説明

作業機の副変速装置

【課題】 現在の副変速状態が一目瞭然でわかるようにするとともに、作業機の始動時や作業中の安全性の向上を図った作業機の副変速装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 エンジンからの動力で駆動する可変容積型の油圧ポンプ91と、駆動輪を駆動する可変容積型の第1油圧モータ92と固定容量型の第2油圧モータ93と、を油圧閉回路94で連結した走行用HST式変速装置9と、主変速を行う主変速レバー2のグリップ部20に設けられて、押されるごとに順繰りに第1油圧モータ92の速比を切り換えて副変速状態を切り換える副変速スイッチ27と、を備えた作業機の副変速装置において、前記副変速状態を表示する表示手段としての表示パネル6が操向ハンドル5の中央に設けられた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等の作業機の副変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインやトラクタ等の作業機にHST式変速装置を装備して、主変速レバーを操作することによって、走行変速を行うようにした技術は公知となっている。このような作業機において、作業時にさらにきめ細かく作業ができるように、走行速度を変速できるように、副変速装置を設けることは従来から行われている。
【0003】
例えば、本願と同出願人によって出願された特許文献1には、主変速を行う主変速レバーのグリップ部に副変速スイッチを設けた作業機の副変速装置が開示されており、該副変速スイッチは押されるごとに「高速」と「低速」の間で交互に副変速状態が切り換えられるように構成され、片手で主変速レバーのグリップ部を握りながら指で操作可能に構成されている。
【0004】
以上のように特許文献1に開示されている技術では、負荷や所望の速度に応じて片手で主変速レバーを操作して無段階に変速することができ、同時に副変速操作も、レバーを持ち替えることなく、指を動かすだけの簡単に操作を行うことができ、操作性の向上が図られている。
【特許文献1】特許第3607932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その後、農業関係者から、農業に従事する人は高齢者も多く、前記副変速スイッチを操作した後、しばらくして、現在副変速状態が「高速」にセットされているか「低速」にセットされているか忘れることもあり、これをわかり易くして欲しいとの要望があった。
そこで、本発明では、このような点を鑑み、特許文献1に開示されている技術を改良して、さらに利便性の向上を図り、また、作業機の始動時や作業中の安全性の向上を図った作業機の副変速装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
まず、請求項1に記載のように、エンジンからの動力で駆動する可変容積型の油圧ポンプと、駆動輪を駆動する可変容積型の油圧モータと、を油圧閉回路で連結したHST式変速装置と、主変速を行う主変速レバーのグリップ部に設けられて、副変速状態を切り換える副変速スイッチと、を備えた作業機の副変速装置において、前記副変速状態を表示する表示手段が操縦部に設けられた構成とする。
【0007】
また、請求項2に記載のように、前記副変速装置は前記油圧モータの速比を切り換える副変速レバーを有する構成で、前記副変速レバーが「低速」にセットされている状態で、前記副変速スイッチによる副変速状態が「低速」から「高速」へ切り換えられた場合、その切り換えを牽制する切換牽制手段が設けられた構成とする。
【0008】
そして、請求項3に記載のように、前記作業機の電気系統の電源投入時に、前記副変速スイッチによる副変速状態を「低速」にリセットするリセット手段が設けられた構成とする。
【0009】
さらに、請求項4に記載のように、前記副変速スイッチによる副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、作業が行われた場合、その旨を報知する報知手段が設けられた構成とする。
【0010】
また、請求項5に記載のように、前記リセット手段は、前記主変速レバーが後進側へ切り換えられた場合にも、前記副変速スイッチによる副変速状態を「低速」にリセットする構成とする。
【0011】
