説明

表示装置および半導体装置用Al合金膜

【課題】450〜600℃程度の高温下に曝されてもヒロックが発生せず高温耐熱性に優れており、膜自体の電気抵抗(配線抵抗)も低く、アルカリ環境下の耐食性にも優れた表示装置用Al合金膜を提供する。
【解決手段】Geを0.01〜2.0原子%と、Ta、Ti、Zr、Hf、W、Cr、Nb、Mo、Ir、Pt、Re、およびOsよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素とを含み、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、下記(1)の要件を満足する表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜である。
(1)Alと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、Geとを含む第1の析出物について、円相当直径50nm以上の析出物が200,000個/mm2以上の密度で存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイなどの表示装置やIGBTなど半導体装置に使用され、ドライエッチングおよびウェットエッチングの双方で加工可能な電極および配線材料として有用な表示装置および半導体装置用Al合金膜;上記Al合金膜を備えた表示装置乃至半導体装置、および上記Al合金膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
表示装置用Al合金膜は主に電極および配線材料として用いられており、電極および配線材料としては、液晶ディスプレイ(LDC)における薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極並びに配線材料、有機EL(OELD)における薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極並びに配線材料、フィールドエミッションディスプレイ(FED)におけるカソードおよびゲート電極並びに配線材料、蛍光真空管(VFD)におけるアノード電極および配線材料、プラズマディスプレイ(PDP)におけるアドレス電極および配線材料、無機ELにおける背面電極などが挙げられる。
【0003】
また、半導体装置用Al合金膜は主に電極および配線材料として用いられており、電極および配線材料としては、IGBTなどの半導体のエミッタ電極並びに配線材料、コレクタ電極並びに配線材料などが挙げられる。
【0004】
以下では、液晶表示装置として液晶ディスプレイを代表的に取り上げ、説明するがこれに限定する趣旨ではない。
【0005】
液晶ディスプレイは、最近では100インチを超える大型のものが商品化され、低消費電力技術も進んでおり、主要な表示デバイスとして汎用されている。液晶ディスプレイには動作原理の異なるものがあるが、このうち、画素のスイッチングに薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下、TFTと呼ぶ。)を用いるアクティブ・マトリックス型液晶ディスプレイは、高精度画質を有し、高速動画にも対応できるため、主力となっている。そのなかで、更に低消費電力で画素の高速スイッチングが求められる液晶ディスプレイでは、多結晶シリコンや連続粒界結晶シリコンを半導体層に用いたTFTが用いられている。
【0006】
例えば、アクティブマトリクス型の液晶ディスプレイは、スイッチング素子であるTFT、導電性酸化膜から構成される画素電極、および走査線や信号線を含む配線を有するTFT基板を備えており、走査線や信号線は、画素電極に電気的に接続されている。走査線や信号線を構成する配線材料には、Al基合金薄膜が用いられている。
【0007】
図1を参照しながら、半導体層として水素化アモルファス・シリコンを用いたTFT基板の中核部の構成を説明する。
【0008】
図1に示すように、ガラス基板21a上には、走査線25が形成され、走査線25の一部は、TFTのオン・オフを制御するゲート電極26として機能する。ゲート電極26はゲート絶縁膜(窒化シリコン膜など)27で電気的に絶縁されている。ゲート絶縁膜27を介してチャンネル層である半導体シリコン層30が形成され、さらに保護膜(窒化シリコン膜など)31が形成される。半導体シリコン層30は、低抵抗シリコン層32を介して、ソース電極28およびドレイン電極29に接合され、電気的な導通性をもつ。
【0009】
ドレイン電極29は、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明電極35と直接に接触している構造[ダイレクト・コンタクト(DC)と呼ばれる。]を有している。ダイレクト・コンタクト用に用いられる電極配線材料として、例えば特許文献1〜5に記載のAl合金が挙げられる。Alは、電気抵抗率が小さく、微細加工性に優れるためである。これらのAl合金は、Mo、Cr、Ti、Wなどの高融点金属からなるバリアメタル層を介在させずに、透明電極を構成する酸化物透明導電膜と直接、またはシリコン半導体層と直接、接続されている。
【0010】
これらの配線膜や電極は、窒化シリコンなどの絶縁性保護膜33で覆われ、透明電極35を通じてドレイン電極29に電気を供給する。
【0011】
図1に示すTFTの動作特性を安定して確保するためには、特に半導体シリコン層30におけるキャリア(電子や正孔)の移動度を高める必要がある。そのため、液晶ディスプレイなどの製造プロセスでは、TFTの熱処理工程が含まれており、これにより、アモルファス構造の半導体シリコン層30の一部または全体が微結晶化・多結晶化される結果、キャリアの移動度が高くなり、TFTの応答速度が向上する。
【0012】
TFTの製造プロセスにおいて、例えば絶縁性保護膜33の蒸着などは約250〜350℃の比較的低い温度で行われる。また、液晶ディスプレイを構成するTFT基板(TFTがアレイ状に配置された液晶ディスプレイ駆動部)の安定性を向上させるために、約450℃以上の高温熱処理が行われる場合がある。実際のTFT、TFT基板、液晶ディスプレイの製造には、このような低温または高温の熱処理が複数回行なわれる場合がある。
【0013】
しかしながら、製造プロセス時の熱処理温度が例えば約450℃以上に高くなったり、更にこのような高温加熱処理が長時間に及ぶと、図1に示す薄膜層の剥離や、接触する薄膜間での原子の相互拡散が生じ、薄膜層自体が劣化するため、これまでは、高々300℃以下での熱処理しか行われていなかった。むしろ、加熱処理温度を出来るだけ低くしてもTFTが機能する配線材料や表示デバイスの構造に関する研究開発が集中して行なわれていたというのが実情である。これは、技術的な観点からは、TFT製造プロセスの全てを室温で処理することが理想的であると考えられていたからである。
【0014】
例えば前述した特許文献1には、Al合金薄膜中の固溶元素の一部または全部を100〜600℃の熱処理により金属化合物として析出させ、電気抵抗値10μΩcm以下のAl合金薄膜を得ることは開示されているが、実施例では最高でも500℃の温度で加熱したときの結果が示されているに過ぎず、500℃以上の高温下に曝されたときの耐熱性は評価していない。同様に、特許文献2には500℃までの耐熱性が開示されているが、500℃以上の高温下に曝されたときの耐熱性は評価していない。また、特許文献3〜5は450℃以下に過ぎず、450℃超の高温下に曝されたときの耐熱性は評価していない。勿論、このような高温下に複数回曝されたときの耐熱性については全く考慮していない。
【0015】
一方、特許文献6には、ドライエッチング加工性に優れたAl合金膜が開示されているが、実施例では350℃の温度で加熱したときの結果が示されているに過ぎず、450℃以上の高温下に曝されたときの耐熱性は評価していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−90552号公報
【特許文献2】特開2003−73810号公報
【特許文献3】特開2002−322528号公報
【特許文献4】特開平8−250494号公報
【特許文献5】特開2001−93862号公報
【特許文献6】特開2000−294556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
最近では、高温加熱処理を行なっても耐熱性に優れたAl合金膜の提供が望まれている。これは、TFTの性能を大きく左右する半導体シリコン層のキャリア移動度を出来るだけ高めて、結果的に液晶ディスプレイの省エネと高性能化(高速動画対応など)を進めるというニーズが強まっているからである。そのためには、半導体シリコン層の構成材料である水素化アモルファス・シリコンを結晶化させることが必要である。シリコンは電子の移動度が正孔の移動度より約3倍程度高いが、電子の移動度は連続粒界結晶シリコンでは約300cm2/V・s、多結晶シリコンでは約100cm2/V・s、水素化アモルファス・シリコンでは約1cm2/V・s以下である。水素化アモルファス・シリコンを蒸着した後に熱処理を行えば、水素化アモルファス・シリコンが微結晶化してキャリア移動度が向上する。この熱処理について、加熱温度が高く、加熱時間が長い方が、水素化アモルファス・シリコンの微結晶化は進み、キャリアの移動度は向上する。しかし、熱処理温度を高くすると、熱応力によりAl合金配線薄膜に突起状の形状異常(ヒロック)が発生するなどの問題が生じるため、従来は、Al合金薄膜を用いた場合の熱処理温度の上限を、せいぜい350℃程度にしていた。そのため、これよりも高温で熱処理するときは、Moなどの高融点金属薄膜が一般に用いられているが、配線抵抗が高く表示ディスプレイの大型化に対応できないという問題があった。
