説明

電気式床暖房装置

【課題】コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置において、コード状ヒータのヒータ線に疲労断線が生じてヒータ線近傍が異常発熱し出火に至るような事態となるのを回避できる安全設計を、電気回路に組み込む。
【解決手段】コード状ヒータ20として、通電により発熱するヒータ線22と検知線24と、その間に充填された溶断層23とを備えたものを用いる。検知線24をアース接続する。断線による異常発熱により溶断層23が溶融してヒータ線22と検知線24とが短絡したときに流れる短絡電流は、アース接続された検知線24を通して安全側に放電される。検知線24を過剰電流(漏電電流)が流れることにより、コントローラ40(または家屋内)の漏電ブレーカー41が作用し、電気回路を完全遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気式床暖房装置、特に発熱源であるコード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰めた形態の電気式床暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木質基材の裏面に形成した配線溝内にコード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続しながら床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置は知られている(特許文献1等参照)。床暖房構造としたときの遮音性能を高めるために、木質基材に遮音溝を形成することも行われており、また、コード状ヒータを組み込んだ木質基材の裏面に弾性を持つ緩衝材を貼り付けて、いわゆる直貼りタイプの電気式床暖房パネルとすることも行われている。コントローラには、加熱エリアの特定、通電の開始と停止、定常運転モードでの温度レベル設定、漏電ブレーカーなどの機能が備えられるとともに、各電気式床暖房パネルには、過昇温を防止するためにサーモスタット等が備えられ、電気式床暖房装置の安全性を確保している。
【特許文献1】特開2005−120810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電気式床暖房装置の安全運転は、通常の使用状態では充分に保証されている。しかし、一般に構造部材は、その構造上からくる寿命を当然に有しており、例えば電気式床暖房パネルの場合、10年程度の長期にわたって継続して使用されると、歩行等による荷重が繰り返し加わることで、内部に組み込んだコード状ヒータにひずみによる応力が繰り返しかかり、その影響で疲労断線が起こる可能性がある。断線が起こった状態で使用を続けると、断線箇所でスパークが発生し、燃焼を起こす可能性がある。
【0004】
また、地震等により設計値以上の外的応力が電気式床暖房装置を取り付けている建物に作用した場合、躯体にゆがみが生じ、電気式床暖房パネルの配線溝に埋め込んだコード状ヒータに部分的に予期せぬ集中応力が作用することも起こり得る。使用者がそれを知らずに電気式床暖房装置の使用を継続していると、同様な疲労断線が起こり得る。
【0005】
本発明は、上記のように製品寿命を超えたときに、あるいは地震のような異常事態が発生したときに起こる可能性のある、コード状ヒータの断線に起因する燃焼等の不都合に対して、安全設計を施した電気式床暖房装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する本発明による電気式床暖房装置は、コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置であって、前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有するコード状ヒータであり、前記検知線はアース接続されていることを特徴とする。
【0007】
上記の電気式床暖房装置において、通常の使用状態では、当該電気式床暖房装置に付設のコントローラに設定した条件に従った正常運転が継続する。製品寿命を超えた長期の使用等により、いずれかの電気式床暖房パネルに組み込まれたコード状ヒータに疲労断線等による部分断線等が生じたと仮定する。断線により、接触抵抗が増加してあるいはスパーク等により、その近傍に設定値以上の発熱が生じる。本発明による電気式床暖房装置では、コード状ヒータとして通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有するコード状ヒータを用いており、前記した設定値以上の発熱により溶断層が溶融する。
