説明

油圧緩衝器

【課題】 車体側チューブのキャップに複数の調整部を設ける油圧緩衝器において、高さを抑え、新しい外観を提供すること。
【解決手段】 車体側チューブ11と車軸側チューブ12を摺動自在に嵌合してなり、前記車体側チューブ11の上端開口部に封着されるキャップ13に複数の調整部80、90を設け、各調整部80、90により車体側チューブ11と車軸側チューブ12の内部の複数の被調整部80、90のそれぞれを操作可能にしてなる油圧緩衝器10において、複数の前記調整部80、90が前記キャップ13の平面視で、該キャップ13の中心から外れる位置に並置され、かつ複数の前記被調整部80、90のうちの少なくとも1つが前記車体側チューブ11と車軸側チューブ12の中心に配置されるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフロントフォーク等の油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車用フロントフォーク(油圧緩衝器)では、特許文献1に記載の如く、車体側チューブと車軸側チューブを摺動自在に嵌合してなり、車体側チューブの上端開口部に封着されるキャップに、減衰力調整のための複数の調整部を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-225066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のフロントフォークでは、複数の調整部をキャップの平面視で、互いに同軸上に配置している。従って、各調整部はそれらの操作部を互いに軸方向(高さ方向)にずらして設ける必要があり、中心側の調整部の高さを高くせざるを得ず、ハンドル、カウル等の車体側との干渉に対する悪影響がある。また、キャップ上面のデザインがマンネリ化する傾向もある。
【0005】
本発明の課題は、車体側チューブのキャップに複数の調整部を設ける油圧緩衝器において、高さを抑え、新しい外観を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、車体側チューブと車軸側チューブを摺動自在に嵌合してなり、前記車体側チューブの上端開口部に封着されるキャップに複数の調整部を設け、各調整部により車体側チューブと車軸側チューブの内部の複数の被調整部のそれぞれを操作可能にしてなる油圧緩衝器において、複数の前記調整部が前記キャップの平面視で、該キャップの中心から外れる位置に並置され、かつ複数の前記被調整部のうちの少なくとも1つが前記車体側チューブと車軸側チューブの中心に配置されるようにしたものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、複数の前記被調整部の全てが前記車体側チューブと車軸側チューブの中心に配置されるようにしたものである。
【0008】
請求項の発明は、車体側のアウタチューブ内に車軸側のインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に作動油室を、上部に油溜室を区画し、前記アウタチューブ側に取付けたピストン支持部材を、前記隔壁部材を貫通して前記作動油室内に挿入し、該ピストン支持部材の先端部に前記作動油室内を摺動するピストンを設け、前記アウタチューブの上端開口部に封着されるキャップに複数の調整部を設け、各調整部によりアウタチューブとインナチューブの内部の複数の被調整部のそれぞれを操作可能にしてなる油圧緩衝器において、複数の前記調整部が前記キャップの平面視で、該キャップの中心から外れる位置に並置され、かつ複数の前記被調整部のうちの少なくとも1つが前記アウタチューブとインナチューブの中心に配置されるようにしたものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3の発明において更に、複数の前記被調整部の全てが前記アウタチューブとインナチューブの中心に配置されるようにしたものである。
【0010】
