説明

車両運動制御装置

【課題】横転限界舵角をより正確に演算し、車両状態に応じた操舵制御が行えるようにする。
【解決手段】車両重量Mや重心高Hおよび車速Vに基づいて随時に横転限界舵角Strlimを演算する。これにより、車両状態に応じた正確な横転限界舵角Strlimを演算することが可能となる。また、横転限界舵角Strlimに対応する舵角反力特性を求めておき、ドライバがステアリング操作して舵角Strが発生したときに、その舵角Strに対応する舵角反力を発生させることで、より早くから横転限界舵角Strlimに至らないように舵角Strを抑制する。横転が発生する直前の舵角Strである横転限界舵角Strlimを車両重量Mや重心高Hおよび車速Vに応じた値として演算しているため、車両状態に応じた操舵制御を行うことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の横転(ロールオーバー)の抑制制御としてステアリング制御を行う車両運動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、ロール角を推定すると共に、推定したロール角に基づいて横転傾向が高くなって横転する可能性があるか否かを判定し、横転する可能性がある場合に、操舵角の成分を補正して出力し、ロール角が減少する方向にタイヤ角度を物理的に動かすフィードバック式の自動車用挙動安定化制御システムが提案されている。また、特許文献2において、横転状態を予見するロール予見量という指標を予め設定し、その値が閾値より大きくなった場合に、実際のロール角値にかかわらず、ドライバがそれ以上はロールオーバに至るような操舵入力を行えないようにする電動パワーステアリング装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−213345号公報
【特許文献2】特開2008−149887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように操舵角の成分を補正する手法では、ロール角が大きいときに、操舵制御を行って横転を抑制することはできるものの、ロールイナーシャの大きな車両では一度ロール角速度が発生しまうと挙動を抑えるのに大きな制御量(制動力)が必要となる。
【0005】
これに対して、特許文献2のように、ドライバが早い操舵入力を行えなくなるような操舵制御を行う場合、より早くから操舵量が大きくなり難くされるため、大きなロール角速度が発生することを抑制することができるという点で有効である。しかしながら、制御対象である指標が異なるだけでフィードバック制御であることに変わりはなく、ロール予見量が閾値を超えるまでの間はロールの修正が行われないという問題がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、横転限界舵角以上の操舵量となり難くなるように操舵制御を行う車両運動制御装置において、車両状態に応じた操舵制御が行えるようにすることを目的とする。また、横転限界舵角をより正確に演算することができる横転限界舵角演算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、横転限界舵角演算手段(110)にて、予め定めておいた車速(V)と重心高(H)および車両重量(M)のうちのいずれか一方と横転が発生する限界を示す横転限界舵角(Strlim)との関係に基づき、車速取得手段(210)で取得した車速(V)と車両重心高取得手段(260)で取得した重心高(H)および車両重量取得手段(270)で取得した車両重量(M)のうちの前記のいずれか一方と対応する横転限界舵角(Strlim)を演算することを特徴としている。
【0008】
このように、車両重量(M)や重心高(H)および車速(V)のうちのいずれか一方に基づいて随時に横転限界舵角(Strlim)を演算している。このため、車両状態に応じた正確な横転限界舵角(Strlim)を演算することが可能となる。
【0009】
具体的には、請求項2に記載したように、横転限界舵角演算手段(110)は、車速(V)が高いほど、または重心高(H)が高いほど、または車両重量(M)が高いほど、横転限界舵角(Strlim)を小さな値とする。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の横転限界舵角演算装置と、舵角(Str)を検出する舵角検出手段(230)を有し、舵角(Str)が大きくなることで横転限界舵角演算手段(110)にて演算された横転限界舵角(Strlim)に近づくと、舵角(Str)が横転限界舵角(Strlim)に近づくに連れて大きくなる舵角反力特性を決定する舵角反力特性決定手段(120)と、舵角反力特性決定手段(120)にて決定された舵角反力特性と舵角検出手段(230)で検出される舵角(Str)とにより、発生させる舵角反力を演算する舵角反力演算手段(120)と、舵角反力演算手段(120)にて演算された舵角反力を発生させるように電動パワーステアリングの操舵トルクをフィードフォワード制御する操舵トルク制御手段(130)と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