【0018】
上述した高温耐熱性のほか、表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜には、様々な特性が要求される。まず、Al合金膜に含まれる合金元素の添加量が多くなると、配線自体の電気抵抗が増加してしまうため、450〜600℃程度の高い熱処理温度を適用した場合でも、電気抵抗を十分に低減できることが求められている。
【0019】
また、表示装置においては、透明画素電極と直接接続させた場合に低い接触抵抗(コンタクト抵抗)を示すことも求められる場合もある。
【0020】
更には、優れた耐食性の兼備も求められている。特に、TFT基板の製造工程では複数のウェットプロセスを通るが、Alよりも貴な金属を添加すると、ガルバニック腐食の問題が表れ、耐食性が劣化してしまう。例えばフォトリソグラフィー工程では、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)を含むアルカリ性の現像液を使用するが、ダイレクト・コンタクト構造の場合、バリアメタル層を省略しているためAl合金膜がむき出しとなり、現像液によるダメージを受けやすくなる。そこで、アルカリ現像液耐性などの耐アルカリ腐食性に優れていることが求められる。
【0021】
また、フォトリソグラフィーの工程で形成したフォトレジスト(感光性樹脂)を剥離する洗浄工程では、アミン類を含む有機剥離液を用いて連続的に水洗が行なわれている。ところがアミンと水が混合するとアルカリ性溶液になるため、短時間でAlを腐食させてしまうという別の問題が生じる。ところでAl合金は、剥離洗浄工程を通るより以前にCVD工程を経ることによって熱履歴を受けている。この熱履歴の過程でAlマトリクス中には合金成分が析出物を形成する。しかるに、この析出物とAlの間には大きな電位差があるので、剥離液であるアミンが水と接触した瞬間に前記ガルバニック腐食によってアルカリ腐食が進行し、電気化学的に卑であるAlがイオン化して溶出し、ピット状の孔食(黒点)が形成されてしまう、といった問題がある。そこで、好ましくは感光性樹脂の剥離に用いる剥離液耐性に優れていることが求められる。
【0022】
また、配線形成の方法には、ウェットエッチング法(薬液によるエッチングによって配線パターニングを行う方法)と、ドライエッチング法(反応性プラズマによるエッチングによって配線パターニングを行う方法)の2種類が一般的に用いられており、これら双方の方法で加工性に優れていることが求められる。
【0023】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、450〜600℃程度の高温下に曝されてもヒロックが発生せず高温耐熱性に優れており、膜自体の電気抵抗(配線抵抗)も低く抑えられており、また、アルカリ現像液耐性などの耐アルカリ腐食性にも優れ、更にウェットエッチング法とドライエッチング法の双方で加工可能な表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜を提供することにある。更に本発明の目的は、感光性樹脂の剥離液(剥離液耐性)にも優れた表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜を提供することにある。また更に本発明の目的は、透明画素電極(透明導電膜)と直接接続させたときに低い接触抵抗を有し、透明導電膜との直接接続(ダイレクト・コンタクト)が可能な表示装置用Al合金膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決し得た本発明の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜は、表示装置に用いられるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、Geを0.01〜2.0原子%と、Ta、Ti、Zr、Hf、W、Cr、Nb、Mo、Ir、Pt、Re、Osよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素とを含み、前記Al合金膜に450〜600℃の加熱処理を行なったとき、下記(1)の要件を満足するところに要旨を有する。
【0025】
(1)Alと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、Geとを含む第1の析出物について、円相当直径50nm以上の析出物が200,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、更に下記(2)の要件を満足するものである。
【0027】
(2)Alと、前記X群から選択される少なくとも二種の元素を含む第2の析出物について、円相当直径50nm以上の析出物が100,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、更に、希土類元素の少なくとも一種とを含み、前記Al合金膜に450〜600℃の加熱処理を行なったとき、更に下記(3)の要件を満足するものである。
【0029】
(3)Alと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、前記希土類元素の少なくとも一種とを含む第3の析出物について、円相当直径10nm以上の析出物が1,000,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0030】
本発明の好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、更に下記(4)の要件を満足するものである。
【0031】
(4)Alと、Geと前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、前記希土類元素の少なくとも一種とを含む第4の析出物について、円相当直径10nm以上の析出物が1,000,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、更にNi、Co、Feから選ばれる少なくとも1種の元素とを含み、前記Al合金膜に450〜600℃の加熱処理を行なったとき、更に下記(5)の要件を満足するものである。
【0033】
(5)Alと、Ni、Co、Feから選ばれる少なくとも一種の元素と、Geと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素とを含む第5の析出物について、円相当直径250nm以上の析出物が2,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、前記第1の析出物の円相当直径は、1μm以下である。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、前記第2の析出物の円相当直径は、1μm以下である。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、前記第3の析出物の円相当直径は、1μm以下である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、前記第4の析出物の円相当直径は、1μm以下である。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、前記第5の析出物の円相当直径は、3μm以下である。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、前記X群の元素の含有量は0.1〜5原子%である。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、前記希土類元素の含有量は0.1〜0.45原子%である。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、前記Ni、Co、Feから選ばれる少なくとも1種の元素の含有量は0.1〜0.35原子%である。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、前記加熱処理は、500〜600℃である。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、前記加熱処理は、少なくとも2回実施されるものである。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、透明導電膜と直接接続されるものである。
【0045】
本発明の好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、Mo、Ti、W、およびCrよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む膜を介して透明導電膜と接続されるものである。
【0046】
