説明

車両用操舵装置

【課題】伝達比可変機構の動作によって生じる操舵反力を測定するために用いられるトルクセンサが不要となり、トーションバーが不要となる車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】目標act角演算部51は、act角θactの目標値である目標act角θactを演算する。制御信号出力部52は、目標act角演算部51によって演算された目標act角θactに基づいて、伝達比変更用モータ20の駆動回路29を制御する。目標反力補償角演算部61は、目標act角演算部51によって演算された目標act角θactが零でない場合には、目標act角θactに基づいて反力補償用モータ25の目標回転角である目標反力補償角θrecを演算する。制御信号出力部62は、目標反力補償角演算部61によって演算された目標反力補償角θrecに基づいて、反力補償用モータ25を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1,2には、操舵部材の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比を変更する伝達比可変機構と、伝達比可変機構の動作に関連して操舵部材の操舵反力を補償するための反力補償用モータとを備えた車両用操舵装置が開示されている。伝達比可変機構は、操舵部材に連結される第1シャフトと舵取機構に連結される第2シャフトを差動可能に連結する遊星ギヤ機構と、遊星ギヤ機構を駆動する伝達比変更用モータとを含む。伝達比可変機構は、操舵部材の操作に基づく第2シャフトの回転角に、モータ駆動に基づく第2シャフトの回転角(act角)を上乗せすることにより、第1シャフトの回転角(操舵角に相当する)に対する第2シャフトの回転角(転舵角に相当する)の比を可変させる。
【0003】
反力補償用モータは、たとえば、操舵トルクセンサによって検出される第1シャフトに加えられる操舵トルクに基づいて制御される。具体的には、伝達比変更用モータが駆動されている場合に、伝達比可変機構の動作によって生じる操舵反力が操舵トルクセンサによって測定され、測定された操舵反力に基づいて反力補償用モータが制御される。第1シャフトは、トーションバー(捩れ要素)によって連結された2つのシャフトを含んでいる。操舵トルクセンサは、トーションバーの捩れによる2つのシャフト間の回転方向の相対的な変位を検出することによって、操舵トルクを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-101800号公報
【特許文献2】特開2005-343205号公報
【特許文献3】特開2006-341814号公報
【特許文献4】特開2009-101885号公報
【特許文献5】特開2005-297715号公報
【特許文献6】特開2007-76618号公報
【特許文献7】EP1870313B1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の車両用操舵装置では、伝達比変更用モータが駆動されている場合には、操舵トルクセンサによって測定された操舵反力に基づいて、反力補償用モータが制御される。このため、操舵部材に連結されるシャフトにトーションバーを設ける必要があるため、そのシャフトの剛性が低下するという問題がある。
この発明の目的は、伝達比可変機構の動作によって生じる操舵反力を測定するために用いられるトルクセンサが不要となり、トーションバーが不要となる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、操舵部材(2)に連結される第1シャフト(11)と舵取機構(10)に連結される第2シャフト(12)との間の回転の伝達比を変更するための伝達比可変機構(6)と、前記伝達比可変機構の伝達比を変更する第1モータ(20)と、前記第1モータが回転されているときに前記操舵部材に加わる操舵反力を増減する第2モータ(25)と、前記第1モータの目標回転角である第1目標回転角(θact)を演算する第1目標回転角演算手段(51)と、前記第1目標回転角演算手段によって演算された第1目標回転角に基づいて、前記第1モータを制御する第1制御手段(52)と、前記第1モータが回転されるときに、前記第1目標回転角に基づいて、前記第2モータの目標回転角である第2目標回転角(θrec)を演算する第2目標回転角演算手段(61)と、前記第2目標回転角演算手段によって演算された第2目標回転角に基づいて、前記第2モータを制御する第2制御手段(62)と含み、前記操舵部材と前記伝達比可変機構との間に、操舵トルク検出のための捩れ要素を含まない、車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0007】
