車両用操舵装置および操舵制御方法
【課題】ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすること。
【解決手段】操向輪9FR、9FLの操舵において発生する路面と操向輪9FR、9FLとの摩擦エネルギを算出する摩擦エネルギ算出手段と、摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはステアリングラック部材7のラック軸力を推定する操舵力推定手段と、操舵力推定手段が推定した操舵トルクあるいはラック軸力に応じて、ステアバイワイヤシステムにおける操舵反力用モータ5aの駆動制御を行う操舵反力用モータ制御手段とを有する車両用操舵装置とした。
【解決手段】操向輪9FR、9FLの操舵において発生する路面と操向輪9FR、9FLとの摩擦エネルギを算出する摩擦エネルギ算出手段と、摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはステアリングラック部材7のラック軸力を推定する操舵力推定手段と、操舵力推定手段が推定した操舵トルクあるいはラック軸力に応じて、ステアバイワイヤシステムにおける操舵反力用モータ5aの駆動制御を行う操舵反力用モータ制御手段とを有する車両用操舵装置とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵を行う車両用操舵装置およびその操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者が操舵操作を行う操舵入力軸と、操向輪の転舵を行う操舵出力軸とが機械的に分離した車両用の操舵装置(以下、「ステアバイワイヤシステム」と称する。)が知られている。
ステアバイワイヤシステムにおいては、操舵反力を発生するためのアクチュエータを備え、運転者の操舵操作に応じた操舵反力を付与している。このとき、車輪に入力する外力を操舵反力に反映させるため、ラック軸力に対応した操舵反力を付与することがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、車輪を転舵するラック軸の軸力を推定し、操舵角に基づいて算出した目標操舵反力を、推定したラック軸力を用いて補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−219552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、操向輪の転舵角を保持するために要する電動モータのロック電流を基に、ラック軸の軸力を推定している。
この場合、車両が停止している状態で転舵した状態や制動している状態等では、ラック軸力の推定精度が低下し、適切な操舵反力の付与を行えない場合がある。
即ち、従来のラック軸力の推定を用いた操舵制御技術では、操舵反力の推定精度が十分でなく、付与する操舵反力が適切なものとならない場合があった。
【0006】
本発明の課題は、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用操舵装置は、摩擦エネルギ算出手段によって、操向輪の操舵において発生する路面と操向輪との摩擦エネルギを算出し、操舵力推定手段によって、摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはラック軸力を推定する。さらに、推定した操舵トルクあるいはラック軸力に応じて、操舵反力用モータの駆動制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、操舵時における路面と操向輪との摩擦エネルギを算入して操舵トルクあるいはラック軸力を推定するため、操向輪のねじりに基づく力を含む操舵トルクあるいはラック軸力の推定値とすることができる。そして、その推定値を用いて、操舵操作に対する操舵反力を付与する。
したがって、操舵トルクあるいはラック軸力をより高精度に推定することができ、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る車両用操舵装置および操舵制御方法を適用した自動車1の構成を示す概略図である。
【図2】コントロール/駆動回路ユニット15における操舵系統の制御機能を示すブロック図である。
【図3】コントロール/駆動回路ユニット15が実行する操舵トルク推定処理を示すフローチャートである。
【図4】ステップS1において設定する車両パラメータを示す模式図である。
【図5】ステップS2において設定する座標系を示す模式図である。
【図6】タイヤ接地面の任意の点の変位(z軸方向)を示す図である。
【図7】タイヤ接地面の任意の点の変位(x軸方向)を示す図である。
【図8】タイヤ接地面の任意の点の変位(y軸方向)を示す図である。
【図9】タイヤ接地面積の算出方法を示す模式図である。
【図10】タイヤ接地面における接地荷重を示す模式図である。
【図11】操舵時におけるタイヤ接地面形状の変化を示す模式図である。
【図12】単位接地面積あたりの操舵に要する仕事量を示す模式図である。
【図13】一輪分のねじりトルクを算出するモデルを示す模式図である。
【図14】操舵においてキングピン軸周りに作用する力(左前輪の場合)を示す模式図である。
【図15】二輪分のねじりトルクを算出するモデルを示す模式図である。
【図16】摩擦ねじりトルク分および車体持ち上げトルク分のラック軸力を示す図である。
【図17】ブレーキ圧と制動力係数τとの関係例を示す図である。
【図18】操舵トルク推定処理によって算出したラック軸力F(推定値)と、操舵角との関係を示す図である。
【図19】実車実験によって取得したラック軸力(実測値)と、操舵角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明に係る車両用操舵装置および操舵制御方法を適用した自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3aと、出力側ステアリング軸3bと、操舵角センサ4(操舵角検出手段)と、操舵反力用モータ5aと、転舵用モータ5bと、ピニオンギア6と、ステアリングラック部材7と、タイロッド8と、車輪9FR,9FL,9RR,9RLと、ブレーキディスク10と、ホイールシリンダ11と、ブレーキ圧センサ12(制動力検出手段)と、圧力制御ユニット13と、車輪速センサ14FR,14FL,14RR,14RL(車速検出手段)と、コントロール/駆動回路ユニット15とを備えている。
【0011】
これらのうち、ステアリングホイール2、入力側ステアリング軸3a、出力側ステアリング軸3b、操舵角センサ4、操舵反力用モータ5a、転舵用モータ5b、ピニオンギア6、ステアリングラック部材7、タイロッド8およびコントロール/駆動回路ユニット15が本発明に係るステアバイワイヤ(SBW)方式の車両用操舵装置1Bを構成している。また、操舵角センサ4およびコントロール/駆動回路ユニット15が本発明に係る操舵力推定装置1Cを構成している。
【0012】
ステアリングホイール2は、入力側ステアリング軸3aと一体に回転するよう構成され、運転者による操舵入力を入力側ステアリング軸3aに伝達する。
入力側ステアリング軸3aは、操舵反力用モータ5aを備えており、ステアリングホイール2から入力した操舵入力(即ち回転動作)に対し、操舵反力用モータ5aによる操舵反力を加える。
【0013】
操舵角センサ4は、入力側ステアリング軸3aの回転角度(即ち、運転者によるステアリングホイール2への操舵入力角度)を検出する。そして、操舵角センサ4は、検出した入力側ステアリング軸3aの回転角度をコントロール/駆動回路ユニット15に出力する。
操舵反力用モータ5aは、モータ軸と一体に回転するギアが入力側ステアリング軸3aの一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット15の指示に従って、ステアリングホイール2による入力側ステアリング軸3aの回転に対して反力を付与する。
【0014】
転舵用モータ5bは、モータ軸と一体に回転するギアが出力側ステアリング軸3bの一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット15の指示に従って、出力側ステアリング軸3bを回転させる。
ピニオンギア6は、ステアリングラック部材7と噛合しており、出力側ステアリング軸3bから入力した回転をステアリングラック部材7に伝達する。
【0015】
ステアリングラック部材7は、ピニオンギア6と噛合する平歯を有し、ピニオンギア6の回転を車幅方向の直線運動に変換する。
タイロッド8は、ステアリングラック部材7の両端部と車輪9FR,9FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
車輪9FR,9FL,9RR,9RLは、タイヤホイールにタイヤを取り付けて構成したものであり、それぞれサスペンション装置を介して車体1Aと連結している。これらのうち、前輪(車輪9FR,9FL)は、タイロッド8によってナックルアームが揺動することにより、車体1Aに対する車輪9FR,9FLの向きが変化する。
【0016】
ブレーキディスク10は、車輪9FR,9FL,9RR,9RLと一体に回転し、ホイールシリンダ11の押圧力がブレーキパッドを押し当てると、その摩擦力によって制動力を発生する。
ホイールシリンダ11は、各車輪に設置されたブレーキパッドを、ブレーキディスク10に押し当てる押圧力を発生する。
【0017】
ブレーキ圧センサ12は、ホイールシリンダ11がブレーキディスク10に付与するブレーキ圧(具体的にはブレーキ液圧)を検出する。そして、ブレーキ圧センサ12は、検出したブレーキ圧をコントロール/駆動回路ユニット15に出力する。なお、本実施形態では、制動力に相当する物理量として、検出が容易なブレーキ圧を用いることとするが、制動力に相当する物理量を検出できれば、他のセンサを用いることもできる。
【0018】
圧力制御ユニット13は、コントロール/駆動回路ユニット15の指示に従って、各車輪に設置したホイールシリンダ11のブレーキ圧力を制御する。
