説明

電動パワーステアリング装置の制御装置

【課題】電動モータの抵抗の推定精度が低下することを抑制することのできる電動パワーステアリング装置の制御装置を提供する。
【解決手段】電動パワーステアリング装置の電子制御装置30は、測定電流Imaおよび測定電圧Vmaを用いて第1抵抗値Raを算出する第1抵抗算出部61と、この第1抵抗算出部61とは異なる手段により第2抵抗値Rbを算出する第2抵抗算出部62とを有する。そして第2抵抗値Rbよりも小さい第1抵抗値Raを演算抵抗値として確定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に設けられる電動モータの抵抗の推定値を算出する電動パワーステアリング装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の制御装置は、電動モータの電流および抵抗の関係を規定したマップを有する。そして、電流の測定値をマップに適用することにより、電動モータの抵抗の推定値を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−10379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記制御装置においては、電動モータの電流の測定値に含まれる誤差が大きいとき、マップから算出される抵抗の推定値と真の値との差が大きくなる。しかし、電流の測定値に含まれる誤差については特に考慮されていないため、電動モータの抵抗の推定精度が低下するおそれがある。なお、ここでは電動モータの電流の測定値を用いて抵抗の推定値を算出する場合について言及したが、電動モータの電圧の測定値を用いて電動モータの抵抗の推定値を算出する場合にも同様の問題が生じる。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電動モータの抵抗の推定精度が低下することを抑制することのできる電動パワーステアリング装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための手段を以下に示す。
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、電動パワーステアリング装置に設けられる電動モータの抵抗の推定値を算出する電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記電動モータの電流の測定値および前記電動モータの電圧の測定値の少なくとも一方に基づいて前記電動モータの抵抗に相当する第1抵抗値を算出する第1演算部と、この第1演算部とは別の方法により前記電動モータの抵抗に相当する第2抵抗値を算出する第2演算部と、前記第2抵抗値よりも小さい前記第1抵抗値を前記電動モータの抵抗の推定値として確定する第3演算部とを備えることを要旨とする。
【0007】
電流の測定値および電圧の測定値は、ノイズの影響により真の値よりも大きくなる誤差を含みやすい。このため、第1抵抗値は真の値よりも大きい値として算出される頻度が高い。そこで本発明においては、第1抵抗値および第2抵抗値の比較により、真の値に対して過度に大きくなる誤差が第1抵抗値に含まれているか否かを確認している。そして、第2抵抗値よりも小さい第1抵抗値を電動モータの抵抗の推定値として確定しているため、電動モータの抵抗の推定精度が低下することを抑制することができる。
【0008】
(2)第2の手段は、請求項2に記載の発明すなわち、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記第1演算部は、前記電動モータの誘起電圧が所定値以下のとき、前記電流の測定値および前記電圧の測定値を用いて前記第1抵抗値を算出し、前記第3演算部は、前記電動モータの抵抗の推定値として確定した前記第1抵抗値を用いて所定の演算処理を行うことを要旨とする。
【0009】
電動モータの誘起電圧が小さくなるにつれて電圧の測定値に対する誘起電圧の影響が小さくなるため、電流の測定値および電圧の測定値から算出される第1抵抗値の精度が高くなる。この発明では、電動モータの誘起電圧が所定値以下のとき、第1演算部により第1抵抗値を算出するため、同抵抗値の算出精度が高くなる。また、第3演算部においては、電動モータの抵抗の推定値として確定した第1抵抗値を用いて所定の演算処理を行うため、同演算処理の演算結果の精度がより向上する。
【0010】
