説明

Cu−Mn合金スパッタリングターゲット及び半導体配線

【課題】半導体用銅合金配線自体に自己拡散抑制機能を有せしめ、活性なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができ、またエレクトロマイグレーション(EM)耐性、耐食性等を向上させ、バリア層が任意に形成可能かつ容易であり、さらに半導体用銅合金配線の成膜工程の簡素化が可能である半導体用銅合金配線及び同配線を形成するためのスパッタリングターゲット並びに半導体用銅合金配線の形成方法を提供する。
【解決手段】Mn0.05〜20wt%を含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が500wtppm以下、残部がCu及び不可避的不純物であることを特徴とするCu−Mn合金スパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができる半導体用銅合金配線用スパッタリングターゲット、特に自己拡散抑制機能を備えた半導体配線を形成するために好適なCu−Mn合金スパッタリングターゲット及び半導体用銅合金配線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の配線材料としてAl合金(比抵抗3.0μΩ・cm程度)が使われてきたが、配線の微細化に伴いより抵抗の低い銅配線(比抵抗1.7μΩ・cm程度)が実用化されてきた。現在の銅配線の形成プロセスとしては、コンタクトホール又は配線溝の凹部にTaやTaNなどの拡散バリア層を形成した後、銅または銅合金をスパッタ成膜することが一般に行われる。
通常、純度4N(ガス成分抜き)程度の電気銅を粗金属として湿式や乾式の高純度化プロセスによって、5N〜6Nの純度の高純度銅を製造し、これをスパッタリングターゲットとして使用していた。
【0003】
半導体用配線材料として銅又は銅合金は非常に有効であるが、銅自体が非常に活性な金属で拡散し易く、半導体Si基板又はその上の絶縁膜を通してSi基板又はその周囲を汚染するという問題が発生している。このため、従来技術ではTaやTaN等の拡散バリア層を形成することは避けられないプロセスとなっている。しかし、工程数がそれだけ増えるという問題があるので、必ずしも良い手段とは言えない。このため、この拡散バリア層に替えて、銅合金を成膜し、熱処理により自己形成拡散バリア層を形成することが提案されているが、簡便かつ効果的な手段がないというのが現状である。
一方、これまで銅配線材としては、銅にいくつか元素を添加して、エレクトロマイグレーション(EM)耐性、耐食性、付着強度等を向上させることが提案されている。
【0004】
その例を、以下に挙げる。下記特許文献1には、高純度銅(4N以上)に通常添加される元素として、Al, Ag, B, Cr, Ge, Mg, Nd, Si, Sn, Ti, Zr などの元素の一種又は二種以上を、10%以下含有するスパッタリングターゲットが記載されている。
特許文献2には、99.9999重量%以上の高純度銅を基体金属とし、この基体金属に純度が99.9重量%以上のチタンを0.04〜0.15重量%、あるいは純度が99.9999重量%以上の亜鉛を0.014〜0.021重量%添加した、高純度銅合金製のスパッタリングターゲットが記載されている。
特許文献3には、Mg含有量0.02〜4wt%含有する99.99%以上の銅合金スパッタリングターゲットが記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、Mn、Nb、Zr、Cr、V、Y、Tc及びReの金属元素とSi、C、Fから選択した元素と酸素を含有する層間絶縁膜との化合物を形成してバリア層を形成することが開示されている。しかし、以上については、銅の拡散を防止するには必ずしも十分でないという問題がある。
この他、本出願人により提案された半導体素子の配線材として、Snを0.4〜5wt%含有する銅合金からなる均一なシード層の形成とスパッタ成膜特性に優れたターゲットが開示されている(特許文献5参照)。これは、シード層として有効であるが、バリア層の形成を目的とするものではない。
本出願人は、先にCu−Mn合金からなる半導体用銅合金配線材料を開示し(特許文献6)、特にSb,Zr,Ti,Cr,Ag,Au,Cd,In,Asから選択した1又は2以上の元素の総量を10wtppm以下にする自己拡散抑制機能を備えたCu−Mn合金からなる半導体用銅合金配線を提案した。これ自体、バリア膜形成に極めて有効である。本願発明は、さらに改良発明を提示するものである。
【0006】
タンタルなどの拡散バリア層も、配線ルールの微細化に伴って、薄くかつ均一に成膜する必要があるが、例えば引用文献7では、CuにMgを添加した銅合金薄膜に関するのもであるが、Mg原子が移動してMgOを形成することで、拡散バリアとシード層を同時に形成できることが記載されている。これは、熱処理によりCu-Mg合金中のMgが、層間絶縁膜の酸素などと反応して自己形成的にバリア層を形成されるというものである。そして、タンタルなどのバリア層形成プロセスが不要にできると記載されている。しかし、これは拡散バリアの確実性の問題や配線抵抗の増加などの問題がある。
半導体層上に絶縁膜を介して配線を設けた半導体装置で配線の引張強度が25kg/mm以上のCu合金である。固溶強化型Cu合金の一つとしてCu−Mnが記載されており、添加元素の添加量を適宜選択し、熱処理で特定の引張強さが得られるという記載がある(特許文献8参照)。しかし、これはMn量がどの程度のものか不明であり、半導体用銅合金配線形成に好適な自己拡散抑制機能を有しているとは言えない。
【0007】
アルミニウム、アルミニウム合金電極配線はEM耐性が低いため断線し易く、純銅配線は耐食性が劣る。そこで集積回路装置の電極配線材料を銅合金とするもので、一つとしてマンガン銅合金(〜20%Mn)が実用し得ると記載されており、銅単体よりも耐酸化性や耐ハロゲン性に優れ、配線抵抗が大きくなることは避けられないがアルミニウム合金と同程度に保てるという記載がある。また、電極膜の形成には、CVD法、スパッタ蒸着法、メッキ法により容易に形成できると記載されている(特許文献9参照)。しかし、これは抵抗が大きすぎ、半導体配線材としては、不向きである。
【0008】
Cu配線の全面、あるいはその一部、特に下地側を被覆するバリア膜にMn膜、Mn硼化物膜、Mn窒化物膜を用いることで、CuとMnとの合金の結晶粒界を形成させ、Cu拡散を防止することが記載されている。従来そのバリア材料としてZr、Ti、Vなどの窒化物及び硼化物を用いているが、これらのバリア材料は結晶粒径が比較的大きいため、Cu拡散を十分に防止できないという課題があったが、このようにバリア材料としてMn、Mn硼化物、Mn窒化物を用い、Cu配線表面を被覆することでCuとMn、硼化物(Mn−B)、窒化物(Mn−N)の界面に耐熱安定性が優れたCuとMnとの合金が極めて薄く形成され、このCuとMnの合金の結晶粒界によりCu拡散が抑制されると考えられるというものである(特許文献10参照)。
