説明

易焼結性炭化ケイ素粉末及び炭化ケイ素セラミックス焼結体

【課題】ほぼ化学量論組成を有するとともに緻密な焼結体が得られる易焼結性炭化ケイ素粉末、比抵抗の低い炭化ケイ素セラミックス焼結体、その製造方法を提供する。
【解決手段】炭素/ケイ素の元素比率が0.96〜1.04であり、かつ、平均粒径が1.0〜100μmであり、かつ、13C-NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが0〜30ppmの範囲における吸収強度の積分値の、0〜170ppmの範囲における吸収強度の積分値に対する比が20%以下であることを特徴とする易焼結性炭化ケイ素粉末。該炭化ケイ素粉末を加圧下で焼結して比抵抗が小さく緻密で純度の高い焼結体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易焼結性炭化ケイ素粉末、その製造方法、炭化ケイ素セラミックス成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素セラミックスは常温及び高温において化学的に安定で、高温における機械的強度も優れているため、高温材料として利用されている。近年では、半導体製造分野において、耐熱性、耐クリープ性に優れた高純度の炭化ケイ素セラミックス焼結体が、半導体ウェハーを熱処理したり、半導体ウェハーに微量元素を熱拡散したりする工程でのボードやプロセスチューブなどに利用されるようになった。
【0003】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は通常炭化ケイ素粉末を焼結して製造される。焼結の原料として用いる炭化ケイ素粉末に半導体に有害な不純物元素が含まれていると、得られる焼結体も該不純物元素を含むため、該焼結体でできた容器などを使用して例えば半導体ウェハーを加熱すると、該不純物元素がウェハーに侵入して汚染が起こる。したがって、このような用途に炭化ケイ素セラミックス焼結体が用いる場合には、原料である炭化ケイ素粉末はできるだけ高純度であることが望まれる。また、原料である炭化ケイ素粉末を構成する元素比率が化学量論的比率よりも炭素元素が過剰であると、得られる炭化ケイ素セラミックス焼結体が遊離炭素を含むことがある。このような遊離炭素を含む焼結体をプラズマ環境下で使用すると、この遊離炭素がパーティクルとして放出され半導体基板を汚染することがある
【0004】
炭化ケイ素粉末を得る方法として、炭素−ケイ素結合を有しないエチルシリケートと有機化合物を混合し加熱、反応させて炭素−ケイ素結合を生成させる方法(特許文献1)、ポリカルボシランを溶融、不融化、加熱分解する方法(特許文献2)が知られている。しかしながらこれらの方法は製造に特別の装置が必要であったり、製造プロセスが煩雑であるという問題があった。さらに、これらの方法により得られる炭化ケイ素粉末は炭素/ケイ素の元素比が化学量論的比率よりもかなり大きいという問題がある。
【0005】
炭化ケイ素粉末を作る方法としては、ハロゲン化シランを1500〜2100℃で熱分解して平均粒径0.2〜0.7μmの炭化ケイ素粉末を製造する方法が知られている(特許文献3)。しかし、この方法で得られる炭化ケイ素粉末は平均粒径が小さすぎるため、焼結して得られる炭化ケイ素セラミックス焼結体の嵩密度が小さくなり、緻密度の高いものを製造するのは困難である。
【0006】
上述したように、原料である炭化ケイ素粉末の元素比率がケイ素元素に対し炭素元素が過剰であると、得られる炭化ケイ素セラミックス焼結体が遊離炭素を含むことがある。このような炭化ケイ素セラミックス焼結体がプラズマ環境下で使用されると、この遊離炭素がパーティクルとして放出され半導体基板を汚染することがある。そこで、この遊離炭素を除去するために酸素プラズマを照射させる方法等が提案されている(特許文献4)。しかしながら、酸素プラズマ照射装置の大きさに制約があり、大型の炭化ケイ素セラミックス焼結体には適さず、工程も煩雑となる。
【0007】
また、炭化ケイ素セラミックス焼結体をボードやプロセスチューブなどに利用する場合、電気抵抗値が高いと静電気により半導体ウェハーへの微細回路形成工程が悪影響を受ける場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−171647号公報
【特許文献2】特開2007-112683号公報
【特許文献3】特開昭59-102809号公報
【特許文献4】特表2007-511911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記従来技術の問題を解決し、ほぼ化学量論組成を有するとともに緻密な焼結体が得られる易焼結性炭化ケイ素粉末、その製造方法、該炭化ケイ素粉末を含む坏土として有用な組成物、比抵抗の低い炭化ケイ素セラミックス焼結体、その製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討を重ねた結果、硬化シリコーン粉末を非酸化性雰囲気下で加熱分解させるより特定の易焼結性炭化ケイ素粉末を得、これを用いて特定の焼結方法を採用することにより上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、第一に、
炭素/ケイ素の元素比率が0.96〜1.04であり、かつ、平均粒径が1.0〜100μmであり、かつ、13C-NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが0〜30ppmの範囲における吸収強度の積分値の、0〜170ppmの範囲における吸収強度の積分値に対する比が20%以下であることを特徴とする易焼結性炭化ケイ素粉末を提供する。
【0012】
本発明は、第二に、
硬化シリコーン粉末を非酸化性雰囲気下で加熱分解することにより炭化ケイ素粉末を得、要すれば該炭化ケイ素粉末を粉砕して所要の平均粒径にする工程を含む請求項1に係る易焼結性炭化ケイ素粉末の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、第三に、
上記の易焼結性炭化ケイ素粉末と、
有機バインダー、炭素粉末又はこれらの組み合わせと、
を含む炭化ケイ素粉末系組成物を提供する。該組成物は坏土として有用である。
【0014】
本発明は、第四に、
炭素/ケイ素の元素比が0.96〜1.04であり、かつ比抵抗が1Ω・cm以下の炭化ケイ素セラミックス焼結体を提供する。
【0015】
本発明は、第五に、
上記の易焼結性炭化ケイ素粉末を加圧下で焼結することを特徴とする、上記の炭素/ケイ素の元素比が0.96〜1.04であり、かつ比抵抗が1Ω・cm以下の炭化ケイ素セラミックス焼結体を製造する方法を提供する。
【0016】
本発明は、上記第五の発明の好適実施形態として、特に、前記の加圧下の焼結により得られた焼結体をその後に大気雰囲気中にて焼成することを含む製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、出発原料が硬化シリコーン粉末であるため、加熱分解するのみで、所要の易焼結性炭化ケイ素粉末を容易に得ることができる。硬化シリコーン粉末は硬化性シリコーン組成物から容易に得られるので、該硬化性シリコーン組成物の段階で純度を高めることにより、高純度の易焼結性炭化ケイ素粉末が提供できる。
【0018】
該炭化ケイ素粉末は焼結性が高く、高純度である。本発明の製造方法による加圧下での焼結によれば、高純度で緻密な、しかも炭素/ケイ素の元素比率がほぼ化学量論比であって遊離の炭素を含まない、比抵抗が低い炭化ケイ素セラミックス焼結体が得られる。
【0019】
かかる加圧下での焼結後に、得た焼結体を大気雰囲気中で焼成すると、炭素/ケイ素の元素比がさらに1.00に近い焼結体となり、純度が向上し比抵抗は低下する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で得られた炭化ケイ素粉末の13C−NMRの測定チャートを示す。
【図2】実施例3で得られた炭化ケイ素粉末の13C−NMRの測定チャートを示す。
【図3】比較例1で得られた炭化ケイ素粉末の13C−NMRの測定チャートを示す。
【図4】比較例2で得られた炭化ケイ素粉末の13C−NMRの測定チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
−易焼結性炭化ケイ素粉末−
本発明の易焼結性炭化ケイ素粉末は、炭素/ケイ素の元素比率が0.96〜1.04であり、かつ、平均粒径が1.0〜100μmであり、かつ、13C-NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが0〜30ppmの範囲における吸収強度の積分値の、0〜170ppmの範囲における吸収強度の積分値に対する比(以下、「積分値比」という)が20%以下であるという特徴を有する。該積分値比が20%を超えると、焼結性が低下し、後述する加圧下での焼結を行っても緻密な焼結体が得られないため、得られる焼結体の比抵抗が大きくなる。
【0022】
本発明の易焼結性炭化ケイ素粉末中の不純物元素は、窒素含有率が0.1質量%未満、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。また、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg及びBの合計含有量が1ppm未満であり、好ましくは0.5ppm以下、さらに好ましくは0.1ppm以下である。本発明の炭化ケイ素粉末の製造方法によればこのように不純物含有量が抑制された炭化ケイ素粉末を得ることができる。
【0023】
本発明の易焼結性炭化ケイ素粉末粒子の平均粒径は1.0〜100μmであり、2.0〜50μmが好ましく、3.0〜20μmがより好ましい。該平均粒径が小さすぎると粉体として嵩密度が小さくなり、作業性が悪くなる。具体的には、該炭化ケイ素粉末又は該炭化ケイ素粉末を含む炭化ケイ素粉末系組成物を加圧下で焼結する際に、カーボン製容器に該炭化ケイ素粉末又は該炭化ケイ素粉末系組成物を封入するのであるが、1.0μm未満の炭化ケイ素粉末粒子50質量%以上含む場合、所望の質量が入りきらないという問題が生じることがある。また、前記の炭化ケイ素粉末系組成物を調製する際にも、1.0μm未満の炭化ケイ素粉末粒子を50質量%以上含む場合、加えなければならない水の量が多くなり、緻密度の高い炭化ケイ素セラミックス焼結体を製造するのは困難となる。また、粉塵として飛散し易くなるため、粉末の取扱性が難しくなる。平均粒径が100μmを超えると、比表面積の割に比重が大きくなり、炭化ケイ素粉末系組成物を調製した場合に他の成分よりも沈降し易く、均一な組成物を製造するのが困難となる。
【0024】
−易焼結性炭化ケイ素粉末の製造方法−
上記の易焼結性炭化ケイ素粉末は、硬化シリコーン粉末を非酸化性雰囲気下で加熱分解し、必要に応じて所望の平均粒径に粉砕することにより製造することができる。
【0025】
・硬化シリコーン粉末:
この方法において出発材料として用いる硬化シリコーン粉末は硬化性シリコーン組成物を成形、硬化することにより製造することができる。
【0026】
硬化シリコーン粉末は後述の熱分解により炭化ケイ素粉末になるとおよそ10〜50体積%収縮するので、平均粒径は1.0〜100μmが好ましく、2.0〜20μmがより好ましい。なお、本明細書で粒子の平均粒径は体積平均粒径を意味し、通常、レーザー回折・散乱式粒子測定装置により測定されたものである。
【0027】
該製造方法で使用される硬化性シリコーン組成物の種類は特に制限されず、いずれの硬化型の硬化性シリコーン組成物も使用することができる。その具体例としては有機過酸化物硬化性、放射線硬化性反応性、付加硬化反性型、縮合硬化型のシリコーン組成物等が挙げられる。得られる炭化ケイ素粉末を高純度にする点では、有機過酸化物硬化性及び放射線硬化性反応性のシリコーン組成物が有利である。
【0028】
該製造方法で使用される硬化性シリコーン組成物の種類は特に制限されず、いずれの硬化型の硬化性シリコーン組成物も使用することができる。その具体例としては有機過酸化物硬化性、放射線硬化性反応性、付加硬化反性型、縮合硬化性のシリコーン組成物等が挙げられる。得られる炭化ケイ素粉末を高純度にする点では、有機過酸化物硬化性及び放射線硬化性反応性のシリコーン組成物が有利であり、得られる炭化ケイ素粉末中の不純物元素の合計含有量を1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下、さらに好ましくは0.1ppm以下に抑制することができる。不純物元素としては、特にFe, Cr, Ni, Al, Ti, Cu, Na, Zn, Ca, Zr, Mg, 及びBが挙げられ、これらの合計含有量を上記のように抑制することができる。
【0029】
有機過酸化物硬化性シリコーン組成物としては、例えば、分子鎖末端部分(片末端又は両末端)及び分子鎖非末端部分のどちらか一方又はその両方にビニル基等のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンを有機過酸化物存在下でラジカル重合させることによって硬化するシリコーン組成物を挙げることができる。
【0030】
放射線硬化性シリコーン組成物としては、紫外線硬化性シリコーン組成物及び電子線硬化性シリコーン組成物を挙げられる。
【0031】
