電源装置および電源装置の制御方法
【課題】モータが力行状態・回生状態を頻繁に繰り返す場合であっても、電力変換装置が備えるコンデンサの充放電電流による損失の増大を抑制する。
【解決手段】電源制御部43は、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1よりも大きい場合には、制御要求フラグFreqを「1」にセットする。これにより、回生状態から力行状態に移行した場合、電源制御部43は、第1および第2の電源を直列接続に設定する。
【解決手段】電源制御部43は、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1よりも大きい場合には、制御要求フラグFreqを「1」にセットする。これにより、回生状態から力行状態に移行した場合、電源制御部43は、第1および第2の電源を直列接続に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、それぞれが独立した複数の電源を備える電源装置が知られており、例えば、この電源装置は、インバータ(電力変換装置)を介してモータに電力を供給する。例えば、特許文献1には、電気自動車の低出力運転時にインバータの入力電圧を下げ、スイッチング損失を低減させることにより、システム効率の向上を図る手法が開示されている。具体的には、アクセルペダル踏込量、モータの出力、あるいは、ブレーキペダル踏込量が大の時は、複数の電源を直列接続し、これらの値が小の時は、複数の電源を並列接続する。
【0003】
なお、この類の電源装置では、個々の電源電圧間に差があるときには電源同士を並列接続することができないため、モータの回生時には、複数の電源間を直列接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−236608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、渋滞時といったようにアクセルペダル踏込量が小さく、モータ速度が低いシーンでは、力行状態時に複数の電源を並列接続し、回生状態時に複数の電源を直列接続するといった状態が頻繁に繰り返されることとなる。そのため、インバータ(電力変換装置)が備える平滑コンデンサの電圧変化に伴い充放電電流による損失が増大してしまうといった問題がある。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、モータが力行状態・回生状態を頻繁に繰り返す場合であっても、電力変換装置が備えるコンデンサの充放電電流による損失の増大を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本発明は、電力変換装置を介してモータに接続される複数の電源を備えており、回生状態から力行状態への移行時、電力変換装置が備えるコンデンサの状態に応じて、電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回生状態から力行状態へ移行後、コンデンサの状態に応じて、回生状態における電気的接続状態と同じ直列接続がそのまま維持される。これにより、直列接続と並列接続との切り替え回数を低減することができる。そのため、インバータのコンデンサの電圧変化が抑制され、平滑コンデンサの充放電電流による発熱を抑制することができるとともに、充放電電流による損失の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態にかかる電源装置30および当該電源装置30を用いたモータ10の制御システムを模式的に示す構成図
【図2】第1の実施形態にかかるコントロールユニット40の構成を模式的に示すブロック図
【図3】第1の実施形態にかかる電源装置30に関する第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の説明図
【図4】第1の実施形態にかかる電源装置30の制御方法を示すフローチャート
【図5】トルク指令値T*、第2のスイッチSW2の状態、コンデンサ電圧Vc、制御要求フラグFreqおよびコンデンサ温度Tcの推移をそれぞれ示す説明図
【図6】第2の実施形態にかかるコントロールユニット40aの構成を模式的に示すブロック図
【図7】第2の実施形態にかかる電源装置30の制御方法を示すフローチャート
【図8】第3の実施形態にかかる電源装置30bおよび当該電源装置30bを用いたモータ10の制御システムを模式的に示す構成図
【図9】第3の実施形態にかかるコントロールユニット40bの構成を模式的に示すブロック図
【図10】第3の実施形態にかかる電源装置30bにおける第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の説明図
【図11】第3の実施形態にかかる電源装置30bの制御方法を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる電源装置30および当該電源装置30を用いたモータ10の制御システムを模式的に示す構成図である。本実施形態では、電気自動車の駆動用モータとして適用されたモータ10を制御する制御システムについて説明を行う。この電気自動車は、モータ10、インバータ20、電源装置30およびコントロールユニット40を備えている。
【0011】
モータ10は、例えば、中性点を中心に星形結線された複数の相巻線(本実施形態では、U相巻線、V相巻線、W相巻線からなる3つの相巻線)を有する3相交流同期モータである。このモータ10は、インバータ20内で変換された3相の交流電力が各相巻線に供給されることにより生じる磁界と、回転子の永久磁石が作る磁界との相互作用により駆動する。モータ10のロータは、自動変速機の入力軸に連結されている。
【0012】
モータ10は、電源装置30から電力の供給を受けて回転駆動することにより、電動機として動作することができる(以下、この運転状態を「力行状態」と呼ぶ)。一方、モータ10は、ロータが外力により回転している場合、ステータ巻線の両端に起電力を生じさせることにより、発電機として機能する(以下、この運転状態を「回生状態」と呼ぶ)。モータ10により発電された電力は、電源装置30を充電することができる。本明細書では、電動機および発電機の双方の機能を併せもつ意味でモータという用語を用いる。
【0013】
インバータ20は、モータ10の力行状態時、コントロールユニット40から出力されるインバータ駆動信号に応じてPWM制御されることにより、電源装置30から供給される直流電力を、多相交流電力(本実施形態では、U相交流電力、V相交流電力およびW相交流電力で構成される3相交流電力)に変換し、当該3相の交流電力をモータ10の各相巻線に供給する。また、インバータ20は、モータ10の回生状態時、モータ10によって発電された3相交流電力を直流電力に変換する。この直流電力は、電源装置30または後述する平滑コンデンサCに蓄電される。
【0014】
インバータ20は、モータ10の各相に対応する3つのスイッチ回路を主体に構成されている。具体的には、インバータ20は、電源装置30の正極側の正極母線と、電源装置30の負極側の負極母線との間に、U相用のスイッチ回路と、V相用のスイッチ回路と、W相用のスイッチ回路とを備える。また、正極母線と負極母線との間には、各相用のスイッチ回路よりも電源装置30側に、平滑コンデンサCが接続されている。
【0015】
U相用のスイッチ回路は、互いに直列接続された一対のスイッチ(アーム)を主体に構成されており、V相用のスイッチ回路は、互いに直列接続された一対のスイッチ(アーム)を主体に構成されている。また、W相用のスイッチ回路は、互いに直列接続された一対のスイッチ(アーム)を主体に構成されている。個々のスイッチは、NPN型のトランジスタ等のスイッチング素子を主体に構成されており、個々のトランジスタには、コレクタ・エミッタ間に還流用ダイオードがそれぞれ逆並列接続されている。これらのスイッチのオンオフ状態は、コントロールユニット40から出力されるインバータ駆動信号に応じて切り替えられる。
【0016】
U相用の一対のスイッチの相互接続点、V相用の一対のスイッチの相互接続点、および、W相用の一対のスイッチの相互接続点は、それぞれが各相電流の出力点として機能している。各出力点には、モータ10の対応する相巻線がそれぞれ接続される。インバータ20により生成される3相交流電流をそれぞれU相交流電流Iu、V相交流電流IvおよびW相交流電流Iwとする。例えば、各交流電流Iu,Iv,Iwは、モータ10側へ電流が流れる方向を正とする。
【0017】
電源装置30は、インバータ20を介してモータ10に接続されており、モータ10に電力を供給するとともに、モータ10において発電された電力を充電する電源装置である。電源装置30は、それぞれが独立して直流電源として機能する複数の電源(本実施形態では、2つの電源(第1および第2の電源))を有している。個々の電源としては、例えば、ニッケル水素電池あるいはリチウムイオン電池といったバッテリを用いることができる。
【0018】
また、電源装置30は、第1および第2の電源間の電気的接続状態を、直列接続と並列接続とで切り替えるスイッチ回路を備えており、このスイッチ回路は、第1から第3のスイッチSW1〜SW3(スイッチング手段)を主体に構成されている。第1から第3のスイッチSW1〜SW3は、第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW1、第3のスイッチSW3の順番に従って直列接続されている。個々のスイッチSW1〜SW3は、NPN型のトランジスタ等のスイッチング素子を主体に構成されており、個々のトランジスタは、コレクタ・エミッタ間に還流用ダイオードがそれぞれ逆並列接続されている。スイッチSW1〜SW3のオンオフ状態は、コントロールユニット40から出力されるスイッチ駆動信号に応じて切り替えられる。
【0019】
ここで、スイッチ回路において、第1のスイッチSW1と第2のスイッチSW2との接続点は、第1の電源(電源電圧Ea)の正極が接続され、第2のスイッチSW2と第3のスイッチSW3との接続点は、第2の電源(電源電圧Eb)の負極が接続されている。第1のスイッチSW1のコレクタ端子と、第2の電源の正極とは相互に接続されており、この接続端は電源装置30の正極側の出力端として機能する。この正極側の出力端は、インバータ20の正極母線が接続される。また、第3のスイッチSW3のエミッタ端子と、第1の電源の負極とは相互に接続されており、この接続端は電源装置30の負極側の出力端として機能する。この負極側の出力端は、インバータ20の負極母線が接続される。なお、第1および第2の電源を並列接続から直列接続へ切り替えるときの突入電流を抑制するため、インバータ20と、電源装置30との間には、フィルタ用リアクトルLが設けられている。
【0020】
コントロールユニット40は、インバータ20を介してモータ10を制御する制御手段であるとともに、電源装置30を制御する電源制御手段でもある。コントロールユニット40としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。コントロールユニット40は、ROMに記憶された制御プログラムに従い、インバータ20および電源装置30を制御するための演算を行う。そして、コントロールユニット40は、この演算によって算出された制御信号をインバータ20または電源装置30に対して出力する。
【0021】
図2は、コントロールユニット40の構成を模式的に示すブロック図である。コントロールユニット40は、インバータ20を構成する各スイッチを制御することにより、モータ10の出力トルクを制御する。また、コントロールユニット40は、電源装置30を構成する第1から第3のスイッチSW1〜SW3を制御することにより、電源装置30における第1および第2の電源の電気的接続状態の設定を行う。
【0022】
コントロールユニット40には、各種センサからセンサ信号などの必要な情報が入力されている。電流センサ50は、モータ10の各相の交流電流、すなわち、U相交流電流Iuと、V相交流電流Ivと、W相交流電流Iwとをそれぞれ検出する。電気角検出部51は、モータ10のロータ位置を表す電気的な位相(電気角)θを検出する。また、モータ速度検出部52は、モータ10のロータの回転角速度(モータ速度)ωを検出する。例えば、電気角検出部51およびモータ速度検出部52は、モータ10のロータ位置を検出するエンコーダやレゾルバなどの回転位置センサからの検出結果に基づいて、電気角θおよびモータ速度ωを検出する。また、第1の電圧センサ53は、第1の電源の電圧(以下「第1の電源電圧」という)Eaを検出し、第2の電圧センサ54は、第2の電源の電圧(以下「第2の電源電圧」という)Ebを検出する。コンデンサ状態検出センサ(検出手段)55は、コンデンサCの状態、具体的には、コンデンサCの電圧(以下「コンデンサ電圧」という)VcおよびコンデンサCの温度(以下「コンデンサ温度」という)Tcを検出する。また、コントロールユニット40には、上位装置において演算されるトルク指令値T*が入力される。
【0023】
コントロールユニット40は、これを機能的に捉えた場合、トルク制御部41と、電流制御部42と、電源制御部43とを有している。これらの機能的な要素のうち、トルク制御部41と電流制御部42とは、主として電動機の制御手段としての機能を担い、また、電源制御部43とは、主として電源装置30の制御手段としての機能を担っている。
【0024】
トルク制御部41は、トルク指令値T*とモータ速度ωとに基づいて、ベクトル制御用の電流指令値であるd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*を演算する。具体的には、トルク制御部41は、トルク指令値T*とモータ速度ωとに基づいて、トルク指令値T*に一致するトルクをモータ10が出力するためのd軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*とをそれぞれ演算する。演算されたd軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*は、電流制御部42に出力される。トルク制御部41は、トルク指令値T*およびモータ速度ωの各パラメータと、d軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*との対応関係を記述したマップを保持しており、当該マップを参照することにより、d軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*を演算する。この対応関係を記述したマップは、実験やシミュレーションを通じて予め取得されている。
【0025】
ここで、dq軸座標系は、モータ10の機械的な回転速度の整数倍の電気的な回転速度で回転するd軸とq軸とから成る直交座標系である。3相同期モータであるモータ10において、dq軸座標系はモータ回転に同期して回転する。dq軸座標系により、モータ10の固定子巻線に供給される電流は、界磁分電流(d軸電流)とトルク分電流(q軸電流)とに分けてベクトル表示される。
【0026】
