説明

半導体光素子及び半導体光素子の製造方法

【課題】リッジ導波路のメサ幅を高精度に制御する。
【解決手段】半導体基板上に設けられたコア層と、コア層の上方に突出するリッジ型の導波路を備え、導波路は、コア層の上方に設けられたメサ状の第1クラッド層と、第1クラッド層上に設けられた第1エッチングストップ層と、第1エッチングストップ層上に設けられ、第1クラッド層と同一の組成を有する第2クラッド層とを有し、第1エッチングストップ層は、第1クラッド層及び第2クラッド層を化学エッチングするエッチャントでエッチングされない半導体光素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子及び半導体光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光素子の導波路として、ローメサリッジ導波路が知られている。ローメサリッジ導波路においては、主に、活性層を含む高屈折率のスラブ導波路によって平面内に光が閉じ込められ、スラブ導波路の上方に形成された高屈折率のメサがチャネル導波路として動作する(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開2008−010484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ローメサリッジ導波路は、エピタキシャル成長により形成した半導体の多層構造上にフォトリソグラフィーによりマスクを形成した後に、エッチングを施すことにより、メサ形状に形成することができる。半導体の多層構造のエッチングには、ドライエッチングである反応性イオンエッチング、及び、酸溶液によるウェットエッチングを利用することができる。
【0004】
反応性イオンエッチングは物理作用及び化学作用を併用したエッチング法である。反応性イオンエッチングは、結晶の面方位に依存しないので垂直性が良好なエッチングである。しかし、反応性イオンエッチングに対して選択性が良好なエッチストップ層材料が存在しない。このため、反応性イオンエッチングにおいてはエッチング時間によってエッチング深さを制御しなければならず、エッチング深さを精度よく制御することは難しい。
【0005】
他方、ウェットエッチングを用いる場合には、エッチャント(エッチング液)によっては選択性の優れたエッチストップ層材料が存在する。エッチングする半導体層の底面にエッチングストップ層を設けることで、エッチングを停止させる位置を精度よく制御することができる。
【0006】
しかしながら、ウェットエッチングにおいては、エッチングする結晶の面方位に応じてエッチング速度が異なる。その結果、ウェットエッチングした面の垂直性は、エッチングする結晶の面方位に依存する。例えば、結晶の面方位によっては、エッチング後のリッジ導波路が逆メサ形状になるが、メサ側面の傾斜角度がリッジの方向に依存するので、メサ底面の幅を制御することが困難であった。また、領域によって異なる面方位を有する曲げ導波路においては、エッチング後のメサ形状が領域によって異なるので、曲げ導波路のメサ幅にばらつきが生じるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、半導体基板上に設けられたコア層と、コア層の上方に突出するリッジ型の導波路を備え、導波路は、コア層の上方に設けられたメサ状の第1クラッド層と、第1クラッド層上に設けられた第1エッチングストップ層と、第1エッチングストップ層上に設けられ、第1クラッド層と同一の組成を有する第2クラッド層とを有し、第1エッチングストップ層は、第1クラッド層及び第2クラッド層を化学エッチングするエッチャントでエッチングされない半導体光素子を提供する。
【0008】
上記の半導体光素子において、一例として、第1クラッド層及び第2クラッド層の少なくとも1つは、面方位がそれぞれ異なる複数の領域を側面に有する。第1クラッド層及び第2クラッド層の少なくとも1つは、面方位が連続的に変化する複数の領域を側面に有してもよい。例えば、第1クラッド層は、第2クラッド層よりも小さな厚みを有する。また、例えば、第1クラッド層が第1エッチングストップ層に接する面の面積は、第1クラッド層が第1エッチングストップ層に接する面の反対面の面積よりも大きい。
【0009】
上記の半導体光素子は、コア層上に設けられたスペーサ層と、スペーサ層上に設けられたベースエッチングストップ層とをさらに備えてもよい。一例として、第1クラッド層及び第2クラッド層はInPであり、第1エッチングストップ層はGaInAsPである。導波路は、第2クラッド層上に電極コンタクト層をさらに備えてもよい。導波路は、第2クラッド層上に設けられた第2エッチングストップ層と、第2エッチングストップ層上に設けられた第3クラッド層とをさらに有してもよい。一例として、第1エッチングストップ層は、第2エッチングストップ層のGaAsの含有率よりも小さな含有率のGaAsを含む。