紫外線硬化性シリコーン組成物としては、例えば、波長200〜400nmの紫外線のエネルギーにより硬化するシリコーン組成物が挙げられる。この場合、硬化機構には特に制限はない。その具体例としてはアクリロイル基あるいはメタクリロイル基を有するオルガノポリシロキサンと光重合開始剤とを含有するアクリルシリコーン系シリコーン組成物、メルカプト基含有オルガノポリシロキサンとビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと光重合開始剤とを含有するメルカプト−ビニル付加重合系シリコーン組成物、熱硬化性の付加反応型と同じ白金族金属系触媒を用いた付加反応系シリコーン組成物、エポキシ基を含有するオルガノポリシロキサンとオニウム塩触媒とを含有するカチオン重合系シリコーン組成物などが挙げられ、いずれも紫外線硬化性シリコーン組成物として使用することができる。
【0032】
電子線硬化性シリコーン組成物としては、ラジカル重合性基を有するオルガノポリシロキサンに電子線を照射することで開始するラジカル重合により硬化するいずれのシリコーン組成物も使用することができる。
【0033】
付加硬化性シリコーン組成物としては、例えば、上記のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金族金属系触媒の存在下で反応(ヒドロシリル化付加反応)させることにより硬化するシリコーン組成物を挙げることができる。
【0034】
縮合硬化性シリコーン組成物としては、例えば、両末端シラノール封鎖オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサン又はテトラアルコキシシラン、オルガノトリアルコキシシラン等の加水分解性シラン及び/もしくはその部分加水分解縮合物とを有機錫系触媒等の縮合反応触媒の存在下で反応させることにより硬化するシリコーン組成物、あるいは両末端がトリアルコキシ基、ジアルコキシオルガノ基、トリアルコキシシロキシエチル基、ジアルコキシオルガノシロキシエチル基等で封鎖されたオルガノポリシロキサンを有機錫触媒等の縮合反応存在下で反応させることにより硬化するシリコーン組成物などを挙げることができる。
【0035】
ただし、不純物元素の混入を極力避ける観点から、放射線硬化性シリコーン組成物及び有機過酸化物硬化性シリコーン組成物が望ましい。
【0036】
以下、各硬化性シリコーン組成物について詳述する。
・有機過酸化物硬化性シリコーン組成物:
有機過酸化物硬化性シリコーン組成物として、具体的には、例えば、
(a)ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン及び
(b)有機過酸化物及び任意成分として
(c)ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン 全硬化性シリコーン組成物中のアルケニル基1モル当たり、本(c)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の量が0.1〜2モルとなる量
を含有する有機過酸化物硬化性シリコーン組成物があげられる。
【0037】
・・(a)成分
(a)成分のオルガノポリシロキサンは、有機過酸化物硬化性シリコーン組成物のベースポリマーである。(a)成分のオルガノポリシロキサンの重合度は特に限定されず、(a)成分としては、25℃で液状のオルガノポリシロキサンから生ゴム状のオルガノポリシロキサンまで使用できるが、平均重合度が好ましくは50〜20,000、より好ましくは100〜10,000、更により好ましくは100〜2,000程度のオルガノポリシロキサンが好適に使用される。また、(a)成分のオルガノポリシロキサンは、基本的には、原料の入手のしやすさの観点から、分子鎖がジオルガノシロキサン単位(R1SiO2/2単位)の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(R1SiO1/2)もしくはヒドロキシジオルガノシロキシ基((HO)R1SiO1/2単位)で封鎖された、分岐を有しない直鎖構造、又は分子鎖が該ジオルガノシロキサン単位の繰返しからなる、分岐を有しない環状構造を有するが、三官能性シロキサン単位やSiO単位等の分岐状構造を部分的に含有してもよい。ここで、Rは下に説明する式(1)において定義の通りである。
【0038】
(a)成分としては、例えば下記平均組成式(1);
1SiO(4−a)/2 (1)
(式中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の、炭素原子数が1〜10、より好ましくは1〜8の一価炭化水素基を表し、R1の50〜99モル%はアルケニル基であり、aは1.5〜2.8、より好ましくは1.8から2.5、さらにより好ましくは1.95〜2.05の範囲の正数である。)で示され、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが用いられる。
【0039】
上記R1の具体的例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基これらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換した基例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、高純度の観点から炭化水素基のみで構成されるほうが好ましい。
【0040】
この場合、Rのうち少なくとも2個はアルケニル基(特に、炭素原子が好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6のアルケニル基)である。なお、アルケニル基の含有量はケイ素原子に結合する全有機基中(即ち、前記平均組成式(1)においてRで示される非置換又は置換の全一価炭化水素基中)、好ましくは50〜99モル%、特に好ましくは75〜95モル%である。(a)成分のオルガノポリシロキサンが直鎖状構造を有する場合、このアルケニル基は、分子鎖末端及び分子鎖末端でない部分のどちらか一方でのみケイ素原子に結合していても、その両方でケイ素原子に結合していてもよい。
【0041】
・・(b)成分
(b)成分は、有機過酸化物硬化性オルガノポリシロキサン組成物において(a)成分の架橋反応を促進するための触媒として使用される有機過酸化物である。(b)成分としては、(a)成分の架橋反応を促進することができる限り、従来公知の有機過酸化物を使用することができる。その具体例としては、ベンソイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンソイルパーオキサイド、p−メチルベンソイルパーオキサイド、o−メチルベンソイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−ビス(2,5−t−ブチルパーオキシ)へキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシカルボキシ)へキサン等が挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。
【0042】
(b)成分の添加量は、(a)成分の架橋反応を促進するための触媒としての有効量である。(a)成分100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.2〜2質量部の範囲とすることができる。該添加量が(a)成分100質量部に対して0.1質量部より少なくなる量であると、硬化するまでの時間が長くかかり、経済的に不利である。また、該添加量が(a)成分100質量部に対して10質量部より多くなる量であると(b)成分由来の発泡が生じてしまい、さらに該硬化反応物の強度及び耐熱性が悪影響を受ける。
【0043】
・・(c)成分
任意成分である(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を少なくとも2個(通常2〜200個)、好ましくは3個以上(通常3〜100個)含有する。(a)成分単独でも(b)成分を添加し、加熱することで硬化させることが可能であるが、(c)成分を添加することで、(a)成分単独の場合と比べて、(a)成分と反応しやすいため、より低温かつ短時間で、硬化させることができる。(c)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、線状、環状、分岐状、三次元網状(樹脂状)等の、従来製造されているいずれのオルガノハイドロジェンポリシロキサンも(c)成分として使用することができる。(c)成分が線状構造を有する場合、SiH基は、分子鎖末端及び分子鎖末端でない部分のどちらか一方でのみケイ素原子に結合していても、その両方でケイ素原子に結合していてもよい。また、1分子中のケイ素原子の数(又は重合度)が、通常、2〜300個、好ましくは4〜150個程度であり、室温(25℃)において液状であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、(c)成分として好ましく使用できる。
【0044】
(c)成分としては、例えば、下記平均組成式(2);
SiO(4−b−c)/2 (2)
(式中、Rは同一又は異種の非置換もしくは置換の、脂肪族不飽和結合を含有しない、炭素原子数が1〜10、より好ましくは1〜8の一価炭化水素基であり、b及びcは、好ましくは0.7≦b≦2.1、0.001≦c≦1.0、かつ0.8≦b+c≦3.0、より好ましくは1.0≦b≦2.0、0.01≦c≦1.0、かつ1.5≦b+c≦2.5を満足する正数である。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが用いられる。上記Rとしては、例えば、上記平均組成式(1)中のRと同様の基(ただし、アルケニル基を除く。)が挙げられる。
【0045】
上記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端メチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端メチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端メチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端メチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位と(CHSiO2/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO1/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
【0046】
(c)成分の添加量は、(a)成分100質量部に対して好ましくは0〜100質量部、より好ましくは0〜50質量部の範囲とすることができる。該添加量が(a)成分100質量部に対して100質量部より多くなる量であると(c)成分由来の発泡が生じてしまい、さらに該硬化反応物の強度及び耐熱性が悪影響を受ける。
【0047】
・紫外線硬化性シリコーン組成物:
紫外線硬化性シリコーン組成物として、具体的には、例えば
(d)紫外線反応性オルガノポリシロキサン、及び
(e)光重合開始剤
を含有する紫外線硬化性シリコーン組成物が挙げられる。
【0048】
・・(d)成分
(d)成分の紫外線反応性オルガノポリシロキサンは、通常、紫外線硬化性シリコーン組成物においてベースポリマーとして作用する。(d)成分は、特に限定されず、好ましくは1分子中に少なくとも2個、より好ましくは2〜20個、特に好ましくは2〜10個の紫外線反応性基を有するオルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサン中に複数存在する前記紫外線硬化性基は、すべて同一でも異なっていてもよい。
【0049】
(d)成分のオルガノポリシロキサンは、基本的には、原料の入手のしやすさの観点から、分子鎖(主鎖)がジオルガノシロキサン単位(RSiO2/2単位)の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(RSiO1/2)で封鎖された、分岐を有しない直鎖状構造、又は分子鎖が該ジオルガノシロキサン単位の繰返しからなる、分岐を有しない環状構造を有するが、三官能性シロキサン単位やSiO単位等の分岐状構造を部分的に含有してもよい。ここで、Rは式(1)に関して述べた通りである。(d)成分のオルガノポリシロキサンは、直鎖状構造を有する場合、紫外線反応性基を、分子鎖末端及び分子鎖末端でない部分のどちらか一方にのみ有していても、その両方に有していてもよいが、少なくとも分子鎖両末端に紫外線反応性基を有することが好ましい。
【0050】
該紫外線反応性基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基等のアルケニルオキシ基;アクリロイル基、メタクリロイル基等のアルケニル基以外の脂肪族不飽和基;エポキシ基;ヒドロシリル基等が挙げられ、好ましくはアクリロイル基、メタクリロイル基、メルカプト基、エポキシ基、及びヒドロシリル基が挙げられ、より好ましくはアクリロイル基及びメタクリロイル基が挙げられる。
【0051】
前記オルガノポリシロキサンの粘度は、特に限定されないが、25℃において100mPa.s〜1,000,000mPa.sであることが好ましく、200〜500,000mPa.sであることがより好ましく、200〜100,000mPa.sであることが特に好ましい。
(d)成分の好ましい一形態として例えば、下記一般式(3a);
【0052】
【化1】

