例に相当する)を用いて、各サンプルに対して着火性評価試験を行った。着火性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、各サンプルを排気量2.0L、4気筒エンジンに取付けた上で、点火タイミングをMBT(最適点火位置)として回転数1500rpmでエンジンを動作させた。そして、空燃比を徐々に増大(燃料を薄く)させつつ、各空燃比ごとにエンジントルクの変動率を測定し、エンジントルクの変動率が5%を上回ったときの空燃比を限界空燃比として得定した。尚、当該試験においては、まず、サンプル1について、電源システム1及び電源システム2の双方において、限界空燃比が20となるエンジンの動作条件等をそれぞれ特定した。次いで、サンプル2について、電源システム1を用いた際の前記特定された条件と同様の条件で、電源システム1を用いてエンジンを動作させ、限界空燃比を測定した。さらに、サンプル2について、電源システム2を用いた際の前記特定された条件と同様の条件で、電源システム2を用いてエンジンを動作させ、限界空燃比を測定した。尚、限界空燃比が大きいほど、着火性に優れることを意味する。図7に、当該試験の試験結果を示す。尚、図7においては、サンプル1の試験結果を黒色で示し、サンプル2の試験結果を白色で示す。
【0082】
また、各サンプルともに、距離Bを0.5mmとし、内径Dを1.0mmとした。さらに、電源システム2を用いる場合には、1回の燃焼行程において、最初の電流投入に伴い発生した放電を遮断した上で、前記最初の電流投入から100μs後に次の電流を投入した(1回の燃焼行程において、間隙に対して電流を計2回投入した)。
【0083】
図7に示すように、間隙に放電を生じさせた上で大電力を投入する電源システム1を用いた場合、サンプル2はサンプル1よりも着火性に劣ることが分かった。これは、電源システム1を用いた場合には、電力の投入に伴いキャビティ部にてプラズマが生じ、生じたプラズマがキャビティ部の開口から噴出することで着火がなされるところ、火炎核生成部を設けたサンプル2においては、噴出時にプラズマが拡散しやすくなり、プラズマの噴出長がさほど大きくならなかったためであると考えられる。
【0084】
これに対して、電流を複数回投入する電源システム2を用いた場合、サンプル2はサンプル1よりも着火性に優れることが明らかとなった。これは、電源システム2を用いた場合には、最初の電流投入に伴い生成された火炎核に対して、以降の電流投入により噴出力を与えることで着火がなされるところ、火炎核生成部を設けたサンプル2においては、放電に対して燃料ガスが接触しやすくなり、ひいては火炎核がより確実に生成されたことに起因すると考えられる。
【0085】
上記試験の結果より、間隙に対して電流を複数回投入する電流投入部を有する電源システムを用いる場合には、火炎核生成部を有する(つまり、貫通孔の内周面が軸孔の開口よりも外周側に位置する)点火プラグを用いることで、優れた着火性を実現することができるといえる。
【0086】
次いで、距離Bを0.2mm、0.3mm、0.5mm、1.5mm、又は、2.0mmとした上で、距離A、及び、内径Dを種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、上記電源システム2を用いて、上記と同様の電流の投入態様(最初の電流投入から100μs後に次の電流を投入すること)にて各サンプルに対して上述の着火性評価試験を行った。尚、当該試験においては、距離B、及び、内径Dが同一であり、距離Aを0.0mmとしたサンプルの限界空燃比を基準として、距離Aを種々変更した際の前記基準に対する限界空燃比の向上値(L/L向上値)を算出した。例えば、距離Bを0.2mmとし、内径Dを0.5mmとしたサンプルについては、距離Bを0.2mm、内径Dを0.5mm、距離Aを0.0mmとしたサンプルの限界空燃比を基準とし、距離B及び内径Dを同一とした上で、距離Aを変更した際のL/L向上値を算出した。図8に、距離Bを0.2mmとしたサンプルの試験結果を示し、図9に距離Bを0.3mmとしたサンプルの試験結果を示し、図10に距離Bを0.5mmとしたサンプルの試験結果を示し、図11に距離Bを1.5mmとしたサンプルの試験結果を示し、図12に距離Bを2.0mmとしたサンプルの試験結果を示す。尚、図8〜12においては、内径Dを0.5mmとしたサンプルの試験結果を丸印で示し、内径Dを1.0mmとしたサンプルの試験結果を三角印で示し、内径Dを1.5mmとしたサンプルの試験結果を四角印で示し、内径Dを2.0mmとしたサンプルの試験結果をバツ印で示す。また、当該試験においては、L/L向上値が0.3以上となったときに、着火性の向上効果が顕著に表れるものと判定した。
【0087】
図8〜12に示すように、距離Aを0.25mm以上0.75mm以下とするとともに、内径Dを1.5mm以下としたサンプルは、L/L向上値が0.3以上となり、着火性を効果的に向上できることが分かった。これは、次の(1)〜(3)が相乗的に作用したことによると考えられる。
(1)距離Aを0.25mm以上としたことで、放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなり、火炎核が一層確実に生成されたこと。
(2)距離Aを0.75mm以下としたことで、火炎核が軸孔の開口よりも過度に外周側に位置するという事態が防止され、火炎核に対して噴出力がより確実に与えられたこと。
(3)内径Dを1.5mm以下としたことで、噴出力の外周側への拡散が防止され、軸線方向に沿ってより大きな噴出力が得られたこと。
【0088】
また、距離Aを0.25mm以上0.75mm以下とし、内径Dを1.5mm以下としたサンプルのうち、距離Bを0.3mm以上1.5mm以下としたものは、L/L向上値が0.5以上となり、極めて優れた着火性を有することが分かった。これは、距離Bを0.3mm以上としたことで、火炎核が、燃焼室の中心側に向けて直線的に噴出しやすくなり、また、距離Bを1.5mm以下としたことで、接地電極による消炎作用が低減されたことに起因すると考えられる。
【0089】
上記試験の結果より、着火性の更なる向上を図るべく、距離Aを0.25mm以上0.75mm以下とするとともに、内径Dを1.5mm以下とすることがより好ましいといえる。
【0090】
また、着火性をより一層向上させるという点では、距離Bを0.3mm以上1.5mm以下とすることがより一層好ましいといえる。
【0091】
尚、噴出力を増大させるという点では、内径Dを小さくすることが好ましいが、内径Dを過度に小さくしてしまうと、軸孔内に少量のカーボン等が侵入しただけで、軸孔が閉塞されてしまい、通電に支障が生じてしまうおそれがある。特に、火炎核生成部を設ける場合においては、軸孔内にカーボン等がより侵入しやすいため、軸孔の閉塞がより懸念される。従って、火炎核生成部を設ける場合であっても、カーボン等による軸孔の閉塞をより確実に防止するという点から、内径Dを0.5mm以上とすることが好ましいといえる。
【0092】
次いで、間隙に対して複数回の電流を投入可能な電流投入部を有する電源システムを用いて、電流の投入に伴い発生した放電を遮断した上で間隙に次の電流を投入する場合(間欠放電)と、電流の投入に伴い発生した放電を維持した上で間隙に次の電流を投入する場合(連続放電)との双方において、上述の着火性評価試験を行い、電流の投入回数を1回とした場合の限界空燃比を基準として、L/L向上値を算出した。尚、当該試験においては、電流の投入回数を1回から7回とし、複数回の電流を投入する場合において電流の投入間隔を100μsとした。また、当該試験では、距離Aを0.5mmとし、距離Bを0.5mmとし、内径Dを1.0mmとした点火プラグを用いた。図13に、電流の投入回数とL/L向上値との関係を表すグラフを示す。また、図14に、電流の投入回数をn−1回(nは自然数を示す)としたときのL/L向上値に対する、電流の投入回数をn回としたときのL/L向上値の増加量を示す(例えば、図14において、電流の投入回数が3回のときのL/L向上値の増加量は、電流の投入回数を2回としたときのL/L向上値に対する、電流の投入回数を3回としたときのL/L向上値の増加量を示す)。加えて、図13においては、間欠放電を行った場合の試験結果を丸印で示し、連続放電を行った場合の試験結果を三角印で示す。また、図14においては、間欠放電を行った場合の試験結果を黒色で示し、連続放電を行った場合の試験結果を白色で示す。
【0093】
図13に示すように、間欠放電を行った場合、及び、連続放電を行った場合の双方において、電流を複数回投入することにより着火性を向上できることが確認された。
【0094】
一方で、図14に示すように、7回目の電流投入(すなわち、最初の電流投入から600μs後の電流投入)では、L/L向上値の増加量が0となり、この電流投入は着火性の向上に寄与しておらず、エネルギーが無駄に用いられていることが明らかとなった。これは、時間経過に伴い、火炎核が成長する(火炎が伝播する)状態となったため、火炎核に対して噴出力を与えてもほとんど効果がないことによると考えられる。