第1モータが回転されることにより、第1シャフトと第2シャフトとの間の回転の伝達比が変更された場合には、運転者に違和感を与えるおそれがある。この発明では、第1モータが回転されるときには、第1モータの目標回転角である第1目標回転角に基づいて、第2モータの目標回転角である第2目標回転角が演算される。そして、得られた第2目標回転角に基づいて第2モータが制御される。これにより、操舵トルクセンサを用いることなく、第1モータの回転によって操舵部材に加えられる操舵反力に応じて、第2モータを制御できる。このため、第1モータが回転されているときに、運転者に与えられる違和感を低減できる。また、第2目標回転角を演算するために操舵トルクを検出する必要がなくなるので、第1シャフトにトーションバーを設けなくてもよい。このため、第1シャフトの剛性を高めることができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記第2目標回転角演算手段は、前記第1目標回転角に所定の定数を乗算することにより、第2目標回転角を演算する、請求項1に記載の車両用操舵装置である。この構成では、第1目標回転角に所定の定数が乗算されることによって、第2目標回転角が演算される。
請求項3記載の発明は、前記所定の定数の符号は負である、請求項2に記載の車両用操舵装置である。この構成では、第1モータの回転によって操舵部材に加えられる操舵反力を打ち消す方向に、第2モータが回転される。これにより、第1モータが回転されているときに、運転者に与えられる違和感を低減できる。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記第2目標回転角は、予め作成された第1目標回転角に対する第2目標回転角を記憶したマップに基づいて求められる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置である。この構成では、第1目標回転角に対する第2目標回転角を記憶したマップに基づいて第2目標回転角が求められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】制御部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】第1制御部および第2制御部の動作を示すフローチャートである。
【図4】目標act角および目標反力補償角の変化を示すグラフである。
【図5】アクティブ制御の例を説明するための模式図である。
【図6】マップとして記憶される目標act角θactに対する目標反力補償角θrec*の関係の具体例を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と、操舵部材2に連なるステアリングシャフト3とを有している。ステアリングシャフト3は、第1シャフト11と第1シャフト11と同軸上に配置された第2シャフト12を含んでいる。第1のシャフト11の一端に操舵部材2が同行回転可能に連結されている。第1のシャフト11の他端と第2のシャフト12の一端とは、伝達比可変機構6を介して差動回転可能に連結されている。第2のシャフト12の他端は、自在継手7、中間軸8、自在継手9および舵取機構10を介して、転舵輪4L,4Rと連なっている。
【0012】
舵取機構10は、自在継手9に連なるピニオン軸15と、ピニオン軸15の先端のピニオン15aに噛み合うラック16aを有し車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸16と、ラック軸16の一対の端部のそれぞれにタイロッド17L,17Rを介して連結されるナックルアーム18L,18Rとを有している。
上記の構成により、操舵部材2の回転は、ステアリングシャフト3等を介して舵取り機構10に伝達される。舵取り機構10では、ピニオン15aの回転がラック軸16の軸方向の運動に変換され、各タイロッド17L,17Rを介して対応するナックルアーム18L,18Rがそれぞれ回動する。これにより、各ナックルアーム18L,18Rに連結された対応する転舵輪4L,4Rがそれぞれ操向する。
【0013】
伝達比可変機構6は、第1シャフト11の回転角(操舵角θsに相当する)に対する第2シャフト12の回転角(転舵角θtに相当する)の比(伝達比θt/θs)を変更するためのものである。伝達比可変機構6は、第1シャフト11および第2シャフト12を差動回転可能に連結する差動機構としての遊星ギヤ機構19と、遊星ギヤ機構19を駆動する伝達比変更用モータ(第1モータ)20とを有している。
【0014】
遊星ギヤ機構19は、第1シャフト11に同行回転可能に連結された第1のサンギヤ21と、第1のサンギヤ21と相対向して配置され、第2シャフト12に同行回転可能に連結された第2のサンギヤ22と、第1および第2のサンギヤ21,22の双方に噛み合う遊星ギヤ23と、遊星ギヤ23をその軸線回りに自転可能かつ第1および第2のサンギヤ21,22の軸線回りに公転可能に保持するキャリア24とを含む。
【0015】
第1および第2のサンギヤ21,22ならびに遊星ギヤ23は、例えば、ねじれ歯車を用いて形成されており、遊星ギヤ23が各サンギヤ21,22に噛み合っている。なお、ねじれ歯車に代えて、はすば歯車や平歯車等の他の平行軸歯車を用いてもよい。
遊星ギヤ23は、第1および第2のサンギヤ21,22を互いに関連付けるためのものであり、ステアリングシャフト3の周方向に等間隔に複数(本実施形態において、2つ)配置されている。各遊星ギヤ23の軸線は、ステアリングシャフト3の軸線Aと平行に延びている。キャリア24は、ステアリングシャフト3の軸線Aの回りを回転可能である。
【0016】
