説明

作業車両のステアリング機構

【課題】作業走行モードのときのみ、ステアリングハンドルに設けた操舵スイッチの操作によって回向走行を行わせることにより、回向作業をスムーズに行うと共に操舵スイッチの誤操作を防止することができる作業車両のステアリング機構を提供する。
【解決手段】ステアリングハンドル6の回動操作によってパワーステアリングユニット11を介して前輪2を操舵する作業車両のステアリング機構であって、前記ステアリング機構に作業走行と路上走行とを切換えるモード切換手段32を設け、該モード切換手段32の切換操作に基づいて、作業時にはステアリングハンドル6に設けた操舵スイッチ16の操作によってパワーステアリングユニット11を作動させて前輪2を操舵し、また路上走行時には専らステアリングハンドル6の回動操作によって、パワーステアリングユニット11を作動させて前輪2を操舵する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタや田植機等の作業車両におけるステアリング機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングハンドルを把持して回動操作することにより、油圧によるパワーステアリングユニットを作動し前輪を操舵するステアリング機構に、リモコン操作自在な切替スイッチを設けて、ステアリングハンドルを回動させることなく切替スイッチの操作により、パワーステアリングユニットを作動し前輪を操舵する移動農機(作業車両)のステアリング機構は既に公知である(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平2−11472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1で示される作業車両のステアリング機構は、専らステアリングハンドルの回動操作による操舵と、切替スイッチ操作による操舵を任意に選択することができる利点がある。
然しながら上記ステアリング機構は、パワーステアリングユニットのバルブを作動させる切替スイッチが、専ら機外から遠隔操作をする方式のものであるため、操縦部に居ながら切替スイッチを持ってのラジコン操作が行い難い等の欠点がある。
また切替スイッチの操作は、路上走行(高速走行)と作業走行(低速走行)とのいずれの場合でも操作することができるため、特に路上走行時において切替スイッチによる操作が行われると、機体を急旋回させ易い等の問題がある。
そこで本発明は上記実情に鑑み、ステアリング機構に作業走行と路上走行との走行モードを切換えるモード切換手段を設け、作業走行モードのときのみステアリングハンドルに設けた操舵スイッチ(切替スイッチ)の操作によって回向走行を行わせることにより、操舵スイッチの誤操作を防止し、また耕耘作業機の昇降操作等も同時に慌しく行われる回向作業をスムーズに行うようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本発明の作業車両のステアリング機構は、ステアリングハンドル6の回動操作によってパワーステアリングユニット11を介して前輪2を操舵する作業車両のステアリング機構において、前記ステアリング機構に作業走行と路上走行とを切換えるモード切換手段32を設け、該モード切換手段32の切換操作に基づいて、作業時にはステアリングハンドル6に設けた操舵スイッチ16の操作によってパワーステアリングユニット11を作動させて前輪2を操舵し、また路上走行時には専らステアリングハンドル6の回動操作によって、パワーステアリングユニット11を作動させて前輪2を操舵することを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
本発明による作業車両のステアリング機構は次のような効果を奏する。即ち、ステアリング機構に設けたモード切換手段を路上走行モードから作業走行モードに切換えた状態で、ステアリングハンドルに設けた操舵スイッチを操作すると前輪を操舵することができるので、圃場で耕耘作業等を行うような場合に、作業走行時の回向走行をステアリングハンドルの回動操作を必要とすることなく、片手でステアリングハンドルを握ったまま指で操舵スイッチを操作するだけでの簡単な操作によって行うことができる。
