説明

車両用接触回避支援装置

【課題】走行路の路面摩擦特性を精度良く判定することが可能な車両用接触回避支援装置を提供する。
【解決手段】車両用接触回避支援装置14の路面摩擦特性判定手段20は、路面摩擦係数μが推定される毎に、路面摩擦係数μに対応する路面摩擦特性のカウント値CNT_sl、CNT_l、CNT_hを積算し、当該積算の結果に応じて前記路面摩擦特性を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両前方の障害物との接触回避を支援する車両用接触回避支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前方の障害物との接触回避を支援する車両用接触回避支援装置が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1では、車輪速センサ(S)とブレーキ操作センサ(Sb)からの入力に基づいて路面摩擦係数(μ)を推定する(例えば、特許文献1の図3、段落[0029]参照)。そして、路面摩擦係数が0.4以下であるときは低μ路であると判定する一方、路面摩擦係数が0.4を超える状態が500ms経過したときは高μ路であると判定する。そして、当該判定結果に応じた自動ブレーキ制御を行う(例えば、特許文献1の図3、段落[0033]〜[0038]参照)。
【0004】
また、特許文献2では、前方物体との接触を回避するための接触回避制動トルク{反発トルク(Tf)}を発生させる(特許文献2の要約、段落[0011])。この接触回避制動トルクは、前方物体との相対距離及び自車速から算出された前方物体との接触可能性と、前方物体と自車両の前方走行軌跡との重なり度合に応じて決定される(特許文献2の要約)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−285095号公報
【特許文献2】特開2005−001500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、特許文献1では、路面摩擦係数が0.4以下であるときは低μ路であると判定する一方、路面摩擦係数が0.4を超える状態が500ms経過したときは高μ路であると判定する。これにより、走行路が低μ路である場合は迅速に自動ブレーキ制御を開始することができる一方、走行路が高μ路である場合はサンプル数を多くすることができる。
【0007】
しかしながら、上記判定方法にも未だ改善の余地がある。例えば、特許文献1では、路面摩擦係数が0.4以下になると低μ路であると判定するが、オーバーシュート{矩形波(方形波)の立ち上がりの部分において、波形が定常値となる基線を超過する現象}等の影響がある場合、低μ路を精度良く推定できないおそれがある。
【0008】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、走行路の路面摩擦特性を精度良く判定することが可能な車両用接触回避支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る車両用接触回避支援装置は、車両前方の障害物との接触回避を支援するものであって、前記車両と前記障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段と、走行路の路面摩擦係数を所定周期で推定する路面摩擦係数推定手段と、少なくとも高路面摩擦係数用の特性と低路面摩擦係数用の特性とを含む前記走行路の路面摩擦特性を前記路面摩擦係数に応じて判定する路面摩擦特性判定手段と、前記相対位置及び前記路面摩擦特性に基づき、前記車両と前記障害物との接触回避支援を制御する回避支援制御手段とを備え、前記路面摩擦特性判定手段は、前記路面摩擦係数推定手段が前記路面摩擦係数を推定する毎に、前記路面摩擦係数に対応する前記路面摩擦特性のカウント値を積算し、当該積算の結果に応じて前記路面摩擦特性を判定することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、推定した路面摩擦係数に対応する路面摩擦特性のカウント値の積算結果に応じて前記路面摩擦特性を判定する。従って、路面摩擦係数毎に路面摩擦特性を判定する場合と比較してオーバーシュート等の影響を低減し、路面摩擦特性を精度良く判定することができる。
【0011】
前記路面摩擦特性判定手段は、前記高路面摩擦係数用の特性を判定するための前記カウント値の閾値である第1閾値と、前記低路面摩擦係数用の特性を判定するための前記カウント値の閾値であり且つ前記第1閾値よりも絶対値が小さい第2閾値とを用いて、前記高路面摩擦係数用の特性を判定するための最短時間よりも、前記低路面摩擦係数用の特性を判定するための最短時間を短く設定し、前記回避支援制御手段は、前記高路面摩擦係数用の特性を用いた前記接触回避支援と比較して、前記低路面摩擦係数用の特性を用いた前記接触回避支援をより早いタイミングで開始可能としてもよい。これにより、車両の走行路が低摩擦係数の特性を示すとき(即ち、走行路が低μ路であるとき)、より早いタイミングで接触回避支援を開始することができる。
【0012】
前記路面摩擦特性判定手段は、前記路面摩擦特性を判定するための制限時間を設定し、前記低路面摩擦係数用の特性のカウント値が前記第2閾値を超えたとき、前記制限時間の経過を待たずに前記低路面摩擦係数用の特性の判定を確定してもよい。これにより、低路面摩擦係数用の特性を用いる場合、制限時間の経過を待たずに接触回避の支援を開始できるため、より早いタイミングで適切に接触回避を支援することが可能となる。
【0013】
前記接触回避支援の制御は、例えば、前記車両の目標減速度を実現するために必要なブレーキ圧を自動的に付与する自動ブレーキ制御と、操向ハンドルの目標操作量又は目標操作方向に基づいてステアリングアクチュエータのアシスト力を調整する操舵アシスト制御と、オーバーステア又はアンダーステアを解消するために自動的にブレーキを作動させる姿勢安定化制御の少なくとも1つとすることができる。