電流制御部42は、トルク制御部41から出力されるd軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*と、電気角θと、各相の交流電流Iu,Iv,Iwとに基づいて、インバータ駆動信号Sdinvを出力する。具体的には、電流制御部42は、電気角θに基づいて、3相交流電流Iu,Iv,Iwを、d軸およびq軸の実電流であるd軸およびq軸電流に座標変換を行う。電流制御部42は、d軸およびq軸電流と、d軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*との偏差が小さくなるように、PI制御或いはPID制御等の制御則を用いて、d軸およびq軸電圧指令値をそれぞれ演算する。
【0027】
電流制御部42は、電気角θに基づいて、d軸およびq軸電圧指令値を、各相の電圧指令値に座標変換を行う。そして、電流制御部42は、キャリアの電圧レベルと、各相の電圧指令値との比較に基づいて、インバータ20を駆動するインバータ駆動信号Sdinvを生成する。生成されたインバータ駆動信号Sdinvはインバータ20に対して出力され、このインバータ駆動信号Sdinvに応じて各スイッチ(具体的には、スイッチング素子)のオンオフ状態が制御される。
【0028】
電源制御部43は、モータ速度ωと、第1の電源電圧Eaと、第2の電源電圧Ebと、コンデンサ電圧Vcと、コンデンサ温度Tcとに基づいて、電源装置30における第1から第3のスイッチSW1〜SW3を駆動するためのスイッチ駆動信号Sdsw1〜Sdsw3を生成する。電源制御部43は、スイッチ駆動信号Sdsw1〜Sdsw3を通じて制御される第1から第3のスイッチSW1〜SW3のオンオフ状態の切り替えに応じて、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続または並列接続とで切り替える。また、電源制御部43は、モータ速度ωに基づいて、回生状態と力行状態との切り替わりを判定する。なお、電源制御部43は、モータ速度ω以外にも、モータ10のトルクまたはモータ10における各相の交流電流Iu,Iv,Iwのいずれか一つ、またはこれらの組み合わせに基づいて、回生状態と力行状態との切り替わりを判定してもよい。
【0029】
図3は、電源装置30における第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の説明図である。モータ10の力行状態時、第1の電源および第2の電源を直列接続して電力を供給する場合、電源制御部43は、第1および第3のスイッチSW1,SW3をオフ状態に、第2のスイッチSW2をオン状態に制御する(同図(a)参照)。また、モータ10の力行状態時、第1の電源および第2の電源を並列接続して電力を供給する場合、電源制御部43は、第2のスイッチSW2をオフ状態に制御する。ここで、第1および第3のスイッチSW1,SW3は、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとがほぼ等しい場合、オン状態にそれぞれ制御され、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとが等しくない場合、高電位側から低電位側へと電流が流れることを抑制するために、オフ状態にそれぞれ制御される(同図(b)参照)。この場合、第1の電源または第2の電源からモータ10への電流は、第1および第3のスイッチSW1,SW3における還流用ダイオードをそれぞれ流れる。一方、モータ10が回生状態の場合、電源制御部43は、第1の電源および第2の電源を直列接続して電力を充電すべく、第1から第3のスイッチSW1〜SW3をオフ状態に制御する(同図(c)参照)。この場合、モータ10からの電力は、第2のスイッチSW2における還流用ダイオードを流れて、第1および第2の電源に電流が流れる。
【0030】
図4は、本発明の第1の実施形態にかかる電源装置30の制御方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、電源装置30の第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の設定手順を示しており、所定周期でコントロールユニット40(具体的には、電源制御部43)によって実行される。なお、電源制御部43は、回生状態時には、後述するフローチャートの処理によって決定される接続状態に拘わらず、第1の電源および第2の電源を直列接続に設定すべく、第1から第3のスイッチSW1〜SW3のすべてをオフ状態に制御する(図3(c)参照)。
【0031】
まず、ステップ10(S10)において、電源制御部43は、モータ速度ωが速度判定値ωthよりも大きいか否かを判断する。モータ10が力行状態である場合、モータ速度ωが低速シーンでない限り、第1の電源および第2の電源を並列接続よりも直列接続とした方が、モータ10への供給電圧が高くなり、モータトルク・出力増加に対応することができるため好ましい。そこで、このステップ10では、モータ速度ωに基づいて、モータ速度ωが大きいか否か、すなわち、第1の電源および第2の電源を直列接続した方がよいシーンであるか否かが判断される。速度判定値ωthは、力行状態時に直列接続を選択した方がよいか、あるいは、並列接続を選択した方がよいかを切り分けるためのモータ速度ωが、実験やシミュレーションを通じて予め設定されている。
【0032】
このステップ10において肯定判定された場合、すなわち、モータ速度ωが速度判定値ωthよりも大きい場合には(ω>ωth)、ステップ11(S11)に進む。一方、ステップ10において否定判定された場合、すなわち、モータ速度ωが速度判定値ωth以下の場合には(ω≦ωth)、ステップ12(S12)に進む。
【0033】
ステップ11において、電源制御部43は、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続に設定すべく、第1のスイッチSW1および第3のスイッチSW3をオフ状態に制御し、第2のスイッチSW2をオン状態に制御する。
【0034】
ステップ12において、電源制御部43は、コンデンサ電圧Vcが、第1および第2の電源の直列接続に相当する値であるか、それとも第1および第2の電源の並列接続に相当する値であるかを判定する。具体的には、電源制御部43は、コンデンサ電圧Vcが、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとの加算値に係数Kcを乗算した値(以下「直列判定値」という)よりも大きいか否かを判定する。ここで、係数Kcは、予め定める1以下のゲインである。この係数Kcは、直列判定値が、第1および第2の電源を直列接続にした際の電圧からスイッチ回路に用いるスイッチング素子のオン電圧分やインバータ20の平滑コンデンサCまでの配線での電圧降下分などを考慮した値となるように設定される値である。すなわち、現在の電気的な接続状態として第1および第2の電源が直列接続である場合には、コンデンサ電圧Vcは直列判定値よりも大きくなり、一方で、現在の電気的な接続状態として第1および第2の電源が並列接続である場合には、コンデンサ電圧Vcが直列判定値以下となる。
【0035】
このステップ12において肯定された場合、すなわち、コンデンサ電圧Vcが直列判定値よりも大きい場合には(Vc>Kc(Ea+Eb))、ステップ13(S13)に進む。一方、ステップ12において否定判定された場合、すなわち、コンデンサ電圧Vcが直列判定値以下の場合には(Vc≦Kc(Ea+Eb))、ステップ15(S15)に進む。
【0036】
ステップ13において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「0」であり、かつ、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1よりも大きいか否かを判断する。ここで、制御要求フラグFreqは、第1および第2の電源の接続状態に対するシステム要求を示すフラグであり、並列接続を要求する場合には「0」に設定され、直列接続を要求する場合には「1」に設定される。この制御要求フラグFreqは、初期的には「0」に設定されている。また、第1の温度判定値Tcth1は、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制するために、後述する直列固定処理を行うか否かを判定するための平滑コンデンサCの温度判定値である。換言すれば、第1の温度判定値Tcth1は、平滑コンデンサCの温度上昇抑制の観点から設定される上限温度に相当する。
【0037】
このステップ13において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」で、かつ、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1よりも大きい場合には(Freq=0 and Tc>Tcth1)、ステップ14(S14)に進み、制御要求フラグFreqを「1」にセットする(ステップ14)。一方、ステップ13において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」であるか、あるいは、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1以下の場合には、ステップ15(S15)に進む。
【0038】
ステップ15において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「1」であり、かつ、コンデンサ温度Tcが第2の温度判定値Tcth2よりも小さいか否かを判断する。ここで、第2の温度判定値Tcth2は、直列固定処理により平滑コンデンサCの温度が通常の動作温度帯域まで低下したことを判定するための平滑コンデンサCの温度判定値である。換言すれば、第2の温度判定値Tcth2は、上述した第1の温度判定値Tcth1よりも小さな値に設定されている下限温度である。
【0039】
このステップ15において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」で、かつ、コンデンサ温度Tcが第2の温度判定値Tcth2よりも小さい場合には(Freq=1 and Tc<Tcth2)、ステップ16(S16)に進み、制御要求フラグFreqを「0」にセットする(ステップ16)。一方、ステップ15において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」であるか、あるいは、コンデンサ温度Tcが第2の温度判定値Tcth2以上の場合には、ステップ17(S17)に進む。
【0040】
ステップ17において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「1」であるか否かを判断する。このステップ17において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」である場合には(Freq=1)、ステップ11に進む。一方、ステップ17において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」である場合には(Freq=0)、ステップ18(S18)に進む。
【0041】
ステップ18において、電源制御部43は、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとの差(|Ea−Eb|)が電源電圧判定値ΔVthよりも小さいか否かを判定する。並列接続時、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとが異なる場合には、高電位側から低電位側へと電流が流れることにより、短絡が発生する。そこで、ステップ18では、このような事態を抑制するために、電源電圧判定値ΔVthに基づいて、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとがほぼ等しい状態であるか否かを判定する。
【0042】
このステップ18において肯定判定された場合、すなわち、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとがほぼ等しい状態である場合には(|Ea−Eb|<ΔVth)、ステップ19(S19)に進む。一方、ステップ18において否定判定された場合、すなわち、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとが等しくない状態である場合には(|Ea−Eb|≧ΔVth)、ステップ20(S20)に進む。
【0043】
ステップ19において、電源制御部43は、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を並列接続に設定すべく、第1のスイッチSW1および第3のスイッチSW3をオン状態に制御し、第2のスイッチSW2をオフ状態に制御する(図3(b)参照)。一方、ステップ20において、電源制御部43は、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を並列接続に設定すべく、第1から第3のスイッチSW1〜SW3をオフ状態に制御する(図3(b)参照)。これにより、第1および第2の電源間における循環電流を抑制する。この場合、電圧の高い一方の電源からインバータ20に電力が供給され、それによって、充電量が低下していき第1および第2の電源の電圧差が小さくなる。これにより、ステップ39において肯定判定されることとなり、第1および第2の電源から実質的に並列な状態でインバータ20に電力が供給されることとなる。
【0044】
図5は、トルク指令値T*、第2のスイッチSW2の状態、コンデンサ電圧Vc、制御要求フラグFreqおよびコンデンサ温度Tcの推移をそれぞれ示す説明図である。以下、上述した一連の制御処理によって具体化される電源制御部43の制御概念について説明する。モータ速度ωが低い低速シーンでは、例えば渋滞区間を走行中といったように車両が加減速を頻繁に繰り返すことがあり、同図(a)のトルク指令値T*で示されるように、力行状態と回生状態とが交互に繰り返される。力行状態時には、基本的に、モータ10の状態、具体的には、モータ速度ωに応じて電気的接続状態が直列接続および並列接続のうちの一方に設定される(同図(c)参照)。この場合、低速シーンにおいて回生状態から力行状態へ移行した際には、回生状態の直列接続から力行状態の並設接続へと電気的接続状態が切り替えられることとなる。同様に、低速シーンにおいて力行状態から回生状態へ移行した際には、力行状態の並列接続から回生状態の直列接続へ電気的接続状態が切り替えられることとなる。
【0045】
力行状態と回生状態との繰り返しに対応して、直列接続と並列接続とが繰り返されると、回生状態時にインバータ20の平滑コンデンサCが充電され、力行状態時に平滑コンデンサCから放電が行われる。このように、直列接続と並列接続との接続が切り換わる際には、インバータ20の平滑コンデンサCを直列電圧・並列電圧に変化させるための充放電電流がコンデンサCと電源装置30との間に流れる。そのため、その内部抵抗により損失が発生するとともに、内部抵抗で熱を生じさせることとなる。
【0046】
