説明

ムライト質焼結体およびこれを用いた多層配線基板ならびにプローブカード

【課題】 熱膨張係数が小さくかつ誘電正接の小さいムライト質焼結体とこれを絶縁層とする多層配線基板ならびにプローブカードを提供する。
【解決手段】 ムライト質焼結体がムライトを主結晶相とし、チタン酸アルミニウムマグネシウムを含有してなるものであり、また、このムライト質焼結体を多層配線基板やプローブカードの絶縁層として適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張かつ低誘電損失のムライト質焼結体とこれを用いた多層配線基板およびプローブカードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の内部に組み込まれたLSI等の半導体素子を環境的に保護するとともに、半導体素子の放熱性を高め、かつ動作特性を安定化させるための筐体として半導体素子収納用パッケージと呼ばれる多層配線基板が用いられている。近年、半導体素子の高速化、高密度化に伴って、多層配線基板上に直接半導体素子を実装するフリップチップ実装といわれる実装方式が採用されているが、このような実装方式においては、半導体素子のサイズが大きくなるにつれて多層配線基板との間で実装時の温度変化によって生ずる応力が大きくなるという問題を有している。このような応力は多層配線基板の熱膨張係数と半導体素子の材料であるシリコン(Si)の熱膨張係数(シリコン:2.5〜3.5×10−6/℃)との差によって生ずるものである。このため以前より、シリコンとの熱膨張係数の差の小さいムライト質焼結体を絶縁層の材料として採用する試みが行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−245263号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたムライト質焼結体は誘電正接が大きいことから、絶縁層として用いたときに多層配線基板の内部配線層を伝搬する電気信号の伝送特性が悪くなるという問題があった。
【0005】
従って、本発明は、熱膨張係数が小さくかつ誘電正接の小さいムライト質焼結体とこれを絶縁層とする多層配線基板ならびにプローブカードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のムライト質焼結体は、ムライトを主結晶相とし、チタン酸アルミニウムマグネシウムを含有してなることを特徴とする。
【0007】
また、上記ムライト質焼結体では、前記チタン酸アルミニウムマグネシウムが、X線回折によるリートベルト解析から求められる組成で1.0〜1.5質量%含まれていることが望ましい。
【0008】
また、上記ムライト質焼結体では、X線回折測定によるリートベルト解析から求められる組成で、さらに、チタン酸マンガンを1.1〜1.5質量%含有することが望ましい。
【0009】
本発明の多層配線基板は、複数の絶縁層を積層してなる絶縁基体と、該絶縁基体の内部に形成された内部配線層とを備えている多層配線基板であって、前記絶縁層が上記のムライト質焼結体からなることを特徴とする。
【0010】
本発明のプローブカードは、上記の多層配線基板の表面に表面配線層が設けられており
、該表面配線層に半導体素子の電気特性を測定するための測定端子が接続されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱膨張係数が小さくかつ誘電正接の小さいムライト質焼結体とこれを絶縁層とする多層配線基板ならびにプローブカードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の多層配線基板の一実施形態の概略断面図である。
【図2】本発明のプローブカードの一実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態のムライト質焼結体は、ムライトを主結晶相とし、チタン酸アルミニウムマグネシウムを含有してなることを特徴とするものであり、これにより熱膨張係数が4.8×10−6/℃以下と小さくかつ誘電正接の小さなムライト質焼結体を得ることができる。これはムライト質焼結体中に、常誘電体であり単体として誘電正接の低いチタン酸アルミニウムマグネシウム(70×10−4以下(1MHz))の結晶相が形成されるためである。
【0014】