しかし、この場合は銅配線の上に新たにバリア材料としてMn、Mn硼化物、Mn窒化物を用いて、Cu配線表面を被覆するものであるから、銅配線そのものの銅の拡散抑制効果を改善するものではない。また、Mn、Mn硼化物、Mn窒化物を被覆する工程の増加という問題も存在し、根本的な解決方法とは言えない。
【0009】
添加元素として、Mg、Mn等を使用し、半導体基板上に絶縁膜を形成し、この表面に配線溝が形成し、その側壁及び底面を覆っているTiNなどの保護膜を介して、4at.%のMgが固溶されているCu膜からなる埋め込み配線層であるCu−4at.%Mg配線層を埋め込むという手法が開示されている。この場合、Cu−4at.%Mg配線層には、Cu−4at.%Mg配線層の酸化を防止するための酸化防止バリアとして機能するMgO等の皮膜を形成することが記載されている(特許文献11参照)。
しかし、Cu膜中のMnの添加は固溶限内であるので、元素の含有濃度はCuと金属間化合物を形成するために必要な濃度よりも少ないことを意味している。このため、Cuと添加元素とは金属間化合物を形成する状態にはないので、必ずしも十分なバリア膜とは言えないという問題がある。
【0010】
ターゲットとバッキングプレートを熱間静水圧プレスにより接合する際に、結晶粒成長が小さい銅合金スパッタリングターゲットに関し、V,Nb,Mn,Fe,Co,Niのグループから選ばれた1種以上の成分とSc,Al,Y,Crから選ばれた1種以上の成分との合計が0.005〜0.5wt%となるように含み、酸素:0.1〜5ppmを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金からなるスパッタリングターゲットが記載されている(特許文献12参照)。この中で、0.005wt%未満含んでも所望の効果が得られず、一方0.5wt%を越えて含有すると、熱間静水圧プレス中の結晶粒の成長を抑制すると述べているが、0.05wt%以下では配線を形成する際にバリア膜が必要になることには変りない。また、Mnのみ0.05wt%以上でないと同様にバリア膜を必要とする。
【0011】
この他、結晶方位を制御することにより、耐エレクトロマイグレーションに優れた銅ターゲット(特許文献13、14、15参照)、膜厚均一性に優れた高純度銅ターゲット(特許文献16参照)、銅原子の飛び方向が基板表面に垂直にする銅ターゲット(特許文献17参照)、不規則配向の結晶としパーティクルを減少させ膜の均一性を図る銅又は銅合金ターゲット(特許文献18参照)、(111)、(200)、(220)、(311)の4種の配向を持たせた銅ターゲット及び同ターゲットの加工製造方法(特許文献19、20参照)が開示されている。しかし、これらは結晶方位の制御に留まるもので、Cuの拡散による配線周囲の汚染を防止しようとする意図をもつものではなく、またバリア膜を形成するための銅合金ターゲットの組成と結晶方位との相互関係も不明である。
【特許文献1】特開2000−239836号公報
【特許文献2】特許第2862727号公報
【特許文献3】特開2000−34562号公報
【特許文献4】特開2005−277390号公報
【特許文献5】国際公開WO2003/064722号公報
【特許文献6】特開2006−73863号公報
【特許文献7】米国特許第6607982号
【特許文献8】特開平02−50432号公報
【特許文献9】特開平02−119140号公報
【特許文献10】特開平06−140398号公報
【特許文献11】特開平11−186273号公報
【特許文献12】特開2002−294437号公報
【特許文献13】特開平10−195609号公報
【特許文献14】特開平10−195610号公報
【特許文献15】特開平10−195611号公報
【特許文献16】特開平10−330923号公報
【特許文献17】特開2001−40470号公報
【特許文献18】特開2001−49426号公報
【特許文献19】特開2002−220659号公報
【特許文献20】特開2004−52111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、半導体用銅合金配線自体に自己拡散抑制機能を有せしめ、活性なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができ、またエレクトロマイグレーション(EM)耐性、耐食性等を向上させることができる半導体用銅合金配線及びそのためのスパッタリングターゲットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、銅に適切な量のMn元素を添加し、さらに不純物であるBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceを厳密に制御することにより、活性なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき下記の半導体用銅合金配線用スパッタリングターゲット及び半導体用銅合金配線を提供するものである。
【0014】
すなわち、本願発明は、Mn0.05〜20wt%を含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が500wtppm以下、残部がCu及び不可避的不純物であることを特徴とするCu−Mn合金スパッタリングターゲット及びこれによって形成されたCu−Mn合金半導体配線を提供する。
Cu−Mn合金中のMnは、Si半導体との界面方向に拡散し、MnとSiの酸化物を形成する。この酸化物層がMnとSiとの反応を抑制するバリア層となる。この場合、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの不純物元素は、Mnよりも酸化物を形成し易いために、MnとSiの酸化物の形成を妨害し、バリア層の形成を阻害する原因となる。したがって、これらの不純物元素は極力少ない方が良いと言える。この知見は、極めて重要であり、本願発明の中心をなす。
【0015】
以上から、不純物であるBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が50wtppm以下であることが望ましく、さらにBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が10wtppm以下であることがさらに有効である。