本発明には、Geを0.01〜2.0原子%と、Ta、Ti、Zr、Hf、W、Cr、Nb、Mo、Ir、Pt、Re、Osよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜5原子%を含み、残部:Alおよび不可避的不純物であるスパッタリングターゲットも包含される。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、上記スパッタリングターゲットは、更に希土類元素の少なくとも一種を0.1〜0.45原子%含むものである。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、上記スパッタリングターゲットは、更にNi、Co、Feから選ばれる少なくとも一種の元素を0.1〜0.35原子%含むものである。
【0049】
本発明には、上記の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜をハロゲンガス、ハロゲン含有化合物を含むガスでエッチングしたAl合金配線も包含される。
【0050】
本発明には、上記の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜をpH3以下の酸性溶液でエッチングしたAl合金配線も包含される。
【0051】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた表示装置も包含される。
【0052】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた液晶ディスプレイも包含される。
【0053】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた有機ELディスプレイも包含される。
【0054】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えたフィールドエミッションディスプレイも包含される。
【0055】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた蛍光真空管も包含される。
【0056】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えたプラズマディスプレイも包含される。
【0057】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた無機ELディスプレイも包含される。
【0058】
本発明には、上記の半導体装置用Al合金膜を備えた半導体装置も包含される。
【0059】
本発明には、上記の半導体装置用Al合金膜を備えた半導体素子も包含される。
【0060】
本発明には、上記の半導体装置用Al合金膜を備えた半導体素子の電極も包含される。
【0061】
本発明には、上記の半導体装置用Al合金膜を備えた半導体素子の配線も包含される。
【発明の効果】
【0062】
本発明に係る第1のAl合金膜(Al−Ge−X群元素)は、所定の合金元素と第1の析出物(好ましくは第1の析出物と第2の析出物)から構成されているため、約450〜600℃程度の高温下に曝されたときの耐熱性に優れており、且つ、高温処理後の膜自体の電気抵抗(配線抵抗)も低く抑えることができ、また耐食性、エッチング加工性、および剥離液耐性も兼備している。
【0063】
好ましい実施形態である本発明に係る第2のAl合金膜(Al−Ge−X群元素−希土類元素)は、所定の合金元素と第1の析出物(好ましくは第1の析出物と第2の析出物)、第3の析出物(好ましくは第3の析出物と第4の析出物)とから構成されているため、より高い耐熱性を示し、且つ耐アルカリ腐食性も一層良好である。より好ましい実施形態である本発明に係る第3のAl合金膜(Al−Ge−X群元素−希土類元素−[Ni、Co、Fe]合金)は、所定の合金元素と第1の析出物(好ましくは第1の析出物と第2の析出物、より好ましくは第1の析出物、第2の析出物と第3の析出物、更に好ましくは第1の析出物、第2の析出物、第3の析出物と第4の析出物)、第5の析出物とから構成されているため、上記特性のみならず、透明導電膜との低い接触抵抗も達成できるため、透明導電膜との直接接続が可能である。
【0064】
本発明によれば、特に、多結晶シリコンや連続粒界結晶シリコンを半導体層に用いる薄膜トランジスタ基板を製造するプロセスにおいて、450〜600℃程度の高温加熱処理、更には上記高温加熱処理が少なくとも2回行なわれる苛酷な高温環境下に曝された場合でも、半導体シリコン層のキャリア移動度が高められるため、TFTの応答速度が向上し、省エネや高速動画などに対応可能な高性能の表示装置を提供できる。また、配線加工においては、ウェットエッチング法、ドライエッチング法の双方が適応可能である。
【0065】
本発明によれば、Al合金膜の耐熱性(特に高温耐熱性)に優れているため、これを例えば半導体素子の電極・電気配線として備えた、例えばIGBTの製造プロセスにおいて、コレクタ層のイオン活性化等のための熱処理を高温で行うことができる。その結果、上記Al合金膜を備えて特性の向上した半導体素子、またこの半導体素子を備えて優れた特性を発揮する上記半導体装置を実現することができる。また、配線加工においては、ウェットエッチング法、ドライエッチング法の双方が適応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、薄膜トランジスタの中核部の断面構造を示す図である。
【図2】図2は、Al合金膜と透明画素電極の接触抵抗の測定に用いたケルビンパターン(TEGパターン)を示す図である。
【図3】図3は、液晶ディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図4】図4は、有機ELディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図5】図5は、フィールドエミッションディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図6】図6は、蛍光真空管の一例を示す概略断面図である。
【図7】図7は、プラズマディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図8】図8は、無機ELディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図9】図9は、一般的なIGBTの構成を示す概略断面図である。
【図10】図10は、ドライエッチング装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明者らは、約450〜600℃の高温下に複数回曝されても、ヒロックが生じず高温耐熱性に優れ、且つ、ドライエッチング特性とウェットエッチング特性(以下、エッチング特性ということがある)に優れ、膜自体の電気抵抗(配線抵抗)も低く抑えられており、また、アルカリ現像液などの耐アルカリ腐食性や剥離液耐性も高い表示装置用Al合金膜(第1のAl合金膜と呼ぶ場合がある。);更に、好ましくはより高い高温耐熱性に優れている表示装置用Al合金膜(第2のAl合金膜と呼ぶ場合がある。);また更に、好ましくは高温下での剥離液耐性にもより優れており、透明導電膜と直接接続しても接触抵抗が低く抑えられるため透明導電膜との直接接続(ダイレクト・コンタクト)が可能な表示装置用Al合金膜(第3のAl合金膜と呼ぶ場合がある。)を提供するため、検討を重ねてきた。
【0068】
その結果、Geを0.01〜2.0原子%と、Ta、Ti、Zr、Hf、W、Cr、Nb、Mo、Ir、Pt、Re、Osよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素とを含むAl合金膜(Al−Ge−X群元素 合金膜)であって、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、下記(1)の要件を満足する第1のAl合金膜は、上記課題(高温処理時の高い耐熱性およびエッチング特性、低い電気抵抗、更には高いアルカリ現像液耐性と剥離液耐性)を解決できることが分かった。
【0069】
(1)Alと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、Geとを含む第1の析出物について、円相当直径50nm以上の析出物が200,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0070】
更に、前記Al合金膜は、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、上記(1)の要件を満足し、且つ、下記(2)の要件を満足する第1のAl合金膜は、より高い耐熱性を示すことがわかった。
【0071】
(2)Alと、前記X群から選択される少なくとも二種の元素を含む第2の析出物について、円相当直径50nm以上の析出物が100,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0072】
更に、希土類元素の少なくとも一種とを含むAl合金膜(Al−Ge−X群元素−REM合金膜)であって、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、上記(1)、好ましくは更に上記(2)の要件を満足し、且つ、下記(3)の要件を満足する第2のAl合金膜は、第1のAl合金膜より優れた耐熱性を示すことが分かった。
【0073】
(3)Alと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、前記希土類元素の少なくとも一種とを含む第3の析出物について、円相当直径10nm以上の析出物が1,000,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0074】