またモード切換手段によって路上走行モードに切換えて路上走行を行う場合には、ステアリングハンドルに設けた操舵スイッチを不測に操作したとしても、この操舵スイッチによる操作は不能にされているため機体の急旋回を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。符号1は作業車両の一例として示すトラクタであり、トラクタ1は左右の前輪2及び後輪2aを有する走行機体3の前部に、エンジン4を搭載してボンネット5で覆い、その後方にステアリングハンドル6及び座席6a等からなる操縦部7をキャビン8で覆って配置し、機体後部に耕耘装置等の作業機を装着する3点リンク方式の昇降機構9を備えている。
【0007】
上記トラクタ1はステアリングハンドル6を備えたステアリング機構10を備え、ボンネット5の後部で走行機体3に設置される全油圧式のパワーステアリングユニット11からステアリング軸12を立設し、その上端にステアリングハンドル6を取付支持している。
このステアリング機構10は従来のものと同様に、油圧ポンプ13から圧油をパワーステアリングユニット11に送り、ステアリングハンドル6の回動操作に連動して切換作動される作動油を前輪のパワーステアリングシリンダ15に供給することにより、左右の前輪2をステアリングハンドル6の操舵方向に回動させることができる。
【0008】
またステアリング機構10は、ステアリングハンドル6にシーソー操作型の押しボタンスイッチからなる操舵スイッチ16を設けており、ステアリング軸12の中途部に設けた電動駆動機構17を操舵スイッチ16の操作によってマイコンユニット19を介して作動させるように設けている。
【0009】
そして、図2,図4で示すようにマイコンユニット19に接続される操舵スイッチ16は、リング状をなすステアリングハンドル6の右側アーム部に、リング部を握った片手でその親指によって上下方向の指押し操作を簡単に行うことができるように設けている。実施形態の操舵スイッチ16は、上部を押動すると前記電動駆動機構17を後述する右操舵作動させ、下部を押動すると電動駆動機構17を左操舵作動させることができる。
【0010】
また電動駆動機構17は図3で示すように、ステアリング軸12を上側ステアリング軸12aと下側ステアリング軸12bとに分割し、両軸を電磁クラッチ20を介して断続可能に連結している。そして、下側ステアリング軸12bに従動ギヤ21を取付固定し、従動ギヤ21に噛合する駆動ギヤ22を、電磁クラッチ23を介し前記マイコンユニット19と接続する電動モータ25によって駆動する構成としている。
尚、上記電磁クラッチ20は電動モータ25によって下側ステアリング軸12bを回転させるときは、上側ステアリング軸12aを回転させないようにクラッチが切作動される機能を有し、且つ電磁クラッチ23は電動モータ25が停止しているときは、ステアリングハンドル6が回動操作されても電動モータ25を回転させないように切作動されるクラッチ機能を有している。
【0011】
この構成により運転者は後述するモード切換手段を作業走行モードに切換え、ステアリングハンドル6を把持して身体を安定姿勢にした状態で作業走行を行う。そして、直進走行から回向走行を行いたい場合に、ステアリングハンドル6を把持した片手で操舵スイッチ16の上部を指押しすると、電動モータ25が回転し下側ステアリング軸12bを右回転させて、パワーステアリングユニット11を介し前輪のパワーステアリングシリンダ15を作動し左右の前輪2を右方向に操舵することができる。
また操舵スイッチ16の下部を押動すると、電動モータ25が逆回転し下側ステアリング軸12bを左回転させて、パワーステアリングユニット11を介し前輪のパワーステアリングシリンダ15を作動し左右の前輪2を左方向に操舵することができる。
【0012】
次に操縦部7の操作パネル部26について図1,図2を参照し説明する。操縦パネル部26はボンネット5の後部でステアリングハンドル6の近傍下方に構成され、上側ステアリング軸12aを囲うカバー部に、エンジンアクセルレバー27と作業機昇降レバー29とを、ステアリングハンドル6に手を掛けた状態で操作自在に備えている。尚、作業機昇降レバー29は上下方向の操作により、図示しない作業機油圧シリンダを操作して昇降機構9を上下動させ、耕耘装置等の作業機を昇降させる。
【0013】
また操縦部7は操縦パネル部26の下方に足踏みペダル方式のメインクラッチ30を備え、このメインクラッチ30にエンジン4からの動力を切り操作したときに、前記電動モータ25の駆動をOFFにするクラッチスイッチ31を設けている。従って、作業走行中に緊急停止したい場合に、走行動力を切るメインクラッチ30の踏み込み動作で電動モータ25も同時停止させることができる。
