走行式動力散布機
【課題】圃場内を走行して水稲を損傷させることなく農薬、肥料等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲、且つ効率的に散布することが可能な走行式動力散布機を提供する。
【解決手段】左右一対のクローラ走行装置11L,11Rを支持する機体フレーム12
に搭載してなる動力散布機31の高さ調節を行う高さ調節手段Qを設けると共に、当該動力散布機31の散布管61を水平方向に所定角度θで揺動させる強制揺動手段Sを設けることによって、散布管61の先端から散布物を広範囲、且つ効率的に散布できるようにした。
【解決手段】左右一対のクローラ走行装置11L,11Rを支持する機体フレーム12
に搭載してなる動力散布機31の高さ調節を行う高さ調節手段Qを設けると共に、当該動力散布機31の散布管61を水平方向に所定角度θで揺動させる強制揺動手段Sを設けることによって、散布管61の先端から散布物を広範囲、且つ効率的に散布できるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場内や畦畔等を走行しながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物の散布作業を行う走行式動力散布機に関する。
【背景技術】
【0002】
水田の防除や施肥等に使用される動力散布機としては、背負い式のものが一般的に使用されている。ところが、この背負い式の動力散布機は、貯留タンク、送風機及び原動機等の機体部分だけでも相当重く、それに加えて前記貯留タンクに貯留された散布すべき農薬、肥料、種子等の散布物の重量も付加されて35kg程度になることから、当該動力散布機を背負って足場の悪い畦畔や圃場内を歩行しながら散布作業を行うことは極めて重労働であった。
【0003】
そこで、前後方向に伸びる揺動支軸を備えた機体(基体)フレームに、主車輪である遊転前輪と駆動後輪を前後一直線上に配設すると共に、機体フレームの後部に左右一対の操縦ハンドルを設け、更に前記揺動支軸に揺動フレームを上下揺動自在に支持し、この揺動フレームに散布物が貯留される貯留タンクと、該貯留タンク内の散布物を散布する動力散布機と、その駆動源及び走行系の動力源を兼ねる原動機を搭載し、且つ前記揺動フレームの機体進行方向に対する左右一側(片側)に側車を配設することによって、凹凸のある畦畔等の不整地を走行する際にも、操縦ハンドルの左右方向の揺動を可及的に抑えて姿勢安定性及び走行安定性を向上させ、当該動力散布機による散布物の散布むらの減少を図るように構成した車輪走行装置による走行式動力散布機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、クローラ走行装置に機体フレームを支持すると共に、この機体フレームに、堆肥に化学肥料、農薬、及び種子等を混合してなる圃場用資材を一時貯留する第1ホッパと、該第1ホッパ内の圃場用資材がバケットコンベアを介して定量供給される第2ホッパと、この定量供給された圃場用資材を一定長に成形する成形装置及び誘導樋と、更に一定長に成形された圃場用資材を吸引して散布管から放出する空気搬送装置と、これら装置の駆動源及び走行系の動力源を兼ねる原動機を搭載してなる走行式動力散布機が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平10−244188号公報(第2−3頁、図1−図3)
【特許文献2】特開平10−4720号公報(第3−4頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の車輪走行装置を備える走行式動力散布機で、通常40cm幅に形成されている畦畔を走行する際は、揺動フレームに搭載してなる散布物を貯留する貯留タンクや、この散布物を散布する動力散布機等の重量を利用し、側車を当該畦畔の側面上部に押し付けながら姿勢を安定させて移動しようとするものであるが、このものでは操縦ハンドルの左右方向の揺動を抑えて、軟弱且つ幅が不揃いな畦畔を安定した機体姿勢で走行することは困難であった。更に、この走行式動力散布機を圃場内で走行させながら、60〜70cmの高さに生育した水稲の防除作業を行おうとすると、貯留タンクや管状散布具の基端部を構成する湾曲管等が水稲に接触して、当該水稲が損傷するといった不具合を有していた。また、管状散布具を自動的に揺動させながら広範囲に散布物を散布しようとするものではなかった。
【0006】
一方、特許文献2のクローラ走行装置を備える走行式動力散布機は、圃場内における安定した姿勢での走行が可能になるが、上述した特許文献1の車輪走行装置を備える走行式動力散布機と同様に、圃場内を走行しながら60〜70cmの高さに生育した水稲の防除作業を行おうとすると、機体フレームや該機体フレームに搭載した動力散布機の構成装置等が水稲に接触して、当該水稲が損傷するといった不具合も有しており十分なものではなかった。そして、このものも散布管を自動的に揺動させながら広範囲に散布物を散布しようとするものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、アイドラと駆動スプロケットにクローラを巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置と、両クローラ走行装置を支持する機体フレームを備え、且つ該機体フレームに動力散布機と走行用の原動機を搭載すると共に操縦ハンドルを備えた走行式動力散布機において、前記両クローラ走行装置の接地部に対する動力散布機の高さ調節を行う高さ調節手段を設けたことを第1の特徴としている。
【0008】
そして、前記高さ調節手段を平行リンク機構を用いて構成したことを第2の特徴としている。
【0009】
また、アイドラと駆動スプロケットにクローラを巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置と、両クローラ走行装置を支持する機体フレームを備え、且つ該機体フレームに動力散布機と走行用の原動機を搭載すると共に操縦ハンドルを備えた走行式動力散布機において、前記動力散布機の散布管を水平方向に所定角度で揺動させる強制揺動手段を設けたことを第3の特徴としている。
【0010】
そして、前記散布管を揺動可能状態と揺動不能状態とに切換える切換操作手段を設けたことを第4の特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、アイドラと駆動スプロケットにクローラを巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置を機体フレームに支持し、且つ該機体フレームに動力散布機と走行用の原動機を搭載すると共に操縦ハンドルを備えた走行式動力散布機において、前記両クローラ走行装置の接地部に対する動力散布機の高さ調節を行う高さ調節手段を設けたことによって、当該走行式動力散布機で圃場内を走行しながら散布作業を行う時は、動力散布機を上段位置に高さ調節することにより60〜70cmの高さに生育した水稲を跨いでの走行が可能になり、一方畦畔上面にクローラ走行装置を接地させた状態で走行しながら散布作業を行う時は、動力散布機を下段位置に高さ調節することによって低重心姿勢での安定した散布作業が行えるようになる。
【0012】
そして、請求項2の発明によれば、前記高さ調節手段を平行リンク機構を用いて構成したことによって、動力散布機の高さ調節を容易に行うことができる。
【0013】
そして、請求項3の発明によれば、アイドラと駆動スプロケットにクローラを巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置を機体フレームに支持し、且つ該機体フレームに動力散布機と走行用の原動機を搭載すると共に操縦ハンドルを備えた走行式動力散布機において、前記動力散布機の散布管を水平方向に所定角度で揺動させる強制揺動手段を設けたことによって、散布管を自動的に揺動させながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲に効率的に散布することができる。
【0014】
そして、請求項4の発明によれば、前記散布管を揺動可能状態と揺動不能状態とに切換える切換操作手段を設けたことによって、畦畔上面にクローラ走行装置を接地させた状態で走行しながら散布作業を行う時は、散布管を揺動させずに所定位置に固定しての安定した作業が行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、走行式動力散布機の側面図、図2は、平面図であって、該走行式動力散布機10は、左右一対のクローラ走行装置11L,11Rを走行方向に沿わせて配設すると共に、このクローラ走行装置11L,11Rを支持する機体フレーム12を備えている。
【0016】