【0008】
絶縁層として機能していた溶断層が溶融することにより、ヒータ線と検知線が短絡状態となり、付設したコントローラからの電流は短絡電流としてアース接続されている検知線側に漏電電流として流れる。それにより、万一の断線時にも安全を確保することができる。
【0009】
なお、上記の電気式床暖房装置において、前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有する形態のものであればよく、例えば、後の実施の形態に示すように、1本のヒータ線と1本の検知線とその間に前記溶断層を充填した2線式のコード状ヒータ、あるいは、第1と第2の2本のヒータ線と1本の検知線とからなり、前記第1のヒータ線と前記検知線とはそれぞれが第1の被覆樹脂で被覆されており、前記第2のヒータ線は前記第1の被覆樹脂の溶融温度よりも高い溶融温度を持つ第2の被覆樹脂で被覆されている3線式コード状ヒータ、が挙げられる。
【0010】
本発明による電気式床暖房装置の一態様において、前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有する2線式コード状ヒータであり、前記2線式コード状ヒータにおける前記溶断層が溶融することにより生じる前記ヒータ線と前記検知線との短絡により前記検知線を流れる電流に起因して作動する漏電ブレーカーを備える。前記漏電ブレーカは、前記コントローラに備えられていてもよく、家屋内設置される配電盤に備えられていてもよい。
【0011】
上記の形態の電気式床暖房装置においても、通常の使用状態では、当該電気式床暖房装置に付設のコントローラに設定した条件に従った正常運転が継続する。製品寿命を超えた長期の使用等により2線式コード状ヒータに部分断線等が生じたとき、前記のように溶断層が溶融し、ヒータ線と検知線が短絡状態となり、コントローラからの電流はアース接続されている検知線側に漏電電流として流れる。それにより、万一の断線時にも安全を確保することができる。さらに、漏電電流が流れることにより、コントローラあるいは配電盤に備えられた漏電ブレーカーが作動して回路を強制的に遮断する。それにより、当該断線箇所での異常発熱は停止し、燃焼にまで至るような事態が生じるのを確実に阻止することができる。すなわち、通電回路は事故発生時に安全サイドに導かれる。
【0012】
なお、電気式床暖房パネルのヒータ回路には、通常、サーモスタットが組み込まれており、サーモスタット接続部に近い位置で前記断線が生じた場合には、検知線を流れる短絡電流の値は小さく、漏電ブレーカーが適切に作動しない恐れがある。そのために、電気式床暖房パネルにおけるサーモスタット接続部に近い位置において前記2線式コード状ヒータに断線を起こり難くした手段を施しておくことが望ましい。その手段の一例として、サーモスタット接続部付近の2線式コード状ヒータに直接過大な応力が発生しないように、少なくともその近傍の配線溝の溝幅を広くして、2線式コード状ヒータと配線溝との間にクリアランスを設けること等が挙げられる。
【0013】
上記の課題を解決する本発明によるさらに他の電気式床暖房装置は、前記コード状ヒータとして、第1と第2の2本のヒータ線と1本の検知線とからなり、前記第1のヒータ線と前記検知線とはそれぞれが第1の被覆樹脂で被覆されており、前記第2のヒータ線は前記第1の被覆樹脂の溶融温度よりも高い溶融温度を持つ第2の被覆樹脂で被覆されている3線式コード状ヒータを用いる。そして、前記3線式コード状ヒータの前記検知線はアース接続されており、前記電気式床暖房装置、前記3線式コード状ヒータにおける前記第1の被覆樹脂が溶融することにより生じる前記第1のヒータ線と前記検知線との短絡により前記検知線に流れる電流に起因して作動する漏電ブレーカーを少なくとも備えることを特徴とする。この態様でも、前記漏電ブレーカは、前記コントローラに備えられていてもよく、家屋内設置される配電盤に備えられていてもよい。
【0014】
上記の電気式床暖房装置においても、通常の使用状態では、当該電気式床暖房装置に付設のコントローラに設定した条件に従った正常運転が継続する。製品寿命を超えた長期の使用等により、いずれかの電気式床暖房パネルに組み込まれた前記3線式コード状ヒータの前記した第1と第2の2本のヒータ線のいずれかの箇所において断線が生じて設定以上の異常発熱が生じた場合、その発熱により、前記第1のヒータ線と検知線とを被覆している第1の被覆樹脂が溶融する。絶縁層として機能していた第1の被覆樹脂が溶融することにより、第1のヒータ線と検知線が短絡状態となる。
【0015】
