説明

車両操舵制御システム

【課題】電力不足の状態が発生した場合に、システム重要度に応じた動作制御を行うことのできる技術を提供する。
【解決手段】EPS−ECU50は、VGRS−ECU20に対して、要求信号を送信する。VGRS−ECU20は、要求信号を受信すると、VGRSアクチュエータの制御を決定するとともに、ARSアクチュエータの制御も決定する。要求信号がアクチュエータの動作停止を要求する場合、VGRS−ECU20は、VGRSアクチュエータおよびARSアクチュエータを、それぞれ動作停止するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両操舵制御システムに関し、特に電力不足が発生した状態で操舵装置の動作制御を行う車両操舵制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、操舵軸を回転させるアクチュエータを用いて、運転者により操舵ハンドルに入力された操舵角に対する前輪の転舵角の伝達比(ステアリングギア比)を可変とするギア比可変ステアリング(VGRS:Variable Gear Ratio Steering)システムが知られている。VGRSシステムは、低車速時にステアリングギア比を大きくして、小さいハンドル操作で大きく転舵輪を転舵するように制御し、一方で高車速時にはステアリングギア比を小さくして、大きなハンドル操作を行っても大きく転舵輪を転舵しないように制御する。また後輪用転舵装置として、前輪の操舵状態に応じて後輪の転舵角をアクチュエータにより制御するアクティブリアステアリング(ARS:Active Rear Steering)システムも知られている。また運転者により操舵ハンドルに入力される操舵力をアシストするアクチュエータを備えた電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)システムも知られている。VGRSシステム、ARSシステムおよびEPSシステムは、操舵装置を構成する。
【0003】
特許文献1は、バッテリ電圧の低下時に、バッテリにかかる負荷を抑えつつ、操舵ハンドルの中立位置と転舵輪の車両直進位置との間のずれを補正するVGRSシステムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−208490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで操舵装置において、VGRSシステム、ARSシステムおよびEPSシステムは、同じバッテリから電源供給を受けている。バッテリ電圧が低下した場合には、重要度の高いシステムが最後まで動作し続け、重要度の低いシステムから、動作を停止していくことが好ましい。この操舵装置においては、運転者による操舵力をアシストするEPSシステムの重要度が最も高いため、バッテリ電圧低下時には、EPSシステムが最後まで動作し続ける必要がある。そこでシステム間で連携して、システム重要度に応じた動作制御を行う技術の開発が望まれている。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、電力不足が発生した状態で、システム重要度に応じた動作制御を行うことのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両操舵制御システムは、第1アクチュエータの動作を制御する第1制御装置と、第2アクチュエータの動作を制御する第2制御装置とを備えた車両操舵制御システムであって、第1制御装置は、バッテリ電圧を検出する第1電圧検出手段と、検出したバッテリ電圧に基づいて、第1要求信号を生成する第1要求信号生成手段と、第1要求信号を第2制御装置に送信する第1送信手段とを備える。第2制御装置は、第1要求信号を受信する受付手段と、第1要求信号に基づいて、第2アクチュエータに対する制御を決定する制御手段とを備える。
【0008】
この態様によると、第1制御装置が、電力状態に基づいて、第2制御装置による第2アクチュエータの制御内容を実質的に決定することができる。これにより電力が不足している状態において、第1制御装置が、第2アクチュエータの動作を停止させることで、第1アクチュエータに使用する電力を確保するような操舵装置の動作制御を行うことが可能となる。
【0009】
当該車両操舵制御システムは、第3アクチュエータの動作を制御する第3制御装置をさらに備えてもよい。第2制御装置は、情報を第3制御装置に送信する第2送信手段をさらに備えてもよい。制御手段は、第1要求信号に基づいて、第3アクチュエータに対する制御を定める制御情報を生成し、第2送信手段は、制御情報を第3制御装置に送信する。これにより、制御手段が、第1制御装置からの第1要求信号に基づいて、第3制御装置の第3アクチュエータの動作を制御することが可能となる。