そして、機体フレーム12の支柱部を構成する左右一対のチェンケース13L,13Rを備え、このチェンケース13L,13R下側の出力軸14にクローラ走行装置11L,11Rを駆動させる駆動スプロッケト15を固設し、またクローラ走行装置11L,11Rを構成する走行フレーム16を前記出力軸14に回動可能に支承すると共に、当該走行フレーム16には、ローラ17と、走行クローラ18の張力を調節するアイドラ19と、走行クローラ18の外れを防止するためのクローラガイド21を設け、これらアイドラ19、ローラ17、及び駆動スプロッケト15に走行クローラ18を巻き掛けている。
【0017】
上述した構成により、左右一対のクローラ走行装置11L,11Rは、チェンケース13L,13R下側の出力軸14、即ち駆動スプロケット15を回動中心として図中B矢印の如く上下揺動可能に支持してあり、このクローラ走行装置11L,11Rの上下揺動によって、詳細は後述するように、畦畔を乗り越えて隣接圃場へ走行式動力散布機10を進入させる移動作業が容易に行えるようになっている。
【0018】
また、左右の操縦ハンドル22L,22Rは、上部フレーム23に一体的に固設してあって、両操縦ハンドル22L,22Rの基端部近傍の上部フレーム23に左右一対のチェンケース13L,13Rを垂下させた状態で螺設すると共に、このチェンケース13L,13R下側の出力軸14の他端を支持する内側支持アーム24L,24Rを、当該チェンケース13L,13Rに対向させて上部フレーム23に螺設している。即ち、前記上部フレーム23、左右一対のチェンケース13L,13R、及び内側支持アーム24L,24Rによって、図3に示すように強固な門型状の機体フレーム12を構成している。
【0019】
更に詳しくは、上述の如く門型状に形成する機体フレーム12を、60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列一条を跨いで走行可能な高さとすることによって、走行式動力散布機10による圃場内での散布作業時に当該水稲Pを損傷することなく行えるようになる。尚、門型状に形成した機体フレーム12の内側に水稲Pの葉をスムーズに案内するための適切な左右一対のガイド体を設けてもよい。
【0020】
そして、上部フレーム23の前側には、左右一対の平行リンク機構25を介して上下動する前フレーム26を備え、この前フレーム26に、従来から水田の防除や施肥等に使用されている市販の背負い式の動力散布機31を図示しない螺設手段や締着手段を介して搭載可能に構成すると共に、前フレーム26の先端下部と上部フレーム23間に左右一対のガススプリング32,32を介装することによって、図4に示すように、クローラ走行装置11L,11Rの接地部Gに対する当該動力散布機31の上下二段の高さ調節(H1とH2)を上下調節レバー33によって容易に行えるようにしている。
【0021】
即ち、前記平行リンク機構25、ガススプリング32,32、及び上下調節レバー33を用いて動力散布機31の高さ調節手段Qを構成しており、走行式動力散布機10で圃場内を走行しながら散布作業を行う時は、上下調節レバー33の基端部33aを、上部フレーム23に設けたフック23aのア位置(図7参照)に係止すると動力散布機31を上段位置(H1)に高さ調節することができ、それによって60〜70cmの高さに生育した水稲Pを跨いでの走行が可能になる。一方、図5に示すように、畦畔上面にクローラ走行装置11L,11Rを接地させた状態で走行しながら散布作業を行う時は、上下調節レバー33の基端部33aをフック23aのイ位置(図7参照)に係止すると動力散布機31を下段位置(H2)に高さ調節することができ、それによって低重心姿勢での安定した散布作業が行えるようになっている。
【0022】
また、上部フレーム23の後側で、且つ左右の操縦ハンドル22L,22Rの略中間部には、ブラケット34を介して減速機35に連結する走行用の原動機である遠心クラッチを備えるエンジン36を搭載(螺設)している。
【0023】
更に詳しくは、エンジン36の動力は、減速機35及びチェン伝動機構37を介し上部フレーム23に支承した中間伝動軸38に伝動され、次いでこの中間伝動軸38の両軸端に設けたカップリング41,41を介して左右一対のチェンケース13L,13Rの入力軸42L、42Rに伝動される。そして、両チェンケース13L,13R内のチェン43を介して出力軸14を回転駆動させ、この出力軸14に固設した駆動スプロッケト15によって走行クローラ18が駆動されるようになっている。
【0024】
また、右側チェンケース13Rの入力軸42Rは、当該チェンケース13Rの外側に突出させてあり、その軸端に入力プーリ45を固設することによって後述するベルト伝動機構53の簡単且つ安価な入力側の伝動機構を構成している。そして、中間伝動軸38(カップリング41,41)直下において、平行リンク機構25を構成する平面視で略U状の下部アーム46の両側基端部(横パイプ)46a,46aを、上部フレーム23の支点ウ(図7参照)位置に上下揺動可能に支持すると共に、前フレーム26の基端部右側に固設した支持部材47を介して突出するピン48が設けてあり、このピン48にカウンタプーリ49を回転自在に支承することによって、両プーリ45,49に巻き掛けてなるVベルト51、及びテンションクラッチ52等によるベルト伝動機構53を構成している。尚、下部アーム46の先端部の左右両側下部には、プレート46b,プレート46bが固設してあり、両プレート46b,46bを前フレーム26の基端部右側に固設した支持部材47と、前フレーム26の基端部左側に固設した支持部材54に連結ピン55,55を介して連結している。
【0025】
一方、平行リンク機構25を構成する左右の上部アーム(プレート)56L,56Rの基端部は、チェンケース13L,13Rの入力軸42L、42Rを支持するボス部BL、BRに支承すると共に、右側上部アーム56Rの先端部を上述したピン48に挿通させて支持する一方、左側上部アーム56Lの先端部を、前フレーム26の基端部左側に固設した支持部材54に連結ピン59を介して連結している。即ち、上述した左右の上部アーム56L,56R、下部アーム46、及び前フレーム26によって平行リンク機構25を形成している。
【0026】
尚、図6に示すように、右側上部アーム56Rは、テンションクラッチ52を構成するクラッチアーム52aを回動可能に支承すると共に、ベルト伝動機構53を外側から被包するカバーC1を螺設するための取り付け座a,b,cを備えている。そして、ベルト伝動機構53は、平行リンク機構25を構成する右側上部アーム56Rに一体的に設けてあり、それによって前フレーム26に搭載した背負い式の動力散布機31を上下動させてもベルト伝動機構53の動力伝達は不都合なくなされる。
【0027】
また、前フレーム26の右側には、前方に延出する支持アーム(パイプ)26aが設けてあり、この支持アーム26aの先端に水平方向に揺動可能な平面視L字状の揺動リンク58を支持している。そして、揺動リンク58とカウンタプーリ49の外周近傍に連結したロッド57を介して前後方向に揺動するクランク機構を構成すると共に、当該揺動リンク58に動力散布機31の散布管61を保持するためのスイングアーム62を連結している。
【0028】
更に詳しくは、左右の操縦ハンドル22L,22Rの把持部近傍に横設してなる補強パイプ22Mの右端部側には、上述したベルト伝動機構53を断接するテンションクラッチ52をワイヤ63を介して操作するテンションクラッチ操作レバー64を設けている。そして、テンションクラッチ操作レバー64を介してテンションクラッチ52を入り操作することによって、ベルト伝動機構53に連係するクランク機構を構成する揺動リンク58、即ちスイングアーム62を介して散布管61を図2に示す水平方向の所定角度θ(110°)で揺動させることができるようにしている。
【0029】
即ち、上述したベルト伝動機構53、ロッド57、揺動リンク58、及びスイングアーム62等により、動力散布機31の散布管61を水平方向の所定角度θで揺動させる強制揺動手段Sを構成しており、この強制揺動手段Sによって散布管61を自動的に揺動させながら、当該散布管61の先端から農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲に効率的に散布することができる。尚、スイングアーム62の先端側には、散布管61の屈曲可能なゴム製蛇腹部位61aが無理なく自在に変形するように、当該散布管61の直管部位61bを保持するクランプ62a,62aを備えている。
【0030】
また、畦畔G1上面にクローラ走行装置11L,11Rを接地させた状態で走行式動力散布機10を走行させながら散布作業を行う場合等においては、散布管61を揺動させずに一方向に固定した状態で作業が行えるようにしてある。即ち、テンションクラッチレバー64を切り操作した状態で、散布管61、即ちスイングアーム62を図2に示す所定位置DまたはEの何れか一方を選択してピン固定することができるように、ピン孔65d,65eを備える二股状のプレート65を支持アーム26aの先端部に設けている。
【0031】
