説明

乗用型収穫作業機

【課題】圃場の状態に応じたきめ細かい旋回態様を選択可能な収穫作業機を提供する。
【手段】収穫作業機は走行機体の左右に配置したクローラによって走行する。左右のクローラは、直進機構と旋回機構との組み合わせによって周速度が相対的に変化し、これによって左右いずれかに旋回する。また、旋回時におけるクローラの動きは、旋回内側のクローラが逆転しないノーマルモードと、旋回内側のクローラが逆転するスピンターンモードとがある。更に、直進機構及び旋回機構はオペレータの操作によって出力を増減できる増減装置141,142を備えており、ノーマルモードにおいてもスピンターンにおいても速度を選択できる。このため、圃場の状況に応じた旋回速度を選択できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンバインや飼料ベーラ(ロールベーラ,コンバインベーラ)のようなクローラ走行方式の乗用型収穫作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クローラ走行方式の収穫作業機として例えば稲用コンバインがある。このコンバインにおいて、走行機体に搭載されたエンジンからの動力は油圧無段変速機を介して左右のクローラに伝達され、左右クローラが同一の周速度で駆動されることで走行機体は直進し、左右クローラの周速度を相対的に異ならせることで走行機体は右旋回又は左旋回する。
【0003】
かかる構成のコンバインの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1のコンバインは、旋回操作手段として左右傾動方式の旋回用レバーを備えており、旋回用レバーを左右に傾動操作した場合に、コントローラの指令にて旋回内側のクローラへの動力伝達を遮断したり又は旋回内側のクローラを制動状態にしたりすることにより、左右のクローラの周速度を相対的に異ならせている。
【0004】
更に、特許文献1では、旋回レバーの操作モードがスピンターン可能な第1旋回モードとスピンターンせずに通常の旋回のみ行う第2旋回モードとに切り換わる選択スイッチを備えており、オペレータが選択スイッチを切り替えることにより、圃場状況等に見合った操向制御を実現せんとしている。
【特許文献1】特開平7−47973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンバインで稲を収穫するに際して圃場の状態は湿田と乾田とに大別される。湿田においてコンバインがスピンターンするとクローラで圃場を過度にえぐり起こしてしまうことになり、そこで、湿田ではスピンターンせずに緩やかに旋回することで圃場面の荒れを抑制し、圃場面のえぐり現象が生じない乾田ではスピンターンして作業の迅速化を図っている。
【0006】
しかし、水田における圃場面の状態は湿田と乾田とに峻別される訳ではなく、湿り具合(或いは乾き具合)の程度は様々であり、ぬかるみに近い状態からカラカラに近い状態まで千差万別である。1枚の圃場において場所によって乾き具合が異なる場合もある。従って、スピンターンの有無だけを選択できるに過ぎない構成(すなわち、スピンターンモードとスピンターンカットモードとの選択)では、圃場の状態に応じたきめ細かい旋回を実現し難いのであった。
【0007】
牧草地や畑についても圃場面の状態は様々である。例えば、水はけの善し悪しにより場所により乾き具合が大きく相違する場合や、雨後の状態と晴天続きの状態とでは乾き具合が大きく相違するというように天候によって相違する場合もある。従って、ロールベーラやコンバインベーラ、或いは陸稲用コンバインのように牧草地や畑で作業を行う収穫作業機においても圃場面の状態に応じたきめ細かい旋回性能の実現に対する要望があると言えるが、水田用コンバインと同様にかかる要望に応えてはいなかった。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る収穫作業機は、左右に配置したクローラで走行する機体と、前記機体に設けられた収穫作業装置と、前記左右のクローラを同一速度で駆動する直進機構と、左右の走行クローラを異なる速度で駆動する旋回機構と、前記直進機構と旋回機構とを操作する操縦具とを備えており、かつ、旋回内側のクローラを逆転させるスピンターンモードと逆転させないノーマルモードとをオペレータが選択可能である、という構成に加えて、前記操縦具の操作と直進機構及び旋回機構の出力との関係をオペレータの操作によって異ならせる旋回モード変更手段が設けられている。