【0095】
これに対して、6回目の電流投入まで(すなわち、最初の電流投入から500μs後までの電流投入)は、L/L向上値が増加しており、電流投入が着火性の向上に寄与することが明らかとなった。
【0096】
上記試験の結果より、電流の投入による着火性の向上効果をより確実に発揮させるためには、最初の電流投入(すなわち、火炎核を生成するための電流投入)から500μs以内に、間隙に対して電流を投入することが好ましいといえる。
【0097】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0098】
(a)上記実施形態において、電流投入部41は、間隙29における放電を維持した上で間隙29に次の電流を投入することを、1回の燃焼行程において1回行うことが可能となっているが、図15に示すように、間隙29における放電を維持した上で間隙29に次の電流を投入することを、1回の燃焼行程において2回以上行うこととしてもよい。この場合には、1回の燃焼行程において、優れた噴出力を与えられた火炎核を複数回生成することができ、例えば、1つの火炎核だけでは燃焼が生じなかった領域を、その他の火炎核により燃焼させることができる。その結果、燃焼を極めて広範囲において生じさせることができ、着火性を飛躍的に向上させることができる。
【0099】
(b)上記実施形態において、点火プラグ1には、点火コイル45からの電流のみが直接的に投入されるように構成されている。これに対して、点火コイルからの出力電流の少なくとも一部が、いわば間接的に点火プラグ1に対して投入されるように構成してもよい(この場合であっても、結局のところ、点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが点火プラグ1に投入される)。従って、例えば、図16に示すように、電流投入部71を、1つの点火コイル74を有し、点火プラグ1に電圧を印加するための電圧印加部72(例えば、フルトランジスタ式の点火装置)と、点火プラグ1及び電圧印加部72間において点火プラグ1と並列に接続されたコンデンサ73とにより構成することとしてもよい。このような電流投入部71は、次のようにして動作し、点火プラグ1(間隙29)に対して複数回の電流を投入することができる。
【0100】
すなわち、ECU61から電圧印加部72に対する通電信号をオンからオフとすることで、点火コイル74から点火プラグ1側に電流を出力する(尚、電流は、一定時間の間、継続して出力される)。これにより、点火プラグ1及びコンデンサ73に電荷が充電されていき、間隙29の電位差が増大していく。そして、間隙29の電位差が、間隙29の絶縁破壊電圧を上回ると、点火プラグ1に充電された電荷とコンデンサ73に充電された電荷とが間隙29に流れ込み、間隙29で放電が生じる。放電後、点火コイル74からの電流により点火プラグ1及びコンデンサ73が再度充電され、間隙29の電位差が、間隙29の絶縁破壊電圧を再度上回った段階で点火プラグ1及びコンデンサ73に蓄えられた電荷により、間隙29にて放電が生じる。以降においては、点火プラグ1及びコンデンサ73に対する充電と、点火プラグ1及びコンデンサ73に蓄えられた電荷による放電とが、点火コイル74から電流が出力されている間、繰り返し行われ、その結果、点火プラグ1(間隙29)に対して電流が複数回投入される。
【0101】
(c)上記実施形態において、電流投入部41は、並列に接続された第1充放電部47及び第2充放電部48を備えているが、図17に示すように、電流投入部81が、1つの充放電部47のみを有するように構成してもよい。また、電流投入部が、3つ以上の充放電部を並列に有するように構成してもよい。尚、充放電部47を1つのみ設ける場合には、充放電部間における電流の流入を防止するための第1ダイオード471及び第2ダイオード472を設けなくてよい。
【0102】
(d)上記実施形態では、貫通孔27Hの内径が軸線CL1に沿って一定となっているが、貫通孔27Hの内径が軸線CL1に沿って若干変化する(例えば、軸線CL1方向先端側に向けて内径が徐々に縮径又は拡径する)こととしてもよい。この場合、距離Aとあるのは、軸線CL1と直交する方向に沿った軸孔4の開口と貫通孔27Hの内周面との間の平均距離をいう。
【0103】
(e)上記実施形態では、接地電極27の後端側端面が絶縁碍子2の先端面に接触しているが、接地電極27の後端側端面を絶縁碍子2の先端面から離間させることとしてもよい。尚、この場合には、接地電極27及び絶縁碍子2間に対する火炎核の入り込みを防止するために、軸線CL1に沿った、絶縁碍子2の先端面から貫通孔27Hの内周面後端までの距離を0.5mm以下とすることが好ましい。
【0104】
(f)上記実施形態では、各点火プラグ1ごとに電流投入部41が設けられているが、各点火プラグ1ごとに電流投入部41を設けることなく、電流投入部41からの電流をディストリビュータを介して各点火プラグ1に投入してもよい。
【0105】
(g)上記実施形態では、点火プラグ1の外部に抵抗51が設けられているが、点火プラグ1の内部に抵抗51に相当する抵抗を設けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1…点火プラグ(プラズマジェット点火プラグ)、2…絶縁碍子(絶縁体)、3…主体金具、4…軸孔、5…中心電極、27…接地電極、27H…貫通孔、28…キャビティ部、29…間隙、41…電流投入部、45…点火コイル、101…点火システム、CL1…軸線、EN…内燃機関。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマジェット点火プラグを有してなる点火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関等の燃焼装置においては、火花放電により混合気へと着火する点火プラグが使用されている。また近年では、燃焼装置の高出力化や低燃費化の要求に応えるべく、燃焼の広がりが速く、着火限界空燃比のより高い希薄混合気に対してもより確実に着火可能な点火プラグとして、プラズマジェット点火プラグが提案されている。
【0003】
一般にプラズマジェット点火プラグは、軸孔を有する筒状の絶縁体と、先端面が絶縁体の先端面よりも没入した状態で軸孔内に挿設される中心電極と、絶縁体の外周に配置される主体金具と、主体金具の先端部に接合される円環状の接地電極とを備える。また、プラズマジェット点火プラグは、自身の先端部に、中心電極の先端面及び軸孔の内周面によって形成された空間(キャビティ部)を有しており、当該キャビティ部は接地電極に形成された貫通孔を介して外部に連通されるようになっている。
【0004】
このようなプラズマジェット点火プラグにおいては、一般に次のようにして混合気への着火が行われる。まず、中心電極と接地電極との間に形成された間隙に電圧を印加して、当該間隙に火花放電を生じさせる。その上で、前記間隙に電力を投入することによってキャビティ部内の気体をプラズマ化させて、キャビティ部の内部にプラズマを発生させる。そして、発生したプラズマがキャビティ部の開口から噴出することで、混合気への着火が行われる。
【0005】
また、一般的なプラズマジェット点火プラグの点火システムは、間隙に電圧を印加し火花放電を生じさせるための火花放電回路部と、間隙に大電力を投入するためのコンデンサ及びこれに充電するための電源を有してなるプラズマ放電回路部とを備えている(例えば、特許文献1等参照)。加えて、プラズマジェット点火プラグと火花放電回路部との間、及び、プラズマジェット点火プラグとプラズマ放電回路部との間にはそれぞれダイオードが設けられ、火花放電回路部及びプラズマ放電回路部の一方から他方に対する電流の流入が防止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−287655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術では、火花放電回路部及びプラズマ放電回路部を設ける(すなわち、2つの回路部を設ける)とともに、電流の流入防止のためのダイオードとして、高耐圧のものを用いる必要がある。そのため、製品の大型化を招いてしまうとともに、生産コストが非常に増大してしまうおそれがある。
【0008】
そこで、生産コストの低減等を図るべく、火花放電回路部のみを設け、当該火花放電回路部からプラズマジェット点火プラグに対して電流を投入することが考えられる。ところが、上記従来技術では、プラズマ放電回路部からプラズマジェット点火プラグに対してピーク値が数十Aの電流が数十μs流れ、これと同程度の時間に亘ってプラズマが噴出するところ、火花放電回路部のみから電流を投入する場合には、数十A以上の電流(容量電流)が流れ込むのは数nsで完了してしまうため、電流を複数回投入した場合であっても、火花と燃料ガスとの接触時間を十分に確保することができないおそれがある。その結果、燃料ガスへの着火に支障が生じてしまい、着火性が不十分となってしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、プラズマジェット点火プラグに対して電流を投入する電流投入部を有するとともに、プラズマジェット点火プラグへの電流の投入経路が1つとされた(つまり、プラズマ放電回路部を有しない)点火システムにおいて、生産コストの低減等を図りつつ、優れた着火性を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0011】