【0014】
前記路面摩擦特性判定手段は、前記路面摩擦係数のボトム値を設定し、推定された前記路面摩擦係数が前記ボトム値を下回るとき、前記ボトム値を更新して当該路面摩擦係数を新たなボトム値として設定し、前記ボトム値を更新したとき、前記第2閾値を前記ボトム値に応じて低下させてもよい。これにより、路面摩擦係数のボトム値が低いほど低路面摩擦係数用の特性を判定するのにかかる最短時間が短くなり、低路面摩擦係数用の特性の判定を迅速に行うことが可能となる。
【0015】
前記路面摩擦特性を判定するための制限時間を設定し、前記制限時間内に、前記高路面摩擦係数用の特性のカウント値が前記第1閾値を超えず且つ前記低路面摩擦係数用の特性のカウント値が前記第2閾値を超えないとき、前記回避支援制御手段は、前記高路面摩擦係数用の特性のカウント値に応じたタイミングで前記接触回避支援を開始してもよい。これにより、制限時間内に、高路面摩擦係数用の特性のカウント値が第1閾値を超えず且つ低路面摩擦係数用の特性のカウント値が第2閾値を超えない場合でも、走行路の路面摩擦状態に応じた適切なタイミングで接触回避支援を開始することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、推定した路面摩擦係数に対応する路面摩擦特性のカウント値の積算結果に応じて前記路面摩擦特性を判定する。従って、路面摩擦係数毎に路面摩擦特性を判定する場合と比較してオーバーシュート等の影響を低減し、路面摩擦特性を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態に係る車両用接触回避支援装置を搭載した車両の模式的ブロック構成図である。
【図2】前記実施形態における回避支援制御のフローチャートである。
【図3】前記実施形態の回避支援制御を適用した場面の一例を示す図である。
【図4】前記実施形態において自動ブレーキ制御の開始タイミング及び路面摩擦特性を判定するフローチャートである。
【図5】前記路面摩擦特性の判定の具体的内容を示すフローチャートである。
【図6】路面摩擦係数のボトム値と低μ判定閾値との関係を示す図である。
【図7】高μカウント値と接触余裕時間との関係を示す図である。
【図8】低μ用の制動力付与特性と高μ用の制動力付与特性を示す説明図である。
【図9】前記実施形態の制御を適用した場合の各種値の第1例を示す図である。
【図10】前記実施形態の制御を適用した場合の各種値の第2例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.一実施形態
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
1.車両10の構成
図1は、この発明の一実施形態に係る車両用接触回避支援装置14が組み込まれた車両10(以下「自車10」ともいう。)の模式的ブロック構成図である。
【0020】
[回避支援ECU20]
本実施形態において、車両10は、メモリに格納されたプログラムをCPUが実行することで実現される各種機能部(各種機能手段)を有する電子制御ユニットである回避支援ECU20(以下「ECU20」ともいう。)を備える。このECU20は、機能部としての自動ブレーキ制御部90及び操舵アシスト制御部92を有する。自動ブレーキ制御部90は、自動ブレーキ制御を実行し、操舵アシスト制御部92は、操舵アシスト制御を実行する。自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御については後述する。
【0021】
[車輪22、24]
車両10は、4つの車輪22、24{左前輪(FLW)22L、右前輪(FRW)22R、左後輪(RLW)24L、右後輪(RRW)24R}を有する。4つの車輪22、24には、それぞれ車輪速度センサ61〜64が取り付けられ、この車輪速度センサ61〜64から各車輪速度VwがECU20に取り込まれる。ECU20は、これら4つの車輪速度Vwの平均値を車両10の速度である車速Vsとして常に更新する。
【0022】
[制動系]
4つの車輪22、24には、それぞれ制動力を発生するディスクブレーキ等により構成されるブレーキアクチュエータ51〜54が設けられている。ブレーキアクチュエータ51〜54の各制動力(制動油圧)は、油圧制御装置44内の4つの圧力調整器(不図示)によりそれぞれ独立に制御される。
【0023】
油圧制御装置44は、踏込量センサ42により検出されるブレーキペダル40の踏込量θbに応じた制動油圧を発生するとともに、ECU20を構成する自動ブレーキ制御部90から出力されるブレーキペダル40に依存しない制動力指令値Fb(いわゆるブレーキバイワイヤによる制動力指令値)に応じて上記の4つの圧力調整器(不図示)がそれぞれ制動油圧を発生し、ブレーキアクチュエータ51〜54に出力する構成とされている。
【0024】
なお、運転者によるブレーキペダル40の踏込み操作に基づき踏込量センサ42から踏込量θbが入力され、かつ自動ブレーキ制御部90から制動力指令値Fbが入力された場合、油圧制御装置44は、両者のうち何れか大きい方に合わせて制動油圧を発生させる。
【0025】
従って、車両10の旋回時にブレーキアクチュエータ51〜54に伝達される制動油圧を独立に制御すれば、左右の車輪22L、22R、24L、24Rの制動力に差を発生させて車両10のヨーモーメントを任意に制御し、旋回時におけるアンダーステアの発生の回避及びオーバーステアやスピンの発生を回避して、車両10の挙動を安定させることができる。また、制動時にも、各ブレーキアクチュエータ51〜54に伝達される制動油圧を独立に制御すれば、車輪22、24のロックを抑制するアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0026】