また、上記Cu−Mn合金スパッタリングターゲットについては、スパッタリング時のパーティクルを低減させる意味で、酸素含有量を100wtppm以下とすることが望ましく、さらには酸素含有量を50wtppm以下とするのが好ましい。
半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織構造としては、EBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern:電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、ターゲット表面の(111)面の面積比が4以下であることが望ましい。Cu−Mn合金半導体配線は、コンタクトホール又は配線溝の凹部に形成する配線材料とすることが有効であり、このための銅配線層を形成するためのシード層としても有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半導体用銅合金配線及び同配線を形成するためのスパッタリングターゲット並びに半導体用銅合金配線の形成方法は、半導体用銅合金配線自体に自己拡散抑制機能を有せしめ、活性なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができ、エレクトロマイグレーション(EM)耐性、耐食性等を向上させることができるという優れた効果を有する。また、本発明は銅合金配線膜の上面、下面、側面等に、酸化マンガンからなるバリア層を任意に、かつ安定して形成可能であり、また半導体用銅合金配線の成膜工程及びバリア層の形成工程の簡素化できるという著しい効果を有する。さらに(111)面の面積比を制御することにより、スパッタ時の成膜のユニフォーミティが良好となり、パーティクルの発生も減少するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の自己拡散抑制機能を備えた半導体用銅合金配線(シード層を含む)は、上記の通り、Mn0.05〜20wt%を含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が500wtppm以下、残部がCu及び不可避的不純物であるCu−Mn合金スパッタリングターゲット及びこれによって形成されたCu−Mn合金半導体配線である。このCu−Mn合金スパッタリングターゲットの規定する条件は、本願発明の効果を発揮させるための必要十分条件である。下記に示す、より好ましい条件は、さらに改良された発明の条件を示すものである。
【0018】
Mn0.05wt%未満では、自己拡散抑制機能を有せず、Mn20wt%を超えると抵抗が増大し、半導体用銅合金配線(シード層)としての機能が低下するので好ましくない。したがって、Mn0.05〜20wt%の含有量とする。好ましくは、Mn0.5〜10wt%を含有する銅合金である。
通常、使用されるMnは、製造時にLaが脱酸剤として使用されるので、Mnには数千ppmのLaが含有されている。これがCu−Mn合金に含有され、問題となる不純物を形成する。
【0019】
銅(純銅)は、絶縁層や半導体Si基板へ到達し、汚染源となり易いという問題がある。これは、従来から指摘されてきた問題であり、この解決策として絶縁膜と銅配線膜との間にバリア膜を形成することが提案されてきた。
このバリア膜として代表的なのは、Zr、Ti、V、Ta、Nb、Crなどの金属又は窒化物又若しくは硼化物である。しかし、これらは薄膜中の結晶粒径が大きくなるので、Cuのバリア膜としては不適当であった。
【0020】
このようなことから、先に述べた特許文献7に示すように、Mn、Mn硼化物、Mn窒化物からなるバリア膜を銅表面に形成するという提案がなされた。
しかし、このプロセスは、そもそも別の被覆プロセスで実施しなければならないという問題があり、またこれ自体はCu自体の拡散を抑制する効果があるというものではない。したがって、バリア膜を形成した以外のところでの汚染も当然起こり得ることである。このように、上記提案は、バリア効果に制約があり、コスト高となる不利があった。
【0021】
本願発明は、上記の通り、少量のMnを含有させCu合金とすることにより、Cu自体の拡散を抑制できるものであり、これはCu−Mn合金膜のいかなる状況(面)においても、その効果を発揮し持続するものである。Cu−Mn合金膜中のMnは拡散し、Si半導体の界面に到達し、Mn、Siの酸化物(MnSiの不定比酸化物)を形成する。酸素は、Cu−Mn合金膜中の不純物として酸素を消費するものと考えられる。酸化物が界面に偏在することにより、配線中心部の導電性を向上させるので、むしろ好ましい反応と言える。
【0022】
この層はSi半導体と銅合金導電(配線)層との界面に位置し、およそ〜2nm程度の層が形成される。一旦、この層が形成されると、MnのSi半導体層中への拡散が防止される。すなわち、これがバリア層となる。これは、銅合金の配線を形成することにより自己拡散抑制機能を生ぜしめるものであるから、極めて簡単であり、かつ有効であることが理解されるであろう。
従来、Taのバリア層が用いられたが、この場合、別のスパッタリング工程で形成しなければならないということ、かつバリア膜としての機能を十分に保つために均一膜の形成が必要とされることから、Ta膜は、最低でも15nmほどの膜厚が必要とされたのである。このような従来のTaバリア層に比較すると、本願発明の優位性は明らかである。
【0023】
しかしながら、半導体用銅合金配線においてバリア膜としての機能が、従来無視されてきた微量の不純物により低下するという問題が生じた。これは製造されるCu−Mn合金ターゲットにより機能がバラツクことから判明したものである。一般に、Cu−Mn合金ターゲットを製造する場合には、高純度(99.9wt%以上)の材料が使用されるが、それでも不純物元素としての総量は、通常500wtppmを超えることが多い。この原因を究明したところ、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの存在が大きく影響していることが分った。
【0024】
これらの元素は共通点があり、いずれの不純物元素はMnよりも酸化力が高いという性質を持つものである。したがって、Cu−Mn合金膜中のMnが拡散し、Si半導体の界面に到達してMn、Siの酸化物(MnSiの不定比酸化物)を形成する前に、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceによる酸化物が形成される、すなわちCu−Mn合金膜中の不純物元素が酸素を消費し、Mn、Siの酸化物バリア層の形成が十分に行われないということに起因するものと考えられる。これによって、バリア層が形成されない場合には、活性なCuはSi中に拡散し、機能の低下となる。
