操舵制御装置
【課題】小型かつ軽量で構成部材の破損を防止可能な操舵制御装置を提供する。
【解決手段】ECU40は、トルクセンサ31により検出した操舵トルクに基づき基準補助トルクを算出する。ECU40は、算出した基準補助トルクをラック6の位置に基づき補正することで補正補助トルクを算出する。具体的には、ECU40は、ラック6が移動可能範囲の一端近傍の所定の第1位置から前記一端側へ移動するに従い、または、ラック6が移動可能範囲の他端近傍の所定の第2位置から前記他端側へ移動するに従い前記基準補助トルクの値がより小さくなるよう補正することで補正補助トルクを算出する。ECU40は、ラック6の位置に基づき前記基準補助トルクまたは前記補正補助トルクのいずれかを補助トルクとして決定する。ECU40は、決定した補助トルクに基づきアクチュエータ52の駆動を制御する。
【解決手段】ECU40は、トルクセンサ31により検出した操舵トルクに基づき基準補助トルクを算出する。ECU40は、算出した基準補助トルクをラック6の位置に基づき補正することで補正補助トルクを算出する。具体的には、ECU40は、ラック6が移動可能範囲の一端近傍の所定の第1位置から前記一端側へ移動するに従い、または、ラック6が移動可能範囲の他端近傍の所定の第2位置から前記他端側へ移動するに従い前記基準補助トルクの値がより小さくなるよう補正することで補正補助トルクを算出する。ECU40は、ラック6の位置に基づき前記基準補助トルクまたは前記補正補助トルクのいずれかを補助トルクとして決定する。ECU40は、決定した補助トルクに基づきアクチュエータ52の駆動を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵輪の操舵を制御する操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリング操作を補助する機構として、電動式のアクチュエータでトルクを発生させる電動パワーステアリング(Electric Power Steering)装置が知られている。例えば特許文献1に開示されたパワーステアリング制御装置では、操舵輪を転舵するラックに噛み合うギアを設け、当該ギアを電動アクチュエータにより駆動することで生じる補助トルクによって、乗員による操舵部材の操舵を補助している。このパワーステアリング制御装置では、車速センサにより検出した車両の速度、および、トルクセンサにより検出した操舵トルクに基づき、上述の補助トルクを算出している。ここで、操舵トルクが大きく、かつ、車両の速度が小さいときほど補助トルクが大きくなるよう算出し、低速域での利便性の向上を図っている。一方、操舵トルクが小さく、かつ、車両の速度が大きいときほど補助トルクが小さくなるよう算出し、高速域での走行安定性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−41466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のパワーステアリング制御装置では、乗員の操舵により操舵部材が一方に回転し続けると、操舵輪を転舵させるラックの端部等は、ラックを収容するラックハウジングの内壁等に衝突する。これにより、ラックの長手方向の移動が停止するとともに、操舵部材の回転も停止する。特許文献1のパワーステアリング制御装置では車両の速度が小さい低速域で補助トルクが大きくなるよう算出されるため、特に低速域では、乗員が急なステアリング操作を行った場合など、ラックがラックハウジングに衝突するときのラックの移動速度が大きくなる。衝突のエネルギーは速度の2乗に比例するため、ラックとラックハウジングとの衝突による衝突トルクが大きくなることが懸念される。
【0005】
衝突トルクのピーク値は、通常操舵トルクの10倍以上になる場合もある。そのため、ラックとラックハウジングとの衝突時、操舵力補助機構を構成するギアに過大な衝撃が加わり、ギアが破損するおそれがある。ギアの破損を防ぐには、ラックとラックハウジングとの衝突トルクを考慮し、ギアの安全率を高く設定する必要がある。ギアの安全率を高く設定した場合、パワーステアリング制御装置の体格が大型化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型かつ軽量で構成部材の破損を防止可能な操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、乗員により操舵される操舵部材に連結される入力軸、当該入力軸に接続する出力軸、当該出力軸の回転に伴い長手方向に往復移動するラック、当該ラックの往復移動に伴い転舵する操舵輪、および、ラックを往復移動可能に収容するラックハウジングを有する車両に設けられる操舵制御装置であって、歯車機構と、アクチュエータと、操舵力補助機構と、操舵トルク検出手段と、基準補助トルク算出手段と、補正補助トルク算出手段と、補助トルク決定手段と、駆動制御手段と、を備えている。歯車機構は、出力軸またはラックに噛み合う。アクチュエータは、歯車機構を駆動する。操舵力補助機構は、アクチュエータおよび歯車機構を駆動することで生じる補助トルクにより、乗員による操舵部材の操舵を補助する。操舵トルク検出手段は、乗員による操舵部材の操舵によって入力軸に入力される操舵トルクを検出する。基準補助トルク算出手段は、操舵トルク検出手段により検出した操舵トルクに基づき基準補助トルクを算出する。補正補助トルク算出手段は、基準補助トルク算出手段により算出した基準補助トルクをラックの位置に基づき補正することで補正補助トルクを算出する。補助トルク決定手段は、ラックの位置に基づき前記基準補助トルクまたは前記補正補助トルクのいずれかを補助トルクとして決定する。駆動制御手段は、補助トルク決定手段により決定した補助トルクに基づきアクチュエータの駆動を制御する。
【0008】
そして、本発明では、補正補助トルク算出手段は、ラックが移動可能範囲の一端近傍の所定の第1位置から前記一端側へ移動するに従い、または、ラックが移動可能範囲の他端近傍の所定の第2位置から前記他端側へ移動するに従い前記基準補助トルクの値がより小さくなるよう補正することで補正補助トルクを算出する。ここで、ラックの移動可能範囲は、ラックの往復移動(ストローク)がラックハウジングにより制限される最大の範囲に対応している。よって、上述の移動可能範囲の一端および他端は、ラックの最大ストローク位置に対応する。
補助トルク決定手段は、ラックが前記第1位置と前記第2位置との間に位置するとき、基準補助トルク算出手段により算出した基準補助トルクを補助トルクとして決定する。一方、ラックが前記第1位置から前記一端までの間、または、前記第2位置から前記他端までの間に位置するとき、補正補助トルク算出手段により算出した補正補助トルクを補助トルクとして決定する。
【0009】
上記構成により、ラックが移動可能範囲の一端または他端近傍に位置するとき、乗員による操舵部材の操舵に伴いラックが移動可能範囲の一端または他端に近づくほど、すなわち、ラックが最大ストローク位置に近づくほど、補助トルクが小さくなるよう補正される。これにより、ラックがラックハウジングに衝突するときのラックの移動速度が小さくなる。その結果、ラックとラックハウジングとの衝突による衝突トルクを低減することができる。したがって、歯車機構の許容トルクを小さく設定することができ、歯車機構を小型にすることができる。よって、操舵制御装置の体格を小型かつ軽量にできるとともに製造コストを低減することができる。また、ラックとラックハウジングとの衝突トルクを低減することにより歯車機構の破損を防止することができ、その結果、操舵制御装置の信頼性を向上することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、操舵角検出手段と、ラック位置推定手段と、をさらに備えている。操舵角検出手段は、入力軸の回転角度である操舵角を検出する。ラック位置推定手段は、操舵角検出手段により検出した操舵角に基づきラックの位置を推定する。
そして、本発明では、補正補助トルク算出手段は、ラック位置推定手段により推定したラックの位置に基づき基準補助トルクを補正する。また、補助トルク決定手段は、ラック位置推定手段により推定したラックの位置に基づき補助トルクを決定する。このように、本発明では、例えばラックの位置を実際に検出する検出手段を用いることなく、ラック位置推定手段によりラックの位置を推定し、補正補助トルク算出手段により基準補助トルクを補正する。よって、部材点数を低減することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、ラックの位置を検出するラック位置検出手段をさらに備えている。そして、補正補助トルク算出手段は、ラック位置検出手段により検出したラックの位置に基づき基準補助トルクを補正する。また、補助トルク決定手段は、ラック位置検出手段により検出したラックの位置に基づき補助トルクを決定する。このように、本発明では、ラックの位置を実際に検出するラック位置検出手段を用いることで、ラックの位置を正確に検出することができる。よって、補正補助トルク算出手段による基準補助トルクの補正の精度を高めることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、操舵角検出手段と、操舵角速度算出手段と、をさらに備えている。操舵角検出手段は、入力軸の回転角度である操舵角を検出する。操舵角速度算出手段は、操舵角検出手段により検出した操舵角に基づき入力軸の角速度である操舵角速度を算出する。
そして、本発明では、補正補助トルク算出手段は、ラックの位置と操舵角速度算出手段により算出した操舵角速度とに基づき基準補助トルクを補正する。また、補助トルク決定手段は、ラックの位置と操舵角速度算出手段により算出した操舵角速度とに基づき補助トルクを決定する。
【0013】
本発明では、例えば操舵角速度が大きいとき補助トルクを補正する程度を大きくし、操舵角速度が小さいとき補助トルクを補正する程度を小さくする等、操舵角速度に応じて補助トルクを補正するといったことができる。これにより、ラックとラックハウジングとの衝突トルクを効果的に低減することができるとともに、最大ストローク位置近傍で補助トルクが小さくなるよう補正する本発明において、当該補正によって乗員に与えられる違和感を低減することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、車両の速度を検出する速度検出手段をさらに備えている。そして、補正補助トルク算出手段は、ラックの位置と速度検出手段により検出した車両の速度とに基づき基準補助トルクを補正する。また、補助トルク決定手段は、ラックの位置と速度検出手段により検出した車両の速度とに基づき補助トルクを決定する。
本発明では、例えば車両の速度が大きいときは補正補助トルク算出手段による補正補助トルクの算出を行わず、車両の速度が小さいときのみ補正補助トルク算出手段による補正補助トルクの算出を行うといったことができる。これにより、実際のドライビングシーンにおいて、急なステアリング操作によるラックとラックハウジングとの衝突が生じる可能性の高い低速走行時のみ、補助トルクを補正するといった対応をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態による操舵制御装置の概略を示す模式図。
【図2】本発明の第1実施形態による操舵制御装置の操舵に関する処理を示すフロー図。
【図3】本発明の第1実施形態による操舵制御装置の補正補助トルク算出手段が補正補助トルクを算出するときに用いる補正係数を示す図。
【図4】本発明の第1実施形態による操舵制御装置に作用する衝突トルク、および、比較例による操舵制御装置に作用する衝突トルクを示す図。
【図5】本発明の第2実施形態による操舵制御装置の概略を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態による操舵制御装置の操舵に関する処理を示すフロー図。
【図7】本発明の第3実施形態による操舵制御装置の概略を示す模式図。
【図8】本発明の第3実施形態による操舵制御装置の操舵に関する処理を示すフロー図。
【図9】本発明の第3実施形態による操舵制御装置の補正補助トルク算出手段が補正補助トルクを算出するときに用いる補正係数を示す図。
【図10】本発明の第4実施形態による操舵制御装置の概略を示す模式図。
【図11】本発明の第4実施形態による操舵制御装置の操舵に関する処理を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の複数の実施形態による操舵制御装置を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において、実質的に同一の構成部位または構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による操舵制御装置を図1に示す。操舵制御装置10は、車両1に適用され、乗員による車両1の操舵に関する制御を行う。
【0017】
車両1は、操舵部材2、入力軸3、出力軸4、ラック6、操舵輪7およびラックハウジング8等を有している。入力軸3は、乗員により操舵される操舵部材2に連結される。ここで、操舵部材2が操舵により回転するときの入力軸3の回転角度を操舵角という。
出力軸4は、図示しないトーションバーにより入力軸3に接続している。ここで、入力軸3と出力軸4とは、コラム軸を構成している。出力軸4の端部には、ラック6に噛み合うステアリングピニオン5が設けられている。これにより、ラック6は、出力軸4の回転に伴い長手方向に往復移動する。すなわち、ラック6とステアリングピニオン5とは、ラックアンドピニオン機構を構成している。ラック6の両端には、操舵輪7が設けられている。これにより、操舵輪7は、ラック6の往復移動に伴い転舵する。ここで、操舵輪7が転舵するときの出力軸4の回転角度を転舵角という。
【0018】
ラックハウジング8は、ラック6を往復移動可能に収容する。本実施形態では、ラック6は、端部がラックハウジング8の内壁に当接することにより、長手方向の往復移動、すなわちストロークが規制される。つまり、ラック6は、ラックハウジング8内において、所定の範囲(移動可能範囲)で往復移動可能である。
【0019】
本実施形態の操舵制御装置10が適用される車両1では、出力軸4の端部に設けられたステアリングピニオン5は、ラック6の、車両1の前方側に噛み合うよう設けられている。また、ラック6は、操舵輪7の回転中心よりも車両1の後方側で操舵輪7に接続するよう設けられている。そのため、乗員が操舵部材2(入力軸3)を時計回り方向(右方向)に回転させる(操舵する)と出力軸4も時計回り方向(右方向)に回転し、ラック6は、車両1の前方に向かって左方向へ移動する。これにより、車両1が右方向へ進行するよう操舵輪7の舵角が変更される(操舵輪7が右方向に転舵する)。一方、乗員が操舵部材2(入力軸3)を反時計回り方向(左方向)に回転させると出力軸4も反時計回り方向(左方向)に回転し、ラック6は、車両1の前方に向かって右方向へ移動する。これにより、車両1が左方向へ進行するよう操舵輪7の舵角が変更される(操舵輪7が左方向に転舵する)。
【0020】
操舵制御装置10は、歯車機構51、アクチュエータ52、操舵力補助機構50、操舵トルク検出手段としてのトルクセンサ31、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)40等を備えている。
歯車機構51は、本実施形態では、出力軸4に設けられている。歯車機構51は、出力軸4に噛み合うギアを有している。
【0021】
アクチュエータ52は、本実施形態では、電動モータである。アクチュエータ52は、歯車機構51のギアの外縁端に形成された外歯に噛み合うウォームギアを有している。アクチュエータ52は、当該ウォームギアを回転させるよう駆動することにより歯車機構51のギアを回転駆動させることができる。
【0022】
アクチュエータ52の駆動により歯車機構51のギアが回転すると、当該回転により生じるトルクが出力軸4に付加される。乗員の操舵による操舵部材2の回転に伴う出力軸4の回転方向と同じ方向に、歯車機構51を経由してアクチュエータ52からトルクを付加することで、乗員による操舵部材2の操舵の補助をすることができる。すなわち、アクチュエータ52および歯車機構51の駆動により出力軸4に付加されるトルクは、乗員から操舵部材2に入力される操舵力(操舵トルク)の補助トルクとなる。
【0023】
