説明

作業車

【課題】農作業等の作業性を向上させることができる作業車を実現する。
【解決手段】電動モータの回転を制御して、ステアリングハンドルの操作量に対応するステアリング装置の入力軸の操作量の比であるステアリングレシオを変更可能な可変レシオモードと、電動モータの回転を制御して、予め設定された設定位置又は設定方向に沿って走行機体を自動操向させる直進モードとを実行可能な制御装置を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングハンドルを操作することによりステアリング装置の入力軸を操作して操向操作できるように構成された作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術としては、例えば特許文献1に開示されているように、ステアリングハンドルを操作することにより、操向装置(特許文献1の図2の16)に連係されたメータリングポンプ(特許文献1の図2の15)を操作して前輪を操向操作することができ、ステアリングモータ(特許文献1の図2の23)を駆動操作することにより、ハンドル支軸(特許文献1の図2の4a)を操作して前輪を操向操作することができるように構成された農作業車が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−80578号公報(図2及び図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の操向制御装置においては、ステアリングハンドルのハンドル支軸を、操向装置に連係されたメータリングポンプに直結して、ステアリングハンドルの操作に対応して操向装置を操向操作するように構成されていた。そのため、例えば畦際等で作業車を旋回させる場合のように、ステアリングハンドルの操作が多く必要となる場合においてもステアリングハンドルの操作に対応して操向装置が操向操作されて、ステアリングレシオ(ステアリングハンドルの操作量に対応する操向装置の操作量の比)を変更することができず、運転者は畦際等での作業車の旋回作業においてステアリングハンドルを多く操作する必要があり、ステアリングハンドルの操作が遅れる場合には作業車の速度を遅くして旋回させる必要があった。その結果、畦際等での作業車の旋回作業の作業性を向上させる観点から改善の余地があった。
本発明は、無理なくステアリングレシオを変更することができ、農作業等の作業性を向上させることができる作業車を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、作業車を、次のように構成することにある。
ステアリング装置の入力軸とステアリングハンドルのハンドル操作軸との間に配設されたステアリング差動機構を備え、
前記ステアリング差動機構を、前記入力軸に固定された第1ギアと、前記第1ギアと歯数の異なる前記ハンドル操作軸に固定された第2ギアと、前記入力軸又は前記ハンドル操作軸に回動自在に支持されたキャリアと、前記キャリアの自転軸に回動自在に支持された回動部材と、前記回動部材に固定されかつ前記第1ギア及び第2ギアのそれぞれに咬合された第1遊星ギア及び第2遊星ギアと、前記キャリアを回動可能な電動モータと、を備えて構成する。
【0006】
(作用)
本発明の第1特徴によると、電動モータを正逆転させると、キャリアの自転軸に回動自在に支持された回動部材が回動し、第1及び第2遊星ギアが回転する。第1及び第2遊星ギアが回転すると、異なる歯数に設定された第1及び第2ギアの伝動比の差によって第1ギアが回転し、電動モータの回転数に応じてステアリング装置の入力軸の回転が変速されて、ステアリングレシオ(ステアリングハンドルの操作量に対応するステアリング装置の入力軸の操作量の比)を変更することができる。その結果、例えば畦際等で作業車を旋回させる場合のように、ステアリングハンドルの操作が多く必要となる場合において、電動モータを正逆転させることで、比較的少ないステアリングハンドルの操作で、作業車を小さな旋回半径で旋回させることができる。
【0007】
具体的には、例えば運転者がステアリングハンドル(例えば図2の6)を操作した方向と逆方向にキャリア(例えば図2の23)が回転するように電動モータ(例えば図2の30)を回転させると、キャリアの自転軸(例えば図2の23a)に回動自在に支持された回動部材が回動し、第1及び第2遊星ギア(例えば図2の24及び25)が回転する。第1及び第2遊星ギアが回転すると、異なる歯数に設定された第1及び第2ギア(例えば図2の21,22)の伝動比の差によって第1ギアが回転し、電動モータの回転数に応じてステアリング装置の入力軸(例えば図2の18a)の回転が増速されて、ステアリングレシオ(ステアリングハンドルの操作量に対応するステアリング装置の入力軸の操作量の比)を大きく変更することができる。その結果、例えば畦際等で作業車を旋回させる場合に、運転者がステアリングハンドルを操作した方向と逆方向にキャリアが回転するように電動モータを回転させることで、ステアリング装置の入力軸が増速されて、ステアリング装置の入力軸を多く操作するこができ、比較的少ないステアリングハンドルの操作で、作業車を小さな旋回半径で旋回させることができる。
【0008】
本発明の第1特徴によると、電動モータによってキャリアを回転させると、キャリアの自転軸に回動自在に支持された回動部材が回動して第1遊星ギアが回転し、第1遊星ギアに咬合された第1ギアが回転して、ステアリング装置の入力軸を回転させることができ、電動モータの動力を、キャリア、回動部材、第1遊星ギア及び第1ギアを介してステアリング装置の入力軸に伝達することができる。その結果、電動モータの動力をステアリング装置の入力軸に滑らかに伝達することができ、ステアリングレシオを無段階に滑らかに変更することができる。
【0009】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、例えば畦際等での作業車の旋回作業の作業性を向上させることができ、農作業等の作業性を向上させることができる。
【0010】
本発明の第1特徴によると、無段階に滑らかにステアリングレシオを変更することができるようになり、作業車においてステアリングハンドルの操作性を向上させることができる。
