説明

車両用ステアリング装置

【課題】車両用ステア・バイ・ワイヤ式ステアリング装置において、ステアリングホイールの操舵角を容易に且つ確実に制限すること。
【解決手段】ステアリングホイール21に対して、転舵機構30を機械的に分離するとともに電気的には接続した車両用ステアリング装置10であり、ステアリングホイールに連結された第1回転軸41と、転舵機構に連結された第2回転軸42と、これら第1・第2回転軸同士を一定の相対的な回転角の範囲で互いに空転可能に連結する連結機構43とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステア・バイ・ワイヤ式の車両用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両用ステアリング装置は、ステアリングホイールに転舵機構を連結することで、ステアリングホイールの操舵力により転舵機構を介して車輪を転舵させる構成である。これに対して、近年、ステアリングホイールから転舵機構を機械的に分離し、操舵量に応じて転舵用アクチュエータが転舵用動力を発生し、この転舵用動力を転舵機構へ伝えることで車輪を転舵させる方式の、いわゆる、ステア・バイ・ワイヤ式(steer-by-wire、略称「SBW」)の開発が進められている。(例えば、特許文献1−2参照。)。
【0003】
特許文献1−2で知られている車両用ステアリング装置は、ステアリングホイールに対して転舵機構を、電気的な接続経路と機械的な経路の2経路によって接続するというものである。機械的な経路は、電気的な接続経路のバックアップシステムとして用いられる。通常は、ステアリングホイールと転舵機構との間は、電気的な経路だけによって接続されている。何らかの要因によって、電気的な接続経路が解除されたときには、ステアリングホイールと転舵機構との間の経路が、自動的に機械的な経路に切り替わる。
【0004】
通常状態においては、ステアリングホイールと転舵機構との間が、電気的な経路だけによって接続されているので、運転者による操舵情報(操舵角や操舵速度など)に車速などの外部情報を加味した、複合的な情報に基づいて最適条件で車輪を転舵することが可能である。従って、車両の運動性能は高い。
【0005】
ところで、上述のように、通常状態においては、ステアリングホイールと転舵機構との間が、機械的に分離している。このままでは、ステアリングホイールの操舵角に制限がないので、何らかの制限をする必要がある。
【0006】
例えば、ステアリングホイールには、エアバッグ装置が装着されている。ステアリングホイールと共に回転可能なエアバッグ装置と、このエアバッグ装置に制御信号を発するために車体に固定された制御部との間は、ケーブルによって接続されている。このケーブルは、ステアリングホイールに装着されたケーブルリールに巻かれている。ケーブルリールが回転可能な回数には、ケーブルの巻き数による制限がある。ステアリングホイールの操舵角(回転回数)が無制限であると、ケーブルリールやケーブルに過大な負担がかかる。
【0007】
ステアリングホイールの操舵角は、一般的には360°を超えるものであるから、単なるストッパによって、操舵角に制限を設けることはできない。このため、操舵角に制限を設ける機構は、極めて複雑な構成になりがちである。そこで、比較的簡単にステアリングホイールの操舵角に制限を設ける手法として、例えば上記電気的な経路に有している操舵反力モータを、利用することが考えられる。反力モータは、ステアリングホイールを操舵するときの操舵力に対する操舵反力、つまり、ステアリングホイールに対して回転方向に付加する操作抵抗を発生するものである。
【0008】
具体的には、ステアリングホイールの操舵角が、予め設定されている一定の回転角に達した場合に、反力モータが極めて大きい操舵反力を発生する手法である。しかし、これでは大出力の反力モータを採用する必要がある。反力モータの大型化や大重量化がさけられず、車両用ステアリング装置の大型化やコストアップの要因となるので、得策ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−189077号公報
【特許文献2】特開2008−195187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、車両用ステア・バイ・ワイヤ式ステアリング装置において、ステアリングホイールの操舵角を容易に且つ確実に制限することができる技術を、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明では、ステアリングホイールに対して、転舵機構を機械的に分離するとともに電気的には接続しており、この電気的に接続する構成は、前記ステアリングホイールの操舵に基づく操舵情報に応じて転舵用アクチュエータが転舵用動力を発生し、この転舵用動力を前記転舵機構に伝え、この転舵機構によって車輪を転舵させるものである車両用ステアリング装置において、
前記ステアリングホイールに連結された第1回転軸と、前記転舵機構に連結された第2回転軸と、これら第1・第2回転軸同士を一定の相対的な回転角の範囲で互いに空転可能に連結する連結機構とを有していることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明では、前記操舵情報は、前記ステアリングホイールの操舵角、操舵角速度、操舵角加速度、操舵トルク及びこの操舵トルクの微分値の、少なくとも1つであることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明では、前記操舵情報に応じた操舵反力を発生する反力モータと、前記操舵反力を前記ステアリングホイールに伝達する反力伝達機構とを、更に有していることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明では、クラッチを、更に有しており、このクラッチは、通常はオフ状態にあって、オン状態に反転したときには前記連結機構の連結状態にかかわらず、前記第1・第2回転軸同士を強制的に連結状態に切り替える構成であることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明では、前記クラッチは、前記電気的に接続する構成が解除されたときに、前記オフ状態から前記オン状態に反転する構成であることを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る発明では、前記クラッチは、円錐状のドグクラッチ又は円錐状の摩擦クラッチから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明では、ステアリングホイールに連結された第1回転軸と、転舵機構に連結された第2回転軸とを、連結機構によって一定の相対的な回転角の範囲で互いに空転可能(空回り可能)に連結している。