[駆動系]
この実施形態において、4つの車輪22、24中、前輪22には、エンジン34からトランスミッション(T/M)36を通じて駆動力が伝達される。後輪24は車両10の走行によって回転する従動輪として機能する。
【0027】
エンジン34は、該エンジン34に設けられたスロットルバルブ33のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータ32を通じて回転数(エンジン回転数)が制御される。
【0028】
スロットルバルブ33のスロットル開度は、操作量センサ28により検出されるアクセルペダル26の操作角度(アクセル角度、操作量)θaに応じてエンジンECU30及びスロットルアクチュエータ32を通じて調整される。
【0029】
[操舵系]
車両10の操舵装置88は、基本的には、運転者により回転操作(操舵)される操向ハンドル70(ステアリングホイール)と、操向ハンドル70の操舵角θsを検出する操舵角センサ72と、操向ハンドル70にかかるトルクTQを検出するトルクセンサ73と、パワーステアリング装置を構成するステアリングアクチュエータ76と、左右の前輪22を操舵するラックアンドピニオン機構を有する操舵機構74とから構成される。
【0030】
操舵装置88は、運転者による操向ハンドル70の回転が、ステアリングシャフト及び連結軸を通じて操舵機構74を構成するピニオンに伝達され、ピニオンの回転によりラックが往復動し、ラックの往復動がタイロッドを通じて前輪22に伝達されることで、車両10の転舵が実行される通常の構成を有している。
【0031】
車両10の転舵が実行される際に、運転者による操向ハンドル70の回転に伴う操舵角θsとトルクTQがECU20に入力されると、ECU20は、さらに車速Vsを参照し、ステアリングアクチュエータ76に対して操舵アシスト指令値Fsを出力する。この操舵アシスト指令値Fsを受信したステアリングアクチュエータ76は、操舵アシスト指令値Fsに応じたアシスト力Fasiを操舵機構74に付与する。
【0032】
操舵機構74は、操向ハンドル70からのトルクTQによる操舵力とアシスト力Fasiの合力を前輪22に出力する。これにより、その合力に応じた転舵量だけ前輪22が転舵する。操舵系の基本的構成については、例えば、特開2008−290648号公報に記載のものを用いることができる。
【0033】
[センサ類]
車両10には、フロントグリル部等にレーダ80が設けられている。レーダ80は、車両10の前方に向けてミリ波等の電磁波を送信波として送信し、その反射波に基づいて障害物(例えば、前走車等)の大きさを検出するとともに障害物の車両10(自車)からの方向を検出し、同時に障害物と自車との間の相対距離L(障害物が車両である場合には、車間距離)、障害物と自車との相対速度Vr等を検出する相対位置検出手段等として動作する。なお、障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段として、上記のミリ波レーダに代えて、レーザレーダあるいはステレオカメラ等を採用することができる。
【0034】
車両10には、車両10に発生しているヨーレートYrを検出するヨーレートセンサ82と、加速度センサであり車両10に発生している横G(横加速度)を検出する横Gセンサ84と、加速度センサであり車両10に発生している前後G(前後加速度)を検出する前後Gセンサ85とが設けられている。
【0035】
さらに、車両10には、警報を発生する警報装置86が設けられ、運転者にブレーキペダル40の踏込み操作(ブレーキ操作)や操向ハンドル70の回転操作(操舵操作)を促す警報を発生する。運転者に対する警報の発生は、警報装置86のランプ、チャイム、ブザー、スピーカ等の警報手段を利用して発生される。警報装置86により警報を発生してもよいが、警報装置86による警報の発生とともに、あるいは警報装置86から警報を発生しないで、操向ハンドル70への反力付与、アクセルペダル26への反力付与、あるいはブレーキペダル40への反力付与を行うことで警報の発生とすることもできる。
【0036】
2.車両10の回避支援制御
本実施形態に係る車両用接触回避支援装置14が組み込まれた車両10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に車両10における回避支援制御について説明する。回避支援制御とは、車両前方の障害物との接触回避を支援する制御をいう。
【0037】
図2は、本実施形態における回避支援制御のフローチャートであり、図3は、本実施形態の回避支援制御を適用した場面の一例を示す図である。
【0038】
図2のステップS1において、ECU20は、車両10の前方の障害物に対する接触余裕値としての接触余裕時間TTC(TTC=L/Vr)を判定する。接触余裕時間TTCは、障害物と自車との間の相対距離Lを、障害物と自車との相対速度Vrで除算した値である。相対距離L及び相対速度Vrとしては、いずれもレーダ80からの出力値を用いる。なお、前記接触余裕値は、自車前方の障害物と自車との接触の可能性を判断するパラメータであり、接触余裕値が大きい程、接触の可能性が低くなり、逆に、接触余裕値が小さい程、接触の可能性が高くなるように設定される。接触余裕値としては、接触余裕時間TTCに加え、車間距離等を用いることができる。
【0039】
ステップS2において、ECU20は、回避支援制御を要するかどうかを接触余裕時間TTCに基づいて判定する。
【0040】
すなわち、ECU20は、回避支援制御の要否を判定するための接触余裕時間TTCの閾値(回避支援制御要否判定閾値TH_ttc1)(以下「閾値TH_ttc1」ともいう。)を予め設定しておき、接触余裕時間TTCが閾値TH_ttc1以下であるかどうかを判定する。そして、ECU20は、接触余裕時間TTCが閾値TH_ttc1を超えていれば、回避支援制御は不要であり、接触余裕時間TTCが閾値TH_ttc1以下であれば、回避支援制御が必要であると判定する。回避支援制御を要しない場合(S2:NO)、今回の処理を終了する。回避支援制御を要する場合(S2:YES)、ステップS3に進む。