車輪速センサ14FR,14FL,14RR,14RLは、各車輪の回転速度を示すパルス信号を、コントロール/駆動回路ユニット15に出力する。
コントロール/駆動回路ユニット15は、自動車1全体を制御するものであり、操舵角センサ4から入力する操舵角、車輪速センサから入力する車輪の回転速度およびブレーキ圧センサ12から入力するブレーキ圧に基づいて、各種制御信号を生成する。例えば、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵角センサ4から入力する操舵角および車輪速センサから入力する車輪の回転速度を基に、後述する操舵トルク推定処理を実行し、操舵トルクを算出する。また、コントロール/駆動回路ユニット15は、算出した操舵トルクをブレーキの作動状態に応じて補正し、補正した操舵トルクの推定値を基に、操舵反力用モータ5aに対する指令値を出力する。
【0019】
図2は、コントロール/駆動回路ユニット15における操舵系統の制御機能を示すブロック図である。
図2において、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵トルク推定部110(操舵力推定手段)と、ブレーキ作動判定部120と、操舵反力用モータ制御部130と、減算器140と、電流検出回路150と、操舵反力用モータ駆動回路160とを備えている。なお、操舵反力用モータ制御部130、減算器140、電流検出回路150および操舵反力用モータ駆動回路160がモータ制御手段を構成している。
【0020】
操舵トルク推定部110には、車輪速センサ14FR,14FLから車輪速(車輪の回転速度を示すパルス信号)、操舵角センサ4から操舵入力角度、ブレーキ作動判定部120からブレーキの作動の有無および各車輪の制動状態を示す各信号が入力する。
そして、操舵トルク推定部110は、後述する操舵トルク推定処理を実行することにより、操舵トルクを推定する。
なお、操舵トルク推定部110は、操舵トルク推定処理を実行することによって実現する摩擦ねじりトルク算出部110a(摩擦エネルギ算出手段)および車体持ち上げトルク算出部110b(ポテンシャルエネルギ算出手段)を有している。
摩擦ねじりトルク算出部110aは、操舵時に発生するタイヤと路面との摩擦によるねじりトルクを算出する。
【0021】
車体持ち上げトルク算出部110bは、操舵時に発生する車体1Aの上下方向の変位による持ち上げトルクを算出する。
ブレーキ作動判定部120は、ブレーキ圧センサ12から入力するブレーキ圧を基に、ブレーキ踏力が発生しているか否か、即ち、ブレーキの作動の有無を判定し、判定結果および各車輪の制動状態を操舵トルク推定部110に出力する。
【0022】
操舵反力用モータ制御部130は、操舵トルク推定部110が推定した操舵トルクの推定値を基に、操舵トルクと操舵反力との関係を定義したマップを参照して、操舵反力用モータ5aにおける操舵反力の指令値を算出する。
減算器140は、操舵反力用モータ制御部130が算出した操舵反力の指令値から、電流検出回路150が検出した操舵反力(現在値)を減算し、操舵反力用モータ駆動回路160に出力する。
【0023】
電流検出回路150は、操舵反力用モータ駆動回路160が操舵反力用モータ5aに入力する駆動電流を検出し、操舵反力(現在値)に変換して減算器140に出力する。
操舵反力用モータ駆動回路160は、減算器140から入力する操舵反力用モータ5aの駆動信号を基に駆動電流を生成し、操舵反力用モータ5aに出力する。
【0024】
(操舵トルク推定処理)
次に、コントロール/駆動回路ユニット15が実行する操舵トルク推定処理について説明する。以下で説明する操舵トルク推定処理は、本発明に係る操舵制御方法を実現するものである。
なお、以下の説明においては、多自由度のマルチボディダイナミクスによって車両を取り扱うため、空間内における物体の姿勢の記載方法および用語の定義については、「ロボティクス機構・力学・制御」(John J.Craig 著、三浦宏文・下山勲 訳、共立出版、1991年発行)に準ずるものとする。
【0025】
図3は、コントロール/駆動回路ユニット15が実行する操舵トルク推定処理を示すフローチャートである。以下で説明する操舵トルク推定処理は、本発明に係る操舵制御方法を実現するものである。
コントロール/駆動回路ユニット15は、イグニションオンと共に操舵トルク推定処理を実行する。
操舵トルク推定処理を開始すると、コントロール/駆動回路ユニット15は、車両パラメータを設定する(ステップS1)。
【0026】
図4は、ステップS1において設定する車両パラメータを示す模式図である。
図4に示すように、ステップS1において、コントロール/駆動回路ユニット15は、車両の前軸荷重mf(左前輪はmfl、右前輪はmfrと表す)、トレッドle、ホイールセンタ(W/C)の高さWz、タイヤ幅tw、タイヤ半径tr、サスペンションの最大ラックストローク量rsmax、初期キャンバ角φx、初期キャスタ角φy、スクラブ半径Pkpy、キャスタトレイルPkpx、タイヤの摩擦係数μ(ここでは固定値とする)を設定する。これらの車両パラメータは、車両の諸元等に基づいて予め把握することができる。なお、図4中のFはラック軸力、liは単位接地面の移動距離、Tはキングピン軸周りのトルク、dzはホイールセンタの上下変位である。
【0027】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、キングピン(K/P)軸を基準とした座標系の設定を行う(ステップS2)。
図5は、ステップS2において設定する座標系を示す模式図である。
なお、図5においては、左前輪のキングピン軸について設定する座標系を例として示している。
図5に示すように、ステップS2では、車両前後方向前方をx軸の正方向、車幅方向外方をy軸の正方向、車両上下方向上方をz軸の正方向、車両前軸の中心を原点とする3次元のxyz座標(基準座標{O})を設定する。
ここで、図5においては、車両を基準とする座標系{O}と平行な座標であってキングピン軸と路面との交点を原点とする座標系{A}、座標系{A}と車両前方を同一軸としZ軸がキングピン軸と同一の方向となるように姿勢変換した座標系{K}、座標系{O}と平行な座標であってホイールセンタを原点として設定した座標系{C}を併せて設定する。
【0028】
図5に示す座標系において、キングピン傾角をφkpx、キャスタ角をΦkpy、キングピン軸周りの回転角をΦkpzとする。また、キャスタトレイルPkpx、スクラブ半径Pkpyとすると、タイヤ接地面の任意の点K(接地面と接触するタイヤの任意の点)からキングピン軸と路面との交点までのベクトルPKは次式(1)のように定義することができる。
CPK=[Pkpx,Pkpy,0]C (1)
ただし、PKの添え字Cは、座標系{C}におけるベクトルであることを示す。
また、絶対座標{K}を基準としたタイヤ姿勢を示す回転行列Rは、次式(2)のように表すことができる。
KR=RX(Φkpy)RY(Φkpx)RZ(Φkpz)(RZ(0)RY(−Φkpy)RX(−Φkpx)) (2)
【0029】
ただし、(2)式に示す回転行列Rの各係数は、タイヤを据え切りした時の接地面形状の変化を計測することによって実験により求めたり、シミュレーションによって求めたりすることができる。
したがって、任意のベクトルCPKがキングピン軸周りにΦkpz回転したときの絶対座標を基準としたベクトルは、KRCPKで表すことができる。
(2)式に、操舵角を基に算出したキングピン軸の回転角および車両パラメータを代入すると、タイヤ接地面の任意の点のx、y、z軸方向の変位を求めることができる。
【0030】
図6〜8は、タイヤ接地面の任意の点の変位を示す図であり、図6はz軸方向の変位、図7はx軸方向の変位、図8はy軸方向の変位を示している。なお、図6〜8においては、トー角の変化に対応する各方向の変位を示している。
なお、図6〜8において、横軸に示すトー角は、基準座標から見たZ軸方向の回転角である。
【0031】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵中立位置でのタイヤ接地面積およびタイヤ姿勢の算出を行う(ステップS3)。
ステップS3において、タイヤ接地面積およびタイヤ姿勢は車両パラメータから算出することができる。
【0032】
図9は、タイヤ接地面積の算出方法を示す模式図である。
図9においては、初期キャンバ角を0とした場合のタイヤ接地面積を算出する方法を例として示している。
図9に示すように、タイヤ半径trおよびホイールセンタ高さWzから、タイヤ接地面のx軸方向の長さ(タイヤ接地長lx)を算出することができる。そして、タイヤ接地長lxとタイヤ幅twとを乗算することにより、タイヤ接地面積Sfを算出できる。なお、初期キャンバ角が0以外の場合には、実験あるいはシミュレーションを基にタイヤの傾斜を考慮したタイヤ接地面の形状に補正し、タイヤ接地面積Sfを算出できる。
【0033】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵角センサ4が検出する操舵角を取得する(ステップS4)。
そして、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵時のタイヤ姿勢を算出する(ステップS5)。
ステップS5において、コントロール/駆動回路ユニット15は、キングピン軸周りにタイヤを回転させた場合の座標{K}を基準としたタイヤ姿勢、タイヤ接地面形状およびホイールセンタ位置を算出する。このとき、コントロール/駆動回路ユニット15は、(2)式の行列式(タイヤ姿勢を示す行列式)を基にタイヤ接地面の任意の点のx軸、y軸およびz軸方向の変位を算出する。具体的には、コントロール/駆動回路ユニット15は、タイヤ(車輪)を円柱とみなし、キングピン軸周りにΔΦ回転した(転舵した)ときのタイヤ姿勢を例えば単位量1mmとして算出する。そして、タイヤ接地面積が同一となるように転舵後の新たなホイールセンタ高さを算出し、転舵前の状態からΔΦ回転した姿勢において、各単位接地面あたりで移動した並進量をΔxとして算出する。Δxは、車両の基準座標の値に換算する。なお、タイヤにおける新たに接地した面および路面から離れた面については、Δx=0とする。
