説明

農薬散布用ホバークラフト

【課題】水田用ホバークラフトが操縦者から遠く離れた位置にあっても、的確に当該水田用ホバークラフトに対する操縦が実施できる極めて操作性が良い農薬散布用ホバークラフトを提供する。
【解決手段】本発明に係る農薬散布用ホバークラフト1は、ホバークラフト本体2に農薬用タンク3と散布装置6を装着し、遠隔操作によって散布装置6及びホバークラフト本体2を操作可能としたラジコンホバークラフトにおいて、ホバークラフト本体2後部に構成されるファンダクト11の上部に、船艇前方の映像をコントローラ21上のモニタ22に写すためのCCDカメラ13及び障害物に対する設定距離以上の接近を感知しコントローラ21上のスピーカ23から警告音を発生させる超音波センサー装置14を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔操作によって水田に農薬散布を実施するに適した農薬散布用ホバークラフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来一体的に農地が形成されていた地域においても、近年、宅地化の波が押し寄せ、所謂、農地と宅地が複雑に混在する市街地混在農地が増加している。上記のような市街地混在農地においても、従来通り水田が形成され水稲栽培が行われている。一方、水稲栽培においては、雑草防除の観点から、一般的に農薬散布が行われている。ここで、上記雑草防除においては、水田に対する苗の移植後の初期の段階で実施することが効果的であることが知られており、この時期に使用される除草剤は水田初期除草剤と呼ばれている。
ところで、上記除草剤などの農薬の散布方法としては、航空散布の他、霧吹きと同じ原理の噴霧機、高速の気流を利用し微細な微粒子にして噴霧するミスト機、大型で強力なファンを備えた水田用大型送風散布機(スパースパウタ・スプレーヤ)などがある。更に詳しく言えば、最も効率的な散布方法とされる航空散布には、有人ヘリコプターと遠隔操作による無人ヘリコプターなどの方法があり、これらの方法は農薬散布の効率化の促進を果たすという利点がある反面、ある程度の地域のまとまりが必要であるとの制限もあった。更に、上記空中散布においては、転作による他作物や特殊な栽培ほ場の混在、上記市街地混在農地や有機栽培などのほ場が存在する地区における利用の困難性があると共に、2003年3月施行された改正農薬取締法並びに農林水産省・環境省により、新たに使用者段階での適正な使用を義務付けられるようになった。一方、上記噴霧機には人力式と動力式があり、動力式には背中で背負う可搬型、トラクター牽引式、トラクター搭載型、自走型、定置型などがある。また、ミスト機は背負い式がほとんどで、動力散粉機、散粒機との兼用タイプとなっている。
ここで、上記農薬の散布方法の中では、散布コストや農業従事者の高齢化の問題等から、噴霧機、ミスト機、水田用大型送風散布機に比べ空中散布が最も有効な方法と考えられるが、上記改正農薬取締法や使用者段階での適正な使用の義務付け等によって、空中散布の実施が厳しくなると共に近隣地域に健康被害を生じる等の社会問題を生じるようになってきた。更に一方では、上記改正農薬取締法により、登録農薬であっても生産物の種類によっては農薬の飛散等が原因となり、生産された農産物が基準外と判断されるため、生産農家にとっては切実な問題も生じてきた。
以上のような背景から、空中散布に変わり、薬剤の飛散がないと共に効率的な農薬散布が実施できる新たな散布方法の提案が求められるようになった。
【0003】
このような事情を受け、上記要望に応えるものとして、特開平9−233985号「水田用ホバークラフトおよびその農薬散布方法」が提案されている。ここで、その発明の概要を示すと、当該発明は農薬や肥料等の散布作業の機械化の手段として、水面上を走行して薬剤を散布するようにした水田用ホバークラフトに関するものであり、その第一の要旨は、ホバークラフト本体に粒剤、顆粒水和剤、液剤等の農薬用タンクと当該農薬を散布するための散布装置とを搭載し、走行、散布を遠隔操作するようにした水田用ホバークラフトであった。更に、当該水田用ホバークラフトは、水田用ホバークラフト本体の輪郭主要部に光源を備えることができるものであった。そしてまた、当該水田用ホバークラフトは、浮上用空気流のバランスによって走行制御することができるようにしても良いものでもあった。更に続いて、当該水田用ホバークラフトは、上記記載の水田用ホバークラフトであって、農薬を実装し、遠隔操作により水田上を走行させ、その間に農薬を散布するようにしたものでも良いという特徴を有するものでもあった。