【0010】
導波路は、半導体基板の主面と平行な面における方向が異なる複数のサブ導波路を有し、複数のサブ導波路は、それぞれのサブ導波路の方向に応じた数のエッチングストップ層を有してもよい。
【0011】
本発明の第2の態様においては、半導体基板上にコア層を形成する段階と、コア層の上方に突出するリッジ型の導波路を形成する段階とを備え、導波路を形成する段階は、コア層の上方にメサ状の第1クラッド層を形成する段階と、第1クラッド層上に第1エッチングストップ層を形成する段階と、第1エッチングストップ層上に、第1クラッド層と同一の組成を有する第2クラッド層を形成する段階と、第1エッチングストップ層が化学エッチングされないエッチャントにより、第1クラッド層及び第2クラッド層をエッチングする段階とを有する半導体光素子の製造方法を提供する。
【0012】
上記の半導体光素子の製造方法においては、導波路を形成する段階は、第1クラッド層の少なくとも一部の領域がエッチングされるまでの間、第1クラッド層及び第2クラッド層を物理作用を含むエッチングによりエッチングする段階と、物理作用を含むエッチングによりエッチングする段階の後に、第1クラッド層及び第2クラッド層を化学エッチングによりエッチングする段階とをさらに有してもよい。導波路を形成する段階は、半導体基板の主面と平行な面における方向が異なる複数のサブ導波路を形成する段階を有し、複数のサブ導波路を形成する段階においては、複数のサブ導波路のうち第1サブ導波路を形成した後に、複数のサブ導波路のうちの第1サブ導波路と異なる第2サブ導波路を形成してもよい。
【0013】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体光素子の構成例を示す。
【図2A】半導体光素子を有する光変調器の構成例を示す。
【図2B】曲り導波路の上面視図の一例を示す。
【図2C】曲り導波路の上面視図の他の例を示す。
【図3A】他の実施形態に係る半導体光素子の断面を示す。
【図3B】他の実施形態に係る半導体光素子の断面の他の例を示す。
【図4】半導体光素子の製造過程における断面の一例を示す。
【図5】半導体光素子の製造過程における断面の他の例を示す。
【図6】他の実施形態に係る半導体レーザの構成例を示す。
【図7】半導体レーザの製造工程におけるA−A断面の一例を示す。
【図8】半導体レーザにおける光増幅器の短手方向における断面を示す。
【図9】半導体レーザにおける導波路の短手方向における断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体光素子100の構成例を示す。半導体光素子100は、ベース基板110、ベース基板110上に設けられたコア層120、及び、コア層120の上方に突出するリッジ型のクラッド層210を備える。半導体光素子100は、コア層120とクラッド層210との間に、スペーサ層130及びベースエッチングストップ層140をさらに備えてもよい。クラッド層210は、第1クラッド層220、第1エッチングストップ層230及び第2クラッド層222を有する。第2クラッド層222の上面には、コンタクト層が形成されてよい。
【0017】
ベース基板110はIII−V族化合物半導体である。ベース基板110は、例えばInPである。ベース基板110は、n型のドーパントを有してよい。
【0018】
コア層120は光を導波する。コア層120は、例えば多重量子井戸層である。コア層120は、例えばi−GaInAsPからなる複数の層を有する。スペーサ層130は、例えばInPである。スペーサ層130はp型のドーパントを有してよい。第1クラッド層220及び第2クラッド層222は、例えばInPである。第1クラッド層220及び第1クラッド層220はp型のドーパントを有してよい。
【0019】
クラッド層210は、ウェットエッチングにより形成される。ベースエッチングストップ層140及び第1エッチングストップ層230は、第1クラッド層220及び第2クラッド層222をウェットエッチングするエッチャントによってエッチングされない。ベースエッチングストップ層140及び第1エッチングストップ層230は、例えばGaInAsPである。また、エッチャントは、例えば塩酸(HCl)と燐酸(HPO)を1:3の比率で混合した溶液である。
【0020】
ここで、「Aがエッチングされない」とは、Aがエッチングされる速度が、第1クラッド層220及び第2クラッド層222がエッチングされる速度に比べて十分に小さい場合を含む。例えば、Aがエッチングされる速度が、第1クラッド層220及び第2クラッド層222がエッチングされる速度に比べて10倍程度の大きさの場合には、Aはエッチングされないとしてよい。