このように、本実施形態では、歯車機構51とアクチュエータ52とにより操舵力補助機構50が構成されている。操舵力補助機構50は、アクチュエータ52および歯車機構51を駆動することで生じる補助トルクにより、乗員による操舵部材2の操舵を補助する。本実施形態では、操舵力補助機構50は、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置の一部を構成している。
【0024】
トルクセンサ31は、入力軸3と出力軸4との間に設けられ、乗員による操舵部材2の操舵によって入力軸3に入力される操舵トルクを検出する。より具体的には、トルクセンサ31は、入力軸3と出力軸4とを接続するトーションバーの捩れ角を測定することにより操舵トルクを検出する。
【0025】
ECU40は、演算手段としてのCPU、ならびに、記憶手段としてのRAMおよびROM等を有するマイクロコンピュータ等から構成されている。ECU40は、操舵制御装置10が適用される車両1に搭載された種々の装置および機器類を制御するために設けられている。ECU40には、上述のトルクセンサ31をはじめ車両1の各部に設けられている種々のセンサから出力される信号が入力される。ECU40は、これら入力された種々の信号に基づきROMに格納されている所定の制御プログラムにしたがって車両1に搭載された種々の装置および機器類を制御する。
トルクセンサ31は、検出した操舵トルクに関する信号をECU40に出力する。
【0026】
ECU40は、アクチュエータ52にも接続されている。ECU40は、アクチュエータ52に供給する電力を調整することでアクチュエータ52の回転駆動を制御可能である。ECU40は、アクチュエータ52の回転駆動を制御することで歯車機構51の駆動を制御可能である。これにより、ECU40は、上述の補助トルクが任意の値になるようアクチュエータ52の駆動を制御することができる。
【0027】
本実施形態では、車両1には、上述したものの他、操舵角検出手段としての操舵角センサ32が設けられている。
操舵角センサ32は、入力軸3に設けられ、入力軸3の回転角度すなわち操舵角を検出する。操舵角センサ32は、検出した操舵角に関する信号をECU40に出力する。
【0028】
次に、本実施形態による操舵制御装置10の作動について図2に基づき説明する。
図2は、ECU40による操舵に関する処理フローを示したものである。図2に示す一連の処理(S100)は、例えば乗員が車両1のイグニッションキーをオンにすることを切っ掛けとして開始される。
【0029】
S101では、ECU40は、各センサから各種信号(情報)を取得する。ECU40は、トルクセンサ31が検出した操舵トルクTinを取得する。また、ECU40は、操舵角センサ32が検出した入力軸3の回転角度すなわち操舵角θinを取得する。
S101の後、処理はS102に移行する。
【0030】
S102では、ECU40は、ラック6の位置を推定する。具体的には、ECU40は、S101で取得した操舵角θinに基づきラック6の位置を推定する。すなわち、ECU40は、θinを変数とする関数(下記式1)に基づきラック6の位置ηを算出することにより、この時点(S102)でのラック6の位置を推定する。
η=F(θin) ・・・式1
【0031】
ここで、ηは、−100から100(%)までの値である。操舵部材2、入力軸3、出力軸4および操舵輪7が中立位置のときのラック6の位置ηを0(%)とする。つまり、ηが0のとき、ラック6は、移動可能範囲の中央に位置していることを意味する。
【0032】
操舵部材2を回転方向の一方(例えば時計回り方向)に回転させ続けると、ラック6は長手方向の一方に移動し、ラック6の端部がラックハウジング8の内壁に当接する。これにより、ラック6の長手方向の移動、すなわちストロークが規制される。このときのラック6の位置ηを100(%)とする。つまり、ηが100のとき、ラック6は、移動可能範囲の一端、すなわち最大ストローク位置に位置していることを意味する。
【0033】
操舵部材2を回転方向の他方(例えば反時計回り方向)に回転させ続けると、ラック6は長手方向の他方に移動し、ラック6の端部がラックハウジング8の内壁に当接する。これにより、ラック6の長手方向の移動、すなわちストロークが規制される。このときのラック6の位置ηを−100(%)とする。つまり、ηが−100のとき、ラック6は、移動可能範囲の他端、すなわち最大ストローク位置に位置していることを意味する。
S102の後、処理はS103へ移行する。
【0034】
S103では、ECU40は、ラック位置ηが第1閾値と第2閾値との間か否かを判定する。本実施形態では、第1閾値を90とし、第2閾値を−90とする。つまり、第1閾値は、ラック6の移動可能範囲の一端近傍の位置、すなわち、特許請求の範囲における「第1位置」に対応している。一方、第2閾値は、ラック6の移動可能範囲の他端近傍の位置、すなわち、特許請求の範囲における「第2位置」に対応している。
【0035】
ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間であると判定した場合、すなわち、−90<η<90であると判定した場合(S103:YES)、処理はS104へ移行する。一方、ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間ではないと判定した場合、すなわち、η≦−90または90≦ηであると判定した場合(S103:NO)、処理はS111へ移行する。
【0036】
S104では、ECU40は、基準補助トルクを算出する。本実施形態では、S101で取得した操舵トルクTinに基づき基準補助トルクを算出する。基準補助トルクは、Tinを変数とする関数(下記式2)により算出される。
T(Tin) ・・・式2
そして、ECU40は、算出した基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asに代入する。すなわち、基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S104の後、処理はS105へ移行する。
【0037】
S111では、ECU40は、補正補助トルクを算出する。本実施形態では、ラック6の位置、すなわち、S102で推定したラック6の位置ηに基づき基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する。具体的には、ラック6の位置ηに基づき算出される補正係数k(η)を、基準補助トルクT(Tin)に乗ずることにより、補正補助トルクを算出する。
【0038】
補正係数k(η)は1以下の値である。補正係数k(η)とラック位置ηとの関係は図3に示すとおりである。図3に示すように、補正係数k(η)は、−90<η<90のとき、1である。補正係数k(η)は、90≦η≦100のとき、ηが90から100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。また、補正係数k(η)は、−100≦η≦−90のとき、ηが−90から−100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。なお、ηが100または−100のとき、補正係数k(η)は0となる。
【0039】
また、図3に示すように、本実施形態では、補正係数k(η)は、ηが90から95まで変化するとき、または、ηが−90から−95まで変化するとき、曲線的に徐々に小さくなる。また、補正係数k(η)は、ηが95から100まで変化するとき、または、ηが−95から−100まで変化するとき、直線的に徐々に小さくなる。
基準補助トルクT(Tin)の算出方法は、S104の処理の説明で示した方法と同様のため、説明を省略する。
【0040】
補正補助トルクは、下記式3により算出される。
k(η)・T(Tin) ・・・式3
つまり、補正補助トルクk(η)・T(Tin)は、ラック6が第1位置(90%)から一端(100%)側へ移動するに従い、または、ラック6が第2位置(−90%)から他端(−100%)側へ移動するに従い、より小さくなるよう算出される。
そして、ECU40は、算出した補正補助トルクk(η)・T(Tin)を補助トルクT_asに代入する。すなわち、補正補助トルクk(η)・T(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S111の後、処理はS105へ移行する。
【0041】
S105では、ECU40は、S104またはS111で決定した補助トルクT_asを補助トルクとして設定し、当該補助トルクが出力軸4に付加されるようアクチュエータ52の駆動を制御する。これにより、出力軸4には、操舵トルクTinに加え補助トルクT_asが作用する。すなわち、出力軸4には、操舵トルクTinと補助トルクT_asとの和である転舵トルクToutが作用する。その結果、出力軸4が回転しラック6が長手方向に移動することにより操舵輪7が転舵する。
【0042】
S105の後、処理は図2の一連の処理(S100)を抜ける。そして、イグニッションキーがオンの状態であれば、再び図2の一連の処理を開始する。すなわち、図2に示す一連の処理(S100)は、イグニッションキーがオンの状態のとき、繰り返し実行される処理である。
【0043】
上述のように、ECU40は、S102において、特許請求の範囲の「ラック位置推定手段」として機能する。
また、ECU40は、S103とS104、および、S103とS111において、特許請求の範囲の「補助トルク決定手段」として機能する。
また、ECU40は、S104およびS111において、特許請求の範囲の「基準補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S111において、特許請求の範囲の「補正補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S105において、特許請求の範囲の「駆動制御手段」として機能する。
このように、本実施形態では、ECU40は、機能的な構成として、ラック位置推定手段、補助トルク決定手段、基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段および駆動制御手段を有している。
【0044】
本実施形態では、上述の処理(S100)を行うことにより、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度を低減することができる。そのため、ラック6とラックハウジング8との衝突エネルギーを低減することができる。その結果、ラック6とラックハウジング8とが衝突するとき、歯車機構51を構成するギアに反作用で加わるトルク(衝突トルク:T_gear)を低減することができる。以下、この効果を、比較例との対比により具体的に説明する(図4参照)。
【0045】
図4の実線は、上述の一連の処理(S100)を行う本実施形態の操舵制御装置10を適用した車両1が停止(車速v=0)している状態で操舵部材2を回転方向の一方に回転させ続けたとき(据え切り時)の、時間の経過に伴うT_gearの変化を示している。一方、図4の破線は、比較例による操舵制御装置を適用した車両1が停止している状態で操舵部材2を回転方向の一方に回転させ続けたときの、時間の経過に伴うT_gearの変化を示している。ここで、比較例による操舵制御装置は、物理的な構成は操舵制御装置10と同様であって、操舵に関する処理として、上述の処理(S100)からS102、S103、S111を除いた処理を行うものとする。すなわち、比較例では、基準補助トルクの補正は行わない。
【0046】
図4に示すように、比較例の場合、時刻t1でラック6がラックハウジング8に衝突すると、歯車機構51のギアに大きな衝突トルクT_gearが加わる(衝突トルクT_gearのピーク値が大きい)ことがわかる。一方、本実施形態の操舵制御装置10の場合、時刻t1でラック6がラックハウジング8に衝突しても、歯車機構51のギアに加わる衝突トルクT_gearのピーク値は小さいことがわかる。このように、本実施形態では、比較例と比べ、ラック6とラックハウジング8とが衝突したときに生じる衝突トルクのピーク値を大幅に低減することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック6が移動可能範囲の一端(100%)近傍の所定の第1位置(90%)から前記一端側へ移動するに従い、または、ラック6が移動可能範囲の他端(−100)近傍の所定の第2位置(−90)から前記他端側へ移動するに従い前記基準補助トルクの値がより小さくなるよう補正することで補正補助トルクを算出する。
【0048】
ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック6が前記第1位置と前記第2位置との間に位置するとき、基準補助トルク算出手段により算出した基準補助トルクを補助トルクとして決定する。一方、ラック6が前記第1位置から前記一端までの間、または、前記第2位置から前記他端までの間に位置するとき、補正補助トルク算出手段により算出した補正補助トルクを補助トルクとして決定する。
【0049】
上記構成により、ラック6が移動可能範囲の一端または他端近傍に位置するとき、乗員による操舵部材2の操舵に伴いラック6が移動可能範囲の一端または他端に近づくほど、すなわち、ラック6が最大ストローク位置に近づくほど、補助トルクが小さくなるよう補正される。これにより、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度が小さくなる。その結果、ラック6とラックハウジング8との衝突による衝突トルクを低減することができる。したがって、歯車機構51の許容トルクを小さく設定することができ、歯車機構51を小型にすることができる。よって、操舵制御装置10の体格を小型かつ軽量にできるとともに製造コストを低減することができる。また、ラック6とラックハウジング8との衝突トルクを低減することにより歯車機構51の破損を防止することができ、その結果、操舵制御装置10の信頼性を向上することができる。
【0050】
また、本実施形態は、操舵角センサ32およびラック位置推定手段をさらに備えている。操舵角センサ32は、入力軸3の回転角度である操舵角を検出する。ECU40(ラック位置推定手段)は、操舵角センサ32により検出した操舵角に基づきラック6の位置を推定する。
【0051】
そして、本実施形態では、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック位置推定手段により推定したラック6の位置に基づき基準補助トルクを補正する。また、ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック位置推定手段により推定したラック6の位置に基づき補助トルクを決定する。このように、本実施形態では、例えばラック6の位置を実際に検出する検出手段を用いることなく、SCU40(ラック位置推定手段)によりラック6の位置を推定し、補正補助トルク算出手段により基準補助トルクを補正する。よって、部材点数を低減することができる。
【0052】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による操舵制御装置を図5に示す。第2実施形態は、物理的な構成が異なる点、および、操舵に関する処理が一部異なる点で、第1実施形態と異なる。
【0053】
第2実施形態は、第1実施形態と比べ、操舵角センサ32を備えず、ラック位置検出手段としてのラック位置センサ33をさらに備えている。ラック位置センサ33は、ラックハウジング8に設けられ、ラック6の位置を検出する。ラック位置センサ33は、検出したラック6の位置に関する信号をECU40に出力する。ここで、ラック位置センサ33が出力する信号(η)は、−100から100(%)までの値に対応している。
操舵部材2、入力軸3、出力軸4および操舵輪7が中立位置のとき、ラック位置センサ33が出力する信号(η)は0(%)である。つまり、ηが0のとき、ラック6は、移動可能範囲の中央に位置している。
【0054】
操舵部材2を回転方向の一方(例えば時計回り方向)に回転させ続け、ラック6の端部がラックハウジング8の内壁に当接したとき、ラック位置センサ33が出力する信号(η)は100(%)である。つまり、ηが100のとき、ラック6は、移動可能範囲の一端、すなわち最大ストローク位置に位置している。
【0055】
操舵部材2を回転方向の他方(例えば反時計回り方向)に回転させ続け、ラック6の端部がラックハウジング8の内壁に当接したとき、ラック位置センサ33が出力する信号(η)は−100(%)である。つまり、ηが−100のとき、ラック6は、移動可能範囲の他端、すなわち最大ストローク位置に位置している。