このことから、Cu−Mn合金膜中の酸素を増やして、消費される酸素を補充する手が考えられる。しかし、余分の酸化物は、配線の導電性を低下させる原因となるものであり、好ましいものではない。
以上から、不純物であるBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの含有を極力制限する必要がある。これが本願発明の基本である。
【0025】
さらに、本発明の半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、ターゲット表面の(111)面の面積比が4以下、さらに好ましくは3以下であることが良い。
Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの最密である(111)面が各方向に均一に分布している場合には、成膜のユニフォーミティが良好であるという著しい効果を有する。(111)面の面積比が4を超えると成膜のユニフォーミティが悪くなると共に、パーティクルの発生も増加する傾向にあり、またCuとMnのスパッタ率の影響が現れ、不均一化が目立つようになる。したがって、ターゲット表面の(111)面の面積比が4以下であることが望ましい。
【0026】
銅配線の形成プロセスとしては、コンタクトホール(ビアホール)又は配線溝の凹部にTaやTaNなどの拡散バリア層を形成した後、銅または銅合金をスパッタ成膜することが一般に行われるが。本発明はこれらに限定される必要はない。すなわち、半導体用銅合金配線は、該配線の上面、側面及び底面、すなわち周面に、銅合金中のMnが優先酸化(選択酸化)したMn酸化膜を形成することもできる。これ自体はバリア層として機能させることができる。
このMn酸化膜層は、例えば一旦ターゲットを用いてスパッタリングし銅合金配線を形成した後、酸素含有雰囲気中で熱処理することによって、該配線の表面に、銅合金中のMnを優先酸化させMn酸化膜を形成することができる。この熱処理は、200〜525°Cの範囲で行なうのが好適である。このようなバリア層の形成は、付加的な薄膜の形成プロセスは必要とせず、極めて簡単な工程でなし得るという優れた特徴を有している。
【0027】
本発明における半導体用銅合金配線の形成法は、スパッタリング法、CVD法、めっき法、イオンクラスターによるコーティング法、蒸着法、レーザーアブレーション法などを使用することができ、特にその手法に制限はない。
しかし、スパッタリング法が最も効率が良く安定して成膜が可能である。したがって、このために使用する自己拡散抑制機能を備えた半導体用銅合金配線を形成するためのスパッタリングターゲットとして、上記組成としたターゲットを用いる。
このようなターゲットの成分組成は、スパッタ膜に直接反映されるので、十分な管理が必要である。また、添加される量は上記配線膜で説明したことと同様の理由による。
ターゲットに含まれる不純物であるBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が500wtppm以下、好ましくは50wtppm以下、さらに好ましくは10wtppm以下とする。これらの元素は、銅の再結晶化温度を上げ、熱処理後の銅合金膜の結晶を微細化して抵抗を大きくするだけでなく、Mnの拡散作用を抑制してしまう。したがって、上記に制限するのが良い。
【0028】
また、上記本発明の銅合金スパッタリングターゲットに含まれるガス成分の酸素、窒素、炭素、硫黄、塩素は、大きな制限的要因ではなく、それぞれ100wtppm程度の存在は許容できるものであるが、このガス成分は、結晶粒界に介在物を形成し、上記Mn添加の効果を弱める働きをすることがあるので、このような場合には、それぞれ50wtppm以下、さらに好ましくは40wtpp以下とするのが好ましいと言える。
このガス成分は、さらにターゲットのスパッタリング時に、パーティクルの発生の原因となり、特にスパッタライフ中の突発的なパーティクル発生を生じさせるという問題があるので、極力低減することが望ましいことは言うまでもない。
また、酸素により、シード層に酸化銅(CuO)が形成されてしまうと、電気めっきの際に、その部分にCuが成膜されないという問題がある。このようにめっき浴によってシード層表面が侵されると、ミクロ的に電場が変動して均一なめっき膜が形成されないという問題が起こる。したがって、酸素等のガス成分を上記の範囲に制限することが必要である。
【実施例】
【0029】
次に、実施例に基づいて本発明を説明する。以下に示す実施例は、理解を容易にするためのものであり、これらの実施例によって本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形及び他の実施例は、当然本発明に含まれる。
【0030】
(実施例1〜6)
純度6N以上の高純度銅(Cu)と5Nレベルのマンガン(Mn)を調整し、高純度グラファイト坩堝を用いて高真空雰囲気で溶解し、高純度の合金を得た。調整した実施例1〜6の合金組成を表1に示す。
合金化した溶湯を、高真空雰囲気中で水冷銅鋳型に鋳込んでインゴットを得た。次に、製造したインゴットの表面層を除去してφ85×100hとした後、350°Cに加熱した後、そのままφ105×65hに熱間鍛造(鍛造1回)し、さらに次工程で熱間圧延を行った。但し、実施例3についてのみ、φ105×65hに熱間鍛造(鍛造1回)し、次にこれを350°Cに再加熱し、φ85×100hに締め鍛造(鍛造2回)し、さらにこれをφ105×65hに熱間で据え込み鍛造(鍛造3回)した。この鍛造の回数は任意である。
次に、400°Cで熱間圧延してφ200×18tまで圧延し、さらに冷間圧延でφ300×7.5tまで圧延した。圧延は、実施例1〜6まで同一条件である。
【0031】
次に、300〜500°C、0.5〜1時間熱処理後、ターゲット全体を急冷してターゲット素材とした。なお、表1では熱処理温度を、350°C、0.5時間の熱処理を行っているが、この温度は、ターゲットの組成、加工工程及びサイズに応じて任意に選択できる。なお、この加工及び熱処理で、特に必要とされる条件は、最密である(111)面の調整である。これは、加工履歴、熱処理履歴、成分組成により影響を受けるものである。
本願発明の実施例では、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、ターゲット表面の(111)面の面積比が4以下となる条件を選択して実施した。
【0032】
次に、これを機械加工で直径300mm、厚さ6.35mmのターゲットに加工し、さらにCu合金製バッキングプレートと拡散接合により接合してスパッタリングターゲット組立体とした。実施例1−7は表1に示す通り、マンガン添加を0.07〜18.5wt%添加したものである。なお、表1に示す含有量は、Mn量は化学分析値によるものである。さらに、金属成分の不純物は、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceであり、表1にその分析総量を示す。これは、GDMS(Glow Discharge Mass Spectrometry)分析による。
