説明

モータ制御装置及び車両用操舵装置

【課題】回生制御の実行時においてもモータの各相電流値を検出することができるモータ制御装置を提供すること。
【解決手段】マイコンは、三角波δが山となるタイミングTbで上段側の各FETを全てオンにするような制御信号を出力する第1周期C1、及び下段側の各FETを全てオンにするような制御信号を出力する第2周期C2を交互に繰り返すことにより、その回生制御を実行する。そして、この回生制御の実行時、マイコンは、第1周期C1において三角波δが山となるタイミングTbで取得された各電流センサの出力値をオフセット電流値Ix0として、第2周期C2において第1周期C1と同じタイミングTbで取得された補正前電流値Ix1を補正することにより、モータの各相電流値を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動回路を構成する各相のスイッチングアームにおける上段側(電源側)のスイッチング素子又は下段側(接地側)のスイッチング素子の何れか一方を全てオン(他方は全オフ)することによって、モータの回転に制動力を与える回生制御が知られている。そして、例えば、電動パワーステアリング装置等のように、操舵系の構成要素を駆動するモータを備えた車両操舵装置では、その回生制御の実行によって、操舵系に作用する外乱(悪路走行時や縁石衝突時等)を抑える構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、多くのモータ制御装置は、三角波を搬送波とした周知のPWM制御を実行することにより、そのモータ制御を実行する。また、モータの各相電流値を検出するための電流センサについては、各スイッチングアームの低電位側(接地側)に設ける構成が知られている。そして、モータの各相電流値は、その三角波に基づくタイミングで周期的に取得される各電流センサの出力値に基づいて検出される。
【0004】
例えば、図5に示すように、各相の基準信号(DUTY指示値Sd)が三角波δよりも上にある場合には、各相スイッチングアームにおける上段側のスイッチング素子がオン、及び下段側のスイッチング素子がオフとなる。そして、DUTY指示値Sdが三角波δよりも下にある場合には、各スイッチングアームにおける下段側のスイッチング素子がオン、及び上段側のスイッチング素子がオフとなる。
【0005】
また、各電流センサの出力値は、三角波δが谷となるタイミングTa及び山となるタイミングTbで周期的に取得される。タイミングTaにおいては、各スイッチングアームにおける上段側のスイッチング素子が全てオン、及び下段側のスイッチング素子が全てオフとなるため、各電流センサの出力値は、オフセット電流値Ix0として検出される。また、タイミングTbにおいては、各スイッチングアームにおける下段側のスイッチング素子が全てオン、及び上段側のスイッチング素子が全てオフとなるため、各電流センサの出力値は、補正前電流値Ix1として検出される。そして、補正前電流値Ix1をオフセット電流値Ix0で補正することにより各相電流値が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−265605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の電流検出方法では、上記回生制御の実行時には、その各相電流値の検出ができなくなる。
例えば、図6に示すように、上段側のスイッチング素子を全てオフし、三角波δに基づいて下段側のスイッチング素子を全てオンすることにより回生制御を行う場合、三角波δが谷となるタイミングTaでは全てのスイッチング素子がオフとなる。従って、このタイミングTaで取得される各電流センサの出力値は、各スイッチング素子の寄生ダイオードを介して電源に帰還する回生電流値となるため、オフセット電流値Ix0に用いることができない。また、図7に示すように、下段側のスイッチング素子を全てオフし、三角波δに基づいて上段側のスイッチング素子を全てオンとすることにより回生制御を行う場合、その三角波δが山となるタイミングTbで、上段側のスイッチング素子が全てオン、及び下段側のスイッチング素子が全てオフとなるため、各電流センサの出力値をオフセット電流値Ix0に用いることができる。しかし、この場合もまた、その三角波δが谷となるタイミングTaでは全てのスイッチング素子がオフとなる。従って、このタイミングTaで取得される各電流センサの出力値は、各スイッチング素子の寄生ダイオードを介して電源に帰還する回生電流値となるため、補正前電流値Ix1にはなり得ない。そして、このように各相電流値の検出が不能となることで、回生制御の実行時には、その各相電流値の監視、例えば、過電流の有無や各相電流の総和等に基づく異常検出ができなくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、回生制御の実行時においてもモータの各相電流値を検出することができるモータ制御装置及び車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、搬送波に基づくPWM制御を実行することにより制御信号を出力する制御手段と、前記制御信号に基づきオン/オフする複数のスイッチング素子を備えた駆動回路とを備え、前記駆動回路は、一対のスイッチング素子を直列に接続してなるスイッチングアームをモータの各相に対応して並列に接続してなるとともに、前記各スイッチングアームの低電位側又は高電位側のいずれかには、電流センサが設けられ、前記制御手段は、前記搬送波に基づくタイミングで周期的に前記各電流センサの出力値を取得する電流取得手段を備えたモータ制御装置であって、前記制御手段は、前記各スイッチングアームにおける下段側のスイッチング素子を全てオフするとともに前記搬送波に基づき上段側のスイッチング素子を全てオンするような前記制御信号を生成する第1周期、及び前記上段側のスイッチング素子を全てオフするとともに前記搬送波に基づき下段側のスイッチング素子を全てオンするような前記制御信号を生成する第2周期、を交互に繰り返す回生制御手段と、前記各電流センサの出力値に基づき前記モータの各相電流値を検出する回生時相電流検出手段とを備えること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、第1周期においては、上段側の各スイッチング素子を全てオンする従来の回生制御と同様の回生ブレーキ作用が得られ、第2周期においては、下段側の各スイッチングを全てオンする従来の回生制御と同様の回生ブレーキ作用が得られる。また、三角波に基づく同じタイミングで、第1周期では上段側の各スイッチング素子が全てオン且つ下段側の各スイッチング素子が全てオフとなり、第2周期では下段側の各スイッチング素子が全てオン且つ上段側の各スイッチング素子が全てオフとなる。そのため、請求項1のモータ制御手段は、各電流センサがスイッチングアームの低電位側に設けられる場合には、第1周期において上段側のスイッチング素子が全てオンとなるタイミングで取得される各電流センサの出力値をオフセット電流値として、第2周期において下段側のスイッチング素子が全てオンとなるタイミングで取得される各電流センサの出力値を補正することにより、モータの各相電流値を検出することができる。また、各電流センサがスイッチングアームの高電位側に設けられる場合、請求項1のモータ制御手段は、第2周期において下段側のスイッチング素子が全てオンとなるタイミングで取得される各電流センサの出力値をオフセット電流値として、第1周期において上段側のスイッチング素子が全てオンとなるタイミングで取得される各電流センサの出力値を補正することにより、モータの各相電流値を検出することができる。従って、請求項1のモータ制御手段は、新たな部品を追加することなく、これら第1周期及び第2周期に取得される各電流センサの出力値に基づいて、回生制御の実行時におけるモータの各相電流値を検出することができる。その結果、回生制御の実行中であっても各相電流値に基づく異常検出の実行が可能となることで、高い信頼性を確保することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記制御手段は、前記第1周期と第2周期とが切り替わり全てのスイッチング素子がオフとなるタイミングで取得される前記各電流センサの出力値に基づいて、前記各スイッチング素子の寄生ダイオードを介して電源に帰還する回生電流値を検出する回生電流検出手段を備えること、を要旨とする。
【0012】
第1周期と第2周期とが切り替わるタイミングでは、上段側及び下段側の各スイッチング素子が全てオフとなる。従って、このタイミングで取得される各電流センサの出力値に基づいて、各スイッチング素子の寄生ダイオードを介して電源に帰還する回生電流値を検出することができる。そして、その回生電流値に基づき過電流の発生を検知することで、回生制御の実行により生ずる電力供給系の過熱(例えば、コイルやバッテリ等の過熱)を未然に防止することができる。その結果、より高い信頼性を確保することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記モータ制御装置に制御されて操舵系の構成要素を駆動するモータと、を備え、前記制御手段は、前記操舵系に作用する外乱を検知する外乱検出手段を有し、前記外乱検出手段により外乱が検知された場合に、前記回生制御を実行すること、を要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、回生制御の実行により操舵系に制動力を付与することができる。これにより、例えば、操舵系に作用する外乱の影響を抑える等の効果を得ることができる。そして、その回生制御の実行中においても、モータの各相電流値の検出、及びその各相電流値に基づく異常検出を実行することができる。その結果、より優れた操舵フィーリング及び高い信頼性を確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回生制御の実行時においてもモータの各相電流値を検出することが可能なモータ制御装置及び車両用操舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用される車両用操舵装置の概略構成図。
【図2】本発明が適用される車両用操舵装置の電気的構成を示すブロック図。
【図3】モータ制御及び電流検出の切替判定処理を示すフローチャート。
【図4】本発明の回生制御及び回生時電流検出の態様を示すタイミングチャート。
【図5】PWM制御及び電流検出の態様を示すタイミングチャート。
【図6】従来の回生制御の態様を示すタイミングチャート。