そして、請求項6に記載のように、前記副変速スイッチによる副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、エンジン負荷が過負荷状態と検出された場合、前記油圧閉回路に介設された電磁弁を作動させて車速を減速し、さらに過負荷状態が継続して検出された場合には、前記副変速状態を「高速」から「低速」に切り換え、過負荷状態の解消が検出された場合には、前記副変速状態を「高速」から「低速」に徐々に切り換えた後、前記電磁弁の作動を徐々に解除して元の車速に増速する過負荷防止手段が設けられた構成とする。
【0012】
そうして、請求項7に記載のように、前記副変速スイッチによる副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、前記油圧閉回路の油圧が所定圧力以上且つ車速が所定速度以下となった場合、前記副変速状態を「高速」から「低速」に切り換える変速制御手段が設けられた構成とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上のように構成したことにより、次のような効果を奏する。
まず、請求項1に記載の発明では、副変速スイッチは、主変速レバーのグリップ部に設けられて、押されるごとに順繰りに油圧モータの速比を切り換えて副変速状態を切り換えるように構成されており、この副変速状態は表示手段に表示されて、現在の副変速状態がわからなくなることもなくなり、利便性が向上する。また、この構成では、現在の副変速状態を確実に把握することができ、現在の副変速状態に反して誤操作を行うこともなくなって、安全性が向上する。
【0014】
また、請求項2に記載の発明では、畦越え等作業中に、副変速レバーを「低速」にセットしているときに、副変速スイッチによる副変速状態が「低速」から「高速」へ切り換えられた場合に、その切り換えが切換牽制手段によって牽制されて、副変速装置を傷めないように構成されるとともに、無理な変速が抑制されて安全性が向上する。
【0015】
そして、請求項3に記載の発明では、作業機の電気系統の電源を投入して、作業機を始動する時には、必ず副変速スイッチによる副変速状態が「低速」にリセットされているため、誤って副変速状態を「高速」にしたまま発進することもなく、安全性が向上する。
【0016】
さらに、請求項4に記載の発明では、副変速スイッチによる副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、作業が行われた場合、その旨を報知手段により報知して、作業者に注意を促し、安全性の向上が図られている。
【0017】
また、請求項5に記載の発明では、作業機を後進させる場合にも、一度、副変速スイッチによる副変速状態を「低速」にリセットするため、安全性が向上する。
【0018】
そして、請求項6に記載の発明では、従来の作業機に搭載された快速制御(作業中エンジン負荷が限界に近づくと車速を自動的に減速し、該エンジン負荷が軽減されると自動的に元の車速に戻す制御)では対応できない過負荷でも対応が可能となり、作業者は何の操作も行うことなく、そのまま刈取作業等の作業を行うことができて、利便性が向上する。
【0019】
そうして、請求項7に記載の発明では、副変速スイッチによる副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、油圧閉回路の油圧が所定圧力以上且つ車速が所定速度以下となった場合、副変速スイッチを操作することなく、変速制御手段により副変速状態が「高速」から「低速」に切り換えられて、利便性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の一形態を、図面を参照しながら説明する。
以下では作業機の一例としてコンバインを取り上げて説明するが、該作業機はトラクタや田植え機等であってもよく、特に限定するものではない。
【0021】
まず、コンバインの操縦部1について説明する。
図1に示すように、作業者が座る運転座席7の前方にはハンドルコラム50が立設され、該ハンドルコラム50上面中央部から上方へ向けてハンドル軸(図示略)が突出し、該ハンドル軸の上端部に操向操作手段である操向ハンドル5が取り付けられている。また、ハンドルコラム50上面前端部から上方へ向けて表示装置本体60を支持する脚部61が突出し、該表示装置本体60は該脚部61上端から後方(運転座席7側)へ向けて延出され、該表示装置本体60の上面は水平状態からやや後方下方へ傾斜した状態に配置されている。この表示装置本体60の上面に表示パネル6が取り付けられ、運転座席7に座った作業者が見易い角度に配置されている。
