説明

ステアリング装置およびフォークリフト

【課題】機械的な接触を行うことなく、実際の操舵角を目標操舵角で適切に維持できるようにする。
【解決手段】実際の操舵角(検出操舵角)が目標操舵角に到達するまでは、ステアリング51の操作トルクに応じて操舵輪に付与される操舵トルクが、漸減舵角範囲にわたって上限値から下限値にまで減少していく一方、目標操舵角に到達した以降は、逆方向の操舵トルクが、この漸減舵角範囲よりも狭い急峻舵角範囲にわたって下限値から上限値にまで増加していく。このように、操舵トルクが変化する操舵角範囲を、目標操舵角への到達以降において狭くすることで、操舵トルクの変化率が大きくなるため、その到達前に比べて操舵トルクが急峻に上限値まで増加していく。こうして、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降は、逆方向の操舵トルクが十分に大きくならない、というような操舵角範囲も当然狭くなる(漸減舵角範囲>急峻舵角範囲)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォークリフトに搭載されるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォークリフトなどに搭載されるステアリング装置では、操舵輪の操舵を所定の最終位置で停止させるために、操舵輪やその周辺部材をストッパとなる構造体に接触させるように構成されていることが一般的である。
【0003】
ただ、ステアリング装置では、ステアリングの操作トルクに応じた大きな操舵トルクを操舵輪に付与するため、この操舵トルクに耐えられる構造とするために大きなコスト負担が必要となり、また、構造体への接触に際しての衝撃も大きいことから、近年では、機械的な接触を伴わない停止方法に関する技術も提案されている。
【0004】
具体的には、操舵輪の操舵を停止させるべき操舵角を目標操舵角とし、この目標操舵角に実際の操舵角(検出値)が近づくにつれて、操舵輪に付与する操舵トルクを減少させていく一方で、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降、ここから離れていくほど逆方向(操舵に対抗する方向)に増加する操舵トルクを操舵輪に付与する、とった技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2826687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記技術では、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降、ここから離れたとしても、目標操舵角との舵角差に応じた大きさで、目標操舵角に戻る方向の操舵トルクが操舵輪に付与されるため、実際の操舵角が目標操舵角付近に戻されて維持されるようになる。
【0007】
このとき、上記技術では、目標操舵角を中心に拡がる所定の操舵角範囲にわたって、操舵トルクの変化率(直線状に変化する操舵トルクの傾き)を一定とし、目標操舵角への到達前後において同じ傾向で操舵トルクを「0」まで減少させてから逆方向に増加させていくことによって、操舵トルクの方向をスムーズに変化させ、目標操舵角付近で操舵を停止させる際の衝撃を緩和させている。
【0008】
ただ、この構成では、目標操舵角への到達前後で継続的に大きな操作トルクがステアリングに加えられていると、その操作トルクにより操舵輪を操舵しようとする力が、目標操舵角に戻る方向の操舵トルクと釣り合う操舵角まで、操舵輪が操舵された状態となってしまう恐れがある。
【0009】
これは、目標操舵角への到達前後で操舵トルクの変化率を一定にし、操舵トルクの方向をスムーズに変化させることで衝撃を緩和させているが故に、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降、目標操舵角に戻る方向の操舵トルクが同じ変化率で徐々にしか大きくならず、この操舵トルクが十分に大きくならない操舵角範囲が存在しているからである。このような操舵角範囲の存在は、実際の操舵角を目標操舵角にて適切に維持するために必ずしも望ましいものとはいえない。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、機械的な接触を行うことなく、実際の操舵角を目標操舵角で適切に維持できるようにするための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため第1の構成(請求項1)に係るステアリング装置は、フォークリフトに搭載されるステアリング装置であって、操舵輪を操舵させるべく運転者が操作するステアリングにつき、該ステアリングに加えられた操作トルクの方向および大きさを検出する操作検出手段と、前記操作検出手段により検出された操作トルクに基づき、該操作トルクに対応する方向および大きさの操舵トルクを操舵輪に付与することにより、ステアリングを介した操舵輪の操舵をアシストする操舵アシスト手段と、操舵輪の操舵角を検出する舵角検出手段と、を備えている。