この点、本実施形態によれば、上述したステップ10,13における判断処理に示すように、回生状態から力行状態に移行した場合、平滑コンデンサCの状態(具体的には、コンデンサ温度Tc)に応じて、第1および第2の電源の電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理が行われる。具体的には、電源制御部43は、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1よりも大きい場合には、制御要求フラグFreqを「1」にセットする(同図(d),(e))。これにより、回生状態から力行状態に移行した場合、電源制御部43は、同図(b)に示すように、第1および第2の電源を直列接続に設定する(直列固定処理)。本来ならば、モータ10の状態に基づいて電気的接続状態を判断するため、低速シーン(モータ速度ω≦ωth)では、回生状態から力行状態へ移行した後は並列接続が設定されるものであるが、直列固定処理により、直接接続が維持されることとなる。また、コンデンサ温度Tcが第2の温度判定値Tcth2に低下するまで直列固定処理が継続されるので、直列接続が継続的に維持されることとなる。これにより、直列固定処理の間に力行状態と回生状態とが繰り返された場合であっても、直列接続と並列接続との切り替えが行われず、電圧変化を伴う平滑コンデンサCの充放電は行われず、平滑コンデンサCの温度上昇や損失を抑制することができる。また、コンデンサ温度Tcが低下し、直列固定処理が終了すると、力行状態の場合には、モータ10の状態(具体的には、モータ速度ω)に応じて、直列接続と並列接続との切り替えを行うことができる。低速シーンで並列接続を設定した場合には、低い電圧でインバータ20を駆動することができるので、効率のよい駆動が可能となる。
【0047】
特に、電気自動車では、渋滞区間などにおいて、低い速度でトルク指令値が力行状態と回生状態とを頻繁に繰り返すことになる。本実施形態の構成および制御方法によれば、そのような力行状態と回生状態を繰り返す場合であっても、コンデンサ温度Tcに応じて、第1および第2の電源を直列接続のまま固定することで、直列接続と並列接続との切り替え回数を低減することができる。これにより、平滑コンデンサCの充放電電流による発熱を抑制することができるとともに、充放電電流による損失の増大を抑制することができる。その結果、電気自動車の1充電あたりの走行距離を延ばすことができるとともに、コンデンサCの寿命を延ばすことができる。
【0048】
また、コンデンサ温度Tcが許容する範囲、すなわち、第1の判定温度Tcth1に到達するまでは、並列接続と力列接続との切り替えが可能である。そのため、低速シーンで並列接続を選択することが可能となり、低い電圧でインバータ20を駆動することができるので、効率のよい駆動が可能となる。
【0049】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態にかかるコントロールユニット40aの構成を模式的に示すブロック図である。本実施形態では、第1の実施形態に示すコントロールユニット40に代えて、コントロールユニット40aを有する点において第1の実施形態と相違する。そこで、本実施形態では、第1の実施形態との相違点であるコントロールユニット40aを中心に説明を行う。また、第1の実施形態と共通する構成については、符号を引用することにより重複する説明を省略する。
【0050】
コントロールユニット40aは、トルク制御部41と、電流制御部42と、電源制御部43aとで構成されている。トルク制御部41と、電流制御部42とは第1の実施形態と同様の機能を担っている。電源制御部43aには、第1の実施形態に示すコンデンサ温度Tcに代えて、コンデンサ状態検出センサ55において検出される平滑コンデンサCの電流(以下「コンデンサ電流」という)Icが入力されている。電源制御部43aは、モータ速度ωと、コンデンサ電流Icと、コンデンサ電圧Vcと、第1の電源電圧Eaと、第2の電源電圧Ebとに基づいて、電源装置30における第1から第3のスイッチSW1〜SW3を駆動するためのスイッチ駆動信号Sdsw1〜Sdsw3を生成する。電源制御部43は、スイッチ駆動信号Sdsw1〜Sdsw3を通じて制御される第1から第3のスイッチSW1〜SW3のオンオフ状態の切り替えに応じて、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続または並列接続とで切り替える。
【0051】
また、本実施形態の特徴の一つとして、電源制御部43aは、コンデンサ電流Icに基づいて、コンデンサ電流Icの電流実効値Icrmsを演算する。電流実効値Icrmsの演算に用いる周期は、平滑コンデンサCの温度上昇を考慮して、平滑コンデンサCの熱時定数と対応する数値に設定する。電流実効値Icrmsは、下式に示すように、1周期Tsにわたりコンデンサ電流Icについて積分を行うことにより演算され、時間と共に積分区間も移動させて演算を行う。なお、平滑コンデンサCの熱時定数と対応する数値とは、本質的には、当該熱時定数と一致する数値を指すものであるが、本明細書では、演算上熱時定数と同等と見なせる範囲の数値も広く含む意味で用いることとする。
【数1】
【0052】
図7は、本発明の第2の実施形態にかかる電源装置30の制御方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、電源装置30の第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の設定手順を示しており、所定周期でコントロールユニット40a(具体的には、電源制御部43a)によって実行される。なお、電源制御部43aは、回生状態時には、後述するフローチャートの処理によって決定される接続状態に拘わらず、第1の電源および第2の電源を直列接続に設定すべく、第1から第3のスイッチSW1〜SW3のすべてをオフ状態に制御する(図3(c)参照)。
【0053】
ここで、ステップ30(S30)からステップ32(S32)、ステップ34(S34)、およびステップ36(S36)からステップ40(S40)は、第1の実施形態に示すステップ10からステップ12、ステップ14、およびステップ16からステップ20の処理にそれぞれ対応しているため、各ステップの処理については説明を省略する。
【0054】
コンデンサ電圧Vcが直列判定値よりも大きい場合(ステップ32における肯定判定の場合)には、ステップ33(S33)において、電源制御部43aは、制御要求フラグFreqが「0」であり、かつ、電流実効値Icrmsが第1の電流判定値Icth1よりも大きいか否かを判定する。ここで、制御要求フラグFreqは、第1の実施形態と同様、第1および第2の電源の接続状態に対するシステム要求を示すフラグである。第1の電流判定値Icth1は、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制するために、直列固定処理を行うか否かを判定するための平滑コンデンサCの電流判定値である。換言すれば、第1の電流判定値Icth1は、平滑コンデンサCの温度上昇抑制の観点から設定される上限電流に相当する。
【0055】
ステップ33において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」で、かつ、電流実効値Icrmsが第1の電流判定値Icth1よりも大きい場合には(Freq=0 and Icrms>Icth1)、ステップ34に進む。一方、ステップ33において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」であるか、あるいは、電流実効値Icrmsが第1の電流判定値Icth1以下の場合には、ステップ35(S35)に進む。
【0056】
ステップ35において、電源制御部43aは、制御要求フラグFreqが「1」であり、かつ、電流実効値Icrmsが第2の電流判定値Icth2よりも小さいか否かを判断する。ここで、第2の電流判定値Icth2は、直列固定処理により平滑コンデンサCの温度が通常の動作温度帯域まで低下したことを判定するための平滑コンデンサCの温度判定値である。換言すれば、第2の電流判定値Icth2は、上述した第1の電流判定値Icth1よりも小さな値に設定されている下限電流である。
【0057】
ステップ35において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」で、かつ、電流実効値Icrmsが第2の電流判定値Icth2よりも小さい場合には(Freq=1 and Ic<Icth2)、ステップ36に進む。一方、ステップ35において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」であるか、あるいは、電流実効値Icrmsが第2の電流判定値Icth2以上の場合には、ステップ37(S37)に進む。
【0058】
このように、本実施形態によれば、ステップ30,33における判断処理に示すように、回生状態から力行状態に移行した場合、平滑コンデンサCの状態(具体的には、平滑コンデンサCの電流実効値Icrms)に応じて、第1および第2の電源の電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理が行われる。具体的には、電源制御部43は、電流実効値Icrmsが第1の電流判定値Icth1よりも大きい場合には、制御要求フラグFreqを「1」にセットする。これにより、回生状態から力行状態に移行した場合、電源制御部43は、第1および第2の電源を直列接続に設定する(直列固定処理)。本来ならば、モータ10の状態に基づいて電気的接続状態を判断するため、低速シーン(モータ速度ω≦ωth)では、回生状態から力行状態へ移行した後は並列接続が設定されるものであるが、直列固定処理により、直接接続が維持されることとなる。また、電流実効値Icrmsが第2の電流判定値Icth2へ低下するまで直列固定処理が継続されるので、直列接続が継続的に維持されることとなる。これにより、直列固定処理の間に力行状態と回生状態とが繰り返された場合であっても、直列接続と並列接続との切り替えが行われない。そのため、直列接続と並列接続との電圧変化を伴う平滑コンデンサCの充放電は行われず、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制することができる。また、電流実効値Icrmsが低下し、直列固定処理が終了すると、力行運転時には、モータ10の状態(具体的には、モータ速度ω)に応じて、直列接続と並列接続との切り替えを行うことができる。低速シーンで並列接続を設定した場合には、低い電圧でインバータ20を駆動することができるので、効率のよい駆動が可能となる。
【0059】
かかる手法によれば、力行状態と回生状態を繰り返す場合であっても、平滑コンデンサCの電流実効値Icrmsに応じて、第1および第2の電源を直列接続のまま固定することで、直列接続と並列接続との切り替え回数を低減することができる。これにより、平滑コンデンサCの充放電電流による発熱を抑制することができるとともに、充放電電流による損失の増大を抑制することができる。その結果、電気自動車の1充電あたりの走行距離を延ばすことができるとともに、コンデンサCの寿命を延ばすことができる。
【0060】
また、本実施形態では、電流実効値Icrmsに基づいて直列固定処理に関する判定を行っている。かかる手法によれば、平滑コンデンサCの発熱に起因するジュール損に相当する値を演算することができる。また、電流実効値Icrmsを演算する際の積分区間を平滑コンデンサCの熱時定数と対応させることで、発生するジュール損からの平滑コンデンサCの温度上昇を推定することができる。これにより、平滑コンデンサCの温度を直接検出できないようなケースであっても、コンデンサ電流Icから直列固定処理の可否およびその終了タイミングを判定することができる。
【0061】
(第3の実施形態)
図8は、本発明の第3の実施形態にかかる電源装置30bおよび当該電源装置30bを用いたモータ10の制御システムを模式的に示す構成図である。本実施形態では、第1の実施形態に示す電源装置30、コントロールユニット40に代えて、電源装置30b、コントロールユニット40bを有する点において第1の実施形態と相違する。そこで、本実施形態では、第1の実施形態との相違点である電源装置30b、コントロールユニット40bを中心に説明を行う。また、第1の実施形態と共通する構成については、符号を引用することにより重複する説明を省略する。
【0062】
電源装置30bは、第1の実施形態の電源装置30と同様に、インバータ20を介してモータ10に接続されており、モータ10に電力を供給するとともに、モータ10において発電された電力を充電する電源装置である。電源装置30bは、それぞれが独立して直流電源として機能する複数の電源(本実施形態では、2つの電源(第1および第2の電源))を有している。本実施形態の特徴の一つとして、電源装置30は、第1および第2の電源間の電気的接続状態を直列接続と並列接続とで切り替えるスイッチ回路を備えており、このスイッチ回路は、単スイッチSW0(スイッチング手段)を主体に構成される。
【0063】
スイッチ回路において、単スイッチSW0は、NPN型のトランジスタ等のスイッチング素子を主体に構成されており、トランジスタは、コレクタ・エミッタ間に、還流用ダイオードが逆並列接続されている。また、スイッチ回路において、単スイッチSW0のコレクタ端子側およびエミッタ端子側には、単スイッチSW0の還流用ダイオードの順方向と対応させたダイオードがそれぞれ直列接続されている。単スイッチSW0のオンオフ状態は、コントロールユニット40bから出力されるスイッチ駆動信号に応じて切り替えられる。
【0064】
ここで、単スイッチSW0とコレクタ端子側のダイオードとの接続点は、第1の電源の正極が接続され、単スイッチSW0とエミッタ端子側のダイオードとの接続点は、第2の電源の負極が接続されている。コレクタ端子側のダイオードの他方の端子と、第2の電源の正極とは相互に接続されており、この接続端は電源装置30の正極側の出力端として機能する。また、エミッタ端子側のダイオードの他方の端子と、第1の電源の負極とは相互に接続されており、この接続端は電源装置30の負極側の出力端として機能する。
【0065】
図9は、本発明の第3の実施形態にかかるコントロールユニット40bの構成を模式的に示すブロック図である。コントロールユニット40bは、トルク制御部41と、電流制御部42と、電源制御部43bとで構成されている。トルク制御部41と、電流制御部42とは第1の実施形態と同様の機能を担っている。
【0066】
電源制御部43bは、コンデンサ電圧Vcと、モータ速度ωと、第1の電源電圧Eaと、第2の電源電圧Ebとに基づいて、電源装置30における単スイッチSW0を駆動するためのスイッチ駆動信号Sdsw0を生成する。電源制御部43bは、スイッチ駆動信号Sdsw0を通じて制御される単スイッチSW0のオンオフ状態の切り替えに応じて、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続または並列接続とで切り替える。
【0067】
また、本実施形態において、電源制御部43bは、コンデンサ電圧Vcをモニタリングし、このコンデンサ電圧Vcの単位時間あたりの変化回数をカウントしている。このカウントされた変化回数は、平滑コンデンサCの単位時間あたりの充放電回数に相当し、直列固定処理の可否および終了タイミングを判定するためのパラメータとして用いられる。なお、電源制御部43bは、第1の実施形態と同様に、モータ速度ωなどに基づいて、回生状態と力行状態との切り替わりを判定する。