本実施例に示す、これらの総量は、1.5〜185wtppmの範囲にある。これらは、本発明の範囲である総量500wtppm以下を満たしている。
【0033】
本実施例に示す半導体用銅合金配線の評価として、シリコン基板上に酸化シリコンを形成させた後、上記ターゲットでスパッタ成膜して膜抵抗を調べた。その後400°C真空雰囲気で熱処理して酸化マンガン層を形成させた。
200°C未満では、安定な酸化マンガン層が形成されず、また525°C超では酸化マンガン層が形成される前にCuが拡散してしまうので適切ではないことがわかった。好ましくは300°C〜450°Cが最適である。その後、膜抵抗を測定してから、更に温度上げて(850°C)シリコン基板中へのCuの拡散状況(バリア性)を、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)にて評価した。
【0034】
また、耐EM(エレクトロマイグレーション)特性を評価するためにSiO層間絶縁膜を有する配線溝に、上記ターゲットでスパッタ成膜してシード層を形成した。その後400°C真空雰囲気でバリア層を自己形成させた。そしてCu電解メッキにて配線溝を埋め込んでCMP(Chemical Mechanical Polishing)にて上部を平坦化して配線幅0.2μmの配線を形成した。この配線に電流をかけて配線断線率を評価した。
また、層間絶縁膜を有する配線溝に上記ターゲットで配線溝を埋め込んでCMPにて上部を平坦化した。その後400°Cで酸素0.01vol%含有する窒素雰囲気で熱処理して、配線上部にもマンガン酸化膜を形成させた。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例1の膜特性と評価)
実施例1は、Mnを1.3wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が2.3wtppmのものである。ターゲットの製造条件は表1に示す通りである。この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表1に示すように、いずれもCuの拡散抵抗(バリア性)に優れており、良好な耐EM特性(断線は殆んど無い)及び膜抵抗(低抵抗:2.2μΩcm)を示した。これは、マンガンが配線の上部、側面、下部に拡散して良好なバリア膜を形成するとともに、配線中央部の抵抗が低下するためである。さらに断線が殆んど見られなくなったのは、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が2.3wtppmに低下したためと考えられる。
【0037】
本実施例1については、半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、ターゲット表面の(111)面の面積比を2.1となるようにした。これによって、ユニフォーミティ1σ:2.0%、パーティクル0.2μm以上の個数が8ケとなった。なお、不純物としてのガス成分を表2に示す。この場合は、酸素20wtppm、窒素20wtppm、炭素30wtppmとした。これらのガス成分の低減化は、後述する比較例と対比すると、パーティクル発生防止に貢献していると考えられる。
総合評価としては、非常に良い特性を示した。上記と同様に、シード層形成用のみに使用されるものではなく、半導体の配線材としても、本実施例は極めて有効であることを示している。
【0038】
【表2】

【0039】
(実施例2の膜特性と評価)
実施例2は、Mnを1.1wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が185wtppmであるものである。ターゲットの製造条件は表1に示す通りである。この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表1に示すように、いずれもCuの拡散抵抗(バリア性)に優れており、良好な耐EM特性(断線は殆んど無い)及び膜抵抗(低抵抗:2.4μΩcm)を示した。これは、マンガンが配線の上部、側面、下部に拡散して良好なバリア膜を形成するとともに、配線中央部の抵抗が低下するためである。さらに断線が殆んど見られないのは、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が185wtppmで、本願の条件の範囲にあるためと考えられる。しかし、実施例1に比べるとこの不純物量は多い。
【0040】
本実施例2については、半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、ターゲット表面の(111)面の面積比を2.1となるようにした。
これによって、ユニフォーミティ1σ:2.3%、パーティクル0.2μm以上の個数が20ケとなった。ユニフォーミティ及びパーティクル数が実施例1に比べて多いのは、主としてBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が多いためと考えられる。なお、不純物としてのガス成分を、同様に表2に示す。この場合は、酸素40wtppm、窒素30wtppm、炭素30wtppmであった。これらのガス成分の低減化は、後述する比較例と対比すると、パーティクル発生防止に、それなりに貢献していると考えられる。
総合評価としては、良好な特性を示した。上記と同様に、シード層形成用のみに使用されるものではなく、半導体の配線材としても、本実施例は極めて有効であることを示している。
【0041】
(実施例3の膜特性と評価)
実施例3は、Mnを1.3wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が2.3wtppmであるものである。ターゲットの製造条件は表1に示す通りである。
この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表1に示すように、いずれもCuの拡散抵抗(バリア性)に優れており、良好な耐EM特性(断線は殆んど無い)及び膜抵抗(低抵抗:2.1μΩcm)を示した。これは、マンガンが配線の上部、側面、下部に拡散して良好なバリア膜を形成するとともに、配線中央部の抵抗が低下するためである。さらに断線が殆んど見られないのは、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が2.3wtppmで、非常に低いためと考えられる。