(3)第3の手段は、請求項3に記載の発明すなわち、請求項2に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記第3演算部は、前記所定の演算処理として、前記電動モータの抵抗の推定値として確定した前記第1抵抗値を用いて前記電動モータの回転速度を算出することを要旨とする。
【0011】
この発明によれば、電動モータの誘起電圧が所定値以下のときに第1演算部により算出され、かつ第3演算部により電動モータの抵抗の推定値として確定された第1抵抗値が回転速度の算出に用いられる。このため、回転速度の演算結果の精度がより向上する。
【0012】
(4)第4の手段は、請求項4に記載の発明すなわち、請求項1〜3のいずれか一項に記載される電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記第2演算部は、前記電動モータの温度と前記電動モータの抵抗との関係を規定した抵抗演算手段を備え、前記抵抗演算手段は、前記電動モータの放熱特性として予め想定することが可能な放熱特性のうちの最も低い放熱特性を前提として前記関係を規定していることを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、電動モータの放熱特性として最も低い放熱特性を前提に電動モータの温度と抵抗との関係が規定されているため、所定の温度条件において第2演算部により算出される第2抵抗値は、別の放熱特性を前提に規定された電動モータの温度と抵抗との関係から算出される抵抗値と比較して大きくなる。これにより、相対的に第1抵抗値が第2抵抗値よりも小さい値となりやすくなるため、第1抵抗値が電動モータの抵抗の推定値として確定される頻度が高くなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電動モータの抵抗の推定精度が低下することを抑制することのできる電動パワーステアリング装置の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の電動パワーステアリング装置について、その全体構造を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の電動パワーステアリング装置の制御装置について、その全体構成を示すブロック図。
【図3】同実施形態の電動パワーステアリング装置の制御装置について、モータ抵抗とモータ温度との関係を示すマップ。
【図4】同実施形態の電動パワーステアリング装置について、その制御装置により実行される「演算抵抗更新処理」の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1の全体構成について説明する。
電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール2の回転を転舵輪3に伝達する操舵角伝達機構10と、ステアリングホイール2の操作を補助するための力(以下、「アシスト力」)を操舵角伝達機構10に付与するアシスト装置20と、アシスト装置20を制御する電子制御装置30とを有する。またこの他に、これら装置の動作状態を検出する複数のセンサを有する。なお、電子制御装置30は「制御装置」に相当する。
【0017】
操舵角伝達機構10は、ステアリングホイール2の操作に応じて回転するステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11の回転をラック軸13に伝達するラックアンドピニオン機構12と、ラックアンドピニオン機構12により軸方向に移動するラック軸13と、ラック軸13により操作されるタイロッド14とを有する。タイロッド14には、転舵輪3を回転させるナックルが接続されている。
【0018】
アシスト装置20は、ステアリングシャフト11にトルクを付与する電動モータ21と、電動モータ21の回転を減速する減速機構22とを有する。電動モータ21としては、ブラシ付きモータが採用されている。電動モータ21の回転は、減速機構22により減速されてステアリングシャフト11に伝達される。このとき、電動モータ21からステアリングシャフト11に付与されるトルクがアシスト力として作用する。
【0019】
操舵角伝達機構10の動作について説明する。
ステアリングホイール2が操作されたとき、アシスト力がステアリングシャフト11に付与されることにより生じるステアリングシャフト11の回転は、ラックアンドピニオン機構12によりラック軸13の直線運動に変換される。ラック軸13の直線運動は、ラック軸13の両端に連結されたタイロッド14を介してナックルに伝達される。そして、ナックルの動作にともない転舵輪3の転舵角が変更される。