【0068】
図10は、本実施形態にかかる電源装置30bにおける第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の説明図である。モータ10の力行状態時、第1の電源および第2の電源を直列接続して電力を供給する場合、電源制御部43bは、単スイッチSW0をオン状態に制御する(同図(a)参照)。また、モータ10の力行状態時、第1の電源および第2の電源を並列接続して電力を供給する場合、電源制御部43bは、単スイッチSW0をオフ状態に制御する。この場合、第1の電源または第2の電源からモータ10への電流は、単スイッチSW0の両側に接続されたダイオードをそれぞれ流れる。これに対して、モータ10が回生状態の場合、電源制御部43bは、第1の電源および第2の電源を直列接続して電力を充電すべく、単スイッチSW0をオフ状態に制御する。この場合、モータ10からの電力は、単スイッチSW0における還流用ダイオードを流れて、第1および第2の電源に電流が流れる。
【0069】
図11は、本実施形態にかかる電源装置30bの制御方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、電源装置30bの第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の設定手順を示しており、所定周期でコントロールユニット40b(具体的には、電源制御部43b)によって実行される。なお、電源制御部43bは、回生状態時には、後述するフローチャートの処理によって決定される接続状態に拘わらず、第1の電源および第2の電源を直列接続に設定すべく、単スイッチSW0のすべてをオフ状態に制御する(図10(c)参照)。
【0070】
まず、ステップ50(S50)において、電源制御部43bは、モータ速度ωが速度判定値ωthよりも大きいか否かを判断する。速度判定値ωthは、第1の実施形態と同様の機能を有する判定値である。このステップ50において肯定判定された場合、すなわち、モータ速度ωが速度判定値ωthよりも大きい場合には(ω>ωth)、ステップ51(S51)に進む。そして、ステップ51において、電源制御部43bは、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続に設定すべく、単スイッチSW0をオン状態に制御する。一方、ステップ50において否定判定された場合、すなわち、モータ速度ωが速度判定値ωth以下の場合には(ω≦ωth)、ステップ52(S52)に進む。
【0071】
ステップ52において、電源制御部43bは、電源制御部43は、第1の実施形態に示す直流判定値(Kc(Ea+Eb))とに基づいて、コンデンサ電圧Vcが第1および第2の電源の直列接続に相当する値であるか、それとも第1および第2の電源の並列接続に相当する値であるかを判定する。このステップ52において肯定された場合、すなわち、コンデンサ電圧Vcが直列接続に相当する値である場合には(Vc>Kc(Ea+Eb))、ステップ53(S53)に進む。一方、ステップ52において否定判定された場合、すなわち、コンデンサ電圧Vcが並列接続に相当する値である場合には(Vc≦Kc(Ea+Eb))、ステップ55(S55)に進む。
【0072】
ステップ53において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「0」であり、かつ、コンデンサ電圧Vcの単位時間あたりの変化回数、すなわち、充放電回数Cvが第1の回数判定値Cth1よりも大きいか否かを判断する。ここで、第1の回数判定値Cth1は、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制するために、直列固定処理を行うか否かを判定するための充放電の回数判定値である。換言すれば、第1の回数判定値Cth1は、平滑コンデンサCの温度上昇抑制の観点から設定される上限充放電回数に相当する。
【0073】
ステップ53において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」で、かつ、充放電回数Cvが第1の回数判定値Cth1よりも大きい場合には(Freq=0 and Cv>Cth1)、ステップ54(S54)に進み、制御要求フラグFreqを「1」にセットする(ステップ54)。一方、ステップ53において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」であるか、あるいは、充放電回数Cvが第1の回数判定値Cth1以下の場合には、ステップ55(S55)に進む。
【0074】
ステップ55において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「1」であり、かつ、充放電回数Cvが第2の回数判定値Cth2よりも小さいか否かを判断する。ここで、第2の回数判定値Cth2は、直列固定処理により平滑コンデンサCの温度が通常の動作温度帯域まで低下したことを判定するための充放電の回数判定値である。換言すれば、第2の回数判定値Cth2は、上述した第1の回数判定値Cth1よりも小さな値に設定されている下限充放電回数である。
【0075】
このステップ55において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」で、かつ、充放電回数Cvが第2の回数判定値Cth2よりも小さい場合には(Freq=1 and Cv<Cth2)、ステップ56(S56)に進み、制御要求フラグFreqを「0」にセットする(ステップ56)。一方、ステップ55において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」であるか、あるいは、充放電回数Cvが第2の回数判定値Cth2以上の場合には、ステップ57(S57)に進む。
【0076】
ステップ57において、電源制御部43bは、制御要求フラグFreqが「1」であるか否かを判断する。このステップ57において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」である場合には(Freq=1)、ステップ51に進む。一方、ステップ57において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」である場合には(Freq=0)、ステップ58(S58)に進む。
【0077】
ステップ58において、電源制御部43bは、電源制御部43bは、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を並列接続に設定すべく、単スイッチSW0をオフ状態に制御する。
【0078】
このように本実施形態によれば、上述したステップ50,53における判断処理に示すように、回生状態から力行状態に移行した場合、平滑コンデンサCの状態(具体的には、平滑コンデンサCの充放電回数Cv)に応じて、第1および第2の電源の電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理が行われる。具体的には、電源制御部43は、充放電回数Cvが第1の回数判定値Cth1よりも大きい場合には、制御要求フラグFreqを「1」にセットする。これにより、回生状態から力行状態に移行した場合、電源制御部43は、第1および第2の電源を直列接続に設定する(直列固定処理)。本来ならば、モータ10の状態に基づいて電気的接続状態を判断するため、低速シーン(モータ速度ω≦ωth)では、回生状態から力行状態へ移行した後は並列接続が設定されるものであるが、直列固定処理により、直接接続が維持されることとなる。また、充放電回数Cvが第2の回数判定値Cth2へ低下するまで直列固定処理が継続されるので、直列接続が維持されることとなる。これにより、直列固定処理の間に力行状態と回生状態とが繰り返された場合であっても、直列接続と並列接続との切り替えが行われず、電圧変化を伴う平滑コンデンサCの充放電は行われず、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制することができる。また、充放電回数Cvが低下し、直列固定処理が終了すると、力行状態の場合には、モータ10の状態(具体的には、モータ速度ω)に応じて、直列接続と並列接続との切り替えを行うことができる。低速シーンで並列接続を設定した場合には、低い電圧でインバータ20を駆動することができるので、効率のよい駆動が可能となる。
【0079】
かかる手法によれば、力行状態と回生状態を繰り返す場合であっても、充放電回数Cvに応じて、第1および第2の電源を直列接続のまま固定することで、直列接続と並列接続との切り替え回数を低減することができる。これにより、平滑コンデンサCの充放電電流による発熱を抑制することができるとともに、充放電電流による損失の増大を抑制することができる。その結果、電気自動車の1充電あたりの走行距離を延ばすことができるとともに、コンデンサCの寿命を延ばすことができる。
【0080】
また、第1および第2の電源の電気的接続状態を単一のスイッチSW0で切り替えることができる。そのため、電源装置30bを安価に構成することができるとともに、電源間の電圧比較処理(例えば、第1の実施形態に示すステップ18の処理)が不要となるため、制御の簡素化を図ることができる。
【0081】
なお、本実施形態では、電源制御部43bが、充放電回数Cvに応じて直列固定処理の判定を行う手法について述べたが、第1または第2の実施形態に示すように、コンデンサ温度Tcまたはコンデンサ電流I(電流実効値Icrms)に応じて直列固定処理の判定を行ってもよい。また、充放電回数Cvに応じて直列固定処理の判定手法は、第1または第2の実施形態に示すシステム構成について適用することも可能である。さらに、これらの判定手法を組み合わせて利用してもよい。
【0082】
以上、本発明の実施形態にかかる電源装置およびその制御方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その発明の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、電源装置を構成する電源の数は3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
10…モータ
20…インバータ
30…電源装置
40…コントロールユニット
41…トルク制御部
42…電流制御部
43…電源制御部
50…電流センサ
51…電気角検出部
52…モータ速度検出部
53…第1の電圧センサ
54…第2の電圧センサ
55…コンデンサ状態検出センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、それぞれが独立した複数の電源を備える電源装置が知られており、例えば、この電源装置は、インバータ(電力変換装置)を介してモータに電力を供給する。例えば、特許文献1には、電気自動車の低出力運転時にインバータの入力電圧を下げ、スイッチング損失を低減させることにより、システム効率の向上を図る手法が開示されている。具体的には、アクセルペダル踏込量、モータの出力、あるいは、ブレーキペダル踏込量が大の時は、複数の電源を直列接続し、これらの値が小の時は、複数の電源を並列接続する。
【0003】
なお、この類の電源装置では、個々の電源電圧間に差があるときには電源同士を並列接続することができないため、モータの回生時には、複数の電源間を直列接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−236608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、渋滞時といったようにアクセルペダル踏込量が小さく、モータ速度が低いシーンでは、力行状態時に複数の電源を並列接続し、回生状態時に複数の電源を直列接続するといった状態が頻繁に繰り返されることとなる。そのため、インバータ(電力変換装置)が備える平滑コンデンサの電圧変化に伴い充放電電流による損失が増大してしまうといった問題がある。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、モータが力行状態・回生状態を頻繁に繰り返す場合であっても、電力変換装置が備えるコンデンサの充放電電流による損失の増大を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本発明は、電力変換装置を介してモータに接続される複数の電源を備えており、回生状態から力行状態への移行時、電力変換装置が備えるコンデンサの状態に応じて、電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回生状態から力行状態へ移行後、コンデンサの状態に応じて、回生状態における電気的接続状態と同じ直列接続がそのまま維持される。これにより、直列接続と並列接続との切り替え回数を低減することができる。そのため、インバータのコンデンサの電圧変化が抑制され、平滑コンデンサの充放電電流による発熱を抑制することができるとともに、充放電電流による損失の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態にかかる電源装置30および当該電源装置30を用いたモータ10の制御システムを模式的に示す構成図
【図2】第1の実施形態にかかるコントロールユニット40の構成を模式的に示すブロック図
【図3】第1の実施形態にかかる電源装置30に関する第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の説明図
【図4】第1の実施形態にかかる電源装置30の制御方法を示すフローチャート
【図5】トルク指令値T*、第2のスイッチSW2の状態、コンデンサ電圧Vc、制御要求フラグFreqおよびコンデンサ温度Tcの推移をそれぞれ示す説明図
【図6】第2の実施形態にかかるコントロールユニット40aの構成を模式的に示すブロック図
【図7】第2の実施形態にかかる電源装置30の制御方法を示すフローチャート
【図8】第3の実施形態にかかる電源装置30bおよび当該電源装置30bを用いたモータ10の制御システムを模式的に示す構成図
【図9】第3の実施形態にかかるコントロールユニット40bの構成を模式的に示すブロック図
【図10】第3の実施形態にかかる電源装置30bにおける第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の説明図
【図11】第3の実施形態にかかる電源装置30bの制御方法を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる電源装置30および当該電源装置30を用いたモータ10の制御システムを模式的に示す構成図である。本実施形態では、電気自動車の駆動用モータとして適用されたモータ10を制御する制御システムについて説明を行う。この電気自動車は、モータ10、インバータ20、電源装置30およびコントロールユニット40を備えている。
【0011】