【図7】従来の回生制御の態様を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両用操舵装置1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。尚、ステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを備えた周知の構成を有している。そして、ステアリングシャフト3の回転がラック軸5の軸方向移動に変換され、ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角が変更される。
【0018】
また、車両用操舵装置1は、モータ駆動により操舵系にアシスト力を付与するEPSアクチュエータ10と、EPSアクチュエータ10の作動を制御するECU11とを備えた電動パワーステアリング装置(EPS)として構成されている。
【0019】
具体的には、EPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12と、モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達する減速機構13とを備えている。また、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されている。そして、ECU11は、これらの各センサにより検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、EPSアクチュエータ10の作動を制御する(パワーアシスト制御)。
【0020】
図2に示すように、ECU11は、制御信号を出力する制御手段としてのマイコン17と、マイコン17が出力する制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0021】
詳述すると、マイコン17は、操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を決定する。そして、マイコン17は、この目標アシスト力に対応するモータトルクをモータ12に発生させるべく、駆動回路18に対して制御信号を出力する。
【0022】
また、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力に基づき回転するブラシレスモータが採用されている。そして、駆動回路18は、制御信号に基づきオン/オフする複数のFET18a〜18fを接続することにより形成されている。
【0023】
具体的には、駆動回路18は、3組のスイッチングアーム19u,19v,19wを並列に接続することにより形成されている。スイッチングアーム19uは、一対のスイッチング素子としてのFET18a,18dを接続点20uで直列に接続して構成される。接続点20uは、動力線21uを介して、モータ12のU相モータコイル12uに接続されている。同様に、スイッチングアーム19vは、一対のスイッチング素子としてのFET18b,18eを接続点20vで直列に接続して構成され、接続点20vは、動力線21vを介して、モータ12のV相モータコイル12vに接続されている。また、スイッチングアーム19wは、一対のスイッチング素子としてのFET18c,18fを接続点20wで直列に接続して構成され、接続点20wは、動力線21wを介して、モータ12のW相モータコイル12wに接続されている。
【0024】
尚、以下、説明の便宜のため、各スイッチングアーム19u,19v,19wにおける電源Vb側(高電位側:同図中、上側)の各FET18a〜18cを「上段側」とし、接地端子Gnd側(低電位側:同図中、下側)の各FET18d〜18fを「下段側」とする。
【0025】
また、各スイッチングアーム19u,19v,19wの低電位側には、それぞれシャント抵抗を用いた周知の電流センサ22u,22v,22wが設けられている。そして、マイコン17は、これら各電流センサ22u,22v,22wの出力値に基づいて、モータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwを検出する。
【0026】
さらに詳述すると、マイコン17は、回転角センサ23の出力信号に基づいてモータ回転角θを検出する。そして、マイコン17は、図5に示すような三角波δを搬送波とした周知のPWM制御を実行することにより、そのモータ回転角θに応じた制御信号を出力する。
【0027】
また、電流取得手段としてのマイコン17は、三角波δが谷となるタイミングTa及び山となるタイミングTbで周期的に各電流センサ22u,22v,22wの出力値を取得する。そして、マイコン17は、三角波δが谷となるタイミングTaで取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値をオフセット電流値として、三角波δが山となるタイミングTbで取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値を補正することにより、各相電流値Iu,Iv,Iwを検出する。
【0028】
マイコン17は、このようにして検出される各相電流値Iu,Iv,Iw及びモータ回転角θに基づいて、目標アシスト力に対応するモータトルクを発生させるべく電流フィードバック制御を実行する。そして、これにより得られる各相のDUTY指示値Sdに基づいて、上記PWM制御を実行する。
【0029】