請求項の発明は、車体側のアウタチューブ内に車軸側のインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に作動油室を、上部に油溜室を区画し、前記アウタチューブ側に取付けた中空のピストンロッドを、前記隔壁部材を貫通して前記作動油室内に挿入し、該ピストンロッドの先端部に前記作動油室内を摺動するピストンを設け、前記インナチューブの作動油室をピストンによりピストンロッド側油室とピストン側油室に区画し、それら2つの油室をピストンに設けた圧側流路と伸側流路のそれぞれにより連通可能にし、それら2つの流路の出口のそれぞれに圧側減衰バルブと伸側減衰バルブのそれぞれを設け、ピストンロッドの中空部にピストンロッド側油室とピストン側油室を連通するバイパス路を設け、該バイパス路にニードル弁を設け、前記アウタチューブの上端開口部に封着されるキャップに、ニードル弁を移動させてバイパス路の通路抵抗による減衰力を調整する第1調整部と、圧側減衰バルブを閉じ方向に付勢するスプリングのセット荷重を調整して圧側減衰バルブのたわみ変形による減衰力を調整する第2調整部とを設けてなる油圧緩衝器において、第1と第2の調整部が前記キャップの平面視で、該キャップの中心から外れる位置に並置され、かつ前記ニードル弁と前記スプリングが前記アウタチューブとインナチューブの中心に配置されるようにしたものである。
【0011】
請求項の発明は、請求項1〜のいずれかの発明において更に、複数の前記調整部のそれぞれが前記キャップに、回転だけして軸方向には移動しないように枢支されてなるようにしたものである。
【0012】
請求項の発明は、請求項の発明において更に、複数の前記調整部のそれぞれがアジャストボルトからなるとともに、各アジャストボルト毎に対応する複数のアジャストナットを付帯的に有し、各アジャストナットは対応するアジャストボルトが螺合するねじ孔と、他のアジャストボルトが挿通するガイド孔を備え、各アジャストボルトの回転操作により、このアジャストボルトが螺合しているアジャストナットは、当該アジャストナットのガイド孔と他のアジャストボルトとの係合を介して回り止めかつ軸方向に移動ガイドされ、軸方向に移動するように構成されるようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
(請求項1〜
(a)複数の調整部をキャップの平面視で、互いに並置するようにしたから、高さを抑え、新しい外観を提供することができる。
【0014】
(b)複数の調整部のそれぞれがキャップの平面視で、キャップの中心から外れる位置に配置されるようにしたから、キャップの限られた直径の範囲内で複数の調整部をコンパクトに配置できる。
【0015】
(請求項
(c)複数の調整部のそれぞれがキャップに、回転だけして軸方向には移動しないように枢支されてなるようにしたから、各調整部が回転操作によって上方に移動することがなく、高さを抑えることができる。
【0016】
(請求項
(d)複数の調整部のそれぞれがアジャストボルトからなるとともに、各アジャストボルト毎に対応する複数のアジャストナットを付帯的に有し、各アジャストナットは対応するアジャストボルトが螺合するねじ孔と、他のアジャストボルトが挿通するガイド孔を備えるようにした。これにより、各アジャストボルトが対応するアジャストナットを移動するに際し、他のアジャストナットを利用し、当該アジャストナットを回り止めして軸方向に移動ガイドできる。各アジャストナットのための回り止め部品やガイド部品を別途必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は油圧緩衝器を示す全体断面図である。
【図2】図2は図1の下部断面図である。
【図3】図3は図1の中間部断面図である。
【図4】図4は図1の上部断面図である。
【図5】図5はキャップを示す平面図である。
【図6】図6はキャップに設けた調整部を示す断面図である。
【図7】図7は減衰力調整構造を示す断面図である。
【図8】図8はキャップの内蔵部品を分解して示す斜視図である。
【図9】図9はジャストボルトとアジャストナットを分解して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
フロントフォーク(油圧緩衝器)10は、アウタチューブ11を車体側に、インナチューブ12を車輪側に配置する倒立型フロントフォークであり、図1〜図4に示す如く、アウタチューブ11の下端開口部の内周に固定したガイドブッシュ11Aと、インナチューブ12の上端開口部の外周に固定したガイドブッシュ12Aを介して、アウタチューブ11の内部にインナチューブ12を摺動自在に挿入する。11Bはオイルシール、11Cはダストシールである。アウタチューブ11の上端開口部にはキャップ13が液密に螺着されて封着され、アウタチューブ11の外周には車体側取付部材が設けられる。インナチューブ12の下端開口部には車軸ブラケット15が液密に挿着されて螺着されてインナチューブ12の底部を構成し、車軸ブラケット15には車軸取付孔16が設けられる。