【0021】
リッジ型の半導体層を垂直方向にウェットエッチングする場合には、リッジ側面の傾斜角度αは、ベース基板110と平行な面内におけるリッジストライプの方向に依存する。例えば、(100)基板上に<011>方向のリッジストライプを形成する場合において、InPのクラッド層210に対して塩酸と燐酸の混合液のエッチャントを用いると、(01−1)面に近い垂直なリッジ側面を形成できる。これに対し、リッジストライプの方向が<011>から傾くほど、傾斜角度αの大きい逆メサ形状のクラッド層210が形成される。
【0022】
同一の面方位においては、水平方向のエッチングにより生じる側面の傾斜角は一定なので、エッチングされる半導体層の厚みが大きいほど、クラッド層210の最上面と最下面の水平方向における長さの差(図1におけるd)が大きくなる。半導体光素子100においては、第1エッチングストップ層230を設けて、クラッド層210を第1クラッド層220および第2クラッド層222に分割しているので、当該長さの差dを、クラッド層210の厚みではなく、第1クラッド層220の厚みで定めることができる。
【0023】
つまり、クラッド層210が、第1クラッド層220と第2クラッド層222との間に第1エッチングストップ層230を有する場合には、第1クラッド層220及び第2クラッド層222のそれぞれの厚みは、クラッド層210が第1エッチングストップ層230を有しない場合のクラッド層210の厚みよりも小さい。したがって、第1クラッド層220及び第2クラッド層222をウェットエッチングした場合に生じる、第1クラッド層220及び第2クラッド層222のそれぞれの最上面の面積と最下面の面積との差は、第1エッチングストップ層230を有しない場合のクラッド層210の最上面の面積と最下面の面積との差よりも小さい。このため、第1エッチングストップ層230を設けない場合に比べ、当該長さの差dを小さくすることができる。従って、メサ幅を精度よく制御することができる。また、リッジストライプの方向による、メサ幅のばらつきを小さくすることができる。
【0024】
また、クラッド層210の最上面の面積と最下面の面積との差が大きければ大きいほど、半導体層の側面と当該半導体層の下面が接する半導体との間の接点における機械的強度が低下するという問題も生じる。これに対し、半導体光素子100によれば、クラッド層210の最上面の面積と最下面の面積との差を小さくできるので、機械的強度を維持できる。
【0025】
なお、第1クラッド層220が第1エッチングストップ層230に接する面の面積は、第1クラッド層220が第1エッチングストップ層230に接する面の反対面の面積よりも大きい。また、第2クラッド層222の上面の面積は、第2クラッド層222が第1エッチングストップ層230に接する面の面積よりも大きい。また、第1クラッド層220および第2クラッド層222の厚さは同一であってよい。さらに好適には、第1クラッド層220は、第2クラッド層222より薄くてもよい。第1クラッド層220の厚みを小さくすることで、長さの差dをさらに小さくすることができる。
【0026】
図2Aは、半導体光素子100を有する光変調器200の構成例を示す。光変調器200は、例えばマッハツェンダー型半導体光変調器である。光変調器200は、導波路304、MMIカプラ305、導波路308−1、導波路308−2、曲り導波路306−1、曲り導波路306−2、位相変調アーム310−1、位相変調アーム310−2、制御部312、導波路308−3、導波路308−4、曲り導波路306−3、曲り導波路306−4、MMIカプラ314及び導波路316を備える。
【0027】
入射口302に入射された光は、導波路304を経由してMMIカプラ305に入力される。MMIカプラ305は、導波路304から受けた光を分岐して、曲り導波路306−1及び曲り導波路306−2のそれぞれに入力する。曲り導波路306−1は、MMIカプラ305から受けた光を導波して導波路308−1に入力する。曲り導波路306−2は、MMIカプラ305から受けた光を導波して導波路308−2に入力する。
【0028】
導波路308−1及び導波路308−2が出力する光は、それぞれ位相変調アーム310−1及び位相変調アーム310−2を経由して導波路308−3及び導波路308−4に入力される。導波路308−3は、位相変調アーム310−1から受けた光を曲り導波路306−3に入力する。導波路308−4は、位相変調アーム310−2から受けた光を曲り導波路306−4に入力する。MMIカプラ305−2は、曲り導波路306−3及び曲り導波路306−4から受けた光を合波して、導波路316を経由して出射口318から出力する。
【0029】
制御部312は、位相変調アーム310における位相変調を制御する。例えば制御部312は、位相変調アーム310に与える電界または熱量を調整して、位相変調アーム310における屈折率を制御する。