モータ10は、例えば、中性点を中心に星形結線された複数の相巻線(本実施形態では、U相巻線、V相巻線、W相巻線からなる3つの相巻線)を有する3相交流同期モータである。このモータ10は、インバータ20内で変換された3相の交流電力が各相巻線に供給されることにより生じる磁界と、回転子の永久磁石が作る磁界との相互作用により駆動する。モータ10のロータは、自動変速機の入力軸に連結されている。
【0012】
モータ10は、電源装置30から電力の供給を受けて回転駆動することにより、電動機として動作することができる(以下、この運転状態を「力行状態」と呼ぶ)。一方、モータ10は、ロータが外力により回転している場合、ステータ巻線の両端に起電力を生じさせることにより、発電機として機能する(以下、この運転状態を「回生状態」と呼ぶ)。モータ10により発電された電力は、電源装置30を充電することができる。本明細書では、電動機および発電機の双方の機能を併せもつ意味でモータという用語を用いる。
【0013】
インバータ20は、モータ10の力行状態時、コントロールユニット40から出力されるインバータ駆動信号に応じてPWM制御されることにより、電源装置30から供給される直流電力を、多相交流電力(本実施形態では、U相交流電力、V相交流電力およびW相交流電力で構成される3相交流電力)に変換し、当該3相の交流電力をモータ10の各相巻線に供給する。また、インバータ20は、モータ10の回生状態時、モータ10によって発電された3相交流電力を直流電力に変換する。この直流電力は、電源装置30または後述する平滑コンデンサCに蓄電される。
【0014】
インバータ20は、モータ10の各相に対応する3つのスイッチ回路を主体に構成されている。具体的には、インバータ20は、電源装置30の正極側の正極母線と、電源装置30の負極側の負極母線との間に、U相用のスイッチ回路と、V相用のスイッチ回路と、W相用のスイッチ回路とを備える。また、正極母線と負極母線との間には、各相用のスイッチ回路よりも電源装置30側に、平滑コンデンサCが接続されている。
【0015】
U相用のスイッチ回路は、互いに直列接続された一対のスイッチ(アーム)を主体に構成されており、V相用のスイッチ回路は、互いに直列接続された一対のスイッチ(アーム)を主体に構成されている。また、W相用のスイッチ回路は、互いに直列接続された一対のスイッチ(アーム)を主体に構成されている。個々のスイッチは、NPN型のトランジスタ等のスイッチング素子を主体に構成されており、個々のトランジスタには、コレクタ・エミッタ間に還流用ダイオードがそれぞれ逆並列接続されている。これらのスイッチのオンオフ状態は、コントロールユニット40から出力されるインバータ駆動信号に応じて切り替えられる。
【0016】
U相用の一対のスイッチの相互接続点、V相用の一対のスイッチの相互接続点、および、W相用の一対のスイッチの相互接続点は、それぞれが各相電流の出力点として機能している。各出力点には、モータ10の対応する相巻線がそれぞれ接続される。インバータ20により生成される3相交流電流をそれぞれU相交流電流Iu、V相交流電流IvおよびW相交流電流Iwとする。例えば、各交流電流Iu,Iv,Iwは、モータ10側へ電流が流れる方向を正とする。
【0017】
電源装置30は、インバータ20を介してモータ10に接続されており、モータ10に電力を供給するとともに、モータ10において発電された電力を充電する電源装置である。電源装置30は、それぞれが独立して直流電源として機能する複数の電源(本実施形態では、2つの電源(第1および第2の電源))を有している。個々の電源としては、例えば、ニッケル水素電池あるいはリチウムイオン電池といったバッテリを用いることができる。
【0018】
また、電源装置30は、第1および第2の電源間の電気的接続状態を、直列接続と並列接続とで切り替えるスイッチ回路を備えており、このスイッチ回路は、第1から第3のスイッチSW1〜SW3(スイッチング手段)を主体に構成されている。第1から第3のスイッチSW1〜SW3は、第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW1、第3のスイッチSW3の順番に従って直列接続されている。個々のスイッチSW1〜SW3は、NPN型のトランジスタ等のスイッチング素子を主体に構成されており、個々のトランジスタは、コレクタ・エミッタ間に還流用ダイオードがそれぞれ逆並列接続されている。スイッチSW1〜SW3のオンオフ状態は、コントロールユニット40から出力されるスイッチ駆動信号に応じて切り替えられる。
【0019】
ここで、スイッチ回路において、第1のスイッチSW1と第2のスイッチSW2との接続点は、第1の電源(電源電圧Ea)の正極が接続され、第2のスイッチSW2と第3のスイッチSW3との接続点は、第2の電源(電源電圧Eb)の負極が接続されている。第1のスイッチSW1のコレクタ端子と、第2の電源の正極とは相互に接続されており、この接続端は電源装置30の正極側の出力端として機能する。この正極側の出力端は、インバータ20の正極母線が接続される。また、第3のスイッチSW3のエミッタ端子と、第1の電源の負極とは相互に接続されており、この接続端は電源装置30の負極側の出力端として機能する。この負極側の出力端は、インバータ20の負極母線が接続される。なお、第1および第2の電源を並列接続から直列接続へ切り替えるときの突入電流を抑制するため、インバータ20と、電源装置30との間には、フィルタ用リアクトルLが設けられている。
【0020】
コントロールユニット40は、インバータ20を介してモータ10を制御する制御手段であるとともに、電源装置30を制御する電源制御手段でもある。コントロールユニット40としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。コントロールユニット40は、ROMに記憶された制御プログラムに従い、インバータ20および電源装置30を制御するための演算を行う。そして、コントロールユニット40は、この演算によって算出された制御信号をインバータ20または電源装置30に対して出力する。
【0021】
図2は、コントロールユニット40の構成を模式的に示すブロック図である。コントロールユニット40は、インバータ20を構成する各スイッチを制御することにより、モータ10の出力トルクを制御する。また、コントロールユニット40は、電源装置30を構成する第1から第3のスイッチSW1〜SW3を制御することにより、電源装置30における第1および第2の電源の電気的接続状態の設定を行う。
【0022】
コントロールユニット40には、各種センサからセンサ信号などの必要な情報が入力されている。電流センサ50は、モータ10の各相の交流電流、すなわち、U相交流電流Iuと、V相交流電流Ivと、W相交流電流Iwとをそれぞれ検出する。電気角検出部51は、モータ10のロータ位置を表す電気的な位相(電気角)θを検出する。また、モータ速度検出部52は、モータ10のロータの回転角速度(モータ速度)ωを検出する。例えば、電気角検出部51およびモータ速度検出部52は、モータ10のロータ位置を検出するエンコーダやレゾルバなどの回転位置センサからの検出結果に基づいて、電気角θおよびモータ速度ωを検出する。また、第1の電圧センサ53は、第1の電源の電圧(以下「第1の電源電圧」という)Eaを検出し、第2の電圧センサ54は、第2の電源の電圧(以下「第2の電源電圧」という)Ebを検出する。コンデンサ状態検出センサ(検出手段)55は、コンデンサCの状態、具体的には、コンデンサCの電圧(以下「コンデンサ電圧」という)VcおよびコンデンサCの温度(以下「コンデンサ温度」という)Tcを検出する。また、コントロールユニット40には、上位装置において演算されるトルク指令値T*が入力される。
【0023】
コントロールユニット40は、これを機能的に捉えた場合、トルク制御部41と、電流制御部42と、電源制御部43とを有している。これらの機能的な要素のうち、トルク制御部41と電流制御部42とは、主として電動機の制御手段としての機能を担い、また、電源制御部43とは、主として電源装置30の制御手段としての機能を担っている。
【0024】
トルク制御部41は、トルク指令値T*とモータ速度ωとに基づいて、ベクトル制御用の電流指令値であるd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*を演算する。具体的には、トルク制御部41は、トルク指令値T*とモータ速度ωとに基づいて、トルク指令値T*に一致するトルクをモータ10が出力するためのd軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*とをそれぞれ演算する。演算されたd軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*は、電流制御部42に出力される。トルク制御部41は、トルク指令値T*およびモータ速度ωの各パラメータと、d軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*との対応関係を記述したマップを保持しており、当該マップを参照することにより、d軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*を演算する。この対応関係を記述したマップは、実験やシミュレーションを通じて予め取得されている。
【0025】
ここで、dq軸座標系は、モータ10の機械的な回転速度の整数倍の電気的な回転速度で回転するd軸とq軸とから成る直交座標系である。3相同期モータであるモータ10において、dq軸座標系はモータ回転に同期して回転する。dq軸座標系により、モータ10の固定子巻線に供給される電流は、界磁分電流(d軸電流)とトルク分電流(q軸電流)とに分けてベクトル表示される。
【0026】
電流制御部42は、トルク制御部41から出力されるd軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*と、電気角θと、各相の交流電流Iu,Iv,Iwとに基づいて、インバータ駆動信号Sdinvを出力する。具体的には、電流制御部42は、電気角θに基づいて、3相交流電流Iu,Iv,Iwを、d軸およびq軸の実電流であるd軸およびq軸電流に座標変換を行う。電流制御部42は、d軸およびq軸電流と、d軸およびq軸電流指令値Id*,Iq*との偏差が小さくなるように、PI制御或いはPID制御等の制御則を用いて、d軸およびq軸電圧指令値をそれぞれ演算する。
【0027】
電流制御部42は、電気角θに基づいて、d軸およびq軸電圧指令値を、各相の電圧指令値に座標変換を行う。そして、電流制御部42は、キャリアの電圧レベルと、各相の電圧指令値との比較に基づいて、インバータ20を駆動するインバータ駆動信号Sdinvを生成する。生成されたインバータ駆動信号Sdinvはインバータ20に対して出力され、このインバータ駆動信号Sdinvに応じて各スイッチ(具体的には、スイッチング素子)のオンオフ状態が制御される。
【0028】
電源制御部43は、モータ速度ωと、第1の電源電圧Eaと、第2の電源電圧Ebと、コンデンサ電圧Vcと、コンデンサ温度Tcとに基づいて、電源装置30における第1から第3のスイッチSW1〜SW3を駆動するためのスイッチ駆動信号Sdsw1〜Sdsw3を生成する。電源制御部43は、スイッチ駆動信号Sdsw1〜Sdsw3を通じて制御される第1から第3のスイッチSW1〜SW3のオンオフ状態の切り替えに応じて、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続または並列接続とで切り替える。また、電源制御部43は、モータ速度ωに基づいて、回生状態と力行状態との切り替わりを判定する。なお、電源制御部43は、モータ速度ω以外にも、モータ10のトルクまたはモータ10における各相の交流電流Iu,Iv,Iwのいずれか一つ、またはこれらの組み合わせに基づいて、回生状態と力行状態との切り替わりを判定してもよい。
【0029】
図3は、電源装置30における第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の説明図である。モータ10の力行状態時、第1の電源および第2の電源を直列接続して電力を供給する場合、電源制御部43は、第1および第3のスイッチSW1,SW3をオフ状態に、第2のスイッチSW2をオン状態に制御する(同図(a)参照)。また、モータ10の力行状態時、第1の電源および第2の電源を並列接続して電力を供給する場合、電源制御部43は、第2のスイッチSW2をオフ状態に制御する。ここで、第1および第3のスイッチSW1,SW3は、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとがほぼ等しい場合、オン状態にそれぞれ制御され、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとが等しくない場合、高電位側から低電位側へと電流が流れることを抑制するために、オフ状態にそれぞれ制御される(同図(b)参照)。この場合、第1の電源または第2の電源からモータ10への電流は、第1および第3のスイッチSW1,SW3における還流用ダイオードをそれぞれ流れる。一方、モータ10が回生状態の場合、電源制御部43は、第1の電源および第2の電源を直列接続して電力を充電すべく、第1から第3のスイッチSW1〜SW3をオフ状態に制御する(同図(c)参照)。この場合、モータ10からの電力は、第2のスイッチSW2における還流用ダイオードを流れて、第1および第2の電源に電流が流れる。
【0030】
図4は、本発明の第1の実施形態にかかる電源装置30の制御方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、電源装置30の第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の設定手順を示しており、所定周期でコントロールユニット40(具体的には、電源制御部43)によって実行される。なお、電源制御部43は、回生状態時には、後述するフローチャートの処理によって決定される接続状態に拘わらず、第1の電源および第2の電源を直列接続に設定すべく、第1から第3のスイッチSW1〜SW3のすべてをオフ状態に制御する(図3(c)参照)。
【0031】
まず、ステップ10(S10)において、電源制御部43は、モータ速度ωが速度判定値ωthよりも大きいか否かを判断する。モータ10が力行状態である場合、モータ速度ωが低速シーンでない限り、第1の電源および第2の電源を並列接続よりも直列接続とした方が、モータ10への供給電圧が高くなり、モータトルク・出力増加に対応することができるため好ましい。そこで、このステップ10では、モータ速度ωに基づいて、モータ速度ωが大きいか否か、すなわち、第1の電源および第2の電源を直列接続した方がよいシーンであるか否かが判断される。速度判定値ωthは、力行状態時に直列接続を選択した方がよいか、あるいは、並列接続を選択した方がよいかを切り分けるためのモータ速度ωが、実験やシミュレーションを通じて予め設定されている。
【0032】
このステップ10において肯定判定された場合、すなわち、モータ速度ωが速度判定値ωthよりも大きい場合には(ω>ωth)、ステップ11(S11)に進む。一方、ステップ10において否定判定された場合、すなわち、モータ速度ωが速度判定値ωth以下の場合には(ω≦ωth)、ステップ12(S12)に進む。
【0033】