【0022】
図2に示すように、表示手段である表示パネル6は、例えば、表示装置本体60上面の大部分を占める大画面の液晶パネルで構成されており、該表示パネル6を備えた表示装置本体60は、平面視で、操向ハンドル5のループ状の把手部5a内における中央に位置するように配置されている。この表示装置本体60は、脚部61を介してハンドルコラム50のみに固定されていて、操向ハンドル5には連結していない構成としているので、操向ハンドル5を回動させても、表示装置本体60は動かないようになっている。
【0023】
表示装置本体60上面において、液晶パネル6の前方には、コンバイン全体の電気系統の電源を入り切り操作する電源スイッチの入り操作時等に点灯する作業ランプ65が配置され、液晶パネル6の左右両側方には、画面表示の切替え等のための入力手段となるスイッチ66・67・68・69が左右各2つずつ設けられている。これら各スイッチ66・67・68・69は、スイッチの一回の押下により一つのONパルス信号が出るいわゆるプッシュスイッチで、ノンロックタイプのものであり、それぞれに複数の役割を有する多機能スイッチとなっている。
【0024】
操向ハンドル5の把手部5aの左右対称位置には、内方側に膨出した左右の内膨らみ部5b・5cが形成されており、この左右の内膨らみ部5b・5cには、機体水平制御用や刈取昇降・扱深さ制御用などの4方向操作スイッチ53・54がそれぞれ設けられている。この左右の4方向操作スイッチ53・54は、作業者が操向ハンドル5の把手部5aを握った状態で直進及び旋回操作いずれにおいても、親指等で操作可能に構成されており、操作性の向上が図られている。
【0025】
図1に示すように、運転座席7の一側方(本実施の形態では左方)には、長手方向を前後方向に向けたサイドコラム8が配置されており、このサイドコラム8の前部には、車速を無段階変速させる主変速レバー2と、作業状態に応じて走行駆動部24の出力及び回転数を所定範囲に設定保持する副変速レバー3と、が配置され、サイドコラム8の後部には、作業動力を入切する作業クラッチレバー4が配置されて、これらのレバー2・3・4は前後回動可能に構成されている。
【0026】
サイドコラム8の前部において、主変速レバー2と副変速レバー3とは左右に並置されていて、主変速手段である主変速レバー2は副変速手段である副変速レバー3の内側(運転座席7側)に配置されている。
作業クラッチレバー4は、平面視、「L」字状のガイド溝に沿って移動可能に構成され、該ガイド溝の後端外側位置に作業クラッチレバー4が位置するときには、刈取スイッチ及び脱穀スイッチが切り作動して刈取クラッチ「切り」且つ脱穀クラッチ「切り」の状態となり、後端内側位置では脱穀スイッチのみが入り作動して刈取クラッチ「切り」且つ脱穀クラッチ「入り」の状態となり、ガイド溝の前端位置では脱穀スイッチとともに刈取スイッチが入り作動して刈取クラッチ「入り」且つ脱穀クラッチ「入り」の状態となるように構成されている。
【0027】
次に、主変速レバー2について説明する。
図1、図3に示すように、主変速レバー2は、主変速とともに複数の機能が操作できる多機能オールマイティシフトレバーで構成されており、前後回動可能に立設されたレバーロッド29の上端部に作業者が一方の手(本実施の形態では左手)で握って操作するためのグリップ部20が取り付けられている。この操作部となるグリップ部20の上半部は前方上方へ傾斜した状態に形成されていて、運転座席7に座った作業者が見易い角度に配置されており、該グリップ部20の上半部上面20aには、4方向操作スイッチで構成された機体傾斜スイッチ21、刈取速度変速スイッチ22、扱き深さスイッチ23、刈取部昇降スイッチ24、刈取部オートリフトスイッチ25、刈取部オートセットスイッチ26、副変速スイッチ27、が配置されている。
【0028】