【0012】
そして、前記操舵アシスト手段は、前記舵角検出手段により検出された検出操舵角があらかじめ定められた目標操舵角に近づくにつれて、前記操作トルクに応じて操舵輪に付与する操舵トルクを、所定の漸減舵角範囲にわたって、該漸減舵角範囲において定められた上限値から下限値まで減少させる一方、また、前記検出操舵角が前記目標操舵角に到達した以降、前記検出操舵角の前記目標操舵角との舵角差を相殺する方向の操舵トルクを操舵輪に付与すると共に、該舵角差が大きくなるにつれて、該付与する操舵トルクを、前記漸減舵角範囲よりも狭い急峻舵角範囲にわたって、該急峻舵角範囲において定められた下限値から上限値まで増加させる。
【0013】
このように構成されたステアリング装置は、実際の操舵角(検出操舵角)が目標操舵角に到達するまで、ステアリングの操作トルクに応じて操舵輪に付与される操舵トルクを減少させていき、実際の操舵角が目標操舵角に到達したら、それ以降、目標操舵角から離れるほど大きくなる操舵トルクを、実際の操舵角と目標操舵角との舵角差を相殺する方向へと付与するようになる。
【0014】
これにより、実際の操舵角が目標操舵角から離れたとしても、目標操舵角との舵角差に応じた大きさで、目標操舵角に戻る方向(逆方向)の操舵トルクが操舵輪に付与されることになるため、結果的に実際の操舵角が目標操舵角付近で維持されるようになる。
【0015】
このとき、実際の操舵角が目標操舵角に到達するまでは、ステアリングの操作トルクに応じて操舵輪に付与される操舵トルクが、漸減舵角範囲にわたって上限値から下限値にまで減少していく一方、目標操舵角に到達した以降は、逆方向の操舵トルクが、この漸減舵角範囲よりも狭い急峻舵角範囲にわたって下限値から上限値にまで増加していく。
【0016】
このように、上記構成では、操舵トルクが変化する操舵角範囲を、目標操舵角への到達以降において狭くすることで、操舵トルクの変化率が大きくなっているため、その到達前に比べて操舵トルクが急峻に上限値まで増加していくことになる。
【0017】
これにより、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降は、逆方向の操舵トルクが徐々にしか大きくならず、この操舵トルクが十分に大きくならない、というような操舵角範囲が当然狭くなる。
【0018】
そうすると、目標操舵角への到達前後で継続的に大きな操作トルクがステアリングに加えられていたとしても、その操作トルクにより操舵輪を操舵しようとする力が、目標操舵角に戻る方向の操舵トルクを超えることが起こりにくく、また、起きたとしても大幅に超えることがなくなるため、その力により目標操舵角から離れた操舵角まで操舵輪が操舵された状態となってしまうことを防止することができる。こうして、実際の操舵角が目標操舵角から離れた状態となってしまうことを防止し、実際の操舵角を目標操舵角にて適切に維持することができる。
【0019】
なお、上記構成において、逆方向の操舵トルクは、検出操舵角が目標操舵角に到達して以降に付与されるものであるが、このような操舵トルクが付与される動作状態は、それ以後、運転者の意図しないものとなってしまう恐れもあるため、運転者の意図を踏まえて通常の動作状態に復帰できるように構成することが望ましい。
【0020】
例えば、実際の操舵角を漸減舵角範囲内において目標操舵角から離す、つまり操舵角を戻すためのステアリング操作が行われた場合には、意図的に方向転換などを行おうとしており、実際の操舵角を目標操舵角で維持することを意図しなくなったと推定できるため、そのようなステアリング操作を検出して通常の動作状態に復帰させることが考えられる。
【0021】
このためには、上記構成を以下に示す第2の構成(請求項2)のようにすることが考えられる。
第2の構成において、前記操舵アシスト手段は、前記検出操舵角が前記目標操舵角に到達した以降、前記操作検出手段により、前記漸減舵角範囲内において前記目標操舵角から離れる方向の操作トルクが検出されるまで、前記舵角差を相殺する方向の操舵トルクを操舵輪に付与する。
【0022】
この構成であれば、ステアリング操作により、運転者が実際の操舵角を目標操舵角で維持することを意図しなくなったことを検出して、逆方向の操舵トルクを付与する状態から、ステアリングへの操作トルクに応じた操舵トルクが付与される通常の状態へと復帰させることができる。
【0023】
さらに、上記構成では、上述したステアリング操作が行われるまでは、ステアリング操作以外の影響で操舵輪が操舵された場合であっても、その操舵角に応じて逆方向の操舵トルクが付与され続ける。そのため、例えば、車両本体の進行に伴って操舵角が自然に増減したり、路面状態に応じて操舵角が突発的に変位してしまうような意図しない操舵が発生するような場合であっても、それがステアリング操作以外によるものであれば、逆方向の操舵トルクにより実際の操舵角を目標操舵角にて維持することができる。
