説明

車両統合制御装置

【課題】左右輪差動制限機構の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制し、運転者のステアリング操作時の違和感を解消し、走破性と安定性とを両立させる。
【解決手段】電子制御式の左右輪差動制限機構81の拘束トルク制御量に比例して拘束トルク比例制御手段201が操舵力制御機構へ出力させる付加トルクと、操舵反力フィードバック制御手段204が操舵力制御機構へ出力させる、演算した操舵系反力を打ち消す方向の付加トルクとの割合を、前記左右前輪の回転速度差に応じて切り替える第1の前輪左右速差補正係数規定手段202、第2の前輪左右速差補正係数規定手段205、第1の乗算処理手段203、第2の乗算処理手段206および加算手段207とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の姿勢が不安定になる状況下での車両走行、例えば右前輪と左前輪の路面摩擦係数が異なる悪路での左右輪差動制限機構作動時の操舵トルク変化によるハンドル取られの現象の発生を抑制し、車両の走行性能と安定性を向上させた車両統合制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のパワーステアリングにおいて、運転者のステアリング操作による操舵トルクの補助として、電動モータの力によりステアリングの操作に対して付与される操舵アシストトルクを付加することで操舵力を制御可能な操舵補助機構である電動パワーステアリングが採用されている。
この電動パワーステアリングは、油圧パワーステアリング等に比べ電動モータの抵抗等によりフリクションが大きく、ステアリングが中立位置に戻りにくいことから、ステアリング操作時に操舵車輪の左右車輪速差を用いて、ステアリングを中立位置に戻す方向に操舵補助力を付加するように電動パワーステアリングを制御する技術が提案されている。
車両の走行性能向上をねらい左右輪差動制限機構を備える車両では、旋回走行中や左右のタイヤで路面摩擦が異なるμスプリット路走行中などに左右輪差動制限機構が作動した場合、ハンドル取られが発生し、運転者に対してステアリング操作時の違和感を与えることが懸念される。
そこで、このような左右輪差動制限機構を使用する車両における操舵力制御機構としては、左右輪差動制限機構作動時の拘束トルク分に応じて操舵補助機構である電動パワーステアリングを制御し、操舵トルク変化によるハンドル取られ現象の発生を抑制し、運転者のステアリング操作時の違和感を解消するようにしたものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3401336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際の操舵トルク変化は、左右輪差動制限機構の拘束トルクではなく左右輪の駆動力差に比例するため、上記従来技術のように左右輪差動制限機構の拘束トルクに比例した制御を行うと、その制御量が過剰となったり、あるいは不足することになる。また、左右輪差動制限機構ロック状態すなわち左右直結状態においては、操舵トルク変化の方向や量が不明であり、操舵補助装置である電動パワーステアリングによる制御が困難となるなど、運転者のステアリング操作時の違和感を解消するには不十分であるという課題があった。
また、一般的な機械式左右輪差動制限機構による操舵トルク変化の推定は困難であり、同時に操舵トルク変化を電動パワーステアリングで抑制することも困難である。
一方で、左右輪差動制限機構の拘束トルクを自在に制御可能な電子式フロント左右輪差動制限機構を想定すれば、左右輪差動制限機構による操舵トルク変化が容易に推定できる左右輪差動制限機構の制御ロジックを適用することで、操舵トルク変化を精度よく推定することができる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、左右輪差動制限機構の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制し、運転者のステアリング操作時の違和感を解消し、滑りやすい路面においても安全にパワフルな発進を実現できる車両統合制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、左右前輪の拘束トルクを制御する電子制御式左右輪差動制限機構と、操舵補助力を付加する操舵力制御機構と、前記左右前輪の回転速度差を検出する車輪速差検出手段とを備えた車両の車両統合制御装置であって、前記電子制御式左右輪差動制限機構の拘束トルク制御量に比例した比例操舵補助力を、前記車輪速差検出手段が検出した前記左右前輪の回転速度差に応じた方向へ前記操舵補助力として付加するよう前記操舵力制御機構に出力させる拘束トルク比例制御手段と、操舵系反力を演算し、前記操舵系反力を打ち消す反力打消操舵補助力を、前記操舵系反力を打ち消す方向へ前記操舵補助力として付加するよう前記操舵力制御機構に出力させる操舵反力フィードバック制御手段と、前記操舵補助力の内、前記比例操舵補助力と前記反力打消操舵補助力との割合を前記左右前輪の回転速度差に応じて切り替える切替手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電子制御式左右輪差動制限機構の拘束トルク制御量に比例した比例操舵補助力を、車輪速差検出手段が検出した左右前輪の回転速度差に応じた方向へ操舵補力として付加するよう拘束トルク比例制御手段が操舵力制御機構に出力させ、操舵系反力を演算し、前記操舵系反力を打ち消す反力打消操舵補助力を、前記操舵系反力を打ち消す方向へ操舵補助力として付加するよう操舵反力フィードバック制御手段が前記操舵力制御機構に出力させ、前記操舵補助力の内、前記比例操舵補助力と前記反力打消操舵補助力との割合を前記左右前輪の回転速度差に応じて切替手段により切り替えるように構成したので、左右輪差動制限機構の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制し、操舵力制御機構の運転者のステアリング操作時の違和感を解消でき、滑りやすい路面においても安全にパワフルな発進を実現できる車両統合制御装置が提供できる効果がある。また、電子制御式左右輪差動制限機構に制限をかけることなく、トルクステアを抑制することができる。