【0011】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の作業車において、次のように構成することにある。
前記ステアリング差動機構を、前記入力軸及び前記ハンドル操作軸に一体で着脱可能に構成する。
【0012】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第2特徴によると、例えば入力軸及びハンドル操作軸を作業車に組み付けた状態で、入力軸及びハンドル操作軸にステアリング差動機構を一体で組み付けることでき、ステアリング差動機構を容易に作業車に組み付けることができる。また、例えば入力軸及びハンドル操作軸を作業車から取り外さなくても、入力軸及びハンドル操作軸からステアリング差動機構を一体で取り外すことができ、ステアリング差動機構を容易に作業車から取り外すことができる。その結果、ステアリング差動機構の組立作業及びメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0013】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、ステアリング差動機構の組立作業及びメンテナンス作業の作業性を向上させることができ、作業車の製造コスト及びメンテナンスコストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】トラクタの全体左側面図
【図2】ステアリング装置及びステアリング差動機構の構造を示す概略図
【図3】制御装置のブロック図
【図4】圃場領域の設定方法を説明する概略図
【図5】制御装置のメインルーチンのフローチャート
【図6】可変レシオモードのフローチャート
【図7】直進モードのフローチャート
【図8】ステアリングモータの回転数を説明するグラフ
【図9】トラクタによる作業状況を示す圃場の概略平面図
【図10】発明の実施の第1別形態でのステアリング差動機構の構造を示す概略図
【図11】発明の実施の第1別形態でのステアリング差動機構の構造を示す概略図
【図12】発明の実施の第2別形態でのステアリングモータの回転数を説明するグラフ
【図13】発明の実施の第2別形態でのステアリングモータの回転数を説明するグラフ
【図14】発明の実施の第2別形態での制御装置のメインルーチンのフローチャート
【図15】発明の実施の第2別形態での可変レシオモードのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔トラクタの全体構成〕
図1に、作業車の一例としてのトラクタの全体左側面図を示す。図1に示すように、走行車体1の前部にエンジン2が配設されており、このエンジン2からの動力によって左右一対の操向自在な前輪3及び左右一対の後輪4を駆動させることで、運転座席5に着座した運転者のステアリング6の操作に従ってトラクタが走行及び旋回するように構成されている。
【0016】
走行車体1の後部に配設されたミッションケース7の後部に、左右一対のリフトアーム8が連係されており、リフトシリンダ9を操作することによって揺動アーム10を上下に揺動操作して、揺動アーム10の後端部に連結した畝立て装置や耕耘装置等の作業装置(図示せず)を昇降できるように構成されている。
【0017】
ミッションケース7の後部にエンジン2からの動力を取り出す後向きのPTО軸11が設けられており、このPTО軸11に作業装置を連動連結することで、作業装置を駆動できるように構成されている。PTО軸11は、ステアリングハンドル6の近傍に装備されたPTОレバー(図示せず)に連係されており、このPTОレバーを操作することにより、PTО軸11に連動連結された作業装置を駆動及び停止することができる。
【0018】
図2に示すように、ステアリング装置12は、パワーシリンダ13と、操作バルブ14と、メインポンプ16と、メータリングポンプ18とを備えて構成されている。なお、ステアリング装置12として異なる構成を採用してもよく、メインポンプ16やパワーシリンダ13等による油圧式のステアリング装置12ではなく、パワーシリンダ13を備えていないステアリング装置12や、パワーシリンダ13以外のアクチュエータを備えたステアリング装置12を採用してもよい。
【0019】
パワーシリンダ13は左右の前輪3のナックルアーム3aに連動連結されており、このパワーシリンダ13の操作バルブ14に、油圧回路15を介して、エンジン2に連動連結されたメインポンプ16が接続されている。操作バルブ14には油圧回路17を介してメータリングポンプ18が接続されており、このメータリングポンプ18の入力軸18aが後述するステアリング差動機構20を介してステアリングハンドル6に連動連結されている。
【0020】
[ステアリング差動機構]
図2に示すように、ステアリング差動機構20は、遊星歯車機構によって構成されており、メータリングポンプ18の入力軸18aに固定された太陽ギアとしての第1ギア21と、ステアリングハンドル6のハンドル操作軸6aに固定された第2ギア22と、ステアリングハンドル6のハンドル操作軸6aに相対回転自在に支持されたキャリア23と、このキャリア23と第1及び第2ギア21,22とに亘って配設された複数の第1及び第2遊星ギア24,25とを備えて構成されている。
【0021】
ステアリング装置12を構成するメータリングポンプ18の入力軸18aとステアリングハンドル6のハンドル操作軸6aは、同心状に配設されており、この入力軸18aとハンドル操作軸6aとの間にステアリング差動機構20が配設されている。
【0022】
キャリア23は、ステアリングハンドル6のハンドル操作軸6aに相対回転自在に支持された第1筒軸26に固定されており、このキャリア23の外周部の複数箇所に配設された支軸23a(自転軸に相当)に相対回転自在に第2筒軸27(回動部材に相当)が支持されている。第2筒軸27には第1遊星ギア24が固定されており、この第1遊星ギア24がメータリングポンプ18の入力軸18aに固定された第1ギア21に咬合されている。
【0023】
第2筒軸27には、第1遊星ギア24より歯数の少ない第2遊星ギア25が固定されており、この第2遊星ギア25が第1ギア21より歯数の多いハンドル操作軸6aに固定された第2ギア22と咬合されている。第1筒軸26には、入力ギア28が固定されており、この入力ギア28が、ステアリングモータ30(電動モータに相当)の駆動軸30aに固定された、入力ギア28より歯数の少ない出力ギア29に咬合されている。