このように、横転限界舵角(Strlim)に対応する舵角反力特性を求めておき、ドライバがステアリング操作して舵角が発生したときに、その舵角に対応する舵角反力が発生させられるようなフィードフォワード制御を行っている。このため、より早くから横転限界舵角(Strlim)に至らないよう、舵角がドライバにより大きくならないように抑制することができる。したがって、ロール角が大きくならないようにドライバの舵角操作に予め制限を加えることができ大きなロール角速度が発生することを未然に抑制することができるため、ロールイナーシャの大きな車両でも、その挙動を抑えるために挙動後に大きな制御量が必要になるなどの問題が発生することを防止することができる。また、横転が発生する直前の舵角である横転限界舵角(Strlim)を車両重量(M)や重心高(H)および車速(V)に応じた値として演算しているため、車両状態に応じた操舵制御を行うことが可能になる。
【0012】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係等を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両運動制御を実現する車両運動制御システムの全体構成図である。
【図2】操舵制御の処理の詳細を示したフローチャートである。
【図3】物理量演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図4】(a)は、横転限界ヨーレートYrlimの求め方を説明するための車両モデル図であり、(b)は、ロール角ωが発生したときの移動量のイメージを示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本発明の一実施形態にかかる車両運動制御を実現する車両運動制御システムの全体構成を示したものである。本実施形態では、この車両運動制御システムによって、操舵制御を含む車両運動制御を行う場合について説明する。
【0015】
図1に示される車両運動制御システムは、ブレーキ制御を行うためのブレーキ用電子制御装置(以下、ブレーキECUという)1と電動パワーステアリング(以下、EPS(Electric Power Steering)という)2を駆動するためのEPS用電子制御装置(以下、EPS−ECUという)3とを制御部として車両運動制御を実行する。
【0016】
ブレーキECU1は、車輪速度センサ4、横加速度センサ5、舵角センサ6、ヨーレートセンサ7、ハイトセンサ8および荷重センサ9からの検出信号を入力し、これらの検出信号に基づいて各種物理量を演算すると共に、演算した各種物理量に基づいて制御対象輪に対して制動力を発生させることで車両安定性を向上させるための車両運動制御を行っている。本実施形態では、このブレーキECU1が本発明における横転限界舵角演算装置および車両運動制御装置の役割を果たす。
【0017】
例えば、ブレーキECU1は、各検出信号に基づいて各車輪の車輪速度Vwや車速(推定車体速度)、各車輪のスリップ率、舵角Str、ヨーレートYr、横加速度Gyなどを求めている。そして、これらに基づいて横転抑制制御を実行するか否かを判定すると共に、横転抑制制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU1が図示しないブレーキ液圧制御用アクチュエータに備えられた各種制御弁への電流供給制御やポンプを駆動するためのモータの電流量制御を実行する。
【0018】
