説明

パワーMOSFETの駆動回路およびその素子値決定方法

【課題】パワーMOSFETを高速駆動する場合であっても、寄生インダクタンスに流れる電流の時間変化に応じて発生する電圧に起因したセルフターンオンの発生を防止できるようにしたパワーMOSFETの駆動回路、また、その素子値決定方法を提供する。
【解決手段】制御回路が、駆動回路によってスイッチを駆動制御することで、(2)区間においてスイッチS2HおよびS2Lをオンすると共にその他をオフとし、(3)区間においてスイッチS1LおよびS3Hをオンすると共にその他をオフとする。すると、(2)〜(3)区間にかけて、ハイサイド側のMOSFETのゲートソース間を所定のインピーダンスに切り替えることができ、リカバリー後半に至ったとしてもハイサイド側のMOSFETのゲートソース間電圧Vgs1を閾値電圧Vt未満に抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導性負荷を駆動するブリッジ回路を構成するものでフリーホイールダイオードが接続された電圧駆動型のパワーMOSFETを駆動対象とする駆動回路およびその素子値決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体スイッチング素子は制御端子に与えられる制御信号に応じてオンオフする。このとき、半導体スイッチング素子は、その構造内およびその周辺回路に寄生素子が存在するため、本来オフであるべき期間においてもオフを保持できず誤ってオンすることがある。これは、セルフターンオン現象と称されており、スイッチング損失やスイッチングノイズの増大、あるいは最悪の場合、回路の劣化や破壊などを招く。このようなセルフターンオンを抑制するための技術が供されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の技術では、電圧駆動型のトランジスタ(特許文献1ではQ10)のドレインソース間の電圧印加状態において発生する容量カップリングによるゲートソース間電圧の上昇現象について、当該トランジスタのゲートソース間を短絡することで当該ゲートソース間電圧の上昇を抑制している。
【0004】
この電圧駆動型のトランジスタのゲートソース間を短絡するときには、当該ゲートソース間に接続されたトランジスタ(特許文献1ではQ20)をオンすることで実現している。これにより、トランジスタQ10のゲートソース間電圧を当該トランジスタQ10の閾値電圧未満にできればセルフターンオンを抑制できる。その他、本願の関連技術として特許文献2が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−290224号公報
【特許文献2】特開2003−188699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トランジスタQ10のドレインソース間を短絡した状態において、ソース端子に寄生インダクタンスが存在すると、セルフターンオン現象が発生する虞がある。この場合、トランジスタQ10に逆並列接続されたダイオードに流れるリカバリー電流irrが寄生インダクタンスLsに流れると、当該寄生インダクタンスには電圧v=Ls×di/dt(Lsは寄生インダクタンス値)の誘導起電力が生じる。この電圧vがトランジスタQ10の閾値電圧を超えるとセルフターンオン現象が発生する。
【0007】
特に、前記した特許文献1記載の技術において、SJ(Super Junction)−MOSFETのようにリカバリー電流が急峻に変化するパワーMOSFETを駆動対象とする場合には対応できない。このような素子を駆動対象とすると、時間変化に応じた電流変化di/dtが大きいため、前記した寄生インダクタンスに発生する電圧vが大きくなってしまうことになり、当該電圧vに起因したセルフターンオン現象を生じてしまうためである。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、パワーMOSFETを高速駆動する場合であっても、寄生インダクタンスに流れる電流の時間変化に応じて発生する電圧に起因したセルフターンオンの発生を防止できるようにしたパワーMOSFETの駆動回路、また、その素子値決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、第1電源線および第2電源線間に電圧駆動型の第1パワーMOSFETおよび第2パワーMOSFETをハーフブリッジ接続すると共に当該第1および第2パワーMOSFET間に誘導性負荷を接続してなる駆動対象を駆動する駆動回路を対象としている。この請求項1記載の発明によれば、第1通電スイッチ回路は、第1パワーMOSFETの低電位側基準端子の電位を基準電位として電源電圧を通電オンおよび開放可能に構成され、電源電圧の供給端子と低電位側基準端子との間に第1オンスイッチおよび第1オフスイッチを直列接続して構成されている。
【0010】
第1電荷注入放出回路は、第1通電スイッチ回路と第1パワーMOSFETの制御端子との間に接続され制御端子に電荷を注入/放出する速度を調整する。第1インピーダンス切替部は、第1パワーMOSFETの制御端子と低電位側基準端子との間に接続され、これらの制御端子と低電位側基準端子との間のインピーダンスについて、第1電荷注入放出回路のインピーダンスより高い所定の第1インピーダンス状態と当該第1インピーダンス状態よりインピーダンスを高くした開放状態とに切替える。
【0011】
他方、第2通電スイッチ回路は、第2パワーMOSFETの低電位側基準端子の電位を基準電位とした電源電圧を通電オンおよび開放可能に構成され、電源電圧の供給端子と低電位側基準端子との間に第2オンスイッチおよび第2オフスイッチを直列接続して構成されている。
【0012】
そして、第2電荷注入放出回路は、第2通電スイッチ回路と第2パワーMOSFETの制御端子との間に接続され制御端子に電荷を注入/放出する速度を調整する。第2インピーダンス切替部は、第2パワーMOSFETの制御端子と低電位側基準端子との間に接続され、これらの制御端子と低電位側基準端子との間のインピーダンスについて、第2電荷注入放出回路のインピーダンスより高い所定の第2インピーダンス状態と当該第2インピーダンス状態よりもインピーダンスの高い開放状態とに切替える。
【0013】
制御手段は、第1および第2通電スイッチ回路のスイッチ状態、並びに、第1および第2インピーダンス切替部の切替状態を制御する。制御手段は、
(A)第kオンスイッチをオン、第kオフスイッチをオフ
(B)第kオンスイッチをオンからオフした後、第kオフスイッチをオン
(C)第kオフスイッチをオンからオフすると同時に第kインピーダンス切替部を開放状態から第kインピーダンス状態、第mオンスイッチをオン
に示す(A)〜(C)を含む切替制御を行う(但し、kは1又は2、mはその他方)。
【0014】
このため、制御手段は、(A)の区間において第kパワーMOSFETをオンした後、(B)の区間において第k通電スイッチ回路の第kオンスイッチをオフした後に第kオフスイッチをオンすることで第k電荷注入放出回路を通じて第kパワーMOSFETの制御端子から電荷を放出させるが、この後、(C)の区間において、第mオンスイッチをオンすることで第mパワーMOSFETの制御端子に電荷を注入するときには、第kオフスイッチをオンからオフすると同時に第kインピーダンス切替部を開放状態から第kインピーダンス状態にするため、第kパワーMOSFETのゲートソース間電圧の上昇を第kインピーダンス切替部の所定のインピーダンスによって抑制できる。この場合、特に第kパワーMOSFETのゲートソース間電圧をその閾値電圧未満に抑制できる。たとえパワーMOSFETを高速駆動する場合であっても、寄生インダクタンスに流れる電流の時間変化に応じて発生する電圧に起因したセルフターンオンの発生を防止できる。
【0015】
請求項2記載の発明のように、(B)の区間において、第kオンスイッチをオンからオフした後第kオフスイッチをオン、第kインピーダンス切替部を開放状態に保持し第mオフスイッチをオフからオンにし、(C)の区間において、第kオフスイッチをオンからオフすると同時に第kインピーダンス切替部を開放状態から第kインピーダンス状態に切替えるように構成すると良い。
【0016】
請求項3記載の発明のように、(B)の区間において、第kオンスイッチをオンからオフした後、第kオフスイッチをオンすると共に第kインピーダンス切替部を開放状態から第kインピーダンス状態に切替え、(C)の区間において、第kオフスイッチをオンからオフすると良い。すると、第kパワーMOSFETのゲートソース間を所定の第kインピーダンス状態にすることができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、制御手段は、第mオンスイッチをオンして第m電荷注入放出回路を通じて第mパワーMOSFETの制御端子に電荷を注入し当該第mパワーMOSFETの電流が予め定められた整定電流を始めて上回る所定時間を経過する前に、第kオフスイッチをオフすると同時に第kインピーダンス切替部を所定の第kインピーダンス状態に切替制御するため、第mパワーMOSFETの電流変化が急峻となる期間に差しかかる前に予め第kパワーMOSFETのゲートソース間を所定の第kインピーダンス状態にでき、信頼性良くセルフターンオンの発生を防止できる。
