説明

モータ制御装置

【課題】非干渉化制御を導入して応答性および追従性を向上できるとともに、制御動作も安定なモータ制御装置を提供する。
【解決手段】このモータ制御装置は、PI演算値Vdo,Vqoを演算するためのPI演算部51a,52aと、モータの非干渉化制御のための非干渉化制御量を演算するための非干渉化制御量演算部51b,52bと、PI演算値Vdo,Vqoと非干渉化制御量とを加算する加算部51c,52cと、この加算部51c,52cの加算結果を制限し、制限した値を電圧指令値Vd*,Vq*として出力するリミッタ51d,52dと、電圧指令値Vd*,Vq*から非干渉化制御量を減算する減算部51e,52eとを備えている。PI演算部51a,52aは、減算部51e,52eの減算結果の前回値をPI演算値Vdo,Vqoを演算するために使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ(とくにブラシレスモータ)を駆動するためのモータ制御装置に関する。ブラシレスモータは、たとえば、電動パワーステアリング装置における操舵補助力の発生源として利用される。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータのためのモータ制御装置は、モータの電機子巻線を流れる電流を検出する電流検出部と、モータのロータの回転位置を検出する回転位置検出部と、d軸目標電流およびq軸目標電流を演算するdq軸目標電流演算部と、検出された電流および回転位置に基づいてd軸電流およびq軸電流を求めるdq軸電流演算部と、d軸電圧指令値演算部と、q軸電圧指令値演算部とを備えている。d軸電圧指令値演算部は、d軸目標電流とd軸電流との間のd軸偏差を低減するように、d軸電流のPI演算に基づいてd軸電圧指令値を求める。q軸電圧指令値演算部は、q軸目標電流とq軸電流との間のq軸偏差を低減するように、q軸電流のPI演算に基づいてq軸電圧指令値を求める。こうして求められたd軸電圧指令値、q軸電圧指令値、および検出された回転位置に基づいて、モータ制御装置は、電機子巻線に電圧を印加する。これにより、ロータの回転力が発生する(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−187578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PI演算値に基づいてdq軸の電圧指令値を求める場合、電圧指令値を制限するリミッタを設ける必要がある。リミッタは、電機子巻線への印加電圧指令値が設定最大値を越えないように電圧指令値を制限する。これにより、ロータの回転位置の変化に対する電機子巻線への印加電圧の変化を表す波形が不連続にならないようにすることができる。
もし、リミッタが設けられていないと、目標電流と検出電流の偏差が減少しない事態が生じた場合にPI演算値が増大し続けてしまう。そうすると、その偏差が減少してもPI演算値に対応する電圧指令値が適正値になるのに時間を要する。また、電機子巻線へ印加可能な最大電圧は電源の性能等に応じて規定されるため、電圧指令値が過大になると、ロータの回転位置の変化に対する電機子巻線への印加電圧の変化を表す波形が不連続になる。例えば、その波形が正弦波の頂点付近をクリップしたような形状になるため、異常音や振動が生じる原因になる。
【0004】
一般的には、リミッタはPI制御部の一部として設けられ、リミッタによって制限されたPI演算値が、PI制御部から生成されるようになっている。
一方、PI演算値に対して非干渉化制御量を加算する非干渉化制御が知られている(特許文献1参照)。非干渉化制御とは、ロータの回転に伴ってモータ内部で生じる速度起電力を補償するように電圧指令値を定める制御である。非干渉化制御を行うことによって、速度起電力による応答性や追従性の低下を効果的に抑制できると期待されている。
【0005】
しかしながら、リミッタを備えたPI制御部から出力されるPI演算値に対して非干渉化制御量を加算すると、モータの回転速度や電流値が変動的になり、動作が不安定になる。