【0010】
請求項2の発明に係る収穫作業機は、請求項1において、前記操縦具の動き量と左クローラの駆動量との関係を変更する左旋回設定器と、操縦具の動き量と右クローラの駆動量との関係を変更する右旋回設定器とが備えられており、左旋回設定器と右旋回設定器とが個別に調節可能になっている。
【0011】
請求項3の発明では、請求項1において、前記操縦具の操作と直進機構及び旋回機構の出力との関係を異ならせた複数のお勧め旋回モードが予め設定されており、任意の旋回モードをオペレータが選択可能になっている。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によると、回転式ハンドルや回動式レバーのような操縦具を操作して走行機体の向きを変えて(旋回する)において、例えば、スピンターンしないスピンターンカットモードにおいて基準状態よりもゆっくり旋回したり素早く旋回したりというように旋回速度を変えたり、或いは、スピンターンモードにおいて、基準状態を境にしてゆっくりスピンターンしたり素早くスピンターンしたりというように、スピンターンの速度をオペレータの選択によって変えることができる。
【0013】
このため、圃場面(或いは路面)の状態(例えば乾き具合や凹凸の具合)に応じたきめ細かい旋回状態を実現できる。或いは、収穫物の積載量の多寡(或いは重量バランス)に応じた適切な旋回状態を確保することもできる。
【0014】
ところで、収穫物の積載量の多寡等により、重心が左に寄ったり右に寄ったりというように重量(重心)のバランスが走行機体の中心線から左右いずれかに偏る場合があり、このように重心が左右方向に偏ると左クローラと右クローラとの地面に対する走行抵抗が大きく異なり、その結果、走行機体が蛇行することがある。これに対して本願発明の請求項2の構成を採用すると、左クローラと右クローラとの出力を個別に調節できるため、接地抵抗が大きいクローラをゆっくり周回させるというようにして蛇行を防止できる利点がある。
【0015】
本願発明において旋回モードの変更は例えばオペレータがレバー操作したりタッチパネルに入力したりというように様々の方法を採用できるが、請求項3の構成を採用すると、オペレータは希望のモードを簡単に選択できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本願発明は乗用型コンバインに適用している。なお、本実施形態で「前後」「左右」の文言を使用するが、この文言は、コンバインの前進方向を向いた姿勢を基準にしている。
【0017】
(1).コンバインの概略
まず、主として図1〜図3に基づいてコンバインの概略を説明する。図1は全体の側面図(右側面図)、図2は全体の平面図、図3のうち(A)は前部の側面図、(B)は(A)のB−B視概略図である。
【0018】
本実施形態のコンバインは二条刈り仕様であり、左右のクローラ2で支持された走行機体1と、その前端部に高さ変更可能に連結された刈取部3を大きな要素としている。左右のクローラ2はそれぞれ一つの駆動輪と多数の従動輪とで周回するようになっており、駆動輪4は前部に配置されている。そして、左右の駆動輪4の相対的な回転数を変えることで舵取りされる。
【0019】
刈取部3は、圃場の穀桿を捌く分草体5、捌かれた穀桿を保持して掻き揚げる掻き揚げタイン装置6、穀桿の株元を切断するカッター、刈取られた穀桿を走行機体1に向けて送るチエン方式の搬送装置7、未刈り穀桿を捌く起倒式の左右のサイドデバイダ8、等を備えている。これらの装置はフレームに取付けられており、フレームは駆動軸が内蔵されたメインリンク9を介して走行機体1の前端部に連結されており、メインリンク9を油圧シリンダで回動させることにより、刈取部3が昇降する。穀桿は、株元を左にして横向きに寝た姿勢で、走行機体1の左側部分に搬送される。
【0020】
走行機体1は、クローラ2が取付けられたトラックフレーム(車台)とこれに固定された機体とを基本要素として構成されており、この走行機体1に、処理装置として、刈取部3から送られた穀桿を寝かせた状態で後方に向けて搬送するフィードチエン10、フィードチエン10で搬送された穀桿から籾を分離する脱穀部11、脱穀された籾を貯めるグレンタンク12、グレンタンク12から籾を機外に排出する旋回自在及び伸縮自在なオーガ13などが搭載されている。なお、脱穀後の排藁はカッターで裁断されて圃場に放散される。刈取部3や脱穀部11は請求項に記載した収穫装置の一部を構成している。