構成1.本構成の点火システムは、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、自身の先端面が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向後端側に位置するようにして前記軸孔の先端側に挿設される中心電極と、前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、前記主体金具の先端部に固定され前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に配置される接地電極と、前記軸孔の内周面及び前記中心電極の先端面により形成されるキャビティ部とを備え、前記中心電極及び前記接地電極間に間隙が形成されたプラズマジェット点火プラグと、
前記プラズマジェット点火プラグに接続される1つの点火コイルを備え、前記間隙に対して電流を投入する電流投入部と
を有する点火システムであって、
前記接地電極は、前記キャビティ部と外部とを連通する貫通孔を有するとともに、前記貫通孔の内周面は、前記軸孔の開口よりも外周側に位置しており、
前記プラズマジェット点火プラグに電流が投入される経路は1つであり、前記プラズマジェット点火プラグには、前記点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが投入され、
前記電流投入部は、前記プラズマジェット点火プラグの取付けられた内燃機関における1回の燃焼行程において、前記間隙に対し、複数回の電流を投入することを特徴とする。
【0012】
尚、「前記プラズマジェット点火プラグには、前記点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが投入され、」とあるのは、プラズマジェット点火プラグに対して、点火コイルからの出力電流のみが直接的に投入される場合のみならず、点火コイルからの出力電流がいわば間接的に投入される場合も含む。従って、例えば、点火コイルからの出力電流により充電されたコンデンサから、プラズマジェット点火プラグに対して電流が投入される場合などを含む。
【0013】
上記構成1によれば、点火システムは、電流投入部を有し、プラズマジェット点火プラグに対する電流の投入経路が1つとされるとともに、プラズマジェット点火プラグには、点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが投入されるように構成されている。従って、大電力を投入するためのプラズマ放電回路部や、電流の流入を防止するためのダイオードが不要となる。これにより、製品の小型化を図ることができるとともに、生産コストを大幅に低減させることができる。
【0014】
一方で、電流投入部からの電流投入のみでは、着火性が不十分となってしまうおそれがあるが、上記構成1によれば、貫通孔の内周面が軸孔の開口よりも外周側に位置しており、また、電流投入部は、1回の燃焼行程において間隙に対して複数回の電流を投入するように構成されている。
【0015】
ここで、貫通孔の内周面が軸孔の開口よりも外周側に位置するように構成することで、中心電極及び接地電極間に形成される間隙(電流が投入された際に放電が生じる部分)の一部が、軸線方向先端側に露出することとなる。従って、間隙において生じた放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなり、火炎核をより確実に生成することができる。また、生成された火炎核は、噴出力がさほど大きくなく、軸孔の開口及びその周辺に留まる可能性があるが、火炎核を生成するための電流投入とは別に、間隙に対してさらに電流が投入されることで、生成された火炎核に対して噴出力を与えることができる。その結果、火炎核を燃焼室の中心側へと勢いよく噴出させることができ、優れた着火性を実現することができる。
【0016】
構成2.本構成の点火システムは、上記構成1において、前記軸線と直交する方向に沿った、前記軸孔の開口と前記貫通孔の内周面との間の距離が0.25mm以上0.75mm以下とされ、
前記軸孔の開口における内径が0.5mm以上1.5mm以下とされることを特徴とする。
【0017】
上記構成2によれば、軸線と直交する方向に沿った、軸孔の開口と貫通孔の内周面との間の距離が0.25mm以上とされている。従って、間隙のより広範囲が軸線方向先端側に露出することとなり、放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなる。その結果、火炎核を一層確実に生成することができ、着火性を一層高めることができる。
【0018】
一方で、生成された火炎核は、貫通孔の内周面に規制される形で、外周側への移動が抑制されているが、前記距離を過度に大きなものとしてしまうと、火炎核が軸孔の開口よりも遥かに外周側に位置してしまうことがある。ここで、電流の投入により、軸孔の開口から気体が噴出することで、火炎核に対して噴出力が与えられるところ、火炎核が軸孔の開口よりも遥かに外周側に位置していると、火炎核に対して十分な噴出力を与えることができないおそれがある。
【0019】
この点、上記構成2によれば、軸線と直交する方向に沿った、軸孔の開口と貫通孔の内周面との間の距離が0.75mm以下とされている。従って、火炎核が過度に外周側に位置してしまうといった事態をより確実に防止でき、火炎核に対して噴出力をより確実に与えることができる。その結果、着火性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【0020】
さらに、上記構成2によれば、軸孔の開口における内径が1.5mm以下とされている。従って、噴出力の外周側への拡散を防止することができ、軸線方向に沿ったより大きな噴出力を生じさせることができる。その結果、着火性の更なる向上を図ることができる。
【0021】
尚、大きな噴出力を得るという点では、前記内径を極力小さくすることが望ましいが、前記内径を過度に小さくしてしまうと、軸孔内に少量のカーボン等が侵入しただけで、カーボン等により軸孔が閉塞されてしまい、放電に支障が生じてしまうおそれがある。特に、上記構成1のように、貫通孔の内周面が軸孔の開口よりも外周側に位置する場合には、軸孔内にカーボン等がより侵入しやすいため、軸孔の閉塞がより懸念される。
【0022】
この点、上記構成2によれば、軸孔の開口における内径が0.5mm以上とされている。そのため、カーボン等の侵入による軸孔の閉塞をより確実に防止することができ、放電をより確実に生じさせることができる。
【0023】
構成3.本構成の点火システムは、上記構成1又は2において、前記軸線に沿った、前記絶縁体の先端面から前記貫通孔の内周面先端までの距離が0.3mm以上1.5mm以下とされることを特徴とする。
【0024】
上記構成3によれば、軸線に沿った、絶縁体の先端面から貫通孔の内周面先端までの距離が0.3mm以上とされている。従って、火炎核が噴出する際に、火炎核を拡散させることなく、燃焼室の中心側に向けて直線的に噴出させることができる。その結果、着火性をさらに向上させることができる。
【0025】
また、上記構成3によれば、前記距離が1.5mm以下とされているため、接地電極による消炎作用を低減させることができる。その結果、消炎作用による着火性の低下をより効果的に抑制することができる。
【0026】
尚、噴出力を与えるための電流を間隙に投入する際には、次述する構成4のように、火炎核を生成するための電流投入により生じた放電を遮断した上で電流を投入してもよいし、後述する構成5のように、放電を維持した上で電流を投入してもよい。どちらの場合であっても、火炎核に対して噴出力を与えることができ、優れた着火性を実現することができる。
【0027】
構成4.本構成の点火システムは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記電流投入部は、電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を遮断した上で前記間隙に次の電流を投入することを特徴とする。
【0028】
上記構成4によれば、上記構成1等と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0029】
尚、上記構成4のように、放電を遮断した上で間隙に電流を投入した場合には、電流が急激に変動する容量電流が流れ、キャビティ部において高密度のプラズマが生成される。そして、生成されたプラズマがキャビティ部から噴出することにより、火炎核に対して噴出力が与えられることとなる。