【0010】
第1要求信号が、第2制御装置による第2アクチュエータの動作停止を要求する場合、制御手段は、第3アクチュエータの動作停止を定める制御情報を生成してもよい。第2アクチュエータおよび第3アクチュエータをともに動作停止にすることで、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【0011】
第2制御装置は、バッテリ電圧を検出する第2電圧検出手段をさらに備えてもよい。制御手段は、検出したバッテリ電圧に基づいて、第2アクチュエータに対する制御と第3アクチュエータに対する制御を同じように決定してもよい。第2アクチュエータおよび第3アクチュエータに対する制御を実質的に同一とすることで、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。
【0012】
第3制御装置は、バッテリ電圧を検出する第3電圧検出手段と、検出したバッテリ電圧に基づいて、第2要求信号を生成する第2要求信号生成手段と、第2要求信号を第2制御装置に送信する第3送信手段とをさらに備えてよい。制御手段は、第2要求信号に基づいて、第2アクチュエータに対する制御と第3アクチュエータに対する制御を同じように決定してもよい。第2アクチュエータおよび第3アクチュエータに対する制御を実質的に同一とすることで、運転者に違和感を与える可能性を低減することができる。なお第1制御装置はEPS制御装置であり、第2制御装置はVGRS制御装置であり、第3制御装置はARS制御装置であってよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電力不足が発生した状態で、システム重要度に応じた動作制御を行うことのできる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車両操舵制御システムが搭載された車両を概略的に示す図である。
【図2】本実施例の車両操舵制御システムの機能ブロックを示す図である。
【図3】EPS−ECUから送信される要求信号と、VGRSアクチュエータおよびARSアクチュエータに対して実行される制御の関係を示す図である。
【図4】VGRS−ECUにおいて生成される指示内容と、ARS−ECUにおいて生成される要求信号の関係を示す図である。
【図5】図3および図4の関係表をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、車両操舵制御システム1が搭載された車両を概略的に示す図である。この車両の車両操舵制御システム1は、運転者によって回動操作される操舵ハンドル10を備える。操舵ハンドル10は、操舵入力軸11の上端に固定されており、操舵入力軸11の下端は、伝達比可変アクチュエータであるVGRSアクチュエータ21に接続されている。VGRSアクチュエータ21は、電動モータであるVGRSモータおよび減速機を有し、操舵入力軸11の回転量(または回転角)に対して、減速機に接続された転舵出力軸12の回転量(または回転角)を適宜変更する。
【0016】
VGRSモータは、そのモータハウジングが操舵入力軸11と一体的に接続されており、運転者による操舵ハンドル10の回動操作に従って一体的に回転するようになっている。また、VGRSモータの駆動シャフトは減速機に接続されており、VGRSモータの回転力が駆動シャフトを介して減速機に伝達される。減速機は、所定のギア機構によって構成されており、転舵出力軸12は上端にてこのギア機構に接続されている。これにより減速機は、VGRSモータの回転力が駆動シャフトを介して伝達されると、ギア機構によって駆動シャフトの回転を減速して転舵出力軸12に伝達する。したがってVGRSアクチュエータ21は、VGRSモータの駆動シャフトを介して、操舵入力軸11と転舵出力軸12とを相対回転可能に連結している。
【0017】
また車両操舵制御システム1は、転舵出力軸12の下端に接続された前輪側転舵機構である前輪転舵ユニット40を備えている。前輪転舵ユニット40は、例えば、ラックアンドピニオン式を採用したギアユニットであり、転舵出力軸12の下端に一体的に組み付けられたピニオンギアの回転がラックバーに伝達されるようになっている。また、前輪転舵ユニット40には、運転者によって操舵ハンドル10に入力される操舵力(より具体的には、操舵トルク)を軽減するためのEPSアクチュエータ51が設けられている。EPSアクチュエータ51は電動モータであるEPSモータを有し、EPSモータの発生するトルク(所謂、アシスト力)がラックバーに伝達されるようになっている。