【0042】
これによって、ユニフォーミティ1σ:3.7%、パーティクル0.2μm以上の個数が18ケとなった。ユニフォーミティ及びパーティクル数が実施例1に比べて多いのは、主としてターゲット表面の(111)面の面積比が高いためと考えられる。
本実施例3においては、上記の通り鍛造を3回実施した場合である。EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合におけるターゲット表面の面積比を1としたときの、ターゲット表面の(111)面の面積比が3.7と、本願発明で規定する4以下の条件に近くなった。
これは、(111)面の配向の均一分布が悪くなる方向にあるが、未だ本願発明の条件下にある。(111)面の配向の均一分布が悪くなる傾向は、鍛造の回数による影響と考えられるので、鍛造回数は3回程度に抑えるのが好ましいと言える。
【0043】
不純物としてのガス成分を、同様に表2に示す。この場合は、酸素20wtppm、窒素20wtppm、炭素30wtppmとした。これらのガス成分の低減化は、後述する比較例と対比すると、パーティクル発生防止に、それなりに貢献していると考えられる。総合評価としては、良好な特性を示した。上記と同様に、シード層形成用のみに使用されるものではなく、半導体の配線材としても、本実施例は極めて有効であることを示している。
【0044】
(実施例4の膜特性と評価)
実施例4は、Mnを0.07wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が1.5wtppmであるものである。ターゲットの製造条件は表1に示す通りである。
この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表1に示すように、いずれもCuの拡散抵抗(バリア性)に優れており、良好な耐EM特性(断線は殆んど無い)及び膜抵抗(低抵抗:1.9μΩcm)を示した。
これは、マンガンが配線の上部、側面、下部に拡散して良好なバリア膜を形成するとともに、配線中央部の抵抗が低下するためである。さらに断線が殆んど見られないのは、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が1.5wtppmで、非常に低いためと考えられる。しかし、実施例1に比べると、Mn量が0.07wt%と下限に低く、またターゲット表面の(111)面の面積比も3.2とやや大きい。
【0045】
本実施例4については、半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、上記の通り、ターゲット表面の(111)面の面積比を3.2となるようにしたものである。
これによって、ユニフォーミティ1σ:1.5%、パーティクル0.2μm以上の個数が18ケとなった。パーティクル数が実施例1に比べて多いのは、主としてターゲット表面の(111)面の面積比がやや高く、Mn量がややすくないためと考えられる。なお、不純物としてのガス成分を、同様に表2に示す。この場合は、酸素20wtppm、窒素10wtppm、炭素20wtppmとした。これらのガス成分の低減化は、後述する比較例と対比すると、パーティクル発生防止に、それなりに貢献していると考えられる。総合評価としては、良好な特性を示した。上記と同様に、シード層形成用のみに使用されるものではなく、半導体の配線材としても、本実施例は極めて有効であることを示している。
【0046】
(実施例5の膜特性と評価)
実施例5は、Mnを7.1wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が5.3wtppmであるものである。ターゲットの製造条件は表1に示す通りである。この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表1に示すように、いずれもCuの拡散抵抗(バリア性)に優れており、良好な耐EM特性(断線は殆んど無い)及び膜抵抗(低抵抗:2.4μΩcm)を示した。これは、マンガンが配線の上部、側面、下部に拡散して良好なバリア膜を形成するとともに、配線中央部の抵抗が低下するためである。さらに断線が殆んど見られないのは、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が5.3wtppmで、非常に低いためと考えられる。しかし、実施例1に比べると、Mn量が7.1wt%と多い場合である。
【0047】
本実施例5については、半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、上記の通り、ターゲット表面の(111)面の面積比を2.5となるようにしたものである。
これによって、ユニフォーミティ1σ:2.8%、パーティクル0.2μm以上の個数が13ケとなった。パーティクル数が実施例1に比べて多いのは、主としてターゲットMn量がやや多くなったためと考えられる。なお、不純物としてのガス成分を、同様に表2に示す。この場合は、酸素30wtppm、窒素20wtppm、炭素40wtppmとした。これらのガス成分の低減化は、後述する比較例と対比すると、パーティクル発生防止に、それなりに貢献していると考えられる。総合評価としては、良好な特性を示した。上記と同様に、シード層形成用のみに使用されるものではなく、半導体の配線材としても、本実施例は極めて有効であることを示している。
【0048】
(実施例6の膜特性と評価)
実施例6は、Mnを18.5wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が20.3wtppmであるものである。ターゲットの製造条件は表1に示す通りである。この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表1に示すように、いずれもCuの拡散抵抗(バリア性)に優れており、良好な耐EM特性(断線は殆んど無い)及び膜抵抗(低抵抗:2.6μΩcm)を示した。これは、マンガンが配線の上部、側面、下部に拡散して良好なバリア膜を形成するとともに、配線中央部の抵抗が低下するためである。さらに断線が殆んど見られないのは、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が20.3wtppmで、低いためと考えられる。しかし、実施例1に比べると、Mn量が18.5wt%と多い場合である。
【0049】
本実施例6については、半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、上記の通り、ターゲット表面の(111)面の面積比が1.9となるようにしたものである。