【0018】
ここで、ステアリングホイールと転舵機構との間が、電気的な経路だけによって接続されている場合について考える。ステアリングホイールを操舵すると、操舵角に応じて第1回転軸が左右に回転する。一方、ステアリングホイールの操舵に基づく操舵情報に応じて、転舵用アクチュエータが転舵用動力を発生し、この転舵用動力を転舵機構に伝え、この転舵機構によって車輪を転舵させる。
【0019】
一般に、転舵機構によって車輪を転舵させることが可能な最大転舵角は、予め設定されている。例えば、車幅方向にスライド可能な転舵軸の両端から転舵力を取り出すようにしたエンドテイクオフ型ステアリング装置を採用した場合には、転舵軸のストロークがストッパによって規制されることにより、最大転舵角が規制される。転舵機構の作動に応じて第2回転軸が左右に回転するので、この第2回転軸の最大回転角は、転舵機構によって車輪を最大転舵角だけ転舵する範囲に規制される。
【0020】
第1回転軸は、第2回転軸に対して一定の相対的な回転角の範囲でのみ、第2回転軸の回転に影響を及ぼすことなく、自由に空転可能である。第2回転軸に対する第1回転軸の相対的な回転角は、第2回転軸の最大回転角の範囲内で、適宜設定すればよい。第1回転軸の最大回転角は、第2回転軸の最大回転角に一定の相対的な回転角を加えた範囲内に収まる。つまり、第1回転軸及びステアリングホイールの最大回転角(最大操舵角)が規制される。
【0021】
同様に、ステアリングホイールと転舵機構との間が、機械的な経路だけによって接続されている場合も、第1回転軸及びステアリングホイールの最大回転角が規制される。
【0022】
このように、電気的な接続経路と機械的な経路のどちらの経路においても、第1回転軸及びステアリングホイールの最大回転角が規制される。このため、ステアリングホイールに装着されたケーブルリールや、ケーブルリールに巻かれているケーブルに、過大な負担がかかることはない。車両用ステア・バイ・ワイヤ式ステアリング装置において、ステアリングホイールの操舵角を容易に且つ確実に制限することができる。
【0023】
請求項2に係る発明では、操舵情報として、ステアリングホイールの操舵角、操舵角速度、操舵角加速度、操舵トルク及びこの操舵トルクの微分値(操舵トルクの変化度合い)の、少なくとも1つが採用される。このため、車両の開発・設計段階において、各車種に応じた最適な操舵情報を適宜選定することにより、各車種に応じた最適な車両用ステア・バイ・ワイヤ式ステアリング装置を提供することができる。
【0024】
請求項3に係る発明では、操舵情報に応じた操舵反力を発生する反力モータを利用して多様な操舵制御を行うことが可能である。例えば、第1回転軸の回転角が、第2回転軸に対して一定の相対的な回転角の範囲から外れそうになった場合に、反力モータが発生する操舵反力を急増させる。運転者は、操舵反力が急増したことを認識したときに、ステアリングホイールの操舵角を抑制(これ以上の切り増しを抑制)すればよい。
【0025】
請求項4に係る発明では、クラッチが通常時のオフ状態からオン状態に反転することによって、第1・第2回転軸同士を強制的に連結状態にする。このため、連結機構の連結状態にかかわらず、第1・第2回転軸同士は連結される。
【0026】
請求項5に係る発明では、クラッチは、電気的に接続する構成が解除されたときに、オフ状態からオン状態に反転する。この結果、ステアリングホイールと転舵機構との間は、機械的な経路によって接続される。従って、何らかの要因によって、電気的な接続経路が解除されたときには、ステアリングホイールと転舵機構との間の経路を、自動的にクラッチによって、機械的な経路に確実に且つ迅速に切り替えることができる。
【0027】
請求項6に係る発明では、円錐状のドグクラッチ又は円錐状の摩擦クラッチという比較的簡単な構成によって、クラッチを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る実施例1の車両用ステアリング装置の模式図である。
【図2】図1に示されたステアリングホイールと機械的接続機構の要部構成図である。
【図3】本発明に係る実施例2の機械的接続機構の構成図である。
【図4】本発明に係る実施例3の機械的接続機構の構成図である。
【図5】本発明に係る実施例4の機械的接続機構の構成図である。
【図6】本発明に係る実施例5の車両用ステアリング装置の模式図である。
【図7】図6に示された反力モータ、反力伝達機構、機械的接続機構及びクラッチ組立状態を示す構成図である。
【図8】図7に示されたクラッチの斜視図である。
【図9】図8に示されたクラッチの平面図である。
【図10】図7に示されたクラッチの構成図兼作用図である。
【図11】本発明に係る実施例6の車両用ステアリング装置の構成図である。
【図12】図11に示された機械的接続機構及びクラッチの構成図である。
【図13】本発明に係る実施例7の機械的接続機構の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0030】
実施例1に係る車両用ステアリング装置について、図1及び図2に基づき説明する。
図1は実施例1の車両用ステアリング装置10を模式的に示している。車両用ステアリング装置10は、車幅方向にスライド可能な転舵軸31の両端から転舵力を取り出すようにしたエンドテイクオフ型ステアリング装置である。さらに、この車両用ステアリング装置10は、ステアリングホイール21に対して、転舵機構30を機械的に分離するとともに電気的には接続した方式の、いわゆるステア・バイ・ワイヤ式(steer-by-wire、略称「SBW」)のステアリング装置である。
【0031】
ステアリングホイール21に対して、転舵機構30を電気的に接続する構成は、ステアリングホイール21の操舵に基づく操舵情報に応じて転舵用アクチュエータ35が転舵用動力を発生し、この転舵用動力を転舵機構30に伝え、この転舵機構30によって左右の車輪32,32を転舵させるものである。
【0032】
以下、車両用ステアリング装置10(以下、単に「ステアリング装置10」という。)について詳しく説明する。ステアリング装置10は、操舵機構20と転舵機構30と制御部51とからなる。
【0033】
操舵機構20は、運転者が手動操舵するステアリングホイール21と、このステアリングホイール21に連結された操舵軸22と、ステアリングホイール21の操舵に基づく操舵情報に応じた操舵反力を発生する反力モータ23と、操舵反力をステアリングホイール21に伝達する反力伝達機構24とからなる。
【0034】
反力モータ23は電動モータからなる。反力伝達機構24は、反力モータ23のモータ軸に設けられたピニオン25と、このピニオン25に噛み合わされたギヤ26とからなる。操作反力は、ステアリングホイール21に対して回転方向に付加する操作抵抗である。
【0035】