【0018】
請求項5または6記載の素子値決定方法によれば、第kパワーMOSFETの寄生ダイオードに生じるリカバリー電流に応じて第kパワーMOSFETのソースの寄生インダクタンスに生じる逆起電圧と、第kパワーMOSFETの寄生容量のカップリングによって発生する発生電圧とを加算し、この加算電圧が第kパワーMOSFETの閾値電圧未満または閾値電圧とほぼ等しくなる条件を満たす素子値を第kインピーダンス切替部の素子値として決定している。このため、信頼性良くセルフターンオンの発生を防止できる。しかも、リンギングを抑制できる。適切な素子値を決定することで、スイッチング損失を抑制できたり、サージ電圧を抑制できるようになる。
【0019】
請求項7記載の発明によれば、第a通電スイッチ回路、第a電荷注入放出回路、第aインピーダンス切替部、と共に、第b通電スイッチ回路を備えるため、請求項1記載の発明とほぼ同様に作用する。なお、本発明のパワーMOSFETとはリカバリー電流が急峻に変化する素子であれば何れの半導体スイッチング素子も含むことに留意する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例を示すハイサイド側およびローサイド側の駆動回路の電気的構成図
【図2】インピーダンス切替部の態様を表す回路構成図
【図3】(a)制御回路の具体例を示す電気的構成図、(b)論理回路の具体例を示す電気的構成図
【図4】各スイッチのオンオフ区間を表すタイミングチャート
【図5】各区間におけるスイッチのオンオフ状態を表すテーブル
【図6】各スイッチのオンオフ状態と各ノードの電圧電流波形の関係を表すタイミングチャート
【図7】区間(4)における電流変化を表す説明図
【図8】インピーダンス切替部の素子値の決定方法の流れを示すフローチャート
【図9】予め収集するパラメータ値の一例を表す図
【図10】リカバリー電流に応じて寄生インダクタンスに生じる電圧を求めるための等価回路
【図11】寄生インダクタンス、抵抗、寄生容量に流れるリカバリー電流と、寄生インダクタンスに生じる誘導起電力と、トランジスタのゲートソース間電圧との関係を示す図
【図12】リカバリー電流通電前後の各部の電流と電圧の関係を示すタイミングチャート
【図13】リカバリー電流に応じてMOSFETのゲートソース間に生じる電圧の求め方の流れを示すフローチャート
【図14】MOSFET周辺の寄生容量を考慮した等価回路
【図15】リカバリー電流とドレインソース間電圧の応答波形の関係を示すタイミングチャート
【図16】本発明の第2実施例を示す図3(b)相当図
【図17】図5相当図
【図18】図6相当図
【図19】本発明の第3実施例を示す図7相当図
【図20】図6相当図
【図21】図20の区間(2)における電流変化を表す説明図
【図22】本発明の第4実施例を示すハイサイド側の駆動回路の電気的構成図
【図23】図3(b)相当図
【図24】図6相当図
【図25】本発明の第5実施例を示す図6相当図
【図26】本発明の第6実施例を示すスイッチング速度調整回路の一例を示す図
【図27】本発明の第7実施例を示す図9相当図
【図28】図13相当図
【図29】電圧領域の定義の説明図
【図30】図6相当図
【図31】加算電圧が電圧領域VR2内に入る条件を満たした素子値を適用した場合の電流変化を表す説明図
【図32】加算電圧が電圧領域VR1内に入る条件を満たした素子値を適用した場合の電流変化を表す説明図
【図33】比較例を示す図31、図32相当図
【図34】サージ電圧特性を検証するための評価回路
【図35】パワーMOSFETのドレインソース間電圧の過渡応答波形(その1)
【図36】パワーMOSFETのドレインソース間電圧の過渡応答波形(その2)
【図37】パワーMOSFETのドレインソース間電圧の過渡応答波形(その3)
【図38】パワーMOSFETのドレインソース間電圧の過渡応答波形(その4)
【図39】スイッチング損失、サージ電圧のインピーダンス依存性を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施例)
以下、第1実施例について図1ないし図15を参照して説明する。本実施形態では、ハーフブリッジ回路に適用した実施例を示す。
【0022】
図1に示すハーフブリッジ回路1は電力変換回路の基本回路であり、上下アームのスイッチング素子が相補的に動作することで直流電圧を交流電圧に変換する。このハーフブリッジ回路1は、直流電源2(例えば100V)の供給ノード(第1電源線)とグランド(第2電源線)との間に、2つのNチャネル型のSJ(Super-Junction)−MOSFET(パワーMOSFET)3H,3L(第1パワーMOSFET,第2パワーMOSFETに相当)を直列接続して構成されている。パワーMOSFETの駆動回路6H、6Lは、電力変換回路(コンバータ、インバータ)に適用できる。
【0023】
これらのNチャネルMOSFET3H,3L間の共通ノードには誘導性負荷として例えば交流モータのステータコイル4の一端が接続されている。ハイサイド側のMOSFET3Hのドレインソース間には寄生ダイオード5Hが内蔵されている。ローサイド側のMOSFET3Lのドレインソース間には寄生ダイオード5Lが内蔵されている。これらの寄生ダイオード5Hおよび5Lはフリーホイールダイオードとして動作する。
【0024】
図面中では、ハイサイド(上アーム)側のMOSFET3Hを駆動する回路を駆動回路6Hとし、ローサイド(下アーム)側のMOSFET3Lを駆動する回路を駆動回路6Lとして示しているが、駆動回路6Hおよび6Lは互いに同一回路構成であるため、以下ではハイサイド側の駆動回路6Hの電気的構成を説明し、ローサイド側の駆動回路6Lの電気的構成は図中の構成要素に添え字として「H」に代わる「L」を付してその説明を省略する。
【0025】
駆動回路6Hは、MOSFET3Hのゲート(制御端子)−ソース間に直列接続された駆動電圧発生回路(第1通電スイッチ回路)7H、スイッチング速度調整回路(第1電荷注入放出回路)8H、オフ保持回路(第1インピーダンス切替部)9Hを備える。また、駆動電圧発生回路7Hは、直流電源10Hの正負端子間に制御端子付きスイッチ(第1オンスイッチ)S1Hおよび制御端子付きスイッチ(第1オフスイッチ)S2Hを直列接続して構成され、直流電源10Hの電源電圧および0Vを切替出力するか、または、出力を開放状態にすることが可能となっている。ここでスイッチS1H,S2Hはそれぞれ例えばNPNトランジスタにより構成される。
【0026】
スイッチング速度制御回路8Hは、抵抗RnHとダイオードDnHの直列接続回路、抵抗RfHとダイオードDfHの直列接続回路を並列接続して構成される。スイッチS1Hをオンに切替えた後スイッチS2Hをオフに切替えたときには、抵抗RnHおよびダイオードDnHを通じてMOSFET3Hのゲートに電荷が注入されることでゲート入力容量に電荷が蓄積される。この電荷の蓄積速度はMOSFET3Hのゲート入力容量と抵抗RnHの抵抗値に依存する。また、スイッチS1Hをオフした後にスイッチS2Hをオンに切替えたときには、抵抗RfHおよびダイオードDfHを通じてMOSFET3Hのゲート入力容量の蓄積電荷が引き抜かれて放出される。この放出速度はMOSFET3Hのゲート入力容量と抵抗RfHの抵抗値に依存する。
【0027】
オフ保持回路9Hは、所定のインピーダンス素子ZHと制御端子付きのスイッチS3HとをMOSFET3Hのゲートソース間に直列接続して構成されている。図2(a)〜図2(e)は、オフ保持回路の構成例を示している。オフ保持回路9Hのインピーダンス素子ZHは、抵抗性または誘導性を有するインピーダンスとすると良く、これらの抵抗値またはインダクタンス値が大きければ、MOSFET3Hのゲートソース間電圧の上昇抑制効果が大きくなる。このため、図2(a)に示すように、インピーダンス素子ZHとして抵抗Rgsを適用しても良いし、また、図2(b)に示すように、MOSFETM1のオン抵抗を用いて構成しても良い。図2(b)の構成を適用すると、抵抗RgsとスイッチSWを直列接続した図2(a)の構成の機能を1つのトランジスタに集結させることができる。また、図2(c)に示すように抵抗Rgsに代えてインダクタンスLgsを用いても良い。また、図2(d)に示すように、抵抗RgsおよびインダクタンスLgsを直列接続して構成しても良いし、図2(e)に示すように、インダクタンスLgsをMOSFETM1に直列接続して構成しても良い。このような駆動回路6Hはローサイド側にも駆動回路6Lとして構成されている。
【0028】
制御回路(制御手段)11は、スイッチS1H、S2H、S3Hの制御端子にそれぞれオンオフ制御信号Sg11,Sg12,S1を与えることで、各スイッチS1H,S2H,S3Hをそれぞれオンオフする。また、制御回路11は、スイッチS1L,S2L,S3Lの制御端子にそれぞれオンオフ制御信号Sg21,Sg22,S2を与えることで、各スイッチS1L,S2L,S3Lをそれぞれオンオフする。
【0029】
図3(a)は、制御回路の電気的構成を示している。制御回路11は、比較回路12と論理回路13を備える。比較回路12は、三角波信号と出力電圧指令値(直流信号)とを比較し、PWM信号Ssd1およびSsd2を出力する。論理回路13は、比較回路12のPWM信号Ssd1,Ssd2を入力し制御信号Sg11,Sg12,S1,Sg21,Sg22,S2を出力する。