ここで、ムライトを主結晶相とするとは、ムライト質焼結体について、X線回折によるリートベルト解析を行ったときに得られる組成で、ムライトを70質量%以上含むものをいい、ムライトとしては、aAl・bSiOとして表わされる化学式において、a=1.9〜3.2、b=0.9〜2.1の組成を有することが望ましい。
【0015】
また、チタン酸マグネシウムアルミニウムとしては、MgAlTiで表される化学式において、X=0.2〜0.5、y=1.2〜1.7、Z=1.1〜1.5およびw=4.5〜5.5の組成を有するものが好ましい。
【0016】
本実施形態のムライト質焼結体を構成するムライトの結晶相は、粒子状または柱状の結晶として焼結体中に存在している。ムライトは結晶粒径が大きくなるに従い熱伝導性が向上し、結晶粒径が小さくなるに従い強度が向上することから、高熱伝導性および高強度の両立ならびにムライト質焼結体中に形成される最大気孔径を20μm以下にするという理由から、ムライトの平均粒径は1.0〜5.0μm、特に1.7〜2.5μmであることが望ましい。
【0017】
ここで、ムライトの平均粒径は、配線基板から切り出したムライト質焼結体の部分を研磨し、エッチングした試料について走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、その写真上に約50個入る円を描き、円内および円周にかかったムライトの結晶粒子を選択し、次いで、各結晶粒子の輪郭を画像処理して、各結晶粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求める。
【0018】
また、ムライト質焼結体の最大気孔径は、配線基板から切り出したムライト質焼結体の部分を研磨し、エッチングした試料を、例えば、走査電子顕微鏡や画像解析装置などにより測定する。この場合、まず、作製した試料の研磨面のほぼ中央部の300μm角の領域について、100〜300倍の倍率で観察して研磨面に存在する気孔径を測定し、測定した気孔から最大気孔径を求める。
【0019】
また、本実施形態のムライト質焼結体では、チタン酸アルミニウムマグネシウムが、X線回折によるリートベルト解析から求められる組成で1.0〜1.5質量%含まれていることが望ましい。ムライト質焼結体中にチタン酸アルミニウムマグネシウムをこのような
範囲で含有させることでムライト質焼結体の室温から300℃における熱膨張係数を3.7〜4.1×10−6/℃、誘電正接を300×10−4以下にすることが可能となる。
【0020】
さらに、本実施形態のムライト質焼結体は、X線回折によるリートベルト解析から求められる組成で、さらに、チタン酸マンガンを1.1〜1.5質量%含有することが望ましい。これによりムライト質焼結体の機械的強度(3点曲げ強度)を335MPa以上にできるとともに、耐薬品性を高めることが可能となる。この場合、チタン酸マンガンが粒界に存在すると、粒界に存在するガラス相を低減できるためにムライト質焼結体の耐薬品性を向上させることができる。また、粒界が結晶質となるために、ムライト結晶間の結合が強化され、これによりムライト質焼結体の機械的強度を高めることができる。なお、本実施形態において耐薬品性が高いというのは、例えば、ムライト質焼結体を、水酸化カリウムを40質量%程度溶解させた水溶液に5時間浸漬したとしても、ムライト質焼結体に含まれるガラス成分の溶出量が重量変化率で0.12%以下というレベルである。
【0021】
図1は、本発明の多層配線基板の一実施形態の概略断面図である。図1に示す多層配線基板1は、絶縁基体11と、絶縁基体11の内部に形成された内部配線層12とを備えており、その絶縁基体11の内部において、少なくとも内部配線層12同士を電気的に接続するビアホール導体14とを有している。
【0022】
絶縁基体11は複数の絶縁層11a、11b、11c、11d(以下、11a〜dと記す。)を積層したもので、それぞれの絶縁層11a〜dは、上述したムライト質焼結体により形成されている。絶縁基体11が上述したムライト質焼結体であると、絶縁基体11の熱膨張係数(室温〜300℃)を4.8×10−6/℃以下の範囲にでき、これにより本実施形態の多層配線基板1は、LSI等の半導体素子との間における実装時の温度変化によって生ずる応力を小さくすることができる。その結果、半導体素子をフリップチップ実装した場合にも接続信頼性の高い多層配線基板1を得ることができる。また、本実施形態の多層配線基板1では誘電正接を小さくすることができることから多層配線基板1の伝送特性を高めることが可能となる。