【0020】
ステアリングホイール2の操舵角θは、ステアリングホイール2が中立位置にあるときを基準として定められる。すなわち、ステアリングホイール2が中立位置にあるときの操舵角θを「0」として、ステアリングホイール2が中立位置から右方向または左方向に回転したとき、中立位置からの回転角度に応じて操舵角θが増加する。
【0021】
ステアリングホイール2の操舵状態は、「切り込み状態」、「切り戻し状態」、および「保舵状態」に区別される。「切り込み状態」は、操舵角θを増大させる状態を示す。「切り戻し状態」は、操舵角θを減少させる状態を示す。「保舵状態」は、ステアリングホイール2が中立位置、および中立位置から右方向または左方向に回転した位置にあり、かつその位置に保持されている状態を示す。
【0022】
電動パワーステアリング装置1は、操舵角θの大きさに応じた信号を電子制御装置30に出力する操舵角センサ31と、ステアリングホイール2の操作によりステアリングシャフト11に付与されたトルクの大きさに応じた信号を電子制御装置30に出力するトルクセンサ32とを有する。またこの他に、転舵輪3の回転速度に応じた信号を電子制御装置30に出力する車速センサ33を有する。
【0023】
電子制御装置30は、操舵角センサ31の出力に基づいて操舵角θを算出する。また、トルクセンサ32の出力に基づいて、ステアリングホイール2の操作にともないステアリングシャフト11に入力されたトルクの大きさに相当する演算値(以下、「操舵トルクτ」)を算出する。また、車速センサ33の出力に基づいて、車速に相当する演算値(以下、「車速V」)を算出する。
【0024】
また、電子制御装置30は、ステアリングホイール2の操舵フィーリングを調整するために電動モータ21の出力を補正する操舵トルクシフト制御と、車速Vおよびステアリングホイール2の操舵状態に応じてアシスト力を調整するためのパワーアシスト制御とを行う。
【0025】
操舵トルクシフト制御では、操舵フィーリングを向上させるため、ステアリングホイール2の操舵状態に応じて操舵トルクτに基づくアシスト力の基本値(以下、「補正トルクτa」)を算出する。
【0026】
パワーアシスト制御では、車速Vおよび補正トルクτaに基づいて、目標となるアシスト力(以下、「目標アシスト力」)を算出する。そしてこの目標アシスト力に対応した駆動電力を電動モータ21に供給する。
【0027】
図2を参照して、電子制御装置30の構成について説明する。以下では、電動モータ21の端子間電圧を「モータ電圧Vm」とし、電動モータ21のコイルに供給される電流を「モータ電流Im」とし、電動モータ21の抵抗を「モータ抵抗Rm」とする。
【0028】
電子制御装置30は、電動モータ21に供給する駆動電力に対応する信号(以下、「モータ制御信号Sm」)を形成するモータ制御装置40と、モータ制御信号Smに応じた駆動電力を電動モータ21に供給する駆動回路70とを有する。
【0029】
駆動回路70には、モータ電圧Vmを測定する電圧センサ71と、モータ電流Imを測定する電流センサ72とが設けられている。なお、以下では、電圧センサ71により測定されたモータ電圧Vmを「測定電圧Vma」とし、電流センサ72により測定されたモータ電流Imを「測定電流Ima」とする。また、測定電圧Vmaは「電動モータの電圧の測定値」に相当し、測定電流Imaは「電動モータの電流の測定値」に相当する。
【0030】
モータ制御装置40は、電動モータ21に供給する電流(以下、「電流指令値Ia」)を算出する電流指令値演算部50と、モータ制御信号Smを形成するモータ制御信号出力部42と、電動モータ21の回転角速度ωmを推定回転角速度ωmaとして算出する回転角速度演算部43と、測定したデータを記憶する記憶部41とを有する。またこの他に、モータ抵抗Rmを算出する抵抗演算部60を有する。なお、回転角速度演算部43は「第3演算部」に相当する。
【0031】
電流指令値演算部50は、車速Vおよび推定回転角速度ωmaに基づいて補正トルクτaを算出するトルクシフト演算部52と、目標アシスト力に応じた電流指令値Iaを算出する基本アシスト演算部51とを有する。
【0032】
電子制御装置30は、次のようにステアリングホイール2の操舵状態を判定する。