【0041】
ステップS3において、ECU20は、警報装置86に対して制御信号を出力し、警報装置86に警報を行わせる(図3の時点t1)。
【0042】
ステップS4において、ECU20は、今回の回避支援制御を開始して今回が1回目であるかどうかを判定する。今回が1回目である場合(S4:YES)、ステップS5において、ECU20は、自動ブレーキ制御の開始タイミング及び路面摩擦特性の判定処理を行う。自動ブレーキ制御の開始タイミングは、接触余裕時間TTCの閾値{自動ブレーキ制御回避判定閾値TH_ttc2(以下「閾値TH_ttc2」ともいう。)}として設定する。また、本実施形態における路面摩擦特性としては、高摩擦特性(以下「高μ」ともいう。)と、低摩擦特性(以下「低μ」ともいう。)と、極低摩擦特性(以下「極低μ」ともいう。)とを用いる。
【0043】
図4には、ステップS5の詳細を示すフローチャートが示されている。ステップS11において、ECU20は、路面摩擦特性を判定する。すなわち、路面摩擦特性が、高μ、低μ及び極低μのいずれであるかを判定する。但し、後述するように、ステップS11のみでは判定が確定しない場合がある。
【0044】
図5には、路面摩擦特性を判定するフローチャート(ステップS11の詳細)が示されている。ステップS21において、ECU20は、走行路の路面摩擦係数μ(以下「係数μ」ともいう。)を推定する(図3の時点t2)。係数μの推定は、例えば、ブレーキアクチュエータ53、54を作動させて左右の後輪24に制動力を付与する。そして、左右の前輪22と左右の後輪24の車輪速度Vwの相違に応じて係数μを判定する。より具体的な方法としては、例えば、特許文献1や特開2002−160622号公報に記載のものを用いることができる。なお、説明の便宜のため、図5の処理で新たに推定される係数μを「係数μ(今回)」とも記載する。
【0045】
ステップS22において、ECU20は、係数μ(今回)がボトム値μbtm未満であるかどうかを判定する。ボトム値μbtmは、今回の処理で路面摩擦特性を確定するまでの係数μの最低値を示し、その初期値は高μと低μの境界値(本実施形態では、0.4)に設定され、後述するように、係数μ(今回)がボトム値μbtmを下回る度に更新される。
【0046】
係数μ(今回)がボトム値μbtm未満でない場合(S22:NO)、ステップS25に進む。係数μ(今回)がボトム値μbtm未満である場合(S22:YES)、ステップS23において、ECU20は、係数μ(今回)を新たなボトム値μbtmとして設定する。続くステップS24において、ECU20は、低μを判定するためのカウント閾値(以下「低μ判定閾値TH_l」又は「閾値TH_l」という。)を新たなボトム値μbtmに応じて更新する。
【0047】
図6は、ボトム値μbtmと閾値TH_lとの関係を示す図である。図6に示すように、初期値(本実施形態では、0.4)から0.1までの間は、ボトム値μbtmが低くなるほど、閾値TH_lも低く設定する。
【0048】
図5に戻り、ステップS25において、ECU20は、係数μ(今回)が0.1以下であるかどうかを判定する。本実施形態において、0.1という数値は、低μと極低μの境界値である。別の数値を当該境界値として用いてもよい。
【0049】
係数μ(今回)が0.1以下である場合(S25:YES)、ステップS26において、ECU20は、極低μを判定するためのカウント値{以下「極低μカウント値CNT_sl」又は「カウント値CNT_sl」という。}と、低μを判定するためのカウント値{以下「低μカウント値CNT_l」又は「カウント値CNT_l」という。}をそれぞれ10[ms]増加させる。
【0050】
続くステップS27において、ECU20は、カウント値CNT_slが、極低μを判定するための固定値であるカウント閾値(以下「極低μ判定閾値TH_sl」又は「閾値TH_sl」という。)以上であるかどうかを判定する。カウント値CNT_slが閾値TH_sl以上でない場合(S27:NO)、ステップS31に進む。カウント値CNT_slが閾値TH_sl以上である場合(S27:YES)、ステップS28において、ECU20は、路面摩擦特性を極低μに確定する。
【0051】
ステップS25に戻り、係数μ(今回)が0.1以下でない場合(S25:NO)、ステップS29において、ECU20は、係数μ(今回)が0.4以下であるかどうかを判定する。本実施形態において、0.4という数値は、低μと高μの境界値である。別の数値を当該境界値として用いてもよい。係数μ(今回)が0.4以下である場合(S29:YES)、ステップS30において、ECU20は、低μ判定カウント値CNT_lを10[ms]増加させる。
【0052】
続くステップS31において、ECU20は、カウント値CNT_lが、低μを判定するための可変値であるカウント閾値(以下「低μ判定閾値TH_l」又は「閾値TH_l」という。)以上であるかどうかを判定する。カウント値CNT_lが閾値TH_l以上でない場合(S31:NO)、今回のステップS11を終了する。カウント値CNT_lが閾値TH_l以上である場合(S31:YES)、ステップS32において、ECU20は、路面摩擦特性を低μに確定する。
【0053】
ステップS29に戻り、係数μ(今回)が0.4以下でない場合(S29:NO)、ステップS33において、ECU20は、高μを判定するためのカウント値{以下「高μカウント値CNT_h」又は「カウント値CNT_h」という。}を10[ms]増加させる。続くステップS34において、ECU20は、カウント値CNT_hが、高μを判定するためのカウント閾値(以下「高μ判定閾値TH_h」又は「閾値TH_h」という。)以上であるかどうかを判定する。本実施形態において、閾値TH_hは、判定期間(500ms)と等しいが、当該判定期間より短くしてもよい。カウント値CNT_hが閾値TH_h以上でない場合(S34:NO)、今回のステップS11を終了する。カウント値CNT_hが閾値TH_h以上である場合(S34:YES)、ステップS35において、ECU20は、路面摩擦特性を高μに確定する。