機体傾斜スイッチ21は、上下方向に操作することで、クローラ式走行装置に対するコンバインの機体の高さを変更して昇降でき、左右方向に操作することで、左右のクローラに対して機体を昇降することで機体を任意に左右傾倒可能とする4方向操作スイッチであり、刈取速度変速スイッチ22はコンバインの機体前端部に設けられた刈取部の回転速度を切り換える押しボタンスイッチである。扱き深さスイッチ23は、刈取穀稈の穂先の位置を検知して、穀稈を扱胴における適正な位置に搬送するための縦搬送装置を回動するスイッチである。刈取部昇降スイッチ24は上下のボタンを押すことで刈取部を昇降させるように構成され、該上下のボタンを軽く押すと刈取部がゆっくりと昇降し、該上下のボタンを深く押すと刈取部が速やかに昇降する2段スイッチで構成されている。刈取部オートリフトスイッチ25は、刈り終わりに押すだけで、刈取部を設定高さまで上昇させると同時に、リールを所定高さまで下げ、これにより刈取部へ穀稈を掻き込み、刈取部でのロスを防止するように構成されている。刈取部オートセットスイッチ26は、刈り始めに押すだけで、刈取部の全ての自動装置(刈高さ自動制御、リール同調制御、刈取部水平制御、リール自動高さ制御)を自動制御状態にして、刈り始めの操作がワンタッチで簡単に行えるように構成されている。第2の副変速手段である副変速スイッチ27は押されるごとに順繰りに油圧モータの速比を切り換えて副変速状態を「高速」と「低速」の間で切り換える押しボタンスイッチで構成されており、ワンタッチで簡単に操作ができるように構成されている。
【0029】
以上のような構成で、作業者は右手で操向ハンドル5を握って操作し、左手で主変速レバー2のグリップ部20を握って主変速を行うことができるとともに、該グリップ部20を握った左手の親指で、これらのスイッチ21〜27の操作が可能に構成されて、操作性の向上が図られている。
【0030】
次に、主変速と副変速に係る走行用HST式変速装置9について説明する。
図4はコンバインに搭載されたミッションケース90の斜前方から斜視図、図5は同じくミッションケース90の斜後方からの斜視図であり、ミッションケース90内の上部には走行用HST式変速装置9と旋回用HST式変速装置99(図7参照)とが配置されている。
【0031】
図6、図7に示すように、走行用HST式変速装置9は、内燃機関であるエンジン80からの動力で駆動する可変容積型の油圧ポンプ91と、該油圧ポンプ91から供給された作動油によって駆動される可変容積型の第1油圧モータ92と固定容積型の第2油圧モータ93と、を備え、エンジン80からの出力軸80aはカウンターケース88、動力伝達機構89を介して油圧ポンプ91の入力軸91aへ動力を伝達するように構成されている。
【0032】
油圧ポンプ91は油圧閉回路94により第1油圧モータ92及び第2油圧モータ93に接続されており、該油圧ポンプ91の吐出する作動油により第1油圧モータ92及び第2油圧モータ93が駆動される構成になっている。この第1油圧モータ92と第2油圧モータ93は動力伝達機構83により接続されており、第1油圧モータ92の回転に対して第2油圧モータ93が一定の比率で回転する構成になっている。該動力伝達機構83はギヤ等により構成することも可能であるが、第1油圧モータ92と第2油圧モータ93の出力軸を直接接続することもできる。第2油圧モータ93には出力軸93aが接続されており、第1油圧モータ92及び第2油圧モータ93により発生する駆動力が出力軸93aに伝達されるように構成されている。
【0033】
上記の構成において、動力伝達機構83が第1油圧モータ92と第2油圧モータ93を1対1の比率で回転するように接続している場合には、油圧ポンプ91の作動油の吐出量と第1油圧モータ92と第2油圧モータ93の作動油の吸入量の比により出力軸93aにおける回転出力が決定される。
【0034】
すなわち、第1油圧モータ92と第2油圧モータ93の吸入量の和が少ない場合には出力軸93aの回転数が大きくなり、第1油圧モータ92と第2油圧モータ93の吸入量の和が多い場合には出力軸93aの回転数が小さくなる。
【0035】
そして、走行用HST式変速装置9の第2油圧モータ93からの出力軸93aは動力伝達機構84、差動機構85を介して駆動輪81・81の車軸81a・81aを駆動し、該差動機構85には動力伝達機構107を介して旋回用HST式変速装置99からも動力が伝達されるように構成されている。この旋回用HST式変速装置99は、エンジン80からの動力で駆動する可変容積型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから供給された作動油によって駆動される可変容積型の油圧モータと、を備え、エンジン80からの出力軸80aは動力伝達機構108を介して油圧ポンプの入力軸99aへ動力を伝達するように構成されている。
【0036】
次に、走行用HST式変速装置9の操作について説明する。