更に、前記第2のAl合金膜は、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、上記(1)、好ましくは更に上記(2)および/または上記(3)の要件を満足し、且つ、下記(4)の要件を満足する第2のAl合金膜は、より一層優れた耐熱性を示すことが分かった。
【0075】
(4)Alと、Geと前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、前記希土類元素の少なくとも一種とを含む第4の析出物について、円相当直径10nm以上の析出物が1,000,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0076】
更に、Ni、Co、Feから選ばれる少なくとも1種の元素とを含むAl合金膜(Al−Ge−X群元素−REM−[Ni、Co、Fe]合金膜)であって、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、上記(1)、好ましくは更に上記(2)、(3)、(4)のいずれか1以上の要件を満足し、且つ、下記(5)の要件を満足する第3のAl合金膜は、ITOなど透明導電膜と直接接触しても低いコンタクト抵抗を示し、高温下での剥離液耐性にもより優れていることが分かった。
【0077】
(5)Alと、Ni、Co、Feから選ばれる少なくとも一種の元素と、Geと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素とを含む第5の析出物について、円相当直径250nm以上の析出物が2,000個/mm2以上の密度で存在する。
【0078】
上記第1のAl合金膜は、Al合金中に、Geと高融点金属のX群元素(高温耐熱性向上元素)を含み、単一のX群元素の場合は所定の第1の析出物(Al−Ge−X)を有し、複数のX群元素の場合は所定の第1の析出物(Al−Ge−X1、Al−Ge−X2など:X1とX2は異なるX群元素を意味する)や第2の析出物(Al−X1−X2、Al−X1−X3、Al−X2−X3など:X群元素が3種類の場合)を有しているため、高温下の耐熱性(高温耐熱性)およびエッチング特性に優れ、且つ、耐アルカリ腐食性や剥離液耐性も高く、膜自体の電気抵抗(配線抵抗)に優れているため、表示装置用の走査線や信号線などの配線;ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などの電極の材料として好適に用いられる。特に、高温熱履歴の影響を受け易い薄膜トランジスタ基板のゲート電極および関連の配線膜材料として好適に用いられる。また、パワー半導体の電極;IGBTのエミッタ電極など電極の材料として好適に用いられる。
【0079】
また上記第2のAl合金膜は、Al合金中に、上記のGeと高融点金属のX群元素(高温耐熱性向上元素)に加え、更に希土類元素を含むことで、単一のX群元素の場合は所定の第1の析出物(Al−Ge−X)、第3の析出物(Al−X−REM:REMは希土類元素)、および/または第4の析出物(Al−Ge−X−REM)を有し、複数のX群元素の場合は更に第2の析出物(Al−X1−X2など)を有しているため(第1、3、4の析出物についてもX群元素の数に応じて複数の組み合わせがあり得る。以下同じ)、上記第1のAl合金膜の有する効果のうち、特に高温下の耐熱性(高温耐熱性)が一段と高くなり、走査線や信号線などの配線;ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などの電極の材料として好適に用いられる。特に、高温熱履歴の影響を受け易い薄膜トランジスタ基板のゲート電極および関連の配線膜材料として好適に用いられる。また、パワー半導体の電極;IGBTのエミッタ電極など電極の材料として好適に用いられる。
【0080】
上記第3のAl合金膜は、Al合金中に、上記のX群元素、Geと好ましくは希土類元素に加え、更に透明導電膜との接触抵抗低減化元素であるNi、Co、およびFeよりなる群から選択される少なくとも一種を含み、上記第1や第2のAl合金膜に含まれる析出物に加えて、所定の第5の析出物(Al−X−Ge−[Ni、Co、Fe])を有しているため、上記第1、第2のAl合金膜の有する効果に加えて、バリアメタル層を介在させずに透明導電膜との直接接続が可能となり、ダイレクト・コンタクト用の電極・配線の材料として好適に用いられる。
【0081】
本明細書において、高温耐熱性とは、少なくとも450〜600℃程度の高温下に曝されたときにヒロックが生じないことを意味し、好ましくは、上記の高温下に少なくとも2回以上繰り返し曝されたときにもヒロックが生じないことを意味する。
【0082】
本発明では、高温耐熱性のほか、表示装置や半導体装置の製造過程で必要となるエッチング特性、製造過程で使用される薬液(アルカリ現像液、剥離液)に対する高い耐性(耐食性)、透明導電膜との低い接触抵抗、Al合金膜自体の低い電気抵抗といった特性が得られるが、450℃未満の低温域のみならず、上記の高温域でも有効に発揮されるところに特徴がある。なお、TFT製造過程においてアルカリ環境下に曝されるのは、熱履歴を受ける前の段階であるため、後記する実施例では、加熱前のAl合金膜についてアルカリ現像液耐性を調べたが、本発明によれば、高温加熱処理後のAl合金膜においても、良好なアルカリ現像液耐性が得られることを実験により確認している。なお、アルカリ現像液に対する耐性(アルカリ現像液耐性)は、広義には耐アルカリ腐食性と呼ぶ場合がある。
【0083】
以下、本発明に用いられるAl合金膜について詳しく説明する。
【0084】
(第1のAl合金膜)
上記第1のAl合金膜は、Geに加え、Ta、Ti、Zr、Hf、W、Cr、Nb、Mo、Ir、Pt、ReおよびOsよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素とを含有するAl−Ge−X群元素合金膜である。
【0085】
ここで、上記X群の元素(X群元素)は、融点が概ね1600℃以上の高融点金属から構成されており、単独で高温下の耐熱性向上に寄与する元素である。これらの元素は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。上記X群元素のうち好ましいのは、Ta、Ti、Zr、Hfであり、より好ましくはTa、Zr、Hfである。
【0086】
上記X群元素の含有量(単独で含有する場合は単独の量であり、2種以上を併用するときは合計量である。)は、0.1〜5原子%であることが好ましい。X群元素の含有量が0.1原子%未満では、上記作用が有効に発揮されない。一方、X群元素の含有量が5原子%を超えると、Al合金膜の電気抵抗が高くなり過ぎるほか、配線加工時に残渣が発生し易くなるなどの問題が生じる。X群元素のより好ましい含有量は、0.3原子%以上3.0原子%以下であり、更に好ましくは、2.0原子%以下である。
【0087】
また、Geは、高温耐熱性向上に寄与し、高温プロセス下でのヒロックの発生を防止する作用を有している。第1のAl合金膜は、少なくとも上記X群元素とGeとを含有していれば良く、これら添加元素による作用を阻害しない限り、他の元素を含有していても良い。
【0088】
このような作用を有効に発揮させるためには、Geの含有量を0.01〜2.0原子%とすることが好ましい。Geの含有量が0.01原子%未満の場合、所望の効果が得られず、更なる耐熱性向上に寄与する第1の析出物の密度を確保できない。一方、Geの含有量が2.0原子%を超えると、電気抵抗率が上昇するようになる。上記元素のより好ましい含有量は、0.1原子%以上1.0原子%以下であり、更に好ましくは、0.2原子%以上0.6原子%以下である。
【0089】
更に上記第1のAl合金膜は、450〜600℃の高温加熱処理により、上記(1)に規定する所定サイズと所定密度の第1の析出物を必須的に含み、好ましくは更に(2)に規定する所定サイズと所定密度の第2の析出物を含むものであり、これにより、高温下での高い耐熱性と剥離液耐性を実現できる。第1の析出物は、少なくともGeおよびX群から選択される少なくとも一種の元素を含有していれば良く、当該析出物による作用を阻害しない限り、他の元素を含有していても良い。また第2の析出物は、X群元素から選択される少なくとも二種の元素を含有していれば良く、当該析出物による作用を阻害しない限り、他の元素を含有していても良い。
【0090】
上記第1のAl合金膜は、上記元素を含有し、残部:Alおよび不可避的不純物である。
【0091】
ここで上記不可避的不純物としては、例えばSi、Bなどが例示される。不可避的不純物の合計量は特に限定されないが、概ね0.5原子%以下程度含有してもよく、各不可避的不純物元素は、Bは0.012原子%以下、Siは0.12原子%以下含有していてもよい。
【0092】
上記第1、第2の析出物の円相当直径(サイズ)は、50nm以上である。本発明者らの検討結果によれば、50nm未満の析出物は、たとえ析出物の組成がAl−Ge−X群元素含有析出物(第1の析出物)、或いはAl−X1−X2含有析出物(第2の析出物)であっても、所望の効果が発揮されないことがわかった。なお、高温耐熱性向上作用を有効に発揮させるためには、上記円相当直径の下限が50nmであれば良く、その上限は、上記作用との関係では特に限定されないが、析出物のサイズが大きくなって巨大析出物になると、光学顕微鏡による検査で視認される可能性があり、外観不良を招くため、その上限は1μmであることが好ましい。第1の析出物、および第2の析出物の好ましい円相当直径は、50nm以上800nm以下である。