具体的に説明すると、リミッタによって制限されたPI演算値に対して非干渉化制御量を加算してモータ電圧指令値を定めると、このモータ電圧指令値は正弦波駆動のための限界値を超えるおそれがある。PI演算値が小さいときには問題は少ないが、PI演算値が大きく非干渉化制御量を加算した後のモータ電圧指令値が限界値を超える状態に至ると、発振状態となり、応答性能が不安定になる。
【0006】
そこで、この発明の目的は、非干渉化制御を導入して応答性および追従性を向上できるとともに、制御動作も安定なモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するためのこの発明のモータ制御装置は、モータ電圧指令値(Vd*,Vq*)に基づいてモータを制御するモータ制御装置(10)であって、PI制御量(Vdo,Vqo)を演算するためのPI制御手段(51a,52a)と、モータの非干渉化制御のための非干渉化制御量を演算するための非干渉化制御量演算手段(51b,52b)と、前記PI制御手段によって演算されたPI制御量と前記非干渉化制御量演算手段によって演算された非干渉化制御量とを加算する第1加算手段(51c,52c)と、この第1加算手段の加算結果を制限し、制限した制御量を前記モータ電圧指令値として出力する制限手段(51d,52d)と、この制限手段によって制限された制御量と前記非干渉化制御量演算手段によって演算された非干渉化制御量の符号を反転した反転値とを加算する第2加算手段(51e,52e)とを備え、前記PI制御手段は、前記第2加算手段の加算値の前回値を前記PI制御量の演算に使用するものである。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
【0008】
この発明の構成では、PI制御手段によって演算されたPI制御量に非干渉化制御量が加算された後に、その加算値に対して制限手段による制限が加えられるようになっている。これにより、制限手段が出力するモータ電圧指令値は、適正に制限されるから、発振状態となることを確実に回避でき、安定した応答性能を得ることができる。
一方、PI制御手段におけるPI制御量の演算においては、非干渉化制御量は無用であるから、制限手段の出力はそのままでは用いることができない。そこで、制限手段によって制限された制御量に対して非干渉化制御量の符号を反転した反転値が加算される(第2加算手段の加算値)。この加算値の前回値がPI制御手段におけるPI制御量の演算のために適用される。これにより、非干渉化制御量の影響を除いたPI制御量が得られる。制限手段による制限の前に非干渉化制御量を加算していながら、適切なPI制御演算を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この電動パワーステアリング装置は、車両のステアリングホイールに加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサ7と、車両の速度を検出する車速センサ8と、車両の舵取り機構3に操舵補助力を与えるモータ1と、このモータ1を駆動制御するモータ制御装置10とを備えている。モータ制御装置10は、トルクセンサ7が検出する操舵トルクおよび車速センサ8が検出する車速に応じてモータ1を駆動することによって、操舵状況に応じた適切な操舵補助を実現する。モータ1は、たとえば、三相ブラシレスDCモータである。
【0010】
モータ制御装置10は、電流検出部11、信号処理部としてのマイクロコンピュータ12、および駆動回路13を有する。このモータ制御装置10に、モータ1内のロータの回転位置を検出するレゾルバ2とともに、前述のトルクセンサ7および車速センサ8が接続されるようになっている。
電流検出部11はモータ1の電機子巻線を流れる電流を検出する。本実施形態の電流検出部11は、3相の電機子巻線における相電流をそれぞれ検出する電流検出器11u,11v,11wと、電流検出器11u,11v,11wによる電流検出信号をA/D(アナログ/ディジタル)変換するA/D変換器11u′,11v′,11w′とを有する。
【0011】
マイクロコンピュータ12は、プログラム処理(ソフトウェア処理)によって実現される複数の機能処理部を備えている。これらの複数の機能処理部には、基本目標電流演算部15、dq軸目標電流演算部16、dq軸電流演算部17、d軸偏差演算部18d、q軸偏差演算部18q、dq軸電圧指令値演算部19、電圧指令値座標変換部20およびPWM(パルス幅変調)制御部21が含まれている。