具体的には、まず、車輪速度センサ4の検出信号に基づいて各車輪の車輪速度Vwを演算すると共に、演算した車輪速度Vwを利用して周知の手法によって車速(推定車体速度)Vを演算し、さらに、横加速度センサ5の検出信号に基づいて横加速度Gyを取得する。続いて、車速Vが横転抑制制御の実行を許可するしきい速度Vtよりも大きいか否かを判定し、超えていれば、横加速度Gyが制御開始閾値を超えているか否かを判定する。ここでいう制御開始閾値とは、横転抑制制御の開始条件を設定する基準値である。例えば、車両の横転傾向情報として横加速度Gyを適用する場合には、制御開始閾値は、横転抑制制御を実行すべきであるほど横加速度Gyが大きくて横転傾向が高いことを示す値を意味する。このため、横加速度Gyが制御開始閾値を超えていれば横転抑制制御を開始し、ヨーレートセンサ7の検出信号に基づいて演算した実際のヨーレートYrとスリップが発生していない理想的な旋回状態のときに想定されるヨーレートである目標ヨーレートYrstrとの差に基づいて、制御量を設定し、制御対象輪に対して制動力を発生させることで、横転が抑制されるようにする。目標ヨーレートYrstrについては、例えば、舵角センサ6の検出信号に基づいて演算した舵角Strおよび車速Vを用いて、これらを積算するという周知の手法により演算することができる。
【0019】
また、本実施形態のブレーキECU1では、上記のように演算した各種物理量に基づいて、横転限界横加速度Gylimを演算すると共に、横転限界横加速度Gylimに対応する横転限界舵角Strlimを予め実験などに基づいて車両(車種)毎に求めておいた車両モデルを利用して演算する。そして、演算した横転限界舵角Strlim以上に舵角Strが発生し難くなるように、EPS−ECU3を通じてEPS2を制御し、舵角反力を発生させるようにする。
【0020】
EPS2は、ステアリング11、ステアリングシャフト12、操舵トルクセンサ13、モータ14、ステアリングギア機構15、ステアリングリンク機構16等を備えて構成され、操舵輪となる両前輪(図示せず)の中心線に対する角度(舵角)の調整を行う。
【0021】
具体的には、ステアリング11がドライバによって操作されることで、例えば図示しないステアリングコラムを介してステアリングシャフト12を回転させるように構成されている。
【0022】
ステアリングシャフト12は、ドライバのステアリング操作を操舵力として伝えるものである。ステアリングシャフト12は、ステアリング11側の部分(以下、上部シャフトという)12aとステアリングギア機構15側の部分(以下、下部シャフトという)12bの2部位に分かれており、上部シャフト12aにはドライバ操作によるトルクがそのまま伝えられ、下部シャフト12bには上部シャフト12aに伝えられたトルクとモータ14によるアシスト力とが加算されたトルクが伝えられるようになっている。
【0023】
なお、ここでいう下部シャフト12bに発生させられるトルクがハンドル軸トルクに相当するものである。ステアリング制御システムには、本実施形態のように上部シャフト12aに発生させられるトルクがモータ14によるアシスト力に加えられるようにハンドル軸トルクが発生させられる形態と、モータ14によるアシスト力だけでハンドル軸トルクが発生させられる形態があるが、いずれの形態に対しても本発明を適用することが可能である。
【0024】
操舵トルクセンサ13は、ステアリングシャフト12の連結部、つまり上部シャフト12aと下部シャフト12bの間のねじれ角に応じた出力信号を発生させることで、操舵トルクを検出するものである。この操舵トルクがEPS−ECU3に伝えられることで、要求する操舵トルクが発生させれているかが確認される。
【0025】
モータ14は、ドライバの操舵力をアシストするためのアシスト力を発生させるものであり、EPS−ECU3からの制御信号によって駆動され、下部シャフト12bに対して制御信号に示されるモータトルクに応じたアシスト力を加えることで、下部シャフト12bにハンドル軸トルクを発生させる。
【0026】
ステアリングギア機構15は、歯車の組み合わせ、例えばラックアンドピニオン型のもので構成され、下部シャフト12bに伝えられたハンドル軸トルク、つまり回転方向の力を下部シャフト12bに対して垂直方向の力に変換する。
【0027】
ステアリングリンク機構16は、ステアリングギア機構15から伝えられる力をピットマンアームやタイロッドを介してステアリングナックルまで伝え、操舵輪となる左右の車輪を同方向に向ける。
【0028】
このような構成により、ドライバによるステアリング11の操作力をモータ14のアシスト力によって助勢し、ドライバに軽やかなステアリング操作を可能にするような操舵制御を行うことができる。
【0029】
次に、上記のように構成された車両運動制御システムによる車両運動制御装置について説明する。
【0030】
本実施形態にかかる車両運動制御システムでは、上述した各センサ4〜9の検出信号に基づいて制御対象輪に制動力を発生させることで横転を抑制する横転抑制制御や、舵角Strに応じて操舵反力を発生させる操舵制御等を含む各種車両運動制御を実行する。これらのうち、横転抑制制御に関しては従来と変わらないため、本発明の特徴である操舵制御について説明する。
【0031】