【0023】
この場合、絶縁基体11の熱膨張係数および誘電正接をより小さくできるという点で、絶縁層11a〜dを形成するムライト質焼結体がX線回折によるリートベルト解析から求められる組成でチタン酸アルミニウムマグネシウムを1.0〜1.5質量%含有することが望ましい。
【0024】
また、本実施形態の多層配線基板1においては、絶縁層11a〜dを形成するムライト質焼結体が、X線回折によるリートベルト解析から求められる組成で、さらにチタン酸マンガンを1.1〜1.5質量%含有することが望ましく、この場合には、絶縁基体11の機械的強度を高めるとともに、耐薬品性を高めることができる。
【0025】
通常、ムライトを主成分とする成形体材料を焼結させるには、最低でも1450℃以上の焼成温度が必要になるが、本実施形態の多層配線基板1を構成する絶縁層11a〜dとして、マンガンとチタンとマグネシウムとを含有するムライト質焼結体で形成した場合には、後述するように1380℃〜1420℃の焼成温度において緻密なムライト質焼結体を得ることができ、その結果、十分な機械的強度を持たせることが可能となる。
【0026】
また、ムライトの結晶相の粒界にチタン酸マンガンのみが存在するようなムライト質焼結体では、誘電損失が著しく大きく、例えば、シグナル用の内部配線層を利用して評価される電気信号の伝送特性に遅延が生じやくなるが、本実施形態の多層配線基板1では、ムライトの結晶相の粒界にチタン酸マンガンとともにチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶が存在していることから、絶縁基体11の耐薬品性を高められるとともに、粒界にチ
タン酸マンガンのみが存在することに起因する誘電正接の増加を抑制でき、これにより内部配線層12の電気信号の伝送特性を高めることができる。
【0027】
本実施形態の多層配線基板1では、内部配線層12およびビアホール導体14が、タングステン、モリブデンおよび銅のうちのいずれか1種の金属を主体として構成されるのが良い。特に、内部配線層12およびビアホール導体14の導体抵抗を低減して導体に起因する伝送損失を低減できるという点で銅を含有することが望ましい。例えば、絶縁層11a〜dとしてチタン酸アルミニウムマグネシウムとチタン酸マンガンを含有するムライト質焼結体を用いる場合、内部配線層12として銅を40〜60体積%、Mo、Wのうちの少なくとも1種を40〜60体積%とする組成を有する複合導体を用いることが良く、この複合導体を用いれば、絶縁層11a〜dの焼結温度に近づけることができる。その結果、絶縁層11a〜dを緻密化させることができるとともに、内部配線層12についても寸法ばらつきが小さく緻密な内部配線層12を形成することが可能となる。こうして、低抵抗の内部配線層12およびビアホール導体14を有し、低熱膨張であり、誘電正接が小さくかつ耐薬品性に優れた多層配線基板を得ることができる。
【0028】
図2は、本発明のプローブカードの一実施形態の概略断面図である。本実施形態のプローブカード2は、図1の多層配線基板1の表面に表面配線層21が設けられており、この表面配線層21に半導体素子の電気特性を測定するための測定端子23が接続されたものである。また、本実施形態のプローブカード2おいては、測定端子23が設けられた面とは反対側の面に接続端子31が形成され、この接続端子31を介して外部回路基板33が接合されている。さらに、外部回路基板33はテスタ34に接続されており、ステージ35の上に載置された半導体ウェハ37の上面にプローブカード2の測定端子23を接触させて半導体ウェハ37上に形成された多数の半導体素子の電気特性を測定することができる。なお、プローブカード2は、昇降装置39によって上下に駆動させることができ、プローブカード2の測定端子23を半導体ウェハ37の上面に接触させたり離したりするようになっている。
【0029】
プローブカード2に本実施形態の多層配線基板1を適用すると、多層配線基板1を構成する絶縁基体11が上述したムライト質焼結体により構成されることからプローブカード2の熱膨張係数を小さくすることができる。これにより、例えば、半導体ウェハ37の電気検査を行う場合の熱負荷試験において、プローブカード2を構成する多層配線基板1の表面に形成された測定端子23と半導体ウェハ37の表面に形成された測定パッドとの位置ずれがほとんど無く、電気特性の検査において好適に使用できる。
【0030】
