説明

III−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ

【課題】充分な選択比を備え、また、除去が比較的容易なエッチングストッパ層を得る。
【解決手段】GaAs基板10上に設けられた高電子移動度トランジスタ構造20と、高電子移動度トランジスタ構造20の上に設けられたヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造40と、を備え、高電子移動度トランジスタ構造20とヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造40との間には、As濃度が1.0×1016atoms/cc以上1.0×1021atoms/cc以下のInGaAsP層からなるエッチングストッパ層30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電子移動度トランジスタ構造とヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造とを備えるIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
GaAs等を主要材料に用いるIII−V族化合物半導体を用いた半導体デバイスには、
ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT:Hetero Bipolar Transistor)や高電子移
動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)などがある。HB
Tは、高電力密度を特徴とし、高集積化が容易であるので、電力増幅器や高速論理回路等に用いられる。HEMTは、例えば特許文献1に開示されるように、低雑音動作、低電圧動作を特徴とし、受信用低雑音増幅器や高周波スイッチ等に用いられる。
【0003】
HBT及びHEMTのそれぞれの特徴を活かすため、例えば同一の半導体チップ内に両方のトランジスタを備える素子を形成し、無線通信機器等に用いて更に高性能化を図ることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−261344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、同一の半導体チップ内に両方のトランジスタを形成するには、例えばGaAs等の基板上にHBTの積層構造を形成し、HBT上にHEMTの積層構造を形成したり、或いは、基板上にHEMTを形成し、HEMT上にHBTを形成したりする手法が考えられる。各半導体層を積層した後に、上部トランジスタ構造の一部の領域をエッチング等により除去して下部トランジスタ構造を露出させれば、両方のトランジスタに電極構造等を形成することができる。上部トランジスタ構造の除去時に下部トランジスタ構造がエッチングされてしまうのを防ぐためには、上部・下部の間にエッチングストッパ層を介在させればよい。上部トランジスタ構造の除去後に、エッチングストッパ層を除去して、下部トランジスタ構造に電極等を形成することができる。
【0006】
しかしながら、上記の場合、上部トランジスタ構造の厚さ分をエッチング除去しなければならないことから、エッチングストッパ層に対して非常に高い選択比が要求されることとなり、従来から用いられてきた一般的なエッチングストッパ層では、充分な選択比が得られない場合があった。
【0007】
一方で、エッチングストッパ層は、上部トランジスタ構造の除去後に除去されなければならない。このため、エッチングストッパ層には、除去が容易であることも要求される。
【0008】
エッチングストッパ層が一部でも貫通して下部トランジスタ構造がエッチングされてしまったり、エッチングストッパ層が一部でも残って電極の形成等が阻害されたりすると、トランジスタの電気的特性が低下してしまう可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、充分な選択比を備え、また、除去が比較的容易なエッチングストッパ層により、良好な電気的特性を有するHBTとHEMTとを同一半導体チップ内に形成可能なIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、GaAs基板上に、GaAs層及びAlGaAs層を有するバッファ層と、InGaAs層からなる電子走行層と、n型AlGaAs層、n型InGaP層、又はSiプレナードープ層からなる電子供給層と、ノンドープAlGaAs層又は低濃度n型AlGaAs層からなるショットキー層と、n型InGa(1−X)As層(但し、0<X<1)からなるコンタクト層と、が設けられた高電子移動度トランジスタ構造と、前記高電子移動度トランジスタ構造の上に、コレクタ層と、GaAs層からなるベース層と、InGaP層からなるエミッタ層と、GaAs層からなるエミッタコンタクト層と、ノンアロイ層と、が設けられたヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造と、を備え、前記高電子移動度トランジスタ構造と前記ヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造との間には、As濃度が1.0×1016atoms/cc以上1.0×1021atoms/cc以下のInGaAsP層からなるエッチングストッパ層を備えるIII−V