【0056】
次に、第2実施形態による操舵制御装置の作動について図6に基づき説明する。
図6は、ECU40による操舵に関する処理フローを示したものである。図6に示す一連の処理(S200)は、例えば乗員が車両1のイグニッションキーをオンにすることを切っ掛けとして開始される。
【0057】
S201では、ECU40は、各センサから各種信号(情報)を取得する。ECU40は、トルクセンサ31が検出した操舵トルクTinを取得する。また、ECU40は、ラック位置センサ33が検出したラック位置ηを取得する。
S201の後、処理はS202に移行する。
【0058】
S202では、ECU40は、S201で取得したラック位置ηが第1閾値と第2閾値との間か否かを判定する。本実施形態では、第1実施形態のS103での処理と同様、第1閾値を90とし、第2閾値を−90とする。なお、第1実施形態のS103での処理とS202での処理との異なる点は、S103ではECU40(ラック位置推定手段)により推定したラック位置ηを用いるのに対し、S202ではラック位置センサ33により検出したラック位置ηを用いる点である。
【0059】
ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間であると判定した場合、すなわち、−90<η<90であると判定した場合(S202:YES)、処理はS203へ移行する。一方、ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間ではないと判定した場合、すなわち、η≦−90または90≦ηであると判定した場合(S202:NO)、処理はS211へ移行する。
【0060】
S203では、ECU40は、基準補助トルクを算出する。本実施形態では、S201で取得した操舵トルクTinに基づき基準補助トルクを算出する。具体的な基準補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS104での処理と同様のため、説明を省略する。
ECU40は、算出した基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S203の後、処理はS204へ移行する。
【0061】
S211では、ECU40は、補正補助トルクを算出する。本実施形態では、ラック6の位置、すなわち、S201で取得したラック位置ηに基づき基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する。具体的な補正補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS111での処理と同様のため、説明を省略する。なお、第1実施形態のS111での処理とS211での処理との異なる点は、S111ではECU40(ラック位置推定手段)により推定したラック位置ηを用いるのに対し、S211ではラック位置センサ33により検出したラック位置ηを用いる点である。
ECU40は、算出した補正補助トルクk(η)・T(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S211の後、処理はS204へ移行する。
【0062】
S204では、ECU40は、S203またはS211で決定した補助トルクT_asを補助トルクとして設定し、当該補助トルクとなるよう操舵力補助機構50のアクチュエータ52の駆動を制御する。
S204の後、処理は図6の一連の処理(S200)を抜ける。そして、イグニッションキーがオンの状態であれば、再び図6の一連の処理を開始する。すなわち、図6に示す一連の処理(S200)は、イグニッションキーがオンの状態のとき、繰り返し実行される処理である。
【0063】
上述のように、ECU40は、S202とS203、および、S202とS211において、特許請求の範囲の「補助トルク決定手段」として機能する。
また、ECU40は、S203およびS211において、特許請求の範囲の「基準補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S211において、特許請求の範囲の「補正補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S204において、特許請求の範囲の「駆動制御手段」として機能する。
このように、本実施形態では、ECU40は、機能的な構成として、補助トルク決定手段、基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段および駆動制御手段を有している。
【0064】
第2実施形態では、上述の処理(S200)を行うことにより、第1実施形態と同様、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度を低減することができる。そのため、ラック6とラックハウジング8との衝突エネルギーを低減することができる。その結果、ラック6とラックハウジング8とが衝突するとき、歯車機構51を構成するギアに反作用で加わるトルク(衝突トルク:T_gear)を低減することができる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態では、ラック6の位置を検出するラック位置センサ33をさらに備えている。そして、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック位置センサ33により検出したラック6の位置に基づき基準補助トルクを補正する。また、ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック位置センサ33により検出したラック6の位置に基づき補助トルクを決定する。このように、本実施形態では、ラック6の位置を実際に検出するラック位置センサ33を用いることで、ラック6の位置を正確に検出することができる。よって、ECU40(補正補助トルク算出手段)による基準補助トルクの補正の精度を高めることができる。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による操舵制御装置を図7に示す。第3実施形態は、物理的な構成は第1実施形態と同じであるものの、操舵に関する処理が第1実施形態と一部異なる。
第3実施形態の物理的な構成は、第1実施形態と同じのため、説明を省略する。
以下、第3実施形態による操舵制御装置の作動について図8に基づき説明する。
図8は、ECU40による操舵に関する処理フローを示したものである。図8に示す一連の処理(S300)は、例えば乗員が車両1のイグニッションキーをオンにすることを切っ掛けとして開始される。
【0067】
S301では、ECU40は、各センサから各種信号(情報)を取得する。ECU40は、トルクセンサ31が検出した操舵トルクTinを取得する。また、ECU40は、操舵角センサ32が検出した入力軸3の回転角度すなわち操舵角θinを取得する。
S301の後、処理はS302に移行する。
【0068】
S302では、ECU40は、入力軸3の角速度である操舵角速度を算出する。具体的には、ECU40は、S301で取得した操舵角θinに基づき操舵角速度を算出する。すなわち、ECU40は、下記式4のように操舵角θinを時間微分することにより操舵角速度ωを算出する。
ω=dθin/dt ・・・式4
S302の後、処理はS303へ移行する。
【0069】
S303では、ECU40は、ラック6の位置を推定する。具体的には、ECU40は、S301で取得した操舵角θinに基づきラック6の位置を推定する。より具体的なラック6の位置の推定の方法は、第1実施形態のS102での処理と同様のため、説明を省略する。
S303の後、処理はS304へ移行する。
【0070】
S304では、ECU40は、ラック位置ηが第1閾値と第2閾値との間か否かを判定する。本実施形態では、第1実施形態のS103での処理と同様、第1閾値を90とし、第2閾値を−90とする。
ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間であると判定した場合、すなわち、−90<η<90であると判定した場合(S304:YES)、処理はS305へ移行する。一方、ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間ではないと判定した場合、すなわち、η≦−90または90≦ηであると判定した場合(S304:NO)、処理はS311へ移行する。
【0071】
S305では、ECU40は、基準補助トルクを算出する。本実施形態では、S301で取得した操舵トルクTinに基づき基準補助トルクを算出する。具体的な基準補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS104での処理と同様のため、説明を省略する。
ECU40は、算出した基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S305の後、処理はS306へ移行する。
【0072】
S311では、ECU40は、補正補助トルクを算出する。本実施形態では、ラック6の位置、すなわち、S303で推定したラック6の位置ηと、S302で算出した操舵角速度ωと、に基づき基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する。具体的には、ラック6の位置ηと操舵角速度ωとに基づき算出される補正係数k(η,ω)を、基準補助トルクT(Tin)に乗ずることにより、補正補助トルクを算出する。
【0073】
補正係数k(η,ω)は1以下の値である。補正係数k(η,ω)とラック位置ηとの関係は図9に示すとおりである。なお、図9では、ωがω1、ω2またはω3のときの補正係数k(η,ω)とラック位置ηとの関係を示している。ここで、ω1、ω2およびω3は、それぞれ所定の範囲内の値であり、ω1<ω2<ω3の関係を満たす値である。本実施形態では、ωがω1のとき、操舵部材2の回転速度、すなわち、ステアリングの回転速度域が低速域であることを意味する。また、ωがω2のとき、ステアリングの回転速度域が中速域であることを意味する。また、ωがω3のとき、ステアリングの回転速度域が高速域であることを意味する。
【0074】
図9に示すように、補正係数k(η,ω1)は、−90<η<90のとき、1である。補正係数k(η,ω1)は、90≦η≦100のとき、ηが90から100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω1)は、−100≦η≦−90のとき、ηが−90から−100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。なお、ηが100または−100のとき、補正係数k(η,ω1)は0となる。また、ωがω1のとき、第1位置および第1閾値は90、第2位置および第2閾値は−90である。
【0075】
また、図9に示すように、本実施形態では、補正係数k(η,ω1)は、ηが90から95まで変化するとき、または、ηが−90から−95まで変化するとき、曲線的に徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω1)は、ηが95から100まで変化するとき、または、ηが−95から−100まで変化するとき、直線的に徐々に小さくなる。
【0076】
補正係数k(η,ω2)は、−85<η<85のとき、1である。補正係数k(η,ω2)は、85≦η≦100のとき、ηが85から100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω2)は、−100≦η≦−85のとき、ηが−85から−100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。なお、ηが100または−100のとき、補正係数k(η,ω2)は0となる。また、ωがω2のとき、第1位置および第1閾値は85、第2位置および第2閾値は−85である。
【0077】
また、図9に示すように、本実施形態では、補正係数k(η,ω2)は、ηが85から95まで変化するとき、または、ηが−85から−95まで変化するとき、曲線的に徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω2)は、ηが95から100まで変化するとき、または、ηが−95から−100まで変化するとき、直線的に徐々に小さくなる。
【0078】
補正係数k(η,ω3)は、−80<η<80のとき、1である。補正係数k(η,ω3)は、80≦η≦100のとき、ηが80から100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω3)は、−100≦η≦−80のとき、ηが−80から−100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。なお、ηが100または−100のとき、補正係数k(η,ω3)は0となる。また、ωがω3のとき、第1位置および第1閾値は80、第2位置および第2閾値は−80である。
【0079】
また、図9に示すように、本実施形態では、補正係数k(η,ω3)は、ηが80から90まで変化するとき、または、ηが−80から−90まで変化するとき、曲線的に徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω3)は、ηが90から100まで変化するとき、または、ηが−90から−100まで変化するとき、直線的に徐々に小さくなる。
【0080】
上述のように、ωがω2またはω3のとき、すなわち、ステアリングの回転速度域が中速域または高速域のとき、第1位置および第1閾値が90から85または80に変更され、第2位置および第2閾値が−90から−85または−80に変更される。第1閾値および第2閾値の変更は、S304でのECU40による判断に影響する。実際には、S304では、S302で算出した操舵角速度ωがω1のとき第1閾値を90、第2閾値を−90とし、S302で算出した操舵角速度ωがω2のとき第1閾値を85、第2閾値を−85とし、S302で算出した操舵角速度ωがω3のとき第1閾値を80、第2閾値を−80として、判断を行う。
基準補助トルクT(Tin)の算出方法は、S305の処理の説明で示した方法と同様のため、説明を省略する。
【0081】
補正補助トルクは、下記式5により算出される。
k(η,ω)・T(Tin) ・・・式5
つまり、補正補助トルクk(η,ω)・T(Tin)は、ラック6が第1位置(90%、85%または80%)から一端(100%)側へ移動するに従い、または、ラック6が第2位置(−90%、−85%または−80%)から他端(−100%)側へ移動するに従い、より小さくなるよう算出される。
そして、ECU40は、算出した補正補助トルクk(η,ω)・T(Tin)を補助トルクT_asに代入する。すなわち、補正補助トルクk(η,ω)・T(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S311の後、処理はS306へ移行する。
【0082】
S306では、ECU40は、S305またはS311で決定した補助トルクT_asを補助トルクとして設定し、当該補助トルクとなるよう操舵力補助機構50のアクチュエータ52の駆動を制御する。
S306の後、処理は図8の一連の処理(S300)を抜ける。そして、イグニッションキーがオンの状態であれば、再び図8の一連の処理を開始する。すなわち、図8に示す一連の処理(S300)は、イグニッションキーがオンの状態のとき、繰り返し実行される処理である。
【0083】
上述のように、ECU40は、S302において、特許請求の範囲の「操舵角速度算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S303において、特許請求の範囲の「ラック位置推定手段」として機能する。
また、ECU40は、S304とS305、および、S304とS311において、特許請求の範囲の「補助トルク決定手段」として機能する。
また、ECU40は、S305およびS311において、特許請求の範囲の「基準補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S311において、特許請求の範囲の「補正補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S306において、特許請求の範囲の「駆動制御手段」として機能する。
