説明

車両用ステアバイワイヤシステムと車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法

【課題】車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、ステアバイワイヤシステムでありながら油圧式パワーステアリングシステムに近い操舵フィーリングを達成できるステアバイワイヤシステムを提供すること。
【解決手段】操舵装置のモータ11のトルク推定回路13は、モータ11に加えられた入力トルクの推定トルクT^i1を算出する。その推定トルクT^i1は、(A1−1)倍されてモータ11へ伝達される。転舵装置のモータ21のトルク推定回路23は、モータ21に加えられた入力トルクの推定トルクT^i2を算出する。その推定トルクT^i2は、A2倍されてモータ11へ伝達される。またモータ11のロータ位置θ1とモータ21のロータ位置θ2との偏差は、A3倍されてモータ21へ伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、操舵装置と転舵装置の間の機械的結合をなくして電気的に結合する車両用ステアバイワイヤシステムとその車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵装置の反力アクチュエータとしてのモータ(反力モータ)と転舵装置の転舵アクチュエータとしてのモータ(転舵モータ)を制御する車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、従来車速センサにより検出された車速と操舵装置のハンドルの回転軸に取り付けた操舵角センサにより検出された操舵角に基づいて目標転舵角を設定し、その目標転舵角と転舵角センサにより検出された転舵角との偏差に基づいて転舵モータを制御するとともに、前記センサやハンドルの軸に取り付けたトルクセンサ等の検出信号に基づいて操舵装置のハンドルの操作方向と逆方向の反力を発生させるように反力モータを制御するステアバイワイヤシステムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のステアバイワイヤシステムは、転舵輪のタイヤが路面から受ける力(反力)が反力モータへ反映されないため、車の運転者は、路面の凹凸等の路面の力を実感することができない。そのため操舵装置のハンドルを操作するときの操舵フィーリングが悪い。
本願発明は、従来のステアバイワイヤシステムにおける前記問題点に鑑み、ステアバイワイヤシステムでありながら油圧式パワーステアリングシステムに近い操舵フィーリングを実現できるステアバイワイヤシステムとその車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、その目的を達成するため、請求項1に記載の車両用ステアバイワイヤシステムは、反力アクチュエータとして反力モータを用いた操舵装置と転舵用アクチュエータとして転舵モータを用いた転舵装置を備えた車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータに加わる入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、転舵モータに加わる入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達することを特徴とする。
請求項2に記載の車両用ステアバイワイヤシステムは、反力アクチュエータとして反力モータを用いた操舵装置と転舵用アクチュエータとして転舵モータを用いた転舵装置を備えた車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータに加わる入力トルクを反力モータのモータ電流と反力モータのロータ位置に基づいて推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、転舵モータに加わる入力トルクを転舵モータのモータ電流と転舵モータのロータ位置に基づいて推定し、その推定した入力トルクを転舵モータへ伝達するとともにその推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、反力モータのロータ位置と転舵モータのロータ位置の偏差を位置制御用ゲイン倍し、トルクに変換して転舵モータへ伝達することを特徴とする。
請求項3に記載の車両用ステアバイワイヤシステムは、請求項1又は請求項2に記載の車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、転舵モータは複数個であることを特徴とする。
【0006】
請求項4に記載の車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法は、反力アクチュエータとして反力モータを用いた操舵装置と転舵用アクチュエータとして転舵モータを用いた転舵装置を備えた車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータに加わる入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して転舵モータへ伝達し、操舵モータに加わる入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達することを特徴とする。