【0018】
この構成により、転舵出力軸12の回転力がピニオンギアを介してラックバーに伝達されるとともに、EPSアクチュエータ51のアシスト力がラックバーに伝達される。これによりラックバーは、ピニオンギアからの回転力およびEPSアクチュエータ51のアシスト力によって軸線方向に変位し、ラックバーの両端に接続された左右前輪FW1,FW2が左右に転舵されるようになっている。
【0019】
また車両操舵制御システム1は、左右前輪FW1,FW2の転舵に関連して左右後輪RW1,RW2を転舵させることができる。このため車両操舵制御システム1は、左右後輪RW1,RW2を転舵させるための後輪転舵ユニット41を備えている。後輪転舵ユニット41は、左右後輪RW1,RW2を転舵させる回転駆動力を発生するARSアクチュエータ31を備え、ARSアクチュエータ31は電動モータであるARSモータを有している。後輪転舵ユニット41は周知のギア機構を有していて、ARSモータの回転を減速するとともに、減速した回転運動を軸線方向運動に変換し、左右後輪RW1,RW2に伝達する。
【0020】
この構成により、運転者による操舵ハンドル10の回動操作に応じて、すなわち、左右前輪FW1,FW2の転舵に合わせてARSモータが回転駆動し、ギア機構によって減速された回転が軸線方向運動に変換される。そして、この軸線方向運動が左右後輪RW1,RW2に伝達されて、左右後輪RW1,RWが左右に転舵されるようになっている。
【0021】
車両操舵制御システム1において、VGRS制御装置(以下、「VGRS−ECU20」という)が、VGRSアクチュエータ21の動作を制御し、具体的にはVGRSモータの回転を制御して、前輪FW1,FW2に対して転舵角を与える。VGRS−ECU20およびVGRSアクチュエータ21は、VGRSシステム22を構成する。またARS制御装置(以下、「ARS−ECU30」という)が、ARSアクチュエータ31の動作を制御し、具体的にはARSモータの回転を制御して、後輪RW1,RW2に対して転舵角を与える。ARS−ECU30およびARSアクチュエータ31は、ARSシステム32を構成する。またEPS制御装置(以下、「EPS−ECU50」という)が、EPSアクチュエータ51の動作を制御し、具体的にはEPSモータの回転を制御して、運転者の操舵ハンドル10の操舵に対するアシスト力を提供する。EPS−ECU50およびEPSアクチュエータ51は、EPSシステム52を構成する。各ECUはCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備えている。
【0022】
本実施例の車両操舵制御システム1において、EPSシステム52、VGRSシステム22およびARSシステム32は車両用操舵装置を構成し、共通のバッテリ60から電力を供給される。たとえばバッテリ60は12Vバッテリであって、充電量が十分であれば12Vを出力する。バッテリ60が12Vを出力している限りにおいて、EPSシステム52、VGRSシステム22およびARSシステム32のそれぞれは、電力に関して問題なく動作可能である。
【0023】
しかしながらバッテリ60の出力電圧が低下し、または低下することが予測される状況下では、EPSシステム52、VGRSシステム22およびARSシステム32の全てが問題なく動作することは難しくなる。このような状況下において、車両操舵制御システム1では、EPSシステム52、VGRSシステム22およびARSシステム32に優先順位を定め、優先順位の低いシステムから動作を停止させる制御が実行される。
【0024】
本実施例の車両操舵制御システム1において、EPSシステム52は、運転者の操舵をアシストするため、操舵装置としての重要度は高い。そのためEPSシステム52の優先順位が最も高く設定され、バッテリ60の出力電圧が低下した場合には、VGRSシステム22およびARSシステム32が、EPSシステム52よりも先に、アクチュエータの動作を停止するように制御される。
【0025】
図2は、本実施例の車両操舵制御システム1の機能ブロックを示す図である。車両操舵制御システム1において、EPS−ECU50は、電力収支に関する情報を取得する。車両は、車両全体での電力状態を管理する制御装置(図示せず)を備えており、この制御装置を電力状態管理ECUと呼び、電力状態管理ECUは、車両で消費する電力と、車両で生成する電力との収支を管理する。消費電力は車両内の電子部品で使用される電力であり、生成電力はオルタネータなどにより発電される電力である。電力状態管理ECUは、これらの電力収支を管理し、電力収支に関する情報をEPS−ECU50に提供する。電力収支情報は、これから車両全体で電力が不足するか否かを予測する情報を含んでよい。