【0093】
更に本発明では、第1の析出物が上記円相当直径50nm以上の析出物が200,000個/mm2以上の密度で存在することが必要である。本発明者らの検討結果によれば、第1の析出物のサイズが50nm以上であっても、200,000個/mm2未満の場合は、所望の効果が発揮されないことがわかった。高温耐熱性向上作用を有効に発揮させるためには、上記析出物の密度は高い程よく、2,000,000個/mm2以上であることが好ましい。
【0094】
また、本発明では、第2の析出物が上記円相当直径50nm以上の析出物が100,000個/mm2以上の密度で存在することが必要である。本発明者らの検討結果によれば、第2の析出物のサイズが50nm以上であっても、100,000個/mm2未満の場合は、所望の効果が発揮されないことがわかった。高温耐熱性向上作用を有効に発揮させるためには、上記析出物の密度は高い程よく、1,000,000個/mm2以上であることが好ましい。
【0095】
(第2のAl合金膜)
上記第2のAl合金膜は、上述したGeおよびX群元素に加えて、希土類元素(REM)を含有するAl−Ge−X群元素−REM合金膜である。
【0096】
上記希土類元素(REM)は、上記GeおよびX群元素と複合添加することによって高温耐熱性向上に寄与する元素である。更に、単独でアルカリ環境下での耐食性向上作用という上記GeおよびX群元素にはない作用も有している。
【0097】
ここで、希土類元素とは、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えた元素群を意味する。本発明では、上記希土類元素を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。希土類元素のうち好ましいのは、Nd、La、Gd、Ceであり、より好ましいのは、Nd、Laである。
【0098】
希土類元素による上記作用を有効に発揮させるためには、希土類元素の含有量(単独で含有する場合は単独の量であり、2種以上を併用するときは合計量である。)は0.1〜0.45原子%であることが好ましい。希土類元素の含有量が0.1原子%未満であると、耐熱性、耐アルカリ腐食性向上効果が有効に発揮されず、一方、0.45原子%を超えると、ドライエッチング速度が遅くなるとともに、残渣などの問題がある。希土類元素のより好ましい含有量は、0.15原子%以上0.4原子%以下であり、更に好ましい含有量は、0.15原子%以上0.3原子%以下である。
【0099】
上記第2のAl合金膜は、上記元素を含有し、残部:Alおよび不可避的不純物である。
【0100】
ここで上記不可避的不純物としては、例えばSi、Bなどが例示される。不可避的不純物の合計量は特に限定されないが、概ね0.5原子%以下程度含有してもよく、各不可避的不純物元素は、Bは0.012原子%以下、Siは0.12原子%以下含有していてもよい。
【0101】
更に上記第2のAl合金膜は、450〜600℃の高温加熱処理により、上記(1)〜(4)に規定する所定サイズと所定密度の第1の析出物、好ましくは更に上記第2の析出物、且つ第3の析出物および/または第4の析出物を含むものであり、これにより、高温耐熱性が向上し、高温プロセス下でもヒロックの発生を防止できる。第3の析出物は、少なくともX群元素、REMを含有していれば良く、また第4の析出物は、少なくともX群元素、Ge、REMを含有していれば良く、当該析出物による作用を阻害しない限り、他の元素を含有していても良い。
【0102】
上記第3、第4の析出物の円相当直径(サイズ)は、10nm以上である。本発明者らの検討結果によれば、10nm未満の析出物は、たとえ析出物の組成がAl−X群元素−REM含有析出物(第3の析出物)、Al−Ge−X群元素−REM含有析出物(第4の析出物)であっても、所望の効果が発揮されないことがわかった。なお、高温耐熱性向上作用を有効に発揮させるためには、上記円相当直径の下限が10nmであれば良く、その上限は、上記作用との関係では特に限定されないが、析出物のサイズが大きくなって巨大析出物になると、光学顕微鏡による検査で視認される可能性があり、外観不良を招くため、その上限は1μmであることが好ましい。第3、第4の析出物の好ましい円相当直径は、10nm以上800nm以下である。
【0103】
更に本発明では、上記円相当直径10nm以上の析出物が1,000,000個/mm2以上の密度で存在することが必要である。本発明者らの検討結果によれば、第1の析出物のサイズが10nm以上であっても、1,000,000個/mm2未満の場合は、所望の効果が発揮されないことがわかった。高温耐熱性向上作用を有効に発揮させるためには、上記析出物の密度は高い程よく、3,000,000個/mm2以上であることが好ましい。
【0104】
(第3のAl合金膜)
上記第3のAl合金膜は、上述したGe、X群元素および希土類元素(REM)の他、更にNi、Co、およびFeよりなる群から選択される少なくとも一種を含有するAl−Ge−X群元素−REM−[Ni、Co、Fe]合金膜である。
【0105】
ここで、Ni、CoおよびFeは、透明導電膜との直接接続(ダイレクト・コンタクト)を可能にする元素である。これは、TFTの製造過程における熱履歴により形成される導電性の高い[Ni、Co、Fe]含有Al系析出物を介して、透明導電膜との電気的な導通が可能となるためである。これらは単独で添加しても良いし、両方を添加しても良い。
【0106】
このような作用を有効に発揮させるためには、[Ni、Co、Fe]の含有量(単独の場合は単独の含有量であり、両方を含有する場合は合計量である)を0.1〜0.35原子%とすることが好ましい。[Ni、Co、Fe]の含有量が0.1原子%未満の場合、所望の効果が得られず、透明導電膜との接触抵抗低減に寄与する第5の析出物の密度を確保できない。すなわち、第5の析出物のサイズが小さく、密度も減少するため、透明導電膜との低い接触抵抗を安定して維持することが困難になる。一方、[Ni、Co、Fe]の含有量が0.35原子%を超えると、エッチング速度が遅くなるとともに、残渣などの問題がある。[Ni、Co、Fe]のより好ましい含有量は、0.1原子%以上0.25原子%以下であり、更に好ましくは、0.1原子%以上0.2原子%以下である。
【0107】
また、第5の析出物は、Geと、X群から選ばれる少なくとも1種の元素と[Ni、Co、Feよりなる群から選択される少なくとも1種]とを含有していれば良く、当該析出物による作用を阻害しない限り、他の元素を含有していても良い。
【0108】
上記第3のAl合金膜は、上記元素を含有し、残部:Alおよび不可避的不純物である。
【0109】
ここで上記不可避的不純物としては、例えばSi、Bなどが例示される。不可避的不純物の合計量は特に限定されないが、概ね0.5原子%以下程度含有してもよく、各不可避的不純物元素は、Bは0.012原子%以下、Siは0.12原子%以下含有していてもよい。
【0110】
更に上記第3のAl合金膜は、450〜600℃の高温加熱処理により、上記(5)に規定する所定サイズと所定密度の第5の析出物(Al−Ge−X群元素−[Ni、Co、Fe])を含むものであり、これにより、高温下での高い剥離液耐性および透明導電膜との低い接触抵抗を実現できる。第5の析出物は、少なくともGeとX群元素と、[Ni、Co、Feよりなる群から選択される少なくとも一種]とを含有していれば良く、当該析出物による作用を阻害しない限り、他の元素を含有していても良い。
【0111】
上記第5の析出物の円相当直径(サイズ)は、250nm以上である。本発明者らの検討結果によれば、250nm未満の析出物は、たとえ析出物の組成が上記組成を満足するものであっても、所望の効果が発揮されないことがわかった。なお、上記作用を有効に発揮させるためには、上記円相当直径の下限が250nmであれば良く、その上限は、上記作用との関係では特に限定されないが、析出物のサイズが大きくなって巨大析出物になると、光学顕微鏡による検査で視認される可能性があり、外観不良を招くため、その上限は3μmであることが好ましい。第5の析出物のより好ましい円相当直径は、250nm以上2μm以下である。
【0112】
更に本発明では、上記円相当直径250nm以上の析出物が2,000個/mm2以上の密度で存在することが必要である。本発明者らの検討結果によれば、第5の析出物のサイズが250nm以上であっても、2,000個/mm2未満の場合は、所望の効果が発揮されないことがわかった。剥離液耐性向上および透明導電膜との接触抵抗低減化の両作用を有効に発揮させるためには、上記析出物の密度は高い程よく、5,000個/mm2以上であることが好ましい。
【0113】
尚、上記第1〜第5の析出物おける上記所定の元素を「含有」または「含む」析出物とは、好ましくは上記所定の元素を含有し、残部Alおよび不可避的不純物である。不可避的不純物とは各析出物の所定の元素以外の意味である。
【0114】
以上、本発明のAl合金膜について説明した。
【0115】
本発明において、上記の第1〜第5の析出物が形成されるための熱処理は、450〜600℃であり、好ましくは500〜600℃である。この熱処理は、真空または窒素および/または不活性ガス雰囲気中で行われることが好ましく、処理時間は、1分以上60分以下であることが好ましい。本発明によれば、上記の熱処理(高温熱処理)を2回以上行なっても、ヒロックなどが生じないことがわかった。
【0116】