また操縦パネル部26には、一般的に備えられる計器やスイッチ類の他に、路上走行と作業走行との走行モードを切り換えるモード切換手段としてのモードスイッチ32を、作業機昇降レバー29の近傍に設けてマイコンユニット19に接続している。
【0014】
上記マイコンユニット19は図4に示すように、入力側に前記操舵スイッチ16と作業機昇降レバー29とモードスイッチ32とクラッチスイッチ31とを接続し、出力側に電磁クラッチ20,23と電動モータ25とを接続している。
またモードスイッチ32は単体のスイッチとして設置することができるが、この実施形態では例えば本出願人の出願に係る特開2007−14278号公報に示されるような、トラクタ1に既設の制御装置が備える、走行モードと作業モードの制御モードを択一的に切換えるモード切換スイッチ(モード切換手段)に組み込んで兼用した構成にしている。
【0015】
即ち、上記制御装置は走行モードでは、路上走行時に必要としない耕深自動制御等の制御作動を禁止し、作業モードでは、作業走行時において必要とする耕深自動制御等の作動を可能にすることができるものである。
従って、上記モード切換スイッチを兼用するモードスイッチ32をON操作すると、耕深自動制御等を有効にすると同時に耕耘作業時に必要とされる本件作業モードによる操舵を可能にする。この作業モードでは操舵スイッチ16の操作によって前輪2を操舵することができる。また耕耘作業を終えて路上走行に移行するときモード切換スイッチをOFF操作することにより、耕深自動制御等をOFFにすると同時に作業モードによる操舵を不能にし、本件走行モードによる操舵を可能にする。
【0016】
次に上記ステアリング機構を備えたトラクタ1による作業走行の態様について、図5で示すタイミングチャートを参照し説明する。先ず圃場に乗り入れたトラクタ1は、モードスイッチ32を路上走行モードから作業走行モードに切り換え、耕深自動制御等を可能にすると共に、本件作業モードによる操舵を可能にする。これによりオペレータはステアリングハンドル6の回動操作を行うことなく、操舵スイッチ16の上部又は下部を択一的に指押しするだけの簡単な操作で操舵を行うことができる。
【0017】
即ち、図5で示すように、オペレータは直進作業状態走行から、枕地において回向走行する左方向に回向走行(機体旋回)をするとき、図5で示すように各スイッチ類の操作に基づき作動される各機器の作動順並びにタイミングによって回向を行うことができる。先ず回向走行に先立って作業機昇降レバー29を上げ側に操作し、作業機を地表から上昇させる。この状態で操舵スイッチ16を左回向操作すると、電磁クラッチ20が切りとなりステアリングハンドル6側の操作力を非伝達状態になし、また電磁クラッチ23が切りとなり電動モータ25の回転を下側ステアリング軸12b側に伝達状態にすると共に、電動モータ25が回転する。
【0018】
これにより駆動ギヤ22と従動ギヤ21の噛合を介し下側ステアリング軸12bは左回転し、パワーステアリングユニット11を介し前輪のパワーステアリングシリンダ15が作動し左右の前輪2を左側に切り機体の回向走行を開始する。
尚、この回向走行中に電動モータ25の回転が継続されて前輪のパワーステアリングシリンダ15が左側のストロークエンドになったとしても、電磁クラッチ23はトルクリミッタ機能を備えているので、電動モータ25の過負荷は防止される。
【0019】
次いで、オペレータは機体の回向を終え直進走行状態になるタイミングで、操舵スイッチ16を右回向操作する。これにより電動モータ25は逆転し駆動ギヤ22と従動ギヤ21の噛合を介し下側ステアリング軸12bを右側に回転させ、パワーステアリングユニット11を介し前輪のパワーステアリングシリンダ15が復帰作動し、左右の前輪2を直進状態に戻す。
【0020】
そして、前輪2が直進走行状態に復帰した時点で操舵スイッチ16の操作を止めると、電動モータ25の回転が停止し直進走行を行なわせることができる。この時点でオペレータはステアリングハンドル6を把持した片手の指で作業機昇降レバー29を下げ側に操作し、作業機を再び耕耘作業状態に下降させて作業を続行する。
【0021】