転舵機構30は、転舵軸31と、この転舵軸31の両端に左右の車輪32,32(例えば前輪)を連結するタイロッド33,33及びナックル34,34と、転舵軸31に転舵用動力を付加する転舵用アクチュエータ35とからなる。
【0036】
転舵用アクチュエータ35は、転舵用動力を発生する転舵動力モータ36と、転舵用動力を転舵軸31に伝達する転舵動力伝達機構37とからなる。転舵動力モータ36が発生した転舵用動力は、転舵動力伝達機構37によって転舵軸31に伝達される。この結果、転舵軸31は車幅方向にスライドする。転舵動力モータ36は電動モータからなる。転舵動力モータ36のモータ軸36aは、転舵軸31を囲う中空軸である。転舵動力伝達機構37は、ボールねじからなる。このボールねじ37は、転舵軸31に形成されたねじ部37aと、ねじ部37aに組付けられたナット37bと、多数のボール37cとからなる。
なお、転舵動力伝達機構37は、ボールねじの構成に限定されるものではなく、例えばウォームギヤ機構やラックアンドピニオン機構であってもよい。
【0037】
上述のように、転舵機構30は、ステアリングホイール21に電気的に接続されている。ステアリング装置10は、その他に、ステアリングホイール21に対して、転舵機構30を機械的に接続するための、機械的接続機構40を有している。機械的接続機構40は、第1回転軸41と第2回転軸42と連結機構43とからなる。
【0038】
第1回転軸41は、自在軸継ぎ手44,44及び操舵軸22を介してステアリングホイール21に連結されている。ステアリングホイール21の操舵力は第1回転軸41に伝達される。
【0039】
第2回転軸42は、ラックアンドピニオン機構45を介して転舵軸31に連結されている。ラックアンドピニオン機構45は、転舵軸31に形成されたラック46と、第2回転軸42に形成されたピニオン47とからなる。転舵軸31がスライド作動するときの転舵力は、ラックアンドピニオン機構45から第2回転軸42に伝達される。この結果、転舵軸31の左右スライド作動に応じて、第2回転軸42が左右に回転する。
【0040】
連結機構43は、第1・第2回転軸41,42同士を、一定の相対的な回転角の範囲で互いに空転可能(空回り可能)に連結するものである。連結機構43の詳細については後述する。
【0041】
上記反力伝達機構24のギヤ26は、第1回転軸41又は操舵軸22に設けられる。この結果、反力モータ23が発生した操舵反力は、第1回転軸41又は操舵軸22を介してステアリングホイール21に伝達される。
【0042】
上記制御部51は操舵角センサ52と転舵トルクセンサ53と第2回転軸角度センサ54から、それぞれ検出信号を受けるとともに、車両の走行速度を検出する車速センサ55、ヨー角速度(ヨー運動の角速度)を検出するヨーレートセンサ56、車両の加速度を検出する加速度センサ57、その他の各種センサ58からそれぞれ検出信号を受けて、反力モータ23及び転舵動力モータ36に制御信号を発するものである。
【0043】
操舵角センサ52は、ステアリングホイール21の操舵角θsを検出するものであり、例えば、第1回転軸41又は操舵軸22の回転角を検出することによって、操舵角θsを得ることが可能である。転舵トルクセンサ53は、ステアリングホイール21の操舵トルクTsを検出するものであり、例えば、第1回転軸41又は操舵軸22のトルクを検出することによって、操舵トルクTsを得ることが可能である。第2回転軸角度センサ54は、第2回転軸42の回転角を検出するものである。
【0044】
なお、操舵角センサ52が転舵トルクセンサ53を兼ねてもよい。また、操舵角センサ52や転舵トルクセンサ53については、反力モータ23に内蔵されているモータ軸回転角センサ(図示せず)によって兼ねることが可能である。このモータ軸回転角センサは、モータ軸の回転角を検出することによって、ロータの位相を検出するものである。
【0045】
制御部51は、操舵角センサ52及び転舵トルクセンサ53の検出信号によって、ステアリングホイール21の操舵に基づく操舵情報を得ることができる。この操舵情報は、ステアリングホイール21の操舵角θs、操舵角速度Vs、操舵角加速度αs、操舵トルクTs及びこの操舵トルクTsの微分値ds(操舵トルクTsの変化度合いds)の、少なくとも1つである。操舵角速度Vs及び操舵角加速度αsについては、制御部51がステアリングホイール21の操舵角θsに基づいて演算することにより求められる。操舵トルクTsの微分値dsについては、制御部51がステアリングホイール21の操舵トルクTsに基づいて演算することにより求められる。
【0046】
このように、操舵情報として、ステアリングホイール21の操舵角θs、操舵角速度Vs、操舵角加速度αs、操舵トルクTs及びこの操舵トルクの微分値dsの、少なくとも1つが採用される。このため、車両の開発・設計段階において、各車種に応じた最適な操舵情報を適宜選定することにより、各車種に応じた最適な車両用ステア・バイ・ワイヤ式ステアリング装置を提供することができる。
【0047】
さらに、制御部51は、反力モータ23を制御することによって、ステアリングホイール21の操舵に応じた操舵反力を自動的に設定し、操舵反力をステアリングホイール21に付加して、次の4つの制御をすることができる。
【0048】
第1に、反力モータ23によってギヤ26を、ステアリングホイール21の操舵方向とは逆方向へ回転させた場合には、ステアリングホイール21の操舵力を反力モータ23の操舵反力によって打ち消す作用が働く。このため、ステアリングホイール21を操舵するときに、操舵反力分だけ大きい操舵力が必要となる。
【0049】
第2に、反力モータ23によってギヤ26を、ステアリングホイール21の操舵方向と同方向へ回転させた場合には、ステアリングホイール21の操舵力に反力モータ23の操舵反力を加える作用が働く。このため、ステアリングホイール21を操舵するときに、操舵反力分だけ小さい操舵力ですむ。
【0050】
第3に、ステアリングホイール21を任意の角度で停止状態に保持させる場合には、それまでのステアリングホイール21の回転方向とは逆方向に、反力モータ23の操舵反力を調整しながらギヤ26を回転させることによって、保持力を発生させる。
【0051】
第4に、その後にステアリングホイール21を戻す場合には、ステアリングホイール21の中立位置までステアリングホイール21を自動的に戻す、いわゆるセルフアライニングトルクに相当する戻し力(操舵反力)が、反力モータ23からギヤ26に伝達する。
【0052】
さらに、制御部51は、操舵情報に応じた操舵反力を発生する反力モータ23を利用して、多様な操舵制御を行うことが可能である。例えば、第1回転軸41の回転角が、第2回転軸42に対して一定の相対的な回転角の範囲から外れそうになった場合に、反力モータ23が発生する操舵反力を急増させる。運転者は、操舵反力が急増したことを認識したときに、ステアリングホイール21の操舵角θsを抑制(これ以上の切り増しを抑制)すればよい。