【0053】
[式中、Rは同一又は異種の、紫外線反応性基を有しない非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、Rは同一又は異種の、紫外線反応性基を有する基であり、Rは同一又は異種の、紫外線反応性基を有する基であり、mは5〜1,000の整数であり、nは0〜100の整数であり、fは0〜3の整数であり、gは0〜3の整数であり、ただし、f+g+n≧2である]
又は下記一般式(3b);
【0054】
【化2】

【0055】
[式中、R、R、R、m、n、f、gは上記一般式(3a)で定義した通りであり、hは2〜4の整数であり、i及びjは各々1〜3の整数であり、ただしfi+gj+n≧2である]
で表される少なくとも2個の紫外線反応性基を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0056】
上記一般式(3a)及び(3b)中、Rは、同一又は異種の、紫外線反応性基を有しない非置換もしくは置換の一価の、炭素原子数が好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10更により好ましくは、1〜8の一価炭化水素基である。Rで表される一価炭化水素基としては例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基に結合している水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基等で置換した基、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基、3−シアノプロピル基等が挙げられ、好ましくはメチル基及びフェニル基が挙げられ、より好ましくはメチル基が挙げられる。また上記Rで表される一価炭化水素基は、その骨格中にスルホニル基、エーテル結合(−O−)、カルボニル基等を1種又は2種以上有してもよい。
【0057】
上記一般式(3a)及び(3b)中、R及びRに含まれる紫外線反応性基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基等のアルケニルオキシ基;アクリロイル基、メタクリロイル基等のアルケニル基以外の脂肪族不飽和基;メルカプト基;エポキシ基;ヒドロシリル基等が挙げられ、好ましくはアクリロイル基、メタクロイル基、エポキシ基、及びヒドロシリル基が挙げられ、より好ましくはアクリロイル基及びメタクリロイル基が挙げられる。従って、R及びRで表される紫外線反応性基を有する基は、例えば上で例示した紫外線反応基を有する一価の基であり、その具体例としては、ビニル基、アリル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メルカプトプロピル基、2−{ビス(2−メタクリロキシエトキシ)メチルシリル}エチル基、2−{ビス(2−アクリロキシエトキシ)メチルシリル}エチル基、2−{(2−アクリロキシエトキシ)ジメチルシリル}エチル基、2−{ビス(1,3−ジメタクリロキ−2−プロポキシ)メチルシリル}エチル基、2−{(1,3−ジメタクリロキ−2−プロポキシ)ジメチルシリル}エチル基、2−{ビス(1−アクリロキシ−3−メタクリロキ−2−プロポキシ)メチルシリル}エチル基、及び2−{ビス(1−アクリロキシ−3−メタクリロキ−2−プロポキシ)ジメチルシリル}エチル基等が挙げられ、好ましくは3−メタクリロキシプロピル基、3−アクリロキシプロピル基、2−{ビス(2−メタクリロキシエトキシ)メチルシリル}エチル基、2−{ビス(2−アクリロキシエトキシ)メチルシリル}エチル基、2−{(2−アクリロキシエトキシ)ジメチルシリル}エチル基、2−{(1,3−ジメタクリロキ−2−プロポキシ)ジメチルシリル}エチル基、2−{ビス(1−アクリロキシ−3−メタクリロキ−2−プロポキシ)メチルシリル}エチル基、及び2−{ビス(1−アクリロキシ−3−メタクリロキ−2−プロポキシ)ジメチルシリル}エチル基が挙げられる。R及びRは各々同一であっても異なっていてもよく、R及びRどうしが同一であっても異なっていてもよい。
【0058】
上記一般式(3a)及び(3b)中、mは、通常、5〜1,000、好ましくは10〜800、より好ましくは50〜500の整数であり、nは、通常、0〜100、好ましくは0〜50、より好ましくは0〜20の整数であり、fは0〜3、好ましくは0〜2、より好ましくは1〜2の整数であり、gは0〜3、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは1又は2である。上記式(3b)中、hは通常2〜4の整数、好ましくは2又は3である。i及びjは各々1〜3の整数、好ましくは1又は2整数である。更に、上記一般式(3a)及び(3b)で表されるオルガノポリシロキサンは前述の通り、前記紫外線反応性基を少なくとも2個有するので、式(3a)ではf+g+n≧2となり式(3b)ではfi+gj+n≧2となる。
【0059】
上記式(3a)及び(3b)で表されるオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記に示すものなどが挙げられる。
【0060】
【化3】