伝達比変更用モータ20は、キャリア24を回転駆動するためのものであり、軸線A回りに関するキャリア24の回転数を変更することで、伝達比θt/θsを変更するものである。伝達比変更用モータ20は、たとえば、ブラシレスモータからなり、ステアリングシャフト3と同軸に配置されている。伝達比変更用モータ20は、キャリア24に同行回転可能に連結されたロータ201と、このロータ201を取り囲みハウジング26に固定されたステータ202とを含んでいる。伝達比変更用モータ20の近傍には、伝達比変更用モータ20の回転角を検出するための、たとえばレゾルバからなる回転角センサ35が配置されている。
【0017】
車両用操舵装置1は、伝達比変更用モータ20が回転しているときに操舵部材2に加わる操舵反力を増減するための反力補償用モータ(第2モータ)25を備えている。反力補償用モータ25は、たとえば、ブラシレスモータからなり、ステアリングシャフト3と同軸に配置されている。反力補償用モータ25は、第1シャフト11に同行回転可能に連結されたロータ251と、このロータ251を取り囲みハウジング26に固定されたステータ252とを含んでいる。反力補償用モータ25の近傍には、反力補償用モータ25の回転角を検出するための、たとえばレゾルバからなる回転角センサ36が配置されている。
【0018】
この実施形態では、操舵部材2の操作によって第1シャフト11が回転されると、第1のサンギヤ21、遊星ギヤ23および第2のサンギヤ22を経て、第2シャフト12が第1シャフト11と等速度で回転する。また、伝達比変更用モータ20が駆動されると、キャリア24が回転し、遊星ギヤ23および第2のサンギヤ22を経て、第2シャフト12が増速回転する。つまり、伝達比変更用モータ20が回転駆動された場合(アクティブ制御が行なわれた場合)には、操舵部材2の操作に基づく第2シャフト12の回転角(この実施形態では操舵角θsと等しい)に、モータ駆動に基づく第2シャフト12の回転角(以下、「act角θact」という)を上乗せすることにより、第1シャフト11の回転角である操舵角θsに対する第2シャフト12の回転角(θr=θs+θact)の比θr/θsを可変させる。なお、「上乗せ」とは、加算する場合のみならず減算する場合も含まれる。
【0019】
上記伝達比変更用モータ20および反力補償用モータ25の駆動は、制御部28によって制御される。制御部28は、駆動回路29を介して伝達比変更用モータ20と接続され、駆動回路30を介して反力補償用モータ25と接続されている。制御部28には、操舵角センサ31、転舵角センサ32、車速センサ33、ヨーレートセンサ34、回転角センサ35,36がそれぞれ接続されている。
【0020】
操舵角センサ31は、操舵部材2の直進位置からの操作量である操舵角θs(第1シャフト11の回転角)を検出する。転舵角センサ32は、転舵角θt(第2シャフト12の回転角)を検出する。車速センサ33は、車速Vを検出する。ヨーレートセンサ34は、車両のヨーレートRyを検出する。制御部28は、各上記センサ31〜36の信号等に基づいて、伝達比変更用モータ20および反力補償用モータ25の駆動を制御する。
【0021】
図2は、制御部28の概略構成を示すブロック図である。
制御部28は、伝達比変更用モータ20を制御するための第1制御部50と、反力補償用モータ25を制御するための第2制御部60とを備えている。各制御部50,60は、CPUとこのCPUの動作プログラム等を記憶したメモリとを含むマイクロコンピュータで構成されている。
【0022】
第1制御部50は、メモリに格納された所定の動作プログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、目標act角演算部51と、制御信号出力部52とが含まれる。目標act角演算部51は、操舵角センサ31によって検出される操舵角θs、転舵角センサ32によって検出される転舵角θt、車速センサ33によって検出される車速V、ヨーレートセンサ34によって検出されるヨーレートRy等の車両状態量に基づいて、目標act角θactを演算する。目標act角演算部51は、たとえば、前記特許文献3に記載された演算方法と同様な方法によって、目標act角θactを演算してもよい。
【0023】
目標act角演算部51は、たとえば、前記特許文献3に記載されたIFS制御演算部のように、いわゆるアクティブステア機能、すなわち、車両モデルに基づき車両のヨーモーメントを制御するためのact角θactの目標値である目標act角θactを演算するものであってもよい。この場合には、目標act角演算部51は、アクティブステア機能を実現するための目標act角θactを演算する。具体的には、たとえば、目標act角演算部51は、ステア特性がアンダーステアである場合には、転舵輪17L,17Rの切れ角が小さくなるような目標act角θactを演算する。一方、ステア特性がオーバーステアである場合には、目標act角演算部51は、転舵輪4L,4Rにヨーモーメントの方向と逆方向の舵角(カウンタステア)を与えるための目標act角θactを演算する。
【0024】