【0053】
但し、運転者がステアリングホイール21を据え切り操舵、つまり車両の停止中におけるステアリングホイール21の操舵をする場合のように、転舵用アクチュエータ35が大きい転舵用動力を発生する場合には、第1回転軸41の回転角が、第2回転軸42に対して一定の相対的な回転角の範囲から外れそうになり得る。この場合には、第1回転軸41の回転角が、第2回転軸42に対して一定の相対的な回転角の範囲に達したことを検出し、ステアリングホイール21と転舵機構30との間を、機械的な経路によって接続させる。この結果、転舵用アクチュエータ35による転舵用動力に運転者の操舵力を付加した、複合的な力を転舵機構30に伝達して転舵作動をさせることができる。このようにすることで、転舵用アクチュエータ35が発生する転舵用動力を低減させることができる。この結果、転舵用アクチュエータ35を小型化することができる。
【0054】
さらに制御部51は、転舵動力モータ36を制御することによって、ステアリングホイール21の操舵角に対する車輪32,32の転舵角の角度比の特性、すなわち、操舵特性を自動的に設定することができる。言い換えると、上述のようにステアリングホイール21から転舵機構30を機械的に分離したので、ステアリングホイール21の操舵角と転舵用アクチュエータ35の動作量との対応関係を、機械的な制約を受けることなく設定することができる。この結果、操舵特性を車速、車両の旋回程度や加減速の有無等、車両の走行状態に応じて柔軟に設定することができる。従って、ステアリング装置10の設計の自由度を高めることができる。
【0055】
次に、機械的接続機構40の詳細を説明する。図2(a)は、ステアリングホイール21と機械的接続機構40の関係を示している。図2(b)は、ステアリングホイール21及び機械的接続機構40に対する車輪32,32の関係を示している。
【0056】
図1及び図2(a)に示すように、連結機構43は、第1回転軸41の一端に有している第1フランジ61と、第2回転軸42の一端に有している第2フランジ62と、第1・第2フランジ61,62のいずれか一方に有している連結バー63と、第1・第2フランジ61,62のいずれか他方に有している長孔64とからなる。第1・第2回転軸41,42は同一の軸線CL上に位置している。第1フランジ61と第2フランジ62は互いに対面し合うように位置している。なお、第1・第2フランジ61,62間に隙間を有するか否かについては任意であり、適宜設定すればよい。
【0057】
以下、第1フランジ61に連結バー63を有するとともに、第2フランジ62に長孔64を有した例で説明する。長孔64は、軸線CLを中心とした円弧状の長孔であり、軸線CLに沿って貫通している。この長孔64の左端をLeとし、右端をReとする。左端Leから右端Reまでの中央の点Neを「回転方向の基準点Ne」とする。基準点Neから左端Leまでの角度と、基準点Neから右端Reまでの角度は、共にθr1である。左端Leから右端Reまでの角度θr2は、θr1の2倍である。
【0058】
一方、連結バー63は、第1フランジ61から長孔64内へ延びている。このため、第1・第2回転軸41,42同士を、相対的に回転させたときに、連結バー63は長孔64の範囲内、つまり、左端Leから右端Reまでにわたって、空転可能(空回り可能)である。このように、連結機構43は、第1・第2回転軸41,42同士を、一定の相対的な回転角θr2の範囲で互いに空転可能に連結するものである。
【0059】
ここで、回転方向の基準点Neは、ステアリングホイール21の中立位置に一致する。ステアリングホイール21が中立位置に位置するときに、連結バー63は回転方向の基準点Neに位置する。左端Leから右端Reまでの角度θr2、つまり相対的な回転角θr2は、好ましくは360deg未満の値に設定される。より好ましくは、基準点Neから左右の端Le,Reまでの角度θr1は、50〜70degに設定される。
【0060】
実施例1の説明をまとめると、次の通りである。
実施例1では、ステアリングホイール21に連結された第1回転軸41と、転舵機構30に連結された第2回転軸42とを、連結機構43によって一定の相対的な回転角θr2の範囲で互いに空転可能に連結している。
【0061】
ここで、ステアリングホイール21と転舵機構30との間が、電気的な経路だけによって接続されている場合について考える。ステアリングホイール21を操舵すると、操舵角θsに応じて第1回転軸41が左右に回転する。一方、ステアリングホイール21の操舵に基づく操舵情報に応じて、転舵用アクチュエータ35が転舵用動力を発生し、この転舵用動力を転舵機構30に伝え、この転舵機構30によって車輪32,32を転舵させる。
【0062】
一般に、転舵機構30によって車輪32,32を転舵させることが可能な最大転舵角β(図2(b)参照)は、予め設定されている。例えば、実施例1のように、ステアリング装置10にエンドテイクオフ型ステアリング装置を採用した場合には、転舵軸31のストロークがストッパによって規制されることにより、最大転舵角βが規制される。転舵機構30の作動に応じて第2回転軸42が左右に回転するので、この第2回転軸42の最大回転角は、転舵機構30によって車輪32,32を最大転舵角βだけ転舵する範囲に規制される。
【0063】
第1回転軸41は、第2回転軸42に対して一定の相対的な回転角θr2の範囲でのみ、第2回転軸42の回転に影響を及ぼすことなく、自由に空転可能である。第2回転軸42に対する第1回転軸41の相対的な回転角は、第2回転軸42の最大回転角θr2の範囲内で、適宜設定すればよい。第1回転軸41の最大回転角は、第2回転軸42の最大回転角に一定の相対的な回転角θr2を加えた範囲内に収まる。つまり、第1回転軸41及びステアリングホイール21の最大回転角(最大操舵角)が規制される。
【0064】
同様に、ステアリングホイールと転舵機構との間が、機械的接続機構40(機械的な経路)だけによって接続されている場合も、第1回転軸41及びステアリングホイール21の最大回転角が規制される。
【0065】
このように、電気的な接続経路と機械的な経路のどちらの経路においても、第1回転軸41及びステアリングホイール21の最大回転角が規制される。車両用ステア・バイ・ワイヤ式ステアリング装置10において、ステアリングホイール21の操舵角θsを容易に且つ確実に制限することができる。
【0066】
ところで、図2(a)に示すように、ステアリングホイール21には、例えば、エアバッグ装置71や図示せぬ電気部品が装着されている。ステアリングホイール21と共に回転可能なエアバッグ装置71と、このエアバッグ装置71に制御信号を発するために車体に固定されたエアバッグ制御部(図示せず)との間は、ケーブル72によって接続されている。このケーブル72は、ステアリングホイール21に装着されたケーブルリール73に巻かれている。ケーブルリール73が回転可能な回数には、ケーブル72の巻き数による制限がある。ステアリングホイール21の操舵角θs(回転回数)が無制限であると、ケーブルリール73やケーブル72に過大な負担がかかる。