油圧ポンプ91の可動斜板91bの角度を変更する操作レバーと前記主変速レバー2とはリンク機構を介して連結されており、該油圧ポンプ91の可動斜板91bの角度は該主変速レバー2の操作により変更でき、油圧ポンプ91からの作動油の吐出量を調節できるように構成されている。この油圧ポンプ91の可動斜板91bは主変速レバー2の操作量に応じて回動し、油圧ポンプ91からの作動油の吐出量を無段階に変更できるとともに、吐出方向も変更できて、前後進と主変速が同時に行えるように構成されている。
【0037】
また、第1油圧モータ92の可動斜板92bの角度を変更する操作レバー97(図4参照)と前記副変速レバー3とはリンク機構を介して連結されており、該第1油圧モータ92の可動斜板92bの角度は該副変速レバー3の操作により高低2段階に変更できるように構成されて、油圧モータ92への作動油の吸込量を調節できるように構成されている。
【0038】
このような構成で、主変速レバー2を操作することにより油圧ポンプ91の容量を制御し、副変速レバー3を操作することにより第1油圧モータ92の容量を制御して、変速操作を行うことができるようになっている。これにより、高回転に対応可能であり、変速比の範囲の広い走行用HST式変速装置9を構成することができる。
【0039】
また、第1油圧ポンプ92の可動斜板92bは主変速レバー2のグリップ部20に設けた副変速スイッチ27によっても操作可能に構成されており、該油圧モータ92は以下に示すアクチュエータ31によっても制御されるように機構されている。
【0040】
図5、図8に示すように、アクチュエータ31は、斜板操作ピストン32と、油路切換電磁弁33と、により構成され、該油路切換電磁弁33には油圧ポンプ34より作動油が供給され、該油路切換電磁弁33を摺動することにより、斜板操作ピストン32を操作する構成になっている。該斜板操作ピストン32は油圧モータ92の可動斜板92bの角度を変更する第2の操作軸にリンク機構を介して連結されており、該斜板操作ピストン32の摺動により、油圧モータ92の可動斜板92bの角度が制御されるように構成されている。この油路切換電磁弁33には二通りの油路が設けられており、油圧モータ92の可動斜板92bの傾斜角を2段階に制御する構成になっている。
【0041】
次に、コンバインの制御構成について説明する。
図9に示すように、コンバインの制御手段であるコントローラ10には、油圧モータの可動斜板の角度を「高速」位置と「低速」位置との間で切り換えるアクチュエータ31と、副変速状態を「高速」と「低速」の間で切り換える前記副変速スイッチ27と、コンバインの各種情報を表示する前記表示パネル6と、エンジン負荷の過負荷状態を検出する過負荷検出手段である過負荷センサ35と、前記走行用HST式変速装置9の油圧閉回路94に介設されて、油圧モータ92に供給する作動油を増減することにより車速を増減する快速電磁弁36と、前記走行用HST式変速装置9の油圧閉回路94の油圧を検出する油圧検出手段である油圧センサ37と、コンバインの車速を検出する車速検出手段である車速センサ38等が通信接続されていて、前記副変速レバー3はリンク機構を介して前記第1油圧モータ92の可動斜板92bの角度を「高速」位置と「低速」位置との間で切り換えて速比を切り換えるように構成されている。
【0042】
この副変速スイッチ27は、押される度にコントローラ10へ操作がなされた旨の操作信号を出力して、該コントローラ10からアクチュエータ31へ作動信号が出力され、該アクチュエータ31では作動信号を受信する度に、該アクチュエータ31の作動位置が「高速」位置と「低速」位置との間で順繰りに切り換えられて、副変速状態が「高速」と「低速」の間でノークラッチで交互に切り換えられ、この切り換えられた「高速」又は「低速」の副変速状態は操向ハンドル5の真中に配置されている表示パネル6上に略全画面に渡って大きく表示されて、運転座席7に座る作業者が一目瞭然に見えるように構成されている。この構成では、副変速スイッチ27を押した回数を忘れて現在の副変速状態がわからなくなることもなくなって利便性が向上し、現在の副変速状態を確実に把握することができて、現在の副変速状態に反して誤操作を行うこともなくなり、安全性が向上する。
【0043】
また、コントローラ10には、副変速レバー3が「低速」にセットされている状態で、副変速スイッチ27による副変速状態が「低速」から「高速」へ切り換えられた場合、その切り換えを牽制する切換牽制手段としての切換牽制プログラム11と、コンバインの電気系統の電源投入時に、副変速スイッチ27による副変速状態を「低速」にリセットするリセット手段としてのリセットプログラム12と、副変速スイッチ27による副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、作業が行われた場合、その旨を表示パネル6上に報知する報知手段としての報知プログラム13と、が組み込まれている。