なお、アンダーステアとは、運転者の想定する車両旋回角度よりも実際の車両旋回角度が小さい場合をいう。また、オーバーステアとは、運転者の想定する車両旋回角度よりも実際の車両旋回角度が小さい場合をいう。運転者の想定する車両旋回角度と実際の車両旋回角度とが同じ場合を、ニュートラルステアという。運転者の想定する車両旋回角度は、車両モデルでは理論値と置き換えることができる。
【0025】
制御信号出力部52は、目標act角演算部51によって演算された目標act角θactと、回転角センサ35によって検出された伝達比変更用モータ20の回転角から求められる実際のact角(実act角θact)とに基づいて、実act角θactが目標act角θactに追従するように、電流指令値を生成する。そして、制御信号出力部52は、電流指令値に応じた制御信号を、駆動回路29に与える。駆動回路29からは、制御信号に応じた駆動電力が伝達比変更用モータ20に供給される。これにより、伝達比変更用モータ20が駆動される。
【0026】
第2制御部60には、メモリに格納された所定の動作プログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、目標反力補償角演算部61と、制御信号出力部62とが含まれる。目標反力補償角演算部61には、第1制御部50内の目標act角演算部51によって演算された目標act角θactが与えられる。目標反力補償角演算部61は、第1制御部50から与えられた目標act角θactが零でない場合には、つまり、アクティブ制御が行なわれている時には、次式(1)に基づいて、反力補償用モータ25の目標回転角である目標反力補償角θrecを演算する。
【0027】
θrec=k×θact …(1)
kは定数であり、この実施形態では、その符号は負である。たとえば、kは、−1≦k≦−0.1の範囲内の値であってもよい。より具体的には、kは、たとえば、−1,−0.9,−0.8などの値であってもよい。
制御信号出力部62は、目標反力補償角演算部61によって演算された目標反力補償角θrecと、回転角センサ36によって検出された反力補償用モータ25の回転角とに基づいて、反力補償用モータ25の実際の回転角(実回転角)が目標反力補償角θrecに追従するように、電流指令値を生成する。そして、制御信号出力部62は、電流指令値に応じた制御信号を、駆動回路30に与える。駆動回路30からは、制御信号に応じた駆動電力が反力補償用モータ25に供給される。これにより、反力補償用モータ25が駆動される。
【0028】
図3は、第1制御部50および第2制御部60の動作を示すフローチャートである。
第1制御部50は、所定の演算周期毎に、図3に示されるステップS1〜S3の処理を実行する。第1制御部50内の目標act角演算部51は、アクティブステア機能を実現するための目標act角θactを演算する(ステップS1)。目標act角演算部51は、得られた目標act角θactを第1制御部50内の制御信号出力部52に与えるとともに、得られた目標act角θactを第2制御部60内の目標反力補償角演算部61に伝達する(ステップS2)。制御信号出力部52は、回転角センサ35の出力信号に基づいて演算される実act角θactが、目標act角演算部51から与えられた目標act角θactに追従するように、駆動回路29を制御する(ステップS3)。
【0029】
第2制御部60内の目標反力補償角演算部61は、第1制御部50から伝達された目標act角θactが零であるか否かを監視する(ステップS11)。つまり、アクティブ制御が行なわれているか否かを判別する。第1制御部50から伝達された目標act角θactが零である場合、つまり、アクティブ制御が行なわれていない場合には(ステップS11:YES)、ステップS11に戻る。第1制御部50から伝達された目標act角θactが零でない場合、つまり、アクティブ制御が行なわれている場合には(ステップS11:NO)、目標反力補償角演算部61は、当該目標act角θactと前記式(1)とに基づいて、目標反力補償角θrecを演算する(ステップS12)。この後、第2制御部60内の制御信号出力部62は、回転角センサ36の出力信号に基づいて演算される反力補償用モータ25の実際の回転角が、目標反力補償角演算部61によって演算された目標反力補償角θrecに追従するように、駆動回路30を制御する(ステップS13)。
【0030】
図4は、目標act角θactおよび目標反力補償角θrecの変化を示すグラフである。図4において、破線の曲線が目標act角θactの変化を示し、実線の曲線が目標反力補償角θrecの変化を示している。
アクティブ制御時には、目標反力補償角θrecは、目標act角θactに対して符号が反対の回転角となる。したがって、アクティブ制御時においては、反力補償用モータ25は、伝達比変更用モータ20の回転方向と反対方向に回転される。これにより、伝達比変更用モータ20が回転することによって生じる操舵反力を打ち消す方向に、反力補償用モータ25が回転する。この結果、アクティブ制御時において運転者に与えられる違和感を低減できる。また、アクティブ制御時に操舵反力を測定するために従来使用されていた操舵トルクセンサが不要となる。このため、第1シャフト11にトーションバーを設けなくても良いから、第1シャフト11の剛性を高めることができる。
【0031】