【0021】
グレンタンク12は走行機体1の右後部に配置されており、走行機体1のうちグレンタンク12の前方の部分に運転席14を設けている。すなわち、運転席14は走行機体1の前右部に配置されている。運転席14には、操縦者Oが腰掛ける座席15、操縦者Oが足を載せる床板(ステップ板)16、操縦ハンドル17、座席15に座った操縦者Oの左側の部分に配置されたサイドコラム18等が設けられており、サイドコラム18に主変速レバー19や副変速レバー20等のレバー類やスイッチ類を設けている。
【0022】
主変速レバー19を中立姿勢から前に倒すと走行機体1は前進し、中立姿勢から後ろに引くと走行機体は後退する。また、主変速レバー19は路上走行時のアクセルの役目も持っており、前倒しの程度が大きくなるほど速度は増す。副変速レバー20は走行速度を2段階又は3段階に切り替えるためのもので、例えば、圃場作業モード用低速と路上走行モード用高速との2段階切り替えや、低速(例えば畦超え時に使用)と中速(圃場作業)と高速(路上走行)との3段階切り替えなどがある。
【0023】
座席15の下方はエンジンルーム21になっていてここにエンジン22が配置されている。エンジンルーム21は前後及び左は隔壁で囲われており、右は開閉式のサイドカバー23で覆われている。サイドカバー23はフィルターを兼用するもので、空気はサイドカバー23で藁屑等の塵埃を除去してからエンジンルームに入る。
【0024】
運転席14における床の前部には操縦ケース(ステアリングコラム)24が立設されており、操縦ケース24の上端部に前記操縦ハンドル17が取付けられている。操縦ケース24には、操縦ハンドル25や主変速レバー19の操作をクローラ2に伝達するための走行操作機構(直進機構及び旋回機構)が内蔵されている(詳細は後述する)。操縦ハンドル17を回転すると、操縦ケース24に内蔵した旋回機構を介して左右のクローラ2の周回速度が変わって走行機体1が舵取りされる。
【0025】
(2).走行制御・操向制御の概略
次に、図4の模式図に基づいて走行制御(変速制御)及び操向制御の系の概略を説明する。走行機体1には、ミッションケース26に内蔵された伝動装置が設けられており、伝動装置によって走行機体1が駆動される。ミッションケース26には、速度変更用の主変速機構27と、舵取り用の旋回機構(操向機構)28とが連結されている。主変速機構27は、第1油圧ポンプ29と第1油圧モータ30とを備えた油圧式無段変速機構で構成されており、同様に、旋回機構28も、第2油圧ポンプ31と第2油圧モータ32とを備えた旋回用の油圧式無段変速機構で構成されている。
【0026】
エンジン22の出力軸22aから、第1及び第2油圧ポンプ29,31の入力軸29a,31aに伝達ベルト33,34を介して動力が伝達されており、これによって両機構27,28の油圧ポンプ29,31が駆動される。
【0027】
また、第2油圧モータ30の出力軸35に、副変速機構36及び差動機構37を介して左右走行機体1の各駆動輪4が連動連結されている。差動機構37は左右対称の1対の遊星ギヤ機構40を有している。遊星ギヤ機構40は、1つのサンギヤ39と、該サンギヤ39の外周に噛合う3つのプラネタリギヤ41と、これらプラネタリギヤ41に噛合うリングギヤ42などで構成されている。
【0028】
プラネタリギヤ41は、サンギヤ39と同軸のキャリヤ軸43に設けたキャリヤ44に回転自在に軸支されており、左右のサンギヤ39を挾んで左右のキャリヤ44が対向する姿勢に配置されている。また、リングギヤ42は、各プラネタリギヤ41に噛み合う内歯42aを有していてサンギヤ39と同一軸芯上に配置されていると共に、キャリヤ軸43に回転自在に軸支されている。そして、キャリヤ軸43を長く伸ばすことで車軸が形成されており、その先端部に駆動輪4が連結されている。
【0029】
走行用の主変速機構27は、第1油圧ポンプ29の回転斜板の角度変更調節により第1油圧モータ30の正逆回転と回転数の制御を行うもので、第1油圧モータ30の回転出力は、出力軸46に設けた伝達ギヤ45からギヤ47,48,49の群と副変速機構36とを介して、サンギヤ軸50に固定されたセンタギヤ51に伝達され、これによってサンギヤ39が回転する。
【0030】