また、本実施形態のプローブカード2では、多層配線基板1を構成する絶縁基体11として、誘電正接の小さいムライト質焼結体を用いることから、伝送特性に優れた電気回路を有するものとすることができる。
【0031】
この場合、プローブカード2においても、それを構成する多層配線基板1の絶縁基体11は、X線回折によるリートベルト解析から求められる組成でチタン酸アルミニウムマグネシウムを1.0〜1.5質量%含有することが望ましく、さらには、チタン酸マンガンを1.1〜1.5質量%含有することが望ましい。
【0032】
また、本実施形態のプローブカード2を構成する多層配線基板1の絶縁基体11として、チタン酸アルミニウムマグネシウムとチタン酸マンガンとを含有する上述のムライト質焼結体を適用すると、多層配線基板1は熱膨張係数を小さくかつ機械的強度(3点曲げ強度)の高いものとなることから、プローブカード2に多層配線基板1を組み付けるときのボルト等の締め付けにおいても破損が無く、また、プローブカード2を大型化したときのたわみも低減できる。これによりプローブカード2における全ての測定端子プローブピン
の先端の位置をほぼ同じ高さに近づけることが可能となり、電気特性の検査の精度を高めることができる。
【0033】
また、図1に示す多層配線基板1を構成する絶縁基体11の主面には、焼成直後においては、元々、表面配線層21の代わりにビアホール導体14に接続されたランドパターン(図示せず)が形成されている。このランドパターンは焼成後にこのプローブカード2用の多層配線基板1の内部配線層12およびビアホール導体14の電気的接続のショートまたはオープンの検査を行うために設けられたものである。そして、多層配線基板1の内部配線層12およびビアホール導体14の電気的接続のショートまたはオープンの検査を行った後、ランドパターンは研磨により取り除かれ、ビアホール導体14を露出させたうえで、スパッタ法または蒸着法などの薄膜法により表面配線層21が形成され、さらに、この表面配線層21の表面上に測定端子(プローブピン)23が形成され、図2に示すプローブカード2が形成される。
【0034】
次に、本実施形態のムライト質焼結体およびこれを用いた多層配線基板1ならびにプローブカード2の製造方法について説明する。
【0035】
まず、純度が99%以上、平均粒径が0.5〜2.5μmのムライト(3Al・2SiO)粉末を準備する。ムライト粉末として、平均粒径が0.5μm以上のものを用いることで、多層配線基板1の絶縁層11a〜dを形成するシートの成形性を高めることができ、また、2.5μm以下のものを用いることで1420℃以下の温度での焼成によっても緻密化を促進させることが可能となる。
【0036】
次に、ムライト粉末に対して、酸化マグネシウム粉末とアナターゼ型の二酸化チタン粉末とをそれぞれ少量添加して混合粉末を調製する。このような混合粉末を用いることにより、ムライト質焼結体中にチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶相を形成することができ、これにより熱膨張係数が小さくかつ誘電正接の小さいムライト質焼結体を得ることができる。ここで、アナターゼ型の二酸化チタン粉末とは、二酸化チタン粉末をX線回折にて同定したときに、ルチル型の二酸化チタンのメインピークの回折強度がアナターゼ型の二酸化チタンのメインピークの回折強度に対して10%以下であるものをいう。
【0037】
また、ムライト粉末100質量%に対して、酸化マグネシウム粉末を1〜2質量%、アナターゼ型の二酸化チタン粉末を2〜6質量%添加した混合粉末を用いたときには、チタン酸アルミニウムマグネシウムを1.0〜1.5質量%含有するムライト質焼結体を得ることができる。
【0038】
さらに、ムライト粉末100質量%に対して、酸化マグネシウム粉末を1〜2質量%、アナターゼ型の二酸化チタン粉末を2〜6質量%とし、さらに酸化マンガン(Mn)粉末を1〜3質量%添加した混合粉末を用い、最高温度を1380〜1420℃として焼結させた場合には、チタン酸アルミニウムマグネシウムを1.0〜1.5質量%含有するとともに、チタン酸マンガンを1.1〜1.5質量%含有するムライト質焼結体を得ることができる。この場合、添加剤として用いる酸化マンガン粉末は平均粒径が0.5〜3μm、アナターゼ型の二酸化チタン粉末は0.5〜2μmおよび酸化マグネシウム粉末は平均粒径が0.5〜3μmであるものを用いるがよく、また、これら酸化マンガン粉末、二酸化チタン粉末および酸化マグネシウム粉末は、純度がいずれも99質量%以上であるものがよい。これにより、Mn、TiおよびMgの拡散を向上でき、緻密な焼結体を得ることができる。なお、二酸化チタン粉末としてルチル型の二酸化チタン粉末を用いた場合には、ムライト質焼結体中にチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶相を形成することが困難となり誘電正接の小さいムライト質焼結体を得ることができない。