図5は、アクティブ制御の例を説明するための模式図である。車両71が運転者の意図している進行方向に沿って走行している場合(θact=0)において、障害物(またはμスプリット)72により、車両71の向きがたとえば本来の進行方向に対して左方向に変化したとする。そうすると、前述したアクティブステア機能により、伝達比変更用モータ20が駆動され、車両71の向きが右方向に変化させられる(θact=x(x≠0))。この際、第2シャフト12側から伝達比可変機構6に伝達される操舵反力を打ち消すように、反力補償用モータ25が駆動される。これにより、アクティブ制御時に運転者に与えられる違和感が低減される。そして、車両71が正しい軌道に戻されると、アクティブ制御が停止される(θact=0)。
【0032】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、目標反力補償角演算部61は、目標act角θactと定数kとに基づいて(前記式(1)に基づいて)、目標反力補償角θrecを演算している。しかし、目標反力補償角演算部61は、目標act角θactを伝達比θt/θsを用いて第1シャフト11の回転角に換算した値と、定数kとに基づいて目標反力補償角θrecを演算してもよい。具体的には、目標act角θactを第1シャフト11の回転角に換算した値は、θact×θs/θtとなる。そこで、目標反力補償角演算部61は、次式(2)に基づいて、目標反力補償角θrecを演算してもよい。
【0033】
θrec=k×θact×θs/θt …(2)
kは定数であり、その符号は負であり、たとえば、kは、−1≦k≦−0.1の範囲内の値であってもよい。より具体的には、kは、たとえば、−1,−0.9,−0.8などの値であってもよい。
また、目標反力補償角演算部61は、予め作成された目標act角θactに対する目標反力補償角θrec*を記憶したマップに基づいて、目標反力補償角θrecを求めてもよい。マップとして記憶される目標act角θactに対する目標反力補償角θrec*の関係は、たとえば、図6に直線aまたは曲線b〜dで示されるような関係であってもよい。図6に示される直線aまたは曲線b〜dでは、全て目標act角θactが正の方向に大きくなるほど、目標反力補償角θrec*が負の方向に大きくなる。ただし、直線aは、目標act角θactに対して目標反力補償角θrec*が線形に変化する例を示しており、曲線b〜dは、それぞれ目標act角θactに対して目標反力補償角θrec*が非線形に変化する例を示している。
【0034】
トーションバー(捩れ要素)が第1シャフト11に設けられていると仮定した場合の操舵トルク伝達に関する時定数を考慮して、目標act角θactに対する目標反力補償角θrec*のマップを作成すると、反力補償用モータ25によって操舵反力を補償する際に、第1シャフト11にトーションバーが設けられている場合と同様なフィーリングを運転者に与えることが可能となる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0035】
2…操舵部材、6…伝達比可変機構、10…舵取機構、11…第1シャフト、12…第2シャフト、20…伝達比変更用モータ、25…反力補償用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材に連結される第1シャフトと舵取機構に連結される第2シャフトとの間の回転の伝達比を変更するための伝達比可変機構と、
前記伝達比可変機構の伝達比を変更する第1モータと、
前記第1モータが回転されているときに前記操舵部材に加わる操舵反力を増減する第2モータと、
前記第1モータの目標回転角である第1目標回転角を演算する第1目標回転角演算手段と、
前記第1目標回転角演算手段によって演算された第1目標回転角に基づいて、前記第1モータを制御する第1制御手段と、
前記第1モータが回転されるときに、前記第1目標回転角に基づいて、前記第2モータの目標回転角である第2目標回転角を演算する第2目標回転角演算手段と、
前記第2目標回転角演算手段によって演算された第2目標回転角に基づいて、前記第2モータを制御する第2制御手段とを含み、
前記操舵部材と前記伝達比可変機構との間に、操舵トルク検出のための捩れ要素を含まない、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記第2目標回転角演算手段は、前記第1目標回転角に所定の定数を乗算することにより、第2目標回転角を演算する、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記所定の定数の符号は負である、請求項2に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記第2目標回転角は、予め作成された第1目標回転角に対する第2目標回転角を記憶したマップに基づいて求められる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−40932(P2012−40932A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183253(P2010−183253)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】