副変速機構36は、前記ギヤ48を有する副変速軸52と、前記ギヤ49を介してセンタギヤ51に噛合うギヤ53を有する駐車ブレーキ軸54とを備え、副変速軸52とブレーキ軸54との間に1対ずつの低速用ギヤ55,56、中速用ギヤ57,58、高速用ギヤ59,60が配置されている。そして、低中速スライダ61及び高速スライダ62のスライド操作により、副変速の低速・中速・高速の切換えが行われる。
【0031】
なお低速と中速との間、及び中速と高速との間ではそれぞれ中立になっている。また、ブレーキ軸54に駐車ブレーキ63を設けると共に、刈取部3に動力を伝達する刈取PTO軸64に、ギヤ65,66及び一方向クラッチ67を介して副変速軸52が連動連結されている。従って、刈取部3の部材は車速と同調して駆動される。
【0032】
上記のように、第1油圧モータ30から出力された駆動力は、センタギヤ51を介しサンギヤ39に伝達され、それから、左右の遊星ギヤ機構40を介して左右キャリヤ軸43に伝達され、左右キャリヤ軸43の回転トルクが左右の駆動輪4にそれぞれ伝えられ、これによって左右走行機体1が駆動される。
【0033】
旋回用の旋回機構28は、第2油圧ポンプ31の回転斜板の角度変更調節によって第2油圧モータ32の正逆回転と回転数の制御を行うもので、第2油圧モータ32は出力軸68を有している。そして、ミッションケース26に、操向出力ブレーキ69を有するブレーキ軸70と、操向出力クラッチ71を有するクラッチ軸72と、前記の左右遊星ギヤ40の外歯40bに常時噛合させる左右入力ギヤ73,74とが内蔵されており、第2油圧モータ32の出力軸74に前記ブレーキ軸70及び操向出力クラッチ71を介してクラッチ軸72が連結されている。
【0034】
クラッチ軸72には正転ギヤ75を介して右入力ギヤ74が連結されており、またクラッチ軸72には正転ギヤ75及び逆転ギヤ76を介して左入力ギヤ73が連結されている。
【0035】
副変速スライダ61,62を中立にして操向出力ブレーキ69を入にしかつ操向出力クラッチ71を切にすると、右側のリングギヤ40の外歯40bに正転ギヤ75を介して第2油圧モータ32の回転力が伝えられて、第2油圧モータ32の正転時、左リングギヤ40の逆転と右リングギヤ40の正転とが同一回転数で行われる。
【0036】
他方、中立以外の副変速出力時に操向出力ブレーキ69を切にしかつ操向出力クラッチ71を入にすると、左側のリングギヤ40の外歯40bに正転ギヤ75及び逆転ギヤ76を介して第2油圧モータ32の回転を伝えられて、第2油圧モータ32の逆転時、左リングギヤ40の正転と右リングギヤ40の逆転とが同一回転数で行われる。
【0037】
しかして、旋回用の第2油圧モータ32を停止させて左右リングギヤ40を静止固定させた状態で走行用の第2油圧モータ32を駆動すると、第2油圧モータ32からの回転出
力はセンタギヤ51から左右のサンギヤ39に同一回転数で伝達され、従って、左右遊星ギヤ機構40のプラネタリギヤ41,キャリヤ44を介して左右の走行機体1が左右同一周回方向に同一周速度で駆動され、その結果、走行機体1は直進走行する。
【0038】
一方、走行用の第1油圧モータ30を停止させて左右のサンギヤ39を静止固定させた状態で、旋回用の第2油圧モータ32を正逆回転駆動すると、左側の遊星ギヤ機構40が正転或いは逆回転すると共に、右側の遊星ギヤ機構40が逆転又は正回転し、これによって左右走行機体1が逆方向に駆動されて走行機体1は左又は右に旋回する。
【0039】
また、走行用の第1油圧モータ30を駆動させながら旋回用の第2油圧モータ32を駆動することにより、走行機体1が左右に旋回して進路が修正される。その場合、機体の旋回半径は第2油圧モータ32の出力回転数によって決定される。
【0040】
(3).走行制御及び操向制御の構造
次に、制御系統の模式図である図5を中心にして変速制御と操向制御との関係の概略を説明する。
【0041】
既述のように、運転台14の前部には操縦ケース24が立設固定されており、操縦ケース24の上方部に操縦ハンドル17が縦軸回りに自在に回転するように配置されている。前記したミッション26はサイドコラム18の下方に配置されている。操縦ケース24は、アルミニウム合金鋳物の成形加工品であり、左右に分割できる2パーツ構造になっている。なお、図3(B)において符号85で示すのはハンドル17の側面視姿勢を変更するチルトレバー、符号134で示すのはエンジンの出力を手動調節するためのアクセルレバーである。
【0042】