【0034】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵によって発生する仕事量を算出する(ステップS6)。
ここで、操舵によって発生する仕事量は、タイヤと路面との摩擦に対して行った仕事量と、車体1Aを持ち上げるために行った仕事量とに分けることができる。
ステップS6において、コントロール/駆動回路ユニット15は、(2)式を用いて幾何学的に算出した操舵によるタイヤ接地面形状の変化を基に、タイヤと路面との摩擦トルクに対して行った仕事量Wfを算出する。
【0035】
図10は、タイヤ接地面における接地荷重を示す模式図である。
図10において、タイヤ接地面の面圧分布を一定であるものとすると、タイヤ接地面における単位面積当たりの接地荷重は、輪荷重mf(左輪荷重mflあるいは右輪荷重mfr)および接地面積Nfを用いて、mf/Nfと表すことができる。
また、図11は、操舵時におけるタイヤ接地面形状の変化を示す模式図である。
【0036】
図11に示すように、操舵後のタイヤ接地面積は、操舵中立時のタイヤ接地面積に対して総面積に変化がないものと仮定する。
そして、ステップS5において算出したタイヤ接地面の任意の点の変位を基に、タイヤ接地面における各単位接地面積の移動量Δxについての仕事量を定義する。即ち、転舵前と転舵後において、着目するタイヤ接地面の点(タイヤ側の着目点)は、路面との摩擦を伴いながら路面上を移動する。したがって、各単位接地面積ごとに、路面上を摩擦に抗して移動した距離Δxを算出し、その移動についての仕事量を定義する。
【0037】
図12は、単位接地面積あたりの操舵に要する仕事量を示す模式図である。
図12において、各単位接地面積が操舵に要する仕事量wi(iは自然数)は、重力加速度gを用いて、
wi=μ×mi×g×Δxi (3)
と表すことができる。
すると、タイヤ接地面積全体での仕事量Wfは、次式(4)のように表すことができる。
Wf=μ(mf・g/Nf)ΣΔxi(ただし、i=1〜Nf) (4)
コントロール/駆動回路ユニット15は、(4)式を基に一輪分の操舵によるねじりトルクを算出するモデルを設定する。
【0038】
図13は、一輪分のねじりトルクを算出するモデルを示す模式図である。
図13に示すモデルでは、タイヤ接地面の各単位接地面ごとに変位が算出してあり、その変位から決まる仕事量wiが対応付けてある。
また、ステップS6において、車体1Aを持ち上げるために行った仕事量は、ホイールセンタの高さの変化を基に、前軸荷重とホイールセンタ高さの変化との乗算を基に算出することができる。
【0039】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、キングピン軸周りのモーメント(一輪分)を算出する(ステップS7)。
ステップS7において、コントロール/駆動回路ユニット15は、車体1Aの上下方向の変位による持ち上げトルク(以下、「車体持ち上げトルク」と称する。)と、タイヤと路面との摩擦によるねじりトルク(以下、「摩擦ねじりトルク」と称する。)とをそれぞれ算出し、これらを合計する。なお、ステップS7において、摩擦ねじりトルクを算出する処理が摩擦ねじりトルク算出部110aに対応し、車体持ち上げトルクを算出する処理が車体持ち上げトルク算出部110bに対応している。
【0040】
図14は、操舵においてキングピン軸周りに作用する力(左前輪の場合)を示す模式図である。
図14において、一輪についての輪荷重は左前輪の前軸荷重mflと重力加速度gとを用いて、mfl・gと表すことができる。また、ホイールセンタの上下変位をdz、操舵によるラック軸のストローク(ラックストローク)をrs、単位接地面の移動距離をliと表す。
【0041】
車体持ち上げトルクは、ホイールセンタ高さの変化(ホイールセンタ上下変位dz)に基づく仕事量から算出することができ、次式(5)〜(7)のように表すことができる。
車体を持ち上げるポテンシャルエネルギー(一輪分)U1:
U1=−mfl×g×dz (5)
キングピン軸周りに働く持ち上げトルク(一輪分)T1:
T1=∂U1/∂Φkpz (6)
ラック軸力(一輪分)F1:F1=∂U1/∂rs (7)
【0042】
また、摩擦ねじりトルクは、タイヤ接地面形状の変化から算出することができ、次式(8)〜(10)のように表すことができる。
摩擦力によるポテンシャルエネルギー(一輪分)U2:
U2=−Σ(μ・mfl・g・li/Nf) (8)
ただし、自然数i=1〜Nf。
キングピン軸周りに働く持ち上げトルクT2:
T2=∂U2/∂Φkpz (9)
ラック軸力(一輪分)F2:F2=∂U2/∂rs (10)
【0043】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、(5)〜(10)式を基に、キングピン軸周りの回転で生じる二輪分のねじりトルク(摩擦ねじりトルク)を算出するモデルを設定し、合計の操舵トルクを算出する(ステップS8)。
図15は、二輪分のねじりトルクを算出するモデルを示す模式図である。
図15に示すモデルでは、左右前輪を対応付けて、キングピン軸、操舵によるステアリングラック部材7の移動軌跡、タイロッド8の移動軌跡、接地面中心の移動軌跡、ホイールセンタの移動軌跡がそれぞれ設定してある。
図15に示すモデルにより、種々の操舵に対して、二輪分のねじりトルクを算出することができる。
そして、ステップS8において、コントロール/駆動回路ユニット15は、これら二輪分のねじりトルクと車体持ち上げトルクとを合計することにより、操舵トルクを算出する。
【0044】
図16は、(5)〜(10)式を基に算出した摩擦ねじりトルク分および車体持ち上げトルク分のラック軸力を示す図である。
図16によれば、操舵量を示すラックストロークに対して、摩擦ねじりトルクおよび車体持ち上げトルクを成分とするラック軸力が発生し、これらのうち摩擦ねじりトルクが支配的であることがわかる。
なお、左右輪において、y方向を逆向き(車幅方向外方)に取っているため、ラック軸力の向きは正負が逆の位相となる。
【0045】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、次式(11)に従って、ステップS8において算出した操舵トルクに基づくラック軸力Fbrに対し、ブレーキ圧センサ12が検出したブレーキ圧に応じた係数(制動力係数τ)を乗算し、走行時の据え切り力Frunと加算することにより、総合的なラック軸力Fを算出する(ステップS9)。
F=Frun+τ・Fbr (11)
なお、(11)式中、Fbrは制動時(車輪がロックした状態)の据え切り力に相当するものである。また、走行時の据え切り力Frunは、車輪を回転方向へ拘束していない状態での据え切り力(操舵トルク)に相当するものである。また、制動力係数τは、設定車速以下の領域で正の値を取り、制動力(あるいはブレーキ圧)が小さいほど、また、車速が高いほど小さくなる変数である。
【0046】
図17は、ブレーキ圧と制動力係数τとの関係例を示す図である。
図17に示すように、例えば、制動力係数τは、車速が低速域(0〜10km/h等)、かつブレーキ圧が上限値以上のときに、上限値τmaxとなる。また、ブレーキ圧が上限値から減少するにつれて、また、車速が増加するにつれて、τも正の範囲で減少する変数とすることができる。図17に示す例では、車速が0km/hより高く10km/h以下の場合に対し、車速が10km/hより高く20km/h以下の場合、車速が20km/hより高く30km/h以下の場合の順に、制動力係数τが小さい値を取る特性となっている。なお、制動力係数τは、設定閾値(例えば30km/h)以下の範囲で上記の値を取り、設定閾値を超える車速ではゼロとなる。
【0047】
図18は、操舵トルク推定処理によって算出したラック軸力F(推定値)と、操舵角との関係を示す図である。
また、図19は、実車実験によって取得したラック軸力(実測値)と、操舵角との関係を示す図である。
なお、図18,19においては、車輪を回転方向へ拘束していない状態(制動なし)および車輪がロックした状態(制動あり)の場合をそれぞれ示している。
図18,19に示すように、操舵トルクに対するラック軸力の特性はヒステリシスを示すものとなり、また、制動力の有無によって、異なる特性を描くものとなる。
図18に示す推定値は、実車実験によって取得した実測値とほぼ一致するものとなっており、本実施形態の操舵トルク推定処理によって、より正確な操舵トルクの推定を行うことが可能となっている。
【0048】
ステップS9の後、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵トルクと操舵反力との関係を定義したマップを参照して、推定した操舵トルクに対応する操舵反力の指令値を算出する(ステップS10)。
さらに、コントロール/駆動回路ユニット15は、ステップS10において算出した操舵反力の指令値を、操舵反力用モータ5aに出力する(ステップS11)。
【0049】
これにより、実際のラック軸力(あるいは操舵トルク)に対応する操舵反力を付与することができ、より適切な操舵反力を付与することができる。
ステップS11の後、コントロール/駆動回路ユニット15は、イグニションオフとなるまで操舵トルク推定処理を繰り返す。
【0050】
(動作)
次に、動作を説明する。
本実施形態に係る自動車1は、イグニションオンと共に、操舵トルク推定処理の実行を開始する。このとき、コントロール/駆動回路ユニット15が、車両パラメータの設定、キングピン軸の位置の座標設定および操舵中立位置でのタイヤ接地面積とタイヤ姿勢の算出を行う(図3のステップS1〜S3)。
そして、運転者が操舵入力を行うと、その操舵角を操舵角センサ4が検出し、操舵時のタイヤ姿勢の変化から、コントロール/駆動回路ユニット15が操舵によって発生する仕事量を算出する(図3のステップS4〜S6)。
【0051】
さらに、コントロール/駆動回路ユニット15が、操舵によって生じるキングピン軸周りのモーメントを、車体持ち上げトルク分および摩擦ねじりトルク分それぞれについて算出することにより、左右輪それぞれのモーメントを算出する(図3のステップS7)。