この短絡により、付設したコントローラからの電流は短絡電流としてアース接続されている検知線側に漏電電流として流れる。漏電電流が流れることにより、コントローラあるいは配電盤に備えられた漏電ブレーカーが作動して、回路を強制的に遮断する。それにより、この態様の電気式床暖房装置においても、当該断線箇所での異常発熱は停止し、燃焼にまで至るような事態が生じるのを確実に阻止することができる。すなわち、通電回路は事故発生時に安全サイドに導かれる。
【0016】
本発明による電気式床暖房装置において、床暖房を行う床面積の広さに応じた複数枚の電気式床暖房パネルが用いられる。複数枚の電気式床暖房パネルは、好ましくは、並列接続された1組以上のグループにグループ化され、各グループ化した電気式床暖房パネル群がコントローラに並列に接続される。
【0017】
上記した3線式コード状ヒータを備える電気式床暖房パネルにおいて、3線式コード状ヒータを構成する第1と第2の2本のヒータ線の一方端は電源側に、直接もしくは必要に応じて通常の温度ヒューズを介して接続し、他方端は互いに接続する構成である。そのために、3線式コード状ヒータの一方端は開放端であってよく、従来のコード状ヒータのように、あるいは前記した2線式コード状ヒータのように、閉ループとなる回路を作る必要がないので、電気式床暖房パネルへのヒータ線の組み込み作業が容易となる。NC等による配線の自動化も可能となる。さらに、ダイオードも不要となるので、有効ヒータゾーンも大きくなり、電気式床暖房パネル自体の構成も簡素化される。また、3線式コード状ヒータは、3線式コード状ヒータ内で、実質的に平行に走る第1と第2の2本のヒータ線を電流が往復で流れるので磁界が打ち消し合うようになり、低電磁波ヒータ線となる。そのために、これを採用した本発明による電気式床暖房パネルからの電磁波の発生もカットされる。
【0018】
本発明で用いる電気式床暖房パネルの全体形状は任意であり、矩形状、長尺状の単位ピースを長手方向に位置をずらしながら雁木状に組み付けた雁木形状、などを例示できる。木質基材の裏面に緩衝材層を貼着した形態であってもよく、この形態の電気式床暖房パネルを用いることにより、直貼り式の電気式床暖房装置を構築することができる。
【0019】
本発明による電気式床暖房装置の1つの態様では、電気式床暖房パネルの複数枚が並列接続された1組以上のグループにグループ化されている。この態様では、事故発生時に、短絡が生じた電気式床暖房パネルのみを、それ単独で、新しいものと交換することができる。また、その際に、コントローラまたは配電盤に、各グループ毎に対応した漏電ブレーカーを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製品寿命を超えたときにあるいは地震のような異常事態が発生したときに起こる可能性のある、コード状ヒータの断線に起因する燃焼等の不都合に対して、有効な安全設計を施した電気式床暖房装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態により説明する。図1は第1形態の電気式床暖房装置の全体を示す概略図、図2はそこで用いる電気式床暖房パネルの一例を説明する図、図3は前記電気式床暖房パネルに組み込まれた2線式コード状ヒータを説明する図、図4は第1形態の電気式床暖房装置の電気回路図である。
【0022】
第1形態の電気式床暖房装置Aは、床下地10の上に、図2に一例を示すような、発熱源としての2線式コード状ヒータ20を組み込んだ電気式床暖房パネル30の複数枚を電気的に接続して敷き詰めて構成され、各電気式床暖房パネル30には、外部からの商用電力がコントローラ40を介して供給される。コントローラ40は、前記特許文献1に記載のような従来知られた電気式床暖房装置で用いられているものであってよく、加熱エリアの特定、通電の開始と停止、定常運転モードでの温度レベル設定、漏電ブレーカー等による漏電時の回路遮断機能などが備えられる。
【0023】
電気式床暖房パネル30は、図2aに緩衝材層を除去した状態の背面図に示すように、この例では、長尺状の単位ピース31が長手方向に位置をずらしながら雁木状に組み付けられており、その裏面には連続する配線溝32が形成されている。配線溝32の中には、図3に示す2線式コード状ヒータ20が埋め込まれており、2線式コード状ヒータ20の端部はコネクターに34、35に電気的に接続している。この例で、コネクター34、35はアース線を備えた3線式のものであり、後に説明する2線式コード状ヒータ20の検知線24がアース線に接続している。また、電気式床暖房パネル30の裏面の適所にはサーモスタット26が組み込まれており、図示しないが、2線式コード状ヒータ20がサーモスタット26に接続する付近において、配線溝32の溝幅は広くなっている。それにより、2線式コード状ヒータ20と配線溝32との間に所要のクリアランスを形成することができ、サーモスタット26近傍において2線式コード状ヒータ20に疲労破断が生じるのを回避することができる。