すなわち、操舵トルクτの符号と推定回転角速度ωmaの符号とが一致するとき、切り込み状態と判定する。操舵トルクτの符号と推定回転角速度ωmaの符号とが一致しないとき、切り戻し状態と判定する。推定回転角速度ωmaの絶対値が判定値ωh以下のとき、保舵状態と判定する。なお、推定回転角速度ωmaは「電動モータの回転速度」に相当する。また、判定値ωhは「所定の回転速度」に相当する。
【0033】
基本アシスト演算部51は、補正トルクτaと車速Vとに基づいて電流指令値Iaを算出する。具体的には、車速Vが小さくなるにつれて電流指令値Iaを大きくする。また、補正トルクτaが大きくなるにつれて電流指令値Iaを大きくする。
【0034】
モータ制御信号出力部42は、測定電流Imaが電流指令値Iaに収束するようにフィードバック制御を行う。そして、フィードバック制御により算出した電動モータ21に供給する駆動電力に相当するモータ制御信号Smを形成する。
【0035】
回転角速度演算部43は、モータ方程式としての下記(1)式に基づいて、推定回転角速度ωmaを算出する。すなわち、測定電流Ima、測定電圧Vma、記憶部41に記憶されている逆起電力定数K、および記憶部41に記憶されている(1)式の演算に用いるための抵抗(以下、「演算抵抗値R」)を(1)式に代入して、推定回転角速度ωmaを算出する。なお、電動モータ21には回転角速度ωmを測定するセンサが設けられていないため、(1)式により回転角速度ωmを推定回転角速度ωmaとして算出する。また、演算抵抗値Rは「電動モータの抵抗の推定値」に相当する。
【0036】

ωm=(Vm−R・Im)/K … (1)

抵抗演算部60は、測定電圧Vmaおよび測定電流Imaに基づくモータ抵抗(以下、「第1抵抗値Ra」)を算出する第1抵抗算出部61と、モータ温度Tmに基づくモータ抵抗(以下、「第2抵抗値Rb」)を算出する第2抵抗算出部62と、第1抵抗値Raと第2抵抗値Rbとを比較する比較演算部63とを有する。なお、第1抵抗算出部61は「第1演算部」に相当し、第2抵抗算出部62は「第2演算部」に相当し、比較演算部63は「第3演算部」に相当する。
【0037】
第1抵抗算出部61は、電動モータ21の誘起電圧EXが所定値以下のとき、下記(2)式に測定電圧Vmaおよび測定電流Imaを代入することによりモータ抵抗Rmを算出する。そして、算出したモータ抵抗Rmを第1抵抗値Raとして記憶部41に記憶する。なお、所定値は、ステアリングホイール2の操舵状態が保舵状態のときの誘起電圧EXに相当する値である。この所定値は、試験等により予め設定される。
【0038】

Rm=Vm/Im … (2)

誘起電圧EXは、下記(3)式により算出される。すなわち、測定電流Ima、測定電圧Vma、演算抵抗値R、電動モータ21のインダクタンスL、電動モータ21の単位時間当たりの電流変化量を(3)式に代入して、誘起電圧EXが算出される。
【0039】

EX=Vm−R×Im−L×(dIm/ds) … (3)

ところで、電動モータ21のブラシと整流子との接触状態および電動パワーステアリング装置1の電動モータ21以外の機器の影響により、測定電流Imaおよび測定電圧Vmaにはノイズが含まれる。また、測定電流Imaおよび測定電圧Vmaは、ノイズの影響により真の値よりも大きくなる誤差を含みやすい。このため、上記(2)式から算出される第1抵抗値Raは、真の値よりも大きい値として算出される頻度が高い。
【0040】
このため、真の値に対して過度に大きくなる誤差が第1抵抗値Raに含まれているか否かの確認すること、すなわち第1抵抗値Raの誤差の絶対値が許容範囲内か否かを判定することが好ましい。
【0041】
そこで、抵抗演算部60は、上記(2)式とは別の方法により算出される第2抵抗値Rbと第1抵抗値Raとを比較することにより、第1抵抗値Raの誤差の絶対値が許容範囲内か否かを判定する。なお、誤差の許容範囲は、推定回転角速度ωmaの算出精度として操舵トルクシフト制御において要求される精度を確保することのできる範囲を示し、試験等により予め定められる。
【0042】
図2および図3を参照して、第2抵抗値Rbの算出方法について説明する。
第2抵抗算出部62は、電動モータ21の温度(以下、「モータ温度Tm」)とモータ抵抗Rmとの関係を規定したマップ(以下、「抵抗演算マップ」)と、推定したモータ温度Tmとに基づいて第2抵抗値Rbを算出する。なお、モータ制御装置40の記憶部41には、抵抗演算マップが予め記憶されている。この抵抗演算マップは、「抵抗演算手段」に相当する。
【0043】
モータ温度Tmの算出手順について説明する。