【0067】
これに対して、実施例1では、上述のように、ステアリングホイール21の操舵角θsを容易に且つ確実に制限することができる。このため、ステアリングホイール21に装着されたケーブルリール73や、ケーブルリール73に巻かれているケーブル72に、過大な負担がかかることはない。
【実施例2】
【0068】
実施例2の車両用ステアリング装置について説明する。図3は実施例2の機械的接続機構40Aの構成を示している。実施例2の車両用ステアリング装置10Aは、図2(a)に示す機械的接続機構40を、図3に示す機械的接続機構40Aに変更したことを特徴とし、他の構成については上記図1〜図2に示す構成と同じなので、説明を省略する。
【0069】
具体的には、実施例2の機械的接続機構40Aは、第1回転軸41と第2回転軸42と連結機構43Aとからなる。この連結機構43Aは、第1・第2回転軸41,42同士を、一定の相対的な回転角θr2の範囲で互いに空転可能に連結するものである。この連結機構43Aは、第1回転軸41の一端に有している嵌合軸部81と、第2回転軸42の一端に有している有底状の嵌合孔82と、第2回転軸42の一端に有している長孔83と、嵌合軸部81に有している連結バー84とからなる。嵌合軸部81は嵌合孔82に相対回転が可能に嵌合している。
【0070】
長孔83は、第2回転軸42の周方向に細長く、嵌合孔82に貫通している。この長孔83において、回転方向の基準点Neから左端Leまでの角度と、基準点Neから右端Reまでの角度は、共にθr1である。左端Leから右端Reまでの角度θr2は、θr1の2倍である。一方、連結バー84は、嵌合軸部81から長孔83内へ延びている。第1・第2回転軸41,42同士を、相対的に回転させたときに、連結バー84は長孔83の範囲内、つまり、左端Leから右端Reまでにわたって、空転可能である。
【0071】
実施例2のステアリング装置10Aの作用、効果は上記実施例1のステアリング装置10と実質的に同じであり、説明を省略する。
【実施例3】
【0072】
実施例3の車両用ステアリング装置について説明する。図4は実施例3の機械的接続機構40Bの構成を示している。実施例3の車両用ステアリング装置10Bは、図2(a)に示す機械的接続機構40を、図4に示す機械的接続機構40Bに変更したことを特徴とし、他の構成については上記図1〜図2に示す構成と同じなので、説明を省略する。
【0073】
具体的には、実施例3の機械的接続機構40Bは、第1回転軸41と第2回転軸42と連結機構43Bとからなる。この連結機構43Bは、第1・第2回転軸41,42同士を、一定の相対的な回転角θr2の範囲で互いに空転可能に連結するものである。この連結機構43Bは、第1回転軸41の一端に有している嵌合孔91と、第2回転軸42の一端に有している嵌合軸部92と、嵌合孔91の内周面に有している長溝93と、嵌合軸部92に有している連結バー94とからなる。嵌合軸部92は嵌合孔91に相対回転が可能に嵌合している。
【0074】
長溝93は、嵌合孔91の内周面に沿って細長い円弧状の溝であり、嵌合孔91に開放している。この長溝93において、回転方向の基準点Neから左端Leまでの角度と、基準点Neから右端Reまでの角度は、共にθr1である。左端Leから右端Reまでの角度θr2は、θr1の2倍である。一方、連結バー94は、嵌合軸部92から長溝93内へ延びている。第1・第2回転軸41,42同士を、相対的に回転させたときに、連結バー94は長溝93の範囲内、つまり、左端Leから右端Reまでにわたって、空転可能である。
【0075】
実施例3のステアリング装置10Bの作用、効果は上記実施例1のステアリング装置10と実質的に同じであり、説明を省略する。
【実施例4】
【0076】
実施例4の車両用ステアリング装置について説明する。図5は実施例4の機械的接続機構40Cの構成を示している。つまり、図5(a)は機械的接続機構40Cを分解した状態を示す。図5(b)は機械的接続機構40Cの組立途中を示す。図5(c)は機械的接続機構40Cの組立状態を示す。
【0077】
実施例4の車両用ステアリング装置10Cは、図2(a)に示す機械的接続機構40を、図5(a)〜(c)に示す機械的接続機構40Cに変更したことを特徴とし、他の構成については上記図1〜図2に示す構成と同じなので、説明を省略する。
【0078】
具体的には、実施例4の機械的接続機構40Cは、第1回転軸41と第2回転軸42と連結機構43Cとからなる。この連結機構43Cは、第1・第2回転軸41,42同士を、一定の相対的な回転角θr2の範囲で互いに空転可能に連結するものである。
【0079】
この連結機構43Cは、第1回転軸41の一端に有している嵌合軸部101と、第2回転軸42の一端に有している有底状の嵌合孔102とからなる。嵌合軸部101は、厚みthの扁平状に形成されている。嵌合軸部101の径Dtは第1回転軸41の径と同一である。嵌合孔102は扁平状の孔であって、最大径がDhで最小幅がWhに設定されている。嵌合孔102の最大径Dhは、嵌合軸部101の径Dtよりも若干大きい。嵌合孔102の最小幅Whは、嵌合軸部101の厚みthよりも大きい。
【0080】
嵌合軸部101は嵌合孔102に嵌合している。最小幅Whが嵌合軸部101の厚みthよりも大きい分だけ、間に隙間を有する。この隙間の分だけ、嵌合軸部101は嵌合孔102に相対回転が可能である。つまり、嵌合軸部101の扁平面101aが嵌合孔102の扁平面102aに当たるまで、嵌合軸部101は嵌合孔102に相対回転が可能である。
【0081】
嵌合孔102の扁平面102aに対して嵌合軸部101の扁平面101aが平行であるときに、第2回転軸42に対して第1回転軸41が回転方向の基準点Neにある。その後、第2回転軸42に対して第1回転軸41を左へ回したときに、扁平面101a,102a同士が当たった点Leは、左回転限界点である。左回転限界点Leは、図2(a)に示す実施例1の長孔64の左端Leに相当する。一方、第2回転軸42に対して第1回転軸41を右へ回したときに、扁平面101a,102a同士が当たった点Reは、右回転限界点である。右回転限界点Reは、図2(a)に示す実施例1の長孔64の右端Reに相当する。
【0082】
基準点Neから左回転限界点Leまでの角度と、基準点Neから右回転限界点Reまでの角度は、共にθr1である。左回転限界点Leから右回転限界点Reまでの角度θr2は、θr1の2倍である。
【0083】
第1・第2回転軸41,42同士を、相対的に回転させたときに、嵌合軸部101は嵌合孔102の範囲内、つまり、左端Leから右端Reまでにわたって、空転可能である。
【0084】
実施例4のステアリング装置10Cの作用、効果は上記実施例1のステアリング装置10と実質的に同じであり、説明を省略する。