【0061】
【化4】

【0062】
【化5】

【0063】
【化6】

【0064】
[上記式中、Rは90モル%がメチル基であり、10モル%がフェニル基である]
【0065】
・・(e)成分
(e)成分の光重合開始剤は、前記(d)成分中の紫外線反応性基の光重合を促進させる作用を有する。(e)成分は特に限定されず、その具体例としては、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、キサントール、フルオレイン、ベンズアルデヒド、アンスラキノン、トリフェニルアミン、4−メチルアセトフェノン、3−ペンチルアセトフェノン、4−メトキシアセトフェノン、3−ブロモアセトフェノン、4−アリルアセトフェノン、p−ジアセチルベンゼン、3−メトキシベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−クロロ−4’−ベンジルベンゾフェノン、3−クロロキサントン、3,9−ジクロロキサントン、3−クロロ−8−ノニルキサントン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、ベンジルメトキシアセタール、2−クロロチオキサントン、ジエチルアセトフェノン、1−ヒドロキシクロロフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノ−1−プロパン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン及び2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられ、好ましくは高純度の観点からベンゾフェノン、4−メトキシアセトフェノン、4−メチルベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンが挙げられ、より好ましくはジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンが挙げられる。これらの光重合開始剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0066】
(e)成分の添加量は、特に限定されないが、(d)成分100質量部に対して、好ましくは、0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜3質量部、更により好ましくは0.5〜3質量部である。この添加量がこの範囲内であると、シリコーン組成物の硬化制御が行い易い。
【0067】
・付加硬化性シリコーン組成物:
付加硬化性シリコーン組成物として、具体的には、例えば
(f)ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン、
(g)ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン 全硬化性シリコーン組成物中のアルケニル基1モル当たり、本(g)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の量が0.1〜5モルとなる量、及び
(h)白金族金属系触媒 有効量
を含有する付加硬化性シリコーン組成物が挙げられる。
【0068】
・・(f)成分
(f)成分のオルガノポリシロキサンは、付加硬化性シリコーン組成物のベースポリマーであり、ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個含有する。(f)成分としては公知のオルガノポリシロキサンを使用することが出来る。ゲルパーミッションクロマトグラフィー(以下、「GPC」とする。)により測定された(f)成分のオルガノポリシロキサンの重量平均分子量はポリスチレン換算で好ましくは3,000〜300,000程度である。さらに(f)成分のオルガノポリシロキサンの25℃に置ける粘度は、100〜1,000,000mPa.sであることが好ましく、1,000〜100,000mPa.s程度であることが特に好ましい。100mPa.s以下であると曳糸性が低く、繊維の細径化が困難となり、1,000,000mPa.s以上では取扱が困難となる。(f)成分のオルガノポリシロキサンは、基本的には、原料の入手のしやすさの観点から、分子鎖(主鎖)がジオルガノシロキサン単位(RSiO2/2単位)の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(RSiO1/2)で封鎖された、分岐を有しない直鎖状構造、又は分子鎖が該ジオルガノシロキサン単位の繰返しからなる、分岐を有しない環状構造を有するが、RSiO3/2単位やSiO4/2単位を含んだ分岐状構造を部分的に有してもよい。ここで、Rは下に説明する式(4)に関して述べる通りである。
【0069】
(f)成分としては、例えば下記平均組成式(4);
SiO(4−l)/2 (4)
(式中、Rは、同一又は異種の、非置換もしくは置換の、炭素原子数が1〜10、より好ましくは1〜8の一価炭化水素基であり、lは好ましくは1.5〜2.8、より好ましくは1.8から2.5、さらにより好ましくは1.95〜2.05の範囲の正数である。)で示され、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが用いられる。上記Rとしては、例えば、上記平均組成式(1)中のRについて例示した基が挙げられる。
【0070】
この場合、Rのうち少なくとも2個はアルケニル基(特に、炭素原子が好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6のアルケニル基)である。なお、アルケニル基の含有量はケイ素原子に結合する全有機基中(即ち、前記平均組成式(4)においてRで示される非置換又は置換の全一価炭化水素基中)、好ましくは50〜99モル%、特に好ましくは75〜95モル%である。(f)成分のオルガノポリシロキサンが直鎖状構造を有する場合、このアルケニル基は、分子鎖末端及び分子鎖末端でない部分のどちらか一方でのみケイ素原子に結合していても、その両方でケイ素原子に結合していてもよいが、組成物の硬化速度、硬化物の物性等の点から、少なくとも一個のアルケニル基が分子鎖末端のケイ素原子に結合していることが望ましい。
【0071】
・・(g)成分
(g)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を少なくとも2個(通常2〜200個)、好ましくは3個以上(通常3〜100個)含有する。(g)成分は、(f)成分と反応し架橋剤として作用する。(g)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、線状、環状、分岐状、三次元網状(樹脂状)等の、従来製造されているいずれのオルガノハイドロジェンポリシロキサンも(b)成分として使用することができる。(g)成分が線状構造を有する場合、SiH基は、分子鎖末端及び分子鎖末端でない部分のどちらか一方でのみケイ素原子に結合していても、その両方でケイ素原子に結合していてもよい。また、1分子中のケイ素原子の数(又は重合度)が、通常、2〜300個、好ましくは4〜150個程度であり、室温(25℃)において液状であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、(g)成分として好ましく使用できる。
【0072】
(g)成分としては、例えば、下記平均組成式(5);
SiO(4−p−q)/2 (5)
(式中、Rは同一又は異種の非置換もしくは置換の、脂肪族不飽和結合を有しない、炭素原子数が1〜10、より好ましくは1〜8の一価炭化水素基であり、p及びqは、好ましくは0.7≦p≦2.1、0.001≦q≦1.0、かつ0.8≦p+q≦3.0、より好ましくは1.0≦p≦2.0、0.01≦q≦1.0、かつ1.5≦p+q≦2.5を満足する正数である。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが用いられる。上記Rとしては、例えば、上記平均組成式(1)中のRについて例示した基(ただし、アルケニル基を除く。)が挙げられる。
【0073】
上記平均組成式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端メチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端メチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端メチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端メチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位と(CHSiO2/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO1/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
【0074】
(g)成分の添加量は、全硬化性シリコーン組成物中のアルケニル基1モル当たり、特に、全硬化性シリコーン組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モル当たり、とりわけ、(f)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モル当たり、本(g)成分中のSiH基の量が0.1〜5.0モル、好ましくは0.5〜3.0モル、より好ましくは0.8〜2.0モルとなる量である。このとき、全硬化性シリコーン組成物中に存在するアルケニル基に対する(f)成分中のケイ素原子と結合したアルケニル基の割合は80〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましい。全硬化性シリコーン組成物中にアルケニル基を有する成分として(f)成分しか存在しない場合には、(f)成分中のアルケニル基1モル当たり、本(g)成分中のSiHの量が0.1〜5.0モル、好ましくは0.5〜3.0モル、より好ましくは0.8〜2.0モルとなる量である。該添加量が上記SiHの量が0.1モルより少なくなる量であると、硬化するまでの時間が長くかかり、経済的に不利である。
また、該添加量が上記SiHの量が5.0モルより多くなる量であると該硬化反応物中に脱水素反応による発泡が生じてしまい、さらに該硬化反応物の強度及び耐熱性が悪影響を受ける。
【0075】
・・(h)成分
(h)成分の白金族金属系触媒は、(f)成分と(g)成分との付加硬化反応(ヒドロシリル化反応)を促進させるための触媒として使用される。(h)成分としては、公知の白金族金属系触媒を用いることができるが、白金もしくは白金化合物を用いることがこのましい。(h)成分の具体例としては、白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール変性物、塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類との錯体が挙げられる。
【0076】
(h)成分の添加量は、触媒として有効量であり、希望する硬化反応速度に応じて適時増減すればよいが、(f)成分に対して白金族金属に換算して質量基準で、好ましくは0.1〜1,000ppm、より好ましくは0.2〜100ppmの範囲である。
【0077】
・縮合硬化性シリコーン組成物:
縮合硬化性シリコーン組成物として、具体的には、例えば、
(i)シラノール基(即ちケイ素原子結合水酸基)又はケイ素原子結合加水分解性基を少なくとも2個、好ましくは分子鎖両末端に含有するオルガノポリシロキサン、
(j)任意成分として、加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解縮合物、ならびに
(k)任意成分として、縮合反応触媒
を含有する縮合硬化性シリコーン組成物が挙げられる。
【0078】
・・(i)成分
(i)成分はシラノール基又はケイ素原子結合加水分解性基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンであり、縮合硬化性シリコーン組成物のベースポリマーである。(i)成分のオルガノポリシロキサンは、基本的には、原料の入手のしやすさの観点から、分子鎖(主鎖)がジオルガノシロキサン単位(RSiO2/2単位)の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(RSiO1/2)で封鎖された、分岐を有しない直鎖状構造、又は分子鎖が該ジオルガノシロキサン単位の繰返しからなる、分岐を有しない環状構造を有するが、分岐状構造を部分的に含有してもよい。ここで、Rは非置換もしくは置換の、炭素原子数が1〜10、より好ましくは1〜8の一価炭化水素基を表す。
【0079】
(i)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、シラノール基以外の加水分解性基としては、例えば、アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキし基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基等のケトオキシム基(即ち、イミノキシ基);メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等のアルコキシアルコキシ基;ビニロキシ基、イソプロペニルオキシ基,1−エチル−2−メチルビニルオキシ基等のアルケニルオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基;ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基等のアミノキシ基;N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基等のアミド基等が挙げられる。
【0080】
これらの加水分解性基は、例えば、トリアルコキシシロキシ基、ジアルコキシオルガノシロキシ基、トリアシロキシシロキシ基、ジアシロキシオルガノシロキシ基、トリイミノキシシロキシ基(即ち、トリケトオキシムシロキシ基)、ジイミノキシオルガノシロキシ基、トリアルケノキシシロキシ基、ジアルケノキシオツガノシロキシ基、トリアルコキシシロキシエチル基、ジアルコキシオルガノシロキシエチル基等の、2個もしくは3個の加水分解性基を含有するシロキシ基又は2個もしくは3個の加水分解性基を含有するシロキシアルキル基等の形で直鎖状ジオルガノポリシロキサンの分子鎖両末端に位置していることが望ましい。
【0081】
ケイ素原子に結合した他の一価炭化水素基としては、例えば、上記平均組成式(1)における
について例示したものと同じ非置換又は置換の一価炭化水素基が挙げられる。
(i)成分としては、例えば、
【0082】
【化7】