また、畦畔G1周辺の散布作業を行う時は、不要な重複散布を回避すべく散布管61の上下高さ調節による散布範囲の調節が行える散布範囲調節手段Fを備えている。即ち、揺動リンク58に対してスイングアーム62を上下回動可能に連結すると共に、散布管61を上昇方向に付勢する圧縮スプリング66、テンションクラッチ操作レバー64の内側に設けたスイングアーム上下調節レバー67、多段ノッチ付レバーガイド68、及び連係ワイヤ69等によって当該散布範囲調節手段Fを構成してあり、前記スイングアーム上下調節レバー67の押し引き操作に連係して複数段階の散布管61の上下高さ調節を可能にしている。尚、揺動リンク58にスイングアーム62を上下揺動可能に連結する部位に、上下方向の長孔58a(図6参照)による簡単なスイングアーム62の高さ調節手段を構成してもよい。
【0032】
更に、走行式動力散布機10は、クローラ走行装置11L,11Rを駆動させる駆動スプロッケト15を回動中心として、上下揺動可能にクローラ走行装置11L,11Rを支持すると共に、当該クローラ走行装置11L,11Rを上下揺動可能状態と固定姿勢状態とに切り換えできる切換操作手段Kを備えており、以下この切換操作手段Kの構成について説明する。
【0033】
図3、図5及び図7に示すように、駆動スプロッケト15とアイドラ19との略中間部に相当する走行フレーム16の内側には、ピン71が突設してあり、このピン71に嵌挿するボス72aを備える左右一対のロッド72,72を上方に向けて取り付け、更に両ロッド72,72の上部に、側面視でT字状のパイプ体73を構成する縦パイプ73aを嵌挿すると共に、該縦パイプ73aの横方向に固設したボス73bを、機体フレーム12を構成する上部フレーム23にピン74を介して取り付けている。
【0034】
また、T字状のパイプ体73を構成する縦パイプ73aに直交する横パイプ73cには、圧縮スプリング74によってロッド72の軸心方向に常時付勢されるロックピン75を内挿している。そして、このロックピン75が横パイプ73cから突出する部位に左右のワイヤ76L,76Rの一端(策端金具)を連結すると共に、両ワイヤ76L,76Rの他端(策端金具)を左側操縦ハンドル22の把持部に設けたロック解除レバー77と一体的に連結してあり、これらロック解除レバー77、両ワイヤ76L,76R、T字状のパイプ体73、該T字状のパイプ体73に嵌挿するピン74、左右一対のロッド72,72等により上述した切換操作手段Kを構成している。
【0035】
更に詳しくは、ロッド72には、ロックピン75が係止する上下二段の切欠き72b,72cと、クローラ走行装置11L,11Rの上方揺動を規制するストッパー部材78を設けてあり、走行式動力散布機10を路上走行または圃場内を走行させながら散布作業を行う時は、図6に実線で示すように、ロッド72の上段切欠き72bにロックピン75を係止させることによって、当該クローラ走行装置11L,11R、即ち駆動スプロッケト15とアイドラ19に巻き掛けられている走行クローラ18の接地部Gが、左右の操縦ハンドル22L,22Rに対して略平行の安定した固定姿勢状態での通常走行が可能になる。
【0036】
一方、略40cmの高さの畦畔G1を乗り越えて隣接する圃場に進入しようとする時は、ロック解除レバー77を把持することにより、左右のワイヤ76L,76Rを介し左右のロッド72,72の上段切欠き72bに係止しているロックピン75を解除操作する。これによって、駆動スプロケット15を回動中心として図中B矢印の如くクローラ走行装置11L,11Rの上下揺動が可能になる。尚、二点鎖線で示したクローラ走行装置11L,11Rの状態は、ロッド72に設けたストッパー部材78とT字状のパイプ体73を構成する縦パイプ73aの下端が接当した上限揺動状態を示したものである。
【0037】
そして、上述の如くロック解除レバー77を把持してクローラ走行装置11L,11Rの上下揺動を可能にした状態で、図8に示すように、オペレータMが左右の操縦ハンドル22L,22Rを把持しながら走行式動力散布機10を畦畔G1に対して略直交するように走行させると、クローラ走行装置11L,11Rは、畦畔G1の傾斜面に沿って上方に揺動し、それに伴って走行クローラ18の接地部Gが当該傾斜面に接地するのでスムーズな登坂が開始される。この時、クローラ走行装置11L,11Rは左右独立して上下揺動するので、畦畔G1の傾斜面に多少の凹凸があってもスムーズな登坂が可能である。
【0038】
次いで、図9に示すように、走行式動力散布機10が畦畔G1の上面(上部)に登りきったら、オペレータMはロック解除レバー77から手を放して、再び左右のロッド72,72の上段切欠き72bにロックピン75を係止させ、走行クローラ18の接地部Gが左右の操縦ハンドル22L,22Rに対して略平行となる安定した固定姿勢状態とする。
【0039】
しかる後に、図10に示すように、オペレータMは左右の操縦ハンドル22L,22Rを把持しながら走行式動力散布機10の前後バランスを保ち、且つこの状態で、駆動スプロケット15に対する走行クローラ18の巻き掛け部18aを畦畔G1の傾斜面に接地させながら、走行式動力散布機10を畦畔G1の傾斜面に沿って降坂させることによって、当該走行式動力散布機10を隣接する圃場に進入させることができる。
【0040】
即ち、畦畔G1を乗り越えて走行式動力散布機10を隣接する圃場に進入しようとする時、そのクローラ走行装置11L,11Rは畦畔G1の傾斜面に沿って上方に揺動するので、その傾斜面への登坂がスムーズに開始される。更に、機体の大きな重心移動を伴うことなく左右の操縦ハンドル22L,22Rの把持が可能になり、安定した機体姿勢での畦畔G1の乗り越え作業が行えるようになる。
【0041】
そして、クローラ走行装置11L,11Rを上下揺動可能状態と固定姿勢状態とに切り換えることができる切換操作手段Kを備えているので、上述した畦畔G1の乗り越え作業においては、クローラ走行装置11L,11Rを上下揺動可能状態とし、次いで圃場内を走行しながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物の散布作業を行う際は、当該切換操作手段Kによって機体フレーム12に対するクローラ走行装置11L,11Rの姿勢を一定の固定姿勢状態に簡単に切り換えて保持することができ、安定した散布作業が行えると共に作業性が向上する。
【0042】
また、走行式動力散布機10に搭載されている動力散布機31は、農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を貯留する貯留タンク81を備えているが、この貯留タンク81の高さが装置構成上高い位置にあることから、貯留タンク81への散布物の投入(補給)作業が容易に行えるように、機体姿勢を変更することによって、当該貯留タンク81の実質的な高さ調節が行えるようにしてあり、以下その手順について説明する。
【0043】
先ず、図4において例示したように、動力散布機31の上下二段の高さ調節(H1とH2)を行う上下調節レバー33を操作し、当該上下調節レバー33の基端部33aをフック23aのイ位置(図7参照)に係止することによって、平行リンク機構25を介して動力散布機31を下段位置(H2)に高さ調節する。そして、左側操縦ハンドル22の把持部に設けたロック解除レバー77を把持することにより、左右のワイヤ76L,76Rを介し左右のロッド72,72の上段切欠き72bに係止しているロックピン75を解除する。
【0044】
次いで、図11に示すように、左右の操縦ハンドル22L,22Rの持ち上げながら、ロック解除レバー77から手を放して左右のロッド72,72の下段切欠き72cにロックピン75を係止させることによって、貯留タンク81の高さをオペレータMの腰部程度の高さまで下降させることができるので、当該貯留タンク81への散布物の投入(補給)作業が容易に行えるようになる。
【0045】
また、上述したクローラ走行装置11L,11Rを構成する駆動スプロッケト15と走行クローラ18間への石の噛み込みや走行クローラ18の外れ、またはコンクリート畦畔等にクローラ走行装置11L,11Rが衝突することによって、当該クローラ走行装置11L,11Rの急激なロック現象が発生する場合があり、その場合は、図12に示すR矢印の如く駆動スプロケット15を回転中心とする下方向きの回転力が生じ、機体フレーム12や走行伝動系が損傷する懸念がある。
【0046】
そこで、走行式動力散布機10は、上述したロック現象が発生した時、遠心クラッチを備えるエンジン36の回転数を瞬時に高回転域から低回転域まで戻す緊急走行停止手段Sを設けており、以下この緊急走行停止手段Sの構成について説明する。
【0047】
図7、図12及び図13に示すように、駆動スプロッケト15とアイドラ19との略中間部の走行フレーム16の内側には、詳細は上述した左右一対のロッド72,72を上方に向けて取り付けているが、更に両ロッド72,72の上部に嵌挿したT字状のパイプ体73を構成する縦パイプ73aの上方には、圧縮スプリング85を介装すると共に該圧縮スプリング85の上方にストッパープレート86,86を夫々螺設している。
【0048】