【0054】
図4に戻り、ステップS12において、ECU20は、路面摩擦特性が確定したかどうかを判定する。路面摩擦特性が確定していない場合(S12:NO)、ステップS13において、ECU20は、今回の路面摩擦特性の判定を開始してからのカウント値CNT_t[ms]が500ms以上となったかどうかを判定する。500msという数値は、路面摩擦特性についての1回の判定にかける最長時間(制限時間)であり、ECU20の仕様等に応じて適宜変更可能である。
【0055】
カウント値CNT_tが500ms以上でない場合(S13:NO)、ステップS11に戻る。カウント値CNT_tが500ms以上である場合(S13:YES)、ステップS14において、ECU20は、高μ判定カウント値CNT_hに応じて閾値TH_ttc2及び路面摩擦特性を設定する。この場合、ECU20は、道路摩擦特定を高μに確定する。なお、本実施形態において、ステップS11〜S13にかかる時間は10msであり、ステップS26、S30、S33で加算される値と等しい。
【0056】
図7は、カウント値CNT_hと閾値TH_ttc2との関係を示す。図7に示すように、カウント値CNT_hが200msから500msの間であるとき、カウント値CNT_hが大きくなるほど、閾値TH_ttc2を小さくする。これは、カウント値CNT_hが大きいほど、1回の判定(500ms)における路面摩擦係数μの平均値が高いと考えられること、及び、係数μの平均値が高いほど、ブレーキが効き易いことに基づく。
【0057】
ステップS12に戻り、路面摩擦特性が確定している場合(S12:YES)、ステップS15において、ECU20は、確定した路面摩擦特性に応じて閾値TH_ttc2を設定する。例えば、路面摩擦特性が極低μである場合、閾値TH_ttc2を5.0秒とし、路面摩擦特性が低μである場合、閾値TH_ttc2を4.0秒とし、路面摩擦特性が高μである場合、閾値TH_ttc2を2.5秒とする。
【0058】
図2に戻り、ステップS6において、ECU20は、自動ブレーキ制御を要するかどうかを判定する。具体的には、ステップS1で判定した接触余裕時間TTCが、ステップS5(図4のS14、S15)で設定した閾値TH_ttc2以下であるかどうかを判定する。接触余裕時間TTCが閾値TH_ttc2以下でない場合(S6:NO)、自動ブレーキ制御を行わずに今回の図2の処理を終える。接触余裕時間TTCが閾値TH_ttc2以下である場合(S6:YES)、ステップS7において、ECU20(自動ブレーキ制御部90)は、自動ブレーキ制御を実行する(図3の時点t3)。
【0059】
具体的には、ECU20は、路面摩擦特性と接触余裕時間TTCに応じて制動力の目標値としての目標減速度Dtgt[G]を設定する。また、前後Gセンサ85が検出した前後Gに応じて実際の減速度D[G]を検出する。そして、目標減速度Dtgtと減速度Dとの差に応じてブレーキアクチュエータ51〜54を自動的に作動させて各車輪22R、22L、24R、24Lに制動力を付与する。すなわち、目標減速度Dtgtが減速度Dよりも大きいときは、ブレーキペダル40の操作量θbに対応する制動力よりも大きな制動力を付与する。
【0060】
図8には、路面摩擦特性に応じた接触余裕時間TTCと目標減速度Dtgtとの関係の例が示されている。図8の実線は低μ用の制動力付与特性Clow(以下「特性Clow」ともいう。)であり、図8の一点鎖線は高μ用の制動力付与特性Chigh(以下「特性Chigh」ともいう。)である。
【0061】
図8に示すように、低μ用の特性Clowは、接触余裕時間TTCが相対的に大きいとき(接触余裕時間TTCが所定値TH1以下)から、制動力の目標値としての目標減速度Dtgt[G]を増加させ、ブレーキアクチュエータ51〜54を作動させて各車輪22R、22L、24R、24Lに制動力を付与する。なお、所定値TH1は、低μ用の閾値TH_ttc2と等しい。その一方、高μ用の特性Chighは、接触余裕時間TTCが相対的に小さいとき(接触余裕時間TTCが所定値TH2以下)から、目標減速度Dtgtを増加させ、ブレーキアクチュエータ51〜54を作動させて各車輪22R、22L、24R、24Lに制動力を付与する。なお、所定値TH2は、高μ用の閾値TH_ttc2と等しい。
【0062】
低μ用の特性Clowでは、接触余裕時間TTCが所定値TH1から短くなっていき(図8中左側に向かって)目標減速度Dtgtが増加を始めると、一旦、その最大値Dlmaxまで上昇する。その後、目標減速度Dtgtを徐々に減少させ、所定値Dllまで下降させる。一方、高μ用の特性Chighでは、接触余裕時間TTCが短くなっていき(図8中左側に向かって)目標減速度Dtgtが所定値TH2から増加を始めると、その最大値Dhmaxまで上昇した後は、最大値Dhmaxを維持する。
【0063】
なお、図8に示すように、低μ用の特性Clowの方が高μ用の特性Chighよりもより長い接触余裕時間TTCで制動力を発生させる。また、高μ用の最大値Dhmaxは、低μ用の最大値Dlmaxよりも高い。さらに、接触余裕時間TTCが所定値TH3になるまで、低μ用の制動力付与特性Clowの方が高μ用の制動力付与特性Chighよりも目標減速度Dtgtが大きいが、接触余裕時間TTCが所定値TH3で両者の目標減速度Dtgtが等しくなる。そして、接触余裕時間TTCが所定値TH3より短くなると、高μ用の制動力付与特性Chighの方が低μ用の制動力付与特性Clowよりも目標減速度Dtgtが大きくなる。これらは、低μの路面よりも高μの路面の方が、より大きな減速度で急激に減速することが可能である(減速し易い)ことを考慮したためである。