【0030】
図3(b)は、論理回路のハードウェア構成を示している。論理回路13はNORゲート14を備えている。この論理回路13は、PWM信号Ssd1をオンオフ制御信号Sg11,S2として出力し、PWM信号Ssd2をオンオフ制御信号Sg21,S1として出力するように結線されている。また、NORゲート14はPWM信号Ssd1,Ssd2を入力し、オンオフ制御信号Sg12,Sg22を出力する。
【0031】
図4は、比較回路12が出力するPWM信号Ssd1,Ssd2の各信号波形例を示している。信号Ssd1,Ssd2は、所定の周波数およびデューティ比で以下に示す(1)〜(4)の区間の状態を繰り返す。
【0032】
(1)Ssd1を「H」(オン),Ssd2を「L」(オフ)
(2)Ssd1を「L」(オフ),Ssd2を「L」(オフ)
(3)Ssd1を「L」(オフ),Ssd2を「H」(オン)
(4)Ssd1を「L」(オフ),Ssd2を「L」(オフ)
これらの(1)〜(4)の各区間のそれぞれの状態が繰り返されることにより、論理回路13は、所定周期のオンオフ制御信号Sg11,Sg12,S1,Sg21,Sg22,S2を出力する。図5は、このオンオフ制御信号に応じて変化するハイサイド側、ローサイド側のパワーMOSFETのオンオフ状態を示しており、図6は、この状態をタイミングチャートで示している。(1)〜(4)の各区間では論理回路13の出力は下記の状態を繰り返す。
【0033】
(1)Sg11,S2は「H」(オン)、その他は「L」(オフ)
(2)Sg12,Sg22は「H」(オン)、その他は「L」(オフ)
(3)S1、Sg21は「H」(オン)、その他は「L」(オフ)
(4)Sg12、Sg22は「H」(オン)、その他は「L」(オフ)
尚、このようなスイッチングを繰り返すと、(1)区間と(2)区間の間ではスイッチS1HとS2Hがほぼ同時にオン、オフすることになり、(3)区間と(4)区間の間ではスイッチS1LとS2Lがほぼ同時にオン、オフすることになるが、直流電源10H、10Lの短絡防止のため、所定のデッドタイムを設けるように回路を構成するとよい。
【0034】
以下、各区間(1)〜(4)において、オンオフ制御信号Sg11,Sg12,S1,Sg21,Sg22,S2をそれぞれスイッチS1H〜S3H,S1L〜S3Lに入力したときの回路の基本的動作について図1、図6、図7等を参照しながら説明する。ただし、ステータコイル4に流れる負荷電流は図1に示した方向とする。
【0035】
<(1)区間の基本的動作>
(1)区間において、ハイサイド側では、スイッチS1Hがオンしその他のスイッチS2H,S3Hがオフするため、MOSFET3Hのゲートには直流電源10Hから電荷が供給されることになりMOSFET3Hのゲート入力容量が充電される。この(1)区間では、図6(i)に示すように、MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgs1は当該MOSFET3Hのゲートソース間の閾値電圧Vtを超えるため、MOSFET3Hはオンする。
【0036】
この間、他方のローサイド側では、スイッチS3Lがオンし、スイッチS1L,S2Lがオフするため、MOSFET3Lのゲートソース間はオフ保持回路9Hにより所定のインピーダンス(例えば数十Ω)となる。したがって、図6(j)に示すように、MOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs2はほぼ0となり、MOSFET3Lはオフ状態を維持する。
【0037】
<(2)区間の基本的動作>
(2)区間において、ハイサイド側では、スイッチS1Hがターンオフした後スイッチS2Hがターンオンするため、MOSFET3Hのゲートの蓄積電荷はスイッチング速度調整回路8Hの抵抗RfHを通じて放電される。したがって、図6(i)に示すように、MOSFET3Hはそのゲートソース間電圧Vgs1が低下し、閾値電圧Vtを下回るとオフする。
【0038】
この間、ローサイド側では、スイッチS3LがオフしスイッチS2Lがオンするため、MOSFET3Lのゲートソース間はスイッチング速度調整回路8Hのインピーダンスに固定される。したがって、図6(j)に示すように、MOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs2はほぼ0Vのまま維持され、MOSFET3Lはオフ状態を維持する。MOSFET3Hおよび3Lが共にオフすると、ステータコイル4を流れる負荷電流はダイオード5Hの順方向に還流する。
【0039】
<(3)区間の基本的動作>
(3)区間において、ハイサイド側では、スイッチS2Hがターンオフすると共にスイッチS3Hがターンオンするため、MOSFET3Hのゲートソース間にはオフ保持回路9Hのインピーダンス素子ZHが接続されるようになり、オフ保持回路9HがMOSFET3Hのゲートソース間をインピーダンス素子ZHによって所定のインピーダンスに保持する。これにより、図6(i)に示すようにMOSFET3Hはオフ状態に保持される。
【0040】
この間、ローサイド側では、スイッチS2Lがターンオフした後スイッチS1Lがオンするため、スイッチング速度調整回路8Lの抵抗RnLを通じてMOSFET3Lのゲート入力容量に電荷が蓄積される。図6(j)に示すように、MOSFET3Lは、そのゲートソース間電圧Vgs2が上昇し、当該素子の閾値電圧Vtを超えた時点でオンする。
【0041】
<(4)区間の基本的動作>
(4)区間において、ハイサイド側では、スイッチS3Hがターンオフすると共にスイッチS2Hがターンオンするため、MOSFET3Hのゲートソース間はスイッチング速度調整回路8Hのインピーダンスに接続される。この間、ローサイド側では、スイッチS1Lがターンオンした後スイッチS2Lがターンオフするため、MOSFET3Lのゲートの蓄積電荷はスイッチング速度調整回路8Lの抵抗RfLを通じて放電されるようになる。そして、MOSFET3Lのゲートはスイッチング速度調整回路8Lのインピーダンスに接続される。
【0042】
このような(1)〜(4)区間の基本的動作が繰り返される。このような周期的な基本動作を繰り返す中で、(2)区間において負荷電流はダイオード5Hの順方向に還流し、(3)区間においてMOSFET3Lがオンすると図6(l)に示すように電流I2が急峻に上昇する。これは、MOSFET3Lがターンオンすると、キャリア蓄積効果による逆回復電流(リカバリー電流)がダイオード5Hに流れ、電流I1およびI2が急激に変動するためである。
【0043】
特に、逆回復電流が減衰するときに電流I1およびI2が急激に変動する。図6(k)に示す電流I1の増加区間(リカバリー後半:図6(l)に示す電流I2の減少区間)においてその増減度が大きい。
【0044】
MOSFET3Hのソースに寄生インダクタンスLHが存在すると共にMOSFET3Lのソースに寄生インダクタンスLLが存在する。このため寄生インダクタンスLH,LLにはそれぞれ電流I1,I2の時間変動に応じた誘導起電力−Ldi/dtが生じる。
【0045】
リカバリー後半において、寄生インダクタンスLHに誘導起電力が生じると、寄生インダクタンスLHにはMOSFET3Hのソースを基準としてステータコイル4側ノードにかけて電圧が生じる。したがって、MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgs1が上昇する。
【0046】
(3)区間においては、MOSFET3H(ハイサイド素子)がオフ保持期間であるため、MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgs1が当該MOSFET3Hの閾値電圧Vt未満に抑制されるように構成する必要がある。
【0047】
そこで、本実施形態では、オフ保持回路9HをMOSFET3Hのゲートソース間に接続し、寄生インダクタンスLHの誘導起電力が特に上昇するリカバリー後半期間に差しかかる前には、必ずスイッチS3Hをオンすることでオフ保持回路9Hによりインピーダンス素子ZHをMOSFET3Hのゲートソース間に接続するようにしている。
【0048】
したがって、寄生インダクタンスLHが誘導起電力を生じたとしても,オフ保持回路9Hのインピーダンス素子ZHが作用するため、寄生インダクタンスLHの誘導起電圧に応じた電荷がインピーダンス素子ZHを通じてMOSFET3Hのゲートに印加されるようになり、MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgs1の上昇を抑制できる。これにより、SJ−MOSFET3Hおよび3Lを高速駆動する場合であってもセルフターンオン現象を防ぐことができる。
【0049】
図7は、図6の(4)区間における電流変化を模式的に示している。図6の(4)区間においては、ローサイド側では、スイッチS1Lをオフした後にスイッチS2Lをオンするため、図6(j)に示すように、MOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs2が減少する。この間、ハイサイド側では、図6(k)に示すように、この電流減少分の電流が寄生ダイオード5Hの順方向に流れることで増加する。
【0050】