【0008】
本発明によれば、拘束トルク比例制御手段が出力する比例操舵補助力を補正する補正係数を、左右前輪の回転速度差に対し第1の補正係数規定手段により規定し、操舵反力フィードバック制御手段が出力する反力打消操舵補助力を補正する補正係数を、前記第1の補正係数規定手段により規定される補正係数に対し逆位相となる特性で前記左右前輪の回転速度差に対し第2の補正係数規定手段により規定し、前記拘束トルク比例制御手段から出力された前記比例操舵補助力を、第1の補正手段が前記第1の補正係数規定手段により規定された補正係数で補正し、前記操舵反力フィードバック制御手段から出力された前記反力打消操舵補助力を、第2の補正手段が前記第2の補正係数規定手段により規定された補正係数で補正し、前記第1の補正手段により補正された前記比例操舵補助力と前記第2の補正手段により補正された前記反力打消操舵補助力とを加算し、操舵力制御機構により付加される操舵補助力として加算手段が出力するように構成したので、前記比例操舵補助力と前記反力打消操舵補助力との割合を前記左右前輪の回転速度差に応じて切り替え、左右輪差動制限機構の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制し、操舵力制御機構の運転者のステアリング操作時の違和感を解消でき、滑りやすい路面においても安全にパワフルな発進を実現できる車両統合制御装置が提供できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の第1の実施の形態の車両統合制御装置を備えた車両の構成を示す概略構成図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態における車両統合制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の第1の実施の形態の車両統合制御装置における補正係数k1の特性を示す説明図である。
【図4】この発明の第1の実施の形態の車両統合制御装置における補正係数k2の特性を示す説明図である。
【図5】この発明の形態における左右輪差動制限機構の拘束トルクTLを演算するための駆動トルク比例制御と回転速度差比例制御を示す特性図である。
【図6】この発明の第1の実施の形態の車両統合制御装置において切り替えられる拘束トルク比例制御の一例をソフトウェアにより実現する場合の動作を示すフローチャートである。
【図7】この発明の第1の実施の形態の車両統合制御装置における操舵反力フィードバック制御の一例をソフトウェアにより実現する場合の動作を示すフローチャートである。
【図8】この発明の第2の実施の形態の車両統合制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の第2の実施の形態の車両統合制御装置における拘束トルクに応じた変数マップを示す説明図である。
【図10】この発明の第2の実施の形態の車両統合制御装置における前左右差回転微分値に応じた変数マップを示す説明図である。
【図11】この発明の第2の実施の形態の車両統合制御装置における切替ラップ領域の拘束トルクに応じた変数マップを示す説明図である。
【図12】この発明の第2の実施の形態の車両統合制御装置における切替ラップ領域の前左右差回転微分値に応じた変数マップを示す説明図である。
【図13】この発明の実施の形態の車両統合制御装置における拘束トルク比例制御のみの場合の付加トルクを示す模式図である。
【図14】この発明の実施の形態の車両統合制御装置における操舵反力フィードバック制御のみの場合の付加トルクを示す模式図である。
【図15】この発明の実施の形態の車両統合制御装置における拘束トルク比例制御と操舵反力フィードバック制御とが共に機能したときの付加トルクを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、この実施の形態の車両統合制御装置を備えた車両1の構成を示す概略構成図である。
図1において、車両1は、左前輪11、右前輪12、左後輪13および右後輪14を備えている。
左前輪11と右前輪12は車両1の操舵車輪であり、タイロッド21を介して電動パワーステアリング22に連結している。
【0011】
電動パワーステアリング22(操舵力制御機構)は、ステアリングギアボックス31、ステアリングシャフト32、ステアリングホイール33および電動モータ34を備えている。
ステアリングギアボックス31には、ステアリングシャフト32を介してステアリングホイール33が連結されている。
そして、運転者によるステアリングホイール33の操作は、ステアリングシャフト32を介してステアリングギアボックス31に伝達される。
さらに、ステアリングギアボックス31を介してタイロッド21が作動して左前輪11および右前輪12の向きを変化させる。
言い換えると、操舵車輪(左前輪11、右前輪12)を操舵する操舵系は、ステアリングギアボックス31、ステアリングシャフト32、ステアリングホイール33を含んで構成されている。
【0012】
また、電動モータ34はステアリングギアボックス31に設けられており、電動モータ34の回転はステアリングギアボックス31に入力され、ステアリングホイール33の操作に対する操舵補助力を発生させる。
すなわち、電動モータ34によって操舵補助力が操舵系に付加される。
また、操舵トルクセンサ91は、運転者によるステアリングの操作に伴う操舵トルクを検出するセンサであり、ステアリングシャフト32に取り付けられている。
【0013】
また、左前輪11、右前輪12、左後輪13および右後輪14には、各車輪に制動力を付与するためのブレーキ41,42,43,44が設けられている。
ブレーキ41は左前輪11に制動力を付与し、ブレーキ42は左前輪12に制動力を付与し、ブレーキ43は左後輪13に制動力を付与し、ブレーキ44は左後輪14に制動力を付与する。
各ブレーキ41,42,43,44は、車両に搭載されているブレーキ油圧ユニット51から供給される油圧により左前輪11、右前輪12、左後輪13および右後輪14への制動力が制御される。
【0014】
左前輪11、右前輪12、左後輪13および右後輪14には、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサがそれぞれ設けられている。
車輪速センサ61は左前輪11の車輪速(回転数)を検出するためのセンサである。車輪速センサ62は右前輪12の車輪速(回転数)を検出するためのセンサである。車輪速センサ63は左後輪13の車輪速(回転数)を検出するためのセンサである。車輪速センサ64は右後輪14の車輪速(回転数)を検出するためのセンサである。
【0015】
左前輪11および右前輪12には、左右輪差動制限機構81を備えたフロントデフ82を介して駆動力が伝達される。駆動シャフト83には左前輪11が連結されており、また駆動シャフト84には右前輪12が連結されている。左右輪差動制限機構81を備えたフロントデフ82を介して駆動シャフト83と駆動シャフト84とへ伝達された駆動力により左前輪11および右前輪12が駆動され回転する。
左右輪差動制限機構81は、拘束トルクを自在に制御可能な電子制御式フロント左右輪差動制限機構である。この左右輪差動制限機構81は、内蔵された図示されていない電磁クラッチの係合状態に応じて左右の駆動シャフト83,84の相対回転を拘束するトルクを発生し、これにより左前輪11と右前輪12との間に差動制限力を作用させる。
コントローラ90は、前記電磁クラッチの係合状態を励磁電流を調節することで、左右輪差動制限機構81による拘束トルクを制御する。またコントローラ90は、制動系ECU72との通信を介し入力された車輪速センサ61,62より検出された各車輪速より左右前輪の回転速度差を演算し、この回転速度差に応じた方向へ左右輪差動制限機構81による拘束トルクに比例した比例操舵補助力を演算する拘束トルク比例制御を備える。さらに、ステアリングECU71との通信を介し入力された操舵トルクセンサ91により検出された操舵トルクセンサ値Ts、電動パワーステアリング22の電動モータ34による操舵アシストトルクTeと左右輪差動制限機構81による拘束トルクなどに基づき操舵系反力を打ち消す方向へ反力打消操舵補助力を演算する操舵反力フィードバック制御を備える。コントローラ90はこれらの操舵補助力が電動パワーステアリング22(操舵力制御機構)に働くよう、通信を介してステアリングECU71に制御指示することで、左右輪差動制限機構81の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制し、運転者のステアリング操作時の違和感を解消し、走破性と安定性とを向上させた姿勢安定化制御を実現する。
【0016】
ステアリングECU71は、操舵力制御機能として、運転者の操舵トルクを軽減するための電動パワーステアリング22による操舵補助力を電動モータ34により前記操舵系に付加する一般的な基本機能を有している。そして、コントローラ90との通信を介し本実施の形態の電動パワーステアリング22(操舵力制御機構)を制御するものである。
【0017】
制動系ECU72は、車両1を制動する際のABS(Anti−lock Brake System)機能をブレーキ油圧ユニット51を制御することで実現する。
制動系ECU72により実現されるABS機能では、車輪速センサ61,62,63,64により検出された各車輪速にもとづき、車両1の急制動時、低μ路面上での各車輪のロック状態を検出し、このようなロック状態を回避しつつ最適な制動力をブレーキ41,42,43,44により車輪に付与するようにブレーキ油圧ユニット51を制御する。
制御系ECU73は効率のよいエンジン制御を行う。
【0018】
コントローラ90、ステアリングECU71、制動系ECU72および制御系ECU73はコンピュータであり、RAM、ROMなどの記憶装置、中央処理装置、タイマ、I/Oポートなどの入出力装置および各種インタフェースなどから構成されている。そして、制動系ECU72には、車輪速センサ61,62,63,64が前記入出力装置を介して接続されている。
また、コントローラ90、ステアリングECU71と制動系ECU72と制御系ECU73との間で各種データの送受信を行うための通信機能を備えている。
【0019】
図2は、この実施の形態における車両統合制御装置の構成を示すブロック図である。図2に示した車両統合制御装置は、コントローラ90に構成されており、コントローラ90の記憶装置に格納されているソフトウェアプログラムを実行することによってステアリングECU71に制御指示する付加トルクを演算する。