このような高温加熱処理に対応するTFT製造プロセスとしては、例えば、アモルファス・シリコンの結晶化のためのレーザーなどによるアニール、各種薄膜形成のためのCVD(化学気相蒸着)による成膜、不純物拡散や保護膜を熱硬化させる際の熱処理炉の温度などが挙げられる。特にアモルファス・シリコンの結晶化のための熱処理や不純物拡散で、上記のような高温下に曝されることが多い。
【0117】
上記Al合金の膜厚は、特に高温耐熱性、エッチング特性と配線抵抗の低減化を確保するため、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。なお、その上限は、上記観点からは特に限定されないが、配線テーパ形状などを考慮すると、2μm以下であることが好ましく、より好ましくは600nm以下である。
【0118】
上記Al合金膜は、表示装置においてはソース−ドレイン電極やゲート電極などの各種配線材料に好ましく用いられるが、特に、高温耐熱性が要求されるゲート電極の配線材料として、より好ましく用いられる。
【0119】
上記Al合金膜は、半導体装置においてはエミッタ電極やコレクタ電極などの各種電極材料に好ましく用いられるが、特に、高温耐熱性が要求されるエミッタ電極の配線材料として、より好ましく用いられる。
【0120】
上記Al合金膜は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある)を用いて形成することが望ましい。イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法、真空蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。
【0121】
また、上記スパッタリング法で上記Al合金膜を形成するには、上記ターゲットとして、前述した元素を含むものであって、所望のAl合金膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレの恐れがなく、所望の成分組成のAl合金膜を形成することができるのでよい。
【0122】
従って、本発明には、前述した第1、第2または第3のAl合金膜と同じ組成のスパッタリングターゲットも本発明の範囲内に包含される。詳細には、上記ターゲットとして、(i)Geを0.01〜2.0原子%と、Ta、Ti、Zr、Hf、W、Cr、Nb、Mo、Ir、Pt、Re、およびOsよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜5原子%を含み、残部:Alおよび不可避的不純物であるターゲット(第1のAl合金膜用ターゲット)、(i)に更に (ii)希土類元素の少なくとも一種を0.1〜0.45原子%含むターゲット(第2のAl合金膜用ターゲット)、(i)または(ii)に更に(iii)Ni、Co、およびFeよりなる群から選択される少なくとも一種を0.1〜0.35原子%含むターゲット(第3のAl合金膜用ターゲット)が挙げられる。
【0123】
上記ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。
【0124】
上記ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレイフォーミング法で、Al基合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Al基合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0125】
本発明は、上記Al合金膜が、薄膜トランジスタに用いられていることを特徴とする表示装置も含むものである。その態様として、前記Al合金膜が、薄膜トランジスタのソース電極および/またはドレイン電極並びに信号線に用いられ、ドレイン電極が透明導電膜に直接接続されているものや、ゲート電極および走査線に用いられているものなどが挙げられる。第1、第2のAl合金膜を用いる場合は、Mo、Ti、W、およびCrよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む高融点金属膜または高融点合金膜(バリアメタル)を介して透明導電膜と接続される。一方、第3のAl合金膜を用いる場合は、上記のバリアメタルを介しても良いし、介さずに透明導電膜と直接接続することも可能である。
【0126】
また前記ゲート電極および走査線と、前記ソース電極および/またはドレイン電極ならびに信号線が、同一組成のAl合金膜であるものが態様として含まれる。
【0127】
本発明に用いられる透明画素電極は特に限定されず、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)などが挙げられる。
【0128】
また、本発明に用いられる半導体層も特に限定されず、アモルファス・シリコン、多結晶シリコン、連続粒界結晶シリコン、酸化物半導体材料などが挙げられる。
【0129】
本発明のAl合金膜を備えた表示装置を製造するにあたっては、表示装置の一般的な工程を採用することができ、例えば、前述した特許文献1〜5に記載の製造方法を参照すれば良い。
【0130】
以上、液晶表示装置として液晶ディスプレイを代表的に取り上げ、説明したが、上記説明した本発明の表示装置用Al合金膜は主に電極および配線材料として各種液晶表示装置に用いることができ、例えば図3に例示される液晶ディスプレイ(LDC)における薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極並びに配線材料、例えば図4に例示される有機EL(OLED)における薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極並びに配線材料、例えば図5に例示されるフィールドエミッションディスプレイ(FED)におけるカソードおよびゲート電極並びに配線材料、例えば図6に例示される蛍光真空管(VFD)におけるアノード電極および配線材料、例えば図7に例示されるプラズマディスプレイ(PDP)におけるアドレス電極および配線材料、例えば図8に例示される無機ELにおける背面電極などが挙げられる。また、上記説明した本発明の半導体装置用Al合金膜は、主に電極および配線材料として各種半導体装置に用いることができ、例えば図9に例示されるIGBTにおけるエミッタおよびコレクタ電極並びに配線材料などが挙げられる。これら液晶表示装置や半導体装置に本発明の表示装置および半導体装置用Al合金膜を用いた場合に、上記所定の効果が得られることは実験により確認済である。
【実施例】
【0131】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0132】
(実施例1)
表1に示す種々の合金組成のAl合金膜(膜厚=300nm)を、DCマグネトロン・スパッタ法(基板=ガラス基板(コーニング社製 Eagle2000)、雰囲気ガス=アルゴン、圧力=2mTorr、基板温度=25℃(室温))によって成膜した。
【0133】
尚、上記種々の合金組成のAl合金膜の形成には、真空溶解法で作製した種々の組成のAl合金ターゲットをスパッタリングターゲットとして用いた。
【0134】
また実施例で用いた種々のAl合金膜における各合金元素の含有量は、ICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)法によって求めた。
【0135】
上記のようにして成膜したAl合金膜に対し、450〜600℃の高温加熱処理を2回行い、高温加熱処理後のAl合金膜について、耐熱性、当該Al合金膜自体の電気抵抗(配抵抵抗)、ドライエッチング特性、アルカリ現像液耐性、剥離液耐性、およびITOとの接触抵抗の各特性、並びに析出物のサイズおよび密度を、それぞれ下記に示す方法で測定した。参考のため、耐熱性については、350℃の実験も行なった。なお、アルカリ現像液耐性については、成膜後のAl合金膜を用いて実験を行い、加熱処理は行わなかった。TFT製造過程においてアルカリ環境下に曝されるのはAl合金配線を形成するフォトリソグラフィ工程であり、熱履歴を受ける前の段階だからである。
【0136】
(1)加熱処理後の耐熱性
成膜後のAl合金膜に対し、不活性雰囲気ガス(N2)雰囲気下にて、表1に示す各温度にて10分間の加熱処理を2回行ない、その表面性状を光学顕微鏡(倍率:500倍)を用いて観察し、ヒロックの密度(個/m2)を測定した。表2に記載の判断基準により耐熱性を評価し、本実施例では◎または○を合格とした。
【0137】
(2)ドライエッチング特性
具体的には、直径4インチ、厚さ0.7mmのシリコン基板上に、厚さ200nmの酸化シリコン(SiOx)膜を成膜した後、Al合金膜を前述した条件で500nmの厚さに成膜した。次いで、g線のフォトリソグラフィーによってポジ型フォトレジスト(ノボラック系樹脂;東京応化工業(株)製のTSMR8900、厚さは1.0μm)を線幅10μmのストライプ状に形成した。次に、前述した図10に示すドライエッチング装置を用い、下記のエッチング条件でドライエッチングを行なった。
【0138】
(エッチング条件)
Ar/Cl:300sccm/180sccm
アンテナに印加した電力(ソースRF):500W
基板バイアス:60W
プロセス圧力(ガス圧):14mTorr
基板温度:サセプタの温度(20℃)
【0139】