請求項5に記載の車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法は、反力アクチュエータとして反力モータを用いた操舵装置と転舵用アクチュエータとして転舵モータを用いた転舵装置を備えた車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータに加わる入力トルクを反力モータのモータ電流と反力モータのロータ位置に基づいて推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、転舵モータに加わる入力トルクを転舵モータのモータ電流と転舵モータのロータ位置に基づいて推定し、その推定した入力トルクを転舵モータへ伝達するとともにその推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、反力モータのロータ位置と転舵モータのロータ位置の偏差を位置制御用ゲイン倍し、トルクに変換して転舵モータへ伝達することを特徴とする。
請求項6に記載の車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法は、請求項4又は請求項5に記載の車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法において、転舵モータは複数個であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明は、操舵装置の反力モータと転舵装置の転舵モータに加わるトルクを夫々推定し、その推定したトルクは、夫々任意に設定した伝達倍率倍して転舵モータから反力モータへ、反力モータから転舵モータへ伝達されるから、転舵輪が路面から受ける力を操舵装置のハンドルへ伝えることができる。したがって本願発明は、油圧式パワーステアリングシステムに近い操舵フィーリングを実現できる。また伝達倍率は、運転者の好みに応じて変えることができるから、運転者の好みに合った操舵フィーリングを実現できる。
【0008】
本願発明は、転舵装置に2個の転舵モータを用いているから、2個の転舵モータが正常に駆動しているときは、各モータの負担は1/2になるからモータの信頼性が向上し、またいずれか一方の転舵モータが故障したときは、残りの転舵モータで操舵を継続できるから安全性を確保できる。
本願発明のセンサは、電流センサとモータのロータ位置を検出する位置センサのみでよいから、センサの個数や種類が少なくてよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本願発明の実施例に係るステアバイワイヤシステムの概要を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1のステアバイワイヤシステムのブロック線図である。
【図3】図3は、図2の一部のブロック線図の変形例を示す図である。
【図4】図4は、図2のブロック線図の変形例を示す図である。
【図5】図5は、本願発明の実施例に係る転舵装置に2個のモータを用いた場合のブロック線図である。
【図6】図6は、図2のステアバイワイヤシステムのシミュレーションの結果を示す図である。
【図7】図7は、図5のステアバイワイヤシステムのシミュレーションの結果を示す図である。
【図8】図8は、図2のステアバイワイヤシステムの実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜図8により本願発明の実施例に係るステアバイワイヤシステムを説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本願発明の実施例に係るステアバイワイヤシステムの概要を示すブロック図である。
ステアバイワイヤシステムは、操舵装置51、転舵装置52、マイコン等によって構成する制御装置60等からなる。操舵装置51は、ハンドル511、ハンドル511によって回転する回転軸512、回転軸512と一体の回転軸を持つ反力アクチュエータとしてのモータ(反力モータ)11、モータ駆動回路12、モータ電流を検出する電流センサS11,S12、モータ11のロータ位置(回転角度)を検出する位置センサS13等を備えている。転舵装置52は、ラックアンドピニオン522、転舵アクチュエータとしてのモータ(転舵モータ)21、モータ駆動回路22、モータ電流を検出する電流センサS21,S22、モータ21のロータの位置(回転角度)を検出する位置センサS23等を備えている。モータ21は、ラックアンドピニオン522を駆動して一対の転舵輪521を旋回してその方向を変える。モータ11、モータ21は、例えば永久磁石同期モータを用いるが、他のモータであってもよい。
制御装置60は、モータ11,21の電流を制御する電流制御部61,62等からなる。
【0012】