【0026】
EPS−ECU50において、電圧検出部53は、バッテリ60の電圧を検出している。要求信号生成部54は、電圧検出部53で検出したバッテリ電圧と、電力状態管理ECUから提供される電力収支情報とに基づいて、現在および将来の電力状態を把握する。要求信号生成部54は、電圧検出部53で検出したバッテリ電圧により現在の電力状態を把握し、さらに電力収支情報も加味することで、現在および将来において電力不足が発生するか否かを予測する。要求信号生成部54は、このようにして導出した電力状態が電力不足であることを示す場合、車両用操舵装置を構成する他のシステム、すなわちVGRSシステム22およびARSシステム32に対して、電力使用を停止または制限させる要求信号を生成する。
【0027】
要求信号生成部54は、電力状態に応じて2段階の要求信号を生成可能とし、具体的には、電力使用の即時停止を求める停止要求信号、または電力使用の緩やかな停止を求める制限要求信号を生成する。なお、要求信号はフラグの形式で生成されてよく、たとえば、停止要求フラグと制限要求フラグとが要求信号に含まれてよい。ここで、停止要求フラグのビット値1は、即時停止を求め、停止要求フラグのビット値0は、即時停止を求めないことを意味する。また制限要求フラグのビット値1は、緩やかな停止を求め、制限要求フラグのビット値0は、緩やかな停止を求めないことを意味する。したがって、停止要求フラグおよび制限要求フラグの双方のビット値が0に設定された要求信号は、電力使用の停止を求めるものではない。
【0028】
許容量導出部55は、VGRSシステム22およびARSシステム32が使用可能な電力量を導出する。許容量導出部55は、要求信号生成部54で導出した電力状態から、EPSシステム52で使用する電力を差し引いた分を、VGRSシステム22およびARSシステム32が使用可能な電力量(許容量)として導出する。このとき許容量導出部55は、EPSシステム52で使用する電力量を確保しつつ、残った電力量を、VGRSシステム22およびARSシステム32の許容量として導出してもよい。
【0029】
なお上記の例では、要求信号生成部54は、バッテリ電圧と、電力収支情報をもとに電力状態を導出しているが、要求信号生成部54は、単純にバッテリ電圧のみに基づいて、要求信号を生成してもよい。このように要求信号は、少なくともバッテリ電圧に基づいて生成される。また、このとき許容量導出部55は、バッテリ電圧と、EPSシステム52で使用する電力との関係で、VGRSシステム22およびARSシステム32が使用可能な電力量(許容量)を導出してもよい。
【0030】
送信部56は、要求信号生成部54で生成した要求信号および許容量導出部55で導出した許容量をVGRS−ECU20に送信する。送信部56は、要求信号および許容量を同じタイミングで送信してもよく、またそれぞれ独立したタイミングで送信してもよい。また送信部56は、要求信号および許容量を周期的に送信してもよく、また非周期的に送信してもよい。
【0031】
VGRS−ECU20において、受付部23が、EPS−ECU50から要求信号および許容量を受信する。制御部25は、受信した要求信号に基づいて、VGRSアクチュエータ21に対する制御を決定する。ここでVGRSアクチュエータ21に対する制御を決定するとは、VGRSアクチュエータ21を停止するのかしないのか、また停止する場合に、どのように停止するのかを特定することを意味している。
【0032】
本実施例の車両操舵制御システム1では、EPS−ECU50から送信される要求信号に応じて、VGRSシステム22におけるVGRSアクチュエータ21とARSシステム32におけるARSアクチュエータ31とが、同じように制御される。VGRSシステム22およびARSシステム32に対して別々の制御をすると、運転者の操舵に対する車両挙動が複雑となり、運転者に違和感を与えるおそれがある。そこで、VGRSシステム22およびARSシステム32に対して同じ制御を行うことで、前輪FW1,FW2および後輪RW1,RW2の転舵制御を揃えることとし、運転者に違和感を与えないようにする。
【0033】