【0024】
以上のように、ステアリング装置12及びステアリング差動機構20を構成することにより、ステアリングモータ30を停止させて駆動軸30aが回転していない状態では、駆動軸30aに連結された出力ギア29、第1筒軸26及びキャリア23が回動しないため、作業者のステアリングハンドル6の操作によりハンドル操作軸6aが回動すると、第2ギア22、第2遊星ギア25、第2筒軸27、第1遊星ギア24及び第1ギア21を介してメータリングポンプ18の入力軸18aがステアリングハンドル6の操作量に対応して回動するように構成されている。
【0025】
なお、第1ギア21、第2ギア22、第1及び第2遊星ギア24,25は異なる歯数に設定されているため、ステアリングハンドル6のハンドル操作軸6aの回転が、増速されてメータリングポンプ18の入力軸18aに伝達されるように構成されている。
【0026】
一方、運転者がステアリングハンドル6を保持しハンドル操作軸6aが略回転していない状態で、ステアリングモータ30を正逆転させると、ステアリングモータ30の駆動軸30aに連結された出力ギア29及び入力ギア28を介して第1筒軸26が回動し、第1筒軸26に固定されたキャリア23がハンドル操作軸6aに対して相対回転して、キャリア23の支軸23aに対して第2筒軸27が相対回転し、この第2筒軸27に固定された第1及び第2遊星ギア24,25が回動する。第2遊星ギア25は回転していない第2ギア22に咬合されているため、第1及び第2遊星ギア24,25が回転すると、第1及び第2ギア21,22、並びに、第1及び第2遊星ギア24,25の伝動比に応じてメータリングポンプ18の入力軸18aが回動する。
【0027】
なお、出力ギア29と入力ギア28は異なる歯数に設定されており、入力ギア28はステアリング差動機構20を介してメータリングポンプ18の入力軸18aに連結されているため、ステアリングモータ30の駆動軸30aの回転が、出力ギア29、入力ギア28及びステアリング差動機構20によって減速されてメータリングポンプ18の入力軸18aに伝達されるように構成されている。
【0028】
ステアリングモータ30の回転数は任意に変更調節可能に構成されており、後述する制御装置31からモータ駆動回路39を介してステアリングモータ30の回転数を変更することにより、ステアリングモータ30の回転数に応じてメータリングポンプ18の入力軸18aの回転数を任意に変更調節できるように構成されている。
【0029】
従って、ステアリングハンドル6を保持しハンドル操作軸6aが回転していない状態でステアリングモータ30を正逆転させることで、メータリングポンプ18の入力軸18aを回転させることができ、左右の前輪3を操向操作することができる。
【0030】
運転者がステアリングハンドル6を回転させた方向と逆方向に第1筒軸26が回転するようにステアリングモータ30を正転させると、ステアリングモータ30の回転数に応じてメータリングポンプ18の入力軸18aの回転が増速されて、ステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を大きく変更することができる。
【0031】
逆に、運転者がステアリングハンドル6を回転させた方向と同じ方向に第1筒軸26が回転するようにステアリングモータ30を逆転させると、ステアリングモータ30の回転数に応じてメータリングポンプ18の入力軸18aの回転が減速されて、ステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を小さく変更することができる。
【0032】
ステアリングハンドル6を操作し、又はステアリングモータ30を回転させてメータリングポンプ18の入力軸18aが回転すると、この入力軸18aの操作量に応じて操作バルブ14が操作され、操作バルブ14からパワーシリンダ13に圧油が供給されて、パワーシリンダ13の作動により左右の前輪3をステアリングハンドル6又はステアリングモータ30の回転方向に応じた操向方向に、かつ、メータリングポンプ18の入力軸18aの操作量に応じた切れ角でナックルアーム3aを揺動操作する。そして、走行車体1をステアリングハンドル6又はステアリングモータ30の操作方向に対応する走行方向に、ステアリングハンドル6又はステアリングモータ30の操作量に応じて走行するように操向操作する。
【0033】
〔制御装置のブロック図〕
図3に、トラクタの制御装置31のブロック図を示す。図3に示すように、このトラクタには操舵角センサ32、駆動軸回転センサ33、入力軸回転センサ34、レバー位置検出センサ36、操作位置検出センサ45、方位センサ37、ヨーレートセンサ38、領域設定ボタン46、前輪切れ角センサ47、車速センサ48等の検出機器類が実装されている。
【0034】
操舵角センサ32は、ステアリングハンドル6のハンドル操作軸6aに装備されており(図2参照)、基準位置からのハンドル操作軸6aの回転角を測定することにより左右の前輪3の操舵角を算出して、運転者のステアリングハンドル6の操作量(操舵操作量)及びステアリングハンドル6の操作速度(操舵操作速度)を検出できる。
【0035】
駆動軸回転センサ33及び入力軸回転センサ34は、それぞれステアリングモータ30の駆動軸30a及びメータリングポンプ18の入力軸18aに装備されており(図2参照)、ステアリングモータ30の駆動軸30a及びメータリングポンプ18の入力軸18aの回転数を検出できる。
【0036】
前述した操舵角センサ32、駆動軸回転センサ33及び入力軸回転センサ34からの検出結果をフィードバックして、モータ駆動回路39からステアリングモータ30へ出力することで、メータリングポンプ18の入力軸18aを、所定の回転数に精度よく回転させることができる。なお、このトラクタでは、操舵角センサ32、駆動軸回転センサ33及び入力軸回転センサ34の3つのセンサを装備してモータ駆動回路39からステアリングモータ30へ出力するように構成したが、これら3つのセンサのうちのいずれか2つのセンサをトラクタに装備し、この2つのセンサからの検出結果に基づいて制御装置31において演算処理することによりモータ駆動回路39からステアリングモータ30へ出力するように構成してもよい。
【0037】