【0064】
上述のように、本実施形態では、高μ及び低μに加え、路面摩擦特性として極低μを設定可能である。また、路面摩擦特性として極低μが設定される場合でも、カウント値TH_slに応じて閾値TH_ttc2を変化させる。従って、制動力付与特性もこれらによって事前にマップ化して記憶しておき、路面摩擦特性や閾値TH_ttc2に応じて個別に設定する。
【0065】
そして、上記のような自動ブレーキ制御を行っている間、各車輪22、24に付与する制動力を用いて、ステップS5と同様に路面摩擦特性を継続的に判定し、判定した路面摩擦特性に応じた自動ブレーキ制御を行う。この場合、4つの車輪22、24全てに制動力を付与するため、路面摩擦係数μの推定は、例えば、前後Gセンサ85が検出した前後Gと、4つの車輪22、24の車輪速度Vwとに基づいて行う。
【0066】
なお、ステップS5における左右の後輪24への制動力の付与は路面摩擦係数μを推定するためのものであり、車両10を減速させることを目的としていない一方、自動ブレーキ制御における4つの車輪22、24への制動力の付与は車両10を減速させることを主目的としており、併せて、路面摩擦係数μの判定も行うものであることに留意されたい。
【0067】
図2のステップS8において、ECU20は、運転者による操向ハンドル70を用いた回避操作(回避操舵)があったかどうかを判定する。回避操作がなかった場合(S8:NO)、今回の処理を終了する。回避操作があった場合(S8:YES)、ステップS9において、ECU20は、操舵アシスト制御を実行する(図3の時点t4)。
【0068】
操舵アシスト制御は、車両10前方の障害物としての他車12(図3)との接触回避を支援するために、ステアリングアクチュエータ76のアシスト力Fasiを調整する制御である。アシスト力Fasiの調整に関する基本的な技術は、例えば、特開2008−290648号公報に記載のものを用いることができる(例えば、特開2008−290648号公報の段落[0033]〜[0041]参照)。
【0069】
本実施形態の操舵アシスト制御は下記のように行われる。まず、ECU20(操舵アシスト制御部92)は、アシスト力Fasiの目標値(目標アシスト力Fasi_tar)に対応する目標ヨーレート(目標ヨーレートYr_tar)を設定する。この目標ヨーレートYr_tarは、次のように算出する。すなわち、ECU20は、操舵角センサθsで検出した操舵角θsと、車輪速度センサ61〜64で検出した車輪速度Vwとに基づいて規範ヨーレートYrrを算出する。次いで、ECU20は、接触回避のための増加分を規範ヨーレートYrrに加えた修正規範ヨーレートYrr_cを算出する。次いで、ヨーレートセンサ82が検出したヨーレートYrと、修正規範ヨーレートYrr_cとの偏差に基づいてフィードバック項を算出する。そして、ECU20は、フィードバック項に対応する電流をステアリングアクチュエータ76に出力して、ステアリングアクチュエータ76のアシスト力Fasiを制御する。
【0070】
自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御が終了すると、今回の回避支援制御を終了する(図3の時点t5参照)。自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御が終了したかどうかは、例えば、操舵角θsが0に戻されて所定時間が経過したかどうか、若しくは、レーダ80と同様のレーダを車両10の側方若しくは後方に設置しておき、障害物と車両10との距離若しくは接触余裕時間TTCが所定値以上になったかどうかにより判断してもよい。
【0071】
3.路面摩擦特性の判定例
図9は、図2、図4及び図5の制御を用いて路面摩擦特性を判定する第1の例を示す。
【0072】
まず路面摩擦係数μとそのボトム値μbtmの関係を説明する。図9の時点t11においてECU20は路面摩擦特性の判定を開始する。その後、10ms毎に路面摩擦特性の判定を行ったところ、時点t12まで路面摩擦係数μが徐々に減少し、これに伴ってボトム値μbtmも低下する。時点t12において、係数μは第1極小値min11となる。その後、時点t13まで係数μは、ボトム値μbtmを下回らないため、時点t13までボトム値μbtmは第1極小値min11のままである。
【0073】
時点t13において係数μは、第1極小値min11と等しくなり、その後、第1極小値min11を下回り、時点t15まで係数μは減少し続ける。その結果、時点t13から時点t15までボトム値μbtmは低下する。そして、時点t15において係数μは、第2極小値min12となり、その後、ボトム値μbtmは一定である。
【0074】
次に、係数μと、高μ用のカウント値CNT_h及び低μ用のカウント値CNT_lとの関係を説明する。なお、図9の例では、係数μが0.1以下となることがないため、極低μ用のカウント値CNT_slはゼロのままであり、図9中に表示されない。
【0075】
図9の時点t11から時点t14まで係数μは0.4を超えている。このため、時点t11〜t14の間、カウント値CNT_hが増加し、カウント値CNT_lは一定(ゼロ)である。その後、時点t14から時点t16まで係数μは0.4以下である。このため、時点t14〜t16の間、カウント値CNT_lが増加し、カウント値CNT_hは一定である。その後、時点t16から時点t17まで係数μは0.4を超えている。このため、時点t16〜t17の間、カウント値CNT_hが増加し、カウント値CNT_lは一定である。その後、時点t17から時点t19まで係数μは0.4以下である。このため、時点t17〜t19の間、カウント値CNT_lが増加し、カウント値CNT_hは一定である。
【0076】