【0044】
切換牽制プログラム11は、畦越え等作業中に、副変速レバー3を「低速」にセットしているときに、何らかの拍子で副変速スイッチ27による副変速状態が「低速」から「高速」へ切り換えられた場合、前記アクチュエータ31の作動が行われず、表示パネル6上にその旨が注意表示させるように構成されており、副変速装置を傷めないようにするとともに、無理な変速が抑制されて安全性の向上が図られている。この注意表示は表示パネル6上に短時間表示された後、現在の副変速状態を示す画面に切り換わるように構成されている。
【0045】
リセットプログラム12は、コンバインの電気系統の電源を投入して、コンバインを始動する時には、必ず副変速スイッチ27による副変速状態が「低速」にリセットされるように構成されており、このため、誤って副変速状態を「高速」にしたまま発進することもなく、安全性が向上する。
また、リセットプログラム12は、前記主変速レバー2が後進側へ切り換えられた場合にも、副変速スイッチ27による副変速状態を「低速」にリセットするように構成されており、コンバインを後進させる場合にも、一度、副変速スイッチ27による副変速状態を「低速」にリセットするため、さらに安全性が向上する。
【0046】
報知プログラム13は、副変速スイッチ27による副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、作業が行われた場合、その旨を表示パネル6上に略全画面に渡って大きく警告表示されるように構成されており、この表示は運転座席7に座る作業者がはっきりと視認することができて、視覚を通じて作業者に注意を促し、安全性の向上が図られている。この警告表示は表示パネル6上に短時間表示された後、現在の副変速状態を示す画面に切り換わるように構成されている。
【0047】
さらに、コントローラには、副変速スイッチ27による副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、過負荷センサ35でエンジン負荷が過負荷状態と検出された場合、快速電磁弁36を作動させて車速を減速し、さらに過負荷センサ35でエンジン負荷の過負荷状態が継続して検出された場合には、前記副変速状態を「高速」から「低速」に切り換え、過負荷センサ35でエンジン負荷の過負荷状態の解消が検出された場合には、前記アクチュエータ31を作動させて前記副変速状態を「高速」から「低速」に徐々に切り換えた後、快速電磁弁36の作動を徐々に解除して元の車速に増速する過負荷防止手段としての過負荷防止プログラム14と、副変速スイッチ27による副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、油圧センサ37で油圧閉回路94の油圧が所定圧力以上と検出され、且つ車速センサ38により車速が所定速度以下と検出された場合、前記アクチュエータ31を作動させて前記副変速状態を「高速」から「低速」に切り換える変速制御手段としての変速制御プログラム15と、が組み込まれている。
【0048】
過負荷防止プログラム14では、従来のコンバインに搭載された快速制御(作業中過負荷センサ35でエンジン負荷が過負荷状態と検出されると、快速電磁弁36を作動させて車速を自動的に減速し、過負荷センサ35でエンジン負荷の過負荷状態の解消が検出された場合には、快速電磁弁36の作動を解除して自動的に元の車速に戻す制御)では対応できない過負荷でも対応が可能となり、作業者は何の操作も行うことなく、そのまま刈取作業等の作業を行うことができて、利便性が向上する。
【0049】
変速制御プログラム15では、副変速スイッチ27による副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、油圧閉回路94の油圧が所定圧力以上且つ車速が所定速度以下となった場合、副変速スイッチ27を操作することなく、自動的に副変速状態が「高速」から「低速」に切り換えられて、利便性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】コンバインの操縦部の構成を示す斜視図。
【図2】コンバインの操向ハンドルの構成を示す平面図。
【図3】主変速レバーの構成を示す正面図。
【図4】ミッションケースの斜前方から斜視図。
【図5】ミッションケースの斜後方からの斜視図。