【0012】
駆動回路13は、インバータ回路で構成され、PWM制御部21によって制御されることにより、車載バッテリ等の電源からの電力をモータ1のU相、V相およびW相電機子巻線に供給する。この駆動回路13とモータ1の各相の電機子巻線との間において流れる相電流が電流検出器11u,11v,11wにより検出されるようになっている。
基本目標電流演算部15は、トルクセンサ7により検知される操舵トルクと、車速センサ8により検出される車速とに基づいて、モータ1の基本目標電流I*を演算する。基本目標電流I*は、たとえば、操舵トルクの大きさが大きいほど大きく、車速が小さい程大きくなるように定められる。
【0013】
基本目標電流演算部15により演算された基本目標電流I*はdq軸目標電流演算部16に入力される。dq軸目標電流演算部16は、d軸方向の磁界を生成するためのd軸目標電流Id*と、q軸方向の磁界を生成するためのq軸目標電流Iq*とを演算する。d軸とは、モータ1のロータの有する界磁の磁束方向に沿う軸であり、q軸とは、d軸およびロータ回転軸に直交する軸である。dq軸目標電流演算部16における演算は公知の演算式を用いて行うことができる。
【0014】
電流検出部11から出力される相電流Iu,Iv,Iwはdq軸電流演算部17に入力される。dq軸電流演算部17は、レゾルバ2により検出されたロータ回転位置に基づいて、相電流Iu,Iv,Iwを座標変換することにより、d軸電流Idおよびq軸電流Iqを演算する。dq軸電流演算部17における演算は公知の演算式を用いて行うことができる。
【0015】
d軸偏差演算部18dは、d軸目標電流Id*とd軸電流Idとの間のd軸偏差δIdを求める。同様に、q軸偏差演算部18qは、q軸目標電流Iq*とq軸電流Iqとの間のq軸偏差δIqを求める。
dq軸電圧指令値演算部19は、d軸偏差δIdに対応するd軸電圧指令値Vd*とq軸偏差δIqに対応するq軸電圧指令値Vq*とを求める。
【0016】
電圧指令値座標変換部20は、レゾルバ2により検出されたロータ回転位置に基づいて、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*の座標変換を行い、U相電機子巻線、V相電機子巻線、W相電機子巻線にそれぞれ印加すべき印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。電圧指令値座標変換部20における演算は公知の演算式を用いて行えばよい。
【0017】
PWM制御部21は、印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するデューティ比を有するパルス信号である各相のPWM制御信号を生成する。これにより、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*に対応する電圧が駆動回路13から各相の電機子巻線に印加され、ロータの回転力が発生する。
図2は、dq軸電圧指令値演算部19の詳しい構成を説明するためのブロック図である。dq軸電圧指令値演算部19は、dq軸限界値演算部50、d軸電圧指令値演算部51、およびq軸電圧指令値演算部52を有する。d軸電圧指令値演算部51は、d軸偏差δIdを低減するように、d軸電流のPI演算(以下「d軸PI演算」という。)等に基づいてd軸電圧指令値Vd*を求める。q軸電圧指令値演算部52は、q軸偏差δIqを低減するように、q軸電流のPI演算(以下「q軸PI演算」という。)等に基づいてq軸電圧指令値Vq*を求める。
【0018】
dq軸限界値演算部50は、モータ1の電機子巻線への印加電圧指令値が設定最大値Vmaxを超えないようにするためのd軸限界値VLdとq軸限界値VLqとを求める。設定最大値Vmaxとは、ロータ回転位置の変化に対する電機子巻線への印加電圧の変化を表す波形が不連続にならないように、当該波形を正弦波とする正弦波駆動を行うための限界値である。
【0019】
d軸電圧指令値演算部51は、d軸PI演算部51a、d軸非干渉化制御量演算部51b、d軸加算部51c、d軸リミッタ51d、およびd軸減算部51eを有する。