コントロール/駆動回路ユニット15は、このように算出した左右輪それぞれのキングピン軸周りのモーメントを加算して二輪分の操舵トルクを算出し、この操舵トルクを制動時の据え切り力Fbrとして、制動力係数τを乗じた後に、走行時の据え切り力Frunと加算して操舵トルクの推定値Fを算出する(図3のステップS8,S9)。
【0052】
さらに、コントロール/駆動回路ユニット15(操舵反力用モータ制御部130)は、推定した操舵トルクを基に、操舵トルクと操舵反力との関係を定義したマップを参照し、操舵反力用モータ5aに対する操舵反力の指令値を出力する。
このとき出力する操舵反力の指令値は、据え切り時(車輪ロック時)の車体持ち上げトルクおよび摩擦ねじりトルクを走行時の据え切り力(回転方向への拘束がない状態での操舵トルク)に加算した正確な操舵トルクの推定値に基づくものであるため、より適切な操舵反力を付与できる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る車両用操舵装置1Bは、操舵入力に伴って発生する仕事量を、タイヤと路面との摩擦に対して行った仕事と、車体1Aを持ち上げるために行った仕事量とに分けて算出する。そして、これらの仕事量に対応して、車体持ち上げトルク分および摩擦ねじりトルク分のキングピン軸周りのモーメントを算出する。
さらに、車両用操舵装置1Bは、左右二輪分についてキングピン軸周りのモーメントを合計し、合計の操舵トルク(ラック軸力)を算出する。
【0054】
車両用操舵装置1Bは、このように算出した、操舵によって発生する仕事量に基づくラック軸力成分に制動力が小さいほど小さくなる制動力係数τを乗算し、走行時の据え切り力と加算することで、操舵入力に対するラック軸力の推定値を得る。
そのため、操向輪の転舵角を保持するために要する電動モータのロック電流を基に操舵トルクを推定する場合に比べ、タイヤと路面の摩擦および車体の持ち上げに要する力を算入してラック軸力を推定することができる。また、線形二輪モデルの車両モデルに基づいてラック軸力を推定する場合に比べても、タイヤと路面の摩擦および車体の持ち上げに要する力を算入してラック軸力を推定することができる。
【0055】
したがって、操舵トルクあるいはラック軸力をより高精度に推定することができ、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることができる。
なお、本実施形態では、SBW方式の車両用操舵装置1Bとして、ステアリングラック部材が一体であり、その両端に車輪を連結したもの(いわゆる1モータ式のSBW)を例に挙げて説明した。
【0056】
これに対し、ステアリングラック部材が左右に分割してあり、それらの一端に車輪が連結したSBW方式の車両用操舵装置1B(いわゆる2モータ式のSBW)にも本発明を適用することができる。
なお、本実施形態において、車輪速センサ14FR,14FL,14RR,14RLが車速検出手段に対応し、操舵角センサ4が操舵角検出手段に対応する。また、操舵反力用モータ5aが操舵反力用モータに対応し、転舵用モータ5bが転舵用モータに対応し、ステアリングラック部材7がステアリングラック部材に対応する。また、摩擦ねじりトルク算出部110aが摩擦エネルギ算出手段に対応し、操舵トルク推定部110が操舵力推定手段に対応する。また、操舵反力用モータ制御部130、減算器140、電流検出回路150および操舵反力用モータ駆動回路160が操舵反力用モータ制御手段に対応し、車体持ち上げトルク算出部110bがポテンシャルエネルギ算出手段に対応する。また、ブレーキ圧センサ12が制動力検出手段に対応する。
【0057】
(第1実施形態の効果)
(1)摩擦エネルギ算出手段によって、操向輪の操舵において発生する路面と操向輪との摩擦エネルギを算出し、操舵力推定手段によって、摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはラック軸力を推定する。さらに、推定した操舵トルクあるいはラック軸力に応じて、操舵反力用モータの駆動制御を行う。
そのため、操舵時における路面と操向輪との摩擦エネルギを算入して操舵トルクあるいはラック軸力を推定するため、操向輪のねじりに基づく力を含む操舵トルクあるいはラック軸力の推定値とすることができる。そして、その推定値を用いて、操舵操作に対する操舵反力を付与する。
したがって、操舵トルクあるいはラック軸力をより高精度に推定することができ、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることが可能となる。
【0058】
(2)摩擦エネルギと操舵角と操向輪の操舵に伴う車体の上下方向の変位に基づくポテンシャルエネルギとに基づいて操舵トルクあるいはラック軸力を推定する。
したがって、操舵時における車体を持ち上げる力を含む操舵トルクあるいはラック軸力の推定値とできるため、より高精度な推定を行うことができる。
(3)車速が設定した閾値以下のときに操舵トルクあるいはラック軸力を推定し、制動力が小さいほど、操舵トルクあるいはラック軸力の値をより小さく推定する。
そのため、操舵における操向輪と路面の摩擦の影響が大きくなる低速域において、制動による車輪の回転への影響を含む推定値とすることができるため、より高精度な推定を行うことができる。
【0059】
(4)操向輪の操舵において発生する路面と操向輪との摩擦エネルギを算出し、摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはステアリングラック部材のラック軸力を推定する。そして、推定した操舵トルクあるいはラック軸力に応じて、操舵反力用モータの駆動制御を行う。
これにより、操舵時における路面と操向輪との摩擦エネルギを算入して操舵トルクあるいはラック軸力を推定するため、操向輪のねじりに基づく力を含む操舵トルクあるいはラック軸力の推定値とすることができる。そして、その推定値を用いて、操舵操作に対する操舵反力を付与する。
したがって、操舵トルクあるいはラック軸力をより高精度に推定することができ、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることが可能となる。
【0060】
(応用例1)
第1実施形態において、摩擦ねじりトルクおよび車体持ち上げトルクを成分とするラック軸力を推定するものとして説明したが、これらのうち、摩擦ねじりトルクが支配的である。
そのため、摩擦ねじりトルクからキングピン軸周りのモーメントを算出し、ラック軸力の推定結果を取得することができる。
この場合、演算を簡素化しつつ、一定の精度で操舵トルクを推定することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 自動車、1A 車体、1B 車両用操舵装置、1C 操舵力推定装置、2 ステアリングホイール、3a 入力側ステアリング軸、3b 出力側ステアリング軸、4 操舵角センサ(操舵角検出手段)、5a 操舵反力用モータ、5b 転舵用モータ、6 ピニオンギア、7 ステアリングラック部材、8 タイロッド、9FR,9FL,9RR,9RL 車輪、10 ブレーキディスク、11 ホイールシリンダ、12 ブレーキ圧センサ(制動力検出手段)、13 圧力制御ユニット、14FR,14FL,14RR,14RL 車輪速センサ(車速検出手段)、15 駆動回路ユニット、110 操舵トルク推定部(操舵力推定手段)、110a 摩擦ねじりトルク算出部(摩擦エネルギ算出手段)、110b 車体持ち上げトルク算出部(ポテンシャルエネルギ算出手段)、120 ブレーキ作動判定部、130 操舵反力用モータ制御部(操舵反力用モータ制御手段)、140 減算器(操舵反力用モータ制御手段)、150 電流検出回路(操舵反力用モータ制御手段)、160 操舵反力用モータ駆動回路(操舵反力用モータ制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵を行う車両用操舵装置およびその操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者が操舵操作を行う操舵入力軸と、操向輪の転舵を行う操舵出力軸とが機械的に分離した車両用の操舵装置(以下、「ステアバイワイヤシステム」と称する。)が知られている。
ステアバイワイヤシステムにおいては、操舵反力を発生するためのアクチュエータを備え、運転者の操舵操作に応じた操舵反力を付与している。このとき、車輪に入力する外力を操舵反力に反映させるため、ラック軸力に対応した操舵反力を付与することがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、車輪を転舵するラック軸の軸力を推定し、操舵角に基づいて算出した目標操舵反力を、推定したラック軸力を用いて補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−219552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、操向輪の転舵角を保持するために要する電動モータのロック電流を基に、ラック軸の軸力を推定している。
この場合、車両が停止している状態で転舵した状態や制動している状態等では、ラック軸力の推定精度が低下し、適切な操舵反力の付与を行えない場合がある。
即ち、従来のラック軸力の推定を用いた操舵制御技術では、操舵反力の推定精度が十分でなく、付与する操舵反力が適切なものとならない場合があった。
【0006】
本発明の課題は、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用操舵装置は、摩擦エネルギ算出手段によって、操向輪の操舵において発生する路面と操向輪との摩擦エネルギを算出し、操舵力推定手段によって、摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはラック軸力を推定する。さらに、推定した操舵トルクあるいはラック軸力に応じて、操舵反力用モータの駆動制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、操舵時における路面と操向輪との摩擦エネルギを算入して操舵トルクあるいはラック軸力を推定するため、操向輪のねじりに基づく力を含む操舵トルクあるいはラック軸力の推定値とすることができる。そして、その推定値を用いて、操舵操作に対する操舵反力を付与する。
