説明

車両用制御装置

【課題】ラックエンド位置に相当する操舵角度でステアリングシャフトの回転にブレーキをかけられるようにする。
【解決手段】車両用制御装置1は、回転自在に支持されたステアリングシャフト3を有し、ステアリングシャフト3にはステアリングホイール2側から順番にトルクセンサ12と、回転伝達機構13と、電磁ブレーキ手段14とが取り付けられている。回転伝達機構13は、駆動モータ15の回転を伝達する構成を有する。駆動モータ15は、ステアリングシャフト3に直交して配置され、第1のエンコーダ17が内蔵されている。電磁ブレーキ手段14は、車体側に固定された電磁石21と、ステアリングシャフト3に固定された可動プレート22を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールと、操向輪を操向させるステアリングギヤとを機械的に分離させたステアバイワイヤ方式の車両用制御装置では、ステアリングホイールの回転を検出するセンサを設け、センサでステアリングホイールの操舵角度を検出し、これに相当する操向角度を制御装置で算出する。さらに、操向角度に操向輪の角度が一致するようにステアリングギヤを駆動させる。
【0003】
ここで、従来の車両用制御装置は、ステアリングシャフトに反力発生用のモータを遊星ギヤ機構を介して接続し、操向輪の角度に対して操舵角度が異なる場合に操舵反力を発生させるようにしている。さらに、モータが故障したときにモータ軸にブレーキをかける電磁ブレーキ手段を設けてフェールセーフ対策を施しているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−11485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ステアリングギヤのラックアンドピニオン機構がラックエンドに突き当たったら、その位置からさらに操向輪を操向することはできないが、ステアリングシャフトとステアリングギヤが機械的に分離されている車両用制御装置では、ラックエンド位置に相当する操舵角度を越えてステアリングシャフトを回転させることができてしまっていた。
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ラックエンド位置に相当する操舵角度などでステアリングシャフトの回転を停止させられるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決する本発明の請求項1に係る発明は、車両の車体に回転可能に支持されたステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに取り付けられ、前記ステアリングシャフトとともに回転するステアリングホイールと、前記ステアリングホイールに運転者が与えた力を検出するトルクセンサと、操舵輪の操向角度に前記ステアリングホイールの操舵角度を一致させるような操舵反力を作用させる駆動モータと、前記駆動モータの回転を前記ステアリングシャフトに伝達する回転伝達機構と、車体側に固定された電磁石と、前記ステアリングシャフトと共に回転する可動プレートとを有し、前記可動プレートを前記ステアリングシャフトに回転を伝達する機構を介さずに固定させてあり、前記電磁石に電流が供給されると前記ステアリングシャフトの回転を停止させるブレーキ力を発生させる電磁ブレーキ手段とを備えることを特徴とする車両用制御装置とした。
この車両用制御装置では、電磁ブレーキ手段に電流を供給すると、ステアリングシャフトの回転にブレーキがかけられる。電磁ブレーキ手段は、可動プレートがステアリングシャフトと1:1に回転するように構成されているので、ブレーキ力がステアリングシャフトに直接かけられる。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両用制御装置において、前記ステアリングシャフトに前記ステアリングホイール側から順番に前記トルクセンサ、前記回転伝達機構、前記電磁ブレーキ手段を配置したことを特徴とする。
この車両用制御装置では、電磁ブレーキ手段でステアリングシャフトにブレーキをかけたときでもトルクセンサで運転者から入力される力を検出することができる。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置において、前記駆動モータは、前記ステアリングシャフトと直交する向き、又は同軸に配置され、前記回転伝達機構を介してのみ前記ステアリングシャフトに連結されたモータ軸を有し、前記モータ軸の回転を検出するセンサを前記駆動モータに取り付けたことを特徴とする。