また、両ストッパープレート86,86の下方には、機体フレーム12を構成する上部フレーム23に上下揺動可能に支持した揺動アーム87を備えると共に、この揺動アーム87に両ストッパープレート86,86と先端部が重合するピン87aを横設している。更に、揺動アーム87は、ワイヤ88を介して右側操縦ハンドル22Rの把持部に設けたスロットルレバー89に一体に組み込まれたリターンアーム91と連結してあり、これらリターンアーム91、ワイヤ88、ピン87aを備える揺動アーム87、及び両ストッパープレート86,86等により緊急走行停止手段Sを構成している。
【0049】
即ち、左右のクローラ走行装置11L,11Rのうち、少なくとも一方のクローラ走行装置に急激なロック現象が発生して、その駆動スプロケット15を回転中心とする下方向きのR矢印方向の回転力(高トルク)が生じると、当該ロッド72は、圧縮スプリング85に抗してT矢印方向に下降する。この時、ロッド72と一体に下降するストッパープレート86が揺動アーム87に横設したピン87aが叩かれ、揺動アーム87は下方に回動する。そして、この揺動アーム87に連係するワイヤ88を介してスロットルレバー89に一体に組み込まれたリターンアーム91が低速側に引き戻され、それによって遠心クラッチを備えるエンジン36の回転数を瞬時に高回転域から低回転域まで戻すことができ、上述の如くクローラ走行装置11L,11Rに急激なロック現象が発生しても機体フレーム12や走行伝動系が損傷することを回避できるようにしている。
【0050】
尚、上述の如く上述の如くクローラ走行装置11L,11Rに急激なロック現象が発生し、ロッド72が圧縮スプリング85に抗してT矢印方向に下降する時、このロッド72に設けた上段切欠き72bと、該上段切欠き72bに係止するロックピン75が衝突して、両者72b,75が損傷することが起こらないように適切な融通隙間を当該上段切欠き72bに設けている。
【0051】
更に詳しくは、図14(a)〜(c)に示すリターンアーム91の作用形態の如く、スロットルレバー89の基部には、プレート状のリターンアーム91基部の曲げ片91aが係止する突起部89aが設けてあり、ワイヤ88を介してリターンアーム91がU矢印方向に引き戻されると、スロットルレバー89基部の突起部89aにリターンアーム91基部の曲げ片91aが係止して、エンジン36の高回転域側に操作されている当該スロットルレバー89を低回転域操作位置まで自動的に戻すことができるように構成している。
【0052】
また、走行式動力散布機10に搭載される背負い式の動力散布機31の左側下部には、貯留タンク81に貯留した農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を散布管61から放出する際、その散布量を段階的に調節する調量レバー95を備えているが、この調量レバー95による散布量調節を当該走行式動力散布機10の操縦ハンドル22L,22R側から行えるように構成している。
【0053】
即ち、図1及び図2に示すように、既設されている動力散布機31の調量レバー95の基端部には、図示しない調量機構に連係する連係ロッド96が略横設してあり、この連係ロッド96の終端部に係止して揺動可能な連係アーム97を新設すると共に、該連係アーム97に連結するロッド状の押し引きレバー98を後方の操縦ハンドル22L,22R側に向かって延出し、更にこの押し引きレバー98を案内するガイド部材99を前フレーム26に固設することによって、当該押し引きレバー98を押し引き操作することによる操縦ハンドル22L,22R側からの散布量調節を可能にしている。
【0054】
尚、図2及び図13に示した平面図等には図示していないが、上述した減速機35、チェン伝動機構37、及び中間伝動軸38等を被包するカバーC2を、機体フレーム12を構成する上部フレーム23に螺設できるように構成している。
【0055】
ところで、上述した走行式動力散布機10は、圃場内で60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列一条を跨いで走行できるように構成しているが、更に機体の左右バランスを安定させながら圃場内を走行するには、例えば、図15及び図16に示すように、60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列二条を跨いでの走行が可能な機体フレーム112を備える走行式動力散布機110を構成すればよい。
【0056】
即ち、前記条列二条跨ぎ式の走行式動力散布機110は、条列一条跨ぎ式の走行式動力散布機10と同様に、機体フレーム112を構成する上部フレーム123に、左右一対のチェンケース113L,113Rを垂下させた状態で螺設している。そして、チェンケース113L,113R下側の出力軸14に走行フレーム116を支承すると共に、その外側にクローラ走行装置111L,111Rを駆動させる駆動スプロッケト15を固設し、更に当該出力軸14の他端を支持する外側支持アーム124L,124Rをチェンケース113L,113Rに対向させて固設している。即ち、前記上部フレーム123、左右一対のチェンケース113L,113R、及び外側支持アーム124L,124Rによって、強固な門型状の機体フレーム112を構成している。
【0057】
尚、門型状の機体フレーム112を構成するチェンケース113L,113Rをクローラ走行装置111L,111Rの内側に配置することによって、右側チェンケース113Rの外側に突出する当該チェンケース113Rの入力軸42Rの突出量を、条列一条跨ぎ式の走行式動力散布機10と同様にすることができ、この入力軸42Rの軸端に固設する入力プーリ45を備えるベルト伝動機構53、及び該ベルト伝動機構53を含む動力散布機31の散布管61を水平方向に揺動させる強制揺動手段Sを機体の外側に突出させることなくコンパクトに構成できる。そして、チェンケース113L,113R自体が滑らかな外形形状を有しており、それによって水稲Pの葉をスムーズに案内するガイド作用も期待できる。
【0058】
また、上述した条列二条跨ぎ式の走行式動力散布機110では、条列一条跨ぎ式の走行式動力散布機10に比べて圃場内での旋回性能が劣ることから、中間伝動軸38の両軸端から左右一対のチェンケース113L,113Rの入力軸42L、42Rに動力を伝動するカップリング141,141にサイドクラッチ機構を併設して旋回性能を向上させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】走行式動力散布機(条列一条跨ぎ式)の側面図。
【図2】走行式動力散布機(条列一条跨ぎ式)の平面図。
【図3】図1におけるA矢視図。
【図4】動力散布機の高さ調節方法を示す側面図。
【図5】走行式動力散布機で畦畔上面を走行する状態を示す一部省略背面図。
【図6】図1におけるC矢視図。
【図7】切換操作手段の構成を示す側面図。
【図8】走行式動力散布機による畦畔の登坂状態を示す側面図。
【図9】走行式動力散布機が畦畔の上部に登りきった状態を示す側面図。
【図10】走行式動力散布機による畦畔の降坂状態を示す側面図。
【図11】貯留タンクの高さ調節方法を示す側面図。
【図12】緊急走行停止手段の構成を示す側面図。
【図13】緊急走行停止手段の構成を示す平面図。
【図14】リターンアームの作用形態を示す平面。
【図15】走行式動力散布機(条列二条跨ぎ式)の側面図。
【図16】図15におけるA矢視図。
【符号の説明】
【0060】
11L クローラ走行装置(左)
11R クローラ走行装置(右)
12 機体フレーム
15 駆動スプロケット
19 アイドラ
22L 操縦ハンドル(左)
22R 操縦ハンドル(右)
25 平行リンク機構
31 動力散布機
36 原動機
61 散布管
64 切換操作手段
S 強制揺動手段
Q 高さ調節手段
θ 所定角度(散布管)
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場内や畦畔等を走行しながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物の散布作業を行う走行式動力散布機に関する。
【背景技術】
【0002】
水田の防除や施肥等に使用される動力散布機としては、背負い式のものが一般的に使用されている。ところが、この背負い式の動力散布機は、貯留タンク、送風機及び原動機等の機体部分だけでも相当重く、それに加えて前記貯留タンクに貯留された散布すべき農薬、肥料、種子等の散布物の重量も付加されて35kg程度になることから、当該動力散布機を背負って足場の悪い畦畔や圃場内を歩行しながら散布作業を行うことは極めて重労働であった。
【0003】