したがって、操舵トルクあるいはラック軸力をより高精度に推定することができ、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る車両用操舵装置および操舵制御方法を適用した自動車1の構成を示す概略図である。
【図2】コントロール/駆動回路ユニット15における操舵系統の制御機能を示すブロック図である。
【図3】コントロール/駆動回路ユニット15が実行する操舵トルク推定処理を示すフローチャートである。
【図4】ステップS1において設定する車両パラメータを示す模式図である。
【図5】ステップS2において設定する座標系を示す模式図である。
【図6】タイヤ接地面の任意の点の変位(z軸方向)を示す図である。
【図7】タイヤ接地面の任意の点の変位(x軸方向)を示す図である。
【図8】タイヤ接地面の任意の点の変位(y軸方向)を示す図である。
【図9】タイヤ接地面積の算出方法を示す模式図である。
【図10】タイヤ接地面における接地荷重を示す模式図である。
【図11】操舵時におけるタイヤ接地面形状の変化を示す模式図である。
【図12】単位接地面積あたりの操舵に要する仕事量を示す模式図である。
【図13】一輪分のねじりトルクを算出するモデルを示す模式図である。
【図14】操舵においてキングピン軸周りに作用する力(左前輪の場合)を示す模式図である。
【図15】二輪分のねじりトルクを算出するモデルを示す模式図である。
【図16】摩擦ねじりトルク分および車体持ち上げトルク分のラック軸力を示す図である。
【図17】ブレーキ圧と制動力係数τとの関係例を示す図である。
【図18】操舵トルク推定処理によって算出したラック軸力F(推定値)と、操舵角との関係を示す図である。
【図19】実車実験によって取得したラック軸力(実測値)と、操舵角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明に係る車両用操舵装置および操舵制御方法を適用した自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3aと、出力側ステアリング軸3bと、操舵角センサ4(操舵角検出手段)と、操舵反力用モータ5aと、転舵用モータ5bと、ピニオンギア6と、ステアリングラック部材7と、タイロッド8と、車輪9FR,9FL,9RR,9RLと、ブレーキディスク10と、ホイールシリンダ11と、ブレーキ圧センサ12(制動力検出手段)と、圧力制御ユニット13と、車輪速センサ14FR,14FL,14RR,14RL(車速検出手段)と、コントロール/駆動回路ユニット15とを備えている。
【0011】
これらのうち、ステアリングホイール2、入力側ステアリング軸3a、出力側ステアリング軸3b、操舵角センサ4、操舵反力用モータ5a、転舵用モータ5b、ピニオンギア6、ステアリングラック部材7、タイロッド8およびコントロール/駆動回路ユニット15が本発明に係るステアバイワイヤ(SBW)方式の車両用操舵装置1Bを構成している。また、操舵角センサ4およびコントロール/駆動回路ユニット15が本発明に係る操舵力推定装置1Cを構成している。
【0012】
ステアリングホイール2は、入力側ステアリング軸3aと一体に回転するよう構成され、運転者による操舵入力を入力側ステアリング軸3aに伝達する。
入力側ステアリング軸3aは、操舵反力用モータ5aを備えており、ステアリングホイール2から入力した操舵入力(即ち回転動作)に対し、操舵反力用モータ5aによる操舵反力を加える。
【0013】
操舵角センサ4は、入力側ステアリング軸3aの回転角度(即ち、運転者によるステアリングホイール2への操舵入力角度)を検出する。そして、操舵角センサ4は、検出した入力側ステアリング軸3aの回転角度をコントロール/駆動回路ユニット15に出力する。
操舵反力用モータ5aは、モータ軸と一体に回転するギアが入力側ステアリング軸3aの一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット15の指示に従って、ステアリングホイール2による入力側ステアリング軸3aの回転に対して反力を付与する。
【0014】
転舵用モータ5bは、モータ軸と一体に回転するギアが出力側ステアリング軸3bの一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット15の指示に従って、出力側ステアリング軸3bを回転させる。
ピニオンギア6は、ステアリングラック部材7と噛合しており、出力側ステアリング軸3bから入力した回転をステアリングラック部材7に伝達する。
【0015】
ステアリングラック部材7は、ピニオンギア6と噛合する平歯を有し、ピニオンギア6の回転を車幅方向の直線運動に変換する。
タイロッド8は、ステアリングラック部材7の両端部と車輪9FR,9FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
車輪9FR,9FL,9RR,9RLは、タイヤホイールにタイヤを取り付けて構成したものであり、それぞれサスペンション装置を介して車体1Aと連結している。これらのうち、前輪(車輪9FR,9FL)は、タイロッド8によってナックルアームが揺動することにより、車体1Aに対する車輪9FR,9FLの向きが変化する。
【0016】
ブレーキディスク10は、車輪9FR,9FL,9RR,9RLと一体に回転し、ホイールシリンダ11の押圧力がブレーキパッドを押し当てると、その摩擦力によって制動力を発生する。
ホイールシリンダ11は、各車輪に設置されたブレーキパッドを、ブレーキディスク10に押し当てる押圧力を発生する。
【0017】
ブレーキ圧センサ12は、ホイールシリンダ11がブレーキディスク10に付与するブレーキ圧(具体的にはブレーキ液圧)を検出する。そして、ブレーキ圧センサ12は、検出したブレーキ圧をコントロール/駆動回路ユニット15に出力する。なお、本実施形態では、制動力に相当する物理量として、検出が容易なブレーキ圧を用いることとするが、制動力に相当する物理量を検出できれば、他のセンサを用いることもできる。
【0018】
圧力制御ユニット13は、コントロール/駆動回路ユニット15の指示に従って、各車輪に設置したホイールシリンダ11のブレーキ圧力を制御する。
車輪速センサ14FR,14FL,14RR,14RLは、各車輪の回転速度を示すパルス信号を、コントロール/駆動回路ユニット15に出力する。
コントロール/駆動回路ユニット15は、自動車1全体を制御するものであり、操舵角センサ4から入力する操舵角、車輪速センサから入力する車輪の回転速度およびブレーキ圧センサ12から入力するブレーキ圧に基づいて、各種制御信号を生成する。例えば、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵角センサ4から入力する操舵角および車輪速センサから入力する車輪の回転速度を基に、後述する操舵トルク推定処理を実行し、操舵トルクを算出する。また、コントロール/駆動回路ユニット15は、算出した操舵トルクをブレーキの作動状態に応じて補正し、補正した操舵トルクの推定値を基に、操舵反力用モータ5aに対する指令値を出力する。
【0019】
図2は、コントロール/駆動回路ユニット15における操舵系統の制御機能を示すブロック図である。
図2において、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵トルク推定部110(操舵力推定手段)と、ブレーキ作動判定部120と、操舵反力用モータ制御部130と、減算器140と、電流検出回路150と、操舵反力用モータ駆動回路160とを備えている。なお、操舵反力用モータ制御部130、減算器140、電流検出回路150および操舵反力用モータ駆動回路160がモータ制御手段を構成している。
【0020】
操舵トルク推定部110には、車輪速センサ14FR,14FLから車輪速(車輪の回転速度を示すパルス信号)、操舵角センサ4から操舵入力角度、ブレーキ作動判定部120からブレーキの作動の有無および各車輪の制動状態を示す各信号が入力する。
そして、操舵トルク推定部110は、後述する操舵トルク推定処理を実行することにより、操舵トルクを推定する。
なお、操舵トルク推定部110は、操舵トルク推定処理を実行することによって実現する摩擦ねじりトルク算出部110a(摩擦エネルギ算出手段)および車体持ち上げトルク算出部110b(ポテンシャルエネルギ算出手段)を有している。
摩擦ねじりトルク算出部110aは、操舵時に発生するタイヤと路面との摩擦によるねじりトルクを算出する。
【0021】
車体持ち上げトルク算出部110bは、操舵時に発生する車体1Aの上下方向の変位による持ち上げトルクを算出する。
ブレーキ作動判定部120は、ブレーキ圧センサ12から入力するブレーキ圧を基に、ブレーキ踏力が発生しているか否か、即ち、ブレーキの作動の有無を判定し、判定結果および各車輪の制動状態を操舵トルク推定部110に出力する。
【0022】
操舵反力用モータ制御部130は、操舵トルク推定部110が推定した操舵トルクの推定値を基に、操舵トルクと操舵反力との関係を定義したマップを参照して、操舵反力用モータ5aにおける操舵反力の指令値を算出する。
減算器140は、操舵反力用モータ制御部130が算出した操舵反力の指令値から、電流検出回路150が検出した操舵反力(現在値)を減算し、操舵反力用モータ駆動回路160に出力する。
【0023】
電流検出回路150は、操舵反力用モータ駆動回路160が操舵反力用モータ5aに入力する駆動電流を検出し、操舵反力(現在値)に変換して減算器140に出力する。
操舵反力用モータ駆動回路160は、減算器140から入力する操舵反力用モータ5aの駆動信号を基に駆動電流を生成し、操舵反力用モータ5aに出力する。
【0024】
(操舵トルク推定処理)
次に、コントロール/駆動回路ユニット15が実行する操舵トルク推定処理について説明する。以下で説明する操舵トルク推定処理は、本発明に係る操舵制御方法を実現するものである。