制御装置60は、モータ11のモータ電流とモータ11のロータ位置に基づいてモータ11に加えられた入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍してモータ21へ伝達してモータ21を制御する。一方制御装置60は、モータ21のモータ電流とモータ21のロータ位置に基づいてモータ21に加えられた入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍してモータ11へ伝達する。即ち制御装置60は、モータ11,21に加えられた入力トルクを夫々推定してその推定した入力トルクを双方のモータへ伝達して両モータのロータの位置(回転角度)が一致するように制御する。また一方のモータから他方のモータへ伝達するトルクの大きさは、伝達倍率を任意の値に設定することにより調整することができる。
【0013】
図2は、図1のステアバイワイヤシステムの具体例を示すブロック線図である。
図2は、永久磁石同期モータのベクトル制御方式を適用し、d軸、q軸電流を非干渉かつ最大効率となるように制御するもので、d軸電流を0としたときのブロック線図である。
図2において、上半分は、モータ11に関係するブロック線図で、モータ11、駆動回路12、トルク推定回路13、伝達倍率(A1−1)の増力回路14等を備えている。下半分は、モータ21に関係するブロック線図で、モータ21、駆動回路22、トルク推定回路23、伝達倍率A2の増力回路24、位置制御用ゲイン回路26、位置・トルク変換回路27等を備えている。
【0014】
トルク推定回路13は、モータ電流iq1とモータ11のロータ位置θ1に基づいてモータ11のロータ軸に加えられる入力トルクTi1を推定して推定トルクT^i1を算出する。推定トルクT^i1は、増力回路14で(A1−1)倍され、加算点15を介して駆動回路12へ伝達される。一方推定回路23は、モータ電流iq2とモータ21のロータ位置θ2に基づいてモータ21のロータ軸に加えられる入力トルクTi2を推定して推定トルクT^i2を算出する。推定トルクT^i2は、駆動回路22へ伝達されるとともに、増力回路24でA2倍され、加算点15を介してモータ11の駆動回路12へ伝達される。モータ21側の加算点25は、モータ11とモータ21のロータ位置θ1,θ2の偏差を算出し、そのロータ位置偏差は、位置制御用ゲイン回路26でA3倍され、位置・トルク変換回路27でトルクに変換されて駆動回路22へ伝達される。
【0015】
次に図2におけるモータ11,21のロータ位置θ1,θ2の関係について説明する。
図2において、Ra1,Ra2はモータ11,21の電機子抵抗、Laq1,Laq2はモータ11,21の電機子リアクタンス、J1,J2はモータ11,21の慣性モーメント、D1,D2はモータ11,21の粘性制動係数、KT1,KT2はモータ11,21のトルク定数、KE1,KE2はモータ11,21の逆起電力定数である。Ti1,Ti2はモータ11,21へ加えられる入力トルク、T^i1,T^i2は入力トルクTi1,Ti2の推定トルク、θ1,θ2はモータ11,21のロータ位置である。Pi1,Pi2はモータ11,21の電流制御用ゲイン、A1はモータ11からモータ21へトルクを伝達する伝達倍率、A2はモータ21からモータ11へトルクを伝達する伝達倍率、A3はモータ21のロータ位置制御用ゲイン、G(s)はロータの位置をトルクに変換する位置・トルク変換要素、sはラプラス変数である。
【0016】
モータ11,21のq軸のモータ電流iq1,iq2は、式(1),(2)で表すことができる。
なお式(1)は、図2のiq1*とiq1の間のブロックを図3(a)のように変形して求める。式(2)も同様にiq2*とiq2の間のブロックを変形して求める。
【数1】

ここでiq1*,iq2*は、モータ11,21のモータ電流iq1,iq2の電流指令値であり、θ1,θ2はモータ11,21のロータの回転角速度である。
【0017】
図2において駆動回路12,22の電流制御用ゲインPi1,Pi2を十分に大きくすると、式(1),(2)は、式(3),(4)のように近似できる。
【数2】

【0018】
また電流指令値iq1*は、入力トルクの推定トルクT^i1,T^i2を用いて式(5)で表すことができる。
【数3】

【0019】
ここでモータ11,21の入力トルクの推定トルクT^i1,T^i2は、トルク推定回路13,23において、モータ電流iq1,iq2とロータ位置θ1,θ2を用いて式(6),(7)で求めることができる。
【数4】

【0020】
モータ11のロータ位置θ1は、式(6)から式(8)で表すことができる。
【数5】

【0021】
式(8)に式(1),(5)を代入すると、式(9)になる。
【数6】

【0022】
一方モータ21のロータ位置θ2は、θ1を用いて式(10)で表すことができる。
なお式(10)は、図2のモータ21、駆動回路22、「1/s」のブロック、位置制御用ゲイン回路26、位置・トルク変換回路27を図3(b)のように変形して求めることができる。
【数7】

【0023】