エッチングは、エッチング深さが100〜300nmとなる範囲において、エッチング時間を変えて行い、エッチング深さの異なるサンプルを作製した。次いで、酸素プラズマによるアッシング工程を経た後、アミン系の剥離液などを用いてフォトレジストを剥離した後、触針式膜厚計(Vecco社製の「Dektak II」)を用いて、純AlまたはAl合金膜のエッチング厚さを測定した。表2に記載の判断基準によりドライエッチング特性を評価し、本実施例では◎または○を合格とした。
【0140】
(3)加熱処理後のAl合金膜自体の配線抵抗
成膜後のAl合金膜に10μm幅のラインアンドスペースパターンを形成したものに、不活性雰囲気ガス(N2)雰囲気下にて、450℃、550℃または600℃の各温度にて10分間の加熱処理を2回行ない、4端子法で電気抵抗率を測定した。表2に記載の判断基準により各温度の配線抵抗を評価し、本実施例では◎または○を合格とした。
【0141】
(4)透明画素電極とのダイレクト接触抵抗
成膜後のAl合金膜に対し、不活性雰囲気ガス(N2)雰囲気下にて、600℃で10分間の加熱処理を2回行なったものを用意した。このAl合金膜と透明画素電極を直接接触したときの接触抵抗は、透明画素電極(ITO;酸化インジウムに10質量%の酸化スズを加えた酸化インジウムスズ)を、下記条件でスパッタリングすることによって図2に示すケルビンパターン(コンタクトホールサイズ:10μm角)を作製し、4端子測定(ITO−Al合金膜に電流を流し、別の端子でITO−Al合金間の電圧降下を測定する方法)を行なった。具体的には、図2のI1−I2間に電流Iを流し、V1−V2間の電圧Vをモニターすることにより、コンタクト部Cのダイレクト接触抵抗Rを[R=(V2−V1)/I2]として求めた。表2に記載の判断基準によりITOとのダイレクト接触抵抗(ITOとのコンタクト抵抗)を評価し、本実施例では◎または○を合格とした。
【0142】
(透明画素電極の成膜条件)
雰囲気ガス=アルゴン
圧力=0.8mTorr
基板温度=25℃(室温)
【0143】
(5)剥離液耐性
フォトレジスト剥離液の洗浄工程を模擬し、アミン系フォトレジストと水を混合したアルカリ性水溶液による腐食実験を行った。詳細には、成膜後のAl合金膜に対し、不活性ガス雰囲気(N2)中、600℃で20分間の加熱処理を2回行った後、東京応化工業(株)製のアミン系レジスト剥離液「TOK106」水溶液をpH10.5および9.5の各pHに調整したもの(液温25℃)に浸漬させた。具体的には、まず、pH10.5の溶液に1分間浸漬後、連続してpH9.5の溶液に5分間浸漬させた。そして、浸漬後の膜表面にみられるクレータ状の腐食(孔食)痕(円相当直径が150nm以上のもの)の個数を調べた(観察倍率は1000倍)。表2に記載の判断基準により剥離液耐性を評価し、本実施例では◎または○を合格とした。
【0144】
(6)アルカリ現像液耐性(現像液エッチングレートの測定)
基板上に成膜したAl合金膜にマスクを施した後、現像液(TMAH2.38質量%を含む水溶液)中に25℃で1分間および2分間浸漬し、そのエッチング量を触診式段差計を用いて測定し、1分間および2分間浸漬した際のエッチング量の差からエッチングレートを算出した。表2に記載の判断基準によりアルカリ現像液耐性を評価し、本実施例では◎または○を合格とした。
【0145】
(7)析出物の測定
成膜後のAl合金膜に対し、不活性ガス雰囲気(N2)中、550℃または600℃で10分間の加熱処理を2回行い、析出した析出物を、平面TEM(透過電子顕微鏡、倍率30万倍)で観察した。析出物のサイズ(円相当直径)および密度(個/mm2)は、走査電子顕微鏡の反射電子像を用いて求めた。具体的には、1視野(mm2)内に観察される析出物の円相当直径および個数を測定し、3視野の平均値を求めた。析出物に含まれる元素はTEM−EDX分析により判断した。そして表2に記載の判断基準により各析出物のサイズおよび密度を分類した。析出物について、サイズが◎、○、または△であり、且つ、密度が◎または○を満足するものが、本発明の要件を満足するものである。
【0146】
これらの結果を表1に記載する。
【0147】
【表1A】

【0148】
【表1B】

【0149】
【表1C】

【0150】
【表1D】

【0151】
【表1E】

【0152】
【表1F】

【0153】
【表2】

【0154】
まず、表1について考察する。これらの表において、析出物サイズ(550℃/600℃)および析出物密度(550℃/600℃)が「◎×◎◎◎」とは、左側から順に第1〜第5の析出物の評価が記載されており、この例では、第1、第3〜第5の析出物のいずれも、サイズおよび密度が共に「◎」、第2の析出物のサイズおよび密度が共に「×」を意味する。
【0155】
表1AのNo.1−1〜1−32に記載の各Al合金膜は、本発明に係る第3のAl合金膜に対応しており、本発明で規定する合金組成を満足し、且つ、第1〜第5の析出物の要件(サイズおよび密度)も満足しているため、低温(350℃)の耐熱性に優れているだけでなく450〜600℃の高温耐熱性にも優れている。また、ドライエッチング特性も良好である。更に、高温加熱処理後の電気抵抗について、高融点金属よりも低い電気抵抗を有しており、高温加熱処理前のアルカリ現像液および高温加熱処理後の剥離液に対する耐性も良好であり、ITO(透明画素電極)とのダイレクト接触抵抗も大幅に低減することができた。
【0156】
次に、表1BのNo.2−1〜2−24に記載の各Al合金膜は、本発明に係る第3のAl合金膜に対応しており、本発明で規定する合金組成を満足し、且つ、第1、第3〜第5の析出物の要件(サイズおよび密度)も満足しているため、低温(350℃)の耐熱性に優れているだけでなく450〜600℃の高温耐熱性にも優れている。また、ドライエッチング特性も良好である。更に、高温加熱処理後の電気抵抗について、高融点金属よりも低い電気抵抗を有しており、高温加熱処理前のアルカリ現像液および高温加熱処理後の剥離液に対する耐性も良好であり、ITO(透明画素電極)とのダイレクト接触抵抗も大幅に低減することができた。
【0157】
次に、表1CのNo.3−1〜3−30に記載の各Al合金膜は、本発明に係る第2のAl合金膜に対応しており、本発明で規定する合金組成を満足し、且つ、第1〜第4の析出物の要件(サイズおよび密度)も満足しているため、低温(350℃)の耐熱性に優れているだけでなく450〜600℃の高温耐熱性にも優れている。また、ドライエッチング特性も良好である。更に、高温加熱処理後の電気抵抗について、高融点金属よりも低い電気抵抗を有しており、アルカリ現像液および剥離液に対する耐性も良好である。ITO(透明画素電極)とのダイレクト接触抵抗に関しては、Ni、Co、Feのいずれも含んでいないことから高抵抗となり、ITOと直接接触することはできなかった。
【0158】
次に、表1DのNo.4−1〜4−24に記載の各Al合金膜は、本発明に係る第2のAl合金膜に対応しており、本発明で規定する合金組成を満足し、且つ、第1、第3、第4の析出物の要件(サイズおよび密度)も満足しているため、低温(350℃)の耐熱性に優れているだけでなく450〜600℃の高温耐熱性にも優れている。また、ドライエッチング特性も良好である。更に、高温加熱処理後の電気抵抗について、高融点金属よりも低い電気抵抗を有しており、アルカリ現像液および剥離液に対する耐性も良好である。ITO(透明画素電極)とのダイレクト接触抵抗に関しては、Ni、Co、Feのいずれも含んでいないことからITOとの接触抵抗は高くなった。
【0159】
次に、表1EのNo.5−1〜5−3に記載の各Al合金膜は、本発明に係る第1のAl合金膜に対応しており、本発明で規定する合金組成を満足し、且つ、第1の析出物の要件(サイズおよび密度)も満足しているため、低温(350℃)の耐熱性に優れているだけでなく450〜600℃の高温耐熱性にも優れている。また、ドライエッチング特性も良好である。更に、高温加熱処理後の電気抵抗について、高融点金属よりも低い電気抵抗を有しており、アルカリ現像液および剥離液に対する耐性も良好である。ITO(透明画素電極)とのダイレクト接触抵抗に関しては、Ni、Co、Feのいずれも含んでいないことからITOとの接触抵抗は高くなった。
【0160】
次に、表1EのNo.5−4〜5−5に記載の各Al合金膜は、本発明に係る第1のAl合金膜に対応しており、本発明で規定する合金組成を満足し、且つ、第1、第2の析出物の要件(サイズおよび密度)も満足しているため、低温(350℃)の耐熱性に優れているだけでなく450〜600℃の高温耐熱性にも優れている。また、ドライエッチング特性も良好である。更に、高温加熱処理後の電気抵抗について、高融点金属よりも低い電気抵抗を有しており、アルカリ現像液および剥離液に対する耐性も良好である。ITO(透明画素電極)とのダイレクト接触抵抗に関しては、Ni、Co、Feのいずれも含んでいないことからITOとの接触抵抗は高くなった。
【0161】
次に、表1FのNo.6−1〜6−7に記載の各Al合金膜は、本発明で規定する上記第1〜第3のAl合金膜の要件を満たさない例である。No.6−1〜6−3では、合金組成および析出物要件を満足しない例である。配線抵抗は比較的良好な値を示しているが、これは配線の耐熱性が悪く表面が荒れた状態となっているためである。またNo.6−4〜6−7では合金組成を満足せず、ドライエッチング特性が悪かった。
【符号の説明】
【0162】
1 チャンバ
2 誘電窓
3 アンテナ
4 高周波電力(アンテナ側)
5 整合器(アンテナ側)
6 プロセスガス導入口
7 基板(被エッチング材)
8 サセプタ
9 誘電チャック
10 カラー
11 整合器(基板側)
12 高周波電力(基板側)
21a ガラス基板