なお、以下の説明においては、多自由度のマルチボディダイナミクスによって車両を取り扱うため、空間内における物体の姿勢の記載方法および用語の定義については、「ロボティクス機構・力学・制御」(John J.Craig 著、三浦宏文・下山勲 訳、共立出版、1991年発行)に準ずるものとする。
【0025】
図3は、コントロール/駆動回路ユニット15が実行する操舵トルク推定処理を示すフローチャートである。以下で説明する操舵トルク推定処理は、本発明に係る操舵制御方法を実現するものである。
コントロール/駆動回路ユニット15は、イグニションオンと共に操舵トルク推定処理を実行する。
操舵トルク推定処理を開始すると、コントロール/駆動回路ユニット15は、車両パラメータを設定する(ステップS1)。
【0026】
図4は、ステップS1において設定する車両パラメータを示す模式図である。
図4に示すように、ステップS1において、コントロール/駆動回路ユニット15は、車両の前軸荷重mf(左前輪はmfl、右前輪はmfrと表す)、トレッドle、ホイールセンタ(W/C)の高さWz、タイヤ幅tw、タイヤ半径tr、サスペンションの最大ラックストローク量rsmax、初期キャンバ角φx、初期キャスタ角φy、スクラブ半径Pkpy、キャスタトレイルPkpx、タイヤの摩擦係数μ(ここでは固定値とする)を設定する。これらの車両パラメータは、車両の諸元等に基づいて予め把握することができる。なお、図4中のFはラック軸力、liは単位接地面の移動距離、Tはキングピン軸周りのトルク、dzはホイールセンタの上下変位である。
【0027】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、キングピン(K/P)軸を基準とした座標系の設定を行う(ステップS2)。
図5は、ステップS2において設定する座標系を示す模式図である。
なお、図5においては、左前輪のキングピン軸について設定する座標系を例として示している。
図5に示すように、ステップS2では、車両前後方向前方をx軸の正方向、車幅方向外方をy軸の正方向、車両上下方向上方をz軸の正方向、車両前軸の中心を原点とする3次元のxyz座標(基準座標{O})を設定する。
ここで、図5においては、車両を基準とする座標系{O}と平行な座標であってキングピン軸と路面との交点を原点とする座標系{A}、座標系{A}と車両前方を同一軸としZ軸がキングピン軸と同一の方向となるように姿勢変換した座標系{K}、座標系{O}と平行な座標であってホイールセンタを原点として設定した座標系{C}を併せて設定する。
【0028】
図5に示す座標系において、キングピン傾角をφkpx、キャスタ角をΦkpy、キングピン軸周りの回転角をΦkpzとする。また、キャスタトレイルPkpx、スクラブ半径Pkpyとすると、タイヤ接地面の任意の点K(接地面と接触するタイヤの任意の点)からキングピン軸と路面との交点までのベクトルPKは次式(1)のように定義することができる。
CPK=[Pkpx,Pkpy,0]C (1)
ただし、PKの添え字Cは、座標系{C}におけるベクトルであることを示す。
また、絶対座標{K}を基準としたタイヤ姿勢を示す回転行列Rは、次式(2)のように表すことができる。
KR=RX(Φkpy)RY(Φkpx)RZ(Φkpz)(RZ(0)RY(−Φkpy)RX(−Φkpx)) (2)
【0029】
ただし、(2)式に示す回転行列Rの各係数は、タイヤを据え切りした時の接地面形状の変化を計測することによって実験により求めたり、シミュレーションによって求めたりすることができる。
したがって、任意のベクトルCPKがキングピン軸周りにΦkpz回転したときの絶対座標を基準としたベクトルは、KRCPKで表すことができる。
(2)式に、操舵角を基に算出したキングピン軸の回転角および車両パラメータを代入すると、タイヤ接地面の任意の点のx、y、z軸方向の変位を求めることができる。
【0030】
図6〜8は、タイヤ接地面の任意の点の変位を示す図であり、図6はz軸方向の変位、図7はx軸方向の変位、図8はy軸方向の変位を示している。なお、図6〜8においては、トー角の変化に対応する各方向の変位を示している。
なお、図6〜8において、横軸に示すトー角は、基準座標から見たZ軸方向の回転角である。
【0031】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵中立位置でのタイヤ接地面積およびタイヤ姿勢の算出を行う(ステップS3)。
ステップS3において、タイヤ接地面積およびタイヤ姿勢は車両パラメータから算出することができる。
【0032】
図9は、タイヤ接地面積の算出方法を示す模式図である。
図9においては、初期キャンバ角を0とした場合のタイヤ接地面積を算出する方法を例として示している。
図9に示すように、タイヤ半径trおよびホイールセンタ高さWzから、タイヤ接地面のx軸方向の長さ(タイヤ接地長lx)を算出することができる。そして、タイヤ接地長lxとタイヤ幅twとを乗算することにより、タイヤ接地面積Sfを算出できる。なお、初期キャンバ角が0以外の場合には、実験あるいはシミュレーションを基にタイヤの傾斜を考慮したタイヤ接地面の形状に補正し、タイヤ接地面積Sfを算出できる。
【0033】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵角センサ4が検出する操舵角を取得する(ステップS4)。
そして、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵時のタイヤ姿勢を算出する(ステップS5)。
ステップS5において、コントロール/駆動回路ユニット15は、キングピン軸周りにタイヤを回転させた場合の座標{K}を基準としたタイヤ姿勢、タイヤ接地面形状およびホイールセンタ位置を算出する。このとき、コントロール/駆動回路ユニット15は、(2)式の行列式(タイヤ姿勢を示す行列式)を基にタイヤ接地面の任意の点のx軸、y軸およびz軸方向の変位を算出する。具体的には、コントロール/駆動回路ユニット15は、タイヤ(車輪)を円柱とみなし、キングピン軸周りにΔΦ回転した(転舵した)ときのタイヤ姿勢を例えば単位量1mmとして算出する。そして、タイヤ接地面積が同一となるように転舵後の新たなホイールセンタ高さを算出し、転舵前の状態からΔΦ回転した姿勢において、各単位接地面あたりで移動した並進量をΔxとして算出する。Δxは、車両の基準座標の値に換算する。なお、タイヤにおける新たに接地した面および路面から離れた面については、Δx=0とする。
【0034】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵によって発生する仕事量を算出する(ステップS6)。
ここで、操舵によって発生する仕事量は、タイヤと路面との摩擦に対して行った仕事量と、車体1Aを持ち上げるために行った仕事量とに分けることができる。
ステップS6において、コントロール/駆動回路ユニット15は、(2)式を用いて幾何学的に算出した操舵によるタイヤ接地面形状の変化を基に、タイヤと路面との摩擦トルクに対して行った仕事量Wfを算出する。
【0035】
図10は、タイヤ接地面における接地荷重を示す模式図である。
図10において、タイヤ接地面の面圧分布を一定であるものとすると、タイヤ接地面における単位面積当たりの接地荷重は、輪荷重mf(左輪荷重mflあるいは右輪荷重mfr)および接地面積Nfを用いて、mf/Nfと表すことができる。
また、図11は、操舵時におけるタイヤ接地面形状の変化を示す模式図である。
【0036】
図11に示すように、操舵後のタイヤ接地面積は、操舵中立時のタイヤ接地面積に対して総面積に変化がないものと仮定する。
そして、ステップS5において算出したタイヤ接地面の任意の点の変位を基に、タイヤ接地面における各単位接地面積の移動量Δxについての仕事量を定義する。即ち、転舵前と転舵後において、着目するタイヤ接地面の点(タイヤ側の着目点)は、路面との摩擦を伴いながら路面上を移動する。したがって、各単位接地面積ごとに、路面上を摩擦に抗して移動した距離Δxを算出し、その移動についての仕事量を定義する。
【0037】
図12は、単位接地面積あたりの操舵に要する仕事量を示す模式図である。
図12において、各単位接地面積が操舵に要する仕事量wi(iは自然数)は、重力加速度gを用いて、
wi=μ×mi×g×Δxi (3)
と表すことができる。
すると、タイヤ接地面積全体での仕事量Wfは、次式(4)のように表すことができる。
Wf=μ(mf・g/Nf)ΣΔxi(ただし、i=1〜Nf) (4)
コントロール/駆動回路ユニット15は、(4)式を基に一輪分の操舵によるねじりトルクを算出するモデルを設定する。
【0038】
図13は、一輪分のねじりトルクを算出するモデルを示す模式図である。
図13に示すモデルでは、タイヤ接地面の各単位接地面ごとに変位が算出してあり、その変位から決まる仕事量wiが対応付けてある。
また、ステップS6において、車体1Aを持ち上げるために行った仕事量は、ホイールセンタの高さの変化を基に、前軸荷重とホイールセンタ高さの変化との乗算を基に算出することができる。
【0039】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、キングピン軸周りのモーメント(一輪分)を算出する(ステップS7)。
ステップS7において、コントロール/駆動回路ユニット15は、車体1Aの上下方向の変位による持ち上げトルク(以下、「車体持ち上げトルク」と称する。)と、タイヤと路面との摩擦によるねじりトルク(以下、「摩擦ねじりトルク」と称する。)とをそれぞれ算出し、これらを合計する。なお、ステップS7において、摩擦ねじりトルクを算出する処理が摩擦ねじりトルク算出部110aに対応し、車体持ち上げトルクを算出する処理が車体持ち上げトルク算出部110bに対応している。
【0040】
図14は、操舵においてキングピン軸周りに作用する力(左前輪の場合)を示す模式図である。
図14において、一輪についての輪荷重は左前輪の前軸荷重mflと重力加速度gとを用いて、mfl・gと表すことができる。また、ホイールセンタの上下変位をdz、操舵によるラック軸のストローク(ラックストローク)をrs、単位接地面の移動距離をliと表す。
【0041】