第2抵抗算出部62は、電動モータ21の発熱量(以下、「モータ発熱量Hm」)を変数としてモータ温度Tmを算出するための関数(以下、「温度特性関数」)に基づいて、モータ温度Tmを算出する。
【0044】
この温度特性関数は、電動モータ21の放熱特性に応じて異なる。また、電動モータ21の放熱特性は、電動モータ21の電機子コアの材料および形状、コイルと電機子コアとを電気的に絶縁するインシュレータの材料および形状、磁石の材料および形状、ハウジングの材料および形状、および電動モータ21の構成要素の組立誤差等により変化する。
【0045】
第2抵抗算出部62においては、電動モータ21の放熱特性として予め想定することが可能な放熱特性のうちの最も低い放熱特性を「最低放熱特性」として、この最低放熱特性を前提として規定された温度特性関数(以下、「上限特性関数」)を用いてモータ温度Tmを算出する。なお、モータ制御装置40の記憶部41には、上限特性関数が予め記憶されている。また、図3に示される関数Fは、上限特性関数に基づいて算出されるモータ温度Tmとモータ抵抗Rmとの関係を示している。
【0046】
モータ発熱量Hmの算出手順について説明する。
第2抵抗算出部62は、下記(4)式に基づいてモータ発熱量Hmを算出する。

Hm=R×Im×Im×t … (4)

(4)式の「Im」には、電動モータ21に電流が供給された所定期間(以下、「供給期間t」)においての測定電流Imaの代表値が代入される。また「t」には、供給期間tが代入される。また「R」には、供給期間tにおいての演算抵抗値Rの代表値が代入される。なお、測定電流Imaの代表値としては、供給期間tにおいての測定電流Imaの平均値を用いることができる。また、演算抵抗値Rの代表値としては、供給期間tにおいての演算抵抗値Rの平均値を用いることができる。
【0047】
第2抵抗値Rbの算出手順のまとめを以下に示す。
(A)最新の測定電流Imaおよび抵抗演算マップを読み出す。
(B)最新の測定電流Imaおよび上限特性関数に基づいてモータ温度Tmを算出する。
(C)上記(B)の処理において算出したモータ温度Tmを抵抗演算マップに適用し、モータ温度Tmに対応するモータ抵抗Rmを算出する。
(D)上記(C)の処理において算出したモータ抵抗Rmを最新の測定電流Imaに対応する第2抵抗値Rbとして記憶部41に記憶する。
【0048】
演算抵抗値Rの確定の仕方について説明する。
上限特性関数に基づいて算出されるモータ温度Tmは、同一の駆動条件のもとで算出されるモータ温度Tmのうちの最も高い温度となる。このため、モータ温度Tmから算出される第2抵抗値Rbは、モータ温度Tmから予測されるモータ抵抗Rmのうちの最大の値となる。
【0049】
そして、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rbよりも大きいとき、モータ温度Tmから予測されるモータ抵抗Rmの最大値よりも第1抵抗値Raが大きいことを意味する。このため、第1抵抗値Raの誤差の絶対値が許容範囲よりも大きいとみなし、第1抵抗値Raを演算抵抗値Rとして確定しない。なお、この抵抗演算部60では、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rbと同じ大きさのときにも第1抵抗値Raの誤差の絶対値が許容範囲よりも大きいとみなし、第1抵抗値Raを演算抵抗値Rとして確定しない。
【0050】
また、第2抵抗値Rbの算出には測定電流Imaが用いられるため、第2抵抗値Rbにも測定電流Imaに応じて誤差が含まれる。しかし、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rbよりも大きいときには、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rb未満のときよりも第1抵抗値Raの誤差が大きい。このため、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rbよりも大きいとき、上記のとおり第1抵抗値Raを演算抵抗値Rとして確定しない。
【0051】
抵抗演算部60は、上記の手順に従い演算抵抗値Rを確定するための処理として、図4に示される「演算抵抗更新処理」を行う。この処理は、推定回転角速度ωmaが判定値ωh以下のとき、所定の制御周期毎に繰り返し行われる。
【0052】
図4を参照して、演算抵抗更新処理の手順について説明する。
ステップS11では、第1抵抗値Raおよび第2抵抗値Rbを算出する。第1抵抗値Raは、最新の測定電圧Vmaおよび最新の測定電流Imaに基づいて算出される。第2抵抗値Rbは、最新の測定電流Imaに基づいて算出される。