このように、本実施形態では、ECU40は、機能的な構成として、操舵角速度算出手段、ラック位置推定手段、補助トルク決定手段、基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段および駆動制御手段を有している。
【0084】
第3実施形態では、上述の処理(S300)を行うことにより、第1実施形態と同様、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度を低減することができる。そのため、ラック6とラックハウジング8との衝突エネルギーを低減することができる。その結果、ラック6とラックハウジング8とが衝突するとき、歯車機構51を構成するギアに反作用で加わるトルク(衝突トルク:T_gear)を低減することができる。
【0085】
なお、ECU40は、S302で算出した操舵角速度ω(ω1<ω2<ω3の関係を満たすω1、ω2またはω3)に基づき、S311で補正係数k(η,ω)を選択し、基準補助トルクT(Tin)を補正している。これにより、操舵角速度ωが大きいとき(例えばω=ω3のとき)補助トルクを補正する程度を大きくし、操舵角速度ωが小さいとき(例えばω=ω1のとき)補助トルクを補正する程度を小さくする等、操舵角速度に応じてマップ的に補助トルクを補正する。
以上説明したように、本実施形態は、操舵角センサ32により検出した操舵角に基づき入力軸3の角速度である操舵角速度を算出する操舵角速度算出手段をさらに備えている。
【0086】
そして、本実施形態では、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック6の位置と操舵角速度算出手段により算出した操舵角速度とに基づき基準補助トルクを補正する。また、ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック6の位置と操舵角速度算出手段により算出した操舵角速度とに基づき補助トルクを決定する。
【0087】
本実施形態では、操舵角速度が大きいとき補助トルクを補正する程度を大きくし、操舵角速度が小さいとき補助トルクを補正する程度を小さくする等、操舵角速度に応じて補助トルクを補正する。これにより、ラック6とラックハウジング8との衝突トルクを効果的に低減することができるとともに、最大ストローク位置近傍で補助トルクが小さくなるよう補正する本実施形態において、当該補正によって乗員に与えられる違和感を低減することができる。
【0088】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による操舵制御装置を図10に示す。第4実施形態は、物理的な構成が異なる点、および、操舵に関する処理が一部異なる点で、第1実施形態と異なる。
【0089】
第4実施形態は、速度検出手段としての車速センサ34をさらに備えている。車速センサ34は、車両1に設けられ、車両1の速度すなわち車速を検出する。車速センサ34は、検出した車速に関する信号をECU40に出力する。
【0090】
次に、第4実施形態による操舵制御装置の作動について図11に基づき説明する。
図11は、ECU40による操舵に関する処理フローを示したものである。図11に示す一連の処理(S400)は、例えば乗員が車両1のイグニッションキーをオンにすることを切っ掛けとして開始される。
【0091】
S401では、ECU40は、各センサから各種信号(情報)を取得する。ECU40は、トルクセンサ31が検出した操舵トルクTinを取得する。ECU40は、操舵角センサ32が検出した入力軸3の回転角度すなわち操舵角θinを取得する。また、ECU40は、車速センサ34が検出した車速vを取得する。
S401の後、処理はS402に移行する。
【0092】
S402では、ECU40は、S401で取得した車速vの値が所定の閾値より大きいか否かを判定する。本実施形態では、当該所定の閾値として、比較的小さな値が設定されている。車速vの値は所定の閾値より大きいと判定した場合(S402:YES)、処理はS403へ移行する。一方、車速vの値は所定の閾値より大きくない、すなわち、車速vの値は所定の閾値以下であると判定した場合(S402:NO)、処理はS411へ移行する。
【0093】
S411では、ECU40は、ラック6の位置を推定する。具体的には、ECU40は、S401で取得した操舵角θinに基づきラック6の位置を推定する。より具体的なラック6の位置の推定の方法は、第1実施形態のS102での処理と同様のため、説明を省略する。
S411の後、処理はS412へ移行する。
【0094】
S412では、ECU40は、ラック位置ηが第1閾値と第2閾値との間か否かを判定する。本実施形態では、第1実施形態のS103での処理と同様、第1閾値を90とし、第2閾値を−90とする。
ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間であると判定した場合、すなわち、−90<η<90であると判定した場合(S412:YES)、処理はS403へ移行する。一方、ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間ではないと判定した場合、すなわち、η≦−90または90≦ηであると判定した場合(S412:NO)、処理はS421へ移行する。
【0095】
S403では、ECU40は、基準補助トルクを算出する。本実施形態では、S401で取得した操舵トルクTinに基づき基準補助トルクを算出する。具体的な基準補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS104での処理と同様のため、説明を省略する。
ECU40は、算出した基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S403の後、処理はS404へ移行する。
【0096】
S421では、ECU40は、補正補助トルクを算出する。本実施形態では、ラック6の位置、すなわち、S411で推定したラック位置ηに基づき基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する。具体的な補正補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS111での処理と同様のため、説明を省略する。
ECU40は、算出した補正補助トルクk(η)・T(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S421の後、処理はS404へ移行する。
【0097】
S404では、ECU40は、S403またはS421で決定した補助トルクT_asを補助トルクとして設定し、当該補助トルクとなるよう操舵力補助機構50のアクチュエータ52の駆動を制御する。
S404の後、処理は図11の一連の処理(S400)を抜ける。そして、イグニッションキーがオンの状態であれば、再び図11の一連の処理を開始する。すなわち、図11に示す一連の処理(S400)は、イグニッションキーがオンの状態のとき、繰り返し実行される処理である。
【0098】
上述のように、ECU40は、S411において、特許請求の範囲の「ラック位置推定手段」として機能する。
また、ECU40は、S402とS412とS403、および、S402とS412とS421において、特許請求の範囲の「補助トルク決定手段」として機能する。
また、ECU40は、S403およびS421において、特許請求の範囲の「基準補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S402とS421において、特許請求の範囲の「補正補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S404において、特許請求の範囲の「駆動制御手段」として機能する。
このように、本実施形態では、ECU40は、機能的な構成として、ラック位置推定手段、補助トルク決定手段、基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段および駆動制御手段を有している。
【0099】
第4実施形態では、上述の処理(S400)を行うことにより、第1実施形態と同様、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度を低減することができる。そのため、ラック6とラックハウジング8との衝突エネルギーを低減することができる。その結果、ラック6とラックハウジング8とが衝突するとき、歯車機構51を構成するギアに反作用で加わるトルク(衝突トルク:T_gear)を低減することができる。
【0100】
なお、ECU40は、S401で取得した車速vの値に基づき、基準補助トルクの補正を行うか否かをS402において判断している。S401で取得した車速vが所定の閾値以下のとき、すなわち、車両1が低速で走行しているとき、ラック6の位置に基づき基準補助トルクの補正を行う(S421)。一方、車両1が中速または高速で走行しているときは、基準補助トルクの補正を行わない(S403)。
【0101】
以上説明したように、本実施形態は、車両1の速度を検出する車速センサ34をさらに備えている。そして、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック6の位置と車速センサ34により検出した車両1の速度とに基づき基準補助トルクを補正する。また、ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック6の位置と車速センサ34により検出した車両1の速度とに基づき補助トルクを決定する。
【0102】
本実施形態では、車両1の速度が大きいときは補正補助トルク算出手段による補正補助トルクの算出を行わず、車両1の速度が小さいときのみ補正補助トルク算出手段による補正補助トルクの算出を行う。これにより、実際のドライビングシーンにおいて急なステアリング操作によるラック6とラックハウジング8との衝突が生じる可能性の高い低速走行時のみ、補助トルクを補正するといった対応をとることができる。
【0103】
(他の実施形態)
上述した複数の実施形態は、構成上の阻害要因がない限り、物理的な構成および機能的な構成にかかわらず、どのように組み合わせてもよい。
【0104】
上述した第3実施形態では、操舵角速度ωが大きいとき(例えばω=ω3のとき)補助トルクを補正する程度を大きくし、操舵角速度ωが小さいとき(例えばω=ω1のとき)補助トルクを補正する程度を小さくする等、操舵角速度に応じてマップ的に補助トルクを補正する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、f(ω)・k(η)のような、ωを変数とする関数(f(ω))を含む補正係数により補正補助トルクを算出することとしてもよい。また、k(η)±f(ω)のような、ωを変数とする関数(f(ω))を加減算した補正係数により補正補助トルクを算出することとしてもよい。
【0105】
また、上述の実施形態では、歯車機構を出力軸に噛み合うよう設け、補助トルクを出力軸に付加するコラムアシスト型のパワーステアリング機構の例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、歯車機構をラックに噛み合うよう設け、補助トルクをラックに付加するラックアシスト型のパワーステアリング機構を構成することとしてもよい。
また、上述の実施形態では、アクチュエータとして電動モータを採用する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、アクチュエータの駆動を任意に制御できるのであれば、アクチュエータとして、電動モータ以外の動力源を採用することとしてもよい。
【0106】
また、本発明の他の実施形態は、出力軸の回転角度である転舵角と入力軸の回転角度である操舵角との比である伝達比を可変にする伝達比可変機構をさらに備えていてもよい。
このように、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で他の種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0107】
1 ・・・・車両
2 ・・・・操舵部材
3 ・・・・入力軸
4 ・・・・出力軸
6 ・・・・ラック
7 ・・・・操舵輪
8 ・・・・ラックハウジング
10 ・・・操舵制御装置
50 ・・・操舵力補助機構
51 ・・・歯車機構
52 ・・・アクチュエータ
31 ・・・トルクセンサ(操舵トルク検出手段)
40 ・・・ECU(基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段、補助トルク決定手段、駆動制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵輪の操舵を制御する操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリング操作を補助する機構として、電動式のアクチュエータでトルクを発生させる電動パワーステアリング(Electric Power Steering)装置が知られている。例えば特許文献1に開示されたパワーステアリング制御装置では、操舵輪を転舵するラックに噛み合うギアを設け、当該ギアを電動アクチュエータにより駆動することで生じる補助トルクによって、乗員による操舵部材の操舵を補助している。このパワーステアリング制御装置では、車速センサにより検出した車両の速度、および、トルクセンサにより検出した操舵トルクに基づき、上述の補助トルクを算出している。ここで、操舵トルクが大きく、かつ、車両の速度が小さいときほど補助トルクが大きくなるよう算出し、低速域での利便性の向上を図っている。一方、操舵トルクが小さく、かつ、車両の速度が大きいときほど補助トルクが小さくなるよう算出し、高速域での走行安定性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−41466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のパワーステアリング制御装置では、乗員の操舵により操舵部材が一方に回転し続けると、操舵輪を転舵させるラックの端部等は、ラックを収容するラックハウジングの内壁等に衝突する。これにより、ラックの長手方向の移動が停止するとともに、操舵部材の回転も停止する。特許文献1のパワーステアリング制御装置では車両の速度が小さい低速域で補助トルクが大きくなるよう算出されるため、特に低速域では、乗員が急なステアリング操作を行った場合など、ラックがラックハウジングに衝突するときのラックの移動速度が大きくなる。衝突のエネルギーは速度の2乗に比例するため、ラックとラックハウジングとの衝突による衝突トルクが大きくなることが懸念される。
【0005】
衝突トルクのピーク値は、通常操舵トルクの10倍以上になる場合もある。そのため、ラックとラックハウジングとの衝突時、操舵力補助機構を構成するギアに過大な衝撃が加わり、ギアが破損するおそれがある。ギアの破損を防ぐには、ラックとラックハウジングとの衝突トルクを考慮し、ギアの安全率を高く設定する必要がある。ギアの安全率を高く設定した場合、パワーステアリング制御装置の体格が大型化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型かつ軽量で構成部材の破損を防止可能な操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、乗員により操舵される操舵部材に連結される入力軸、当該入力軸に接続する出力軸、当該出力軸の回転に伴い長手方向に往復移動するラック、当該ラックの往復移動に伴い転舵する操舵輪、および、ラックを往復移動可能に収容するラックハウジングを有する車両に設けられる操舵制御装置であって、歯車機構と、アクチュエータと、操舵力補助機構と、操舵トルク検出手段と、基準補助トルク算出手段と、補正補助トルク算出手段と、補助トルク決定手段と、駆動制御手段と、を備えている。歯車機構は、出力軸またはラックに噛み合う。アクチュエータは、歯車機構を駆動する。操舵力補助機構は、アクチュエータおよび歯車機構を駆動することで生じる補助トルクにより、乗員による操舵部材の操舵を補助する。操舵トルク検出手段は、乗員による操舵部材の操舵によって入力軸に入力される操舵トルクを検出する。基準補助トルク算出手段は、操舵トルク検出手段により検出した操舵トルクに基づき基準補助トルクを算出する。補正補助トルク算出手段は、基準補助トルク算出手段により算出した基準補助トルクをラックの位置に基づき補正することで補正補助トルクを算出する。補助トルク決定手段は、ラックの位置に基づき前記基準補助トルクまたは前記補正補助トルクのいずれかを補助トルクとして決定する。駆動制御手段は、補助トルク決定手段により決定した補助トルクに基づきアクチュエータの駆動を制御する。