【0083】
【化8】

【0084】
【化9】

【0085】
【化10】

【0086】
【化11】

【0087】
【化12】

【0088】
[上記の式中、Xは前記シラノール基以外の加水分解性基、aは1、2又は3、n及びmはそれぞれ1〜1,000の整数である]
が挙げられる。
【0089】
(i)成分の具体例としては、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルポリシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルポリシロキサン共重合体、分子鎖両末端2−トリメトキシシロキシエチル基封鎖ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0090】
・・(j)成分
(j)成分の加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解縮合物は任意成分であり、硬化剤として作用する。ベースポリマーである(i)成分がシラノール基以外のケイ素原子結合加水分解性基を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンである場合には、(j)成分を縮合硬化性シリコーン組成物に添加するのを省略することができる。(j)成分としては、1分子中に少なくとも3個のケイ素原子結合加水分解性基を含有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物(即ち、少なくとも1個、好ましくは2個以上の加水分解性基が残存するオルガノポリシロキサン)が好適に使用される。
【0091】
前記シランとしては、例えば、式:
10SiX4−r (6)
(式中、R10は非置換もしくは置換の、炭素原子数が1〜10、より好ましくは1〜8の一価炭化水素基、Xは加水分解性基、rは0又は1である。)で表されるものが好ましく用いられる。前記R10としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基が特に好ましくあげられる。
【0092】
(j)成分の具体的例としては、例えば、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、エチルオルソシリケート等及びこれらの部分加水分解縮合物が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0093】
(j)成分の加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を用いる場合、その添加量は(i)成分100質量部に対して好ましくは0.01〜20質量部、特に好ましくは0.1〜10質量部である。(j)成分を用いる場合、その添加量が上記範囲内にあると本発明組成物の貯蔵安定性及び硬化反応速度は特に良好である。
【0094】
・・(k)成分
(k)成分の縮合反応触媒は任意成分であり、上記(j)成分の加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解縮合物が、例えば、アミノキシ基、アミノ基、ケトオキシム基を有する場合には使用しなくてもよい。(k)成分の縮合反応触媒としては、例えばテトラブチルチタネート、テトライソブロピルチタネート、等の有機チタン酸エステル;ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン等の有機チタンキレート化合物;アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等の有機アルミニウム化合物;ジルコニウムテトラ(アセチルアセトナート)、ジルコニウムテトラブチレート等の有機ジルコニウム化合物;ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジ(2−エチルヘキサノエート)等の有機スズ化合物;ナフテン酸スズ、オレイン酸スズ、ブチル酸スズ、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸亜鉛等の有機カルボン酸の金属塩;アンモニア;へキシルアミン、リン酸ドデシルアミン等のアミン化合物、及びその塩;ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の4級アンモニウム塩;酢酸カリウム、硝酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン:グアニジル基含有有機珪素化合物等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0095】
(k)成分の縮合反応触媒を用いる場合、その添加量は、特に限定されず、触媒としての有効量でよいが、(i)成分100質量部に対して好ましくは0.01〜20質量部、特に好ましくは0.1〜10質量部である。(k)成分を用いる場合、その添加量が上記範囲内にあると、硬化時間と硬化温度の観点から経済的に有利である。
【0096】
・組成物の任意成分:
以上説明した各種硬化型のシリコーン組成物には必要に応じて他の成分を添加することができる。
【0097】
いすれの硬化型にもにも配合できる成分としては、例えば、非酸化性雰囲気下で加熱すると揮発したり、炭化する化合物であり、具体的には、トルエン、キシレン等が挙げられる。また、非酸化性雰囲気下で加熱すると、炭素、酸素、ケイ素からなる化合物となるものであり、具体的には、ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0098】
特に、有機過酸化物硬化型の場合に添加される成分としては、両末端がトリアルコキシ基、ジアルコキシオルガノ基、トリアルコキシシロキシエチル基、ジアルコキシオルガノシロキシエチル基等で封鎖されたオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0099】
放射線硬化型の場合に添加される成分としては、オルガノハイドロジェンシロキサンが挙げられる。
【0100】
付加硬化型の場合に添加される成分としては、有機過酸化物硬化型の場合と同様、両末端がトリアルコキシ基、ジアルコキシオルガノ基、トリアルコキシシロキシエチル基、ジアルコキシオルガノシロキシエチル基等で封鎖されたオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0101】
縮合硬化型の場合に添加される成分としては、オルガノハイドロジェンシロキサン、アルケニル基を有するオルカノポリシロキサンが挙げられる。
【0102】
・硬化方法:
硬化性シリコーン組成物を成形、硬化させるには、従来公知の方法を利用することができる。このような方法として、例えば、硬化性オルガノポリシロキサンを噴霧状態で加熱硬化させる方法(特開昭59-68333号公報)、ホモミキサー、ホモジェナイザー、マイクロフルイダイザー又はコロイドミルを用いて硬化性オルガノポリシロキサンを水中に乳化した後、硬化させる方法(特開昭56-36546号公報、特開昭62-243621号公報、特開昭62-257939号公報、特開昭63-77942号公報、特開昭63-202658号公報、特開平1-306471号公報、特開平3-93834号公報、特開平3-95268号公報、特開平11-293111号公報、特開2001-2786号公報、特開2001-113147号公報)、硬化型オルガノポリシロキサンをノズルを通して水中に投入した後、水中で硬化させる方法(特開昭61-223032号公報、特開平1-178523号公報、特開平2-6109号公報)が提案されている。
【0103】
・硬化シリコーン粉末の炭化ケイ素粉末化:
上記硬化シリコーン粉末は、非酸化性雰囲気下でさらに高温で加熱処理され、加熱分解することにより、炭化ケイ素粉末となる。
【0104】
この加熱処理は非酸化性雰囲気下、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行う。不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられ、特に高純度のもの炭化ケイ素を得るにはアルゴンガスが好ましい。
【0105】
該加熱処理は、例えばカーボン炉内で、1500℃を超え、2300℃以下の範囲の温度で行われる。該加熱処理は二段階で行うことが好ましく、第一段階は無機化の熱処理は400℃〜1500℃の範囲が好ましい。第二段階はカーボン炉で1500℃を超え、2300℃以下の範囲の温度で行われる。この加熱の温度は1600℃以上が好ましい。また、該加熱の温度は2100℃以下が好ましい。この加熱処理によりベースポリマーであるシリコーン樹脂から一酸化ケイ素及び一酸化炭素の脱離が始まる。しかし、この加熱処理の温度が2300℃を超えると、生成する炭化ケイ素の結晶化が進み、前記の積分値比が20%を超え、このような炭化ケイ素粉末は加圧下の焼結に供しても、焼結性が悪いため、得られる焼結体は比抵抗が1Ω・cmを超えるものとなる。
【0106】
・混合による易焼結性炭化ケイ素粉末の調製
本発明の易焼結性炭化ケイ素粉末は上述の製造方法により製造することができるが、場合によっては別の炭化ケイ素粉末を配合して調製してもよい。
【0107】