【実施例5】
【0085】
実施例5に係る車両用ステアリング装置について、図6〜図10に基づき説明する。図6は実施例5の車両用ステアリング装置10Dを模式的に示している。図7は図6に示された反力モータ23、反力伝達機構24、機械的接続機構40D及びクラッチ110の組立状態を示している。
【0086】
図6及び図7に示すように、実施例5の車両用ステアリング装置10Dは、機械的接続機構40Dとクラッチ110とを有していることを特徴とし、他の構成については上記図1〜図2に示す構成と同じなので、説明を省略する。なお、反力伝達機構24、転舵軸31、第2回転軸42、ラックアンドピニオン機構45及びクラッチ110は、ハウジング120に収納されている。
【0087】
図6及び図7に示す機械的接続機構40Dは、図2(a)に示す機械的接続機構40を変更したものである。つまり、実施例5の機械的接続機構40Dは、第1回転軸41と第2回転軸42と連結機構43Dとからなる。
【0088】
この連結機構43Dは、上記図4に示す連結機構43Bと実質的に同じ構成であり、嵌合孔91と嵌合軸部92と長溝93と連結バー94の組み合わせからなる。嵌合孔91は、ギヤ26のボス26aに形成されている。ボス26aは、第1回転軸41に取り付けられている。嵌合軸部92は、第2回転軸42の一端に有している。長溝93は、嵌合孔91の内周面に有している。連結バー94は、嵌合軸部92に有している。
【0089】
図7〜図9に示すように、クラッチ110は、円錐状のドグクラッチからなる。詳しく述べると、クラッチ110は、第2回転軸42を中心とする雌テーパ状の雌クラッチ部111と、第2回転軸42を中心とする雄テーパ状の雄クラッチ部112とからなる。雌クラッチ部111は、ギヤ26のボス26aの一端に形成されたテーパ面からなり、クラッチ歯を有する。雄クラッチ部112は、クラッチ用シフター113の一端に形成されたテーパ面からなり、クラッチ歯を有する。各クラッチ歯同士が噛み合ったときにクラッチオンとなる。
【0090】
クラッチ用シフター113は、第2回転軸42に対して相対回転が規制されるとともに、軸方向への相対スライドが可能に取り付けられている。このクラッチ用シフター113は、外周面に全周にわたって形成された円周溝113aを有している。この円周溝113aには、フォーク状のシフトフォーク114の先端部114a,114aが嵌合している。シフトフォーク114は、第2回転軸42に対して略直交する方向へ延びたスイング部材であって、基端部114bがハウジング120にスイング可能に取り付けられている。シフトフォーク114のスイング方向は、第2回転軸42の軸方向である。
【0091】
シフトフォーク114は、圧縮コイルばね115(付勢部材)によって付勢されている。圧縮コイルばね115の付勢方向は、雌クラッチ部111に対して雄クラッチ部112を噛み合わせる方向へ、クラッチ用シフター113をスライドさせる方向である。
【0092】
図10(a)は、クラッチオフ(off)状態におけるシフトフォーク114を示している。図10(b)は、クラッチオン(on)状態におけるシフトフォーク114を示している。シフトフォーク114は、偏心カム116によって圧縮コイルばね115側に押し付けられている。つまり、偏心カム116は、圧縮コイルばね115とは反対側の面114cに臨むように位置している。
【0093】
図7〜図10(a)に示すように、偏心カム116は、円盤状のカム本体116aと、カム本体116aの回転軸116bと、カム本体116aの外周面から外方へ突出した係止凸部116cとからなる。
【0094】
図10(a)に示すように、カム本体116aは側面視において真円に形成されている。カム本体116aの外周面は、シフトフォーク114の平坦な接触面114cに、接点Pcで接触している。接点Pcにおいて、接触面114cに直交する直線を垂直線Xoとし、接触面114cに平行な直線を水平線Yoとする。垂直線Xoに対して水平線Yoは直交している。カム本体116aの中心Pcは、垂直線Xoと水平線Yoとの交点に有している。
【0095】
偏心カム116は、回転軸116bを回転中心として回転する。回転軸116bは、カム本体116aの中心Pcから径外方へ所定のオフセット距離Zcだけ偏心しており、ハウジング120(図7参照)に回転可能に支持されている。カム本体116aの中心Pcと回転軸116bとを通る直線Qcは、接触面114cに対して傾いている。オフセット距離Zcについては、クラッチ110(図7参照)をオン・オフ切り替えするのに必要な、シフトフォーク114のスイング量に基づいて設定される。
【0096】
詳しく述べると、図10(a)に示すクラッチオフ(off)状態において、回転軸116bを軸方向から見る。回転軸116bの中心は、垂直線Xoに対してシフトフォーク114の基端部114b側へ所定の第1オフセット距離Xcだけ偏心し、しかも、水平線Yo対して接触面114cとは反対側へ所定の第2オフセット距離Ycだけ偏心している。一方、係止凸部116cの位置と、この係止凸部116cを係止させるためのストッパ117の位置は、垂直線Xo対して回転軸116bとは反対側に偏心している。
【0097】
クラッチオフ(off)状態においては、制御部51は、電動モータ118に駆動指令を発し続けている。電動モータ118は小電流が供給されて、回転軸116bを図反時計方向(矢印RL)へ回転駆動し続ける。このため、偏心カム116は、係止凸部116cがストッパ117に係止した状態で、停止している。この場合、偏心カム116は圧縮コイルばね115の付勢力fcに抗してシフトフォーク114を押し付けることによって、クラッチ用シフター113を押し下げた状態を維持する。クラッチ110は通常時のオフ状態(断状態)を維持する。
【0098】
ところで、上述のように、オフセット距離Zcについては、シフトフォーク114の必要スイング量に基づいて設定されている。このオフセット距離Zcを確保するのに、図10(a)に示すように、垂直線Xoに対して第1オフセット距離Xcだけ偏心するとともに、水平線Yoに対して第2オフセット距離Ycだけ偏心している。つまり、回転軸116bは、中心Pcを通る垂直線Xo及び水平線Yoに対して偏心している。
【0099】
圧縮コイルばね115の付勢力fcは、接点Pcにおいて、シフトフォーク114の接触面114cからカム本体116aの外周面に作用する。この外周面に作用する付勢力fcの作用方向は、垂直線Xoの線方向である。付勢力fcに基づいて、回転軸116bに作用するトルク(付勢トルク)は第1オフセット距離Xcに比例する。本実施例においては、オフセット距離Zcを確保するのに、垂直線Xo及び水平線Yoに対して回転軸116bを偏心させたので、その分だけ、第1オフセット距離Xcを小さくすることができ、この結果、付勢トルクを小さくすることができる。付勢トルクが小さくなった分、電動モータ118の駆動トルクを低減させることができる。このため、電動モータ118に供給する電流を減少させることができるとともに、電動モータ118を小型化できる。