【0030】
構成5.本構成の点火システムは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記電流投入部は、電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を維持した上で前記間隙に次の電流を投入することを特徴とする。
【0031】
上記構成5によれば、上記構成1等と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0032】
尚、上記構成5のように、放電を維持した上で間隙に電流を投入した場合には、電流の投入により放電経路を誘導電流が流れることとなり、誘導電流により押し出される形で、火炎核に対して噴出力が与えられることとなる。
【0033】
構成6.本構成の点火システムは、上記構成1乃至5のいずれかにおいて、前記電流投入部は、前記間隙への電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を維持した上で前記間隙に次の電流を投入することを、1回の燃焼行程において2回以上行うことを特徴とする。
【0034】
燃焼室内における気流の影響により、1回の燃焼行程において1つの火炎核を生成しただけでは、燃料ガスの燃焼が燃焼室内の一部の領域のみで生じ、燃焼室内のその他の領域で燃焼を生じさせることができない(すなわち、未燃領域が生じてしまう)おそれがある。
【0035】
この点、上記構成6によれば、1回の燃焼行程において、優れた噴出力を与えられた火炎核を複数回生成することができる。従って、燃焼室内の極めて広範囲において燃焼を生じさせることができ、着火性を飛躍的に向上させることができる。
【0036】
構成7.本構成の点火システムは、上記構成1乃至6のいずれかにおいて、前記電流投入部は、火炎核を生成するための前記間隙に対する電流投入から500μs以内に、前記火炎核に噴出力を与えるための前記間隙に対する電流投入を行うことを特徴とする。
【0037】
火炎核の生成からある程度の時間が経過した後は、火炎核が成長する(火炎が伝播する)状態となるため、火炎核に対して噴出力を与えても、着火性の面ではほとんど効果がなく、投入電流の分だけエネルギーが無駄に用いられてしまうおそれがある。
【0038】
この点、上記構成7によれば、火炎核を生成するための電流投入から500μs以内に、噴出力を与えるための電流の投入が行われるようになっている。すなわち、電流の投入が、着火性の向上に寄与するときに限って行われるようになっている。従って、エネルギーの無駄をなくすことができるとともに、上述した着火性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】点火システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】点火プラグの構成を示す一部破断正面図である。
【図3】点火プラグに対する電流の投入態様を示すタイミングチャートである。
【図4】点火プラグに対する電流の投入態様を示すタイミングチャートである。
【図5】点火プラグの先端部の構成を示す部分拡大断面図である。
【図6】比較例に相当するサンプル1の構成を示す部分拡大断面図である。
【図7】比較例に相当する電源システム1を用いた場合と、実施例に相当する電源システム2を用いた場合とにおける、サンプル1,2の限界空燃比を示すグラフである。
【図8】距離Bを0.2mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図9】距離Bを0.3mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図10】距離Bを0.5mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図11】距離Bを1.5mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図12】距離Bを2.0mmとした上で、距離A及び内径Dを変更した際のL/L向上値を示すグラフである。
【図13】電流投入回数とL/L向上値との関係を示すグラフである。
【図14】電流投入回数とL/L向上値の増加量との関係を示すグラフである。
【図15】別の実施形態における、点火プラグに対する電流の投入態様を示すタイミングチャートである。
【図16】別の実施形態における電流投入部の概略構成を示すブロック図である。
【図17】別の実施形態における電流投入部の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、プラズマジェット点火プラグ(以下、「点火プラグ」と称す)1と、電流投入部41とを有する点火システム101の概略構成を示すブロック図である。尚、図1では、点火プラグ1を1つのみ示しているが、内燃機関ENには複数の気筒が設けられており、各気筒に対応して点火プラグ1が設けられている。そして、各点火プラグ1ごとに電流投入部41が設けられている。
【0041】
まず、点火システム101の説明に先立って、点火プラグ1の概略構成を説明する。
【0042】
図2は、点火プラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図2では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0043】
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0044】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0045】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる銅や銅合金等からなる内層5A、及び、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金〔例えば、インコネル(商標名)600や601等〕からなる外層5Bを備えている。さらに、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端が絶縁碍子2の先端面よりも軸線CL1方向後端側に配置されている。加えて、中心電極5の先端部には、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、又は、これらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金により形成された電極チップ5Cが設けられている。
【0046】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0047】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0048】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を燃焼装置(例えば、内燃機関や燃料電池改質器等)の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側の外周面には座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を前記燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。
【0049】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部22が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部22に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、絶縁碍子2及び主体金具3双方の段部14,22間には、円環状の板パッキン23が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0050】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材24,25が介在され、リング部材24,25間にはタルク(滑石)26の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン23、リング部材24,25及びタルク26を介して絶縁碍子2を保持している。
【0051】
また、主体金具3の先端部には、絶縁碍子2の先端よりも軸線CL1方向先端側に位置するようにして、円板状をなす接地電極27が接合されている。当該接地電極27は、主体金具3の先端側内周に挿通された上で、自身の外周部分が主体金具3に対して溶接されることで主体金具3に接合されている。尚、本実施形態において、接地電極27は、自身の後端側端面が絶縁碍子2の先端面と接触した状態で、主体金具3に対して接合されている。また、接地電極27は、W、Ir、Pt,Ni、又は、これらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金により構成されている。