図3は、EPS−ECU50から送信される要求信号と、VGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31に対して実行される制御内容の関係を示す。制御部25は、図3に示す要求信号と制御内容の関係を記憶しており、たとえば、この関係をテーブルとして保持している。「順位」の項目は、アクチュエータ制御の緊急度を表現し、1位は最も緊急度が高い。「電源モード」の項目は、各順位に対応する呼称を示し、「EPS要求」は、EPS−ECU50から送信される要求信号の種別を示す。「制御」の項目は、VGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31に対する制御内容を示す。なおVGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31は、三相ブラシレスモータであるVGRSモータおよびARSモータをそれぞれ有している。既述したように、要求信号に応じたVGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31に対する制御内容は、実質的に同一とされる。
【0034】
「電源停止」の電源モードでは、VGRSアクチュエータ21は、ロック装置を作動させることで、VGRSアクチュエータ21の回転が機械的に阻止され、電源供給が停止されて強制停止させられる。またARSアクチュエータ31は、各相に同一の電流値を供給して相固定とすることにより強制停止させられる。既述したように、「電源停止」の電源モードは、最も緊急度の高いモードである。なお、EPS−ECU50からの要求信号によって「電源停止」の電源モードは設定されない。
「相固定停止」の電源モードでは、VGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31ともに、各相に同一の電流値を供給して相固定とすることにより強制停止させられる。
「中立停止」の電源モードでは、VGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31ともに、短時間(たとえば数秒)で中立位置に戻され、停止させられる。
「電源通常」の電源モードでは、VGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31ともに、停止制御は実行されない。
【0035】
VGRS−ECU20において、受付部23がEPS−ECU50から要求信号を受信すると、制御部25が図3に示す関係を用いて、電源モードを特定し、またVGRSアクチュエータ21に対する制御を決定する。EPS−ECU50からの要求信号と電源モードの関係を説明する。
【0036】
停止要求フラグのビット値が1のとき、制御部25は、電源モードを「相固定停止」に設定する。EPS−ECU50において、要求信号生成部54は、電力不足が最も深刻であることを判定したときに、停止要求フラグのビット値を1にした要求信号を生成し、制御部25は、この要求信号に応じて、VGRSアクチュエータ21を相固定することで強制停止する。
【0037】
停止要求フラグのビット値が0で、制限要求フラグのビット値が1のとき、制御部25は、電源モードを「中立停止」に設定する。EPS−ECU50において、要求信号生成部54は、電力不足が深刻であり、VGRSシステム22およびARSシステム32の電力使用を制限する必要があることを判定したときに、制限要求フラグのビット値を1にした要求信号を生成する。制御部25は、この要求信号に応じて、VGRSアクチュエータ21を中立位置に戻して停止する。
【0038】
停止要求フラグのビット値および制限要求フラグのビット値が0のとき、制御部25は、電源モードを「電源通常」に設定する。EPS−ECU50において、要求信号生成部54は、電力不足が生じていないことを判定したときに、停止要求フラグのビット値および制限要求フラグのビット値を0にした要求信号を生成する。受付部23が、この要求信号を受け付けると、制御部25は、VGRSアクチュエータ21を停止しない。このとき分配部26は、受付部23が受け付けた許容量の範囲内で、VGRSシステム22において使用する電力量と、ARSシステム32において使用する電力量とを定める。たとえば受付部23が受け付けた許容量が50Wである場合、分配部26は、この許容量を、VGRSシステム22で使用する電力量を30W、ARSシステム32で使用する電力量を20Wと分配してもよい。
【0039】
制御部25が、EPS−ECU50から送信された要求信号をもとに電源モードを設定すると、送信部27が、この電源モードを、ARSアクチュエータ31に対する制御内容を定める制御情報としてARS−ECU30に送信する。なお、制御部25が電源モードを「電源通常」に設定した場合には、送信部27が、その「電源通常」を示す制御情報とともに、分配部26により分配された電力量もARS−ECU30に送信する。
【0040】