【特許文献1】特開平9−233985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記背景技術の項に記載の特開平9−233985号に係る発明によれば、空中散布と異なり所定量の農薬を飛散させずに目的ほ場に農薬を散布できるという大きな効果があると認められる。ここで、当該発明に係る水田用ホバークラフトによれば、ホバークラフト本体を遠隔操作して走行軌道を確保するものである一方、上記水田用ホバークラフトの操縦者は、遠く離れた場所から当該水田用ホバークラフトに具備されたランプの色を頼りに遠隔操作するようになっていた。具体的には、当該発明に係る明細書の実施例の欄に「例えば、前部ランプを赤、後部右側ランプを青、後部左側ランプを黄というように配置する。」という記載があるが、実際の遠隔操作によって所定のほ場に対する農薬散布を実施した場合には、操縦者からは遠く離れた水田用ホバークラフトの後部左右のランプに対する遠近感がまったく取り難く、散布効率を高めるために水田用ホバークラフトの速度を上げ過ぎた場合、前部赤ランプが点燈しているにも拘わらず畦道に乗り上げてしまうなどの支障があった。即ち、上記水田用ホバークラフトの操縦については、多くの操作ミスなどから操縦に対する勘所を会得する必要があり、操縦者が熟練を要すものであると解された。
そこで、本発明者は上記水田用ホバークラフトの操作性の向上に対して多くの実験と研究を重ね本発明に到達したものであって、本発明の目的は、水田用ホバークラフトが操縦者から遠く離れた位置にあっても、的確に当該水田用ホバークラフトに対する操縦が実施できる極めて操作性が良い農薬散布用ホバークラフトを提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして、本発明に係る農薬散布用ホバークラフトは、上記目的を達成するため以下の構成より成るものである。
【0006】
即ち、上記目的を達成するため、本発明に係る農薬散布用ホバークラフトは、ホバークラフト本体に液剤農薬等を充填するための農薬用タンクと当該農薬を散布するための散布装置を装着し、遠隔操作によって上記散布装置及びホバークラフト本体を操作可能としたラジコンホバークラフトにおいて、当該ホバークラフト本体後部に構成されるファンダクトの上部に、船艇前方の映像をコントローラ上のモニターに写すためのCCDカメラ及び畦道や土手等の障害物に対する設定距離以上の接近を感知しコントローラ上のスピーカーから警告音を発生させる超音波センサー装置を設けたことを第一の要旨とする。
【0007】
更に、本発明に係る農薬散布用ホバークラフトは、ホバークラフト本体に液剤農薬等を充填するための農薬用タンクと当該農薬を散布するための散布装置を装着し、遠隔操作によって上記散布装置及びホバークラフト本体を操作可能としたラジコンホバークラフトにおいて、当該ホバークラフト本体後部に構成されるファンダクトの上部に、船艇前方の映像をコントローラ上のモニターに写すためのCCDカメラ及び畦道や土手等の障害物に対する設定距離以上の接近を感知しコントローラ上のスピーカーから警告音を発生させる超音波センサー装置を設ける一方、当該超音波センサー装置の作動を受けて点灯する危険指示発光体灯がホバークラフト本体に具備されていることを第二の要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る農薬散布用ホバークラフトは、均等に代かきが実施されていない凹凸がある水田であっても、当該凹凸を回避することなく農薬散布を実施できるという効果がある。
【0009】
また、本発明に係る農薬散布用ホバークラフトは上記構成から、遠隔操作によって出発地点から折返し地点まで更には折返し地点から終点までの散布状態を操縦者の遠方からの目視確認に依らず、ホバークラフト本体に設けられたCCDカメラによって映し出される船艇前方の映像をコントローラのモニターによって確認しながらホバークラフト本体を操縦することができるという効果もある。
【0010】
更に、本発明に係る農薬散布用ホバークラフトは上記構成から、畦道や土手等の障害物に対する設定距離以上の接近時には、ホバークラフト本体に設けられた超音波センサー装置が感知して、コントローラ上のスピーカーから警告音を発生させると共に、当該超音波センサー装置の作動を受けて、ホバークラフト本体に具備された危険指示発光体灯が危険表示を行うことによって、ホバークラフト本体の不慮の衝突を回避させることができるいう効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