d軸PI演算部51aは、d軸PI演算によりd軸PI演算値Vdoを演算し、このd軸PI演算値Vdoをd軸加算部51cに出力する。図において、KPは比例ゲイン、KIは積分ゲイン、Z-1は信号の前回値をそれぞれ表す。
【0020】
d軸非干渉化制御量演算部51bは、dq軸電流演算部17により求められるq軸電流Iqに基づき、d軸非干渉化制御量−ωLqqを求める。ωはロータの回転速度(rad/sec)、Lqはモータ1の電機子巻線のq軸自己インダクタンスである。ロータの回転速度ωは、レゾルバ2による検出回転位置の変化速度から求められる。q軸自己インダクタンスLqは、予め測定済みの定数である。
【0021】
d軸加算部51cは、d軸PI演算値Vdoにd軸非干渉化制御量−ωLqqを加算する。
d軸リミッタ51dは、d軸PI演算値Vdoにd軸非干渉化制御量−ωLqqを加算した値の絶対値を、d軸限界値VLd以下に制限する。このd軸リミッタ51dの出力値が、d軸電圧指令値Vd*となる。これにより、d軸PI演算値Vdoをd軸非干渉化制御量−ωLqqにより補正した値に制限を加えて、d軸電圧指令値Vd*が求められている。
【0022】
d軸電圧指令値Vd*の前回値は、d軸PI演算部51aでのPI演算のために帰還されるようになっている。ただし、d軸減算部51eにおいて、d軸電圧指令値Vd*から非干渉化制御量−ωLqqが減算され(換言すれば、非干渉化制御量−ωLqqの符号を反転した反転値である+ωLqqが加算され)、その演算後の前回値がd軸PI演算部51aでのPI演算のために用いられるようになっている。
【0023】
q軸電圧指令値演算部52は、q軸PI演算部52a、q軸非干渉化制御量演算部52b、q軸加算部52c、q軸リミッタ52d、およびq軸減算部52eを有する。
q軸PI演算部52aは、q軸電流のPI演算によりq軸PI演算値Vqoを演算し、このq軸PI演算値Vqoをq軸加算部52cに出力する。図中、KPは比例ゲイン、KIは積分ゲイン、Z-1は信号の前回値をそれぞれ表す。
【0024】
q軸非干渉化制御量演算部52bは、dq軸電流演算部17により求められるd軸電流Idに基づき、q軸非干渉化制御量ωLdd+ωΦを求める。Ldはモータ1の電機子巻線のd軸自己インダクタンスであり、Φはロータの界磁の電機子巻線鎖交磁束数の最大値の(3/2)1/2倍である。d軸自己インダクタンスLdは予め測定済みの定数である。ωはロータの回転速度(rad/sec)である。
【0025】
d軸加算部52cは、q軸PI演算値Vqoにq軸非干渉化制御量ωLdd+ωΦを加算する。
q軸リミッタ52dは、q軸PI演算値Vqoにq軸非干渉化制御量ωLdd+ωΦを加算した値の絶対値を、q軸限界値VLq以下に制限する。このq軸リミッタ52dの出力値が、q軸電圧指令値Vq*となる。これにより、q軸PI演算値Vqoをq軸非干渉化制御量ωLdd+ωΦにより補正した値に制限を加えて、q軸電圧指令値Vq*が求められている。
【0026】
q軸電圧指令値Vq*の前回値は、q軸PI演算部52aでのPI演算のために帰還されるようになっている。ただし、q軸減算部52eにおいて、q軸電圧指令値Vq*から非干渉化制御量ωLdd+ωΦが減算され(換言すれば、非干渉化制御量ωLdd+ωΦの符号を反転した反転値である−ωLdd−ωΦが加算され)、その演算後の前回値がq軸PI演算部52aでのPI演算のために用いられるようになっている。
【0027】
図3は、モータ制御装置10によるモータ1の制御手順を説明するためのフローチャートである。まず、マイクロコンピュータ12は、トルクセンサ7、車速センサ8、電流検出器11u,11v,11wによる検出値を読み込む(ステップS1)。基本目標電流演算部15は、検出された操舵トルクおよび車速に基づき、目標電流I*を演算する(ステップS2)。dq軸目標電流演算部16は、その目標電流I*に対応するd軸目標電流Id*とq軸目標電流Iq*とを演算する(ステップS3)。dq軸電流演算部17は、検出された相電流Iu,Iv,Iwに対応するd軸電流Idおよびq軸電流Iqを演算する(ステップS4)。d軸目標電流Id*とd軸電流Idとから、d軸偏差演算部18dにおいて、d軸偏差δIdが演算され、q軸目標電流Iq*とq軸電流Iqから、q軸偏差演算部18qにおいて、q軸偏差δIqが演算される(ステップS5)。