レバー位置検出センサ36は、ステアリングハンドル6の側部に揺動操作可能に設けられたモード切替レバー35に装備されており、このレバー位置検出センサ36によって、モード切替レバー35の操作位置(可変レシオモード及び直進モード)を検出できる。前後進切替レバー44は、運転座席5の側部に装備されており、走行車体1の前進及び後進の切り替えを行うことができ、この前後進切替レバー44の操作位置(前進位置F,後進位置R及び中立位置N)が、操作位置検出センサ45によって検出できる。
【0038】
方位センサ37は、走行車体1の左右中央部に配設されており、走行車体1の走行方向を検出する。ヨーレートセンサ38は、走行車体1の重心位置近傍に配設されており、トラクタに作用するヨーレートを検出する。領域設定ボタン46は、運転座席5の側部に配備されており、後述する圃場領域Xの設定に用いる。
【0039】
前輪切れ角センサ47は、前輪3に連係されたナックルアーム3aの回転部に装着されており、ステアリング装置12により操作された前輪3の切れ角を検出できる(図2参照)。車速センサ48は、走行車体1に装備されており、トラクタの走行する車速を検出できる。
【0040】
前輪切れ角センサ47の検出結果に基づいて、前輪3の切れ角が制御装置31によって監視されており、例えばパワーシリンダ13の作動油のリーク等により前輪3の切れ角が変化した場合等に、前輪切れ角センサ47の検出結果に基づいて制御装置31で前輪3の切れ角を補正し、正確な前輪3の切れ角が制御装置31で把握され、この補正された前輪3の切れ角で後述する可変レシオモード及び直進モードが実施されるように構成されている。
【0041】
制御装置31には、モータ駆動回路39、GPS受信機40、ナビゲーションシステム41、モニター42及び電磁弁43が接続されている。モータ駆動回路39は、ステアリングモータ30に接続されており、制御装置31からモータ駆動回路39に出力することで、制御装置31からの出力に基づいてステアリングモータ30の駆動及び停止、並びに、回転方向の変更ができる。
【0042】
GPS受信機40は、SBAS(静止衛星型衛星航法補強システム)に対応するSBAS受信機として構成されており、GPS衛星(図示せず)からの位置情報に加え、基準局(図示せず)からの航空用の補正情報を受信できるように構成されている。
【0043】
GPS受信機40には、ステアリングハンドル6の前部中央部に装備されたGPSアンテナ19が接続されており(図1参照)、GPS受信機40によって受信したGPS衛星からの位置情報、及GPS受信機40によって受信した基準局からの補正情報が制御装置31に入力され、トラクタの現在位置を、例えば数センチ程度の誤差で検出する。
【0044】
ナビゲーションシステム41は、地図情報を提供するものであり、GPS受信機40によって検出されたトラクタの位置、操作位置検出センサ45によって検出された前後進切替レバー44の操作位置(走行車体1の走行方向)、後述する圃場領域X、及び後述する直進モードにおける設定位置Lが、ナビゲーションシステム41の地図情報とともに、ステアリングハンドル6の側部に装備されたモニター42に表示されるように構成されている。
【0045】
モニター42は、タッチパネル式に構成されており、後述する圃場領域Xを設定するための圃場領域設定画面、及びトラクタの現在位置等を表示するトラクタ位置表示画面を選択して表示できるように構成されている。なお、モニター42の側部に操作ボタン(図示せず)を設け、モニター42に表示された表示画面を、この操作ボタンにより選択できるように構成してもよい。
【0046】
電磁弁43は、リフトシリンダ9に連係されており、電磁弁43に制御装置31から出力を行うことにより、リフトシリンダ9による作業装置の昇降操作を行うことができる。
【0047】
上述した各検出機器類は制御装置31に接続されており、各検出機器類からの検出結果に基づいて制御装置31からモータ駆動回路39、GPS受信機40、ナビゲーションシステム41、モニター42、電磁弁43に出力を行うことで、後述する可変レシオモード及び直進モードを実現できる。
【0048】
〔圃場領域の設定方法〕
図4に基づいて、後述する直進モードに用いる圃場領域Xの設定方法について説明する。GPS受信機40によってGPSアンテナ19の平面視での位置(トラクタのステアリングハンドル6の前部中央部の位置)が現在位置として制御装置31に入力されており、このGPS受信機40によって受信した現在位置、及び予め制御装置31に入力された車体条件(作業装置の幅や走行車体1の全長等)に基づいて、トラクタの後部に装備した作業装置の右後端部の位置が制御装置31で演算処理されるように構成されている。
【0049】
図4に示すように、モニター42に圃場領域設定画面を表示し、作業装置の右後端部の位置を、圃場領域Xとして設定する圃場の四隅(P1〜P4)に移動させて、それぞれの位置で領域設定ボタン46を押すことにより、ナビゲーションシステム41によって提供された地図情報上に、自動的にトラクタによる耕耘作業を行う圃場領域X(P1〜P4で囲まれた領域)が設定されて、この圃場領域Xがモニター42のトラクタ位置表示画面にナビゲーションシステム41の地図情報とともに表示されるように構成されている。なお、圃場領域XのP1〜P4の位置情報を制御装置31に入力することにより、圃場領域Xを設定するように構成してもよい。
【0050】
圃場領域Xの設定作業は、初めて耕耘作業等を行う圃場において、初回に一度設定することにより制御装置31に記憶され、2回目以降の耕耘作業等においては、トラクタを圃場領域Xの近くに移動させて、モニター42にトラクタ位置表示画面を表示させることにより、自動的に圃場領域Xがモニター42に表示される。
【0051】
〔可変レシオモード及び直進モード〕
図5〜図9に基づいて、このトラクタで実施されているステアリングレシオを変更可能な可変レシオモード及び直進走行が可能な直進モードについて説明する。図5は、この制御装置31のメインルーチンを示し、図6及び図7は、可変レシオモード及び直進モードを選択した場合のサブルーチンをそれぞれ示す。図8は、ステアリングモータ30の回転数Nを説明するためのグラフを示し、図9は、可変レシオモード及び直進モードを用いたトラクタによる作業状況を示す圃場の概略平面図(モニター42のトラクタ位置表示画面の表示)を示す。
【0052】