そこで、前後方向に伸びる揺動支軸を備えた機体(基体)フレームに、主車輪である遊転前輪と駆動後輪を前後一直線上に配設すると共に、機体フレームの後部に左右一対の操縦ハンドルを設け、更に前記揺動支軸に揺動フレームを上下揺動自在に支持し、この揺動フレームに散布物が貯留される貯留タンクと、該貯留タンク内の散布物を散布する動力散布機と、その駆動源及び走行系の動力源を兼ねる原動機を搭載し、且つ前記揺動フレームの機体進行方向に対する左右一側(片側)に側車を配設することによって、凹凸のある畦畔等の不整地を走行する際にも、操縦ハンドルの左右方向の揺動を可及的に抑えて姿勢安定性及び走行安定性を向上させ、当該動力散布機による散布物の散布むらの減少を図るように構成した車輪走行装置による走行式動力散布機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、クローラ走行装置に機体フレームを支持すると共に、この機体フレームに、堆肥に化学肥料、農薬、及び種子等を混合してなる圃場用資材を一時貯留する第1ホッパと、該第1ホッパ内の圃場用資材がバケットコンベアを介して定量供給される第2ホッパと、この定量供給された圃場用資材を一定長に成形する成形装置及び誘導樋と、更に一定長に成形された圃場用資材を吸引して散布管から放出する空気搬送装置と、これら装置の駆動源及び走行系の動力源を兼ねる原動機を搭載してなる走行式動力散布機が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平10−244188号公報(第2−3頁、図1−図3)
【特許文献2】特開平10−4720号公報(第3−4頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の車輪走行装置を備える走行式動力散布機で、通常40cm幅に形成されている畦畔を走行する際は、揺動フレームに搭載してなる散布物を貯留する貯留タンクや、この散布物を散布する動力散布機等の重量を利用し、側車を当該畦畔の側面上部に押し付けながら姿勢を安定させて移動しようとするものであるが、このものでは操縦ハンドルの左右方向の揺動を抑えて、軟弱且つ幅が不揃いな畦畔を安定した機体姿勢で走行することは困難であった。更に、この走行式動力散布機を圃場内で走行させながら、60〜70cmの高さに生育した水稲の防除作業を行おうとすると、貯留タンクや管状散布具の基端部を構成する湾曲管等が水稲に接触して、当該水稲が損傷するといった不具合を有していた。また、管状散布具を自動的に揺動させながら広範囲に散布物を散布しようとするものではなかった。
【0006】
一方、特許文献2のクローラ走行装置を備える走行式動力散布機は、圃場内における安定した姿勢での走行が可能になるが、上述した特許文献1の車輪走行装置を備える走行式動力散布機と同様に、圃場内を走行しながら60〜70cmの高さに生育した水稲の防除作業を行おうとすると、機体フレームや該機体フレームに搭載した動力散布機の構成装置等が水稲に接触して、当該水稲が損傷するといった不具合も有しており十分なものではなかった。そして、このものも散布管を自動的に揺動させながら広範囲に散布物を散布しようとするものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、アイドラと駆動スプロケットにクローラを巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置と、両クローラ走行装置を支持する機体フレームを備え、且つ該機体フレームに動力散布機と走行用の原動機を搭載すると共に操縦ハンドルを備えた走行式動力散布機において、前記両クローラ走行装置の接地部に対する動力散布機の高さ調節を行う高さ調節手段を設けたことを第1の特徴としている。
【0008】
そして、前記高さ調節手段を平行リンク機構を用いて構成したことを第2の特徴としている。
【0009】
また、アイドラと駆動スプロケットにクローラを巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置と、両クローラ走行装置を支持する機体フレームを備え、且つ該機体フレームに動力散布機と走行用の原動機を搭載すると共に操縦ハンドルを備えた走行式動力散布機において、前記動力散布機の散布管を水平方向に所定角度で揺動させる強制揺動手段を設けたことを第3の特徴としている。
【0010】
そして、前記散布管を揺動可能状態と揺動不能状態とに切換える切換操作手段を設けたことを第4の特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、アイドラと駆動スプロケットにクローラを巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置を機体フレームに支持し、且つ該機体フレームに動力散布機と走行用の原動機を搭載すると共に操縦ハンドルを備えた走行式動力散布機において、前記両クローラ走行装置の接地部に対する動力散布機の高さ調節を行う高さ調節手段を設けたことによって、当該走行式動力散布機で圃場内を走行しながら散布作業を行う時は、動力散布機を上段位置に高さ調節することにより60〜70cmの高さに生育した水稲を跨いでの走行が可能になり、一方畦畔上面にクローラ走行装置を接地させた状態で走行しながら散布作業を行う時は、動力散布機を下段位置に高さ調節することによって低重心姿勢での安定した散布作業が行えるようになる。
【0012】
そして、請求項2の発明によれば、前記高さ調節手段を平行リンク機構を用いて構成したことによって、動力散布機の高さ調節を容易に行うことができる。
【0013】
そして、請求項3の発明によれば、アイドラと駆動スプロケットにクローラを巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置を機体フレームに支持し、且つ該機体フレームに動力散布機と走行用の原動機を搭載すると共に操縦ハンドルを備えた走行式動力散布機において、前記動力散布機の散布管を水平方向に所定角度で揺動させる強制揺動手段を設けたことによって、散布管を自動的に揺動させながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲に効率的に散布することができる。
【0014】
そして、請求項4の発明によれば、前記散布管を揺動可能状態と揺動不能状態とに切換える切換操作手段を設けたことによって、畦畔上面にクローラ走行装置を接地させた状態で走行しながら散布作業を行う時は、散布管を揺動させずに所定位置に固定しての安定した作業が行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、走行式動力散布機の側面図、図2は、平面図であって、該走行式動力散布機10は、左右一対のクローラ走行装置11L,11Rを走行方向に沿わせて配設すると共に、このクローラ走行装置11L,11Rを支持する機体フレーム12を備えている。
【0016】
そして、機体フレーム12の支柱部を構成する左右一対のチェンケース13L,13Rを備え、このチェンケース13L,13R下側の出力軸14にクローラ走行装置11L,11Rを駆動させる駆動スプロッケト15を固設し、またクローラ走行装置11L,11Rを構成する走行フレーム16を前記出力軸14に回動可能に支承すると共に、当該走行フレーム16には、ローラ17と、走行クローラ18の張力を調節するアイドラ19と、走行クローラ18の外れを防止するためのクローラガイド21を設け、これらアイドラ19、ローラ17、及び駆動スプロッケト15に走行クローラ18を巻き掛けている。
【0017】
上述した構成により、左右一対のクローラ走行装置11L,11Rは、チェンケース13L,13R下側の出力軸14、即ち駆動スプロケット15を回動中心として図中B矢印の如く上下揺動可能に支持してあり、このクローラ走行装置11L,11Rの上下揺動によって、詳細は後述するように、畦畔を乗り越えて隣接圃場へ走行式動力散布機10を進入させる移動作業が容易に行えるようになっている。
【0018】
また、左右の操縦ハンドル22L,22Rは、上部フレーム23に一体的に固設してあって、両操縦ハンドル22L,22Rの基端部近傍の上部フレーム23に左右一対のチェンケース13L,13Rを垂下させた状態で螺設すると共に、このチェンケース13L,13R下側の出力軸14の他端を支持する内側支持アーム24L,24Rを、当該チェンケース13L,13Rに対向させて上部フレーム23に螺設している。即ち、前記上部フレーム23、左右一対のチェンケース13L,13R、及び内側支持アーム24L,24Rによって、図3に示すように強固な門型状の機体フレーム12を構成している。
【0019】
更に詳しくは、上述の如く門型状に形成する機体フレーム12を、60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列一条を跨いで走行可能な高さとすることによって、走行式動力散布機10による圃場内での散布作業時に当該水稲Pを損傷することなく行えるようになる。尚、門型状に形成した機体フレーム12の内側に水稲Pの葉をスムーズに案内するための適切な左右一対のガイド体を設けてもよい。
【0020】
そして、上部フレーム23の前側には、左右一対の平行リンク機構25を介して上下動する前フレーム26を備え、この前フレーム26に、従来から水田の防除や施肥等に使用されている市販の背負い式の動力散布機31を図示しない螺設手段や締着手段を介して搭載可能に構成すると共に、前フレーム26の先端下部と上部フレーム23間に左右一対のガススプリング32,32を介装することによって、図4に示すように、クローラ走行装置11L,11Rの接地部Gに対する当該動力散布機31の上下二段の高さ調節(H1とH2)を上下調節レバー33によって容易に行えるようにしている。