【0030】
曲り導波路306−1、曲り導波路306−2、曲り導波路306−3及び曲り導波路306−4のそれぞれは、曲線状の領域を有している。曲り導波路306−1、曲り導波路306−2、曲り導波路306−3及び曲り導波路306−4のそれぞれは、例えばS字状である。一例として、曲り導波路306−1は、導波路308−1との接続部における側面の面方位が<011>であり、曲り導波路306−1の中央部における側面の面方位は<011>から傾いている。
【0031】
図2Bは、曲り導波路306−1の上面視図の一例を示す。図2Aにおいて、曲り導波路306−1は、面方位がそれぞれ異なる複数の領域を側面に有する。具体的には、曲り導波路306−1は、図1に示したベース基板110の主面と平行な面における方向が異なる複数のサブ導波路を有する。図2Aにおける曲り導波路306−1は、サブ導波路320、サブ導波路330及びサブ導波路340を有する。
【0032】
サブ導波路320及びサブ導波路340は、同一の面方位を有する。しかし、サブ導波路330の側面の面方位は、サブ導波路320及びサブ導波路340の側面の面方位と異なる。このように、曲り導波路306−3が、面方位がそれぞれ異なる複数の領域を側面に有する場合であっても、曲り導波路306−3が、図1に示した第1クラッド層220と第2クラッド層222との間に第1エッチングストップ層230を有していれば、それぞれの領域における側面の垂直性のばらつきを抑制することができる。
【0033】
サブ導波路320、サブ導波路330及びサブ導波路340のそれぞれは、導波路のストライプ方向に応じた数のエッチングストップ層を有してもよい。例えば、ストライプ方向と<011>方向との差がより大きいサブ導波路は、より多くのエッチングストップ層を有してよい。つまり、リッジ側面の傾斜αが大きいサブ導波路ほど、多くのエッチングストップ層を有してよい。
【0034】
図2Cは、導波路306−1の上面視図の他の例を示す。曲り導波路306−3においては、図1に示した第1クラッド層220及び第2クラッド層222の少なくとも1つが、面方位が連続的に変化する複数の領域を側面に有する。このように、面方位が連続的に変化する場合であっても、第1クラッド層220と第2クラッド層222との間に第1エッチングストップ層230を有していれば、曲り導波路306−3における任意の複数の領域におけるそれぞれの側面の垂直性のばらつきを抑制することができる。
【0035】
図3Aは、他の実施形態に係る半導体光素子300の断面を示す。半導体光素子300におけるクラッド層210は、図1に示したクラッド層210に対して第2エッチングストップ層232、第3クラッド層224及びコンタクト層240をさらに有する。第2エッチングストップ層232は、第2クラッド層222上に設けられている。第3クラッド層224は、第2エッチングストップ層232上に設けられている。コンタクト層240は第3クラッド層224上に設けられている。コンタクト層240には、電極を設けることができる。
【0036】
一例として、第1クラッド層220は、第2クラッド層222よりも小さな厚みを有する。第2クラッド層222は、第3クラッド層224よりも小さな厚みを有してもよい。また、第1エッチングストップ層230は、第2エッチングストップ層232のGa及びAsの含有率よりも小さな含有率のGa及びAsを含んでよい。
【0037】
図3Bは、他の実施形態に係る半導体光素子300の断面の他の例を示す。図3Bにおける半導体光素子300におけるクラッド層210のストライプ方向は、図3Aに示した半導体光素子300におけるクラッド層210のストライプ方向と異なる。図3Bの半導体光素子300は、図3Aに示した半導体光素子300に比べて、第1クラッド層220、第2クラッド層222及び第3クラッド層224における側面の傾斜角が大きい。図3Aおよび図3Bに示すように、クラッド層210の側面の傾斜角の差が大きい場合であっても、複数のエッチングストップ層を設けることで、メサ幅のばらつきを低減することができる。
【0038】
図4は、半導体光素子300の製造過程における断面の一例を示す。図4を用いて、半導体光素子300を製造する方法を説明する。まず、MOCVD法などの結晶成長法によって、ベース基板110上にバッファ層112、コア層120、スペーサ層130、ベースエッチングストップ層140、第1クラッド層150、第1エッチングストップ層160、第2クラッド層152、第2エッチングストップ層162、第3クラッド層154及びコンタクト層170を、この順に積層する。
【0039】