【0019】
フロントフォーク10は、アウタチューブ11の内周と、インナチューブ12の外周と、前記2つのガイドブッシュ11A、12Aにて区画される環状油室17を区画する。
【0020】
フロントフォーク10は、インナチューブ12の上端側内周にOリングを介する等により液密に、有底カップ状の隔壁部材19を設け、隔壁部材19の底部のロッドガイド部19Aより下部に作動油室21を区画するとともに、上部に油溜室22を区画する。油溜室22の中でその下側領域は油室22A、上側領域は空気室22Bである。隔壁部材19のインナチューブ12より突出する上端部の外周に設けたガイドブッシュ12Aはアウタチューブ11の内周に摺接する。
【0021】
フロントフォーク10は、アウタチューブ11に取付けたピストンロッド23を隔壁部材19のロッドガイド部19Aに摺動自在に挿入する。具体的には、キャップ13の中心部の下端部に螺着した取付カラー24に中空ピストンロッド23を螺着し、これをロックナット24Aで固定する。
【0022】
フロントフォーク10は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aからインナチューブ12に挿入したピストンロッド23の先端部に螺着したピストンボルト25に、インナチューブ12の内周に摺接するピストン26を固定し、前記油室21をピストンロッド23が収容されるピストンロッド側油室21Aと、ピストンロッド23が収容されないピストン側油室21Bに区画する。ピストン26はピストンナット27により固定される。
【0023】
フロントフォーク10は、前記環状油室17を、インナチューブ12に設けた油孔28を介して、ピストンロッド側油室21Aに常時連通する。
【0024】
フロントフォーク10は、ピストン26のピストン側油室21Bに臨む下端面の側に上ばね受け31を取着し、車軸ブラケット15が形成するインナチューブ12の底部に下ばね受け32を配置し、上ばね受け31と下ばね受け32の間にメイン懸架スプリング33を介装している。メイン懸架スプリング33の全体がピストン側油室21Bに浸漬される。フロントフォーク10は、車両走行時に路面から受ける衝撃力をメイン懸架スプリング33の伸縮振動により吸収する。このとき、ばね荷重調整装置35が下ばね受け32を昇降し、メイン懸架スプリング33のばね荷重を調整可能にする。
【0025】
ばね荷重調整装置35は、図2に示す如く、インナチューブ12の底部を構成する車軸ブラケット15の車軸取付孔16を外れる位置(車軸取付孔16の側傍)で外部に臨むアジャストボルト36を該底部に設ける。車軸ブラケット15の内側底部(下ばね受け32の下端部を臨むことになる面)に設けたスライダ37をアジャストボルト36の回転力によりインナチューブ12の中心軸に交差する方向(アジャストボルト36の軸方向)に直線移動可能にする。下ばね受け32の下部斜面A1をスライダ37の上部斜面A2に載置させ、アジャストボルト36の回転により下ばね受け32を昇降させて懸架スプリング33のばね荷重を調整する。
【0026】
フロントフォーク10は、ピストン26に減衰力発生装置40を備える(図3、図4)。
減衰力発生装置40は、圧側流路41と伸側流路42(不図示)を備える。圧側流路41は、バルブストッパ41Bにバックアップされる圧側ディスクバルブ41A(圧側減衰バルブ)により開閉される。伸側流路42は、バルブストッパ42Bにバックアップされる伸側ディスクバルブ42A(伸側減衰バルブ)により開閉される。尚、バルブストッパ41B、バルブ41A、ピストン26、バルブ42A、バルブストッパ42Bは、ピストンボルト25に挿着されるバルブ組立体を構成し、ピストンボルト25に螺着されるピストンナット27に挟まれて固定される。
【0027】
減衰力発生装置40は、キャップ13の中心部に後に詳述する減衰力調整装置40Aを設け、減衰力調整装置40Aのニードル弁85をピストンロッド23の中空部に挿入し、ピストンロッド23に設けたバイパス路45の開度をニードル弁85の上下動により調整する。バイパス路45は、ピストン26をバイパスし、ピストンロッド側油室21Aとピストン側油室21Bを連絡する。
【0028】