【0008】
そして、本発明では、補正補助トルク算出手段は、ラックが移動可能範囲の一端近傍の所定の第1位置から前記一端側へ移動するに従い、または、ラックが移動可能範囲の他端近傍の所定の第2位置から前記他端側へ移動するに従い前記基準補助トルクの値がより小さくなるよう補正することで補正補助トルクを算出する。ここで、ラックの移動可能範囲は、ラックの往復移動(ストローク)がラックハウジングにより制限される最大の範囲に対応している。よって、上述の移動可能範囲の一端および他端は、ラックの最大ストローク位置に対応する。
補助トルク決定手段は、ラックが前記第1位置と前記第2位置との間に位置するとき、基準補助トルク算出手段により算出した基準補助トルクを補助トルクとして決定する。一方、ラックが前記第1位置から前記一端までの間、または、前記第2位置から前記他端までの間に位置するとき、補正補助トルク算出手段により算出した補正補助トルクを補助トルクとして決定する。
【0009】
上記構成により、ラックが移動可能範囲の一端または他端近傍に位置するとき、乗員による操舵部材の操舵に伴いラックが移動可能範囲の一端または他端に近づくほど、すなわち、ラックが最大ストローク位置に近づくほど、補助トルクが小さくなるよう補正される。これにより、ラックがラックハウジングに衝突するときのラックの移動速度が小さくなる。その結果、ラックとラックハウジングとの衝突による衝突トルクを低減することができる。したがって、歯車機構の許容トルクを小さく設定することができ、歯車機構を小型にすることができる。よって、操舵制御装置の体格を小型かつ軽量にできるとともに製造コストを低減することができる。また、ラックとラックハウジングとの衝突トルクを低減することにより歯車機構の破損を防止することができ、その結果、操舵制御装置の信頼性を向上することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、操舵角検出手段と、ラック位置推定手段と、をさらに備えている。操舵角検出手段は、入力軸の回転角度である操舵角を検出する。ラック位置推定手段は、操舵角検出手段により検出した操舵角に基づきラックの位置を推定する。
そして、本発明では、補正補助トルク算出手段は、ラック位置推定手段により推定したラックの位置に基づき基準補助トルクを補正する。また、補助トルク決定手段は、ラック位置推定手段により推定したラックの位置に基づき補助トルクを決定する。このように、本発明では、例えばラックの位置を実際に検出する検出手段を用いることなく、ラック位置推定手段によりラックの位置を推定し、補正補助トルク算出手段により基準補助トルクを補正する。よって、部材点数を低減することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、ラックの位置を検出するラック位置検出手段をさらに備えている。そして、補正補助トルク算出手段は、ラック位置検出手段により検出したラックの位置に基づき基準補助トルクを補正する。また、補助トルク決定手段は、ラック位置検出手段により検出したラックの位置に基づき補助トルクを決定する。このように、本発明では、ラックの位置を実際に検出するラック位置検出手段を用いることで、ラックの位置を正確に検出することができる。よって、補正補助トルク算出手段による基準補助トルクの補正の精度を高めることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、操舵角検出手段と、操舵角速度算出手段と、をさらに備えている。操舵角検出手段は、入力軸の回転角度である操舵角を検出する。操舵角速度算出手段は、操舵角検出手段により検出した操舵角に基づき入力軸の角速度である操舵角速度を算出する。
そして、本発明では、補正補助トルク算出手段は、ラックの位置と操舵角速度算出手段により算出した操舵角速度とに基づき基準補助トルクを補正する。また、補助トルク決定手段は、ラックの位置と操舵角速度算出手段により算出した操舵角速度とに基づき補助トルクを決定する。
【0013】
本発明では、例えば操舵角速度が大きいとき補助トルクを補正する程度を大きくし、操舵角速度が小さいとき補助トルクを補正する程度を小さくする等、操舵角速度に応じて補助トルクを補正するといったことができる。これにより、ラックとラックハウジングとの衝突トルクを効果的に低減することができるとともに、最大ストローク位置近傍で補助トルクが小さくなるよう補正する本発明において、当該補正によって乗員に与えられる違和感を低減することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、車両の速度を検出する速度検出手段をさらに備えている。そして、補正補助トルク算出手段は、ラックの位置と速度検出手段により検出した車両の速度とに基づき基準補助トルクを補正する。また、補助トルク決定手段は、ラックの位置と速度検出手段により検出した車両の速度とに基づき補助トルクを決定する。
本発明では、例えば車両の速度が大きいときは補正補助トルク算出手段による補正補助トルクの算出を行わず、車両の速度が小さいときのみ補正補助トルク算出手段による補正補助トルクの算出を行うといったことができる。これにより、実際のドライビングシーンにおいて、急なステアリング操作によるラックとラックハウジングとの衝突が生じる可能性の高い低速走行時のみ、補助トルクを補正するといった対応をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態による操舵制御装置の概略を示す模式図。
【図2】本発明の第1実施形態による操舵制御装置の操舵に関する処理を示すフロー図。
【図3】本発明の第1実施形態による操舵制御装置の補正補助トルク算出手段が補正補助トルクを算出するときに用いる補正係数を示す図。
【図4】本発明の第1実施形態による操舵制御装置に作用する衝突トルク、および、比較例による操舵制御装置に作用する衝突トルクを示す図。
【図5】本発明の第2実施形態による操舵制御装置の概略を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態による操舵制御装置の操舵に関する処理を示すフロー図。
【図7】本発明の第3実施形態による操舵制御装置の概略を示す模式図。
【図8】本発明の第3実施形態による操舵制御装置の操舵に関する処理を示すフロー図。
【図9】本発明の第3実施形態による操舵制御装置の補正補助トルク算出手段が補正補助トルクを算出するときに用いる補正係数を示す図。
【図10】本発明の第4実施形態による操舵制御装置の概略を示す模式図。
【図11】本発明の第4実施形態による操舵制御装置の操舵に関する処理を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の複数の実施形態による操舵制御装置を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において、実質的に同一の構成部位または構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による操舵制御装置を図1に示す。操舵制御装置10は、車両1に適用され、乗員による車両1の操舵に関する制御を行う。
【0017】
車両1は、操舵部材2、入力軸3、出力軸4、ラック6、操舵輪7およびラックハウジング8等を有している。入力軸3は、乗員により操舵される操舵部材2に連結される。ここで、操舵部材2が操舵により回転するときの入力軸3の回転角度を操舵角という。
出力軸4は、図示しないトーションバーにより入力軸3に接続している。ここで、入力軸3と出力軸4とは、コラム軸を構成している。出力軸4の端部には、ラック6に噛み合うステアリングピニオン5が設けられている。これにより、ラック6は、出力軸4の回転に伴い長手方向に往復移動する。すなわち、ラック6とステアリングピニオン5とは、ラックアンドピニオン機構を構成している。ラック6の両端には、操舵輪7が設けられている。これにより、操舵輪7は、ラック6の往復移動に伴い転舵する。ここで、操舵輪7が転舵するときの出力軸4の回転角度を転舵角という。
【0018】
ラックハウジング8は、ラック6を往復移動可能に収容する。本実施形態では、ラック6は、端部がラックハウジング8の内壁に当接することにより、長手方向の往復移動、すなわちストロークが規制される。つまり、ラック6は、ラックハウジング8内において、所定の範囲(移動可能範囲)で往復移動可能である。
【0019】
本実施形態の操舵制御装置10が適用される車両1では、出力軸4の端部に設けられたステアリングピニオン5は、ラック6の、車両1の前方側に噛み合うよう設けられている。また、ラック6は、操舵輪7の回転中心よりも車両1の後方側で操舵輪7に接続するよう設けられている。そのため、乗員が操舵部材2(入力軸3)を時計回り方向(右方向)に回転させる(操舵する)と出力軸4も時計回り方向(右方向)に回転し、ラック6は、車両1の前方に向かって左方向へ移動する。これにより、車両1が右方向へ進行するよう操舵輪7の舵角が変更される(操舵輪7が右方向に転舵する)。一方、乗員が操舵部材2(入力軸3)を反時計回り方向(左方向)に回転させると出力軸4も反時計回り方向(左方向)に回転し、ラック6は、車両1の前方に向かって右方向へ移動する。これにより、車両1が左方向へ進行するよう操舵輪7の舵角が変更される(操舵輪7が左方向に転舵する)。
【0020】
操舵制御装置10は、歯車機構51、アクチュエータ52、操舵力補助機構50、操舵トルク検出手段としてのトルクセンサ31、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)40等を備えている。
歯車機構51は、本実施形態では、出力軸4に設けられている。歯車機構51は、出力軸4に噛み合うギアを有している。
【0021】
アクチュエータ52は、本実施形態では、電動モータである。アクチュエータ52は、歯車機構51のギアの外縁端に形成された外歯に噛み合うウォームギアを有している。アクチュエータ52は、当該ウォームギアを回転させるよう駆動することにより歯車機構51のギアを回転駆動させることができる。
【0022】
アクチュエータ52の駆動により歯車機構51のギアが回転すると、当該回転により生じるトルクが出力軸4に付加される。乗員の操舵による操舵部材2の回転に伴う出力軸4の回転方向と同じ方向に、歯車機構51を経由してアクチュエータ52からトルクを付加することで、乗員による操舵部材2の操舵の補助をすることができる。すなわち、アクチュエータ52および歯車機構51の駆動により出力軸4に付加されるトルクは、乗員から操舵部材2に入力される操舵力(操舵トルク)の補助トルクとなる。
【0023】
このように、本実施形態では、歯車機構51とアクチュエータ52とにより操舵力補助機構50が構成されている。操舵力補助機構50は、アクチュエータ52および歯車機構51を駆動することで生じる補助トルクにより、乗員による操舵部材2の操舵を補助する。本実施形態では、操舵力補助機構50は、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置の一部を構成している。
【0024】
トルクセンサ31は、入力軸3と出力軸4との間に設けられ、乗員による操舵部材2の操舵によって入力軸3に入力される操舵トルクを検出する。より具体的には、トルクセンサ31は、入力軸3と出力軸4とを接続するトーションバーの捩れ角を測定することにより操舵トルクを検出する。
【0025】
ECU40は、演算手段としてのCPU、ならびに、記憶手段としてのRAMおよびROM等を有するマイクロコンピュータ等から構成されている。ECU40は、操舵制御装置10が適用される車両1に搭載された種々の装置および機器類を制御するために設けられている。ECU40には、上述のトルクセンサ31をはじめ車両1の各部に設けられている種々のセンサから出力される信号が入力される。ECU40は、これら入力された種々の信号に基づきROMに格納されている所定の制御プログラムにしたがって車両1に搭載された種々の装置および機器類を制御する。
トルクセンサ31は、検出した操舵トルクに関する信号をECU40に出力する。
【0026】
ECU40は、アクチュエータ52にも接続されている。ECU40は、アクチュエータ52に供給する電力を調整することでアクチュエータ52の回転駆動を制御可能である。ECU40は、アクチュエータ52の回転駆動を制御することで歯車機構51の駆動を制御可能である。これにより、ECU40は、上述の補助トルクが任意の値になるようアクチュエータ52の駆動を制御することができる。
【0027】
本実施形態では、車両1には、上述したものの他、操舵角検出手段としての操舵角センサ32が設けられている。
操舵角センサ32は、入力軸3に設けられ、入力軸3の回転角度すなわち操舵角を検出する。操舵角センサ32は、検出した操舵角に関する信号をECU40に出力する。
【0028】
次に、本実施形態による操舵制御装置10の作動について図2に基づき説明する。
図2は、ECU40による操舵に関する処理フローを示したものである。図2に示す一連の処理(S100)は、例えば乗員が車両1のイグニッションキーをオンにすることを切っ掛けとして開始される。
【0029】
S101では、ECU40は、各センサから各種信号(情報)を取得する。ECU40は、トルクセンサ31が検出した操舵トルクTinを取得する。また、ECU40は、操舵角センサ32が検出した入力軸3の回転角度すなわち操舵角θinを取得する。
S101の後、処理はS102に移行する。
【0030】
S102では、ECU40は、ラック6の位置を推定する。具体的には、ECU40は、S101で取得した操舵角θinに基づきラック6の位置を推定する。すなわち、ECU40は、θinを変数とする関数(下記式1)に基づきラック6の位置ηを算出することにより、この時点(S102)でのラック6の位置を推定する。
η=F(θin) ・・・式1
【0031】
ここで、ηは、−100から100(%)までの値である。操舵部材2、入力軸3、出力軸4および操舵輪7が中立位置のときのラック6の位置ηを0(%)とする。つまり、ηが0のとき、ラック6は、移動可能範囲の中央に位置していることを意味する。
【0032】
操舵部材2を回転方向の一方(例えば時計回り方向)に回転させ続けると、ラック6は長手方向の一方に移動し、ラック6の端部がラックハウジング8の内壁に当接する。これにより、ラック6の長手方向の移動、すなわちストロークが規制される。このときのラック6の位置ηを100(%)とする。つまり、ηが100のとき、ラック6は、移動可能範囲の一端、すなわち最大ストローク位置に位置していることを意味する。
【0033】
操舵部材2を回転方向の他方(例えば反時計回り方向)に回転させ続けると、ラック6は長手方向の他方に移動し、ラック6の端部がラックハウジング8の内壁に当接する。これにより、ラック6の長手方向の移動、すなわちストロークが規制される。このときのラック6の位置ηを−100(%)とする。つまり、ηが−100のとき、ラック6は、移動可能範囲の他端、すなわち最大ストローク位置に位置していることを意味する。
S102の後、処理はS103へ移行する。
【0034】
S103では、ECU40は、ラック位置ηが第1閾値と第2閾値との間か否かを判定する。本実施形態では、第1閾値を90とし、第2閾値を−90とする。つまり、第1閾値は、ラック6の移動可能範囲の一端近傍の位置、すなわち、特許請求の範囲における「第1位置」に対応している。一方、第2閾値は、ラック6の移動可能範囲の他端近傍の位置、すなわち、特許請求の範囲における「第2位置」に対応している。
【0035】
ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間であると判定した場合、すなわち、−90<η<90であると判定した場合(S103:YES)、処理はS104へ移行する。一方、ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間ではないと判定した場合、すなわち、η≦−90または90≦ηであると判定した場合(S103:NO)、処理はS111へ移行する。