ベース基板110は、例えばn−InPからなる基板である。バッファ層112はn−InPからなる。コア層120は、多層のi−GaInAsPからなる多重量子井戸層である。スペーサ層130は、p−InPからなり、例えば150nmの厚みを有する。ベースエッチングストップ層140は、p−GaInAsPからなり、例えば20nmの厚みを有する。
【0040】
第1クラッド層150は、p−InPからなり、例えば600nmの厚みを有する。第1エッチングストップ層160は、p−GaInAsPからなり、例えば20nmの厚みを有する。第2クラッド層152は、p−InPからなり、例えば600nmの厚みを有する。第2エッチングストップ層162は、p−GaInAsPからなり、例えば20nmの厚みを有する。
【0041】
第3クラッド層154は、p−InPからなり、例えば600nmの厚みを有する。コンタクト層170は、GaInAsからなり、例えば200nmの厚みを有する。ベースエッチングストップ層140、第1エッチングストップ層160及び第2エッチングストップ層162は、いずれも組成波長が1.1μmである。
【0042】
図5は、半導体光素子300の製造過程における断面の他の例を示す。図4に基づいて説明した工程に続いて、例えばPCVD法によって絶縁層180を成膜する。フォトリソグラフィーを施した後に反応性イオンエッチングをすることにより、成膜した絶縁層180に導波路パターンを形成する。絶縁層180は、例えばSiNxである。当該導波路パターンは、半導体光素子100における直線部分のストライプの方向が<011>方向になるように形成してよい。
【0043】
次に、導波路パターンが形成された絶縁層180をマスクとして、コンタクト層170から第1エッチングストップ層160を貫通して第1クラッド層150に達する深さまでの層を、物理作用を含むエッチングにより除去する。物理作用を含むエッチングは、物理作用のみによるエッチングであっても,物理作用と化学作用を共に用いたエッチングであってもよい。物理作用を含むエッチングとして、例えばドライエッチングの一種である反応性イオンエッチングを用いることができる。反応性イオンエッチングは物理作用と化学作用を共に用いたエッチングである。反応性イオンエッチングは物理作用を含むので、材料の選択性が小さく第2エッチングストップ層162、第1エッチングストップ層160も良好にエッチングすることができる。
【0044】
エッチングを開始してからエッチングを停止するまでの時間を制御することによって、第1クラッド層150の途中までエッチングされた状態でエッチングを停止する。エッチングを停止する位置は、第1エッチングストップ層160よりも下であり、かつ、ベースエッチングストップ層140よりも上である。本実施形態においては、第1クラッド層150の厚みが600nmなので、ドライエッチングの作製精度は、導波路の形成に要求される作製精度に比べて約10倍緩和された600nmでよい。
【0045】
次に、塩酸(HCl)と燐酸(HPO)を1:3の比率で混合した溶液をエッチャントとして、図5に示した構造体をウェットエッチングする。当該エッチャントはInPとGaInAsPの間に選択性があり、GaInAsPをエッチングしない。したがって、ベースエッチングストップ層140よりも下側の層においてはエッチングが進まない。また、第3クラッド層154と第2クラッド層152との間に第1エッチングストップ層160があり、第2クラッド層152と第1クラッド層150との間に第2エッチングストップ層162があるので、第3クラッド層154、第2クラッド層152及び150の側面は、コンタクト層170、第2エッチングストップ層162及び第1エッチングストップ層160の端部を起点として、ストライプの方向に応じた傾斜角度で形成される。
【0046】
以上の手順により、図3A及び図3Bに示した半導体光素子300を製造することができる。図3A及び図3Bに示したいずれの半導体光素子300においても、深さ方向のエッチングは、ベースエッチングストップ層140により停止している。半導体光素子300は、メサストライプである第1クラッド層150、第2クラッド層152及び第3クラッド層154の間に、第1エッチングストップ層160及び第2エッチングストップ層162を有する。したがって、半導体光素子300においては、第1エッチングストップ層160及び第2エッチングストップ層162がない場合に比べて、リッジ幅のばらつきが小さい。
【0047】
リッジ導波路が形成された後は、パッシベーション膜及び電極を公知の技術によって形成し、劈開によって素子を切り出して端面をコーティングすることで半導体光変調器の素子が完成する。完成した素子は、スペーサ層130の残し厚およびメサ幅が高い精度で作製された、単一モードで、損失の小さい導波路を有するので、良好な素子特性を有する。
【0048】
AlGaInAsは酸化されやすい材料である。上記の製造方法によれば、製造工程において活性層が露出しないので、酸化されていない活性層を有する半導体光素子300を形成することができる。