【0039】
次に、この混合粉末に対して有機バインダ、溶媒を添加して顆粒またはスラリーを調整した後、これをプレス法、ドクターブレード法、圧延法、射出法などの成形方法によってグリーンシートまたは粉末の成形体を作製する。なお、グリーンシートまたは成形体の厚みはたとえば50〜300μmとすることができるが、特に限定されない。
【0040】
ここで、多層配線基板1を作製する場合には、グリーンシートに対して、適宜、マイクロドリル、レーザー等により直径50〜250μmの貫通孔を形成する。
【0041】
このようにして貫通孔の形成されたグリーンシートに対して、例えば、銅粉末、タングステン粉末およびモリブデン粉末のうち少なくとも1種の金属粉末を含む導体ペーストを充填するとともに、スクリーン印刷、グラビア印刷などの方法により印刷塗布して配線パターンを形成する。なお、導体ペーストとしては、低抵抗の内部配線層12およびビアホール導体14を形成できるという点で、タングステン粉末またはモリブデン粉末あるいはこれらの混合粉末に銅粉末を混合したものを用いることが望ましい。
【0042】
その後、導体ペーストを印刷塗布したグリーンシートを位置合わせして積層圧着して積層体を作製する。そして、得られた積層体や成形体を非酸化性雰囲気(窒素雰囲気あるいは窒素と水素との混合雰囲気)中で焼成する。
【0043】
以上述べた方法により作製されたムライト質焼結体は、低熱膨張でありかつ低誘電損失となり、例えば、多層配線基板およびプローブカード2の絶縁基体11としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
純度が99%、平均粒子径が2.1μmのムライト粉末(3Al・2SiO)100質量部に対して、純度が99%、平均粒子径が1.5μmのMn粉末、純度が99%、平均粒径が1.0μmのTiO粉末(アナターゼ型およびルチル型)、純度が99%、平均粒子径が0.7μmのMgO粉末を表1および表2に示すような割合で混合した後、さらに成形用有機樹脂(有機バインダー)としてアクリル系バインダーと、有機溶媒としてトルエンとを混合してスラリーを調製した後、ドクターブレード法にて厚さ200μmのシート状に成形し、グリーンシートを作製した。
【0045】
得られたグリーンシートを15層積層し、室温から600℃の温度において窒素水素混合雰囲気にて脱脂を行なった後、引き続き同じ焼成雰囲気中にて表1および表2に示す最高温度にて1時間保持するという条件で焼成を行いムライト質焼結体を得た。
【0046】
ムライト質焼結体に存在する結晶相とその比率については、まず、ムライト質焼結体を粉砕し、X線回折により得られるメインピーク位置をJCPDSに照らし合わせて、ムライト、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Mg0.3Al1.4Ti1.3MnTiO)およびチタン酸マンガン(MnTiO)の各結晶相の同定を行った。その結果、ムライトが主結晶相として存在していることを確認した。また、他の結晶相として、チタン酸アルミニウムマグネシウムおよびチタン酸マンガンの結晶相の有無および同定された結晶相であるチタン酸アルミニウムマグネシウム(Mg0.3Al1.4Ti1.3)およびチタン酸マンガン(MnTiO)について、リートベルト解析により結晶相比率をそれぞれ求めた。
【0047】
また、耐薬品性の指標として、ムライト質焼結体の初期の質量および100℃の水酸化カリウム40質量%水溶液に5時間浸漬させた後のムライト質焼結体の質量を測定し、重量減少率(「ムライト質焼結体の初期質量」−「100℃の水酸化カリウム40質量%水溶液に5時間浸漬させた後のムライト質焼結体の質量」)/「ムライト質焼結体の初期質
量」×100[%]を算出した。ここで、耐薬品性の判定は重量変化率が0.12質量%以下の場合を良品(○)とした。
【0048】