減衰力発生装置40は、圧側行程では、低速域で、ニードル弁85により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。また、伸側行程では、低速域で、ニードル弁85により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ42Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。この圧側減衰力と伸側減衰力により、前述したメイン懸架スプリング33の伸縮振動を制振する。
【0029】
フロントフォーク10は、キャップ13の下端面に、インナチューブ12に設けた隔壁部材19の上端部が最圧縮ストロークで衝合するストッパラバー13A、ストッパ板13Bを設けており、このストッパラバー13Aによって最圧縮ストロークを規制する。
【0030】
フロントフォーク10は、インナチューブ12の上端側の隔壁部材19のピストンロッド側油室21Aに臨む下端面にストッパリング51Aを用いて固定したスプリングシート51と、ピストンロッド23に設けたストッパリング52Aに係止させたスプリングシート52との間にリバウンドスプリング53を介装してある。フロントフォーク10の最伸長時に、隔壁部材19がリバウンドスプリング53をスプリングシート52との間で加圧することにより、最伸長ストロークを規制する。
【0031】
しかるに、フロントフォーク10にあっては、アウタチューブ11とインナチューブ12の環状隙間からなる前記環状油室17の断面積S1を、ピストンロッド23の断面積(外径に囲まれる面積)S2より大きく形成している(S1>S2)。
【0032】
また、隔壁部材19のロッドガイド部19A及びスプリングシート51に、圧側行程では油溜室22からピストンロッド側油室21Aへの油の流れを許容し、伸側行程ではピストンロッド側油室21Aから油溜室22への油の流れを阻止するチェック弁60を設けている。
【0033】
また、隔壁部材19のロッドガイド部19Aはピストンロッド23の周囲にオイルシールを封着していないから、チェック弁60の内周に圧入してあるブッシュがピストンロッド23の周囲に形成する微小間隙により、ピストンロッド側油室21Aと油溜室22を連通する微小流路(オリフィス)61(不図示)を構成する。微小流路61は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aに穿設され、ピストンロッド側油室21Aと油溜室22を連通するオリフィス手段により構成されるものでも良い。
【0034】
フロントフォーク10の動作は以下の如くになる。
(圧側行程)
圧側行程でインナチューブ12に進入するピストンロッド23の進入容積分の作動油がインナチューブ12の内周の油室21Aからインナチューブ12の油孔28を介して環状油室17に移送される。このとき、環状油室17の容積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッド23の容積増加分ΔS2より大きいから、環状油室17への油の必要補給量のうち、(ΔS1−ΔS2)の不足分が油溜室22からチェック弁60を介して補給される。
【0035】
この圧側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁85により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。
【0036】
(伸側行程)
伸側行程でインナチューブ12から退出するピストンロッド23の退出容積分の作動油が環状油室17からインナチューブ12の油孔28を介してインナチューブ12の内周の油室21Aに移送される。このとき、環状油室17の容積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッド23の容積減少分ΔS2より大きいから、環状油室17からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分が微小流路61を介して油溜室22へ排出される。
【0037】
この伸側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁85により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ42Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。また、上述の微小流路61の通路抵抗による伸側減衰力も発生する。