【0049】
図6は、他の実施形態に係る半導体レーザ600の構成例を示す。半導体レーザ600は、導波路610、レーザアレイ620、MMIカプラ630及び光増幅器640が集積化された半導体光素子である。半導体レーザ600は、複数(n本)の導波路610及び複数(n本)のレーザアレイ620(ただし、nは整数)を有する。
【0050】
複数のレーザアレイ620のそれぞれは、異なる発光波長を有する。半導体レーザ600は、異なる発光波長を有する複数のレーザアレイ620が出力する光のうちの1つを選択することにより、単一のレーザアレイが出力できる光よりも広い範囲の波長域において変化する光を出力することができる。
【0051】
レーザアレイ620が出力したレーザ光は、導波路610を経由してMMIカプラ630に入力される。光増幅器640は、MMIカプラ630から入力されたレーザ光を増幅することにより、MMIカプラ630における損失を補償して、単一の出射導波路からレーザ光を出射する。導波路610は、ローメサリッジ導波路であり、レーザアレイ620とMMIカプラ630との間において曲線状の領域を有する。
【0052】
図7は、半導体レーザ600の製造工程におけるA−A断面の一例を示す。図の左から、レーザアレイ620が形成される領域A、導波路610が形成される領域B、MMIカプラ630が形成される領域C、光増幅器640が形成される領域Dに分かれている。半導体レーザ600の製造工程においては、まず、例えばMOCVD法によって、ベース基板710上に、バッファ層712、下部SCH層714、活性層716、上部SCH層718、スペーサ層720、エッチングストップ層722及びクラッド層724をこの順に積層する。
【0053】
ベース基板710は、例えばn−InP基板である。バッファ層712は、例えばn−InPからなる。下部SCH層714は、例えばAlGaInAsからなる。活性層716は、AlGaInAsからなる多重量子井戸である。上部SCH層718は、例えばAlGaInAsからなる。スペーサ層720は、例えばp−InPからなる。エッチングストップ層722は、例えばp−GaInAsPである。クラッド層724は、GaInAsPグレーディング層を含むp−InPである。
【0054】
次に、クラッド層724の全面に絶縁膜を堆積する。絶縁膜は、例えばSiNxである。続いて、レーザアレイ620−1からレーザアレイ620−nのそれぞれを形成する位置に、レーザアレイ620−1からレーザアレイ620−nが互いに周期の異なる回折格子のパターンを有するように、絶縁膜をパターニングする。パターニングした絶縁膜をマスクとして、グレーティング層730に回折格子を形成し、その他の領域のグレーティング層730を全て取り除く。
【0055】
続いて、マスクとして用いた絶縁膜を除去した後に、p−InP層を堆積する。p−InP層の全面に絶縁膜を堆積した後に、フォトリソグラフィーによってレーザアレイ620−1からレーザアレイ620−n及び光増幅器640のパターニングを行う。次に、パターニングされた絶縁膜をエッチングマスクとしてエッチングして、クラッド層724から活性層716に至るまでの層を除去する。
【0056】
続いて、絶縁膜のマスクをMOCVD法による選択成長のマスクとして用いて、コア層740、スペーサ層742、エッチングストップ層744及びクラッド層746をバットジョイント成長させる。コア層740を300nmの厚みに成長させる。
【0057】
次に、マスクとして用いた絶縁膜を除去した後に、全面にクラッド層750及びコンタクト層760を形成する。続いて、例えばPCVD法によってコンタクト層760上に絶縁膜を成膜し、フォトリソグラフィー及び反応性イオンエッチングにより、導波路パターンを形成する。当該導波路パターンの方向は、光増幅器640のストライプの側面の面方位が<011>になる方向にする。
【0058】
続いて、絶縁膜をマスクとして、反応性イオンエッチングによってコンタクト層760から744を貫通し、スペーサ層742に到達するまでの深さの層を除去する。エッチングが停止する位置は、エッチングストップ層744よりも下であり、かつ、コア層740及びスペーサ層720よりも上であればよい。コア層740の厚みが300nmなので、エッチングの作製精度は300nmであればよく、導波路の作製に要求される精度よりも緩和されている。
【0059】
次に、塩酸(HCl)と燐酸(HPO)を1:3の比率で混合した溶液をエッチャントとして、ウェットエッチングする。当該エッチャントはInPとGaInAsPの間に選択性があり、GaInAsPをエッチングしない。したがって、スペーサ層720よりも下側の層においてはエッチングが進まない。また、クラッド層746とスペーサ層742との間にエッチングストップ層744があるので、クラッド層750及びスペーサ層742の側面は、コンタクト層760及びエッチングストップ層744の端部を起点として、ストライプの方向に応じた傾斜角度で形成される。