ハンドル17には上ハンドル軸(図示せず)及び自在継手(図示せず)を介して下ハンドル軸87が連結されており、下ハンドル軸87は操縦ケース24の上部にベアリングを介して回転自在に軸支されている。操縦ケース24の上部には操向入力軸88の上端部が回転自在に軸支されており、下ハンドル軸87に設けたギヤ89と操向入力軸88のセクタギヤ90を噛合させることにより、両軸87,88を連動連結させている。
【0043】
操縦ケース24の内部のうち右内側面部でかつ上下幅略中間の部位に軸受け部材91がボルトで固定されており、この軸受け部材91に、変速入力軸92の一端部が軸受け筒(図示せず)を介して片持ちの状態で取付けられている。変速入力軸92は軸心回りに回転し得る。
【0044】
操向入力軸88の下端には自在継手94を介して入力支点軸95の上端部が連結されており、入力支点軸95には操向入力部材96が固定されている。変速入力軸92に操向入力部材96がベアリング(図示せず)を介して回転自在に嵌め込まれている。操向入力部材96は、操向入力軸87の軸心回りに回転し得る。
【0045】
操向入力軸88を正逆回転させると、操向入力部材96は入力軸88の軸心回りに正逆回転する。また、変速入力軸92が左右横長の回転軸回りに正逆回転(回動)すると、入力支点軸95及び操向入力部材96は入力軸92の左右横長芯線回りに回動して前後方向に傾動する。そして、鉛直方向に延びる操向入力軸88の回転軸心と、変速入力軸92の左右横長の回転軸心とが交叉する交点部に自在継手94が取付けられており、操縦ハンドル17で操向入力軸88を正逆回転操作すると、操向入力部材96と入力連結体98とは操向入力軸87の軸心回りに正逆転する。
【0046】
操縦ケース24の下部でかつ後側部には、左右横長の主変速軸100が回転自在に軸支されている。主変速軸100の右端部は操縦ケース24にベアリングを介して軸支されており、他方、左端部は操縦ケース24の左側に露出しており、この主変速軸100の左露出部には、サイドコラム18の下方の機台1aに回転自在に設けた中間軸(図示せず)が、リンク101,102並びに長さ調節ターンバックル103付きロッド104を介して連結されている。
【0047】
リンク101と主変速レバー19とは、ロッド104や他の部材(図示せず)を介して相対回動可能に連結されており、主変速レバー19を前後方向に揺動させると主変速軸100が正逆回転する。また、図5から容易に理解できるように、ロッド形主変速部材105を介して変速入力軸92と主変速軸100とが連動連結されており、主変速レバー19の前後回答によって主変速軸100が正逆回転すると、操向入力部材96が変速入力軸92の軸心回りに前後に傾動する。
【0048】
主変速軸100には筒軸形の操向出力軸108が相対回転自在に被嵌しており、操向出力軸108にはこれと直交した方向に延びるリンク形操向出力部材109が固定されている。操向出力部材109には、球関継手形操向出力連結部110を介して操向結合部材111が連結されており、ロッド形操向結合部材111は入力連結体98に自在継手形操向入力連結部112を介して連結されている。操向出力軸108,操向出力部材109,操向結合部材111,操向入力連結部112といった部材は操向系113を構成している。
【0049】
操向出力軸108の上方には変速出力軸115が配置されており、この変速出力軸115は操縦ケース24の内部に回転自在に軸支されている。変速出力軸115にはこれから前向きに延びるリンク形変速出力部材116が固定されている。変速出力軸120の後端には、球関継手形変速出力連結部117を介して上下長手の変速結合部材118の下端部が連結されており、ロッド形変速結合部材118の上端部は走行入力部材96にに自在継手形変速入力連結部119を介して連結されている。変速出力軸115,変速出力部材116,変速結合部材118,変速入力連結部119といった部材により、走行速度の変更並びに前後進の切換を行う変速系120が構成されている。
【0050】
操縦ケース24の下部後側でかつ左右中央部には上下長手の軸受部121が設けられており、この軸受部121に、内側の操向操作軸122と外側の変速操作軸123とが相対回転自在に嵌まり合った二重軸構造体が相対回転自在に軸支されている。変速操作軸123の上端部は、長さ調節自在な球関継手軸124及び変速リンク125,126を介して変速出力軸115に連結されている。更に、操向操作軸122の上端部は、長さ調節自在な球関継手軸127及び操向リンク128,129を介して操向出力軸108に連結されている。