族化合物半導体エピタキシャルウエハが提供される。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、GaAs基板上に、コレクタ層と、GaAs層からなるベース層と、InGaP層からなるエミッタ層と、GaAs層からなるエミッタコンタクト層と、ノンアロイ層と、が設けられたヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造と、前記ヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造の上に、GaAs層及びAlGaAs層を有するバッファ層と、InGaAs層からなる電子走行層と、n型AlGaAs層、n型InGaP層、又はSiプレナードープ層からなる電子供給層と、ノンドープAlGaAs層又は低濃度n型AlGaAs層からなるショットキー層と、n型InGa(1−X)As層(但し、0<X<1)からなるコンタクト層と、が設けられた高電子移動度トランジスタ構造と、を備え、前記ヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造と前記高電子移動度トランジスタ構造との間には、As濃度が1.0×1016atoms/cc以上1.0×1021atoms/cc以下のInGaAsP層からなるエッチングストッパ層を備えるIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハが提供される。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、前記エッチングストッパ層の層厚は、6nm以上12nm以下である第1又は第2の態様に記載のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、充分な選択比を備え、また、除去が比較的容易なエッチングストッパ層により、良好な電気的特性を有するHBTとHEMTとを同一半導体チップ内に形成可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハを示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハが有するHBT構造の一部の領域をエッチング除去した様子を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハが有するHEMT構造に、電極構造を形成した様子を示す断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハが有するHEMT構造に電極構造を形成した様子を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例に係るHEMTのドレイン飽和電流を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<本発明の第1実施形態>
以下に、本発明の第1実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハに
ついて説明する。
【0016】
(1)III−V族化合物半導体エピタキシャルウエハの構造
本発明の第1実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハの構造につ
いて、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタ
キシャルウエハ1を示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、III−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ1は、例えばGaA
s基板10上に設けられた高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)構造20と、HEMT構造20の上に設けられたヘテロ接合バイポーラ
トランジスタ(HBT:Hetero Bipolar Transistor)構造40とを備える。HEMT構
造20とHBT構造40との間には、エッチングストッパ層30を備える。
【0018】
HEMT構造20とHBT構造40とは、複数の半導体層が積層された構造を備える。HEMT構造20とHBT構造40とが備える複数の半導体層や、エッチングストッパ層30は、例えば有機金属気相成長(MOVPE:Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)
法等でGaAs基板10上に成長させたエピタキシャル層である。
【0019】
(HEMT構造)
HEMT構造20には、GaAs基板10上に、バッファ層21と、電子走行層(チャネル層)22と、スペーサ層23と、電子供給層24と、ショットキー層25と、コンタクト層26とがこの順に設けられている。