また、マイコン17は、検出される各相電流値Iu,Iv,Iwの監視に基づく異常検出を実行する。具体的には、異常検出手段としてのマイコン17は、各相電流値Iu,Iv,Iwに基づいて過電流の有無を判定する。また、各相電流値Iu,Iv,Iwの総和が「0」に対応する値であるか否かを判定する。尚、何れかの相電流値Iu,Iv,Iwに過電流が検出された場合には、例えば、各スイッチングアーム19u,19v,19wにおいてショート故障(所謂アーム短絡)が発生した可能性があり、各相電流値Iu,Iv,Iwの総和が「0」に対応する値ではない場合には、例えば、各電流センサ22u,22v,22wに異常が発生した可能性がある。そして、マイコン17は、このような異常が検出された場合には、モータ12に対する電力供給を速やかに停止させるべく、その駆動回路18に対する制御信号の出力を実行する(フェールセーフ制御)。
【0030】
(回生制御及び回生時電流検出)
次に、マイコン17が実行する回生制御及び回生制御時の電流検出の態様について説明する。
【0031】
また、マイコン17は、操舵系に作用する外乱、詳しくは、例えば、縁石衝突のような、転舵輪7に対する衝撃的な逆入力応力の印加を検知する。そして、外乱検出手段としてのマイコン17は、このような逆入力応力の印加が検知された場合には、そのモータ制御の態様を回生制御に切り替える。
【0032】
詳述すると、図3のフローチャートに示すように、マイコン17は、モータ回転角速度ωの絶対値が所定の閾値ω0以下であるか否かを判定する(ステップ101)。尚、モータ回転角速度ωは、モータ回転角θと同様、回転角センサ23の出力信号に基づいて検出される。また、閾値ω0は、逆入力応力の印加時に発生するモータ回転角速度ωの絶対値に対応した値に設定されている。そして、マイコン17は、モータ回転角速度ωの絶対値が閾値ω0以下である場合(ステップ101:YES)には、図5に示されるような通常の電流検出、及び通常のモータ制御を実行する(ステップ102)。
【0033】
一方、ステップ101において、モータ回転角速度ωの絶対値が閾値ω0を超えた場合(ステップ101:NO)には、マイコン17は、転舵輪7に対する逆入力応力の印加が発生したものと判定して回生制御を実行する。そして、その制御態様の変更に合わせて、電流検出の態様を変更する(ステップ103)。
【0034】
さらに詳述すると、図4に示すように、回生制御手段としてのマイコン17は、三角波δの一周期に対応して信号レベル(Hi/Lo)が反転する切替信号Srを生成する。そして、この切替信号Srに基づいて、駆動回路18の各スイッチングアーム19u,19v,19wにおける上段側の各FET18a〜18cを全てオンにする第1周期C1、及び下段側の各FET18d〜18fを全てオンにする第2周期C2を交互に繰り返す。
【0035】
具体的には、マイコン17は、第1周期C1(切替信号Sr=「Hi」)においては、下段側の各FET18d〜18fを全てオフし、DUTY指示値Sdが三角波δよりも上側にある場合に上段側の各FET18a〜18cを全てオンするような制御信号を出力する。そして、第2周期C2(切替信号Sr=「Lo」)においては、上段側の各FET18a〜18cを全てオフし、DUTY指示値Sdが三角波δよりも上側にある場合に下段側の各FET18d〜18fを全てオンするような制御信号を出力する。
【0036】
ここで、このような回生制御の実行時、マイコン17は、第1周期C1において上段側の各FET18a〜18cが全てオンとなるタイミングで取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値をオフセット電流値Ix0とする。さらに、マイコン17は、第2周期C2において下段側の各FET18d〜18fが全てオンとなるタイミングで取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値を補正前電流値Ix1とする。そして、回生時相電流検出手段としてのマイコン17は、その第1周期C1において三角波δが山となるタイミングTbで取得されたオフセット電流値Ix0に基づいて、第2周期C2において第1周期C1と同じ三角波δが山となるタイミングTbで取得された補正前電流値Ix1を補正することにより、各相電流値Iu,Iv,Iwを検出する。
【0037】
また、回生電流検出手段としてのマイコン17は、三角波δが谷となるタイミングTa、即ち第1周期C1と第2周期C2とが切り替わるタイミングに取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値に基づいて、各FET18a〜18fの寄生ダイオードDを介して電源Vbに帰還する回生電流値Irgを検出する。さらに、異常検出手段としてのマイコン17は、その検出される回生電流値Irgに基づいて過電流の発生を検知する。そして、マイコン17は、過電流の発生が検知された場合には、その回生制御を停止して、通常のモータ制御に移行する。
【0038】
尚、検出される回生電流値Irgに異常がない場合、マイコン17は、このような回生制御及び回生時電流検出を、予め設定された所定時間に亘って継続する。また、この間、マイコン17は、上段側の各FET18a〜18c(第1周期C1)又は下段側の各FET18d〜18f(第2周期C2)の全オン時間t0が徐々に短くなるように、そのDUTY指示値Sdを変更する。そして、マイコン17は、その所定時間の経過後、再び、図3のフローチャートに示されるような逆入力応力の検知に基づいたモータ制御及び電流検出の切替判定処理を実行する。