【0021】
即ち、前記平行リンク機構25、ガススプリング32,32、及び上下調節レバー33を用いて動力散布機31の高さ調節手段Qを構成しており、走行式動力散布機10で圃場内を走行しながら散布作業を行う時は、上下調節レバー33の基端部33aを、上部フレーム23に設けたフック23aのア位置(図7参照)に係止すると動力散布機31を上段位置(H1)に高さ調節することができ、それによって60〜70cmの高さに生育した水稲Pを跨いでの走行が可能になる。一方、図5に示すように、畦畔上面にクローラ走行装置11L,11Rを接地させた状態で走行しながら散布作業を行う時は、上下調節レバー33の基端部33aをフック23aのイ位置(図7参照)に係止すると動力散布機31を下段位置(H2)に高さ調節することができ、それによって低重心姿勢での安定した散布作業が行えるようになっている。
【0022】
また、上部フレーム23の後側で、且つ左右の操縦ハンドル22L,22Rの略中間部には、ブラケット34を介して減速機35に連結する走行用の原動機である遠心クラッチを備えるエンジン36を搭載(螺設)している。
【0023】
更に詳しくは、エンジン36の動力は、減速機35及びチェン伝動機構37を介し上部フレーム23に支承した中間伝動軸38に伝動され、次いでこの中間伝動軸38の両軸端に設けたカップリング41,41を介して左右一対のチェンケース13L,13Rの入力軸42L、42Rに伝動される。そして、両チェンケース13L,13R内のチェン43を介して出力軸14を回転駆動させ、この出力軸14に固設した駆動スプロッケト15によって走行クローラ18が駆動されるようになっている。
【0024】
また、右側チェンケース13Rの入力軸42Rは、当該チェンケース13Rの外側に突出させてあり、その軸端に入力プーリ45を固設することによって後述するベルト伝動機構53の簡単且つ安価な入力側の伝動機構を構成している。そして、中間伝動軸38(カップリング41,41)直下において、平行リンク機構25を構成する平面視で略U状の下部アーム46の両側基端部(横パイプ)46a,46aを、上部フレーム23の支点ウ(図7参照)位置に上下揺動可能に支持すると共に、前フレーム26の基端部右側に固設した支持部材47を介して突出するピン48が設けてあり、このピン48にカウンタプーリ49を回転自在に支承することによって、両プーリ45,49に巻き掛けてなるVベルト51、及びテンションクラッチ52等によるベルト伝動機構53を構成している。尚、下部アーム46の先端部の左右両側下部には、プレート46b,プレート46bが固設してあり、両プレート46b,46bを前フレーム26の基端部右側に固設した支持部材47と、前フレーム26の基端部左側に固設した支持部材54に連結ピン55,55を介して連結している。
【0025】
一方、平行リンク機構25を構成する左右の上部アーム(プレート)56L,56Rの基端部は、チェンケース13L,13Rの入力軸42L、42Rを支持するボス部BL、BRに支承すると共に、右側上部アーム56Rの先端部を上述したピン48に挿通させて支持する一方、左側上部アーム56Lの先端部を、前フレーム26の基端部左側に固設した支持部材54に連結ピン59を介して連結している。即ち、上述した左右の上部アーム56L,56R、下部アーム46、及び前フレーム26によって平行リンク機構25を形成している。
【0026】
尚、図6に示すように、右側上部アーム56Rは、テンションクラッチ52を構成するクラッチアーム52aを回動可能に支承すると共に、ベルト伝動機構53を外側から被包するカバーC1を螺設するための取り付け座a,b,cを備えている。そして、ベルト伝動機構53は、平行リンク機構25を構成する右側上部アーム56Rに一体的に設けてあり、それによって前フレーム26に搭載した背負い式の動力散布機31を上下動させてもベルト伝動機構53の動力伝達は不都合なくなされる。
【0027】
また、前フレーム26の右側には、前方に延出する支持アーム(パイプ)26aが設けてあり、この支持アーム26aの先端に水平方向に揺動可能な平面視L字状の揺動リンク58を支持している。そして、揺動リンク58とカウンタプーリ49の外周近傍に連結したロッド57を介して前後方向に揺動するクランク機構を構成すると共に、当該揺動リンク58に動力散布機31の散布管61を保持するためのスイングアーム62を連結している。
【0028】
更に詳しくは、左右の操縦ハンドル22L,22Rの把持部近傍に横設してなる補強パイプ22Mの右端部側には、上述したベルト伝動機構53を断接するテンションクラッチ52をワイヤ63を介して操作するテンションクラッチ操作レバー64を設けている。そして、テンションクラッチ操作レバー64を介してテンションクラッチ52を入り操作することによって、ベルト伝動機構53に連係するクランク機構を構成する揺動リンク58、即ちスイングアーム62を介して散布管61を図2に示す水平方向の所定角度θ(110°)で揺動させることができるようにしている。
【0029】
即ち、上述したベルト伝動機構53、ロッド57、揺動リンク58、及びスイングアーム62等により、動力散布機31の散布管61を水平方向の所定角度θで揺動させる強制揺動手段Sを構成しており、この強制揺動手段Sによって散布管61を自動的に揺動させながら、当該散布管61の先端から農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を広範囲に効率的に散布することができる。尚、スイングアーム62の先端側には、散布管61の屈曲可能なゴム製蛇腹部位61aが無理なく自在に変形するように、当該散布管61の直管部位61bを保持するクランプ62a,62aを備えている。
【0030】
また、畦畔G1上面にクローラ走行装置11L,11Rを接地させた状態で走行式動力散布機10を走行させながら散布作業を行う場合等においては、散布管61を揺動させずに一方向に固定した状態で作業が行えるようにしてある。即ち、テンションクラッチレバー64を切り操作した状態で、散布管61、即ちスイングアーム62を図2に示す所定位置DまたはEの何れか一方を選択してピン固定することができるように、ピン孔65d,65eを備える二股状のプレート65を支持アーム26aの先端部に設けている。
【0031】
また、畦畔G1周辺の散布作業を行う時は、不要な重複散布を回避すべく散布管61の上下高さ調節による散布範囲の調節が行える散布範囲調節手段Fを備えている。即ち、揺動リンク58に対してスイングアーム62を上下回動可能に連結すると共に、散布管61を上昇方向に付勢する圧縮スプリング66、テンションクラッチ操作レバー64の内側に設けたスイングアーム上下調節レバー67、多段ノッチ付レバーガイド68、及び連係ワイヤ69等によって当該散布範囲調節手段Fを構成してあり、前記スイングアーム上下調節レバー67の押し引き操作に連係して複数段階の散布管61の上下高さ調節を可能にしている。尚、揺動リンク58にスイングアーム62を上下揺動可能に連結する部位に、上下方向の長孔58a(図6参照)による簡単なスイングアーム62の高さ調節手段を構成してもよい。
【0032】
更に、走行式動力散布機10は、クローラ走行装置11L,11Rを駆動させる駆動スプロッケト15を回動中心として、上下揺動可能にクローラ走行装置11L,11Rを支持すると共に、当該クローラ走行装置11L,11Rを上下揺動可能状態と固定姿勢状態とに切り換えできる切換操作手段Kを備えており、以下この切換操作手段Kの構成について説明する。
【0033】
図3、図5及び図7に示すように、駆動スプロッケト15とアイドラ19との略中間部に相当する走行フレーム16の内側には、ピン71が突設してあり、このピン71に嵌挿するボス72aを備える左右一対のロッド72,72を上方に向けて取り付け、更に両ロッド72,72の上部に、側面視でT字状のパイプ体73を構成する縦パイプ73aを嵌挿すると共に、該縦パイプ73aの横方向に固設したボス73bを、機体フレーム12を構成する上部フレーム23にピン74を介して取り付けている。
【0034】
また、T字状のパイプ体73を構成する縦パイプ73aに直交する横パイプ73cには、圧縮スプリング74によってロッド72の軸心方向に常時付勢されるロックピン75を内挿している。そして、このロックピン75が横パイプ73cから突出する部位に左右のワイヤ76L,76Rの一端(策端金具)を連結すると共に、両ワイヤ76L,76Rの他端(策端金具)を左側操縦ハンドル22の把持部に設けたロック解除レバー77と一体的に連結してあり、これらロック解除レバー77、両ワイヤ76L,76R、T字状のパイプ体73、該T字状のパイプ体73に嵌挿するピン74、左右一対のロッド72,72等により上述した切換操作手段Kを構成している。
【0035】