この車両用制御装置では、駆動モータにブレーキ力が直接入力されることがなくなる。センサで駆動モータの回転を精度良く検出できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電磁ブレーキ手段によってステアリングシャフトにブレーキをかけることでラックエンド感などを与えることができるようになる。電磁ブレーキ手段の電磁石が車体側に固定されていること、ステアリングシャフトとの間に回転を伝達する機構を設けないことにより、ブレーキ力を発生させたときの衝撃を確実に受けとめられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、車両用制御装置1は、運転者が操作する操舵装置であるステアリングホイール2が取り付けられたステアリングシャフト3と、操向輪(以下、タイヤという)4を操向させるステアリングギヤ5とが機械的に接続されておらず、ステアリングシャフト3側の第一の制御装置6と、ステアリングギヤ5の第二の制御装置7と介して電気的に接続されている。
【0010】
ステアリングシャフト3は、不図示の支持機構によって車体に固定されたフレーム11に回転自在に支持されている。ステアリングシャフト3には、ステアリングホイール2側から順番に、トルクセンサ12と、回転伝達機構13と、電磁ブレーキ手段14とが取り付けられている。
トルクセンサ12は、運転者がステアリングホイール2に入力し、ステアリングシャフト3に伝達された力を検出し、トルクに応じた信号を第一の制御装置6に出力する。
回転伝達機構13は、ステアリングシャフト3に固定されたウォームホイール13Aとウォーム13Bからなるウォームホイールである。なお、回転伝達機構13は、駆動モータ15の回転をステアリングシャフト3に伝達する構成であればウォームホイール以外の構成でも良い。
【0011】
回転伝達機構13のウォーム13Bは、駆動モータ15のモータ軸15Aに固定されている。駆動モータ15は、モータ軸15Aがステアリングシャフト3に直交するように配置され、フレーム11に固定されている。駆動モータ15には、駆動回路16を通して不図示のバッテリから電流が供給される。駆動回路16は、スイッチング素子などから構成されており、第一の制御装置6で生成される駆動信号によって駆動モータ15の回転量や回転方向を制御できるようになっている。さらに、駆動モータ15には、モータ軸15Aの回転を検出するセンサとして第1のエンコーダ17が内蔵されている。
【0012】
電磁ブレーキ手段14は、フレーム11を介して車体に対して固定された電磁石21と、ステアリングシャフト3に固定された2枚の可動プレート22とを有する。電磁石21と可動プレート22のそれぞれには、摩擦板が取り付けられている。電磁石21は、コイルが内設された鉄心からなる。可動プレート22は、ステアリングシャフト3と直交するように、かつステアリングホイール2と平行に配置されている。電磁ブレーキ手段14のコイルには、駆動回路18を通してバッテリから電流が供給される。駆動回路18は、スイッチング素子などから構成されており、第一の制御装置6で生成される電磁ブレーキ信号によって電磁ブレーキ手段14のON/OFF制御が行われるようになっている。
【0013】
第一の制御装置6は、第1のエンコーダ17が出力するパルス信号が入力され、パルス信号をカウントしてステアリングシャフト3の回転角度、つまり操舵角度を検出する操舵角度算出手段31を有する。さらに、操舵角度の信号を第二の制御装置7に送信すると共に、第二の制御装置7で検出したタイヤ4の操向角度の信号を受信する送受信手段32と、操向角度に相当する操舵角度と実際の操舵角度の角度差に応じて操舵反力を算出する操舵反力算出手段33と、電磁ブレーキ手段14を作動させる信号を発生させる電磁ブレーキ信号発生手段34と、駆動モータ15と電磁ブレーキ手段14を択一に選択する切り替え手段35とを有する。
【0014】
ステアリングギヤ5は、駆動手段として電動機に減速機構が取り付けられた操向モータ61と、操向モータ61の回転をステアリングロッド62の直線運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。ステアリングロッド62の両端にはタイロッド63とナックルアーム64を介してタイヤ4が接続されている。操向モータ61は、駆動回路65を介して第二の制御装置7に接続されている。駆動回路65は、スイッチング素子などを有し、バッテリからの電流を操向モータ61に供給するように構成されている。操向モータ61には、操向モータ61の回転から操向角度を検出する第2のエンコーダ66が取り付けられている。
【0015】
第二の制御装置7は、第2のエンコーダ66が出力するパルス信号が入力され、パルス信号をカウントしてタイヤ4の傾き、つまり操向角度を検出する操向角度算出手段71を有する。さらに、操向角度の信号を第一の制御装置6に送信すると共に、第一の制御装置6で検出した操舵角度の信号を受信する送受信手段72と、操舵角度に相当する操向角度と実際の操向角度の角度差に応じて操向モータ61の駆動量を算出する操向制御手段73とを有する。