【0053】
ステップS12では、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rb未満か否かを判定する。
ステップS12において第1抵抗値Raが第2抵抗値Rb未満と判定したとき、ステップS13において、ステップS11により算出した第1抵抗値Raを演算抵抗値Rとして確定する。
【0054】
ステップS12において第1抵抗値Raが第2抵抗値Rb以上と判定したとき、ステップS14において、演算抵抗値Rを更新しない。すなわち、過去の演算周期において確定した演算抵抗値Rを維持する。
【0055】
(実施形態の効果)
本実施形態の電動パワーステアリング装置1によれば、以下の効果が得られる。
(1)電子制御装置30は、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rb未満のとき、第1抵抗値Raを演算抵抗値Rとして確定する。この構成によれば、モータ抵抗Rmの推定精度が低下することを抑制することができる。
【0056】
(2)誘起電圧が小さくなるにつれて測定電圧Vmaに対する誘起電圧の影響が小さくなるため、測定電流Imaおよび測定電圧Vmaから算出される第1抵抗値Raの精度が高くなる。
【0057】
電子制御装置30においては、上記の事項に着目し、誘起電圧が所定値以下のときに第1抵抗算出部61により第1抵抗値Raを算出する。このため、第1抵抗値Raの算出精度が高くなる。また、第1抵抗値Raにより確定された演算抵抗値Rを用いて上記(1)式により推定回転角速度ωmaを算出するため、推定回転角速度ωmaの演算結果の精度がより向上する。
【0058】
(3)電子制御装置30には、上限特性関数に基づいて抵抗演算マップが規定されている。このため、所定の温度条件において抵抗演算マップにおいて第2抵抗算出部62により算出される第2抵抗値Rbは、別の温度特性関数を前提に規定された抵抗演算マップから算出される抵抗値と比較して大きくなる。これにより、相対的に第1抵抗値Raが第2抵抗値Rbよりも小さい値となりやすくなるため、第1抵抗値Raが演算抵抗値Rとして確定される頻度が高くなる。
【0059】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は上記実施形態の内容に限られるものではなく、例えば以下のように変更することもできる。また、以下の変形例は上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0060】
・上記実施形態(図3)では、モータ温度Tmに基づいて第2抵抗値Rbを算出しているが、第2抵抗値Rbの算出方法を次のように変更することもできる。すなわち、最小2乗法により測定電圧Vma、測定電流Ima、および推定回転角速度ωmaに基づいてモータ方程式の近似式を算出する。そして、この近似式に基づいてモータ抵抗Rmとしての第2抵抗値Rbを算出する。
【0061】
・上記実施形態(図2)では、上記(2)式に基づいて第1抵抗値Raを算出しているが、上述のように最小2乗法により算出されたモータ方程式の近似式に基づいてモータ抵抗Rmとしての第1抵抗値Raを算出することもできる。この場合、第2抵抗値Rbとしては、上記(2)式に基づいて第2抵抗値Rbを算出する方法、またはモータ温度Tmに基づいて第2抵抗値Rbを算出する方法を用いることができる。
【0062】
・上記実施形態(図2)では、上記(2)式に基づいて第1抵抗値Raを算出し、モータ温度Tmに基づいて第2抵抗値Rbを算出しているが、モータ温度Tmに基づいて第1抵抗値Raを算出し、上記(2)式に基づいて第2抵抗値Rbを算出することもできる。
【0063】
・上記実施形態(図2)では、上記(3)式に基づいて誘起電圧EXを算出しているが、外乱オブザーバを用いて誘起電圧EXを算出することもできる。外乱オブザーバは、誘起電圧EXを外乱要素とみなしてモータ方程式をモデル化するものである。
【0064】
・上記実施形態(図4)では、演算抵抗更新処理のステップS12において、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rb未満か否かを判定しているが、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rb以下か否かの判定に変更することもできる。すなわち、第1抵抗値Raが第2抵抗値Rbと同じ大きさのときには第1抵抗値Raの誤差の絶対値が許容範囲内の大きさとみなし、第1抵抗値Raを演算抵抗値Rとして確定することもできる。