図2は、操舵制御の処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示す処理は、例えばイグニッションスイッチがオンされているときに所定の制御周期毎に実行される。
【0032】
まず、ステップ100では、物理量演算処理が実行される。ここでは、各センサ4〜9の検出信号に基づいて物理量の演算を行う。図3は、この物理量演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【0033】
この図に示されるように、ステップ200では車輪速度センサ4の検出信号に基づいて各車輪の車輪速度Vwの演算を行う。ステップ210では、ステップ200で演算した各車輪の車輪速度Vwに基づいて、周知の手法によって車速(推定車体速度)Vを演算する。ステップ220では横加速度センサ5の検出信号に基づいて横加速度Gyの演算を行う。ステップ230では、舵角センサ6の検出信号に基づいて舵角Strの演算を行う。ステップ240では、ステップ230で演算した舵角Strとステップ210で演算した車速Vに基づいて周知の手法によって目標ヨーレートYrstrを演算する。ステップ250ではヨーレートセンサ7の検出信号に基づいて実際のヨーレートYrを演算する。ステップ260では、ハイトセンサ8の検出信号に基づいて重心高Hを演算する。そして、ステップ270では、サスペンションなどに備えられる荷重センサ9の検出信号に基づいて車両重量を演算する。このようにして、物理量演算処理が完了する。
【0034】
次に、図2のステップ110に進み、横転限界舵角演算処理を実行する。スリップ状態でない時の横転限界舵角Strlimは、車両が横転する直前の舵角、つまり横転しない限界の舵角を意味している。この横転限界舵角Strlimの演算手法について、図4を参照して説明する。
【0035】
図4(a)は、横転限界ヨーレートYrlimの求め方を説明するための車両モデル図であり、図4(b)は、ロール角が発生したときの移動量のイメージを示した模式図である。
【0036】
横転限界舵角Strlimは、最終的には車両が横転する直前のヨーレートYr、つまり横転しない限界のヨーレートYrである横転限界ヨーレートYrlimに基づいて演算される。横転限界ヨーレートYrlimについては、車両が横転する直前の横加速度Gy、つまり横転しない限界の横加速度Gyである横転限界横加速度Gylimと車速Vとに基づいて、次式で求めることができる。
【0037】
(数1)
Yrlim=Gylim/V
すなわち、横加速度Gyは、車速Vに対してヨーレートYrを掛けた値に相当することから、それをヨーレートYrの式に変換すると、数式1を導出することができる。そして、図4(a)に示されるように、重心位置を中心点とした重力方向成分の運動量と水平方向成分の運動量とが釣り合うベクトルのときの加速度a(=横加速度Gy×重力加速度g)に相当することから、車両固有の値であるトレッド幅(左右車輪間の間隔)をTと置くと、数式2が成り立つ。そして、数式2より、数式3を導出することができる。
【0038】
(数2)
H:T/2=Mg:Ma
(数3)
H/(T/2)=Mg/(Ma)
ここで、a=Gy×gであるため、Ma=MGy×gとして、数式3を変換すると、数式4となる。このとき、右辺と等号となるときの横加速度Gyが横転限界横加速度Gylimとなり、右辺の方が左辺よりも大きい場合には横転が発生しない程度の横加速度、左辺の方が右辺よりも大きい場合には横転が発生する横加速度であることを意味している。
【0039】
(数4)
Gy=(T/2)/H
ただし、数式4は、車両のロール角を無視して導出した式であるため、実際に発生しているロール角をωとすると、ロール角ωが図4(b)に示したように、重心高Hからロールのセンター位置の高さであるロールセンター高を差し引いた値rを用いて、ラジアン計算にて重心位置の移動量がrωとして表されるため、数式4は次式のように置き換えられる。
【0040】
(数5)
Gy=(T/2−rω)/H=(T−2rω)/2H
また、ロール角ωについては、ロールトルクに対して車両固有の値であるロール剛性を掛けた値として表される。そして、ロールトルクが、車両重量Mに対して舵角Strから演算した目標ヨーレートYrstrを掛けた値に対して、車速Vを重心高Hからロールのセンター位置の高さであるロールセンター高を差し引いた値rで割った値を掛けた値として表され、ロール剛性が定数kで表されるとすると、ロール角ωは次式となる。
【0041】
(数6)
ω=ロールトルク×ロール剛性=M・Yrstr・V/r×k
したがって、数式6に示されるロール角ωを数式5に代入することによって横転限界横加速度Gylimを演算し、この横転限界横加速度Gylimをさらに数式1に代入することによって、横転限界ヨーレートYrlimを演算することができる。