【0016】
次に、この実施の形態の作用について説明する。
運転者がステアリングホイール2を回転させると、ステアリングシャフト3が回転させられる。運転者がステアリングホイール2にかけた力は、ステアリングシャフト3に取り付けられたトルクセンサ12で検出される。また、ステアリングシャフト3の回転が回転伝達機構13を介して駆動モータ15に入力され、駆動モータ15のモータ軸15Aが回転する。これに伴って駆動モータ15に取り付けられた第1のエンコーダ17からパルス信号が出力される。
【0017】
第一の制御装置6は、操舵角度算出手段31が第1のエンコーダ17のパルス信号から操舵角度を算出する。送受信手段32から操舵角度の信号が第二の制御装置7に送られる。第二の制御装置7では、操向制御手段73が操舵角度に対応する操向角度を目標値として算出し、この目標値に実際の操向角度が一致するように駆動回路65に電流が供給される。実際の操向角度は、操向モータ61の回転を第2のエンコーダ66で検出することで得られる。操向角度算出手段71で算出した実際の操向角度の信号は、操向制御に使用されると共に、送受信手段72から第一の制御装置6に送信される。
【0018】
第一の制御装置6では、第1のエンコーダ17で検出した実際の操舵角度が操向角度に対応する操舵角度に一致するように操舵反力を決定する。操舵反力に応じた電流が駆動回路から駆動モータ15に供給される。駆動モータ15の回転は、回転伝達機構13を介してステアリングシャフト3に入力され、操向角度と操舵角度を一致させるような操舵反力となる。
【0019】
ここで、切り替え手段35は、ステアリングギヤ5がラックエンド位置に達したときに、駆動モータ15の代わりに電磁ブレーキ手段14に通電してステアリングシャフト3にブレーキをかける。すなわち、第二の制御装置7からラックエンド位置に相当する操向角度の情報を入手したら、駆動回路18から電磁ブレーキ手段14のコイルに電流を印加させる。可動プレート22が電磁石21に吸引され、摩擦板同士が当接して可動プレート22の回転にブレーキがかけられる。可動プレート22に直結されているステアリングシャフト3の回転が停止させられ、運転者にラックエンド感を与える。また、任意の操向角度において路上の障害物などによってタイヤ4が操向できなくなったときも、切り替え手段35が電磁ブレーキ手段14を可動させ、運転者に知らせる。
電磁ブレーキによって運転者がステアリングホイール2を操作する力を緩めると、トルクセンサ12で検出されるトルクが減少する。切り替え手段35は、トルクが所定値以下に減少したときに、電磁ブレーキ手段14への通電を停止させ、代わりに駆動モータ15による操舵反力制御を再開する。外力などでタイヤ4が操向不能になっていたときは、実際にタイヤ4の操向角度が変動したことを検出したら、切り替え手段35が電磁ブレーキ手段14への通電を停止させ、代わりに駆動モータ15による操舵反力制御を再開する。
【0020】
この実施の形態では、電磁ブレーキ手段14によってステアリングシャフト3にブレーキ力を与えるようにしたので、所定の条件下でステアリングホイール2の操作を抑制させることができ、運転者にラックエンド感などを与えることができる。ここにおいて、電磁ブレーキ手段14は、可動プレート22を減速機構のように回転を伝達する機構を介することなくステアリングシャフト3に取り付けたので、減速機構の歯車のバックラッシュアンドのような遊びや、空転の影響を受けることがなくなって、電磁ブレーキの動作遅れを低減できる。電磁ブレーキ手段14が車体側に固定されていること、及び減速機構を設けないことにより、ブレーキ力を発生させたときの衝撃を確実に受けとめることができる。また、減速機構を設けないことによって部品点数を削減でき、組み付け性が向上する。
ステアリングホイール2と電磁ブレーキ手段14の間にトルクセンサ12を設けたので、運転者がステアリングホイール2に入力した力を電磁ブレーキがかかった状態でも確実に検出できる。このため、電磁ブレーキ力の解除を適切なタイミングで実施できる。
電磁ブレーキ手段14で発生させたブレーキ力がステアリングホイール2に伝達される経路から外れた位置に駆動モータ15が配置されているので、ブレーキ力が直接に駆動モータ15に入力されることはない。さらに、電磁ブレーキ手段14を独立して駆動させることが可能になる。駆動モータ15に第1のエンコーダ17が取り付けられているので、駆動モータ15の回転制御の精度を向上できる。
【0021】
ここで、ステアリングホイール2から電磁ブレーキ手段14に至るまでの構成要素の配置の変形例について図2及び図3に示す。駆動モータ15及び電磁ブレーキ手段14の制御は、前記と同じである。