この車両統合制御装置は、図2に示すように拘束トルク比例制御手段201、第1の前輪左右速差補正係数規定手段202、第1の乗算処理手段203、操舵反力フィードバック制御手段204、第2の前輪左右速差補正係数規定手段205、第2の乗算処理手段206および加算手段207を備えている。
【0020】
拘束トルク比例制御手段201は、拘束トルク制御量に比例した比例操舵補助力である付加トルクTcを演算する。LSD拘束力が弱く左前輪と右前輪との前輪左右速差が発生しているモードを想定している。
【0021】
第1の前輪左右速差補正係数規定手段(第1の補正係数規定手段)202は、左前輪と右前輪との前輪左右速差に対し、前記付加トルクTcを補正するとともに前輪左右速差に応じた方向に符号を設定する補正係数k1を出力するものである。
【0022】
図3は、補正係数k1の特性を示す説明図である。この補正係数k1は、前輪左右速差が±aの範囲内ではゼロ、前輪左右速差が+aから+bの範囲内では一定の勾配でゼロから+1へ変化し、さらに前輪左右速差が+bを超える範囲では+1となる特性を有し、また前輪左右速差が−aから−bの範囲内では前記勾配と同一の勾配でゼロから−1へ変化し、さらに前輪左右速差が−bを超える範囲では−1となる特性を有している。
【0023】
第1の乗算処理手段(第1の補正手段)203は、拘束トルク比例制御手段201の拘束トルク比例制御実行による付加トルクTcに対し、第1の前輪左右速差補正係数規定手段202から出力される補正係数k1により補正処理を行うための乗算処理、つまり付加トルクTc×補正係数k1の演算を行い、補正係数k1により補正された補正付加トルクを拘束トルク比例制御に係る付加トルクとして出力する。
【0024】
操舵反力フィードバック制御手段204は、操舵系反力を演算し、これを打ち消すような付加トルクを操舵補助力として付加するよう電動パワーステアリング22に出力させる制御であり、LSD拘束力の強い状態のロックされたモードを想定している。
【0025】
第2の前輪左右速差補正係数規定手段(第2の補正係数規定手段)205は、左前輪と右前輪との前輪左右速差に対し、操舵反力フィードバック制御手段204が出力する反力打消操舵補助力である付加トルクを補正する補正係数k2を出力するものである。
図4は、補正係数k2の特性を示す説明図である。この補正係数k2は、前輪左右速差が±aの範囲内では+1、前輪左右速差が+aから+bの範囲内では一定の勾配で+1からゼロへ変化し、さらに前輪左右速差が+bを超える範囲ではゼロとなる特性を有し、また前輪左右速差が−aから−bの範囲内では前記勾配と逆極性の勾配で+1からゼロへ変化し、さらに前輪左右速差が−bを超える範囲ではゼロとなる特性を有している。つまり補正係数k2の特性は、補正係数k1の特性に対し逆位相となる特性である。また、補正係数k2は操舵反力フィードバック制御手段204が出力する反力打消操舵補助力である操舵補助力を、補正係数k1の特性に対し逆位相となる特性で補正する。
【0026】
第2の乗算処理手段(第2の補正手段)206は、操舵反力フィードバック制御手段204による付加トルクCcに対し、第2の前輪左右速差補正係数規定手段205から出力される補正係数k2により補正を行うための乗算処理、つまり付加トルクCc×補正係数k2の演算を行い、補正係数k2により補正された補正付加トルクCcを操舵反力フィードバック制御に係る付加トルクとして出力する。
【0027】
加算手段207は、補正係数k1により補正された拘束トルク比例制御に係る付加トルクと、補正係数k2により補正された操舵反力フィードバック制御に係る付加トルクとを加算処理し、前記補正係数k1、k2により重み付けされた拘束トルク比例制御に係る付加トルクと操舵反力フィードバック制御に係る付加トルクとからなる付加トルクを出力する。つまり、操舵補助力の内、前記比例操舵補助力である操舵補助力と、前記反力打消操舵補助力である操舵補助力との割合を左前輪と右前輪との前輪左右速差に応じて切り替える。
この付加トルクをステアリングECU71に制御指示し、図示していないインタフェースを介して電動モータ34が制御されステアリングホイール33の操作に対する操舵補助力を発生させる。
この姿勢安定化制御では、車両1の姿勢が不安定になるような特定の運転状況にある場合であって左右輪差動制限機構81が作動するとき、左右輪差動制限機構81の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく推定し、運転者のステアリング操作時の違和感を解消する。
【0028】
制動系ECU72におけるABS機能では、各車輪速センサ61,62,63,64により検出された各車輪の車輪速から、左前輪11、右前輪12、左後輪13および右後輪14のスリップ率を算出し、算出したスリップ率が最適な値となるようにブレーキ油圧ユニット51から各ブレーキ41,42,43,44へ供給される油圧を制御する。
【0029】
図5は、この実施の形態の車両統合制御装置において切り替えられる左右輪差動制限機構81の拘束トルクTLを演算するための駆動トルク比例制御と回転速度差比例制御を示す特性図である。駆動トルク比例制御はエンジンの駆動トルクに比例し、回転速度差比例制御は左右前輪の回転速度差に比例して演算され、左右輪差動制限機構81の拘束トルクTLは駆動トルク比例制御と回転速度差比例制御の出力合算値として演算される。図5の特性図のデータは駆動トルク比例拘束力テーブル、回転速度差比例拘束力テーブルとしてコントローラ90に備えられている。
【0030】
次に動作について説明する。