図5に示すように、図3に示した検出機器類によって検出されて制御装置31に入力されたデータが常時監視されている(ステップ#11)。レバー位置検出センサ36の検出結果に基づいて、モード切替レバー35が可変レシオモードに操作されたと判断される場合には(ステップ#12・YES,ステップ#13)、制御装置31から電磁弁43に出力されて、リフトシリンダ9が操作され、走行車体1の後部に連結された作業装置が上昇する(ステップ#14)。
【0053】
一方、レバー位置検出センサ36の検出結果に基づいて、モード切替レバー35が直進モードに操作されたと判断される場合には(ステップ#12・NO,ステップ#15)、制御装置31から電磁弁43に出力されて、リフトシリンダ9が操作され、走行車体1の後部に連結された作業装置が下降する(ステップ#16)。
【0054】
図6に示すように、モード切替レバー35が可変レシオモードに操作されると(ステップ#13)、車速センサ48の検出結果に基づいて、トラクタの車速が予め設定された設定速度より遅いか否か判断され(ステップ#21)、トラクタの車速が設定速度より遅いと判断される場合には(ステップ#21・YES)、操舵角センサ32の検出結果に基づいて、運転者がステアリングハンドル6を操作しているか否か判断される(ステップ#22)。
【0055】
運転者がステアリングハンドル6を操作していると判断されると(ステップ#22・YES)、制御装置31からモータ駆動回路39に出力を行って、運転者がステアリングハンドル6を回転させた方向と逆方向に第1筒軸26が回転するようにステアリングモータ30を回転させて、メータリングポンプ18の入力軸18aの回転を増速して、ステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を大きく変更する(ステップ#23)。
【0056】
図8に示すように、駆動軸回転センサ33によって検出した駆動軸30aの回転数をフィードバックして、ステアリングモータ30が予め設定された所定の回転数N1で回転するように、モータ駆動回路39からステアリングモータ30に出力されるように構成されている。
【0057】
次に、車速センサ48の検出結果に基づいて、トラクタの車速が予め設定された設定速度より速いか否か判断され(ステップ#23)、ステアリングハンドル6が操作されている状態で車速が設定速度より遅い間は、ステアリングモータ30の回転を継続させる(ステップ#24・YES,ステップ#25・NO)。逆に、運転者がステアリングハンドル6の操作していないと判断される場合や(ステップ#24・NO)、車速が設定速度より速くなったと判断される場合には(ステップ#25・YES)、制御装置31からのモータ駆動回路39への出力を断って、ステアリングモータ30を停止させる(ステップ#26)。
【0058】
このように、可変レシオモードに切り替えて、運転者がステアリングハンドル6を操作するとステアリングレシオを大きく変更するように構成することにより、例えばトラクタが車速を遅くして旋回する状態になった場合に、運転者のステアリングハンドル6の操作を自動的に補助することができ、トラクタの旋回作業の作業性を向上できる。
【0059】
図7に示すように、モード切替レバー35が直進モードに操作されると(ステップ#15)、操舵角センサ32の検出結果に基づいて、運転者がステアリングハンドル6を操作しているか否か判断され(ステップ#31)、運転者がステアリングハンドル6を保持し右及び左方向のいずれの方向にも操向操作していないと判断される場合には(ステップ#31・NO)、自走車体1が予め設定された設定位置Lに沿って走行するように、ステアリング装置12が自動操作される(ステップ#32〜#35)。
【0060】
図9に示すように、ナビゲーションシステム41の地図情報上に予め設定した圃場領域X(P1〜P4)がモニター42に表示されており、この地図情報上に、更に、GPS受信機40によって受信したトラクタの現在位置、及び操作位置検出センサ45によって検出した走行車体1の走行方向がモニター42に常時表示されている。
【0061】
例えば図9のA地点にトラクタを移動させて、モード切替レバー35を直進モードに操作すると、圃場領域X(P1〜P4)、GPS受信機40によって受信したトラクタの現在位置、及び、操作位置検出センサ45によって検出した走行車体1の走行方向に基づいて、トラクタが直進するP1とP2を結ぶ直線と平行な設定位置L1(図9中のAとBを結ぶ実線)が設定される。
【0062】
図7に示すように、運転者がステアリングハンドル6を保持し右及び左方向のいずれの方向にもステアリングハンドル6を操向操作していないと判断され(ステップ#31・NO)、例えばトラクタを図9のA地点から紙面右方に走行させて、GPS受信機40によって受信した現在位置が図9のA地点で設定した設定位置L1から外れたと判断される場合には(ステップ#32・YES)、設定位置L1から外れた方向(右又は左方向(図9の紙面下方又は上方))とは逆方向に前輪3が操向操作されるように、制御装置31からモータ駆動回路39に出力を行って、ステアリングモータ30を駆動させて、トラクタが設定位置L1に沿って移動するように自動操向する(ステップ#33)。
【0063】
図8に示すように、駆動軸回転センサ33によって検出した駆動軸30aの回転数をフィードバックして、ステアリングモータ30が予め設定された所定の回転数N2で回転するように、モータ駆動回路39からステアリングモータ30に出力されるように構成されている。なお、回転数N2は回転数N1より小さい回転数に設定されている。
【0064】
図7に示すように、更に、トラクタを走行させてGPS受信機40によって受信した現在位置が設定位置L1に修正された場合には(ステップ#34・YES)、制御装置31からのモータ駆動回路39への出力を断って、ステアリングモータ30を停止させる(ステップ#35)。運転者がステアリングハンドル6を保持し右及び左方向のいずれの方向にもステアリングハンドル6を操向操作していないと判断される状態が継続されると、上述したステアリングモータ30の正逆転及び停止を繰り返しながら(ステップ#32〜#35)、トラクタの位置を修正して、トラクタを図9のA地点で設定した設定位置L1に沿って走行させる。
【0065】