【0060】
図8は、上記の工程により製造された半導体レーザ600における光増幅器640の短手方向における断面を示す。光増幅器640は、ストライプの方向が<011>なので、ウェットエッチングによってスペーサ層742及びクラッド層750は除去されない。したがって、スペーサ層742及びクラッド層750の側面は、エッチングストップ層722の表面に対してほぼ垂直である。
【0061】
図9は、上記の工程により製造された半導体レーザ600における導波路610の短手方向における断面を示す。導波路610は、ストライプの方向が<011>と異なるので、ウェットエッチングによってスペーサ層742、クラッド層746及びクラッド層750の一部の領域が除去される。その結果、スペーサ層742、クラッド層746及びクラッド層750の側面は、積層方向に対して傾斜している。しかし、導波路610はエッチングストップ層744を有するので、リッジ幅のばらつきが小さい。
【0062】
図8及び図9に示した導波路610及び光増幅器640を形成した後に、全面に絶縁膜を形成する。絶縁膜上に平坦化ポリマーをスピンコートし、フォトリソグラィーによってパターニングして、レーザアレイ620−1〜レーザアレイ620−n、導波路610−1〜導波路610−n、MMIカプラ630及び光増幅器640に相当する部分の半導体層を残す。
【0063】
平坦化ポリマーを硬化させた後に、電極を形成する部分のみ絶縁膜を除去する。続いて、絶縁膜を除去した領域に、電極を形成する。電極は、例えばTi、Pt及びAuである。ベース基板710を研磨した後に、裏面の全面にAuGeNi電極を形成する。次に、ベース基板710を、複数の半導体レーザ600が並んだバー状に劈開する。レーザアレイ620及び光増幅器640の端面に低反射コーティングを施した後に、それぞれの半導体レーザ600を分離することにより、半導体レーザ600が完成する。
【0064】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0065】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0066】
100 半導体光素子、110 ベース基板、112 バッファ層、120 コア層、130 スペーサ層、140 ベースエッチングストップ層、150 第1クラッド層、152 第2クラッド層、154 第3クラッド層、160 第1エッチングストップ層、162 第2エッチングストップ層、170 コンタクト層、180 絶縁層、200 光変調器、210 クラッド層、220 第1クラッド層、222 第2クラッド層、224 第3クラッド層、230 第1エッチングストップ層、232 第2エッチングストップ層、240 コンタクト層、300 半導体光素子、302 入射口、304 導波路、305 MMIカプラ、306 曲り導波路、308 導波路、310 位相変調アーム、312 制御部、314 MMIカプラ、316 導波路、318 出射口、320 サブ導波路、330 サブ導波路、340 サブ導波路、600 半導体レーザ、610 導波路、620 レーザアレイ、630 MMIカプラ、640 光増幅器、710 ベース基板、712 バッファ層、714 下部SCH層、716 活性層、718 上部SCH層、720 スペーサ層、722 エッチングストップ層、724 クラッド層、730 グレーティング層、740 コア層、742 スペーサ層、744 エッチングストップ層、746 クラッド層、750 クラッド層、760 コンタクト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に設けられたコア層と、
前記コア層の上方に突出するリッジ型の導波路を備え、
前記導波路は、前記コア層の上方に設けられたメサ状の第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に設けられた第1エッチングストップ層と、
前記第1エッチングストップ層上に設けられ、前記第1クラッド層と同一の組成を有する第2クラッド層と
を有し、
前記第1エッチングストップ層は、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層を化学エッチングするエッチャントでエッチングされない半導体光素子。
【請求項2】