【0020】
バッファ層21は、例えばノンドープGaAs層とノンドープAlGa(1−X)As層(但し、0<X<1)とが交互に積層された構造を有する。各半導体層は、例えば数nmから数十nmの厚さに形成され、バッファ層21の厚さは、例えば800nm以上1500nm以下に構成される。
【0021】
電子走行層22は、例えば厚さが30nm程度のInGa(1−X)As層(但し、0<X<1)からなり、スペーサ層23は、厚さが1nm以上10nm以下であって、例えば数nm程度のノンドープGaAs層やノンドープAlGa(1−X)As層(但し、0<X<1)からなる。
【0022】
電子供給層24は、例えば厚さが数十nm程度でキャリア濃度が5.0×1017cm−3以上1.0×1019cm−3以下の、n型AlGa(1−X)As層、又は、n型InGa(1−X)P層からなる(但し、0<X<1)。或いは、電子供給層24は、Siプレナードープ層からなることとしてもよい。
【0023】
ショットキー層25は、例えば厚さが数十nm程度の、ノンドープAlGa(1−X)As層、又は、キャリア濃度が1.0×1017cm−3以下の低濃度n型AlGa(1−X)As層からなる(但し、0<X<1)。コンタクト層26は、例えばキャリア濃度が1.0×1019cm−3以上5.0×1019cm−3以下のn型InGa(1−X)As層(但し、0<X<1)、若しくは、キャリア濃度が1.0×1018cm−3以上のn型GaAs層からなる。いずれの場合も、厚さは50nm以上500nm以下であって、例えば100nm程度である。
【0024】
(HBT構造)
HBT構造40には、HEMT構造20の上に、エッチングストッパ層30を介して、サブコレクタ層41と、コレクタ層42と、ベース層43と、エミッタ層44と、エミッ
タコンタクト層45と、ノンアロイ層46とがこの順に設けられている。
【0025】
サブコレクタ層41とコレクタ層42とは、例えばn型GaAs層からなる。サブコレクタ層41及びコレクタ層41の厚さは、それぞれ、例えば200nm以上800nm以下、及び400nm以上2000nm以下に構成され、キャリア濃度は、それぞれ、例えば1.0×1018cm−3以上7.0×1018cm−3以下、及び5.0×1015cm−3以上3.0×1016cm−3以下である。
【0026】
ベース層43は、例えば厚さが30nm以上150nm以下のp型GaAs層からなり、エミッタ層44は、例えば厚さが40nm程度のn型InGa(1−X)P層(但し、0<X<1)からなる。エミッタコンタクト層45は、例えば厚さが100nm程度のn型GaAs層からなる。
【0027】
ノンアロイ層46は、例えば厚さがそれぞれ50nm程度のn型InGa(1−X)As層(但し、Xの変化の範囲は0→1)と、n型InGa(1−X)As層(但し、0<X<1)とがこの順に積層された2層構造を有する。
【0028】
(エッチングストッパ層)
エッチングストッパ層30は、HEMT構造20とHBT構造40との間に設けられ、例えばAs濃度が1.0×1016atoms/cc以上1.0×1021atoms/cc以下のInGaAsP層からなる。エッチングストッパ層30の層厚は、例えば6nm以上12nm以下に構成される。
【0029】
エッチングストッパ層30は、後述するように、HEMT構造20の表面を一部露出させて電極等を形成するために、例えばHBT構造40の一部の領域をエッチング除去する際の、エッチングストッパとなるよう構成される。また、エッチングストッパ層30は、HBT構造40の除去後に容易に除去されるよう構成される。
【0030】
すなわち、本実施形態では、InGaAsP層をエッチングストッパ層30として用い、エッチングストッパ層30の選択性を向上させるAs濃度を所定の範囲内としている。これにより、充分な選択比を備え、また、除去が比較的容易なエッチングストッパ層30を得ることができる。本実施形態のエッチングストッパ層30の効果は、後述の実施例に係るHEMT構造が備えるショットキー層とコンタクト層との間のエッチングストッパ層を備えた半導体デバイスの評価によって確認されている。
【0031】
(2)III−V族化合物半導体エピタキシャルウエハの製造方法
次に、本発明の第1実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ1の
製造方法について説明する。
【0032】
III−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ1が備える各半導体層は、例えばMOV
PE法を用い、GaAs基板10上に、AlGa(1−X)As系の積層構造を有するバッファ層21から、InGa(1−X)As系の2層構造を有するノンアロイ層46までを成長させて得られる。
【0033】
具体的には、MOVPE装置内にGaAs基板10を搬入して設置し、成長圧力、成長温度を所定値に保った状態で、有機金属ガス等の原料ガスを所定流量供給して行う。ガリウム(Ga)源、アルミニウム(Al)源、インジウム(In)源となる有機金属ガスには、それぞれ、例えばトリメチルガリウム(Ga(CH)、トリメチルアルミニウム(Al(CH)、トリメチルインジウム(In(CH)等を使用する。ヒ素(As)源、リン(P)源としては、それぞれ、例えばアルシン(AsH)、ホスフ