【図6】HST式変速装置の構成を示す油圧回路図。
【図7】HST式変速装置からの動力伝達構成を示すスケルトン図。
【図8】第1油圧モータの可動斜板を制御するアクチュエータの構成を示す図。
【図9】コンバインの制御構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0051】
1 操縦部
2 主変速レバー
3 副変速レバー
5 操向ハンドル
6 表示パネル
7 運転座席
8 サイドコラム
9 HST式変速装置
10 コントローラ
11 切換牽制プログラム
12 リセットプログラム
13 報知プログラム
14 過負荷防止プログラム
15 変速制御プログラム
20 グリップ部
27 副変速スイッチ
31 アクチュエータ
35 過負荷センサ
36 快速電磁弁
37 油圧センサ
38 車速センサ
91 油圧ポンプ
92 第1油圧モータ
93 第2油圧モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力で駆動する可変容積型の油圧ポンプと、駆動輪を駆動する可変容積型の油圧モータと、を油圧閉回路で連結したHST式変速装置と、
主変速を行う主変速レバーのグリップ部に設けられて、副変速状態を切り換える副変速スイッチと、
を備えた作業機の副変速装置において、
前記副変速状態を表示する表示手段が操縦部に設けられたことを特徴とする作業機の副変速装置。
【請求項2】
前記副変速装置は前記油圧モータの速比を切り換える副変速レバーを有する構成で、
前記副変速レバーが「低速」にセットされている状態で、前記副変速スイッチによる副変速状態が「低速」から「高速」へ切り換えられた場合、その切り換えを牽制する切換牽制手段が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の作業機の副変速装置。
【請求項3】
前記作業機の電気系統の電源投入時に、前記副変速スイッチによる副変速状態を「低速」にリセットするリセット手段が設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の作業機の副変速装置。
【請求項4】
前記副変速スイッチによる副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、作業が行われた場合、その旨を報知する報知手段が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項3のうち何れか一項に記載の作業機の副変速装置。
【請求項5】
前記リセット手段は、前記主変速レバーが後進側へ切り換えられた場合にも、前記副変速スイッチによる副変速状態を「低速」にリセットすることを特徴とする請求項3に記載の作業機の副変速装置。
【請求項6】
前記副変速スイッチによる副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、エンジン負荷が過負荷状態と検出された場合、前記油圧閉回路に介設された電磁弁を作動させて車速を減速し、さらに過負荷状態が継続して検出された場合には、前記副変速状態を「高速」から「低速」に切り換え、過負荷状態の解消が検出された場合には、前記副変速状態を「高速」から「低速」に徐々に切り換えた後、前記電磁弁の作動を徐々に解除して元の車速に増速する過負荷防止手段が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のうち何れか一項に記載の作業機の副変速装置。
【請求項7】
前記副変速スイッチによる副変速状態が「高速」に切り換えられている状態で、前記油圧閉回路の油圧が所定圧力以上且つ車速が所定速度以下となった場合、前記副変速状態を「高速」から「低速」に切り換える変速制御手段が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6のうち何れか一項に記載の作業機の副変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−256555(P2006−256555A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79610(P2005−79610)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(000005164)セイレイ工業株式会社 (125)
【Fターム(参考)】