【0028】
次に、dq軸電圧指令値演算部19において、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*とが演算される(ステップS6)。そして、電圧指令値座標変換部20において、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*に対応するU相電機子巻線、V相電機子巻線、W相電機子巻線への印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が演算される(ステップS7)。これらの印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するPWM制御信号がPWM制御部21から駆動回路13に与えられる。これより、モータ1が駆動される(ステップS8)。そして、制御を終了するか否かを例えばイグニッションスイッチのオン・オフにより判断し(ステップS9)、終了しない場合はステップS1に戻る。
【0029】
図4は、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*の演算手順を示すフローチャートである。まず、d軸PI演算およびq軸PI演算によりd軸PI演算値Vdoおよびq軸PI演算値Vqoがそれぞれ求められる(ステップS101)。一方、d軸非干渉化制御量演算部51bにおいてd軸非干渉化制御量−ωLqqが求められ、q軸非干渉化制御量演算部52bにおいてq軸非干渉化制御量ωLdd+ωΦが求められる(ステップS102)。そして、d軸PI演算値Vdoにd軸非干渉化制御量−ωLqqが加算され、q軸PI演算値Vqoにq軸非干渉化制御量ωLdd+ωΦが加算される(ステップS103)。また、dq軸限界値演算部50によって、d軸限界値VLdおよびq軸限界値VLqが演算される(ステップS104)。
【0030】
次に、d軸PI演算値をd軸非干渉化制御量で補正した値であるVdo−ωLqqの絶対値が、d軸リミッタ51dにより、d軸限界値VLd以下に制限される(d軸リミッタ処理)。同様に、q軸PI演算値をq軸非干渉化制御量によって補正した値であるVqo+ωLdd+ωΦの絶対値が、q軸リミッタ52dにより、q軸限界値VLq以下に制限される(q軸リミッタ処理)。すなわち、d軸リミッタ51dは、Vdo−ωLqqの絶対値がVLd以下か否かを判断し(ステップS105)、VLd以下であればVdo−ωLqqをd軸電圧指令値Vd*として出力し(ステップS106)、VLd以下でなければVdo−ωLqqが正か否かを判断し(ステップS107)、正であればVLdをd軸電圧指令値Vd*として出力し(ステップS108)、正でなければ−VLdをd軸電圧指令値Vd*として出力する(ステップS109)。また、q軸リミッタ52dは、Vqo+ωLdd+ωΦの絶対値がVLq以下か否かを判断し(ステップS110)、VLq以下であればVqo+ωLdd+ωΦをq軸電圧指令値Vq*として出力し(ステップS111)、VLq以下でなければVqo+ωLdd+ωΦが正か否かを判断し(ステップS112)、正であればVLqをq軸電圧指令値Vq*として出力し(ステップS113)、正でなければ−VLqをq軸電圧指令値Vq*として出力する(ステップS114)。
【0031】
d軸減算部51eは、d軸電圧指令値Vd*からd軸非干渉化制御量−ωLqqを減算する(ステップS115)。この減算結果が、次回のd軸PI演算の前回値として用いるためにメモリに記憶される。同様に、q軸減算部52eにより、q軸電圧指令値Vq*からq軸非干渉化制御量ωLdd+ωΦが減算される(ステップS116)。この減算結果が、次回のq軸PI演算の前回値として用いるためにメモリに記憶される。この処理の後、メインルーチン(図3参照)に戻る。
【0032】