【0024】
また、この構成においては、さらに、以下に示す第3の構成(請求項3)のようにしてもよい。
第3の構成において、前記操舵アシスト手段は、前記検出操舵角が前記目標操舵角に到達した以降、前記操作検出手段により、前記漸減舵角範囲内において前記目標操舵角から離れる方向、かつ、所定のしきい値以上の大きさを示す操作トルクが検出されるまで、前記舵角差を相殺する方向の操舵トルクを操舵輪に付与する。
【0025】
この構成であれば、操舵角を戻すためのステアリング操作が、しきい値以上の操作トルクをもって行われた場合に、運転者が実際の操舵角を目標操舵角で維持することを意図しなくなったこととして通常の動作状態へと復帰させることができる。
【0026】
なお、この構成における「しきい値以上の操作トルク」とは、運転者が意図的にステアリングを操作しようとした場合に発生しうる大きさの操作トルクであればよく、あらかじめ定められた値や、随時設定される値を使用することとすればよい。
【0027】
ところで、上記各構成においては、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降、実際の操舵角が目標操舵角から離れるほど、急峻舵角範囲にわたって下限値から上限値まで増加する逆方向の操舵トルクが付与されるようになるため、この急峻舵角範囲を超えるような操舵輪の操舵が物理的に困難になる。逆にいえば、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降、実際の操舵角が急峻舵角範囲を超えるような操舵角となったことが検出されるような状況は、ステアリング装置に何らかの異常が発生していると考えられる。
【0028】
そのため、このような異常を検知して報知できるようにしておくことが望ましく、このためには、上記各構成を以下に示す第4の構成(請求項4)のようにするとよい。
第4の構成は、前記検出操舵角が前記目標操舵角に到達した以降、前記操作検出手段により、所定のしきい値以上大きさを示す操作トルクが検出されていない状況で、前記検出操舵角が前記急峻舵角範囲外の操舵角となった場合に、当該ステアリング装置に異常が発生している旨を報知する異常報知手段、を備えている。
【0029】
この構成であれば、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降、実際の操舵角が急峻舵角範囲を超えるような操舵角となったことを、ステアリング装置に何らかの異常が発生しているものとして、その旨を報知することができる。
【0030】
また、上記各構成において、目標操舵角とは、操舵輪の操舵を停止させるべく操舵角を示すものであり、あらかじめ定められた操舵角であってもよいし、任意に設定可能なものであってもよい。この後者のためには、上記各構成を以下に示す第5の構成(請求項5)のようにすることが考えられる。
【0031】
第5の構成は、前記フォークリフトの運転者による操作を受けて、前記フォークリフトによる最小旋回半径の旋回を実現するための操舵角、および、前記フォークリフトにより荷物を搭載しての直角積み付けを実施するのに適した操舵角、のうち、少なくともいずれかを含む1以上の操舵角を、前記目標操舵角として設定する目標設定手段、を備えている。
【0032】
この構成であれば、最小旋回半径の旋回を実現するための操舵角、および、直角積み付けを実施するのに適した操舵角、のうち、少なくともいずれかを含む1以上の操舵角を、目標操舵角として任意に設定することができるようになる。
【0033】
また、上記課題を解決するため第6の構成(請求項6)は、上記いずれかの構成に係るステアリング装置を搭載していることを特徴とするフォークリフトである。
このように構成されたフォークリフトであれば、上記各構成と同様の作用・効果を得ることができる。
【0034】
また、上記課題を解決するため第7の構成は、上記いずれかの構成に係るステアリング装置として機能させるためのプログラムである。
このプログラムにより制御されるコンピュータであれば、上記各構成に係るステアリング装置の一部を構成することができる。
【0035】
なお、上述したプログラムは、コンピュータシステムによる処理に適した命令の順番付けられた列からなるものであって、各種記録媒体や通信回線を介してステアリング装置またはフォークリフトや、これを利用するユーザに提供されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】フォークリフトの全体を示す斜視図
【図2】ドライブ装置の構成を示すブロック図
【図3】パラメータ設定処理を示すフローチャート
【図4】制御切替処理を示すフローチャート
【図5】制限無しトルク制御の処理を示すフローチャート
【図6】操舵角の変化に伴う操舵トルクの推移を示すチャート
【図7】制限付きトルク制御の処理を示すフローチャート
【図8】操舵角制御の処理を示すフローチャート