【0052】
加えて、接地電極27は、自身の中央に板厚方向に貫通する貫通孔27Hを有しており、貫通孔27Hの内径は、軸線CL1に沿って一定となっている。また、軸孔4の内周面と中心電極5の先端面とにより、軸線CL1方向先端側に向けて開口する円柱状の空間であるキャビティ部28が形成されており、キャビティ部28は、前記貫通孔27Hを介して外部に連通されている。さらに、中心電極5の先端面と接地電極27の内周面との間には、両電極5,27間に電圧が印加された際に放電が生じることとなる間隙29が形成されており、当該間隙29の一部がキャビティ部28内に配置されている。
【0053】
次いで、前記間隙29に電流を投入するための電流投入部41について説明する。
【0054】
図1に示すように、電流投入部41は、ノイズ抑制用の抵抗51を介して点火プラグ1に接続されており、一次コイル42、二次コイル43、及び、コア44を備えてなる1つの点火コイル45と、抵抗46と、点火コイル45及び抵抗46間においてそれぞれ並列に配設された第1充放電部47及び第2充放電部48とを備えている。尚、従前のプラズマジェット点火プラグ用の点火システムは、上述の通り、火花放電回路部から点火プラグに対する電流の投入経路と、プラズマ放電回路部から点火プラグに対して大電力を投入するための電流の投入経路とを有しており、点火プラグ1に対する電流の投入経路が2つ存在しているが、本実施形態では、点火プラグ1に対する電流の投入経路が1つとされている。そして、点火プラグ1には、点火コイル45からの電流のみが投入されるように構成されている。
【0055】
一次コイル42は、前記コア44を中心に巻回されており、その一端が第1、第2充放電部47,48のそれぞれの出力端に接続されるとともに、その他端が二次コイル43の一端に接続された状態で接地されている。また、二次コイル43は、前記コア44を中心に巻回されており、その一端が一次コイル42の他端に接続された状態で接地されるとともに、その他端が抵抗51を介して点火プラグ1の端子電極6に接続されている。
【0056】
加えて、第1、第2充放電部47(48)は、それぞれ第1ダイオード471(481)と、第2ダイオード472(482)と、第3ダイオード473(483)と、イグナイタ474(484)と、コンデンサ475(485)とを備えている。
【0057】
第1ダイオード471(481)及び第2ダイオード472(482)は、両充放電部47,48の一方から他方に対する電流流入を防止するために設けられており、第1ダイオード471(481)は、充放電部47(48)の入力端側に設けられ、第2ダイオード472(482)は、充放電部47(48)の出力端側に設けられている。
【0058】
第3ダイオード473(483)は、その一端がコンデンサ475(485)及び第2ダイオード472(482)間に接続されるとともに、その他端が接地されている。また、イグナイタ474(484)は、所定のトランジスタにより形成されており、その一端が第1ダイオード471(481)及びコンデンサ475(485)間に接続されるとともに、その他端が接地されている。
【0059】
イグナイタ474(484)は、所定のECU(電子制御装置)61から入力される通電信号に応じて動作し、イグナイタ474(484)のオン・オフを切替えることで、コンデンサ475(485)への充電と、コンデンサ475(485)の放電による点火プラグ1に対する電流投入とが切替えられるようになっている。
【0060】
まず、第1充放電部47の動作について説明すると、ECU61からイグナイタ474に対する通電信号をオンからオフに切替え、イグナイタ474をオンからオフとすることで、第3ダイオード473を通してコンデンサ475に電流が流れ、コンデンサ475が充電される。一方で、イグナイタ474に対する通電信号をオフからオンに切替え、イグナイタ474をオフからオンとすることで、コンデンサ475に蓄えられた電荷が放電され、一次コイル42に一次電圧が印加される。一次電圧の印加に伴い、二次コイル43に二次電圧が生じ、二次電圧が点火プラグ1に印加され間隙29が絶縁破壊されることで、間隙29に電流が投入されることとなる。
【0061】
また、第2充放電部48も第1充放電部47と同様に動作をする。詳述すると、ECU61からイグナイタ484に対する通電信号をオンからオフに切替え、イグナイタ484をオンからオフとすることで、第3ダイオード483を通してコンデンサ485に電流が流れ、コンデンサ485が充電される。一方で、イグナイタ484に対する通電信号をオフからオンに切替え、イグナイタ484をオフからオンとすることで、コンデンサ485に蓄えられた電荷が放電され、一次コイル42に一次電圧が印加される。そして、一次電圧の印加に伴い、間隙29に電流が投入されることとなる。
【0062】
尚、間隙29に対する電圧の印加により、間隙29において放電が生じることとなり、放電の際には、間隙29に対して、急激に変動する容量電流に続いて、微小な誘導電流が流れることなる。
【0063】
加えて、本実施形態において、ECU61は、1回の燃焼行程において、電流の投入に伴い間隙29にて発生した放電を維持した上で次の電流を投入すること、及び、間隙29にて発生した放電を遮断した上で次の電流を投入することのいずれか一方を選択し、電流投入部41は、ECU61により制御されることで、ECU61により選択された電流の投入態様で点火プラグ1に対して電流を投入するようになっている。
【0064】
ここで、間隙29にて発生した放電を維持した上で次の電流を投入する際には、図3に示すように、まず、ECU61からイグナイタ474に対する通電信号S1をオフからオンとすることで、コンデンサ475を放電させ、間隙29に対して電流を投入することで、間隙29において放電を生じさせる。そして、その放電が維持されている段階で、通電信号S1をオフとするとともに、ECU61からイグナイタ485に対する通電信号S2をオンとする。これにより、コンデンサ475に対する充電が開始されるとともに、コンデンサ485が放電し、第2充放電部48から間隙29に対して次の電流が投入される。以降においては、第1、第2充放電部47,48のオン・オフを交互に切替えることで、間隙29における放電が維持された上で、間隙29に対して複数回の誘導電流が投入されることとなる。
【0065】
尚、間隙29に対して複数回の誘導電流を投入する場合には、まず、最初の電流投入に伴い火炎核が生成される。そして、その後の誘導電流により、火炎核に対してキャビティ部28から押し出される方向(軸線CL1方向先端側)に向けた力が加えられ、火炎核に対して燃焼室の中心側に向けた噴出力が与えられる。
【0066】
また、間隙29における放電を遮断した上で次の電流を投入する際には、図4に示すように、通電信号S1又は通電信号S2(通電信号S1,S2の双方であってもよい)をオフからオンとすることで、充放電部47,48から間隙29に対して電流を投入し、間隙29において放電を生じさせる。そして、その放電中に、オンとされた通電信号をオフとすることで放電を遮断し、その上で、充放電部47,48から間隙29に対して次の電流を投入する。以降においては、放電の遮断、電流の投入、放電の遮断、電流の投入…が繰り返し行われる。このように放電を遮断した上で次の電流を投入する場合には、間隙29に対して容量電流が繰り返し投入され、間隙29に対して短時間(例えば、数μs)の間に高電流(例えば、数十A)が複数回投入されることとなる。
【0067】
尚、間隙29に対して複数回の容量電流を投入した場合には、まず、最初の電流投入に伴い火炎核が生成される。そして、その後の電流投入によりキャビティ部28において高密度のプラズマが複数回生成され、生成されたプラズマがキャビティ部28から連続的に噴出することにより、生成された火炎核に対して噴出力が与えられることとなる。
【0068】
さらに、本実施形態では、放電を維持した上で次の電流を投入する場合、及び、放電を遮断した上で次の電流を投入する場合の双方において、火炎核を生成するための間隙29に対する電流投入から500μs以内に、火炎核に噴出力を与えるための間隙29に対する電流投入が行われるようになっている。
【0069】
上述のように間隙29に対して複数回の電流投入を行う点火システム101において、上述の作用効果(火炎核を生成し、火炎核に対して噴出力を加えること)をより確実に発揮させるため、本実施形態における点火プラグ1は、次のような構造的特徴を有している。
【0070】