この実施の形態では、拘束トルク制御量に比例した付加トルクを前輪左右速差に応じた方向へ出力する拘束トルク比例制御手段201による比例操舵補助力と、操舵系反力を演算し、これを打ち消す付加トルクを前記操舵系反力を打ち消す方向へ付加するように電動パワーステアリング22に出力させる操舵反力フィードバック制御手段204による反力打消操舵補助力との割合を、前輪左右速差に応じて切り替えるようにする。
つまり前輪左右速差が生じている場合には拘束トルク比例制御が適しており、また前輪左右速差が生じていない場合には操舵反力フィードバック制御が適している。
したがって、前輪左右速差が生じている範囲と、前輪左右速差が生じていない範囲とを閾値により規定する。そして、検出された前輪左右速差がどの範囲に入るかに応じて拘束トルク比例制御による比例操舵補助力と操舵反力フィードバック制御による反力打消操舵補助力との割合を切り替える。
あるいは拘束トルク比例制御による比例操舵補助力と操舵反力フィードバック制御による反力打消操舵補助力との重み付けを変え、拘束トルク比例制御による比例操舵補助力と操舵反力フィードバック制御による反力打消操舵補助力との割合を円滑に切り替える。
この結果、左右輪差動制限機構の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制し、運転者のステアリング操作時の違和感を解消し、滑りやすい路面においても安全にパワフルな発進が実現する。
【0031】
以下、図2を参照して、この実施の形態における車両統合制御装置の動作を説明する。
この車両統合制御装置では、拘束トルク比例制御手段201の付加トルクを第1の前輪左右速差補正係数規定手段202により規定される補正係数k1で補正し、前輪左右速差が+aから+bの範囲、あるいは−aから−bの範囲を超えて大きくなる場合に拘束トルク比例制御が適用されるように、制御を操舵反力フィードバック制御から拘束トルク比例制御へ切り替える。
また、操舵反力フィードバック制御手段204の付加トルクを第2の前輪左右速差補正係数規定手段205により規定される補正係数k2で補正し、前輪左右速差が+aから+bの範囲、あるいは−aから−bの範囲を超えて小さくなる場合に操舵反力フィードバック制御が適用されるように、制御を拘束トルク比例制御から操舵反力フィードバック制御へ切り替える。
拘束トルク比例制御手段201は、拘束トルク制御量に比例した付加トルクTcを演算する。
第1の前輪左右速差補正係数規定手段202は、図3に示すような特性を有した補正係数k1を出力する。この補正係数k1は、前輪左右速差が±aの範囲内ではゼロ、前輪左右速差が+aから+bの範囲内では一定の勾配でゼロから+1へ変化し、さらに前輪左右速差が+bを超える範囲では+1となる特性を有し、また前輪左右速差が−aから−bの範囲内では前記勾配と同一の勾配でゼロから−1へ変化し、さらに前輪左右速差が−bを超える範囲では−1となる特性を有している。
拘束トルク比例制御手段201による付加トルクTcは、乗算処理手段203により第1の前輪左右速差補正係数規定手段202が出力する補正係数k1と乗算処理される結果、乗算処理手段203から出力される付加トルクは、前輪左右速差が±aの範囲内ではゼロ、前輪左右速差が+aから+bの範囲内では前輪左右速差に応じた方向で一定の勾配でゼロから拘束トルク制御量に比例する値まで変化する。さらに前輪左右速差が+bを超える範囲では拘束トルク制御量に比例した前輪左右速差に応じた方向の付加トルクとなる。また前輪左右速差が−aから−bの範囲内では、前輪左右速差が+aから+bの範囲内と同一の勾配で前輪左右速差に応じた方向でゼロから拘束トルク制御量に比例する値まで変化する。さらに前輪左右速差が−bを超える範囲では拘束トルク制御量に比例した前輪左右速差に応じた方向の付加トルクとなる。
また、操舵反力フィードバック制御手段204は、操舵系反力を演算し、これを打ち消すような付加トルクCcを出力する。
【0032】
第2の前輪左右速差補正係数規定手段205は、図4に示すような特性を有した補正係数k2を出力する。この補正係数k2は、前記補正係数k1とは逆位相となる特性であり、前輪左右速差が±aの範囲内では+1、前輪左右速差が+aから+bの範囲内では一定の勾配(前記補正係数k1の+aから+bの範囲内の勾配とは逆)で+1からゼロへ変化し、さらに前輪左右速差が+bを超える範囲ではゼロとなる特性を有し、また前輪左右速差が−aから−bの範囲内では+aから+bの範囲の前記勾配とは逆極性の勾配で+1からゼロへ変化し、さらに前輪左右速差が−bを超える範囲ではゼロとなる特性を有している。
操舵反力フィードバック制御手段204による付加トルクCcは、乗算処理手段206により第2の前輪左右速差補正係数規定手段205が出力する補正係数k2と乗算処理される結果、乗算処理手段206から出力される付加トルクは、前輪左右速差が±aの範囲内では操舵反力フィードバック制御手段204による操舵系反力を打ち消す方向の操舵系反力に応じた付加トルク、前輪左右速差が+aから+bの範囲内では前輪左右速差に応じて一定の勾配で操舵系反力を打ち消す方向の操舵系反力に応じた値からゼロまで変化する。さらに前輪左右速差が+bを超える範囲ではゼロとなる。また前輪左右速差が−aから−bの範囲内では、前輪左右速差が+aから+bの範囲内と逆極性の勾配で操舵反力フィードバック制御手段204による操舵系反力を打ち消す方向の操舵系反力に応じた値からゼロまで変化する。さらに前輪左右速差が−bを超える範囲ではゼロとなる。