更に詳しくは、ロッド72には、ロックピン75が係止する上下二段の切欠き72b,72cと、クローラ走行装置11L,11Rの上方揺動を規制するストッパー部材78を設けてあり、走行式動力散布機10を路上走行または圃場内を走行させながら散布作業を行う時は、図6に実線で示すように、ロッド72の上段切欠き72bにロックピン75を係止させることによって、当該クローラ走行装置11L,11R、即ち駆動スプロッケト15とアイドラ19に巻き掛けられている走行クローラ18の接地部Gが、左右の操縦ハンドル22L,22Rに対して略平行の安定した固定姿勢状態での通常走行が可能になる。
【0036】
一方、略40cmの高さの畦畔G1を乗り越えて隣接する圃場に進入しようとする時は、ロック解除レバー77を把持することにより、左右のワイヤ76L,76Rを介し左右のロッド72,72の上段切欠き72bに係止しているロックピン75を解除操作する。これによって、駆動スプロケット15を回動中心として図中B矢印の如くクローラ走行装置11L,11Rの上下揺動が可能になる。尚、二点鎖線で示したクローラ走行装置11L,11Rの状態は、ロッド72に設けたストッパー部材78とT字状のパイプ体73を構成する縦パイプ73aの下端が接当した上限揺動状態を示したものである。
【0037】
そして、上述の如くロック解除レバー77を把持してクローラ走行装置11L,11Rの上下揺動を可能にした状態で、図8に示すように、オペレータMが左右の操縦ハンドル22L,22Rを把持しながら走行式動力散布機10を畦畔G1に対して略直交するように走行させると、クローラ走行装置11L,11Rは、畦畔G1の傾斜面に沿って上方に揺動し、それに伴って走行クローラ18の接地部Gが当該傾斜面に接地するのでスムーズな登坂が開始される。この時、クローラ走行装置11L,11Rは左右独立して上下揺動するので、畦畔G1の傾斜面に多少の凹凸があってもスムーズな登坂が可能である。
【0038】
次いで、図9に示すように、走行式動力散布機10が畦畔G1の上面(上部)に登りきったら、オペレータMはロック解除レバー77から手を放して、再び左右のロッド72,72の上段切欠き72bにロックピン75を係止させ、走行クローラ18の接地部Gが左右の操縦ハンドル22L,22Rに対して略平行となる安定した固定姿勢状態とする。
【0039】
しかる後に、図10に示すように、オペレータMは左右の操縦ハンドル22L,22Rを把持しながら走行式動力散布機10の前後バランスを保ち、且つこの状態で、駆動スプロケット15に対する走行クローラ18の巻き掛け部18aを畦畔G1の傾斜面に接地させながら、走行式動力散布機10を畦畔G1の傾斜面に沿って降坂させることによって、当該走行式動力散布機10を隣接する圃場に進入させることができる。
【0040】
即ち、畦畔G1を乗り越えて走行式動力散布機10を隣接する圃場に進入しようとする時、そのクローラ走行装置11L,11Rは畦畔G1の傾斜面に沿って上方に揺動するので、その傾斜面への登坂がスムーズに開始される。更に、機体の大きな重心移動を伴うことなく左右の操縦ハンドル22L,22Rの把持が可能になり、安定した機体姿勢での畦畔G1の乗り越え作業が行えるようになる。
【0041】
そして、クローラ走行装置11L,11Rを上下揺動可能状態と固定姿勢状態とに切り換えることができる切換操作手段Kを備えているので、上述した畦畔G1の乗り越え作業においては、クローラ走行装置11L,11Rを上下揺動可能状態とし、次いで圃場内を走行しながら農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物の散布作業を行う際は、当該切換操作手段Kによって機体フレーム12に対するクローラ走行装置11L,11Rの姿勢を一定の固定姿勢状態に簡単に切り換えて保持することができ、安定した散布作業が行えると共に作業性が向上する。
【0042】
また、走行式動力散布機10に搭載されている動力散布機31は、農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を貯留する貯留タンク81を備えているが、この貯留タンク81の高さが装置構成上高い位置にあることから、貯留タンク81への散布物の投入(補給)作業が容易に行えるように、機体姿勢を変更することによって、当該貯留タンク81の実質的な高さ調節が行えるようにしてあり、以下その手順について説明する。
【0043】
先ず、図4において例示したように、動力散布機31の上下二段の高さ調節(H1とH2)を行う上下調節レバー33を操作し、当該上下調節レバー33の基端部33aをフック23aのイ位置(図7参照)に係止することによって、平行リンク機構25を介して動力散布機31を下段位置(H2)に高さ調節する。そして、左側操縦ハンドル22の把持部に設けたロック解除レバー77を把持することにより、左右のワイヤ76L,76Rを介し左右のロッド72,72の上段切欠き72bに係止しているロックピン75を解除する。
【0044】
次いで、図11に示すように、左右の操縦ハンドル22L,22Rの持ち上げながら、ロック解除レバー77から手を放して左右のロッド72,72の下段切欠き72cにロックピン75を係止させることによって、貯留タンク81の高さをオペレータMの腰部程度の高さまで下降させることができるので、当該貯留タンク81への散布物の投入(補給)作業が容易に行えるようになる。
【0045】
また、上述したクローラ走行装置11L,11Rを構成する駆動スプロッケト15と走行クローラ18間への石の噛み込みや走行クローラ18の外れ、またはコンクリート畦畔等にクローラ走行装置11L,11Rが衝突することによって、当該クローラ走行装置11L,11Rの急激なロック現象が発生する場合があり、その場合は、図12に示すR矢印の如く駆動スプロケット15を回転中心とする下方向きの回転力が生じ、機体フレーム12や走行伝動系が損傷する懸念がある。
【0046】
そこで、走行式動力散布機10は、上述したロック現象が発生した時、遠心クラッチを備えるエンジン36の回転数を瞬時に高回転域から低回転域まで戻す緊急走行停止手段Sを設けており、以下この緊急走行停止手段Sの構成について説明する。
【0047】
図7、図12及び図13に示すように、駆動スプロッケト15とアイドラ19との略中間部の走行フレーム16の内側には、詳細は上述した左右一対のロッド72,72を上方に向けて取り付けているが、更に両ロッド72,72の上部に嵌挿したT字状のパイプ体73を構成する縦パイプ73aの上方には、圧縮スプリング85を介装すると共に該圧縮スプリング85の上方にストッパープレート86,86を夫々螺設している。
【0048】
また、両ストッパープレート86,86の下方には、機体フレーム12を構成する上部フレーム23に上下揺動可能に支持した揺動アーム87を備えると共に、この揺動アーム87に両ストッパープレート86,86と先端部が重合するピン87aを横設している。更に、揺動アーム87は、ワイヤ88を介して右側操縦ハンドル22Rの把持部に設けたスロットルレバー89に一体に組み込まれたリターンアーム91と連結してあり、これらリターンアーム91、ワイヤ88、ピン87aを備える揺動アーム87、及び両ストッパープレート86,86等により緊急走行停止手段Sを構成している。
【0049】
即ち、左右のクローラ走行装置11L,11Rのうち、少なくとも一方のクローラ走行装置に急激なロック現象が発生して、その駆動スプロケット15を回転中心とする下方向きのR矢印方向の回転力(高トルク)が生じると、当該ロッド72は、圧縮スプリング85に抗してT矢印方向に下降する。この時、ロッド72と一体に下降するストッパープレート86が揺動アーム87に横設したピン87aが叩かれ、揺動アーム87は下方に回動する。そして、この揺動アーム87に連係するワイヤ88を介してスロットルレバー89に一体に組み込まれたリターンアーム91が低速側に引き戻され、それによって遠心クラッチを備えるエンジン36の回転数を瞬時に高回転域から低回転域まで戻すことができ、上述の如くクローラ走行装置11L,11Rに急激なロック現象が発生しても機体フレーム12や走行伝動系が損傷することを回避できるようにしている。
【0050】
尚、上述の如く上述の如くクローラ走行装置11L,11Rに急激なロック現象が発生し、ロッド72が圧縮スプリング85に抗してT矢印方向に下降する時、このロッド72に設けた上段切欠き72bと、該上段切欠き72bに係止するロックピン75が衝突して、両者72b,75が損傷することが起こらないように適切な融通隙間を当該上段切欠き72bに設けている。
【0051】
更に詳しくは、図14(a)〜(c)に示すリターンアーム91の作用形態の如く、スロットルレバー89の基部には、プレート状のリターンアーム91基部の曲げ片91aが係止する突起部89aが設けてあり、ワイヤ88を介してリターンアーム91がU矢印方向に引き戻されると、スロットルレバー89基部の突起部89aにリターンアーム91基部の曲げ片91aが係止して、エンジン36の高回転域側に操作されている当該スロットルレバー89を低回転域操作位置まで自動的に戻すことができるように構成している。