図2のステアバイワイヤシステムは、式(9)、(10)を用いて図4(a)のブロック線図のように表すことができる。そしてモータ11,21に加えられる入力トルクTi1,Ti2とそれらの推定トルクT^i1,T^i2との推定誤差(Ti1−T^i1),(Ti2−T^i2)がない場合には、図4(a)のブロック線図は、図4(b)のように表すことができる。
【0024】
図4(a)により、モータ11のロータの位置θ1は、モータ11の入力トルクの推定トルクT^i1をA1倍した値とモータ21の入力トルクの推定トルクT^i2をA2倍した値の和に、モータ11の入力トルクの推定誤差(Ti1−T^i1)を加え、二次フィルタF1を通したものとして表すことができる。一方モータ21のロータ位置θ2は、モータ21の入力トルクの推定誤差(Ti2−T^i2)を1/A3倍してロータ位置θ1に加え、二次フィルタF2を通したものとして表すことができる。したがってモータ11は、モータ11,21に加えられたトルクの和によって回転し、モータ21のロータの位置は、2次遅れを含むが最終的にはモータ11のロータの位置と一致する。モータ11の入力トルクの推定誤差のオフセット成分は、予めロータのゼロ位置の調整を行うことに解決できる。そして入力トルクの推定トルクに誤差があったとしてもトルクを伝達する倍率が多少異なるだけでステアバイワイヤシステム全体には大きな影響はない。またモータ21の入力トルクの推定誤差は、モータ21のロータの位置に関係するが、位置制御用ゲインA3が大きい場合には、その推定誤差の影響は小さくなる。
【0025】
位置制御用ゲインA3が大きい場合には、モータ11,21の入力トルクの推定トルクT^i1,T^i2は、入力トルクTi1,Ti2と等しいものとして扱うことができ、図4(b)のように、モータ11,21に加わる入力トルクを任意の伝達倍率A1,A2で双方向へ伝達することができ、かつモータ11,21のロータ位置θ1,θ2は一致する。したがって位置制御用ゲインA3が大きい場合には、モータ11,21のロータ位置θ1,θ2は一致するから、図2のステアバイワイヤシステムは、油圧式パワーステアリングシステムと同様の操舵フィーリングを実現することができる。
【0026】
次に図5により、転舵装置にモータを2個用いた場合のブロック線図について説明する。
図1、図2の例は、操舵装置と転舵装置にモータ11,21をそれぞれ一個用いているが、図5は、安全性の観点から転舵装置側に図2のモータ21に加えてモータ31を用いている。
図5において、図2と表示した部分は、図2の構成と同じであり、追加したモータ31は、モータ21と同じ構成である。即ちモータ31、駆動回路32、トルク推定回路33、増力回路34、位置制御用ゲイン回路36、位置・トルク変換回路37は、モータ21、駆動回路22、トルク推定回路23、増力回路24、位置制御用ゲイン回路26、位置・トルク変換回路27に対応している。
モータ31の入力トルクの推定トルクT^i3は、増力回路34でA4倍されて加算点15を介してモータ11へ伝達される。したがって図5の場合、モータ11には、モータ21の入力トルクの推定トルクT^i2とモータ21の入力トルクの推定トルクT^i3が伝達される。一方モータ11のロータ位置θ1は、加算点25,35、位置制御用ゲイン回路26,36、位置・トルク変換回路27,37を介してモータ21,31へ伝達される。
【0027】
モータ11,21,31のロータ位置θ1,θ2,θ3は、式(11),(12),(13)で表わすことができる。
【数8】

【0028】
モータ11のロータ位置θ1は、式(11)によりモータ11,21,31の入力トルクの推定トルクの和によって決まる。モータ21,31のロータ位置θ2,θ3は、式(12),(13)によって決まり、若干の遅れと推定誤差を含むが、モータ11のロータ位置θ1と一致している。
したがって図5の場合には、図2の場合と同様に、モータ11,21,31は、全てのモータのロータ軸に加わる入力トルクの総和によって回転し、全てのモータのロータの位置は一致している。
【0029】
モータ21,31は、転舵装置のラック部に接続されているから、モータ21,31の入力トルクの総和はラック部が地面から受ける力と等しくなる。一方転舵輪を旋回させるために必要なトルクは、ラックが地面から受ける力と平衡するから、モータ21,31の各々の出力トルクは、モータ21だけを用いた場合よりもモータの信頼性が向上する。
ラックに取り付けるモータ21,31が同一仕様の場合、各モータに供給される電流や電圧は略等しくなるから、どちらかのモータの電流や電圧が異常に大きくなったときは、どちらかのモータに異常が発生していることになる。したがってその場合には、異常が発生しているモータを電気的或いは機械的に切り離して正常なモータのみで操舵を継続することができる。
【0030】
なお図5は、転舵装置に2個の転舵モータを用いた例について説明したが、操舵装置に2個の反力モータを用いることもできる。また操舵装置の反力モータが故障した場合には、反力モータを停止し、ロータ軸に取り付けた位置センサの信号を用いて操舵を継続することができる。その場合、路面からの力は、操舵装置のハンドルには伝わらないが、操舵を継続できるから安全を確保できる。さらにロータ軸に取り付けた位置センサが故障した場合には、反力モータが発生する逆起電力によりハンドルの位置(ロータ位置)を検出して操舵を継続することができる。