【0024】
図2で、36は、各単位ピース31の裏面に配線溝32に交差するようにして形成される遮音溝である。さらに、電気式床暖房パネル30の裏面には緩衝材層37が貼り付けられており、この例において緩衝材層37は、図2bに示すように、不織布層38と樹脂発泡体層39との2層構成とされている。
【0025】
図3に示すように、この例において、2線式コード状ヒータ20は、ポリエステル系合成繊維より糸のような耐熱芯材21に、発熱体であるヒータ線22が巻き込まれており、その全体がヒータ線22の異常発熱等で溶融する非導電性材料からなる溶断層23で被覆されている。溶断層23の外周には銅線のような電気抵抗の小さい線からなる検知線24が配置されており、それ全体が耐熱PVCのような断熱性のある非導電性材料からなる被覆材25により覆われている。溶断層23は、熱可塑性樹脂、例えばナイロン系のものやポリアミド系樹脂製のもので作られており、通常の運転時ではそのままで存在し、ヒータ線22に予定されている最高加熱温度を超える異常加熱状態となったとき溶融する。そのような異常加熱状態は、例えば、ヒータ線22に部分断線等が生じてスパークが生じたり、接触抵抗が異常に増加するような場合などに発生する。
【0026】
図4は、上記した第1形態の電気式床暖房装置Aの電気回路図である。交流電源はコントローラ40からコネクター34,35を介して電気式床暖房パネル30の2線式コード状ヒータ20に供給される。コントローラ40は従来知られたものであり、制御ユニットCUおよび漏電ブレーカー41を備える。2線式コード状ヒータ20を構成する前記検知線24は、直接またはアースリード線を介してアース接続されている。アース接続は、3線式コネクター34、35のアース線に接続することにより得ることができるが、これに限らない。
【0027】
正常な運転環境では、コントローラ40に設定した運転条件に従って、所要の電力がコード状ヒータ20に供給され、それが高い抵抗値を持つヒータ線22を流れ、その発熱により床暖房が行われる。正常運転時のヒータ線22の加熱により、溶断層23が溶断することはない。
【0028】
製品寿命を超えてもなお継続使用していると、使用者がまったく知らないうちにヒータ線22に断線が生じ、接触抵抗が異常に増加してスパーク等による異常加熱が生じる場合がある。その場合に、その部分に存在する溶断層23が溶融し、ヒータ線22と検知線24とが短絡状態となる。なお、図4では、1枚の電気式床暖房パネル30からなる電気式床暖房装置Aが示されるが、複数枚の電気式床暖房パネル30が直列にまたは並列に接続されて第1形態の電気式床暖房装置Aが構成される場合も、異常加熱した電気式床暖房パネル30において、同様な事態が生じる。
【0029】
短絡が生じると、抵抗の少ない検知線24側を多くの電流が流れるようになるが、検知線24はアース接続されており、安全は確保される。一方、抵抗の小さい検知線24を多くの電流が流れることにより、コントローラ40内で過電流状態、すなわち漏電状態が形成され、漏電ブレーカー41が作動してメイン回路を遮断する。
【0030】
それにより、断線箇所でのそれ以上の発熱やスパークの発生は起こらなくなり、電気式床暖房パネル30の裏面に積層した不織布層38や樹脂発泡体層39からなる緩衝材層37が着火するという事態を確実に回避することができる。なお、図示しないが、前記ヒータ線22と前記検知線24との短絡により検知線24を流れる電流(漏電電流)に起因して作動する漏電ブレーカー41を、コントローラ40内でなく、家屋内に備えられる配電盤に備えるようにしても、同じ作用効果が達成される。
【0031】
次に、本発明による第2形態の電気式床暖房装置を図5〜図10を用いて説明する。図5は第2形態の電気式床暖房装置A1で用いる電気式床暖房パネル30の一例を説明するための前記図2(a)に相当する図、図6は前記電気式床暖房パネル30に組み込まれる3線式コード状ヒータ50を説明する図、図7は電気式床暖房パネル30の電気回路図、図8は第2形態の電気式床暖房装置A1の電気回路図、図9と図10は第2形態の電気式床暖房装置A1における発熱状態を説明するための発熱回路図である。
【0032】