なお、直進モードで運転者がステアリングハンドル6を右又は左方向に操向操作したと判断される場合には、運転者のステアリングハンドル6の操作意思が優先され、ステアリングモータ30は正逆転されずに、運転者のステアリングハンドル6の操作に従って前輪3が操向操作される(ステップ#31・YES)。
【0066】
以上のように、ステアリング差動機構20を構成するステアリングモータ30を正逆転させることにより、ステアリング装置12を自動的に操作して、走行車体1が予め設定された設定位置Lに沿って自動操向するように構成されている。
【0067】
図9に示すように、例えばQ1〜Q4で囲まれた範囲の耕耘作業を行う場合には、モード切替レバー35を可変レシオモードに操作し作業装置を上昇させた状態で、A地点までトラクタを移動し、PTOレバーにより作業装置を駆動させてから、A地点でモード切替レバー35を直進モードに操作すると、作業装置が下降する。そして、ステアリングハンドル6を保持しトラクタを走行させると、ステアリング差動機構20のステアリングモータ30が自動的に正逆転及び停止を繰り返して、ステアリング装置12が操作されて、図9のA地点で設定した設定位置L1に沿ってトラクタを走行させることができる。
【0068】
トラクタを走行させてB地点に達すると、モード切替レバー35を可変レシオモードに操作し作業装置を上昇させた状態で、図9の2点鎖線で示すように、トラクタをC地点まで旋回させて走行車体1及び作業装置の位置を既に耕耘作業した圃場の位置に合わせて位置決めする。なお、B地点からトラクタを旋回させる際に、運転者がトラクタの車速を遅くすると、ステアリングモータ30の回転により、運転者のステアリングハンドル6の操作が補助されて、ステアリングハンドル6を慌てて操作しなくても、トラクタを容易に旋回させることができる。
【0069】
C地点で再びモード切替レバー35を直進モードに操作して、ステアリングハンドル6を保持しトラクタを走行させると、ステアリング差動機構20のステアリングモータ30が自動的に正逆転及び停止を繰り返して、ステアリング装置12が操作されて、C地点で設定した設定位置L2(図9中の実線)に沿って走行させることができる。以降は、上記のモード切替レバー35を操作しながら走行及び旋回を繰り返すことにより、図9に示す圃場領域XのQ1〜Q4で囲まれた範囲を耕耘することができる。
【0070】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、ステアリング差動機構20を図2のように構成した例を示したが、例えばステアリング差動機構20を図10及び図11に示すように構成してもよい。なお、後述する以外の他の構成は、前述の[発明を実施するための最良の形態]と同様である。
【0071】
図10(イ)に示すように、キャリア23を固定した第1筒軸26をメータリングポンプ18の入力軸18aに回動自在に支持し、このメータリングポンプ18側に配設した第1筒軸26に入力ギア28を固定して、入力ギア28にステアリングモータ30の駆動軸30aに固定された出力ギア29を咬合させるように、ステアリング差動機構20を構成してもよい。
【0072】
また、キャリア23をステアリングモータ30で回動させる構造として異なる構造を採用してもよく、例えば図10(ロ)に示すように、キャリア23から入力ギア28を延出し、この入力ギア28にステアリングモータ30の駆動軸30aに固定された出力ギア29を咬合させるように、ステアリング差動機構20を構成してもよい。
【0073】
図11(イ)に示すように、メータリングポンプ18の入力軸18aと同心状の第1操作軸51が設けられており、この第1操作軸51に第1ギア21が固定されている。一方、ハンドル操作軸6aと同心状の第2操作軸52が設けられており、この第2操作軸52に第2ギア22が固定され、第1筒軸26が第2操作軸52に相対回転自在に支持されている。ステアリングモータ30以外のステアリング差動機構20を構成する機器は、伝動ケース55内に収容されており、ステアリングモータ30は、伝動ケース55に固定されている。伝動ケース55から第1及び第2操作軸51,52が延出されて、この第1及び第2操作軸51,52がそれぞれメータリングポンプ18の入力軸18a及びハンドル操作軸6aに、第1及び第2連結部材53,54を介して着脱可能に連結されている。
【0074】
このように、ステアリング差動機構20を構成することにより、第1及び第2連結部材53,54の位置で、ステアリング差動機構20を一体で容易に着脱することができ、ステアリング差動機構20の組立作業及びメンテナンス作業の作業性を向上させることができる。
【0075】
また、図11(ロ)に示すように、メータリングポンプ18の入力軸18a及び第1操作軸51に第1連結部材53,53をそれぞれ固定し、この第1連結部材53,53を締め付け固定すると共に、ハンドル操作軸6a及び第2操作軸52に第2連結部材54,54をそれぞれ固定し、この第2連結部材54,54を締め付け固定する構成を採用することにより、第1及び第2連結部材53,54の位置で、ステアリング差動機構20を一体で着脱することができるように構成してもよい。
【0076】
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、第1遊星ギア24の歯数を第2遊星ギア25の歯数より多く設定し、第1ギア21の歯数を第2ギア22より少なく設定して、ステアリング差動機構20を構成した例を示したが、第1遊星ギア24の歯数を第2遊星ギア25の歯数より少なく設定し、第1ギア21の歯数を第2ギア22より多く設定して、ステアリング差動機構20を構成してもよい。
【0077】
このようにステアリング差動機構20を構成すると、ステアリングハンドル6のハンドル操作軸6aの回転が、減速されてメータリングポンプ18の入力軸18aに伝達され、運転者がステアリングハンドル6を回転させた方向と同じ方向に第1筒軸26が回転するようにステアリングモータ30を正転させると、ステアリングモータ30の回転数に応じてメータリングポンプ18の入力軸18aの回転が増速されて伝達されて、運転者がステアリングハンドル6を回転させた方向と逆方向に第1筒軸26が回転するようにステアリングモータ30を正転させると、ステアリングモータ30の回転数に応じてメータリングポンプ18の入力軸18aの回転が減速されて伝達される。