【0038】
以下、減衰力調整装置40Aについて説明する。
減衰力調整装置40Aは、図3、図4に示す如く、同心状に挿通した2本のプッシュロッド71、72をピストンロッド23の中空部に挿通し(ピストンロッド23の中空部にプッシュロッド72を、プッシュロッド72の中空部にプッシュロッド71を挿通する)、プッシュロッド71を軸方向に移動させる第1調整部80と、プッシュロッド72を軸方向に移動させる第2調整部90を、フロントフォーク10の上部であるキャップ13に設ける。
【0039】
第1調整部80は、ニードル弁85を移動させてバイパス路45の通路抵抗による減衰力を調整する。第2調整部90は、圧側ディスクバルブ41Aを閉じ方向に付勢するスプリング97のセット荷重を調整して圧側ディスクバルブ41Aのたわみ変形による減衰力を調整する。以下、第1調整部80と第2調整部90の構造、ニードル弁85を用いた減衰力調整構造、スプリング97を用いた減衰力調整構造について説明する。
【0040】
(第1調整部80と第2調整部90の構造)(図5、図6、図8、図9)
キャップ13の下端開口側に取付カラー24が螺着されてキャップ組立体100が構成される。キャップ組立体100のキャップ13がOリング101を介してアウタチューブ11の上端開口部に液密に螺着され、取付カラー24の下端部にピストンロッド23の上端部が螺着されてロックナット24Aで固定される。キャップ組立体100のキャップ13と取付カラー24が形成する環状凹部にはストッパラバー13Aが装填され、取付カラー24の外周にはストッパ板13Bが挿着されるとともに、このストッパ板13Bを係止するストッパリング13Cが係着される(図6、図8)。
【0041】
キャップ組立体100のキャップ13と取付カラー24にはアジャスト組立体110が装填される。アジャスト組立体110は、図9に示す如く、第1調整部80を第1アジャストボルト81により構成し、第2調整部90を第2アジャストボルト91により構成し、各アジャストボルト81、91毎に対応する、第1と第2のアジャストナット82、92を有する。第1アジャストナット82は対応する第1アジャストボルト81のねじ部81Aが螺合するねじ孔82Aと、他のアジャストボルト91のガイド部91Bが挿通するガイド孔82Bを備える。第2アジャストナット92は対応する第2アジャストボルト91のねじ部91Aが螺合するねじ孔92Aと、他のアジャストボルト81に嵌合したガイドカラー81Bが挿通するガイド孔92Bを備える。従って、第1アジャストボルト81の回転操作により、このアジャストボルト81が螺合している第1アジャストナット82は、当該アジャストナット82のガイド孔82Bと他のアジャストボルト91のガイド部91Bとの係合を介して回り止めかつ軸方向に移動ガイドされ、軸方向に上下動する。他方、第2アジャストボルト91の回転操作により、このアジャストボルト91が螺合している第2アジャストナット92は、当該アジャストナット92のガイド孔92Bと他のアジャストボルト81のガイドカラー81Bとの係合を介して回り止めかつ軸方向に移動ガイドされ、軸方向に上下動する。
【0042】
アジャスト組立体110を構成する第1調整部80の第1アジャストボルト81と第2調整部90の第2アジャストボルト91は、キャップ組立体100を構成するキャップ13の平面視で、キャップ13の中心から外れる位置に並置されている2つの装填孔のそれぞれに、キャップ13の裏面側からOリング83、93を介して液密に挿着される。そして、第1アジャストボルト81と第2アジャストボルト91はアジャストナット82、92とともに、取付カラー24がキャップ13に螺着されて形成するキャップ組立体100の中心凹部102に納められ、アジャストボルト81、91のフランジ部81C、91Cをキャップ13の下面に当て、アジャストボルト81、91の下端面を取付カラー24が形成する中心凹部102の底面に近接される。アジャストナット82、92は取付カラー24が形成する中心凹部102の内周に摺接可能に納められる。ピストンロッド23及びプッシュロッド72の中空部から突出するプッシュッロッド71が第2アジャストナット92の中心孔92Cを貫通して第1アジャストナット82の下端面に突き当てられ、ピストンロッド23の中空部から突出するプッシュロッド72が第2アジャストナット92の中心孔92Cまわりの下端面に突き当てられる。
【0043】