ステップ11において、電源制御部43は、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続に設定すべく、第1のスイッチSW1および第3のスイッチSW3をオフ状態に制御し、第2のスイッチSW2をオン状態に制御する。
【0034】
ステップ12において、電源制御部43は、コンデンサ電圧Vcが、第1および第2の電源の直列接続に相当する値であるか、それとも第1および第2の電源の並列接続に相当する値であるかを判定する。具体的には、電源制御部43は、コンデンサ電圧Vcが、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとの加算値に係数Kcを乗算した値(以下「直列判定値」という)よりも大きいか否かを判定する。ここで、係数Kcは、予め定める1以下のゲインである。この係数Kcは、直列判定値が、第1および第2の電源を直列接続にした際の電圧からスイッチ回路に用いるスイッチング素子のオン電圧分やインバータ20の平滑コンデンサCまでの配線での電圧降下分などを考慮した値となるように設定される値である。すなわち、現在の電気的な接続状態として第1および第2の電源が直列接続である場合には、コンデンサ電圧Vcは直列判定値よりも大きくなり、一方で、現在の電気的な接続状態として第1および第2の電源が並列接続である場合には、コンデンサ電圧Vcが直列判定値以下となる。
【0035】
このステップ12において肯定された場合、すなわち、コンデンサ電圧Vcが直列判定値よりも大きい場合には(Vc>Kc(Ea+Eb))、ステップ13(S13)に進む。一方、ステップ12において否定判定された場合、すなわち、コンデンサ電圧Vcが直列判定値以下の場合には(Vc≦Kc(Ea+Eb))、ステップ15(S15)に進む。
【0036】
ステップ13において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「0」であり、かつ、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1よりも大きいか否かを判断する。ここで、制御要求フラグFreqは、第1および第2の電源の接続状態に対するシステム要求を示すフラグであり、並列接続を要求する場合には「0」に設定され、直列接続を要求する場合には「1」に設定される。この制御要求フラグFreqは、初期的には「0」に設定されている。また、第1の温度判定値Tcth1は、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制するために、後述する直列固定処理を行うか否かを判定するための平滑コンデンサCの温度判定値である。換言すれば、第1の温度判定値Tcth1は、平滑コンデンサCの温度上昇抑制の観点から設定される上限温度に相当する。
【0037】
このステップ13において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」で、かつ、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1よりも大きい場合には(Freq=0 and Tc>Tcth1)、ステップ14(S14)に進み、制御要求フラグFreqを「1」にセットする(ステップ14)。一方、ステップ13において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」であるか、あるいは、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1以下の場合には、ステップ15(S15)に進む。
【0038】
ステップ15において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「1」であり、かつ、コンデンサ温度Tcが第2の温度判定値Tcth2よりも小さいか否かを判断する。ここで、第2の温度判定値Tcth2は、直列固定処理により平滑コンデンサCの温度が通常の動作温度帯域まで低下したことを判定するための平滑コンデンサCの温度判定値である。換言すれば、第2の温度判定値Tcth2は、上述した第1の温度判定値Tcth1よりも小さな値に設定されている下限温度である。
【0039】
このステップ15において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」で、かつ、コンデンサ温度Tcが第2の温度判定値Tcth2よりも小さい場合には(Freq=1 and Tc<Tcth2)、ステップ16(S16)に進み、制御要求フラグFreqを「0」にセットする(ステップ16)。一方、ステップ15において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」であるか、あるいは、コンデンサ温度Tcが第2の温度判定値Tcth2以上の場合には、ステップ17(S17)に進む。
【0040】
ステップ17において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「1」であるか否かを判断する。このステップ17において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」である場合には(Freq=1)、ステップ11に進む。一方、ステップ17において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」である場合には(Freq=0)、ステップ18(S18)に進む。
【0041】
ステップ18において、電源制御部43は、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとの差(|Ea−Eb|)が電源電圧判定値ΔVthよりも小さいか否かを判定する。並列接続時、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとが異なる場合には、高電位側から低電位側へと電流が流れることにより、短絡が発生する。そこで、ステップ18では、このような事態を抑制するために、電源電圧判定値ΔVthに基づいて、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとがほぼ等しい状態であるか否かを判定する。
【0042】
このステップ18において肯定判定された場合、すなわち、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとがほぼ等しい状態である場合には(|Ea−Eb|<ΔVth)、ステップ19(S19)に進む。一方、ステップ18において否定判定された場合、すなわち、第1の電源電圧Eaと第2の電源電圧Ebとが等しくない状態である場合には(|Ea−Eb|≧ΔVth)、ステップ20(S20)に進む。
【0043】
ステップ19において、電源制御部43は、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を並列接続に設定すべく、第1のスイッチSW1および第3のスイッチSW3をオン状態に制御し、第2のスイッチSW2をオフ状態に制御する(図3(b)参照)。一方、ステップ20において、電源制御部43は、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を並列接続に設定すべく、第1から第3のスイッチSW1〜SW3をオフ状態に制御する(図3(b)参照)。これにより、第1および第2の電源間における循環電流を抑制する。この場合、電圧の高い一方の電源からインバータ20に電力が供給され、それによって、充電量が低下していき第1および第2の電源の電圧差が小さくなる。これにより、ステップ39において肯定判定されることとなり、第1および第2の電源から実質的に並列な状態でインバータ20に電力が供給されることとなる。
【0044】
図5は、トルク指令値T*、第2のスイッチSW2の状態、コンデンサ電圧Vc、制御要求フラグFreqおよびコンデンサ温度Tcの推移をそれぞれ示す説明図である。以下、上述した一連の制御処理によって具体化される電源制御部43の制御概念について説明する。モータ速度ωが低い低速シーンでは、例えば渋滞区間を走行中といったように車両が加減速を頻繁に繰り返すことがあり、同図(a)のトルク指令値T*で示されるように、力行状態と回生状態とが交互に繰り返される。力行状態時には、基本的に、モータ10の状態、具体的には、モータ速度ωに応じて電気的接続状態が直列接続および並列接続のうちの一方に設定される(同図(c)参照)。この場合、低速シーンにおいて回生状態から力行状態へ移行した際には、回生状態の直列接続から力行状態の並設接続へと電気的接続状態が切り替えられることとなる。同様に、低速シーンにおいて力行状態から回生状態へ移行した際には、力行状態の並列接続から回生状態の直列接続へ電気的接続状態が切り替えられることとなる。
【0045】
力行状態と回生状態との繰り返しに対応して、直列接続と並列接続とが繰り返されると、回生状態時にインバータ20の平滑コンデンサCが充電され、力行状態時に平滑コンデンサCから放電が行われる。このように、直列接続と並列接続との接続が切り換わる際には、インバータ20の平滑コンデンサCを直列電圧・並列電圧に変化させるための充放電電流がコンデンサCと電源装置30との間に流れる。そのため、その内部抵抗により損失が発生するとともに、内部抵抗で熱を生じさせることとなる。
【0046】
この点、本実施形態によれば、上述したステップ10,13における判断処理に示すように、回生状態から力行状態に移行した場合、平滑コンデンサCの状態(具体的には、コンデンサ温度Tc)に応じて、第1および第2の電源の電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理が行われる。具体的には、電源制御部43は、コンデンサ温度Tcが第1の温度判定値Tcth1よりも大きい場合には、制御要求フラグFreqを「1」にセットする(同図(d),(e))。これにより、回生状態から力行状態に移行した場合、電源制御部43は、同図(b)に示すように、第1および第2の電源を直列接続に設定する(直列固定処理)。本来ならば、モータ10の状態に基づいて電気的接続状態を判断するため、低速シーン(モータ速度ω≦ωth)では、回生状態から力行状態へ移行した後は並列接続が設定されるものであるが、直列固定処理により、直接接続が維持されることとなる。また、コンデンサ温度Tcが第2の温度判定値Tcth2に低下するまで直列固定処理が継続されるので、直列接続が継続的に維持されることとなる。これにより、直列固定処理の間に力行状態と回生状態とが繰り返された場合であっても、直列接続と並列接続との切り替えが行われず、電圧変化を伴う平滑コンデンサCの充放電は行われず、平滑コンデンサCの温度上昇や損失を抑制することができる。また、コンデンサ温度Tcが低下し、直列固定処理が終了すると、力行状態の場合には、モータ10の状態(具体的には、モータ速度ω)に応じて、直列接続と並列接続との切り替えを行うことができる。低速シーンで並列接続を設定した場合には、低い電圧でインバータ20を駆動することができるので、効率のよい駆動が可能となる。
【0047】
特に、電気自動車では、渋滞区間などにおいて、低い速度でトルク指令値が力行状態と回生状態とを頻繁に繰り返すことになる。本実施形態の構成および制御方法によれば、そのような力行状態と回生状態を繰り返す場合であっても、コンデンサ温度Tcに応じて、第1および第2の電源を直列接続のまま固定することで、直列接続と並列接続との切り替え回数を低減することができる。これにより、平滑コンデンサCの充放電電流による発熱を抑制することができるとともに、充放電電流による損失の増大を抑制することができる。その結果、電気自動車の1充電あたりの走行距離を延ばすことができるとともに、コンデンサCの寿命を延ばすことができる。
【0048】
また、コンデンサ温度Tcが許容する範囲、すなわち、第1の判定温度Tcth1に到達するまでは、並列接続と力列接続との切り替えが可能である。そのため、低速シーンで並列接続を選択することが可能となり、低い電圧でインバータ20を駆動することができるので、効率のよい駆動が可能となる。
【0049】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態にかかるコントロールユニット40aの構成を模式的に示すブロック図である。本実施形態では、第1の実施形態に示すコントロールユニット40に代えて、コントロールユニット40aを有する点において第1の実施形態と相違する。そこで、本実施形態では、第1の実施形態との相違点であるコントロールユニット40aを中心に説明を行う。また、第1の実施形態と共通する構成については、符号を引用することにより重複する説明を省略する。
【0050】
コントロールユニット40aは、トルク制御部41と、電流制御部42と、電源制御部43aとで構成されている。トルク制御部41と、電流制御部42とは第1の実施形態と同様の機能を担っている。電源制御部43aには、第1の実施形態に示すコンデンサ温度Tcに代えて、コンデンサ状態検出センサ55において検出される平滑コンデンサCの電流(以下「コンデンサ電流」という)Icが入力されている。電源制御部43aは、モータ速度ωと、コンデンサ電流Icと、コンデンサ電圧Vcと、第1の電源電圧Eaと、第2の電源電圧Ebとに基づいて、電源装置30における第1から第3のスイッチSW1〜SW3を駆動するためのスイッチ駆動信号Sdsw1〜Sdsw3を生成する。電源制御部43は、スイッチ駆動信号Sdsw1〜Sdsw3を通じて制御される第1から第3のスイッチSW1〜SW3のオンオフ状態の切り替えに応じて、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続または並列接続とで切り替える。
【0051】
また、本実施形態の特徴の一つとして、電源制御部43aは、コンデンサ電流Icに基づいて、コンデンサ電流Icの電流実効値Icrmsを演算する。電流実効値Icrmsの演算に用いる周期は、平滑コンデンサCの温度上昇を考慮して、平滑コンデンサCの熱時定数と対応する数値に設定する。電流実効値Icrmsは、下式に示すように、1周期Tsにわたりコンデンサ電流Icについて積分を行うことにより演算され、時間と共に積分区間も移動させて演算を行う。なお、平滑コンデンサCの熱時定数と対応する数値とは、本質的には、当該熱時定数と一致する数値を指すものであるが、本明細書では、演算上熱時定数と同等と見なせる範囲の数値も広く含む意味で用いることとする。
【数1】
【0052】
図7は、本発明の第2の実施形態にかかる電源装置30の制御方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、電源装置30の第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の設定手順を示しており、所定周期でコントロールユニット40a(具体的には、電源制御部43a)によって実行される。なお、電源制御部43aは、回生状態時には、後述するフローチャートの処理によって決定される接続状態に拘わらず、第1の電源および第2の電源を直列接続に設定すべく、第1から第3のスイッチSW1〜SW3のすべてをオフ状態に制御する(図3(c)参照)。
【0053】