即ち、積分値比が20%以下である炭化ケイ素粉末50質量%以上100質量%未満と、該積分値比20%を超える炭化ケイ素粉末0質量%を超え、50質量%以下とからなる配合炭化ケイ素粉末が、配合後に全体として該積分値比が20%以下であり、かつ、全体として炭素/ケイ素の元素比率が0.96〜1.04であり、平均粒径が1.0〜100μmである場合には、本発明の易焼結性炭化ケイ素粉末として使用することができる。
【0108】
本発明に係る易焼結性炭化ケイ素粉末と、前記積分値比、炭素/ケイ素の元素比率及び平均粒径の少なくとも1つが本発明の条件を外れる炭化ケイ素粉末とを混合して得られる混合炭化ケイ素粉末が全体としても前記積分値比、炭素/ケイ素の元素比率及び平均粒径の少なくとも1つについての条件を満たさない場合には、該混合炭化ケイ素粉末は本発明の範囲外のものであるが、ある特定の目的、用途において要求される特性を満たす場合にはその限りにおいて使用することが可能である。
【0109】
−炭化ケイ素粉末系組成物−
本発明の炭化ケイ素粉末系組成物は、
上記の易焼結性炭化ケイ素粉末と、
有機バインダー、炭素粉末又はこれらの組み合わせと、
を含む炭化ケイ素粉末系組成物である。
【0110】
有機バインダーは成形を容易にするために配合される。通常、炭化ケイ素粉末100質量部当たり、0〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部が好ましい。有機バインダーとしては、例えばメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができ、メチルセルロースが好ましい。
【0111】
炭素粉末は、必要に応じて、離型性を向上させる目的で加えてもよい。炭素粉末を配合することにより、該組成物をカーボン製容器に入れて加圧下で焼結した場合に、得られる炭化ケイ素セラミックス焼結体とカーボン製容器との離型性が向上する。その際の組成物中の炭素粉末量は炭化ケイ素粉末100質量部に対し0〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。炭素粉末としては、金属不純物を除外されたすなわち高純度化された炭素粉末であれば特に限定されず、具体的には、天然黒鉛パウダー、人造黒鉛パウダー、フフラーレン等が挙げられる
【0112】
この炭化ケイ素粉末系組成物は、炭化ケイ素粉末に、有機バインダー及び/又は炭素粉末を乾式混合することにより炭化ケイ素成形体製造用坏土として調製することができる。必要に応じて、他に、水、可塑剤、潤滑剤、アルコール等を添加することができる。通常、炭化ケイ素粉末に有機バインダー及び/又は炭素粉末を乾式混合し、得られた混合物に、水、又は水に可塑剤、潤滑剤等を混合した混合液体を加えて調製する。得られる混合物を、湿式混合機を用いて混合してもよい。
【0113】
該組成物を次工程でプレス成形に供する場合には該組成物を乾燥し水を蒸発させる。この場合、該組成物を80〜150℃の温度で1〜10時間乾燥することが好ましい。押出成形に供する場合には、上記の組成物をそのまま坏土として用いることができ、その際の組成物中の水分含有量は固形分100質量部に対し、8〜30質量部であることが好ましい。
【0114】
−加圧下の焼結−
本発明によれば、上記の炭化ケイ素セラミックス焼結体の製造方法として、上記の易焼結性炭化ケイ素粉末を加圧下で焼結することを含む製造方法が提供される。
該焼結を行う際には、有機バインダー及び/又は炭素粉末を含む前記組成物として上記の加圧下の焼結に供してもよい。
【0115】
該加圧下の焼結は、非酸化性雰囲気下で行われ、加圧焼結の方法、装置としては、ホットプレス、HIP(Hot Isostatic Press)、プラズマ焼結を用いることが出来る。これらの方法又は装置は一種単独でまたは二種以上併用することも出来る。HIP及びホットプレスが好ましく、HIPがより好ましく、ホットプレスの後にHIPを組み合わせて行うことがさらに好ましい。
非酸化性雰囲気としては、好ましくは不活性ガス雰囲気であり、不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。特に高純度の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得るにはアルゴンガスが好ましい。
【0116】
加圧のレベルは20MPa以上が好ましく、30MPa以上がより好ましい。加圧度の上限は特に制限されないが、通常装置による制約で100MPa以下である。温度は1900〜2400℃の範囲の温度で行われ、1950℃以上がより好ましく、2000℃以上がさらに好ましい。また、2350℃以下がより好ましい。加圧力が20MPa未満の場合には焼結性が悪いため、炭化ケイ素セラミックス焼結体の比抵抗は1Ω・cmを超え、加熱温度が1900℃未満でも同様に比抵抗は1Ω・cmを超え易い。加熱温度が2400℃を超えると、通常焼結装置として用いる炭素炉の材料の分解が激しくなる。
【0117】
本発明の易焼結性炭化ケイ素粉末又は前記の炭化ケイ素粉末系組成物は、坏土として、焼結に供する前に所要の形状に成形し、成形体の状態で前記の加圧下の焼結に供することができる。前記の成形をプレス成形法又は押出成形法により行うことが好ましい。
・プレス成形法:
プレス成形は、例えば、乾燥した前記炭化ケイ素粉末系組成物を金型に充填して、金型を加圧することにより、所望の形状を有する成形体を得ることが出来る。プレス成形は複雑な形状の成形体を得るのに適している。
【0118】
プレス成形は、通常のプレス成形を行った後に、得られた成形体をCIP成形に供することが望ましい。即ち、まず、所要の組成物を室温にて通常のプレス成形に供した後、除圧する。このとき、プレスの圧力は50〜200kgf/cmが好ましい。次に、得られた成形体をCIP成形機(冷間静水等方圧プレス機(Cold Isostatic Press)を用いて加圧する。CIP成形は上記金型と同様の型を持つゴム型に上記加圧成形品を配置し、水等の媒体で上下左右全面から均等に加圧することができ、高密度の成形体を得ることができる。この際のプレス圧は500〜4000kgf/cmが好ましい。
【0119】
・押出成形:
上記炭化ケイ素粉末系組成物を押出成形機に投入し、該成形機のシリンダー内のスクリューを回転させ、組成物を連続的にダイから押出した後、ダイ出口近くに配置した長さ1〜2mの中空の電熱式熱風炉を通過させる。これにより、所望の形状を有する成形体を得ることが出来る。押出成形は棒状、管状又は帯状の長尺物を連続的に成形するのに適している。この場合、電熱式熱風炉の加熱温度は80〜500℃、特に100〜250℃が好ましく、加熱時間は1〜30分間の範囲で選択すればよい。
【0120】
-炭化ケイ素セラミックス焼結体-
以上説明した加圧下の焼結方法によれば、炭素/ケイ素の元素比が0.96〜1.04、好ましくは0.97〜1.03、より好ましくは0.98〜1.02であり、かつ比抵抗が1Ω・cm以下、好ましくは0.5Ω・cm以下の炭化ケイ素セラミックス焼結体が得られる。該焼結体は遊離炭素原子が著しく少なく、比抵抗も小さい。
【0121】
−大気雰囲気加熱−
本発明の加圧焼結法により得られた炭化ケイ素セラミックス焼結体には、焼結の容器として用いた炭素炉の材料由来の炭素分または炉との離型性を向上させる目的で加えた炭素粉末が混入している場合がある。この炭素を除くため大気雰囲気加熱することが望ましい。この加熱処理の温度は500〜1100℃が好ましく、特に600〜1000℃がより好ましい。加熱時間は、炭化ケイ素セラミックス焼結体の大きさに依存して適宜選択すればよいが、通常30分間〜10時間の範囲で選択すればよい。加熱処理は制限されるものではないが通常常圧下でよい。
【実施例】
【0122】
以下に、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
また各測定方法は以下のとおりである。
【0123】
・元素比の測定:
炭素:炭素分析装置(LECO社製、商品名:CS230)
酸素、窒素、水素:酸素、窒素、水素分析装置(LECO社製、商品名:TCH600)
ケイ素:上記以外残分
・平均粒子径の測定:
レーザー回折・散乱式粒子測定装置
13C-NMR積分値の測定:
固体NMR(13C-DDMAS)
・不純物元素の測定:
ICP発光分析(JISR 1616準拠)
・比抵抗の測定:
交流4端子方式(JISR 1661準拠)
【0124】
・焼結体の耐プラズマ試験:
サムコ株式会社製プラズマ処理装置(製品名:RIE−10NR)を使用した。処理室内に石英からなる薄板を置き、その上に焼結体試料を置いた。処理室内にテトラフロロメタン及び酸素をおのおの84mP・m/s(50sccm)の流量で混合ガスとして導入した。真空度10Paの減圧条件にて高周波電力440Wの条件でプラズマを発生させた。該プラズマで前記焼結体試料を10時間処理した。試料に含まれる遊離の炭素分はプラズマにより放出され、処理後に試料を取り除くと上記薄板上に炭素微粉末が凝集し堆積し、黒色汚染が認められる。該黒色汚染の有無を肉眼で観察し判定した。
【0125】
[実施例1]
(炭化ケイ素粉末の製造)
(1)硬化シリコーン粉末の製造:
材料:
(A)下式で表される一分子中にアルケニル基を含有するジメチルポリシロキサン 100質量部、
【0126】
【化13】