【0039】
(作用)
次に、上記のように構成されたモータ制御装置としてのECU11の作用について説明する。
【0040】
ECU11による回生制御の実行時には、下段側の各FET18d〜18fが全てオフするとともに三角波δに基づき上段側の各FET18a〜18cが全てオンとなる第1周期C1と、上段側の各FET18a〜18cが全てオフするとともに三角波δに基づき下段側の各FET18d〜18fが全てオンとなる第2周期C2とが繰り返される。
【0041】
これにより、第1周期C1においては、上段側の各FET18a〜18cを全てオンする従来の回生制御(図6参照)と同様の回生ブレーキ作用が得られ、第2周期C2においては、下段側の各FET18d〜18fを全てオンする従来の回生制御(図7参照)と同様の回生ブレーキ作用が得られる。
【0042】
また、第1周期C1においては、三角波δが山となるタイミングTbで、上段側の各FET18a〜18cは全てオン、且つ下段側の各FET18d〜18fは全てオフとなる。これに対し、第2周期C2においては、同じく三角波δが山となるタイミングTbで、上段側の各FET18a〜18cは全てオフ、且つ下段側の各FET18d〜18fは全てオフとなる。従って、それぞれタイミングTbで取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値が、第1周期C1においてはオフセット電流値Ix0となり、第2周期C2においては補正前電流値Ix1となる。
【0043】
さらに、三角波δが谷となるタイミングTaでは、第1周期C1と第2周期C2とが切り替わり、上段側の各FET18a〜18c及び下段側の各FET18d〜18fが全てオフとなる。従って、このタイミングTbで取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値は、各FET18a〜18fの寄生ダイオードDを介して電源Vbに帰還する回生電流値Irgに対応するものとなる。
【0044】
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記構成によれば、従来の回生制御と同様の回生ブレーキ作用を得ることができる。そして、その回生制御の実行により、例えば、転舵輪7に対する逆入力応力の印加等のような外乱の影響を抑え、良好な操舵フィーリングを確保することができる。
【0045】
また、三角波δに基づくタイミングで周期的に取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値から各相電流値Iu,Iv,Iwの検出に必要となるオフセット電流値Ix0及び補正前電流値Ix1を得ることができる。従って、新たな部品を追加することなく、回生制御の実行時においても各相電流値Iu,Iv,Iwを検出することができる。
【0046】
さらに、その検出される各相電流値Iu,Iv,Iwに基づいて異常検出を行うことにより、回生制御の実行中であっても、速やかにフェールセーフ制御に移行することができる。その結果、高い信頼性を確保することができる。
【0047】
(2)また、回生電流値Irgを検出し、その回生電流値Irgに基づいて過電流の発生を検知することで、回生制御の実行により生ずる電力供給系(例えば、バッテリやコイル等)の過熱を未然に防止することができる。その結果、より高い信頼性を確保することができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明をコラムアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)として構成された車両用操舵装置1に具体化した。しかし、これに限らず、ラックアシスト型やピニオンアシスト型等、コラムアシスト型以外のEPSに適用してもよい。また、例えば伝達比可変装置等、操舵系の構成要素を駆動するモータを備えた車両用操舵装置に適用してもよい。そして、車両用操舵装置以外に用いられるモータ制御装置に適用してもよい。
【0049】
・上記実施形態では、切替信号Srが「Hi」である場合を第1周期C1、切替信号Srが「Lo」である場合を第2周期C2としたが、切替信号Srが「Lo」である場合を第1周期C1、切替信号Srが「Hi」である場合を第2周期C2としてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、モータ回転角速度ωの絶対値が所定の閾値ω0を超えた場合に逆入力応力の印加が発生したものと判定して回生制御を実行することとした。しかし、逆入力応力の検知方法は、これに限るものではない。また、本発明は、逆入力応力以外の外乱発生時に適用してもよく、さらには外乱抑制以外の用途に適用してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、回生制御及び回生時電流検出を予め設定された所定時間に亘って継続することとした。しかし、これに限らず、例えば、逆入力応力の検知に用いたモータ回転角速度ωの絶対値に応じて継続時間を決定する等としてもよい。また、DUTY指示値Sdは固定としてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、回生電流値Irgに基づいて過電流の発生が検知された場合には、回生制御を停止して、通常のモータ制御に移行することとしたが、駆動回路18とモータ12とを接続する動力線21u,21v,21wを遮断する構成としてもよい。このような構成とすることで、より効果的に電力供給系の過熱を抑えることができる。