ここで、ステップ30(S30)からステップ32(S32)、ステップ34(S34)、およびステップ36(S36)からステップ40(S40)は、第1の実施形態に示すステップ10からステップ12、ステップ14、およびステップ16からステップ20の処理にそれぞれ対応しているため、各ステップの処理については説明を省略する。
【0054】
コンデンサ電圧Vcが直列判定値よりも大きい場合(ステップ32における肯定判定の場合)には、ステップ33(S33)において、電源制御部43aは、制御要求フラグFreqが「0」であり、かつ、電流実効値Icrmsが第1の電流判定値Icth1よりも大きいか否かを判定する。ここで、制御要求フラグFreqは、第1の実施形態と同様、第1および第2の電源の接続状態に対するシステム要求を示すフラグである。第1の電流判定値Icth1は、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制するために、直列固定処理を行うか否かを判定するための平滑コンデンサCの電流判定値である。換言すれば、第1の電流判定値Icth1は、平滑コンデンサCの温度上昇抑制の観点から設定される上限電流に相当する。
【0055】
ステップ33において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」で、かつ、電流実効値Icrmsが第1の電流判定値Icth1よりも大きい場合には(Freq=0 and Icrms>Icth1)、ステップ34に進む。一方、ステップ33において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」であるか、あるいは、電流実効値Icrmsが第1の電流判定値Icth1以下の場合には、ステップ35(S35)に進む。
【0056】
ステップ35において、電源制御部43aは、制御要求フラグFreqが「1」であり、かつ、電流実効値Icrmsが第2の電流判定値Icth2よりも小さいか否かを判断する。ここで、第2の電流判定値Icth2は、直列固定処理により平滑コンデンサCの温度が通常の動作温度帯域まで低下したことを判定するための平滑コンデンサCの温度判定値である。換言すれば、第2の電流判定値Icth2は、上述した第1の電流判定値Icth1よりも小さな値に設定されている下限電流である。
【0057】
ステップ35において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」で、かつ、電流実効値Icrmsが第2の電流判定値Icth2よりも小さい場合には(Freq=1 and Ic<Icth2)、ステップ36に進む。一方、ステップ35において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」であるか、あるいは、電流実効値Icrmsが第2の電流判定値Icth2以上の場合には、ステップ37(S37)に進む。
【0058】
このように、本実施形態によれば、ステップ30,33における判断処理に示すように、回生状態から力行状態に移行した場合、平滑コンデンサCの状態(具体的には、平滑コンデンサCの電流実効値Icrms)に応じて、第1および第2の電源の電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理が行われる。具体的には、電源制御部43は、電流実効値Icrmsが第1の電流判定値Icth1よりも大きい場合には、制御要求フラグFreqを「1」にセットする。これにより、回生状態から力行状態に移行した場合、電源制御部43は、第1および第2の電源を直列接続に設定する(直列固定処理)。本来ならば、モータ10の状態に基づいて電気的接続状態を判断するため、低速シーン(モータ速度ω≦ωth)では、回生状態から力行状態へ移行した後は並列接続が設定されるものであるが、直列固定処理により、直接接続が維持されることとなる。また、電流実効値Icrmsが第2の電流判定値Icth2へ低下するまで直列固定処理が継続されるので、直列接続が継続的に維持されることとなる。これにより、直列固定処理の間に力行状態と回生状態とが繰り返された場合であっても、直列接続と並列接続との切り替えが行われない。そのため、直列接続と並列接続との電圧変化を伴う平滑コンデンサCの充放電は行われず、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制することができる。また、電流実効値Icrmsが低下し、直列固定処理が終了すると、力行運転時には、モータ10の状態(具体的には、モータ速度ω)に応じて、直列接続と並列接続との切り替えを行うことができる。低速シーンで並列接続を設定した場合には、低い電圧でインバータ20を駆動することができるので、効率のよい駆動が可能となる。
【0059】
かかる手法によれば、力行状態と回生状態を繰り返す場合であっても、平滑コンデンサCの電流実効値Icrmsに応じて、第1および第2の電源を直列接続のまま固定することで、直列接続と並列接続との切り替え回数を低減することができる。これにより、平滑コンデンサCの充放電電流による発熱を抑制することができるとともに、充放電電流による損失の増大を抑制することができる。その結果、電気自動車の1充電あたりの走行距離を延ばすことができるとともに、コンデンサCの寿命を延ばすことができる。
【0060】
また、本実施形態では、電流実効値Icrmsに基づいて直列固定処理に関する判定を行っている。かかる手法によれば、平滑コンデンサCの発熱に起因するジュール損に相当する値を演算することができる。また、電流実効値Icrmsを演算する際の積分区間を平滑コンデンサCの熱時定数と対応させることで、発生するジュール損からの平滑コンデンサCの温度上昇を推定することができる。これにより、平滑コンデンサCの温度を直接検出できないようなケースであっても、コンデンサ電流Icから直列固定処理の可否およびその終了タイミングを判定することができる。
【0061】
(第3の実施形態)
図8は、本発明の第3の実施形態にかかる電源装置30bおよび当該電源装置30bを用いたモータ10の制御システムを模式的に示す構成図である。本実施形態では、第1の実施形態に示す電源装置30、コントロールユニット40に代えて、電源装置30b、コントロールユニット40bを有する点において第1の実施形態と相違する。そこで、本実施形態では、第1の実施形態との相違点である電源装置30b、コントロールユニット40bを中心に説明を行う。また、第1の実施形態と共通する構成については、符号を引用することにより重複する説明を省略する。
【0062】
電源装置30bは、第1の実施形態の電源装置30と同様に、インバータ20を介してモータ10に接続されており、モータ10に電力を供給するとともに、モータ10において発電された電力を充電する電源装置である。電源装置30bは、それぞれが独立して直流電源として機能する複数の電源(本実施形態では、2つの電源(第1および第2の電源))を有している。本実施形態の特徴の一つとして、電源装置30は、第1および第2の電源間の電気的接続状態を直列接続と並列接続とで切り替えるスイッチ回路を備えており、このスイッチ回路は、単スイッチSW0(スイッチング手段)を主体に構成される。
【0063】
スイッチ回路において、単スイッチSW0は、NPN型のトランジスタ等のスイッチング素子を主体に構成されており、トランジスタは、コレクタ・エミッタ間に、還流用ダイオードが逆並列接続されている。また、スイッチ回路において、単スイッチSW0のコレクタ端子側およびエミッタ端子側には、単スイッチSW0の還流用ダイオードの順方向と対応させたダイオードがそれぞれ直列接続されている。単スイッチSW0のオンオフ状態は、コントロールユニット40bから出力されるスイッチ駆動信号に応じて切り替えられる。
【0064】
ここで、単スイッチSW0とコレクタ端子側のダイオードとの接続点は、第1の電源の正極が接続され、単スイッチSW0とエミッタ端子側のダイオードとの接続点は、第2の電源の負極が接続されている。コレクタ端子側のダイオードの他方の端子と、第2の電源の正極とは相互に接続されており、この接続端は電源装置30の正極側の出力端として機能する。また、エミッタ端子側のダイオードの他方の端子と、第1の電源の負極とは相互に接続されており、この接続端は電源装置30の負極側の出力端として機能する。
【0065】
図9は、本発明の第3の実施形態にかかるコントロールユニット40bの構成を模式的に示すブロック図である。コントロールユニット40bは、トルク制御部41と、電流制御部42と、電源制御部43bとで構成されている。トルク制御部41と、電流制御部42とは第1の実施形態と同様の機能を担っている。
【0066】
電源制御部43bは、コンデンサ電圧Vcと、モータ速度ωと、第1の電源電圧Eaと、第2の電源電圧Ebとに基づいて、電源装置30における単スイッチSW0を駆動するためのスイッチ駆動信号Sdsw0を生成する。電源制御部43bは、スイッチ駆動信号Sdsw0を通じて制御される単スイッチSW0のオンオフ状態の切り替えに応じて、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続または並列接続とで切り替える。
【0067】
また、本実施形態において、電源制御部43bは、コンデンサ電圧Vcをモニタリングし、このコンデンサ電圧Vcの単位時間あたりの変化回数をカウントしている。このカウントされた変化回数は、平滑コンデンサCの単位時間あたりの充放電回数に相当し、直列固定処理の可否および終了タイミングを判定するためのパラメータとして用いられる。なお、電源制御部43bは、第1の実施形態と同様に、モータ速度ωなどに基づいて、回生状態と力行状態との切り替わりを判定する。
【0068】
図10は、本実施形態にかかる電源装置30bにおける第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の説明図である。モータ10の力行状態時、第1の電源および第2の電源を直列接続して電力を供給する場合、電源制御部43bは、単スイッチSW0をオン状態に制御する(同図(a)参照)。また、モータ10の力行状態時、第1の電源および第2の電源を並列接続して電力を供給する場合、電源制御部43bは、単スイッチSW0をオフ状態に制御する。この場合、第1の電源または第2の電源からモータ10への電流は、単スイッチSW0の両側に接続されたダイオードをそれぞれ流れる。これに対して、モータ10が回生状態の場合、電源制御部43bは、第1の電源および第2の電源を直列接続して電力を充電すべく、単スイッチSW0をオフ状態に制御する。この場合、モータ10からの電力は、単スイッチSW0における還流用ダイオードを流れて、第1および第2の電源に電流が流れる。
【0069】
図11は、本実施形態にかかる電源装置30bの制御方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、電源装置30bの第1の電源および第2の電源の電気的接続状態の設定手順を示しており、所定周期でコントロールユニット40b(具体的には、電源制御部43b)によって実行される。なお、電源制御部43bは、回生状態時には、後述するフローチャートの処理によって決定される接続状態に拘わらず、第1の電源および第2の電源を直列接続に設定すべく、単スイッチSW0のすべてをオフ状態に制御する(図10(c)参照)。
【0070】
まず、ステップ50(S50)において、電源制御部43bは、モータ速度ωが速度判定値ωthよりも大きいか否かを判断する。速度判定値ωthは、第1の実施形態と同様の機能を有する判定値である。このステップ50において肯定判定された場合、すなわち、モータ速度ωが速度判定値ωthよりも大きい場合には(ω>ωth)、ステップ51(S51)に進む。そして、ステップ51において、電源制御部43bは、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を直列接続に設定すべく、単スイッチSW0をオン状態に制御する。一方、ステップ50において否定判定された場合、すなわち、モータ速度ωが速度判定値ωth以下の場合には(ω≦ωth)、ステップ52(S52)に進む。
【0071】
ステップ52において、電源制御部43bは、電源制御部43は、第1の実施形態に示す直流判定値(Kc(Ea+Eb))とに基づいて、コンデンサ電圧Vcが第1および第2の電源の直列接続に相当する値であるか、それとも第1および第2の電源の並列接続に相当する値であるかを判定する。このステップ52において肯定された場合、すなわち、コンデンサ電圧Vcが直列接続に相当する値である場合には(Vc>Kc(Ea+Eb))、ステップ53(S53)に進む。一方、ステップ52において否定判定された場合、すなわち、コンデンサ電圧Vcが並列接続に相当する値である場合には(Vc≦Kc(Ea+Eb))、ステップ55(S55)に進む。
【0072】
ステップ53において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「0」であり、かつ、コンデンサ電圧Vcの単位時間あたりの変化回数、すなわち、充放電回数Cvが第1の回数判定値Cth1よりも大きいか否かを判断する。ここで、第1の回数判定値Cth1は、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制するために、直列固定処理を行うか否かを判定するための充放電の回数判定値である。換言すれば、第1の回数判定値Cth1は、平滑コンデンサCの温度上昇抑制の観点から設定される上限充放電回数に相当する。
【0073】
ステップ53において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」で、かつ、充放電回数Cvが第1の回数判定値Cth1よりも大きい場合には(Freq=0 and Cv>Cth1)、ステップ54(S54)に進み、制御要求フラグFreqを「1」にセットする(ステップ54)。一方、ステップ53において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」であるか、あるいは、充放電回数Cvが第1の回数判定値Cth1以下の場合には、ステップ55(S55)に進む。
【0074】
ステップ55において、電源制御部43は、制御要求フラグFreqが「1」であり、かつ、充放電回数Cvが第2の回数判定値Cth2よりも小さいか否かを判断する。ここで、第2の回数判定値Cth2は、直列固定処理により平滑コンデンサCの温度が通常の動作温度帯域まで低下したことを判定するための充放電の回数判定値である。換言すれば、第2の回数判定値Cth2は、上述した第1の回数判定値Cth1よりも小さな値に設定されている下限充放電回数である。
【0075】
このステップ55において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」で、かつ、充放電回数Cvが第2の回数判定値Cth2よりも小さい場合には(Freq=1 and Cv<Cth2)、ステップ56(S56)に進み、制御要求フラグFreqを「0」にセットする(ステップ56)。一方、ステップ55において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」であるか、あるいは、充放電回数Cvが第2の回数判定値Cth2以上の場合には、ステップ57(S57)に進む。