【0127】
(式中n、mはn/m=4/1で該シロキサンの25℃における粘度が600mPa.sとなるような数である。)、
(B)ベンゾイルパーオキサイド 0.5質量部
(C)下式で表されるケイ素原子に結合する水素原子を有するジオルガノポリシロキサン 33質量部、
【0128】
【化14】

【0129】
上記の(A)〜(C)成分をプラネタリーミキサー(登録商標、井上製作所(株)製混合機)に投入し室温にて一時間攪拌し、室温で100mPa.sの粘度を有する硬化性シリコーン組成物を得た。この硬化性シリコーン組成物を150℃にて1時間で熱硬化させ、シリコーン硬化物を得た。
このシリコーン硬化物を遊星ボールミル(フリッチュ社製、商品名:P-5型)に加え、200rpmの回転速度にて6時間粉砕を行い、平均粒径12μmの硬化シリコーン粉末を得た。
【0130】
(2)無機粉末の製造:
こうして得られた硬化シリコーン粉末をアルミナボートに入れ、雰囲気炉中で、アルゴンガス雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で室温から1000℃まで約10時間かけて加熱し、続けて1000℃の温度を1時間保持した。その後、200℃/時間の速度で室温まで冷却した。これにより実質的に炭素、ケイ素及び酸素からなる黒色の無機粉末を得た。
【0131】
(3)炭化ケイ素粉末の製造
次に、この黒色無機粉末をカーボン製容器に入れた状態でカーボン炉内で、アルゴンガス雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で17時間かけて温度を1700℃まで高め、その1700℃を1時間保持した後、200℃/時間の速度で室温まで冷却した。こうして緑色の炭化ケイ素粉末を得た。
【0132】
この炭化ケイ素粉末は炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、平均粒径が9μmであり、かつ、積分値比は8%であった。使用した炭化ケイ素粉末について測定した13C-NMRスペクトルのチャートを図1に示す。
【0133】
(4)炭化ケイ素セラミックス焼結体の製造
こうして得られた炭化ケイ素粉末500gを直径50mm×深さ240mmのカーボン型に投入し、ホットプレスを用いて圧力30MPaを加圧したまま、アルゴンガス雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で21時間かけて温度を2100℃まで高め、その1700℃を1時間保持した後、200℃/時間の速度で室温まで冷却し、カーボン型から取り出し、緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0134】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.02であり、比抵抗が4.01×10-2Ω・cm、窒素含有率0.0043質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0135】
[実施例2]
(1)大気中での焼成
実施例1の(4)で得た緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を、大気雰囲気下で300℃/時間の昇温速度で室温から900℃まで約3時間かけて加熱し、続けて900℃の温度を3時間保持し、その後、200℃/時間の速度で室温まで冷却し緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0136】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.00であり、比抵抗が1.93×10-2Ω・cm、窒素含有率0.0005質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0137】
[実施例3]
(炭化ケイ素粉末の製造)
実施例1の(2)で得られた無機粉末をカーボン製容器に入れた状態でカーボン炉内で、アルゴンガス雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で20時間かけて温度を2000℃まで高め、その2000℃を1時間保持した後、200℃/時間の速度で室温まで冷却した以外は、実施例1と同様にして、緑色の炭化ケイ素粉末を得た。この炭化ケイ素粉末は炭素/ケイ素の元素比率が1.00であり、平均粒径が12μmであり、かつ、積分値比は15%であった。測定した13C-NMRスペクトルのチャートを図2に示す。この炭化ケイ素粉末500gを、実施例1と同様にして、緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0138】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、比抵抗が6.04×10-2Ω・cm、窒素含有率0.0013質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0139】
[実施例4]
(1)炭化ケイ素粉末系組成物の調製:
実施例1の(3)で得られた炭化ケイ素粉末100質量部と有機バインダーとしてメチルセルロース(信越化学工業(株)製、商品名:メトローズ)3質量部とを遊星型ボールミルの容器に入れ、室温にて一時間混合を行った。得られた混合粉に水20質量部を加え、混合物をプラネタリーミキサーに投入し、室温にて一時間攪拌して混合物を得た。その後、該混合物を105℃で5時間に渡って加熱し水分を蒸発させ、粉末状の坏土組成物を得た。
【0140】
(2)成形体の製造:
(1)で得た坏土組成物を金型にいれ10MPaの圧力にて5分間プレスを行い、縦40mm×横40mm×厚さ2mmのシート状の成形物を得た。さらにこの成形物をゴム型にいれ、CIP成形機、((株)神戸製鋼所製、商品名:Dr.CIP)により200MPaの圧力にて1時間のプレスを行い、炭化ケイ素成形体を得た。この炭化ケイ素成形体の寸法は縦39mm×横39mm×厚さ2mmであった。
【0141】
(3)炭化ケイ素セラミックス焼結体の製造:
(2)得られた炭化ケイ素成形体をHIP((株)神戸製鋼所製、商品名:SYS50X-SB)を用いて圧力190MPaを加えた状態で、アルゴンガス雰囲気下、600℃/時間の昇温速度で3時間かけて温度を2000℃まで高め、その2000℃を1時間保持した後、室温まで放冷し、緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0142】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体の寸法は縦38mm×横38mm×厚さ2mmであった。また、炭素/ケイ素の元素比率が1.03であり、比抵抗が6.08×10-2Ω・cm、窒素含有率0.0045質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0143】
[実施例5]
(1)大気中での焼成:
実施例4で得られた炭化ケイ素セラミックス焼結体を、大気雰囲気下で300℃/時間の昇温速度で室温から900℃まで約3時間かけて加熱し、続けて900℃の温度を3時間保持し、その後、200℃/時間の速度で室温まで冷却し、緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0144】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、比抵抗が3.08×10-2Ω・cm、窒素含有率0.0038%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0145】
[実施例6]
実施例1の(3)で得られた炭化ケイ素粉末100質量部と有機バインダーとしてメチルセルロース6質量部とを、実施例4と同様にして混合した。得られた混合粉に、潤滑油(日油(株)製、商品名:ユニルーブ)3質量部、可塑剤としてグリセリン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)1質量部、及び水20質量部を加え、これらをプラネタリーミキサーに投入し、室温にて一時間攪拌して坏土組成物を得た。
【0146】
この組成物を押出成形機(宮崎鉄工(株)製、商品名:FM-P20)に投入し、連続的に外径10mm×内径8mmのダイから押出した後、ピアノ線にて長さ10mmの断片に切断し、外径10mm×内径8mm×長さ10mmのパイプ状炭化ケイ素成形体を得た。この成形体を実施例4と同様にして乾燥を行ったところ、緑色の炭化ケイ素成形体を得た。この炭化ケイ素成形体の寸法は外径9.7mm×内径8.7mm×10mmであった。
【0147】
こうして得られた炭化ケイ素成形体を実施例4と同様にHIPにて加圧下で焼結した。得られた焼結体は、外径9.5mm×内径8.5mm×長さ9.9mmで、炭素/ケイ素の元素比率が1.02であり、比抵抗が8.32×10-1Ω・cmm、窒素含有率0.0033質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0148】
[実施例7]
(1)実施例6で得た炭化ケイ素セラミックス焼結体を、大気雰囲気中で、300℃/時の速度で室温から900℃まで約3時間かけて昇温し、その後該温度で3時間加熱を継続した。その後、200℃/時の速度で室温まで冷却した。こうして、外径9.0mm×内径8.2mm×長さ9.3mmの緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.00であり、比抵抗が2.90×10-2Ω・cm、窒素含有率0.0032質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0149】
[実施例8]
実施例1で得られた炭化ケイ素セラミックス焼結体をさらに、HIPを用いて圧力190MPa、アルゴンガス雰囲気下、600℃/時間の昇温速度で3時間かけて温度を2000℃まで高め、その2000℃を1時間保持した後、室温まで放冷し、緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0150】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.00であり、比抵抗が4.33×10-3Ω・cm、窒素含有率0.0041質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0151】
[実施例9]
実施例1の(1)で得られたシリコーン硬化物を遊星ボールミルを用いて200rpmの回転速度にて24時間粉砕を行うことにより平均粒径6μmの硬化シリコーン粉末を得た以外は実施例1と同様に炭化ケイ素粉末を得た。
【0152】
この炭化ケイ素粉末は炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、平均粒径が5μmであり、かつ、積分値比は8%であった。この炭化ケイ素粉末をホットプレスを用いて実施例1と同様にして炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た後、実施例8と同様にHIPを用いて緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0153】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.00であり、比抵抗が5.63×10-2Ω・cm、窒素含有率0.0061質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0154】
[実施例10]
実施例1の(1)で得られたシリコーン硬化物を遊星ボールミルを用いて200rpmの回転速度にて4時間粉砕を行うことにより平均粒径25μmの硬化シリコーン粉末を得た以外は実施例1と同様に炭化ケイ素粉末を得た。
【0155】
この炭化ケイ素粉末は炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、平均粒径が20μmであり、かつ、積分値比は8%であった。この炭化ケイ素粉末をホットプレスを用いて実施例1と同様にして炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た後、実施例8と同様にHIPを用いて緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0156】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、比抵抗が9.94×10-3Ω・cm、窒素含有率0.0032質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0157】
[実施例11]
実施例1の(1)で得られたシリコーン硬化物を遊星ボールミルを用いて300rpmの回転速度にて24時間粉砕を行うことにより平均粒径2.7μmの硬化シリコーン粉末を得た以外は実施例1と同様に炭化ケイ素粉末を得た。
【0158】
この炭化ケイ素粉末は炭素/ケイ素の元素比率が1.00であり、平均粒径が2.5μmであり、かつ、積分値比は8%であった。この炭化ケイ素粉末をホットプレスを用いて実施例1と同様にして炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た後、実施例8と同様にHIPを用いて緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0159】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.00であり、比抵抗が1.14×10-1Ω・cm、窒素含有率0.0055質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0160】
[比較例1]
実施例1で使用した易焼結性炭化ケイ素粉末の代わりに市販の炭化ケイ素粉末(信濃電気精錬(株)製、商品名:GC)を用いた以外は実施例1と同様にホットプレスを用いて加圧焼結処理を行い、青緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。使用した該炭化ケイ素粉末は、炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、平均粒径が10μmであり、積分値比は99%であった。使用した炭化ケイ素粉末について測定した13C-NMRのチャートを図3に示す。
【0161】
得られた炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.02であり、比抵抗が2.86×105Ω・cmと測定された。窒素含有率0.0137質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が100ppmを超えた。
【0162】
[比較例2]
実施例1で使用した易焼結性炭化ケイ素粉末の代わりに市販の炭化ケイ素粉末(シグマアルドリッチジャパン(株)製、商品名:ナノパウダー)を用いた以外は実施例1と同様にホットプレスを用いて加圧焼結処理を試みた。使用した該炭化ケイ素粉末は、炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、平均粒径が100nm未満であり、積分値比は39%であった。使用した炭化ケイ素粉末について測定した13C-NMRのチャートを図4に示す。
【0163】
加圧焼結処理を行うために、まず、該炭化ケイ素粉末の所望量500gを内寸が直径50mm×240mmのカーボン型に投入しようとした。しかし、嵩が大きすぎて入り切らなかったため、投入する炭化ケイ素粉末の量を400gに変更し、その他は実施例1と同様にしてホットプレスを用いて加圧焼結処理を行った。得られた炭化ケイ素セラミックス焼結体は空孔が多く、カーボン型から取り出す際に割れてしまい、物性を測定することはできなかった。
【0164】
[比較例3]
実施例4の(2)で、CIP成形により得た炭化ケイ素成形体を、加圧を行わずにカーボン炉内で、アルゴンガス雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で20時間かけて温度を2000℃まで高め、その2000℃を1時間保持した。その後、200℃/時間の速度で室温まで冷却し、縦39mm×横39mm×厚さ2mmの緑色の炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。この炭化ケイ素セラミックス焼結体は炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、窒素含有率0.0039質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であり、比抵抗が6.02Ω・cmであった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0165】
[比較例4]
実施例6で、押出成形により得た炭化ケイ素成形体を、加圧を行わずにカーボン炉内で、アルゴンガス雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で20時間かけて温度を2000℃まで高め、その2000℃を1時間保持した後、200℃/時間の速度で室温まで冷却し、外径10mm×内径8mm×長さ10mmの炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、比抵抗が2.55×101Ω・cmであり、炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、窒素含有率0.0032質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0166】
[比較例5]
実施例1の(1)で得られたシリコーン硬化物を遊星ボールミルを用いて400rpmの回転速度にて24時間粉砕を行うことにより平均粒径0.6μmの硬化シリコーン粉末を得た以外は実施例1と同様に炭化ケイ素粉末を得た。
【0167】
この炭化ケイ素粉末は炭素/ケイ素の元素比率が1.01であり、平均粒径が0.5μmであり、かつ、積分値比は8%であった。この炭化ケイ素粉末を、実施例1と同様にしてホットプレスを用いて焼結し炭化ケイ素セラミックス焼結体を得た。
【0168】
この炭化ケイ素セラミックス焼結体は、炭素/ケイ素の元素比率が1.02であり、比抵抗が3.05、窒素含有率0.0033質量%、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg、Bの合計含有率が1ppm未満であった。耐プラズマ試験ではまったく汚染は認められなかった。
【0169】
[比較例6]
テトラエトキシシラン(信越化学工業(株)製)100gとフェノール(シグマアルドリッチジャパン(株)製)300gを100℃/時の速度で室温から1000℃まで約10時間かけて昇温し、続けて1000℃の温度で1時間加熱を継続した。その後、200℃/時の速度で室温まで冷却した。これにより実質的に炭素、ケイ素及び酸素からなる黒色の無機粉末を得た。次に、この黒色無機粉末をカーボン製容器に入れた状態でカーボン炉内で、アルゴンガス雰囲気下、100℃/時の速度で17時間かけて1700℃まで昇温し、その1700℃を1時間保持した後、200℃/時の速度で室温まで冷却した。こうして黒色の粉末を得た。この黒色の粉末について元素分析を行ったところC/Si元素比が1.05であった。平均粒径は5.0μmであり、積分値比は99%であった。耐プラズマ試験では黒色微粉末汚染が認められた。
【0170】
こうして得られた黒色の粉末を実施例1と同様にホットプレスを用いて加圧焼結処理を行い、黒色焼結体を得た。この黒色焼結体について元素分析を行ったところC/Si元素比1.05であった。
【0171】
以上の実施例及び比較例の概要を表1及び表2にまとめて示す。
【0172】
【表1】