【0031】
次に図6により、図2のステアバイワイヤシステムのシミュレーションの結果を説明する。
シミュレーションは、MATLAB/Simulinkを用い、永久磁石同期モータのベクトル制御モデルを用いて行った。
シミュレーションは、モータ11とモータ21のロータの位置が一致すること、及び任意の伝達倍率でモータに加わるトルクが伝達されることを確認した。
図6において、縦軸は、ロータの回転数とモータのロータ軸に印加するトルクを表わし、横軸は、時間を表している。点線の台形は、モータ11,21の回転数を、実線は、モータ11,21に印加するトルクを示し、TM1はモータ11に印加したトルクTi1を、TM2はモータ21に印加したトルクTi2を示す。なおロータの回転数は、ロータが回転した位置(角度)、即ちロータの位置に相当する。
【0032】
まず図6(a)について説明する。
図6(a)は、伝達倍率が1の場合で、ロータが0.5秒で約1回転するトルクを基準に、0.5〜1秒の間モータ11のロータ軸にステップ状のトルクTM1を印加し、2〜2.5の間モータ21のロータ軸にステップ状のトルクTM2を印加した。なおトルクTM2は、ロータを逆転させるため逆方向のトルクを印加している。
図6(a)の場合、モータ11,21のロータの回転数(台形の点線)は、同じで重なっている(2個のモータの回転数を重ねて表示してある)。またモータ11,21のロータの回転数は、トルクが加えられたモータと同じ回転数で動作し、両モータのロータの位置は一致している。そしてモータ11,21に加えられたトルクの大きさは略同じで、ロータの回転数が略一致していることから、両モータのトルク伝達倍率が一対一になっていることが確認できた。
【0033】
次に図6(b),(c),(d)について説明する。
図6(b),(c),(d)は、モータ11,21のトルク伝達倍率を変えて図6(a)と同様の動作を確認した。
図6(b)は、モータ11,21のトルク伝達倍率が夫々2,1の場合、図6(c)は、モータ11,21のトルク伝達倍率が夫々1,0.5の場合、図6(d)は、モータ11,21のトルク伝達倍率が夫々2,0.5の場合である。
図6(b)の場合、モータ11の入力トルクは、図6(a)の1/2倍程度になり、モータ21の入力トルクは、図6(a)と略同じである。同様に図6(c)の場合、モータ11の入力トルクは、図6(a)と略同じであり、モータ21の入力トルクは、図6(a)の約2倍である。また図6(d)の場合、モータ11の入力トルクは、図6(a)の1/2倍程度になり、モータ21の入力トルクは、図6(a)の約2倍である。
以上図6(a)〜図6(d)から、図2のステアバイワイヤシステムは、モータ11,21に加わるトルクを任意の伝達倍率で伝達することができ、モータ11,21のトルクの伝達倍率は、他方のモータの伝達倍率と干渉せずに決定できることが確認できた。
【0034】
図7は、図5のステアバイワイヤシステムのシミュレーションの結果を示す。
図7において、図7(a)は、図5のステアバイワイヤシステムのシミュレーションの結果を示し、図7(b)は、比較のため図6(a)と同じものを記載してある。シミュレーションは、図6と同様に、MATLAB/Simulinkを用い、永久磁石同期モータのベクトル制御モデルを用いて行った。
図7(a)は、モータ11,21,31のトルク伝達倍率を、夫々1に設定し、0.5〜1秒の間モータ11にトルクを加え、2〜2.5秒の間モータ21,31にトルクを加えて確認した。
【0035】
図7(a)の場合、モータ11,21,31のロータの回転数(台形の点線)は、同じで重なっている(3個のモータの回転数を重ねて表示してある)。即ちモータ11,21,31のロータの位置は一致している。またモータ21,31の入力トルクは、図7(b)のモータ21の入力トルクの1/2倍になっていることが確認できた。そして転舵輪から受ける反力をラックアンドピニオンを経由してモータが受けるトルクと、ラックアンドピニオンに印加するトルクとは平衡する。したがって転舵装置のモータ21,31の夫々の出力トルクは、図2のステアバイワイヤシステムのように転舵装置にモータ21を1個だけ設けた場合の1/2となる。したがってその分モータ21,31の負担は小さくなる。
【0036】
図8は、図2のステアバイワイヤシステムにおけるモータ11,21のトルクの双方向伝達実験の実験システムと実験結果を示す。
実験システムは、図8(b)のようにモータ11,21に相当する永久磁石同期モータM1,M2、位置センサとしてロータリエンコーダEC1,2、MPU1,2、インバータIV1,2を用いた。
実験は、実験開始後約2秒から1秒間モータM1のロータ軸にパルス状のトルクTi1を印加し、5.5秒から1秒間モータM2のロータ軸にパルス状のトルクTi2を印加して行った。
実験結果は、図8(a)に示すように、モータM1のロータの回転数RM1(点線)とモータM2のロータの回転数(実線)は略重なり、モータM1,M2の位置は一致していることが確認できた。