前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の少なくとも1つは、面方位がそれぞれ異なる複数の領域を側面に有する請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の少なくとも1つは、面方位が連続的に変化する複数の領域を側面に有する請求項1又は2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記第1クラッド層は、前記第2クラッド層よりも小さな厚みを有する請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記第1クラッド層が前記第1エッチングストップ層に接する面の面積は、前記第1クラッド層が前記第1エッチングストップ層に接する面の反対面の面積よりも大きい請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項6】
前記コア層上に設けられたスペーサ層と、
前記スペーサ層上に設けられたベースエッチングストップ層と
をさらに備える請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項7】
前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層がInPであり、前記第1エッチングストップ層がGaInAsPである請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項8】
前記導波路は、前記第2クラッド層上に電極コンタクト層をさらに備える請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項9】
前記導波路は、前記第2クラッド層上に設けられた第2エッチングストップ層と、
前記第2エッチングストップ層上に設けられた第3クラッド層と
をさらに有する請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項10】
前記第1エッチングストップ層及び前記第2エッチングストップ層はGaInAsPであり、前記第1エッチングストップ層のGaAsの含有率は、前記第2エッチングストップ層のGaAsの含有率よりも小さい請求項9に記載の半導体光素子。
【請求項11】
前記導波路は、前記半導体基板の主面と平行な面における方向が異なる複数のサブ導波路を有し、前記複数のサブ導波路は、それぞれのサブ導波路の方向に応じた数のエッチングストップ層を有する請求項1から10のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項12】
半導体基板上にコア層を形成する段階と、
前記コア層の上方に突出するリッジ型の導波路を形成する段階と
を備え、
前記導波路を形成する段階は、
前記コア層の上方にメサ状の第1クラッド層を形成する段階と、
前記第1クラッド層上に第1エッチングストップ層を形成する段階と、
前記第1エッチングストップ層上に、前記第1クラッド層と同一の組成を有する第2クラッド層を形成する段階と、
前記第1エッチングストップ層が化学エッチングされないエッチャントにより、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層をエッチングする段階と
を有する半導体光素子の製造方法。
【請求項13】
前記導波路を形成する段階は、
前記第1クラッド層の少なくとも一部の領域がエッチングされるまでの間、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層を物理作用を含むエッチングによりエッチングする段階と、
前記物理作用を含むエッチングによりエッチングする段階の後に、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層を化学エッチングによりエッチングする段階と
をさらに有する請求項12に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項14】
前記導波路を形成する段階は、前記半導体基板の主面と平行な面における方向が異なる複数のサブ導波路を形成する段階を有し、
前記複数のサブ導波路を形成する段階においては、
前記複数のサブ導波路のうち第1サブ導波路を形成した後に、前記複数のサブ導波路のうちの前記第1サブ導波路と異なる第2サブ導波路を形成する請求項12又は13に記載の半導体光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−25208(P2013−25208A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161604(P2011−161604)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】