これによって、ユニフォーミティ1σ:2.4%、パーティクル0.2μm以上の個数が15ケとなった。パーティクル数が実施例1に比べてやや多いのは、主としてターゲットMn量がやや多くなったためと考えられる。なお、不純物としてのガス成分を、同様に表2に示す。この場合は、酸素40wtppm、窒素10wtppm、炭素20wtppmとした。これらのガス成分の低減化は、後述する比較例と対比すると、パーティクル発生防止に、それなりに貢献していると考えられる。総合評価としては、良好な特性を示した。上記と同様に、シード層形成用のみに使用されるものではなく、半導体の配線材としても、本実施例は極めて有効であることを示している。
【0050】
(比較例1〜5)
比較例1〜5については、表3に示す条件を変化させただけで、他の条件は全て実施例1〜6の条件と同一にした。
【0051】
(比較例1の膜特性と評価)
比較例1は、Mnを1.3wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が2.3wtppmであるものである。ターゲットの製造条件は表3に示す通りである。この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表3に示すように、Cuの拡散抵抗(バリア性)、耐EM特性(断線は殆んど無い)及び膜抵抗(低抵抗:2.3μΩcm)については問題ないが、ユニフォーミティ1σ:4.6%、パーティクル0.2μm以上の個数が102ケとなり、悪い結果となった。
また、EBSPで測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合におけるターゲット表面の面積比を1としたときの、ターゲット表面の(111)面の面積比が4.5と、本願発明で規定する4以下の条件を超えた。すなわち、(111)面の配向の分布が不均一となった。
【0052】
本比較例1においては鍛造を5回実施した場合であり、鍛造工程は次の通りである。φ105×65hに熱間鍛造(鍛造1回)、次にこれを350°Cに再加熱しφ85×100hに締め鍛造(鍛造2回)、さらにこれをφ105×65hに熱間で据え込み鍛造(鍛造3回)、再度350°C加熱しφ85×100hに締め鍛造(鍛造4回)φ105×65hに据え込み鍛造(鍛造5回)、最終的に熱間圧延及び冷間圧延し、φ310×7.5tとした。過度な鍛造は、(111)面の配向の分布を不均一とするので、好ましくないことが分る。
なお、不純物としてのガス成分を、同様に表4に示す。この場合は、酸素20wtppm、窒素20wtppm、炭素30wtppmとしたものであるが、これらのガス成分の低減化にもかかわらず、ユニフォーミティが悪く、パーティクル発生量も多くなるという問題を生じた。総合評価としては、悪い特性を示した。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
(比較例2の膜特性と評価)
比較例2は、Mnを2.5wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が510wtppmで、非常に多量に存在する場合である。ターゲットの製造条件は表3に示す通りである。この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表3に示すように、膜抵抗(低抵抗:2.3μΩcm)については特に問題はないが、Cuの拡散抵抗(バリア性)、耐EM特性が著しく悪くなった。
しかし、半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、上記の通り、ターゲット表面の(111)面の面積比が2.1で、本願発明に含まれ、またユニフォーミティ1σ:2.5%と特に問題ないが、パーティクル0.2μm以上の個数が72ケとなった。なお、不純物としてのガス成分を、同様に表4に示すが、この場合は、酸素30wtppm、窒素20wtppm、炭素50wtppmとしたものであるが、これらのガス成分の低減化にもかかわらず、パーティクル発生量が多くなるという問題を生じた。総合評価としては、悪い特性を示した。
【0056】
(比較例3の膜特性と評価)
比較例3は、Mnを0.04wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が1.5wtppmで、少量存在する場合である(本願発明に満たない)。ターゲットの製造条件は表3に示す通りである。この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表3に示すように、膜抵抗(低抵抗:1.9μΩcm)については特に問題はないが、Cuの拡散抵抗(バリア性)、耐EM特性が著しく悪くなった。これは、自己バリア層の形成が十分でないことが原因と考えられる。
しかし、半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、上記の通り、ターゲット表面の(111)面の面積比が2.7で、本願発明に含まれ、またユニフォーミティ1σ:2.3%、パーティクル0.2μm以上の個数が18ケと、特に問題ではなかった。なお、不純物としてのガス成分を、同様に表4に示が、この場合は、酸素20wtppm、窒素10wtppm、炭素20wtppmとしたものである。いずれにしても、Cuの拡散抵抗(バリア性)、耐EM特性が著しく悪くなることは大きな問題であった。総合評価としては、悪い特性を示した。
【0057】
(比較例4の膜特性と評価)
比較例4は、Mnを21wt%含有し、本願発明の条件を超えている。Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が25.3wtppmである。ターゲットの製造条件は表3に示す通りである。この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表3に示すように、膜抵抗(低抵抗:5.8μΩcm)となった。これは、Mnが多量に含有した結果である。Cuの拡散抵抗(バリア性)、耐EM特性については特に問題はなかった。しかし、膜抵抗の増加は大きな問題であり、実用には適していない。総合評価としては、悪い特性を示した。
【0058】
(実施例7の膜特性と評価)
実施例7は、Mnを1.0wt%含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が395wtppmで、多量に存在するが、まだ本願発明の範囲に入る条件である。ターゲットの製造条件は表5に示すように、粉末冶金法(P/M法)によって作製した。50メッシュ以下のCu粉とMn粉を混合し、グラファイトダイスに充填した。次に、このグラファイトダイスを真空中で850°Cに加熱し、250kg/cmの圧力で1時間保持するホットプレスを行った。こうして得たφ360×10tの円盤をターゲットに加工し、スパッタ成膜試験を行った。