図2に示す車両用制御装置1では、ステアリングホイール2側から順番に、トルクセンサ12、回転伝達機構81、電磁ブレーキ手段14がステアリングシャフト3に取り付けられている。回転伝達機構81は、2つの平歯車81A,81Bからなり、駆動モータ15がモータ軸15Aをステアリングシャフト3と平行になるように配置されている。駆動モータ15には、第1のエンコーダ17が内蔵されている。
【0022】
図3に示す車両用制御装置1では、中空タイプの駆動モータ82がトルクセンサ12と、電磁ブレーキ手段14の間に、ステアリングシャフト3と同軸に配置されている。ステアリングシャフト3は、駆動モータ83内を貫通しており、第1のエンコーダ17は駆動モータ82に内蔵されている。回転伝達機構83は、駆動モータ82のモータ軸82Aに固定された平歯車83Aに噛み合う平歯車83Bを有する。この平歯車83Bには、シャフト83Cの一端に固定されており、他端には平歯車83Dが固定されている。平歯車83Dは、ステアリングシャフト3に固定された平歯車83Eに噛み合わされている。
図2及び図3に示すような配置であっても前記と同様の効果が得られる。
【0023】
なお、本発明は、前記の実施の形態に限定されずに広く応用することができる。
制御装置は、1つでも良い。回転伝達機構13,81,83は、駆動モータ15の回転を減速させない構成でも良い。
ステアリングシャフト3が電磁ブレーキ手段14を貫通しているので、ステアリングシャフト3に緊急時に使用される安全装置を連結させても良い。
操舵角度を検出する第1のエンコーダ17は、ステアリングシャフト3又はステアリングホイール2の回転を検出するように配置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用制御装置のステアリングホイール側の構成を示すブロック図である。
【図2】ステアリングホイールから電磁ブレーキ手段に至るまでの構成要素の配置の変形例を示す図である。
【図3】ステアリングホイールから電磁ブレーキ手段に至るまでの構成要素の配置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 車両用制御装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
4 タイヤ(操向輪)
5 ステアリングギヤ
12 トルクセンサ
13,81,83 回転伝達機構
14 電磁ブレーキ手段
15,82 駆動モータ
17 第1のエンコーダ(センサ)
21 電磁石
22 可動プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体に回転可能に支持されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに取り付けられ、前記ステアリングシャフトとともに回転するステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールに運転者が与えた力を検出するトルクセンサと、
操舵輪の操向角度に前記ステアリングホイールの操舵角度を一致させるような操舵反力を作用させる駆動モータと、
前記駆動モータの回転を前記ステアリングシャフトに伝達する回転伝達機構と、
車体側に固定された電磁石と、前記ステアリングシャフトと共に回転する可動プレートとを有し、前記可動プレートを前記ステアリングシャフトに回転を伝達する機構を介さずに固定させてあり、前記電磁石に電流が供給されると前記ステアリングシャフトの回転を停止させるブレーキ力を発生させる電磁ブレーキ手段と
を備えることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記ステアリングシャフトに前記ステアリングホイール側から順番に前記トルクセンサ、前記回転伝達機構、前記電磁ブレーキ手段を配置したことを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記駆動モータは、前記ステアリングシャフトと直交する向き、又は同軸に配置され、前記回転伝達機構を介してのみ前記ステアリングシャフトに連結されたモータ軸を有し、前記モータ軸の回転を検出するセンサを前記駆動モータに取り付けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−285045(P2008−285045A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132535(P2007−132535)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】