加算手段207は、乗算処理手段203から出力される補正係数k1により補正された付加トルクと、乗算処理手段206から出力される補正係数k2により補正された付加トルクとの加算処理を行う結果、加算手段207から出力される付加トルクは、前輪左右速差が±aの範囲内では操舵反力フィードバック制御手段204による操舵系反力を打ち消す方向の操舵系反力に応じた付加トルクとなる。また、前輪左右速差が±bを超える範囲では、拘束トルク比例制御手段201による拘束トルク制御量に比例した前輪左右速差に応じた方向の付加トルクとなる。また、前輪左右速差が−aから−bの範囲内、+aから+bの範囲内では、操舵反力フィードバック制御手段204による操舵系反力を打ち消す方向の操舵系反力に応じた付加トルクと、拘束トルク比例制御手段201による拘束トルク制御量に比例した付加トルクとの割合が前輪左右速差に応じたものとなる。つまり、操舵反力フィードバック制御手段204による操舵系反力を打ち消す方向の操舵系反力に応じた付加トルクと、拘束トルク比例制御手段201による拘束トルク制御量に比例した付加トルクとの割合が前輪左右速差に応じて切り替えられる。
【0033】
図6は、この実施の形態の車両統合制御装置において切り替えられる拘束トルク比例制御の一例をソフトウェアにより実現する場合の動作を示すフローチャートである。
以下、このフローチャートに従ってこの車両統合制御装置で拘束トルク比例制御に切り替えられたときの動作について説明する。
この拘束トルク比例制御では、先ず、車輪速センサ61により検出された左前輪11の車輪速(回転速度)と車輪速センサ62により検出された右前輪12の車輪速(回転速度)との車輪速差の演算と、左右輪差動制限機構81による拘束トルクTLの読み込みをする(ステップS1)。
続いて、前記演算した車輪速差が左右車輪速差閾値±βを超えているか否かを判定する(ステップS2)。この左右車輪速差閾値βは、図3に示す±aに相当する値である。この結果、前記演算した車輪速差が左右車輪速差閾値±βを超えていないと判定すると、電動パワーステアリング22による操舵補助力である付加トルクTwをゼロに設定する(ステップS6)。
【0034】
一方、ステップS2において、前記演算した車輪速差が左右車輪速差閾値±βの範囲を超えている、つまり±aの範囲を超えていると判定すると、ステップS3へ進む。
左右輪差が生じているときの操舵トルク変化は、前記拘束トルクTLに比例した値として演算可能であり、操舵トルク変化Tcを比例定数×拘束トルクTLとして演算して求める。続いて、前記車輪速差から操舵トルク変化Tcに比例した電動パワーステアリング22による操舵補助力である付加トルクTwを補正係数K1×操舵トルク変化Tcとして演算し(ステップS3)、前記演算して求めた付加トルクTwを実現する付加トルク制御を実行する(ステップS4)。このように、この実施の形態によれば、左右輪差が生じている状態において、左右輪差動制限機構81の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制することができる。
【0035】
図7は、この実施の形態の車両統合制御装置において切り替えられる操舵反力フィードバック制御の一例をソフトウェアにより実現する場合の動作を示すフローチャートである。以下、このフローチャートに従ってこの車両統合制御装置で操舵反力フィードバック制御に切り替えられたときの操舵反力フィードバック制御の動作について説明する。
先ず、ステアリングECU71より通信を介して受信した操舵トルクセンサ値Tsと、電動パワーステアリング22の制御により付加される操舵アシストトルクTe、およびコントローラ90により演算される車速Vbと、左右輪差動制限機構81による拘束トルクTLを、コントローラ90が読み込む(ステップS101)。操舵トルクセンサ値Tsは、操舵トルクセンサ91により検出した操舵トルクセンサ値、つまり運転者のステアリング操作により加えられる操舵トルクである。操舵アシストトルクTeは、電動パワーステアリング22の付加トルク制御により付加される基本的なトルクである。車速Vbは制動系ECU72との通信を介し入力された車輪速センサ61,62,63,64より検出された各車輪速に基づき、演算した車速である。左右輪差動制限機構81による拘束トルクTLは、駆動トルク比例制御と回転速度差比例制御に基づきコントローラ90が演算する。
【0036】
続いて、Ta0(=Ts+Te)、つまり操舵トルクセンサ値Tsと操舵アシストトルクTeとの加算値である操舵反力Ta0に応じた付加トルク量Ta1の制御を行う(ステップS102)。この付加トルク量Ta1の制御では、操舵反力Ta0に応じた比例制御を行い付加トルクを求め、操舵反力ゼロを狙う。さらに、手を離している状態で操舵トルクセンサ値Tsが小さい場合にも効果を出すため比例制御だけでなく積分制御も行い付加トルクTa1を求め、操舵反力ゼロを狙う(ステップS103)。すなわちTa1=kp×Ta0+Ki×∫(Ta0+Ti)dtである。
【0037】
LSD作動に伴う操舵反力変化は左右車輪速に差がある場合に最大であり、その値はLSD拘束トルクTLに比例したTlimである。つまり最大操舵力変化量は、変換係数をKLとするとTlim=KL×TLである(ステップS104)。従って、Tlimで付加トルクTa1を制限する。Tlimで付加トルクTa1を制限したときの付加トルクをTa2とすると、このときの付加トルクTa2はTa2=MIN(Tlim,|Ta1|)×sgn(Ta1)となる(ステップS105)。
【0038】
続いて、車速VbとゲインGvとの関係を車速Vbが上昇するに従ってゲインGvが下がるように規定したテーブルTBLを、車速Vbをもとに参照し、車速Vbに対応する付加トルク制御のゲインGvを求める(ステップS106)。そして、ゲインGvとステップS105で求めたTa2とを乗算し、車速Vbに応じた付加トルクTa3を演算し(ステップS107)、前記演算して求めた付加トルクTa3を実現する付加トルク制御を実行する(ステップS108)。このように、この実施の形態によれば、悪路走破性を優先してあらかじめLSDの拘束力を大きくした機能において、悪路のスプリットμ発進時やスリップ後の左右輪差が収束する状況で左右輪が直結状態となる状態において、操舵反力は低下するが、大きな操舵反力変化を抑制でき、走破性と安定性とを両立できる操舵力制御装置を提供できる効果がある。