この直進作業状態走行では、オペレータは専らステアリングハンドル6を回動操作して機体の方向修正をする。このとき操舵スイッチ16はOFFであり、ステアリングハンドル6の回転を電磁クラッチ20を介し下側ステアリング軸12bに伝えるので、ハンドル操舵をスムーズに行うことができる。尚、ステアリングハンドル6の回動操作力は、電磁クラッチ23が切りであるため電動モータ25への逆伝達を防止している。
【0022】
このようにステアリング機構に設けた操舵モードスイッチ32を路上走行モードから作業走行モードに切り換えて、ステアリングハンドル6に設けた操舵スイッチ16を操作して前輪2を操舵するようにしたトラクタ1は、圃場で耕耘作業等を行うような場合に、作業走行時の回向走行をステアリングハンドル6の回動操作を必要とすることなく、ステアリングハンドル6を把持した片手の指で操舵スイッチ16を操作するだけの省力的な動作で簡単に機体回向をすることができる。
【0023】
また図示例のように前輪2の操舵を電動で行う操舵スイッチ16をステアリングハンドル6に設け、且つ操舵スイッチ16の近傍に作業機昇降レバー29を設けるので、操舵スイッチ16を指で操作すると同時に他の指で作業機昇降レバー29を簡単且つ迅速に操作することができる。従って、ステアリングハンドル6を略2回転させる決まりきった往復回転動作を省いて機体回向時の慌ただしさを解消し、オペレータは回向走行時に必要とされる作業状況の看視等に注力することができる。
【0024】
また路上走行は、操舵モードスイッチ32によって路上走行モードに切換えて行うので、ステアリングハンドル6の回動操作時に不測に操舵スイッチ16を操作したとしても、この操舵スイッチ16による操作は不能にしているので誤動作を防止することができる。また作業走行時の操舵は回転数を変更自在な電動モータ25によって行うと、回向走行の操舵調節を簡単に行うことができる。
【0025】
また上記トラクタ1による作業は、回向走行をする際に作業機昇降レバー29を上げ側に操作してから、回向走行完了と同時に下げ側に操作する動作パターンは一定化しているため、その圃場で上記動作パターンを何回か繰り返し、その間にテーチングした動作をマイコンユニット19に記憶させることができる。これによりトラクタ1クタ1は操舵スイッチ16を操作することなく、専ら作業機昇降レバー29を上げ操作するだけで、次回からは一連の回向走行と作業機の昇降を自動的に行うようにさせることができる。即ち、圃場条件により回向の状態は変わるが、その圃場で2〜3回程度のテーチング作業を行うことにより、その間の時間や車速等を入力すれば、その後はその圃場条件に合った回向動作を自動化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係わるステアリング機構を備えたトラクタの側面図である。
【図2】図1のトラクタのステアリングハンドル及び操縦パネル部の構造を示す平面図である。
【図3】ステアリング機構の側面図である。
【図4】マイコンユニットの配線図である。
【図5】作業走行のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0027】
1 トラクタ(作業車両)
2 前輪
3 走行機体
6 ステアリングハンドル
11 パワーステアリングユニット
16 操舵スイッチ
32 モード切換手段(モードスイッチ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングハンドル(6)の回動操作によってパワーステアリングユニット(11)を介して前輪(2)を操舵する作業車両のステアリング機構において、前記ステアリング機構に作業走行と路上走行とを切換えるモード切換手段(32)を設け、該モード切換手段(32)の切換操作に基づいて、作業時にはステアリングハンドル(6)に設けた操舵スイッチ(16)の操作によってパワーステアリングユニット(11)を作動させて前輪(2)を操舵し、また路上走行時には専らステアリングハンドル(6)の回動操作によって、パワーステアリングユニット(11)を作動させて前輪(2)を操舵することを特徴とする作業車両のステアリング機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−6843(P2009−6843A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170004(P2007−170004)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】