また、得られたグリーンシートを30層積層して作製した成形体を、上記と同様の脱脂および焼成の条件にて作製したムライト質焼結体を、平面研磨機を用いて、幅3mm、厚み2mm、長さ1mmの形状のサンプルに加工して、TMA分析(熱機械分析)用の試料を作製し、室温〜300℃における熱膨張係数を測定した。
【0049】
さらに、JISR1601に定める曲げ強度の試験方法に基づき、3点曲げ強度を測定した。ここで、測定に用いた試料は、長さが約20mm、幅が約2mm、厚みが約1.5mmのサイズとした。
【0050】
なお、X線回折、耐薬品性、熱膨張係数の評価は試料数を3個とし、平均値より求めた。また、3点曲げ強度の評価は試料数を10本とし、平均値より求めた。
【0051】
また、作製されたグリーンシートに対して、Cu粉末とW粉末とをCu粉末が45体積%、W粉末が55体積%となるように調製した導体ペーストを各グリーンシートの表面に印刷して内部配線パターンを形成するとともに貫通孔内にMoの導体ペーストを充填してビア導体が形成されたグリーンシートを作製した。
【0052】
このとき、内部配線パターンの一部に、抵抗測定用として、線幅が100μm、長さが20mmの評価パターンを形成し、この内部配線パターンをビア導体に接続するようにし、さらに、内部配線パターンの端部にはビア導体との接続用としてランドパターンを形成した。
【0053】
こうして作製した各セラミックグリーンシートを位置合わせして積層圧着して積層体を作製した。ここで作製された積層体は、最上層には抵抗測定用に測定端子を接触させるためのパッドが設けられたセラミックグリーンシートを配置し、2層目には抵抗測定用の内部配線パターンとランドパターンが印刷塗布されたセラミックグリーンシートを配置し、最上層に設けられた貫通孔(Mo導体ペーストが充填されている)と、2層目に印刷塗布されたランドが電気的に接続されるように、位置合わせしたものであり、全30層のセラミックグリーンシートが積層されたものである。
【0054】
次に、この積層体を、上記したムライト質焼結体を作製したときと同様、室温から600℃の温度において窒素水素混合雰囲気にて脱脂を行なった後、引き続き同じ焼成雰囲気中にて最高温度を1400℃または1500℃として1時間保持して焼成を行いプローブカード用の多層配線基板を作製した。基板サイズは340mm×340mm、厚みが5mmであった。
【0055】
次に、作製したプローブカード用の多層配線基板の表面を研磨し、ランドパターンを取り除いた後、スパッタ法を用いて、プローブカード用セラミック配線基板の表面の全面に厚みが約2μmのTiおよびCuの導電性薄膜を順に形成した。
【0056】
次に、フォトリソグラフィーによりTiおよびCuの導電性薄膜をパターン加工して、このCuの表面にNiおよびAuの電解めっき膜を順に形成して、プローブカード用の多層配線基板の表面のビアホール導体上にプローブカード用の表面配線層を形成した。
【0057】
次に、この多層配線基板に形成した表面配線層の表面にSi製の測定端子(プローブピン)を接合してプローブカードを作製した。
【0058】
作製したプローブカードの多層配線基板から絶縁基体の部分を切り出し、ブリッジ回路法を用いて周波数1MHzにおける誘電正接(tanδ)を測定し、絶縁基体の誘電正接を評価した。
【0059】
また、絶縁基体中に含まれるマンガン(Mn)、チタン(Ti)およびマグネシウム(Mg)の含有量は、プローブカードの多層配線基板から切り出した絶縁基体を一旦、酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により誘電体磁器に含まれる元素の定性分析を行い、次いで、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP発光分光分析にかけて定量化した。この場合、ICP分析により絶縁基体中に含まれるアルミニウム(Al)、珪素(Si)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)およびマグネシウム(Mg)の含有量を求め、これらの分析値のうちアルミニウム(Al)および珪素(Si)からムライト(3Al・2SiO)量を求め、さらにムライト量に対するMn、TiおよびMgの量を酸化物換算で求めたところ表1および表2に示す量にそれぞれ一致していた。
【0060】