【0078】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、車速センサ48により検出したトラクタの車速が予め設定された設定速度より遅いと判断される場合には、ステアリングモータ30を回転させて、メータリングポンプ18の入力軸18aの回転を増速して、ステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を大きく変更するように構成した例を示したが、ステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を変更するための条件としては、異なる条件であってもよく、また、ステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を小さく変更するように構成してもよい。
【0079】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、トラクタの旋回作業時を想定してステアリングモータ30を回転させて、ステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を大きく変更した例を示したが、トラクタの旋回作業時に限らず、異なる作業を想定してステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を大きく又は小さく変更するように構成してもよい。
【0080】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、GPS受信機40によって受信したトラクタの現在位置、及び操作位置検出センサ45によって検出した走行車体1の走行方向に基づいて、ステアリング差動機構20を介してステアリング装置12を自動的に操作して、走行車体1が予め設定された設定位置Lに沿って自動操向するように構成した例を示したが、方位センサ37によって検出した走行車体1の走行方向、及びヨーレートセンサ38によって検出したトラクタに作用するヨーレートに基づいて、走行車体1が予め設定された設定方向へ自動操向するように構成してもよい。
【0081】
具体的には、方位センサ37によって検出した走行車体1の走行方向を設定方向とし、この設定方向に対して、ヨーレートセンサ38によって検出したヨーレートが変化した場合には、このヨーレートが変化した方向とは逆方向に、ステアリング差動機構20を介してステアリング装置12を自動的に操作して、走行車体1が予め設定された設定方向へ自動操向するように構成してもよい。
【0082】
また、位置又は方向検出手段として異なる構成を採用してもよく、例えば、GPS受信機40、ヨーレートセンサ38、方位センサ37のうちのいずれか2つの組み合わせ、又は、3つの全てを採用して走行車体1を自動操向するように構成してもよく、これらのセンサと異なるセンサ(図示せず)によって走行車体1を自動操向するように構成してもよい。具体的には、例えばGPS受信機40によって受信したトラクタの現在位置とヨーレートセンサ38によって検出したヨーレートとに基づいて、走行車体1を自動操向することにより、設定位置又は設定方向に走行車体1を迅速に追従させることができ、直進走行の応答性を向上させることができる。
【0083】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、ステアリングモータ30の回転数が、図8に示した予め設定された回転数N1又はN2になるようにモータ駆動回路39から出力した例を示したが、図12に示すように、モータ駆動回路39から予め設定された回転数N1又はN2に向って徐々に大きくなるように構成してもよい。
【0084】
また、ステアリングモータ30を回転させる回転数N1及びN2を異なる回転数に設定してもよく、例えば図13(イ)に示すように、トラクタの車速Vに比例して、ステアリングモータ30の回転数N1(又はN2)が増加するように構成してもよく、図13(ロ)に示すように、トラクタの車速Vに対して徐々にステアリングモータ30回転数N1(又はN2)が増加するように構成してもよい。
【0085】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、モード切替レバー35によって、可変レシオモード又は直進モードを切り替えて、作業装置を上昇又は下降させるように構成した例を示したが、作業装置を人為的に昇降する人為操作手段による昇降動作に基づいて作業装置が下降位置に下降しているか否かを判断して、可変レシオモード又は直進モードを切り替えるように構成してもよい。
【0086】
具体的には、図14に示すように、制御装置31に入力されたデータが常時監視されており(ステップ#41)、運転座席5に装備された作業スイッチ(図示せず)が入りに操作されている場合には(ステップ#42・YES)、人為操作手段(例えばポジションレバーやポンパレバー等(図示せず))による作業装置の昇降動作に基づいて、作業装置が下降しているか否か判断される(ステップ#43)。作業装置が下降位置に下降している場合には(ステップ#43・YES)、直進モードに移行する(ステップ#44)。一方、作業装置が上昇している場合には(ステップ#43・NO)、可変レシオモードに移行する(ステップ#45)。
【0087】
このように、作業スイッチを設けることにより、可変レシオモード又は直進モードに移行可能な状態と、可変レシオモード及び直進モードに移行できない状態とに切り替えることができる。また、作業スイッチを入り操作した状態で作業装置が下降位置に下降すると、自動的に直進モードに移行し、作業装置を入り操作した状態で作業装置が上昇すると自動的に可変レシオモードに移行するため、作業スイッチを入り操作すると、作業装置の昇降動作に連動して直進モード及び可変レシオモードが作動する。
【0088】
なお、図14におけるステップ#45を省略して、常時可変レシオモードが作動するように構成してもよく、また、図示しないが、操作スイッチ(図示せず)や操作ボタン(図示せず)による人為的な入り操作によって、直進モード又は可変レシオモードが作動するように構成してもよい。