水田用ホバークラフトが操縦者から遠く離れた位置にあっても、的確に当該水田用ホバークラフトに対する操縦が実施できる極めて操作性が良い農薬散布用ホバークラフトを提供するという目的を達成するため、ホバークラフト本体後部に構成されるファンダクトの上部に、船艇前方の映像をコントローラ上のモニターに写すためのCCDカメラ及び畦道や土手等の障害物に対する設定距離以上の接近を感知しコントローラ上のスピーカーから警告音を発生させる超音波センサー装置を設けたる一方、上記超音波センサー装置の作動を受けて点灯する危険指示発光体灯をホバークラフト本体に具備することにより実現した。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の一実施例について説明するものとする。先ず、図1は本発明に係る農薬散布用ホバークラフトの概要を示した概要構成側面図であり、図2は同じく本発明に係る農薬散布用ホバークラフトの概要を示した概要構成背面図である。但し、図2においては、コントローラ21を省略している。図示のように、農薬散布用ホバークラフト1は、ホバークラフト本体2と、当該ホバークラフト本体2の進行方向と進行速度を所望に制御する無線信号を送信すると共に、上記ホバークラフト本体2に設けられたCCDカメラ13によって映し出される船艇前方の映像信号を受信し現出するモニタ22及び、畦道や土手等の障害物に対する接近距離が3〜5m以内(設定可能)の接近を感知することによって超音波センサー装置14が送信する警告信号を受信しスピーカ23から警告音を発生させるコントローラ21の組み合わせから構成されるものである。
【0013】
次に、図示のようにホバークラフト本体2は、薬剤タンク3と、当該薬剤タンク3と連通し薬剤をほ場に散布する散布ノズル7とコントローラ21の受信信号によって散布ノズル7の開閉を制御するノズル開閉バルブ8から成る散布装置6と、回転軸にファン12が固着されホバークラフト本体2の推進と浮上を成すための送風を行う回転モータ5と、上記ファン12の後方下部に設けられた加圧室16に上記薬剤タンク3の薬剤投入口に連通している空気送風管17の管口を配置し、ファン12の送風によって薬剤タンク3内に圧力を加える加圧装置24と、ソーラーパネル10を補助電源とし、上記回転モータ5を駆動する他、ホバークラフト本体2側の送受信及び制御装置を作動させる充電式バッテリー9と、上記ファン12を被覆するファンダクト11の上部に設けられたCCDカメラ13及び超音波センサー装置14と、上記ファンダクト11の後部に具備され超音波センサー装置14の作動を受けて点灯する危険指示発光体灯15と、上記ファンダクト11の送風口に設けられた安全網19とホバークラフト本体2にバンクを付け旋回性を向上させるために「ハ」の字形に取着され、コントローラ21の受信信号によってホバークラフト本体2を左右に旋回させるラダー18、コントローラ21と無線信号を送受信する船体側のアンテナ20、並びに、船体下部に一体的に装着されたフィンガースカート4から構成されている。
【0014】
続いて、以上のように構成した農薬散布用ホバークラフト1の使用態様について説明する。先ず、農薬散布を実施する場合には、散布に当たる作業者(操縦者)は、コントローラ21及びホバークラフト本体2を所望のほ場まで運搬する。次に、指定の農薬を薬剤タンク3に投入すると共に、充電式バッテリー9をチェックする。続いて、ホバークラフト本体2をほ場の出発地点に置き、コントローラ21のメインスイッチ27をONにすると共に、ホバークラフト本体2のスイッチ(図示せず。)をONにし手動にて回転モータ5をかけると、ホバークラフト本体2の回転モータ5が回転しファン12の送風が開始され、ホバークラフト本体2はほ場面より浮上する一方、加圧室16にも送風が行われることによって空気送風管17の管口より加圧された空気が空気送風管17通じ薬剤投入口から流入し薬剤タンク3内の薬液面を加圧する状態となる。但し、この状態では散布ノズル7は閉鎖状態であるため薬剤散布は行われない。更に続いて、操縦者がコントローラ21の推進を制御する推進操作レバー25を前方にやや倒すようにすると、ホバークラフト本体2はゆっくり前方進行するようになる。ここで、農薬散布スイッチ26をONにすると散布ノズル7が開きの状態となり農薬散布が開始される。また、上記推進操作レバー25は操縦者が当該レバーに力を加えない場合には上方垂直方向に自動復帰するものであり推進停止状態となる。一方、ラダー操作レバー28を操作するとラダー28に角度が与えられ、右側に倒すと右旋回並びに左側に倒すと左旋回を行うものである。更にまた、推進操作レバー25の倒し角度を大きくするに従って回転モータ5の回転数が上昇し推進速度が速くなるようになっている。この際、操縦者はコントローラ21のモニタ22によってホバークラフト本体2に設けられたCCDカメラ13が映し出す船艇前方の映像を視認しながら作業することができる。