【0036】
S104では、ECU40は、基準補助トルクを算出する。本実施形態では、S101で取得した操舵トルクTinに基づき基準補助トルクを算出する。基準補助トルクは、Tinを変数とする関数(下記式2)により算出される。
T(Tin) ・・・式2
そして、ECU40は、算出した基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asに代入する。すなわち、基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S104の後、処理はS105へ移行する。
【0037】
S111では、ECU40は、補正補助トルクを算出する。本実施形態では、ラック6の位置、すなわち、S102で推定したラック6の位置ηに基づき基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する。具体的には、ラック6の位置ηに基づき算出される補正係数k(η)を、基準補助トルクT(Tin)に乗ずることにより、補正補助トルクを算出する。
【0038】
補正係数k(η)は1以下の値である。補正係数k(η)とラック位置ηとの関係は図3に示すとおりである。図3に示すように、補正係数k(η)は、−90<η<90のとき、1である。補正係数k(η)は、90≦η≦100のとき、ηが90から100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。また、補正係数k(η)は、−100≦η≦−90のとき、ηが−90から−100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。なお、ηが100または−100のとき、補正係数k(η)は0となる。
【0039】
また、図3に示すように、本実施形態では、補正係数k(η)は、ηが90から95まで変化するとき、または、ηが−90から−95まで変化するとき、曲線的に徐々に小さくなる。また、補正係数k(η)は、ηが95から100まで変化するとき、または、ηが−95から−100まで変化するとき、直線的に徐々に小さくなる。
基準補助トルクT(Tin)の算出方法は、S104の処理の説明で示した方法と同様のため、説明を省略する。
【0040】
補正補助トルクは、下記式3により算出される。
k(η)・T(Tin) ・・・式3
つまり、補正補助トルクk(η)・T(Tin)は、ラック6が第1位置(90%)から一端(100%)側へ移動するに従い、または、ラック6が第2位置(−90%)から他端(−100%)側へ移動するに従い、より小さくなるよう算出される。
そして、ECU40は、算出した補正補助トルクk(η)・T(Tin)を補助トルクT_asに代入する。すなわち、補正補助トルクk(η)・T(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S111の後、処理はS105へ移行する。
【0041】
S105では、ECU40は、S104またはS111で決定した補助トルクT_asを補助トルクとして設定し、当該補助トルクが出力軸4に付加されるようアクチュエータ52の駆動を制御する。これにより、出力軸4には、操舵トルクTinに加え補助トルクT_asが作用する。すなわち、出力軸4には、操舵トルクTinと補助トルクT_asとの和である転舵トルクToutが作用する。その結果、出力軸4が回転しラック6が長手方向に移動することにより操舵輪7が転舵する。
【0042】
S105の後、処理は図2の一連の処理(S100)を抜ける。そして、イグニッションキーがオンの状態であれば、再び図2の一連の処理を開始する。すなわち、図2に示す一連の処理(S100)は、イグニッションキーがオンの状態のとき、繰り返し実行される処理である。
【0043】
上述のように、ECU40は、S102において、特許請求の範囲の「ラック位置推定手段」として機能する。
また、ECU40は、S103とS104、および、S103とS111において、特許請求の範囲の「補助トルク決定手段」として機能する。
また、ECU40は、S104およびS111において、特許請求の範囲の「基準補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S111において、特許請求の範囲の「補正補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S105において、特許請求の範囲の「駆動制御手段」として機能する。
このように、本実施形態では、ECU40は、機能的な構成として、ラック位置推定手段、補助トルク決定手段、基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段および駆動制御手段を有している。
【0044】
本実施形態では、上述の処理(S100)を行うことにより、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度を低減することができる。そのため、ラック6とラックハウジング8との衝突エネルギーを低減することができる。その結果、ラック6とラックハウジング8とが衝突するとき、歯車機構51を構成するギアに反作用で加わるトルク(衝突トルク:T_gear)を低減することができる。以下、この効果を、比較例との対比により具体的に説明する(図4参照)。
【0045】
図4の実線は、上述の一連の処理(S100)を行う本実施形態の操舵制御装置10を適用した車両1が停止(車速v=0)している状態で操舵部材2を回転方向の一方に回転させ続けたとき(据え切り時)の、時間の経過に伴うT_gearの変化を示している。一方、図4の破線は、比較例による操舵制御装置を適用した車両1が停止している状態で操舵部材2を回転方向の一方に回転させ続けたときの、時間の経過に伴うT_gearの変化を示している。ここで、比較例による操舵制御装置は、物理的な構成は操舵制御装置10と同様であって、操舵に関する処理として、上述の処理(S100)からS102、S103、S111を除いた処理を行うものとする。すなわち、比較例では、基準補助トルクの補正は行わない。
【0046】
図4に示すように、比較例の場合、時刻t1でラック6がラックハウジング8に衝突すると、歯車機構51のギアに大きな衝突トルクT_gearが加わる(衝突トルクT_gearのピーク値が大きい)ことがわかる。一方、本実施形態の操舵制御装置10の場合、時刻t1でラック6がラックハウジング8に衝突しても、歯車機構51のギアに加わる衝突トルクT_gearのピーク値は小さいことがわかる。このように、本実施形態では、比較例と比べ、ラック6とラックハウジング8とが衝突したときに生じる衝突トルクのピーク値を大幅に低減することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック6が移動可能範囲の一端(100%)近傍の所定の第1位置(90%)から前記一端側へ移動するに従い、または、ラック6が移動可能範囲の他端(−100)近傍の所定の第2位置(−90)から前記他端側へ移動するに従い前記基準補助トルクの値がより小さくなるよう補正することで補正補助トルクを算出する。
【0048】
ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック6が前記第1位置と前記第2位置との間に位置するとき、基準補助トルク算出手段により算出した基準補助トルクを補助トルクとして決定する。一方、ラック6が前記第1位置から前記一端までの間、または、前記第2位置から前記他端までの間に位置するとき、補正補助トルク算出手段により算出した補正補助トルクを補助トルクとして決定する。
【0049】
上記構成により、ラック6が移動可能範囲の一端または他端近傍に位置するとき、乗員による操舵部材2の操舵に伴いラック6が移動可能範囲の一端または他端に近づくほど、すなわち、ラック6が最大ストローク位置に近づくほど、補助トルクが小さくなるよう補正される。これにより、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度が小さくなる。その結果、ラック6とラックハウジング8との衝突による衝突トルクを低減することができる。したがって、歯車機構51の許容トルクを小さく設定することができ、歯車機構51を小型にすることができる。よって、操舵制御装置10の体格を小型かつ軽量にできるとともに製造コストを低減することができる。また、ラック6とラックハウジング8との衝突トルクを低減することにより歯車機構51の破損を防止することができ、その結果、操舵制御装置10の信頼性を向上することができる。
【0050】
また、本実施形態は、操舵角センサ32およびラック位置推定手段をさらに備えている。操舵角センサ32は、入力軸3の回転角度である操舵角を検出する。ECU40(ラック位置推定手段)は、操舵角センサ32により検出した操舵角に基づきラック6の位置を推定する。
【0051】
そして、本実施形態では、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック位置推定手段により推定したラック6の位置に基づき基準補助トルクを補正する。また、ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック位置推定手段により推定したラック6の位置に基づき補助トルクを決定する。このように、本実施形態では、例えばラック6の位置を実際に検出する検出手段を用いることなく、SCU40(ラック位置推定手段)によりラック6の位置を推定し、補正補助トルク算出手段により基準補助トルクを補正する。よって、部材点数を低減することができる。
【0052】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による操舵制御装置を図5に示す。第2実施形態は、物理的な構成が異なる点、および、操舵に関する処理が一部異なる点で、第1実施形態と異なる。
【0053】
第2実施形態は、第1実施形態と比べ、操舵角センサ32を備えず、ラック位置検出手段としてのラック位置センサ33をさらに備えている。ラック位置センサ33は、ラックハウジング8に設けられ、ラック6の位置を検出する。ラック位置センサ33は、検出したラック6の位置に関する信号をECU40に出力する。ここで、ラック位置センサ33が出力する信号(η)は、−100から100(%)までの値に対応している。
操舵部材2、入力軸3、出力軸4および操舵輪7が中立位置のとき、ラック位置センサ33が出力する信号(η)は0(%)である。つまり、ηが0のとき、ラック6は、移動可能範囲の中央に位置している。
【0054】
操舵部材2を回転方向の一方(例えば時計回り方向)に回転させ続け、ラック6の端部がラックハウジング8の内壁に当接したとき、ラック位置センサ33が出力する信号(η)は100(%)である。つまり、ηが100のとき、ラック6は、移動可能範囲の一端、すなわち最大ストローク位置に位置している。
【0055】
操舵部材2を回転方向の他方(例えば反時計回り方向)に回転させ続け、ラック6の端部がラックハウジング8の内壁に当接したとき、ラック位置センサ33が出力する信号(η)は−100(%)である。つまり、ηが−100のとき、ラック6は、移動可能範囲の他端、すなわち最大ストローク位置に位置している。
【0056】
次に、第2実施形態による操舵制御装置の作動について図6に基づき説明する。
図6は、ECU40による操舵に関する処理フローを示したものである。図6に示す一連の処理(S200)は、例えば乗員が車両1のイグニッションキーをオンにすることを切っ掛けとして開始される。
【0057】
S201では、ECU40は、各センサから各種信号(情報)を取得する。ECU40は、トルクセンサ31が検出した操舵トルクTinを取得する。また、ECU40は、ラック位置センサ33が検出したラック位置ηを取得する。
S201の後、処理はS202に移行する。
【0058】
S202では、ECU40は、S201で取得したラック位置ηが第1閾値と第2閾値との間か否かを判定する。本実施形態では、第1実施形態のS103での処理と同様、第1閾値を90とし、第2閾値を−90とする。なお、第1実施形態のS103での処理とS202での処理との異なる点は、S103ではECU40(ラック位置推定手段)により推定したラック位置ηを用いるのに対し、S202ではラック位置センサ33により検出したラック位置ηを用いる点である。
【0059】
ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間であると判定した場合、すなわち、−90<η<90であると判定した場合(S202:YES)、処理はS203へ移行する。一方、ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間ではないと判定した場合、すなわち、η≦−90または90≦ηであると判定した場合(S202:NO)、処理はS211へ移行する。
【0060】
S203では、ECU40は、基準補助トルクを算出する。本実施形態では、S201で取得した操舵トルクTinに基づき基準補助トルクを算出する。具体的な基準補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS104での処理と同様のため、説明を省略する。
ECU40は、算出した基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S203の後、処理はS204へ移行する。
【0061】
S211では、ECU40は、補正補助トルクを算出する。本実施形態では、ラック6の位置、すなわち、S201で取得したラック位置ηに基づき基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する。具体的な補正補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS111での処理と同様のため、説明を省略する。なお、第1実施形態のS111での処理とS211での処理との異なる点は、S111ではECU40(ラック位置推定手段)により推定したラック位置ηを用いるのに対し、S211ではラック位置センサ33により検出したラック位置ηを用いる点である。
ECU40は、算出した補正補助トルクk(η)・T(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S211の後、処理はS204へ移行する。
【0062】
S204では、ECU40は、S203またはS211で決定した補助トルクT_asを補助トルクとして設定し、当該補助トルクとなるよう操舵力補助機構50のアクチュエータ52の駆動を制御する。
S204の後、処理は図6の一連の処理(S200)を抜ける。そして、イグニッションキーがオンの状態であれば、再び図6の一連の処理を開始する。すなわち、図6に示す一連の処理(S200)は、イグニッションキーがオンの状態のとき、繰り返し実行される処理である。
【0063】
上述のように、ECU40は、S202とS203、および、S202とS211において、特許請求の範囲の「補助トルク決定手段」として機能する。
また、ECU40は、S203およびS211において、特許請求の範囲の「基準補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S211において、特許請求の範囲の「補正補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S204において、特許請求の範囲の「駆動制御手段」として機能する。
このように、本実施形態では、ECU40は、機能的な構成として、補助トルク決定手段、基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段および駆動制御手段を有している。
【0064】