この実験結果からも、操舵装置側のモータM1と転舵装置側のモータM2は、モータM1が外部トルクで回転すると、モータM2もロータの位置がモータM1と同じになるように回転し、モータM2が外部トルクで回転すると、モータM1もロータの位置がモータM2と同じになるように回転することが確認できた。
【符号の説明】
【0037】
11,21,31 モータ
12,22,32 駆動回路
13,23,33 トルク推定回路
51 操舵装置
52 転舵装置
60 制御装置
1,A2,A4 トルクの伝達倍率
3,A5 位置制御用ゲイン
θ1,θ2,θ3 モータのロータ位置
θ1,θ2,θ3 モータの回転角速度
i1,Ti2,Ti3 モータに加わるトルク
T^i1,T^i2,T^i3 推定トルク
S11,S12,S21,S22 電流センサ
S13,S23 位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反力アクチュエータとして反力モータを用いた操舵装置と転舵アクチュエータとして転舵モータを用いた転舵装置を備えた車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータに加わる入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して転舵モータへ伝達し、転舵モータに加わる入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達することを特徴とする車両用ステアバイワイヤシステム。
【請求項2】
反力アクチュエータとして反力モータを用いた操舵装置と転舵用アクチュエータとして転舵モータを用いた転舵装置を備えた車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータに加わる入力トルクを反力モータのモータ電流と反力モータのロータ位置に基づいて推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、転舵モータに加わる入力トルクを転舵モータのモータ電流と転舵モータのロータ位置に基づいて推定し、その推定した入力トルクを転舵モータへ伝達するとともにその推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、反力モータのロータ位置と転舵モータのロータ位置の偏差を位置制御用ゲイン倍し、トルクに変換して転舵モータへ伝達することを特徴とする車両用ステアバイワイヤシステム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、転舵モータは複数個であることを特徴とする車両用ステアバイワイヤシステム。
【請求項4】
反力アクチュエータとして反力モータを用いた操舵装置と転舵用アクチュエータとして転舵モータを用いた転舵装置を備えた車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータに加わる入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して転舵モータへ伝達し、操舵モータに加わる入力トルクを推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達することを特徴とする車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法。
【請求項5】
反力アクチュエータとして反力モータを用いた操舵装置と転舵用アクチュエータとして転舵モータを用いた転舵装置を備えた車両用ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータに加わる入力トルクを反力モータのモータ電流と反力モータのロータ位置に基づいて推定し、その推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、転舵モータに加わる入力トルクを転舵モータのモータ電流と転舵モータのロータ位置に基づいて推定し、その推定した入力トルクを転舵モータへ伝達するとともにその推定した入力トルクを任意の伝達倍率倍して反力モータへ伝達し、反力モータのロータ位置と転舵モータのロータ位置の偏差を位置制御用ゲイン倍し、トルクに変換して転舵モータへ伝達することを特徴とする車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法において、転舵モータは複数個であることを特徴とする車両用ステアバイワイヤシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−168017(P2010−168017A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14776(P2009−14776)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月7,8日社団法人電気学会「回転機・リニアドライブ合同研究会」において文書をもって発表
【出願人】(595106947)
【出願人】(509025854)
【Fターム(参考)】