従って、上記CCDカメラ13が映し出す映像によって折り返し地点となる対岸が近づいていることを確認できるから、推進操作レバー25を垂直方向に戻すと共に上記ラダー操作レバー28を左右どちらかに傾けてホバークラフト本体2を旋回させるようにする。ここで万一、対岸方向に近づき過ぎて衝突の危険が迫った場合には、ホバークラフト本体2に設けられた超音波センサー装置14が作動して警告信号を送信し、これを受信したコントローラ21がスピーカ23から警告音を発生させる一方、超音波センサー装置14の作動を受けてホバークラフト本体2に具備されている危険指示発光体灯15が点燈して操縦者に衝突回避を二重に促すことによって、不慮の事故を回避することができる。続いて、折り返し地点から出発地点までの操縦については、ホバークラフト本体2に設けられたCCDカメラ13が映し出す船艇前方の映像を視認しながら作業することも、或いは、操縦者に対して近接した場合にはモニタ22に依らず直接ホバークラフト本体2を目視しながら操作することもできる。以上のような操作を操縦者はほ場外郭の畦道上にいて、ほ場の一辺間を移動しながら農薬散布作業を実施する。そして、所望のほ場に対する作業が完了したら、コントローラ21のメインスイッチをOFFにし、ホバークラフト本体2のスイッチをOFFにするようにして回転モータ5の回転を停止し、ホバークラフト本体2を当該ほ場から引き上げて作業を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明に係る農薬散布用ホバークラフトは上記構成より成るから、散布される農薬については、液剤に限定する必要がなく粒剤を使用することもできる。更には、本発明に係る農薬散布用ホバークラフトは、薬剤タンクに薬剤の代わりに消雪剤を充填し、操縦者が所要の区域を散布するようにすれば、消雪作業を実施できるものであり、その利用範囲は広い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る農薬散布用ホバークラフトの概要を示した概要構成側面図である。
【図2】本発明に係る農薬散布用ホバークラフトの概要を示した概要構成背面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 農薬散布用ホバークラフト
2 ホバークラフト本体
3 薬剤タンク
4 フィンガースカート
5 回転モータ
6 散布装置
7 散布ノズル
8 ノズル開閉バルブ
9 充電式バッテリー
10 ソーラーパネル
11 ファンダクト
12 ファン
13 CCDカメラ
14 超音波センサー装置
15 危険指示発光体灯
16 加圧室
17 空気送風管
18 ラダー
19 安全網
20 船体側のアンテナ
21 コントローラ
22 モニタ
23 スピーカ
24 加圧装置
25 推進操作レバー
26 農薬散布スイッチ
27 メインスイッチ
28 ラダー操作レバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホバークラフト本体に液剤農薬等を充填するための農薬用タンクと当該農薬を散布するための散布装置を装着し、遠隔操作によって上記散布装置及びホバークラフト本体を操作可能としたラジコンホバークラフトにおいて、当該ホバークラフト本体後部に構成されるファンダクトの上部に、船艇前方の映像をコントローラ上のモニターに写すためのCCDカメラ及び畦道や土手等の障害物に対する設定距離以上の接近を感知しコントローラ上のスピーカーからブザー音を発生させる超音波センサー装置を設けたことを特徴とする、農薬散布用ホバークラフト。
【請求項2】
ホバークラフト本体に液剤農薬等を充填するための農薬用タンクと当該農薬を散布するための散布装置を装着し、遠隔操作によって上記散布装置及びホバークラフト本体を操作可能としたラジコンホバークラフトにおいて、当該ホバークラフト本体後部に構成されるファンダクトの上部に、船艇前方の映像をコントローラ上のモニターに写すためのCCDカメラ及び畦道や土手等の障害物に対する設定距離以上の接近を感知しコントローラ上のスピーカーから警告音を発生させる超音波センサー装置を設ける一方、当該超音波センサー装置の作動を受けて、点灯する危険指示発光体灯がホバークラフト本体に具備されていることを特徴とする、農薬散布用ホバークラフト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−151481(P2007−151481A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352868(P2005−352868)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(505453527)関東電設 株式会社 (2)
【Fターム(参考)】