以上のように、この実施形態によれば、d軸PI演算値Vdoをd軸非干渉化制御量−ωLqqにより補正した値に対してd軸リミッタ処理を行ってd軸電圧指令値Vd*を求めている。同様に、q軸PI演算値Vqoをq軸非干渉化制御量ωLdd+ωΦにより補正した値に対してq軸リミッタ処理を行ってq軸電圧指令値Vq*を求めている。これにより、非干渉化制御を行いつつ、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を限界値範囲内の値とすることができる。その結果、非干渉化制御によって応答性および追従性を向上することができ、しかも、オーバーシュートやアンダーシュートを大幅に低減できるから、制御の安定性を確保することができる。これにより、振動や異音を抑制しつつ動特性を向上できるので、電動パワーステアリング装置における操舵フィーリングを向上することができる。また、オーバーシュートやアンダーシュートを大幅に低減できるため、モータ1から舵取り機構3にトルクを伝達する伝達系の強度設計時の想定最大荷重を抑制できる。これにより、コストの低減を図ることができる。
【0033】
一方、d軸PI演算のために用いる前回値は、d軸電圧指令値Vd*にd軸非干渉化制御量の符号を反転した反転値を加えて求めている。同様に、q軸PI演算のために用いる前回値は、q軸電圧指令値Vq*に対してq軸非干渉化制御量の符号を反転した反転値を加えて求めている。これにより、PI演算に対して非干渉化制御の影響が及ぶことがないので、適切なPI演算を行うことができる。
【0034】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することも可能である。たとえば、前述の実施形態では、q軸非干渉化制御量演算部52bで求められる非干渉化制御量をωLdd+ωΦとしているが、これに代えて、ωLddをq軸非干渉化制御量として用いてもよい。むろん、この場合には、減算部52eにおいてωLddが減算されることになる。
【0035】
また、前述の実施形態では、電動パワーステアリング装置の駆動源としてのモータに本発明が適用された例について説明したが、この発明は、電動パワーステアリング装置以外の用途のモータの制御に対しても適用が可能である。とくに、サーボ系で応答性や追従性が要求される用途でのモータトルク制御に応用すると効果的である。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の一実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図2】dq軸電圧指令値演算部の詳しい構成を説明するためのブロック図である。
【図3】モータ制御装置によるモータの制御手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】d軸電圧指令値およびq軸電圧指令値の演算手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
10…モータ制御装置、12…マイクロコンピュータ、51…d軸電圧指令値演算部、51a…d軸PI演算部、51c…d軸加算部、51e…d軸減算部、52…q軸電圧指令値演算部、52a…q軸PI演算部、52c…q軸加算部、52e…q軸減算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ電圧指令値に基づいてモータを制御するモータ制御装置であって、
PI制御量を演算するためのPI制御手段と、
モータの非干渉化制御のための非干渉化制御量を演算するための非干渉化制御量演算手段と、
前記PI制御手段によって演算されたPI制御量と前記非干渉化制御量演算手段によって演算された非干渉化制御量とを加算する第1加算手段と、
この第1加算手段の加算結果を制限し、制限した制御量を前記モータ電圧指令値として出力する制限手段と、
この制限手段によって制限された制御量と前記非干渉化制御量演算手段によって演算された非干渉化制御量の符号を反転した反転値とを加算する第2加算手段とを備え、
前記PI制御手段は、前記第2加算手段の加算値の前回値を前記PI制御量の演算に使用する、モータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−81915(P2009−81915A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247834(P2007−247834)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】