すなわち、図5に示すように、接地電極27に形成された貫通孔27Hの内周面が、軸孔4の開口よりも外周側に配置されている。これにより、軸孔4の開口を軸線CL1に沿って軸線CL1方向先端側に延ばしてなる仮想面VS1と、貫通孔27Hの内周面先端を軸線CL1と直交する方向に沿って軸線CL1側に延ばしてなる仮想面VS2と、貫通孔27Hの内周面と、絶縁碍子2の先端面とにより、リング状の空間である火炎核生成部31が形成されている。火炎核生成部31は、外部に露出する空間であり、当該火炎核生成部31には、燃料ガスが比較的容易に流入するようになっている。また、火炎核生成部31には、中心電極5及び接地電極27間に形成される間隙29(図5中、太線で示した部位)の一部が位置している。そのため、間隙29において生じた放電に対して燃料ガスが接触しやすくなっており、ひいては軸孔4の開口及びその周辺において火炎核をより確実に生成できるようになっている。
【0071】
さらに、本実施形態では、火炎核の一層確実な生成を実現するために、軸線CL1と直交する方向に沿った、軸孔4の開口と貫通孔27Hの内周面との間の距離Aが0.25mm以上とされている。一方で、火炎核に対してより確実に噴出力を与えるべく、前記距離Aが0.75mm以下とされている。
【0072】
また、噴出力の径方向外側への拡散を防止し、軸線CL1方向に沿ってより大きな噴出力を得るために、軸孔4の開口における内径Dが1.5mm以下とされている。一方で、軸孔4内にカーボン等が侵入し、軸孔4が完全に閉塞されてしまうと、間隙29の絶縁抵抗値が過度に増大してしまい、火炎核の生成に支障が生じてしまうおそれがある。そこで、カーボン等による軸孔4の閉塞を防止するために、内径Dが0.5mm以上とされている。
【0073】
さらに、火炎核を拡散させることなく、直線的に噴出させるために、軸線CL1に沿った、絶縁碍子2の先端面から貫通孔27Hの内周面先端までの距離Bが0.3mm以上とされている。一方で、接地電極27の消炎作用(接地電極27により火炎核の熱が引かれてしまう現象)による着火性の低下を防止すべく、距離Bは1.5mm以下とされている。
【0074】
以上詳述したように、本実施形態によれば、電流投入部41が設けられるとともに、点火プラグ1に対する電流の投入経路が1つとされ、点火プラグ1には、点火コイル45からの電流のみが投入されるように構成されている。従って、大電力を投入するためのプラズマ放電回路部や、電流の流入を防止するためのダイオードが不要となる。従って、点火システム101の小型化を図ることができるとともに、生産コストを大幅に低減させることができる。
【0075】
また、貫通孔27Hの内周面が軸孔4の開口よりも外周側に位置するように構成されているため、間隙29の一部が、軸線CL1方向先端側に露出することとなる。従って、間隙29において生じた放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなり、火炎核をより確実に生成することができる。また、火炎核を生成するための電流投入とは別に、間隙29に対してさらに電流が投入されることで、生成された火炎核に対して噴出力を与えることができる。その結果、火炎核を燃焼室の中心側へと勢いよく噴出させることができ、優れた着火性を実現することができる。
【0076】
さらに、距離Aが0.25mm以上とされているため、間隙29のより広範囲が軸線CL1方向先端側に露出することとなり、放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなる。その結果、火炎核を一層確実に生成することができ、着火性を一層高めることができる。
【0077】
加えて、本実施形態では、距離Aが0.75mm以下とされているため、火炎核が過度に外周側に位置してしまうといった事態をより確実に防止することができる。そのため、火炎核に対して噴出力をより確実に与えることができ、着火性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【0078】
併せて、軸孔4の開口における内径Dが1.5mm以下とされているため、軸線CL1方向に沿ったより大きな噴出力を生じさせることができ、着火性の更なる向上を図ることができる。一方で、内径Dが0.5mm以上とされているため、カーボン等の侵入による軸孔4の閉塞をより確実に防止することができ、放電をより確実に生じさせることができる。
【0079】
また、本実施形態では、距離Bが0.3mm以上とされているため、火炎核が噴出する際に、火炎核を拡散させることなく、燃焼室の中心側に向けて直線的に噴出させることができる。その結果、着火性をさらに向上させることができる。一方で、距離Bが1.5mm以下とされているため、接地電極27による消炎作用を低減させることができ、着火性の低下をより効果的に抑制することができる。
【0080】
さらに、本実施形態では、火炎核を生成するための電流投入から500μs以内に、噴出力を与えるための電流の投入が行われるようになっている。すなわち、電流の投入が、着火性の向上に寄与するときに限って行われるようになっている。従って、エネルギーの無駄をなくすことができるとともに、上述した着火性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【0081】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、図6に示すように、距離Aを0mmとすることで、火炎核生成部を設けなかった点火プラグのサンプル1(比較例に相当する)と、距離Aを0.5mmとし、火炎核生成部を設けた点火プラグのサンプル2(実施例に相当する)とを作製し、1つの電源により間隙にて放電を生じさせた上で、もう1つの電源により間隙に大電力を投入する電源システム1(比較例に相当する)、又は、間隙に複数回の電流を投入する電流投入部を有してなる電源システム2(実施例に相当する)を用いて、各サンプルに対して着火性評価試験を行った。着火性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、各サンプルを排気量2.0L、4気筒エンジンに取付けた上で、点火タイミングをMBT(最適点火位置)として回転数1500rpmでエンジンを動作させた。そして、空燃比を徐々に増大(燃料を薄く)させつつ、各空燃比ごとにエンジントルクの変動率を測定し、エンジントルクの変動率が5%を上回ったときの空燃比を限界空燃比として得定した。尚、当該試験においては、まず、サンプル1について、電源システム1及び電源システム2の双方において、限界空燃比が20となるエンジンの動作条件等をそれぞれ特定した。次いで、サンプル2について、電源システム1を用いた際の前記特定された条件と同様の条件で、電源システム1を用いてエンジンを動作させ、限界空燃比を測定した。さらに、サンプル2について、電源システム2を用いた際の前記特定された条件と同様の条件で、電源システム2を用いてエンジンを動作させ、限界空燃比を測定した。尚、限界空燃比が大きいほど、着火性に優れることを意味する。図7に、当該試験の試験結果を示す。尚、図7においては、サンプル1の試験結果を黒色で示し、サンプル2の試験結果を白色で示す。
【0082】
また、各サンプルともに、距離Bを0.5mmとし、内径Dを1.0mmとした。さらに、電源システム2を用いる場合には、1回の燃焼行程において、最初の電流投入に伴い発生した放電を遮断した上で、前記最初の電流投入から100μs後に次の電流を投入した(1回の燃焼行程において、間隙に対して電流を計2回投入した)。
【0083】
図7に示すように、間隙に放電を生じさせた上で大電力を投入する電源システム1を用いた場合、サンプル2はサンプル1よりも着火性に劣ることが分かった。これは、電源システム1を用いた場合には、電力の投入に伴いキャビティ部にてプラズマが生じ、生じたプラズマがキャビティ部の開口から噴出することで着火がなされるところ、火炎核生成部を設けたサンプル2においては、噴出時にプラズマが拡散しやすくなり、プラズマの噴出長がさほど大きくならなかったためであると考えられる。
【0084】
これに対して、電流を複数回投入する電源システム2を用いた場合、サンプル2はサンプル1よりも着火性に優れることが明らかとなった。これは、電源システム2を用いた場合には、最初の電流投入に伴い生成された火炎核に対して、以降の電流投入により噴出力を与えることで着火がなされるところ、火炎核生成部を設けたサンプル2においては、放電に対して燃料ガスが接触しやすくなり、ひいては火炎核がより確実に生成されたことに起因すると考えられる。
【0085】
上記試験の結果より、間隙に対して電流を複数回投入する電流投入部を有する電源システムを用いる場合には、火炎核生成部を有する(つまり、貫通孔の内周面が軸孔の開口よりも外周側に位置する)点火プラグを用いることで、優れた着火性を実現することができるといえる。
【0086】