【図9】異常報知処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(1)基本構成
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
【0038】
フォークリフト1は、荷役作業に用いられるものであり、図1に示すように、本体2の前方に荷役機構3が設けられ、本体2の後方に運転席4およびステアリング装置5が設けられている。
【0039】
このステアリング装置5は、本体2の後方側において運転席4と隣接する位置に搭載されたものであり、図2に示すように、運転者の操作を受けるステアリング51、フォークリフト1を移動させるべく駆動される駆動輪53、駆動輪53を支持する駆動支持部55、駆動輪53を回転させるための駆動モータ59、ステアリング51の操作トルクを駆動輪53に伝達させて駆動輪53を操舵する操舵伝達機構61、ステアリング51による駆動輪53の操舵をアシストするアシストモータ63、アシストモータ63を動作させる動作回路65、ステアリング51の操作トルクを検出するトルクセンサ71、駆動輪53の操舵角を検出する舵角センサ73、ステアリング装置5全体の動作を制御する制御装置であるコントローラ75、運転者による操作を受け付ける操作部77などを備えている。
【0040】
これらのうち、駆動支持部55は、駆動輪53が操舵される方向に沿って回転可能な状態で本体2に固定されており、その回転方向に駆動支持部55を取り囲む操舵ギヤ57が形成されている。
【0041】
また、アシストモータ63は、操舵伝達機構61により伝達されるステアリング51の操作トルクに応じて、駆動支持部55の操舵ギヤ57と噛み合わされたギヤ(図示されない)を回転させることにより、この操舵ギヤ57を介して、駆動支持部55および駆動支持部55に支持された駆動輪53の操舵をアシストする。なお、以降、このアシストモータ63が駆動輪53を操舵する際に付与するトルクを操舵トルクという。
【0042】
また、操舵伝達機構61は、ステアリング51から駆動支持部55に向けて延びるロッド状の部材である。本実施形態では、駆動輪53側の端部(下端)に、駆動支持部55の操舵ギヤ57と噛み合わされた伝達ギヤ67が設けられており、操舵伝達機構61は、ステアリング51の操作トルクを、この伝達ギヤ67および操舵ギヤ57を介して、駆動支持部55および駆動支持部55に支持された駆動輪53に伝達する。
(2)パラメータ設定処理
ここで、コントローラ75が内蔵メモリに格納されたプログラムに従って実行するパラメータ設定処理の処理手順を図3に基づいて説明する。このパラメータ設定処理は、操作部77に対する操作が行われる毎に実行される。
【0043】
このパラメータ設定処理が起動されると、まず、その起動に先立って行われた操作が、目標操舵角を指定する操作であるか否かがチェックされる(s110)。
本実施形態では、駆動輪53の操舵を停止させるべき操舵角を指定し、これを目標操舵角として任意に設定する操作が実施可能に構成されているため、ここでは、そのような操舵角の指定が行われたか否かがチェックされる。
【0044】
このs110で、目標操舵角を指定する操作が行われたと判定された場合(s110:YES)、その操作により指定された操舵角が、目標操舵角として設定される(s120)。ここでは、コントローラ75の内蔵メモリに格納された目標操舵角設定用の変数に、指定された操舵角をセットすることにより、目標操舵角の設定が行われる。
【0045】
なお、本実施形態では、フォークリフト1による最小旋回半径の旋回を実現するための操舵角、および、フォークリフト1により荷物を搭載しての直角積み付けを実施するのに適した操舵角、を含む複数の操舵角があらかじめ用意されており、これらの中から、いずれかの操舵角を任意に選択して指定する操作が実施可能に構成されている。
【0046】
こうして、s120が行われた後、または、本パラメータ設定処理の起動に先立って行われた操作が、目標操舵角を指定する操作ではない場合(s110:NO)、その操作が操舵角を目標操舵角で維持するか否かを指定するための操作であるか否かがチェックされる(s130)。
【0047】
本実施形態では、後述する処理で駆動輪53の操舵を目標操舵角で停止させて維持させるか否か、を指定する操作が実施可能に構成されているため、ここでは、そのような指定が行われたか否かがチェックされる。
【0048】
このs130で、目標操舵角で停止させて維持させるか否かを指定するための操作が行われたと判定された場合(s130:YES)、そうして指定された内容に応じて、目標操舵角で停止させて維持させるための目標維持モードのオンまたはオフが設定された後(s140)、本パラメータ設定処理が終了する。
【0049】
ここでは、維持させる旨が指定されていれば、目標維持モードのオンが設定される一方、維持させない旨が指定されていれば、目標維持モードのオフが設定される。このs140では、コントローラ75の内蔵メモリに格納された目標維持モード用の変数に、オンまたはオフを示す値をセットすることにより、目標維持モードのオンまたはオフが設定される。