【0052】
また、走行式動力散布機10に搭載される背負い式の動力散布機31の左側下部には、貯留タンク81に貯留した農薬、肥料、種子等の粉粒状ないし液状の散布物を散布管61から放出する際、その散布量を段階的に調節する調量レバー95を備えているが、この調量レバー95による散布量調節を当該走行式動力散布機10の操縦ハンドル22L,22R側から行えるように構成している。
【0053】
即ち、図1及び図2に示すように、既設されている動力散布機31の調量レバー95の基端部には、図示しない調量機構に連係する連係ロッド96が略横設してあり、この連係ロッド96の終端部に係止して揺動可能な連係アーム97を新設すると共に、該連係アーム97に連結するロッド状の押し引きレバー98を後方の操縦ハンドル22L,22R側に向かって延出し、更にこの押し引きレバー98を案内するガイド部材99を前フレーム26に固設することによって、当該押し引きレバー98を押し引き操作することによる操縦ハンドル22L,22R側からの散布量調節を可能にしている。
【0054】
尚、図2及び図13に示した平面図等には図示していないが、上述した減速機35、チェン伝動機構37、及び中間伝動軸38等を被包するカバーC2を、機体フレーム12を構成する上部フレーム23に螺設できるように構成している。
【0055】
ところで、上述した走行式動力散布機10は、圃場内で60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列一条を跨いで走行できるように構成しているが、更に機体の左右バランスを安定させながら圃場内を走行するには、例えば、図15及び図16に示すように、60〜70cmの高さに生育した水稲Pの条列二条を跨いでの走行が可能な機体フレーム112を備える走行式動力散布機110を構成すればよい。
【0056】
即ち、前記条列二条跨ぎ式の走行式動力散布機110は、条列一条跨ぎ式の走行式動力散布機10と同様に、機体フレーム112を構成する上部フレーム123に、左右一対のチェンケース113L,113Rを垂下させた状態で螺設している。そして、チェンケース113L,113R下側の出力軸14に走行フレーム116を支承すると共に、その外側にクローラ走行装置111L,111Rを駆動させる駆動スプロッケト15を固設し、更に当該出力軸14の他端を支持する外側支持アーム124L,124Rをチェンケース113L,113Rに対向させて固設している。即ち、前記上部フレーム123、左右一対のチェンケース113L,113R、及び外側支持アーム124L,124Rによって、強固な門型状の機体フレーム112を構成している。
【0057】
尚、門型状の機体フレーム112を構成するチェンケース113L,113Rをクローラ走行装置111L,111Rの内側に配置することによって、右側チェンケース113Rの外側に突出する当該チェンケース113Rの入力軸42Rの突出量を、条列一条跨ぎ式の走行式動力散布機10と同様にすることができ、この入力軸42Rの軸端に固設する入力プーリ45を備えるベルト伝動機構53、及び該ベルト伝動機構53を含む動力散布機31の散布管61を水平方向に揺動させる強制揺動手段Sを機体の外側に突出させることなくコンパクトに構成できる。そして、チェンケース113L,113R自体が滑らかな外形形状を有しており、それによって水稲Pの葉をスムーズに案内するガイド作用も期待できる。
【0058】
また、上述した条列二条跨ぎ式の走行式動力散布機110では、条列一条跨ぎ式の走行式動力散布機10に比べて圃場内での旋回性能が劣ることから、中間伝動軸38の両軸端から左右一対のチェンケース113L,113Rの入力軸42L、42Rに動力を伝動するカップリング141,141にサイドクラッチ機構を併設して旋回性能を向上させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】走行式動力散布機(条列一条跨ぎ式)の側面図。
【図2】走行式動力散布機(条列一条跨ぎ式)の平面図。
【図3】図1におけるA矢視図。
【図4】動力散布機の高さ調節方法を示す側面図。
【図5】走行式動力散布機で畦畔上面を走行する状態を示す一部省略背面図。
【図6】図1におけるC矢視図。
【図7】切換操作手段の構成を示す側面図。
【図8】走行式動力散布機による畦畔の登坂状態を示す側面図。
【図9】走行式動力散布機が畦畔の上部に登りきった状態を示す側面図。
【図10】走行式動力散布機による畦畔の降坂状態を示す側面図。
【図11】貯留タンクの高さ調節方法を示す側面図。
【図12】緊急走行停止手段の構成を示す側面図。
【図13】緊急走行停止手段の構成を示す平面図。
【図14】リターンアームの作用形態を示す平面。
【図15】走行式動力散布機(条列二条跨ぎ式)の側面図。
【図16】図15におけるA矢視図。
【符号の説明】
【0060】
11L クローラ走行装置(左)
11R クローラ走行装置(右)
12 機体フレーム
15 駆動スプロケット
19 アイドラ
22L 操縦ハンドル(左)
22R 操縦ハンドル(右)
25 平行リンク機構
31 動力散布機
36 原動機
61 散布管
64 切換操作手段
S 強制揺動手段
Q 高さ調節手段
θ 所定角度(散布管)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイドラ(19)と駆動スプロケット(15)にクローラ(18)を巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置(11L,11R)と、両クローラ走行装置(11L,11R)を支持する機体フレーム(12)を備え、且つ該機体フレーム(12)に動力散布機(31)と走行用の原動機(36)を搭載すると共に操縦ハンドル(22L,22R)を備えた走行式動力散布機において、前記両クローラ走行装置(11L,11R)の接地部(G)に対する動力散布機(31)の高さ調節を行う高さ調節手段(Q)を設けたことを特徴とする走行式動力散布機。
【請求項2】
前記高さ調節手段(Q)を平行リンク機構(25)を用いて構成したことを特徴とする請求項1に記載の走行式動力散布機。
【請求項3】
アイドラ(19)と駆動スプロケット(15)にクローラ(18)を巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置(11L,11R)と、両クローラ走行装置(11L,11R)を支持する機体フレーム(12)を備え、且つ該機体フレーム(12)に動力散布機(31)と走行用の原動機(36)を搭載すると共に操縦ハンドル(22L,22R)を備えた走行式動力散布機において、前記動力散布機(31)の散布管(61)を水平方向に所定角度(θ)で揺動させる強制揺動手段(S)を設けたことを特徴とする走行式動力散布機。
【請求項4】
前記散布管(61)を揺動可能状態と揺動不能状態とに切換える切換操作手段(64)を設けたことを特徴とする請求項3に記載の走行式動力散布機。
【請求項1】
アイドラ(19)と駆動スプロケット(15)にクローラ(18)を巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置(11L,11R)と、両クローラ走行装置(11L,11R)を支持する機体フレーム(12)を備え、且つ該機体フレーム(12)に動力散布機(31)と走行用の原動機(36)を搭載すると共に操縦ハンドル(22L,22R)を備えた走行式動力散布機において、前記両クローラ走行装置(11L,11R)の接地部(G)に対する動力散布機(31)の高さ調節を行う高さ調節手段(Q)を設けたことを特徴とする走行式動力散布機。
【請求項2】
前記高さ調節手段(Q)を平行リンク機構(25)を用いて構成したことを特徴とする請求項1に記載の走行式動力散布機。
【請求項3】
アイドラ(19)と駆動スプロケット(15)にクローラ(18)を巻き掛けてなる左右一対のクローラ走行装置(11L,11R)と、両クローラ走行装置(11L,11R)を支持する機体フレーム(12)を備え、且つ該機体フレーム(12)に動力散布機(31)と走行用の原動機(36)を搭載すると共に操縦ハンドル(22L,22R)を備えた走行式動力散布機において、前記動力散布機(31)の散布管(61)を水平方向に所定角度(θ)で揺動させる強制揺動手段(S)を設けたことを特徴とする走行式動力散布機。
【請求項4】
前記散布管(61)を揺動可能状態と揺動不能状態とに切換える切換操作手段(64)を設けたことを特徴とする請求項3に記載の走行式動力散布機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−217854(P2006−217854A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33888(P2005−33888)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
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