これにより、第1調整部80の第1アジャストボルト81の上端操作部80Aと、第2調整部90の第2アジャストボルト91の上端操作部90Aは、キャップ組立体100を構成するキャップ13の平面視で、キャップ13の中心から外れる位置にて、キャップ13の上面と面一をなすレベルにおいて互いに並置される。そして、第1調整部80の第1アジャストボルト81はキャップ13に回転だけして軸方向には移動しないように枢支され、第2調整部90の第2アジャストボルト91もキャップ13に回転だけして軸方向には移動しないように枢支される。従って、第1調整部80の第1アジャストボルト81が回転操作されると、この第1アジャストボルト81が螺合している第1アジャストナット82が軸方向に上下動し、第1アジャストナット82に突き当てられているプッシュロッド71を軸方向に移動させることができる。他方、第2調整部90の第2アジャストボルト91が回転操作されると、この第2アジャストボルト91が螺合している第2アジャストナット92が軸方向に上下動し、第2アジャストナット92に突き当てられているプッシュロッド72を軸方向に移動させることができる。
【0044】
(ニードル弁85を用いた減衰力調整構造)(図3)
ピストンロッド23の中空部の下端部にはインナベース84が挿着され、ピストンロッド23の下端面とピストンボルト25の内径段差部とがインナベース84の下端フランジを挟圧固定している。インナベース84はピストンロッド23の中空部に圧入されても良い。このようにしてピストンロッド23に固定されたインナベース84の内周にニードル弁85が液密に挿入され、ニードル弁85の中間フランジ部85Aとインナベース84の上端面との間に介装されるスプリング86がニードル弁85を軸方向の上方(開弁方向)に付勢し、ニードル弁85の上端面をプッシュロッド71の下端面に突き当てる。
【0045】
第1調整部80の第1アジャストボルト81が、前述の如く、プッシュロッド71を軸方向に上下動させると、プッシュロッド71と軸方向に衝合しているニードル弁85がピストンボルト25に対して上下動し、ピストンボルト25に設けてあるバイパス路45の縦孔上端部の弁シートに対して進退し、バイパス路45の開度を調整し、ひいてはバイパス路45の通路抵抗による圧側と伸側の減衰力を調整可能にする。
【0046】
(スプリング97を用いた減衰力調整構造)(図3、図7)
ピストンロッド23の下端側の直径方向の両側には、軸方向に延びる長孔状のガイド孔23Aが設けられ、押動片94の両側突起がそれらのガイド孔23Aに概ね遊びなく軸方向にスライド可能に係入されている。ピストンロッド23の中空部に挿入されているプッシュロッド72の下端面が押動片94の上面に直に衝接し、プッシュロッド72の下端部に遊挿されているニードル弁85の断面部が押動片94の中心に設けた円形孔に軸方向移動自在に遊挿される。
【0047】
ピストンロッド23の下端部(ピストンボルト25)まわりには、押動片94の両端突起に下方から衝合するばね受け95と、圧側ディスクバルブ41Aの上面(背面)に衝合するバルブ押え96が配置され、ばね受け95とバルブ押え96の間にバルブ押えスプリング97が介装される。ばね受け95はカップ状をなし、カップの内周下端にて押動片94の両側突起と衝合し、カップの上端外周フランジにスプリング97を着座させる。バルブ押え96は、圧側ディスクバルブ41Aの上面の適宜の外径位置に全周連続的(間欠的でも可)に衝接する円環状押え部96Aと、ピストンボルト25の上端外周にスライドガイドされるスライド部96Bと、ピストンロッド側油室21Aを圧側流路41、伸側流路42、バイパス路45に連通する油路96Cを備え、外周段差部にスプリング97を着座させる。
【0048】
第2調整部90のアジャストボルト91が、前述の如く、プッシュロッド72を軸方向に移動させると、プッシュロッド72の下端面が衝接している押動片94がばね受け95を上下に移動してバルブ押えスプリング97を伸縮し、スプリング97のセット荷重を調整する。これにより、スプリング97のセット荷重がバルブ押え96を介して圧側ディスクバルブ41Aを閉じる方向に付勢し、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。バルブ押え96は押え部96Aの径を異にするものに交換することができ、大径の押え部96Aを備えたバルブ押え96は圧側ディスクバルブ41Aの外周側を押え、ピストン速度の低速域から減衰力を大きくする。小径の押え部96Aを備えたバルブ押え96は圧側ディスクバルブ41Aの内周側を押え、ピストン速度が中〜高速域で減衰力を大きくする。