【0065】
・上記実施形態(図4)では、演算抵抗更新処理において第1抵抗値Raを演算抵抗値Rとして確定しているが、第1抵抗値Raと過去の演算周期において確定した演算抵抗値Rとの平均値を算出し、この平均値を演算抵抗値Rとして確定することもできる。
【0066】
・上記実施形態(図2)では、上限特性関数に基づいてモータ温度Tmを算出しているが、モータ温度Tmを算出する方法はこれに限られない。例えば特開2004−229491号公報に記載の方法によりモータ温度Tmを算出することもできる。また、電動モータ21に温度センサを設け、このセンサによりモータ温度Tmを測定することもできる。
【0067】
・上記実施形態(図1)では、ブラシ付きの電動モータ21を備えているが、ブラシレスモータを備えることもできる。
・上記実施形態(図1)では、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置1に本発明を適用したが、ピニオンアシスト型およびラックアシスト型の電動パワーステアリング装置に対して本発明を適用することもできる。この場合にも、上記実施形態に準じた構成を採用することにより、同実施形態の効果に準じた効果が得られる。
【符号の説明】
【0068】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、10…操舵角伝達機構、11…ステアリングシャフト、12…ラックアンドピニオン機構、13…ラック軸、14…タイロッド、20…アシスト装置、21…電動モータ、22…減速機構、30…電子制御装置(制御装置)、31…操舵角センサ、32…トルクセンサ、33…車速センサ、40…モータ制御装置、41…記憶部、42…モータ制御信号出力部、43…回転速度演算部(第3演算部)、50…電流指令値演算部、51…基本アシスト演算部、52…トルクシフト演算部、60…抵抗演算部、61…第1抵抗算出部(第1演算部)、62…第2抵抗算出部(第2演算部)、63…比較演算部(第3演算部)、70…駆動回路、71…電圧センサ、72…電流センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動パワーステアリング装置に設けられる電動モータの抵抗の推定値を算出する電動パワーステアリング装置の制御装置において、
前記電動モータの電流の測定値および前記電動モータの電圧の測定値の少なくとも一方に基づいて前記電動モータの抵抗に相当する第1抵抗値を算出する第1演算部と、
この第1演算部とは別の方法により前記電動モータの抵抗に相当する第2抵抗値を算出する第2演算部と、
前記第2抵抗値よりも小さい前記第1抵抗値を前記電動モータの抵抗の推定値として確定する第3演算部とを備える
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置において、
前記第1演算部は、前記電動モータの誘起電圧が所定値以下のとき、前記電流の測定値および前記電圧の測定値を用いて前記第1抵抗値を算出し、
前記第3演算部は、前記電動モータの抵抗の推定値として確定した前記第1抵抗値を用いて所定の演算処理を行う
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置において、
前記第3演算部は、前記所定の演算処理として、前記電動モータの抵抗の推定値として確定した前記第1抵抗値を用いて前記電動モータの回転速度を算出する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載される電動パワーステアリング装置の制御装置において、
前記第2演算部は、前記電動モータの温度と前記電動モータの抵抗との関係を規定した抵抗演算手段を備え、
前記抵抗演算手段は、前記電動モータの放熱特性として予め想定することが可能な放熱特性のうちの最も低い放熱特性を前提として前記関係を規定している
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−82257(P2013−82257A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222018(P2011−222018)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】