この場合、意図しない電圧上昇に応じて素子が誤動作する場合も考えられる。これは、MOSFET3Lがターンオフすることで電流I2が減少するため、その電流勾配に応じて寄生インダクタンスLLに誘導起電力VLLが発生するためである。この誘導起電力VLLによる誤動作を抑制するためには、電流I2の電流勾配を小さくすれば良く、ターンオフ速度を調整するための抵抗RfLの抵抗値を調整すれば良い。また、これらの図6の(1)〜(4)区間の動作が繰り返されることで正常に動作できる。
【0051】
したがって、前記のように制御することで、ターンオフ時にMOSFET3H、3Lの各ゲートソース間を所定のインピーダンスに調整することができ、スイッチング速度を低減でき、ゲートソース間電圧の上昇を抑制できる。
【0052】
特に、セルフターンオン現象防止の信頼性を高めるためには、駆動回路6H、6Lの回路素子値を予め定められた方法により決定することが望ましい。以下、この素子値の決定方法について説明する。
【0053】
<オフ保持回路9H,9Lのインピーダンス決定方法について>
セルフターンオン現象を防止するため、特にオフ保持回路9H,9Lの各インピーダンス素子ZH,ZLのインピーダンス値を重要な要素として位置付けると良い。そこで、インピーダンス素子ZH,ZLのインピーダンスを、回路対称性の観点から同一インピーダンスと仮定し、オフ保持回路9H,9Lをそれぞれ抵抗RgsおよびインダクタンスLgsの直列回路に設定した場合のインピーダンス値の決定方法について説明する。
【0054】
MOSFET3H,3Lの各ゲートソース間電圧Vgsの上昇原因は、リカバリー電流に応じて寄生インダクタンスLH,LLに発生する誘導起電力、および、寄生容量のカップリング電圧、が主因として挙げられる。そこで、これらの上昇原因による電圧上昇分について各場合に分けて計算を行い、これらの影響を重ね合わせた加算電圧が所定の閾値電圧Vtを下回る条件を満たすインピーダンス素子ZH,ZLのインピーダンスを決定すると良い。
【0055】
図8は、インピーダンス素子ZH,ZLのインピーダンス決定方法の流れをフローチャートにより示している。図8に示すように、回路のインピーダンスの決定に先立ち必要なパラメータ値を収集する(S1)。これらのパラメータは、パワーMOSFET3H,3Lの半導体構造、寄生素子、回路の接続形態に基づいてシミュレーション、実験などにより設計値として決定されるものであり、図9に挙げたパラメータを規定すると良い。
【0056】
例えば、図9に示すように、パラメータを、寄生インダクタンスLL,LHの値Ls、リカバリー電流の勾配di/dt、リカバリー後半から終了までの整定時間tf、ゲートソース間の寄生容量値Cgs、ゲートドレイン間の寄生容量値Cgd、ドレインソース間電圧Vdsとする。
【0057】
図8に示すように、各パラメータを収集した後、オフ保持回路9Hおよび9Lのインピーダンスを仮に設定する(S2)。前述したように、リカバリー電流に応じて寄生インダクタンスLH,LLの誘導起電力が生じるが、ステップS2で仮設定されたインピーダンスを用いてゲートソース間電圧Vgsaを計算する(S3)。
【0058】
<リカバリー電流に応じて寄生インダクタンスに発生する電圧Vgsa>
図10は、リカバリー電流に応じて寄生インダクタンスLHおよびLLに発生する電圧Vgsaを求めるための等価回路を示している。
【0059】
この図10に示すように、MOSFET3Hのゲートソース間には寄生容量Cgsが存在する。MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgsはこの寄生容量Cgsの印加電圧に等しいため、図11の等価回路に示すように、寄生インダクタンスLsに誘導起電力−Ls×di/dtが発生すると、この逆方向の誘導起電力に応じてインダクタンスLgs、抵抗Rgsを介してコンデンサCgsに充電される。これにより、MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgsは上昇する。
【0060】
この図11は、寄生インダクタンスLs、抵抗Rgs、寄生容量Cgsに流れるリカバリー電流iと、寄生インダクタンスLsに生じる誘導起電力−Ls×di/dtと、トランジスタ3Hのゲートソース間電圧Vgsの関係を表している。また、図12は、リカバリー電流通電前後の各部の電流と電圧の時間変化を示している。
【0061】
前述の(2)区間において、負荷電流はダイオード5Hに還流し電流iがダイオード5Hの逆方向に流れる。この後(3)区間において、MOSFET3Lがターンオンするとキャリア蓄積効果に応じた逆回復電流がダイオード5Hに通電し電流iが急激に上昇する(図12の(3)の(A)区間)。この(3)の(A)に示すリカバリーの前半区間においては、寄生インダクタンスLsに対し電流上昇勾配に応じた誘導起電力−Ls×di/dtを生じる。このリカバリー前半区間においては、リカバリー後半区間と比較すると、電流上昇勾配が低く、これによって発生する誘導起電力も小さくなる。
【0062】
この後、(3)の(B)に示すリカバリー後半区間では、電流下降勾配に応じた誘導起電力が発生し電流下降勾配が大きい。したがって、電流下降勾配に応じて発生する誘導起電力も大きくなる。ここで、リカバリー電流iが線形的に減少すると仮定すれば、リカバリー後半区間ではステップ電圧Vsが所定の整定時間tfだけ寄生インダクタンスLsに生じると仮定できる。
【0063】
MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgsaは、この寄生インダクタンスLsに生じるステップ電圧Vsに応じて上昇するため、リカバリー後半区間における電圧Vgsaの最大値をできる限り低くするように各素子値を決定する。
【0064】
図13は、電圧Vgsaの求め方をフローチャートによって示している。RLC直列回路のステップ応答式を適用すると2次系伝達関数となり、下記(5)式のラプラス変換式で表わされる。
【0065】
【数1】

ここで、ωnは不減衰自然角周波数(固有周波数)、ζは減衰率(制動比)を示している。
【0066】
この(5)式を逆ラプラス変換し、ζ=1(式(6))、ζ>1(式(7))、0<ζ<1(式(8))の各場合に分けると、
【0067】
【数2】

【0068】
【数3】

【0069】
【数4】

と導出される。
【0070】
図13に示すように、ζの値に応じて場合分けし、所定時間tfを各式に代入する(T1〜T6)。なお、(8)式の電圧Vgsaは時間経過に応じて振動する値となるため、電圧Vgsaが最大値となる時間tm=π/ωn(√(1−ζ))が所定の整定時間tf以内であれば(ステップT5:NO)、(8)式にtm=π/ωn(√(1−ζ))を代入して電圧Vgsaを求める。すると、図8のステップS1で収集したパラメータ値に応じてステップS3で最大電圧Vgsaを求めることができる。
【0071】
電圧Vgsaを求めた後、寄生容量のカップリングにより生じた電圧Vgsbを求める(図8のステップS4)。
<寄生容量カップリングによって生じる電圧Vgsbの求め方>
図14は、MOSFET周辺の寄生容量を考慮した等価回路を示しており、図15は、リカバリー電流とドレインソース間電圧の応答波形の関係をタイミングチャートにより示している。MOSFET3Hをターンオフした後、MOSFET3Hのドレインソース間電圧Vdsは上昇するが、このときのゲートソース間電圧Vgsの最大電圧Vgsbは下記の(9)式で求められる。
【0072】
【数5】

これは、ゲートドレイン間寄生容量Cgd、ゲートソース間容量Cgsの分圧電圧となるためである。
【0073】
そして、図8のステップS5において、これらの影響を重ね合わせた加算電圧Vgs=電圧Vgsa+電圧Vgsbを求め、合計値Vgsが閾値電圧Vtを下回る条件を満たす抵抗Rgs,インダクタンスLgsの値を決定する。仮に条件を満たさなければ(ステップS5:NO)、ステップS2に戻り、オフ保持回路9Hおよび9Lのインピーダンスを仮設定するところから繰り返す。なお、望ましくは、閾値電圧Vtにマージンを見込んで抵抗Rgs,インダクタンスLgsの値を決定すると良い。このように求められた抵抗Rgs,インダクタンスLgsの値を代入して検証すると良い。
【0074】
したがって、電圧Vgsa+電圧Vgsbの加算電圧に応じてオフ保持回路9Hおよび9Lの素子値を決定しているため適切な素子値を決定できる。なお、これらの内容はハイサイド側のMOSFET3Hでもローサイド側のMOSFET3Lでも回路の対称性を考慮すれば同様の素子値の決定方法を適用できる。
【0075】
以上説明したように、第1実施形態によれば、
(1)区間において、
ハイサイド側では、スイッチS2Hをオフした状態でスイッチS1Hをオンし、さらにスイッチS3Hをオフしてオフ保持回路9Hを開放状態とすることで、駆動電圧発生回路7Hから直流電源10HをMOSFET3Hのゲートソース間に供給してオンし、
ローサイド側では、スイッチS1Lをオフすると共にスイッチS2Lをオフし、スイッチS3Lをオンすることでオフ保持回路9Lを所定のインピーダンスとすることで、MOSFET3Lのゲートソース間を所定のインピーダンスに固定する。
【0076】
次に(2)区間において、