【0173】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の炭化ケイ素粉末は純粋で特に遊離の炭素が著しく少ない緻密な炭化ケイ素成形体の製造に有用である。該炭化ケイ素成形体は、例えば、半導体装置製造分野において、半導体ウェハーを熱処理したり、半導体ウェハーに微量元素を熱拡散したりする工程においてボード、プロセスチューブなどに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素/ケイ素の元素比率が0.96〜1.04であり、かつ、平均粒径が1.0〜100μmであり、かつ、13C-NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが0〜30ppmの範囲における吸収強度の積分値の、0〜170ppmの範囲における吸収強度の積分値に対する比が20%以下であることを特徴とする易焼結性炭化ケイ素粉末。
【請求項2】
硬化シリコーン粉末を非酸化性雰囲気下で加熱分解することにより炭化ケイ素粉末を得、要すれば該炭化ケイ素粉末を粉砕して所要の平均粒径にする工程を含む請求項1に係る易焼結性炭化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の易焼結性炭化ケイ素粉末と、
有機バインダー、炭素粉末又はこれらの組み合わせと、
を含む炭化ケイ素粉末系組成物。
【請求項4】
炭素/ケイ素の元素比が0.96〜1.04であり、かつ比抵抗が1Ω・cm以下の炭化ケイ素セラミックス焼結体。
【請求項5】
請求項4に係る炭化ケイ素セラミック焼結体であって、窒素含有率が0.1質量%未満であり、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Cu、Na、Zn、Ca、Zr、Mg及びBの合計含有量が1ppm未満である炭化ケイ素セラミックス焼結体。
【請求項6】
請求項1に記載の易焼結性炭化ケイ素粉末を加圧下で焼結することを含む、請求項4又は5に記載の炭化ケイ素セラミックス焼結体を製造する方法。
【請求項7】
請求項6に係る製造方法であって、前記易焼結性炭化ケイ素粉末を、さらに、有機バインダー及び/又は炭素粉末を含む組成物として上記の加圧下の焼結に供する製造方法。
【請求項8】
請求項7又は8に係る製造方法であって、前記の易焼結性炭化ケイ素粉末を、所要の形状に成形した成形体の状態で前記の加圧下の焼結に供する製造方法。
【請求項9】
請求項8に係る製造方法であって、前記の成形をプレス成形法又は押出成形法により行う製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に係る製造方法であって、前記加圧下での焼結が非酸化性雰囲気下、1900〜2400℃の温度、20MPa以上の圧力の条件で行われる製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に係る製造方法であって、前記の加圧下の焼結により得られた焼結体をその後に大気雰囲気中にて焼成することを含む製造方法。
【請求項12】
請求項11に係る製造方法であって、前記の焼成を500〜1100℃の温度で行う製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188299(P2012−188299A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50581(P2011−50581)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】