【0050】
そして、本パラメータ設定処理の起動に先立って行われた操作が、目標操舵角を指定する操作、および、目標操舵角での維持または維持解除を指定する操作、のいずれでもない場合(s130:NO)、その操作に対応する処理(その他の処理)が行われた後(s150)、本パラメータ設定処理が終了する。
(3)制御切替処理
次に、コントローラ75が内蔵メモリに格納されたプログラムに従って実行する制御切替処理の処理手順を図4に基づいて説明する。この制御切替処理は、ステアリング装置5が起動した以降、繰り返し実行される。
【0051】
この制御切替処理が起動されると、まず、目標維持モードがオンに設定されているか否かがチェックされる(s210)。この目標維持モードは、上述したパラメータ設定処理において設定されたものであり、ここでは、目標維持モード用の変数にオンがセットされていることをもって、目標維持モードがオンに設定されていると判定される。
【0052】
このs210で、目標維持モードがオンに設定されていない(オフに設定されている)と判定された場合(s210:NO)、アシストモータ63を介して駆動輪53の操舵をアシストする制御モードが「制限無しトルク制御」に切り替えられた後(s220)、プロセスがs210へと戻る。
【0053】
この「制限無しトルク制御」とは、トルクセンサ71により検出された操作トルクに応じて、駆動輪53の操舵をアシストするための操舵トルクを算出し、これを駆動輪53に付与すべく制御する制御モードであって、順方向または逆方向に操舵トルクが付与される。
【0054】
こうして、制御モードが「制限無しトルク制御」に切り換えられて以降、コントローラ75は、トルクセンサ71により操作トルクを検出し(図5のs310)、この操作トルクに応じた方向および大きさの操舵トルクを算出したうえで(同図s320)、こうして算出した操舵トルクをアシストモータ63に発生させるべく(同図s330)、動作回路65への指令を実行するようになる。
【0055】
また、上記s210で、目標維持モードがオンに設定されていると判定された場合(s210:YES)、この時点で設定されている目標操舵角が取得される(s230)。この目標操舵角は、上述したパラメータ設定処理において設定されたものであり、ここでは、その時点で目標操舵角設定用の変数にセットされている値が目標操舵角として取得される。
【0056】
次に、この時点での駆動輪53の操舵角が舵角センサ73の出力値に基づいて検出される(s240)。
次に、上記s240にて検出された操舵角(検出操舵角)が、目標操舵角を起点とする漸減舵角範囲内にあるか否かがチェックされる(s250)。
【0057】
この漸減舵角範囲内とは、駆動輪53を操舵して実際の操舵角を目標操舵角に近づけていくにつれて、操作トルクに応じて駆動輪53に付与する操舵トルクを減少させていく操舵角範囲として定められたものであり、ここでは、検出操舵角が、上記s230にて取得された目標操舵角を起点とする漸減舵角範囲内に位置しているか否かがチェックされる。
【0058】
なお、この漸減舵角範囲は、図6に示すように、実際の操舵角が目標操舵角に近づくにつれて、操舵トルク(アシストモータ63へのデューティ指令で規定される最大値)が、漸減舵角範囲において定められた上限値から下限値(本実施形態では「0」)まで直線的に減少するように定められており、その減少傾向および操舵角範囲は、ステアリング51を操作する運転者に対して大きな反力を与えないように定められたものである。
【0059】
このs250で、検出操舵角が漸減舵角範囲内にないと判定された場合(s250:NO)、プロセスがs220へと移行する一方、漸減舵角範囲内にあると判定された場合(s250:YES)、その検出操舵角が目標操舵角に到達しているか否か(検出操舵角≧目標操舵角)がチェックされる(s260)。
【0060】
このs260で、検出操舵角が目標操舵角に到達していないと判定された場合(s260:NO)、駆動輪53の操舵をアシストする制御モードが「制限付きトルク制御」に切り替えられた後(s270)、プロセスがs210へと戻る。
【0061】
この「制限付きトルク制御」とは、ステアリング51の操作トルクに応じて算出した操舵トルクを駆動輪53に付与する点で、上述した「制限無しトルク制御」と同一であるが、駆動輪53に付与する操舵トルクの大きさに制限が設けられている点で相違する。
【0062】
この制限は、上述した漸減舵角範囲における操舵トルクの減少傾向に従ったものであり、制限付きトルク制御では、ステアリング51の操作トルクに応じたものとして算出された操舵トルクが(図7のs410〜s420)、この時点における検出操舵角に応じた操舵トルクの最大値以下であれば(同図s430〜s450:YES)、こうして算出した操舵トルクをアシストモータ63に発生させるべく(同図s460)、動作回路65への指令を実行するに対し、最大値より大きいと(同図s450:NO)、最大値相当の操舵トルクをアシストモータ63に発生させるべく(同図s470)、動作回路65への指令を実行する。