ハイサイド側では、スイッチS1Hをオンからオフした後スイッチS2Hをオンし、スイッチS3Hをオフに保持してオフ保持回路9Hを開放状態に保持し、駆動電圧発生回路7Hの出力電圧をMOSFET3Hのソース側電圧(低電位側基準端子の電圧)に一致させるように制御することで、スイッチング速度調整回路8Hを通じてMOSFET3Hのゲート入力容量から電荷を放出させ、
ローサイド側では、スイッチS1Lをオフのまま保持しながらスイッチS2Lをオフからオンにし、スイッチS3Lをオンからオフしてオフ保持回路9Lを開放状態とすることで、駆動電圧発生回路7Lの出力電圧をMOSFET3Lのソース側電圧(低電位側基準端子の電圧)に一致させるように制御する。
【0077】
次に(3)区間において、
ハイサイド側では、スイッチS1Hをオフに保持しながらスイッチS2Hをオンからオフすると同時にスイッチS3Hをオフからオンしてオフ保持回路9Hを開放状態から所定のインピーダンスに切替えることでMOSFET3Hのゲートソース間を所定のインピーダンスに固定し、
ローサイド側では、スイッチS2Lをオンからオフした後スイッチS1Lをオフからオンにし、スイッチS3Lをオフのまま保持してオフ保持回路9Lを開放状態に保持することで、駆動電圧発生回路7Lの出力電圧を直流電源10Lの出力電圧としてMOSFET3Lのゲートソース間に電圧を印加する。
【0078】
次に(4)区間では、
ハイサイド側では、スイッチS1Hをオフに保持しながらスイッチS2Hをオフからオンし、スイッチS3Hをオンからオフすることでオフ保持回路9Hを開放状態とし、駆動電圧発生回路7Hの出力電圧をMOSFET3Hのソース側電圧(低電位側基準端子の電圧)に一致させるように制御し、
ローサイド側では、スイッチS1Lをオンからオフした後スイッチS2Lをオンし、スイッチS3Lをオフに保持してオフ保持回路9Lを開放状態に保持することで、駆動電圧発生回路7Lの出力電圧をMOSFET3Lのソース側電圧(低電位側基準端子の電圧)に制御し、スイッチング速度調整回路8Lを通じてMOSFET3Lのゲート入力容量から電荷を放出させる。
【0079】
制御回路11が、駆動回路6H,6Lによりスイッチを駆動制御することで、(2)区間においてスイッチS2HおよびS2Lをオンすると共にその他をオフとし、(3)区間においてスイッチS1LおよびS3Hをオンすると共にその他をオフとする。すると、(2)〜(3)区間にかけて、ハイサイド側のMOSFETのゲートソース間を所定のインピーダンスに切り替えることができ、リカバリー後半に至ったとしてもハイサイド側のMOSFETのゲートソース間電圧Vgs1を閾値電圧Vt未満に抑制できる。
【0080】
特に、(3)区間の始まる前、電流I2が所定の整定電流を始めて上回る所定時間を経過する前、リカバリー後半に差しかかる前、には、ハイサイド側のMOSFET3Hのゲートソース間を所定のインピーダンスに固定している。
【0081】
これにより、ハイサイド側のMOSFET3H,ローサイド側のMOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgsを閾値電圧Vt未満に抑制できる。したがって、パワーMOSFETを高速駆動する場合であっても、セルフターンオンの発生を防止できる。
【0082】
また、リカバリー電流が流れることにより寄生インダクタンスLsに生じる誘導起電力Vgsaと、寄生容量のカップリングによって発生する電圧Vgsbとを加算し、この加算電圧がMOSFET3H,3Lの閾値電圧未満となることを満たす素子値をオフ保持回路9H,9Lのインピーダンス素子ZHの素子値として決定するため、寄生インダクタンスLs、寄生容量等に応じてオフ保持回路9H,9Lの素子値を適切に定めることができる。
(第2実施例)
図16ないし図18は、本発明の第2実施例を示すもので、前述の実施例と異なるところは、オフ保持回路のスイッチの切換タイミングを変更したところにある。前述実施形態と同一部分については同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。
【0083】
図16は、図3(b)の論理回路13に代わる論理回路15のハードウェア構成を示している。この論理回路15はNORゲート16、NOTゲート17および18を図示形態で組み合わせて構成され、比較回路12のPWM信号Ssd1,Ssd2を入力し制御信号Sg11,Sg12,S1,Sg21,Sg22,S2を出力する。
【0084】
この論理回路15は、PWM信号Ssd1をオンオフ制御信号Sg11として出力し、PWM信号Ssd2をオンオフ制御信号Sg21として出力する。NORゲート16は、これらのPWM信号Ssd1およびSsd2を入力し、オンオフ制御信号Sg12,Sg22を出力する。NOTゲート17はPWM信号Ssd1を入力し、オンオフ制御信号S1を出力する。そして、NOTゲート18はPWM信号Ssd2を入力し、オンオフ制御信号S2を出力する。
【0085】
論理回路15が図16に示すように形成されていると、図17に示すように各スイッチのオンオフ状態が切替えられることになる。本実施例においては、図17の(2)区間の符号Y1のスイッチS2LおよびS3Lの状態を共にオン状態としている。また、本実施例においては、図17の(4)区間の符号Y2に示すスイッチS2HおよびS3Hの状態を共にオン状態としている。これらの符号Y1、Y2のスイッチはオンでもオフでも良い。したがって、両者オンあるいは両者オフであっても良い。これらの場合、論理回路15を適宜回路変更すると良い。
【0086】
図18は、タイミングチャートを示している。図18に示す(2)区間では、スイッチS2Hのオンオフ制御信号Sg12とスイッチS3Hのオンオフ制御信号S1とを共にオン制御信号として出力する。したがって、図18の(2)区間では、オフ保持回路9Hは所定のインピーダンスに設定されると共に、駆動電圧発生回路7Hの出力電圧はMOSFET3Hのソース側基準端子の電圧に制御されることになる。
【0087】
この場合、図18(c)〜図18(h)に示すタイミングでオンオフ制御信号を出力できる。(2)の区間では、スイッチS2HおよびS3Hをオンすることで、MOSFET3Hのゲートソース間のインピーダンスを低インピーダンスに固定できる。また、(3)の区間では、スイッチS2HをオフしスイッチS3Hをオンすることで、MOSFET3Hのゲートソース間のインピーダンスを(2)区間に比較して高インピーダンスに固定できる。これは、MOSFET3Hのゲートソース間のインピーダンスが(2)の区間では抵抗RfHとインピーダンス素子ZHの合成インピーダンスとなるのに対し、(3)の区間ではインピーダンス素子ZHのインピーダンスのみとなるためである。また、抵抗RhHの抵抗値が、インピーダンス素子ZHのインピーダンスに比較して低く設定されていると合成インピーダンスもより低くなる。
【0088】
この場合、(3)区間のリカバリー後半においてゲートソース間電圧Vgs1が上昇したとしても閾値電圧Vt以上となることがなくなり、前述実施形態と同様にMOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgs1をMOSFET3Hの閾値電圧Vt未満に抑制できる。
【0089】
(第3実施例)
図19ないし図21は、本発明の第3実施例を示すもので、前述の実施例と異なるところは、負荷電流を前述実施形態とは逆方向に考慮した場合に適用したところにある。前述実施形態と同一部分については同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。
【0090】
図19に示すように、ステータコイル4の負荷電流が図示右向きに通電されている状態を考慮する。また、ハイサイド側のMOSFET3Hのソース電流I1、MOSFET3Lのドレイン電流I2の定義を前述実施形態とは逆方向に定義する。
【0091】
すると、図20のタイミングチャートに示すように、MOSFET3H,MOSFET3Lの各ゲートソース間電圧Vgs1,Vgs2が変化する。また、これに合わせてMOSFET3Hのソース電流I1、MOSFET3Lのドレイン電流I2が変化する。
【0092】
このときの電圧、電流変化は、前述の第1実施例と期間ずれを生じるのみのため、その説明を省略するが、前述実施例とほぼ同様に、図20の(1)区間において、MOSFET3Lにリカバリー電流が発生し、リカバリー後半においてMOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs2が上昇する。しかしながら、(4)区間においてスイッチS2Lを予めオンしてその後(1)区間においてスイッチS3Lをオンしているため、MOSFET3Lのゲートソース間を所定のインピーダンスに制御することができ、当該ゲートソース間電圧Vgs2を抑制することができ、MOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs2をその閾値電圧Vt未満に抑制できる。
【0093】
図21は、図20の(2)区間における電流変化を模式的に示している。図20の(2)区間において、ハイサイド側ではスイッチS1Hがオフした後スイッチS2Hをオンするため、図20(i)に示すように、MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgs1が減少する。この間、ローサイド側では、図20(l)に示すように、この電流減少分の電流が寄生ダイオード5Lの順方向に流れることで増加する。