第2形態の電気式床暖房装置A1は、電気式床暖房パネル30に組み込まれるコード状ヒータが図6に基づき後に説明する3線式コード状ヒータ50である点を除き、他の構成は、図1に示した前記第1形態の電気式床暖房装置Aと基本的に同じである。すなわち、第2形態の電気式床暖房装置A1においても、複数枚の電気式床暖房パネル30が電気的に接続して床下地10上に敷き詰められ、各電気式床暖房パネル30には、外部からの商用電力がコントローラ40を介して供給される。コントローラ40も従来知られた電気式床暖房装置で用いられているものであってよく、第1形態の電気式床暖房装置Aの場合と同様、加熱エリアの特定、通電の開始と停止、定常運転モードでの温度レベル設定、漏電ブレーカー等による漏電時の回路遮断機能などが備えられる。
【0033】
電気式床暖房パネル30は、図5に緩衝材層を除去した状態の背面図を示すように、長尺状の単位ピース31が長手方向に位置をずらしながら雁木状に組み付けられており、その裏面にはその全面にわたるようにして連続する配線溝32が形成されている。配線溝32の中には、図6に示す3線式コード状ヒータ50が埋め込まれており、3線式コード状ヒータ50の一方端50aは、リード線、通常の温度ヒューズおよび電源線50bを介して3線式コネクタ34、35に電気的に接続している。3線式コード状ヒータ50の他方端50cは、必要に応じてサーモスタット(不図示)が取り付けられる。なお、図5で、36は、各単位ピース30の裏面に配線溝32に交差するようにして形成される遮音溝である。図5で省略しているが、この電気式床暖房パネル30の裏面にも、図2(b)に示したと同様に、不織布層38と樹脂発泡体層39との2層構成とされている。このような緩衝材層37を備えることにより、直貼り床材として用いることができる。
【0034】
次に、3線式コード状ヒータ50を説明する。図6(a)(b)に示すように、3線式コード状ヒータ50は、第1のヒータ線51と、第2のヒータ線52と、銅線のような電気抵抗の小さい線からなる検知線53とからなる3線式ヒータであり、各線は、ヒータ線の異常発熱等で溶融する非導電性材料からなる被覆樹脂54、55、56でそれぞれ被覆されている。図6(a)に示すように3本の線は寄り合わされて一本の線となり、その全体が図6(b)に示すように耐熱PVCのような断熱性のある非導電性材料からなる被覆材57により覆われている。なお、図示しないが、2線式コード状ヒータ20と同様に、耐熱芯材の周囲に、第1のヒータ線51、第2のヒータ線52および検知線53をそれぞれ巻き付けたものに対して、前記した被覆樹脂54、55、56をそれぞれ被覆したものを用意し、その3本の線を図6に示すように、螺旋状に巻き込み、その全体を被覆材57で被覆して、3線式コート状ヒータ50とすることもできる。
【0035】
被覆樹脂54、55、56は、ナイロン系樹脂あるいはポリアミド系樹脂のような熱可塑性樹脂である。ただし、第1のヒータ線51を被覆する第1の被覆樹脂54と第2のヒータ線52を被覆する第2の被覆樹脂55には、溶融温度の異なる樹脂が用いられており、限定されるものではないが、この例で、第1の被覆樹脂54の溶融温度はほぼ170℃程度、第2の被覆樹脂55の溶融温度はほぼ220℃程度である。すなわち、第2のヒータ線52は第1の被覆樹脂54の溶融温度よりも高い溶融温度を持つ第2の被覆樹脂55で被覆されている。また、検知線53を覆う被覆樹脂56には、前記した比較して溶融温度の低い第1の被覆樹脂54と同じ樹脂が用いられている。
【0036】
これらの被覆樹脂54、55、56は、電気式床暖房装置A1の通常の運転時ではそのままで存在しており、絶縁材として機能している。しかし、第1のヒータ線51または第2のヒータ線52に断線あるいは部分断線等が生じてスパーク等が発生し、被覆樹脂の溶融温度を超える異常加熱状態が部分的に発生したときには、溶融して絶縁機能を喪失する。
【0037】
図7に示すように、電気式床暖房パネル30において、3線式コード状ヒータ50の第1のヒータ線51と第2のヒータ線52の一方端は、通常の温度ヒューズ58a電源線50bを介して前記した3線式コネクタ34(35)の電源側に接続し、第1のヒータ線51と第2のヒータ線52の他方端は、サーモスタット58を介して互いに接続している。また、前記検知線53は、3線式コネクタ34(35)のアース線を介してアース接続している。なお、温度ヒューズ58aとサーモスタット58は省略することもできる。
【0038】
図8は、上記した形態の電気式床暖房パネル30の複数枚を用いて構成された第2形態の電気式床暖房装置A1の一例を示す電気回路図である。ここでは、電気式床暖房パネル30の複数枚がコネクタ34、35を介して互いに接続することにより、グループ化された電気式床暖房パネル群30Aとされており、電気式床暖房パネル群30Aでは、各電気式床暖房パネル30に組み込まれた3線式コード状ヒータ20の2本のヒータ線と51、52と1本の検知線53のそれぞれは並列接続されている。なお、図8に示す電気式床暖房パネル群30Aは、3枚の電気式床暖房パネル30で構成されているが、何枚の電気式床暖房パネル30で電気式床暖房パネル群30Aを構成するかは任意である。また、仮想線で示すように、2つ以上の電気式床暖房パネル群30Aを並列接続してもよい。