なお、この操舵トルクの最大値は、実際の操舵角が目標操舵角に近づくにつれて、規定の上限値から下限値までの範囲内で減少していく。
【0063】
こうして、制御モードが「制限付きトルク制御」に切り換えられて以降、コントローラ75は、トルクセンサ71により検出された操作トルクに応じた大きさの操舵トルク、または、その時点における最大値の操舵トルクがアシストモータ63により発生されるよう、動作回路65への指令を実行するようになる。
また、上述したs260で、検出操舵角が目標操舵角に到達していると判定された場合(s260:YES)、駆動輪53の操舵をアシストする制御モードが「操舵角制御」に切り替えられる(s280)。この「操舵角制御」とは、ステアリング51の操作トルクとは無関係に、その時点における検出操舵角の目標操舵角との舵角差を相殺する方向の操舵トルクとして、その舵角差が大きくなるにつれて増加する操舵トルクを算出し、これを駆動輪53に付与する制御モードである。
【0064】
この「操舵角制御」では、図6に示すように、目標操舵角を中心に、漸減舵角範囲よりも狭い操舵角範囲である急峻舵角範囲が順方向、逆方向それぞれに規定され、付与される操舵トルクが、目標操舵角から離れるにつれて、急峻舵角範囲において定められた下限値から上限値まで増加していく。
【0065】
こうして、制御モードが「操舵角制御」に切り換えられて以降、コントローラ75は、舵角センサ73により操舵角を検出し(図8のs510)、この検出操舵角に応じた大きさの操舵トルクを算出したうえで(同図s520)、こうして算出した操舵トルクをアシストモータ63に発生させるべく(同図s530)、動作回路65への指令を実行するようになる。
こうして、制御モードが「操舵角制御」に切り替えられた後、制御モードを他の制御モードに復帰させるための復帰条件が充足するまで待機状態となる(s290:NO)。
【0066】
本実施形態において、「復帰条件」は、運転者が実際の操舵角を目標操舵角で維持することを意図しなくなったと推定できる条件のことであり、例えば、実際の操舵角を漸減舵角範囲内において目標操舵角から離す、つまり操舵角を戻すためのステアリング操作が所定のしきい値以上の操作トルクで行われたことを、その条件として採用することができる。また、上述した目的維持モードがオフに設定変更された場合も同様である。
【0067】
こうして、上記s290で復帰条件が充足したと判定されたら(s290:YES)、プロセスがs210へと戻り、以降の処理が繰り返される。
(4)異常報知処理
次に、コントローラ75が内蔵メモリに格納されたプログラムに従って実行する異常報知処理の処理手順を図9に基づいて説明する。この異常報知処理は、駆動輪53の操舵をアシストする制御モードが、「操舵角制御」に切り替えられている状況において繰り返し実行される。
【0068】
この異常報知処理が起動されると、まず、この時点で設定されている目標操舵角が取得される(s610)。ここでは、その時点で目標操舵角設定用の変数にセットされている値が目標操舵角として取得される。
【0069】
次に、この時点での駆動輪53の操舵角が舵角センサ73の出力値に基づいて検出される(s620)。
次に、上記s620にて検出された検出操舵角が、上記s610にて取得された目標操舵角を起点とする急峻舵角範囲外にあるか否かがチェックされる(s630)。
【0070】
このs630で、検出操舵角が急峻舵角範囲外にあると判定された場合(s630:YES)、ステアリング装置5に異常が発生している旨の報知が開始された後(s640)、プロセスがs610へと戻る。
【0071】
このs640では、操作部77に設けられた表示パネルへのメッセージの表示、ランプの点灯、および、スピーカーからの音声(ブザー音またはメッセージ)の出力、といった通知手段の1以上を実施することにより、異常が発生している旨の報知が開始される。
【0072】
制御モードが「操舵角制御」に切り替えられている状況においては、上述したように、実際の操舵角が目標操舵角から離れるほど、急峻舵角範囲にわたって下限値から上限値まで増加する逆方向の操舵トルクが付与されるようになるため、この急峻舵角範囲を超えるような駆動輪53の操舵が物理的に困難になる。つまり、「操舵角制御」に切り換えられている状況において、実際の操舵角が急峻舵角範囲を超えるような操舵角となるということは、ステアリング装置5に何らかの異常が発生していると考えられるため、この異常報知処理では、このような異常の発生を検知して報知している。
【0073】
また、上述したs630で、検出操舵角が急峻舵角範囲外にはないと判定された場合(s630:NO)、この時点で上記s640による報知が開始されていれば、その報知が終了された後(s650)、プロセスがs610へと戻る。