次いで、距離Bを0.2mm、0.3mm、0.5mm、1.5mm、又は、2.0mmとした上で、距離A、及び、内径Dを種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、上記電源システム2を用いて、上記と同様の電流の投入態様(最初の電流投入から100μs後に次の電流を投入すること)にて各サンプルに対して上述の着火性評価試験を行った。尚、当該試験においては、距離B、及び、内径Dが同一であり、距離Aを0.0mmとしたサンプルの限界空燃比を基準として、距離Aを種々変更した際の前記基準に対する限界空燃比の向上値(L/L向上値)を算出した。例えば、距離Bを0.2mmとし、内径Dを0.5mmとしたサンプルについては、距離Bを0.2mm、内径Dを0.5mm、距離Aを0.0mmとしたサンプルの限界空燃比を基準とし、距離B及び内径Dを同一とした上で、距離Aを変更した際のL/L向上値を算出した。図8に、距離Bを0.2mmとしたサンプルの試験結果を示し、図9に距離Bを0.3mmとしたサンプルの試験結果を示し、図10に距離Bを0.5mmとしたサンプルの試験結果を示し、図11に距離Bを1.5mmとしたサンプルの試験結果を示し、図12に距離Bを2.0mmとしたサンプルの試験結果を示す。尚、図8〜12においては、内径Dを0.5mmとしたサンプルの試験結果を丸印で示し、内径Dを1.0mmとしたサンプルの試験結果を三角印で示し、内径Dを1.5mmとしたサンプルの試験結果を四角印で示し、内径Dを2.0mmとしたサンプルの試験結果をバツ印で示す。また、当該試験においては、L/L向上値が0.3以上となったときに、着火性の向上効果が顕著に表れるものと判定した。
【0087】
図8〜12に示すように、距離Aを0.25mm以上0.75mm以下とするとともに、内径Dを1.5mm以下としたサンプルは、L/L向上値が0.3以上となり、着火性を効果的に向上できることが分かった。これは、次の(1)〜(3)が相乗的に作用したことによると考えられる。
(1)距離Aを0.25mm以上としたことで、放電に対して燃料ガスがより接触しやすくなり、火炎核が一層確実に生成されたこと。
(2)距離Aを0.75mm以下としたことで、火炎核が軸孔の開口よりも過度に外周側に位置するという事態が防止され、火炎核に対して噴出力がより確実に与えられたこと。
(3)内径Dを1.5mm以下としたことで、噴出力の外周側への拡散が防止され、軸線方向に沿ってより大きな噴出力が得られたこと。
【0088】
また、距離Aを0.25mm以上0.75mm以下とし、内径Dを1.5mm以下としたサンプルのうち、距離Bを0.3mm以上1.5mm以下としたものは、L/L向上値が0.5以上となり、極めて優れた着火性を有することが分かった。これは、距離Bを0.3mm以上としたことで、火炎核が、燃焼室の中心側に向けて直線的に噴出しやすくなり、また、距離Bを1.5mm以下としたことで、接地電極による消炎作用が低減されたことに起因すると考えられる。
【0089】
上記試験の結果より、着火性の更なる向上を図るべく、距離Aを0.25mm以上0.75mm以下とするとともに、内径Dを1.5mm以下とすることがより好ましいといえる。
【0090】
また、着火性をより一層向上させるという点では、距離Bを0.3mm以上1.5mm以下とすることがより一層好ましいといえる。
【0091】
尚、噴出力を増大させるという点では、内径Dを小さくすることが好ましいが、内径Dを過度に小さくしてしまうと、軸孔内に少量のカーボン等が侵入しただけで、軸孔が閉塞されてしまい、通電に支障が生じてしまうおそれがある。特に、火炎核生成部を設ける場合においては、軸孔内にカーボン等がより侵入しやすいため、軸孔の閉塞がより懸念される。従って、火炎核生成部を設ける場合であっても、カーボン等による軸孔の閉塞をより確実に防止するという点から、内径Dを0.5mm以上とすることが好ましいといえる。
【0092】
次いで、間隙に対して複数回の電流を投入可能な電流投入部を有する電源システムを用いて、電流の投入に伴い発生した放電を遮断した上で間隙に次の電流を投入する場合(間欠放電)と、電流の投入に伴い発生した放電を維持した上で間隙に次の電流を投入する場合(連続放電)との双方において、上述の着火性評価試験を行い、電流の投入回数を1回とした場合の限界空燃比を基準として、L/L向上値を算出した。尚、当該試験においては、電流の投入回数を1回から7回とし、複数回の電流を投入する場合において電流の投入間隔を100μsとした。また、当該試験では、距離Aを0.5mmとし、距離Bを0.5mmとし、内径Dを1.0mmとした点火プラグを用いた。図13に、電流の投入回数とL/L向上値との関係を表すグラフを示す。また、図14に、電流の投入回数をn−1回(nは自然数を示す)としたときのL/L向上値に対する、電流の投入回数をn回としたときのL/L向上値の増加量を示す(例えば、図14において、電流の投入回数が3回のときのL/L向上値の増加量は、電流の投入回数を2回としたときのL/L向上値に対する、電流の投入回数を3回としたときのL/L向上値の増加量を示す)。加えて、図13においては、間欠放電を行った場合の試験結果を丸印で示し、連続放電を行った場合の試験結果を三角印で示す。また、図14においては、間欠放電を行った場合の試験結果を黒色で示し、連続放電を行った場合の試験結果を白色で示す。
【0093】
図13に示すように、間欠放電を行った場合、及び、連続放電を行った場合の双方において、電流を複数回投入することにより着火性を向上できることが確認された。
【0094】
一方で、図14に示すように、7回目の電流投入(すなわち、最初の電流投入から600μs後の電流投入)では、L/L向上値の増加量が0となり、この電流投入は着火性の向上に寄与しておらず、エネルギーが無駄に用いられていることが明らかとなった。これは、時間経過に伴い、火炎核が成長する(火炎が伝播する)状態となったため、火炎核に対して噴出力を与えてもほとんど効果がないことによると考えられる。
【0095】
これに対して、6回目の電流投入まで(すなわち、最初の電流投入から500μs後までの電流投入)は、L/L向上値が増加しており、電流投入が着火性の向上に寄与することが明らかとなった。
【0096】
上記試験の結果より、電流の投入による着火性の向上効果をより確実に発揮させるためには、最初の電流投入(すなわち、火炎核を生成するための電流投入)から500μs以内に、間隙に対して電流を投入することが好ましいといえる。
【0097】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0098】
(a)上記実施形態において、電流投入部41は、間隙29における放電を維持した上で間隙29に次の電流を投入することを、1回の燃焼行程において1回行うことが可能となっているが、図15に示すように、間隙29における放電を維持した上で間隙29に次の電流を投入することを、1回の燃焼行程において2回以上行うこととしてもよい。この場合には、1回の燃焼行程において、優れた噴出力を与えられた火炎核を複数回生成することができ、例えば、1つの火炎核だけでは燃焼が生じなかった領域を、その他の火炎核により燃焼させることができる。その結果、燃焼を極めて広範囲において生じさせることができ、着火性を飛躍的に向上させることができる。
【0099】
(b)上記実施形態において、点火プラグ1には、点火コイル45からの電流のみが直接的に投入されるように構成されている。これに対して、点火コイルからの出力電流の少なくとも一部が、いわば間接的に点火プラグ1に対して投入されるように構成してもよい(この場合であっても、結局のところ、点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが点火プラグ1に投入される)。従って、例えば、図16に示すように、電流投入部71を、1つの点火コイル74を有し、点火プラグ1に電圧を印加するための電圧印加部72(例えば、フルトランジスタ式の点火装置)と、点火プラグ1及び電圧印加部72間において点火プラグ1と並列に接続されたコンデンサ73とにより構成することとしてもよい。このような電流投入部71は、次のようにして動作し、点火プラグ1(間隙29)に対して複数回の電流を投入することができる。
【0100】
すなわち、ECU61から電圧印加部72に対する通電信号をオンからオフとすることで、点火コイル74から点火プラグ1側に電流を出力する(尚、電流は、一定時間の間、継続して出力される)。これにより、点火プラグ1及びコンデンサ73に電荷が充電されていき、間隙29の電位差が増大していく。そして、間隙29の電位差が、間隙29の絶縁破壊電圧を上回ると、点火プラグ1に充電された電荷とコンデンサ73に充電された電荷とが間隙29に流れ込み、間隙29で放電が生じる。放電後、点火コイル74からの電流により点火プラグ1及びコンデンサ73が再度充電され、間隙29の電位差が、間隙29の絶縁破壊電圧を再度上回った段階で点火プラグ1及びコンデンサ73に蓄えられた電荷により、間隙29にて放電が生じる。以降においては、点火プラグ1及びコンデンサ73に対する充電と、点火プラグ1及びコンデンサ73に蓄えられた電荷による放電とが、点火コイル74から電流が出力されている間、繰り返し行われ、その結果、点火プラグ1(間隙29)に対して電流が複数回投入される。
【0101】
(c)上記実施形態において、電流投入部41は、並列に接続された第1充放電部47及び第2充放電部48を備えているが、図17に示すように、電流投入部81が、1つの充放電部47のみを有するように構成してもよい。また、電流投入部が、3つ以上の充放電部を並列に有するように構成してもよい。尚、充放電部47を1つのみ設ける場合には、充放電部間における電流の流入を防止するための第1ダイオード471及び第2ダイオード472を設けなくてよい。