ARS−ECU30において、受付部37が、VGRS−ECU20から、ARSアクチュエータ31に対する制御内容を定める制御情報を受信する。既述したように、この制御情報は、電源モードを特定する情報であってよい。制御部35は、図3に示す電源モードとARSアクチュエータ31の制御内容の関係を保持しており、通知された電源モードにしたがって、ARSアクチュエータ31を制御する。具体的に制御部35は、電源モードが「相固定停止」であれば、ARSアクチュエータ31を相固定することで強制停止し、電源モードが「中立停止」であれば、ARSアクチュエータ31を中立位置に戻して停止する。また電源モードが「電源通常」であれば、制御部35は、受付部37が受信した電力量の範囲内で、ARSアクチュエータ31を動作させる。
【0041】
以上のように、VGRS−ECU20において、制御部25は、EPS−ECU50から送信された要求信号がVGRSアクチュエータ21の動作停止を要求する場合、VGRSアクチュエータ21の動作を停止させるとともに、ARS−ECU30に対して、ARSアクチュエータ31の動作停止を定める制御情報を生成する。EPS−ECU50が動作停止を要求した場合には、VGRSシステム22およびARSシステム32の動作を同じように停止することで、運転者に違和感を与えない操舵制御を実現する。
【0042】
以上、VGRSシステム22およびARSシステム32が、EPS−ECU50からの要求信号に応じて、それぞれのVGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31の動作を同じように制御する例を説明した。以下では、VGRSシステム22およびARSシステム32が、それぞれの電圧検出結果に応じて、VGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31の動作を同じように制御する例を説明する。
【0043】
VGRS−ECU20において、電圧検出部24は、バッテリ60の電圧を検出している。制御部25は、電圧検出部24で検出された電圧を、所定の閾値と比較し、比較結果に応じて、VGRSアクチュエータ21に対する指示を生成するとともに、ARS−ECU30に通知するための制御情報を生成する。また同様に、ARS−ECU30において、電圧検出部33は、バッテリ60の電圧を検出している。制御部35は、電圧検出部33で検出された電圧を、所定の閾値と比較し、要求信号生成部34は、比較結果に応じた要求信号を生成する。図4は、VGRS−ECU20において生成される指示内容と、ARS−ECU30において生成される要求信号の関係を示す。
【0044】
以下、VGRS−ECU20における指示生成処理を説明する。電圧検出部24におけるバッテリ60の検出電圧をV1とする。
(a1)検出電圧V1が、閾値Va以上(V1≧Va)である場合
閾値Vaは、たとえば11.5Vに設定される。この場合、制御部25は、VGRSアクチュエータ21を停止する必要がないことを判定し、VGRSアクチュエータ21の停止指示は生成しない。また、図4に示す関係にしたがって、制御部25は、電源モードを「電源通常」に設定する。
(b1)検出電圧V1が、閾値Vb以上、Vaより小さい(Vb≦V1<Va)場合
閾値Vbは、たとえば10Vに設定される。この場合、制御部25は、VGRSアクチュエータ21を中立停止する必要があることを判定し、出力制限指示を生成する。制御部25は、出力制限指示にしたがって、VGRSアクチュエータ21を中立停止する。また、図4に示す関係にしたがって、制御部25は、電源モードを「中立停止」に設定する。
(c1)検出電圧V1が、閾値Vc以上、Vbより小さい(Vc≦V1<Vb)場合
閾値Vcは、たとえば9Vに設定される。この場合、制御部25は、VGRSアクチュエータ21を緊急停止する必要があることを判定し、緊急停止指示を生成する。制御部25は、緊急停止指示にしたがって、VGRSアクチュエータ21を相固定停止する。また、図4に示す関係にしたがって、制御部25は、電源モードを「相固定停止」に設定する。
(d1)検出電圧V1が、閾値Vcより小さい(V1<Vc)場合
この場合、制御部25は、バッテリ60に大きな異常があることを判定し、ロック挿入停止指示を生成する。制御部25は、ロック挿入停止指示にしたがって、VGRSアクチュエータ21に対してロック装置を作動させ、VGRSアクチュエータ21の回転を機械的に阻止する。また、図4に示す関係にしたがって、制御部25は、電源モードを「電源停止」に設定する。
【0045】