【0039】
電気式床暖房装置A1を施工するに当たっては、図1に基づき説明したように、電気式床暖房パネル群30Aが床下地面に貼り付けられ、並列接続した複数の3線式コード状ヒータ50における前記第1のヒータ線51と第2のヒータ線52が、図示しないVVFケーブル等を介して、コントローラ40に結線される。コントローラ40は、従来知られた制御ユニットCUと漏電ブレーカー41を備えている。また、複数の3線式コード状ヒータ50の検知線53は、前記のようにアース接続されている。
【0040】
次に、図9および図10に示す電気式床暖房装置A1の発熱回路を参照して、その運転状態を説明する。なお、複数枚の電気式床暖房パネル30は図8に示すようにすべて並列接続しているので、図9、図10では、1つの電気式床暖房パネル30の場合を例として示すが、複数個の場合も等価である。上記の電気式床暖房装置A1において、電気式床暖房パネル30が正常に運転している環境では、コントローラ40から供給される電力は、電気式床暖房パネル30に組み込んだ3線式コード状ヒータ50の第1のヒータ線51と第2のヒータ線52とを循環するように流れ、その発熱により床暖房が行われる。正常運転での温度制御等は前記したコントローラ40の制御装置CUにより行われる。正常運転時には3線式コード状ヒータ50の検知線53には電流は流れない。
【0041】
上記の発熱回路において、製品寿命を超えてもなお継続使用していると、前記したように、使用者が知らないうちに3線式コード状ヒータ50を構成する第1のヒータ線51と第2のヒータ線52のいずれかに部分断線が生じ、接触抵抗が異常に増加してスパーク等による異常加熱が生じる場合がある。図9は、そのような断線が第1のヒータ線51において起こった場合の状態を説明している。第1のヒータ線51のいずれかの箇所Pでスパーク等による異常加熱が生じたときに、その箇所の第1の被覆樹脂54は溶融し、そこに近接する検知線53を被覆する被覆樹脂56も溶融する。
【0042】
双方の被覆樹脂が溶融することにより、図9に領域Qで示すように、第1のヒータ線51と検知線53とが短絡した状態となり、電流は、その短絡箇所からアース接続している検知線53側に流れる。その電流の流れはコントローラ40により漏電として認識され、漏電ブレーカー41が作動して、コントローラ40から3線式コード状ヒータ50への電力供給を完全に遮断する。それにより、断線箇所Pでのそれ以上の発熱やスパークは起こらなくなり、各電気式床暖房パネルAの裏面に積層した前記した不織布層38や樹脂発泡体層39からなる緩衝材層37が着火するという事態は確実に回避される。
【0043】
図10は、断線が第2のヒータ線52において起こった場合の状態を説明している。第2のヒータ線52のいずれかの箇所Pでスパーク等による異常加熱が生じたときに、その箇所の第2の被覆樹脂55が昇温する。第2の被覆樹脂55の溶融温度は、第1のヒータ線51および検知線53を被覆している第1の被覆樹脂54、56の溶融温度よりも高く設定してあるので、第2の被覆樹脂55が溶融する前に、第1のヒータ線51および検知線53を被覆している第1の被覆樹脂54、56が溶融する。それにより、図9に基づき説明したと同様に、領域Qにおいて、第1のヒータ線51と検知線53とが短絡した状態となる。以下、前記したと同様にして、短絡電流は、その短絡箇所からアース接続している検知線53側に流れ、それにより、漏電ブレーカー41が作動して、コントローラ40から3線式コード状ヒータ50への電力供給が完全に遮断される。図示しないが、この態様の電気式床暖房装置A1でも、前記第1のヒータ線51と前記検知線53との短絡により検知線53を流れる電流(漏電電流)に起因して作動する漏電ブレーカー41を、コントローラ40内でなく、家屋内に備えられる配電盤に備えるようにしても、同じ作用効果が達成される。
【0044】
上記したように、第2形態の電気式床暖房装置A1でも、異常時での安全性が確実に確保される。さらに、前記したように、3線式コード状ヒータ50を用いる場合には、電気式床暖房パネル30の木質基材31の裏面に3線式コード状ヒータ50を埋め込む際に、閉ループを作る必要がないので、その作業はきわめて容易である。場合によっては、NCによる配線も可能となる。また、床暖房時には、一本の3線式コード状ヒータ50内で、実質的に平行に走る第1と第2の2本のヒータ線51、52を電流が往復で流れることから磁界が打ち消し合うようになり、電気式床暖房パネルAからの電磁波の発生もカットされる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による電気式床暖房装置の全体を示す概略図。