【0089】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、車速センサ48により検出したトラクタの車速が予め設定された設定速度より遅いと判断される場合に、ステアリングモータ30を回転させるように構成した例を示したが、例えば操舵角センサ32により検出した操舵速度(操舵操作速度)又は操作量(操舵操作量)に基づいて、ステアリングモータ30を回転するように構成してもよい。
【0090】
具体的には、例えば、図15に示すように、操舵角センサ32の検出結果に基づいて、ステアリングハンドル6の操作速度(操舵操作速度)が予め設定された設定操作速度より速く、運転者がステアリングハンドル6を速く操作したと判断される場合(具体的には、例えば直進走行から旋回作業に移行する際にステアリングハンドル6を操作したような場合)には(ステップ#51・YES)、制御装置31からモータ駆動回路39に出力を行ってステアリングモータ30を回転させ、メータリングポンプ18の入力軸18aの回転を増速して、ステアリングレシオ(ステアリングハンドル6の操作量に対応するステアリング装置12の入力軸18aの操作量の比)を大きく変更する(ステップ#52)。そして、ステアリングハンドル6の操作速度(操舵操作速度)が予め設定された設定操作速度より遅くなると(ステップ#53・YES)、制御装置31からのモータ駆動回路39への出力を遮断してステアリングモータ30を停止させる(ステップ#54)。
【0091】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、操舵角センサ32の検出結果に基づいて、運転者がステアリングハンドル6を操作しているか否か判断するように構成した例を示したが、操舵角センサ32に代えてトルクセンサー(図示せず)をハンドル操作軸6aに装備して、トルクセンサーにより検出したハンドル操作軸6aの回転トルクに基づいて、運転者がステアリングハンドル6を操作しているか否か判断するように構成してもよい。トルクセンサーを採用することにより、運転者の微妙なステアリングハンドル6の操作を検出することができ、精度のよく自動操向することができる。
【0092】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]及び[発明の実施の第2別形態]においては、トラクタを自動操向して設定位置又は設定方向に沿って直進走行させるように構成した例を示したが、例えばトラクタを自動操向して旋回させるように構成してもよい。
【0093】
具体的には、方位センサ37によって検出した走行車体1の走行方向、ヨーレートセンサ38によって検出したヨーレート、又はGPS受信機40によって受信したトラクタの現在位置に基づいて、ステアリング差動機構20を構成するステアリングモータ30を正逆転させることにより、ステアリング装置12を自動的に操作して、走行車体1が予め設定された旋回位置又は旋回方向に自動操向するように構成してもよい。
【0094】
このように構成することにより、運転者がステアリングハンドル6を保持し右又は左方向のいずれの方向にもステアリングハンドル6を操向操作していない状態で、自動的に走行車体1を旋回させることができ、畦際等でのステアリングハンドル6の操向操作が必要なくなって、畦際等でのトラクタの旋回作業の作業性を向上させることができる。
【0095】
[発明の実施の第4別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]、[発明の実施の第2別形態]及び[発明の実施の第3別形態]においては、トラクタに、ステアリング差動機構20等を備えた例を示したが、異なる作業車にも同様に適用でき、例えば田植機等の他の農作業車に適用してもよく、また、農作業車に限らず建設作業車等においても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0096】
6 ステアリングハンドル
6a ハンドル操作軸
12 ステアリング装置
18a 入力軸
20 ステアリング差動機構
21 第1ギア
22 第2ギア
23 キャリア
23a 支軸(自転軸)
24 第1遊星ギア
25 第2遊星ギア
27 第2筒軸(回動部材)
30 ステアリングモータ(電動モータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング装置の入力軸とステアリングハンドルのハンドル操作軸との間に配設されたステアリング差動機構を備え、
前記ステアリング差動機構を、前記入力軸に固定された第1ギアと、前記第1ギアと歯数の異なる前記ハンドル操作軸に固定された第2ギアと、前記入力軸又は前記ハンドル操作軸に回動自在に支持されたキャリアと、前記キャリアの自転軸に回動自在に支持された回動部材と、前記回動部材に固定されかつ前記第1ギア及び第2ギアのそれぞれに咬合された第1遊星ギア及び第2遊星ギアと、前記キャリアを回動可能な電動モータと、を備えて構成し、
前記電動モータの回転を制御して、前記ステアリングハンドルの操作量に対応する前記ステアリング装置の入力軸の操作量の比であるステアリングレシオを変更可能な可変レシオモードと、前記電動モータの回転を制御して、予め設定された設定位置又は設定方向に沿って走行機体を自動操向させる直進モードとを実行可能な制御装置を備えている作業車。
【請求項2】
前記可変レシオモードと前記直進モードとを切り替える人為操作式のモード切替操作部を備えている請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
走行車体の後部に、リフトシリンダと、そのリフトシリンダを操作することで昇降自在な作業装置を備え、
前記制御装置は、前記作業装置が下降位置に下降しているか否かを判断して、前記可変レシオモードと前記直進モードとを切り替えるように構成されている請求項1に記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−245976(P2012−245976A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180476(P2012−180476)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【分割の表示】特願2007−93503(P2007−93503)の分割
【原出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】