ィン(PH)等の水素化物ガスを使用する。このとき、Ga(CHやAl(CH等のIII族原料ガスのモル数を分母とし、AsHやPH等のV族原料ガスのモ
ル数を分子とする比率(商)、すなわち、V/III比を、所定値とする。
【0034】
また、各層の導電型を決定する導電型決定不純物の添加は、例えば所定の添加ガスを原料ガスに添加することにより行う。n型の導電型決定不純物としては、例えばセレン(Se)やシリコン(Si)等があり、それぞれ、例えばセレン化水素(HSe)やジシラン(Si)等の添加ガスを使用する。p型の導電型決定不純物としては、例えば亜鉛(Zn)等があり、例えばジメチルジンク(Zn(CH)等の添加ガスを使用する。
【0035】
(3)電極構造の形成方法
次に、上述のエッチングストッパ層30の作用に基づき、HEMT構造20に電極等を形成する方法について、図2及び図3を用いて説明する。図2は、本実施形態に係るIII
−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ1が有するHBT構造40の一部の領域をエッチング除去した様子を示す断面図である。図3は、本実施形態に係るIII−V族化合物半
導体エピタキシャルウエハ1が有するHEMT構造20に電極構造を形成した様子を示す断面図である。
【0036】
HEMT構造20への電極構造の形成に先だって、図2に示すように、まずは、HBT構造40の一部の領域を、例えばリン酸(HPO)と過酸化水素(H)水とを用いたエッチング液にて除去する。このとき、エッチングストッパ層30がエッチング液に対して充分な耐性を有していれば、すなわち、HBT構造40とエッチングストッパ層30との選択比が充分高ければ、エッチングストッパ層30の所でエッチングを停止することができる。
【0037】
HBT構造40の一部の領域を除去したら、図3に示すように、HEMT構造20に、ゲート電極51、ソース電極52、ドレイン電極53を、それぞれ形成する。すなわち、まずは、露出したエッチングストッパ層30を、例えば塩酸(HCl水溶液)を用いたエッチング液にて除去する。次に、例えばフォトリソグラフィ法等を用いて、ショットキー層25との選択比を取りながら、コンタクト層26を所定のパターンにエッチングして、ショットキー層25の一部表面を露出させる。次に、例えばスパッタリング法等を用いて、露出したショットキー層25の上にゲート電極51を、コンタクト層26の上にソース電極52、ドレイン電極53を、それぞれ形成して、電極構造を備えるHEMT構造20が形成される。
【0038】
上述のように、HBT構造40のエッチング除去においては、除去すべき厚さがHBT構造40の厚さ分と極めて厚いため、エッチングストッパ層30に対し、非常に高い選択比が要求される。選択比が不十分であると、例えばHBT構造40をエッチング除去する際、エッチングストッパ層30の一部又は全部が貫通し、下層のHEMT構造20までもがエッチングされてしまう。特に、ショットキー層25がエッチングされてしまうと、良好な電気的特性を有する半導体デバイスが得られ難くなってしまう。
【0039】
そこで、本実施形態では、InGaP層に、HBT構造40との選択性を向上させるAsを添加したInGaAsP層をエッチングストッパ層30として用いる。また、As濃度を例えば1.0×1016atoms/cc以上とする。これにより、上層のHBT構造40と充分な選択比を得ることができる。
【0040】
一方で、エッチングストッパ層30の選択比があまりにも高いと、電極構造を形成するに際し、エッチングストッパ層30が除去され難くなるという弊害が生じる。この場合、
除去されずに残ったエッチングストッパ層30が半導体デバイスの電気的特性に影響を与えたり、所定形状の電極等の形成を妨げたりすることで、良好な電気的特性を有する半導体デバイスが得られ難くなってしまう。
【0041】
そこで、本実施形態では、As濃度を例えば1.0×1021atoms/cc以下としている。これにより、エッチングストッパ層30の選択比が適度な値に抑えられ、エッチングストッパ層30の除去が比較的容易となる。
【0042】
また、エッチングストッパ層30の層厚も、エッチングストッパ層30の貫通やエッチング残りの有無に影響を及ぼす。すなわち、エッチングストッパ層30が薄すぎるとエッチングストッパ層30が貫通してしまったり、厚すぎるとエッチング残りが生じてしまったりする。
【0043】
そこで、本実施形態では、エッチングストッパ層30の層厚を、例えば6nm以上12nm以下としている。これにより、エッチングストッパ層30の貫通やエッチング残りを抑制することができる。また、HEMTのシートキャリア濃度の急激な低下や電子移動度の低下を抑制することができる。
【0044】
なお、HEMT構造20の上層のHBT構造40には、エミッタ電極、ベース電極、コレクタ電極(いずれも図示せず)が形成され、III−V族化合物半導体エピタキシャルウ
エハ1はダイシング等されて、同一の半導体チップ内にHEMTとHBTとを備える素子が製造される。