次に、ボトム値μbtmと低μ判定用の閾値TH_lとの関係を説明する。上述の通り、本実施形態の制御では、ボトム値μbtmが所定値以下(本実施形態では0.4以下)となった場合のボトム値μbtmの低下に応じて閾値TH_lを減少させる。このため、時点t14〜t15の間、閾値TH_lは減少する。また、時点t11〜t14の間及び時点t15〜t19の間、閾値TH_lは一定である。
【0077】
図9の例では、時点t18においてカウント値CNT_lが閾値TH_lと等しくなる。このため、ECU20は、時点t18において今回の路面摩擦特性は低μであるとの判定を確定する(図5のS32)。図9の一番下の波形は、このこと(時点t18において路面摩擦特性が低μに確定したこと)を示している。
【0078】
図10は、図2、図4及び図5の制御を用いて路面摩擦特性を判定する第2の例を示す。
【0079】
まず路面摩擦係数μとそのボトム値μbtmの関係を説明する。図10の時点t21においてECU20は路面摩擦特性の判定を開始する。その後、10ms毎に路面摩擦特性の判定を行ったところ、時点t23まで路面摩擦係数μが徐々に減少し、これに伴ってボトム値μbtmも低下する。時点t23において、係数μは第1極小値min21となる。その後、時点t27まで(今回の判定期間の最後まで)係数μは、ボトム値μbtmを下回らないため、時点t27までボトム値μbtmは第1極小値min21のままである。
【0080】
次に、係数μと、高μ用のカウント値CNT_h及び低μ用のカウント値CNT_lとの関係を説明する。なお、図10の例では、係数μが0.1以下となることがないため、極低μ用のカウント値CNT_slはゼロのままであり、図10中に表示されない。
【0081】
図10の時点t21〜t22、時点t24〜t25及び時点t26〜時点t27の間、係数μは0.4を超えている。このため、これらの間、カウント値CNT_hが増加し、カウント値CNT_lは一定である。また、時点t22〜t24及び時点t25〜t26の間、係数μは0.4以下である。このため、これらの間、カウント値CNT_lが増加し、カウント値CNT_hは一定である。
【0082】
次に、ボトム値μbtmと低μ判定用の閾値TH_lとの関係を説明する。上述の通り、本実施形態の制御では、ボトム値μbtmが0.4以下になった場合のボトム値μbtmの低下に応じて閾値TH_lを減少させる。このため、時点t22〜t23の間、閾値TH_lは減少し、その後は一定である。
【0083】
図10の例では、時点t27において、カウント値CNT_lは閾値TH_l未満であり且つカウント値CNT_hは閾値TH_h未満である。このため、ECU20は、時点t27において今回の路面摩擦特性は高μであるとの判定を確定する(図4のS14)。図10の一番下の波形は、このこと(時点t27で路面摩擦特性が高μに確定したこと)を示している。また、ECU20は、時点t27におけるカウント値CNT_hに応じて閾値TH_tt2を設定する(図7参照)。
【0084】
4.本実施形態の効果
以上のように、本実施形態によれば、推定した路面摩擦係数μに対応する路面摩擦特性のカウント値CNT_sl、CNT_l、CNT_hに応じて路面摩擦特性を判定する。従って、係数μ毎に路面摩擦特性を判定する場合と比較してオーバーシュート等の影響を低減し、路面摩擦特性を精度良く判定することができる。
【0085】
本実施形態において、ECU20は、高μ用の特性を用いた接触回避支援と比較して、低μ用の特性を用いた接触回避支援をより早いタイミングで開始可能である。これにより、車両10の走行路が低μ路であるとき、より早いタイミングで接触回避支援を開始することができる。
【0086】
本実施形態において、ECU20は、低μ用のカウント値CNT_lが閾値TH_lを超えたとき、判定期間(制限時間)としての500msの経過を待たずに路面摩擦特性を低μに確定する。これにより、低μ用の特性を用いる場合、制限時間の経過を待たずに接触回避の支援を開始できるため、より早いタイミングで適切に接触回避を支援することが可能となる。
【0087】
本実施形態において、ECU20は、係数μがボトム値μbtmを下回るとき、ボトム値μbtmを更新して当該係数μを新たなボトム値μbtmとして設定し(いわゆるボトムホールド処理)、ボトム値μbtmを更新したとき、閾値TH_lをボトム値μbtmに応じて低下させる。これにより、ボトム値μbtmが低いほど低μ用の特性を判定するのにかかる最短時間が短くなり、低μ用の特性の判定を迅速に行うことが可能となる。
【0088】
本実施形態において、前記制限時間内に、高μ用のカウント値CNT_hが閾値TH_hを超えず且つ低μ用のカウント値CNT_lが閾値TH_lを超えないとき、ECU20は、高μ用のカウント値CNT_hに応じた閾値TH_ttc2を用いて接触回避支援を開始する。これにより、制限時間内に高μ用のカウント値CNT_hが閾値TH_hを超えず且つ低μ用のカウント値CNT_lが閾値TH_lを超えない場合でも、走行路の路面摩擦状態に応じた適切なタイミングで接触回避支援を開始することが可能となる。
【0089】
B.変形例
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0090】
上記実施形態では、接触余裕値として接触余裕時間TTCを用いたが、これに限られず、例えば、自車10と他車12(障害物)との相対距離Lを接触余裕値として用いてもよい。
【0091】
上記実施形態では、自車10と他車12(障害物)との接触余裕時間TTCの判定をレーダ80の出力に基づいて行ったが、これに限られず、例えば、画像センサからの出力を用いて判定してもよい。
【0092】
上記実施形態では、車両10は四輪車であったが、これに限られず、例えば、二輪車、トラック、バス等であってもよい。
【0093】