【0100】
その後、制御部51は、図6に示すステアリングホイール21から転舵機構30までの、電気的な接続経路を解除したときには、電動モータ118に停止指令を発する。電動モータ118が停止すると、圧縮コイルばね115の付勢力fcによって、シフトフォーク114はカム本体116a側にスイングする。カム本体116aは、シフトフォーク114に押され、回転軸116bを回転中心として図時計方向(矢印RR)へ回転し、図10(b)に示す状態となる。つまり、接触面114cが回転軸116bに最も接近した状態となる。このときに、カム本体116aの中心Pcと回転軸116bとを通る直線Qcは、接触面114cに直交する。
【0101】
このように、電動モータ118が停止することで、シフトフォーク114がスイングして、図7に示すクラッチ用シフター113をスライドさせる。この結果、雌クラッチ部111に対して雄クラッチ部112が噛み合わせられることにより、クラッチ110はオン状態(結合状態)になる。クラッチ110が通常時のオフ状態からオン状態に反転することによって、第1・第2回転軸41,42同士を強制的に連結状態にする。このため、連結機構43Dの連結状態にかかわらず、第1・第2回転軸41,42同士は強制的に連結される。
【0102】
その後、制御部51から電動モータ118に回転指令を発した場合には、電動モータ118が回転するので、クラッチ110は再び通常時のオフ状態(断状態)に復帰する。
【0103】
クラッチ110は、円錐状のドグクラッチの他に、円錐状の摩擦クラッチであってもよい。このように、円錐状のドグクラッチ又は円錐状の摩擦クラッチという比較的簡単な構成によって、クラッチ110を構成することができる。
【0104】
ところで、第1・第2回転軸41,42同士の相対的な回転角は、連結機構43Dによって、回転角θr2(図4参照)の範囲に規制されている。例えば、連結バー94に長溝93の左端Le(図4参照)が当たった状態において、連結バー94に対し長溝93が更に左へ相対的な回転をすることは、規制される。つまり、第2回転軸42に対する第1回転軸41の相対的な左回転は規制される。このため、第1回転軸41に左方向の大きい操舵力が発生することによって、相対的な回転角が過大になろうとしても、第1回転軸41からの大きい操舵力は、連結機構43Dを介して第2回転軸42に伝達される。従って、クラッチ110に所定以上の大きい操舵力が作用することはない。つまり、クラッチ110によって伝達可能な最大伝達力(最大伝達トルク)を低減することができる。
【0105】
このことは、長溝93の右端Re(図4参照)が連結バー94に当たった状態において、連結バー94に対し長溝93が更に右へ相対的な回転をする場合も同様である。
このように、クラッチ110の伝達可能な最大伝達力を下げることによって、クラッチ110を小型化することができる。その効果は、円錐状の摩擦クラッチを採用した場合に、特に顕著である。
【0106】
実施例5によれば、クラッチ110は、図6に示す「電気的に接続する構成」が解除されたときに、オフ状態からオン状態に反転する。この結果、ステアリングホイール21と転舵機構30との間は、機械的な経路によって接続される。従って、何らかの要因によって、電気的な接続経路が解除されたときには、ステアリングホイール21と転舵機構30との間の経路を、自動的にクラッチ110によって、機械的な経路(機械的接続機構40D)に確実に且つ迅速に切り替えることができる。
【実施例6】
【0107】
実施例6に係る車両用ステアリング装置について、図11及び図12に基づき説明する。図11及び図12に示すように、実施例6の車両用ステアリング装置10Eは、機械的接続機構40Eとクラッチ140とを有していることを特徴とし、他の構成については上記図6に示す構成と同じなので、説明を省略する。
【0108】
実施例6の機械的接続機構40Eは、第1回転軸41と第2回転軸42と連結機構43Eとからなる。この連結機構43Eは、第1・第2回転軸41,42同士を、一定の相対的な回転角θr2の範囲で互いに空転可能に連結するものである。この連結機構43Eは、第1回転軸41の一端に有している嵌合軸部131と、第2回転軸42の一端に有している有底状の嵌合孔132と、嵌合軸部131に有している連結バー133と、スライダ134と、スライダ134に有しているカム孔135とからなる。嵌合軸部131は嵌合孔132に相対回転が可能に嵌合している。
【0109】
スライダ134は、第1・第2回転軸41,42に対して同心に位置した筒状の部材であって、第1・第2回転軸41,42同士の嵌合部分を貫通している。このスライダ134は、第2回転軸42に対して、相対回転が規制されるとともに、軸方向への相対スライドが可能に取り付けられている(例えばセレーション結合)。また、スライダ134は、第1回転軸41に対しては、相対回転と軸方向への相対スライドの両方共に可能である。スライダ134には、クラッチ用シフター113が一体的に設けられている。
【0110】
クラッチ用シフター113とシフトフォーク114と偏心カム116とストッパ117と電動モータ118(図8参照)については、上記図7〜図10に示す実施例6と実質的に同じ構成なので、説明を省略する。
【0111】
シフトフォーク114は、ねじりコイルばね115E(付勢部材)によって付勢されている。ねじりコイルばね115Eは、上記図7〜図10に示す圧縮コイルばね115の代わりに用いるものである。ねじりコイルばね115Eの付勢方向は、クラッチ140がオンになる方向へ、クラッチ用シフター113をスライドさせる方向である。
【0112】
図12(a)は機械的接続機構40E及びクラッチ140の分解構成を示している。図12(b)は機械的接続機構40E及びクラッチ140の組立構成(クラッチ140のオン状態)を示している。図12(c)はクラッチ140のオフ状態を示している。
【0113】
図12(a)〜(b)に示すように、スライダ134を外周面側から見たときに、カム孔135は略三角形状に形成されるとともに、スライダ134に対して内外貫通している。略三角形状のカム孔135は、第1回転軸41側の面135aを底辺とし、第2回転軸側を頂点とするように上下逆向きに位置し、更に頂点に係止凹部135bを有している。
【0114】
以下、第1回転軸41側の面135aのことを、底辺135a又は底面135aという。底辺135aは、第1回転軸41に対して直交する水平な面である。係止凹部135bの幅(周方向の幅)は、連結バー133が微小の隙間を有して嵌合可能な大きさに設定されている。カム孔135において、底辺135aの両端と係止凹部135bとの間は、左右一対の斜面(斜辺)135c,135cとなる。左右一対の斜面135c,135cは、係止凹部135bへ向かって先細りとなるテーパ状である。