【0045】
(4)本実施形態の変形例に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ
次に、本実施形態の変形例に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハについ
て説明する。本変形例に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハは、上述の実
施形態のHEMT構造20とHBT構造40との上下の位置を入れ替えた構成となっている。すなわち、例えばGaAs基板10上に設けられたHBT構造と、HBT構造の上に設けられたHEMT構造とを備え、HBT構造とHEMT構造との間には、エッチングストッパ層を備える。HBT構造、HEMT構造、及びエッチングストッパ層を構成する各半導体層は、上述のHBT構造40、HEMT構造20、及びエッチングストッパ層30と同様である。
【0046】
本変形例の構成において、エッチングストッパ層は、HBT構造の表面を一部露出させて電極等を形成するために、例えばHEMT構造の一部の領域をエッチング除去する際のエッチングストッパとなるよう構成される。また、エッチングストッパ層は、HEMT構造の除去後に容易に除去されるよう構成される。
【0047】
<本発明の第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハにつ
いて説明する。本実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハにおいて
は、ショットキー層とコンタクト層との間にもエッチングストッパ層を設けた点が、上述の実施形態とは異なる。以下、図4を用いた説明において、上述の実施形態と、同様の機能を有する構成要件に同一の符号を付して説明を省略する。図4は、本実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハが有するHEMT構造に、電極構造を形成し
た様子を示す断面図である。
【0048】
図4に示すように、本実施形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハは
、ショットキー層25とコンタクト層26との間にもエッチングストッパ層31を備える。エッチングストッパ層31は、例えばAs濃度が1.0×1016atoms/cc以
上1.0×1021atoms/cc以下のInGaAsP層からなり、例えば層厚が6nm以上12nm以下に構成される。
【0049】
上記構成により、本実施形態においても、上述の実施形態と同様の効果を奏する。
【0050】
また、本実施形態によれば、電極構造形成時に、コンタクト層26を所定のパターンにエッチングする際、エッチングストッパ層31との選択比を取ることができ、エッチングストッパ層31の所でエッチングを停止することができる。よって、コンタクト層26のエッチングで、例えばショットキー層25がエッチングされてしまうことを抑制することができ、半導体デバイスの電気的特性をいっそう向上させることが可能となる。
【0051】
また、本実施形態によれば、エッチングストッパ層は、コンタクト層のパターン形成後に容易に除去されるよう構成されるので、エッチング残り等が発生することを抑制することができ、半導体デバイスの電気的特性をいっそう向上させることが可能となる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明に係る実施例について説明する。
【0053】
まずは、上述の第1実施形態の変形例と同様の構成、すなわち、HEMT構造及びHBT構造の間と、HEMT構造が備えるショットキー層及びコンタクト層の間とに、それぞれエッチングストッパ層を備えるIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハを複数枚
、製造した。但し、各III−V族化合物半導体エピタキシャルウエハがショットキー層/
コンタクト層間に備えるエッチングストッパ層を、1.0×1013atoms/cc〜1.0×1028atoms/ccまでの異なるAs濃度にそれぞれ形成した。
【0054】
次に、上記各III−V族化合物半導体エピタキシャルウエハが有するHBT構造の一部
の領域を除去し、HEMT構造に電極等を形成した。このように製造したHEMTについて、ドレイン飽和電流を測定した。結果を、図5に示す。
【0055】
図5は、本実施例に係るHEMTのドレイン飽和電流を示すグラフである。図5の横軸は、各HEMTが備えるエッチングストッパ層中のAs濃度(atoms/cc)であり、縦軸は、各HEMTのドレイン飽和電流Idssである。図中、Idss値は相対値として示した。
【0056】
図5に示すように、As濃度が1.0×1016atoms/cc以上1.0×1021atoms/cc以下のエッチングストッパ層を備えるHEMTでは、所定のIdss値が安定して得られている。
【0057】