制御部25が、電圧検出部24で検出されたバッテリ電圧に基づいて、電源モードを設定すると、送信部27が、この電源モードを、ARSアクチュエータ31に対する制御内容を定める制御情報としてARS−ECU30に送信する。ARS−ECU30において、受付部37が、VGRS−ECU20から、ARSアクチュエータ31に対する制御内容を定める制御情報を受信する。制御部35は、図4に示す電源モードとARSアクチュエータ31の制御内容の関係を保持しており、通知された電源モードにしたがって、ARSアクチュエータ31を制御する。具体的に制御部35は、電源モードが「電源停止」および「相固定停止」であれば、ARSアクチュエータ31を相固定することで強制停止し、電源モードが「中立停止」であれば、ARSアクチュエータ31を中立位置に戻して停止する。また電源モードが「電源通常」であれば、制御部35は、受付部37が受信した電力量の範囲内で、ARSアクチュエータ31を動作させる。
【0046】
以上のように、VGRS−ECU20において、制御部25は、電圧検出部24で検出したバッテリ電圧に基づいて、VGRSアクチュエータ21に対する制御と、ARSアクチュエータ31に対する制御が同じとなるように決定する。VGRSシステム22でVGRSアクチュエータ21の動作を停止する場合、ARSシステム32においてもARSアクチュエータ31の動作を停止することで、運転者に違和感を与えない操舵制御を実現する。
【0047】
次に、ARS−ECU30における要求信号生成処理を説明する。電圧検出部33におけるバッテリ60の検出電圧をV2とする。
(a2)検出電圧V2が、閾値Va以上(V2≧Va)である場合
この場合、制御部35は、停止要求フラグおよび制限要求フラグのビット値を0にした要求信号を生成し、送信部36が、VGRS−ECU20に送信する。
(b2)検出電圧V2が、閾値Vb以上、Vaより小さい(Vb≦V2<Va)場合
この場合、制御部35は、停止要求フラグのビット値を0、制限要求フラグのビット値を1にした要求信号を生成し、送信部36が、VGRS−ECU20に送信する。
(c3)検出電圧V2が、Vbより小さい(V2<Vb)場合
この場合、制御部35は、停止要求フラグのビット値を1、制限要求フラグのビット値を1にした要求信号を生成し、送信部36が、VGRS−ECU20に送信する。
【0048】
VGRS−ECU20において、受付部23が、ARS−ECU30から要求信号を受信し、制御部25は、この要求信号に基づいて、図4の関係を参照して、VGRSアクチュエータ21に対する制御を決定するとともに、電源モードを特定する。送信部27は、特定した電源モードをARS−ECU30に送信する。このように制御部25は、ARS−ECU30からの要求信号に基づいて、VGRSアクチュエータ21に対する制御とARSアクチュエータ31に対する制御とが同じになるように決定する。これにより運転者に違和感を与えない操舵制御を実現する。
【0049】
なお、この例では、ARSアクチュエータ31の制御内容をVGRS−ECU20で決定することを説明したが、制御部35が、電圧検出部33の検出電圧に基づいて、図4に示す関係を用いて、自律的にARSアクチュエータ31の制御内容を決定してもよい。
【0050】
以上、EPS−ECU50における要求信号、VGRS−ECU20における検出電圧、ARS−ECU30における要求信号に応じて、VGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31の制御が決定されることを説明した。制御部25は、各要求信号や検出電圧にしたがって、最も厳しい電源モードを特定する。
【0051】
図5は、図3および図4の関係表をまとめた図である。たとえば制御部25は、EPS−ECU50からの要求信号に応じた電源モードが「中立停止」であることを特定する。また制御部25は、電圧検出部24の検出電圧に応じた電源モードが「相固定停止」であることを特定する。また制御部25は、ARS−ECU30からの要求信号に応じた電源モードが「電源通常」であることを特定する。以上のように、各システムからの情報に基づいて、複数の電源モードが特定される場合を検討する。
【0052】
このような場合、制御部25は、最も厳しい電源モード、すなわち最も順位の高い電源モードを、車両操舵制御システム1における電源モードとして設定する。ここでは、順位2の「相固定停止」の電源モードが最も厳しく、したがって、制御部25は、VGRSアクチュエータ21およびARSアクチュエータ31がともに相固定停止されるべきことを判定する。
【0053】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0054】