【0042】
また、横転限界ヨーレートYrlimと横転限界舵角Strlimとは車両モデルを用いて車両毎(車種ごと)に予め実験などによって求めておくことができるため、その実験結果で求めた関係をマップもしくは関数式として記憶しておき、演算された横転限界ヨーレートYrlimに対応する横転限界舵角Strlimを記憶しておいた関係を利用して求めることができる。
【0043】
その後、ステップ120に進み、横転限界舵角Strlimを演算すると共に、舵角に応じた舵角反力特性を設定する。
【0044】
横転限界ヨーレートYrlimと横転限界舵角Strlimとの関係は、車両毎に異なった関係となるが、基本的には横転限界ヨーレートYrlimの大きさに応じて横転限界舵角Strlimの大きさも変動し、横転限界ヨーレートYrlimが大きくなるほど横転限界舵角Strlimも大きくなる関係となる。そして、上記各数式より分かるように、車両固有の値であるトレッド幅Tやロール剛性k、および、積載状態等によって変化する車両重量Mや重心高Hや車速Vによって横転限界ヨーレートYrlimが規定されており、車両重量Mや重心高Hおよび車速Vが大きくなるほど小さくなるという関係となる。
【0045】
したがって、車両重量Mや重心高Hおよび車速Vに応じて横転限界舵角Strlimも変動し、これらが大きくなるほど横転限界舵角Strlimが小さくなることになる。
【0046】
続いて、横転限界舵角Strlimが求められたら、その横転限界舵角Strlimに対応した舵角反力特性を設定する。具体的には、舵角反力は、舵角が横転限界舵角Strlimに近づくほど指数関数的に大きくなるという関係として設定される。そして、このようにして舵角反力特性が設定されたら、その舵角に対応する舵角反力特性のマップを記憶し、そのマップに基づいて物理量演算の際に求められた舵角と対応する舵角反力を演算する。
【0047】
その後、ステ130に進み、演算された舵角反力に対応する操舵トルクを示す信号をEPS−ECU3に出力することにより、操舵トルクをフィードフォワード制御する。これにより、EPS−ECU3が信号に示される操舵トルクが舵角反力として付与されるように、モータ14の回転を制御する。このようにして、ドライバがステアリング操作を行うと、そのステアリング操作により発生させられた舵角Strに応じた舵角反力が付与され、横転限界舵角Strlimに近づくほど、ステアリング11が切り込み難くなるようにすることができる。
【0048】
このように、車両重量Mや重心高Hおよび車速Vに基づいて随時に横転限界舵角Strlimを演算している。このため、車両状態に応じた正確な横転限界舵角Strlimを演算することが可能となる。
【0049】
また、横転限界舵角Strlimに対応する舵角反力特性を求めておき、ドライバがステアリング操作して舵角Strが発生したときに、その舵角Strに対応する舵角反力が発生させられるようなフィードフォワード制御を行っている。
【0050】
このため、より早くから横転限界舵角Strlimに至らないように舵角Strを抑制することができる。したがって、ロールイナーシャの大きな車両でも、大きなロール角速度が発生することを抑制することができるため、その挙動を抑えるために大きな制御量が必要になるなどの問題が発生することを防止することができる。また、横転が発生する直前の舵角Strである横転限界舵角Strlimを車両重量Mや重心高Hおよび車速Vに応じた値として演算しているため、車両状態に応じた操舵制御を行うことが可能になる。
【0051】
(他の実施形態)
上記実施形態では、横転限界舵角Strlim以上に舵角Strが切り込み難くなるようにするに際し、車両重量Mや重心高Hおよび車速Vすべてを用いて演算した横転限界ヨーレートYrlimから横転限界舵角Strlimが演算されるようにしている。しかしながら、正確な横転限界舵角Strlimを演算するために横転限界ヨーレートYrlimから演算するという手法を用いたのであり、車両重量Mや重心高Hおよび車速Vと横転限界舵角Strlimとの関係を予め実験的に求めておき、演算した車両重量Mや重心高Hおよび車速Vと対応する横転限界舵角Strlimをその関係から直接求めるようにすることもできる。
【0052】