(5)作用,効果
上記実施形態におけるステアリング装置5によれば、実際の操舵角(検出操舵角)が目標操舵角に到達するまで、ステアリング51の操作トルクに応じて駆動輪53に付与される操舵トルクを減少させていき(図5「漸減舵角範囲」参照)、実際の操舵角が目標操舵角に到達したら、それ以降、目標操舵角から離れるほど大きくなる操舵トルクを、実際の操舵角と目標操舵角との舵角差を相殺する方向へと付与するようになる(同図「急峻舵角範囲」参照)。
【0074】
これにより、実際の操舵角が目標操舵角から離れたとても、目標操舵角との舵角差に応じた大きさで、目標操舵角に戻る方向(逆方向)の操舵トルクが駆動輪53に付与されることになるため、結果的に実際の操舵角が目標操舵角付近で維持されるようになる。
【0075】
このとき、実際の操舵角が目標操舵角に到達するまでは、ステアリング51の操作トルクに応じて操舵輪に付与される操舵トルクが、漸減舵角範囲にわたって上限値から下限値にまで減少していく一方、目標操舵角に到達した以降は、逆方向の操舵トルクが、この漸減舵角範囲よりも狭い急峻舵角範囲にわたって下限値から上限値にまで増加していく。
【0076】
このように、上記実施形態では、操舵トルクが変化する操舵角範囲を、目標操舵角への到達以降において狭くすることで、操舵トルクの変化率が大きくなっているため、その到達前に比べて操舵トルクが急峻に上限値まで増加していくことになる。
【0077】
これにより、実際の操舵角が目標操舵角に到達した以降は、逆方向の操舵トルクが徐々にしか大きくならず、この操舵トルクが十分に大きくならない、というような操舵角範囲が当然狭くなる(漸減舵角範囲>急峻舵角範囲)。
【0078】
そうすると、目標操舵角への到達前後で継続的に大きな操作トルクがステアリング51に加えられていたとしても、その操作トルクにより駆動輪53を操舵しようとする力が、目標操舵角に戻る方向の操舵トルクを超えることが起こりにくく、また、起きたとしても大幅に超えることがなくなるため、その力により目標操舵角から離れた操舵角まで駆動輪53が操舵された状態となってしまうことを防止することができる。こうして、実際の操舵角が目標操舵角から離れた状態となってしまうことを防止し、実際の操舵角を目標操舵角にて適切に維持することができる。
【0079】
また、上記実施形態であれば、ステアリング操作により、運転者が実際の操舵角を目標操舵角で維持することを意図しなくなったことを「復帰条件」の充足として検出することができ(図4のs290「YES」)、それを受けて、逆方向の操舵トルクを付与する制御モード(操舵角制御)から、ステアリング51への操作トルクに応じた操舵トルクが付与される通常の制御モードへと復帰させることができる(同図s210〜s220,s270)。
【0080】
さらに、制御モードが操舵角制御になっていると、上述したステアリング操作が行われるまでは、ステアリング操作以外の影響で駆動輪53が操舵された場合であっても、操舵角制御が維持され(図4のs290「NO」)、逆方向の操舵トルクが付与され続ける。そのため、例えば、本体2の進行に伴って操舵角が自然に増減したり、路面状態に応じて操舵角が突発的に変位してしまうような意図しない操舵が発生したとしても、それがステアリング操作以外によるものであれば、逆方向の操舵トルクにより実際の操舵角を目標操舵角に戻して維持することができる。
また、上記実施形態では、実際の操舵角を漸減舵角範囲内において目標操舵角から離す、つまり操舵角を戻すためのステアリング操作が、しきい値以上の操作トルクをもって行われた場合に(図4のs290「YES」)、運転者が目標操舵角での維持を意図しなくなったこととして、通常の制御モードへと復帰させることができる。
【0081】
また、上記実施形態では、制御モードが操舵角制御となっている状況において、実際の操舵角が急峻舵角範囲を超えるような操舵角となったことを、ステアリング装置5に何らかの異常が発生しているものとして、その旨を報知することができる(図9のs630「YES」→s640)。
【0082】
また、上記実施形態では、最小旋回半径の旋回を実現するための操舵角、および、直角積み付けを実施するのに適した操舵角、のうち、少なくともいずれかを含む1以上の操舵角を、目標操舵角として任意に設定することができる(図3のs110〜s120)。
(6)変形例
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0083】
例えば、上記実施形態においては、漸減舵角範囲および急峻舵角範囲において、付与される操舵トルクが直線的に減少または増加するように構成されているものを例示したが、付与される操舵トルクは、操舵トルクを上限値に到達させるまでに必要な操舵角が、漸減舵角範囲よりも急峻舵角範囲において小さくなっていればよく、その減少または増加傾向は、直線的なものだけに限定されない。