【図2】電気式床暖房パネルの一例を説明する図。
【図3】電気式床暖房パネルに組み込まれた2線式コード状ヒータを説明する図。
【図4】本発明による第1形態の電気式床暖房装置の電気回路図。
【図5】本発明による第2形態の電気式床暖房装置で用いる電気式床暖房パネルの一例を説明するための図。
【図6】電気式床暖房パネルに組み込まれる3線式コード状ヒータを説明する図。
【図7】第2形態の電気式床暖房装置で用いる電気式床暖房パネルの電気回路図。
【図8】第2形態の電気式床暖房装置の電気回路図。
【図9】第2形態の電気式床暖房装置における発熱回路に異常発熱が生じたときの第1の態様を説明する図。
【図10】第2形態の電気式床暖房装置における発熱回路に異常発熱が生じたときの第2の態様を説明する図。
【符号の説明】
【0046】
A…第1形態の電気式床暖房装置、A1…第2形態の電気式床暖房装置、10…床下地、20…2線式コード状ヒータ、21…耐熱芯材、22…ヒータ線、23…溶断層、24…検知線、25…被覆材、26…サーモスタット、30…電気式床暖房パネル、30A…グループ化された電気式床暖房パネル群、31…単位ピース、32…配線溝、34、35…コネクター、37…緩衝材層、38…不織布層、39…樹脂発泡体層、40…コントローラ、41…漏電ブレーカー、50…3線式コード状ヒータ、51…第1のヒータ線、52…第2のヒータ線、53…検知線、54、56…第1の被覆樹脂、55…第2の被覆樹脂、57…被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置であって、
前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有するコード状ヒータであり、前記検知線はアース接続されていることを特徴とする電気式床暖房装置。
【請求項2】
コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置であって、
前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有する2線式コード状ヒータであり、前記検知線はアース接続されており、
前記電気式床暖房装置は、前記2線式コード状ヒータにおける前記溶断層が溶融することにより生じる前記ヒータ線と前記検知線との短絡により前記検知線を流れる電流に起因して作動する漏電ブレーカーを備えることを特徴とする請求項1に記載の電気式床暖房装置。
【請求項3】
前記漏電ブレーカは前記コントローラまたは家屋内の配電盤に備えられていることを特徴とする請求項2に記載の電気式床暖房装置。
【請求項4】
前記電気式床暖房パネルは2線式コード状ヒータに接続するサーモスタットを備えており、サーモスタット接続部に近い位置においてコード状ヒータに断線を起こり難くした手段が施してあることを特徴とする請求項2または3に記載の電気式床暖房装置。
【請求項5】
コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置であって、
前記コード状ヒータは、第1と第2の2本のヒータ線と1本の検知線とからなり、前記第1のヒータ線と前記検知線とはそれぞれが第1の被覆樹脂で被覆されており、前記第2のヒータ線は前記第1の被覆樹脂の溶融温度よりも高い溶融温度を持つ第2の被覆樹脂で被覆されている3線式コード状ヒータであって、前記検知線はアース接続されており、
前記電気式床暖房装置は、前記3線式コード状ヒータにおける前記第1の被覆樹脂が溶融することにより生じる前記第1のヒータ線と前記検知線との短絡により前記検知線に流れる電流に起因して作動する漏電ブレーカーを備えることを特徴とする電気式床暖房装置。
【請求項6】
前記漏電ブレーカは前記コントローラまたは家屋内の配電盤に備えられていることを特徴とする請求項5に記載の電気式床暖房装置。
【請求項7】
前記複数枚の電気式床暖房パネルは、並列接続された1組以上のグループにグループ化されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気式床暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−157611(P2008−157611A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263653(P2007−263653)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】