【0076】
ステップ57において、電源制御部43bは、制御要求フラグFreqが「1」であるか否かを判断する。このステップ57において肯定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「1」である場合には(Freq=1)、ステップ51に進む。一方、ステップ57において否定判定された場合、すなわち、制御要求フラグFreqが「0」である場合には(Freq=0)、ステップ58(S58)に進む。
【0077】
ステップ58において、電源制御部43bは、電源制御部43bは、第1の電源および第2の電源の電気的接続状態を並列接続に設定すべく、単スイッチSW0をオフ状態に制御する。
【0078】
このように本実施形態によれば、上述したステップ50,53における判断処理に示すように、回生状態から力行状態に移行した場合、平滑コンデンサCの状態(具体的には、平滑コンデンサCの充放電回数Cv)に応じて、第1および第2の電源の電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理が行われる。具体的には、電源制御部43は、充放電回数Cvが第1の回数判定値Cth1よりも大きい場合には、制御要求フラグFreqを「1」にセットする。これにより、回生状態から力行状態に移行した場合、電源制御部43は、第1および第2の電源を直列接続に設定する(直列固定処理)。本来ならば、モータ10の状態に基づいて電気的接続状態を判断するため、低速シーン(モータ速度ω≦ωth)では、回生状態から力行状態へ移行した後は並列接続が設定されるものであるが、直列固定処理により、直接接続が維持されることとなる。また、充放電回数Cvが第2の回数判定値Cth2へ低下するまで直列固定処理が継続されるので、直列接続が維持されることとなる。これにより、直列固定処理の間に力行状態と回生状態とが繰り返された場合であっても、直列接続と並列接続との切り替えが行われず、電圧変化を伴う平滑コンデンサCの充放電は行われず、平滑コンデンサCの温度上昇を抑制することができる。また、充放電回数Cvが低下し、直列固定処理が終了すると、力行状態の場合には、モータ10の状態(具体的には、モータ速度ω)に応じて、直列接続と並列接続との切り替えを行うことができる。低速シーンで並列接続を設定した場合には、低い電圧でインバータ20を駆動することができるので、効率のよい駆動が可能となる。
【0079】
かかる手法によれば、力行状態と回生状態を繰り返す場合であっても、充放電回数Cvに応じて、第1および第2の電源を直列接続のまま固定することで、直列接続と並列接続との切り替え回数を低減することができる。これにより、平滑コンデンサCの充放電電流による発熱を抑制することができるとともに、充放電電流による損失の増大を抑制することができる。その結果、電気自動車の1充電あたりの走行距離を延ばすことができるとともに、コンデンサCの寿命を延ばすことができる。
【0080】
また、第1および第2の電源の電気的接続状態を単一のスイッチSW0で切り替えることができる。そのため、電源装置30bを安価に構成することができるとともに、電源間の電圧比較処理(例えば、第1の実施形態に示すステップ18の処理)が不要となるため、制御の簡素化を図ることができる。
【0081】
なお、本実施形態では、電源制御部43bが、充放電回数Cvに応じて直列固定処理の判定を行う手法について述べたが、第1または第2の実施形態に示すように、コンデンサ温度Tcまたはコンデンサ電流I(電流実効値Icrms)に応じて直列固定処理の判定を行ってもよい。また、充放電回数Cvに応じて直列固定処理の判定手法は、第1または第2の実施形態に示すシステム構成について適用することも可能である。さらに、これらの判定手法を組み合わせて利用してもよい。
【0082】
以上、本発明の実施形態にかかる電源装置およびその制御方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その発明の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、電源装置を構成する電源の数は3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
10…モータ
20…インバータ
30…電源装置
40…コントロールユニット
41…トルク制御部
42…電流制御部
43…電源制御部
50…電流センサ
51…電気角検出部
52…モータ速度検出部
53…第1の電圧センサ
54…第2の電圧センサ
55…コンデンサ状態検出センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置を介してモータに接続される複数の電源と、
前記複数の電源間の電気的接続状態を直列接続と並列接続とで切り替えるスイッチング手段を有するスイッチ回路と、
前記スイッチング手段を制御することにより、前記モータが回生状態である場合、前記電気的接続状態を直列接続に設定し、前記モータが力行状態である場合、前記モータの状態に基づいて前記電気的接続状態を直列接続および並列接続のうちの一方に設定する制御手段と、
前記電力変換装置が備えるコンデンサの状態を検出する検出手段とを有し、
前記制御手段は、回生状態から力行状態への移行時、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの状態に応じて、前記電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理を行うことを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記コンデンサの温度を検出しており、
前記制御手段は、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの温度が、当該コンデンサの温度上昇抑制の観点から設定される上限温度に到達していることを条件に、前記直列固定処理を行うことを特徴とする請求項1に記載された電源装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記コンデンサの温度が、前記上限温度よりも低い温度に設定されている下限温度へ低下するまで、前記直列固定処理を継続することを特徴とする請求項2に記載された電源装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記コンデンサの電流を検出しており、
前記制御手段は、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの電流が、当該コンデンサの温度上昇抑制の観点から設定される上限電流に到達していることを条件に、前記直列固定処理を行うことを特徴とする請求項1に記載された電源装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記コンデンサの電流が、前記上限電流よりも小さい電流値に設定されている下限電流へ低下するまで、前記直列固定処理を継続することを特徴とする請求項4に記載された電源装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの電流の実効値を演算し、当該演算された実効値に基づいて前記直列固定処理に関する判定を行っており、前記実効値を演算する際の積分区間を前記コンデンサの熱時定数と対応させていることを特徴とする請求項4または5に記載された電源装置。
【請求項7】
前記検出手段は、前記コンデンサの電圧を検出しており、
前記制御手段は、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの電圧に基づいて、当該コンデンサの充放電の回数を演算しており、当該充放電回数が、前記コンデンサの温度上昇抑制の観点から設定される上限充放電回数に到達していることを条件に、前記直列固定処理を行うことを特徴とする請求項1に記載された電源装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記充放電回数が、前記上限充放電回数よりも小さい値に設定されている下限充放電回数へ低下するまで、前記直列固定処理を継続することを特徴とする請求項7に記載された電源装置。
【請求項9】
前記スイッチ回路は、スイッチング素子と当該スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードとを有するスイッチと、当該スイッチを中央に配置して当該スイッチの端子にそれぞれ直列接続される2つのダイオードとで構成されており、
前記スイッチと一方のダイオードとの接続点は、第1の電源の正極が接続され、前記スイッチと他方のダイオードとの接続点は、第2の電源の負極が接続されており、
前記一方のダイオードは、他方の端子が第2の電源の正極と接続されて、前記他方のダイオードは、他方の端子が第1の電源の負極と接続されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載された電源装置。
【請求項10】
電力変換装置を介してモータに接続される複数の電源を有し、当該複数の電源間の電気的接続状態を直列接続と並列接続とで切り替え可能な電源装置の制御方法において、
前記モータの回生状態の場合、前記電気的接続状態を直列接続に設定する第1のステップと、
前記モータの力行状態の場合、前記モータの状態に基づいて前記電気的接続状態を直列接続および並列接続のうちの一方に設定する第2のステップと、
前記電力変換装置が備えるコンデンサの状態を検出する第3のステップとを有し、
前記第2のステップは、回生状態から力行状態に移行した場合、前記検出されたコンデンサの状態に応じて、前記電気的接続状態を直列接続のままで固定とするステップを含むことを特徴とする電源装置の制御方法。
【請求項1】
電力変換装置を介してモータに接続される複数の電源と、
前記複数の電源間の電気的接続状態を直列接続と並列接続とで切り替えるスイッチング手段を有するスイッチ回路と、
前記スイッチング手段を制御することにより、前記モータが回生状態である場合、前記電気的接続状態を直列接続に設定し、前記モータが力行状態である場合、前記モータの状態に基づいて前記電気的接続状態を直列接続および並列接続のうちの一方に設定する制御手段と、
前記電力変換装置が備えるコンデンサの状態を検出する検出手段とを有し、
前記制御手段は、回生状態から力行状態への移行時、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの状態に応じて、前記電気的接続状態を直列接続のままで固定とする直列固定処理を行うことを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記コンデンサの温度を検出しており、
前記制御手段は、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの温度が、当該コンデンサの温度上昇抑制の観点から設定される上限温度に到達していることを条件に、前記直列固定処理を行うことを特徴とする請求項1に記載された電源装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記コンデンサの温度が、前記上限温度よりも低い温度に設定されている下限温度へ低下するまで、前記直列固定処理を継続することを特徴とする請求項2に記載された電源装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記コンデンサの電流を検出しており、
前記制御手段は、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの電流が、当該コンデンサの温度上昇抑制の観点から設定される上限電流に到達していることを条件に、前記直列固定処理を行うことを特徴とする請求項1に記載された電源装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記コンデンサの電流が、前記上限電流よりも小さい電流値に設定されている下限電流へ低下するまで、前記直列固定処理を継続することを特徴とする請求項4に記載された電源装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの電流の実効値を演算し、当該演算された実効値に基づいて前記直列固定処理に関する判定を行っており、前記実効値を演算する際の積分区間を前記コンデンサの熱時定数と対応させていることを特徴とする請求項4または5に記載された電源装置。
【請求項7】
前記検出手段は、前記コンデンサの電圧を検出しており、
前記制御手段は、前記検出手段によって検出される前記コンデンサの電圧に基づいて、当該コンデンサの充放電の回数を演算しており、当該充放電回数が、前記コンデンサの温度上昇抑制の観点から設定される上限充放電回数に到達していることを条件に、前記直列固定処理を行うことを特徴とする請求項1に記載された電源装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記充放電回数が、前記上限充放電回数よりも小さい値に設定されている下限充放電回数へ低下するまで、前記直列固定処理を継続することを特徴とする請求項7に記載された電源装置。
【請求項9】
前記スイッチ回路は、スイッチング素子と当該スイッチング素子に逆並列接続されたダイオードとを有するスイッチと、当該スイッチを中央に配置して当該スイッチの端子にそれぞれ直列接続される2つのダイオードとで構成されており、
前記スイッチと一方のダイオードとの接続点は、第1の電源の正極が接続され、前記スイッチと他方のダイオードとの接続点は、第2の電源の負極が接続されており、
前記一方のダイオードは、他方の端子が第2の電源の正極と接続されて、前記他方のダイオードは、他方の端子が第1の電源の負極と接続されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載された電源装置。
【請求項10】
電力変換装置を介してモータに接続される複数の電源を有し、当該複数の電源間の電気的接続状態を直列接続と並列接続とで切り替え可能な電源装置の制御方法において、
前記モータの回生状態の場合、前記電気的接続状態を直列接続に設定する第1のステップと、
前記モータの力行状態の場合、前記モータの状態に基づいて前記電気的接続状態を直列接続および並列接続のうちの一方に設定する第2のステップと、
前記電力変換装置が備えるコンデンサの状態を検出する第3のステップとを有し、
前記第2のステップは、回生状態から力行状態に移行した場合、前記検出されたコンデンサの状態に応じて、前記電気的接続状態を直列接続のままで固定とするステップを含むことを特徴とする電源装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−183769(P2010−183769A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25964(P2009−25964)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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