【0094】
この場合、意図しない電圧上昇に応じて素子が誤動作する場合も考えられる。これは、MOSFET3Hがターンオフすることにより電流I1が減少するため、その電流勾配に応じた誘導起電力VLHが寄生インダクタンスLHに発生するためである。この誘導起電力VLHによる誤動作を抑制するためには、電流I1の電流勾配を小さくすると良く、ターンオフ速度を調整するための抵抗RfHの抵抗値を調整すれば良い。図20の(1)〜(4)区間の動作が繰り返されることで正常な動作を持続できる。
【0095】
本実施例においては、負荷電流を前述実施例と逆向きに考慮した場合に、リカバリー電流に応じて発生するMOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs2を当該MOSFET3Lの閾値電圧Vt未満に抑制できる。
【0096】
(第4実施例)
図22ないし図24は、本発明の第4実施例を示すもので、前述の実施例と異なるところは、前述実施例においてスイッチS2H,S2Lをオンしている区間において、当該スイッチS2H,S2Lに代えてスイッチS3H,S3LをオンすることでMOSFET3H,3Lのゲートソース間電圧Vgs1,Vgs2をその閾値電圧Vt未満に抑制するところにある。前述実施形態と同一部分については同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。本実施形態では、負荷電流を第1または第2実施例と同一方向として説明を行う。
【0097】
図22は、ハイサイド側の駆動回路の一例を示している。この駆動回路は、スイッチング速度調整回路8Hに代えて、スイッチSWHおよび抵抗Rgによるスイッチング速度調整回路を備えており、直流電源2とMOSFET3Hのゲートとの間に直列接続されている。なお、図22には図示していないが、ローサイド側においても、スイッチング速度調整回路8Lに代えてスイッチSWLおよび抵抗Rgによるスイッチング速度調整回路(図示せず)が構成されており、直流電源2とMOSFET3Lのゲートとの間に直列接続されている。
【0098】
図23は、論理回路13に代わる論理回路19のハードウェア構成を示している。この論理回路19はNOTゲート20および21を図示形態で組み合わせて構成され、比較回路12のPWM信号Ssd1,Ssd2を入力し、制御信号Sg11,S1,Sg21,S2を出力する。
【0099】
この論理回路19は、PWM信号Ssd1をオンオフ制御信号Sg11として出力し、PWM信号Ssd2をオンオフ制御信号Sg21として出力する。そして、NOTゲート20は、PWM信号Ssd1を入力しオンオフ制御信号S1を出力する。さらに、NOTゲート21は、PWM信号Ssd2を入力しオンオフ制御信号S2を出力する。
【0100】
論理回路19が図23に示すように構成されていると、図24のタイミングチャートに示すように各スイッチのオンオフ状態が切替えられる。すると図24の(3)区間においてスイッチSWLがオンする前に、図24の(2)区間においてスイッチS3Hを事前にオンすることでMOSFET3Hのゲートソース間を所定のインピーダンスに維持できる。したがって、図24の(3)区間において、ローサイド側の直流電源2からMOSFET3Hのゲートソース間に電圧が印加されMOSFET3Hがオンしたとしても、MOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs1の上昇が抑制されるようになり、当該MOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs1をその閾値電圧Vt未満に抑制できる。本実施例でも前述実施例と同様の作用効果を奏する。しかも回路を簡単化できる。
【0101】
(第5実施例)
図25は、本発明の第5実施例を示すもので、前述の実施例と異なるところは、前述実施例のスイッチS2H,S2Lをオンしている区間において、当該スイッチS2H,S2Lに代えてスイッチS3H,S3Lをオンしている。本実施例では、負荷電流を第3実施例と同一方向としているが、MOSFET3Lのゲートソース間電圧Vgs2をその閾値電圧Vt未満に抑制することでセルフターンオン現象を防止できる。
【0102】
(第6実施例)
図26(a),図26(b)は、本発明の第6実施例を示している。図1のスイッチング速度調整回路8H,8Lに代えて、図26(a)または図26(b)に示すスイッチング速度調整回路を適用しても良い。
【0103】
図26(a)に示す回路構成の場合、ターンオン時には抵抗RnHを通じてMOSFET3Hのゲートに電荷を注入し、ターンオフ時には抵抗RfHおよびRnHを通じてゲートの電荷を放出できる。したがって、ターンオフ時に比較してターンオン時のスイッチング速度を高くするときには好適な回路形態となる。
【0104】
また、図26(b)に示す回路構成の場合、ターンオン時には抵抗RnHおよびRfHを通じてMOSFET3Hのゲートに電荷を注入し、ターンオフ時には抵抗RfHを通じてゲートの電荷を放出できる。したがって、ターンオン時に比較してターンオフ時のスイッチング速度を高くするときに好適な回路形態となる。
【0105】
(第7実施例)
図27〜図39は、本発明の第7実施例を示している。前述実施形態と異なるところは回路の素子値の決定方法を変更しているところにある。図8に示す主な算出方法の流れに変更はないものの、この処理中のステップS3の電圧Vgsaおよび電圧Vgsbの算出方法を変更しているところが相違点である。前述実施形態と同一または類似部分については同一または類似符号を付して説明を省略する。
【0106】
図27は、前述実施形態で説明した図9相当を示しており、図9の所定時間(整定時間)tfに代えて図27では時間tsrを適用している。この時間tsrは、リカバリー後半に差し掛かるタイミングからパワーMOSFETの反転層形成によるチャネル電流注入(増大)開始タイミングまでの時間を示している。
【0107】
前述実施形態で説明したように、図8のステップS1でこのパラメータ値を収集する。その後、ステップS2において定インピーダンス保持回路のインピーダンスを仮設定した後、ステップS3においてリカバリー電流に応じて寄生インダクタンスに発生する電圧Vgsaを計算する。
【0108】
RLC直列回路のステップ応答式による2次系伝達関数を適用した場合、Vgsaは、ζ=1(式(6))、ζ>1(式(7))、0<ζ<1(式(8))のように求められる。
【0109】
図28に示すように、ζの値に応じて場合分けし、時間tsrの値を式(6)〜式(8)に代入する。前述実施形態に説明したように、(8)式の電圧Vgsaは時間経過に応じて振動する電圧となる。電圧Vgsaが最大値となる時間tmは、π/ωn(√(1−ζ))で表されるが、この時間tmが前述の時間tsr以内であれば(ステップU5:NO)、(8)式にtm=π/ωn(√(1−ζ))を代入して電圧Vgsaを求める。すると、図8のステップS1で収集したパラメータ値に応じてステップS3で最大電圧Vgsaを求めることができる。
【0110】
次に、図8のステップS4において寄生容量のカップリングによって発生する電圧Vgsbを算出する。図14に示す等価回路を適用し、MOSFET3Hのゲートドレイン間寄生容量をCgd、ゲートソース間寄生容量をCgsとし、この分圧電圧のステップ応答を求めると、電圧Vgsは下記の(10)式のように求められる。
【0111】
【数6】

この(10)式の電圧Vgsbは時間tの経過に応じて減少する時間依存関数であるが、tが0となるタイミングで最大となる。このため、この最大値を電圧Vgsbとして求めると、このときの電圧Vgsbは前述実施形態で説明した(9)式の値と同一値となる。そして、図8のステップS5において、図28のフローチャートを用いて得られた電圧Vgsaと前述の最大電圧Vgsbの影響を重ね合わせた加算電圧Vgsとして求めると良い。
【0112】
他方、時間tに依存した電圧Vgsbを正確に求めるためには、(10)式にリカバリー後半の時間tsrを代入することで、下記(11)式のように電圧Vgsbを求めることができる。
【0113】
【数7】

そして、図8のステップS5において、この時間tに依存した電圧Vgsbと、図28に示すフローチャートの流れに応じて算出した電圧Vgsaとを重ね合わせた加算電圧Vgsを求める。
【0114】
そして、本実施形態では、図8のステップS5の判定処理に代えて、加算電圧Vgsが、ほぼ閾値電圧Vtに等しくなる電圧領域VR1(Vtd≦Vt≦Vm)、電圧Vtd未満の電圧領域VR2(Vgs<Vtd)に入っているか判定する。これらの電圧領域VR1、VR2の定義を図29に示している。電圧領域VR2は、パワーMOSFETのドレイン電流Id≒0とほぼ見做すことができるゲートソース間電圧Vgsの電圧領域である。なお、この図29は、一般的なMOSFETの飽和領域におけるドレイン電流Id−ゲートソース間電圧Vgsの静特性を示すもので、本実施形態の回路構成ではこのドレイン電流特性とは異なる電流が流れることもある。
【0115】
ゲートソース間電圧Vgsが電圧領域VR2内の電圧のときには、パワーMOSFETのドレインソース間にPN接合逆バイアスが生じるためドレイン電流が流れにくい。図29に示す特性によれば閾値電圧Vt以下のサブスレッショルド領域においてドレイン電流Idはゲートソース間電圧Vgsに対し指数関数的に変化する。