たとえば電力状態が改善されたために、特定した電源モードの順位が下がるような場合、制御部25は、すぐに電源モードを変更するのではなく、所定時間、順位の下がった電源モードが維持されることを条件として、電源モードを変更してもよい。一方で、特定した電源モードに対して、より順位の高い電源モードが新たに特定される場合には、制御部25は、即座に電源モードを変更することが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
1・・・車両操舵制御システム、10・・・操舵ハンドル、11・・・操舵入力軸、12・・・転舵出力軸、20・・・VGRS−ECU、21・・・VGRSアクチュエータ、22・・・VGRSシステム、23・・・受付部、24・・・電圧検出部、25・・・制御部、26・・・分配部、27・・・送信部、30・・・ARS−ECU、31・・・ARSアクチュエータ、32・・・ARSシステム、33・・・電圧検出部、34・・・要求信号生成部、35・・・制御部、36・・・送信部、37・・・受付部、40・・・前輪転舵ユニット、41・・・後輪転舵ユニット、50・・・EPS−ECU、51・・・EPSアクチュエータ、52・・・EPSシステム、53・・・電圧検出部、54・・・要求信号生成部、55・・・許容量導出部、56・・・送信部、60・・・バッテリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アクチュエータの動作を制御する第1制御装置と、第2アクチュエータの動作を制御する第2制御装置とを備えた車両操舵制御システムであって、
前記第1制御装置は、
バッテリ電圧を検出する第1電圧検出手段と、
検出したバッテリ電圧に基づいて、第1要求信号を生成する第1要求信号生成手段と、
第1要求信号を前記第2制御装置に送信する第1送信手段と、を備え、
前記第2制御装置は、
第1要求信号を受信する受付手段と、
第1要求信号に基づいて、前記第2アクチュエータに対する制御を決定する制御手段と、を備える、
ことを特徴とする車両操舵制御システム。
【請求項2】
当該車両操舵制御システムは、第3アクチュエータの動作を制御する第3制御装置をさらに備え、
前記第2制御装置は、情報を前記第3制御装置に送信する第2送信手段をさらに備え、
前記制御手段は、第1要求信号に基づいて、前記第3アクチュエータに対する制御を定める制御情報を生成し、
前記第2送信手段は、制御情報を前記第3制御装置に送信する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両操舵制御システム。
【請求項3】
第1要求信号が、前記第2制御装置による前記第2アクチュエータの動作停止を要求する場合、前記制御手段は、前記第3アクチュエータの動作停止を定める制御情報を生成することを特徴とする請求項2に記載の車両操舵制御システム。
【請求項4】
前記第2制御装置は、
バッテリ電圧を検出する第2電圧検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、検出したバッテリ電圧に基づいて、前記第2アクチュエータに対する制御と前記第3アクチュエータに対する制御を同じように決定することを特徴とする請求項2または3に記載の車両操舵制御システム。
【請求項5】
前記第3制御装置は、
バッテリ電圧を検出する第3電圧検出手段と、
検出したバッテリ電圧に基づいて、第2要求信号を生成する第2要求信号生成手段と、
第2要求信号を前記第2制御装置に送信する第3送信手段と、をさらに備える、
ことを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の車両操舵制御システム。
【請求項6】
前記制御手段は、第2要求信号に基づいて、前記第2アクチュエータに対する制御と前記第3アクチュエータに対する制御を同じように決定することを特徴とする請求項5に記載の車両操舵制御システム。
【請求項7】
前記第1制御装置は、EPS制御装置であり、前記第2制御装置は、VGRS制御装置であり、前記第3制御装置は、ARS制御装置であることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の車両操舵制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112264(P2013−112264A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261968(P2011−261968)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】