この結果、半導体用銅合金配線及びシード層を作成した場合に表5に示すように、膜抵抗(低抵抗:3.5μΩcm)とやや高くなった。しかしながら、Cuの拡散抵抗(バリア性)、耐EM特性は特に問題はなかった。
【0059】
【表5】

【0060】
また、半導体配線形成用Cu−Mn合金スパッタリングターゲットの組織として、EBSP(電子後方散乱回折像法)で測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、上記の通り、ターゲット表面の(111)面の面積比が1.2と低く条件としては本願発明の範囲にあり、ユニフォーミティ1σ:2.6%と良好であった。したがって、実施例7の条件で製造されたターゲットは、使用可能な範囲のものである。
パーティクルの発生量については、0.2μm以上の個数が132ケと、多くなった。なお、不純物としてのガス成分を、同様に表6に示が、この場合は、酸素450wtppm、窒素30wtppm、炭素40wtppmであり、酸素量が増加した。これがパーティクル発生の原因と考えられる。
【0061】
【表6】

【0062】
総合評価としては、上記の通りパーティクル発生という意味からは悪い評価になるが、これはパーティクル発生の問題だけであり、他の特性が悪い訳ではない。したがって、パーティクル発生の問題を解決するためには、含有酸素量を調整することで解決できる。特に酸素は、100wtppm、好ましくは、50wtppmにするのが望ましいと言える。
一般に、パーティクル発生は、ターゲットの材質だけではなく、他の原因からも発生する。したがって、例えばターゲットやバッキングプレートの形状あるいは取り付け方の工夫等により、パーティクル発生を低減ができる装置・構造を備えている場合には、ターゲットの材質からくるパーティクル発生を相対的に低減できるので、総量的にそれほど大きな問題とならない場合がある。したがって、ターゲットの酸素量低減は、これらを勘案して調節することが、好ましい条件の一つと言える。
【0063】
以上の実施例及び比較例に示す通り、本願発明のMn0.05〜20wt%を含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が500wtppm以下、残部がCu及び不可避的不純物であることを特徴とするCu−Mn合金スパッタリングターゲット及び半導体用銅合金配線の有用性は明らかであり、薄膜配線及びシード層は、高導電性を有すると共に、優れた自己拡散抑制機能を備えている。
また、スパッタ時の成膜のユニフォーミティが良好となり、パーティクルの発生も減少するという著しい効果があることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、半導体用銅合金配線は、それ自体に自己拡散抑制機能を有するので、活性なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができ、エレクトロマイグレーション(EM)耐性、耐食性等を向上させることができるという優れた効果を有し、また銅合金配線膜の上面、下面、周面等に、酸化マンガンからなるバリア層を任意に、かつ安定して形成可能であり、また銅合金配線の成膜工程及びバリア層の形成工程の簡素化できるという著しい効果を有する。さらに、(111)面の面積比を制御することにより、スパッタ時の成膜のユニフォーミティが良好となり、パーティクルの発生も減少するという効果がある。したがって、半導体用銅合金配線を形成するためのスパッタリングターゲット及び半導体用銅合金配線の製造に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn0.05〜20wt%を含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が500wtppm以下、残部がCu及び不可避的不純物であることを特徴とするCu−Mn合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が50wtppm以下であることを特徴とする請求項1記載のCu−Mn合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が10wtppm以下であることを特徴とする請求項1記載のCu−Mn合金スパッタリングターゲット。
【請求項4】
EBSPで測定した最密である(111)面が各方向に均一に分布した場合のターゲット表面の面積比を1としたとき、ターゲット表面の(111)面の面積比が4以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のCu−Mn合金スパッタリングターゲット。
【請求項5】
酸素含有量が100wtppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のCu−Mn合金スパッタリングターゲット。
【請求項6】
酸素含有量が50wtppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のCu−Mn合金スパッタリングターゲット。
【請求項7】
Mn0.05〜20wt%を含有し、Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が500wtppm以下、残部がCu及び不可避的不純物であることを特徴とするCu−Mn合金半導体配線。
【請求項8】
Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が50wtppm以下であることを特徴とする請求項7記載のCu−Mn合金半導体配線。
【請求項9】
Be,B,Mg,Al,Si,Ca,Ba,La,Ceの総計が10wtppm以下であることを特徴とする請求項7記載のCu−Mn合金半導体配線。
【請求項10】
コンタクトホール又は配線溝の凹部に形成する配線材料であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載するCu−Mn合金半導体配線。

【公開番号】特開2012−149346(P2012−149346A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3251(P2012−3251)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【分割の表示】特願2008−537466(P2008−537466)の分割
【原出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】