【0051】
操作軸122,123の下端部は、操縦ケース24の底面下方に突出し、かつ、運転席14における作業者搭乗ステップ(床板)16の下方に露出している。前記主変速機構27の出力制御軸(図示せず)に車速制御アーム(図示せず)を固定し、ターンバックル(付き長さ調節自在車速ロッド(以下「車速ロッド」)130及び車速リンク131を介して前記変速操作軸123の下端部と車速制御アームに連結している。出力制御軸の正逆転操作によって第1油圧ポンプ29の斜板角調節を行うことで第1油圧モータ30の回転数制御及び正逆転切換が行われ、これにより、走行速度(車速)の無段階変更並びに前後進の切換が行われる。
【0052】
また、旋回機構28の出力制御軸(図示せず)に操向制御アームが固定されており、ターンバックル付きで長さ調節自在旋回ロッド(以下「旋回ロッド」)132及び旋回リンク133を介して操向操作軸122の下端部と操向制御アームとが連結されている。そして、出力制御軸を正逆転操作して第2油圧ポンプ31の斜板角調節を行うことで第2油圧モータ32の回転数制御及び正逆転切換を行い、これにより、操向角度(旋回半径)の無段階変更並びに左右旋回方向の切替えが行われる。
【0053】
既述のとおり、変速系120の動作量に比例して操向系113の操向量が変化するもので、高速側走行変速によって操向量が自動的に拡大し、かつ低速側走行変速によって操向量が自動的に縮少する。また、操縦ハンドル17の一定量の回転操作により、走行速度に関係なく左右走行機体1の旋回半径が略一定に維持される。
【0054】
また、変速入力連結部112と操向入力連結部119とが、変速入力軸92と操向入力軸88の軸芯交点Bを中心とする円周C上で約90度離間しているため、変速入力軸92の回転によって操向入力連結部112を一定位置に維持させながら変速入力連結部119の変位量を最大にして走行変速を行わせることができる。
【0055】
スピンターン動作は、操向部材28の出力により差動機構37を介して左右クローラ2の一方を正転させて他方は逆転させることにより、左右走行機体1の前後及び左右中心点回りに旋回させる動作であるが、前後進走行と旋回とが同時に行われて前後進出力である変速部材25の回転と旋回出力である操向部材28の回転の割合により旋回半径が決定される。
【0056】
左右クローラ2が同じ方向に周回して旋回するノーマルモードと左右クローラが互いに逆方向に周回して急旋回するスピンターンモードとの切り替えは、図3(B)に示すように操縦ケース24に取付けられたボタン140をプッシュ操作することで行われる。
【0057】
すなわち、ボタン140が突出している状態では旋回態様は左右クローラ2が同じ方向に異なる周速度で周回するノーマルモードになっており、主変速レバー19に主変速機構27が連結された状態では、操縦ハンドル17の操作量に比例して車速が減速する一方、ボタン140をプッシュすると、主変速レバー19が主変速機構27に連結されたスピンターンモードになり、この状態では、操縦ハンドル19を回転操作すると左右のクローラ2が逆方向に周回して走行機体1を急旋回させることができる。
【0058】
(4).旋回モードの変更
既述のとおり、車速ロッド130が前進動すると第1油圧ポンプ29の傾板の傾斜角度が変わって第1油圧モータ30の出力が変化し、また、旋回ロッド130が前進動すると第2油圧ポンプ31の傾板の傾斜角度が変わって第2油圧モータ32の出力が変化し、これらによって左右クローラ2に相対的な速度差が生じて走行機体1は旋回する。
【0059】
そして、図5に示すように、車速ロッド130と第1油圧ポンプ29との間には車速用増減装置141を介在せしめ、旋回ロッド132と第2油圧ポンプ31との間には車速用増減装置142を介在せしめ、これら増減装置141,142を介してロッド130,132の動きをポンプ29,31の斜板に伝えている。これら増減装置141,142は請求項に記載した旋回モード変更手段の一環を成している。
【0060】
増減装置141,142は、ロッド130,132に固定された筒体143と、筒体143に螺合した雄ねじ軸144と、雄ねじ軸144を回転操作するモータ145とを備えている。雄ねじ軸144にはナット146が螺合しており、ロット146は筒体143に回転自在で摺動不能に保持されている。従って、モータ145でナット146を正逆回転させると雄ねじ軸144はロッド130,132から離れる方向に前進したりロッド130,132に近づく方向に後退したりする。雄ねじ軸144とポンプ29,31の斜板とはジョイント147で連結されている。