【0115】
図12(a)〜(b)に示すように、カム孔135の底辺135aにおいて、回転方向の基準点Neから左端Leまでの角度と、基準点Neから右端Reまでの角度は、共にθr1である。左端Leから右端Reまでの角度θr2は、θr1の2倍である。一方、連結バー133は、嵌合軸部131からカム孔135内へ延びている。第1・第2回転軸41,42同士を、相対的に回転させたときに、連結バー133はカム孔135の範囲内、つまり、左端Leから右端Reまでにわたって、空転可能である。
【0116】
図12(c)に示すように、クラッチ140は、連結バー133と係止凹部135bとからなる。このクラッチ140は、図11及び図12(b)に示すように、連結バー133に対して係止凹部135bが嵌合していない状態で、通常時のオフ状態(断状態)を維持する。
【0117】
その後、図10に示す制御部51から電動モータ118に停止指令を発することによって、電動モータ118は停止する。このため、シフトフォーク114は、図11に示すクラッチ用シフター113を介してスライダ134を第1回転軸41側にスライドさせる。この場合、カム孔135は連結バー133によって案内される。スライダ134がスライドすることに伴い、連結バー133とカム孔135との間の空転範囲が狭まり、最後には、連結バー133に対して係止凹部135bが嵌合する。この結果、クラッチ140はオン状態(結合状態)になる。クラッチ140が通常時のオフ状態からオン状態に反転することによって、第1・第2回転軸41,42同士を強制的に連結状態にする。
【0118】
その後、制御部51から電動モータ118に回転指令を発した場合には、電動モータ118が回転するので、クラッチ140は再び通常時のオフ状態(断状態)に復帰する。
【0119】
実施例6によれば、カム孔135の一部である係止凹部135bと、連結バー133とによって、クラッチ140を構成している。連結機構43Eにクラッチ140を組込んだ、つまり連結機構43Eがクラッチ140を兼ねている。このため、クラッチ140の構成を簡単な構成にすることができるとともに、車両用ステアリング装置10Eを小型にすることができる。
【実施例7】
【0120】
実施例7に係る車両用ステアリング装置について、図13に基づき説明する。図13に示すように、実施例7の車両用ステアリング装置10Fは、機械的接続機構40Fとクラッチ140とを有していることを特徴とし、他の構成については上記図11及び図12示す構成と同じなので、説明を省略する。
【0121】
実施例7の機械的接続機構40Fは、上記図12に示す実施例6の斜面135c,135cを、図13に示す斜面135cF,135cFに変更したことを特徴とする。この斜面135cF,135cFは、実施例6の斜面135c,135cを階段状(凹凸状)に形成したものである。
【0122】
上記図12に示す斜面135c,135cは、単なる傾斜面であった。このため、スライダ134が第1回転軸41へ向かってスライドしているときに、操舵力が第1回転軸41から連結バー133を介して斜面135cに作用した場合には、斜面135cの傾斜角の分だけ、操舵力が回転方向と軸方向とに分かれる(分力になる)。軸方向の分力は、スライダ134を逆方向へ戻す作用をする。
【0123】
これに対し、実施例7では、斜面135cF,135cFが階段状に形成されているので、軸方向への分力の発生を極力防ぐことができる。
【0124】
なお、本発明では、車両用ステアリング装置10,10A〜10Fは、車両の自動運転制御などと組み合わせて制御することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の車両用ステアリング装置10,10A〜10Fは、乗用車の操舵機構に用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0126】
10,10A〜10F…車両用ステアリング装置、20…操舵機構、21…ステアリングホイール、23…反力モータ、24…反力伝達機構、30…転舵機構、32…車輪、35…転舵用アクチュエータ、40,40A〜41F…機械的に接続する構成(機械的接続機構)、41…第1回転軸、42…第2回転軸、43,43A〜43F…連結機構、110,140…クラッチ、ds…操舵トルクの微分値、Ts…操舵トルク、Vs…操舵角速度、αs…操舵角加速度、θr2…一定の相対的な回転角、θs…操舵角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに対して、転舵機構を機械的に分離するとともに電気的には接続しており、この電気的に接続する構成は、前記ステアリングホイールの操舵に基づく操舵情報に応じて転舵用アクチュエータが転舵用動力を発生し、この転舵用動力を前記転舵機構に伝え、この転舵機構によって車輪を転舵させるものである車両用ステアリング装置において、
前記ステアリングホイールに連結された第1回転軸と、前記転舵機構に連結された第2回転軸と、これら第1・第2回転軸同士を一定の相対的な回転角の範囲で互いに空転可能に連結する連結機構とを有していることを特徴とした車両用ステアリング装置。
【請求項2】
前記操舵情報は、前記ステアリングホイールの操舵角、操舵角速度、操舵角加速度、操舵トルク及びこの操舵トルクの微分値の、少なくとも1つであることを特徴とした請求項1記載の車両用ステアリング装置。
【請求項3】
前記操舵情報に応じた操舵反力を発生する反力モータと、前記操舵反力を前記ステアリングホイールに伝達する反力伝達機構とを、更に有していることを特徴とした請求項1又は請求項2記載の車両用ステアリング装置。
【請求項4】
クラッチを、更に有しており、
このクラッチは、通常はオフ状態にあって、オン状態に反転したときには前記連結機構の連結状態にかかわらず、前記第1・第2回転軸同士を強制的に連結状態に切り替える構成であることを特徴とした請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の車両用ステアリング装置。
【請求項5】
前記クラッチは、前記電気的に接続する構成が解除されたときに、前記オフ状態から前記オン状態に反転する構成であることを特徴とした請求項4記載の車両用ステアリング装置。
【請求項6】
前記クラッチは、円錐状のドグクラッチ又は円錐状の摩擦クラッチから成ることを特徴とした請求項4又は請求項5記載の車両用ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−116214(P2011−116214A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274545(P2009−274545)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】