また、内部配線層のCuおよびWの組成は、まず、プローブカード用配線基板から内部配線層が形成された部位を切り出し、これを酸に溶解させた溶液をICP分析を用いて導体材料であるCuおよびWの含有量を質量で求めた。次に、質量として求めたCuおよびWの量をそれぞれの密度で除して各々の体積を求め、次いで、CuおよびWの合計の体積を100%としたときのCuおよびWの割合を求めた。なお、作製したプローブカード用配線基板に形成された内部配線層はCuが45体積%、Wが55体積%であることを確認した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1の結果から明らかなように、本発明の試料(試料No.1〜3、7〜10、12〜14、18〜21、23および24)は、いずれもムライト質焼結体中にチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶相が存在し、室温から300℃における熱膨張係数が4.8×10−6/℃以下であり、また、誘電正接が310×10−4以下であった。
【0064】
また、X線回折によるリートベルト解析から求められる組成でチタン酸アルミニウムマグネシウムが1.0〜1.5質量%含まれている試料(試料No.2、3、7〜9、13、14、18〜20、23および24)では、ムライト質焼結体の室温から300℃における熱膨張係数が3.7〜4.1×10−6/℃、誘電正接を300×10−4以下であった。
【0065】
さらに、X線回折によるリートベルト解析から求められる組成でチタン酸アルミニウムマグネシウムが1.0〜1.5質量%含まれているとともに、チタン酸マンガンを1.1〜1.5質量%含有する試料(試料No.13、14および18〜20)では、3点曲げ強度が335MPa以上であるとともに、耐薬品性が良好であった。
【0066】
これら本発明の試料である試料No.1〜3、7〜10、12〜14、18〜21、23および24のムライト質焼結体を用いて作製された多層配線基板をプローブカードに適用した場合には、熱負荷試験時において、プローブカード用セラミック配線基板に設けられた測定端子とSiウェハの表面に形成された測定パッドとの位置ずれが無く、電気特性の検査に好適に使用できるものであった。また、プローブカードとして組み立てた時にもボルトの締め付けによる破損が無かった。また、誘電正接が低いことからシグナル用の内部配線層を利用した電気信号の伝送特性の評価においても遅延がなく好適に使用できるものであった。
【0067】
これに対し、試料(試料No.4〜6、11、15〜17、22)では、チタン酸アルミニウムを含んでいないため、ムライト質焼結体の誘電正接がいずれも310×10−4を大きく上回るものであった。
【符号の説明】
【0068】
1:多層配線基板
11:絶縁基体
11a、11b、11c、11d:絶縁層
12:内部配線層
14:ビアホール導体
2:プローブカード
21:表面配線層
23:測定端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムライトを主結晶相とし、チタン酸アルミニウムマグネシウムを含有してなることを特徴とするムライト質焼結体。
【請求項2】
前記チタン酸アルミニウムマグネシウムが、X線回折によるリートベルト解析から求められる組成で1.1〜1.5質量%含まれていることを特徴とする請求項1に記載のムライト質焼結体。
【請求項3】
X線回折測定によるリートベルト解析から求められる組成で、さらに、チタン酸マンガンを1.1〜1.5質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のムライト質焼結体。
【請求項4】
複数の絶縁層を積層してなる絶縁基体と、該絶縁基体の内部に形成された内部配線層とを備えている多層配線基板であって、前記絶縁層が請求項1乃至3のうちいずれかに記載のムライト質焼結体からなることを特徴とする多層配線基板。
【請求項5】
請求項4に記載の多層配線基板の表面に表面配線層が設けられており、該表面配線層に半導体素子の電気特性を測定するための測定端子が接続されていることを特徴とするプローブカード。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−171817(P2012−171817A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33511(P2011−33511)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】