【0102】
(d)上記実施形態では、貫通孔27Hの内径が軸線CL1に沿って一定となっているが、貫通孔27Hの内径が軸線CL1に沿って若干変化する(例えば、軸線CL1方向先端側に向けて内径が徐々に縮径又は拡径する)こととしてもよい。この場合、距離Aとあるのは、軸線CL1と直交する方向に沿った軸孔4の開口と貫通孔27Hの内周面との間の平均距離をいう。
【0103】
(e)上記実施形態では、接地電極27の後端側端面が絶縁碍子2の先端面に接触しているが、接地電極27の後端側端面を絶縁碍子2の先端面から離間させることとしてもよい。尚、この場合には、接地電極27及び絶縁碍子2間に対する火炎核の入り込みを防止するために、軸線CL1に沿った、絶縁碍子2の先端面から貫通孔27Hの内周面後端までの距離を0.5mm以下とすることが好ましい。
【0104】
(f)上記実施形態では、各点火プラグ1ごとに電流投入部41が設けられているが、各点火プラグ1ごとに電流投入部41を設けることなく、電流投入部41からの電流をディストリビュータを介して各点火プラグ1に投入してもよい。
【0105】
(g)上記実施形態では、点火プラグ1の外部に抵抗51が設けられているが、点火プラグ1の内部に抵抗51に相当する抵抗を設けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1…点火プラグ(プラズマジェット点火プラグ)、2…絶縁碍子(絶縁体)、3…主体金具、4…軸孔、5…中心電極、27…接地電極、27H…貫通孔、28…キャビティ部、29…間隙、41…電流投入部、45…点火コイル、101…点火システム、CL1…軸線、EN…内燃機関。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、自身の先端面が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向後端側に位置するようにして前記軸孔の先端側に挿設される中心電極と、前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、前記主体金具の先端部に固定され前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に配置される接地電極と、前記軸孔の内周面及び前記中心電極の先端面により形成されるキャビティ部とを備え、前記中心電極及び前記接地電極間に間隙が形成されたプラズマジェット点火プラグと、
前記プラズマジェット点火プラグに接続される1つの点火コイルを備え、前記間隙に対して電流を投入する電流投入部と
を有する点火システムであって、
前記接地電極は、前記キャビティ部と外部とを連通する貫通孔を有するとともに、前記貫通孔の内周面は、前記軸孔の開口よりも外周側に位置しており、
前記プラズマジェット点火プラグに電流が投入される経路は1つであり、前記プラズマジェット点火プラグには、前記点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが投入され、
前記電流投入部は、前記プラズマジェット点火プラグの取付けられた内燃機関における1回の燃焼行程において、前記間隙に対し、複数回の電流を投入することを特徴とする点火システム。
【請求項2】
前記軸線と直交する方向に沿った、前記軸孔の開口と前記貫通孔の内周面との間の距離が0.25mm以上0.75mm以下とされ、
前記軸孔の開口における内径が0.5mm以上1.5mm以下とされることを特徴とする請求項1に記載の点火システム。
【請求項3】
前記軸線に沿った、前記絶縁体の先端面から前記貫通孔の内周面先端までの距離が0.3mm以上1.5mm以下とされることを特徴とする請求項1又は2に記載の点火システム。
【請求項4】
前記電流投入部は、電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を遮断した上で前記間隙に次の電流を投入することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項5】
前記電流投入部は、電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を維持した上で前記間隙に次の電流を投入することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項6】
前記電流投入部は、前記間隙への電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を維持した上で前記間隙に次の電流を投入することを、1回の燃焼行程において2回以上行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項7】
前記電流投入部は、火炎核を生成するための前記間隙に対する電流投入から500μs以内に、前記火炎核に噴出力を与えるための前記間隙に対する電流投入を行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、自身の先端面が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向後端側に位置するようにして前記軸孔の先端側に挿設される中心電極と、前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、前記主体金具の先端部に固定され前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に配置される接地電極と、前記軸孔の内周面及び前記中心電極の先端面により形成されるキャビティ部とを備え、前記中心電極及び前記接地電極間に間隙が形成されたプラズマジェット点火プラグと、
前記プラズマジェット点火プラグに接続される1つの点火コイルを備え、前記間隙に対して電流を投入する電流投入部と
を有する点火システムであって、
前記接地電極は、前記キャビティ部と外部とを連通する貫通孔を有するとともに、前記貫通孔の内周面は、前記軸孔の開口よりも外周側に位置しており、
前記プラズマジェット点火プラグに電流が投入される経路は1つであり、前記プラズマジェット点火プラグには、前記点火コイルからの出力電流に基づく電流のみが投入され、
前記電流投入部は、前記プラズマジェット点火プラグの取付けられた内燃機関における1回の燃焼行程において、前記間隙に対し、複数回の電流を投入することを特徴とする点火システム。
【請求項2】
前記軸線と直交する方向に沿った、前記軸孔の開口と前記貫通孔の内周面との間の距離が0.25mm以上0.75mm以下とされ、
前記軸孔の開口における内径が0.5mm以上1.5mm以下とされることを特徴とする請求項1に記載の点火システム。
【請求項3】
前記軸線に沿った、前記絶縁体の先端面から前記貫通孔の内周面先端までの距離が0.3mm以上1.5mm以下とされることを特徴とする請求項1又は2に記載の点火システム。
【請求項4】
前記電流投入部は、電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を遮断した上で前記間隙に次の電流を投入することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項5】
前記電流投入部は、電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を維持した上で前記間隙に次の電流を投入することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項6】
前記電流投入部は、前記間隙への電流の投入に伴い発生した前記間隙における放電を維持した上で前記間隙に次の電流を投入することを、1回の燃焼行程において2回以上行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の点火システム。
【請求項7】
前記電流投入部は、火炎核を生成するための前記間隙に対する電流投入から500μs以内に、前記火炎核に噴出力を与えるための前記間隙に対する電流投入を行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の点火システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−101792(P2013−101792A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244093(P2011−244093)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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