【0049】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)複数の調整部80、90をキャップ13の平面視で、互いに並置するようにしたから、高さを抑え、新しい外観を提供することができる。
【0050】
(b)複数の調整部80、90のそれぞれがキャップ13の平面視で、キャップ13の中心から外れる位置に配置されるようにしたから、キャップ13の限られた直径の範囲内で複数の調整部80、90をコンパクトに配置できる。
【0051】
(c)複数の調整部80、90のそれぞれがキャップ13に、回転だけして軸方向には移動しないように枢支されてなるようにしたから、各調整部80、90が回転操作によって上方に移動することがなく、高さを抑えることができる。
【0052】
(d)複数の調整部80、90のそれぞれがアジャストボルト81、91からなるとともに、各アジャストボルト81、91毎に対応する複数のアジャストナット82、92を付帯的に有し、各アジャストナット82、92は対応するアジャストボルト81、91が螺合するねじ孔82A、92Aと、他のアジャストボルト81、91が挿通するガイド孔82B、92Bを備えるようにした。これにより、各アジャストボルト81、91が対応するアジャストナット82、92を移動するに際し、他のアジャストナット82、92を利用し、当該アジャストナット82、92を回り止めして軸方向に移動ガイドできる。各アジャストナット82、92のための回り止め部品やガイド部品を別途必要としない。
【0053】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。本発明は、広く一般の油圧緩衝器に適用できる。
【0054】
また、本発明は、キャップに3個以上の調整部、例えば減衰バルブを付勢するスプリングのセット荷重調整部、低ピストン速度用ニードル弁の開度調整部、高ピストン速度用ニードル弁の開度調整部の如くの3個の調整部を設けるとき、それらの各調整部を互いに並置することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、車体側チューブと車軸側チューブを摺動自在に嵌合してなり、前記車体側チューブの上端開口部に封着されるキャップに複数の調整部を設け、各調整部により車体側チューブと車軸側チューブの内部の複数の被調整部のそれぞれを操作可能にしてなる油圧緩衝器において、複数の前記調整部が前記キャップの平面視で、該キャップの中心から外れる位置に並置され、かつ複数の前記被調整部のうちの少なくとも1つが前記車体側チューブと車軸側チューブの中心に配置される。これにより、車体側チューブのキャップに複数の調整部を設ける油圧緩衝器において、高さを抑え、新しい外観を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 フロントフォーク(油圧緩衝器)
11 アウタチューブ(車体側チューブ)
12 インナチューブ(車軸側チューブ)
13 キャップ
19 隔壁部材
21 作動油室
21A ピストンロッド側油室
21B ピストン側油室
22 油溜室
23 ピストンロッド(ピストン支持部材)
26 ピストン
41 圧側流路
41A 圧側ディスクバルブ(圧側減衰バルブ)
42 伸側流路
42A 伸側ディスクバルブ(伸側減衰バルブ)
45 バイパス路
80 第1調整部
81 第1アジャストボルト
82 第1アジャストナット
82A ねじ孔
82B ガイド孔
85 ニードル弁(被調整部)
90 第2調整部
91 第2アジャストボルト
92 第2アジャストナット
92A ねじ孔
92B ガイド孔
97 スプリング(被調整部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車軸側チューブを摺動自在に嵌合してなり、
前記車体側チューブの上端開口部に封着されるキャップに複数の調整部を設け、各調整部により車体側チューブと車軸側チューブの内部の複数の被調整部のそれぞれを操作可能にしてなる油圧緩衝器において、
複数の前記調整部が前記キャップの平面視で、該キャップの中心から外れる位置に並置され、かつ複数の前記被調整部のうちの少なくとも1つが前記車体側チューブと車軸側チューブの中心に配置されることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