これに対し、As濃度が1.0×1016atoms/cc未満のエッチングストッパ層を備えるHEMTでは、Idss値が低下している。このことから、電極形成時のコンタクト層のエッチングによって、エッチングストッパ層の少なくとも一部が貫通し、ショットキー層がエッチングされてしまったことがわかる。
【0058】
また、As濃度が1.0×1021atoms/ccより大きいエッチングストッパ層を備えるHEMTでは、Idss値が増加している。このことから、エッチングストッパ層を除去する際、エッチングストッパ層の少なくとも一部にエッチング残りが生じてしまったことがわかる。
【0059】
以上により、As濃度を所定の範囲内とすることで、良好な電気的特性を有する半導体デバイスが得られることがわかる。本実施例では、ショットキー層/コンタクト層間のエ
ッチングストッパ層についての評価であったが、HEMT構造/HBT構造間のエッチングストッパ層についても同様の結果が得られると考えられる。
【0060】
したがって、本実施例の測定範囲内においては、As濃度が1.0×1016atoms/cc以上1.0×1021atoms/cc以下のエッチングストッパ層を用いることで、良好な電気的特性を有する半導体デバイスが得られることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
1 III−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ
10 GaAs基板
20 HEMT構造
21 バッファ層
22 電子走行層
23 スペーサ層
24 電子供給層
25 ショットキー層
26 コンタクト層
30,31 エッチングストッパ層
40 HBT構造
41 サブコレクタ層
42 コレクタ層
43 ベース層
44 エミッタ層
45 エミッタコンタクト層
46 ノンアロイ層
51 ゲート電極
52 ソース電極
53 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAs基板上に、
GaAs層及びAlGaAs層を有するバッファ層と、
InGaAs層からなる電子走行層と、
n型AlGaAs層、n型InGaP層、又はSiプレナードープ層からなる電子供給層と、
ノンドープAlGaAs層又は低濃度n型AlGaAs層からなるショットキー層と、
n型InGa(1−X)As層(但し、0<X<1)からなるコンタクト層と、が設けられた高電子移動度トランジスタ構造と、
前記高電子移動度トランジスタ構造の上に、
コレクタ層と、
GaAs層からなるベース層と、
InGaP層からなるエミッタ層と、
GaAs層からなるエミッタコンタクト層と、
ノンアロイ層と、が設けられたヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造と、を備え、
前記高電子移動度トランジスタ構造と前記ヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造との間には、As濃度が1.0×1016atoms/cc以上1.0×1021atoms/cc以下のInGaAsP層からなるエッチングストッパ層を備える
ことを特徴とするIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ。
【請求項2】
GaAs基板上に、
コレクタ層と、
GaAs層からなるベース層と、
InGaP層からなるエミッタ層と、
GaAs層からなるエミッタコンタクト層と、
ノンアロイ層と、が設けられたヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造と、
前記ヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造の上に、
GaAs層及びAlGaAs層を有するバッファ層と、
InGaAs層からなる電子走行層と、
n型AlGaAs層、n型InGaP層、又はSiプレナードープ層からなる電子供給層と、
ノンドープAlGaAs層又は低濃度n型AlGaAs層からなるショットキー層と、
n型InGa(1−X)As層(但し、0<X<1)からなるコンタクト層と、が設けられた高電子移動度トランジスタ構造と、を備え、
前記ヘテロ接合バイポーラトランジスタ構造と前記高電子移動度トランジスタ構造との間には、As濃度が1.0×1016atoms/cc以上1.0×1021atoms/cc以下のInGaAsP層からなるエッチングストッパ層を備える
ことを特徴とするIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ。
【請求項3】
前記エッチングストッパ層の層厚は、6nm以上12nm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウエハ


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−234893(P2012−234893A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100967(P2011−100967)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】