また、上記実施形態では、漸減舵角範囲において定められた上限値および下限値と急峻舵角範囲において定められた上限値および下限値とが、それぞれ同じ値として定められている場合を例示しているが、これら上限値および下限値は、それぞれ異なる値として定められていてもよい。
(7)本発明との対応関係
以上説明した実施形態において、図5のs310、図7のs410が本発明における操作検出手段であり、図5のs330、図7のs460、s470、図8のs530が本発明における操舵アシスト手段であり、図4のs240、図7のs430、図8のs510が本発明における舵角検出手段であり、図9のs640、s650が本発明における異常報知手段であり、図3のs120が本発明における目標設定手段である。
【符号の説明】
【0084】
1…フォークリフト、2…本体、3…荷役機構、4…運転席、5…ステアリング装置、51…ステアリング、53…駆動輪、55…駆動支持部、57…操舵ギヤ、59…駆動モータ、61…操舵伝達機構、63…アシストモータ、65…動作回路、67…伝達ギヤ、71…トルクセンサ、73…舵角センサ、75…コントローラ、77…操作部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォークリフトに搭載されるステアリング装置であって、
操舵輪を操舵させるべく運転者が操作するステアリングにつき、該ステアリングに加えられた操作トルクの方向および大きさを検出する操作検出手段と、
前記操作検出手段により検出された操作トルクに基づき、該操作トルクに対応する方向および大きさの操舵トルクを操舵輪に付与することにより、ステアリングを介した操舵輪の操舵をアシストする操舵アシスト手段と、
操舵輪の操舵角を検出する舵角検出手段と、を備えており、
前記操舵アシスト手段は、
前記舵角検出手段により検出された検出操舵角があらかじめ定められた目標操舵角に近づくにつれて、前記操作トルクに応じて操舵輪に付与する操舵トルクを、所定の漸減舵角範囲にわたって、該漸減操舵角範囲において定められた上限値から下限値まで減少させる一方、
また、前記検出操舵角が前記目標操舵角に到達した以降、前記検出操舵角の前記目標操舵角との舵角差を相殺する方向の操舵トルクを操舵輪に付与すると共に、該舵角差が大きくなるにつれて、該付与する操舵トルクを、前記漸減舵角範囲よりも狭い急峻舵角範囲にわたって、該急峻操舵角範囲において定められた下限値から上限値まで増加させる
ことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記操舵アシスト手段は、
前記検出操舵角が前記目標操舵角に到達した以降、前記操作検出手段により、前記漸減舵角範囲内において前記目標操舵角から離れる方向の操作トルクが検出されるまで、前記舵角差を相殺する方向の操舵トルクを操舵輪に付与する
ことを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記操舵アシスト手段は、
前記検出操舵角が前記目標操舵角に到達した以降、前記操作検出手段により、前記漸減舵角範囲内において前記目標操舵角から離れる方向、かつ、所定のしきい値以上の大きさを示す操作トルクが検出されるまで、前記舵角差を相殺する方向の操舵トルクを操舵輪に付与する
ことを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記検出操舵角が前記目標操舵角に到達した以降、前記操作検出手段により、所定のしきい値以上大きさを示す操作トルクが検出されていない状況で、前記検出操舵角が前記急峻舵角範囲外の操舵角となった場合に、当該ステアリング装置に異常が発生している旨を報知する異常報知手段、を備えている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記フォークリフトの運転者による操作を受けて、前記フォークリフトによる最小旋回半径の旋回を実現するための操舵角、および、前記フォークリフトにより荷物を搭載しての直角積み付けを実施するのに適した操舵角、のうち、少なくともいずれかを含む1以上の操舵角を、前記目標操舵角として設定する目標設定手段、を備えている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のステアリング装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のステアリング装置を搭載している
ことを特徴とするフォークリフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−103564(P2013−103564A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247724(P2011−247724)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000183222)住友ナコ マテリアル ハンドリング株式会社 (39)
【Fターム(参考)】