車体持ち上げトルクは、ホイールセンタ高さの変化(ホイールセンタ上下変位dz)に基づく仕事量から算出することができ、次式(5)〜(7)のように表すことができる。
車体を持ち上げるポテンシャルエネルギー(一輪分)U1:
U1=−mfl×g×dz (5)
キングピン軸周りに働く持ち上げトルク(一輪分)T1:
T1=∂U1/∂Φkpz (6)
ラック軸力(一輪分)F1:F1=∂U1/∂rs (7)
【0042】
また、摩擦ねじりトルクは、タイヤ接地面形状の変化から算出することができ、次式(8)〜(10)のように表すことができる。
摩擦力によるポテンシャルエネルギー(一輪分)U2:
U2=−Σ(μ・mfl・g・li/Nf) (8)
ただし、自然数i=1〜Nf。
キングピン軸周りに働く持ち上げトルクT2:
T2=∂U2/∂Φkpz (9)
ラック軸力(一輪分)F2:F2=∂U2/∂rs (10)
【0043】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、(5)〜(10)式を基に、キングピン軸周りの回転で生じる二輪分のねじりトルク(摩擦ねじりトルク)を算出するモデルを設定し、合計の操舵トルクを算出する(ステップS8)。
図15は、二輪分のねじりトルクを算出するモデルを示す模式図である。
図15に示すモデルでは、左右前輪を対応付けて、キングピン軸、操舵によるステアリングラック部材7の移動軌跡、タイロッド8の移動軌跡、接地面中心の移動軌跡、ホイールセンタの移動軌跡がそれぞれ設定してある。
図15に示すモデルにより、種々の操舵に対して、二輪分のねじりトルクを算出することができる。
そして、ステップS8において、コントロール/駆動回路ユニット15は、これら二輪分のねじりトルクと車体持ち上げトルクとを合計することにより、操舵トルクを算出する。
【0044】
図16は、(5)〜(10)式を基に算出した摩擦ねじりトルク分および車体持ち上げトルク分のラック軸力を示す図である。
図16によれば、操舵量を示すラックストロークに対して、摩擦ねじりトルクおよび車体持ち上げトルクを成分とするラック軸力が発生し、これらのうち摩擦ねじりトルクが支配的であることがわかる。
なお、左右輪において、y方向を逆向き(車幅方向外方)に取っているため、ラック軸力の向きは正負が逆の位相となる。
【0045】
次に、コントロール/駆動回路ユニット15は、次式(11)に従って、ステップS8において算出した操舵トルクに基づくラック軸力Fbrに対し、ブレーキ圧センサ12が検出したブレーキ圧に応じた係数(制動力係数τ)を乗算し、走行時の据え切り力Frunと加算することにより、総合的なラック軸力Fを算出する(ステップS9)。
F=Frun+τ・Fbr (11)
なお、(11)式中、Fbrは制動時(車輪がロックした状態)の据え切り力に相当するものである。また、走行時の据え切り力Frunは、車輪を回転方向へ拘束していない状態での据え切り力(操舵トルク)に相当するものである。また、制動力係数τは、設定車速以下の領域で正の値を取り、制動力(あるいはブレーキ圧)が小さいほど、また、車速が高いほど小さくなる変数である。
【0046】
図17は、ブレーキ圧と制動力係数τとの関係例を示す図である。
図17に示すように、例えば、制動力係数τは、車速が低速域(0〜10km/h等)、かつブレーキ圧が上限値以上のときに、上限値τmaxとなる。また、ブレーキ圧が上限値から減少するにつれて、また、車速が増加するにつれて、τも正の範囲で減少する変数とすることができる。図17に示す例では、車速が0km/hより高く10km/h以下の場合に対し、車速が10km/hより高く20km/h以下の場合、車速が20km/hより高く30km/h以下の場合の順に、制動力係数τが小さい値を取る特性となっている。なお、制動力係数τは、設定閾値(例えば30km/h)以下の範囲で上記の値を取り、設定閾値を超える車速ではゼロとなる。
【0047】
図18は、操舵トルク推定処理によって算出したラック軸力F(推定値)と、操舵角との関係を示す図である。
また、図19は、実車実験によって取得したラック軸力(実測値)と、操舵角との関係を示す図である。
なお、図18,19においては、車輪を回転方向へ拘束していない状態(制動なし)および車輪がロックした状態(制動あり)の場合をそれぞれ示している。
図18,19に示すように、操舵トルクに対するラック軸力の特性はヒステリシスを示すものとなり、また、制動力の有無によって、異なる特性を描くものとなる。
図18に示す推定値は、実車実験によって取得した実測値とほぼ一致するものとなっており、本実施形態の操舵トルク推定処理によって、より正確な操舵トルクの推定を行うことが可能となっている。
【0048】
ステップS9の後、コントロール/駆動回路ユニット15は、操舵トルクと操舵反力との関係を定義したマップを参照して、推定した操舵トルクに対応する操舵反力の指令値を算出する(ステップS10)。
さらに、コントロール/駆動回路ユニット15は、ステップS10において算出した操舵反力の指令値を、操舵反力用モータ5aに出力する(ステップS11)。
【0049】
これにより、実際のラック軸力(あるいは操舵トルク)に対応する操舵反力を付与することができ、より適切な操舵反力を付与することができる。
ステップS11の後、コントロール/駆動回路ユニット15は、イグニションオフとなるまで操舵トルク推定処理を繰り返す。
【0050】
(動作)
次に、動作を説明する。
本実施形態に係る自動車1は、イグニションオンと共に、操舵トルク推定処理の実行を開始する。このとき、コントロール/駆動回路ユニット15が、車両パラメータの設定、キングピン軸の位置の座標設定および操舵中立位置でのタイヤ接地面積とタイヤ姿勢の算出を行う(図3のステップS1〜S3)。
そして、運転者が操舵入力を行うと、その操舵角を操舵角センサ4が検出し、操舵時のタイヤ姿勢の変化から、コントロール/駆動回路ユニット15が操舵によって発生する仕事量を算出する(図3のステップS4〜S6)。
【0051】
さらに、コントロール/駆動回路ユニット15が、操舵によって生じるキングピン軸周りのモーメントを、車体持ち上げトルク分および摩擦ねじりトルク分それぞれについて算出することにより、左右輪それぞれのモーメントを算出する(図3のステップS7)。
コントロール/駆動回路ユニット15は、このように算出した左右輪それぞれのキングピン軸周りのモーメントを加算して二輪分の操舵トルクを算出し、この操舵トルクを制動時の据え切り力Fbrとして、制動力係数τを乗じた後に、走行時の据え切り力Frunと加算して操舵トルクの推定値Fを算出する(図3のステップS8,S9)。
【0052】
さらに、コントロール/駆動回路ユニット15(操舵反力用モータ制御部130)は、推定した操舵トルクを基に、操舵トルクと操舵反力との関係を定義したマップを参照し、操舵反力用モータ5aに対する操舵反力の指令値を出力する。
このとき出力する操舵反力の指令値は、据え切り時(車輪ロック時)の車体持ち上げトルクおよび摩擦ねじりトルクを走行時の据え切り力(回転方向への拘束がない状態での操舵トルク)に加算した正確な操舵トルクの推定値に基づくものであるため、より適切な操舵反力を付与できる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る車両用操舵装置1Bは、操舵入力に伴って発生する仕事量を、タイヤと路面との摩擦に対して行った仕事と、車体1Aを持ち上げるために行った仕事量とに分けて算出する。そして、これらの仕事量に対応して、車体持ち上げトルク分および摩擦ねじりトルク分のキングピン軸周りのモーメントを算出する。
さらに、車両用操舵装置1Bは、左右二輪分についてキングピン軸周りのモーメントを合計し、合計の操舵トルク(ラック軸力)を算出する。
【0054】
車両用操舵装置1Bは、このように算出した、操舵によって発生する仕事量に基づくラック軸力成分に制動力が小さいほど小さくなる制動力係数τを乗算し、走行時の据え切り力と加算することで、操舵入力に対するラック軸力の推定値を得る。
そのため、操向輪の転舵角を保持するために要する電動モータのロック電流を基に操舵トルクを推定する場合に比べ、タイヤと路面の摩擦および車体の持ち上げに要する力を算入してラック軸力を推定することができる。また、線形二輪モデルの車両モデルに基づいてラック軸力を推定する場合に比べても、タイヤと路面の摩擦および車体の持ち上げに要する力を算入してラック軸力を推定することができる。
【0055】
したがって、操舵トルクあるいはラック軸力をより高精度に推定することができ、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることができる。
なお、本実施形態では、SBW方式の車両用操舵装置1Bとして、ステアリングラック部材が一体であり、その両端に車輪を連結したもの(いわゆる1モータ式のSBW)を例に挙げて説明した。
【0056】
これに対し、ステアリングラック部材が左右に分割してあり、それらの一端に車輪が連結したSBW方式の車両用操舵装置1B(いわゆる2モータ式のSBW)にも本発明を適用することができる。
なお、本実施形態において、車輪速センサ14FR,14FL,14RR,14RLが車速検出手段に対応し、操舵角センサ4が操舵角検出手段に対応する。また、操舵反力用モータ5aが操舵反力用モータに対応し、転舵用モータ5bが転舵用モータに対応し、ステアリングラック部材7がステアリングラック部材に対応する。また、摩擦ねじりトルク算出部110aが摩擦エネルギ算出手段に対応し、操舵トルク推定部110が操舵力推定手段に対応する。また、操舵反力用モータ制御部130、減算器140、電流検出回路150および操舵反力用モータ駆動回路160が操舵反力用モータ制御手段に対応し、車体持ち上げトルク算出部110bがポテンシャルエネルギ算出手段に対応する。また、ブレーキ圧センサ12が制動力検出手段に対応する。
【0057】
(第1実施形態の効果)
(1)摩擦エネルギ算出手段によって、操向輪の操舵において発生する路面と操向輪との摩擦エネルギを算出し、操舵力推定手段によって、摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはラック軸力を推定する。さらに、推定した操舵トルクあるいはラック軸力に応じて、操舵反力用モータの駆動制御を行う。