25 走査線
26 ゲート電極
27 ゲート絶縁膜
28 ソース電極
29 ドレイン電極
30 半導体シリコン層
31 保護膜
32 低抵抗シリコン層
33 絶縁性保護膜
35 透明電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置もしくは半導体装置に用いられるAl合金膜であって、前記Al合金膜は、Geを0.01〜2.0原子%と、Ta、Ti、Zr、Hf、W、Cr、Nb、Mo、Ir、Pt、Re、およびOsよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素とを含み、
前記Al合金膜に450〜600℃の加熱処理を行なったとき、下記(1)の要件を満足することを特徴とする表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
(1)Alと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、Geとを含む第1の析出物について、円相当直径50nm以上の析出物が200,000個/mm2以上の密度で存在する。
【請求項2】
前記Al合金膜は、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、更に下記(2)の要件を満足するものである請求項1に記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
(2)Alと、前記X群から選択される少なくとも二種の元素を含む第2の析出物について、円相当直径50nm以上の析出物が100,000個/mm2以上の密度で存在する。
【請求項3】
前記Al合金膜は、更に、希土類元素の少なくとも一種とを含み、前記Al合金膜に450〜600℃の加熱処理を行なったとき、更に下記(3)の要件を満足するものである請求項1または2に記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
(3)Alと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、前記希土類元素の少なくとも一種とを含む第3の析出物について、円相当直径10nm以上の析出物が1,000,000個/mm2以上の密度で存在する。
【請求項4】
前記Al合金膜は、450〜600℃の加熱処理を行なったとき、更に下記(4)の要件を満足するものである請求項3記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
(4)Alと、Geと前記X群から選択される少なくとも一種の元素と、前記希土類元素の少なくとも一種とを含む第4の析出物について、円相当直径10nm以上の析出物が1,000,000個/mm2以上の密度で存在する。
【請求項5】
前記Al合金膜は、更にNi、Co、Feから選ばれる少なくとも1種の元素とを含み、前記Al合金膜に450〜600℃の加熱処理を行なったとき、更に下記(5)の要件を満足するものである請求項1〜4のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
(5)Alと、Ni、Co、Feから選ばれる少なくとも一種の元素と、Geと、前記X群から選択される少なくとも一種の元素とを含む第5の析出物について、円相当直径250nm以上の析出物が2,000個/mm2以上の密度で存在する。
【請求項6】
前記第1の析出物の円相当直径は、1μm以下である請求項1に記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項7】
前記第2の析出物の円相当直径は、1μm以下である請求項2に記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項8】
前記第3の析出物の円相当直径は、1μm以下である請求項3に記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項9】
前記第4の析出物の円相当直径は、1μm以下である請求項4に記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項10】
前記第5の析出物の円相当直径は、3μm以下である請求項5に記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項11】
前記X群の元素の含有量は0.1〜5原子%である請求項1〜10のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項12】
前記希土類元素の含有量は0.1〜0.45原子%である請求項3〜11のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項13】
前記Ni、Co、Feから選ばれる少なくとも1種の元素の含有量は0.1〜0.35原子%である請求項5〜12のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項14】
前記加熱処理は、500〜600℃である請求項1〜13のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項15】
前記加熱処理は、少なくとも2回実施されるものである請求項1〜14のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項16】
前記Al合金膜は、透明導電膜と直接接続されるものである請求項5に記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項17】
前記Al合金膜は、Mo、Ti、W、およびCrよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む膜を介して透明導電膜と接続されるものである請求項1〜15のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜。
【請求項18】
Geを0.01〜2.0原子%と、Ta、Ti、Zr、Hf、W、Cr、Nb、Mo、Ir、Pt、Re、Osよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜5原子%を含み、残部:Alおよび不可避的不純物であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項19】
更に希土類元素の少なくとも一種を0.1〜0.45原子%含むものである請求項18に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項20】
更にNi、Co、Feから選ばれる少なくとも一種の元素を0.1〜0.35原子%含むものである請求項18または19に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項21】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜を、ハロゲンガス、ハロゲン含有化合物を含むガスでエッチングしたことを特徴とする、Al合金配線。
【請求項22】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置もしくは半導体装置用Al合金膜を、pH 3以下の酸性溶液でエッチングしたことを特徴とする、Al合金配線。
【請求項23】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜を備えた表示装置。
【請求項24】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜を備えた液晶ディスプレイ。
【請求項25】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜を備えた有機ELディスプレイ。
【請求項26】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜を備えたフィールドエミッションディスプレイ。
【請求項27】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜を備えた蛍光真空管。
【請求項28】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜を備えたプラズマディスプレイ。
【請求項29】
請求項1〜17のいずれかに記載の表示装置用Al合金膜を備えた無機ELディスプレイ。
【請求項30】
請求項1〜17のいずれかに記載の半導体装置用Al合金膜を備えた半導体装置。
【請求項31】
請求項1〜17のいずれかに記載の半導体装置用Al合金膜を備えた半導体素子。
【請求項32】
請求項1〜17のいずれかに記載の半導体装置用Al合金膜を備えた半導体素子の電極。
【請求項33】
請求項1〜17のいずれかに記載の半導体装置用Al合金膜を備えた半導体素子の配線。

【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−180540(P2012−180540A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42635(P2011−42635)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】