【0039】
以上、説明したように、この実施の形態によれば、前輪左右速差が生じている範囲と、前輪左右速差が生じていない範囲とを閾値により規定し、検出された前輪左右速差がどの範囲に入るかに応じて拘束トルク比例制御による比例操舵補助力と操舵反力フィードバック制御による反力打消操舵補助力との割合を切り替える。
図13は、この車両統合制御装置における拘束トルク比例制御のみの場合の付加トルクを示す模式図である。図14は、この車両統合制御装置における操舵反力フィードバック制御のみの場合の付加トルクを示す模式図である。図15は、この車両統合制御装置における拘束トルク比例制御と操舵反力フィードバック制御とが共に機能したときの付加トルクを示す模式図である。拘束トルク比例制御と操舵反力フィードバック制御とが共に機能することで、左右輪差動制限機構の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制し、運転者のステアリング操作時の違和感を解消し、滑りやすい路面においても安全にパワフルな発進が実現できる車両統合制御装置を提供できる効果がある。
すなわち、図13に示すように、拘束トルク比例制御のみの場合は、左右前輪が直結状態となると前輪の駆動力差の方向が判別できず、操舵補助力を付加する方向が判別できないため、拘束トルクTLは回転速度差比例制御のみとし、左右前輪が直結状態となることを防ぐ必要がある。このため、前輪車速差が収まると拘束トルクTLも減少するため、発進性が低下している。
図14に示すように、操舵反力フィードバック制御のみの場合は、拘束トルクTLは回転速度差比例制御に加えて駆動トルク比例制御が働き、前輪車速差が収まっても拘束トルクTLの低下がなく、発進性は確保できるが、操舵反力感が低下するため違和感が生じる。また、現実的には、通常路面の発進における操舵反力低下を防ぐ必要があり、車輪スリップを検知しスリップ検知の有無により積分ゲインKiを切り換える処置が必要となるが、悪路のμスプリットなどにおいて前記スリップ検知が動作しない場合は、発進性が低下することがある。
図15に示すように、拘束トルク比例制御と操舵反力フィードバック制御とが共に機能した場合は、初期の車輪スリップ時は拘束トルク比例制御により、操舵の違和感を与えることなくトルクステアを抑制している。また、LSD拘束により車輪がロックしてからは操舵反力フィードバック制御が働き、操舵反力低下を最小限に抑え、全域で発進性能を確保している。
【0040】
また、この実施の形態によれば、拘束トルク比例制御に切り替えられると、左右前輪の駆動力差に比例した比例操舵補助力が電動パワーステアリングの操舵トルクに付加され、左右輪差動制限機構81の作動に伴う操舵トルク変化を精度よく抑制することが可能となる。
【0041】
また、この実施の形態によれば、拘束トルクTLを回転速度差比例制御に限定するなどの制約がないため、発進性を犠牲にすることなく滑りやすい路面におけるトルクステアを抑制でき、操舵違和感も少ない。また、通常路面でも操舵違和感のない発進を実現する。
【0042】
また、μスプリット路面上での発進/加速性を向上するために、左右どちらか一方の空転を抑制するための機構であるLSD(リミッテド・スリップ・ディファレンシャル)の搭載車では、スプリットμ発進時、LSD非搭載車に比べ大きくハンドルが取られることになるが、このようなLSD搭載車に対して適用することで、μスプリット路での発進/加速性と車両の安定性を両立できる効果がある。
【0043】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、拘束トルク比例制御による付加トルクを第1の前輪左右速差補正係数規定手段202により規定される補正係数で補正し、操舵反力フィードバック制御による付加トルクを第2の前輪左右速差補正係数規定手段205により規定される補正係数で補正するように構成した。この実施の形態では、補正係数の代わりに切替係数kを用いて、拘束トルク比例制御による比例操舵補助力である付加トルクと操舵反力フィードバック制御による反力打消操舵補助力である付加トルクとの割り合いを切り替える。
図8は、この実施の形態の車両統合制御装置の構成を示すブロック図である。図8において図2と同一または相当の箇所については同一の符号を付し説明を省略する。
この実施の形態では、切替係数kで重み付けを行う第1の重み付け手段212と、切替係数(1−|k|)で重み付けを行う第2の重み付け手段215とを用い、拘束トルク比例制御による付加トルクに対し第1の重み付け手段212により切替係数kで重み付けし、また操舵反力フィードバック制御による付加トルクに対し第2の重み付け手段215により切替係数(1−|k|)で重み付けする。
前左右差回転≧0の場合、切替係数kは0≦k=(前左右差回転−a)/(b−a)≦1として規定される。
また、前左右差回転<0の場合、切替係数kは−1≦k=(前左右差回転+a)/(b−a)≦0として規定される。
ここで、aは切替開始前左右差回転、bは切替終了前左右差回転、b−aは切替ラップ領域である。但し0<a<bである。
なお、a、bは一定値、もしくは図9、図10、図11、図12に示すマップを用いて拘束トルクや前左右差回転微分値に応じた変数とすることも可能である。