上記実施形態では、係数μを判定するための制限時間(500ms)を設けたが、必ずしも当該制限時間を設けなくてもよい。例えば、カウント値CNT_sl、CNT_l、CNT_hのいずれかが、閾値TH_sl、TH_l、TH_hを超えるまで係数μの判定を行ってもよい。或いは、制限時間内に判定が確定するように閾値TH_sl、TH_l、TH_hを設定してもよい。
【0094】
上記実施形態では、自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御に用いるために路面摩擦特性を判定したが、それ以外の制御に用いるために路面摩擦特性を判定してもよい。例えば、オーバーステア又はアンダーステアを解消するために自動的にブレーキを作動させる姿勢安定化制御{いわゆる直接ヨーモーメント制御(DYC:Direct Yaw moment Control)}に用いるために路面摩擦特性を判定してもよい。
【0095】
上記実施形態では、カウント値CNT_sl、CNT_l、CNT_hの単位を時間(ミリ秒)としたが、これに限られず、例えば、回数を用いてもよい。また、係数μに応じてカウント値CNT_sl、CNT_l、CNT_hを増加させたが、減少させる構成も可能である。
【0096】
上記実施形態では、高μ用の閾値TH_lを判定期間と同じ500msに設定したが、これに限られず、判定期間よりも短い値に設定してもよい。
【符号の説明】
【0097】
10…車両(自車) 12…障害物としての他車
14…車両用接触回避支援装置
20…回避支援ECU(路面摩擦係数推定手段、路面摩擦特性判定手段、回避支援制御手段)
76…ステアリングアクチュエータ 80…レーダ(相対位置検出手段)
CNT_sl、CNT_l、CNT_h…カウント値
Dtgt…目標減速度 Fasi…アシスト力
TH_h…高μ判定用の閾値(第1閾値)
TH_l…低μ判定用の閾値(第2閾値) μ…路面摩擦係数
μbtm…ボトム値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方の障害物との接触回避を支援する車両用接触回避支援装置であって、
前記車両と前記障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段と、
走行路の路面摩擦係数を所定周期で推定する路面摩擦係数推定手段と、
少なくとも高路面摩擦係数用の特性と低路面摩擦係数用の特性とを含む前記走行路の路面摩擦特性を前記路面摩擦係数に応じて判定する路面摩擦特性判定手段と、
前記相対位置及び前記路面摩擦特性に基づき、前記車両と前記障害物との接触回避支援を制御する回避支援制御手段と
を備え、
前記路面摩擦特性判定手段は、前記路面摩擦係数推定手段が前記路面摩擦係数を推定する毎に、前記路面摩擦係数に対応する前記路面摩擦特性のカウント値を積算し、当該積算の結果に応じて前記路面摩擦特性を判定する
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用接触回避支援装置において、
前記路面摩擦特性判定手段は、
前記高路面摩擦係数用の特性を判定するための前記カウント値の閾値である第1閾値と、前記低路面摩擦係数用の特性を判定するための前記カウント値の閾値であり且つ前記第1閾値よりも絶対値が小さい第2閾値とを用いて、前記高路面摩擦係数用の特性を判定するための最短時間よりも、前記低路面摩擦係数用の特性を判定するための最短時間を短く設定し、
前記回避支援制御手段は、前記高路面摩擦係数用の特性を用いた前記接触回避支援と比較して、前記低路面摩擦係数用の特性を用いた前記接触回避支援をより早いタイミングで開始可能である
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用接触回避支援装置において、
前記路面摩擦特性判定手段は、
前記路面摩擦特性を判定するための制限時間を設定し、
前記低路面摩擦係数用の特性のカウント値が前記第2閾値を超えたとき、前記制限時間の経過を待たずに前記低路面摩擦係数用の特性の判定を確定する
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両用接触回避支援装置において、
前記路面摩擦特性判定手段は、
前記路面摩擦係数のボトム値を設定し、
推定された前記路面摩擦係数が前記ボトム値を下回るとき、前記ボトム値を更新して当該路面摩擦係数を新たなボトム値として設定し、
前記ボトム値を更新したとき、前記第2閾値を前記ボトム値に応じて低下させる
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項5】
請求項2記載の車両用接触回避支援装置において、
前記路面摩擦特性を判定するための制限時間を設定し、
前記制限時間内に、前記高路面摩擦係数用の特性のカウント値が前記第1閾値を超えず且つ前記低路面摩擦係数用の特性のカウント値が前記第2閾値を超えないとき、前記回避支援制御手段は、前記高路面摩擦係数用の特性のカウント値に応じたタイミングで前記接触回避支援を開始する
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用接触回避支援装置において、
前記接触回避支援の制御は、前記車両の目標減速度を実現するために必要なブレーキ圧を自動的に付与する自動ブレーキ制御と、操向ハンドルの目標操作量又は目標操作方向に基づいてステアリングアクチュエータのアシスト力を調整する操舵アシスト制御と、オーバーステア又はアンダーステアを解消するために自動的にブレーキを作動させる姿勢安定化制御の少なくとも1つである
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−46219(P2011−46219A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194150(P2009−194150)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】