【0061】
図5に示すように、走行・操向系は、操縦ハンドル17の回転角度を検知する角度センサ149を備えており、角度センサ149と増減装置131,142のモータ145とはケーブル150,151で結線されている。
【0062】
そして、増減装置141,142のモータ145が停止している状態を基準モードとして、操縦ハンドル17の回転に応じてモータ145を正転させてねじ軸144を前進させると旋回速度が速くなる増速モードとなり、操縦ハンドル17の回転に応じてモータ145を逆転させてねじ軸144を後退させると旋回速度が遅くなる減速モードになる。従って、操縦ハンドル17の回転に関連させて両増減装置141,142のモータ145の回転を制御することにより、様々の旋回モードを実現できる。
【0063】
図6では操縦ハンドル17の回転角度とクローラの周速度との関係をグラフで示している。図において一点鎖線は左右クローラが同じ方向に周回するノーマルモードを示しており、「N基準外」はノーマルモードにおける旋回外側のクローラを示し、「N基準内」はノーマルモードにおける旋回内側のクローラを示している。そして、操縦ハンドル17の回動に応じて増減装置141,142のモータを正転させると増速して旋回し、操縦ハンドル17の回動に応じて増減装置141,142のモータを正転させると減速してゆっくり旋回する。
【0064】
図において実線と二点鎖線とは旋回内側のクローラが逆転するスピンターンでのクローラの動きを示しており、「S基準外」はスピンターンモードにおける旋回外側のクローラを示し、「S基準内」はスピンターンモードにおける旋回内側のクローラを示している。そして、操縦ハンドル17の回動に応じて増減装置141,142のモータを正転させると増速して素早くスピンターンし、操縦ハンドル17の回動に応じて増減装置141,142のモータを正転させると減速してゆっくりスピンターンする。
【0065】
ノーマルモードにおいてもスピンターンにおいても、速度の増加率や減少率は操縦ハンドル17の回転量(或いは角速度)に対するモータ145の回転数の割合を変化させることで任意に設定できる。
【0066】
(5).操作具の具体例
次に、オペレータがどのようにして旋回モードを選択するのか具体例を図7に基づいて説明する。オペレータが操作する操作具は運転席におけるオペレータの手が届く部位に設けている。具体的には、サイドコラム18、操縦ハンドル17、運転席14の前部を構成するフロントパネルなどに設ける。操作具も請求項に記載した旋回モード変更手段の一環を成している。
【0067】
図7のうち(A)に示す第1例では操作具として回転式のシングル摘み153を採用している。この第1例では、摘み153は基準状態を境にして右回転させると旋回速度は増速し、左回転させると旋回速度は減少する。右旋回と左旋回とは同じように増速・減速する。増速・減速の程度は無段階でも良いし、段階的でも良い。
【0068】
(B)に示す第2例では、操作具として回転式の摘みを採用しているが、この例では、左旋回用摘み154と右旋回用155とのダブル方式を採用している。回転と速度との関係は第1例と同じである。運転席は一般に走行機体の右端部に設けていることが多いため、左旋回では遠心力によってオペレータは振り飛ばされるような現象を生じることがあるが、第2例では左旋回と右旋回とで旋回速度を変更できるので、安全に旋回できる。
【0069】
(C)に示す第3例では操作具として回動式のレバー156を採用している。レバー156は、操縦ハンドル17が回転してもモータ145が回転しない基準状態を境にして両側に回動することができる。この場合も、速度の選択は無段階とすることも有段階とすることも可能である。
【0070】
(D)に示す第4例では、液晶等のタッチパネル方式を採用しており、パネル157にモード選択のメニューを設けておいて、「遅」の領域と「速」の領域とを押すと速度が段階的に変化するようになっている。増速又は減速の程度はパネル157に棒グラフ状のメモリとして表れる。
【0071】