【0053】
・上記実施形態では、本発明を電流センサ22u,22v,22wが各スイッチングアーム19u,19v,19wの低電位側に設けられた構成に具体化したが、電流センサ22u,22v,22wが各スイッチングアーム19u,19v,19wの高電位側に設けられた構成に適用してもよい。
【0054】
具体的には、上記実施形態と同様、マイコン17は、図4に示すように、上段側の各FET18a〜18cを全てオンにする第1周期C1、及び下段側の各FET18d〜18fを全てオンにする第2周期C2を交互に繰り返すものとする。この場合、マイコン17は、第2周期C2において下段側の各FET18d〜18fが全てオンとなるタイミングで取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値をオフセット電流値Ix0とする。さらに、マイコン17は、第1周期C1において上段側の各FET18a〜18cが全てオンとなるタイミングで取得される各電流センサ22u,22v,22wの出力値を補正前電流値Ix1とする。そして、マイコン17は、その補正前電流値Ix1をオフセット電流値Ix0で補正することにより、各相電流値Iu,Iv,Iwを検出する構成とすればよい。
【0055】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記各相電流値に基づいて異常を検出する異常検出手段を備えること、を要旨とする。
【0056】
(ロ)前記回生電流値に基づいて異常を検出する異常検出手段を備えること、を要旨とする。
(ハ)前記モータ制御装置に制御されるモータを駆動源として操舵系にアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置。これにより、その回生ブレーキ作用を有効に活用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…車両用操舵装置、3…ステアリングシャフト、3a…コラムシャフト、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、12u,12v,12w…モータコイル、17…マイコン、18…駆動回路、18a〜18f…FET、D…寄生ダイオード、19u,19v,19w…スイッチングアーム、21u,21v,21w…動力線、22u,22v,22w…電流センサ、δ…三角波、Ta,Tb…タイミング、Sd…DUTY指示値、t0…全オン時間、C1…第1周期、C2…第2周期、Sr…切替信号、Iu,Iv,Iw…相電流値、Ix0…オフセット電流値、Ix1…補正前電流値、Irg…回生電流値、ω…モータ回転角速度、ω0…閾値、Vb…電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波に基づくPWM制御を実行することにより制御信号を出力する制御手段と、
前記制御信号に基づきオン/オフする複数のスイッチング素子を備えた駆動回路とを備え、
前記駆動回路は、一対のスイッチング素子を直列に接続してなるスイッチングアームをモータの各相に対応して並列に接続してなるとともに、
前記各スイッチングアームの低電位側又は高電位側のいずれかには、電流センサが設けられ、
前記制御手段は、前記搬送波に基づくタイミングで周期的に前記各電流センサの出力値を取得する電流取得手段を備えたモータ制御装置であって、
前記制御手段は、
前記各スイッチングアームにおける下段側のスイッチング素子を全てオフするとともに前記搬送波に基づき上段側のスイッチング素子を全てオンするような前記制御信号を生成する第1周期、及び前記上段側のスイッチング素子を全てオフするとともに前記搬送波に基づき下段側のスイッチング素子を全てオンするような前記制御信号を生成する第2周期、を交互に繰り返す回生制御手段と、
前記各電流センサの出力値に基づき前記モータの各相電流値を検出する回生時相電流検出手段とを備えること、を特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記制御手段は、前記第1周期と第2周期とが切り替わり全てのスイッチング素子がオフとなるタイミングで取得される前記各電流センサの出力値に基づいて、前記各スイッチング素子の寄生ダイオードを介して電源に帰還する回生電流値を検出する回生電流検出手段を備えること、を特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置に制御されて操舵系の構成要素を駆動するモータと、を備え、
前記制御手段は、
前記操舵系に作用する外乱を検知する外乱検出手段を有し、
前記外乱検出手段により外乱が検知された場合に、前記回生制御を実行すること、
を特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−59209(P2013−59209A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196317(P2011−196317)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】