第2実施形態では、上述の処理(S200)を行うことにより、第1実施形態と同様、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度を低減することができる。そのため、ラック6とラックハウジング8との衝突エネルギーを低減することができる。その結果、ラック6とラックハウジング8とが衝突するとき、歯車機構51を構成するギアに反作用で加わるトルク(衝突トルク:T_gear)を低減することができる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態では、ラック6の位置を検出するラック位置センサ33をさらに備えている。そして、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック位置センサ33により検出したラック6の位置に基づき基準補助トルクを補正する。また、ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック位置センサ33により検出したラック6の位置に基づき補助トルクを決定する。このように、本実施形態では、ラック6の位置を実際に検出するラック位置センサ33を用いることで、ラック6の位置を正確に検出することができる。よって、ECU40(補正補助トルク算出手段)による基準補助トルクの補正の精度を高めることができる。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による操舵制御装置を図7に示す。第3実施形態は、物理的な構成は第1実施形態と同じであるものの、操舵に関する処理が第1実施形態と一部異なる。
第3実施形態の物理的な構成は、第1実施形態と同じのため、説明を省略する。
以下、第3実施形態による操舵制御装置の作動について図8に基づき説明する。
図8は、ECU40による操舵に関する処理フローを示したものである。図8に示す一連の処理(S300)は、例えば乗員が車両1のイグニッションキーをオンにすることを切っ掛けとして開始される。
【0067】
S301では、ECU40は、各センサから各種信号(情報)を取得する。ECU40は、トルクセンサ31が検出した操舵トルクTinを取得する。また、ECU40は、操舵角センサ32が検出した入力軸3の回転角度すなわち操舵角θinを取得する。
S301の後、処理はS302に移行する。
【0068】
S302では、ECU40は、入力軸3の角速度である操舵角速度を算出する。具体的には、ECU40は、S301で取得した操舵角θinに基づき操舵角速度を算出する。すなわち、ECU40は、下記式4のように操舵角θinを時間微分することにより操舵角速度ωを算出する。
ω=dθin/dt ・・・式4
S302の後、処理はS303へ移行する。
【0069】
S303では、ECU40は、ラック6の位置を推定する。具体的には、ECU40は、S301で取得した操舵角θinに基づきラック6の位置を推定する。より具体的なラック6の位置の推定の方法は、第1実施形態のS102での処理と同様のため、説明を省略する。
S303の後、処理はS304へ移行する。
【0070】
S304では、ECU40は、ラック位置ηが第1閾値と第2閾値との間か否かを判定する。本実施形態では、第1実施形態のS103での処理と同様、第1閾値を90とし、第2閾値を−90とする。
ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間であると判定した場合、すなわち、−90<η<90であると判定した場合(S304:YES)、処理はS305へ移行する。一方、ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間ではないと判定した場合、すなわち、η≦−90または90≦ηであると判定した場合(S304:NO)、処理はS311へ移行する。
【0071】
S305では、ECU40は、基準補助トルクを算出する。本実施形態では、S301で取得した操舵トルクTinに基づき基準補助トルクを算出する。具体的な基準補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS104での処理と同様のため、説明を省略する。
ECU40は、算出した基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S305の後、処理はS306へ移行する。
【0072】
S311では、ECU40は、補正補助トルクを算出する。本実施形態では、ラック6の位置、すなわち、S303で推定したラック6の位置ηと、S302で算出した操舵角速度ωと、に基づき基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する。具体的には、ラック6の位置ηと操舵角速度ωとに基づき算出される補正係数k(η,ω)を、基準補助トルクT(Tin)に乗ずることにより、補正補助トルクを算出する。
【0073】
補正係数k(η,ω)は1以下の値である。補正係数k(η,ω)とラック位置ηとの関係は図9に示すとおりである。なお、図9では、ωがω1、ω2またはω3のときの補正係数k(η,ω)とラック位置ηとの関係を示している。ここで、ω1、ω2およびω3は、それぞれ所定の範囲内の値であり、ω1<ω2<ω3の関係を満たす値である。本実施形態では、ωがω1のとき、操舵部材2の回転速度、すなわち、ステアリングの回転速度域が低速域であることを意味する。また、ωがω2のとき、ステアリングの回転速度域が中速域であることを意味する。また、ωがω3のとき、ステアリングの回転速度域が高速域であることを意味する。
【0074】
図9に示すように、補正係数k(η,ω1)は、−90<η<90のとき、1である。補正係数k(η,ω1)は、90≦η≦100のとき、ηが90から100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω1)は、−100≦η≦−90のとき、ηが−90から−100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。なお、ηが100または−100のとき、補正係数k(η,ω1)は0となる。また、ωがω1のとき、第1位置および第1閾値は90、第2位置および第2閾値は−90である。
【0075】
また、図9に示すように、本実施形態では、補正係数k(η,ω1)は、ηが90から95まで変化するとき、または、ηが−90から−95まで変化するとき、曲線的に徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω1)は、ηが95から100まで変化するとき、または、ηが−95から−100まで変化するとき、直線的に徐々に小さくなる。
【0076】
補正係数k(η,ω2)は、−85<η<85のとき、1である。補正係数k(η,ω2)は、85≦η≦100のとき、ηが85から100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω2)は、−100≦η≦−85のとき、ηが−85から−100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。なお、ηが100または−100のとき、補正係数k(η,ω2)は0となる。また、ωがω2のとき、第1位置および第1閾値は85、第2位置および第2閾値は−85である。
【0077】
また、図9に示すように、本実施形態では、補正係数k(η,ω2)は、ηが85から95まで変化するとき、または、ηが−85から−95まで変化するとき、曲線的に徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω2)は、ηが95から100まで変化するとき、または、ηが−95から−100まで変化するとき、直線的に徐々に小さくなる。
【0078】
補正係数k(η,ω3)は、−80<η<80のとき、1である。補正係数k(η,ω3)は、80≦η≦100のとき、ηが80から100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω3)は、−100≦η≦−80のとき、ηが−80から−100に向かうよう変化するに従い、1から0に向かって徐々に小さくなる。なお、ηが100または−100のとき、補正係数k(η,ω3)は0となる。また、ωがω3のとき、第1位置および第1閾値は80、第2位置および第2閾値は−80である。
【0079】
また、図9に示すように、本実施形態では、補正係数k(η,ω3)は、ηが80から90まで変化するとき、または、ηが−80から−90まで変化するとき、曲線的に徐々に小さくなる。また、補正係数k(η,ω3)は、ηが90から100まで変化するとき、または、ηが−90から−100まで変化するとき、直線的に徐々に小さくなる。
【0080】
上述のように、ωがω2またはω3のとき、すなわち、ステアリングの回転速度域が中速域または高速域のとき、第1位置および第1閾値が90から85または80に変更され、第2位置および第2閾値が−90から−85または−80に変更される。第1閾値および第2閾値の変更は、S304でのECU40による判断に影響する。実際には、S304では、S302で算出した操舵角速度ωがω1のとき第1閾値を90、第2閾値を−90とし、S302で算出した操舵角速度ωがω2のとき第1閾値を85、第2閾値を−85とし、S302で算出した操舵角速度ωがω3のとき第1閾値を80、第2閾値を−80として、判断を行う。
基準補助トルクT(Tin)の算出方法は、S305の処理の説明で示した方法と同様のため、説明を省略する。
【0081】
補正補助トルクは、下記式5により算出される。
k(η,ω)・T(Tin) ・・・式5
つまり、補正補助トルクk(η,ω)・T(Tin)は、ラック6が第1位置(90%、85%または80%)から一端(100%)側へ移動するに従い、または、ラック6が第2位置(−90%、−85%または−80%)から他端(−100%)側へ移動するに従い、より小さくなるよう算出される。
そして、ECU40は、算出した補正補助トルクk(η,ω)・T(Tin)を補助トルクT_asに代入する。すなわち、補正補助トルクk(η,ω)・T(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S311の後、処理はS306へ移行する。
【0082】
S306では、ECU40は、S305またはS311で決定した補助トルクT_asを補助トルクとして設定し、当該補助トルクとなるよう操舵力補助機構50のアクチュエータ52の駆動を制御する。
S306の後、処理は図8の一連の処理(S300)を抜ける。そして、イグニッションキーがオンの状態であれば、再び図8の一連の処理を開始する。すなわち、図8に示す一連の処理(S300)は、イグニッションキーがオンの状態のとき、繰り返し実行される処理である。
【0083】
上述のように、ECU40は、S302において、特許請求の範囲の「操舵角速度算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S303において、特許請求の範囲の「ラック位置推定手段」として機能する。
また、ECU40は、S304とS305、および、S304とS311において、特許請求の範囲の「補助トルク決定手段」として機能する。
また、ECU40は、S305およびS311において、特許請求の範囲の「基準補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S311において、特許請求の範囲の「補正補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S306において、特許請求の範囲の「駆動制御手段」として機能する。
このように、本実施形態では、ECU40は、機能的な構成として、操舵角速度算出手段、ラック位置推定手段、補助トルク決定手段、基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段および駆動制御手段を有している。
【0084】
第3実施形態では、上述の処理(S300)を行うことにより、第1実施形態と同様、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度を低減することができる。そのため、ラック6とラックハウジング8との衝突エネルギーを低減することができる。その結果、ラック6とラックハウジング8とが衝突するとき、歯車機構51を構成するギアに反作用で加わるトルク(衝突トルク:T_gear)を低減することができる。
【0085】
なお、ECU40は、S302で算出した操舵角速度ω(ω1<ω2<ω3の関係を満たすω1、ω2またはω3)に基づき、S311で補正係数k(η,ω)を選択し、基準補助トルクT(Tin)を補正している。これにより、操舵角速度ωが大きいとき(例えばω=ω3のとき)補助トルクを補正する程度を大きくし、操舵角速度ωが小さいとき(例えばω=ω1のとき)補助トルクを補正する程度を小さくする等、操舵角速度に応じてマップ的に補助トルクを補正する。
以上説明したように、本実施形態は、操舵角センサ32により検出した操舵角に基づき入力軸3の角速度である操舵角速度を算出する操舵角速度算出手段をさらに備えている。
【0086】
そして、本実施形態では、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック6の位置と操舵角速度算出手段により算出した操舵角速度とに基づき基準補助トルクを補正する。また、ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック6の位置と操舵角速度算出手段により算出した操舵角速度とに基づき補助トルクを決定する。
【0087】
本実施形態では、操舵角速度が大きいとき補助トルクを補正する程度を大きくし、操舵角速度が小さいとき補助トルクを補正する程度を小さくする等、操舵角速度に応じて補助トルクを補正する。これにより、ラック6とラックハウジング8との衝突トルクを効果的に低減することができるとともに、最大ストローク位置近傍で補助トルクが小さくなるよう補正する本実施形態において、当該補正によって乗員に与えられる違和感を低減することができる。
【0088】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による操舵制御装置を図10に示す。第4実施形態は、物理的な構成が異なる点、および、操舵に関する処理が一部異なる点で、第1実施形態と異なる。
【0089】
第4実施形態は、速度検出手段としての車速センサ34をさらに備えている。車速センサ34は、車両1に設けられ、車両1の速度すなわち車速を検出する。車速センサ34は、検出した車速に関する信号をECU40に出力する。
【0090】
次に、第4実施形態による操舵制御装置の作動について図11に基づき説明する。
図11は、ECU40による操舵に関する処理フローを示したものである。図11に示す一連の処理(S400)は、例えば乗員が車両1のイグニッションキーをオンにすることを切っ掛けとして開始される。
【0091】
S401では、ECU40は、各センサから各種信号(情報)を取得する。ECU40は、トルクセンサ31が検出した操舵トルクTinを取得する。ECU40は、操舵角センサ32が検出した入力軸3の回転角度すなわち操舵角θinを取得する。また、ECU40は、車速センサ34が検出した車速vを取得する。
S401の後、処理はS402に移行する。
【0092】
S402では、ECU40は、S401で取得した車速vの値が所定の閾値より大きいか否かを判定する。本実施形態では、当該所定の閾値として、比較的小さな値が設定されている。車速vの値は所定の閾値より大きいと判定した場合(S402:YES)、処理はS403へ移行する。一方、車速vの値は所定の閾値より大きくない、すなわち、車速vの値は所定の閾値以下であると判定した場合(S402:NO)、処理はS411へ移行する。
【0093】
S411では、ECU40は、ラック6の位置を推定する。具体的には、ECU40は、S401で取得した操舵角θinに基づきラック6の位置を推定する。より具体的なラック6の位置の推定の方法は、第1実施形態のS102での処理と同様のため、説明を省略する。
S411の後、処理はS412へ移行する。
【0094】
S412では、ECU40は、ラック位置ηが第1閾値と第2閾値との間か否かを判定する。本実施形態では、第1実施形態のS103での処理と同様、第1閾値を90とし、第2閾値を−90とする。
ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間であると判定した場合、すなわち、−90<η<90であると判定した場合(S412:YES)、処理はS403へ移行する。一方、ラック位置ηは第1閾値と第2閾値との間ではないと判定した場合、すなわち、η≦−90または90≦ηであると判定した場合(S412:NO)、処理はS421へ移行する。
【0095】