複数の前記被調整部の全てが前記車体側チューブと車軸側チューブの中心に配置される請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
車体側のアウタチューブ内に車軸側のインナチューブを摺動自在に挿入し、
前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に作動油室を、上部に油溜室を区画し、
前記アウタチューブ側に取付けたピストン支持部材を、前記隔壁部材を貫通して前記作動油室内に挿入し、該ピストン支持部材の先端部に前記作動油室内を摺動するピストンを設け、
前記アウタチューブの上端開口部に封着されるキャップに複数の調整部を設け、各調整部によりアウタチューブとインナチューブの内部の複数の被調整部のそれぞれを操作可能にしてなる油圧緩衝器において、
複数の前記調整部が前記キャップの平面視で、該キャップの中心から外れる位置に並置され、かつ複数の前記被調整部のうちの少なくとも1つが前記アウタチューブとインナチューブの中心に配置されることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項4】
複数の前記被調整部の全てが前記アウタチューブとインナチューブの中心に配置される請求項3に記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
車体側のアウタチューブ内に車軸側のインナチューブを摺動自在に挿入し、
前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に作動油室を、上部に油溜室を区画し、
前記アウタチューブ側に取付けた中空のピストンロッドを、前記隔壁部材を貫通して前記作動油室内に挿入し、該ピストンロッドの先端部に前記作動油室内を摺動するピストンを設け、
前記インナチューブの作動油室をピストンによりピストンロッド側油室とピストン側油室に区画し、それら2つの油室をピストンに設けた圧側流路と伸側流路のそれぞれにより連通可能にし、それら2つの流路の出口のそれぞれに圧側減衰バルブと伸側減衰バルブのそれぞれを設け、
ピストンロッドの中空部にピストンロッド側油室とピストン側油室を連通するバイパス路を設け、該バイパス路にニードル弁を設け、
前記アウタチューブの上端開口部に封着されるキャップに、ニードル弁を移動させてバイパス路の通路抵抗による減衰力を調整する第1調整部と、圧側減衰バルブを閉じ方向に付勢するスプリングのセット荷重を調整して圧側減衰バルブのたわみ変形による減衰力を調整する第2調整部とを設けてなる油圧緩衝器において、
前記第1と第2の調整部が前記キャップの平面視で、該キャップの中心から外れる位置に並置され、かつ前記ニードル弁と前記スプリングが前記アウタチューブとインナチューブの中心に配置されることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項6】
複数の前記調整部のそれぞれが前記キャップに、回転だけして軸方向には移動しないように枢支されてなる請求項1〜のいずれかに記載の油圧緩衝器。
【請求項7】
複数の前記調整部のそれぞれがアジャストボルトからなるとともに、各アジャストボルト毎に対応する複数のアジャストナットを付帯的に有し、
各アジャストナットは対応するアジャストボルトが螺合するねじ孔と、他のアジャストボルトが挿通するガイド孔を備え、
各アジャストボルトの回転操作により、このアジャストボルトが螺合しているアジャストナットは、当該アジャストナットのガイド孔と他のアジャストボルトとの係合を介して回り止めかつ軸方向に移動ガイドされ、軸方向に移動するように構成される請求項に記載の油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−47341(P2012−47341A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255242(P2011−255242)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【分割の表示】特願2007−253361(P2007−253361)の分割
【原出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】