(E)に示す第5例もタッチパネル方式を採用している。この第5例では、ノーマルモードとスピンターンとにおいてそれぞれ低速・中速(基準状態)・高速を選択できるようになっている。また、速度の表示に併せて、圃場がどのような状態のときにどの速度が好適であるかというお勧め条件も表示している。速度の箇所とお勧め条件の箇所とのいずれもスイッチになっている。お勧め条件はリセットしてから表示し直す(入力し直す)ことができる。
【0072】
(F)に示す第6実施形態は操作具として回動式のレバー158を採用している。そして、この例では、ノーマルモードとスピンターンとの変更及び速度の変更が同時に行われるようになっている。従って、この例ではノーマルモードとスピンターンとを切り替えるプッシュ式のボタンは備えておらず、レバー158はオペレータが走行中に任意に操作できるようになっている。ノーマルモード及びスピンターンとも速度は「高」「中」「低」のような3段階以上とすることも可能である。
【0073】
(G)に示す第7実施形態では操作具として回転式摘みを採用しており、左右のクローラ2の速度がそれぞれ摘み159,160によって個別に増減される。左右のクローラ2の速度を個別に変更する手段としては、それぞれのクローラの駆動系に伝動制御式の制動機構を介在させたら良い。
【0074】
(6).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば操縦具は回転式のハンドルには限らず、回動式のレバーであっても良い。また、操作具としては、摘みやレバーやタッチパネルの他にプッシュ式ボタンなども採用できる。操作具がタッチパネル方式の場合、オペレータが数値を具体的な装置を入力することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本願発明を適用したコンバインの全体の側面図である。
【図2】コンバインの全体の平面図である。
【図3】(A)コンバインの前部の側面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【図4】走行制御及び操向制御の系統の概略を示す模式図である。
【図5】制御系統の模式図である。
【図6】ハンドルの回転と左右クローラの速度との関係を示したグラフである。
【図7】操作具の例を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 走行機体
2 クローラ
4 駆動輪
17 操縦ハンドル
19 主変速レバー
24 操縦ケース
27 主変速機構
28 操向機構
29 変速用の第1油圧ポンプ
30 変速用の第1油圧モータ
31 旋回用の第2油圧ポンプ
32 変速用の第2油圧モータ
141 操向モード変更手段の一環を成す走行用増減装置
142 旋回モード変更手段の一環を成す旋回用増減装置
153〜160 旋回モード変更手段の一環を成す操作具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に配置したクローラで走行する機体と、前記機体に設けられた収穫作業装置と、前記左右のクローラを同一速度で駆動する直進機構と、左右の走行クローラを異なる速度で駆動する旋回機構と、前記直進機構と旋回機構とを操作する操縦具とを備えており、かつ、旋回内側のクローラを逆転させるスピンターンモードと逆転させないノーマルモードとをオペレータが選択可能である、
という構成に加えて、
前記操縦具の操作と直進機構及び旋回機構の出力との関係をオペレータの操作によって異ならせる旋回モード変更手段が設けられている、
乗用型収穫作業機。
【請求項2】
前記操縦具の動き量と左クローラの駆動量との関係を変更する左旋回設定器と、操縦具の動き量と右クローラの駆動量との関係を変更する右旋回設定器とが備えられており、左旋回設定器と右旋回設定器とが個別に調節可能である、
請求項1に記載した乗用型収穫作業機。
【請求項3】
前記操縦具の操作と直進機構及び旋回機構の出力との関係を異ならせた複数のお勧め旋回モードが予め設定されており、任意の旋回モードをオペレータが選択可能である、
請求項1に記載した乗用型収穫作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−89651(P2009−89651A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263461(P2007−263461)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】