また、上記実施形態では、各種物理量が上記各センサ4〜9の検出信号に基づいて求められる場合について説明したが、他のセンサの検出信号もしくは推定値として求められるものであっても良い。例えば、車輪速度センサ4の検出信号から演算される車輪速度Vwに基づいて車速Vを演算しているが、車速センサの検出信号から演算しても良い。また、車両重量Mや重心高Hについては、センサ値ではなく、例えば公知の推定手法による推定値を用いても構わない。また、一般に車両重量と重心高とは積載量の多少に基づく関係を有することより、一方を推定または検出により取得して他方をその関係より推定しても良い。また、一方を固定値として入力することで取得することとし、他方を推定または検出により取得することとしても良い。
【0053】
さらに、上記実施形態では、横転限界舵角演算を行った後、操舵制御にその横転限界舵角Strlimの結果を利用する場合について説明した。しかしながら、これも単なる一例を示したものであり、横転限界舵角演算の結果に基づいて、ドライバによるステアリング操作にて発生させられた舵角Strが横転限界舵角Strlimに近づくとブレーキECU1から制御対象輪に対して制動力を発生させるようにしたり、車内の警告ランプを点灯させてドライバに横転限界舵角Strlimに近づいていることを示したり、ブレーキランプ等を点灯させて後続車両に横転する可能性があることを示したりするという制御に用いることもできる。
【0054】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。具体的には、ブレーキECU70のうち、ステップ110の処理を実行する部分が横転限界舵角演算手段、ステップ120の処理を実行する部分が舵角反力特性決定手段や舵角反力演算手段、ステップ130の処理を実行する部分が操舵トルク制御手段、ステップ210の処理を実行する部分が車速取得手段、ステップ230の処理を実行する部分が舵角検出手段、ステップ260の処理を実行する部分が車両重心高取得手段、ステップ270の処理を実行する部分が車両重心取得手段に相当する。
【符号の説明】
【0055】
1…ブレーキECU、4…車輪速度センサ、5…横加速度センサ、6…舵角センサ、7…ヨーレートセンサ、8…ハイトセンサ、9…荷重センサ、11…ステアリング、12…ステアリングシャフト、13…操舵トルクセンサ、14…モータ、15…ステアリングギア機構、16…ステアリングリンク機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速(V)を取得する車速取得手段(210)と、
車両の重心高(H)を取得する車両重心高取得手段(260)と、
車両重量(M)を取得する車両重量取得手段(270)と、
予め定めておいた車速(V)と重心高(H)および車両重量(M)のうちのいずれか一方と横転が発生する限界を示す横転限界舵角(Strlim)との関係に基づき、前記車速取得手段(210)で取得した前記車速(V)と前記車両重心高取得手段(260)で取得した前記重心高(H)および前記車両重量取得手段(270)で取得した前記車両重量(M)のうちの前記いずれか一方と対応する前記横転限界舵角(Strlim)を演算する横転限界舵角演算手段(110)と、を備えていることを特徴とする横転限界舵角演算装置。
【請求項2】
前記横転限界舵角演算手段(110)は、前記車速(V)が高いほど、または前記重心高(H)が高いほど、または前記車両重量(M)が高いほど、前記横転限界舵角(Strlim)を小さな値とすることを特徴とする請求項1に記載の横転限界舵角演算装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の横転限界舵角演算装置と、
舵角(Str)を検出する舵角検出手段(230)を有し、
前記舵角(Str)が大きくなることで前記横転限界舵角演算手段(110)にて演算された前記横転限界舵角(Strlim)に近づくと、前記舵角(Str)が前記横転限界舵角(Strlim)に近づくにつれて大きくなる舵角反力特性を決定する舵角反力特性決定手段(120)と、
前記舵角反力特性決定手段(120)にて決定された前記舵角反力特性と前記舵角検出手段(230)で検出される前記舵角(Str)とにより、発生させる舵角反力を演算する舵角反力演算手段(120)と、
前記舵角反力演算手段(120)にて演算された前記舵角反力を発生させるように電動パワーステアリングの操舵トルクをフィードフォワード制御する操舵トルク制御手段(130)と、を備えていることを特徴とする車両運動制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−110952(P2011−110952A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266105(P2009−266105)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】