そのため、操舵時における路面と操向輪との摩擦エネルギを算入して操舵トルクあるいはラック軸力を推定するため、操向輪のねじりに基づく力を含む操舵トルクあるいはラック軸力の推定値とすることができる。そして、その推定値を用いて、操舵操作に対する操舵反力を付与する。
したがって、操舵トルクあるいはラック軸力をより高精度に推定することができ、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることが可能となる。
【0058】
(2)摩擦エネルギと操舵角と操向輪の操舵に伴う車体の上下方向の変位に基づくポテンシャルエネルギとに基づいて操舵トルクあるいはラック軸力を推定する。
したがって、操舵時における車体を持ち上げる力を含む操舵トルクあるいはラック軸力の推定値とできるため、より高精度な推定を行うことができる。
(3)車速が設定した閾値以下のときに操舵トルクあるいはラック軸力を推定し、制動力が小さいほど、操舵トルクあるいはラック軸力の値をより小さく推定する。
そのため、操舵における操向輪と路面の摩擦の影響が大きくなる低速域において、制動による車輪の回転への影響を含む推定値とすることができるため、より高精度な推定を行うことができる。
【0059】
(4)操向輪の操舵において発生する路面と操向輪との摩擦エネルギを算出し、摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはステアリングラック部材のラック軸力を推定する。そして、推定した操舵トルクあるいはラック軸力に応じて、操舵反力用モータの駆動制御を行う。
これにより、操舵時における路面と操向輪との摩擦エネルギを算入して操舵トルクあるいはラック軸力を推定するため、操向輪のねじりに基づく力を含む操舵トルクあるいはラック軸力の推定値とすることができる。そして、その推定値を用いて、操舵操作に対する操舵反力を付与する。
したがって、操舵トルクあるいはラック軸力をより高精度に推定することができ、ステアバイワイヤシステムにおいて付与する操舵反力をより適切なものとすることが可能となる。
【0060】
(応用例1)
第1実施形態において、摩擦ねじりトルクおよび車体持ち上げトルクを成分とするラック軸力を推定するものとして説明したが、これらのうち、摩擦ねじりトルクが支配的である。
そのため、摩擦ねじりトルクからキングピン軸周りのモーメントを算出し、ラック軸力の推定結果を取得することができる。
この場合、演算を簡素化しつつ、一定の精度で操舵トルクを推定することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 自動車、1A 車体、1B 車両用操舵装置、1C 操舵力推定装置、2 ステアリングホイール、3a 入力側ステアリング軸、3b 出力側ステアリング軸、4 操舵角センサ(操舵角検出手段)、5a 操舵反力用モータ、5b 転舵用モータ、6 ピニオンギア、7 ステアリングラック部材、8 タイロッド、9FR,9FL,9RR,9RL 車輪、10 ブレーキディスク、11 ホイールシリンダ、12 ブレーキ圧センサ(制動力検出手段)、13 圧力制御ユニット、14FR,14FL,14RR,14RL 車輪速センサ(車速検出手段)、15 駆動回路ユニット、110 操舵トルク推定部(操舵力推定手段)、110a 摩擦ねじりトルク算出部(摩擦エネルギ算出手段)、110b 車体持ち上げトルク算出部(ポテンシャルエネルギ算出手段)、120 ブレーキ作動判定部、130 操舵反力用モータ制御部(操舵反力用モータ制御手段)、140 減算器(操舵反力用モータ制御手段)、150 電流検出回路(操舵反力用モータ制御手段)、160 操舵反力用モータ駆動回路(操舵反力用モータ制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速を検出する車速検出手段と、
操舵操作が入力する入力側ステアリング軸と、
前記入力側ステアリング軸に入力した操舵操作における操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記入力側ステアリング軸に操舵反力を付与する操舵反力用モータと、
前記入力側ステアリング軸に入力した操舵操作に応じて、操向輪の操舵角制御を行う転舵用モータと、
前記入力側ステアリング軸と機械的に切り離され、前記転舵用モータによって回転される出力側ステアリング軸と、
前記出力側ステアリング軸の回転を前記操向輪に伝達するステアリングラック部材と、
前記操向輪の操舵において発生する路面と前記操向輪との摩擦エネルギを算出する摩擦エネルギ算出手段と、
前記摩擦エネルギと前記操舵角とに基づいて操舵トルクあるいは前記ステアリングラック部材のラック軸力を推定する操舵力推定手段と、
前記操舵力推定手段が推定した前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力に応じて、前記操舵反力用モータの駆動制御を行う操舵反力用モータ制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
前記操向輪の操舵に伴う車体の上下方向の変位に基づくポテンシャルエネルギを算出するポテンシャルエネルギ算出手段を備え、
前記操舵力推定手段は、前記摩擦エネルギと前記操舵角と前記ポテンシャルエネルギとに基づいて前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力を推定することを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
制動力を検出する制動力検出手段を備え、
前記操舵力推定手段は、前記車速検出手段が検出した車速が設定した閾値以下のときに前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力を推定し、前記制動力検出手段が検出した制動力が小さいほど、前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力の値をより小さく推定することを特徴とする請求項1または2記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
操向輪の操舵において発生する路面と前記操向輪との摩擦エネルギを算出し、前記摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはステアリングラック部材のラック軸力を推定し、推定した前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力に応じて、ステアバイワイヤシステムにおける操舵反力用モータの駆動制御を行うことを特徴とする操舵制御方法。
【請求項1】
車速を検出する車速検出手段と、
操舵操作が入力する入力側ステアリング軸と、
前記入力側ステアリング軸に入力した操舵操作における操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記入力側ステアリング軸に操舵反力を付与する操舵反力用モータと、
前記入力側ステアリング軸に入力した操舵操作に応じて、操向輪の操舵角制御を行う転舵用モータと、
前記入力側ステアリング軸と機械的に切り離され、前記転舵用モータによって回転される出力側ステアリング軸と、
前記出力側ステアリング軸の回転を前記操向輪に伝達するステアリングラック部材と、
前記操向輪の操舵において発生する路面と前記操向輪との摩擦エネルギを算出する摩擦エネルギ算出手段と、
前記摩擦エネルギと前記操舵角とに基づいて操舵トルクあるいは前記ステアリングラック部材のラック軸力を推定する操舵力推定手段と、
前記操舵力推定手段が推定した前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力に応じて、前記操舵反力用モータの駆動制御を行う操舵反力用モータ制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
前記操向輪の操舵に伴う車体の上下方向の変位に基づくポテンシャルエネルギを算出するポテンシャルエネルギ算出手段を備え、
前記操舵力推定手段は、前記摩擦エネルギと前記操舵角と前記ポテンシャルエネルギとに基づいて前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力を推定することを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
制動力を検出する制動力検出手段を備え、
前記操舵力推定手段は、前記車速検出手段が検出した車速が設定した閾値以下のときに前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力を推定し、前記制動力検出手段が検出した制動力が小さいほど、前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力の値をより小さく推定することを特徴とする請求項1または2記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
操向輪の操舵において発生する路面と前記操向輪との摩擦エネルギを算出し、前記摩擦エネルギと操舵角とに基づいて操舵トルクあるいはステアリングラック部材のラック軸力を推定し、推定した前記操舵トルクあるいは前記ラック軸力に応じて、ステアバイワイヤシステムにおける操舵反力用モータの駆動制御を行うことを特徴とする操舵制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−240456(P2012−240456A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109663(P2011−109663)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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