S403では、ECU40は、基準補助トルクを算出する。本実施形態では、S401で取得した操舵トルクTinに基づき基準補助トルクを算出する。具体的な基準補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS104での処理と同様のため、説明を省略する。
ECU40は、算出した基準補助トルクT(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S403の後、処理はS404へ移行する。
【0096】
S421では、ECU40は、補正補助トルクを算出する。本実施形態では、ラック6の位置、すなわち、S411で推定したラック位置ηに基づき基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する。具体的な補正補助トルクの算出の方法は、第1実施形態のS111での処理と同様のため、説明を省略する。
ECU40は、算出した補正補助トルクk(η)・T(Tin)を補助トルクT_asとして決定する。
S421の後、処理はS404へ移行する。
【0097】
S404では、ECU40は、S403またはS421で決定した補助トルクT_asを補助トルクとして設定し、当該補助トルクとなるよう操舵力補助機構50のアクチュエータ52の駆動を制御する。
S404の後、処理は図11の一連の処理(S400)を抜ける。そして、イグニッションキーがオンの状態であれば、再び図11の一連の処理を開始する。すなわち、図11に示す一連の処理(S400)は、イグニッションキーがオンの状態のとき、繰り返し実行される処理である。
【0098】
上述のように、ECU40は、S411において、特許請求の範囲の「ラック位置推定手段」として機能する。
また、ECU40は、S402とS412とS403、および、S402とS412とS421において、特許請求の範囲の「補助トルク決定手段」として機能する。
また、ECU40は、S403およびS421において、特許請求の範囲の「基準補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S402とS421において、特許請求の範囲の「補正補助トルク算出手段」として機能する。
また、ECU40は、S404において、特許請求の範囲の「駆動制御手段」として機能する。
このように、本実施形態では、ECU40は、機能的な構成として、ラック位置推定手段、補助トルク決定手段、基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段および駆動制御手段を有している。
【0099】
第4実施形態では、上述の処理(S400)を行うことにより、第1実施形態と同様、ラック6がラックハウジング8に衝突するときのラック6の移動速度を低減することができる。そのため、ラック6とラックハウジング8との衝突エネルギーを低減することができる。その結果、ラック6とラックハウジング8とが衝突するとき、歯車機構51を構成するギアに反作用で加わるトルク(衝突トルク:T_gear)を低減することができる。
【0100】
なお、ECU40は、S401で取得した車速vの値に基づき、基準補助トルクの補正を行うか否かをS402において判断している。S401で取得した車速vが所定の閾値以下のとき、すなわち、車両1が低速で走行しているとき、ラック6の位置に基づき基準補助トルクの補正を行う(S421)。一方、車両1が中速または高速で走行しているときは、基準補助トルクの補正を行わない(S403)。
【0101】
以上説明したように、本実施形態は、車両1の速度を検出する車速センサ34をさらに備えている。そして、ECU40(補正補助トルク算出手段)は、ラック6の位置と車速センサ34により検出した車両1の速度とに基づき基準補助トルクを補正する。また、ECU40(補助トルク決定手段)は、ラック6の位置と車速センサ34により検出した車両1の速度とに基づき補助トルクを決定する。
【0102】
本実施形態では、車両1の速度が大きいときは補正補助トルク算出手段による補正補助トルクの算出を行わず、車両1の速度が小さいときのみ補正補助トルク算出手段による補正補助トルクの算出を行う。これにより、実際のドライビングシーンにおいて急なステアリング操作によるラック6とラックハウジング8との衝突が生じる可能性の高い低速走行時のみ、補助トルクを補正するといった対応をとることができる。
【0103】
(他の実施形態)
上述した複数の実施形態は、構成上の阻害要因がない限り、物理的な構成および機能的な構成にかかわらず、どのように組み合わせてもよい。
【0104】
上述した第3実施形態では、操舵角速度ωが大きいとき(例えばω=ω3のとき)補助トルクを補正する程度を大きくし、操舵角速度ωが小さいとき(例えばω=ω1のとき)補助トルクを補正する程度を小さくする等、操舵角速度に応じてマップ的に補助トルクを補正する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、f(ω)・k(η)のような、ωを変数とする関数(f(ω))を含む補正係数により補正補助トルクを算出することとしてもよい。また、k(η)±f(ω)のような、ωを変数とする関数(f(ω))を加減算した補正係数により補正補助トルクを算出することとしてもよい。
【0105】
また、上述の実施形態では、歯車機構を出力軸に噛み合うよう設け、補助トルクを出力軸に付加するコラムアシスト型のパワーステアリング機構の例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、歯車機構をラックに噛み合うよう設け、補助トルクをラックに付加するラックアシスト型のパワーステアリング機構を構成することとしてもよい。
また、上述の実施形態では、アクチュエータとして電動モータを採用する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、アクチュエータの駆動を任意に制御できるのであれば、アクチュエータとして、電動モータ以外の動力源を採用することとしてもよい。
【0106】
また、本発明の他の実施形態は、出力軸の回転角度である転舵角と入力軸の回転角度である操舵角との比である伝達比を可変にする伝達比可変機構をさらに備えていてもよい。
このように、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で他の種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0107】
1 ・・・・車両
2 ・・・・操舵部材
3 ・・・・入力軸
4 ・・・・出力軸
6 ・・・・ラック
7 ・・・・操舵輪
8 ・・・・ラックハウジング
10 ・・・操舵制御装置
50 ・・・操舵力補助機構
51 ・・・歯車機構
52 ・・・アクチュエータ
31 ・・・トルクセンサ(操舵トルク検出手段)
40 ・・・ECU(基準補助トルク算出手段、補正補助トルク算出手段、補助トルク決定手段、駆動制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員により操舵される操舵部材に連結される入力軸、当該入力軸に接続する出力軸、当該出力軸の回転に伴い長手方向に往復移動するラック、当該ラックの往復移動に伴い転舵する操舵輪、および、前記ラックを往復移動可能に収容するラックハウジングを有する車両に設けられる操舵制御装置であって、
前記出力軸または前記ラックに噛み合う歯車機構と、
前記歯車機構を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータおよび前記歯車機構を駆動することで生じる補助トルクにより、乗員による前記操舵部材の操舵を補助する操舵力補助機構と、
乗員による前記操舵部材の操舵によって前記入力軸に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記操舵トルク検出手段により検出した前記操舵トルクに基づき基準補助トルクを算出する基準補助トルク算出手段と、
前記ラックの位置に基づき前記基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する補正補助トルク算出手段と、
前記ラックの位置に基づき前記基準補助トルクまたは前記補正補助トルクのいずれかを前記補助トルクとして決定する補助トルク決定手段と、
前記補助トルク決定手段により決定した前記補助トルクに基づき前記アクチュエータの駆動を制御する駆動制御手段と、を備え、
前記補正補助トルク算出手段は、
前記ラックが移動可能範囲の一端近傍の所定の第1位置から前記一端側へ移動するに従い、または、前記ラックが移動可能範囲の他端近傍の所定の第2位置から前記他端側へ移動するに従い前記基準補助トルクの値がより小さくなるよう補正することで前記補正補助トルクを算出し、
前記補助トルク決定手段は、
前記ラックが前記第1位置と前記第2位置との間に位置するとき、前記基準補助トルクを前記補助トルクとして決定し、
前記ラックが前記第1位置から前記一端までの間、または、前記第2位置から前記他端までの間に位置するとき、前記補正補助トルクを前記補助トルクとして決定することを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記入力軸の回転角度である操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記操舵角検出手段により検出した前記操舵角に基づき前記ラックの位置を推定するラック位置推定手段と、をさらに備え、
前記補正補助トルク算出手段は、前記ラック位置推定手段により推定した前記ラックの位置に基づき前記基準補助トルクを補正し、
前記補助トルク決定手段は、前記ラック位置推定手段により推定した前記ラックの位置に基づき前記補助トルクを決定することを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記ラックの位置を検出するラック位置検出手段をさらに備え、
前記補正補助トルク算出手段は、前記ラック位置検出手段により検出した前記ラックの位置に基づき前記基準補助トルクを補正し、
前記補助トルク決定手段は、前記ラック位置検出手段により検出した前記ラックの位置に基づき前記補助トルクを決定することを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記入力軸の回転角度である操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記操舵角検出手段により検出した前記操舵角に基づき前記入力軸の角速度である操舵角速度を算出する操舵角速度算出手段と、をさらに備え、
前記補正補助トルク算出手段は、前記ラックの位置と前記操舵角速度算出手段により算出した前記操舵角速度とに基づき前記基準補助トルクを補正し、
前記補助トルク決定手段は、前記ラックの位置と前記操舵角速度算出手段により算出した前記操舵角速度とに基づき前記補助トルクを決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記車両の速度を検出する速度検出手段をさらに備え、
前記補正補助トルク算出手段は、前記ラックの位置と前記速度検出手段により検出した前記車両の速度とに基づき前記基準補助トルクを補正し、
前記補助トルク決定手段は、前記ラックの位置と前記速度検出手段により検出した前記車両の速度とに基づき前記補助トルクを決定することを特徴とする請求項1〜4のいづれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項1】
乗員により操舵される操舵部材に連結される入力軸、当該入力軸に接続する出力軸、当該出力軸の回転に伴い長手方向に往復移動するラック、当該ラックの往復移動に伴い転舵する操舵輪、および、前記ラックを往復移動可能に収容するラックハウジングを有する車両に設けられる操舵制御装置であって、
前記出力軸または前記ラックに噛み合う歯車機構と、
前記歯車機構を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータおよび前記歯車機構を駆動することで生じる補助トルクにより、乗員による前記操舵部材の操舵を補助する操舵力補助機構と、
乗員による前記操舵部材の操舵によって前記入力軸に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記操舵トルク検出手段により検出した前記操舵トルクに基づき基準補助トルクを算出する基準補助トルク算出手段と、
前記ラックの位置に基づき前記基準補助トルクを補正することで補正補助トルクを算出する補正補助トルク算出手段と、
前記ラックの位置に基づき前記基準補助トルクまたは前記補正補助トルクのいずれかを前記補助トルクとして決定する補助トルク決定手段と、
前記補助トルク決定手段により決定した前記補助トルクに基づき前記アクチュエータの駆動を制御する駆動制御手段と、を備え、
前記補正補助トルク算出手段は、
前記ラックが移動可能範囲の一端近傍の所定の第1位置から前記一端側へ移動するに従い、または、前記ラックが移動可能範囲の他端近傍の所定の第2位置から前記他端側へ移動するに従い前記基準補助トルクの値がより小さくなるよう補正することで前記補正補助トルクを算出し、
前記補助トルク決定手段は、
前記ラックが前記第1位置と前記第2位置との間に位置するとき、前記基準補助トルクを前記補助トルクとして決定し、
前記ラックが前記第1位置から前記一端までの間、または、前記第2位置から前記他端までの間に位置するとき、前記補正補助トルクを前記補助トルクとして決定することを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記入力軸の回転角度である操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記操舵角検出手段により検出した前記操舵角に基づき前記ラックの位置を推定するラック位置推定手段と、をさらに備え、
前記補正補助トルク算出手段は、前記ラック位置推定手段により推定した前記ラックの位置に基づき前記基準補助トルクを補正し、
前記補助トルク決定手段は、前記ラック位置推定手段により推定した前記ラックの位置に基づき前記補助トルクを決定することを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記ラックの位置を検出するラック位置検出手段をさらに備え、
前記補正補助トルク算出手段は、前記ラック位置検出手段により検出した前記ラックの位置に基づき前記基準補助トルクを補正し、
前記補助トルク決定手段は、前記ラック位置検出手段により検出した前記ラックの位置に基づき前記補助トルクを決定することを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記入力軸の回転角度である操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記操舵角検出手段により検出した前記操舵角に基づき前記入力軸の角速度である操舵角速度を算出する操舵角速度算出手段と、をさらに備え、
前記補正補助トルク算出手段は、前記ラックの位置と前記操舵角速度算出手段により算出した前記操舵角速度とに基づき前記基準補助トルクを補正し、
前記補助トルク決定手段は、前記ラックの位置と前記操舵角速度算出手段により算出した前記操舵角速度とに基づき前記補助トルクを決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記車両の速度を検出する速度検出手段をさらに備え、
前記補正補助トルク算出手段は、前記ラックの位置と前記速度検出手段により検出した前記車両の速度とに基づき前記基準補助トルクを補正し、
前記補助トルク決定手段は、前記ラックの位置と前記速度検出手段により検出した前記車両の速度とに基づき前記補助トルクを決定することを特徴とする請求項1〜4のいづれか一項に記載の操舵制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−1370(P2013−1370A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138166(P2011−138166)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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