【0116】
本実施形態においては、加算電圧Vgsが閾値電圧Vtに所定マージン電圧を加算した電圧値Vmを上限とした電圧領域(VR2+VR1)内に入っているか否かを判定し、この判定条件を満たした素子値を決定する。
【0117】
ここで、閾値電圧Vtにマージン電圧を加算した電圧値Vmは、デバイス特性、動作条件(例えば負荷電流など)に応じて変化するため適宜調整すると良い。また、閾値電圧Vtの値は、素子メーカの技術水準によって各社大きく変化することがある。このため、この技術水準のバラつきの影響を考慮し、当該バラつきの上限の閾値を閾値電圧Vtとして適用し、さらにマージン電圧を加算した電圧値Vmを上限値としても良い。
【0118】
加算電圧Vgsが電圧領域VR1内に入っている条件を満たした素子値を決定した場合、図30に示すように時間依存波形が得られる。ここで注目すべき波形は図30(i)、図30(k)、図30(l)に示す波形である。パワーMOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgs1はほぼ閾値電圧Vtに等しい電圧(前記の定義では電圧領域VR1内)を上限値としている(図30(i)の符号Yの部分参照)。
【0119】
MOSFET3Hのゲートソース間電圧Vgs1が閾値電圧Vtにほぼ等しくなり電圧領域VR1内の電圧まで達すると、MOSFET3Hに流れるチャネル電流が増大することになり、MOSFET3H、MOSFET3Lのリカバリー後半における過渡電流変化が小さくなる(図30(k)、図30(l)の符号Zの破線→実線部分参照)。
【0120】
発明者らは下記のようにシミュレーション、実験を行うことで前述の内容を検証した。図31は、加算電圧Vgsが電圧領域VR2内に入る条件を満たした素子値を適用した場合の電流変化を示し、図32は、加算電圧Vgsが電圧領域VR1内に入る条件を満たした素子値を適用した場合の電流変化を示す。また、図33は従来例(特許文献1)の回路構成を適用した場合の電流変化を示す。
【0121】
比較例として特許文献1の回路構成を適用したときには、図33に示すように所謂セルフターンオン現象が生じ、この結果リカバリー後半時のドレイン電流勾配di/dtも大きくなりドレイン電流のリンギングも大きい。しかしながら、加算電圧Vgsが電圧領域VR2内に入る条件を満たした素子値を適用するとセルフターンオン現象が抑制されるため、図31に示すようにドレイン電流波形のリンギングを小さくできる。
【0122】
また、加算電圧Vgsが電圧領域VR1内に入る条件を満たした素子値を適用したとしてもセルフターンオン現象が抑制されるため、図32に示すように図33の電流波形に比較してリンギングを小さくできることがわかる。また、図31の電流波形に比較すると、リカバリー後半における電流変化勾配(dId/dt)をなだらかに(絶対値を小さく)できることがわかる。
【0123】
また、発明者らは、MOSFET3Hのドレインソース間電圧Vdsのサージ電圧特性を確認するため、図34に示すように誘導性負荷(前述のステータコイル4に相当)を直流電源2の供給ノードに接続した回路を用いて評価実験を実施している。試験条件は、直流電源2の電源電圧:200V、負荷電流:10A、図34の符号4に対応する誘導性負荷:300μH、オフ保持回路9Lのインピーダンス素子ZLを抵抗Rdとし、当該抵抗Rdの値を0Ω,20Ω,50Ω,100Ωで変化させた条件を用いている。
【0124】
これらの条件を適用し、パワーMOSFET3Hのゲートソース間に接続されたインピーダンス素子ZL(抵抗Rd)を変更したとき、パワーMOSFET3Hのドレインソース間電圧Vdsを観察した。このときの過渡応答波形を、図35(Rd=0Ω)、図36(Rd=20Ω)、図37(Rd=50Ω)、図38(Rd=100Ω)にそれぞれ示している。また、スイッチング損失W、サージ電圧Vを測定してまとめた結果を図39に相対レベルで示している。
【0125】
図39にサージ電圧の測定結果を示すように、抵抗Rdを大きくすればドレインソース間電圧Vdsの最大値が低くなるため、サージ電圧[V]は低くなる傾向にあるが、スイッチング損失W[μJ]は、インピーダンス素子ZLの抵抗値Rd=20[Ω]またはその周辺の値を採用した場合に最も低くなることがわかる。
【0126】
これは、抵抗値Rdを低くするとスイッチング損失Wが低くなる傾向を示しているが、あまり低くし過ぎるとリンギングが大きくなるため損失が逆に増してしまうことを示している。このため、素子値はこれらの状況を勘案し、必要なサージ電圧特性、スイッチング損失を満たすようにトレードオフで決定すると良い。
【0127】
この評価結果は抵抗値依存性の一例を示すものであり、例えば前述した電圧Vgsbの値が容量値Cds,Cgsで変化することを考慮に入れれば、パワーMOSFET3H,3Lの各サイズ(ゲート幅、ゲート長)によってトレードオフで決定すべき抵抗値Rdの値は様々変化することに留意する。
【0128】
本実施例によれば、加算電圧Vgsが閾値電圧Vt未満となる電圧領域VR2内の電圧となることを満たす素子値を適用している。このため、従来技術に比較してリンギングを小さくできる。また、スイッチング損失Wを低減できる。
【0129】
また、加算電圧Vgsが閾値電圧Vtにほぼ等しくなる電圧領域VR1内の電圧となることを満たす素子値を適用すると、リンギングを小さくできる。また、サージ電圧を低減できる。
(他の実施例)
本発明は、前述した実施例に限定されるものではなく、例えば、以下に示す変形または拡張が可能である。
【0130】
また、第1実施例などに示したように、スイッチング速度調整回路8Hのターンオン時の通電抵抗RnHとターンオフ時の通電抵抗RfH、スイッチング速度調整回路8Lのターンオン時の通電抵抗RnLとターンオフ時の通電抵抗RfLとをそれぞれ別体に設けると、ターンオン速度、ターンオフ速度をそれぞれ調整できる。
【0131】
ターンオンのリカバリー後半時の電流変化がターンオフ時の電流変化に比較してかなり大きい場合には、抵抗RnHとRfHの抵抗値、抵抗RnLとRfLの抵抗値は互いに異なる値が要求される場合がある。この場合、これらの抵抗RnH,RnL,RfH,RfLの各抵抗値を個別に調整することで、要求されるターンオン時間、ターンオフ時間にそれぞれ調整し易くなる。したがって、要求されるスイッチング時間でスイッチングを完了し易くなると共にスイッチング損失を抑制できる。
【0132】
ハイサイド側のパワーMOSFET3Hの駆動回路6Hのみ前述実施形態に示した回路構成を適用し、ローサイド側のパワーMOSFET3Lの駆動回路6Lについては従来回路を適用した形態を用いても良い。この場合、駆動回路6Lに代えて従来回路として例えばオンスイッチを通じてパワーMOSFET6Lを通電オンするための構成を用いれば良い。このような回路構成を適用しても前述実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0133】
逆に、ローサイド側のパワーMOSFET3Lの駆動回路6Lのみ前述実施形態に示した回路構成を適用し、ハイサイド側のパワーMOSFET3Hの駆動回路6Hについては従来回路を適用した形態を用いても良い。この場合、駆動回路6Hに代えて従来回路として例えばオンスイッチを通じてパワーMOSFET6Hを通電オンするための構成を用いれば良い。このような回路構成を適用しても前述実施形態と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0134】
図面中、1はハーフブリッジ回路、2は直流電源、3Hはハイサイド側のNチャネル型のSJ−MOSFET(パワーMOSFET)、3Lはローサイド側のNチャネル型のSJ−MOSFET(パワーMOSFET)、4はステータコイル、5H,5Lはフリーホイールダイオード、6H,6Lは駆動回路(パワーMOSFETの駆動回路)、7H,7Lは駆動電圧発生回路(7Hは第1通電スイッチ回路,7Lは第2通電スイッチ回路)、8H,8Lはスイッチング速度調整回路(8Hは第1電荷注入放出回路,8Lは第2電荷注入放出回路)、9H,9Lはオフ保持回路(9Hは第1インピーダンス切替部,9Lは第2インピーダンス切替部)、10H,10Lは直流電源、11は制御回路、12は比較回路、13は論理回路、14はNORゲート、15は論理回路、16はNORゲート、17、18はNOTゲート、19は論理回路、20はNOTゲート、21はNOTゲートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電源線および第2電源線間に電圧駆動型の第1パワーMOSFETおよび第2パワーMOSFETをハーフブリッジ接続すると共に当該第1および第2パワーMOSFET間に誘導性負荷を接続してなる駆動対象を駆動する駆動回路において、
前記第1パワーMOSFETの低電位側基準端子の電位を基準電位として電源電圧を通電オンおよび開放可能な第1通電スイッチ回路であって、電源電圧の供給端子と前記低電位側基準端子との間に第1オンスイッチおよび第1オフスイッチを直列接続して構成された第1通電スイッチ回路と、