図9は、拘束トルクに応じた変数マップを示す説明図である。図10は、前左右差回転微分値に応じた変数マップを示す説明図である。図11は、切替ラップ領域の拘束トルクに応じた変数マップを示す説明図である。図12は、切替ラップ領域の前左右差回転微分値に応じた変数マップを示す説明図である。
この実施の形態によれば、前記第1の実施の形態と同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0044】
1……車両、11……左前輪、12……右前輪、22……電動パワーステアリング(操舵力制御機構)32……ステアリングシャフト、33……ステアリングホイール、34……、61,62,63,64……車輪速センサ、71……ステアリングECU、81……左右輪差動制限機構(電子制御式左右輪差動制限機構)、91……操舵トルクセンサ、201……拘束トルク比例制御手段、202……第1の前輪左右速差補正係数規定手段(切替手段、第1の補正係数規定手段)、203……第1の乗算処理手段(切替手段、第1の補正手段)、204……操舵反力フィードバック制御手段、205……第2の前輪左右速差補正係数規定手段(切替手段、第2の補正係数規定手段)、206……第2の乗算処理手段(切替手段、第2の補正手段)、207……加算手段(切替手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右前輪の拘束トルクを制御する電子制御式左右輪差動制限機構と、操舵補助力を付加する操舵力制御機構と、前記左右前輪の回転速度差を検出する車輪速差検出手段とを備えた車両の車両統合制御装置であって、
前記電子制御式左右輪差動制限機構の拘束トルク制御量に比例した比例操舵補助力を、前記車輪速差検出手段が検出した前記左右前輪の回転速度差に応じた方向へ前記操舵補助力として付加するよう前記操舵力制御機構に出力させる拘束トルク比例制御手段と、
操舵系反力を演算し、前記操舵系反力を打ち消す反力打消操舵補助力を、前記操舵系反力を打ち消す方向へ前記操舵補助力として付加するよう前記操舵力制御機構に出力させる操舵反力フィードバック制御手段と、
前記操舵補助力の内、前記比例操舵補助力と前記反力打消操舵補助力との割合を前記左右前輪の回転速度差に応じて切り替える切替手段と、
を備えたことを特徴とする車両統合制御装置。
【請求項2】
前記切替手段は、
前記拘束トルク比例制御手段が出力する前記比例操舵補助力を補正する補正係数を、前記左右前輪の回転速度差に対し規定する第1の補正係数規定手段と、
前記操舵反力フィードバック制御手段が出力する前記反力打消操舵補助力を補正する補正係数を、前記第1の補正係数規定手段により規定される補正係数に対し逆位相となる特性で前記左右前輪の回転速度差に対し規定する第2の補正係数規定手段と、
前記拘束トルク比例制御手段から出力された前記比例操舵補助力を、前記第1の補正係数規定手段により規定された補正係数で補正する第1の補正手段と、
前記操舵反力フィードバック制御手段から出力された前記反力打消操舵補助力を、前記
第2の補正係数規定手段により規定された補正係数で補正する第2の補正手段と、
前記第1の補正手段により補正された前記比例操舵補助力と前記第2の補正手段により補正された前記反力打消操舵補助力とを加算し、前記操舵力制御機構により付加される操舵補助力として出力する加算手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の車両統合制御装置。
【請求項3】
前記拘束トルクは、エンジンの駆動トルクに比例した駆動トルク比例拘束トルクと、前記左右前輪の回転速度差に比例した回転速度差比例拘束トルクを合算させたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両統合制御装置。
【請求項4】
前記反力打消操舵補助力は、運転者の操作による操舵トルクと前記操舵手段の操作に対して付与される操舵アシストトルクとの合算値に対する比例制御および積分制御により求めることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両統合制御装置。
【請求項5】
前記左右前輪の回転速度差が第1所定値以下の場合は、前記第1の補正係数規定手段により規定された補正係数をゼロとし、前記左右前輪の回転速度差が第2所定値以上の場合は、前記第2の補正係数規定手段により規定された補正係数をゼロとすることを特徴とする請求項2に記載の車両統合制御装置。
【請求項6】
前記第1の補正係数規定手段により規定された補正係数は、前記左右前輪の回転速度差が第1所定値から第2の所定値の範囲内で、ゼロから1またはマイナス1に変化することを特徴とする請求項2に記載の車両統合制御装置。
【請求項7】
前記第2の補正係数規定手段により規定された補正係数は、前記左右前輪の回転速度差が第1所定値から第2の所定値の範囲内で、1からセロに変化することを特徴とする請求項2に記載の車両統合制御装置。
【請求項8】
前記切替手段は、前記操舵補助力の内、前記比例操舵補助力と前記反力打消操舵補助力との割合を切り替え係数で重み付けを行う重み付け手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両統合制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−236585(P2012−236585A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48826(P2012−48826)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】