前記第1通電スイッチ回路と前記第1パワーMOSFETの制御端子との間に接続され当該制御端子に電荷を注入/放出する速度を調整する第1電荷注入放出回路と、
前記第1パワーMOSFETの制御端子と低電位側基準端子との間に接続され、これらの制御端子と低電位側基準端子との間のインピーダンスについて、前記第1電荷注入放出回路のインピーダンスより高い所定の第1インピーダンス状態と当該第1インピーダンス状態よりインピーダンスを高くした開放状態とに切替える第1インピーダンス切替部と、
前記第2パワーMOSFETの低電位側基準端子の電位を基準電位とした電源電圧を通電オンおよび開放可能な第2通電スイッチ回路であって、電源電圧の供給端子と前記低電位側基準端子との間に第2オンスイッチおよび第2オフスイッチを直列接続して構成された第2通電スイッチ回路と、
前記第2通電スイッチ回路と前記第2パワーMOSFETの制御端子との間に接続され当該制御端子に電荷を注入/放出する速度を調整する第2電荷注入放出回路と、
前記第2パワーMOSFETの制御端子と低電位側基準端子との間に接続され、これらの制御端子と低電位側基準端子との間のインピーダンスについて、前記第2電荷注入放出回路のインピーダンスより高い所定の第2インピーダンス状態とこの第2インピーダンス状態よりもインピーダンスの高い開放状態とに切り替える第2インピーダンス切替部と、
前記第1および第2通電スイッチ回路のスイッチ状態、並びに、前記第1および第2インピーダンス切替部の切替状態を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
(A)第kオンスイッチをオン、第kオフスイッチをオフ
(B)第kオンスイッチをオンからオフした後、第kオフスイッチをオン
(C)第kオフスイッチをオンからオフすると同時に第kインピーダンス切替部を第kインピーダンス状態、第mオンスイッチをオン
(但しkは1又は2の何れか、mはその他方)に示す(A)〜(C)を含む切替制御を行うことを特徴とするパワーMOSFETの駆動回路。
【請求項2】
前記制御手段が、第kオンスイッチ、第kオフスイッチ、第mオンスイッチおよび第mオフスイッチを切替制御するとき、
前記(B)の区間において、前記第kオンスイッチをオンからオフした後前記第kオフスイッチをオン、前記第kインピーダンス切替部を開放状態に保持し前記第mオフスイッチをオフからオンにし、
前記(C)の区間において、前記第kオフスイッチをオンからオフすると同時に前記第kインピーダンス切替部を開放状態から所定の第kインピーダンス状態に切替制御することを特徴とする請求項1記載のパワーMOSFETの駆動回路。
【請求項3】
前記制御手段が、前記第kオンスイッチ、前記第kオフスイッチ、前記第mオンスイッチおよび前記第mオフスイッチを切替制御するとき、
前記(B)の区間において、前記第kオンスイッチをオンからオフした後、前記第kオフスイッチをオンすると共に前記第kインピーダンス切替部を開放状態から所定の第kインピーダンス状態に切替制御し、
前記(C)の区間において、前記第kオフスイッチをオンからオフに切替制御することを特徴とする請求項1記載のパワーMOSFETの駆動回路。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記第mオンスイッチをオンして前記第m電荷注入放出回路を通じて前記第mパワーMOSFETの制御端子に電荷を注入し当該第mパワーMOSFET電流が予め定められた整定電流を始めて上回る所定時間を経過する前に、前記第kオフスイッチをオフすると同時に前記第kインピーダンス切替部のインピーダンスを所定の第kインピーダンス状態に切替制御することを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のパワーMOSFETの駆動回路。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載のパワーMOSFETの駆動回路について、第kインピーダンス切替部(kは、1または2)の素子値を決定する方法であって、
前記第kパワーMOSFETの寄生ダイオードに生じるリカバリー電流に応じて当該第kパワーMOSFETのソースの寄生インダクタンスに生じる逆起電圧と、前記第kパワーMOSFETの寄生容量のカップリングによって発生する発生電圧とを加算し、この加算電圧が前記第kパワーMOSFETの閾値電圧未満となることを満たす素子値を前記第kインピーダンス切替部の素子値として決定することを特徴とするパワーMOSFETの駆動回路の素子値決定方法。
【請求項6】
請求項1ないし4の何れかに記載のパワーMOSFETの駆動回路について、第kインピーダンス切替部(kは、1または2)の素子値を決定する方法であって、
前記第kパワーMOSFETの寄生ダイオードに生じるリカバリー電流に応じて当該第kパワーMOSFETのソースの寄生インダクタンスに生じる逆起電圧と、前記第kパワーMOSFETの寄生容量のカップリングによって発生する発生電圧とを加算し、この加算電圧が前記第kパワーMOSFETの閾値電圧とほぼ等しくなることを満たす素子値を前記第kインピーダンス切替部の素子値として決定することを特徴とするパワーMOSFETの駆動回路の素子値決定方法。
【請求項7】
第1電源線および第2電源線間に電圧駆動型の第aおよび第bパワーMOSFETをハーフブリッジ接続すると共に当該第aおよび第bパワーMOSFET間に誘導性負荷を接続してなる駆動対象を駆動する駆動回路であって、
前記第aパワーMOSFETの低電位側基準端子の電位を基準電位として電源電圧を通電オンおよび開放可能な第a通電スイッチ回路であって、電源電圧の供給端子と前記低電位側基準端子との間に第aオンスイッチおよび第aオフスイッチを直列接続して構成された第a通電スイッチ回路と、
前記第a通電スイッチ回路と前記第aパワーMOSFETの制御端子との間に接続され当該制御端子に電荷を注入/放出する速度を調整する第a電荷注入放出回路と、
前記第aパワーMOSFETの制御端子と低電位側基準端子との間に接続され、これらの制御端子と低電位側基準端子との間のインピーダンスについて、前記第a電荷注入放出回路のインピーダンスより高い所定の第aインピーダンス状態と当該第aインピーダンス状態よりインピーダンスを高くした開放状態とに切替える第aインピーダンス切替部と、
前記第bパワーMOSFETの制御端子に第bオンスイッチを通じて通電することで当該第bパワーMOSFETを通電オンする第b通電スイッチ回路と、
前記第aおよび第b通電スイッチ回路のスイッチ状態、並びに、前記第aインピーダンス切替部の切替状態を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
(A)第aオンスイッチをオン、第aオフスイッチをオフ
(B)第aオンスイッチをオンからオフした後、第aオフスイッチをオン
(C)第aオフスイッチをオンからオフすると同時に第aインピーダンス切替部を第aインピーダンス状態、第bオンスイッチをオン
(但しaは1又は2の何れか、bはその他方)に示す(A)〜(C)を含む切替制御を行うことを特徴とするパワーMOSFETの駆動回路。
【請求項8】
前記制御手段が、前記第aオンスイッチ、前記第aオフスイッチ、前記第bオンスイッチを切替制御するとき、
前記(B)の区間において、前記第aオンスイッチをオンからオフした後、前記第aオフスイッチをオンすると共に前記第aインピーダンス切替部を開放状態から所定の第aインピーダンス状態に切替制御し、
前記(C)の区間において、前記第aオフスイッチをオンからオフに切替制御することを特徴とする請求項7記載のパワーMOSFETの駆動回路。
【請求項9】
請求項7または8記載のパワーMOSFETの駆動回路について、第aインピーダンス切替部の素子値を決定する方法であって、
前記第aパワーMOSFETの寄生ダイオードに生じるリカバリー電流に応じて当該第aパワーMOSFETのソースの寄生インダクタンスに生じる逆起電圧と、前記第aパワーMOSFETの寄生容量のカップリングによって発生する発生電圧とを加算し、この加算電圧が前記第aパワーMOSFETの閾値電圧未満となることを満たす素子値を前記第aインピーダンス切替部の素子値として決定することを特徴とするパワーMOSFETの駆動回路の素子値決定方法。
【請求項10】
請求項7または8記載のパワーMOSFETの駆動回路について、第aインピーダンス切替部の素子値を決定する方法であって、
前記第aパワーMOSFETの寄生ダイオードに生じるリカバリー電流に応じて当該第aパワーMOSFETのソースの寄生インダクタンスに生じる逆起電圧と、前記第aパワーMOSFETの寄生容量のカップリングによって発生する発生電圧とを加算し、この加算電圧が前記第aパワーMOSFETの閾値電圧とほぼ等しくなることを満たす素子値を前記第aインピーダンス切替部の素子値として決定することを特徴とするパワーMOSFETの駆動回路の素子値決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2013−13051(P2013−13051A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21805(P2012−21805)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】